(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】分光光度計
(51)【国際特許分類】
G01J 3/10 20060101AFI20220209BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01J3/10
G01N21/01 D
(21)【出願番号】P 2021504665
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2019009879
(87)【国際公開番号】W WO2020183595
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真人
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-519266(JP,A)
【文献】国際公開第2019/016846(WO,A1)
【文献】特表2002-515602(JP,A)
【文献】特開2002-267597(JP,A)
【文献】特開2005-098765(JP,A)
【文献】特開2007-064632(JP,A)
【文献】国際公開第2010/117026(WO,A1)
【文献】特開2011-002310(JP,A)
【文献】特開2011-153830(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176851(WO,A1)
【文献】特開2013-195392(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145112(WO,A1)
【文献】特開2014-119402(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01182453(EP,A1)
【文献】Hand-held thermal-regulating fluorometer,Review of Scientific Instruments,米国,American Institute of Physics,2005年11月07日,Vol. 76,115102,doi: 10.1063/1.2126812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00-G01J 3/52
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 30/00-G01N 30/96
G01N 35/00-G01N 35/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の試料が配置される試料配置部と、
それぞれ前記試料配置部に配置された試料に光を照射する複数の光源を有する光源部と、
前記試料からの光を検出する検出部と、
前記試料配置部、前記光源部、及び前記検出部を収容する筐体と、
前記複数の光源のうちの1乃至複数の光源の組み合わせ毎に予め定められた温度の情報が保存された記憶部と、
前記複数の光源のうちの、点灯させる1乃至複数の光源の組み合わせに関する指定を受け付ける光源指定受付部と、
前記光源指定受付部が受け付けた光源の組み合わせに対応する温度を前記記憶部から読み出して目標温度に設定する目標温度設定部と、
前記筐体の内部の温度を前記目標温度に維持する温度調整部と
を備える分光光度計。
【請求項2】
前記複数の光源が、重水素ランプとタングステンランプを含み、
前記記憶部には、重水素ランプのみが点灯する場合の温度情報、タングステンランプのみが点灯する場合の温度情報、及び、重水素ランプ及びタングステンランプが点灯する際の温度情報が保存されている、請求項1に記載の分光光度計。
【請求項3】
前記筐体が、前記光源部を収容する光源収容部と、前記検出部を収容する検出部収容部を備えており、
前記温度の情報が、前記光源収容部と前記検出
部収容部のそれぞれについて定められており、
前記目標温度が、前記光源収容部と前記検出
部収容部のそれぞれについて設定され、
前記温度調整部が、前記光源収容部と前記検出
部収容部をそれぞれ前記目標温度に維持する、請求項1記載の分光光度計。
【請求項4】
請求項1に記載の分光光度計を備えた液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の成分を同定したり定量したりするために、液体クロマトグラフが広く用いられている。液体クロマトグラフでは、試料中の成分をカラムで分離し、各成分を検出する。カラムから溶出した試料液中の成分の測定には、分光光度計が広く用いられている。
【0003】
分光光度計では、光源から試料に光を照射し、試料と相互作用した後の光(透過光、蛍光など)を分光素子で波長分離して各波長の光の強度を測定する。このような分光光度計では、例えば、光源として重水素ランプ、分光素子として回折格子が用いられる。
【0004】
分光光度計が有する分光素子の中には、測定中に温度が変化すると分光特性が変化するものがある。例えば、回折格子の場合、温度変化に伴って全体が伸縮し、格子間の間隔が変化して波長分離特性が変化する。このように波長分離特性に変化が生じると測定精度が低下する。また、液体クロマトグラフの検出器として分光光度計を使用する場合、温度変化に伴って移動相による光吸収量が変化し、ドリフトが生じることもある。
【0005】
上記のような問題が生じることを防止するために、分光光度計の多くは、分光光度計の周辺の温度(環境温度)の変化にかかわらず分光光度計の内部の温度を一定に保つための温調機構を備えている(例えば特許文献1)。温調機構は、例えば、分光光度計の内部の温度を測定する温度計測部と、分光光度計の内部を加熱するヒータと、該ヒータの出力を調整する出力調整部を有している。
【0006】
分光光度計の使用時に測定光源であるランプを点灯すると、ランプから熱が発せられて分光光度計の内部の温度が上昇する。そのため分光光度計では、環境温度よりも高い目標温度を予め設定しておき、試料の測定中に分光光度計の内部がその目標温度に維持されるようにヒータの出力を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
分光光度計の中には、紫外領域の光を吸収する試料と可視領域の光を吸収する試料の両方を測定可能とするために、紫外領域の光を発する重水素ランプと可視領域の光を発するタングステンランプを備えたものがある。こうした分光光度計では、試料の光吸収特性に応じてその一方又は両方を点灯させて測定を行う。
【0009】
重水素ランプとタングステンランプでは、点灯時に発せられる熱量が異なり、分光光度計の内部の温度上昇の程度が異なる。また、分光光度計の内部の容積等によって異なるが、重水素ランプとタングステンランプの両方を点灯した場合と、タングステンランプのみを点灯した場合では、分光光度計の内部の温度差が15℃程度にもなる場合がある。
【0010】
分光光度計のヒータにより発生可能な熱量は有限であり、温調機構によって調整することが可能な温度範囲は限られている。複数の光源を備えた分光光度計では、使用する光源の数や種類、またその組み合わせよって上記のように大きな温度差が生じうるため、適切な目標温度を設定して分光光度計の内部を温調することが難しいという問題があった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、複数の光源を備えた分光光度計において、測定に使用する光源の数や種類、またその組み合わせにかかわらず、その内部を適切に温調することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光光度計は、
分析対象の試料が配置される試料配置部と、
それぞれ前記試料配置部に配置された試料に光を照射する複数の光源を有する光源部と、
前記試料からの光を検出する検出部と、
前記試料配置部、前記光源部、及び前記検出部を収容する筐体と、
前記複数の光源のうちの1乃至複数の光源の組み合わせ毎に予め定められた温度の情報が保存された記憶部と、
前記複数の光源のうちの、点灯させる1乃至複数の光源の組み合わせに関する指定を受け付ける光源指定受付部と、
前記光源指定受付部が受け付けた光源の組み合わせに対応する温度を前記記憶部から読み出して目標温度に設定する目標温度設定部と、
前記筐体の内部の温度を前記目標温度に維持する温度調整部と
を備える。
【発明の効果】
【0013】
前記複数の光源は、同一種類の光源であってもよいし、異なる種類の光源であってもよい。また、前記組み合わせには、1つの光源のみ及び複数の光源の組み合わせの両方が含まれうる。
前記試料配置部には試料の形状に応じた適宜のものが用いられる。例えば気体試料や液体試料を測定する場合には試料配置部としてフローセルや標準セルが用いられ、固体試料を測定する場合には試料配置部として試料台が用いられる。
前記温度調整部には、例えば、筐体の内部を加熱するヒータと、筐体の内部の温度を測定する温度計測部と、該温度計測部と目標温度の差に応じてヒータの出力を調整する出力調整部を備えたものが用いられる。
前記複数の光源の組み合わせ毎に予め定められた温度は、各光源を点灯したときの筐体の内部の温度上昇の程度と、温度調整部による温度調整可能範囲とに基づき決定される。
【0014】
本発明に係る分光光度計は、複数の光源を有する光源部を備えており、分析対象の試料の吸光特性等に応じてそれらのうちの1乃至複数の光源を点灯させて試料の測定を行う。この分光光度計では、測定に先立ち、試料の測定に使用する1乃至複数の光源の組み合わせを指定すると、指定した光源の組み合わせに対応する温度が記憶部から読み出され、目標温度に設定される。そして、測定中は、温度調整部によって筐体内部の温度が目標温度に維持される。
本発明に係る分光光度計では、使用する光源の組み合わせに応じて目標温度が設定されるため、測定に使用する光源の組み合わせにかかわらず、その内部を適切に温調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る分光光度計の一実施例を備えた液体クロマトグラフの要部構成図。
【
図3】本実施例における目標温度の定め方を説明する概念図。
【
図4】点灯させるランプの組み合わせと、光源室及び分光室の上昇温度の関係を説明する表。
【
図5】ヒータ使用時の光源室及び分光室の上昇温度を説明する表。
【
図6】点灯させるランプの組み合わせと、光源室及び分光室の目標温度の関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る分光光度計の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例の分光光度計は液体クロマトグラフにおいて試料に含まれる成分を測定するために用いられる。
【0017】
図1は、本実施例の分光光度計を備えた液体クロマトグラフ1の要部構成図である。この液体クロマトグラフ1は、送液ユニット10、オートサンプラ20、カラムオーブン30、分光光度計40、システムコントローラ50、及び制御・処理部70を備えている。
【0018】
送液ユニット10は、移動相の溶液を収容した容器11a、11bと、該容器11a、11b内の溶液を送液する送液ポンプ12a、12bと、2種類の溶液を混合するミキサー13とを含んでいる。カラムオーブン30にはカラム31が収容されている。
【0019】
送液ユニット10で調製された移動相は、オートサンプラ20を経てカラムオーブン30内のカラム31に導入される。オートサンプラ20には、予め1乃至複数の分析対象の液体試料がセットされている。オートサンプラ20の内部は液体試料が揮発したり変質したりするのを防止するために、温調機構21(典型的にはクーラー)によって所定の温度に維持されている。オートサンプラ20では、その内部にセットされた1乃至複数の分析対象の液体試料が順次、移動相に注入される。移動相に注入された液体試料は移動相の流れに乗ってカラム31を通過する。
【0020】
カラムオーブン30は、カラム31の温調機構32(典型的にはヒータ)を備えている。カラム31を通過する間に試料中の各成分が時間的に分離される。
【0021】
図2に分光光度計40の概略構成を示す。分光光度計40の筐体内部には、光源室(ランプハウス)41と、分光室42が設けられている。
図2では光源室41と分光室42を隣接配置しているが、これらを離間して配置してもよい。光源室41には、該光源室41内の所定位置の温度を測定するセンサ416と、光源室41内を加熱するヒータ417が設けられている。また、分光室42にも、該分光室42内の所定位置の温度を測定するセンサ426と、分光室42内を加熱するヒータ427が設けられている。本実施例におけるセンサ416、426はサーミスタであるが、温度を計測可能な適宜のものを用いればよい。ヒータ417、427への通電量は、光源室41及び分光室42がそれぞれ所定の温度(後述の目標温度)に維持されるように、制御・処理部70の測定実行部723によってフィードバック制御されている。
【0022】
光源室41の内部には重水素ランプ411とタングステンランプ412が収容されている。測定実行部723による制御の下でミラー413を回転させることにより、重水素ランプ411とタングステンランプ412からの光が択一的に分光室42に導入される。液体試料に含まれる成分に紫外光に対する感度が高いもの(成分A)と可視光に対する感度が高いもの(成分B)の両方が含まれる場合には、測定中、重水素ランプ411とタングステンランプ412の両方を点灯させておき、成分Aがカラム31から溶出しフローセル422に導入される時間帯には紫外光をフローセル422に照射し、成分Bがフローセル422に導入される時間帯には可視光をフローセル422に照射するようにミラー413が制御される。液体試料に紫外光に対する感度が高い成分のみが含まれる場合は重水素ランプ411のみを使用(点灯)させ、液体試料に可視光に対する感度が高い成分のみが含まれる場合はタングステンランプ412のみを使用(点灯)させる。このように、本実施例では使用し得る(点灯させ得る)光源の組み合わせが3通り存在する。
なお、重水素ランプ411とタングステンランプ412との両方を点灯させる場合において、ミラー413で切り替えるのではなく、重水素ランプ411とタングステンランプ412との両方からの光をフローセル422に照射するようにしてもよい。
【0023】
分光室42には、集光レンズ421、フローセル422、スリット423、回折格子424、及びフォトダイオードアレイ425が配置されている。フローセル422には、カラム31において分離された試料中の成分が順次、導入される。光源室41から導入された光は、集光レンズ421により集光されフローセル422に照射される。フローセル422を通過する成分を透過した光はスリット423を通り、回折格子424によって波長分離されたあと、フォトダイオードアレイ425に入射する。フォトダイオードアレイ425を構成する各素子は、予め決められたサンプリング時間に入射した光量に応じた信号を出力する。フォトダイオードアレイ425からの出力信号は、制御・処理部70に送信され、順次、記憶部71に保存される。
【0024】
制御・処理部70は、記憶部71に加え、機能ブロックとして、測定条件入力受付部721、メソッドファイル作成部722、及び測定実行部723を備えている。制御・処理部70の実体は一般的なコンピュータであり、予めインストールされた分析用プログラム72をプロセッサで実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。また、制御・処理部70には、入力部75と表示部76が接続されている。
【0025】
記憶部71には、測定時(光源点灯時)の光源室41と分光室42の目標温度に関する情報が保存されている。具体的には、(1)重水素ランプ411のみ点灯、(2)タングステンランプ412のみ点灯、及び(3)重水素ランプ411とタングステンランプ412の両方を点灯、の3つの場合のそれぞれについて、光源室41と分光室42の目標温度を個別に定めたものが保存されている。
【0026】
目標温度は、重水素ランプとタングステンランプの点灯時の発熱により光源室41と分光室42の内部の温度がそれぞれどの程度上昇するかを考慮して定められる。この点について、以下説明する。
【0027】
図3は、目標温度の定め方を説明する概念図である。
図3に示すように、光源点灯時の発熱量は、タングステンランプのみ点灯時(Wのみ)、重水素ランプのみ点灯時(D
2のみ)、重水素ランプ及びタングステンランプ点灯時(W+D
2)の順に大きくなる。
図3ではこれらの発熱量を実線で囲んだ枠により示している。これは、光源室41と分光室42における、ランプの点灯後の、点灯前(装置起動時)の環境温度(室温)からの温度上昇を表している。
図4に、本実施例における、光源の点灯時の上昇温度を示す。
【0028】
次に、光源点灯後に光源室41と分光室42にそれぞれ設けられているヒータ417、427への通電量を最大にしたときの光源室41と分光室42の上昇温度を考慮する。
図3ではヒータの発熱可能量を破線で囲んだ枠により示している。即ち、各光源の点灯時に、光源室41と分光室42が最大で何度まで上昇するかを表す。各ランプの点灯時の目標温度は、ヒータ417、427への通電量を最大にしたときの光源室41と分光室42の上昇温度(最大上昇温度)に対する予め決められた割合(本実施例では50%)の温度により設定する。
図5に、本実施例における、ヒータへの通電による上昇温度(最大上昇温度と、その50%に相当する温度)を示す。
【0029】
図4及び
図5に示す数値を用いて定めた目標温度の一覧を
図6に示す。重水素ランプ411とタングステンランプ412の両方を点灯した場合の、光源室41の目標温度は室温+26.5℃、分光室42の目標温度は室温+21℃である。また、重水素ランプ411のみを点灯した場合の、光源室41の目標温度は室温+22.5℃、分光室42の目標温度は室温+18℃である。さらに、タングステンランプ412のみを点灯した場合の、光源室41の目標温度は室温+12.5℃、分光室42の目標温度は室温+13℃である。本実施例では、目標温度を、室温に対する相対温度として定めたが、室温の変化が小さい環境で分光光度計を使用する場合などには、目標温度を絶対的な温度として定めるようにしてもよい。
【0030】
次に、本実施例の液体クロマトグラフ1を用いた測定の流れを説明する。ここでは測定の流れのうち、本実施例における特徴的な工程のみを説明し、従来同様の手順や測定の詳細に関する説明は省略する。
【0031】
使用者が入力部75により所定の操作を行うと、測定条件入力受付部721は、表示部76に測定条件を使用者に入力させる画面を表示する。この測定条件には、測定時に使用する光源(重水素ランプ411、タングステンランプ412)の指定が含まれる。その他、測定条件には、移動相の種類や流速、カラムオーブン30の温度、分光光度計40においてデータを取得するサンプリング間隔などが含まれる。これらの測定条件の入力は、表示部76に表示された入力欄に使用者が入力することにより行うことができる。使用者が測定条件を入力すると、メソッドファイル作成部722により、それらを記載したメソッドファイルが作成される。また、メソッドファイル作成部722は、使用者が指定した光源の組み合わせに対応する温度情報を記憶部71から読み出して、光源室41と分光室42の目標温度を設定し、その値をメソッドファイルに書き加えて記憶部71に保存する。なお、予め記憶部71にメソッドファイルが保存されている場合は、そのメソッドファイルを読み出すことにより測定条件を入力する操作に代えることもできる。その場合、測定条件入力受付部721は、読み出されたメソッドファイルに記載された光源の種類に基づいて光源室41と分光室42の目標温度を設定する。
【0032】
メソッドファイルが作成され、使用者が所定の操作により測定の開始を指示すると、測定実行部723はメソッドファイルに記載された測定条件に基づいて試料を測定する。測定実行部723は、光源室41のセンサ416、分光室42のセンサ426により、装置起動時の(重水素ランプ411、タングステンランプ412を点灯する前の)光源室41及び分光室42の温度をそれぞれ計測する。そして、これから実行しようとする測定において使用する光源の組み合わせに応じて、光源室41及び分光室42の目標温度の絶対値を設定する。目標温度が予め絶対的な数値として定められている場合にはこの工程は不要である。測定実行部723は、重水素ランプ411及び/又はタングステンランプ412の通電開始後、ランプの点灯状態が安定するまで所定時間、待機したあと、光源室41のヒータ417、分光室42のヒータ427への通電を開始する。そして、所定の時間間隔で、光源室41のセンサ416、分光室42のセンサ426により、光源室41及び分光室42の温度をそれぞれ計測し、その温度と目標温度の差に基づいて、ヒータ417、427へ通電量をフィードバック制御する。フィードバック制御が開始されると、測定制御部73は、メソッドファイルに記載された条件に従って試料を測定する。
【0033】
従来、分光光度計の温度調整は、一般に、測定時に使用する(点灯される)光源の組み合わせにかかわらず一律に設定されていた。例えば、
図4及び
図5に示した例において、発生する熱量が中間的である、重水素ランプ411のみを点灯したときを基準として目標温度を定めた場合、光源室41の目標温度は室温+22.5℃、分光室42の目標温度は室温+18℃となる。しかし、例えばタングステンランプ412のみを点灯する測定では、光源室41のヒータ417の出力を最大にしても20℃までしか上昇させることができず、光源室41を室温+22.5℃に温調することは不可能となる。このように、使用する光源にかかわらず一律に分光光度計の目標温度を設定すると、光源室41や分光室42を目標温度に維持することができない場合があった。また、例えば重水素ランプ411とタングステンランプ412の両方を点灯する測定では、光源室41のヒータの出力を小さくして3.5℃の加熱に留めれば光源室41を室温+22.5℃に温調することが一応可能ではあるものの、装置起動時の温度(即ち目標温度の設定に使用した温度)から3.5℃以上上昇すると温調することが不可能になる。つまり、仮に温調可能であったとしても室温の変動に対する追従性が悪い(追従可能な温度範囲が狭い)。
【0034】
これに対し、本実施例の液体クロマトグラフ1では、測定時に使用する(即ち点灯される)光源の組み合わせ毎に、光源室41と分光室42の目標温度が設定されるため、測定に使用する光源の組み合わせにかかわらず、その内部を適切に温調することができる。
【0035】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例では液体クロマトグラフ1において用いられる分光光度計について説明したが、分光光度計のみを使用する場合や、他の分析装置に分光光度計を組み込んで使用する場合も上記同様に構成することができる。
【0036】
上記実施例では、光源室41と分光室42のそれぞれに1組のセンサ416、426とヒータ417、427を配置したが、光源室41や分光室42の大きさに応じて複数組のセンサとヒータを配置することもできる。また、光源室41や分光室42に、ヒータ417、427からの熱を循環させるためのファンなどを配置してもよい。
【0037】
上記実施例では、光源室41と分光室42のそれぞれに個別の目標温度を設定する場合を説明したが、光源室41と分光室42に共通の目標温度を設定しても良い。また、光源室41と分光室42だけでなく、フローセル422にもセンサ及びヒータを設けるとともに、フローセル422にも別の目標温度を設定してもよい。例えば、フローセル422の内部を冷却あるいは加熱された液体試料が流通する場合、フローセル422のみが局所的に冷却あるいは加熱される。こうした場合には、フローセル422を個別に温調するように構成するとよい。
【0038】
上記実施例では、光源として重水素ランプとタングステンランプを備えた構成について説明したが、他の種類の光源を備えた分光光度計においても上記同様の構成を採ることができる。さらに、同種の光源を複数備え、点灯する光源の数によって試料に照射する光量を変更可能に構成した分光光度計においても上記同様の構成を採ることができる。即ち、上記実施例における光源の組み合わせには、複数の同種の光源も含まれうる。
【0039】
上記実施例では、重水素ランプ411及びタングステンランプ412からの光を試料に照射し、試料からの透過光を波長分離して検出する構成の分光光度計を説明したが、分光光度計の構成は測定の目的に応じて適宜に変更することができる。例えば、重水素ランプ411及びタングステンランプ412から発せられた光を波長分離し、1乃至複数の所定波長の光(単色光)を試料に照射するように構成することもできる。その場合は、フォトダイオードアレイ425に代えて1つの光検出素子のみを有するものを用いることができる。さらに、試料からの透過光に限らず、試料からの蛍光や散乱光などを測定するように構成することもできる。その他、上記実施例では液体クロマトグラフ1のカラム31から溶出する液体試料を測定する構成としたが、気体試料や固体試料の測定にも用いることができる。例えば固体試料の場合は、該固体試料を所定位置に固定する試料載置台などを用いればよい。
【0040】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0041】
(第1態様)
本発明の第1態様に係る分光光度計は、
分析対象の試料が配置される試料配置部と、
それぞれ前記試料配置部に配置された試料に光を照射する複数の光源を有する光源部と、
前記試料からの光を検出する検出部と、
前記試料配置部、前記光源部、及び前記検出部を収容する筐体と、
前記複数の光源のうちの1乃至複数の光源の組み合わせ毎に予め定められた温度の情報が保存された記憶部と、
前記複数の光源のうちの、点灯させる1乃至複数の光源の組み合わせに関する指定を受け付ける光源指定受付部と、
前記光源指定受付部が受け付けた光源の組み合わせに対応する温度を前記記憶部から読み出して目標温度に設定する目標温度設定部と、
前記筐体の内部の温度を前記目標温度に維持する温度調整部と
を備える。
【0042】
前記複数の光源は、同一種類の光源であってもよいし、異なる種類の光源であってもよい。
前記試料配置部には試料の形状に応じた適宜のものが用いられる。例えば気体試料や液体試料を測定する場合には試料配置部としてフローセルや標準セルが用いられ、固体試料を測定する場合には試料配置部として試料台が用いられる。
前記温度調整部には、例えば、筐体の内部を加熱するヒータと、筐体の内部の温度を測定する温度計測部と、該温度計測部と目標温度の差に応じてヒータの出力を調整する出力調整部を備えたものが用いられる。
前記複数の光源の組み合わせ毎に予め定められた温度は、各光源を点灯したときの筐体の内部の温度上昇の程度と、温度調整部による温度調整可能範囲とに基づき決定される。
第1態様の分光光度計は、複数の光源を有する光源部を備えており、分析対象の試料の吸光特性に応じてそれらのうちの1乃至複数の光源を点灯させて試料の測定を行う。この分光光度計では、測定に先立ち、試料の測定に使用する1乃至複数の光源の組み合わせを指定すると、入力した光源の組み合わせに対応する温度が記憶部から読み出され、目標温度に設定される。そして、測定中は、温度調整部によって筐体内部の温度が目標温度に維持される。
第1態様の分光光度計では、使用する光源の組み合わせに応じて目標温度が設定されるため、測定に使用する光源の組み合わせにかかわらず、その内部を適切に温調することができる。
【0043】
(第2態様)
本発明の第2態様に係る分光光度計は、上記第1態様の分光光度計において、
前記複数の光源が、重水素ランプとタングステンランプを含み、
前記記憶部には、重水素ランプのみが点灯する場合の温度情報、タングステンランプのみが点灯する場合の温度情報、及び、重水素ランプ及びタングステンランプが点灯する際の温度情報が保存されている。
【0044】
本発明の第2態様に係る分光光度計は、重水素ランプとタングステンランプを備えている。重水素ランプは主に紫外領域の光を発し、タングステンランプは主に可視領域の光を発する。従って、第2態様の分光光度計では、試料の吸光特性に応じて、紫外領域から可視領域の幅広い光を照射し測定することができる。
【0045】
(第3態様)
本発明の第3態様に係る分光光度計は、上記第1態様又は第2態様の分光光度計において、
前記筐体が、前記光源部を収容する光源収容部と、前記検出部を収容する検出部収容部を備えており、
前記温度の情報が、前記光源収容部と前記検出部収容部のそれぞれについて定められており、
前記目標温度が、前記光源収容部と前記検出部収容部のそれぞれについて設定され、
前記温度調整部が、前記光源収容部と前記検出部収容部をそれぞれ前記目標温度に維持する。
【0046】
第3態様の分光光度計では、筐体が、光源部を収容する光源収容部と、検出部を収容する検出部収容部を備えており、それらについて個別に目標温度が設定される。分光光度計において光源を点灯すると、光源収容部の温度上昇の方が検出部収容部の温度上昇よりも大きくなる。従って、光源収容部の目標温度は検出部収容部の目標温度よりも高く設定しておく。第2態様の分光光度計では、光源収容部と検出部収容部がそれぞれ個別に目標温度に維持されるため、より確実に温調することができる。
【0047】
(第4態様)
本発明の第4態様に係る液体クロマトグラフは、上記第1態様から第3態様のいずれかの分光光度計を備える。
【0048】
液体クロマトグラフでは、試料に含まれる成分の同定や定量に分光光度計が広く用いられている。第4態様の液体クロマトグラフは、測定に使用する光源の種類や組み合わせにかかわらず、その内部が適切に温調されるため、ドリフトやノイズなどを抑えて試料を正確に同定したり定量したりすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…液体クロマトグラフ
10…送液ユニット
11a…容器
12a…送液ポンプ
13…ミキサー
20…オートサンプラ
21…温調機構
30…カラムオーブン
31…カラム
32…温調機構
40…分光光度計
41…光源室
411…重水素ランプ
412…タングステンランプ
413…ミラー
416…センサ
417…ヒータ
42…分光室
421…集光レンズ
422…フローセル
423…スリット
424…回折格子
425…フォトダイオードアレイ
426…センサ
427…ヒータ
50…システムコントローラ
70…制御・処理部
71…記憶部
72…分析用プログラム
721…測定条件入力受付部
722…メソッドファイル作成部
723…測定実行部
75…入力部
76…表示部