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特許7021782有機-無機ハイブリッドペロブスカイトナノ結晶およびそれを作製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】有機-無機ハイブリッドペロブスカイトナノ結晶およびそれを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 21/16 20060101AFI20220209BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220209BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20220209BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20220209BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220209BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220209BHJP
【FI】
C01G21/16
C09K11/08 G ZNM
H01L31/04 112Z
C09K11/66
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2018554693
(86)(22)【出願日】2017-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 US2017023609
(87)【国際公開番号】W WO2017184292
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-02-27
(31)【優先権主張番号】62/326,312
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518148685
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ランド、 バリー
(72)【発明者】
【氏名】ケルナー、 ロス
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、 ツェングオ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536450(JP,A)
【文献】特表2017-536697(JP,A)
【文献】特表2015-529982(JP,A)
【文献】Masi, S. et al.,Growing perovskite into polymers for easy-processable optoelectronic device,SCIENTIFIC REPORTS,2015年,5,7725,DOI: 10.1038/srep07725
【文献】SCHMIDT, L. C. et al.,Nontemplate Synthesis of CH3NH3PbBr3 Perovskite Nanoparticle,Journal of American Chemical Society,2014年,136(3),pp.850-853,DOI: 10.1021/ja4109209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 21/16
C09K 11/08
H01L 51/44
C09K 11/66
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層を含むナノ粒子組成物であって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<z<3である)の結晶である、
ナノ粒子組成物。
【請求項2】
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層を含むナノ粒子組成物であって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、
ナノ粒子組成物。
【請求項3】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、50nm未満の平均サイズを有する、請求項1または2に記載のナノ粒子組成物。
【請求項4】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、20nm未満の平均サイズを有する、請求項1または2に記載のナノ粒子組成物。
【請求項5】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、15nm未満の平均サイズを有する、請求項1または2に記載のナノ粒子組成物。
【請求項6】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、請求項1または2に記載のナノ粒子組成物。
【請求項7】
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項8】
前記有機アンモニウムイオンが、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含む、請求項7に記載のナノ粒子組成物。
【請求項9】
前記リガンドは、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、請求項1~8のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項10】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、10nm未満の二乗平均平方根(RMS)表面粗度を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項11】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、1nm未満のRMS粗度を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項12】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、ピンホールを有さない、請求項1~11のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項13】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、電磁スペクトルの可視または赤外領域においてピーク発光を示す、請求項1~12のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項14】
連続相と、
前記連続相中に分散したナノ粒子相であって、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む、ナノ粒子相とを含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<z<3である)の結晶である、
ナノ粒子組成物。
【請求項15】
連続相と、
前記連続相中に分散したナノ粒子相であって、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む、ナノ粒子相とを含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、
ナノ粒子組成物。
【請求項16】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、50nm未満の平均サイズを有する、請求項14または15に記載のナノ粒子組成物。
【請求項17】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1nm未満~10nmの平均サイズを有する、請求項14または15に記載のナノ粒子組成物。
【請求項18】
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、請求項14~17のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項19】
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の光活性層を備える光電子デバイスであって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<z<3である)の結晶である、
光電子デバイス。
【請求項20】
前記リガンドが、前記光電子デバイスの動作から生じる前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のスピノーダル分解を阻害する、請求項19に記載の光電子デバイス。
【請求項21】
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の光活性層を備える光電子デバイスであって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、
光電子デバイス。
【請求項22】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、請求項19~21のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項23】
前記リガンドは、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、請求項19~22のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項24】
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項25】
前記光活性層が、発光ダイオードの発光層である、請求項19~24のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項26】
前記発光ダイオードが、8.5%超の外部量子効率を有する、請求項25に記載の光電子デバイス。
【請求項27】
前記光活性層が、光起電装置の光吸収層である、請求項19~24のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項28】
ナノ粒子組成物を作製する方法であって、
溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む混合物を用意するステップと、
基材への前記混合物の塗布により層を形成するステップと、
非溶媒を塗布して、前記溶媒の少なくとも一部を前記層から除去し、前記添加剤に結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を提供するステップであり、前記添加剤が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズを有する、ステップとを含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、
方法。
【請求項29】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記添加剤は、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記添加剤が、有機アンモニウムイオンを含む、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記有機アンモニウムイオンが、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、10nm未満のRMS表面粗度を有する、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記溶媒が、非プロトン性有機溶媒を含む、請求項28~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記非溶媒が、無極性有機溶媒を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記添加剤対前記有機-無機前駆体のモル比が、10:100から60:100の範囲である、請求項28~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ナノ粒子組成物を作製する方法であって、
溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体材料および少なくとも1種の添加剤を含む溶液を用意するステップと、
前記溶液への非溶媒の添加により、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の分散体を形成するステップであり、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、前記添加剤に結合した表面を含み、前記添加剤が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである、ステップとを含み、
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利の陳述
本発明は、海軍研究事務所から受けた助成金No.N00014-17-1-2005、および、国防総省国防高等研究事業局(DARPA)から受けた助成金No.D15AP00093の下で政府支援によりなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願データ
本出願は、35 U.S.C. §119(e)に従い、2016年4月22日に出願された米国仮特許出願第62/326,312号の優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、金属ハライドペロブスカイト組成物、特に有機-無機金属ハライドペロブスカイトナノ粒子、およびそれを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
有機-無機ハイブリッドペロブスカイト半導体をベースとする光起電力技術は、ここ数年で実質的な進歩を遂げている。また、光起電技術としてだけでなく、ペロブスカイトはバンドギャップが調整可能で、色純度が高く、材料が低コストであることから、発光ダイオード(LED)およびレーザ等の他の光電子用途のための新規材料として集中的に調査もされている。
【0005】
しかしながら、ペロブスカイトナノ結晶の従来の溶液合成法は、デバイス用途において3つの主要な欠点を有する。まず、合成プロセスが複雑であり、通常、洗浄および遠心分離による数サイクルの精製を必要とする。さらに、溶液中のコロイド状ナノ結晶の合成には、長い隔離性のリガンド(例えばオレイルアミンおよびオレイン酸)が必要である。そのようなリガンドは、ナノ結晶表面をコーティングし、デバイス性能を低減する。最後に、コロイド状ナノ結晶の均一な高密度膜を達成することが困難である。これは、ナノ結晶懸濁液が低濃度(約0.5mg/ml)で飽和し、また膜形成の間、実質的な凝集、または、バルク相への転換さえが膜の均一性を低下させ、ピンホールがない膜の形成を妨げるためである。ペロブスカイトナノ結晶が膜調製中にポリマーマトリックス内に形成され得る、いくつかの代替的な「in-situ」合成法が提案されている。それにもかかわらず、ペロブスカイト-ポリマーマトリックスをベースとするLEDは、高い抵抗率および注入障壁に起因する高い起動電圧および低い出力効率の問題を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの欠点を鑑み、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶組成物が本明細書に記載され、いくつかの実施形態において、ナノ結晶組成物は、膜形成および関連した発光特性の向上、ならびに混合ハライド系の光誘引性および/またはバイアス誘引性スピノーダル分解経路への抵抗性を提供する。また、本明細書において、有機-無機金属ハライドペロブスカイトナノ結晶層または膜のin-situ調製のための方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、ナノ粒子組成物は、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層を含み、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む。いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)のナノ結晶である。したがって、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、単一ハライドまたは混合ハライド組成物であってもよい。混合ハライド組成物のいくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0<z<3である)のナノ結晶である。本明細書においてさらに説明されるように、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の1つまたは複数の層が、光起電デバイスおよび発光ダイオード(LED)を含む様々な電子デバイスの光活性層として使用され得る。
【0008】
別の態様において、ナノ粒子分散体が提供される。ナノ粒子分散体は、いくつかの実施形態において、連続相と、連続相中に分散したナノ粒子相であって、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む、ナノ粒子相とを含む。
【0009】
別の態様において、ナノ粒子組成物を作製する方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、ナノ粒子組成物を作製する方法は、溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む混合物を用意するステップと、基材への混合物の塗布により層を形成するステップとを含む。非溶媒を塗布して、溶媒の少なくとも一部を層から除去し、添加剤に結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を提供する。添加剤は、ペロブスカイト結晶の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである。
【0010】
ナノ粒子組成物を作製する方法は、他の実施形態において、溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む溶液を用意するステップと、溶液への非溶媒の添加により、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の分散体を形成するステップであり、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、添加剤に結合した表面を含み、添加剤が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである、ステップとを含む。
【0011】
これらの、および他の限定されない実施形態は、以下の詳細な記載においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本明細書に記載の一実施形態による有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の概略図である。
【0013】
図2】ナノ結晶表面と結合したリガンドにより形成されたマトリックス内に位置する有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の一実施形態を示す図である。
【0014】
図3図3a~3fは、いくつかの実施形態による、様々なモル比のn-ブチルアンモニウムリガンドを有するI-ペロブスカイト膜の原子間力顕微鏡画像である。
【0015】
図3g~3lは、いくつかの実施形態による、様々なモル比のn-ブチルアンモニウムリガンドを有するBr-ペロブスカイト膜の原子間力顕微鏡画像である。
【0016】
図3mおよび3nは、いくつかの実施形態による、様々な比のn-ブチルアンモニウムリガンドでのI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜のX線回折データである。
【0017】
図4図4a~4bは、いくつかの実施形態によるI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜それぞれの吸収スペクトルを示す。
【0018】
図4c~4dは、いくつかの実施形態によるI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜それぞれのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。
【0019】
図5図5a~5bは、いくつかの実施形態によるn-ブチルアンモニウムリガンドのモル比増加に伴うI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのPL強度の増加を示す。
【0020】
図6図6aは、いくつかの実施形態による有機-無機ペロブスカイトLEDの概略図である。
【0021】
図6bおよび6cは、いくつかの実施形態によるI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDそれぞれのエネルギー準位図である。
【0022】
図7図7a~7cは、いくつかの実施形態による、n-ブチルアンモニウムモル比の関数としてのI-ペロブスカイト正規化エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトル、密度-電圧-輝度(J-V-L)曲線および外部量子効率(EQE)それぞれを示す。
【0023】
図7d~7fは、いくつかの実施形態による、n-ブチルアンモニウムモル比の関数としてのBr-ペロブスカイト正規化ELスペクトル、密度-電圧-輝度(J-V-L)曲線およびEQEそれぞれを示す。
【0024】
図8図8a~8cは、いくつかの実施形態による、BAI:MAPbIのモル比が0:100および20:100のときのI-ペロブスカイトLEDの電流密度、輝度およびEQEそれぞれを示す。
【0025】
図8d~8fは、いくつかの実施形態による、BABr:MAPbBrのモル比が0:100および20:100のときのI-ペロブスカイトLEDの電流密度、輝度およびEQEそれぞれを示す。
【0026】
図8gおよび8hは、いくつかの実施形態による、5.0Vの一定電圧でのI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDそれぞれの定常状態EQE測定値を示す。
【0027】
図8iおよび8jは、N下での保存期間の関数としての非カプセル化I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDそれぞれの貯蔵安定性を示す。
【0028】
図9図9aは、添加剤を含まない従来の有機-無機ペロブスカイト層の断面透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【0029】
図9bは、マトリックス形態内にナノ結晶を有する、いくつかの実施形態において本明細書に記載の方法により調製された有機-無機ペロブスカイト層の断面TEM画像である。
【0030】
図9cは、添加剤を含まない有機-無機ペロブスカイト層の高解像度TEM画像である。
【0031】
図9dは、いくつかの実施形態による、添加剤を含む本明細書に記載の有機-無機ペロブスカイト層の高解像度TEM画像である。
【0032】
図9eは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のヒストグラムであり、結晶サイズ分布は各粒子の短径を用いて決定されており、正規分布フィッティングを伴っている。
【0033】
図10】添加剤を含まない有機-無機ペロブスカイト層の断面走査TEM画像。
【0034】
図11】マトリックス形態内のナノ結晶を示す、添加剤を含む有機-無機ペロブスカイト層の断面走査TEM画像である。
【0035】
図12図12aは、図11のMAPbIナノ結晶の電子回折パターンを示す。
【0036】
図12bは、図11におけるMAPbIナノ結晶の周りのマトリックス材料の電子回折パターンを示す。
【0037】
図13図13aおよび13bは、いくつかの実施形態による、FPMAI添加剤を含む、および、含まない、それぞれの有機-無機ペロブスカイト膜の定常状態PLスペクトルおよびTRPLデータを示す。
【0038】
図14図14aは、LEDの有機-無機ペロブスカイト層がFPMAI添加剤を含まない断面TEMの画像である。
【0039】
図14bは、いくつかの実施形態による、LEDの有機-無機ペロブスカイト層がFPMAI添加剤を含む断面TEMの画像である。
【0040】
図15図15aは、図14aのLEDデバイスの概略的エネルギーバンド図である。
【0041】
図15bは、図14bのLEDデバイスの概略的エネルギーバンド図である。
【0042】
図16図16aは、図14aおよび14bの、FPMAI添加剤を含むおよび含まない、それぞれのLEDデバイスのエレクトロルミネッセンス(EL)を示す。
【0043】
図16bは、FPMAI添加剤を含むおよび含まない、それぞれの、図14aおよび14bのLEDデバイスの電流密度-放射輝度-電圧(J-R-V)曲線を示すグラフである。
【0044】
図16cは、それぞれFPMAI添加剤を含むおよび含まない、それぞれの、図14aおよび14bのLEDデバイスのEQE対電流密度曲線を示すグラフである。
【0045】
図16d~16fは、図17aのLEDデバイスのELスペクトル、電流密度-輝度-電圧(J-L-V)およびEQE曲線を示す。
【0046】
図17図17aは、いくつかの実施形態によるPEABr添加剤を含むLEDデバイスを示す。
【0047】
図17bは、いくつかの実施形態による有機-無機ペロブスカイトナノ結晶サイズのヒストグラムである。
【0048】
図18図18aおよび18bは、いくつかの実施形態による、3mA/cmの一定電流密度でのMAPbIおよびMAPbBr LEDそれぞれの動作安定性を示す。
【0049】
図19図19a~19cは、いくつかの実施形態による、混合ハライド有機-無機ペロブスカイトLEDのデバイス構造およびエネルギー準位を示す。
【0050】
図20図20a~20cは、いくつかの実施形態による、混合ハライドペロブスカイト太陽電池のデバイス構造およびエネルギー準位図を示す。
【0051】
図21図21a~cは、いくつかの実施形態による、様々な構成の混合ハライド有機-無機光起電デバイスの照明前および照明後のVOCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本明細書に記載の実施形態は、以下の詳細な説明および実施例、ならびにそれらの前述および後述の記載を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本明細書に記載の元素、装置および方法は、詳細な説明および実施例において示される特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態は、単に本発明の原理を例示するものであることが理解されるべきである。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの修正および適応が当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0053】
定義
「アルキル」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、直鎖または分岐状飽和炭化水素基を指す。例えば、アルキルは、C~C30であってもよい。
【0054】
「アルケニル」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖炭化水素基を指す。
【0055】
「アリール」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、任意で1つまたは複数の環置換基で置換される、芳香族単環式または多環式環系を指す。
【0056】
「ヘテロアリール」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、環原子の1つまたは複数が炭素以外の元素、例えば窒素、酸素および/または硫黄等である芳香族単環式または多環式環系を指す。
【0057】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、任意で1つまたは複数の環置換基で置換される、非芳香族飽和単環式または多環式環系を指す。
【0058】
「シクロアルケニル」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有し、任意で1つまたは複数の環置換基で置換される、非芳香族単環式または多環式環系を指す。
【0059】
「ヘテロアルキル」という用語は、本明細書において単独または組み合わせて使用される場合、1つまたは複数の炭素原子、例えば1つ、2つまたは3つの炭素原子が、同じまたは異なってもよい1つまたは複数のヘテロ原子で置き換えられた、上で定義されるようなアルキル部分を指す。
【0060】
II.ナノ粒子組成物
有機-無機ペロブスカイトナノ粒子組成物が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、ナノ粒子組成物は、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層を含み、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む。いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)のナノ結晶である。したがって、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、単一ハライドまたは混合ハライド組成物であってもよい。有機カチオンAは、ペロブスカイト構造の格子間空隙に適合する任意の有機カチオンであってもよい。いくつかの実施形態において、有機カチオンAは、アンモニウムイオン、アルキル-アンモニウムイオンまたはホルムアミジニウムイオンである。アルキル-アンモニウムイオンは、いくつかの実施形態において、CHNH および/またはCHCHNH を含んでもよい。さらに、Bは、ペロブスカイト結晶構造のBX八面体を共有する頂点に適合する任意の金属カチオンであってもよい。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、Bは、鉛(Pb)カチオンであるが、他の遷移金属または希土類元素であってもよい。さらに、いくつかの実施形態において、XおよびYは、独立にCl、IおよびBrから選択される。
【0061】
また、混合ハライド系の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)のナノ結晶であってもよい。A、B、XおよびYの具体例は、上に記載されている。Meは、向上した原子サイズ許容度を有する構造的に安定な混合ハライドペロブスカイトを生成する能力を含むいくつかの考慮点に従って選択され得る。いくつかの実施形態において、Meは、I-ペロブスカイトとBr-ペロブスカイトとの間の結晶構造の差に起因する不安定性問題を軽減し得る。いくつかの実施形態において、Meは、セシウム(Cs)カチオンであってもよい。
【0062】
本明細書に記載のように、リガンドは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の表面に結合する。好適なリガンドは、無機結晶構造の八面体頂点部位へのリガンドの組み込みを防止または阻止するのに十分な大きさである。上記のサイズ要件に適合し、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶表面と結合するように作用可能である任意のリガンドが使用され得る。いくつかの実施形態において、好適なリガンドは、1つまたは複数の種の有機アンモニウムイオンを含む。有機アンモニウムイオンは、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含んでもよい。アルキル、ヘテロアルキルおよび/またはアルケニルアンモニウムイオンの場合、炭素鎖は、八面体頂点サイズ除外要件に適合するために十分長く、および/または分岐していてもよい。同様に、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよび/またはヘテロアリールアンモニウムイオンは、八面体頂点サイズ除外要件に適合するために十分大きい環構造および/または付随する環置換基を呈し得る。いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の表面に結合したリガンドは、n-ブチルアンモニウム(BA)、4-フルオロフェニルメチルアンモニウム(FPMA)、フェニルアンモニウムおよび/またはフェニルアルキルアンモニウム、例えばフェニルエチルアンモニウムまたはフェニルメチルアンモニウムを含む。
【0063】
図1は、本明細書に記載の一実施形態による有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の概略図である。図1に示されるように、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、MAPbX(式中、MAは、メチルアンモニウムカチオンである)で形成される。n-ブチルアンモニウム(BA)のリガンドは、MAPbXナノ結晶の表面に結合している。いくつかの実施形態において、リガンドは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶上にキャッピング層を形成する。そのようなキャッピング層は、様々な分解性経路に対して有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を安定化し得る。いくつかの実施形態において、例えば、リガンドは、混合ハライド有機-無機ペロブスカイトナノ結晶内の相分離およびハライド再分布を阻害または排除する。
【0064】
さらに、いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の表面に結合したリガンドは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が配置または埋没されるマトリックスを形成する。いくつかの実施形態において、マトリックスは連続的であり、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶はマトリックス全体に分散している。図2は、ナノ結晶表面と結合したリガンドにより形成されたマトリックス内に位置する有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の一実施形態を示す。図2の実施形態において、MAPbI(20)ナノ結晶は、FPMAリガンドにより形成されたマトリックス(21)内に分散している。リガンドにより形成されたマトリックスは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層の望ましい特性に寄与し得る。リガンドマトリックスは、例えば、ピンホールがない層の形成に寄与し、ナノ結晶凝集を阻害することができる。
【0065】
本明細書に記載の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、一般に、50nm未満の平均サイズを有する。いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、20nm未満または15nm未満の平均サイズを有してもよい。また、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、表Iから選択される平均サイズを有してもよい。
【0066】
【表1】
【0067】
本明細書に記載の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶で形成された層は、いくつかの実施形態において、10nm未満、2nm未満または1nm未満の二乗平均平方根(RMS)表面粗度を有する。例えば、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶で形成された層は、0.3~2nmまたは0.5~1nmの表面粗度(RMS)を有してもよい。極めて平滑な表面は、層を組み込んだ電子デバイスの実行効率を高めることができる。いくつかの実施形態において、例えば、低い表面粗度は、より薄い正孔および/または電子輸送層を可能にし、接触抵抗を低減し得る。
【0068】
また、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶で形成された層は、電磁スペクトルの可視領域から近赤外領域にかけてピーク発光を示し得る。本明細書の実施例において詳説されるように、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層からのピーク発光波長は、ペロブスカイトナノ結晶の特定の組成およびサイズを含むいくつかの考慮点に依存し得る。したがって、本明細書に記載の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、可視および/または赤外領域内の様々な波長での発光のために調整され得る。可視および赤外領域内での調整可能な発光により、LED装置における有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の適用が可能となる。さらに、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、可視および/または紫外領域内に含まれる吸収プロファイルを有してもよい。そのような吸収特性により、光起電装置における有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の使用が可能となり得る。
【0069】
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶で形成された層は、本発明の目的に一致する任意の所望の厚さを有し得る。有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層は、一般に、10~200nmまたは20~100nmの厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層は、10nm未満または200nm超の厚さを有する。層厚は、これらに限定されないが、層内のキャリア移動度および層の機能を含むいくつかの考慮点に依存し得る。光起電用途における有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層は、LED用途において使用されるものとは異なる厚さを有してもよい。
【0070】
本明細書に記載のように、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶はまた、コロイド分散体として提供されてもよい。そのような実施形態において、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のコロイド分散体は、光活性層を提供するために、表面上にスピンコーティングによるか、または別の方法で沈着され得る。光活性層は、いくつかの実施形態において発光性、例えばフォトルミネッセンス層またはエレクトロルミネッセンス層であってもよい。代替として、光活性層は、光起電用途のための光吸収層であってもよい。有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のコロイド分散体により、下地層を溶解または損傷することのない逐次的コーティングが可能となり得る。したがって、異なる発光および/または吸収特性を有する有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層のヘテロ構造が形成され得る。一実施形態において、例えば、赤色発光MAPbIの層が、緑色発光MAPbBrの層と組み合わされ得る。変色または色調整が可能なLED、および電磁スペクトルの複数の領域に応答するタンデムセル光起電デバイスにつながる、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層の任意の組合せが企図される。さらなる実施形態において、コロイド分散体は、電子デバイス用途のための従来の2次元層状ペロブスカイト構造を有する、本明細書に記載の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の組合せを許容し得る。
【0071】
本明細書に記載の1つまたは複数の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層を組み込んだLEDは、第1の電極および第2の電極を備える一般構成を有し得る。第1および第2の電極の一方または両方が、放射線透過性であってもよい。いくつかの実施形態において、例えば、第1および/または第2の電極は、放射線透過性伝導性酸化物で形成され得る。放射線透過性伝導性酸化物は、インジウムスズ酸化物(ITO)、ガリウムインジウムスズ酸化物(GITO)、アルミニウムスズ酸化物(ATO)および亜鉛インジウムスズ酸化物(ZITO)の1つまたは複数を含み得る。いくつかの実施形態において、放射線透過性の第1および/または第2の電極は、ポリアナリン(PANI)およびその化学的関連物質または3,4-ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリマー材料で形成される。さらに、放射線透過性の第1および/または第2の電極は、可視電磁放射線を少なくとも部分的に通すように作用可能な厚さを有するカーボンナノチューブ層で形成されてもよい。さらに、フッ化リチウム(LiF)または酸化リチウム(LiO)の層が、第1および/または第2の電極と、デバイスの別の層との間に位置してもよい。例えば、LiFまたはLiOの層が、電子ドーパント層と電極との間に位置してもよい。
【0072】
本明細書に記載の1つまたは複数の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層は、第1の電極と第2の電極との間に位置する。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の正孔輸送層(HTL)が、アノードと有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層との間に位置する。同様に、1つまたは複数の電子輸送層(ETL)が、カソードと有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層との間に位置してもよい。HTLおよびETLの特定の組成アイデンティティは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層の電子構造および電極組成に依存し得る。いくつかの実施形態において、例えば、HTLは、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](ポリ-TPD)を含み、ETLは、2,2’,2”-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つまたは複数の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層を含むLEDは、8.5%超または9%超の外部量子効率(EQE)を示す。さらなる実施形態において、1つまたは複数の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶層を含むLEDは、10%超のEQEを示す。
【0073】
II.有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を作製する方法
別の態様において、ナノ粒子組成物を作製する方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、ナノ粒子組成物を作製する方法は、溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む混合物を用意するステップと、基材への混合物の塗布により層を形成するステップとを含む。非溶媒を塗布して、溶媒の少なくとも一部を層から除去し、添加剤に結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を提供する。添加剤は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである。
【0074】
ここで、具体的な成分を見てみると、少なくとも1種の有機-無機前駆体材料を含む混合物が提供される。いくつかの実施形態において、有機-無機前駆体材料は、式ABX(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、Xは、VIIA族元素である)の材料である。カチオンAは、無機ペロブスカイト構造の格子間空隙に適合する任意の有機カチオンであってもよい。いくつかの実施形態において、有機カチオンAは、アンモニウムイオン、アルキル-アンモニウムイオンまたはホルムアミジニウムイオンである。アルキル-アンモニウムイオンは、いくつかの実施形態において、CHNH (MA)および/またはCHCHNH (EA)を含んでもよい。さらに、Bは、ペロブスカイト結晶構造のBX八面体を共有する頂点に適合する任意の金属カチオンであってもよい。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、Bは、鉛(Pb)カチオンであるが、他の遷移金属または希土類元素であってもよい。さらに、いくつかの実施形態において、Xは、Cl、IおよびBrから選択される。したがって、ABX有機-無機前駆体は、いくつかの実施形態によれば、表IIに記載の種から選択され得る。
【0075】
【表2】
【0076】
単一ハライド有機-無機前駆体は、一般的に、BXおよびAXを溶媒中で混合してABX(式中、A、BおよびXは、本明細書において定義される)を形成することにより調製され得る。
【0077】
代替的に、本明細書に記載の混合ハライド有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、式ABX3-z(式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)の混合ハライド有機-無機前駆体から調製され得る。他の実施形態において、混合ハライド有機-無機前駆体は、式Me1-yBX3-z(式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、A、BおよびXは、ABXの場合と同じであり、0<y<1であり、0≦z<3である)の前駆体であってもよい。いくつかの実施形態において、混合ハライド有機-無機前駆体は、表IIIから選択される。
【0078】
【表3】
【0079】
混合ハライド有機-無機前駆体は、一般的に、MAPbI、MABrIおよび/またはCsPbI等の単一ハライド有機-無機前駆体を混合することにより調製され得る。
【0080】
混合物は、有機-無機前駆体に加えて、少なくとも1種の添加剤を含む。本明細書に記載のように、好適な添加剤は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位への添加剤の組み込みを阻止または排除するのに十分なサイズを有する。例えば、添加剤は、1種または複数種の有機アンモニウムイオン種を含んでもよい。有機アンモニウムイオンは、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含んでもよい。アルキル、ヘテロアルキルおよび/またはアルケニルアンモニウムイオンの場合、炭素鎖は、八面体頂点サイズ除外要件を満たすために十分長く、および/または分岐していてもよい。同様に、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよび/またはヘテロアリールアンモニウムイオンは、八面体頂点サイズ除外要件に適合するために十分大きい環構造および/または付随する環置換基を呈し得る。いくつかの実施形態において、添加剤は、n-ブチルアンモニウム(BA)、4-フルオロフェニルメチルアンモニウム(FPMA)、フェニルアンモニウムおよび/またはフェニルアルキルアンモニウム、例えばフェニルエチルアンモニウムまたはフェニルメチルアンモニウムカチオンを含む。いくつかの実施形態において、有機アンモニウム添加剤は、BAIまたはFPMAI等のハライド形態で混合物に添加され得る。
【0081】
有機-無機前駆体および添加剤は、本発明の目的に矛盾しない任意の量で混合物中に存在し得る。有機-無機前駆体に対する添加剤のモル比は、これらに限定されないが、添加剤および有機-無機前駆体の化学的アイデンティティ、ならびに堆積層内の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の所望のサイズを含むいくつかの考慮点に従って選択され得る。いくつかの実施形態において、有機-無機前駆体に対する添加剤のモル比は、表IVから選択される。
【0082】
【表4】
【0083】
溶媒中に添加剤および有機-無機前駆体を含む混合物は、基材に塗布され層を形成する。続いて、非溶媒を層に塗布して、溶媒の少なくとも一部を層から除去し、添加剤に結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を提供する。添加剤は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位へのその組み込みを阻止するのに十分大きいため、添加剤は、本明細書のセクションIに記載されるようなリガンド能力において機能する。したがって、洗浄および遠心分離を含む精製サイクル等の後処理技術なしで、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む層がin-situで形成される。有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む層は、ペロブスカイトナノ結晶の組成、サイズおよびスペクトルの特徴を含む、本明細書のセクションIに記載のいずれかの特性および/または構造を有してもよい。セクションIに記載のように、添加剤は、有機-無機ペロブスカイトナノ粒子が分散したマトリックスを形成し得る。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、初期核形成部位からのペロブスカイト結晶の外向きの成長が添加剤により強力に抑制され、添加剤(リガンド)がナノ結晶表面をキャッピングした10nm以下の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶がもたらされると考えられる。添加剤による成長抑制は、非溶媒の塗布によるゲル化層からの溶媒除去と併せて作用し得る。非溶媒による溶媒の除去は、形態学的進化を停止させ、それにより微小ペロブスカイトナノ結晶サイズを維持することができる。
【0084】
添加剤および有機-無機前駆体に好適な溶媒は、一般的に、これらに限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル(MeCN)およびアセトンを含む1種または複数種の極性非プロトン性溶媒を含み得る。混合ハライド系のいくつかの実施形態において、混合物中の個々の有機-無機前駆体の溶解度要件に依存して、2種以上の溶媒が使用される。堆積層から溶媒の少なくとも一部を除去するために、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の形成に矛盾しない任意の非溶媒が使用され得る。好適な非溶媒は、いくつかの実施形態において、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、クロロベンゼンまたはシクロヘキサン等の無極性有機物質を含む。非溶媒は、層の溶媒と交換される、または置き換わるのに十分な強さを示すべきである。
【0085】
別の態様において、ナノ粒子組成物を作製する方法は、溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む溶液を用意するステップを含む。溶液への非溶媒の添加による沈殿を介して、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の分散体が形成され、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、添加剤に結合した表面を含み、添加剤は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである。有機-無機前駆体、添加剤、溶媒および非溶媒は、このセクションIIに記載されるのと同じもののいずれかから選択され得る。さらに、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の分散体は、非溶媒と、添加剤および有機-無機前駆体の溶液との乱流混合によるフラッシュ沈殿によって形成され得る。いくつかの実施形態において、混合装置は、個々の流体ストリームをチャンバ内に送達するための独立供給ラインおよびポンプを使用してもよい。いくつかの実施形態において、溶液流体ストリームおよび非溶媒流体ストリームは、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のフラッシュ沈殿用のチャンバ内で同時に混合される。別の方法として、流体ストリームは、任意の所望の順番で混合チャンバに進入し、ペロブスカイトナノ結晶生成をもたらし得る。有利なこととして、本明細書に記載の方法は、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の連続生成またはペロブスカイトナノ結晶のバッチ生成を許容し得る。本明細書に記載の方法に好適な複数入口式ボルテックス混合(MIVM)装置は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,137,699号に記載されている。いくつかの実施形態において、流体ストリームは、米国特許第8,137,699号に記載の速度で混合チャンバに進入する。
【0086】
分散体の有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、組成、サイズおよびスペクトルの特徴を含む、本明細書におけるセクションIに記載の任意の特性および/または構造を有し得る。さらに、溶液の添加剤は、セクションIに記載のリガンド能力内で、ペロブスカイトナノ結晶の表面と結合している。
【0087】
これらの、および他の実施形態は、以下の限定されない実施例においてさらに例示される。
【実施例
【0088】
(実施例1)
有機-無機ペロブスカイト膜およびそれを組み込んだ発光ダイオード
本実施例において説明されるように、3Dペロブスカイト前駆体溶液中の長鎖アンモニウムハライド(例えばn-ブチルアンモニウムハライド(BAX、X=I、Br))の添加は、3Dペロブスカイト粒の成長を妨げ、膜粗度を1nmまで劇的に減少させる。ナノメートルサイズ粒は低減された次元を特徴とし、3Dから層状ペロブスカイト構造への遷移を開始し、3Dペロブスカイトからの発光と比較して、より強い、ブルーシフトしたフォトルミネッセンス(PL)およびエレクトロルミネッセンス(EL)として現れる。本実施例において詳説されるように、ヨウ化物-ペロブスカイト(I-ペロブスカイト、BAI:MAPbI)LEDのEQEは、BAIの組み込みに起因して1.0%から10.4%に増加する。同様に、臭化物ペロブスカイト(Br-ペロブスカイト、BABr:MAPbBr)LEDのEQEは、BABrの組み込み後、0.03%から9.3%に増加する。出力効率(PE)および電流効率(CE)は、Br-ペロブスカイトLEDの場合、それぞれ13.0lm/Wおよび17.1cd/Aに達する。さらに、非カプセル化I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDのN中での貯蔵安定性は、長鎖ハライドの添加後、劇的に改善される。具体的には、BAXを含まないLEDは、2日以内にその初期値の60~70%まで劣化し、一方BAX(X=I、Br)を含むLEDは、グローブボックス内での4ヶ月を超える期間の保存後、劣化を示さない。
【0089】
微小粒サイズを有する、ピンホールを含まない均一なペロブスカイト膜を堆積させるために、回転する膜上に適切な時点でトルエンを滴下して処理溶媒(ジメチルホルムアミドまたはDMF)を抽出し、そのようにして形態学的進化を停止させて微結晶サイズを維持した。デバイス構造の一貫性を確認するために、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜の光学的、形態学的、および構造的特性を、それぞれポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](ポリ-TPD)およびポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)上で調査した。トルエン塗布の最適なタイミングは、0.43Mの溶液濃度からの6,000rpmで回転しているMAPbI膜の場合、5秒であることが判明した。MAPbBrは、MAPbIよりも急速な結晶化を示すため、0.3Mの溶液濃度からの4,500rpmで回転している膜の場合、最適なトルエン分注時間は4秒である。ペロブスカイトの厚さは、I-ペロブスカイト膜の場合、約100nmであり、Br-ペロブスカイト膜の場合、約70nmである。ポリ-TPDおよびPVK基板上でのアニールなしでのMAPbI図3a)およびMAPbBr図3g)膜の原子間力顕微鏡(AFM)画像は、両方とも非常に均一であることを示している。二乗平均平方根(rms)粗度は、それぞれ、MAPbI膜の場合4.9nm、MAPbBrの場合3.4nmであり、それぞれ、報告されている最も平坦および均一なペロブスカイト膜の一つである。
【0090】
長鎖アンモニウムイオンは、PbX(X=I、Br、Cl)八面体層の頂点を埋めることができず、したがって層状ペロブスカイトの形成を誘引する。特に、BAX(X=I、Br)がMAPbX前駆体溶液中に添加される場合、膜形成プロセス中の3Dペロブスカイト粒の成長は劇的に妨げられる。I-ペロブスカイト膜のBAI:MAPbIモル比≦40:100である場合、およびBr-ペロブスカイト膜のBABr:MAPbBrモル比≦20:100である場合、XRDパターンはピーク位置の変化を示さず、一方、BAX:MAPbXのモル比がより大きい場合、以下で示されるように層状ペロブスカイト相が核形成することが示されている。図3b~fおよび図3h~lは、それぞれ、前駆体溶液中の異なるモル比のBAI:MAPbIおよびBABr:MAPbBrから調製されたI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜のAFM画像を示す。図3に示されるように、BAX:MAPbX(X=I、Br)のモル比が10:100まで増加すると、膜はより小さい粒サイズひいては低減された粗度を特徴とする。BAX濃度が増加するにつれて、粒サイズは減少し続け、膜はより平滑になり、40:100のBAX:MAPbX(X=I、Br)のモル比では、それぞれ、I-ペロブスカイト膜の場合0.6nmのRMSまで、またBr-ペロブスカイト膜の場合1.0nmのRMSまで減少する。実際に、これらの膜の形態は、溶液処理ポリマーを思わせ、粒サイズは、AFMチップにより解像するには小さすぎる。BAX:MAPbXモル比が60:100超まで増加すると、より大きい粒が形成し始め、同時に膜の粗度が増加するが、これは層状ペロブスカイト相の形成に起因することが示されている。
【0091】
膜の組成および結晶化度を決定するために、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜の両方に対してX線回折(XRD)を行った。図3mおよび3nに示されるように、BAXモル比がI-ペロブスカイトについては40:100未満、およびBr-ペロブスカイト膜については20:100未満である場合、層状ペロブスカイト粒に対応する回折ピークは観察されず、これは、形成直後の膜が、BAカチオンが粒表面において自己組織化して3Dペロブスカイト結晶構造とほぼ区別できない粒で構成されることを示している。BAXで被覆されたペロブスカイトナノ結晶子の代表的な概略図を、図1に示す。また、BAX添加後の回折ピークの半値全幅(FWHM)が増加することも留意されるべきであり、これは結晶子サイズが減少することを示している。Scherrer分析を適用してXRDデータから計算されたMAPbIの結晶子サイズは、BAI:MAPbI比が10:100から20:100に増加する場合、それぞれ16nmおよび13nmであり、これは約25層および20層のPbI層である(正方構造に対する格子定数がa=b=8.86Å、c=12.65Åと考える)。同様に、MAPbBrの結晶子サイズは、10:100から20:100のBABr:MAPbBr投入量に対して、16nmおよび11nmであると計算され、これは約27層および19層のPbX層である(立方MAPbBrの格子定数:a=b=c=5.9Åと考える)。
【0092】
したがって、層状BAMAn-1Pb3n+1ペロブスカイト相(式中、nは、結晶子内のPbX八面体層の数に等しい)の単位格子内には、表面でBAXが自己組織化したMAPbXの結晶子もまた考慮され得る。上で計算されたn値と前駆体溶液におけるBAXおよびMAXモル比から推定されるn値との間の相違は、PbX(X=I、Br)との反応速度がMAXとBAXの間で異なることから生じ得る。本明細書において、「3Dペロブスカイト結晶子」という用語は、これらの粒子がn=∞から低減された次元を有することが理解されるとしても、簡潔性のために上述の膜の議論において使用される。興味深いことに、より高次の回折ピーク(I-ペロブスカイトの場合40:100;Br-ペロブスカイトの場合10:100および20:100)の強度は、一次反射より大きく増大する。これは、超格子効果に起因すると推測され、異なる超格子層は、異なる次元の粒(すなわち、n=5、n=10、およびn=15結晶子の粒積層)で構成される。これらの閾値を超える投入量では、BAXはもはや界面活性剤および結晶子停止剤(crystallite terminator)の役割を果たさず、むしろ結晶化に関与する。この遷移が生じると、粒サイズは再び増加し始め、膜はより粗くなる。例えば、BAI:MAPbIの場合にモル比が60:100まで、またはBABr:MAPbBrの場合に40:100までさらに増加すると、層状ペロブスカイト回折ピークが現れ始める。最終的にBAX比が100:100に達すると、膜は層状ペロブスカイト粒が支配的となり、これはBAMAn-1Pb3n+1ペロブスカイト(n=2)に類似する。
【0093】
前駆体溶液におけるBAX:MAPbX(X=I、Br)の異なるモル比でのI-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜の吸収およびフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを、図4a~bおよび図4c~dに示す。BAX投入量の増加と共に吸収端はブルーシフトし、上で議論されたXRDからの我々の観察に沿って、BAX比がI-ペロブスカイトの場合60:100まで、またはBr-ペロブスカイトの場合40:100までそれぞれ増加すると、層状ペロブスカイト粒に対応する励起子吸収ピークが出現し始める。次に、図5aに示されるように、BAI:MAPbI膜のPLピークは、0:100から40:100へのBAI含量の増加と共に763nmから737nmに徐々にブルーシフトし、それに伴ってPL強度は増加する。同様に、図5bに示されるように、BABr:MAPbBr膜のPLピークは、0:100から40:100へのBABrの増加と共に526nmから509nmに徐々にブルーシフトし、それに伴ってPL強度もまた増加する。増加およびブルーシフトしたPL発光は、格子周期性が中断された際の乱れの効果を誘引する、BAカチオンにより囲まれたn<30までの3Dペロブスカイト結晶子の次元の低減に起因する。BAX(X=I、Br)比がさらに60:100まで増加すると、図4bおよび4dに示されるように吸収およびPLの顕著なブルーシフトを誘引しながら、励起子吸収型を有する層状ペロブスカイト粒ができる。
【0094】
結晶子サイズの低減を伴ったエネルギーブルーシフトはまた、熱アニールによる吸収およびPLスペクトルの進化によっても示唆される。熱アニールは、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトの膜の両方に対してAFMおよびXRDの両方により確認されるように、粒成長を促進し、粒サイズを大きくさせる。I-ペロブスカイトの(110)および(220)回折ピーク、ならびにBr-ペロブスカイトの(100)および(200)回折ピークの半値全幅(FWHM)は、前駆体溶液におけるBAX:MAPbXの様々なモル比に対して、熱アニール後により小さくなる。BAXなしで100℃でアニールされた膜の場合、MAPbIの770nmの吸収端およびMAPbBrの526nmの吸収端が強調され、MAPbBr膜に対するアニール後、オストワルド熟成の結果として励起子吸収ピークが現れる。より大きく、より安定な結晶子の粒成長は、より小さい粒を犠牲にして発生する。粒がある特定のサイズ未満まで小さくなると、特性はより励起的となる。対照的に、PLピーク位置は、アニールによって影響されない。
【0095】
これは、それより下でPLの実質的な変化が観察されるサイズより、約25~30nm(XRDによる)の結晶子サイズが、すでに明らかに大きいためである。しかしながら、BAXを用いて処理された膜に対するアニールの影響を考慮すると、変化は著しく異なる。10:100から20:100のBAX(X=I、Br)モル比の膜の場合、アニールは、吸収端およびPLを、BAXを組み込まずに形成されたバルク3Dペロブスカイトに対してレッドシフトさせる。40:100を超えるBAX投入量では、層状ペロブスカイトおよび3Dペロブスカイトの両方に対応する吸収ピークが膜に共存する。PL発光は、バルク3Dペロブスカイト粒が支配的であるが、これは、より大きいバンドギャップの層状ペロブスカイト粒からより小さいバンドギャップの3Dペロブスカイト粒への電荷移動に起因し得る。BAX比が100:100まで増加すると、I-ペロブスカイトは熱アニール後に安定な層状ペロブスカイト膜を形成し得る一方、3Dペロブスカイト粒はBr-ペロブスカイト膜内に残留することが、500nmを超えるPLから証明される。
【0096】
有機-無機ペロブスカイトLED
ペロブスカイトLEDに利用されたデバイス構造は、ITO(150nm)/HTL(30nm)/Iペロブスカイト(100nm)(またはBr-ペロブスカイト、70nm)/TPBi(60nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)(ITO:インジウムスズ酸化物;HTL:正孔輸送層;TPBi:2,2’,2’’-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール))である。デバイス構造を図6aに概略的に示すと共に、エネルギー図を図6bおよび6cに示す。I-ペロブスカイトベースのLEDに利用されたHTLは、5.6eVの最高被占分子軌道(HOMO)を有するポリ-TPDであり、一方、Br-ペロブスカイトベースのLEDには、正孔注入および電子阻止のより良好なエネルギー準位アライメントのため、5.8eVのより深いHOMO準位を有するPVKが使用された。TPBi層は、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDの両方に対して、電子注入および正孔阻止の層として機能する。ペロブスカイトのエネルギー準位は、BAX組み込みの結果として変化し得ることが留意されるべきである。しかしながら、この変化は比較的小さく(PLピークシフトから計算して、I-ペロブスカイトの場合約60meV、Brペロブスカイトの場合80meV)、したがって電荷注入および阻止に対する影響は最小限であると推定される。
【0097】
図7aおよび7dは、それぞれ、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDの標準化ELスペクトルを示す。PLと同様に、ELは、BAX:MAPbX(X=I、Br)のモル比の増加と共にブルーシフトする。いくつかのデバイスにおけるPL(実線)と比較したELピーク位置のわずかなブルーシフトは、結晶子サイズの分布、および対応するn値の分布に起因し得、結晶子がより小さいほど、より容易に電気的に集中し、放射性となる。100:100のモル比でのI-ペロブスカイトLED、ならびに60:100および100:100のモル比でのBr-ペロブスカイトLEDのELは、測定するには弱すぎるが、これはおそらく、効率的なELを阻害する強い電子-フォノン結合を有することが報告されている層状ペロブスカイト相の数の増加の結果である。I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDの電流密度-電圧-輝度(J-V-L)曲線ならびに対応するEQE曲線を、それぞれ図7bおよび7cならびに図7eおよび7fに示す。全てのデバイスは、0.1V/秒の走査速度で、負バイアスから正バイアスまで走査された。BAXを添加しなかったLEDの輝度およびEQEは低く、おそらくそれは、粒サイズが大きくなり、その結果、電子正孔捕獲率が低下することに起因する。前駆体におけるBAX:MAPbXのモル比を20:100に増加させると、デバイスの輝度およびEQEの両方が劇的に増加する。60:100のBAI:MAPbIモル比でのI-ペロブスカイトLEDは、肉眼の反応曲線内により移動した、シフトしたスペクトルに起因して、20:100のモル比を有するデバイスより高い輝度を有することが留意されるべきである。最高EQEは、それぞれ、20:100のI-ペロブスカイトの場合10.4%、および20:100のBr-ペロブスカイトLEDの場合9.3%に達する。
【0098】
特に、ペロブスカイトLEDのEQEは、測定範囲にわたり比較的平坦であり、EQEが電流密度と共に実質的に増加し得ることを示す最近の研究とは対照的である。これは主に、本実施例において示されるデバイスにおける、約10-6mA/cmでの低いリーク電流に起因すると考えられ、これは電極間にごくわずかな寄生リーク経路が存在することを示している。また、低い電流密度であっても、非放射性再結合は、放射性二分子再結合よりもゆっくりであることを示している。Br-ペロブスカイトLEDのピークPEおよびCEは、それぞれ、1,200cd/mで13.0lm/Wおよび2,900cd/mで17.1cd/Aに達し、一方、I-ペロブスカイトデバイスのPEおよびCEは、近赤外発光に起因して比較的低い。I-ペロブスカイトまたはBr-ペロブスカイトのLEDのいずれにおいても、BAX比が40:100を超えると、デバイス性能は低下する。I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのデバイスの両方の詳細な性能メトリクスを、表Vに記載する。
【0099】
【表5】
【0100】
MAPbBr中の過剰のMABrは、金属鉛の含量を低減し、MAPbBrベースのLEDのEQEを増加させ得ることが報告されている。比較として、I-およびBr-ペロブスカイトLEDを、5:100および20:100のMAX:MAPbX(X=I、Br)モル比(MAX:PbXモル比が105:100および120:100)で製作した。過剰なMAXはまた、I-ペロブスカイトおよびBr-ペロブスカイトのLEDの両方に対してEQEを効果的に増加させる。I-ペロブスカイトLEDのEQEは、MAI:MAPbIモル比が0:100から5:100および20:100に増加すると、それぞれ1.0%から2.4%および3.6%に増加し、Br-ペロブスカイトLEDのEQEは、MABr:MAPbBrモル比が0:100から5:100および20:100に増加すると、それぞれ0.02%から0.8%および2.1%に増加した。かさ高いアンモニウムハライドリガンドの組み込みは、過剰のMAIの添加と比較してより大きな効率向上を提供することが判明したが、これは、リガンドがより小さな粒サイズ、および低い粗度を有する薄膜を可能にするのに効果的であるためである。過剰なMAXはまた、粒内に多くの積層欠陥を形成することにより、結晶子サイズを効果的に減少させ得ることが分かった。高密度の積層欠陥は、より低い効率ではあるが、本明細書において使用される長鎖アルキルアンモニウムハライドと同じ結晶停止効果を発揮し得る。
【0101】
この手法の多様性のさらなる証拠として、別の種類の長鎖カチオン、フェニルエチルアンモニウムアイオダイド(PEAI)を、PEAI:MAPbIモル比が20:100となるように組み込んだ。最高EQEは、MAPbI前駆体溶液へのPEAIの添加後、9.6%に達する。
【0102】
有機-無機ペロブスカイトLEDのヒステリシスおよび安定性
ペロブスカイト太陽電池の光電流ヒステリシスは、正確な効率測定を複雑化する態様であるイオン移動およびトラップの両方に起因すると考えられる。ヒステリシスはまた、ペロブスカイトLEDのJ-V-L応答において存在することが以前に報告されており、定常状態EL発光および角度プロファイル測定へのその影響に起因して、不正確な性能特性決定につながり得る。また、イオン移動は主に粒界に沿って発生するため、LEDヒステリシスに対するBAX添加剤の影響が調査された。図8a~8fに示されるように、様々な走査方向および速度でJ-V-L特性を測定することにより、全てのデバイスがJおよびLの両方に対してあるレベルのヒステリシスを示すことが確認され得る。それにもかかわらず、BAX:MAPbX(X=I、Br)モル比が20:100のデバイスは、低減されたヒステリシスを示す。結晶子表面で自己集合する長鎖BAカチオンは、イオンの動きを妨げるか、または結晶子内からのイオンがイオン移動プロセスに関与するのを防ぐと考えられている。本質的に、MAより大きいBAカチオンは、表面におけるカチオンの熱力学的活性または化学ポテンシャルを減少させる(すなわち、表面における平衡蒸気圧を低減することにより)。デバイスが信頼性のある特性決定を確実に提供できるように、定常状態EQEを5.0Vの一定電圧で測定した。
【0103】
図8gおよび8hに示されるように、BAXを含まないデバイスのEQEは、強力なポーリング効果を示したが、BAXを含むデバイスは比較的安定である。EQEの初期増加は、注入された電荷がより高い放射性再結合速度を有するようなトラップ充填から起因し得、一方、数秒後のEQEの減少は、ペロブスカイト層のイオン移動誘発性の劣化に起因し得る。安定性は、ペロブスカイトLEDにとって極めて重要であり、したがってN中に保存される非カプセル化LEDの貯蔵安定性を経時的に評価した。前駆体溶液中のBAXを含まない対照デバイスは、2日後にその初期値の60~70%まで低下する一方、BAI:MAPbIモル比が20:100のI-ペロブスカイトLEDのEQEは、4ヶ月を超える保存後に劣化することなく安定である。同様に、Br-ペロブスカイトLEDもまた、少なくとも5週間の保存後に劣化を示さない。BAXを含むペロブスカイトLEDの改善された安定性は、極めて平滑なピンホールを含まない緻密なペロブスカイト膜、および結晶子表面を安定化する長いアルキル鎖のかさ高い性質に起因し得る。安定化されたナノ結晶子ペロブスカイト膜はまた、ディスプレイおよび照明用途において重要な態様である、改善された動作安定性を可能にする。BAXを含まないペロブスカイトLEDは徐々に減少するEQEを示したが、BAXを含むデバイスはより安定である。BAI:MAPbIモル比が20:100のI-ペロブスカイトLEDは、3mA/cmの一定電流密度で300分の連続動作後に、わずかに10%だけ劣化したが、BAIを含まないデバイスは、10分で60%劣化したことは注目に値する。
【0104】
材料合成
メチルアミン、ブチルアミンおよびフェニルエチルアミン(Sigma Aldrich社製)を、等モル量のHI(Sigma Aldrich社製、安定化)水溶液と共に窒素雰囲気下で0℃で持続的に撹拌しながら混合することによって、MAI、BAIおよびPEAIを合成した。MABrおよびBABrを同じ手順で合成した。アルキルアンモニウムハライド(MAI、BAI、PEAI、MABrおよびBABr)をエタノール:エーテル溶媒混合物で洗浄し、数回、回転蒸発させてHI安定剤を除去した。
【0105】
ペロブスカイト膜堆積および特性決定
ポリ-TPD(またはPVK)を6mg/mlの濃度でクロロベンゼンに溶解した。ポリ-TPD(またはPVK)をITO基板上に1,000rpmの回転速度で60秒間スピンコーティングし、続いて150℃(またはPVKの場合120℃)で20分間熱アニールした。ポリ-TPD層をOプラズマにより2秒間処理し、濡れ性を改善した。MAPbIまたはMAPbBr前駆体を、DMF(Sigma Aldrich社製、99.8%無水物)中にそれぞれ0.43Mおよび0.3Mの濃度で溶解した。次いで、異なるモル量のBAIおよびBABrをそれぞれMAPbIおよびMAPbBr溶液中に添加してから、スピンコーティングした。I-ペロブスカイトのスピンコーティング速度は6,000rpmであり、回転する基板上に5秒でトルエンを滴下した。Br-ペロブスカイトの回転速度は4,500rpmであり、回転する基板上に4秒でトルエンを滴下した。N充填グローブボックス内で、AFM測定をタッピングモードで行った(Veeco di Innova社製)。Bragg-Brentano平行ビーム構成、回折ビームモノクロメータ、ならびに40kVおよび40mAに設定された従来のCuターゲットX線管を有する、Bruker D8 Discover X線回折計でXRD測定を行った。Cary 5000 UV-Vis-NIRシステム(Agilent社製)を使用して、吸収スペクトルを測定した。380nmの励起波長を有するFLS980分光計(Edinburgh Instruments社製)を使用して、PLスペクトルを測定した。
【0106】
デバイスの製作および特性決定
膜を完全に乾燥させ、形態および粒サイズに実質的に影響することのない前駆体の完全な反応を確保するために、全てのペロブスカイト膜を、スピンコーティング後に70℃で5分間乾燥させた。TPBi、LiFおよびAl層を、ペロブスカイト膜上にそれぞれ60nm、1.2nmおよび100nmの厚さで、逐次、熱的に堆積させた。デバイス面積は0.1cmであった。ペロブスカイトLEDデバイスは、Keithley 2400ソースメータユニット、較正後のSiフォトダイオード(FDS-100-CAL、Thorlabs社製)、ピコアンメータ(4140B、Agilent社製)、および較正後の光ファイバ分光光度計(UVN-SR、StellarNet Inc社製)からなる自作の電動ゴニオメータ装置を使用して、N中で測定した。
【0107】
(実施例2)
有機-無機ペロブスカイト膜およびそれを組み込んだ発光ダイオード
本実施例では、金属ハライドペロブスカイトナノ結晶薄膜の合成のためのin-situ戦略が提供される。事前に調製されたナノ結晶懸濁液から膜をキャストするのではなく、ペロブスカイトナノ結晶のin-situ成長は、出発前駆体溶液中に添加剤としてかさ高い有機アンモニウムハライドを組み込むことによって膜形成プロセス中に促進され、このハライドは、3Dペロブスカイトの結晶成長を制限し、ペロブスカイトナノ結晶の表面を不動態化するように作用し、時間分解PL(TRPL)減衰寿命および量子収率(QY)を大幅に増加させる。この戦略を使用して、極めて効率的なメチルアンモニウム鉛アイオダイド(MAPbI)およびメチルアンモニウム鉛ブロミド(MAPbBr)LEDは、それぞれ7.9%および7.0%という高いピーク外部量子効率(EQE)を示す。これらの値は、添加剤を用いずに製作された対照デバイスの40倍および23倍の改善を表す。
【0108】
一段階溶媒交換法を使用して、MAPbIペロブスカイト膜を調製する。化学量論的ペロブスカイト前駆体をジメチルホルムアミド(DMF)中で事前に混合し、回転する試料上にトルエンを滴下することによりスピンコーティング中に溶媒交換ステップを実行すると、均一なペロブスカイト膜が得られる。トルエンはDMF溶媒を抽出し、結晶化中に形態的進化を停止させる。完全な被覆は達成されるものの、ペロブスカイト膜は粗く、粒は30nmから170nmの範囲であり、特に大量の不動態化されていない粒界を有する。二乗平均平方根(RMS)粗度は、原子間力顕微鏡(AFM)を使用して、5.7nmであると抽出される。
【0109】
かさ高い有機アンモニウムハライドは、三次元(3D)ペロブスカイトの成長を阻害し、前駆体が相の化学量論を満足する場合、層状Ruddlesden-Popper相をもたらす。本実施例では、化学量論的3D MAPbIペロブスカイト前駆体溶液を、添加剤として添加される20モル%のかさ高い4-フルオロフェニルメチルアンモニウムアイオダイド(FPMAI)と共に使用した。同じ膜調製法を使用して、得られたペロブスカイト膜は極めて平滑であり、RMS粗度はわずか1.2nmであった。さらに、粒は、約20nmのチップ半径を有するAFMによって適切に解像され得ないほどに小さくなり、これは添加剤としてブチルアンモニウムアイオダイドを使用した実施例1と一致している。本実施例におけるFPMAIの使用の動機は、フッ素の存在がかさ高い添加剤の明確な化学的特徴を提供することである。
【0110】
X線回折(XRD)測定は、FPMAI添加剤を含む、および含まない試料に対して同じ正方ペロブスカイト結晶構造を示し、これは、FPMAI添加剤が、Ruddlesden-Popper相内の粒に組み込まれず、むしろナノ結晶に3D MAPbIペロブスカイト構造を保持させることを示している。14°における(110)ピークの半値全幅(FWHM)は、FPMAI添加剤を含む試料でより広く、AFM結果において見られるより小さい結晶サイズと一致している。X線光電子分光法(XPS)分析を使用して、膜中のFPMAI添加剤の存在を検証した。FPMAI添加剤を含む試料では顕著なF1sピークが観察されたが、FPMAI添加剤を含まない試料ではF1sピークは観察されず、FPMAI添加剤が膜内に確かに組み込まれていることを証明している。さらに、試料は両方とも同じPb4fおよびI3dスペクトルを示し、これはPb2+およびIの同一の酸化状態を示している。
【0111】
添加剤により誘引される極めて平滑なペロブスカイト膜の形態および組成をさらに理解するために、図9に示されるように、FPMAIを含む、および含まないMAPbIペロブスカイト膜の断面透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行った。図9aにおける図は、加工添加剤なしでは、化学量論的溶液は、様々な配向を示すペロブスカイト粒を特徴とする緻密な多結晶膜を生成することを示している。図9cは、0.32nm間隔の格子縞を有する、添加剤を含まないペロブスカイト膜の高解像度TEM(HRTEM)画像を示す。この縞間隔は、MAPbI結晶の(004)面間隔に対応する。対照的に、FPMAIで処理されたMAPbIペロブスカイト膜は、図9bに示されるように、「マトリックス内のナノ結晶」形態を有する。1つの代表的ナノ結晶の格子縞が図9dに示されているが、0.22nmの面間隔は、MAPbIの(224)面の指標となる。図9eは、MAPbIペロブスカイトナノ結晶のサイズ分布を示す。5.4nmの平均結晶サイズが達成され、正規分布でフィッティングすると0.8の標準偏差を有する。結晶サイズ分布は、他のin situ製作技術を使用して報告されているものよりも狭いが、溶液中で合成されたナノ結晶のものよりはまだ広く、そこでは遠心分離によって狭いサイズ分布が達成される。
【0112】
膜全体のMAPbIペロブスカイトの形態および分布をさらに調査するために、走査型透過電子顕微鏡(STEM)およびエネルギー分散X線分光法(EDS)測定を行って元素マッピングした。添加剤なしで形成された高密度ペロブスカイト膜は、図10のSTEM画像において示されるように、Pbの均一な分布がさらに確認される。対照的に、FPMAI添加剤を使用して形成されたMAPbIペロブスカイトのPbの分布は、図11のSTEM画像において観察されるナノ結晶分布と一致しており、MAPbIペロブスカイトが、添加剤で形成されたマトリックス内に埋没したナノ結晶内に制限されることを証明している。MAPbIナノ結晶およびマトリックスの対応する電子回折パターンを、それぞれ図12aおよび12bに示すが、MAPbIナノ結晶が結晶性であり、一方、マトリックスは非晶質であることが示されている。NおよびIの分布もまた「マトリックス内のナノ結晶」形態と一致しているが、Cの分布は一致せず、Cの信号はマトリックス領域において極めて強い。したがって、マトリックスは、結晶性または非晶質MAPbIではなく、過剰のかさ高いリガンドで主に構成されていると考えられている。
【0113】
添加剤を用いて、および用いずに形成されたペロブスカイト膜の異なる形態に関する観察に基づいて、添加剤で制限されたペロブスカイト結晶化プロセスに関して以下のメカニズムが提案される。添加剤なしでは、ペロブスカイト結晶は異なる核形成部位から成長して集合し、大量の不動態化されていない粒界を有する緻密な多結晶ペロブスカイト膜を形成する(図9aにおけるTEM画像により確認される)。しかしながら、かさ高い有機アンモニウムハライド添加剤が処理に導入されると、初期核形成部位からのペロブスカイト結晶の外向きの成長が強力に抑制される。これによって、添加剤がナノ結晶表面をキャッピングした10nm未満のペロブスカイトナノ結晶がもたらされ、図9bに示されるような「マトリックス内のナノ結晶」形態が形成される。
【0114】
添加剤により制限されたペロブスカイト結晶化プロセスの、このメカニズムの理解に基づいて、好適な量(本研究においては20モル%)のかさ高い有機アンモニウムハライド添加剤を含む3D MAPbI前駆体の化学量論比の維持が、このin-situナノ結晶調製戦略の成功の鍵である。この投入パーセンテージでは、かさ高い添加剤は3D正方MAPbIペロブスカイト構造内に組み込まれず、単にペロブスカイト結晶成長を制限するように機能するだけであることが、XRDおよびTEMによって確認された。これらの観察によって、3D正方ペロブスカイトが、より低次元のRuddlesden-Popper相の前に、核形成および成長することを示している。しかしながら、より高いFPMAI添加剤投入量(例えば40モル%または60モル%)では、得られる膜の構造は、より低次元のRuddlesden-Popper相の構造にシフトする。さらに、膜処理中の溶媒交換技術を適用することが必要であるが、これは、結晶化中のその後の形態学的進化を停止させるためである。かさ高い有機アンモニウムハライドを含む前駆体溶液が層状Ruddlesden-Popper相の化学量論に従って調製される場合、得られるペロブスカイト膜は、Ruddlesden-Popper相構造を有する緻密な多結晶膜であり、最近の報告においてTEMを使用して確認されているように、「マトリックス内のナノ結晶」形態とは対照的であることが留意されるべきである。さらに、MAPbI前駆体溶液中にかさ高い有機アンモニウムハライドの代わりに過剰のMAIが使用される場合、得られるペロブスカイト膜はまだ緻密で粗大粒を有する多結晶性であり、MAIは、結晶子表面にあるか、またはその高い蒸気圧によって最終的に膜から出る。かさ高い有機アンモニウムハライド添加剤を使用する本技術は「マトリックス内のナノ結晶」形態をもたらすという事実により、この戦略は従来技術から区別される。
【0115】
ペロブスカイト膜の光学的特性に対する本合成戦略の効果を調査するために、FPMAI添加剤を含む、および含まないMAPbI膜の定常状態PLスペクトル、PLQYおよびTRPLを特性決定した。図13aおよび13bは、それぞれ、定常状態PLスペクトルおよびTRPLデータを示す。FPMAI添加剤ありでは、定常状態PL発光ピークは764nmから749nmにブルーシフトする。これは量子閉じ込め効果ではない。なぜならばそれは、ボーア半径(約2.1nm)に近付くナノ結晶直径に対してのみ現れるものであるからである。その代わり、これは、増加した不規則性の効果であると理解され得る。図9dに示されるように、10nm以下のナノ結晶は、約15の格子面間隔を含む。このサイズは、量子閉じ込めおよびその後のサイズに対するバンドギャップの敏感な依存性を誘引するには十分小さくないが、それにもかかわらず、バルク材料の長距離にわたる無限の格子周期性は、ナノスケールの系で妨げられる。また、これらのナノ結晶の局所環境(これは有機マトリックスである)の誘電率はペロブスカイトより実質的に低く、したがって波動関数は結晶子にさらに限定される。2mW/cmの励起強度では、FPMAI添加剤で処理された膜の場合、QYは0.1%から4.4%に増加し、一方TRPL減衰寿命は3ナノ秒から9ナノ秒に増加する。これは、FPMAI添加剤がトラップ状態を不動態化し、非放射性再結合を低減し得ることを示している。非放射性再結合の1つの可能な経路は、配位不足のPb部位でのクエンチである。MAPbI中の過剰のMAIは、粒界において層を形成し得、これが非放射性再結合の抑制を補助し得ることが報告されている。過剰のMAIおよびFPMAIの同様の性質を考慮すると、FPMAIが配位不足Pb原子を同様の様式で不動態化するのではないかと思われる。
【0116】
デバイスの機能性における膜組成の効果を検査するために、ITO(150nm)/ポリ-TPD(25nm)/MAPbIペロブスカイト(50nm)/TPBi(40nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)(ITO:インジウムスズ酸化物;ポリ-TPD:ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン];TPBi:2,2’,2”-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール))のデバイス構造を有するMAPbI LEDを作製したが、ポリ-TPDは、正孔輸送および電子阻止層として機能し、TPBiは、電子輸送および正孔阻止層として機能する。図14aおよび14bは、膜厚が確認されるLEDの断面TEM画像を示す。図14aは、LEDの有機-無機ペロブスカイト層がFPMAI添加剤を含まない断面TEMであり、図14bは、LEDの有機-無機ペロブスカイト層がFPMAI添加剤を含む断面TEMである。LEDデバイスの対応する概略的エネルギーバンド図を、図15aおよび15bに示す。図15aは、図14aのLEDデバイスの概略的エネルギーバンド図であり、図15bは、図14bのLEDデバイスの概略的エネルギーバンド図である。
【0117】
図16aは、FPMAI添加剤を含む、および含まないデバイスのエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルを示し、作動中のLED(FPMAI添加剤を含む)の画像が挿入図として示されている。FPMAI添加剤を含むデバイスでは、はるかにより小さいペロブスカイト結晶サイズに起因して、PLスペクトルと同様にEL発光ピークもまた764nmから749nmにブルーシフトしている。図16bは、FPMAI添加剤を含む、および含まないデバイスに対する電流密度-放射輝度-電圧(J-R-V)曲線を示す。72W/(sr・m)という高い最大放射輝度が達成され、これは添加剤を含まないデバイスの放射輝度より12倍高い。デバイスの角度発光強度は、ランベルトのプロファイルに従う。EQE対電流密度曲線を、図16cに示す。FPMAI添加剤なしでは、0.2%のピークEQEが観察された。添加剤ありでは、7.9%のピークEQEが達成され、40倍の改善であった。このデバイス性能の向上は、FPMAI表面不動態化効果に起因して観察されるPLQYおよび寿命の改善と一致している。しかしながら、EQEおよびPLQYの両方の値を制御する放射性再結合を担う二分子再結合経路は、キャリア密度に依存することが留意されるべきである。ピークEQEは、PLQY測定を行う際の条件よりも高いキャリア密度での条件で達成され、これは、測定PLQYよりも高いピークEQEの値を説明している。
【0118】
我々の技術の多様性を実証するために、我々は、添加剤として別の種類のかさ高い有機アンモニウムハライド(フェネチルアンモニウムブロミド、PEABr)を用いた同様のin-situ調製戦略を使用して、MAPbBrナノ結晶膜を形成した。6.4nmの平均粒子サイズが達成され、図17bに示されるように標準偏差は1.3nmである。MAPbI系に対する我々の所見と一致して、添加剤で処理されたMAPbBr膜はまた、添加剤なしで処理された試料と比較して、ブルーシフトしたPLピーク波長、増加したPLQY(0.4%から10.9%)およびTRPL減衰寿命(1.6ナノ秒から9.5ナノ秒)を示している。MAPbI LEDと同様のデバイス構造を有する緑色LEDを製作したが、但し、正孔輸送および電子阻止層としてポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)をポリ-TPDに置き換えた。エレクトロルミネッセンススペクトル、電流密度-輝度-電圧(J-L-V)およびEQE曲線を、図16d~16fに示す。ペロブスカイト層内に添加剤を導入することにより、ピーク輝度は220cd/mから11400cd/mに増加し、EQEは0.3%から7.0%に増加した。
【0119】
安定性に関しては、本明細書に記載のin-situ調製戦略を使用したデバイスは、大幅に改善された動作安定性を示す。図18aに示されるように、添加剤により制限されたMAPbI LEDのEQEは、3mA/cmの一定電流密度において10時間にわたり最小限の劣化を示し、一方、添加剤を含まないMAPbI LEDのEQEは、2時間以内の一定ストレス下で機能しなくなる。ペロブスカイトデバイス内でイオン移動が生じることが知られていることを考慮すると、このプロセスは、内部場プロファイルを改変し、意図されない化学的相互作用を誘引し、また欠陥を形成する可能性があり、これらは全てデバイス性能を劣化させ得る。かさ高い添加剤が安定性を改善することが可能であるが、これは、それらが粒子をカプセル化するため、または、ペロブスカイト粒子を分離するマトリックスがイオンの動きを妨げるためである。さらに、添加剤により制限されたMAPbI LEDは、N中での4ヶ月の保存後に効率の明確な劣化を示さず、これは改善された材料安定性をさらに示唆している。また、添加剤を含むMAPbBr LEDは、添加剤を含まないデバイスと比較して改善されたデバイス安定性を示すが、MAPbBr LEDはMAPbI LED(図18b)よりも著しく不安定であり、これは、MAPbBrが本来MAPbIよりも不安定であることを示す以前に報告された研究と一致している。
【0120】
有機カチオン塩の合成
メチルアミン、4-フルオロフェニルメチルアミン、およびフェネチルアミン(Sigma Aldrich社製)をHIまたはHBr(Sigma Aldrich社製)と1:1のモル比でそれぞれ混合することにより、MAI、FPMAI、MABrおよびPEABr結晶を合成した。氷浴内で撹拌しながら3時間反応を行った。ロータリーエバポレータを使用して、得られた溶液の溶媒を蒸発させた。MAI、FPMAI、MABrおよびPEABrを、イソプロピルアルコール:トルエン混合物から再結晶させた。最後に、粗大粒子を濾過し、低温で乾燥させた。再結晶、濾過、および乾燥は、N充填グローブボックス内で行われた。
【0121】
ペロブスカイト膜の堆積およびデバイスの製作
PbI(PbBr)およびMAI(MABr)をDMF(Sigma Aldrich社製、99.8%無水)に溶解し、0.4M MAPbI(MAPbBr)溶液を得た。添加剤(FPMAIまたはPEABr)をペロブスカイト前駆体(MAPbIまたはMAPbBr)と0.2:1のモル比で混合した。事前にパターニングされたインジウム-スズ-酸化物(ITO)を有するガラス基板上に、ポリ-TPD(クロロベンゼン中6mg/ml)またはPVK(クロロベンゼン中6mg/ml)を、1500rpmで70秒間スピンコーティングし、続いて150℃または120℃で20分間熱アニールした。次いで、濡れ性を改善するために、ポリ-TPDをOプラズマで1秒間処理した。ペロブスカイト膜(添加剤を含む、または含まない)を、6000rpmでのスピンコーティングによりポリ-TPDまたはPVK上に堆積させた。3.5秒後に、回転する試料上へのトルエンの滴下により溶媒交換ステップを行う。次いで、試料を70℃で5分間アニールした。TPBi、LiFおよびAl層を、それぞれ40nm、1.2nmおよび100nmの厚さで熱蒸着した。デバイス面積は0.1cmである。
【0122】
材料およびデバイスの特性決定
FEI Verios 460 XHR SEMにより、膜表面形態を調査した。0.154nmの入射波長でBruker D8 Discover X線回折計を使用して、膜の結晶構造を精査した。Bruker Nanoman AFMにより、膜の表面形態を画像化した。Thermo Scientific Kalpha XPS Systemを使用して、膜の化学的内容物を特性決定した。表面汚染および酸化を回避するために、空気に曝露することなくXPSチャンバに試料を直接移した。FEI Helios DualBeam顕微鏡により、デバイスの断面TEM薄層試料を調製した。HRTEM画像、電子ナノ回折およびEDS測定を、FEI Talos (S)TEMで200kVで行った。FLS980分光計(Edinburgh Instruments社製)を使用して、定常状態およびTRPL測定を行った。定常状態PL測定では、Xeアーク灯から470nmで試料を励起させた。TRPL測定では、添加剤を含む(含まない)MAPbI試料を、500ナノ秒のパルス周期および749nm(764nm)の検出波長のパルスレーザダイオードにより634.8nmで励起させ;添加剤を含む(含まない)MAPbBr試料を、500ナノ秒のパルス周期および530nm(521nm)の検出波長のパルスレーザダイオードにより374.4nmで励起させた。PTI QuantaMaster 400 Steady State Fluorometerシステムに結合された小型積分球を使用して、PLQYを測定した。MAPbIおよびMAPbBr膜に対して、それぞれ450nmおよび400nmの励起波長を使用した。全ての膜に対して、以下の設定を同じに維持した:励起および発光スリットの両方に対して5nmのバンドパス値、1nmのステップ増分、ならびにデータ点当たり0.5秒の積分時間。励起強度は、2mW/cmであった。ペロブスカイトLEDの特性は、Keithley 2400ソースメータユニット、ピコアンメータ(4140B、Agilent社製)、較正後のSiフォトダイオード(FDS-100-CAL、Thorlabs社製)、および較正後の光ファイバ分光光度計(UVN-SR、StellarNet Inc社製)からなる特注の電動ゴニオメータを使用して、Nグローブボックス内で測定した。
【0123】
(実施例3)
混合ハライド有機-無機ペロブスカイト膜およびそれを組み込んだ発光ダイオード
本実施例では、混合MA/Csカチオンを使用して格子不整合により引き起こされる相の不安定性を軽減することによる、またより重要なことには、自己集合長鎖有機カチオン(例えばn-ブチルアンモニウム(BA))キャッピング層を有するナノメートルサイズ結晶子を形成することによりハライド再分布/移動を抑制することによる、安定な混合ハライドペロブスカイト膜の形成が説明される。これらの相安定性混合ハライドペロブスカイト膜を使用して、調整可能な発光波長を有する高効率LED、および調整可能なVOCを有する太陽電池を製作することができる。安定なBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrを使用した混合ハライドLEDのピーク発光波長は、750nmから520nmに徐々に調整される。対照的に、MAPb(I1-xBrおよびCsMA1-yPb(I1-xBr(0<x<1、0<y<1)で作製されたLEDの発光は、x=0.2のペロブスカイトからの発光に対応して、それぞれ720nmおよび695nmに固定された。さらに、我々は、BAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrを使用した太陽電池のVOCが1.05Vから1.45Vに徐々に調整され得、一方MAPb(I1-xBrおよびCs0.6MA0.4Pb(I1-xBrで製作された太陽電池のVOCは、I豊富ペロブスカイトドメインに起因して、1.15V未満に固定されたことを実証する。
【0124】
本実施例では、MAPb(I1-xBr、Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBr、およびBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrの3つのカテゴリーの膜を調査し、各カテゴリーにおいて、0<x<1であった。全ての膜は、溶媒交換手法により、50~70nmの範囲内の厚さで調製された。調製直後のCsMA1-yPb(I0.6Br0.4膜のPL発光は、Csモル比が60%(Cs0.6MA0.4Pb(I0.6Br0.4の場合のように)まで増加するにつれて、そのバンド端に対して徐々にブルーシフトすることが判明したが、これは調製直後の膜には相分離がないことを示唆している。BAI等の長鎖アンモニウムハライドは、鉛ハライドペロブスカイト結晶構造の八面体頂点を埋めるには大きすぎ、前駆体溶液中に組み込まれると、三次元(3D)ペロブスカイト結晶子の粒成長を妨げる界面活性剤として作用する。特に断りのない限り、Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrに対するBAI1-xBrのモル比は、実施例1および2に詳説される以前の研究に従って20:100の最適比に固定され、BAI1-xBrのBrに対するIのモル比は、Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrと同じに維持された。
【0125】
吸収端は、全ての膜において、Brモル比の増加と共に徐々にブルーシフトする。おそらくは正方MAPbIおよび立方CsPbIの異なる結晶構造に起因して、Cs0.6MA0.4PbI(x=0)膜は弱い吸収を示すことが認められた。全ての膜は、照明ストレス(N中での20分の模擬1 sun(AM1.5G)照明)後、無視できるほど小さい、吸収スペクトルの変化を示した。これは、光により誘引されたI豊富ドメインが、これらの膜の体積において支配的ではなく、I豊富ドメインの吸収が明確でないことを示している。
【0126】
MAPb(I1-xBr膜(0<x<1)のPLピークは、照明ストレスの前であっても赤外領域に固定されており、これは、調製直後の膜中にI豊富ドメインがすでに存在し得ること、および/または初期PL測定中に形成することを示唆している。MAPb(I1-xBr膜の相不安定性は、MAPbIおよびMAPbBrの異なる結晶構造に起因する。少数のI豊富ドメインは吸収スペクトルには実質的に寄与しないが、PLは、より大きいバンドギャップのBr豊富ドメインからのエネルギー伝達に起因して、I豊富ドメインから生じる。エネルギー伝達は、時間分解PLおよび紫外線光電子分光法(UPS)測定の両方によりさらに確認される。
【0127】
まず、新しいCs0.6MA0.4Pb(I1-xBr膜のPLは光学バンドギャップに一致しており、これはより小さい半径を有するCsイオンがハライド混合を改善することを示唆している。しかしながら、照明ストレス後、PL発光はレッドシフトし、x=0.2のペロブスカイトからのピーク発光に対応するエネルギーで赤外範囲内に固定される。これは、Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBr膜が依然として光により誘引される相分離の影響を受けることを示唆している。これは、光生成ポーラロンによりもたらされた歪みが、カチオンの混合に依存しないことを考慮すれば理解できる。しかしながら、BAI1-xBrが混合ハライドペロブスカイトCs0.6MA0.4Pb(I1-xBr膜内に界面活性剤として組み込まれると、その安定で徐々にブルーシフトした近吸収端PLにより証明されるように、光学的特性は光ストレス下で安定となる。
【0128】
照明前および照明後のこれらの3つのカテゴリーの膜の相組成および安定性を検査するために、X線回折(XRD)測定を行った。新しいMAPb(I1-xBr膜の(110/100)回折ピークは、Br含量の増加と共により大きい角度に徐々にシフトしており、これは、吸収スペクトルと一致して、格子内へのBr組み込みを示している。照明後、回折ピークは0.4<x<1で分岐しており、これはI豊富ドメインが照明後に著しい体積および結晶化度を有することを示唆している。Csの組み込み後、照明時にピーク分裂は観察されず、異なるハライドが結晶構造内でより混和性となったこと、および光により誘引されたI豊富ドメインが微小で、おそらくは不規則のままであることが確認された。推定されるように、照明後のBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBr膜においてもピーク分裂は見られない。Csを有する膜の相組成の全範囲にわたり、黄色の斜方晶δ相が形成されなかったことに留意すべきである。
【0129】
走査型電子顕微鏡(SEM)、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)、および走査型TEM(STEM)に基づくエネルギー分散型X線分光法(EDS)測定を使用して、膜(ここではx=0.4の場合)の形態およびハライド分布を検査した。照明後、膜の表面形態に明確な変化はなかった。SEM画像はまた、Cs0.6MA0.4Pb(I0.6Br0.4膜が、MAPb(I0.6Br0.4における粒サイズ(50~100nm)と比較してより小さい粒サイズ(30~50nm)を示し、一方20モル%のBAI0.6Br0.4を有する膜においては、粒サイズは約10nmに低減されることを示した。HRTEM画像では、全ての膜が、異なる配向の約10nmのサイズの結晶子で構成されることが明らかとなった。したがって、MAPb(I0.6Br0.4およびCs0.6MA0.4Pb(I0.6Br0.4膜の両方における粒は、複数の結晶子を含有する。ハライドイオンは、照明下、単一ドメイン内の隣接する結晶子の間に容易に再分布する可能性が極めて高い。しかしながら、BAカチオンの組み込み後、ナノメートルサイズの粒が形成され、BAキャッピング層によりハライド再分布から保護される。さらに、I豊富ドメインとBr豊富ドメインとの間のエネルギー準位の差に起因して、これらのナノメートルサイズの結晶子内に相分離を有することはエネルギー的に不利である。MAPb(I0.6Br0.4膜内のハライドの再分布は、EDS画像化により直接確認される。最初は、IおよびBr分布は両方とも非常に均一であるが、一方照明後は、ハライドは約15nmのサイズの隣接するI豊富/Br欠乏(白矢印)およびI欠乏/Br豊富(黄色矢印)領域内に再分布する。対照的に、Cs0.6MA0.4Pb(I0.6Br0.4およびBAI0.6Br0.4-Cs0.6MA0.4Pb(I0.6Br0.4膜の両方におけるハライド分布は、照明後も非常に均一である。光学測定によれば、I豊富ドメインはCsベースの膜内に存在し得るが、EDS技術の分解能の範囲外である。
【0130】
上記3つのカテゴリーの膜の性能を、LEDおよび太陽電池の両方において試験した。ペロブスカイトLED構造は、ITO/ポリ-TPD(40nm)/ペロブスカイト(50~70nm)/TPBi(50nm)/LiF(1.2nm)/Al(ITO:インジウムスズ酸化物;ポリ-TPD:ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン];TPBi:2,2’,2’’-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール))である。図19a~19cは、ペロブスカイトLEDのデバイス構造およびエネルギーレベルを示す。LEDは、一般に、高電圧および注入電流で作動することが留意されるべきである。したがって、電場により誘引されるハライド移動およびその後の相間離隔は、これらの作動条件下では厳しい。x<1のMAPb(I1-xBrおよびCs0.6MA0.4Pb(I1-xBrベースのLEDの両方のEL発光は赤外範囲内に固定されることが明らかであり、これは、ハライド再分布および相分離が電圧走査プロセス中にすでに生じていたことを示唆している。これらのカテゴリーの両方のLEDからの可視ELは、低いEQEおよび主に赤外の発光スペクトルに起因して非常に弱い。低いEQEは、I豊富ドメインにより引き起こされる非放射性トラップに起因し得る。しかしながら、長鎖アンモニウムカチオンでキャッピングされたナノメートルサイズの粒は、作動条件下でハライド再分布および相間離隔を効果的に防止する。BAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrベースのデバイスのELピークは、はるかにより高いEQEを伴って赤外から緑色に徐々に調整され得る。x=0.4で形成されたデバイスでは、最高EQEは赤色LEDにおいて650nmの発光で5%に達した。比較のために、MAPbIBr膜(x=0.67)を使用した赤色LEDにおいて報告されている最高値は0.1%である。高いEQE値は、(1)より低いバンドギャップのI豊富ドメインの形成の抑制、ならびに(2)放射性再結合に有利なナノメートルサイズ粒内の電子および正孔の物理的な閉じ込めという2つの主要な要因に起因する。調整可能な発光波長はまた、異なるハライド比でのLEDの高い輝度を可能にする。これは、赤外で発光するMAPb(I1-xBrおよびCs0.6MA0.4Pb(I1-xBrベースのLEDの両方の低い輝度とは対照的である。x=0.8(場合によりx=0.6)のBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4Pb(I1-xBrをベースとしたデバイスは、高電圧下ではあまり安定ではなく、徐々にシフトするELを示したことが留意されるべきである。これらの膜における相分離は、高印加バイアスにより誘引されたハライド移動により引き起こされ得ることが予測された。
【0131】
ペロブスカイト太陽電池の性能に対する相分離の効果をさらに評価した。ペロブスカイト太陽電池は、以下の構造:ITO/ポリ-TPD(7nm)/ペロブスカイト(50~70nm)/PCBM(10nm)/C60(20nm)/BCP(8nm)/Al(PCBM:フェニル-C61-酪酸メチルエステル;BCP:バソクプロイン)を有していた。図20a~20cは、混合ハライドペロブスカイト太陽電池のデバイス構造およびエネルギー準位図を示す。図21aに示されるように、新しいMAPb(I1-xBrデバイスのVOCは、高いBr含量を有するデバイスでは特に、その光吸収端と共に直線的に増加しない。これによってさらに、新しいMAPb(I1-xBr膜において相分離がすでに存在する、または初期太陽電池測定中に発生することが確認される。トラップはまた、短絡電流密度(JSC)の低減を引き起こす。新しいCs0.6MA0.4Pb(I1-xBrベースのデバイスのVOCおよびJSCは両方とも、照明前には光吸収端とほぼ直線関係を有する。照明後、VOCおよびJSCは両方とも、高いBr含量を有するデバイスにおいて特に、光により誘引されるI豊富ドメインの形成に起因して劇的に減少する。しかしながら、光学測定と一致して、BAベースのデバイスのVOCおよびJSCの両方が、その光吸収端と直線関係を示し、図21cに示されるように照明後も安定性を維持する。EQE測定では、そのバンドギャップ未満のEQEにより示される、MAPb(I1-xBrおよびCs0.6MA0.4Pb(I1-xBrベースの太陽電池の両方におけるI豊富結晶子によるVOC固定が直接的に確認される。太陽電池に対するこれらの実験では、光により誘引される相分離がデバイス性能に有害であること、および長鎖有機アンモニウムカチオンの組み込みが、望ましくない相分離を防止するための効果的な技術であり、VOCの改善をもたらすことがさらに確認される。
【0132】
材料
メチルアミンおよびブチルアミン(Sigma Aldrich社製)を、等モル量の水溶性HI(Sigma Aldrich社製、安定化)とN下で0℃で持続的に撹拌しながら混合することによって、MAI、BAIを合成した。MABrおよびBABrを同様の手順で合成した。有機アンモニウムハライド(MAI、BAI、MABrおよびBABr)をエタノール:エーテル混合物で洗浄し、数回回転蒸発させてHI安定剤を除去した。PbI、PbBr、CsIおよびCsBrをAlfa Aesar社から購入し、供給された状態のまま使用した。
【0133】
ペロブスカイト膜の堆積
ポリ-TPDをクロロベンゼン中に6mg/mlの濃度で溶解した。ポリ-TPDをITO上に1,000rpmで60秒間スピンコーティングし、続いて150℃で20分間熱アニールした。その後、ポリ-TPD層をOプラズマにより2秒間処理し、ペロブスカイトのスピンコーティング前に濡れ性を改善した。MAPbI、MAPbBrおよびCsPbI前駆体をDMF(Sigma Aldrich社製、99.8%無水)中に0.38Mの濃度で溶解し、CsPbBrをDMSO(Sigma Aldrich社製、99.9%無水)中に0.38Mの濃度で溶解した。BAIおよびBABrを、DMF中に0.76Mの濃度で溶解した。MAPbI、MAPbBr、CsPbIおよびCsPbBr溶液を混合して、MAPb(I1-xBrおよびCs0.6MA0.4(I1-xBr溶液を調製した。異なるモル量のBAIおよびBABrを、Cs0.6MA0.4PbIおよびCs0.6MA0.4PbBr溶液にそれぞれ添加し、続いて両方の溶液を混合してBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4(I1-xBr溶液を調製した。スピンコーティング速度は4,000rpmであった。溶液中にDMSOが存在することを考慮し、MAPb(I1-xBr膜の回転する基板上に5秒でトルエンを滴下し、Cs0.6MA0.4(I1-xBrおよびBAI1-xBr-Cs0.6MA0.4(I1-xBr膜の回転する基板上に20秒でトルエン:クロロホルム混合物(80:20v/v)を滴下した。膜を完全に乾燥させて、形態および粒サイズに実質的に影響のない前駆体の完全反応を確実にするために、全てのペロブスカイト膜を50℃で5分間乾燥させる。光により誘引される相分離に対する空気曝露の影響を除外するために、全ての膜を光電子工学試験用のエポキシおよびガラスでカプセル化した。窒素グローブボックス内で、1 sun(AM1.5G)条件下で20分間光照明を行った。
【0134】
ペロブスカイト膜の特性決定
Bragg-Brentano平行ビーム構成、回折ビームモノクロメータ、ならびに40kVおよび40mAに設定された従来のCuターゲットX線管を有する、Bruker D8 Discover X線回折計でXRD測定を行った。Cary 5000 UV-Vis-NIRシステム(Agilent社製)を使用して、吸収スペクトルを測定した。380nmの励起波長を有するFLS980分光計(Edinburgh Instruments社製)を使用して、PLスペクトルを測定した。
【0135】
Horiba DeltaFlex時間相間単一光子計数システムを使用して、TRPLを取得した。試料は、406nmの中心波長、約4mW/cmの励起強度、および測定範囲の逆数より小さい反復速度を有するパルスレーザダイオード(DeltaDiode-Horiba社製)により励起した。時間分解は、機器の応答関数から約100psであると決定された。全ての減衰トレースは、5nm増分および10秒の一定実行時間で行われた。
【0136】
FEI XHR(超高分解能)SEM(Verios 460)により、浸漬モードを使用してSEM測定を行った。FEI Helios DualBeam顕微鏡により、デバイスの断面TEM薄層試料を調製した。イオンビームにより誘引される試料損傷を効果的に最小限化するために、仕上げ研磨に40pAという小さい電流を使用した。HRTEM画像およびEDS測定を、FEI Talos (S)TEMで200kVで行った。
【0137】
デバイスの製作および特性決定
ペロブスカイトLEDのために、TPBi、LiFおよびAl層を、ペロブスカイト膜上にそれぞれ60nm、1.2nmおよび100nmの厚さで逐次熱的に堆積させた。ペロブスカイト太陽電池において、ポリ-TPDの濃度は0.6mg/mlである。PCBM(クロロベンゼン中20mg/ml)をペロブスカイト膜の上に6,000rpmで50秒間スピンコーティングした。次いで、その上にC60およびBCPおよびAlを、それぞれ20nm、8nmおよび100nmの厚さで逐次熱的に堆積させた。デバイス面積は0.1cmであった。
【0138】
LEDは、Keithley 2400ソースメータユニット、較正後のSiフォトダイオード(FDS-100-CAL、Thorlabs社製)、ピコアンメータ(4140B、Agilent社製)、および較正後の光ファイバ分光光度計(UVN-SR、StellarNet Inc社製)からなる自作の電動ゴニオメータ機構を使用して、N中で測定された。ペロブスカイト太陽電池は、Keithley 2602Bソースメータユニットを使用して、較正後のABET Technologies社製太陽シミュレータからの模擬AM1.5G照明下でN中で測定された。Newport TLS-300X調整可能光源システムを使用して、外部量子効率測定を行った。Stanford Research Systems SR570電流プリアンプおよびSR830ロックインアンプを使用して、短絡条件下でデバイススペクトル応答を測定した。Newport社製の較正後のSi光検出器が、基準セルとして機能した。
【0139】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層を含むナノ粒子組成物であって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む、ナノ粒子組成物。
[2]
前記有機-無機ナノ結晶が、50nm未満の平均サイズを有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[3]
前記有機-無機ナノ結晶が、20nm未満の平均サイズを有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[4]
前記有機-無機ナノ結晶が、15nm未満の平均サイズを有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[5]
前記有機-無機ナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[6]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX 3-z (式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)の結晶である、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[7]
0<z<3である、[6]に記載のナノ粒子組成物。
[8]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[9]
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[10]
前記有機アンモニウムイオンが、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含む、[9]に記載のナノ粒子組成物。
[11]
前記リガンドは、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[12]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、10nm未満の二乗平均平方根(RMS)表面粗度を有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[13]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、1nm未満のRMS粗度を有する、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[14]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、ピンホールを有さない、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[15]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、電磁スペクトルの可視または赤外領域においてピーク発光を示す、[1]に記載のナノ粒子組成物。
[16]
連続相と、
前記連続相中に分散したナノ粒子相であって、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を含む、ナノ粒子相とを含むナノ粒子分散体。
[17]
前記有機-無機ナノ結晶が、50nm未満の平均サイズを有する、[16]に記載のナノ粒子組成物。
[18]
前記有機-無機ナノ結晶が、1nm未満~10nmの平均サイズを有する、[16]に記載のナノ粒子組成物。
[19]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX 3-z (式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)の結晶である、[16]に記載のナノ粒子組成物。
[20]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、[16]に記載のナノ粒子組成物。
[21]
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、[16]に記載のナノ粒子組成物。
[22]
有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の光活性層を備える光電子デバイスであって、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズのリガンドに結合した表面を含む、光電子デバイス。
[23]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、[22]に記載の光電子デバイス。
[24]
前記リガンドは、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、[22]に記載の光電子デバイス。
[25]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX 3-z (式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)の結晶である、[24]に記載の光電子デバイス。
[26]
0<z<3である、[25]に記載の光電子デバイス。
[27]
前記リガンドが、前記光電子デバイスの動作から生じる前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶のスピノーダル分解を阻害する、[26]に記載の光電子デバイス。
[28]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、[24]に記載の光電子デバイス。
[29]
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、[24]に記載の光電子デバイス。
[30]
前記光活性層が、発光ダイオードの発光層である、[22]に記載の光電子デバイス。
[31]
前記発光ダイオードが、8.5%超の外部量子効率を有する、[30]に記載の光電子デバイス。
[32]
前記光活性層が、光起電装置の光吸収層である、[22]に記載の光電子デバイス。
[33]
ナノ粒子組成物を作製する方法であって、
溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体および少なくとも1種の添加剤を含む混合物を用意するステップと、
基材への前記混合物の塗布により層を形成するステップと、
非溶媒を塗布して、前記溶媒の少なくとも一部を前記層から除去し、前記添加剤に結合した表面を含む有機-無機ペロブスカイトナノ結晶を提供するステップであり、前記添加剤が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズを有する、ステップとを含む方法。
[34]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、1~10nmの平均サイズを有する、[33]に記載の方法。
[35]
前記リガンドは、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が分散したマトリックスを形成する、[33]に記載の方法。
[36]
前記リガンドが、有機アンモニウムイオンを含む、[33]に記載の方法。
[37]
前記有機アンモニウムイオンが、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基を含む、[36]に記載の方法。
[38]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式ABX 3-z (式中、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0≦z<3である)の結晶である、[33]に記載の方法。
[39]
0<z<3である、[38]に記載の方法。
[40]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、式Me 1-y BX 3-z (式中、Meは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンであり、Aは、有機カチオンであり、Bは、遷移金属、IVA族元素および希土類元素からなる群から選択される元素であり、XおよびYは、独立にVIIA族元素から選択され、0<y<1であり、0≦z<3である)の結晶である、[33]に記載の方法。
[41]
前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の層が、10nm未満のRMS表面粗度を有する、[33]に記載の方法。
[42]
前記溶媒が、非プロトン性有機溶媒を含む、[33]に記載の方法。
[43]
前記非溶媒が、無極性有機溶媒を含む、[42]に記載の方法。
[44]
前記添加剤に対する前記有機-無機前駆体のモル比が、10:100から60:100の範囲である、[33]に記載の方法。
[45]
ナノ粒子組成物を作製する方法であって、
溶媒中に少なくとも1種の有機-無機前駆体材料および少なくとも1種の添加剤を含む溶液を用意するステップと、
前記溶液への非溶媒の添加により、有機-無機ペロブスカイトナノ結晶の分散体を形成するステップであり、前記有機-無機ペロブスカイトナノ結晶が、前記添加剤に結合した表面を含み、前記添加剤が、ペロブスカイト結晶構造の八面体頂点部位に組み込むことができないサイズである、ステップとを含む方法。
本発明の様々な目的を達成するものとして本発明の様々な実施形態が説明された。これらの実施形態は、単に本発明の原理を例示するものであることが理解されるべきである。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、その多くの修正および適応が当業者に容易に明らかとなるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図12a
図12b
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