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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】X線装置
(51)【国際特許分類】
   H05G 1/26 20060101AFI20220209BHJP
   H05G 1/34 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
H05G1/26 T
H05G1/34 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020546708
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025146
(87)【国際公開番号】W WO2020054174
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018169769
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 朋晃
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-511234(JP,A)
【文献】特開2006-019205(JP,A)
【文献】特表2004-508725(JP,A)
【文献】特開2006-086000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00 - 1/70
H01J 35/00 -35/32
A61B 6/00 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体から構成され電子を放出するエミッタと、前記エミッタから放出された電子が衝突することによりX線を発生するターゲットと、前記エミッタと前記ターゲットとを収納する外囲器と、を有するX線発生部と、
前記エミッタの消耗度を検出する消耗度検出部と
前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係を記憶する記憶部と、
前記エミッタの消耗度と、前記記憶部に記憶した前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係とに基づいて、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定する付着量推定部と、
を備えたことを特徴とするX線装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線装置において、
前記消耗度検出部は、前記エミッタに付与される電圧、電流または通電時間から前記エミッタの消耗度を検出するX線装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線装置において、
温度センサをさらに備え、
前記付着量推定部は、前記温度センサにより検出した前記X線発生部の温度または前記X線発生部内の絶縁油の温度を利用して、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定するX線装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線装置において、
前記X線発生部の姿勢を検出する姿勢センサをさらに備え、
前記付着量推定部は、前記姿勢センサにより検出した前記X線発生部の姿勢を利用して、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定するX線装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線装置において、
前記記憶部は、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器に対する沿面放電が生ずる確率との関係をさらに記憶し、
前記エミッタの消耗度と、前記記憶部に記憶した前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係と、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて、沿面放電が生ずる確率を推定する沿面放電推定部をさらに備えるX線装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線装置において、
前記沿面放電推定部により推定された沿面放電が生じる確率が予め設定した設定値を超えたときに、警告表示を実行するX線装置。
【請求項7】
請求項1に記載のX線装置において、
前記記憶部は、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係をさらに記憶し、
前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係とに基づいて、表示部に表示するX線画像の画像処理条件を変更する画像処理部をさらに備えるX線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エミッタとターゲットとを外囲器内に配設したX線発生部を備えるX線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管を備えたX線発生部の寿命として、X線管の放電寿命があげられる。例えば、X線管の真空度が低下することに起因する空間放電に対しては、従来、X線管の真空度から放電の危険度を予測している(特許文献1参照)。また、X線発生部からのX線の曝射回数で放電の危険度を予測することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-100174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線管の放電寿命の原因となる放電としては、空間放電の他、X線管の真空度が低下することに起因する空間放電だけではなく、X線管を構成する外囲器の内周面にエミッタを構成する導電体が付着することによる沿面放電もあげられる。このエミッタを構成する導電体が外囲器の内面に付着することによる沿面放電については、危険度を予測することは困難である。また、X線発生部からのX線の曝射回数で放電の危険度を予測する場合、X線曝射時における管電圧、管電流および曝射時間等のX線条件によって放電の危険度は異なることから、危険度の予測精度が不正確なものとなるという問題が生ずる。
【0005】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量をより正確に推定することが可能なX線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、導電体から構成され電子を放出するエミッタと、前記エミッタから放出された電子が衝突することによりX線を発生するターゲットと、前記エミッタと前記ターゲットとを収納する外囲器と、を有するX線発生部と、前記エミッタの消耗度を検出する消耗度検出部と、前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係を記憶する記憶部と、前記エミッタの消耗度と、前記記憶部に記憶した前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係とに基づいて、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定する付着量推定部と、を備えたことを特徴とする。すなわち、第1の発明に係るX線装置は、導電体から構成され電子を放出するエミッタと、前記エミッタから放出された電子が衝突することによりX線を発生するターゲットと、前記エミッタと前記ターゲットとを収納する外囲器と、を有するX線発生部と、前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係を記憶する記憶部と、以下の処理を実行するプロセッサとを備えている。(1)エミッタの消耗度を検出する。(2)エミッタの消耗度と、記憶部に記憶したエミッタの消耗度と外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量との関係とに基づいて、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量を推定する。
【0007】
第2の発明は、前記消耗度検出部は、前記エミッタに付与される電圧、電流または通電時間から前記エミッタの消耗度を検出する。すなわち、プロセッサは、エミッタに付与される電圧、電流または通電時間からエミッタの消耗度を検出する処理を実行する。
【0008】
第3の発明は、温度センサをさらに備え、前記付着量推定部は、前記温度センサにより検出した前記X線発生部の温度または前記X線発生部内の絶縁油の温度を利用して、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定する。すなわち、プロセッサは、温度センサにより検出したX線発生部の温度またはX線発生部内の絶縁油の温度を利用して、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量を推定する処理を実行する。
【0009】
第4の発明は、前記X線発生部の姿勢を検出する姿勢センサをさらに備え、前記付着量推定部は、前記姿勢センサにより検出した前記X線発生部の姿勢を利用して、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量を推定する。すなわち、プロセッサは、姿勢センサにより検出したX線発生部の姿勢を利用して、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量を推定する処理を実行する。
【0010】
第5の発明は、前記記憶部は、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器に対する沿面放電が生ずる確率との関係をさらに記憶し、前記エミッタの消耗度と、前記記憶部に記憶した前記エミッタの消耗度と前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量との関係と、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて、沿面放電が生ずる確率を推定する沿面放電推定部をさらに備える。すなわち、記憶部が前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器に対する沿面放電が生ずる確率との関係をさらに記憶し、プロセッサは、エミッタの消耗度と、記憶部に記憶したエミッタの消耗度と外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量との関係と、記憶部に記憶した外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量と外囲器に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて、沿面放電が生ずる確率を推定する処理を実行する。
【0011】
第6の発明は、前記沿面放電推定部により推定された沿面放電が生じる確率が予め設定した設定値を超えたときに、警告表示を実行する。すなわち、プロセッサは、沿面放電推定部により推定された沿面放電が生じる確率が予め設定した設定値を超えたときに、警告表示を行う処理を実行する。
【0012】
第7の発明は、前記記憶部は、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係をさらに記憶し、前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、前記記憶部に記憶した前記外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と前記外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係とに基づいて、表示部に表示するX線画像の画像処理条件を変更する画像処理部をさらに備える。すなわち、記憶部は、外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量と外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係をさらに記憶し、外囲器への前記エミッタを構成する導電体の付着量と、記憶部に記憶した外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量と外囲器を通過するX線の透過率との関係、または、記憶部に記憶した外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量と外囲器を通過するX線のスペクトルとの関係とに基づいて、表示部に表示するX線画像の画像処理条件を変更する処理を実行するプロセッサを備える。
【発明の効果】
【0013】
第1および第2の発明によれば、エミッタの消耗度に基づいて外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量を推定することが可能となる。
【0014】
第3の発明によれば、温度センサにより検出したX線発生部の温度またはX線発生部内の絶縁油の温度を利用して、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量をより正確に推定することが可能となる。
【0015】
第4の発明によれば、姿勢センサにより検出したX線発生部の姿勢を利用することにより、X線発生部の姿勢による温度分布の考慮した上で、外囲器へのエミッタを構成する導電体の付着量をさらに正確に推定することが可能となる。
【0016】
第5および第6の発明によれば、エミッタの消耗度に基づいて、沿面放電が生ずる確率を推定することが可能となり、これを利用して、放電寿命が近づいていることを警告することが可能となる。
【0017】
第7の発明によれば、エミッタの消耗度に基づいて外囲器を通過するX線の透過率、または、外囲器を通過するX線のスペクトルを認識することが可能となる。これにより、表示部に表示するX線画像の画像処理条件を変更して、表示部により適切な画像を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明に係るX線装置の一部を構成するX線透視撮影装置の概要図である。
図2】検査室R2内に配設された透視撮影台の斜視図である。
図3】X線発生部50の構成を示す概要図である。
図4】この発明に係るX線装置の主要な制御系を示すブロック図である。
図5】エミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係を示すグラフである。
図6】エミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係を示すグラフである。
図7】外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電が生ずる確率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るX線装置の一部を構成するX線透視撮影装置の概要図である。また、図2は、検査室R2内に配設された透視撮影台の斜視図である。
【0020】
このX線撮影装置は、被検者Mに対してX線撮影およびX線透視を実行するためのものであり、操作室R1内に設置された操作パネル43を備えるコントローラ42および表示部41と、検査室R2内に設置された透視撮影台とを備える。操作室R1と検査室R2とは、隔壁21により隔てられている。この隔壁21には、X線を遮断可能な鉛ガラス窓22が設けられており、オペレータDは、この鉛ガラス窓22を介して検査室R2内の状態を確認することが可能となっている。
【0021】
検査室R2に設置されたX線透視撮影台は、図2に示すように、基台19上に立設された主支柱15と、この主支柱15に対して昇降可能に配設された保持部16と、この保持部16に回転可能に連結された天板13と、X線発生部50およびコリメータ12を支持する支柱17と、天板13の表面の下方におけるX線発生部50と対向する位置に配設されたフラットパネルディテクタ等のX線検出器14とを備える。なお、図1においては、主支柱15および保持部16の図示を省略している。
【0022】
保持部16は、図2に示すZ方向に昇降する。また、天板13は、支柱17とともに、天板13の長手方向と直交し、かつ、水平方向を向く軸(図2に示すY方向を向く軸)を中心として回転する。また、支柱17とX線検出器14とは、天板13の長手方向に互いに同期して往復移動する。さらに、X線発生部50およびコリメータ12は、支柱17とともに、図2に示すZ方向に昇降する。なお、X線発生部50およびコリメータ12は、天板13および支柱17の回転に伴って回転するとともに、支柱17に支持された状態で揺動可能となっている。X線発生部50は、支柱17に対する揺動と、支柱17の回転により、その姿勢が変化する。
【0023】
図3は、X線発生部50の構成を示す概要図である。
【0024】
このX線発生部50は、ガラスまたはセラミックからなる絶縁性の外囲器60内に、陰極としてのエミッタ57と、回転陽極であるターゲット58を配設した構成を有する。外囲器60内は真空となっている。この外囲器60は、X線透過窓56を備えたケーシング55内に配置されており、このケーシング55は鉛等のX線非透過部材から構成されている。ケーシング55内には絶縁油が充填されている。また、ケーシング55の外部には、絶縁油の温度をケーシング55を介して測定するための温度センサ53が配設されている。さらに、ケーシング55の外部には、支柱17に対する揺動または支柱17の回転にともなって姿勢が変化するX線発生部50の姿勢を検出する加速度計等の姿勢センサ54が配設されている。
【0025】
エミッタ57は、フィラメントとも呼称されるものであり、交流電源51および電流計52と、スイッチ59を介して接続されている。また、ターゲット58は、軸受機構63により回転可能に支持されている。そして、ターゲット58は、モータステータ61とモータロータ62からなる回転駆動機の駆動により回転する。
【0026】
このX線発生部50は、高電圧供給部30を備える。エミッタ57は、高電圧供給部30によりマイナスの高電圧を付与される。また、ターゲット58は、高電圧供給部30によりプラスの高電圧を付与される。これにより、エミッタ57とターゲット58の間に、高い管電圧が付与される。
【0027】
エミッタ57に対して交流電源51から電流が付与され、また、図示しない傍熱加熱機構によりエミッタ57が加熱されると、エミッタ57から熱電子Aが放出される。この熱電子Aは、管電圧によりターゲット58に向けて移動し、ターゲット58と衝突することによりX線Bを発生する。この時には、電流計52によりエミッタ57を流れる電流を測定し、その電流値が一定となるように、高電圧供給部30から供給される管電圧を制御する。この時のエミッタ57を流れる電流値と管電圧の大きさから、エミッタ57の消耗度が推定される。
【0028】
図4は、この発明に係るX線装置の主要な制御系を示すブロック図である。
【0029】
この発明に係るX線装置は、図1に示すX線透視撮影装置のコントローラ42と、X線透視撮影装置におけるX線発生部50等を管理する管理装置70とを、インターネット等のネットワーク100を介して接続した構成を有する。この管理装置70は、ネットワーク100を介して複数のX線透視撮影装置と接続され、それらのX線透視撮影装置の稼働状況や故障の状況等を管理するものである。なお、このようなネットワーク100を介して接続される管理装置70を使用するかわりに、X線透視撮影装置自体に管理装置70に相当する管理機能を備える構成としてもよい。
【0030】
図1および図4に示すコントローラ42は、X線発生部50および高電圧供給部30と接続されている。このコントローラ42は、X線検出器14により撮影したX線画像を画像処理して表示部41に表示する画像処理部44を備える。このコントローラ42はソフトウエアがインストールされたコンピュータから構成される。このコントローラ42はプロセッサ(CPU)を備え、このプロセッサにより、X線検出器14により撮影したX線画像を画像処理して表示部41に表示する処理を実行する。
【0031】
管理装置70は、ソフトウエアがインストールされたコンピュータから構成される。この管理装置70に含まれる各部の機能は、コンピュータにインストールされているソフトウエアを実行することで実現される。
【0032】
この管理装置70は、エミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係と、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電が生ずる確率との関係と、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60を通過するX線の透過率との関係、または、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60を通過するX線のスペクトルとの関係とを記憶する記憶部71を備える。
【0033】
図5および図6は、エミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係を示すグラフである。ここで図5は、エミッタ57が単一である場合を示している。また、図6は、大焦点用と小焦点用などのように、複数のエミッタ57を備える場合を示している。これらの図に示すように、エミッタ57の消耗度が増加するにつれて、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量が増加している。図7は、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電が生ずる確率との関係を示すグラフである。この図に示すように、外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量が一定以上となったときに、沿面放電が生ずる確率が急上昇する。なお、図5から図7に示すデータは、予め実験的に求められ、記憶部71に記憶されている。
【0034】
再度図4を参照して、この管理装置70は、エミッタ57に付与される電圧、電流または通電時間(電流値で重みづけをした累積通電時間)からエミッタ57の消耗度を検出する消耗度検出部72と、エミッタ57の消耗度と記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60への導電体の付着量との関係とに基づいて外囲器60への導電体の付着量を推定する付着量推定部73と、エミッタ57の消耗度と記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60への導電体の付着量との関係と記憶部71に記憶した外囲器60への導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて沿面放電が生ずる確率を推定する沿面放電推定部74とを備える。この管理装置70はプロセッサ(CPU)を備え、このプロセッサにより、エミッタ57に付与される電圧、電流または通電時間からエミッタ57の消耗度を検出する処理と、エミッタ57の消耗度と記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60への導電体の付着量との関係とに基づいて外囲器60への導電体の付着量を推定する処理と、エミッタ57の消耗度と記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60への導電体の付着量との関係と記憶部71に記憶した外囲器60への導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて沿面放電が生ずる確率を推定する処理とを実行する。
【0035】
また、この管理装置70は、外囲器60への導電体の付着量と外囲器60への導電体の付着量と外囲器60を通過するX線の透過率との関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線量を推定する線量推定部75と、外囲器60への導電体の付着量と外囲器60を通過するX線のスペクトルとの関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線質を推定する線質推定部76とを備える。線量推定部75で推定された線量と線質推定部76で推定された線質は、コントローラ42における画像処理部44に送信される。画像処理部44は、これらの線量および線質のデータに基づいて、表示部41に表示するX線画像の画像処理条件を変更する。すなわち、この管理装置70のプロセッサは、外囲器60への導電体の付着量と外囲器60への導電体の付着量と外囲器60を通過するX線の透過率との関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線量を推定する処理と、外囲器60への導電体の付着量と外囲器60を通過するX線のスペクトルとの関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線質を推定する処理とを実行する。コントローラ42におけるプロセッサは、これらの線量および線質のデータに基づいて、表示部41に表示するX線画像の画像処理条件を変更する処理を実行する。
【0036】
さらに、この管理装置70は、X線発生部50の使用履歴や、エミッタ57を流れる電流値と管電圧の大きさエミッタ57の消耗度や外囲器60への導電体の付着量等の履歴を記憶する履歴記憶部77を備える。
【0037】
以上のような構成を有するX線装置においてX線撮影を実行するときには、撮影条件に合わせてX線発生部50およびコリメータ12を、支柱17に対して揺動させ、あるいは、支柱17を回転させることにより、所定の姿勢とする。この時のX線発生部50の姿勢は、加速度計等の姿勢センサ54により検出される。また、X線発生部50の温度は、温度センサ53により測定される。この状態で、X線発生部50からX線を照射してX線撮影を行う。
【0038】
X線発生部50からX線を照射しているときには、電流計52によりエミッタ57を流れる電流値が測定され、管電圧のデータとともに、ネットワーク100を介して管理装置70に送信される。また、この時のX線発生部50の姿勢のデータと、X線発生部50の温度のデータも、ネットワーク100を介して管理装置70に送信される。
【0039】
管理装置70における消耗度検出部72においては、電流計52により測定されたエミッタ57を流れる電流のデータから、エミッタ57の消耗度を検出する。そして、管理装置70における付着量推定部73は、エミッタ57の消耗度と、記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係とに基づいて、外囲器60への導電体の付着量を推定する。
【0040】
この導電体の付着量の推定時には、X線発生部50の温度のデータとX線発生部50の姿勢のデータとが考慮される。すなわち、X線発生部50の温度、すなわち、X線発生部50内の作動油や外囲器60の温度が高いほど、外囲器60への導電体の付着量は減少する。また、X線発生部50の姿勢によっては、温度センサ53により測定されるX線発生部50の温度が大きく変化する。このため、導電体の付着量を推定するときには、X線発生部50の温度のデータと、X線発生部50の姿勢のデータとを考慮するようにしている。
【0041】
そして、管理装置70における沿面放電推定部74は、エミッタ57の消耗度と、記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量との関係と、記憶部71に記憶した外囲器60へのエミッタ57を構成する導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて、沿面放電が生ずる確率を推定する。
【0042】
この放電確率が、例えば、図7に示す基準値を超えたときには、管理装置70はX線透視撮影装置における表示部41に対して、警告表示を行う。この警告表示は、沿面放電の可能性が高いことを知らせる表示である。このとき、表示部41に対してシーズニング(エージング)の実行を促す警告表示を併せて行うようにしてもよい。
【0043】
X線撮影を継続するときの、エミッタ57の消耗度のデータ、外囲器60への導電体の付着量のデータおよび沿面放電の可能性のデータ等の各種のデータは、履歴記憶部77に継続的に記憶される。そして、警告表示を行う場合には、必要に応じ、過去の各種のデータを参照して、警告表示の内容を推定するようにしてもよい。
【0044】
また、これと並行して、X線発生部50からX線を照射しているときには、線量推定部75が、外囲器60への導電体の付着量と、記憶部71に記憶した外囲器60への導電体の付着量と外囲器60を通過するX線の透過率との関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線量を推定する。また、線質推定部76が、外囲器60への導電体の付着量と、記憶部71に記憶した外囲器60を通過するX線のスペクトルとの関係に基づいて、X線発生部50から照射されるX線の線質を推定する。
【0045】
外囲器60に導電体が付着したときには、外囲器60を通過するX線の一部が遮られたり、X線のスペクトルが変移したりすることがある。このため、X線の線量のデータおよびX線の線質のデータは、X線透視撮影装置におけるコントローラ42に送信される。そして、コントローラ42における画像処理部44は、これらの線量データおよび線質データに基づいて、表示部41に表示するX線画像の輝度やコントラスト等の画像処理条件を変更する。これにより、表示部41に表示されるX線画像を適正なものとすることが可能となる。
【0046】
なお、上述した実施形態においては、この発明に係るX線装置として、透視撮影装置と管理装置70とをネットワーク100を介して接続した構成を有する。しかしながら、管理装置70を透視撮影装置と直接接続してもよく、また、管理装置70における各構成を透視撮影装置における制御部内に含有させるようにしてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態においては、エミッタ57の消耗度と記憶部71に記憶したエミッタ57の消耗度と外囲器60への導電体の付着量との関係と、記憶部71に記憶した外囲器60への導電体の付着量と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係とに基づいて沿面放電が生ずる確率を推定している。しかしながら、これらの二つの関係をあわせることにより、エミッタ57の消耗度と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係を予め求めておき、沿面放電推定部74がこのエミッタ57の消耗度と外囲器60に対する沿面放電の確率との関係に基づいて警告等を実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
12 コリメータ
13 天板
14 X線検出器
30 高電圧供給部
41 表示部
42 コントローラ
43 操作パネル
44 画像処理部
50 X線発生部
51 交流電源
52 電流計
53 温度センサ
54 姿勢センサ
70 管理装置
71 記憶部
72 消耗度検出部
73 付着量推定部
74 沿面放電推定部
75 線量推定部
76 線質推定部
77 履歴記憶部
D オペレータ
M 被検者
R1 操作室
R2 検査室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7