(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】水酸化カルシウムを含有する複合体の固化方法
(51)【国際特許分類】
C04B 40/02 20060101AFI20220209BHJP
C04B 28/12 20060101ALI20220209BHJP
E04C 2/04 20060101ALI20220209BHJP
E04F 21/16 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B28/12
E04C2/04 E
E04F21/16 Z
(21)【出願番号】P 2017234359
(22)【出願日】2017-12-06
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】513282685
【氏名又は名称】株式会社シリカライム
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】本山 鉄朗
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-043020(JP,A)
【文献】特開2015-205267(JP,A)
【文献】特開2005-179170(JP,A)
【文献】特表2013-530075(JP,A)
【文献】特開平02-229774(JP,A)
【文献】特開平09-110556(JP,A)
【文献】MARAVELAKI-KALAITZAKI Pagona,Hydraulic lime mortars with siloxane for waterproofing historic masonry ,Cement and Concrete Research,2007年02月,Vol.37 No.2,Page.283-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
C04B41/00-41/72
E04F 21/00-21/32
E04C 2/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性石灰を含む複合体組成物を固化させて白華現象の生じ難い複合体を得る方法であって、
基材上に前記複合体組成物を上塗りする上塗工程と、上塗りされた前記複合体組成物の表面に遮蔽材を配置する配置工程と、をその順で含
み、
前記配置工程において、前記複合体組成物との間に1mm~50mmの隙間を有するように前記遮蔽材を配置して、前記隙間内の二酸化炭素濃度を60ppm以下としてそれ以外の二酸化炭素濃度よりも低くする、ことを特徴とする複合体の固化方法。
【請求項2】
前記隙間内の二酸化炭素濃度は、前記複合体組成物
が固化して前記複合体になるまで、前記隙間以外の二酸化炭素濃度よりも低い、
請求項1に記載の複合体の固化方法。
【請求項3】
前記配置工程において、前記隙間内に不活性ガスを存在させる、
請求項1又は2に記載の複合体の固化方法。
【請求項4】
前記遮蔽材が、パネル、シート及びフィルムから選ばれるいずれかである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体の固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化カルシウムを含有する複合体の固化方法に関する。さらに詳しくは、水硬性石灰や、気硬性の漆喰のような水酸化カルシウムを含有する複合体の固化過程で発生し易い白華現象を抑制することができる固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の内装仕上げ構造として、下地材の表面に塗材や微粒子を吹き付けて多孔質の壁面を形成したりタイル化したりする技術が知られている。例えば、石膏ボード、木材、合板等からなる下地材の表面に、珪藻土、活性炭、活性炭素繊維、分子ふるい炭素、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等の無機多孔質物質を配合した塗材やシラス等の微粒子を吹き付けて多孔質の壁面を形成したり、それらの無機多孔質物質を焼成してタイル化したりする技術が知られている。特に無機多孔質物質は、その細孔内に種々の分子を物理吸着することが知られており、室内の湿度調整、臭気成分、揮発性有機化合物(VOC、Volatile Organic Compoundsともいう。)を吸着させる機能を有する内壁等の製品が市販されている。また、臭気成分やVOCの除去を目的として、光触媒活性物質を上塗りした建造物の内壁等が開発されており、代表的な光触媒活性物質である酸化チタンで内壁、天井、壁、床、浴槽、洗面スペース、蛇口等をコーティングすることによって抗菌性を付与させた製品も市販されている。
【0003】
こうした技術については、従来から、吸湿性、放湿性、イオン吸着・交換能等を併せ持つケイ酸カルシウム水和物系の調湿材料等が提案されている。しかしながら、これら従来から存在する手法では、孔が極めて小さいために気体の導入が困難であったり、吸着力の弱い物理吸着や化学吸着を利用しているために吸着物質が再放出され易かったりといった課題があった。
【0004】
本出願人は、上述した課題を解決するために、環境中の有害化学物質を容易に再放出させることなく効果的に吸着して吸収することができる安全性の高い多孔性の複合体及びその製造方法について既に特許出願をしている(特許文献1を参照)。この複合体は、水酸化カルシウムを主成分として含む水硬性石灰あるいは気硬性の漆喰等を含有するものであり、その組成物を壁面等に上塗り等して固化させる際に、得られる複合体の表面に粉状の白華(エフロレッセンス)と呼ばれる物質が析出することがある。これは、得られる複合体の表面部に水分と共に移動した水酸化カルシウムCa(OH)2と大気中の二酸化炭素CO2とが反応して白い粉状の炭酸カルシウムCaCO3(白華)が析出する現象をいい、一般的に白華現象と呼ばれる。析出した白華は、付着により人の肌や衣類を汚したり、複合体の美観を下げたりする要因となる。
【0005】
白華現象の発生を防ぐための技術として、例えば特許文献2には、粘土鉱物が焼成されてなる焼成粘土鉱物を含有するモルタルの白華抑制剤組成物が提案されている。また、特許文献3には、アルミナセメントに対しマイクロシリカとジルコニアとを所定の割合で混入したセメント系固化材が提案されている。これらの技術は、組成物中に白華抑制作用のある材料を含有させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-205267号公報
【文献】特開2014-189470号公報
【文献】特開2017-66015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2,3に記載された技術は、白華抑制作用のある材料を、予め製造したり、モルタル等に所定の割合で混合させたりしなければならない。このため、材料コストがアップするとともに、モルタルやセメント材料等をそのまま利用できないという難点がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、水硬性石灰や気硬性の漆喰のような水酸化カルシウムを含有する複合体の固化過程で生じ易い白華現象の発生を抑制することができる固化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る複合体の固化方法は、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物を固化させて白華現象の生じ難い複合体を得る方法であって、基材上に前記複合体組成物を上塗りする上塗工程と、上塗りされた前記複合体組成物の表面に遮蔽材を配置する配置工程と、をその順で含む、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、上塗りされた複合体組成物の表面に遮蔽材を配置するので、複合体組成物と遮蔽材とが接触した状態、又は複合体組成物と遮蔽材と間に極めて僅かな隙間が形成された状態になり、遮蔽材が大気中の二酸化炭素と複合体組成物との接触を遮断又は抑制する。そのため、複合体組成物に対する大気中からの二酸化炭素供給量を減少させることができる。その結果、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物を固化させて、白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【0011】
本発明に係る複合体の固化方法の前記配置工程において、前記複合体組成物との間に隙間を有するように前記遮蔽材を配置して、前記隙間内の二酸化炭素濃度がそれ以外の二酸化炭素濃度よりも低くすることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、複合体組成物の表面と遮蔽材との間に隙間を有するように遮蔽材を配置して、隙間内の二酸化炭素濃度がそれ以外の二酸化炭素濃度よりも低くするので、複合体組成物への二酸化炭素供給量をさらに減少させて、さらに白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【0013】
本発明に係る複合体の固化方法において、前記隙間内の二酸化炭素濃度が、60ppm以下であることが好ましい。この発明によれば、隙間内の二酸化炭素濃度を上記範囲内としたので、複合体組成物に含まれる水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化して白華することを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る複合体の固化方法において、前記隙間内の二酸化炭素濃度は、前記複合体組成物が乾燥して前記複合体になるまで、前記隙間以外(例えば、室内等)の二酸化炭素濃度よりも低いことが好ましい。この発明によれば、隙間内の二酸化炭素濃度が、複合体組成物が乾燥して複合体になるまで、隙間以外の二酸化炭素濃度よりも低いので、さらに白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【0015】
本発明に係る複合体の固化方法の前記配置工程において、前記隙間内に不活性ガスを存在させることが好ましい。この発明によれば、隙間内に不活性ガスを存在させるので、隙間内の二酸化炭素濃度がそれ以外の二酸化炭素濃度よりもさらに低くして、さらに白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【0016】
本発明に係る複合体の固化方法において、前記遮蔽材が、パネル、シート及びフィルムから選ばれるいずれかであることが好ましい。この発明によれば、遮蔽材が、パネル、シート及びフィルムのうちいずれかになるので、大掛かりな装置を用いることなく、作業者が容易に持ち運びできる材料を用いて、白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【0017】
本発明に係る複合体の固化方法において、前記複合体組成物が、水硬性石灰を含むことが好ましい。この発明によれば、水硬性石灰を含む複合体組成物を用いた場合であっても、白華現象の生じ難い複合体を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水硬性石灰や気硬性の漆喰のような水酸化カルシウムを含有する複合体の固化過程で生じ易い白華現象を抑制することができる固化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】複合体の固化方法の一例を示す模式図である。
【
図2】複合体の固化方法の他の一例を示す模式図である。
【
図4】複合体組成物の表面から遮蔽材が大きく離れてしまうことを防ぐ方法の一例を示す模式図である。
【
図5】得られた複合体の表面形態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図5に示した複合体についての水銀圧入法による細孔径分布曲線(マクロ孔)の例を示す図であり、曲線aは積分値を示し、曲線bは微分値を示している。
【
図7】本発明に係る複合体の固化方法を用いた塗り壁と、用いなかった塗り壁とを比較した写真である。(A)は遮蔽材を配置した直後の状態を示す写真である。(B)は基材に複合体組成物を上塗りしてから1日経過した後に、遮蔽材が取り外された状態を示す写真である。(C)は遮蔽材が取り外されてからさらに1日経過した後の状態を示す写真である。
【
図8】
図7に示した塗り壁の状態の例を示す図であり、複合体組成物の内部の温度及び湿度と、複合体組成物の外部の温度と、遮蔽材の内側の二酸化炭素濃度とを示している。
【
図9】白華の二酸化炭素濃度依存性についての試験結果を示す、試験サンプルの比較写真である。
【
図10】
図9の試験サンプルの状態の例を示す図である。(A)は二酸化炭素濃度を約400ppm程度の高い水準に維持させた場合の温度と二酸化炭素濃度とを示している。(B)は二酸化炭素濃度を約60ppm程度の低い水準に維持させた場合の温度及び湿度と、二酸化炭素濃度とを示している。(C)は二酸化炭素濃度を一時的に高くした場合の温度及び湿度と、二酸化炭素濃度とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る複合体の固化方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明に係る複合体の固化方法は、
図1~
図4に示すように、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物11を固化させて、白華現象の生じ難い複合体12を得る方法である。詳しくは、基材10に複合体組成物11を上塗りする上塗工程と、上塗りされた複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置する配置工程とを、その順で含む方法である。この固化方法は、上塗りされた複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置するので、複合体組成物11と遮蔽材20とが接触した状態、又は複合体組成物11と遮蔽材20と間に極めて僅かな隙間が形成された状態となり、遮蔽材20が大気中の二酸化炭素と複合体組成物11との接触を遮断又は抑制して、複合体組成物11への二酸化炭素供給量を減少させることができる。その結果、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物11が自然乾燥して固化すると、白華現象の生じ難い複合体12を得ることができる。
【0022】
白華現象とは、複合体組成物11の内部から表面部に水分と共に移動した水酸化カルシウムCa(OH)2と大気中の二酸化炭素CO2とが反応することにより、蒸発しない炭酸カルシウムCaCO3が析出される現象をいう。すなわち、白華とは、複合体組成物11の主成分である水酸化カルシウムCa(OH)2と、大気中の二酸化炭素CO2とが反応して白色の結晶(炭酸カルシウムCaCO3)となって複合体組成物11の表面に析出される物質であり、次式(1)で示すことができる。
【0023】
Ca(OH)2+CO2→CaCO3 ・・・(1)
【0024】
基材10に上塗りされた複合体組成物11として、いわゆる塗り壁材が用いられる。このため、複合体組成物11に含まれる水分が蒸発することにより、基材10上で複合体組成物11が固化して複合体12が得られる。複合体組成物11に含まれる水分の蒸発が、複合体組成物11の内部ではなく、複合体組成物11の表面部で集中的に起こった場合に白華現象が生じ易くなる。例えば、冬期等の気温が低い時期は、複合体組成物11自体の温度も低くなるため、水分の蒸発は、複合体組成物11の内部では起こらず、複合体組成物11の表面部でのみ集中的に起きる。このため、白華現象が生じ易くなる。梅雨や秋期の長雨等の時期は、多湿となるため、冬期等の気温が低い時期と同様に、水分の蒸発が複合体組成物11の内部では起こらず、複合体組成物11の表面部でのみ集中的に起こる。このため、白華現象が生じ易くなる。これに対して、夏期等の気温が高い時期は、複合体組成物11自体の温度も高くなるため、水分の蒸発は複合体12の表面部だけではなく内部でも起こる。このため、複合体組成物11の表面部のみで水分の蒸発が集中的に起きず、白華現象が生じ難い。
【0025】
以上をまとめると、白華現象は、以下の(a)及び(b)の事象が原因となって生じる。(a)水酸化カルシウムCa(OH)2を含む水分が、複合体組成物11の表面部に移動する。(b)複合体組成物11の表面部に移動した水分に含まれる水酸化カルシウムCa(OH)2と、大気中の二酸化炭素CO2とが反応する。
【0026】
本発明に係る複合体固化方法によれば、白華現象の原因となる上記(a)及び(b)の事象が生じることを防ぐことができるため、複合体12の表面部に白華現象が生じることを防ぐことができる。
【0027】
以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0028】
[上塗工程]
上塗工程は、基材10に、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物11を上塗りする工程である。
【0029】
(基材)
基材10は特に限定されず、例えば、プラスターボード、セメントモルタルコンクリート、合板等の木下地、クロス系下地、旧塗り壁等に代表される各種のものを挙げることができる。
【0030】
プラスターボードは、JIS製品規格(せっこうボード製品、JIS A6901:2014)に適合したものであればよく、必要に応じて目地処理、目地埋め、下塗りを行ったものを基材10とすることが好ましい。セメントモルタルコンクリートは、必要に応じて下地の確認、アク止めシーラーの上塗り、下塗りを行ったものを基材10とすることが好ましい。下地の確認内容は、セメントモルタルコンクリートの表面に白華現象等が生じている場合はこれを除去し、ひび割れ等が生じている場合はその補修を行うことが好ましい。セメントモルタルコンクリートを使用する場合は、セメントモルタルコンクリートの上にプラスターボードを設置して、必要に応じて目地処理、目地埋め、下塗りを行ったものを基材10とすることがより好ましい。合板等の木下地は、必要に応じてアク止めシーラーの上塗り、ファイバーテープ貼り、下塗りを行ったものを基材10とすることが好ましい。合板等の木下地を使用する場合は、合板等の木下地の上にプラスターボードを増し貼りして、必要に応じて目地処理、目地埋め、下塗りを行ったものを基材10とすることがより好ましい。クロス系下地は、必要に応じてタッカー留め、下地クロス貼り、モルタル塗り、アク止めシーラーの上塗り、下塗りを行ったものを基材10とすることが好ましい。塗り壁は、必要に応じてハツリ、アク止めシーラーの上塗り、下塗りを行ったものを基材10とすることが好ましい。
【0031】
(複合体組成物の上塗り方法)
基材10上に複合体組成物11を上塗りする方法としては、塗り固め工法、流し込み工法、吹付工法、ローラー工法等における上塗りの方法を挙げることができる。塗り固め工法では、複合体組成物11を基材10上に上塗りする。流し込み工法では、複合体組成物11を型に流し込むことで上塗りする。吹付工法では、複合体組成物11を基材10の表面に吹き付けることで上塗りする。ローラー工法では、基材10上に複合体組成物11を載せた後にローラーで引き延ばすことで上塗りする。なお、複合体組成物11を基材10に上塗りする際には、上述の工法を単独で適用してもよいし、2種類以上の工法を併せて適用してもよい。
【0032】
[配置工程]
配置工程は、上塗りされた複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置する工程である。
【0033】
遮蔽材20は、複合体組成物11の表面全体を隠すように配置する。遮蔽材20は、
図1に示すように、複合体組成物11の表面全体に接触するように配置してもよいし、
図2及び
図3に示すように、複合体組成物11との間に、距離Dを1mm~50mm程度とする隙間31が形成されるように配置してもよい。
【0034】
複合体組成物11の表面全体に遮蔽材20が接触するように配置すると、複合体組成物11と遮蔽材20とが接触している部分の他に、複合体組成物11と遮蔽材20と間に極めて僅かな隙間が形成される部分が生じる場合がある。この場合であっても、遮蔽材20が複合体組成物11に含まれる水分の蒸発を防ぐので、表面部の急激な乾燥を防ぐことができる。つまり、白華現象の原因となる上記(a)の事象が生じることを防ぐことができる。さらに、遮蔽材20が大気中の二酸化炭素と複合体組成物11との接触を遮断又は抑制するため、複合体組成物11に含まれる水酸化カルシウムと、大気中の二酸化炭素との反応を防ぐことができる。
【0035】
上述したように、複合体組成物11に含まれる水酸化カルシウムは、大気中の二酸化炭素と反応するため、複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置すると、遮蔽材20の内側の二酸化炭素濃度は時間とともに低下する。複合体組成物11の表面部の二酸化炭素濃度は、遮蔽材20の外側よりも低ければ特に限定されないが、60ppm以下であることが好ましい。このように、複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置すると、白華現象の原因となる上記(a)及び(b)の事象が生じることを防ぐことができるので、複合体12の表面部に白華現象が生じることを防ぐことができる。
【0036】
遮蔽材20を配置する具体的な方法は特に限定されない。例えば、マスキングテープ(養生テープ)等を用いて配置することができる。遮蔽材20の材質も特に限定されない。複合体組成物11が大気中の二酸化炭素に触れることを防ぐことができ、かつ、水分の蒸発を防いで複合体組成物11の表面部の急激な乾燥を防ぐことができる材質のものであればよい。例えば、一般的に用いられる薄いビニルシート等を遮蔽材20として採用することができる。
【0037】
複合体組成物11との間に隙間31が形成されるように遮蔽材20を配置した場合であっても、複合体組成物11の表面全体に遮蔽材20が接触するように配置した場合と同様の効果を有する。隙間31により形成される空間は、僅かなものである方が二酸化炭素の絶対量が少ないので、高い効果を得ることができる。一方で、密閉性を確保することができる部屋の中で施工が行われる場合には、遮蔽材20を配置しなくても白華現象の発生を抑制することができる。例えば6~8畳程度の部屋で施工が行われる場合には、広い部屋よりも密閉性を確保し易いので、作業者が密閉性を確保ながら施工を行うことにより、遮蔽材20を配置することなく白華現象の発生を抑制することができる。部屋内の密閉性を確保する方法は特に限定されないが、複合体組成物11の上塗りを行った後、複合体組成物11が固化するまでは、ドアや窓を閉め切った状態にする必要になる。ドアや窓を閉め切った状態にすると、部屋内の二酸化炭素濃度が徐々に低くなるので、白華現象の発生を抑制することができる。さらに、作業者の出入口となるドア以外のドアや窓の淵に目張りを行えば、部屋内の二酸化炭素濃度の低下を促進させるので、白華現象を抑制する効果をより一層高めることができる。この場合、6~8畳程度の部屋よりも広い部屋であっても白華現象の発生を抑制することができる。このように、隙間31内や、密閉性が確保された部屋内の二酸化炭濃度は徐々に低くなるが、さらに、隙間31内や、密閉性が確保された部屋内の二酸化炭素を強制的に減らしてもよい。
【0038】
隙間31内の二酸化炭素を強制的に減らすための方法は特に限定されないが、隙間31内に不活性ガスを流し込んでもよい。隙間31内に不活性ガスを流し込むので、大気中の二酸化炭素と複合体組成物11との接触を遮断する効果をさらに高めることができる。その結果、複合体組成物11に含まれる水酸化カルシウムと、大気中の二酸化炭素とが反応することを防ぐ効果をさらに高めることができる。すなわち、白華現象の原因となる上記(a)及び(b)の事象が生じることを防ぐ効果をさらに高めることができるので、複合体12の表面部に白華現象が生じることを防ぐ効果をさらに高めることができる。不活性ガスとしては、窒素、又は希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン等)を主成分とするガスを使用することができる。隙間31内に不活性ガスを流し込む方法は特に限定されないが、例えば
図2及び
図3に示すように、遮蔽材20の一部に通気口21を設けて、この通気口21から隙間31内に不活性ガスを流し込んでもよいし、図示はしないが、遮蔽材20の端部から隙間31内に不活性ガスを流し込んでもよい。密閉性が確保された部屋で施工が行われる場合には、隙間31内に不活性ガスを流し込むのと同様に、部屋内に不活性ガスを流し込むことで、遮蔽材20を配置することなく複合体12の表面部に白華現象が生じることを防ぐ効果をさらに高めることができる。
【0039】
複合体組成物11の表面に隙間31を設けずに、複合体組成物11に遮蔽材20を接触させて配置した後に、配置した遮蔽材20の表面との間に隙間31が形成されるように第2の遮蔽材(図示せず)をさらに配置してもよい。この場合、白華現象の原因となる上記(a)及び(b)の事象が生じることを防ぐ効果をさらに高めることができるので、複合体12の表面部に白華現象が生じることを防ぐ効果をさらに高めることができる。
【0040】
隙間31内に不活性ガスを流し込んだ場合、不活性ガスの膨圧力により、遮蔽材20が複合体組成物11の表面から大きく離れてしまうことがある。遮蔽材20が複合体組成物11の表面から大きく離れると、それに伴い遮蔽材20に貼付されたマスキングテープ(養生テープ)が剥がれてしまうおそれがある。そこで、
図4に示すように、遮蔽材20の表面に複数の突っ張り棒22を配置してもよい。複数の突っ張り棒22を配置するので、複合体組成物11の表面から遮蔽材20が大きく離れてしまうことを防ぐことができる。その結果、遮蔽材20に貼付されたマスキングテープ(養生テープ)が剥がれてしまうことを防ぐことができる。
【0041】
(固化した複合体)
白華の生じ難い複合体12は、水酸化カルシウムを含有する複合体組成物11を、上述の方法で固化することにより得られる複合体である。水酸化カルシウムを含有する複合体組成物11としては、水硬性石灰や、空気中の二酸化炭素を吸収して強度を出す気硬性の漆喰等を材料とする複合体組成物11を挙げることができる。以下では、水硬性石灰を含む複合体組成物11を代表例として説明する。
【0042】
水硬性石灰に含まれる水酸化カルシウムは、複合体12のマクロ孔内の吸着成分として機能する。吸着成分は、化学物質との間で中和反応又は化学反応を行うことにより、この化学物質を吸着して吸収したり、化学物質を含む溶媒(例えば水蒸気)と反応して、この化学物質を吸着して吸収したりする成分である。水酸化カルシウムは、縮合反応(ホルモース反応)を起こし易いので、室内環境中のホルムアルデヒド等の成分を効果的に吸着し吸収することができる。さらに、水酸化カルシウムは、強アルカリ性であるため、酸性ガスと中和し易いので、室内環境中の硫化水素、フッ化水素、塩化水素、二酸化硫黄、塩素、二酸化窒素等の酸性ガスを効果的に吸着し吸収することができる。
【0043】
水硬性石灰には、天然水硬性石灰(NHL、Natural Hydraulic Lime)と人工水硬性石灰とが含まれる。天然水硬性石灰は、建築用石灰の欧州規格EN459-1(2001)によれば、「粉砕に関係なく消化によって粉末化した、いくらか粘土質又は珪質の石灰石の焼成によって作られる石灰。すべてのNHLは水硬性を持つ。大気中の炭酸ガスは、硬化に寄与する。」と定義されている。本明細書では、「天然水硬性石灰」の用語を上記の欧州規格と同じ意味で用いる。代表的な天然水硬性石灰は、NHL2、NHL3.5、及びNHL5の3種類である。上記の欧州規格には、この3種類の天然水硬性石灰の圧縮強度が規定されており、NHL2の圧縮強度が2~7N/mm2であり、NHL3.5の圧縮強度が3.5~10N/mm2であり、NHL5の圧縮強度が5~15N/mm2とされている。天然水硬性石灰は、二酸化ケイ素SiO2等を含有する石灰石を焼成・消化することによって得られ、水酸化カルシウムCa(OH)2を主成分として、ケイ酸二カルシウムC2S等の水和物を含む石灰である。天然水硬性石灰に含有される水和物C2Sは、β-C2Sが主である。C2S等の水和物は、水との接触により水酸化カルシウムCa(OH)2の結晶間を結合させ、さらに炭酸化により水酸化カルシウムCa(OH)2は表層面から次第に炭酸カルシウムCaCO3結晶へと変化する。炭酸カルシウムCaCO3結晶は、C2S等の水和物によって結合状態を保っており、その水和物は同じ炭酸化作用によって炭酸カルシウムCaCO3結晶へと変化する。表層が炭酸化すると、炭酸カルシウムCaCO3結晶は隙間を含んだ粒状構造を形成し、奥の水酸化カルシウムCa(OH)2に対し空気中の二酸化炭素が供給され、炭酸化が緩やかに進行する。すなわち、天然水硬性石灰は、水硬性・気硬性を併せ持つ材料であり、後述する骨材と水との混合による硬化後、強度を発現するものである。
【0044】
人工水硬性石灰は、消石灰(水酸化カルシウム)にポゾラン物質(珪酸SiO2、アルミナAl2O3、酸化鉄Fe2O3等の鉱物)を後から添加した石灰であり、「ローマンセメント」や「古代セメント」とも呼ばれる。人工水硬性石灰は、上記の欧州規格において、「水硬性石灰(HL、Hydraulic Lime):水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸カルシウムを主成分とし、これらの混合によって作られる石灰。水硬性を持つ。大気中の炭酸ガスは、硬化に寄与する。」と定義されている。本明細書では、「人工水硬性石灰」の用語を上記の欧州規格と同じ意味で用いる。
【0045】
吸着成分は、複合体12のマクロ孔内に入る化学物質の種類に応じて異なる構成としてもよい。例えば、マクロ孔内に入る化学物質が、アンモニア、トリメチルアミン、メチルアミン、エチルアミン等のアミン類等の塩基性成分を含む化学物質である場合や、水溶性の化学物質である場合には、吸着成分は、塩基性成分や水溶性の化学物質を効果良く吸着し吸収するシラノール基(Si-OH)を含むように構成してもよい。
【0046】
複合体12は、水銀圧入法による細孔径分布測定から求められる細孔径が50nm以上のマクロ孔内に、上述した吸着成分を有する。これにより、環境中の有害化学物質は、容易に再放出されることなく、効果的にマクロ孔内に吸着され吸収されるため、環境中の有害化学物質が無害化されるという格別の効果を奏する。例えば、複合体12は、室内の温度が40℃を超えるような環境でも、一度吸着した化学物質を再放出しないという特徴がある。複合体12は、環境中の有害化学物質を、容易に再放出させることなく効果的に吸着して吸収することができるとともに、安全性も高いという利点がある。
図6は、水銀圧入法による細孔径分布曲線(マクロ孔)の例であり、曲線aは積分値を示し、曲線bは微分値を示している。複合体12は、例えば住宅の内壁、パネル、パーテーション、床、天井、プレート、タイル等の板状物や、テーブルやタンス等の家具等の表面に使用することができる。
【0047】
複合体12は、上述の吸着成分を含有する材料と、骨材と、水系溶媒との混合物である複合体組成物11を固化することによって得られる。複合体組成物11の材料は、上述の吸着成分を含有するものであればよい。このため、マクロ孔全体を吸着成分で形成させてもよいし、マクロ孔の内面のみを吸着成分で形成させてもよいし、マクロ孔の内面の一部を吸着成分で形成させてもよい。マクロ孔の孔内のみを吸着成分で形成させた場合には、マクロ孔の内面の全体又は一部に吸着成分を存在させることができる。例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、メタクリル樹脂のような樹脂と、水硬性石灰等とを混ぜ合わせたものを複合体組成物11の材料とすることにより、マクロ孔の内面の全体又は一部に上述の吸着成分を存在させることができる。
【0048】
複合体組成物11を構成する骨材は、複合体の脆さ等を補填して強度や耐久性を高めるための素材である。骨材としては、花崗岩;麦飯石等の花崗斑岩;珪砂等の石英;石英斑岩;凝灰岩(十和田石等);火山灰;等の天然鉱物を採用することができる。また、モンモリロナイト、ベントナイト等の粘度鉱物、珪藻土、ゼオライト、パーライト、マールライト、バーミキュライト、ガラスビーズ、活性炭、籾殻、藁すさ、グラスファイバー、グラスウール、等々を骨材として採用することもできる。これら骨材は、吸着成分や構造が同様のものであれば、天然物であってもよいし、人工物であってもよい。
【0049】
骨材は、2種類以上の骨材の混合であってもよい。この場合、1種類目の骨材に添加される2種類目以降の骨材としては、複合体組成物11の吸着性能を向上させることができる骨材であることが好ましい。例えば、1種類目の骨材として花崗岩が採用されている場合には、添加される2種類目以降の骨材として、モンモリロナイト、ゼオライト、珪藻土、活性炭等を採用するとよい。これらの骨材は、マイクロ孔やメソ孔を有するため、複合体組成物11の吸着性能を向上させることができる。
【0050】
上述の吸着成分を含有する材料と骨材との配合比は特に限定されないが、少なくとも、細孔径が50nm以上のマクロ孔を生成できる配合比で調整されていることが好ましい。吸着成分を含有する材料に対する骨材の質量割合は、材料1質量部に対し骨材が0.5質量部以上10質量部以下の範囲内であれば、固化により得られる複合体12の強度を確保することができる。このため、複合体12の強度を確保することができる範囲内で、吸着成分を含有する材料と骨材との配合比を任意に設定することができる。これに対して、吸着成分を含有する材料に対する骨材の質量割合が0.5質量部未満である場合には、骨材の配合量が少なくなるため、複合体の強度が低下することがある。
【0051】
複合体組成物を構成する水系溶媒は、代表的には水であるが、大部分が水であれば、その中に水溶性の有機化合物等が含まれていてもよい。
【0052】
複合体12のマクロ孔は、水銀圧入法による細孔径分布測定から求められる細孔径が50nm以上の大きさで多数形成されている。マクロ孔は、細孔径が2nm未満のマイクロ孔や、細孔径が2nm以上50nm未満のメソ孔とは異なり、細孔径が大きな孔であるため、メソ孔やマイクロ孔に比べて気体が孔内に入り易い。特に、室内等に存在する揮発性有機化合物(VOC)及びその他の臭気成分等が含まれた空気や、揮発性有機化合物(VOC)及びその他の臭気成分等が溶け込んだ水蒸気がマクロ孔の孔内に入り易い。マクロ孔の細孔径の上限は特に制限されないが、製造の容易さや気体の抜け等の観点から、500μm以下であればよい。マクロ孔の細孔径が500μmを超えると、マクロ孔が大きすぎて、マクロ孔内に入った化学物質が吸着されずに再放出されてしまうおそれがあるからである。
【0053】
マクロ孔の細孔径は、水銀圧入法による細孔径分布測定から求められる。この水銀圧入法は、複合体について、圧力を加えながらその細孔内に水銀を浸入させ、圧力と圧入された水銀量との関係から、比表面積や細孔径分布等の情報を得る手法である。なお、水銀圧入法による測定装置の一例としては、水銀ポロシメーター(例えば、Quantachrome社製 PoreMaster60GT等)を用いることができる。
【0054】
本発明では、こうした水硬性石灰や気硬性の漆喰を含有する複合体組成物が好ましく適用でき、白華現象の生じ難い機能的な複合体を得ることができる。
【実施例】
【0055】
実施例と比較例により本発明を詳しく説明する。
【0056】
[実施例1]
水硬性石灰(産地:フランス東部、CaO:60.1質量%、SiO2:11.5質量%、Al2O3:2.83質量%、Fe2O3:0.90質量%、MgO:1.73質量%)と、骨材としての花崗岩(産地:滋賀県)とを質量比で1:3の割合で水中に入れて混練し、複合体組成物11を調整した。この複合体組成物11を、壁に見立てた石膏ボードに上塗りし、複合体組成物11の表面に隙間31を設けることなく遮蔽材20を配置した。その後、複合体組成物11を自然乾燥させて、複合体12が得られた時点で遮蔽材20を取り外した。
【0057】
その外観写真と、実施例1の環境とを
図7に示した。二酸化炭素濃度の測定は、非分散型赤外線式吸収法(NDIR)によって二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度計(ビーズ株式会社製、GC-02)を用いて行った。温度及び湿度の測定と測定結果の収集は、サーミスタ(thermistor)で温度を測定し、高分子膜抵抗式の湿度センサーで湿度を測定する温度・湿度計(株式会社ティアンドデイ製、RTR-503)と、無線通信(光通信)により測定結果を収集するデータコレクタ(株式会社ティアンドデイ製、RTR-500DC)を用いて行った。
【0058】
[比較例1]
実施例1で使用した複合体組成物11を、壁に見立てた石膏ボードに上塗りし、遮蔽材20を配置しないで自然乾燥させて複合体12を得た。その外観写真と、比較例の環境を
図7に示した。なお、二酸化炭素濃度の測定機器、温度及び湿度の測定機器については、いずれも実施例1と同様のものを用いた。
【0059】
[白華現象発生試験1]
(測定)
実施例1と比較例1について、複合体組成物11が固化して複合体12が得られるまでの間に白華現象が生じるかどうかを目視により評価した。実施例1は、基材10に複合体組成物11を上塗りしてから約30分経過した後に遮蔽材20を配置して、1日経過してから遮蔽材20を取り外した。実施例1に対する目視による評価は、基材10に複合体組成物11を上塗りしてから1日経過した時点と、遮蔽材20を取り外してから1日経過した時点との2回実施した。比較例1に対する目視による評価は、基材10に複合体組成物11を上塗りしてから1日経過した時点と、その時点からさらに1日経過した時点との2回実施した。
【0060】
(結果)
実施例1は、基材10に複合体組成物11を上塗りしてから1日経過した時点で白華現象は生じていなかった(
図7(
B)の右側の壁)。実施例1は、遮蔽材20を取り外してから1日経過した時点でも複合体12に白華現象が生じていなかった(
図7(
C)の右側の壁)。これに対して、比較例1は、基材10に複合体組成物11を上塗りした後、1日経過した時点で既に複合体12に白華現象が生じていた。その後、さらに1日経過すると、比較例1は、複合体12の白華現象がさらに進行していた。
【0061】
白華現象発生試験1の試験結果から、複合体組成物11の内部の温度IT、複合体組成物11の内部の湿度IH、複合体組成物の外部の温度OT、及び遮蔽材の内側の二酸化炭素濃度Pと、時間との関係を示す
図8に示されるように、基材10に複合体組成物11を上塗りした後、複合体組成物11の表面に遮蔽材20を配置すると、まず、複合体組成物11に含まれるカルシウムCaのイオン化が起こり、大気中の二酸化炭素CO
2との化学反応によって炭酸カルシウムCaCO
3が生成される。この化学反応より少し遅れて、複合体組成物11の水和反応が起こり、水酸化カルシウムCa(OH)
2が生成される。その後、炭酸カルシウムCaCO
3が生成される化学反応と、水酸化カルシウムCa(OH)
2が生成される水和反応とが競争的に起こる。二酸化炭素CO
2が十分に存在する環境下では、炭酸カルシウムCaCO
3が生成される化学反応が優先的に進み、複合体組成物11の表面に炭酸カルシウムCaCO
3が析出される。これに対して、二酸化炭素CO
2が不十分である環境下では、水酸化カルシウムCa(OH)
2が生成される水和反応が優先的に進み、複合体組成物11の構造化にカルシウムCaが取り込まれる。さらに、複合体組成物11の構造化によって水分の動きが阻害されることとなり、複合体組成物11の表面に炭酸カルシウムCaCO
3が析出し難くなり、白華現象が生じ難くなることがわかった。すなわち、本発明に係る複合体固化方法によれば、白華現象の原因となる上記(a)及び(b)の事象が生じる事を防ぐことができることがわかった。
【0062】
[白華現象発生試験2]
(試験用サンプルA)
実施例1及び比較例1で使用した複合体組成物11を、基材10となる石膏ボードに上塗りし、これを3つのプラスチック容器それぞれに収納して密封した。1つ目の容器は、内部に1分あたり約15Lの外気を送り込み、1つ目の容器内の二酸化炭素濃度を約400ppm程度の高い水準に維持させながら複合体組成物11を自然乾燥させて複合体12を得た。その外観写真を
図9に示し、1つ目の容器内の環境を
図10(A)に示した。
【0063】
(試験用サンプルB)
2つ目の容器は、内部に水酸化カルシウムCa(OH)
2水溶液を存在させることで、2つ目の容器内の二酸化炭素濃度を約60ppm程度の低い水準に維持させながら複合体組成物11を自然乾燥させて複合体12を得た。その外観写真を
図9に示し、2つ目の容器内の環境を
図10(B)に示した。
【0064】
(試験用サンプルC)
3つ目の容器は、複合体組成物11を自然乾燥させて複合体12を得たが、自然乾燥の途中で容器内に200~400mL程度の二酸化炭素CO
2ガスを2回に分けて流し込むことで、容器内の二酸化炭素濃度を一時的に高めた。その外観写真を
図9に示し、3つ目の容器内の環境を
図10(C)に示した。
【0065】
(測定)
試験用サンプルA(1つ目の容器)、試験用サンプルB(2つ目の容器)、試験用サンプルC(3つ目の容器)について、白華現象が生じているかどうかを目視により評価した。
【0066】
(結果)
図9に示すように、容器内部の二酸化炭素濃度を約60ppm程度の低い水準に維持させた試験用サンプルB(2つ目の容器)のみ白華現象が生じなかった。これに対して、容器内部の二酸化炭素濃度を約400ppm程度の高い水準に維持させた試験用サンプルA(1つ目の容器)は、複合体の表面に残った塗りムラに応じて白華現象が生じた。自然乾燥の途中で容器内に200~400mL程度の二酸化炭素CO
2ガスを2回に分けて流し込むことで容器内の二酸化炭素濃度を一時的に高くした試験用サンプルC(3つ目の容器)は、複合体12の表面全体に白華現象が生じた。白華現象発生試験2の試験結果から、複合体組成物11は固化する過程で、二酸化炭素濃度が低い環境下にある程、白華現象が生じ難いことがわかった。
【0067】
以上、本発明に係る複合体の固化方法について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。また本発明に係る要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更や上記実施の形態の組み合わせを施してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 基材
11 複合体組成物
12 複合体
20 遮蔽材(ビニルシート等)
21 通気口
22 突っ張り棒
31 隙間
A 試験用サンプル
B 試験用サンプル
C 試験用サンプル
D 複合体組成物と遮蔽材との距離
IT 複合体組成物の内部の温度
IH 複合体組成物の内部の湿度
OT 複合体組成物の外部の温度
P 遮蔽材の内側の二酸化炭素濃度