(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20220209BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20220209BHJP
H02H 3/34 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/08
H02H3/34 M
(21)【出願番号】P 2019141054
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2019074312
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392022721
【氏名又は名称】株式会社和田電業社
(73)【特許権者】
【識別番号】503032382
【氏名又は名称】古屋 一彦
(73)【特許権者】
【識別番号】597019609
【氏名又は名称】株式会社 シーディエヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】特許業務法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】古屋 一彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍三
(72)【発明者】
【氏名】和田 功
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第201740840(CN,U)
【文献】特開2014-066563(JP,A)
【文献】特開平09-257858(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101038316(CN,A)
【文献】特表2018-515758(JP,A)
【文献】特開2018-004596(JP,A)
【文献】特開平09-329640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 31/08
H02H 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力回路の地絡電流を検出又は監視する装置であって、
零相電流測定部と位相差特定部と初期値保持部と相特定部とを備え、
前記零相電流測定部は、前記電力回路の零相電流の大きさを測定可能に構成され、
前記位相差特定部は、前記電力回路の所定部分の電圧に基づいて該電圧と前記零相電流測定部が測定した零相電流との位相差を特定可能に構成され、
前記初期値保持部は、前記電力回路の初期状態における零相電流を特定可能な値を初期値として記憶保持し、
前記相特定部は、前記零相電流測定部が測定した零相電流の大きさと前記位相差特定部が特定した位相差とに基づいて前記電力回路の零相電流を複素数で表現した値と、前記初期値保持部が記憶保持する初期値から特定される零相電流を複素数で表現した値との差を算出し、該算出した差の偏角が前記電力回路の種別に応じて定めた複数の範囲のいずれに属するかを判定し、該判定の結果に基づいて前記電力回路の零相電流の発生相とその原因を特定可能に構成される、
装置。
【請求項2】
前記初期値保持部は、前記電力回路の絶縁性能が健全時の初期状態において前記零相電流測定部が測定した零相電流の大きさと前記位相差特定部が特定した位相差とを複素数で表現した値を初期値として記憶保持する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電力回路は、高圧と、特別高圧と、超高圧とのいずれかに対応し、ケーブル又はバスダクトを含み、
前記初期値保持部は、前記ケーブル又は前記バスダクトの対地静電容量値または該対地静電容量値に基づいて算出される零相電流を複素数で表現した値を初期値として記憶保持する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電力回路は、低圧であり、地中に埋設されたケーブル又は屋内に敷設されたバスダクトを含み、
前記初期値保持部は、前記ケーブル又は前記バスダクトの対地静電容量値または該対地静電容量値に基づいて算出される零相電流を複素数で表現した値を初期値として記憶保持する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
電流解析部を更に備え、
前記電流解析部は、前記相特定部が算出した差を、前記相特定部が特定した相の抵抗分電流値と静電容量電流値とに分離可能に構成される
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記相特定部は、回転処理部を備え、
前記回転処理部は、前記差の偏角を前記電力回路の種別に応じた角度だけ回転可能に構成され、
前記相特定部は、前記回転処理部で回転された差の偏角に基づいて前記電力回路の零相電流の発生原因となる相を特定する
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記電力回路は、低圧と、特別高圧と、超高圧とのいずれかの中性点接地の三相3線回路と、低圧の中性点接地の三相4線回路と、低圧又は高圧の非接地の三相3線回路とのいずれかであり、
前記回転処理部は、前記差の偏角を120度回転させる処理と前記差の偏角を240度回転させる処理とを行う
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記電力回路は、変圧器の低圧側が三角巻線で1相接地の三相3線回路であるとともに、前記変圧器の高圧側がスター型巻線であり、
前記回転処理部は、前記差の偏角を-30度または-60度回転させる処理を行う
請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記電力回路は、変圧器の低圧側が三角巻線で1相接地の三相3線回路であるとともに、前記変圧器の高圧側が三角巻線であり、
前記回転処理部は、前記差の偏角を-60度または-120度回転させる処理を行う
請求項6に記載の装置。
【請求項10】
入出力部をさらに備え、
前記入出力部は、前記相特定部が特定した相とその原因を1又は複数表示可能に構成される請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記入出力部は、前記相特定部が特定した相に前記電力回路以外の電力回路から電流が流入した可能性を表示可能に構成される請求項10に記載の装置。
【請求項12】
コンピュータを、電力回路の地絡電流を検出又は監視する装置として機能させるプログラムであって、
前記装置は、零相電流取得部と位相差特定部と初期値保持部と相特定部とを備え、
前記零相電流取得部は、前記電力回路の零相電流の大きさを取得可能に構成され、
前記位相差特定部は、前記電力回路の所定部分の電圧に基づいて該電圧と前記零相電流取得部が取得した零相電流との位相差を特定可能に構成され、
前記初期値保持部は、前記電力回路の初期状態における零相電流を特定可能な値を初期値として記憶保持し、
前記相特定部は、
前記零相電流取得部が取得した零相電流の大きさと前記位相差特定部が特定した位相差とに基づいて前記電力回路の零相電流を複素数で表現した値と、前記初期値保持部が記憶保持する初期値から特定される零相電流を複素数で表現した値との差を算出し、該算出した差の偏角が前記電力回路の種別に応じて定めた複数の範囲のいずれに属するかを判定し、該判定の結果に基づいて前記電力回路の零相電流の発生相とその原因を特定可能に構成される、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力回路は、適切に管理を行い、事故等の防止に務める必要がある。このため、電力回路における地絡を検出、監視する装置が多々提案されており、例えば、特許文献1に記載されているような技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている技術は、全漏洩電流の大きさと位相角とを測定し、前回に測定した値との差から、抵抗分漏洩電流増加量を算出し、その抵抗分漏洩電流増加量の位相角から漏洩の発生した相を特定するものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、前回に測定した値との差から抵抗分漏洩電流増加量を算出しているため、絶縁抵抗が徐々に劣化した場合など、抵抗分漏洩電流の絶対値が大きい場合でも増加量が小さければ、検出を行うことができない。例えば、前回検出値と今回検出値の差が1mA程度あっても、異常検出値が50mAの場合、検出ができない。また、抵抗分漏洩電流増加量の位相角が漏洩の発生した相の電圧と同相とならない場合、例えば、静電容量分漏洩電流が大きく変化した場合等には、漏洩の発生した相を特定することができないものである(段落[0024]等に記載されている)。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術は、漏電箇所を探査することを目的とするものであるから、地絡が発生する前の回路の状態、つまり、絶縁が正常な状態や劣化した状態を把握することは困難なものである。
【0007】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、電力回路が正常な状態、絶縁が劣化した状態、地絡が発生した状態、対地静電容量が変化した状態のいずれであっても、その状態を監視することのできる装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、電力回路の地絡電流を検出又は監視する装置であって、零相電流測定部と位相差特定部と初期値保持部と相特定部とを備え、前記零相電流測定部は、前記電力回路の零相電流の大きさを測定可能に構成され、前記位相差特定部は、前記電力回路の所定部分の電圧に基づいて該電圧と前記零相電流測定部が測定した零相電流との位相差を特定可能に構成され、前記初期値保持部は、前記電力回路の初期状態における零相電流を複素数で表現した値を初期零相電流値として記憶保持し、前記相特定部は、前記零相電流測定部が測定した零相電流の大きさと前記位相差特定部が特定した位相差とに基づいて前記電力回路の零相電流を複素数で表現した値と前記初期値保持部が記憶保持する初期零相電流値との差を算出し、該算出した差の偏角が前記電力回路の種別に応じて定めた複数の範囲のいずれに属するかを判定し、該判定の結果に基づいて前記電力回路の零相電流の発生相とその原因を特定可能に構成される、装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る監視装置10の構成を示した図である。
【
図4】初期零相電流値を複素平面上に表した図である。
【
図5】零相電流を複素平面上に表した例を示した図である。
【
図6】零相電流と初期零相電流値IRB0の差を複素平面上で表したものである。
【
図7】
図6に示した電流IR1~電流IR5を120度回転した複素平面を示した図である。
【
図8】
図6に示した電流IR1~電流IR5を240度回転した複素平面を示した図である。
【
図10】三相3線回路の等価回路を示した図である。
【
図11】回転処理部15による回転処理後の位相を示した図である。
【
図12】初期零相電流と零相電流を複素平面上に示した図である。
【
図18】監視装置10の運用の流れを示すフローチャートである。
【
図19】監視装置10の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図20】監視装置10の動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
1.装置構成
まず、本発明の実施形態に係る装置について説明する。なお、ここでは、地絡電流を監視する監視装置を例として説明するが、監視装置の一部を省略することで、地絡電流を検出する検出装置とすることもできる。
図1は、本発明の実施形態に係る監視装置10の構成を示した図である。
【0012】
同図に示すように、監視装置10は、零相電流測定部11、位相差特定部12、初期値保持部13、相特定部14、回転処理部15、電流解析部16及び入出力部17を有している。
【0013】
零相電流測定部11は、電力回路の零相電流の大きさを測定可能に構成される。零相電流の測定は、例えば、電力回路の変圧器の中性点、または端子の一端のB種接地の接地線や、幹線ケーブルの送電部等の零相電流を測定可能な位置に零相変流器を設置し、この零相変流器を介して零相電流を測定する。
【0014】
位相差特定部12は、電力回路の所定部分の電圧に基づいて該電圧と零相電流測定部11が測定した零相電流との位相差を特定可能に構成される。例えば、位相差特定部12は、電力回路の電圧として、変圧器の中性点と一端子の間の電圧、または端子間の電圧、または変圧器の一端子とD種接地、またはC種接地の間の電圧等のいずれかの電圧を取得する。
【0015】
初期値保持部13は、電力回路の初期状態における零相電流を特定可能な値を初期値として記憶保持する。初期値は、例えば、電力回路、つまり、電気設備の竣工時等の設備が健全な状態で、対地静電容量を測定し、測定した対地静電容量に基づいて零相電流を算出することで得られる。また、電気設備が健全な状態において零相電流測定部11が測定した零相電流と位相差特定部12が特定した位相差とに基づいて算出された値を初期値として初期値保持部13に記憶保持させるようにしてもよい。電気設備が健全な状態の値を記憶保持させることで、対地絶縁の劣化や対地静電容量の変化が徐々に進行した場合でも、漏洩電流の検出等を行うことができる。
【0016】
初期値保持部13に記憶保持させる初期値は、電力回路の初期状態における零相電流を複素数で表現した値であってもよい。複素数で表現した値とは、複素数表示やフェーザ表示とも称される表示方法であり、極形式(複素数を絶対値と偏角を用いて表わした形)を用いてもよい。
【0017】
また、電力回路が高圧と、特別高圧と、超高圧とのいずれかに対応し、ケーブル又はバスダクトを含む場合には、初期値保持部13は、ケーブル又はバスダクトの対地静電容量値または対地静電容量値に基づいて算出される零相電流を複素数で表現した値を初期値として記憶保持するようにしてもよい。
【0018】
同様に、電力回路が低圧であり、地中に埋設されたケーブル又は屋内に敷設されたバスダクトを含む場合には、初期値保持部13は、ケーブル又はバスダクトの対地静電容量値または対地静電容量値に基づいて算出される零相電流を複素数で表現した値を初期値として記憶保持するようにしてもよい。
【0019】
ケーブル又はバスダクトの対地静電容量値は、例えば、ケーブル又はバスダクトの仕様から単位長さあたりの対地静電容量を特定し、これに線路長を乗じることで算出することができる。そして、電力回路が健全な状態では、当該回路の絶縁も良好であるため、絶縁抵抗を無限大であると想定して、零相電流を算出することができる。なお、対地静電容量値の算出に際しては、絶縁抵抗を十分大きな値、例えば、100(MΩ)~1000(MΩ)であるものとして取り扱う。
【0020】
相特定部14は、零相電流測定部11が測定した零相電流の大きさと位相差特定部12が特定した位相差とに基づいて電力回路の零相電流を複素数で表現した値と初期値保持部13が記憶保持する初期値から特定される零相電流を複素数で表現した値との差を算出し、算出した差の偏角が電力回路の種別に応じて定めた複数の範囲のいずれに属するかを判定し、判定の結果に基づいて電力回路の零相電流の発生原因となる相を特定可能に構成される。なお、相特定部14の具体的な動作については後述する。
【0021】
回転処理部15は、相特定部14の一部であり、相特定部14が算出した差の偏角を電力回路の種別に応じた角度だけ回転可能に構成される。例えば、低圧と、特別高圧と、超高圧とのいずれかの中性点接地の三相3線回路と、低圧の中性点接地の三相4線回路と、低圧又は高圧の非接地の三相3線回路とのいずれかである場合には、回転処理部15は、差の偏角を120度回転させる処理と差の偏角を240度回転させる処理とを行う。また、電力回路が変圧器の低圧側が三角巻線で1相接地の三相3線回路であるとともに、変圧器の高圧側がスター型巻線である場合には、回転処理部15は、差の偏角を-30度または-60度回転させる処理を行い、電力回路が変圧器の低圧側が三角巻線で1相接地の三相3線回路であるとともに、変圧器の高圧側が三角巻線である場合には、回転処理部15は、差の偏角を-60度または-120度回転させる処理を行う。これにより、相特定部14は、回転処理部15で回転された差の偏角に基づいて電力回路の零相電流の発生原因となる相を特定することとなる。
【0022】
ところで、三相変圧器の星型巻線と三角巻線の電圧には30度の位相差がある。その結果、同一相の地絡電流や、低圧側三角巻線の1相接地回路の対地静電容量による常時の地絡電流にも30度の位相差が生じる。従って、回転処理部15は、電力回路全体の変圧器構成による位相関係に基づく処理を行っている。
【0023】
電流解析部16は、相特定部14が算出した差を、相特定部14が特定した相の抵抗分電流値と静電容量電流値とに分離可能に構成される。なお、電流解析部16具体的な動作については後述する。
【0024】
入出力部17は、監視装置10のユーザインタフェイスとなるもので、操作指示の受付や、監視結果の表示等を行う。また、入出力部17は、監視結果として相特定部14が特定した相の全てを表示可能に構成されるとともに、相特定部14が特定した相に別の電力回路から、その回路の対地静電容量を介して、電流が流入したことを表示可能に構成される。別の電力回路から電流が流入した場合、複数の相に逆向き(逆相)の電流が流れることから、その可能性を表示することが可能となる。
【0025】
2.電力回路の概要
次に、監視装置10を設置する電力回路の例について、その概要を説明する。
図2は、電力回路の例を示した図である。
【0026】
同図に示した例では、商用電源20に、変圧器21と変圧器22と変圧器23とが接続されている。商用電源20は、厳密には、変圧器であり、この変圧器と、変圧器21、変圧器22、変圧器23の間は、高圧、例えば、6.6kVの電力回路であり、変圧器21、変圧器22、変圧器23のそれぞれを介して、低圧、例えば、210Vの電力回路と接続されている。
【0027】
高圧の電力回路は、一般に、非接地であるが、接地形計器用変圧器(EVT)やコンデンサー形地絡検出装置(ZPD)を介して中性点が接地されているともいえるものである。監視装置10は、中性点接地、非接地のいずれにも対応可能である。
【0028】
また、変圧器21には、負荷24と負荷25が接続されており、この変圧器21と負荷24及び負荷25の間の回路が低圧の電力回路となる。また、変圧器22には、負荷26と負荷27が接続されており、この変圧器22と負荷26及び負荷27の間の回路が低圧の電力回路となる。同様に、変圧器23には、負荷28と負荷29が接続されており、この変圧器23と負荷28及び負荷29の間の回路が低圧の電力回路となる。監視装置10は、これらの低圧の電力回路にも対応可能である。なお、変圧器21は、Y(星型)-△(三角)巻線の変圧器であり、変圧器22は、△-△巻線の変圧器、変圧器23は、△-Y巻線の変圧器であるものとする。
【0029】
3.三相4線回路等
次に、電力回路が低圧、特別高圧、超高圧のいずれかの中性点接地の三相3線回路、低圧の中性点接地の三相4線回路、低圧又は高圧の非接地の三相3線回路の場合の監視装置10の動作について説明する。なお、ここでは、三相4線回路を例として説明する。
図3は、三相4線回路の等価回路を示した図である。なお、同図に示した等価回路は、
図2に示した変圧器23の二次側回路に相当する。
【0030】
同図に示した等価回路では、ER、ES、ETは、それぞれ、R相の電源、S相の電源、T相の電源を表し、RR、RS、RT、RNは、それぞれ、R相の絶縁抵抗、S相の絶縁抵抗、T相の絶縁抵抗、N相(中性相)の絶縁抵抗を表し、CR、CS、CT、CNは、それぞれ、R相の対地静電容量、S相の対地静電容量、T相の対地静電容量、N相の対地静電容量を表している。また、RBは、B種接地抵抗、RCは、C種接地抵抗を表している。なお、電力回路は、配線の距離が長く、分布定数回路として扱うことが適切であるが、ここでは、説明の簡易化のために、集中定数回路としている。
【0031】
図3に示した等価回路に監視装置10を設置する場合、零相電流測定部11は、B種接地抵抗RBを流れる電流を測定する。位相差特定部12は、R相の電圧ERを取得する。電圧ERは、変圧器の中性点と一端子間の電圧、または端子間の電圧、または変圧器の一端子とD種接地、またはC種接地間の電圧等のいずれかで測定可能である。
【0032】
初期値保持部13に記憶保持する初期零相電流値は、電力回路が健全な状態、つまり、
図3に示した等価回路では、各相の絶縁抵抗、RR、RS、RT、RNの値が十分に大きい場合の値である。なお、
図3に示した等価回路が理想的なものであれば、各相の対地静電容量、CR、CS、CT、CNの値が等しく、零相電流は流れないが、実際には、CR、CS、CT、CNの値は等しくないため、零相電流が流れることになる。
【0033】
初期値保持部13に記憶保持する初期零相電流値は、例えば、
図4にIRB0で示すようになる。
図4は、初期零相電流値を複素平面上に表した図である。初期零相電流値IRB0は、その偏角がθである。なお、
図4は、R相の電圧を基準としているため、R相の電圧の偏角は、0度となる。
【0034】
続いて、電力回路で絶縁の劣化や地絡の発生、対地静電容量の変化等によって、零相電流が変化した場合を説明する。零相電流は、零相電流測定部11と位相差特定部12により、複素数による表現が可能となるが、これを複素平面上に表すと、
図5に示すようになる。
図5は、零相電流を複素平面上に表した例を示した図である。
【0035】
例えば、電力回路のR相の絶縁が劣化した場合やR相に地絡が発生した場合には、
図5に示す零相電流IRB1が流れることになる。T相の絶縁が劣化した場合やT相に地絡が発生した場合には、
図5に示す零相電流IRB2が流れることになる。S相の絶縁が劣化した場合やS相に地絡が発生した場合には、
図5に示す零相電流IRB3が流れることになる。また、R相の対地静電容量が大きくなった場合には、
図5に示す零相電流IRB4が流れ、S相の絶縁の劣化と対地静電容量の増大が同時に生じた場合には、
図5に示す零相電流IRB5が流れることになる。なお、当然のことであるが、零相電流IRB1、零相電流IRB2、零相電流IRB3、零相電流IRB4及び零相電流IRB5は、同時に流れることはない。
【0036】
この
図5に示した零相電流IRB1、零相電流IRB2、零相電流IRB3、零相電流IRB4及び零相電流IRB5は、初期零相電流値IRB0を含むものである。したがって、零相電流と初期零相電流値IRB0の差が電力回路で絶縁の劣化や地絡の発生、対地静電容量の変化等によって生じた電流となる。
【0037】
そこで、相特定部14は、まず、零相電流と初期零相電流値IRB0の差を算出する。この算出結果を複素平面上に表すと、
図6に示すようになる。
図6は、零相電流と初期零相電流値IRB0の差を複素平面上で表したものである。
【0038】
零相電流IRB1と初期零相電流値IRB0の差、つまり、IRB1-IRB0は、電流IR1となる。同様に、零相電流IRB2と初期零相電流値IRB0の差(IRB2-IRB0)は、電流IR2、零相電流IRB3と初期零相電流値IRB0の差(IRB3-IRB0)は、電流IR3、零相電流IRB4と初期零相電流値IRB0の差(IRB4-IRB0)は、電流IR4、零相電流IRB5と初期零相電流値IRB0の差(IRB5-IRB0)は、電流IR5となる。
【0039】
続いて、相特定部14は、算出した零相電流と初期零相電流値IRB0の差を120度及び240度回転する。
図7は、
図6に示した電流IR1~電流IR5を120度回転した複素平面を示した図である。また、
図8は、
図6に示した電流IR1~電流IR5を240度回転した複素平面を示した図である。
【0040】
図6に示した電流IR1、電流IR2、電流IR3、電流IR4、電流IR5を120度回転すると、
図7に示すようになる。この場合には、複素平面の実軸は、S相の電圧と一致する。
【0041】
また、
図6に示した電流IR1、電流IR2、電流IR3、電流IR4、電流IR5を240度回転すると、
図8に示すようになる。この場合には、複素平面の実軸は、T相の電圧と一致する。
【0042】
次に、相特定部14が、零相電流が変化した原因となる相を特定する。相の特定は、回転処理を施していない電流と、120度の回転処理を施した電流と、240度の回転処理を施した電流のうち、偏角が-30度よりも大きく90度以下である電流に基づいて行う。
【0043】
ここで、-30度よりも大きく90度以下となる範囲について説明する。
図9は、偏角の範囲を説明するための図である。
【0044】
同図に示すように、電流に対して回転処理を施していない場合、基準となる偏角が0度の軸は、R相の実軸に相当する軸となる。また、偏角が90度となる軸は、R相の虚軸に相当し、偏角が-30度となる軸は、S相の虚軸に相当する。したがって、電流の偏角が-30度よりも大きく90度よりも小さい場合は、この電流に少なくともR相の抵抗分電流が含まれていることとなり、電流の偏角が90度の場合は、この電流はR相の静電容量分電流であることとなる。つまり、電流に回転処理を施していない場合に、当該電流の偏角が-30度よりも大きく90度以下であれば、少なくともR相に変化が生じてことが判明する。
【0045】
また、電流に対して120度の回転処理を施している場合、基準となる偏角が0度の軸は、S相の実軸に相当する軸となる。また、偏角が90度となる軸は、S相の虚軸に相当し、偏角が-30度となる軸は、T相の虚軸に相当する。したがって、電流の偏角が-30度よりも大きく90度よりも小さい場合は、この電流に少なくともS相の抵抗分電流が含まれていることとなり、電流の偏角が90度の場合は、この電流はS相の静電容量分電流であることとなる。つまり、電流に120度の回転処理を施した場合に、当該電流の偏角が-30度よりも大きく90度以下であれば、少なくともS相に変化が生じてことが判明する。
【0046】
同様に、電流に対して240度の回転処理を施している場合、基準となる偏角が0度の軸は、T相の実軸に相当する軸となる。また、偏角が90度となる軸は、T相の虚軸に相当し、偏角が-30度となる軸は、R相の虚軸に相当する。したがって、電流の偏角が-30度よりも大きく90度よりも小さい場合は、この電流に少なくともT相の抵抗分電流が含まれていることとなり、電流の偏角が90度の場合は、この電流はT相の静電容量分電流であることとなる。つまり、電流に240度の回転処理を施した場合に、当該電流の偏角が-30度よりも大きく90度以下であれば、少なくともT相に変化が生じてことが判明する。
【0047】
したがって、前述の電流IR1は、回転処理を施していない状態で偏角が0度なので、R相の電流と判断される。同様に、電流IR2は、240度の回転処理を施した状態で偏角が0度なのでT相の電流と判断され、電流IR3は、120度の回転処理を施した状態で偏角が0度なのでSの相の電流と判断される。また、電流IR4は、回転処理を施していない状態で偏角が90度なので、R相の電流と判断され、電流IR5は、120度の回転処理を施した状態で偏角が30度なのでSの相の電流と判断される。
【0048】
次に、電流解析部16が零相電流と初期零相電流値IRB0の差の解析を行う。この解析では、差の電流の偏角が0度の場合は、R相の抵抗分電流(回転処理なしの場合)、S相の抵抗分電流(120度回転の場合)、T相の抵抗分電流(240度回転の場合)と判断する。また、差の電流の偏角が90度の場合は、R相の静電容量分電流(回転処理なしの場合)、S相の静電容量分電流(120度回転の場合)、T相の静電容量分電流(240度回転の場合)と判断する。
【0049】
差の電流の偏角が0度よりも大きく90度よりも小さい場合には、R相の抵抗分電流と静電容量分電流の合成(回転処理なしの場合)、S相の抵抗分電流と静電容量分電流の合成(120度回転の場合)、T相の抵抗分電流と静電容量分電流の合成(240度回転の場合)と判断し、これらを分離する。
【0050】
また、差の電流の偏角が-30度よりも大きく0度よりも小さい場合には、R相の抵抗分電流とS相の静電容量分電流の合成(回転処理なしの場合)、S相の抵抗分電流とT相の静電容量分電流の合成(120度回転の場合)、T相の抵抗分電流とR相の静電容量分電流の合成(240度回転の場合)と判断し、これらを分離する。
【0051】
抵抗分電流と静電容量分電流の分離は、複素数の演算により行う。なお、複素数の演算に代えて複素ベクトルを用いたベクトル演算により抵抗分電流と静電容量分電流の分離を行うようにしてもよい。
【0052】
ところで、
図6乃至
図8に示した電流の複素平面での表示は説明のために用いたものであるが、これらを入出力部17に画面表示するようにしてもよい。電力回路等の電気設備の管理は、通常、電気主任技術者等の技術者が行うため、複素平面での表示は、これら技術者が直感的に電力回路の状態を把握する一助となる。
【0053】
4.三相3線回路
次に、電力回路が変圧器の低圧側が三角巻線で1相接地の三相3線回路の場合の監視装置10の動作について説明する。
図10は、三相3線回路の等価回路を示した図である。なお、同図に示した等価回路は、
図2に示した変圧器21の二次側回路または変圧器22の二次側回路に相当する。
【0054】
同図に示した等価回路では、ERS、EST、ETRは、それぞれ、R相-S相間の電源、S相-T相間の電源、T相-R相間の電源を表し、RR、RS、RTは、それぞれ、R相の絶縁抵抗、S相の絶縁抵抗、T相の絶縁抵抗を表し、CR、CS、CTは、それぞれ、R相の対地静電容量、S相の対地静電容量、T相の対地静電容量を表している。また、RBは、B種接地抵抗、RDは、D種接地抵抗を表している。なお、電力回路は、配線の距離が長く、分布定数回路として扱うことが適切であるが、ここでは、説明の簡易化のために、集中定数回路としている。
【0055】
図10に示した等価回路に監視装置10を設置する場合、零相電流測定部11は、B種接地抵抗RBを流れる電流を測定する。なお、零相電流測定部11は、幹線ケーブルの送電部から零相電流を取得してもよいが、その場合は、
図10中のTとRTの間のケーブルと、RとRRの間のケーブルと、SとRSの間のケーブルとのそれぞれを流れる電流の合計の電流を取得する。また、位相差特定部12は、前述したのと同様に、変圧器23の二次側回路のR相の電圧ERを取得する。
【0056】
図2に示した等価回路の商用電源20、及びEB(B種接地)は変圧器21、変圧器22、変圧器23に対して共通なので、商用電源20の星型巻線(変圧器21の一次側巻線と同じ)のR相電圧位相(変圧器23の二次側巻線のR相電圧位相と同じ)を基準とする。 その結果、変圧器21の二次回路のS相-R相間の電圧位相は基準より30度進んでおり、変圧器22の二次回路のS相-R相間の電圧位相は基準より60度進んでいる。
【0057】
したがって、監視装置10は、まず、回転処理部15が各電流の回転処理を行う。回転処理部15は、対象となる回路が変圧器22の二次側回路であれば、-30度の回転処理を行い、対象となる変圧器23の二次側回路であれば、-60度の回転処理を行う。
【0058】
図11は、回転処理部15による回転処理後の位相を示した図である。回転処理部15による回転処理の結果、S相-R相間の電圧の位相、つまり、R相の抵抗成分電流に対応するR相実軸が0度となる。したがって、R相の静電容量分に対応するR相虚軸が90度となり、T相の抵抗成分電流に対応するT相実軸が60度となり、T相の静電容量分に対応するT相虚軸が150度となる。
【0059】
続いて、初期零相電流と零相電流について説明する。
図12は、初期零相電流と零相電流を複素平面上に示した図である。
【0060】
初期値保持部13に記憶保持する初期零相電流値は、電力回路が健全な状態、つまり、
図10に示した等価回路では、各相の絶縁抵抗、RR、RS、RTの値が十分に大きい場合の値であり、S相をB種接地しているため、R相の対地静電容量CRとT相の対地静電容量CTを合成した対地静電容量に起因して流れる電流となる。このため、初期値保持部13に記憶保持している初期零相電流値IRB0の偏角は、R相虚軸とT相虚軸の間、つまり、90度以上150度以下となる。
【0061】
零相電流が変化した場合、例えば、
図12に示すような零相電流IRB11が測定された場合、相特定部14は、零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差である電流IR11を算出する。
【0062】
次に、相特定部14による回路に変化が生じた相の特定について説明する。相特定部14は、零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流である電流IR11の偏角が、予め定めたいずれの領域に含まれるかによって、回路に変化が生じた相の特定を行う。
図13は、偏角の領域を示した図である。
【0063】
図13に示すように、偏角の領域は、領域Aから領域Fまでの6領域がある。領域Aは、偏角が-90度(270度)よりも大きく0度以下の領域である。領域Aのうち、偏角が0度の部分は、R相実軸と一致する。
【0064】
また、領域Bは、偏角が0度よりも大きく60度以下の領域である。領域Bのうち、偏角が60度の部分は、T相実軸と一致する。
【0065】
領域Cは、偏角が60度よりも大きく90度以下の領域である。領域Cのうち、偏角が90度の部分は、R相虚軸と一致する。
【0066】
領域Dは、偏角が90度よりも大きく、初期値保持部13に保持している初期零相電流値IRB0の偏角以下の領域である。
【0067】
領域Eは、偏角が初期値保持部13に保持している初期零相電流値IRB0の偏角よりも大きく、150度以下の領域である。領域Eのうち、偏角が150度の部分は、T相虚軸と一致する。
【0068】
領域Fは、偏角が150度よりも大きく、270度(-90度)以下の領域である。
【0069】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Aに含まれる場合には、電流解析部16は、差の電流IR11をR相の抵抗分電流と、初期零相電流値IRB0の偏角と同じ偏角の直線を軸としたR相及びT相の静電容量分電流とに分離する。
【0070】
また、相特定部14は、電流解析部16が分離した電流のうちR相の抵抗分電流が大きい場合には、R相の絶縁の劣化またはR相における地絡の発生と判定し、R相及びT相の静電容量分電流が大きい場合には、初期零相電流値IRB0が流れる原因であったR相とT相の静電容量の減少と判定する。なお、入出力部17には、相特定部14が特定した零相電流IRB11の増加の原因、例えば、R相の絶縁の劣化またはR相における地絡の発生のみでなく、相特定部14が特定しなかった原因、例えば、R相とT相の静電容量の減少についても画面表示するようにしてもよい。つまり、零相電流IRB11の増加の原因となる可能性を全て列記して表示するようにしてもよい。
【0071】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Bに含まれる場合には、電流解析部16は、次の4通りに電流IR11を分離する。
【0072】
電流解析部16は、まず、電流IR11を、
図14に示すように、電流IR11Aと電流IR11Bとに分離する。電流IR11Aは、R相の抵抗分電流であり、電流IR11Bは、R相の静電容量分電流である。
【0073】
また、電流解析部16は、電流IR11を、
図15に示すように、電流IR11Cと電流IR11Dとに分離する。電流IR11Cは、T相の抵抗分電流であり、電流IR11Dは、T相の静電容量分電流である。
【0074】
また、電流解析部16は、電流IR11を、
図16に示すように、電流IR11Eと電流IR11Fとに分離する。電流IR11Eは、T相の抵抗分電流であり、電流IR11Fは、初期零相電流値IRB0の偏角と同じ偏角の直線軸としたR相とT相の静電容量分電流である。
【0075】
さらに、電流解析部16は、電流IR11を、
図17に示すように、電流IR11Gと電流IR11Hとに分離する。電流IR11Gは、R相の抵抗分電流であり、電流IR11Hは、T相の抵抗分電流である。
【0076】
相特定部14は、電流解析部16が分離した電流の値の大きさに基づいて、零相電流IRB11の増加の原因を特定する。具体的には、R相の抵抗分電流が大きい場合には、R相の絶縁の劣化またはR相における地絡の発生と判定し、R相の静電容量分電流が大きい場合には、R相の静電容量の増大と判定し、T相の抵抗分電流が大きい場合には、T相の絶縁の劣化またはT相における地絡の発生と判定し、T相の静電容量分電流が大きい場合には、T相の静電容量の増大と判定し、R相及びT相の静電容量分電流が大きい場合には、初期零相電流値IRB0が流れる原因であったR相とT相の静電容量の減少と判定する。また、R相の抵抗分電流とT相の抵抗分電流がともに大きい場合には、R相とT相の2相地絡と判定する。なお、入出力部17には、零相電流IRB11の増加の原因となる可能性を全て列記して表示するようにしてもよい。
【0077】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Cに含まれる場合には、電流解析部16は、差の電流IR11をT相の抵抗分電流とR相の静電容量分電流、T相の抵抗分電流とT相の静電容量分電流、T相の静電容量分電流とT相の静電容量分電流の3通りに分離する。相特定部14は、電流解析部16が分離した電流の値の大きさに基づいて、零相電流IRB11の増加の原因を特定する。
【0078】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Dに含まれる場合には、電流解析部16は、差の電流IR11をR相の静電容量分電流とR相及びT相の静電容量分電流、
R相及びT相の静電容量分電流とT相の静電容量分電流、R相の静電容量分電流とT相の静電容量分電流の3通りに分離する。相特定部14は、電流解析部16が分離した電流の値の大きさに基づいて、零相電流IRB11の増加の原因を特定する。
【0079】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Eに含まれる場合には、電流解析部16は、差の電流IR11をR相の静電容量分電流とR相及びT相の静電容量分電流、
R相及びT相の静電容量分電流とT相の静電容量分電流、R相の静電容量分電流とT相の静電容量分電流の3通りに分離する。相特定部14は、電流解析部16が分離した電流の値の大きさに基づいて、零相電流IRB11の増加の原因を特定する。
【0080】
零相電流IRB11と初期零相電流値IRB0の差の電流IR11の偏角が領域Fに含まれる場合には、電流解析部16は、差の電流IR11をT相の静電容量分電流とR相及びT相の静電容量分電流とに分離する。相特定部14は、電流解析部16が分離した電流の値の大きさに基づいて、零相電流IRB11の増加の原因を特定する。
【0081】
なお、三相3線回路の場合も、監視装置10は、複素平面上に電流を表すような表示を入出力部17に行わせてもよい。
【0082】
5.他回路による地絡の発生
ところで、実際には、対地静電容量が大きい場合、各相の対地静電容量が変化しなくとも、静電容量分電流が大きく変化し、零相電流IRBの増加の原因として特定される場合がある。これは、他の電力回路で地絡が発生した場合、例えば、監視装置10が変圧器21の二次側回路の一方を監視している際に変圧器21の他方の二次側回路に地絡が発生した場合に生じる現象である。
【0083】
監視装置10が監視している電力回路とは他の電力回路に地絡が生じた場合、大地と監視装置10が監視している電力回路の対地静電容量を含む回路が形成されることがあり、この場合には、監視装置10は、静電容量分電流の変化を検出することとなる。
【0084】
このとき、監視装置10が監視している電力回路の対地静電容量が大きい場合、それ自体は変化しなくても、検出される電流は、初期零相電流値IRB0の偏角の軸に沿ったもの(初期零相電流値IRB0の偏角と同じ偏角またはその偏角と180度異なる偏角であらわされる電流)となる。
【0085】
したがって、監視装置10は、入出力部17に零相電流の増加の原因となる可能性を全て列記して画面表示する際に、他の電力回路での地絡発生の可能性も列記し、零相電流の増加の原因の特定を容易に把握できるようにしてもよい。
【0086】
6.監視装置10の運用の流れ
次に、監視装置10の運用の流れについて説明する。
図18は、監視装置10の運用の流れを示すフローチャートである。
【0087】
(S101)
監視装置10の運用に際しては、まず、対象となる配線路の健全化試験を行う。この健全化試験では、配線路の絶縁が十分であることを確認する。
【0088】
(S102でNO、S103)
健全化試験に合格しなかった場合は、配線路の工事等を含む健全化処理を行う。
【0089】
(S102でYES、S104)
健全化試験に合格した場合は、続いて初期値の測定を行う。測定する値は、配線路の各相の対地静電容量と、所定の部分の電圧である。なお、対地静電容量の測定に代えて、監視装置10を動作させて初期零相電流値IRB0を測定するようにしてもよい。
【0090】
(S105)
初期値の測定が終了すると、測定した値に基づいて、初期零相電流値IRB0を算出し、算出した値を監視装置10に入力する。なお、監視装置10を動作させて初期零相電流値IRB0を測定した場合には、この処理を省略することができる。
【0091】
(S106)
初期値の入力が終了すると、監視装置10を動作させ、運用を開始する。
【0092】
7.監視装置10の動作の流れ
次に、監視装置10の動作の流れを説明する。
図19及び
図20は、監視装置10の動作の流れを示すフローチャートである。
【0093】
(S201)
監視装置10は、動作を開始すると、零相電流測定部11が測定した零相電流を取得する。
【0094】
(S202)
続いて、監視装置10は、前述した方法による計算を行う。
【0095】
(S203)
そして、その計算結果を保存する。
【0096】
(S204でNO)
零相電流を取得と、計算処理、計算結果の保存は、計算結果のうち所定の電流値が監視レベルを超過しない限り、定期的または連続して行う。
【0097】
(S204でYES)
一方、計算結果のうち所定の電流値、例えば、各相の抵抗分電流値が監視レベルを超過した場合には、地絡が発生したと判定する。
【0098】
(S205)
監視装置10は、地絡が発生したと判定した場合に、遮断器を動作させるための遮断信号を出力する。
【0099】
(S206)
続いて、警報信号を出力する。
【0100】
(S207)
そして、S203で保存した計算結果等を入出力部17に表示し、動作を終了する。
【0101】
(S301でYES、S302)
また、地絡が発生していない状態で、管理者等により情報表示の要求があった場合には、S203で保存した計算結果を取得する。
【0102】
(S303)
そして、取得した計算結果等を入出力部17に表示する。
【0103】
(S304でYES、S305)
入出力部17に表示した画面等は、所定時間の経過に伴って消去する。もちろん、管理者等の操作により、画面を消去しても良い。
【0104】
以上説明した構成と処理により、電力回路に絶縁の劣化や対地静電容量の変化が生じた場合や地絡が発生した場合に、これらの発生した相とその原因を容易に特定することが可能となる。
【0105】
また、電力の送電部に設置する零相変流器(ZCT)が検出する地絡電流の大きさと地絡点の地絡電流の大きさに2倍以上の差を生じることがあるため、 零相電流そのままを検出する現行の地絡電流検出技術では地絡点の電流を正確に検出できないが、監視装置10では、地絡点の電流を正確に検出することができる。
【0106】
なお、以上説明した監視装置10は、計測器、漏電遮断器(ELCB)、配線用遮断器(MCCB)、絶縁監視装置、地絡継電器等に組み込む形で、利用することも可能である。
【0107】
<その他>
本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0108】
コンピュータを、電力回路の地絡電流を検出又は監視する装置として機能させるプログラムであって、前記監視装置は、零相電流取得部と位相差特定部と初期値保持部と相特定部とを備え、前記零相電流取得部は、前記電力回路の零相電流の大きさを取得可能に構成され、前記位相差特定部は、前記電力回路の所定部分の電圧に基づいて該電圧と前記零相電流取得部が取得した零相電流との位相差を特定可能に構成され、前記初期値保持部は、前記電力回路の初期状態における零相電流を複素数で表現した値を初期零相電流値として記憶保持し、前記相特定部は、前記零相電流取得部が取得した零相電流の大きさと前記位相差特定部が特定した位相差とに基づいて前記電力回路の零相電流を複素数で表現した値と前記初期値保持部が記憶保持する初期零相電流値との差を算出し、該算出した差の偏角が前記電力回路の種別に応じて定めた複数の範囲のいずれに属するかを判定し、該判定の結果に基づいて前記電力回路の零相電流の発生相とその原因を特定可能に構成される、プログラム。
【符号の説明】
【0109】
10 :監視装置
11 :零相電流測定部
12 :位相差特定部
13 :初期値保持部
14 :相特定部
15 :回転処理部
16 :電流解析部
17 :入出力部
20 :商用電源
21 :変圧器
22 :変圧器
23 :変圧器
24 :負荷
25 :負荷
26 :負荷
27 :負荷
28 :負荷
29 :負荷
IR1 :電流
IR2 :電流
IR3 :電流
IR4 :電流
IR5 :電流
IR10 :電流
IRB0 :初期零相電流値
IRB1 :零相電流
IRB2 :零相電流
IRB3 :零相電流
IRB4 :零相電流
IRB5 :零相電流
IRB11 :零相電流