(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】X線位相イメージング装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20220209BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01N23/041
A61B6/00 330Z
A61B6/00 300J
A61B6/00 350Z
(21)【出願番号】P 2020540020
(86)(22)【出願日】2018-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2018044352
(87)【国際公開番号】W WO2020044581
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018161043
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀場 日明
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036439(JP,A)
【文献】特開2013-231652(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置され、前記X線源からX線が照射される第1格子と、前記第1格子と前記検出器との間に配置され、前記第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、
前記格子、前記X線源、前記検出器、および、前記X線源と前記検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより前記検出器で検出された複数の前記X線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、前記複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、前記抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、
前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、前記抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように繰り返し変化させる
変化処理により、前記X線源から出力されるX線量の変化に起因する前記検出器で検出されるX線量のバラツキを補正する制御部と、を備える、X線位相イメージング装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記変化処理として、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさに対し
て前記X線量のバラツキを補正するための補正係数を乗算または除算することにより、
前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを変化させる、請求項1に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記変化処理として、前記補正係数を変化させることと、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさ
を、変化させた前記補正係数
により乗算または除算すること
とを、前記アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるまで繰り返すことにより、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを変化させる、請求項2に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記X線源から出力される前記X線量の出力値の変化率に基づいて、前記補正係数を設定するように構成されている、請求項3に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記複数の検出信号の全ての大きさを、前記抽出画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、前記X線源から出力されるX線量の変化に起因する前記検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている、請求項1に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさおよび前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された前記並進移動の対象の並進位置の両方を、前記アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、前記X線量のバラツキおよび前記並進移動に起因する前記並進移動の対象の並進位置の位置ずれの両方を補正するように構成されている、請求項1に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項7】
X線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置され、前記X線源からX線が照射される第1格子と、前記第1格子と前記検出器との間に配置され、前記第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、
前記格子、前記X線源、前記検出器、および、前記X線源と前記検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより前記検出器で検出された複数の前記X線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、前記複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、前記抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、
前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、前記抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させる
第1変化処理により、前記X線源から出力されるX線量の変化に起因する前記検出器で検出されるX線量のバラツキを補正する
か、または、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさおよび前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された前記並進移動の対象の並進位置の両方を、前記アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させる第2変化処理により、前記X線量のバラツキおよび前記並進移動に起因する前記並進移動の対象の並進位置の位置ずれの両方を補正する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1変化処理による補正を行う場合、
前記第1変化処理として、前記X線量のバラツキを補正するためのX線量補正係数を変化させることと、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、変化させた前記X線量補正係数により乗算、除算、加算または減算することとにより、前記アーチファクトの程度を所定の閾値以下にし、
前記X線量補正係数と前記アーチファクトの程度とに基づいて前記アーチファクトの程度が小さくなるように機械学習としての強化学習により学習させた前記X線量補正係数を変化させるためのX線量補正係数推定ルールに基づいて、前記X線量補正係数を変化させるように構成され、
前記第2変化処理による補正を行う場合、
前記第2変化処理として、前記X線量のバラツキを補正するための前記X線量補正係数を変化させること、および、前記並進移動に起因する前記並進移動の対象の並進位置の位置ずれを補正するための並進量補正係数を変化させることと、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、変化させた前記X線量補正係数により乗算、除算、加算または減算すること、および、前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された前記並進移動の対象の並進位置を、変化させた前記並進量補正係数により乗算、除算、加算または減算することとにより、前記アーチファクトの程度を所定の閾値以下にし、
前記X線量
補正係数および前記並進量補正係数
の少なくとも一方の補正係数と前記アーチファクトの程度とに基づいて前記アーチファクトの程度が小さくなるように機械学習としての強化学習により学習させた前記
少なくとも一方の補正係数を変化させるための推定ルールに基づいて、前記
少なくとも一方の補正係数を変化させるように構成されている、X線位相イメージング装置。
【請求項8】
X線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置され、前記X線源からX線が照射される第1格子と、前記第1格子と前記検出器との間に配置され、前記第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、
前記格子、前記X線源、前記検出器、および、前記X線源と前記検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより前記検出器で検出された複数の前記X線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、前記複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、前記抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、
前記複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、前記抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、前記X線源から出力されるX線量の変化に起因する前記検出器で検出されるX線量のバラツキを補正する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記抽出画像の複数の画素における画素値の標準偏差に基づいて
前記抽出画像における前記アーチファクトの程度を判断する
か、または、前記位相コントラスト画像の複数の画素における画素値の標準偏差に基づいて前記位相コントラスト画像における前記アーチファクトの程度を判断するように構成されている、X線位相イメージング装置。
【請求項9】
前記複数の格子は、前記X線源と前記第1格子との間に配置され、前記X線源から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子をさらに含む、請求項1に記載のX線位相イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相イメージング装置に関し、特に、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像を生成するX線位相イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像を生成するX線位相イメージング装置が知られている。このようなX線位相イメージング装置は、たとえば、国際公開2014/030115号に開示されている。
【0003】
国際公開2014/030115号には、X線源と、X線検出器と、X線源とX線検出器との間に配置される複数の格子(ソース格子、位相格子(第1格子)および分析器格子(第2格子))と、を備えたX線位相イメージング装置が開示されている。国際公開2014/030115号のX線位相イメージング装置では、ソース格子と、位相格子と、分析器格子とが、X線源側からX線検出器側に向かって、この順に並んで配置されている。国際公開2014/030115号のX線位相イメージング装置では、X線源から照射されソース格子を通過したX線が位相格子を通過することにより、位相格子から所定の距離だけ離れた位置に位相格子の自己像が形成される。そして、自己像と分析器格子とが干渉することにより生じた干渉縞(モアレ縞)をX線検出器で検出することが可能に構成されている。
【0004】
国際公開2014/030115号のX線位相イメージング装置では、複数の格子のうちの1つ(ソース格子)を所定の周期で並進移動(縞走査)させながらモアレ縞の変化をX線検出器で複数回検出(撮影)して、複数のX線画像を生成するように構成されている。国際公開2014/030115号のX線位相イメージング装置では、X線検出器で検出された複数のX線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、複数の取得画像のパラメータを抽出した抽出画像と、抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像が生成される。なお、吸収像は、被写体によるX線の吸収度合の差を画像化したX線画像である。位相微分像は、X線の位相のずれを画像化したX線画像である。暗視野像は、物体の小角散乱に基づくVisibility(鮮明度)の変化によって得られる、Visibility像のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、国際公開2014/030115号には記載されていないが、国際公開2014/030115号に記載のような従来のX線位相イメージング装置では、モアレ縞の変化をX線検出器で複数回撮影している間に、X線源から出力されるX線量(輝度)が変化する場合がある。この場合、縞走査による撮影を行う際に、取得画像の間においてX線の検出信号の大きさ(強度)にバラツキが生じることに起因して、複数の取得画像に基づいて生成された位相コントラスト画像にアーチファクト(虚像)が形成される場合がある。
【0007】
そこで、国際公開2014/030115号に記載のような従来のX線位相イメージング装置において、縞走査による撮影を行う際に、X線源の輝度を測定するための専用の輝度検出領域を設け、測定された輝度に基づいて、縞走査による複数の取得画像の間に生じる強度のバラツキを低減するように検出信号の大きさの補正を行うことが考えられる。しかしながら、上記の専用の輝度検出領域を設ける構成では、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができるものの、輝度検出領域を、被写体を撮影するための撮影領域とは別個に設ける必要があるので、撮影の有効領域が小さくなるという問題点がある。また、輝度検出領域に、格子やその他の構成部材、被写体等が写り込まないように構成する必要があるので、装置構成が複雑になるという問題点がある。
【0008】
また、国際公開2014/030115号に記載のような従来のX線位相イメージング装置において、縞走査による撮影を行う際に、X線源の輝度を測定するための輝度検出センサをX線検出器とは別個に設けることが考えられる。しかしながら、上記の輝度検出センサを設ける構成では、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができるものの、別途輝度検出センサを設ける分、装置構成が複雑になるという問題がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することが可能なX線位相イメージング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるX線位相イメージング装置は、X線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置され、X線源からX線が照射される第1格子と、第1格子と検出器との間に配置され、第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、格子、X線源、検出器、および、X線源と検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより検出器で検出された複数のX線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように繰り返し変化させる変化処理により、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正する制御部と、を備える。
【0011】
この発明の第1の局面によるX線位相イメージング装置では、上記のように、制御部は、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている。これにより、複数の検出信号間の大きさのバラツキを低減することができるので、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。また、X線源の輝度を測定するための専用の輝度検出領域を設けたり、X線源の輝度を測定するための輝度検出センサを別途設けることなく、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線量のバラツキを補正することができる。その結果、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面によるX線位相イメージング装置において、好ましくは、制御部は、変化処理として、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさに対してX線量のバラツキを補正するための補正係数を乗算または除算することにより、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを変化させる。このように構成すれば、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさに対して、補正係数を乗算または除算することにより、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを容易に変化させてX線量のバラツキを容易に補正することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、制御部は、変化処理として、補正係数を変化させることと、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、変化させた補正係数により乗算または除算することとを、アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるまで繰り返すことにより、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを変化させる。このように構成すれば、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさに対して、補正係数を変化させて繰り返し乗算または除算することにより、補正係数を変化させないで1種類の補正係数を乗算または除算する場合と比較して、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを幅広く変化させることができる。その結果、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように確実に変化させることができる。
【0014】
上記補正係数を変化させて繰り返し乗算または除算する構成において、好ましくは、制御部は、X線源から出力されるX線量の出力値の変化率に基づいて、補正係数を設定するように構成されている。このように構成すれば、X線量の出力値の変化率に基づいて、縞走査による撮影を行う際に、取得画像の間においてX線の検出信号の大きさが実際にバラつく範囲に応じて補正係数を変化させることができる。その結果、目安なく補正係数を変化させる場合と比較して、補正係数を変化させる範囲を適切に設定することができるので、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように迅速に変化させることができる。
【0015】
上記第1の局面によるX線位相イメージング装置において、好ましくは、制御部は、複数の検出信号の全ての大きさを、抽出画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている。このように構成すれば、複数の検出信号の全ての大きさを変化させることにより、複数の検出信号間の大きさのバラツキをより低減することができる。その結果、複数の検出信号のうちの一部の大きさを変化させる場合と比較して、位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのをより抑制することができる。
【0016】
上記第1の局面によるX線位相イメージング装置において、好ましくは、制御部は、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさおよび複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された並進移動の対象の並進位置の両方を、アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線量のバラツキおよび並進移動に起因する並進移動の対象の並進位置の位置ずれの両方を補正するように構成されている。ここで、X線位相イメージング装置では、格子の周期(格子ピッチ)が微細であるので、上記並進移動(縞走査)を精密に制御することは比較的難しいと考えられる。すなわち、並進移動に起因する並進移動の対象の並進位置の位置ずれによって、位相コントラスト画像にアーチファクトが生じる場合があると考えられる。したがって、上記のように構成すれば、X線量のバラツキおよび並進移動の対象の並進位置の位置ずれの両方を補正することができるので、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができるとともに、並進移動を精密に制御することが比較的難しいことに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。
【0017】
この発明の第2の局面におけるX線位相イメージング装置は、X線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置され、X線源からX線が照射される第1格子と、第1格子と検出器との間に配置され、第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、格子、X線源、検出器、および、X線源と検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより検出器で検出された複数のX線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させる第1変化処理により、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するか、または、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさおよび複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された並進移動の対象の並進位置の両方を、アーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させる第2変化処理により、X線量のバラツキおよび並進移動に起因する並進移動の対象の並進位置の位置ずれの両方を補正する制御部と、を備え、制御部は、第1変化処理による補正を行う場合、第1変化処理として、X線量のバラツキを補正するためのX線量補正係数を変化させることと、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、変化させたX線量補正係数により乗算、除算、加算または減算することとにより、アーチファクトの程度を所定の閾値以下にし、X線量補正係数とアーチファクトの程度とに基づいてアーチファクトの程度が小さくなるように機械学習としての強化学習により学習させたX線量補正係数を変化させるためのX線量補正係数推定ルールに基づいて、X線量補正係数を変化させるように構成され、第2変化処理による補正を行う場合、第2変化処理として、X線量のバラツキを補正するためのX線量補正係数を変化させること、および、並進移動に起因する並進移動の対象の並進位置の位置ずれを補正するための並進量補正係数を変化させることと、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、変化させたX線量補正係数により乗算、除算、加算または減算すること、および、複数の検出信号のうちの少なくとも1つが検出された並進移動の対象の並進位置を、変化させた並進量補正係数により乗算、除算、加算または減算することとにより、アーチファクトの程度を所定の閾値以下にし、X線量補正係数および並進量補正係数の少なくとも一方の補正係数とアーチファクトの程度とに基づいてアーチファクトの程度が小さくなるように機械学習としての強化学習により学習させた少なくとも一方の補正係数を変化させるための推定ルールに基づいて、少なくとも一方の補正係数を変化させるように構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面と同様に、制御部は、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている。これにより、複数の検出信号間の大きさのバラツキを低減することができるので、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。また、X線源の輝度を測定するための専用の輝度検出領域を設けたり、X線源の輝度を測定するための輝度検出センサを別途設けることなく、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線量のバラツキを補正することができる。その結果、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。また、補正係数を無作為に変化させる場合と比較して、強化学習により学習させた補正係数を変化させるための推定ルールに基づいて、アーチファクトの程度が小さくなるように効率的に補正係数を変化させることができる。
【0018】
この発明の第3の局面におけるX線位相イメージング装置は、X線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置され、X線源からX線が照射される第1格子と、第1格子と検出器との間に配置され、第1格子からのX線が照射される第2格子と、を含む複数の格子と、格子、X線源、検出器、および、X線源と検出器との間に配置される被写体のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動させる縞走査を行うことにより検出器で検出された複数のX線の検出信号のそれぞれに基づく複数の取得画像と、複数の取得画像からパラメータを抽出した抽出画像と、抽出画像に基づく、吸収像、位相微分像および暗視野像のうちの少なくとも1つを含む位相コントラスト画像と、を生成する画像処理部と、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正する制御部と、を備え、制御部は、抽出画像または位相コントラスト画像の複数の画素における画素値の標準偏差に基づいて抽出画像におけるアーチファクトの程度を判断するか、または、位相コントラスト画像の複数の画素における画素値の標準偏差に基づいて位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度を判断するように構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面と同様に、制御部は、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線源から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている。これにより、複数の検出信号間の大きさのバラツキを低減することができるので、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。また、X線源の輝度を測定するための専用の輝度検出領域を設けたり、X線源の輝度を測定するための輝度検出センサを別途設けることなく、複数の検出信号のうちの少なくとも1つの大きさを、抽出画像または位相コントラスト画像におけるアーチファクトの程度が所定の閾値以下になるように変化させることにより、X線量のバラツキを補正することができる。その結果、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。また、複数の画素における画素値の標準偏差(画素値のバラツキ具合)が、画像中の背景ノイズ(いずれの画像にも共通して存在するノイズ)程度になることにより、複数の画像の間の検出信号の大きさのバラツキが補正されたと見なすことができるので、複数の画素におけるアーチファクトの程度を容易に判断することができる。
【0019】
上記第1の局面によるX線位相イメージング装置において、好ましくは、複数の格子は、X線源と第1格子との間に配置され、X線源から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子をさらに含む。このように構成すれば、第3格子により、X線源の焦点径に依存することなく第1格子の自己像を形成させることができるので、X線源の選択の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記のように、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線源の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像にアーチファクトが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態によるX線位相イメージング装置の全体構成を示した図である。
【
図2】一実施形態によるX線位相イメージング装置の格子位置調整機構を説明するための図である。
【
図3】一実施形態によるX線位相イメージング装置における位相コントラスト画像の生成を説明するための図である。
【
図4】ステップカーブのパラメータを説明するための図である。
【
図5】X線管から出力されるX線量の変化に起因する検出器で検出されるX線量のバラツキを説明するための図である。
【
図6】X線量のバラツキに起因して位相コントラスト画像に生じるアーチファクトを説明するための図(A)および(B)である。
【
図7】X線量のバラツキの補正のフローチャートである。
【
図8】抽出画像におけるアーチファクトの程度を判断する方法を説明するための図である。
【
図9】X線位相イメージング装置の第1変形例における検出器で検出されるX線量のバラツキおよび並進移動に起因する格子の並進位置の位置ずれを説明するための図である。
【
図10】X線位相イメージング装置の第2変形例の全体構成を示したブロック図である。
【
図11】X線位相イメージング装置の第2変形例の機械学習部の構成を示したブロック図である。
【
図12】X線位相イメージング装置のその他の変形例の全体構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態によるX線位相イメージング装置100の構成について説明する。
【0024】
図1に示すように、X線位相イメージング装置100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、被写体Sの内部を画像化する装置である。X線位相イメージング装置100は、X線管11と、検出器12と、第1格子G1と、第2格子G2と、第3格子G3と、を含む複数の格子Gと、制御部13と、格子位置調整機構14と、被写体ステージ15と、を備えている。なお、X線管11は、特許請求の範囲の「X線源」の一例である。
【0025】
X線位相イメージング装置100では、X線管11と、第3格子G3と、第1格子G1と、第2格子G2と、検出器12とが、X線の照射軸方向(光軸方向、Z方向)に、この順に並んで配置されている。すなわち、第1格子G1、第2格子G2および第3格子G3は、X線管11と検出器12との間に配置されている。なお、本明細書では、X線管11から第1格子G1に向かう方向をZ2方向、その逆方向をZ1方向とする。また、複数の格子Gそれぞれの格子ピッチ(後述する)の方向をY方向とし、Z方向およびY方向と直交する方向をX方向とする。
【0026】
X線管11は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させることが可能なX線発生装置である。X線管11は、発生させたX線をZ2方向に照射するように構成されている。なお、X線位相イメージング装置100では、X線管11から発生(出力)されるX線量は、X線管11の仕様により、略±1%の範囲で変化する場合がある。
【0027】
検出器12は、X線管11から照射されたX線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換する。検出器12は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。検出器12は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)で、X方向およびY方向に並んで配置されている。検出器12の検出信号(画像信号)は、制御部13が備える画像処理部13a(後述する)に送られる。
【0028】
第1格子G1は、Y方向に所定の周期(格子ピッチ)d1で配列されるスリットG1aおよびX線位相変化部G1bを有している。各スリットG1aおよびX線位相変化部G1bは、X方向に直線状に延びるように形成されている。第1格子G1は、いわゆる位相格子である。第1格子G1は、X線管11と第2格子G2との間に配置されており、X線管11から照射されたX線により(タルボ効果によって)自己像を形成するために設けられている。なお、タルボ効果は、可干渉性を有するX線が、スリットG1aが形成された第1格子G1を通過すると、第1格子G1から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、第1格子G1の像(自己像)が形成されることを意味する。
【0029】
第2格子G2は、Y方向に所定の周期(格子ピッチ)d2で配列される複数のX線透過部G2aおよびX線吸収部G2bを有している。各X線透過部G2aおよびX線吸収部G2bは、X方向に直線状に延びるように形成されている。第2格子G2は、いわゆる、吸収格子である。第2格子G2は、第1格子G1と検出器12との間に配置されており、第1格子G1により形成された自己像に干渉するように構成されている。第2格子G2は、自己像と第2格子G2とを干渉させるために、第1格子G1からタルボ距離だけ離れた位置に配置されている。すなわち、X線位相イメージング装置100では、自己像と第2格子G2とが干渉することにより生成された干渉縞(モアレ縞)が、X線として検出器12で検出される。
【0030】
第3格子G3は、所定の周期(ピッチ)d3で配列される複数のスリットG3aおよびX線吸収部G3bを有している。各スリットG3aおよびX線吸収部G3bはそれぞれ、X方向に直線状に延びるように形成されている。第3格子G3は、X線管11と第1格子G1との間に配置されており、X線管11からX線が照射される。第3格子G3は、各スリットG3aを通過したX線を、各スリットG3aの位置に対応する線光源とするように構成されている。すなわち、第3格子G3は、X線管11から照射されたX線の可干渉性を高めるために設けられている。
【0031】
制御部13は、画像を生成可能な画像処理部13aを備えている。また、制御部13は、格子位置調整機構14および被写体ステージ15の動作を制御するように構成されている。制御部13は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含む。
【0032】
画像処理部13aは、検出器12から送られた検出信号に基づいて、位相コントラスト画像40(
図3参照)等の画像を生成するように構成されている。画像処理部13aは、たとえば、GPU(Graphics Processing Unit)や画像処理用に構成されたFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサを含む。なお、画像処理部13aによる位相コントラスト画像40(
図3参照)の生成の詳細は後述する。
【0033】
図2に示すように、格子位置調整機構14は、第1格子G1を、X方向、Y方向、Z方向、Z方向の軸線周りの回転方向Rz、X方向の軸線周りの回転方向Rx、および、Y方向の軸線周りの回転方向Ryに移動可能に構成されている。格子位置調整機構14は、X方向直動機構14aと、Z方向直動機構14bと、Y方向直動機構14cと、直動機構接続部14dと、ステージ支持部駆動部14eと、ステージ支持部14fと、ステージ駆動部14gと、ステージ14hと、を含む。
【0034】
X方向直動機構14a、Z方向直動機構14bおよびY方向直動機構14cは、それぞれ、X方向、Z方向およびY方向に移動可能に構成されている。X方向直動機構14a、Z方向直動機構14bおよびY方向直動機構14cは、たとえば、ステッピングモータなどを含む。格子位置調整機構14は、X方向直動機構14a、Z方向直動機構14bおよびY方向直動機構14cの動作により、それぞれ、第1格子G1を、X方向、Z方向およびY方向に移動させるように構成されている。
【0035】
ステージ支持部14fは、第1格子G1を載置(または保持)させるためのステージ14hをZ2方向から支持している。ステージ駆動部14gは、ステージ14hをX方向に往復移動させるように構成されている。ステージ14hは、底部がステージ支持部14fに向けて凸曲面状に形成されており、X方向に往復移動されることにより、Y方向の軸線周り(Ry方向)に回動するように構成されている。また、ステージ支持部駆動部14eは、ステージ支持部14fをY方向に往復移動させるように構成されている。また、直動機構接続部14dは、Z方向の軸線周り(Rz方向)に回動可能にX方向直動機構14aに設けられている。また、ステージ支持部14fは底部が直動機構接続部14dに向けて凸曲面状に形成されており、Y方向に往復移動されることにより、X方向の軸線周り(Rx方向)に回動するように構成されている。なお、格子位置調整機構14は、たとえば、チャック機構やハンド機構等の第1格子G1を保持するための機構を有していてもよい。
【0036】
図1に示すように、被写体ステージ15は、被写体Sを載置させるための載置面(図示しない)を有する。被写体ステージ15は、制御部13の制御により、被写体Sを載置面に載置させた状態で、X方向およびY方向に移動可能に構成されている。被写体ステージ15は、たとえば、X-Yステージにより構成されている。なお、被写体ステージ15は、たとえば、チャック機構やハンド機構等の被写体Sを保持するための機構を有していてもよい。
【0037】
(位相コントラスト画像の生成)
次に、
図1および
図3を参照しながら、画像処理部13aによる位相コントラスト画像40の生成について詳細に説明する。
【0038】
図1に示すように、位相コントラスト画像40(
図3参照)とは、複数の格子Gのいずれか、X線管11、被写体Sおよび検出器12のうちの少なくとも1つを、所定の周期で並進移動(ステップ)させる縞走査を行うことにより、検出器12で検出された取得画像20(
図3参照)に基づいて生成される画像である。なお、X線位相イメージング装置100では、位相コントラスト画像40(
図3参照)を生成するために、格子位置調整機構14のY方向直動機構14c(
図2参照)の動作により、第1格子G1を、並進移動の対象として、縞走査を行うように構成されている。
【0039】
詳細には、
図3に示すように、画像処理部13aは、縞走査を行うことにより検出器12で検出された、複数のX線の検出信号のそれぞれに基づく、複数の取得画像20を生成するように構成されている。X線位相イメージング装置100では、取得画像20として、AIR取得画像21と、SAMPLE取得画像22と、が生成される。AIR取得画像21は、X線管11と検出器12との間に被写体Sを配置しない状態で検出器12により検出された検出信号を画像化した画像である。SAMPLE取得画像22は、X線管11と検出器12との間に被写体Sを配置した状態で検出器12により検出された検出信号を画像化した画像である。
【0040】
また、画像処理部13aは、複数の取得画像20からパラメータを抽出した抽出画像30を生成するように構成されている。X線位相イメージング装置100では、抽出画像30として、AIR抽出画像31と、SAMPLE抽出画像32と、が生成される。AIR抽出画像31およびSAMPLE抽出画像32は、それぞれ、複数のAIR取得画像21のパラメータおよび複数のSAMPLE取得画像22からパラメータを抽出した画像である。
【0041】
また、画像処理部13aは、AIR抽出画像31とSAMPLE抽出画像32とに基づいて、位相コントラスト画像40を生成するように構成されている。位相コントラスト画像40は、吸収像40aと、位相微分像40bと、暗視野像40cと、を含む。吸収像40aは、被写体SによるX線の吸収度合の差を画像化したX線画像である。位相微分像40bは、X線の位相P(
図4参照)のずれを画像化したX線画像である。暗視野像40cは、物体の小角散乱に基づくVisibility(鮮明度)の変化によって得られる、Visibility像のことである。また、暗視野像40cは、小角散乱像とも呼ばれる。
【0042】
具体的には、
図1に示すように、X線管11と検出器12との間に被写体Sを配置しない状態で、格子位置調整機構14により、第1格子G1を格子ピッチの方向(Y方向)に所定の周期で縞走査させながら、格子G(第1格子G1)の複数の並進量の点X(
図4参照)でX線を検出する。そして、
図3に示すように、画像処理部13aは、検出器12で検出された検出信号の大きさ(強度)Y(
図4参照)に基づいて、検出信号の大きさ(強度)Y(
図4参照)の異なる複数のAIR取得画像21を生成する。また、
図1に示すように、X線管11と検出器12との間に被写体Sを配置した状態で、格子位置調整機構14により、第1格子G1を格子ピッチの方向(Y方向)に所定の周期で縞走査させながら、格子G(第1格子G1)の複数の並進量の点X(
図4参照)でX線を検出する。そして、
図3に示すように、画像処理部13aは、検出器12で検出された検出信号の大きさ(強度)Y(
図4参照)に基づいて、検出信号の大きさ(強度)Y(
図4参照)の異なる複数のSAMPLE取得画像22を生成する。なお、
図3では、AIR取得画像21およびSAMPLE取得画像22を、それぞれ、4つずつ生成した例を示している。
【0043】
次に、
図4に示すように、画像処理部13aは、複数のAIR取得画像21に対して、各画素PX(
図3参照)毎に、検出信号の大きさ(強度)Yを正弦関数でフィッテングした信号強度変化曲線(ステップカーブ)51を取得する。そして、画像処理部13aは、ステップカーブ51から取得した3種類のパラメータ(平均値C、位相Pおよび振幅A)を抽出する。そして、
図3に示すように、平均値C、位相Pおよび振幅Aを、それぞれ、AIR抽出画像31a、31bおよび31cとして生成する。また、
図4に示すように、画像処理部13aは、複数のSAMPLE取得画像22に対して、各画素PX(
図3参照)毎に、検出信号の大きさ(強度)Yを正弦関数でフィッテングした信号強度変化曲線(ステップカーブ)52を取得する。そして、画像処理部13aは、ステップカーブ52から取得した3種類のパラメータ(平均値C、位相Pおよび振幅A)を抽出する。そして、
図3に示すように、平均値C、位相Pおよび振幅Aを、それぞれ、SAMPLE抽出画像32a、32bおよび32cとして生成する。なお、
図4では、ステップカーブ52の3種類のパラメータの図示を省略している。
【0044】
次に、画像処理部13aは、各画素PX毎に、平均値C(SAMPLE)/平均値C(AIR)を計算することにより、吸収像40aを生成する。また、画像処理部13aは、各画素PX毎に、位相P(SAMPLE)-位相P(AIR)を計算することにより、位相微分像40bを生成する。また、各画素PX毎に、(振幅A(SAMPLE)/平均値C(SAMPLE))/(振幅A(AIR)/平均値C(AIR))を計算することにより、暗視野像40cを生成する。なお、平均値C(AIR)、位相P(AIR)、振幅A(AIR)は、それぞれ、AIR抽出画像31a、31bおよび31cのパラメータである。また、平均値C(SAMPLE)、位相P(SAMPLE)および振幅A(SAMPLE)は、それぞれ、SAMPLE抽出画像32a、32bおよび32cのパラメータである。
【0045】
(X線量のバラツキの補正)
次に、
図5~
図8を参照しながら、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキの補正について説明する。
【0046】
上述したように、X線管11から発生(出力)されるX線量は、X線管11の仕様により変化する場合がある。したがって、
図5に示すように、X線管11から出力されるX線量の変化に起因して、縞走査を行うことにより撮影された格子Gの複数の並進量の点X(X1、X2、X3およびX4)において、検出器12で検出されたX線量にバラツキ(X線量が変化した場合の、X線量が変化しない場合に対する誤差)が生じる場合がある。なお、
図5では、X線量のバラツキにより、検出信号の大きさ(強度)Yが、X線量がバラついていない場合のステップカーブ50上の位置からずれた様子を示している。すなわち、X線量がバラついていない場合は、格子Gの並進量の点X1、X2、X3およびX4において、それぞれ、検出信号の大きさ(強度)Yがステップカーブ50上のY1、Y2、Y3およびY4となる。これに対して、X線量がバラついている場合は、検出信号の大きさ(強度)Yが、ステップカーブ50上からずれたY1a、Y2a、Y3aおよびY4aとなる。このように、X線量がバラついていないステップカーブ50上からずれた検出信号の大きさ(強度)Y1a、Y2a、Y3aおよびY4aから取得したステップカーブに基づいて位相コントラスト画像40を生成した場合、
図6(B)に示すように、位相コントラスト画像40上に意図しないアーチファクトAFが生じる。
【0047】
そこで、本実施形態では、制御部13は、複数の検出信号の全ての大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定のDth以下になるように変化させることにより、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成されている。詳細には、制御部13は、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、補正係数KY(KY1、KY2、KY3およびKY4)を変化させて繰り返し除算することにより、X線量のバラツキを補正するように構成されている。また、制御部13は、抽出画像30の複数の画素PXにおける画素値の標準偏差に基づいて、アーチファクトAFの程度Dを判断するように構成されている。
【0048】
具体的には、
図7に示すように、まず、制御部13は、検出信号の大きさ(強度)Y1a、Y2a、Y3aおよびY4aを、それぞれ、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4により除算する。すなわち、制御部13は、検出信号の大きさ(強度)Yを変化させるための係数として補正係数Kを設定する(
図7のステップ101)。補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4は、互いに等しい値でもよいし、互いに異なる値でもよい。補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4で除算された検出信号の大きさ(強度)Yは、それぞれ、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4となる。
【0049】
次に、制御部13は、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4を(所定の範囲内で)無作為に変化させる(
図7のステップ102)。補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4が変化することにより、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4の値は、変化する。なお、本実施形態では、制御部13は、X線管11から出力されるX線量の出力値の変化率(略±1%の範囲)に基づいて、補正係数KYを設定するように構成されている。すなわち、制御部13は、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4を、略0.99以上略1.01以下の範囲内で設定する。X線管11から出力されるX線量の出力値の変化率は、たとえば、X線管11の仕様に基づいて、ユーザによる入力により制御部13が取得する。
【0050】
次に、制御部13は、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4の値からステップカーブ50を取得する。そして、制御部13は、取得したステップカーブ50に基づいて抽出画像30(
図3参照)を生成する(
図7のステップ103)。
【0051】
次に、制御部13は、抽出画像30において、任意の画素列PLにおけるラインプロファイル(画素列PL上の画素値の変化)を取得する。そして、制御部13は、アーチファクトAFの程度Dとして、ラインプロファイルに含まれる画素値のバラツキ具合(標準偏差)を算出する(
図7のステップ104)。なお、ラインプロファイルを取得する画素列PLは、画像(抽出画像30)中のいずれの列でもよいが、被写体Sが写り込んでいない部分(被写体Sの空間情報がない部分)の方が好ましい。
【0052】
次に、制御部13は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差を、予め設定された所定の閾値D
thと比較する(
図7のステップ105)。なお、所定の閾値D
thは、たとえば、画像(抽出画像30)中の背景ノイズの標準偏差である。そして、制御部13は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差が、所定の閾値D
thよりも大きいと判断した場合は、所定の閾値D
thよりも小さくなるまで、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4を変化させながらフロー(
図7のステップ102~ステップ105のフロー)を繰り返す。
【0053】
制御部13は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差が、所定の閾値D
thよりも小さいと判断した場合は、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキの補正を終了する。このとき、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4の値は、それぞれ、X線量がバラついていない場合のステップカーブ50上の検出信号の大きさ(強度)Y1、Y2、Y3およびY4と略等しくなる。したがって、
図5に示すX線量がバラついていない場合のステップカーブ50に基づいて、
図6(A)に示すアーチファクトAFが除去された位相コントラスト画像40が生成される。
【0054】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
本実施形態では、上記のように、制御部13を、複数の検出信号の全ての大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定のDth以下になるように変化させることにより、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキを補正するように構成する。これにより、複数の検出信号間の大きさYのバラツキを低減することができる。また、複数の検出信号の全ての大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させることにより、X線管11の輝度を測定するための専用の輝度検出領域を設けたり、X線管11の輝度を測定するための輝度検出センサを別途設けることなく、X線量のバラツキを補正することができる。その結果、撮影の有効領域が小さくなるのを抑制するとともに、装置構成が複雑になるのを抑制しながら、縞走査による撮影を行う際にX線管11の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像40にアーチファクトAFが生じるのを抑制することができる。また、複数の検出信号の全ての大きさYを変化させるので、複数の検出信号のうちの一部の大きさYを変化させる場合と比較して、位相コントラスト画像40にアーチファクトAFが生じるのをより抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、制御部13を、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、X線量のバラツキを補正するための補正係数KYを除算することにより、X線量のバラツキを補正するように構成する。これにより、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、補正係数KYを除算することにより、複数の検出信号の全ての大きさYを容易に変化させてX線量のバラツキを容易に補正することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、制御部13を、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、補正係数KYを変化させて繰り返し除算することにより、X線量のバラツキを補正するように構成する。これにより、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、補正係数KYを変化させて繰り返し除算することにより、補正係数KYを変化させないで1種類の補正係数KYを除算する場合と比較して、複数の検出信号の全ての大きさYを幅広く変化させることができる。その結果、複数の検出信号の全ての大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように確実に変化させることができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、制御部13を、X線管11から出力されるX線量の出力値の変化率に基づいて、補正係数KYを設定するように構成する。これにより、X線量の出力値の変化率に基づいて、縞走査による撮影を行う際に、取得画像20の間においてX線の検出信号の大きさYが実際にバラつく範囲に応じて補正係数KYを変化させることができる。その結果、目安なく補正係数KYを変化させる場合と比較して、補正係数KYを変化させる範囲を限定することができるので、複数の検出信号の全ての大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように迅速に変化させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記のように、制御部13を、抽出画像30の複数の画素PXにおける画素値の標準偏差に基づいて、アーチファクトAFの程度Dを判断するように構成する。これにより、複数の画素PXにおける画素値の標準偏差(画素値のバラツキ具合)が、画像中の背景ノイズ(いずれの画像にも共通して存在するノイズ)程度になることにより、複数の画像の間の検出信号の大きさYのバラツキが補正されたと見なすことができるので、複数の画素PXにおけるアーチファクトAFの程度Dを容易に判断することができる。
【0060】
また、本実施形態では、上記のように、複数の格子Gは、X線管11と第1格子G1との間に配置され、X線管11から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子G3を含む。これにより、第3格子G3により、X線管11の焦点径に依存することなく第1格子G1の自己像を形成させることができるので、X線管11の選択の自由度を向上させることができる。
【0061】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0062】
<第1変形例>
たとえば、上記実施形態では、制御部13を、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキの補正を行うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図1に示す第1変形例によるX線位相イメージング装置200のように、制御部213を、X線量のバラツキに加えて、並進移動に起因する格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)の位置ずれを補正するように構成してもよい。
【0063】
ここで、上述したように、上記実施形態のX線位相イメージング装置100では、位相コントラスト画像40を生成するために、格子位置調整機構14により、格子G(第1格子G1)を縞走査させるように構成されている。しかしながら、格子Gの周期(格子ピッチ)が微細(μmオーダー)であるので、格子Gの並進移動(縞走査)を精密に制御することは比較的難しいと考えられる。したがって、
図9に示すように格子Gの並進移動に起因して、格子Gの並進位置に位置ずれ(格子Gの並進位置が位置ずれした場合の、格子Gの並進位置が位置ずれしていない場合に対する誤差)が生じる場合がある。なお、
図9では、X線量のバラツキによる検出信号の大きさ(強度)Yのステップカーブ上の位置からのずれに加えて、格子Gの並進位置の位置ずれにより、格子Gの並進量の点Xが、格子Gの並進位置が位置ずれしていない場合のステップカーブ50上の位置からずれた様子を示している。すなわち、格子Gの並進位置が位置ずれしていない場合は、格子Gの並進量の点XがX1、X2、X3およびX4になるのに対して、格子Gの並進位置が位置ずれしている場合は、格子Gの並進量の点Xが、ステップカーブ50上からずれたX1a、X2a、X3aおよびX4aとなる。
【0064】
そこで、第1変形例では、制御部213(
図1参照)は、複数の検出信号の全ての大きさY、および、複数の検出信号が取得された全ての格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)を、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定のD
th以下になるように変化させることにより、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキ、および、並進移動に起因する格子Gの並進位置の位置ずれを補正するように構成されている。詳細には、制御部213は、複数の検出信号の全ての大きさYに対して、補正係数KY(KY1、KY2、KY3およびKY4)を変化させて繰り返し除算することにより、X線量のバラツキを補正するとともに、複数の検出信号が取得された全ての格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)に対して、補正係数KX(KX1、KX2、KX3およびKX4)を変化させて繰り返し加算することにより、格子Gの並進位置の位置ずれを補正するように構成されている。
【0065】
具体的には、
図7に示すように、まず、制御部213は、検出信号の大きさ(強度)Y1a、Y2a、Y3aおよびY4aを、それぞれ、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4により除算する。また、制御部213は、X1a、X2a、X3aおよびX4aに、それぞれ、補正係数KX1、KX2、KX3およびKX4を加算する。すなわち、制御部313は、検出信号の大きさ(強度)Yおよび格子Gの並進量の点Xを変化させるための係数として補正係数KY、KXを設定する(
図7のステップ201)。補正係数KY1、KY2、KY3、KY4、KX1、KX2、KX3およびKX4は、互いに等しい値でもよいし、互いに異なる値でもよい。補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4で除算された検出信号の大きさ(強度)Yは、それぞれ、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4となる。また、補正係数KX5、KX6、KX7およびKX8が加算された格子Gの並進量の点Xは、それぞれ、X1a+KX1、X2a+KX2、X3a+KX3およびX4a+KX4となる。
【0066】
次に、制御部213は、補正係数KY1、KY2、KY3、KY4、KX1、KX2、KX3およびKX4を変化させる(
図7のステップ202)。補正係数KY1、KY2、KY3、KY4、KX1、KX2、KX3およびKX4が変化することにより、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3、Y4a/KY4、X1a+KX1、X2a+KX2、X3a+KX3およびX4a+KX4の値は、変化する。制御部213は、補正係数KX1、KX2、KX3およびKX4を、たとえば、格子Gの周期(格子ピッチ)の大きさに基づいて設定する。
【0067】
次に、制御部213は、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3、Y4a/KY4、X1a+KX1、X2a+KX2、X3a+KX3およびX4a+KX4の値からステップカーブ50を取得する。そして、制御部213(画像処理部213a(
図1参照))は、取得したステップカーブ50に基づいて抽出画像30(
図3参照)を生成する(
図7のステップ203)。
【0068】
次に、制御部213は、抽出画像30において、任意の画素列PLにおけるラインプロファイル(画素列PL上の画素値の変化)を取得する。そして、制御部213は、アーチファクトAFの程度Dとして、ラインプロファイルに含まれる画素値のバラツキ具合(標準偏差)を算出する(
図7のステップ204)。
【0069】
次に、制御部213は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差を、予め設定された所定の閾値D
thと比較する(
図7のステップ205)。そして、制御部213は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差が、所定の閾値D
thよりも大きいと判断した場合は、所定の閾値D
thよりも小さくなるまで、補正係数KY1、KY2、KY3、KY4、KX1、KX2、KX3およびKX4を変化させながらフロー(
図7のステップ202~ステップ205のフロー)を繰り返す。
【0070】
制御部213は、算出したラインプロファイルにおける標準偏差が、所定の閾値D
thよりも小さいと判断した場合は、X線管11から出力されるX線量の変化に起因する検出器12で検出されるX線量のバラツキおよび並進移動に起因する格子Gの並進位置の位置ずれの補正を終了する。このとき、Y1a/KY1、Y2a/KY2、Y3a/KY3およびY4a/KY4の値は、それぞれ、X線量がバラついていない場合のステップカーブ50上の検出信号の大きさ(強度)Y1、Y2、Y3およびY4と略等しくなる。また、X1a+KX1、X2a+KX2、X3a+KX3およびX4a+KX4の値は、それぞれ、格子Gの並進位置が位置ずれしていない場合のステップカーブ50上の格子Gの並進量の点X1、X2、X3およびX4と略等しくなる。したがって、
図9に示すX線量がバラついていない、かつ、格子Gの並進位置が位置ずれしていない場合のステップカーブ50に基づいて、
図6(A)に示すアーチファクトAFが除去された位相コントラスト画像40が生成される。
【0071】
なお、第1変形例のその他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0072】
(第1変形例の効果)
第1変形例では、上記のように、制御部213を、複数の検出信号の全ての大きさYおよび複数の検出信号が検出された全ての格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)の両方を、アーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させることにより、X線量のバラツキおよび並進移動に起因する格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)の位置ずれの両方を補正するように構成する。これにより、X線量のバラツキおよび格子Gの並進位置(格子Gの並進量の点X)の位置ずれの両方を補正することができるので、縞走査による撮影を行う際にX線管11の輝度が変化することに起因して位相コントラスト画像40にアーチファクトAFが生じるのを抑制することができるとともに、格子Gの並進移動を精密に制御することが比較的難しいことに起因して位相コントラスト画像40にアーチファクトAFが生じるのを抑制することができる。
【0073】
なお、第1変形例のその他の効果は、上記実施形態と同様である。
【0074】
<第2変形例>
また、上記実施形態および第1変形例では、制御部13を、補正係数Kを(所定の範囲内で)無作為に変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図10に示す第2変形例よるX線位相イメージング装置300のように、制御部313を、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数KY、KXを変化させるための推定ルールRに基づいて、補正係数KY、KXを変化させるように構成してもよい。
【0075】
図10に示すように、X線位相イメージング装置300は、制御部313を備えている。
【0076】
第2変形例では、制御部313は、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数Kを変化させるための推定ルールRに基づいて、補正係数KY、KXを変化させるように構成されている(
図7のステップ302)。推定ルールRは、補正係数KY、KXとアーチファクトAFの程度Dとに基づいて、アーチファクトAFの程度Dが小さくなるように機械学習としての強化学習により学習される。
【0077】
具体的には、
図10に示すように、制御部313は、機械学習部60を備えている。機械学習部60は、いわゆる強化学習を行う機能を有する。X線位相イメージング装置300では、ユーザにより学習モードが選択されると、機械学習部60による強化学習が行われるように構成されている。ここで、強化学習とは、機械学習の一種であり、解決すべき課題に対し、より正しい結果を得るため、試行錯誤を通じて自ら得られる報酬が最大化するよう学習を進めることをいう。
【0078】
図11に示すように、機械学習部60は、物理量取得部61と、状態観測部62と、報酬算出部63と、報酬更新部64と、意思決定部65と、を含む。
【0079】
物理量取得部61は、画像処理部13aで抽出画像30が生成された場合に、画像処理部13aから、抽出画像30を取得するように構成されている。なお、物理量取得部61が抽出画像30を取得する1回目では、任意の補正係数KY、KXが設定されているものとする。また、物理量取得部61が抽出画像30のデータを取得する2回目以降では、意思決定部65により変化された補正係数Kが設定されているものとする。
【0080】
状態観測部62は、物理量取得部61が取得した抽出画像30に基づいて、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dを算出するように構成されている。
【0081】
報酬算出部63は、アーチファクトAFの程度Dが低い程、報酬の値が高くなるように報酬の値を算出するように構成されている。すなわち、X線位相イメージング装置300では、アーチファクトAFの程度Dと報酬の値との相関関係が、予め設定されている。
【0082】
報酬更新部64は、報酬算出部63により算出された報酬の値に基づいて、機械学習部60の内部パラメータを更新するように構成されている。なお、X線位相イメージング装置300では、内部パラメータは、最も多くの報酬が得られるように、補正係数KY、KXを変化させる推定ルールRを決定するためのパラメータである。
【0083】
意思決定部65は、報酬更新部64により更新された内部パラメータから決定される推定ルールRに基づいて、補正係数KY、KXを変化させ、変化させた補正係数KY、KXに基づいて、画像処理部13aに抽出画像30を生成させるように構成されている。
【0084】
制御部313では、画像処理部13aおよび機械学習部60の動作が繰り返されることにより、補正係数Kを変化させる推定ルールRが、アーチファクトAFの程度Dが小さくなるように補正係数KY、KXを効率よく変化させることが可能なように強化学習されていく。すなわち、強化学習された推定ルールRを用いると、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値D
th以下になるまでの補正係数KY、KXを変化させる回数(
図7のステップS302~S205のフローの繰り返し回数)を低減することが可能である。これにより、X線位相イメージング装置300では、強化学習された推定ルールRに基づいて、補正係数KY、KXを変化させることにより、無作為に補正係数Kを変化させる場合と比較して、X線量のバラツキおよび格子Gの並進位置の位置ずれの補正に要する工程(時間)を短縮化することが可能である。
【0085】
なお、第2変形例のその他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0086】
(第2変形例の効果)
第2変形例では、上記のように、制御部313を、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数KY、KXを変化させるための推定ルールRに基づいて、(X線量のバラツキを補正するための)補正係数KYおよび(並進移動に起因する格子Gの並進位置の位置ずれを補正するための)補正係数KXを変化させるように構成する。推定ルールRは、補正係数KY、KXとアーチファクトAFの程度Dとに基づいて、アーチファクトAFの程度Dが小さくなるように機械学習としての強化学習により学習させる。これにより、補正係数KY、KXを無作為に変化させる場合と比較して、強化学習により学習させた補正係数KY、KXを変化させるための推定ルールRに基づいて、アーチファクトAFの程度Dが小さくなるように効率的に補正係数KY、KXを変化させることができる。
【0087】
なお、第2変形例のその他の効果は、上記実施形態と同様である。
【0088】
<その他の変形例>
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、アーチファクトAFの程度Dとして、ラインプロファイル(画素列PL上の画素値の変化)に含まれる画素値のバラツキ具合(標準偏差)を算出するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、アーチファクトAFの程度Dとして、たとえば、(m×n)個からなる画素領域に含まれる画素値のバラツキ具合(標準偏差)等、ラインプロファイルに含まれる画素値のバラツキ具合(標準偏差)以外の値を算出するように構成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、抽出画像30の複数の画素PXにおける画素値の標準偏差に基づいて、アーチファクトAFの程度Dを判断するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、位相コントラスト画像40の複数の画素PXにおける画素値の標準偏差に基づいて、アーチファクトAFの程度Dを判断するように構成してもよい。また、アーチファクトAFの程度Dと相関のある数値であれば、制御部を、複数の画素PXにおける画素値の標準偏差以外の数値に基づいて、アーチファクトAFの程度Dを判断するように構成してもよい。
【0090】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、X線管11から出力されるX線量の出力値の変化率に基づいて、補正係数KYを設定するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、上記変化率に基づかずに、補正係数KYを設定するように構成してもよい。
【0091】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、検出信号の大きさYに対して、補正係数KYを変化させて繰り返し除算するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、検出信号の大きさYに対して、補正係数KYを1回のみ除算するように構成してもよい。
【0092】
また、上記第1変形例および第2変形例では、制御部213(313)を、格子Gの並進位置に対して、補正係数KXを変化させて繰り返し加算するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、格子Gの並進位置に対して、補正係数KXを1回のみ加算するように構成してもよい。
【0093】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、検出信号の大きさYに対して、補正係数KYを除算するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、検出信号の大きさYに対して、補正係数KYを乗算するように構成してもよいし、補正係数KYを加算するように構成してもよいし、補正係数KYを減算するように構成してもよい。
【0094】
また、上記第1変形例および第2変形例では、制御部213(313)を、格子Gの並進位置に対して、補正係数KXを加算するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、格子Gの並進位置に対して、補正係数KXを減算するように構成してもよいし、補正係数KXを乗算するように構成してもよいし、補正係数KXを除算するように構成してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、制御部13を、検出信号の大きさYを、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、検出信号の大きさYを、位相コントラスト画像40におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成してもよい。
【0096】
また、上記第1変形例および第2変形例では、制御部213(313)を、検出信号の大きさYおよび格子Gの並進位置を、抽出画像30におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、検出信号の大きさYおよび格子Gの並進位置を、位相コントラスト画像40におけるアーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成してもよい。
【0097】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、制御部13(213、313)を、複数の検出信号の全ての大きさYを変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、複数の検出信号のうちの1つの大きさYを変化させるように構成してもよいし、複数の検出信号のうちの2つ以上の幾つかの大きさYを変化させるように構成してもよい。
【0098】
また、上記第1変形例および第2変形例では、制御部213(313)を、複数の検出信号が取得された全ての格子Gの並進位置を変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、複数の検出信号が取得された格子Gのうちの1つの格子Gの並進位置を変化させるように構成してもよいし、複数の検出信号が取得された格子Gのうちの2つ以上の幾つかの格子Gの並進位置を変化させるように構成してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、X線量のバラツキを補正するアルゴリズムとして、補正係数KY1、KY2、KY3およびKY4を(所定の範囲内で)無作為に変化させることにより、複数の検出信号の大きさYを、アーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、共役勾配法等の最適化手法により、複数の検出信号の大きさYを、アーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成してもよい。
【0100】
また、上記第1変形例では、X線量のバラツキおよび格子Gの並進位置を補正するアルゴリズムとして、補正係数KY1、KY2、KY3、KY4、KX1、KX2、KX3およびKX4を(所定の範囲内で)無作為に変化させることにより、複数の検出信号の大きさYおよび格子Gの並進位置を、アーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、共役勾配法等の最適化手法により、複数の検出信号の大きさYおよび格子Gの並進位置を、アーチファクトAFの程度Dが所定の閾値Dth以下になるように変化させるように構成してもよい。
【0101】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、第1格子G1を、並進移動の対象として、縞走査を行うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。第2格子G2、第3格子G3、X線管11、検出器12および被写体Sのうちのいずれか1つを、並進移動の対象として、縞走査を行うように構成してもよい。また、本発明では、第1格子G1、第2格子G2、第3格子G3、X線管11、検出器12および被写体Sのうちの複数を、並進移動の対象として、縞走査を行うように構成してもよい。
【0102】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、複数の格子Gは、X線管11と第1格子G1との間に配置され、X線管11から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子G3を含むように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第3格子G3を含まないように構成してもよい。
【0103】
また、上記実施形態、第1変形例および第2変形例では、タルボ効果による自己像を形成するために、第1格子G1を位相格子とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、自己像は縞模様であればよいので、位相格子の代わりに吸収格子を用いてもよい。吸収格子を用いると、距離などの光学条件により単純に縞模様が発生する領域(非干渉計)と、タルボ効果による自己像が生じる領域(干渉計)とが生じる。
【0104】
また、上記第2変形例では、制御部313を、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数KY、KXを変化させるための推定ルールRに基づいて、(X線量のバラツキを補正するための)補正係数KYおよび(並進移動に起因する格子Gの並進位置の位置ずれを補正するための)補正係数KXを変化させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数KYを変化させるための推定ルールRに基づいて、(X線量のバラツキを補正するための)補正係数KYのみを変化させるように構成してもよいし、機械学習としての強化学習により学習させた補正係数KXを変化させるための推定ルールRに基づいて、(格子Gの並進位置の位置ずれを補正するための)補正係数KXのみを変化させるように構成してもよい。
【0105】
また、上記第2変形例では、X線位相イメージング装置300自身が、推定ルールRを強化学習させる機械学習部60を備えた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図12に示すX線位相イメージング装置400のように、X線位相イメージング装置400の外部から推定ルールRを取得するように構成してもよい。
図12に示すように、X線位相イメージング装置400は、制御部413を備えている。制御部413は、X線位相イメージング装置400の外部から推定ルールRを取得する推定ルール取得部13bを含む。推定ルールRは、たとえば、直接またはネットワークを介して接続された(機械学習部を備えた)他のX線位相イメージング装置、(推定ルールRが記憶された)サーバ、等から取得してもよい。
【0106】
また、上記第2変形例では、制御部313が、機械学習部60を備えた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、機械学習部は、制御部とは別個に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0107】
11 X線管(X線源)
12 検出器
13、213、313、413 制御部
13a、213a 画像処理部
20 取得画像
30 抽出画像
40 位相コントラスト画像
40a 吸収像
40b 位相微分像
40c 暗視野像
100、200、300、400 X線位相イメージング装置
AF アーチファクト
G 格子
G1 第1格子
G2 第2格子
G3 第3格子
PX 画素
R 推定ルール
S 被写体
X 格子の並進量の点(格子の相対位置)
Y (検出信号の)大きさ