(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】高麗人参の発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220209BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20220209BHJP
C12P 33/00 20060101ALN20220209BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23L5/00 J
A23L33/00
C12P33/00
(21)【出願番号】P 2020029658
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2020-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501081498
【氏名又は名称】株式会社機能性食品開発研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 学
(72)【発明者】
【氏名】池田 昭
(72)【発明者】
【氏名】村上 允唯
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170246(JP,A)
【文献】特開2004-049154(JP,A)
【文献】特表2004-519224(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114650(WO,A1)
【文献】特開2012-012363(JP,A)
【文献】食品と開発,2010年,Vol.45, No.8,pp.60-61
【文献】食品工業,2012年,Vol.55, No.4,pp.72-73
【文献】発酵高麗人参EX|小林製薬の通販(健康食品・サプリメント), 2019 [検索日 2021.05.31], インターネット:<URL: https://www2.kobayashi.co.jp/food/item/54630/>
【文献】Food Sci. Biotechnol.,2019年,Vol.28, No.3,pp.823-829
【文献】Biol. Pharm. Bull.,2016年,Vol.39, No.9,pp.1461-1467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23L 33/00
C12P 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高麗人参と、β-グルコシダーゼ活性を有する菌を含む固体の菌床、又はβ-グルコシダーゼ活性を有する菌を含む培養液とを接触させて、コンパウンドKを含有する高麗人参の発酵物を製造する方法であり、β-グルコシダーゼ活性を有する菌は、白麹又は黒麹であり、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ活性に比して、より大きなβ-グルコシダーゼ活性を有するものである高麗人参の発酵物の製造方法。
【請求項2】
高麗人参は、栽培開始後1年目から6年目のものである請求項1に記載の高麗人参の発酵物の製造方法。
【請求項3】
高麗人参は、塩分の存在下で発酵が行われる請求項
1又は2に記載の高麗人参の発酵物の製造方法。
【請求項4】
β-グルコシダーゼ活性を有する菌は、カビ毒を生産しないものである請求項1ないし
3のいずれかに記載の高麗人参の発酵物の製造方法。
【請求項5】
製造される高麗人参の発酵物におけるコンパウンドK(CK)の含有量は、Rb1の含有量の8~60%である請求項1ないし
4のいずれかに記載の高麗人参の発酵物の製造方法。
【請求項6】
白麹は、Aspergillus Kawachiであり、
黒麹は、Aspergillus niger var. awamori、又はAspergillus luchuensisである請求項1ないし
5のいずれかに記載の高麗人参の発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高麗人参の発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高麗人参(Panax ginseng C.A. Meyer)は、朝鮮人参、オタネニンジン、薬用人参とも呼ばれている。高麗人参には、健胃強壮、鎮静、血糖調整、血圧調整などの効果があるとされている。高麗人参は、古くから生薬や漢方薬の原料として用いられてきた。
【0003】
高麗人参は、葉などの地上部に比して、根により強い薬理作用があることが知られている。高麗人参の根には、高麗人参に特有の化学構造を有するサポニンが含まれている。高麗人参に特有のサポニンは、ジンセノサイド(ginsenoside)と呼ばれる。ジンセノサイドとは、人参(ginseng)と配糖体(glycoside)とを合わせた造語である。ジンセノサイドが高麗人参の薬理効果を発揮させる有効成分であると考えられている。ジンセノサイドには、Rb1、Rd、F2、コンパウンドK(以下、CKと記載することがある。)など種々の配糖体が含まれる。
【0004】
特許文献1には、高麗人参に含まれるジンセノサイドをCKなどの希少なジンセノサイドに加水分解するジンセノサイドグルコシダーゼを精製する方法が記載されている。特許文献1には、黒カビ(Aspergillus niger)から単離したジンセノサイドグルコシダーゼは、Rb1、Rb2、Rc、又はRdなどの精製された基質を、CKに分解する活性があることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、生成された人参サポニンに対して、Aspergillus aculeatusから分離したペクチナーゼ及びYrichoderma reeseiから分離したペクチナーゼを添加し、30℃で72時間反応させて、CK及びCY(コンパウンドY)に転換する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2004-519224号公報
【文献】特表2018-537422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、ジンセノサイドには種々の配糖体が含まれる。そのうち、コンパウンドKが、高麗人参の薬理作用において主要な機能を発揮する。コンパウンドKは、天然状態の高麗人参の根にはほとんど含まれていない。人が高麗人参を摂食した際に、腸内細菌の作用によって、
図9に示したように、Rb1から、Rd、及びF2を経て、CKに代謝される。Rb1から、Gypenoside XVII、及びF2を経て、CKに代謝される経路も存在するが、Rb1をGypenoside XVIIに代謝する酵素活性は低いとされている。
【0008】
Rb1をCKに代謝する効率は、ヒトの腸内環境や腸内菌の構成に依存する。ヒトによって、腸内環境や腸内菌の構成は異なるため、高麗人参を摂食すれば、必ず腸内でCKが生成されて、CKの由来する効果が得られるというものではない。
【0009】
特許文献1及び特許文献2の方法では、精製した基質と精製した酵素を用いて、CKなどの稀少なジンセノサイドに転換する。しかしながら、このような方法では、CKを生成するために必要となる基質と、CKに分解するために必要となる酵素とを精製する必要があり、煩雑である。また、そのような基質や酵素の調達にコストがかかる。
【0010】
以上の問題点に鑑みて、本発明は、高麗人参からジンセノサイドを抽出せず、高麗人参とCKに代謝する酵素活性を有する微生物の培養物とを接触させて、CKの含有量を高めた高麗人参の発酵物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高麗人参からジンセノサイドを抽出しなくても、高麗人参と特定の菌とを接触させることにより、コンパウンドKを含有する高麗人参の発酵物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、高麗人参と、β-グルコシダーゼ活性を有する菌の培養物とを接触させて、コンパウンドKを含有する高麗人参の発酵物を製造する方法であり、β-グルコシダーゼ活性を有する菌は、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ活性に比して、より大きなβ-グルコシダーゼ活性を有するものである高麗人参の発酵物の製造方法である。
【0013】
上記の製造方法において、高麗人参は、栽培開始後1年目から6年目のものであることが好ましい。また、前記培養物としては、β-グルコシダーゼ活性を有する菌を含む固体の菌床又は培養液を例示することができる。固体の菌床には、固めのおかゆ程度のスラリー状の菌床が含まれる。また、上記の製造方法において、高麗人参は、塩分の存在下で発酵を行うことが可能である。また、上記の製造方法において、β-グルコシダーゼ活性を有する菌は、カビ毒を生産しないものとすることが好ましい。また、上記の製造方法によれば、例えば、コンパウンドK(CK)の含有量が、Rb1の含有量(質量)の8~60%である高麗人参の発酵物を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高麗人参からジンセノサイドを抽出せず、高麗人参とCKに代謝する酵素活性を有する微生物の培養物とを接触させて、CKの含有量を高めた高麗人参の発酵物を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図2】発酵前の生の1年根の高麗人参に含まれるジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである(参考1)。
【
図3】実施例2の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図4】発酵前の生の6年根の高麗人参に含まれるジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである(参考2)。
【
図5】実施例3の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図6】実施例4の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図7】比較例1の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図8】比較例2の方法で製造した発酵物のジンセノサイドの組成をHPLCで解析した結果を示すグラフである。
【
図9】ジンセノサイドであるRb1の代謝経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明は、高麗人参と、β-グルコシダーゼ活性を有する菌の培養物とを接触させて、コンパウンドKを含有する高麗人参の発酵物を製造する方法である。
【0018】
β-グルコシダーゼ活性を有する菌は、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ活性に比して、より大きなβ-グルコシダーゼ活性を有するものを使用する。上記の発酵物の製造方法では、ジンセノサイドを抽出せずに、高麗人参を菌の培養物と接触させて、発酵を行う。このような発酵においては、酵素活性を高くする必要がある。
【0019】
β-グルコシダーゼ活性を有する菌としては、例えば、醸造などの食品の発酵に用いられており、Apergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ活性に比して、より大きなβ-グルコシダーゼ活性を呈する菌を好適に使用することができる。そのような菌としては、例えば、白麹又は黒麹を好適に使用することができる。白麹としては、例えば、Aspergillus Kawachiを好適に使用することができる。また、黒麹としては、例えば、Aspergillus niger var. awamori、又はAspergillus luchuensisを好適に使用することができる。これらの菌は、Aspergillus nigerなどの黒カビとは異なり、カビ毒を生産しないため、好適に使用することができる。
【0020】
原料とする高麗人参は、ジンセノサイドを含有するものであればよく、Panax ginseng C.A. Meyerを好適に使用することができる。高麗人参には、水参、白参、紅参がある。水参は、生の高麗人参のことである。白参とは、皮を剥いた、又は皮を剥かずに、天日又は熱風等により所定の水分量以下となるように乾燥させたものである。紅参とは、皮を剥かずに蒸気で蒸した後に、所定の水分率となるように自然乾燥させたものである。水参、白参、及び紅参は、原料として、何れも使用することができる。白参、又は紅参を原料として使用する場合は、水分を加えてから発酵してもよい。白参、又は紅参は、加工する手間を加えることによってF2又はCKを含有するようになることがある。白参、又は紅参を原料として上記の方法により発酵すれば、F2又はCKの含有量をより増加させることができる。また、生の高麗人参である水参を原料として上記の方法により発酵すれば、乾燥や蒸しなどの加工の手間を加えなくても、F2又はCKの含有量を増加させることができる。
【0021】
原料とする高麗人参の栽培開始後の年数は、特に限定されないが、例えば、栽培開始後1年から6年が経過したものを好適に使用することができる。本明細書では、栽培開始後1年目の高麗人参の根を1年根と呼び、以降、2年根、3年根というように呼ぶ。高麗人参は、一般的に3年根まではジンセノサイドの含有量が少ないため商品価値が小さい。本発明の方法によれば、簡単な方法でコンパウンドKの含有量を増大させることができるので、3年根以下の高麗人参の商品価値を増大させることができる。
【0022】
発酵する際に、高麗人参は、単位重量当たりの表面積が大きくなるようにするために、切断して発酵を行ってもよい。
【0023】
上記の製造方法では、高麗人参と、β-グルコシダーゼ活性を有する菌の培養物とを接触させる。菌の培養物としては、β-グルコシダーゼ活性を有する菌を含む固体の菌床、又はβ-グルコシダーゼ活性を有する菌を含む培養液を例示することができる。固体の菌床は、例えば、種菌が資化することができるデンプンなどの栄養素を含む固体の基質と、種菌とを混合し、固体の状態で培養することで得ることができる。培養液は、例えば、種菌と液体の培地とを混合することにより得ることができる。培養液は、菌体などの固形分を除去するために、遠心分離、又は濾過などの処理を行ってもよい。
【0024】
菌の培養物と、高麗人参とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、菌床に高麗人参を埋設してもよいし、菌の培養液に高麗人参を浸漬してもよいし、菌床又は菌の培養液を高麗人参に散布してもよい。
【0025】
高麗人参を製造する方法においては、塩分と高麗人参とを接触させる工程を実施することが好ましい。塩分と高麗人参とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、塩分を菌の培養物に添加してもよいし、塩を高麗人参にまぶすなどの方法により高麗人参を処理してもよい。塩分と高麗人参とを接触させることにより、発酵過程における高麗人参の腐敗を防ぐことができる。また、高麗人参と塩分とを接触させることにより、浸透圧の差により、高麗人参の細胞膜を破壊して、菌の酵素が細胞内のジンセノサイドにアクセスしやすくなる。すなわち、塩分と高麗人参とを接触させることにより、ジンセノサイドがコンパウンドKにより変化しやすくなる。
【0026】
塩分としては、NaCl、又はKClなど、浸透圧により高麗人参の細胞膜を破壊したり、雑菌の細胞を破壊して腐敗を防止できるものが挙げられる。塩分の濃度は、例えば、5~35質量%、又は5~22質量%にすることができる。
【0027】
高麗人参と、β-グルコシダーゼ活性を有する菌とを接触させて、発酵を行う際の温度は、特に限定されないが、例えば、10~38℃とすることができる。前記温度は、18~30℃とすることが好ましく、積極的に加熱又は冷却を行わない常温とすることが好ましい。
【0028】
上記の方法で発酵した高麗人参では、Rb1等の基質が代謝されて、コンパウンドKが生成する。Rb1の含有量(質量)を基準とすると、コンパウンドK(CK)の含有量は、例えば、Rb1の含有量の8~60%にもなる。上記の方法で得られた発酵物は、そのまま摂食してもよいし、適宜加工して摂食してもよい。例えば、上記の発酵物を加工食品、栄養補助食品、健康食品、又は機能性食品などの原料としてもよい。また、上記の発酵物を、化粧品、漢方薬、医薬品、育毛剤、又は入浴剤などの原料にしてもよい。
【実施例】
【0029】
[菌の培養液の調整]
白麹菌(Aspergiullus Kawachi Kitahara & Yoshida, NBRC 4308)、黒麹菌(Aspergillus luchuensis Inui, NBRC4314)、醤油麹菌(Aspergillus sojae Sakaguchi & Yamada, NBRC4239)又は米麹菌(Aspergillus oryzae Cohn var. oryzae, NBRC 30113)を、それぞれポテトデキストロース寒天培地で十分に増殖させた。なお、Aspergillus oryzaeとAsprgillus sojaeは黄麹とも呼ばれる。菌が存在する部分の寒天培地を5mm四方の大きさになるようにかき取って、500mlの液体培地に移植した。液体培地は、0.2質量%NaNO3、0.2質量%KCl、0.1質量%KH2PO4、0.1質量%NH4NO3、0.1質量%(NH4)H2PO4、0.05質量%MgSO4・H2O、0.05質量%yeast extract、及び0.5質量%glucoseを配合し、pH6.0に調整した。菌を移植した液体培地を、26℃、120rpmで震とう培養した。培養開始の日を起算日として4日、8日、12日、又は16日が経過した培養液を、10000×g、10℃、20分の条件で遠心分離し、上清を培養液とした。
【0030】
上記の各培養液について、クロモザイム基質としてp‐ニトロフェニル‐β‐D‐グルコプラノシドを用いた方法でβ-グルコシダーゼ活性を求めた。具体的には、20mMのp‐ニトロフェニル‐β‐D‐グルコプラノシド水溶液0.5mlと、0.1Mの酢酸緩衝液(pH5.0)10mlと、各培養液0.5mlとを混合して、37℃で10分間反応させた後、0.2MのNa2CO3水溶液を2ml混合して、400nmにおける吸光度を測定した。1unitは1分間に1μmоlのp‐ニトロフェノールを遊離する酵素量とする。結果を表1に示す。単位は、munit/mlである。
【0031】
【0032】
表1に示されているように、白麹菌又は黒麹菌では、培養開始後12日目又は16日目において、菌の培養液1ml当たりの酵素活性が10~150munitにもなる。白麹菌では、菌の培養液1ml当たりの酵素活性が80~150munitにもなる。この酵素活性は、米麹菌又は醤油麹菌を大きく上回るものであった。倍率でいえば、白麹菌又は黒麹菌では、培養開始後12日目における米麹菌又は醤油麹菌の酵素活性を基準とすると、菌の培養液1ml当たりの酵素活性は、8~90倍にもなる。
【0033】
上記の白麹菌を用いて16日間培養した培養液について、塩分の存在下における酵素の安定性と経時的な酵素の安定性について評価した。前記培養液に、濃度が、それぞれ10質量%、15質量、20質量%となるようにNaClを添加して、25℃、暗所で静置して、20日ごとにβ-グルコシダーゼ活性を上記と同様の方法で求めた。結果を以下の表2に示す。
【0034】
【0035】
[麹床の調整]
白麹菌(Aspergiullus Kawachi Kitahara & Yoshida, NBRC 4308)、又は米麹菌(Aspergillus oryzae Cohn var. oryzae, NBRC 30113)を、それぞれポテトデキストロース寒天培地で十分に増殖させた。菌が存在する部分の寒天培地を5mm四方の大きさになるようにかき取って、当該寒天培地2片を、予めオートクレーブにより滅菌した100gの炊飯米を投入したビーカーに移植した。菌を移植した炊飯米を、暗所、28℃の条件で7日間培養した。得られた中間培養物を、60℃の炊飯米4合とよく混ぜ合わせた。混合物をタッパーに入れて、混合物の表面を平らに均して、食品用ラップフィルムで覆い、暗所で28℃の条件でさらに3日間にわたって培養した。得られた培養物に、200gのNaClを加えてよく混ぜ合わせて、混合物を樽に移し替えて蓋をした。この状態で、常温、暗所の条件で14日間にわたって静置し、麹床とした。
【0036】
白麹を移植して得た麹床の一部を採取して、15000×g、25℃、5分の条件で遠心分離を行い、上清を得た。この上清について、上記と同様の方法によってβ-グルコシダーゼ活性を求めたところ、その活性は、165munit/mlであった。
【0037】
[実施例1]生の1年根の高麗人参+白麹菌の培養液
実施例1の方法では、生の1年根の高麗人参と、白麹菌の培養液とを接触させて、高麗人参の発酵物を製造する。具体的には、以下の方法を実施した。
【0038】
生の1年根の高麗人参30gを細切りにしてガーゼに包んだ。表1の16日目における白麹菌の培養液を目開が0.45μmのフィルターで濾過した。濾過した白麹菌の培養液に対して、濃度が20質量%となるようにNaClを添加した。この培養液に、上記で準備したガーゼで包んだ高麗人参の細切りを投入し浸漬した。浸漬した高麗人参を、常温、暗所の条件下で28日間にわたって静置した。
【0039】
培養液からガーゼに包まれた高麗人参を取り出して、水洗した。次いで、水洗した高麗人参を、80容量%のエタノール水溶液150mlに加えて、ミキサーで破砕した。破砕された高麗人参を含有するエタノール水溶液をガラス瓶に移して密封し、当該ガラス瓶を80℃で14時間にわたって保温した。保温後に、ガラス瓶の内容物を濾紙を用いて濾過し濾液を得た。濾液の全量を減圧濃縮して、30mlの抽出エキスを得た。
【0040】
上記の抽出エキスを200μl採取して、これをn-ブタノール150μlと混合した。混合物を15000×g、25℃、5分の条件で遠心分離して、n-ブタノール層を回収した。回収したn-ブタノールに含まれるジンセノサイドの組成をHPLCにより解析した。
図1にHPLCの解析結果を示す。
【0041】
比較のために、生の1年根の高麗人参を、上記の白麹菌の培養液と接触させずに、上記と同様の方法によってエタノール抽出し、n-ブタノールと混合してHPLC用の測定試料を作成して、ジンセノサイドの組成を解析した結果を
図2に示す(参考1)。
【0042】
図2に示したように、発酵を行っていない1年根の高麗人参ではF2、CKに対応するピークは観察されない。
図1に示したように、白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、F2、CKに対応するピークが観察された。
図1又は
図2のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。「ピーク比率」は、Rb1、Rd、F2、又はCKのピークの高さの値の比を示す。発酵を行っていない1年根の高麗人参では、後述する表7において「参考1」として示すように、Rb1:Rd:F2:CK=68:32:0:0であった。実施例1の方法で白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示すように、Rb1:Rd:F2:CK=18:21:44:17であった。
【0043】
次いで、白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参について、標準試料による検量線を作成し、Rb1、Rd、F2、CKの含有量を求めた。求められた含有量を、以下の表3に示す。なお、含有量は、発酵後の高麗人参1g当たりに含まれる、Rb1、Rd、F2、又はCKの量(μg)を示す。含有比は、Rd1の含有量を1としたときに、Rd、F2、又はCKの含有比を示す。
【0044】
【0045】
[実施例2] 生の6年根の高麗人参+白麹菌の麹床
実施例2の方法では、生の6年根の高麗人参1本と、上述の白麹菌の麹床とを接触させて、高麗人参の発酵物を製造する。具体的には、以下の方法を実施した。
【0046】
生の6年根の高麗人参を上述の白麹菌の麹床の中に埋設し、常温かつ暗所の条件で28日間にわたって、静置した。静置している間には、3日に一度の頻度で、麹床をかき混ぜた。その後、麹床の中から発酵済みの高麗人参を取り出して、80容量%のエタノール水溶液150mlに加えて、ミキサーで破砕した。その後、実施例1と同様の方法により、保温、減圧濃縮を行い、抽出エキスを得た。実施例1と同様に、この抽出エキスをn-ブタノールと混合して、HPLC用の試料を調製した。
【0047】
回収したn-ブタノールに含まれるジンセノサイドの組成をHPLCにより解析した。
図3にHPLCの解析結果を示す。比較のために、生の6年根の高麗人参を、上記の白麹菌の麹床と接触させずに、つまり発酵を行うことなく、上記と同様の方法によってエタノール抽出し、n-ブタノールと混合してHPLC用の測定試料を作製して、ジンセノサイドの組成を解析した結果を
図4に示す(参考2)。
【0048】
図4に示したように、発酵を行っていない6年根の高麗人参ではF2、CKに対応するピークは観察されない。
図3に示したように、白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、F2、CKに対応するピークが観察された。
図3又は
図4のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。発酵を行っていない6年根の高麗人参では、表7において「参考2」として示すように、Rb1:Rd:F2:CK=72:28:0:0であった。実施例2の方法で白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示すように、Rb1:Rd:F2:CK=35:45:8:12であった。
【0049】
次いで、白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参について、Rb1、Rd、F2、CKの含有量と含有比を、実施例1と同様の方法により求めた。求められた含有量と含有比を表4に示す。
【0050】
【0051】
[実施例3] 半分に切断した6年根の生の高麗人参+白麹菌の麹床
実施例3の方法では、1/2すなわち半分に切断した生の6年根の高麗人参を原料として、発酵を行った点以外は、実施例2と同様にした。実施例3の方法で発酵を行った高麗人参のジンセノサイドの組成の解析結果を
図5に示す。
【0052】
図4に示したように、発酵を行っていない6年根の高麗人参ではF2、CKに対応するピークは観察されない。
図5に示したように、白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、F2、CKに対応するピークが観察された。
図5のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。発酵を行っていない6年根の高麗人参(参考2)では、上述の通り、Rb1:Rd:F2:CK=72:28:0:0であった。実施例3の方法により白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示したように、Rb1:Rd:F2:CK=35:43:7:15であった。
【0053】
次いで、白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参について、Rb1、Rd、F2、CKの含有量を求めた。求められた含有量を、以下の表5に示す。表4の結果と表5の結果を対比すると、高麗人参を元の大きさから小さくなるように切断して発酵すれば、F2、CKの含有量がより増大しやすくなる。切断により高麗人参の表面積が増大したことによるものと推測される。
【0054】
【0055】
[実施例4] 生の1年根の高麗人参+白麹菌の麹床
実施例4の方法では、生の1年根の高麗人参を原料として、発酵を行った点以外は、実施例2と同様にした。実施例4の方法で発酵を行った高麗人参のジンセノサイドの組成の解析結果を
図6に示す。
【0056】
上述の
図2に示したように、発酵を行っていない1年根の高麗人参(参考1)ではF2、CKに対応するピークは観察されない。
図6に示したように、白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、F2、CKに対応するピークが観察された。
図6のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。発酵を行っていない1年根の高麗人参(参考1)では、上述の通り、Rb1:Rd:F2:CK=68:32:0:0であった。実施例4の方法により白麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示したように、Rb1:Rd:F2:CK=40:39:7:14であった。
【0057】
次いで、実施例4の方法により白麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参について、Rb1、Rd、F2、CKの含有量を求めた。求められた含有量を、以下の表6に示す。
【0058】
【0059】
[比較例1] 生の1年根の高麗人参+米麹菌の培養液
使用する培養液を培養開始後16日目における米麹菌の培養液に変更した点以外は、実施例1と同様にして、発酵を行った。比較例1の方法で発酵を行った高麗人参のジンセノサイドの組成の解析結果を
図7に示す。
【0060】
上述の
図2に示したように、発酵を行っていない1年根の高麗人参ではF2、CKに対応するピークは観察されない。
図7に示したように、米麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、F2に対応するピークが観察されたものの、CKに対応するピークは観察されなかった。
図7のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。発酵を行っていない1年根の高麗人参では、上述の通り、Rb1:Rd:F2:CK=68:32:0:0であった。比較例1の方法により米麹菌の培養液を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示したように、Rb1:Rd:F2:CK=46:38:16:0であった。
【0061】
[比較例2] 生の6年根の高麗人参+米麹菌の麹床
使用する麹床を米麹菌の麹床に変更した点、原料として半分に切断した生の6年根の高麗人参を使用した点の計2点以外は、実施例2と同様にして、発酵を行った。比較例2の方法で発酵を行った高麗人参のジンセノサイドの組成の解析結果を
図8に示す。
【0062】
上述の
図4に示したように、発酵を行っていない6年根の高麗人参ではF2に、CKに対応するピークは観察されない(参考2)。
図8に示したように、米麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った比較例2の高麗人参では、F2に対応するピークが観察されたものの、CKに対応するピークは観察されなかった。
図8のグラフからRb1、Rd、F2、又はCKのピーク比率を求めた。発酵を行っていない6年根の高麗人参(参考2)では、上述の通り、Rb1:Rd:F2:CK=72:28:0:0であった。比較例2の方法により米麹菌の麹床を接触させることにより発酵を行った高麗人参では、表7に示したように、Rb1:Rd:F2:CK=57:32:11:0であった。
【0063】
【0064】
実施例1ないし実施例4の方法により製造された高麗人参の発酵物は、いずれもCKの含有量が向上し、F2の含有量も向上した。実施例1の方法は、白麹菌の培養液と高麗人参とを接触させるだけである。実施例2ないし実施例4の方法は、白麹菌の麹床と高麗人参とを接触させるだけである。実施例1ないし実施例4の方法では、何れも菌から酵素を精製する必要もなく簡便である。そして、実施例1ないし実施例4の方法では、CK又はF2などの生理活性を有する物質を含有する高麗人参の発酵物を製造するに際して、高麗人参から反応基質であるRb1等を抽出する必要がない。このように、各実施例の方法では、生の高麗人参を培養液又は麹床に接触させておくだけでCK又はF2などの生理活性を有する物質の含有量が高められた発酵物を簡単に得ることができる。
【0065】
麹床を使用する実施例2ないし実施例4の方法では、米と塩と菌とを混ぜることで麹床を調製する。高価な製造設備は不要であり、スケールアップよる量産や管理が容易である。
【0066】
高麗人参の1年根は、6年根など年数が経過した高麗人参に比して、Rb1などのジンセノサイドの含有量が少ないとされている。このため、1年根は、主にてんぷら等の食用とされてきた。上記の方法によれば、1年根においてもCKの量が向上する。このため、1年根を栄養補助食品、健康食品、機能性食品等の原料として利用することが可能になる。