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特許7021668トリアジンペルオキシド誘導体、該化合物を含有する重合性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】トリアジンペルオキシド誘導体、該化合物を含有する重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/20 20060101AFI20220209BHJP
   C08F 4/36 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C07D251/20 CSP
C08F4/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019522081
(86)(22)【出願日】2018-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2018018484
(87)【国際公開番号】W WO2018221177
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017109456
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】糸山 諒介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-010769(JP,A)
【文献】特開昭54-074887(JP,A)
【文献】特開平08-045604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 251/20
C08F 4/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、nは0から2の整数を表し、Xは一般式(2):Ar、Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化2】
(式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは、独立した置換基であって、炭素数1~18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成する炭化水素基を表す。)で表されることを特徴とするトリアジンペルオキシド誘導体。
【請求項2】
前記一般式(2)中、Rは、独立した置換基であって、炭素数1から8のアルキル基、または一般式(3):R-Y-で表される置換基を表し、前記Yは、酸素原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~8の炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成する炭化水素基を表すことを特徴とする請求項1記載のトリアジンペルオキシド誘導体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のトリアジンペルオキシド誘導体を含む(a)重合開始剤、および(b)ラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項4】
さらに(c)アルカリ可溶性樹脂を含有することを特徴とする請求項3記載の重合性組成物。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の重合性組成物から形成されることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
前記重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程を含むことを特徴とする請求項5記載の硬化物の製造方法。
【請求項7】
前記活性エネルギー線で照射する工程の後、さらに、加熱する工程を含むことを特徴とする請求項6記載の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジンペルオキシド誘導体、該化合物を含有する重合開始剤とラジカル重合性化合物を含有する重合性組成物およびその硬化物と、当該硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子等を合成するために、重合開始剤として、熱または光、酸化-還元によりラジカルを発生させるラジカル重合開始剤が広く用いられている。特に、光重合開始剤は、光等の活性エネルギー線を吸収することで、結合開裂や水素引き抜き反応によりラジカルを発生させることができ、ラジカル重合性化合物の重合開始剤として利用される。例えば、α―ヒドロキシアセトフェノン誘導体やα―アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、ハロメチルトリアジン誘導体、ベンジルケタール誘導体、チオキサントン誘導体等が利用されている。
【0003】
上記のような光重合開始剤とラジカル重合性化合物からなる光重合性組成物は、光照射により速やかに硬化するため、速硬化性や低VOC等の観点から、コーティング剤や塗料、印刷インキ、感光性印刷版、接着剤、各種フォトレジスト等の用途に適用されている。
【0004】
一方、特許文献1には、光または熱によりラジカルを発生する分子内に過酸化結合(-O-O-)を有するベンゾフェノン基含有ペルオキシエステルを有効成分とする重合開始剤が開示されている。また、特許文献2には、その重合開始剤とラジカル重合性化合物からなる接着剤組成物が開示されており、常温での光の照射による硬化と、その後の加熱による硬化を行なうデュアルキュアにより、接着剤が強固な接着強度と高耐久性を発揮している。
【0005】
このように光重合性と熱重合性を併せ持つデュアルキュアタイプの重合性組成物は、暗部硬化性の向上においても活用することができる。デュアルキュアタイプの重合性組成物は、例えば、光を吸収や散乱する顔料やフィラーが高濃度に配合された重合性組成物の硬化や、フラットパネルディスプレイの製造工程における保護カバー周辺の黒枠やタッチパネル電極の下部等の光が届かない箇所の硬化にも有効である。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、トリアジン骨格を有する光重合開始剤として、特定構造のハロメチルトリアジン誘導体が開示されており、光重合に有効であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-197401号公報
【文献】特開2000-96002号公報
【文献】特開昭54-074887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されているベンゾフェノン基含有ペルオキシエステルは、高圧水銀ランプやLEDから放射される波長365nm等の光を十分に吸収しないため、光重合開始剤の最も重要な基本特性である感度が十分ではなく、感度の向上が課題として挙げられる。
【0009】
一方、特許文献3等に記載されているハロメチルトリアジン誘導体は熱重合には使用することができず、当該化合物を光重合開始剤として用いて得られる硬化膜は黄色度が高くなる。よって、当該化合物は、例えば、ディスプレイの表面保護シート等の高い透明性が要求される用途の重合開始剤として使用することができず、黄色度の低減が課題として挙げられる。
【0010】
従って、上記課題を解決すべく、本発明は、高圧水銀ランプやLED等のランプから放出される波長365nm等の光を効率よく吸収してラジカルを発生できる光重合性と、熱によりラジカルを発生できる熱重合性を併せ持ち、さらに、硬化物の黄色度が低減できるトリアジンペルオキシド誘導体を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、上記のトリアジンペルオキシド誘導体を含む重合開始剤とラジカル重合性化合物を含有する重合性組成物およびその硬化物と、当該硬化物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、nは0から2の整数を表し、Xは一般式(2):Ar、Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化2】
(式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは、独立した置換基であって、炭素数1~18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成する炭化水素基を表す。)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体、に関する。
【0013】
また、本発明は、前記トリアジンペルオキシド誘導体を含む(a)重合開始剤および(b)ラジカル重合性化合物を含有する重合性組成物、および該重合性組成物から形成される硬化物と、当該硬化物の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体は、高圧水銀ランプやLED等のランプから放出される波長365nm等の光を効率よく吸収して効率よくラジカルを発生でき、かつ分子内に過酸化結合を有するので、光および熱重合開始剤として有用なものである。よって、当該トリアジンペルオキシド誘導体とラジカル重合性化合物を含む重合性組成物は、光の照射により良好に硬化でき、かつ光の届かない暗部でも熱により良好に硬化することができる。
【0015】
また、ハロメチルトリアジン誘導体は光分解によりクロルラジカルを放出し、副生する芳香族塩化物等が着色の原因と推定されるが、本発明のトリアジンペルオキシド誘導体は、塩素原子を含まないため、硬化物の黄色度を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<トリアジンペルオキシド誘導体>
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化3】
(式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、nは0から2の整数を表し、Xは一般式(2):Ar、Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化4】

(式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは、独立した置換基であって、炭素数1~18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成する炭化水素基を表す。)
【0017】
前記一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基を表す。RおよびRは、前記トリアジンペルオキシド誘導体の分解温度が高いため重合性組成物の貯蔵安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)中、Rは、炭素数が1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基である。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基、イソプロピルフェニル基が挙げられる。これらの中でも、前記トリアジンペルオキシド誘導体の合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基であることが好ましい。前記トリアジンペルオキシド誘導体の分解温度が高いため重合性組成物の貯蔵安定性が高くなり、ランプの光に対する感度が高い点から、メチル基、エチル基であることがより好ましい。
【0019】
前記一般式(1)中の、nは、0から2の整数で表される。前記トリアジンペルオキシド誘導体の合成が容易である観点から、nが0または1であることが好ましい。nが0の場合においては、XがAr、Ar、またはArであり、nが1の場合においては、XがArであることが、ランプの光を効率よく吸収し、硬化物の黄色度が低減できる観点から、より好ましい。
【0020】
前記一般式(2)中の、mは、0から3の整数で表される。前記トリアジンペルオキシド誘導体の合成が容易である観点から、mが0から2であることが好ましく、ランプの光を効率よく吸収する観点から、mが1であることがより好ましい。
【0021】
前記一般式(2)中の、Rは、独立した置換基であって、炭素数1から18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成する炭化水素基を表す。
【0022】
前記Rは、ランプの光を効率よく吸収する観点から、独立した置換基であって、炭素数1から8のアルキル基、または一般式(3):R-Y-で表される置換基を表し、前記Yは、酸素原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~8の炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基であるか、あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-X-により5~6員環を形成する炭化水素基であることが好ましい。
【0023】
前記Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-ブトキシエトキシ基、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ基、2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ基、3-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、3-メトキシ-n-プロピルオキシ基、1,2-ジヒドロキシプロピルオキシ基、メチレンジオキシ基、ジメチルメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のアルコキシ基;フェニルオキシ基、4-イソプロピルフェニルオキシ基等のアリールオキシ基;メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、ヘキシルスルファニル基、2-メトキシエチルスルファニル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチルスルファニル基等のアルキルスルファニル基;フェニルスルファニル基、2-メチルフェニルスルファニル基、4-メチルフェニルスルファニル基等のアリールスルファニル基、アセチル基、n-ブタノイル基、2-エチルヘキサノイル基、ベンゾイル基、2-メチルベンゾイル基等のアシル基等が挙げられる。これら官能基を有する一般式(1)で表される化合物は、波長365nmの吸光度が高く、ランプの光を効率よく吸収するため好ましい。
【0024】
さらに、これらの中でも、前記トリアジン誘導体の重合性組成物への溶解性が高く、合成が容易であり、ランプの光に対する感度が高い観点から、前記Rは、メトキシ基、エトキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基がより好ましい。
【0025】
前記Rの置換位置は、特に限定されないが、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環とは別のベンゼン環の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、1位に置換されたトリアジン基の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環とは別のベンゼン環の4位に置換されていることがランプの光を効率よく吸収するため好ましい。
【0026】
以下に本発明のトリアジンペルオキシド誘導体の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【化5】
【0027】
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体としては、好ましくは化合物19、化合物23、化合物25、化合物26、化合物27、化合物28、化合物31、化合物32、化合物33、化合物35、化合物37、化合物38、化合物39、化合物40、化合物41、化合物42、化合物43、化合物44、化合物46、化合物47、化合物48が挙げられ、より好ましくは化合物25、化合物26、化合物31、化合物32、化合物35、化合物37、化合物38、化合物41、化合物44、化合物47、化合物48が挙げられる。
【0028】
<トリアジンペルオキシド誘導体の製造方法>
前記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、例えば、下記反応式のように、塩化シアヌル誘導体を得る工程(以下、工程(A)とも称す)と、続いて、得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(以下、工程(B)とも称す)を含む方法が挙げられる。なお、上記の工程(A)および/または(B)の後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでもよい。
【化6】
(上記反応式において、n、R、R、RおよびXは前記一般式(1)と同じである。)
【0029】
前記工程(B)において、前記塩化シアヌル誘導体は、市販品を利用できる。なお、市販品がない場合、前記工程(A)において、グリニャール反応、リチオ化反応、鈴木カップリング反応、またはフリーデル・クラフツ反応等の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0030】
<グリニャール反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)において、グリニャール反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、特開平6-179661号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)における芳香族化合物のZは塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表される芳香族化合物を使用することができる。芳香族化合物とマグネシウムを反応させることでグリニャール試薬を調整し、次いで得られたグリニャール試薬を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0031】
上記のグリニャール試薬の調整において、マグネシウムは、芳香族化合物1モルに対して、0.8から2.0モル用いることが好ましく、1から1.5モル用いることがより好ましい。反応開始剤として、ヨウ素、ブロモエタン、ジブロモエタン等を用いてもよく、芳香族化合物1モルに対して、0.0001から0.01モル用いることが好ましい。反応温度は0から70℃が好ましく、10から60℃がより好ましい。反応時間は30分から20時間が好ましく、1時間から10時間がより好ましい。
【0032】
上記のグリニャール試薬の調整において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0033】
また、上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルと反応において、塩化シアヌルは、芳香族化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、調整したグリニャール試薬に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にグリニャール試薬を投入してもよい。
【0034】
上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルと反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0035】
<リチオ化反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)において、リチオ化反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)における芳香族化合物のZは塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表される芳香族化合物を使用することができる。芳香族化合物とリチオ化剤を反応させることでリチオ化合物を調整し、次いで得られたリチオ化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0036】
前記リチオ化剤としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;フェニルリチウム等のアリールリチウム類;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウムアミド類を挙げることができ、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウムであることが好ましい。
【0037】
上記のリチオ化合物の調整において、リチオ化剤は、芳香族化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から0℃がより好ましい。反応時間は0.2から20時間が好ましく、0.5から10時間がより好ましい。
【0038】
上記のリチオ化合物の調整において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0039】
また、上記のリチオ化合物と塩化シアヌルと反応において、塩化シアヌルは、芳香族化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、調整したリチオ化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にリチオ化合物を投入してもよい。
【0040】
上記のリチオ化合物と塩化シアヌルと反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0041】
<鈴木カップリングによる塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)において、鈴木カップリング反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。例えば、前述のリチオ化合物をホウ素試薬と反応させることによって、芳香族化合物のZがボロニル基またはボロン酸に変換されたホウ素化合物を合成することができる。次いで得られたホウ素化合物を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。なお、ホウ素化合物の市販品が販売されている場合、そのまま使用することができる。
【0042】
前記ホウ素試薬としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン等が挙げられる。
【0043】
上記のホウ素化合物の合成において、ホウ素試薬は、リチオ化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から20℃がより好ましい。反応時間は10分から20時間が好ましく、30分から10時間がより好ましい。
【0044】
上記のホウ素化合物の合成において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0045】
また、上記のホウ素化合物と塩化シアヌルと反応において、塩化シアヌルは、ホウ素化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、ホウ素化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にホウ素化合物を投入してもよい。
【0046】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、パラジウム触媒およびアルカリを用いることが好ましく、必要に応じて配位子を添加しても良い。
【0047】
前記パラジウム触媒としては、酢酸パラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、(ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウムジクロリド-塩化メチレン錯体等が挙げられる。
【0048】
前記アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属塩等の無機塩基;トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0049】
前記配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、2,2‘-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフタレン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2,6‘-ジメトキシビフェニル等の有機リン系配位子等が挙げられる。
【0050】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、2-プロパノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類等の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。さらに、前記有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができる。
【0051】
<フリーデル・クラフツ反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)において、フリーデル・クラフツ反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、US5322941公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)における芳香族化合物のZは水素原子、n=0で表される芳香族化合物を使用することができる。塩化アルミニウム等のルイス酸の存在下、芳香族化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0052】
前記ルイス酸としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化スズ(IV)、塩化亜鉛、ビスマス(III)トリフラート、ハフニウム(IV)トリフラート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等を用いることができる。
【0053】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、芳香族化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。塩化アルミニウムは、芳香族化合物1モルに対して、1.0から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-50から60℃が好ましく、0から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、芳香族化合物と塩化シアヌルの溶液に塩化アルミニウムを加えてもよく、塩化シアヌルと塩化アルミニウムの溶液に芳香族化合物を加えてもよい。
【0054】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、キシレン等の溶媒を用いることができる。
【0055】
<トリアジンペルオキシド誘導体の合成>
前記工程(B)において、一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、特に限定されないが、特公昭45-39468号公報等に記載の公知のトリアジンペルオキシドの合成法に準じて合成することができる。
【0056】
上記の工程(A)で得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(B)により、トリアジンペルオキシド誘導体が得られる。
【0057】
前記工程(B)において、ヒドロペルオキシドは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、1.8モル以上反応させることが好ましく、2.0モル以上反応させることがより好ましく、そして、5.0モル以下反応させることが好ましく、3.8モル以下反応させることがより好ましい。なお、ヒドロペルオキシドは、市販品を利用でき、市販品がない場合、特開昭58-72557号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0058】
前記工程(B)において、反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、-10℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましく、そして、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0059】
前記工程(B)において、反応時間は、原料や反応温度等によって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、10分から6時間が好ましい。
【0060】
前記工程(B)において、使用するアルカリは、特に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピリジン、α―ピコリン、γ―ピコリン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等が挙げられる。アルカリは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、1.8モル以上使用することが好ましく、2.0モル以上使用することがより好ましく、そして、5.0モル以下使用することが好ましく、3.8モル以下使用することがより好ましい。
【0061】
前記工程(B)では、塩化シアヌル誘導体が液状である場合は、有機溶媒を用いずに反応を行うことができる。また、塩化シアヌル誘導体が固体である場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、塩化シアヌル誘導体の種類により溶解度が異なるため、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0062】
前記有機溶媒の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して30~500質量部程度である。有機溶媒は工程(B)の後に留去することで、トリアジンペルオキシド誘導体を取り出してもよく、取り扱い性の向上や熱分解時の危険性を低減させるため、トリアジンペルオキシド誘導体を有機溶媒の希釈品として使用してもよい。
【0063】
前記工程(B)は、常圧下で、空気下で行うことができるが、窒素気流下または窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0064】
前記精製工程としては、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、イオン交換水や、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液、亜硫酸ナトリウム水溶液等を用いて洗浄し、目的物を精製する工程が挙げられる。
【0065】
<重合性組成物>
本発明の重合性組成物は、(a)重合開始剤および(b)ラジカル重合性化合物を含有する。さらに、重合性組成物は、(c)アルカリ可溶性樹脂を含有することで現像性を付与することができる。また、重合性組成物は、その他の成分を適宜組み合わせて含有させることができる。
【0066】
<(a)重合開始剤>
本発明の(a)重合開始剤は、前記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体を含有する。(a)重合開始剤は、活性エネルギー線または熱により分解し、発生したラジカルが(b)ラジカル重合性化合物の重合(硬化)を開始する働きを有する。トリアジンペルオキシド誘導体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0067】
また、前記(a)重合開始剤は、トリアジンペルオキシド誘導体以外の重合開始剤(以下、他の重合開始剤とも称す)を含有することができる。吸収帯の異なる2種類以上のトリアジンペルオキシド誘導体や他の重合開始剤を使用することで、例えば、高圧水銀ランプ等の複数の波長の光が放射されるランプに対し、重合性組成物の高感度化を図ることができる。また、重合性組成物に含まれる(b)ラジカル重合性化合物の重合性、重合性組成物に含まれる光を吸収や散乱する顔料等の種類、硬化物の膜厚等を考慮して、他の重合開始剤を用いることで、重合性組成物の表面硬化性や深部硬化性、透明性等を改良することができる。
【0068】
前記他の重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒロドキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα―ヒドロキシアセトフェノン誘導体;2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα―アミノアセトフェノン誘導体;ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル(メシチルカルボニル)フェニルホスフィナート等のアシルホスフィンオキサイド誘導体;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[({1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エチリデン}アミノ)オキシ]エタノン、等のオキシムエステル誘導体;2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)1,3,5-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチルトリアジン誘導体;2,2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン等のベンジルケタール誘導体;イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;3-ベンゾイルー7-ジエチルアミノクマリン、3,3‘-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)等のクマリン誘導体;2-(2-クロロフェニル)-1-[2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-1,3-ジアゾール-2-イル]-4,5-ジフェニルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;3,3‘、4,4’-テトラキス(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;カンファーキノン等が挙げられる。他の重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0069】
前記(a)重合開始剤の含有量は、(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1から40質量部であることが好ましく、0.5から20質量部であることがより好ましく、1から15質量部であることがさらに好ましい。(a)重合開始剤の含有量は、(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部未満では硬化反応が進行しないため好ましくない。また、(a)重合開始剤の含有量は、(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対して、40質量部より多い場合、(b)ラジカル重合性化合物への溶解度が飽和に達し、重合性組成物の成膜時に(a)重合開始剤の結晶が析出し、皮膜表面の荒れが問題になる場合や、(a)重合開始剤の分解残渣の増加により、硬化物の塗膜の強度が低下する場合があるため、好ましくない。
【0070】
なお、前記(a)重合開始剤に、前記他の重合開始剤を含む場合、他の重合開始剤の割合は、(a)重合開始剤中、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
<(b)ラジカル重合性化合物>
本発明の(b)ラジカル重合性化合物としては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。(b)ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類、桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。(b)ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0072】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0073】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン、等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0074】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、重合性組成物の感度の向上、酸素阻害の低減や、硬化物の塗膜の機械的強度や硬度、耐熱性、耐久性、耐薬品性の向上の観点から、前記多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が好ましく、特に、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0075】
なお、前記重合性組成物は、前記(b)ラジカル重合性化合物から得られた共重合体を加えることができる。
【0076】
<(c)アルカリ可溶性樹脂>
前記重合性組成物は、さらに(c)アルカリ可溶性樹脂を配合することにより、ネガ型レジストとして好適に使用することができる。(c)アルカリ可溶性樹脂としては、ネガ型レジストに一般的に使用されるものを用いることができ、アルカリ水溶液に可溶な樹脂であれば特に限定されないが、カルボキシル基を含む樹脂であることが好ましい。(c)アルカリ可溶性樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0077】
本発明の(c)アルカリ可溶性樹脂には、例えば、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物、カルボキシル基含有エポキシアクリレート樹脂等が好ましく使用される。
【0078】
前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物は、前述の(メタ)アクリル酸エステル類の単官能化合物から選ばれる少なくとも1種(但し、前記カルボキシル基を有するモノマーを除く)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の二量体、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸、桂皮酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、およびそれらの酸無水物等のエチレン性不飽和基含有カルボン酸から選ばれる少なくとも1種を含む共重合物である。
【0079】
前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物としては、例えば、メチルメタクリレートと、シクロヘキシルメタクリレートと、メタクリル酸の共重合物等が挙げられる。さらに、スチレン、α-メチルスチレン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジエチル等が共重合されても良い。
【0080】
また、前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物は、ネガ型レジストの現像性と耐熱性、硬度、耐薬品性等の被膜特性を両立させる観点から、エチレン性不飽和基等の反応性基が側鎖に導入されたカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物も好ましく使用される。上記の側鎖にエチレン性不飽和基を導入する方法として、例えば、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物のカルボキシル基の一部に、グリシジル(メタ)アクリレート等の分子内にエポキシ基とエチレン性不飽和基を有する化合物を付加させる方法や、エポキシ基およびカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物に、メタクリル酸等のエチレン性不飽和基含有モノカルボン酸を付加させる方法や、水酸基およびカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合物に、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の分子内にイソシアネート基とエチレン性不飽和基を有する化合物を付加させる方法等が挙げられる。
【0081】
前記カルボキシル基含有エポキシアクリレート樹脂としては、エポキシ化合物と前記エチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応物であるエポキシアクリレート樹脂に、更に酸無水物を反応させた化合物が好適である。
【0082】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、(o,m,p-)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビスフェニルフルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0083】
前記酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水クロレインド酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物、ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、無水イタコン酸等が挙げられる。
【0084】
さらに、カルボキシル基含有エポキシアクリレート樹脂の合成の際に、必要に応じて、無水トリメリット酸等のトリカルボン酸無水物を用いて、反応後に残った酸無水物基を加水分解することにより、カルボキシル基を増やすことができる。また、エチレン性不飽和基含有の無水マレイン酸を用いて、更にエチレン性二重結合を増やすこともできる。
【0085】
前記(c)アルカリ可溶性樹脂の酸価は、20から300mgKOH/gであることが好ましく、40から180mg/KOHであることがさらに好ましい。酸価が20mgKOH/gよりも少ない場合、アルカリ水溶液への溶解性が乏しいため、未露光部の現像が困難となるため好ましくない。また、酸価が300mgKOH/gよりも多い場合、現像時に露光部も基材から脱離しやすい傾向にあるため、好ましくない。
【0086】
前記(c)アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は、1,000から100,000であることが好ましく、1,500から30,000であることが好ましい。重量平均分子量が1,000よりも小さい場合、露光部の耐熱性や硬度等が乏しいため、好ましくない。重量平均分子量が100,000よりも大きい場合は、未露光部の現像が困難となる場合があるため、好ましくない。尚、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置としてHLC-8220GPC(東ソー社製)、カラムとして3本のTSKgelHZM-M(東ソー社製)を使用して、展開溶媒としてテトラヒドロフラン、カラム温度40℃、流速0.3ミリリットル/分、RI検出器、試料注入濃度0.5質量%、注入量10マイクロリットルの条件下、クロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0087】
また、(c)アルカリ可溶性樹脂の割合は、重合性組成物の全固形分中、10から70質量%であることが好ましく、15から60質量%であることがより好ましい。前記割合が10質量%よりも少ない場合、現像性が乏しいため、好ましくない。前記割合が70質量%よりも多い場合、パターン形状の再現性や耐熱性が低下するため、好ましくない。
【0088】
なお、前記(c)アルカリ可溶性樹脂は、合成反応後に有効成分であるアルカリ可溶性樹脂を単離精製したものを用いることができる他、合成反応により得られた反応溶液、その乾燥物等をそのまま用いることもできる。
【0089】
<その他の成分>
前記その他の成分として、硬化促進剤を用いることで、重合性組成物の加熱による硬化を低温で行なうこともできる。硬化促進剤としては、例えば、アミン化合物、チオ尿素化合物、2-メルカプトベンズイミダゾール系化合物、オルトベンゾイックスルフィミド、第4周期遷移金属化合物合物等を使用することができる。硬化促進剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0090】
前記アミン化合物としては、第三級アミンが好ましく、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル等が挙げられる。
【0091】
前記チオ尿素としては、例えば、アセチルチオ尿素、N,N‘ジブチルチオ尿素等が挙げられる。
【0092】
前記2-メルカプトベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、2-メルカプトメトキシベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0093】
前記第4周期遷移金属化合物合物としては、バナジウム、コバルト、銅等の有機酸塩または金属キレート化合物から選択することができ、例えば、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸バナジウム、銅アセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0094】
前記硬化促進剤は、重合性組成物を使用する直前に配合することが好ましい。硬化促進剤の含有量は、(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1から20質量部であることが好ましく、0.2から10質量部であることがより好ましい。
【0095】
前記その他の成分として、重合性組成物には、コーティング剤や塗料、印刷インキ、感光性印刷版、接着剤、カラーレジストやブラックレジスト等の各種フォトレジスト等の用途で一般的に使用されている添加剤を配合できる。添加剤としては、例えば、増感剤(イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、9,10-ジブトキシアントラセン、クマリン、ケトクマリン、アクリジンオレンジ、カンファーキノン等)、重合禁止剤(p-メトキシフェノール、ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、フェノチアジン等)、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、表面調整剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、接着促進剤、可塑剤、エポキシ化合物、チオール化合物、エチレン性不飽和結合を有する樹脂、飽和樹脂、着色染料、蛍光染料、顔料(有機顔料、無機顔料)、炭素系材料(炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、黒鉛化カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノホーン、カーボンエアロゲル等)、金属酸化物(酸化チタン、酸化イリジウム、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ等)、金属(銀、銅等)、無機化合物(ガラス粉末、層状粘度鉱物、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等)、分散剤、難燃剤等が挙げられる。添加剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0096】
前記添加剤の含有量は、使用目的に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、通常、(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対して、500質量部以下でありことが好ましく、100質量部以下であることより好ましい。
【0097】
前記重合性組成物には、粘度や塗装性、硬化膜の平滑性の改良のため、更に溶媒を加えることもできる。溶媒は、前記(a)重合開始剤、前記(b)ラジカル重合性化合物、前記(c)アルカリ可溶性樹脂、前記その他の成分を、溶解または分散することができるものであり、乾燥温度において揮発する溶媒であれば、特に制限されるものではない。
【0098】
前記溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、カルビトール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒、セロソルブアセテート系溶媒、カルビトールアセテート系溶媒やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0099】
前記溶媒の使用量は、重合性組成物の固形分100質量部に対して、10から1000質量部であることが好ましく、20から500質量部であることがより好ましい。
【0100】
<重合性組成物の調製方法>
前記重合性組成物を調整する場合には、収納容器内に前記(a)重合開始剤、前記(b)ラジカル重合性化合物、必要に応じて、前記(c)アルカリ可溶性樹脂や前記その他の成分を投入し、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、2本ロールミル、3本ロールミル等を用いて、常法に従って溶解または分散させればよい。また、必要に応じて、メッシュまたはメンブレンフィルター等を通してもろ過してもよい。
【0101】
なお、前記重合性組成物の調整において、前記(a)重合開始剤は、重合性組成物に最初から添加しておいてもよいが、重合性組成物を比較的長時間保存する場合には、使用直前に(a)重合開始剤を(b)ラジカル重合性を含む組成物中に溶解または分散させることが好ましい。
【0102】
<硬化物の製造方法>
本発明の硬化物は、前記重合性組成物から形成されるものである。硬化物の製造方法は、重合性組成物を基板上に塗布後、当該重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程、および当該重合性組成物を加熱する工程のいずれかの工程を含む製造方法である。また、前記活性エネルギー線で照射する工程と前記加熱する工程の両方を含む工程を、デュアルキュア工程ともいう。
【0103】
前記塗布方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スリットコート法、ドクターブレードコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等の種々の方法が挙げられる。また、前記基板は、例えば、ガラス、シリコンウエハ、金属、プラスチック等のフィルムやシート、および立体形状の成形品等が挙げられ、基板の形状が制限されることは無い。
【0104】
上記の重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程は、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射により、(a)重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0105】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましい。
【0106】
前記光の照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なお、(a)重合開始剤の吸収が少ない可視光から赤外光の光を用いる場合には、前記添加剤として、その光を吸収する増感剤を使用することにより硬化を行なうことができる。
【0107】
前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、重合性組成物の組成に応じて適宜設定すべきである。一例として、UV-A領域での露光量は、10から5,000mJ/cmであることが好ましく、30から1,000mJ/cmであることがより好ましい。なお、上記の硬化物の製造方法として、デュアルキュア工程を適用し、かつ前記活性エネルギー線で照射する工程の後に、加熱する工程を行う場合、(a)重合開始剤が、活性エネルギー線により完全に分解してしまわないように、露光量を適宜設定すべきである。
【0108】
上記の重合性組成物を加熱する工程は、熱により(a)重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0109】
前記重合性組成物を加熱する工程において、加熱する手法は、例えば、加熱、通風加熱等が挙げられる。加熱の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0110】
前記重合性組成物を加熱する工程において、加熱温度は高いほど、(a)重合開始剤の分解速度は加速される。しかし、分解速度が速すぎると、(b)ラジカル重合性化合物の分解残渣が多くなる場合を有する。一方、加熱温度は低いほど、(a)重合開始剤の分解速度は遅いため、硬化に長時間を必要とする。よって、加熱温度と加熱時間は、前記重合性組成物の組成により適宜設定すべきである。一例として、加熱温度は、50から230℃であることが好ましく、100から160℃であることがより好ましい。また、前記重合性組成物に、前記硬化促進剤を配合する場合には、その種類や配合量により、加熱温度は室温から160℃で任意に調整することができる。一方、加熱時間は1から180分であることが好ましく、5から120分であることがさらに好ましい。
【0111】
前記硬化物の製造方法として、前記デュアルキュア工程を適用する場合、特に、重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程の後に、加熱する工程を行うことが、光を吸収や散乱する着色顔料を高濃度に含む重合組成物の塗膜の深部や、光が遮光されて光が届いていない箇所の硬化を効率よく行なうことができるため、好ましい。
【0112】
また、前記重合組成物に前記溶媒を含む場合、前記硬化物の製造方法は、乾燥工程を含むことができる。特に、重合性組成物を基板上に塗布後に、続いて、前記活性エネルギー線で照射する工程を適用する場合、当該活性エネルギー線で照射する工程の前に、乾燥工程を設けることが好ましい。
【0113】
前記乾燥工程において、溶媒を乾燥させる手法は、例えば、加熱乾燥、通風加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱乾燥の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0114】
また、前記乾燥工程において、重合性組成物の温度は、溶媒の蒸発潜熱によって、乾燥の設定温度よりも低くなるため、重合性組成物のゲル化するまでの時間を長く確保することができる。このゲル化するまでの時間は、乾燥手法や膜厚等にも影響されるため、溶媒の選定を含めて乾燥温度と時間は適宜設定すべきである。一例として、乾燥温度は、20から120℃であることが好ましく、40から100℃であることがより好ましい。乾燥時間は1から60分であることが好ましく、1から30分であることがより好ましい。また、前記重合禁止剤を使用することで、ゲル化までの時間を長く確保することもできる。なお、前記トリアジンペルオキシド誘導体は熱により分解するが、80℃で5分の加熱した際の当該化合物の分解率は0.1%程度であるため、この程度の条件であれば重合性組成物が増粘やゲル化することはあまりない。
【0115】
前記重合性組成物の乾燥膜厚(硬化物の膜厚)は、用途に応じて適宜設定されるが、0.05から300μmであることが好ましく、0.1から100μmであることがより好ましい。
【0116】
<パターン形成方法>
前記重合性組成物が(c)アルカリ可溶性樹脂を含む場合、フォトリソグラフィー法によりパターンを形成することができる。前述と同様にして重合性組成物を基材に塗布し、必要に応じて、乾燥して乾燥被膜を形成する。そして、乾燥被膜にマスクを介して活性エネルギー線を照射することにより、露光部では(b)ラジカル重合性化合物が重合することで硬化膜となる。一方、レーザーを用いた直接描画により、マスクを介さずに高精度なパターン形状を作製することもできる。
【0117】
上記の露光後、未露光部は、例えば、0.3から3質量%の炭酸ナトリウム水溶液等のアルカリ現像液により現像除去され、パターン化した硬化膜が得られる。さらに、硬化膜と基材との密着性を高めること等を目的に、後乾燥として180から250℃、20から90分でのポストベークが行われる。このようにして、硬化膜に基づく所望のパターンが形成される。
【0118】
本発明の重合性組成物は、ハードコート剤、光ディスク用コート剤、光ファイバー用コート剤、モバイル端末用塗料、家電用塗料、化粧品容器用塗料、光学素子用内面反射防止塗料、高・低屈折率コート剤、遮熱コート剤、放熱コート剤、防曇剤等の塗料・コーティング剤;オフセット印刷インキ、グラビア印刷インキ、スクリーン印刷インキ、インクジェット印刷インキ、導電性インキ、絶縁性インキ、導光板用インキ等の印刷インキ;感光性印刷版;ナノインプリント材料;3Dプリンター用樹脂;ホログラフィー記録材料;歯科用材料;導波路用材料;レンズシート用ブラックストライプ;コンデンサ用グリーンシートおよび電極材料;FPD用接着剤、HDD用接着剤、光ピックアップ用接着剤、イメージセンサー用接着剤、有機EL用シール剤、タッチパネル用OCA、タッチパネル用OCR等の接着剤・シール剤;カラーレジスト、ブラックレジスト、カラーフィルター用保護膜、フォトスペーサー、ブラックカラムスペーサー、額縁レジスト、TFT配線用フォトレジスト、層間絶縁膜等のFPD用レジスト;液状ソルダーレジスト、ドライフィルムレジスト等のプリント基板用レジスト;半導体レジスト、バッファーコート膜等の半導体用材料等の各種用途に使用でき、その用途に特に制限は無い。
【実施例
【0119】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0120】
<実施例1~5>
(1)トリアジンペルオキシド誘導体の合成
[合成例1:化合物1の合成]
20mLナスフラスコにイオン交換水1.66g、48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.553g(6.64mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.698g(5.31mmol)を徐々に加えた。ここに、2,4-ジクロロ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン0.500g(2.21mmol、ナミキ商事より購入)とテトラヒドロフラン1mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃にて3.5時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン10mLを添加した後に、水相を分液した。油相をイオン交換水で洗浄し、0℃にて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、0.683g(収率92%)の本発明の化合物1を得た。得られた化合物1の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0121】
[合成例2:化合物23の合成]
ヒートドライ乾燥した500mL三つ口フラスコに、マグネシウム1.69g(69.5mmol)、脱水テトラヒドロフラン57mL、触媒量のヨウ素を入れ、室温下で撹拌した。ここに、1-ブロモナフタレン7.07g(50.7mmol)と脱水テトラヒドロフラン57mLの混合溶液を滴下した後、還流撹拌させた。1時間後、内温を-60℃以下まで冷却した。別途調整した塩化シアヌル8.92g(48.4mmol)と脱水テトラヒドロフランの混合溶液を15分かけ滴下した。その後、30分かけて室温にあげ、水浴下で撹拌した。62時間後、反応液を氷浴で冷却し、1M塩酸を加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを8に調整した。次いで、イオン交換水160mLを加え、酢酸エチルで抽出した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体14.6gを得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1から1/3)で精製し、5.14g(収率38%)の2,4-ジクロロ-6-(1-ナフタレニル)-1,3,5-トリアジンを得た。
【0122】
30mLナスフラスコにイオン交換水0.815g、48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.272g(3.26mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.343g(2.61mmol)を徐々に加えた。ここに、2,4-ジクロロ-6-(1-ナフタレニル)-1,3,5-トリアジン0.300g(1.09mmol)とテトラヒドロフラン3mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃にて2時間反応させた。反応終了後、反応溶液を氷水50mLに投入した。析出した結晶をろ過し、イオン交換水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、0.216g(収率52%)で本発明の化合物2を得た。得られた化合物1の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0123】
[合成例3:化合物25の合成]
300mLナスフラスコに、1-メトキシナフタレン5.01g(31.7mmol)、脱水ジクロロメタン100mL、塩化シアヌル6.12g(33.2mmol)を入れ、氷浴下撹拌した。15分後、塩化アルミニウム4.43g(33.2mmol)を加え、室温に昇温した。1時間後、反応液を氷冷1M塩酸75mLに注ぎ、水相を分液した。油相を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した。ろ過後、減圧濃縮し、粗体を9.59gの黄色固体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/トルエン=4/1から1.5/1)で精製し、8.05g(収率83%)の2,4-ジクロロ-6-(4-メトキシ-1-ナフタレニル)-1,3,5-トリアジンを得た。
【0124】
30mLナスフラスコにイオン交換水0.245g、48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.0817g(0.98mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.103g(0.78mmol)を徐々に加えた。ここに、2,4-ジクロロ-6-(4-メトキシ-1-ナフタレニル)-1,3,5-トリアジン0.100g(0.33mmol)とテトラヒドロフラン2mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃にて4時間反応させた。反応終了後、酢酸エチル50mL、イオン交換水50mLを添加した後に、水相を分液した。油相を5%水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、0.125g(収率93%)の本発明の化合物3を得た。得られた化合物3の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0125】
[合成例4:化合物26の合成]
本発明の化合物4は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、2-ブロモ-6-メトキシナフタレンに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物26の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0126】
[合成例5:化合物31の合成]
本発明の化合物4は、合成例1に記載の2,4-ジクロロ-6-フェニル-1,3,5-トリアジンを、2,4-ジクロロ-6-(4-エトキシ-1-ナフタレニル)-1,3,5-トリアジン(シグマアルドリッチ試薬)に変更したこと以外は、合成例1に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物31の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0127】
[合成例6:化合物32の合成]
本発明の化合物32は、合成例3に記載の69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を、85質量%tert-アミルヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物32の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0128】
[合成例7:化合物33の合成]
本発明の化合物33は、合成例1に記載の2,4-ジクロロ-6-フェニル-1,3,5-トリアジンを、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン(東京化成工業試薬)に変更したこと以外は、合成例1に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物33の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0129】
[合成例8:化合物35の合成]
本発明の化合物35は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、4-ブロモ-4’-メトキシビフェニルに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物35の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0130】
[合成例9:化合物37の合成]
本発明の化合物37は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、4-ブロモ-4’-メトキシビフェニルに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を85質量%tert-アミルヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物37の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0131】
[合成例10:化合物38の合成]
本発明の化合物38は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、4-ブロモ-4’-メトキシビフェニル、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を90質量%tert-ヘキシルヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物38の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0132】
[合成例11:化合物40の合成]
本発明の化合物40は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、4-ブロモ-4’-メトキシビフェニルに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を80質量%クメンヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物40の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0133】
[合成例12:化合物41の合成]
本発明の化合物41は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、4-ブロモスチルベンに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物41の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0134】
[合成例13:化合物43の合成]
100mLナスフラスコに、塩化シアヌル5.70g(10mmol)、trans-フェニルビニルボロン酸1.56g(30mmol、シグマアルドリッチ試薬)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロリド0.31g(0.4mmol)、トルエン40mLを入れ、室温で撹拌した。リン酸三カリウム8.68g(40mmol)の水溶液10mLを0℃で滴下した。滴下終了後、室温で1時間の反応を行った。反応終了後、水相を分液した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2.08g(収率78%)の2,4-ジクロロ-6-(2-フェニルエテニル)-1,3,5-トリアジンを得た。
【0135】
20mLナスフラスコにイオン交換水0.893g、48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.298g(3.57mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.376g(2.86mmol)を徐々に加えた。ここに、2,4-ジクロロ-6-(2-フェニルエテニル)-1,3,5-トリアジン0.300g(1.19mmol)とテトラヒドロフラン3mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃にて2時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン50mL、イオン交換水50mLを添加した後に、水相を分液した。油相を5%水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、0.308g(収率71%)の本発明の化合物43を得た。得られた化合物43の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0136】
[合成例14:化合物44の合成]
本発明の化合物35は、合成例2に記載の1-ブロモナフタレンを、p-(2-ブロモ)ビニルアニソールに変更したこと以外は、合成例2に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物41の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0137】
[合成例15:化合物5の合成]
本発明の化合物5は、合成例3に記載の1-メトキシナフタレンを、アニソールに変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物5の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0138】
[合成例16:化合物19の合成]
本発明の化合物19は、合成例3に記載の1-メトキシナフタレンを、ジフェニルスルフィドに変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物19の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0139】
[合成例17:化合物48の合成]
本発明の化合物48は、合成例3に記載の1-メトキシナフタレンを、1-(2-エチルヘキシルオキシ)ナフタレンに変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物19の性状、EI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1および表2に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
(2)UV吸収特性の評価
表1に記載される化合物のアセトニトリル溶液について、UV-VISスペクトル測定装置(1.0cm石英セル、島津製作所製、UV-2450)を用いて、波長200から600nmにおけるUV-VISスペクトルを測定した。その結果を表3に示す。
【0143】
<比較例1~2>
また、比較例として、化合物R1および化合物R2の結果を表3に示す。なお、化合物R1は特開昭59-197401号公報に記載の製法に準じて合成し、EI-MSおよびH-NMRによって同定した。化合物R2はイルガキュア184(BASF製)を使用した。
【化7】
【0144】
【表3】
【0145】
表3において、λmaxは最大吸収波長(nm)、εmaxは最大吸収波長にけるモル吸光係数(L・mol-1・cm-1)、ε313は波長313nmにおけるモル吸光係数(L・mol-1・cm-1)、ε365は波長365nmにおけるモル吸光係数(L・mol-1・cm-1)を示す。
【0146】
一般に、露光波長における光重合開始剤のモル吸光係数が大きいほど、光が吸収されやすく、ラジカルの発生が起こりやすい。すなわち、光重合開始剤の高感度化には、露光波長におけるモル吸光係数が大きい化合物が好適である。UV硬化に使用されるや超高圧水銀ランプや高圧水銀ランプは波長365nm(i線)を主波長とし、波長313nm(j線)等の光を効率よく放出する。表3の結果より、ベンゾフェノン骨格の化合物R1に対して、本発明のトリアジンペルオキシド誘導体は、高圧水銀ランプ等から放出される波長365nm及び波長313nmのモル吸光係数が大きいことが分かる。さらに、LEDからは波長365nm等の単一の光が放出されるが、化合物25、化合物26、化合物31、化合物32、化合物35、化合物37、化合物38、化合物40、化合物41、化合物44、化合物19、及び化合物48は、波長365nmのモル吸光係数が大きいことが分かる。
【0147】
<実施例18~34、比較例3~5>
<重合性組成物(A)から(C)の調整>
表4に示す量の(b)ラジカル重合性化合物、(c)アルカリ可溶性樹脂、その他の成分を混合撹拌し、(a)重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例18~34および比較例3~5の重合性組成物(A)から(C)を調整した。
【0148】
【表4】
【0149】
上記表4中、DPHAは、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(商品名:アロニックスM-402、東亞合成社製);
RD200は、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/シクロヘキシルマレイミド(質量%:61/14/25)共重合物、重量平均分子量:17,000、酸価:90(合成品);
EMK:4,4‘-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(東京化成工業試薬)
F-477は、フッ素系レベリング剤(商品名:メガファックF-477、DIC社製);
PGMEAは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(和光純薬工業試薬);を示す。
【0150】
(3)感度の評価
上記で調整した重合性組成物(A)を、スピンコーターを用いて、アルミニウム基板上に塗布した。塗布後、アルミニウム基板を90℃のクリーンオーブン中で2.5分間乾燥処理により溶媒を乾燥させ、厚さ1.5μmの均一な塗布膜を作製した。次いで、超高圧水銀灯を光源とするプロキシミティー露光機を用い、マスクパターンを介して10から1000mJ/cmの範囲で、段階露光を行った。露光後のアルミニウム基板を1.0質量%の炭酸ナトリウム水溶液に23℃で60秒間浸漬して、現像による未露光部の除去を行った。続いて純水にて30秒間洗浄を行い、パターン形状を得た。パターン形状が形成される最低露光量を「感度」として評価した。各(a)重合開始剤の評価結果を、表5に示す。
【0151】
【表5】
【0152】
ベンゾフェノン骨格の化合物R1に対して、表5の結果より、化合物23、化合物25、化合物26、化合物31、化合物32、化合物33、化合物35、化合物37、化合物38、化合物40、化合物41、化合物43、化合物44、化合物5、化合物19、及び化合物48の感度が高いことが明らかとなった。これらの化合物は波長365nmおよび波長313nmのモル吸光係数が高いため、感度が高いと推測される。また、化合物1に増感剤を併用することにより、感度が向上することが明らかとなった。化合物1の増感剤からのエネルギー移動効率が優れるため、感度が高いと推測される。
【0153】
<実施例35、比較例6>
<重合性組成物(D)の調整>
表6に示す量の(b)ラジカル重合性化合物、硬化促進剤を混合撹拌し、(a)重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例29および比較例6の重合性組成物(B)を調整した。
【0154】
【表6】
【0155】
表6中、UV-3700Bは、ウレタンアクリレート(商品名:紫光UV-3700B、日本合成化学工業社製);
IBOAは、イソボルニルアクリレート(東京化成工業試薬);
THFAは、テトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成工業試薬);
TMPTAは、トリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業試薬);
DMTは、N,N-ジメチルトルイジン(東京化成工業試薬);を示す。
【0156】
(4)デュアルキュア硬化特性の評価
上記で調整した重合性組成物(D)を、厚さ100μmの易接着処理されたPETフィルム(商品名:コスモシャインA4300、東洋紡社製)に、アプリケーターにて50μmに塗布し、表面に黒色コーティングが施されたPETフィルム(波長365nmの透過率は0.1%未満)を被膜の半分の領域に設置した。そして、高圧水銀ランプが設置されたコンベア式UV照射装置を使用して100mJ/cmの照射を行った。次いで、送風定温恒温機内に静置し、90℃で90分の加熱を行った。
【0157】
上記の加熱後、黒色コーティングが施されたPETフィルムを取り除いて硬化膜を露出させて、その硬化膜部分を減衰全反射赤外分光法(ATR-IR)にて硬化度(%)を測定した。その際、二重結合基の面内変角振動の吸収スペクトル(1410cm-1)および露光前後で変化のないカルボニル基の吸収スペクトル(1740cm-1)のピーク面積を用いて、以下の式に基づいて硬化率(硬化度)を算出した。その結果を表7に示す。
【数1】
【0158】
【表7】
【0159】
表7の結果より、本発明のトリアジンペルオキシド誘導体、および当該化合物を含む重合性組成物は光に対して優れた感度を有し、光硬化性と熱硬化性を有することを特長とすることが明らかである。
【0160】
<実施例36~39、比較例7~8>
<重合性組成物(E)の調整>
表8に示す量の(b)ラジカル重合性化合物、(c)アルカリ可溶性樹脂、その他の成分を混合撹拌し、(a)重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例36~39および比較例7~8の重合性組成物(E)を調整した。また、比較例のハロメチルトリアジン誘導体である化合物R3および化合物R4は東京化成試薬を使用した。
【0161】
【化8】
【0162】
【表8】
【0163】
(5)色相(b値)の評価
上記で調整した重合性組成物(E)を、スピンコーターを用いて、ガラス基板上に塗布した。塗布後、ガラス基板を90℃のクリーンオーブン中で2.5分間乾燥処理により溶媒を乾燥させ、厚さ1.5μmの均一な塗布膜を作製した。そして、高圧水銀ランプが設置されたコンベア式UV照射装置を使用して300mJ/cmの照射を行い、試験片を作製した。得られた試験片の硬化度を測定した結果、すべての試験片において硬化度は90%以上であった。得られた試験片について、分光測色計(CM-3500d、ミノルタカメラ製)を用いてL,a,b表色系の値をJIS-Z-8722に従って、透過法にて測定した。bの値を黄色度の指標として評価し、bが小さいほど黄色度が低い。その結果を表9に示す。
【0164】
【表9】
【0165】
表9の結果より、本発明のトリアジンペルオキシド誘導体を含む重合性組成物から形成される硬化膜は黄色度が低いことを特長とすることが明らかである。