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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】射出成形用樹脂材料
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/72 20060101AFI20220209BHJP
   B29C 33/08 20060101ALI20220209BHJP
   H05B 6/62 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
B29C45/72
B29C33/08
H05B6/62
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020508843
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013814
(87)【国際公開番号】W WO2019187071
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】岩本 道尚
(72)【発明者】
【氏名】冨永 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 高廣
(72)【発明者】
【氏名】浜田 輝幸
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-311799(JP,A)
【文献】特開平11-105076(JP,A)
【文献】特開2003-311800(JP,A)
【文献】特開2009-101602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形装置に投入する射出成形用樹脂材料であって、
前記射出成形装置は、
投入された前記射出成形用樹脂材料を温調により流動性をもたせて射出する射出機と、
前記射出成形用樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記射出成形用樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、
前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発信装置と、
を備え、
該射出成形用樹脂材料は、
HIPS、PP、LDPE、HDPE、m-PPE、およびPMMAの中から選択されるポリオレフィン系樹脂からなる基材と、
互いに重合したポリオレフィン系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料からなる誘電発熱材と、
を備える、
射出成形用樹脂材料。
【請求項2】
射出成形装置に投入する射出成形用樹脂材料であって、
前記射出成形装置は、
投入された前記射出成形用樹脂材料を温調により流動性をもたせて射出する射出機と、
前記射出成形用樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記射出成形用樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、
前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発信装置と、
を備え、
該射出成形用樹脂材料は、
ABS、PC/ABS、PC、POM、PA6、PA12、およびPA66の中から選択されるポリアミド系樹脂からなる基材と、
互いに重合したポリアミド系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料からなる誘電発熱材と、
を備える、
射出成形用樹脂材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、射出成形用樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形装置は、流動性をもたせた樹脂材料を成形型内に射出し、充填した樹脂材料を固化させることにより樹脂製品を製造する装置である。このような射出成形装置は、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高周波発振器を有する樹脂溶融装置を備え、当該樹脂溶融装置にて流動性をもたせた樹脂材料を成形型内に射出し、成形型内で樹脂の温度を低下させることで樹脂製品を製造する射出成形装置が開示されている。
【0004】
なお、特許文献1に開示の樹脂溶融装置では、成形型に繋がるノズルに対して、樹脂の流れ方向の直前の部分となる絞り部の樹脂材料だけを加熱溶融することとしている。
【0005】
また、特許文献2には、成形型に対してヒータを取り付け、成形型内に射出された樹脂材料の流動性を確保する構成が開示されている。これにより、成形型内における樹脂材料の流動性を確保することができ、樹脂製品の製品品質を優れたものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-113699号公報
【文献】特開2000-127175号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に開示の技術では、成形型内に充填された樹脂材料を固化させるために成形型全体を加熱・冷却する必要があり、タクトタイムが長くなり、またエネルギ効率が低い。よって、上記特許文献2に開示の技術では、生産効率の観点から改善の余地がある。
【0008】
本開示は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、成形型内での高い流動性の確保により高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる射出成形用樹脂材料を提供することを目的とする。
【0009】
本開示の一態様に係る射出成形用樹脂材料は、射出成形装置に投入する射出成形用樹脂材料であって、前記射出成形装置は、投入された前記射出成形用樹脂材料を温調により流動性をもたせて射出する射出機と、前記射出成形用樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記射出成形用樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発信装置と、を備え、該射出成形用樹脂材料は、HIPS、PP、LDPE、HDPE、m-PPE、およびPMMAの中から選択されるポリオレフィン系樹脂からなる基材と、互いに重合したポリオレフィン系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料からなる誘電発熱材と、を備える。
本開示の別態様に係る射出成形用樹脂材料は、射出成形装置に投入する射出成形用樹脂材料であって、前記射出成形装置は、投入された前記射出成形用樹脂材料を温調により流動性をもたせて射出する射出機と、前記射出成形用樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記射出成形用樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発信装置と、を備え、該射出成形用樹脂材料は、ABS、PC/ABS、PC、POM、PA6、PA12、およびPA66の中から選択されるポリアミド系樹脂からなる基材と、互いに重合したポリアミド系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料からなる誘電発熱材と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る射出成形装置の構成を示す模式図である。
図2】成形型の構成の一部を示す模式断面図である。
図3】成形型に形成されたキャビティの構成を示す模式図である。
図4】樹脂材料の発熱原理を示す模式図である。
図5】射出成形装置の制御部が実行する高周波電圧および射出圧力の制御形態を示すタイムチャートである。
図6】射出時における成形型内の樹脂材料の温度と圧力とを示す模式図である。
図7】保圧時における成形型内の樹脂材料の温度と圧力とを示す模式図である。
図8】誘電発熱材の化学式である。
図9A】誘電発熱材における陽イオンの移動前の状態を示す模式図である。
図9B】誘電発熱材における陽イオンが移動した後に状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0012】
[実施形態]
1.射出成形装置1の構成
本実施形態に係る射出成形装置1の構成について、図1を用い説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1は、成形型10と、射出ユニット(射出機)20と、高周波発振ユニット(高周波発振装置)30と、制御部60と、を備える。
【0014】
成形型10は、可動型11と固定型12とを有し、可動型11と固定型12との間にキャビティ10aが構成されている。可動型11は、図示を省略する駆動機構により、固定型12に対して型締めおよび離間が可能となっている。
【0015】
可動型11は、金属材料からなる型本体111と、型本体111に対してキャビティ10aに面する状態で設けられた電極112と、型本体111と電極112との間に介挿された絶縁体113と、を有する。電極112の内部には、冷却液(冷却媒体)が流通する冷却管114が埋設されている。
【0016】
固定型12は、金属材料からなる型本体121と、型本体121に対してキャビティ10aに面する状態で設けられた電極122と、型本体121と電極122との間に介挿された絶縁体123と、を有する。電極122の内部には、冷却液(冷却媒体)流通する冷却管124が埋設されている。
【0017】
電極112と電極122とは、キャビティ10aを挟んで対向するように配置されている。そして、可動型11が固定型12に対して型締めされた状態においては、電極112と電極122との間には絶縁体113または絶縁体123が挟まれるようになっている。
【0018】
なお、絶縁体113および絶縁体123のそれぞれは、例えば、ケイ酸系バインダまたはセラミックスからなる。
【0019】
射出ユニット20は、シリンダ21と、スクリュ22と、射出シリンダ23と、ノズル24と、シリンダヒータ25と、を有する。ノズル24は、成形型10のキャビティ10aに連通している。シリンダ21内にホッパー(図示を省略。)から供給された樹脂材料が、シリンダヒータ25からの熱で流動性が付与され、射出シリンダ23の駆動によるスクリュ22の前進によりノズル24からキャビティ10aに射出されるようになっている。
【0020】
なお、シリンダ21は、接地されている。
【0021】
高周波発振ユニット30は、高周波交流電圧を電極112と電極122との間に印加するユニットであり、電源31と、発振器32と、整合器33と、給電線34,35と、を有する。なお、本実施形態では、高周波発振ユニット30により電極112,122に発生する高周波交流電圧の周波数が、一例として、27MHzに設定されている。
【0022】
ここで、給電線34には、給電経路の途中に漏電遮断弁41が介挿されており、給電線35には、給電経路の途中に漏電遮断弁42が介挿されている。また、給電線35における漏電遮断弁42が介挿された箇所よりも電極112に近い側の箇所は、接地されている。
【0023】
制御部60は、射出シリンダ23およびシリンダヒータ25の駆動制御や、高周波発振ユニット30の制御などを実行する。制御ユニット60の詳細については図示を省略しているが、例えば、CPUと、当該CPU上で実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実行する各種のアプリケーションプログラムなどを含む。)と、プログラムや各種のデータを保存するROMやRAMなどのメモリなどを備えるコンピュータを含み構成されている。
【0024】
また、射出成形装置1には、冷却管114,124に対して冷却液(冷却媒体)を循環させるための冷却液循環ユニット(冷却媒体供給装置)51,52が接続されている。冷却液循環ユニット51,52と可動型11および固定型12との間の冷却液循環経路中には、漏電遮断弁43~46が介挿されている。
【0025】
さらに、射出成形装置1には、電極112の温度を検出するための温度センサ71と、電極122の温度を検出するための温度センサ72と、シリンダ21内の樹脂材料の温度を検出するための温度センサ73と、が備えられている。温度センサ71~73は、射出成形装置1の駆動中においては、検出した温度データを制御部60に逐次送出する。そして、温度データを受信した制御部60は、当該データを用い、シリンダヒータ25および高周波発振ユニット30をフィードバック制御する。
【0026】
2.キャビティ10a内に導入された樹脂材料70に対する高周波交流電圧Eの印加
キャビティ10a内に導入された樹脂材料70に対する高周波交流電圧Eの印加について、図2を用い説明する。図2は、成形型10の構成の一部を拡大して示す模式断面図である。
【0027】
先ず、本実施形態に係る射出成形装置1で用いる樹脂材料70は、誘電発熱材が混入された樹脂材料である。これについての詳細は、後述する。
【0028】
電極112と電極122とは、上述のように、キャビティ10aに面するように設けられている。このため、キャビティ10aに導入され、キャビティ10a内を流動する樹脂材料70に対しては、矢印で示すように高周波交流電圧Eが印加されることとなる。
【0029】
樹脂材料70には、誘電発熱材が混入されているので、高周波交流電圧Eの印加を受けて発熱する。このため、樹脂材料70は、高周波交流電圧Eが印加されている状態において、キャビティ10a内での流動性が保持されている。
【0030】
3.キャビティ10aの構成
成形型10に設けられたキャビティ10aの構成について、図3を用い説明する。図3は、成形型10に設けられたキャビティ10aの構成を示す模式図である。
【0031】
図3に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1では、成形型10のキャビティ10aの形状を、一例として、流動基点部10bと流動終点部10cとの間に2箇所の曲折部10d,10eが設けられ、平面視で略U字形状としている。
【0032】
射出ユニット20のノズル24から射出された樹脂材料70は、流動基点部10bから曲折部10d,10eを経由して流動終点部10cまで流動する。
【0033】
ここで、詳細な図示を省略しているが、成形型10においては、流動基点部10bから流動終点部10cに至る樹脂材料70の流動経路の全域に亘って電極112,122が延設されている。即ち、成形型10のキャビティ10aを流動する樹脂材料70は、流動基点部10bから流動終点部10cに至るまで高周波交流電圧Eが印加できるようになっている。
【0034】
4.樹脂材料70への高周波交流電圧Eの印加と樹脂材料70の発熱原理
樹脂材料70への高周波交流電圧Eの印加と樹脂材料70の発熱原理について、図4を用い説明する。図4は、樹脂材料70の発熱原理を示す模式図である。
【0035】
図4に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1で用いる樹脂材料70は、基材701に対して誘電発熱材702が混入された樹脂材料である。基材701の一例としては、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂を採用することができる。
【0036】
誘電発熱材702の一例としては、ポリオレフィン系モノマーまたはポリアミド系モノマーと、ポリエーテルモノマーとが重合した構造を有する樹脂材料を採用することができる。樹脂材料70の詳細な構造については、後述する。
【0037】
図4に示すように、樹脂材料70に対して高周波発振30により高周波交流電圧Eが印加された場合には、樹脂材料70中を電磁波WRが伝播する。樹脂材料70中を電磁波WRが伝播した場合には、混入されている誘電発熱材702が、電磁波WRによる分子鎖の変形(運動)により発熱し、当該熱が基材701に伝達される。
【0038】
以上のような原理により、キャビティ10a中の樹脂材料70は高周波交流電圧Eの印加により発熱する。
【0039】
5.射出成形方法
射出成形装置1を用いた射出成形方法について、図5から図7を用い説明する。図5は、射出成形装置1を用いた射出成形において、制御部60が実行する高周波交流電圧の印加タイミングおよび射出圧力を時間経過毎に示すタイムチャートである。図6は、射出時におけるキャビティ10a内での樹脂材料70の温度と圧力とを示す特性図であり、図7は、キャビティ10aに樹脂材料70が充填された後の保圧時における樹脂材料70の温度と圧力を示す特性図である。
【0040】
図5に示すように、射出成形装置1の電源がONされたタイミングT1において、制御部60は、高周波発振ユニット30に対して電極112,122間に高周波交流電圧E1を印加するよう指令する。
【0041】
また、制御部60は、タイミングT1において、射出ユニット20に対して射出圧力LPをP1に向けて増圧するように指令する。これにより、射出圧力LPがタイミングT2に圧力P1となるように増圧されてゆく。
【0042】
なお、図示を省略しているが、射出成形装置1を用いた射出成形時においては、制御部60はシリンダヒータ25をON状態として、シリンダ21内の樹脂材料70が流動状態となるように指令する。
【0043】
次に、キャビティ10a内が樹脂材料70で満たされたタイミングT2以降において、制御部60は、高周波交流電圧EをタイミングT1からタイミングT2までの間と同じ所定値LEで保持するように高周波発振ユニット30に指令するとともに、射出ユニット20に対しては、タイミングT3に至るまでの所定時間だけ一定の射出圧力P2を加えるように指令する。
【0044】
図5に示すタイミングT2からタイミングT3に至る期間が保圧期間ということになる。
【0045】
次に、図6に示すように、タイミングT1からタイミングT2に至る射出時では、キャビティ10a内における流動基点部Pos1(上記流動基点部10bに相当)から流動終点部Pos2(上記流動終点部10cに相当)までの全域において、樹脂材料70の温度LTpは所定値LEの高周波交流電圧Eの印加により流動性を有する一定温度Tp1に保持される。
【0046】
一方、タイミングT1からタイミングT2に至る射出時では、キャビティ10a内における樹脂材料70の圧力LPrは、流動基点部Pos1で圧力P3であり、流動終点部Pos2に向けて漸減してゆく。
【0047】
次に、図7に示すように、タイミングT2からタイミングT3に至る保圧期間においては、キャビティ10a内における樹脂材料70の温度LTpは所定値LEでの高周波交流電圧Eの印加が継続されていることから温度Tp1で保持される。また、タイミングT2からタイミングT3に至る保圧期間においては、キャビティ10a内における樹脂材料70の圧力LPrは、射出ユニット20の駆動が継続されていることにより、流動基点部Pos1から流動終点部Pos2に至るキャビティ10a内の全域で略一定の圧力P2となる。
【0048】
6.樹脂材料70の構成
上述のように、本実施形態に係る射出成形装置1においては、基材701と誘電発熱材702とからなる樹脂材料70を用いることとしている。樹脂材料70の組成について、図8を用い説明する。図8は、誘電発熱材702の化学式である。
【0049】
先ず、樹脂材料70としては、次の2種類を想定している。
【0050】
(1)第1の種類
〈基材701〉 HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PMMA(アクリル)の中から選択されるポリオレフィン系樹脂
〈誘電発熱材702〉 図10に示す化学式において、Aがポリオレフィン系モノマーであり、Bがポリエーテルモノマーである。第1の種類では、ポリオレフィン系モノマーとポリエーテルモノマーとが重合してなる樹脂材料であり、ポリエーテル部分に陽イオンを保持してなる、誘電発熱材702を採用する。
【0051】
(2)第2の種類
〈基材701〉 ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、PC/ABS(ポリカーボネート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン混合樹脂)、PC(ポリカーボネート)、POM(ポリアセタール)、PA6(ポリアミド6)、PA12(ポリアミド12)、PA66(ポリアミド66)の中から選択されるポリアミド系樹脂
〈誘電発熱材702〉 図10に示す化学式において、Aがポリアミド系モノマーであり、Bがポリエーテルモノマーである。第2の種類では、ポリアミド系モノマーとポリエーテルモノマーとが重合してなる樹脂材料であり、ポリエーテル部分に陽イオンを保持してなる、誘電発熱材702を採用する。
【0052】
7.高周波交流電圧Eの印加による誘電発熱材702の発熱
高周波交流電圧Eの印加による樹脂材料70の発熱メカニズムについて、図9Aおよび図9Bを用い説明する。図9Aは、高周波交流電圧Eの印加を開始した直後における誘電発熱材702の状態を示す模式図であり、図9Bは、高周波交流電圧Eの印加により誘電発熱材702の陽イオンM+が移動した後の状態を示す模式図である。
【0053】
誘電発熱材702を含む樹脂材料70に対して高周波交流電圧Eが印加されると、誘電発熱材702にも電磁波WRが伝搬され(図4を参照)、図9Aに示す位置に存在した陽イオンM+が、図9Bに示すように移動する。
【0054】
図9Aに示す位置から図9Bに示す位置に陽イオンM+が移動する際には、誘電発熱材702の分子鎖が変形(運動)する。このため、誘電発熱材702が発熱し、その熱が基材701に伝達される。
【0055】
本実施形態に係る射出成形装置1の射出成形に用いる樹脂材料70は、高周波交流電圧Eの印加を受けて温度上昇し、流動性が保持される。
【0056】
[変形例]
上記実施形態では、樹脂材料70の一例として熱可塑性の樹脂材料を採用することとしたが、本開示に係る技術は、これに限定を受けるものではない。熱硬化性の樹脂材料を対象としてもよい。熱硬化性の樹脂材料を射出する場合には、当該樹脂材料を硬化させる際に高周波交流電圧を印加すればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、誘電加熱によりキャビティ10a内を流動する樹脂材料70の流動性を保持することとしたため、成形型10に対して1つの射出ユニット20を接続することとしたが、本開示に係る技術は、これに限定を受けるものではない。キャビティ内を流動する樹脂材料の温度をキャビティ内全域で略同一とすることができるので、2つ以上の射出ユニットを接続することとしても、ヘアライン状の不良が生じ難く、優れた外観品質とすることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、1つの固定型12と1つの可動型11との組み合わせを以って成形型10を構成することとしたが、本開示に係る技術は、これに限定を受けるものではない。例えば、3つ以上の型の組み合わせを以って構成された成形型を採用することもできる。
【0059】
また、上記実施形態では、成形型10におけるキャビティ10aの流動起点部10bから流動終点部10cまでの間で一対の電極112,122を設けることとしたが、本開示に係る技術は、これに限定を受けるものではない。例えば、キャビティにおける樹脂材料の流動方向において、互いに間隔を空けた状態で複数の電極対を設けることとしてもよい。
【0060】
また、キャビティの形状などから空気放電が発生しやすいと考えられる箇所には、電極対を設けないこととしてもよい。
【0061】
[本開示のまとめ]
本開示の一態様に係る射出成形装置は、誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性をもたせて射出する射出機と、前記樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、前記一対の電極の間に高周波交流電圧を印加する高周波発振装置と、を備える。
【0062】
上記態様に係る射出成形装置では、射出する樹脂材料として誘電発熱材が混入された樹脂材料を用いるとともに、キャビティに面する一対の電極を設けて、当該一対の電極の間に高周波交流電圧を印加する構成となっている。よって、上記態様に係る射出成形装置では、射出機から射出されてキャビティ内を流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧の印加制御することができ、該樹脂材料は、高周波交流電圧の印加制御によって高い流動性が確保される。
【0063】
ここで、射出する樹脂材料として、基材が熱可塑性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティを流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧を印加することで誘電発熱材が発熱し、これにより樹脂材料の流動性を確保することができる。
【0064】
一方、射出する樹脂材料として、基材が熱硬化性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティに対して樹脂材料が充填された状態で高周波交流電圧を印加することで、誘電発熱材の発熱を以って樹脂材料を硬化させることができる。
【0065】
また、上記態様に係る射出成形装置では、成形型全体を加熱するのではなく、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度制御を行って流動性を確保するので、エネルギロスの低減を図ることができるとともに、樹脂材料がキャビティ内に充填された後に高周波交流電圧の印加制御だけで樹脂材料を固化させることができるので、成形型全体の温度制御をする場合に比べてタクトタイムの短縮を図ることもできる。
【0066】
従って、上記態様に係る射出成形装置では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
【0067】
本開示の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記成形型は、それぞれが型本体を有し、且つ、互いに嵌合する固定型および可動型を有し、前記一対の電極のうちの一方の電極は、前記固定型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられ、前記一対の電極のうちの他方の電極は、前記可動型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられている。
【0068】
上記態様に係る射出成形装置では、固定型および可動型の両型において、電極が型本体に対して絶縁体を挟んだ状態で取り付けられているので、高周波交流電圧の印加時において型外部への電磁波の漏洩を抑制することができる。
【0069】
本開示の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記一対の電極の少なくとも一方には、冷却媒体が流通する冷却通路を有し、前記冷却通路に対して冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置を更に備える。
【0070】
上記態様に係る射出成形装置では、電極に冷却通路を設けているので、誘電発熱による樹脂材料の熱が電極に伝達されたとしても、冷却媒体の供給により電極の冷却が可能である。このため、上記態様に係る射出成形装置では、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度調整をより正確に行うことができるとともに、樹脂材料を固化させ成形型から取り出す際に冷却媒体の供給により樹脂材料および成形型の冷却が可能であり、タクトタイムの短縮が可能である。よって、上記態様に係る射出成形装置では、より高い生産性を実現するのに優位である。
【0071】
本開示の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記一対の電極は、前記キャビティに対して前記流動の方向における上流端から下流端まで設けられている。
【0072】
上記態様に係る射出成形装置では、一対の電極がキャビティにおける樹脂材料の流動方向における上流端から下流端まで設けられた構成としているので、キャビティ内の全域に亘って樹脂材料の温度を制御することができる。
【0073】
本開示の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記射出機からの前記樹脂材料の射出と、前記高周波発振装置による前記高周波交流電圧の印加と、を制御する制御部を更に備え、前記制御部は、前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続けるように前記射出機を制御する。
【0074】
上記態様に係る射出成形装置では、キャビティ内に樹脂材料が充填された後に、保圧期間(上記所定時間)を設けているので、樹脂材料が固化するまでの間、キャビティの全域における樹脂材料の圧力を均一化することができる。よって、上記態様に係る射出成形装置では、固化時における樹脂材料の収縮をキャビティ全域で均一化することができ、高品質な樹脂製品を製造するのに優位である。
【0075】
本開示の一態様に係る射出成形方法は、誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性を持たせて射出する射出ステップと、前記射出ステップで射出された前記樹脂材料を、成形型内に形成されたキャビティ内を流動させる流動ステップと、前記キャビティ内を流動する前記樹脂材料に対して、高周波交流電圧を印加する高周波交流電圧印加ステップと、を備える。
【0076】
上記態様に係る射出成形方法では、射出する樹脂材料として誘電発熱材が混入された樹脂材料を用いるとともに、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内を流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧を印加可能な構成となっている。よって、上記態様に係る射出成形方法では、射出機から射出されてキャビティ内を流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧の印加制御を実行することにより、キャビティ内を流動する樹脂材料は、高周波交流電圧の印加制御によって高い流動性が確保される。
【0077】
ここで、上記同様に、射出する樹脂材料として、基材が熱可塑性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティを流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧を印加することで誘電発熱材が発熱し、これにより樹脂材料の流動性を確保することができる。
【0078】
一方、射出する樹脂材料として、基材が熱硬化性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティに対して樹脂材料が充填された状態で高周波交流電圧を印加することで、誘電発熱材の発熱を以って樹脂材料を硬化させることができる。
【0079】
また、上記態様に係る射出成形方法では、成形型全体を加熱するのではなく、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度制御を行って当該樹脂材料の流動性を確保することができるので、エネルギロスの低減を図ることができるとともに、樹脂材料がキャビティ内に充填された後に高周波交流電圧の印加制御だけで樹脂材料を固化させることができるので、成形型全体の温度制御をする場合に比べてタクトタイムの短縮を図ることもできる。
【0080】
従って、上記態様に係る射出成形方法では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
【0081】
本開示の別態様に係る射出成形方法は、上記態様であって、前記高周波交流電圧印加ステップでは、前記キャビティにおける前記流動の方向における上流端から下流端まで流動する前記樹脂材料に対して、前記高周波交流電圧を印加する。
【0082】
上記態様に係る射出成形方法では、一対の電極がキャビティにおける樹脂材料の流動方向における上流端から下流端まで設けられた構成としているので、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内の全域に亘って樹脂材料の温度を制御することができる。
【0083】
本開示の別態様に係る射出成形方法は、上記態様であって、前記射出ステップで前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続ける保圧ステップを、更に備える。
【0084】
上記態様に係る射出成形方法では、保圧ステップを設けているので、キャビティ内に樹脂材料が充填されて後、樹脂材料が固化するまでの間、キャビティの全域における樹脂材料の圧力を均一化することができる。よって、上記態様に係る射出成形方法では、固化時における樹脂材料の収縮をキャビティ全域で均一化することができ、高品質な樹脂製品を製造するのに優位である。
【0085】
本開示の別態様に係る射出成形方法は、上記態様であって、前記保圧ステップの実行後に、前記キャビティに充填された前記樹脂材料を、前記成形型内に設けられた冷却通路への冷却媒体の供給により冷却する冷却ステップを、更に備える。
【0086】
上記態様に係る射出成形方法では、冷却ステップを設けているので、誘電発熱による樹脂材料の熱が電極に伝達されたとしても、冷却ステップの実行により電極の冷却が可能である。このため、上記態様に係る射出成形方法では、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度調整をより正確に行うことができるとともに、樹脂材料を固化させ成形型から取り出す際に冷却媒体の供給により樹脂材料および成形型の冷却が可能であり、タクトタイムの短縮が可能である。よって、上記態様に係る射出成形方法では、より高い生産性を実現するのに優位である。
【0087】
本開示の一態様に係る射出成形用樹脂材料は、上記の何れかの態様に係る射出成形装置に投入する射出成形用樹脂材料において、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂からなる基材と、前記高周波交流電圧の印加により陽イオンの移動が可能な誘電発熱材と、を有する。
【0088】
上記態様に係る樹脂材料では、高周波交流電圧の印加により樹脂材料を伝播される電磁波により陽イオンが移動(運動)する誘電発熱材を含んでいる。このため、上記態様に係る樹脂材料を用いて射出成形を行う場合に、キャビティ内に充填された樹脂材料に対して高周波交流電圧が印加されることで誘電発熱材の陽イオンが移動(運動)する。これより、上記態様に係る樹脂材料では、誘電発熱体が発した熱により基材の流動性が制御され、高品質な樹脂製品を製造するのに優位である。
【0089】
また、上記態様に係る樹脂材料では、上記のような構成の誘電発熱材を含むことにより、成形型全体を加熱しなくても、高周波交流電圧を樹脂材料に対して印加するだけで樹脂材料の流動性を制御することが可能である。よって、上記態様に係る樹脂材料は、射出成形に際して、優れた熱効率での成形を可能とし、タクトタイムの短縮も可能とすることができる。
【0090】
本開示の別態様に係る射出成形用樹脂材料では、前記基材の具体例として、HIPS、PP、LDPE、HDPE、m-PPE、およびPMMAの中から選択されるポリオレフィン系樹脂を採用し、前記誘電発熱材の具体例として、互いに重合したポリオレフィン系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料であり、前記ポリエーテル部分に陽イオンを保持してなる樹脂材料を採用することができる。
【0091】
また、本開示の別態様に係る射出成形用樹脂材料では、前記基材の具体例として、ABS、PC/ABS、PC、POM、PA6、PA12、およびPA66の中から選択されるポリアミド系樹脂を採用し、前記誘電発熱材の具体例として、互いに重合したポリアミド系モノマーとポリエーテルモノマーとを有する樹脂材料であり、前記ポリエーテル部分に陽イオンを保持してなる樹脂材料を採用することができる。
【0092】
以上のように、本開示の技術では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B