(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】X線位相差撮像システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20220209BHJP
【FI】
G01N23/041
(21)【出願番号】P 2019560806
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036091
(87)【国際公開番号】W WO2019123758
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2019-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017247045
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀場 日明
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-044603(JP,A)
【文献】特開2012-143497(JP,A)
【文献】特開2012-148068(JP,A)
【文献】特開2011-218139(JP,A)
【文献】特開2011-227041(JP,A)
【文献】特表2015-529510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0307549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
A61B 6/00 - A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線源と前記X線検出器との間に設けられたX線を通過させるための第1格子と、前記第1格子の自己像と干渉させるための第2格子とを含む複数の格子と、
前記格子を一定間隔で移動させる格子移動機構と、
被写体を配置せずに取得した第1のX線画像と、前記被写体を配置して取得した第2のX線画像とに基づいて、位相微分像を生成する画像処理部と、
前記格子の位置ずれを取得する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記画像処理部で生成された位相微分像の画素値に基づいて、前記X線源と前記X線検出器とを結ぶ光軸方向への前記格子の位置ずれ、前記格子のスリットの向きに直交する方向への前記格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による前記格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成され、
前記制御部は、前記位相微分像内の一部に設定された検知領域内における前記画素値
の平均値または中央値を取得し、前記格子の位置ずれを取得するように構成されている、X線位相差撮像システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記位相微分像を生成して前記格子の位置ずれを取得することを複数回行う際に、予め生成された第1のX線画像を用いるように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項3】
前記格子の位置を調整するための位置調整機構をさらに備え、
前記制御部は、取得した前記格子の位置ずれに基づき、前記格子の位置を前記位置調整機構により調整する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記位相微分像を1枚生成するごとまたは複数枚生成するごとに、取得した前記格子の位置ずれに基づき、前記格子の位置を調整するために前記位置調整機構を制御するように構成されている、請求項3に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記位相微分像内に設定された複数の前記検知領域の各検知領域内における前記画素値
の平均値または中央値を取得し、前記格子の位置ずれを取得するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項6】
X線源と、
照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線源と前記X線検出器との間に設けられたX線を通過させるための第1格子と、前記第1格子の自己像と干渉させるための第2格子とを含む複数の格子と、
前記格子を一定間隔で移動させる格子移動機構と、
被写体を配置せずに取得した第1のX線画像と、前記被写体を配置して取得した第2のX線画像とに基づいて、位相微分像を生成する画像処理部と、
前記格子の位置ずれを取得する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記画像処理部で生成された位相微分像の画素値に基づいて、前記X線源と前記X線検出器とを結ぶ光軸方向への前記格子の位置ずれ、前記格子のスリットの向きに直交する方向への前記格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による前記格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成され、
前記制御部は、前記位相微分像内に設定された複数の検知領域の各検知領域内における複数箇所の前記画素値の平均値または中央値を取得し、前記格子の位置ずれを取得するように構成されている、X線位相差撮像システム。
【請求項7】
前記格子のスリットの向きに直交する方向への前記格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による前記格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するための前記検知領域は、前記検知領域の中心点を挟んで前記格子のスリットの向きに平行な線上に2箇所設定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項8】
前記X線源と前記X線検出器とを結ぶ光軸方向への前記格子の位置ずれを取得するための前記検知領域は、前記検知領域の中心点を挟んで前記格子のスリットの向きに直交する線上に2箇所設定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項9】
前記検知領域は、前記位相微分像の撮影領域の外周縁近傍に設定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記検知領域内の前記画素値がしきい値未満である場合、前記検知領域を、前記位相微分像内の前記被写体を含まない部分に設定するように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記検知領域内の前記画素値がしきい値未満である場合、前記検知領域を再設定するように構成されている、請求項10に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項12】
前記画像処理部は、前記第1のX線画像と、前記第2のX線画像とに基づいて、暗視野像または吸収像のうち少なくとも1つを生成し、
前記制御部は、前記暗視野像の前記画素値または前記吸収像の前記画素値がしきい値未満である場合、前記検知領域を再設定するように構成されている、請求項10に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記検知領域内に前記被写体が含まれる場合に、前記検知領域内における前記被写体を含まない部分を用いて位置ずれを取得するように構成されている、請求項10に記載のX線位相差撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相差撮像システムに関し、特に、複数の格子を用いて撮影を行うX線位相差撮影装置の格子の位置ずれの取得および格子の位置調整に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線位相差撮像システムが知られている。そのようなX線位相差撮像システムは、たとえば、国際公開第2014/030115号に開示されている。
【0003】
国際公開第2014/030115号には、ソース格子を並進させて発生させたモアレ縞を検出することによって位相コントラスト像を撮像するX線位相差撮像システムが開示されている。上記国際公開第2014/030115号に開示されているX線位相差撮像システムは、X線源と、ソース格子と、位相格子と、吸収格子と、検出器とを備えたX線位相差撮像装置を含む。このX線位相差撮像装置は、いわゆるタルボ・ロー干渉計である。また、上記特許文献1に開示されているX線位相差撮像システムは、モアレ縞が所定の周期となるようにソース格子を並進させる並進信号を取得し、取得された並進信号に基づいてソース格子を並進させることによって位相コントラスト像を撮像するように構成されている。
【0004】
ここで、タルボ・ロー干渉計では、ソース格子を通過したX線が位相格子に照射される。照射されたX線は、位相格子を通過する際に回析し、所定距離(タルボ距離)離れた位置に位相格子の自己像を形成する。形成された位相格子の自己像の周期は、汎用の検出器では検出することができない程小さいものである。したがって、タルボ・ロー干渉計では、位相格子の自己像が形成される位置に吸収格子を配置し、汎用の検出器でも検出することが可能なモアレ縞を形成する。また、タルボ・ロー干渉計では、格子のいずれか1つを格子の周期方向に並進させながら複数回撮影(縞走査撮影)を行うことにより、自己像のわずかな変化を検出し、位相コントラスト像を取得することができる。
【0005】
タルボ・ロー干渉計を用いて、位相コントラスト像を取得するためには、被写体を置かずに撮影した画像(エアデータ)と、被写体を置いて撮影した画像(サンプルデータ)とを撮影する必要がある。このとき、エアデータはサンプルデータと同じ条件下において撮影したものを用いる。そのため、条件が変わらなければ、エアデータは一度取得した後は再度取得する必要はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
国際公開第2014/030115号に記載のタルボ・ロー干渉計では、位相格子と吸収格子との相対位置が設計位置からずれている場合、意図しないモアレ縞が発生する。この場合、意図しないモアレ縞が検出器によって検出されるため、意図しないモアレ縞に起因して、撮像画像にアーティファクト(虚像)が発生するという不都合がある。なお、「意図しないモアレ縞」とは、被写体を配置していない状態において発生する、位相格子と吸収格子との相対位置のずれに起因するモアレ縞のことである。また、「アーティファクト(虚像)」とは、意図しないモアレ縞に起因して発生する、位相コントラスト画像の乱れや位相コントラスト画像の画質の低下のことである。
【0008】
しかしながら、格子の位置ずれが生じないように、機械的に抑制することは難しい。そのため、使用者は、同じ撮影条件を維持するために、定期的にエアデータを更新する必要があった。また、仮に自動ステージを用いて自動的にエアデータを更新するような機構を設けたとしても、更新頻度が多いと測定時間がその分増加するため、ユーザーにストレスがかかっていた。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エアデータを更新することなく、容易に同じ撮影条件を維持することが可能なX線位相差撮像システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるX線位相差撮像システムは、X線源と、照射されたX線を検出するX線検出器と、X線源とX線検出器との間に設けられたX線を通過させるための第1格子と、第1格子の自己像と干渉させるための第2格子とを含む複数の格子と、格子を一定間隔で移動させる格子移動機構と、被写体を配置せずに取得した第1のX線画像と、被写体を配置して取得した第2のX線画像とに基づいて、位相微分像を生成する画像処理部と、格子の位置ずれを取得する制御部と、を備え、制御部は、画像処理部で生成された位相微分像の画素値に基づいて、X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成され、制御部は、位相微分像内の一部に設定された検知領域内における画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。
【0011】
この発明の一の局面におけるX線位相差撮像システムでは、上記のように、制御部は、画像処理部で生成された位相微分像の画素値に基づいて、X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成されている。このように構成することによって、格子の位置ずれが発生した場合でも、制御部により、取得した位相微分像の画素値に基づいて、位置ずれを取得(更新)することができる。その結果、使用者は、エアデータを再取得しなくとも、通常の撮影によって位相微分像を生成させるだけで、容易に、格子の位置ずれ(撮影条件の変化)を取得できる。その結果、取得した位置ずれに基づいて格子の位置ずれを調整することが可能となるため、エアデータを更新することなく、容易に同じ撮影条件を維持することができる。
【0012】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、制御部は、位相微分像を生成して格子の位置ずれを取得することを複数回行う際に、予め生成された第1のX線画像を用いるように構成されている。このように構成すれば、予め生成された第1のX線画像と、新たに生成した第2のX線画像とを基にして位相微分像が生成される。それにより、第2のX線画像を新たに撮影するだけで、位相微分像を生成できるので、使用者は、第1のX線画像を、再度取得しなくてもよい。
【0013】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、格子の位置を調整するための位置調整機構をさらに備え、制御部は、取得した格子の位置ずれに基づき、格子の位置を位置調整機構により調整する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、位置調整機構により格子の位置の調整が行われるため、使用者は、取得した格子の位置を調整する作業を行なう必要がない。その結果、より容易に同じ撮影条件を維持することができるので、使用者の負担を軽減することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、制御部は、位相微分像を1枚生成するごとまたは複数枚生成するごとに、取得した格子の位置ずれに基づき、格子の位置を調整するために位置調整機構を制御するように構成されている。このように構成すれば、格子の位置ずれを取得するごとに位置調整機構によって格子の位置を調整することにより、極力正確に、同一の撮影条件を維持することができる。また、位相微分像を複数枚生成するごとに位置調整機構によって格子の位置を調整することにより、1枚生成するごとに位置を調整する場合に比べて、位置調整機構が位置を調整する頻度を少なくすることができる。その結果、実用上問題ない範囲で撮影条件を維持しつつ、格子の位置調整にかかる時間が少なくすることができる。
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、制御部は、位相微分像内に設定された複数の検知領域の各検知領域内における画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。
【0015】
この発明の他の局面におけるX線位相差撮像システムは、X線源と、照射されたX線を検出するX線検出器と、X線源とX線検出器との間に設けられたX線を通過させるための第1格子と、第1格子の自己像と干渉させるための第2格子とを含む複数の格子と、格子を一定間隔で移動させる格子移動機構と、被写体を配置せずに取得した第1のX線画像と、被写体を配置して取得した第2のX線画像とに基づいて、位相微分像を生成する画像処理部と、格子の位置ずれを取得する制御部と、を備え、制御部は、位相微分像内に設定された複数の検知領域の各検知領域内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。
この発明の他の局面におけるX線位相差撮像システムでは、上記のように、制御部は、画像処理部で生成された位相微分像の画素値に基づいて、X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成されている。このように構成することによって、格子の位置ずれが発生した場合でも、制御部により、取得した位相微分像の画素値に基づいて、位置ずれを取得(更新)することができる。その結果、使用者は、エアデータを再取得しなくとも、通常の撮影によって位相微分像を生成させるだけで、容易に、格子の位置ずれ(撮影条件の変化)を取得できる。その結果、取得した位置ずれに基づいて格子の位置ずれを調整することが可能となるため、エアデータを更新することなく、容易に同じ撮影条件を維持することができる。また、検知領域内の画素値の分布を取ることができる。また、取得した複数の画素値から、平均値あるいは中央値を取ることにより、ノイズなどに起因する極端な数値(外れ値)を排除できるので、正確な位置ずれを取得することができる。
【0016】
上記X線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するための検知領域は、検知領域の中心点を挟んで格子のスリットの向きに平行な線上に2箇所設定されている。ここで、光軸回りの回転による位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれは、検知領域の中心点を通るスリットの向きに直交する直線を境界にして、位置ずれの差が現れ易い。そのため、上記構成にすれば、位相微分像から、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または、光軸回りの回転による格子の位置ずれを容易に取得することができる。
【0017】
上記X線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれを取得するための検知領域は、検知領域の中心点を挟んで格子のスリットの向きに直交する線上に2箇所設定されている。ここで、光軸方向への格子の位置ずれは、格子のスリットの向きに直交する方向に位置ずれが生じ易く、格子のスリットの向きに平行な方向に位置ずれが生じにくい。そのため、上記構成にすれば、位相微分像から、X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれを容易に取得することができる。
【0018】
上記X線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、検知領域は、第2の位相微分像の撮影領域の外周縁近傍に設定されている。このように構成すれば、検知領域を、回転による位置ずれが大きい外周部に設定することができるので、位置ずれを取得し易くなる。そのため、位置ずれの検知精度を向上させることができる。
【0019】
上記X線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、制御部は、検知領域内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域を、位相微分像内の被写体を含まない部分に設定するように構成されている。このように構成すれば、被写体の映り込みによる画素値の変化が無い場所を検知領域に設定することができる。それにより、格子の位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0020】
この場合、好ましくは、制御部は、検知領域内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域を再設定するように構成されている。このように構成すれば、被写体の映り込みがあるため画素値が変化する部分を避けて検知領域を設定することができる。それにより、被写体の映り込みによる画素値の変化を防ぐことができるので、格子の位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0021】
上記検知領域内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域を再設定する構成において、好ましくは、画像処理部は、第1のX線画像と第2のX線画像とに基づいて、暗視野像または吸収像のうち少なくとも1つを生成し、制御部は、暗視野像の画素値または吸収像の画素値がしきい値未満である場合、検知領域を再設定するように構成されている。このように構成すれば、被写体の映り込みによる画素値の変化が無い場所を検知領域に設定することができる。それにより、格子の位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0022】
上記制御部は、検知領域内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域を再設定する構成において、制御部は、検知領域内に被写体が含まれる場合に、検知領域内における被写体を含まない部分を用いて位置ずれを取得するように構成されている。このように構成すれば、予め設定されていた検知領域内の被写体の映り込みによる画素値への影響が無い部分の画素値だけを用いて、画素値を取得できる。その結果、検知領域の再設定が容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エアデータを更新することなく、容易に同じ撮影条件を維持することが可能なX線位相差撮像システムを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態によるX線位相差撮像システムの全体構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による位置調整機構の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるX線位相差撮像システムの格子に設けられた検知領域の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる、格子のずれによって生じる位相微分像を示す概略図である。(A)は位置ずれが生じていない状態あるいはX軸方向の位置ずれが生じている状態の位相微分像を示す。(B)は、Z軸方向に位置ずれが生じている状態の位相微分像を示す。(C)は、Rz軸方向にずれが生じている状態の位相微分像を示す。
【
図5】本発明の一実施形態によるX線位相差撮像システムの位置ずれの取得、調整動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態によるX線位相差撮像システムの検知領域の設定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
(X線位相差撮像システムの構成)
図1~
図6を参照して、本発明の一実施形態によるX線位相差撮像システム100の構成について説明する。
【0027】
X線位相差撮像システム100は、被写体Tを通過したX線の位相差を利用して、被写体Tの内部を画像化する装置である。また、X線位相差撮像システム100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、被写体Tの内部を画像化する装置である。X線位相差撮像システム100は、たとえば、非破壊検査用途においては、物体としての被写体Tの内部の画像化に用いることが可能である。また、X線位相差撮像システム100は、たとえば、医療用途においては、生体としての被写体Tの内部の画像化に用いることが可能である。
【0028】
図1に示すように、X線位相差撮像システム100は、X線源1と、第1格子2と、第2格子3と、X線検出器4と、画像処理部5、制御部6と、位置調整機構7と、格子移動機構8とを備えている。なお、本明細書において、X線源1から第1格子2に向かう方向をZ2方向、その逆方向をZ1方向とし、Z1方向とZ2方向とをまとめてZ軸方向とする。Z軸と直交し、紙面奥側から手前側に向かう方向をY1方向とし、その逆方向をY2方向とし、Y1方向とY2方向とをまとめてY軸方向とする。また、紙面上方向をX1方向、紙面下方向をX2方向とし、X1方向とX2方向とをまとめてX軸方向とする。なお、本発明の第1格子2と第2格子3はY軸方向にスリットが形成されている。また、X軸方向とは、特許請求の範囲の「格子のスリットの向きに直交する方向」の一例である。さらに、Z軸方向とは、特許請求の範囲の「X線源とX線検出器とを結ぶ光軸方向」の一例である。
【0029】
X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線をZ1方向に向けて照射するように構成されている。
【0030】
第1格子2は、X軸方向に所定の周期(ピッチ)d1で配列される複数のスリット2aおよび、X線位相変化部2bを有している。各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第1格子2は、いわゆる位相格子である。
【0031】
第1格子2は、X線源1と、第2格子3との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第1格子2は、タルボ効果により、第1格子2の自己像(図示せず)を形成する。可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子の像(自己像)が形成される。これをタルボ効果という。
【0032】
第2格子3は、X軸方向に所定の周期(ピッチ)d2で配列される複数のX線透過部3aおよびX線吸収部3bを有する。各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第2格子3は、いわゆる、吸収格子である。第1格子2、第2格子3はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、スリット2aおよびX線透過部3aはそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部3bはX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部2bはスリット2aとの屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0033】
第2格子3は、第1格子2とX線検出器4との間に配置されており、第1格子2を通過したX線が照射される。また、第2格子3は、第1格子2からタルボ距離離れた位置に配置される。第2格子3は、第1格子2の自己像と干渉して、X線検出器4の検出表面上にモアレ縞(図示せず)を形成する。すなわち、X線位相差撮像システム100では、複数の格子として、第1格子2および第2格子3を備えており、X線源1からX線検出器4へ向かうZ1方向において、第1格子2、第2格子3の順で配置されている。
【0034】
X線検出器4は、照射されたX線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。X線検出器4は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。X線検出器4は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)において、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。また、X線検出器4は、取得した画像信号を、画像処理部5に出力するように構成されている。
【0035】
画像処理部5は、X線検出器4から出力された画像信号に基づいて、被写体Tを配置せずに撮影した第1のX線画像と、被写体Tを配置して撮影した第2のX線画像とを取得する。また画像処理部5は、第1のX線画像と、第2のX線画像とに基づいて、コントラスト像を生成する。生成されるコントラスト像は、たとえば、位相微分像、吸収像、暗視野像である。位相微分像は、エアデータとサンプルデータとのX線位相の変化を算出し画像化したものである。吸収像は、被写体TがあるとX線が吸収され、被写体Tが無い部分とX線の位相の差が生じることを利用して、位相の差を画像の濃淡で表した図である。暗視野像は、密集した箇所では強くX線が散乱することを利用し、被写体Tの表面にあたり散乱したX線の分布を、画像化することで被写体Tの構造を表した図である
【0036】
制御部6は、画像処理部5で生成された位相微分像における画素値に基づいて、光軸方向(Z軸方向)への位置ずれ、X軸方向への位置ずれ、または光軸回り(Rz)の回転による位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成されている。
【0037】
制御部6は、検知領域9(
図3参照)内から画素値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。
図3は、第1格子2をX線源1から第2格子3へ向かうZ2方向から見た図である。なお、スリットは省略している。検知領域9とは、撮影領域10内に設けられ、位置ずれを取得するために用いられる画素値を採取する領域である。制御部6は、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。検知領域9内の複数箇所から取得した画素値に基づいて、制御部6は、画素値の平均値を計算するように構成されている。あるいは、複数箇所から取得した画素値に基づいて、制御部6は、中央値を選択するように構成されている。
【0038】
制御部6は、位相微分像を生成して格子の位置ずれを取得することを複数回行う際に、予め生成された第1のX線画像を用いるように構成されている。制御部6は、位相微分像を1枚生成する毎または複数枚生成するごとに、取得した格子の位置ずれに基づき、格子の位置を位置調整機構7により調整する制御を行うように構成されている。使用者は、格子の位置ずれが起こる頻度などに基づいて、制御部6に位置調整の頻度を設定する。
【0039】
制御部6は、検知領域9内の画素値がしきい値未満である場合、以下のいずれかのように構成される。検知領域9を、位相微分像内の被写体Tを含まない部分に設定する、検知領域9を再設定する、あるいは、検知領域9内における被写体Tを含まない部分を用いて位置ずれを取得する。
【0040】
制御部6は、画像処理部5において生成された暗視野像の画素値または吸収像の画素値が、しきい値未満である場合、検知領域9を再設定するように構成されている。
【0041】
図2に示すように、位置調整機構7は、基台部70と、ステージ支持部71と、格子を乗せるステージ72と、第1駆動部73と、第2駆動部74と、第3駆動部75と、第4駆動部76と、第5駆動部77とを含む。第1駆動部73~第5駆動部77は、たとえば、それぞれモータなどを含む。また、ステージ72は、連結部72aと、Z軸方向周り回動部72bと、X軸方向周り回動部72cとによって構成されている。
【0042】
第1駆動部73、第2駆動部74および第3駆動部75は、それぞれ、基台部70の上面に設けられている。第1駆動部73は、ステージ支持部71をZ軸方向に往復移動させるように構成されている。また、第2駆動部74は、ステージ支持部71をY軸方向周りに回動させるように構成されている。また、第3駆動部75は、ステージ支持部71をX軸方向に往復移動させるように構成されている。ステージ支持部71は、ステージ72の連結部72aと接続しており、ステージ支持部71の移動に伴って、ステージ72も移動する。
【0043】
また、第4駆動部76は、Z軸方向周り回動部72bをX方向に往復移動させるように構成されている。Z軸方向周り回動部72bは、底面が連結部72aに向けて凸曲面状に形成されており、X軸方向に往復移動されることにより、ステージ72をZ方向の中心軸線周りに回動するように構成されている。また、第5駆動部77は、X軸方向周り回動部72cをZ軸方向に往復移動させるように構成されている。X軸方向周り回動部72cは、底面がZ軸方向軸周り回動部72bに向けて凸曲面状に形成されており、Z軸方向に往復移動されることにより、ステージ72をX軸方向周りに回動するように構成されている。
【0044】
したがって、位置調整機構7は、第1駆動部73によって、第1格子2または第2格子3をZ方向に調整可能に構成されている。また、位置調整機構7は、第2駆動部74によって、格子をY軸方向周りの回転方向(Ry方向)に調整可能に構成されている。また、位置調整機構7は、第3駆動部75によって、格子をX方向に調整可能に構成されている。また、位置調整機構7は、第4駆動部76によって、格子をZ軸方向周りの回転方向(Rz方向)に調整可能に構成されている。また、位置調整機構7は、第5駆動部77によって、格子をX軸方向周りの回転方向(Rx方向)に調整可能に構成されている。各軸方向の往復移動は、たとえば、それぞれ数mmである。また、X軸方向周りの回転方向Rx、Y軸方向周りの回転方向RyおよびZ軸方向周りの回転方向Rzの回動可能角度は、たとえば、それぞれ数度である。位置調整機構7は、第1格子2、第2格子3の少なくとも1つと接続される。
【0045】
格子移動機構8は、制御部6からの信号に基づいて、第1格子2を格子面内(XY面内)において格子方向と直交する方向(X軸方向)に一定間隔で移動させるように構成されている。具体的には、格子移動機構8は、第2格子3の周期d2をn分割し、d2/nずつ第2格子3をステップ移動させる。なお、nは正の整数である。また、格子移動機構8は、たとえば、ステッピングモータやピエゾアクチュエータなどを含む。
【0046】
〈検知領域〉
図3をもとに検知領域9を説明する。
図3は、第1格子2をX線源1から第2格子3へ向かうZ2方向に見た図である。なお、スリットは省略している。検知領域9は、撮影領域10内に設けられる。撮影領域10とは、コントラスト画像を取得できる領域をさす。検知領域9とは、撮影領域10内に設けられ、位置ずれを取得するために用いられる画素値を採取する領域である。検知領域9は、撮影領域10に対しては、格子の周期、配列パターンに変更はない。つまり、検知領域9は、格子の周期、配列パターンを変更して設ける必要がないため、使用者が格子を作成するのが容易である。撮影領域10の中心から離れるほど位置ずれが大きくなり、検知が容易になるため、検知領域9は、位相微分像の撮影領域10の外周縁近傍に設定されてもよい。
【0047】
検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで上下(Y軸方向)2箇所あるいは左右(X軸方向)2箇所に設ける。あるいは検知領域9の中心点Cを挟んで上下(Y軸方向)および左右(X軸方向)の計4箇所に設ける。
【0048】
X線源1とX線検出器4とを結ぶ光軸方向(Z軸方向)への格子の位置ずれを取得するための検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに直交する線(X軸方向の線)上に2箇所設定されている。エアデータを取得してからとサンプルデータを取得するまでの間に、第1格子2と第2格子3との間に位置ずれが無い、もしくはX軸方向に位置ずれがある場合は、
図4(A)で示すような、濃淡(明暗)のコントラストが無い均一な画像の位相微分像が得られる。しかしながら、第1格子2と第2格子3との間にずれが生じた場合は、位相微分像に濃淡(明暗)のコントラストが現れる。光軸方向(Z軸方向)のずれの場合、第1格子2の自己像と第2格子3との周期がずれるため、中心より左の領域ではX1方向もしくはX2方向に第1格子2の自己像と第2格子3との相対位置がずれ、中心より右の領域ではその逆方向にずれが生じる。そのため
図4(B)で示すように、位相微分像は格子のスリットの向きに直交する方向(X軸方向)に濃淡のコントラストが生じる。なお、位置ずれの方向によってX1方向からX2方向にかけて明るくなる、またはX1方向からX2方向にかけて暗くなる。そのため、検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに直交する線(X軸方向の線)上に2箇所設定される。なお、
図4(A)および
図4(B)は、得られる位相微分像を説明するための概略図であり、得られる位相微分像はエアデータを取得してからサンプルデータ取得するまでの間の変化によって濃淡(明暗)の生じ方が異なる。
【0049】
格子のスリットの向きに直交する方向(X軸方向)への格子の位置ずれ、または光軸回り(Rz)の回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するための検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに平行な線(Y軸方向の線)上に2箇所設定される。エアデータを取得してからサンプルデータを取得するまでの間に、光軸回り(Rz)の回転がずれた場合、中心より上の領域ではX1方向もしくはX2方向に第1格子2の自己像と第2格子3の相対位置がずれ、中心より下の領域はその逆方向にずれが生じる。そのため、
図4(C)に示すような、格子のスリットの向きに平行な方向(Y軸方向)に濃淡(明暗)のコントラストが生じた位相微分像が得られる。なお、位置ずれの方向によってY1方向からY2方向にかけて明るくなる、またはY1方向からY2方向にかけて暗くなる。そのため、検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに平行な線(Y軸方向の線)上に2箇所設定される。また、X軸方向のずれを検知する場合、撮影領域10の中心点CからX軸方向に離れると、X線がスリットに斜めに入射するため、格子部のスリットの深さと幅とのアスペクト比によりX線の減衰が生じる。しかしながら、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに平行な線(Y軸方向の線)上に設定することで、X線がスリットに垂直に入射するためX線の減衰が生じにくい。そのため、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに平行な線(Y軸方向の線)上に2箇所設定される。なお、
図4(C)は、得られる位相微分像を説明するための概略図であり、得られる位相微分像はエアデータを取得してからサンプルデータ取得するまでの間の変化によって濃淡(明暗)の生じ方が異なる。
【0050】
検知領域9は、被写体Tが映りこむと画素値が下がるため、位相微分像の被写体Tの写りこみがない箇所に設定されている。あるいは、検知領域9は、位相微分像の撮影領域10の外周縁近傍に設定されている。回転による位置ずれは、撮影領域10の中心から離れているほど大きくなる。そのため、精密な位置調整を行う場合は、検知領域9は撮影領域10の中心から離れているほうが好ましい。
【0051】
位相微分像は、格子移動機構8が、第1格子2をX軸方向に並進させた場合のX線のステップカーブに基づいて生成される。具体的には、位相微分像は、被写体Tを通過したX線が屈折することを利用して、被写体Tを配置しない場合のX線のステップカーブに対する、被写体Tを配置した場合のX線のステップカーブの位相のずれの大きさを画像化することにより生成される。位相微分像の画素値は位相のずれを表す。被写体Tを通過するときにX線が屈折するため、同じ画像の被写体Tの無い領域は、X線が屈折することがない。そのため被写体Tが無い部分は位相のずれが生じない。もし、被写体Tが無い部分において、位相のずれが生じているとすると、第1格子2または第2格子3のいずれかに位置ずれが生じていると考えられる。そこで、位相微分像の被写体Tの無い部分の画素値を採取することにより、位相のずれを取得し、位相のずれから格子の位置ずれを取得する。
【0052】
(位置ずれの取得、調整動作)
図5を参照して、本実施形態におけるX線位相差撮像システム100が位置ずれを取得する動作を説明する。本実施形態では、検知領域9の中心点Cが撮影領域10の中央と一致している場合を例に説明する。
【0053】
まずステップS1では、被写体Tを配置せずに、X線源1から、X線を照射する。X線は、第1格子2と第2格子3とを通過し、X線検出器4に到達する。X線検出器4は、照射されたX線を検出する。ステップS2では、X線検出器4は、検出したX線から第1のX線画像を取得する。第1のX線画像は、X線位相差撮像システム100の使用を開始するときに一度取得すればよい。
【0054】
ステップS3では、被写体Tを配置し、X線源1から、X線を照射する。X線は、被写体Tに照射され、被写体TにX線があたることにより、X線の屈折が起こり、その結果位相のずれが生じ第2格子3に干渉縞ができる。
【0055】
ステップS4では、X線検出器4は、検出したX線から第2のX線画像を取得する。ステップS5では、画像処理部5は、ステップS2において取得した第1のX線画像と、ステップS4において取得した第2のX線画像とに基づいて位相微分像を生成する。
【0056】
ステップS6では、制御部6は、ステップS5において生成した検知領域9と撮影領域10とが含まれる位相微分像から、検知領域9内の画素値を取得する。ステップS7では、取得した画素値から位置ずれを取得する。
【0057】
X軸方向の位置ずれΔX
1、光軸方向(Z軸)の位置ずれΔZ
1および光軸(Rz)回りの回転による位置ずれΔRz
1は、以下に示す式で求められる。p
1p
2は格子の周期を表し、単位はmである。Δφ
u,Δφ
d,Δφ
w,Δφ
rは各検知領域9における画素値の平均を表し、単位はラジアンである。R
1は格子間の距離、Dは撮影領域10の中心から検知領域9までの距離を表し、単位はmである。
【数1】
【0058】
ステップS8では、取得した位置ずれに基づいて、制御部6は、位置調整機構7を制御し、格子の位置を調整する。以上が位置ずれを取得し、格子の位置を調整する動作である。
【0059】
(検知領域の決定動作)
次に
図6を参照して、本実施形態における検知領域9の決定動作について説明する。まずステップS1では、X線位相差撮像システム100は、被写体Tがない状態で、X線源1から、X線を照射する。X線は、第1格子2と第2格子3とを通過し、X線検出器4に到達する。X線検出器4は、照射されたX線を検出する。ステップS2では、X線検出器4は、検出したX線から第1のX線画像を取得する。ステップS3では、制御部6は、第1のX線画像から、画素値を取得し、しきい値を設定する。
【0060】
ステップS4では、被写体Tが配置された状態で、X線源1から、X線を照射する。X線は、被写体Tに照射され、第2格子3に自己像が形成される。X線検出器4は、生成された自己像を検出する。
【0061】
ステップS5では、X線検出器4により、検出したX線から第2のX線画像を取得する。ステップS6では、画像処理部5は、ステップS2において取得した第1のX線画像とステップS5において取得した第2のX線画像とに基づいてコントラスト像を生成する。
【0062】
ステップS7では、生成したコントラスト像の1つである、吸収像あるいは暗視野像内に検知領域9を設定する。ステップS8では、制御部6は、吸収像あるいは暗視野像の検知領域9から画素値を取得する。ステップS9では、制御部6は、取得した画素値としきい値とを比較する。
【0063】
画素値が、しきい値以上の場合は、ステップS10に移って、制御部6は、位相微分像から画素値を取得し、位置ずれの取得を開始する。画素値が、しきい値未満の場合、ステップS11に移り、制御部6は、画素値を取得する場所を、同じ検知領域9内の別の場所に設定する。あるいは、制御部6は、検知領域9を別の場所に設定する。そして、ステップS8に戻り、制御部6は、再設定した検知領域9から画素値を取得する。ステップS9に移って、制御部6は、取得した画素値としきい値を比較する。最終的には被写体Tを含まない領域に検知領域9を設定したのち、制御部6は、位置ずれの取得を開始する。
【0064】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
本実施形態のX線位相差撮像システム100では、制御部6は、画像処理部5で生成された位相微分像の画素値に基づいて、X線源1とX線検出器4とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するように構成されている。このようにすることによって、格子の位置ずれが発生した場合でも、制御部6により、取得した位相微分像の画素値に基づいて、位置ずれを取得(更新)することができる。その結果、使用者は、エアデータを再取得しなくとも、通常の撮影によって位相微分像を生成させるだけで、容易に、格子の位置ずれ(撮影条件の変化)を取得できる。その結果、取得した位置ずれに基づいて格子の位置ずれを調整することが可能となるため、エアデータを更新することなく、容易に同じ撮影条件を維持することができる。
【0066】
本実施形態のX線位相差撮像システム100において、好ましくは、制御部6は、位相微分像を生成して格子の位置ずれを取得することを複数回行う際に、予め生成された第1のX線画像を用いるように構成されている。このようにすることによって、予め生成された第1のX線画像と、新たに生成した第2のX線画像とを基にして位相微分像が生成される。それにより、第2のX線画像を新たに撮影するだけで、位相微分像を生成できるので、使用者は、第1のX線画像を、再度取得しなくてもよい。
【0067】
本実施形態のX線位相差撮像システム100において、好ましくは、格子の位置を調整するための位置調整機構7をさらに備え、制御部6は、取得した格子の位置ずれに基づき、格子の位置を位置調整機構7により調整する制御を行うように構成されている。このようにすることによって、位置調整機構7により格子の位置の調整が行われるため、使用者は、取得した格子の位置を調整する作業を行なう必要がない。その結果、より容易に同じ撮影条件を維持することができるので、使用者の負担を軽減することができる。
【0068】
また、制御部6は、位相微分像を1枚生成するごとまたは複数枚生成するごとに、取得した格子の位置ずれに基づき、格子の位置を調整するために位置調整機構7を制御するように構成されている。このようにすることによって、格子の位置ずれを取得するごとに位置調整機構7によって格子の位置を調整することにより、極力正確に、同一の撮影条件を維持することができる。また、位相微分像を複数枚生成するごとに位置調整機構7によって格子の位置を調整することにより、1枚生成するごとに比べて、位置調整機構7が位置を調整する頻度を少なくすることができる。その結果、実用上問題のない範囲で撮影条件を維持しつつ、格子の位置調整にかかる時間が少なくすることができる。
【0069】
本実施形態のX線位相差撮像システム100において、制御部6は、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得するように構成されている。このように構成すれば、検知領域9内の画素値の分布を取ることができる。また、取得した複数の画素値から、平均値あるいは中央値を取ることにより、ノイズなどに起因する極端な数値(外れ値)を排除できるので、正確な位置ずれを取得することができる。
【0070】
また、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または光軸回りの回転による格子の位置ずれのうち少なくとも1つの位置ずれを取得するための検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに平行な線上に2箇所設定されている。ここで、光軸回りの回転による位置ずれ、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれは、検知領域9の中心点Cを通るスリットの向きに直交する直線を境界にして、位置ずれの差が現れ易い。そのため、上記構成にすれば、格子のスリットの向きに直交する方向への格子の位置ずれ、または、光軸回りの回転による格子の位置ずれを容易に取得することができる。
【0071】
また、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得する構成において、X線源1とX線検出器4とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれを取得するための検知領域9は、検知領域9の中心点Cを挟んで格子のスリットの向きに直交する線上に2箇所設定されている。ここで、光軸方向への格子の位置ずれは、格子のスリットの向きに直交する方向に位置ずれが生じやすく、格子のスリットの向きに平行な方向に位置ずれが生じにくい。そのため、上記構成にすれば、位相微分像から、X線源1とX線検出器4とを結ぶ光軸方向への格子の位置ずれを容易に取得することができる。
【0072】
また、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得する構成において、検知領域9は、第2の位相微分像の撮影領域10の外周縁近傍に設定されている。このようにすることによって、検知領域9を、回転による位置ずれが大きい外周部に設定することができるので、位置ずれを取得し易くなる。そのため、位置ずれの検知精度を向上させることができる。
【0073】
また、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得する構成において、好ましくは、制御部6は、検知領域9内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域9を、第2の位相微分像内の被写体Tを含まない部分に設定するように構成されている。このようにすることによって、被写体Tの映り込みによる画素値の変化の影響が無い場所を検知領域9に設定することができる。それにより、位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0074】
また、位相微分像内に設定された複数の検知領域9の各検知領域9内における複数箇所の画素値の平均値または中央値を取得し、格子の位置ずれを取得する構成において、制御部6は、検知領域9内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域9を再設定するように構成されている。このようにすることによって、被写体Tの映り込みがあるために画素値の低い部分を避けて検知領域9を設定することができる。それにより、被写体Tの映り込みによる画素値の低下を防ぐことができるので、位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0075】
本実施形態のX線位相差撮像システム100において、制御部6は、検知領域9内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域9を再設定する構成において、好ましくは、画像処理部5は、第1のX線画像と第2のX線画像とに基づいて、暗視野像または吸収像のうち少なくとも1つを生成し、制御部6は、暗視野像の画素値または吸収像の画素値が、しきい値未満である場合、検知領域9を再設定するように構成されている。このようにすることによって、被写体Tの映り込みによる画素値の変化が無い場所を検知領域9に設定することができる。それにより、格子の位置ずれによる画素値の変化量を正確に取得することができる。
【0076】
また、制御部6は、検知領域9内の画素値がしきい値未満である場合、検知領域9を再設定する構成において、制御部6は、検知領域9内に被写体Tが含まれる場合に、検知領域9内における被写体Tを含まない部分を用いて位置ずれを取得するように構成されている。このようにすることによって、予め設定されていた検知領域9内の被写体Tの映り込みによる画素値への影響が無い部分の画素値だけを用いて、画素値を取得できる。その結果、検知領域9の再設定が容易となる。
【0077】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0078】
たとえば、上記実施形態では、複数の格子として、第1格子2および第2格子3を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、X線源1と第1格子2との間に、第3格子を設ける構成でもよい。第3格子は、X線源1と第1格子2との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第3格子は、各スリットを通過したX線を、各スリットの位置に対応する線光源とするように構成されている。これにより、第3格子によってX線源から照射されるX線の可干渉性を高めることができる。その結果、X線源1の焦点径に依存することなく第1格子2の自己像を形成させることが可能となり、X線源1の選択の自由度を向上させることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、中心点が撮影領域10の中央にある場合について記載したが、撮影領域10の中央に設定しなくとも良い。その場合は、上記計算式は、適宜変更される。
【0080】
また、検知領域9に被写体Tが含まれる場合、制御部6が、検知領域9を変更する場合を記載したが、制御部6は、検知領域9を縮小しても良い。あるいは、制御部6は、警告を発し、使用者が検知領域9を再設定しても良い。
【0081】
またしきい値は、第1のX線画像の画素値に基づいて設定したが、第2のX線画像や、第2のX線画像から生成されたコントラスト画像の被写体Tが映っていない箇所から取得しても良い。コントラスト画像から取得する場合、しきい値は、コントラスト画像の背景の画素値のばらつきを考慮して設定してもよい。またしきい値と比較する画素値は、第2のX線画像でもよく、第2のX線画像から生成された位相コントラスト像でも良い。
【符号の説明】
【0082】
1 X線源
2 第1格子
3 第2格子
4 X線検出器
5 画像処理部
6 制御部
7 位置調整機構
8 格子移動機構
9 検知領域
100 X線位相差撮像システム