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特許7021837硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/06 20060101AFI20220209BHJP
   A61L 24/02 20060101ALI20220209BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20220209BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220209BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
A61L24/06
A61L24/02
A61L24/00 210
A61L24/00 311
A61L27/02
A61L27/16
A61L27/54
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019510193
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013472
(87)【国際公開番号】W WO2018181822
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2017072726
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】三浦 高
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田哲也
(72)【発明者】
【氏名】坂東 綾子
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-525678(JP,A)
【文献】特表平06-500718(JP,A)
【文献】特開2009-001536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
を補修する用途に用いられる硬組織補修用組成物であって、
モノマー(A)、重合体(B)、重合開始剤(C)、及び、体積平均粒径3μm以上の造影剤(X)を含み、且つ、
前記重合体(B)が、
比表面積が0.05~0.5m/gである重合体粉末(b1)と、
比表面積が0.51~1.2m/gである重合体粒子(b2)及び/又は比表面積が1.5~4.5m/gである重合体粉末(b3)とを含む硬組織補修用組成物。
【請求項2】
以下の方法で測定される模擬骨侵入性が1.0mm以上である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
[模擬骨侵入性の測定方法]
模擬骨侵入性は、連通した気泡を有するポリウレタンフォーム(空孔率95%)に生理食塩水を含浸させ、その上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物をのせ、75kPaの圧力で30秒間加荷重し、組成物が侵入した深さ(mm)を測定する。
【請求項3】
造影剤(X)が硫酸バリウム又ジルコニアである請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項4】
モノマー(A)が(メタ)アクリレート系単量体である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項5】
重合体(B)が(メタ)アクリレート系重合体である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項6】
モノマー(A)10~45質量部、重合体(B)54.9~80質量部、重合開始剤(C)0.1~10質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)及び造影剤(X)0.5~70質量部を含む請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項7】
造影剤(X)の体積平均粒径が3.0~25.1μmである請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項8】
硬組織補修用組成物に含まれる粒子全体の体積平均粒径が32μm以下である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項9】
重合開始剤(C)が部分酸化トリアルキルホウ素である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の硬組織補修用組成物に含まれるモノマー(A)、重合(B)重合開始剤(C)、及び、造影剤(X)の各成分が、任意の組合せで3つ以上に分割されて収容された部材を有する硬組織補修用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海綿骨等被接着体への侵入性に優れ、被接着体との密着性に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用の骨セメント、骨粗しょう症治療用等に用いる骨充填剤、人工骨材料等として、様々な硬組織補修用組成物が検討されてきている。例えば、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート、及び過酸化ベンゾイル(重合開始剤)を含む組成物、(メタ)アクリレート、リン酸カルシウム等の無機フィラー、及び有機過酸化物を含む組成物等が検討されてきている(例えば特許文献1)。しかし、このような組成物は硬化時の発熱が大きく、患部組織に損傷を与える危険性が高い。
【0003】
この点を改良した硬組織補修用組成物として、例えば特許文献2には、(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリレート重合体(B)、特定の重合開始剤(C)及び造影剤(X)を含む硬組織補修用組成物が開示されている。この組成物は硬化時の発熱が小さく、しかも作業性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-224294号公報
【文献】国際公開第2011/062227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、骨組織とのマクロ的な密着性の点において、従来の硬組織補修用組成物は改善の余地があると考えた。例えば、骨セメント(硬組織補修用組成物)の海綿骨への侵入性が悪いと、骨との界面に隙間が生じて骨融解による痛みが発生し、悪化すると再置換術が必要になってしまう。このような問題は当該分野において非常に重要である。
【0006】
すなわち本発明の目的は、海綿骨等の被接着体への侵入性に優れ、被接着体との密着性に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、体積平均粒径が特定範囲内にある造影剤(X)を用いることによって、骨組織との密着性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下の事項により特定される。
【0008】
[1]モノマー(A)、重合体(B)、重合開始剤(C)、及び、体積平均粒径3μm以上の造影剤(X)を含む硬組織補修用組成物。
【0009】
[2]以下の方法で測定される模擬骨侵入性が1.0mm以上である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
[模擬骨侵入性の測定方法]
模擬骨侵入性は、連通した気泡を有するポリウレタンフォーム(空孔率95%)に生理食塩水を含浸させ、その上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物をのせ、75kPaの圧力で30秒間加荷重し、組成物が侵入した深さ(mm)を測定する。
【0010】
[3]造影剤(X)が硫酸バリウム又はジルコニアである[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0011】
[4]モノマー(A)が(メタ)アクリレート系単量体である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0012】
[5]重合体(B)が(メタ)アクリレート系重合体である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0013】
[6]モノマー(A)10~45質量部、重合体(B)54.9~80質量部、重合開始剤(C)0.1~10質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)及び造影剤(X)0.5~70質量部を含む[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0014】
[7]造影剤(X)の体積平均粒径が3.0~25.1μmである[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0015】
[8]硬組織補修用組成物に含まれる粒子全体の体積平均粒径が32μm以下である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0016】
[9][1]に記載の硬組織補修用組成物に含まれるモノマー(A)、重合体(B)、重合開始剤(C)、及び、造影剤(X)の各成分が、任意の組合せで3つ以上に分割されて収容された部材を有する硬組織補修用キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、海綿骨等被接着体への侵入性に優れ、被接着体との密着性に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットを提供できる。
【0018】
一般常識に従えば、造影剤が隙間を通る際は、粒子径が小さい造影剤の方が隙間を通り易い筈である。しかしながら本発明においては、驚くべきことに、粒子径が比較的大きな造影剤(X)を使用することにより、硬組織補修用組成物の模擬骨侵入性が向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、理由の一つとして、造影剤(X)の粒子径が小さい場合は粉末同士が凝集し易く、大きな凝集体粒子になり易い傾向にあるが、造影剤(X)の粒子径が大きい場合は凝集しにくいので、模擬骨侵入性が向上するのであろうと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[モノマー(A)]
本発明に用いるモノマー(A)は特に制限されず、後述する重合開始剤(C)により重合可能なモノマーであれば良い。モノマー(A)は、使用目的に応じて単官能モノマー、多官能モノマーの何れも使用できる。
【0020】
モノマー(A)としては、例えば、(メタ)アクリレート系単量体及びその他のビニル化合物を使用できる。中でも、人体への刺激が比較的低い点から(メタ)アクリレート系単量体が好ましい。本発明において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。また一般に、酸性基を有するモノマーは、硬組織への接着性が優れており、さらに後述する脱錯化剤として作用し、重合開始剤(C)としてアルキルボラン・アミン錯体を用いる場合に酸性基を有するモノマーを用いることで重合反応の開始を可能にすることもできる。したがって、例えば、酸性基を持たない(メタ)アクリレート系単量体に対して、酸性基を有するモノマーを適量併用して接着性を向上させることもできる。
【0021】
酸性基を持たない単官能(メタ)アクリレート系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,2-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン等の(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
酸性基を持たない多官能(メタ)アクリレート系単量体の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、へキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトールテトラ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート;下記一般式(1)で表される脂環系又は芳香族ジ(メタ)アクリレート
【0023】
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、m及びnは各々独立して0~10の数であり、Rは、
【0024】
【化2】
のいずれかである);
【0025】
下記一般式(2)で表される脂環系又は芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート
【0026】
【化3】
(式(2)中、R、n及びRは、前記式(1)中のR、n及びRと同じである);
【0027】
下記式(3)で表される分子中にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート
【0028】
【化4】
(式(3)中、Rは前記式(1)中のRと同じであり、Rは、
【0029】
【化5】
のいずれかである。);が挙げられる。
【0030】
以上の例示化合物のうち、単官能(メタ)アクリレート系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0031】
以上の例示化合物のうち、多官能(メタ)アクリレート系単量体としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート;下記式(1)-aで表される化合物
【0032】
【化6】
(式(1)-a中、R、m及びnは、前記式(1)中のR、m及びnと同じである);
【0033】
下記式(2)-aで表される化合物
【0034】
【化7】
(式(2)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである);
【0035】
下記式(3)-aで表される化合物
【0036】
【化8】
(式(3)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである);
が好ましい。
【0037】
これら(メタ)アクリレート系単量体は2種以上を併用しても良い。
【0038】
酸性基を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸及びその無水物、1,4-ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロキシエチルナフタレン1,2,6-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-m-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸等のカルボン酸基又はその無水物基を有するモノマー;(2-(メタ)アクリロキシエチル)ホスホリック酸、(2-(メタ)アクリロキシエチルフェニル)ホスホリック酸、10-(メタ)アクリロキシデシルホスホリック酸等の燐酸基を有するモノマー;p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーが挙げられる。中でも、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。
【0039】
これら酸性基を有するモノマーは2種以上を併用しても良い。また、酸性基を有するモノマーはカルシウム塩としても使用できる。
【0040】
モノマー(A)の配合量は、好ましくは10~45質量部、より好ましくは20~45質量部、特に好ましくは25~36質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である。上記各範囲の下限値は、塗布の容易性や操作性、骨組織内への侵入性等点で意義がある。上限値は、接着強度、機械物性等の点で意義がある。モノマー(A)が酸性基を有するモノマーを含む場合、酸性基を有するモノマーの量は、モノマー(A)合計100質量%に対して好ましくは0.01~20質量%である。
【0041】
[重合体(B)]
本発明に用いる重合体(B)の種類は特に限定されないが、重合体(B)を構成する単量体単位の一部又は全部が、先に説明したモノマー(A)中の一部のモノマー又は全部のモノマーと同じ種類のモノマーに起因する単量体単位であることが好ましい。本発明において「重合体」は、単独重合体及び共重合体の総称である。重合体(B)としては、例えば、(メタ)アクリレート系重合体及びその他のビニル系重合体を使用できる。中でも、(メタ)アクリレート系重合体が好ましい。
【0042】
(メタ)アクリレート系重合体の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋重合体;メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系モノマーとの共重合体等の架橋重合体及び部分的にカルシウム塩を形成している重合体が挙げられる。また、金属酸化物又は金属塩が非架橋重合体又は架橋重合体で被覆された有機・無機複合体であっても良い。
【0043】
重合体(B)の形態は特に限定されないが、粉末状であることが好ましい。重合体粉末は1種の重合体粉末を単独で用いても良いし、複数種の重合体粉末の混合物を用いても良い。中でも、比表面積及び/又は体積平均粒径が異なる2種以上の重合体粉末の混合物を用いることが好ましい。
【0044】
重合体(B)として用いる重合体粉末の各粒子の形態は、球形、不定形の何れでも良いが、球形の重合体粉末と不定形の重合体粉末の混合物を用いることが好ましい。球形の粒子は比表面積が比較的小さく、不定形の粒子は比表面積が比較的大きいので、両者は比表面積の違いにより区別できる。本発明においては、球形の重合体粉末として、比表面積が0.05~0.5m/gの重合体粉末(b1)を用いることが好ましく、不定形の重合体粉末として、比表面積が1.5~4.5m/gの重合体粉末(b3)を用いることが好ましい。さらに、球形の重合体粉末(b1)と不定形の重合体粉末(b3)の中間の形態を有する比表面積0.51~1.2m/gの重合体粒子(b2)を併せて用いることも好ましい。比表面積の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0045】
重合体粉末(b1)の比表面積は0.05~0.5m/gであり、好ましくは0.1~0.4m/gである。重合体粉末(b2)の比表面積は0.51~1.2m/gであり、好ましくは0.7~1.1m/gである。重合体粉末(b3)の比表面積は1.5~4.5m/gであり、好ましくは2.5~3.5m/gである。
【0046】
重合体粉末(b1)の重量平均分子量は、好ましくは1万~500万、より好ましくは5万~154万、特に好ましくは10万~50万である。重合体粉末(b2)の重量平均分子量は、好ましくは1万~500万、より好ましくは5万~166万、特に好ましくは10万~50万である。重合体粉末(b3)の重量平均分子量は、好ましくは15万~500万、より好ましくは20万~115万、特に好ましくは24万~67万である。重量平均分子量の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0047】
重合体粉末(b1)の体積平均粒径は、好ましくは12.7~77μm、より好ましくは15~45μm、特に好ましくは17.5~35μmである。重合体粉末(b2)の体積平均粒径は、好ましくは1~15μm、より好ましくは3.5~10μmである。重合体粉末(b3)の体積平均粒径は、好ましくは0.3~60μm、より好ましくは7.5~50μm、特に好ましくは15.7~40μmである。体積平均粒径の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0048】
重合体(B)の重量平均分子量(すなわち一種の重合体を単独で用いた場合はその重合体の重量平均分子量、また2種以上の重合体の混合物を用いた場合は混合物全体の重量平均分子量)は、好ましくは5万~500万、より好ましくは7.5万~200万、特に好ましくは7.5万~88万、最も好ましくは10万~40万である。重合体(B)が粉末状である場合の体積平均粒径(すなわち一種の重合体粉末を単独で用いた場合はその重合体粉末の体積平均粒径、また2種以上の重合体粉末の混合物を用いた場合は混合物全体の体積平均粒径)は、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~45μm、特に好ましくは15~30μmである。
【0049】
重合体(B)の配合量は、好ましくは54.9~80質量部、より好ましくは56.7~73.7質量部、特に好ましくは59.7~70.7質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である。重合体(B)100質量%中の重合体粉末(b1)の量は、好ましくは50.5~95質量%、より好ましくは53~85質量%である。重合体粉末(b2)の量は、好ましくは0~33.5質量%、より好ましくは0~25質量%である。重合体粉末(b3)の量は、好ましくは5~49.5質量%、より好ましくは15~47質量%である。
【0050】
重合体(B)のうち、体積平均粒径が2.0μm超の重合体粉末の含有量が、70質量%超であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0051】
[重合開始剤(C)]
本発明に用いる重合開始剤(C)としては特に限定されず、公知の各種化合物を使用できる。中でも、有機過酸化物、有機ホウ素化合物が好ましく、有機ホウ素化合物が特に好ましい。
【0052】
有機過酸化物として、例えば、ジアセチルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル(BPO)、スクシン酸パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネート等のパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド等の過酸化スルホネート類が挙げられる。
【0053】
有機過酸化物は、第3級アミン、又は、スルフィン酸もしくはそのアルカリ金属塩類及び第3級アミンと組み合わせてレドックス開始剤として使用しても良い。中でも、過酸化ベンゾイル(BPO)とN,N-ジメチル-p-トルイジン、過酸化ベンゾイル(BPO)とN,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジンが好ましい。
【0054】
N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン等の第3級アミンは、モノマー(A)にあらかじめ添加して使用することが好ましい。その添加量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは0.1~3.0質量部、特に好ましくは0.25~2.6質量部である(モノマー(A)と第3級アミンとの合計を100質量部とする)。第3級アミンを使用すると室温下においても電子移動によってラジカル種が発生するので、加熱しなくても重合反応を容易に開始できる。
【0055】
有機ホウ素化合物としては、例えば、トリアルキルホウ素、アルコキシアルキルホウ素、ジアルキルボラン、部分酸化トリアルキルホウ素、アルキルボラン・アミン錯体を使用できる。
【0056】
トリアルキルホウ素の具体例としては、トリエチルホウ素、トリプロピルホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリブチルホウ素、トリ-sec-ブチルホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリヘプチルホウ素、トリオクチルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素等の炭素原子数2~8のアルキル基を有するトリアルキルホウ素が挙げられる。アルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基のいずれであっても良く、トリアルキルホウ素に含まれる3つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。
【0057】
アルコキシアルキルホウ素の具体例としては、ブトキシジブチルホウ素等のモノアルコキシジアルキルホウ素、ジアルコキシモノアルキルホウ素が挙げられる。アルコキシアルキルホウ素が有するアルキル基と、そのアルコキシ基のアルキル部とは同一であっても異なっていても良い。
【0058】
ジアルキルボランの具体例としては、ジシクロヘキシルボラン、ジイソアミルボランが挙げられる。ジアルキルボランが有する2つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。ジアルキルボランに含まれる2つのアルキル基は結合して単環構造あるいはビシクロ構造を形成していても良い。このような化合物としては、例えば9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンがある。
【0059】
部分酸化トリアルキルホウ素とは、トリアルキルホウ素の部分酸化物である。中でも、部分酸化トリブチルホウ素が好ましい。トリアルキルホウ素1モルに対して付加する酸素の量は、好ましくは0.3~0.9モル、より好ましくは0.4~0.6モルである。
【0060】
アルキルボラン・アミン錯体の具体例としては、トリエチルボラン・ジアミノプロパン(TEB-DAP)、トリエチルボラン・ジエチレントリアミン(TEB-DETA)、トリ-n-ブチルボラン・3-メトキシプロピルアミン(TnBB-MOPA)、トリ-n-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TnBB-DAP)、トリ-sec-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TsBB-DAP)、メチルアミノエトキシジエチルボラン(MAEDEB)、メチルアミノエトキシジシクロヘキシルボラン(MAEDCB)及びこれらから誘導された誘導体が挙げられる。これらアルキルボラン・アミン錯体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0061】
アルキルボラン・アミン錯体が重合開始剤(C)として使用される場合、さらにモノマー(A)とともに脱錯化剤を使用することが好ましい。この「脱錯化剤」とは、アルキルボラン・アミン錯体からアルキルボランを遊離できる化合物を意味し、アルキルボランの遊離によって重合反応の開始を可能にする。
【0062】
適切な脱錯化剤としては、例えば、任意の酸、又は酸性基を有するモノマー(前述のモノマー(A)として使用される酸性基を有するモノマー)を使用できる。好適な酸としては、ルイス酸(例えば、SnCl、TiCl)、ブレンステッド酸(例えば、カルボン酸類、HCl、HSO、HPO、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸)等が挙げられる。好適なカルボン酸類としては、一般式R-COOHで示されるものが挙げられる。この式中、Rは、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基(好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基)、炭素原子数2~8のアルケニル基(好ましくは炭素原子数2~4のアルケニル基)、炭素原子数2~8のアルキニル基(好ましくは炭素原子数2~4のアルキニル基)、又は炭素原子数6~10のアリール基(好ましくは炭素原子数6~8のアリール基)を示す。Rにおけるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、直鎖状であっても良く、分枝状であっても良い。Rにおける脂肪族基は飽和であっても良く、不飽和であっても良い。Rにおけるアリール基は、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子等の置換基で置換されていても良く、無置換であっても良い。上記一般式で表されるカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸、p-メトキシ安息香酸が挙げられる。酸性基を有するモノマーの具体例としては、前述のモノマー(A)の中でも、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。
【0063】
有機ホウ素化合物の中では、トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素が好ましく、特に部分酸化トリブチルホウ素がより好ましい。トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物として用いた場合は、操作性が良くなるだけでなく、水分を有する生体に対して適切な反応性を有する傾向にある。また、トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物として用いた場合は、生体の様に水分が多い場所でも反応が開始し、反応が進むので、接着剤と生体との界面においてモノマーが残存しにくく、生体への為害性が極めて少ない。これら有機ホウ素化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
有機ホウ素化合物は、さらに非プロトン性溶媒を含んでも良い。非プロトン性溶媒により有機ホウ素化合物が希釈されると、発火性を有する有機ホウ素化合物の発熱性がより穏やかになり、発火性を抑制し、搬送時、保存時及び混合時の取扱いが容易になる。また、急激な発熱を抑制できるので、極めて多量の硬組織補修用組成物を使用する場合でも、硬組織補修用組成物と接する組織へのダメージが少なくなる傾向にある。非プロトン性溶媒の1気圧における沸点は、通常30℃~150℃、好ましくは50℃~120℃である。沸点が上記範囲未満である場合は、搬送時あるいは保存中に重合開始剤から非プロトン性溶媒が揮発、飛散等してしまい、有機ホウ素化合物の発火抑制効果が低下してしまう傾向にある。また、沸点が上記範囲を超える場合は、本発明の硬組織補修用組成物から形成される硬化物への非プロトン性溶媒の残存が多くなり、硬化物の患部に対する接着強さと、曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ等の物性が乏しくなる傾向にある。
【0065】
非プロトン性溶媒としては、有機ホウ素化合物と反応するヒドロキシ基、メルカプト基等の活性水素を含有する基を有さず、有機ホウ素化合物と均一な溶液を形成し得る溶媒が好ましい。
【0066】
非プロトン性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素;フルオロベンゼン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、フロン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステルが挙げられる。中でも、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素、エーテル、エステルが好ましく、ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチルがより好ましい。これら非プロトン性溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
非プロトン性溶媒の含有量は、有機ホウ素化合物100質量部に対し、好ましくは30~80質量部である。非プロトン性溶媒の含有量が上記範囲未満の場合は、十分な希釈効果が得られず、発熱あるいは発火の抑制効果が十分ではない傾向にある。一方、非プロトン性溶媒の含有量が上記範囲を超える場合は、重合開始剤(C)の重合開始能を低下させる傾向にある。
【0068】
有機ホウ素化合物は、非プロトン性溶媒に加えて、又は非プロトン性溶媒に替えてアルコールを含んでも良い。有機ホウ素化合物にアルコールを添加することにより、有機ホウ素化合物による反応が重合活性を低下させることなくさらに穏やかになり、空気中で紙等の部材に触れた場合の焦げや発火が抑制される傾向にある。
【0069】
アルコールの1気圧における沸点は、通常60℃~180℃、好ましくは60℃~120℃である。沸点が上記範囲未満である場合は、搬送又は保存中に重合開始剤組成物からアルコールが揮発、飛散してしまい、有機ホウ素化合物の発火抑制効果が低下してしまう傾向にある。一方、沸点が上記範囲を超える場合は、硬組織補修用組成物の硬化時間が長くなる傾向にあり、硬化物の患部に対する接着強さと、曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ等の物性が乏しくなる傾向にある。
【0070】
アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びその異性体、n-ブタノール及びその異性体、n-ペンタノール及びその異性体、n-ヘキサノール及びその異性体、n-ヘプタノール及びその異性体が挙げられる。中でも、炭素原子数4以下のアルコール、すなわちメタノール、エタノール、n-プロパノール及びその異性体、並びにn-ブタノール及びその異性体が好ましく、エタノール、n-プロパノールがより好ましい。これらアルコールは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
アルコールの含有量は、有機ホウ素化合物100質量部に対し、通常0.01~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。アルコールの含有量が上記範囲未満の場合は、十分な希釈効果が得られず、発熱あるいは発火の抑制効果が十分ではない傾向にある。一方、上記範囲を超える場合は、重合開始剤の重合開始能を必要以上に低下させる傾向がある。
【0072】
アルコールと非プロトン性溶媒とを併用する場合は、非プロトン性溶媒の含有量は、有機ホウ素化合物100質量部に対し、好ましくは5~40質量部、より好ましくは10~30質量部、特に好ましくは10~25質量部である。非プロトン性溶媒の含有量が上記範囲未満の場合は、発熱あるいは発火の抑制効果が十分ではない傾向にある。一方、上記範囲を超える場合は、重合開始剤(C)の重合開始能を低下させる傾向がある。
【0073】
重合開始剤(C)の配合量は、モノマー(A)、重合体(B)及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1.0~7.0質量部、特に好ましくは2.1~4.3質量部である。重合開始剤(C)の配合量が上記範囲未満である場合は、重合が進行しにくくなり、硬化時間が遅くなる傾向にある。一方、上記範囲を超える場合は、希釈により粘度が低下してしまう可能性、安全性に悪影響を及ぼす可能性があり、また急激な重合が進行し速やかに重合硬化物が形成されることも想定される。
【0074】
[造影剤(X)]
本発明に用いられる造影剤(X)の体積平均粒径は3μm以上であり、好ましくは3.0~25.1μm、より好ましくは3.0~18.0μm、特に好ましくは3.5~15.5、最も好ましくは4.0~13.0μmである。このような比較的大きな体積平均粒径の造影剤(X)は凝集しにくく、その結果として組成物の海綿骨への侵入性が向上し、被接着体との密着性に優れると考えられる。体積平均粒径の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0075】
造影剤(X)の種類は特に限定されない。具体例としては、硫酸バリウム、ジルコニア、炭酸ビスマス、タングステン酸カルシウム、イットリビウム、ヨウ素化合物が挙げられる。中でも、硬組織用途、特に骨セメントへの使用実績がある点から、硫酸バリウム、ジルコニアが好ましい。造影剤(X)は、単独で粒子を形成するものであることが好ましい。また、表面が被覆されていないこと(例えば、二酸化チタン等により被覆されていないこと)が好ましい。
【0076】
造影剤(X)の配合量は、モノマー(A)、重合体(B)及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.5~70質量部、より好ましくは0.5~45質量部、特に好ましくは2.5~33.8質量部、最も好ましくは4.5~22.5質量部である。
【0077】
造影剤(X)は、重合体(B)の内部に封入及び/又は吸着されず、硬組織補修用組成物を調製したとき、硬化前の液体成分中(モノマー(A)、重合開始剤(C)等)に分散されていることが好ましい。造影剤(X)のうち、80質量%以上が液体成分中に分散されていることが好ましく、90質量%以上が液体成分中に分散されていることがより好ましく、95質量%以上が液体成分中に分散されていることが特に好ましく、99質量%以上が液体成分中に分散されていることが最も好ましい特に好ましい。
【0078】
造影剤(X)は、重合体(B)の内部に封入及び/又は吸着されていないことが好ましい。造影剤(X)のうち、重合体(B)の内部に封入及び/又は吸着されている造影剤(X)の量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0.1質量%以下であることが最も好ましい。
【0079】
本発明の硬組織補修用組成物に含まれる液体成分のうち、50質量%以上がモノマー(A)であることが望ましく、60質量%以上がモノマー(A)であることが好ましく、70質量%以上がモノマー(A)であることがより好ましく、80質量%以上がモノマー(A)であることが特に好ましく、90質量%以上がモノマー(A)であることが最も好ましい。
【0080】
本発明の硬組織補修用組成物に含まれる液体成分(ただし、重合体(B)内にある液体を除く)のうち、水の含有量は、20質量%以下であることが望ましく、10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが特に好ましく、1.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0081】
本発明の硬組織補修用組成物に含まれる全体の液体成分のうち、水の含有量は、25質量%以下であることが望ましく、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが特に好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましい。
【0082】
[その他成分]
本発明の硬組織補修用組成物は、必要に応じて、重合禁止剤を含んでも良い。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン等のハイドロキノン化合物類、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のフェノール類、カテコール、ピロガロール、ベンゾキノン、2-ヒドロキシベンゾキノン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、t-ブチルヒドロキノンが挙げられる。中でも、ハイドロキノンモノメチルエーテルと2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの混合物が好ましい。また、それ自体の安定性の点から、ハイドロキノンモノメチルエーテルが好ましい場合もある。重合禁止剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0083】
重合禁止剤の添加量は、硬組織補修用組成物全量に対して、好ましくは1~1500ppm、より好ましくは5~1000ppm、特に好ましくは5~500ppmである。また、重合禁止剤(D)の添加量は、モノマー(A)に対して、10~5000ppm、より好ましくは25~1000ppm、特に好ましくは25~500ppmである。
【0084】
本発明の硬組織補修用組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤を含んでも良い。紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-sec-ブチル-5'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4'-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-アミル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-オクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-5'-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2'-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-オクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-5'-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-ドデシル-2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-イソオクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾールと2,2'-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-ベンゾトリアゾール-2-イルフェノール]との混合物、2-[3'-tert-ブチル-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)-2'-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾールとポリエチレングリコール300とのエステル交換反応生成物、[[R-CH2CH2-COOCH232-(式中、Rは3'-tert-ブチル-4'-ヒドロキシ-5'-2H-ベンゾトリアゾール-2-イルフェニル)等のベンゾトリアゾール化合物;
2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-デシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2',4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;
サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、サリチル酸フェニル、サリチル酸オクチルフェニル、ジベンゾイルレゾルシノール、ビス(4-tert-ブチルベンゾイル)レゾルシノール、ベンゾイルレゾルシノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル 3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル 3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、オクタデシル 3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、安息香酸2-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート;
セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)n-ブチル-3,5-ジ-第三-ブチル-4-ヒドロキシベンジルマロネート、1-ヒドロキシエチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンとコハク酸との縮合生成物、N,N'-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-第三-オクチルアミノ-2,6-ジクロロ-1,3,5-s-トリアジンとの縮合生成物、トリス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ニトリロトリアセテート、テトラキス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラオエート、1,1'-(1,2-エタンジイル)ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-n-ブチル-2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-第三-ブチルベンジル)マロネート、3-n-オクチル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン、セバシン酸ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、コハク酸ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、N,N'-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-モルホリノ-2,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジンとの縮合生成物、2-クロロ-4,6-ジ-(4-n-ブチルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)-1,3,5-トリアジンと1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタンとの縮合生成物、2-クロロ-4,6-ジ-(4-n-ブチルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)-1,3,5-トリアジンと1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタンとの縮合生成物、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン、3-ドデシル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ピロリジン-2,5-ジオン、3-ドデシル-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ピロリジン-2,5-ジオン等のヒンダードアミン化合物;
4,4'-ジオクチルオキシオキサニリド、2,2'-ジエトキシオキサニリド、2,2'-ジオクチルオキシ-5,5'-ジ-tert-ブチルオキサニリド、2,2'-ジドデシルオキシ-5,5'-ジ-tert-ブチルオキサニリド、2-エトキシ-2'-エチルオキサニリド、N,N'-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)オキサルアミド、2-エトキシ-5-tert-ブチル-2'-エチルオキサニリドと2-エトキシ-2'-エチル-5,4'-ジ-tert-ブチルオキサニリドとの混合物、o-及びp-メトキシ-、並びにo-及びp-エトキシ-二置換オキサニリドの混合物等のオキサルアミド化合物;
2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-プロピルオキシフェニル)-6-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(4-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-ブチルオキシプロピルオキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-オクチルオキシプロピルオキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-ドデシル/トリデシルオキシ-(2-ヒドロキシプロピル)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等の2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物;
トリフェニルホスフィット、ジフェニルアルキルホスフィット、フェニルジアルキルホスフィット、トリス(ノニルフェニルホスフィット)、トリラウリルホスフィット、トリオクタデシルホスフィット、ジステアリルペンタエリスリチルジホスフィット、トリス-(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)ホスフィット、ジイソデシルペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,6-ジ-第三-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-イソデシルオキシペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス(2,4,6-トリ-第三-ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、トリステアリルソルビチルトリホスフィット、テトラキス(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)4,4'-ビフェニレンジホスホナイト、6-イソオクチルオキシ-2,4,8,10-テトラ-第三ブチル-12H-ジベンゾ[d、g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、6-フルオロ-2,4,8,10-テトラ-第三-ブチル-12-メチルジベンゾ[d,g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)メチルホスフィット、ビス(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスフィット等のホスフィット化合物又はホスホナイト化合物が挙げられる。中でも、ベンゾトリアゾール化合物が好ましい。
【0085】
紫外線吸収剤の添加量は、モノマー(A)に対して、好ましくは10~1,000ppm、より好ましくは100~800ppmである。紫外線吸収剤を添加することにより、モノマーを含む液の着色が抑制され、モノマー自体の保存安定性が向上する傾向にある。
【0086】
その他成分の例としては、さらに軟質剤、可塑剤が挙げられる。
【0087】
軟質剤としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム等のゴム、熱可塑性エラストマー等のエラストマーが挙げられる。このような軟質剤により硬組織補修用組成物の柔軟性を高めることができる。合成ゴムの具体例としては、EPT(エチレン・プロピレン・ターポリマー)が挙げられる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマーが挙げられる。エラストマーの分子量は、通常1000~100万、好ましくは2000~50万である。エラストマーのガラス転移点(Tg)は、通常20℃以下、好ましくは0℃以下である。
【0088】
可塑剤の具体例としては、クエン酸エステル、イソクエン酸エステル、酒石酸エステル、リンゴ酸エステル、乳酸エステル、グリセリン酸エステル、グリコール酸エステル等のヒドロキシカルボン酸エステル、トリメリト酸トリメチル、ジ安息香酸ジエチレングリコール、マロン酸ジエチル、-アセチルクエン酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ジ安息香酸ジプロピレングリコール、アジピン酸ジエチル、-アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸ジメチル、アルキレングリコールジエステルが挙げられる。
【0089】
軟質剤及び可塑剤の添加量は、その種類によって適宜決定すれば良いが、硬組織補修用組成物全体において、通常0~30質量%、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0090】
本発明の硬組織補修用組成物は、必要に応じて、保存剤を含んでも良い。保存剤の具体例としては、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、エチルパラベン、プロピルパラベン、プロピルパラベンナトリウム、ブチルパラベン、クレゾール、クロロクレゾール、レゾルシノール、4-n-ヘキシルレゾルシノール、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-2-((トリクロロメチル)チオ)-1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウムナトリウム、塩化ベンゼトニウム、安息香酸、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、デヒドロ酢酸、o-フェニルフェノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チメロサール、チモール、ホウ酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀等のフェニル水銀化合物、ホルムアルデヒドが挙げられる。
【0091】
その他成分としては、さらに抗感染剤、抗生物質、抗菌剤、抗ウィルス剤、鎮痛薬、鎮痛薬の配合物、食欲抑制薬、抗蠕虫薬、抗関節炎薬、抗喘息薬、抗痙攣薬、抗鬱薬、抗利尿薬、下痢止め薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、抗偏頭痛薬剤、制嘔吐剤、抗新生物薬、抗パーキンソン病薬、止痒薬、抗精神病薬、解熱薬、鎮痙薬、抗コリン作用薬、交感神経興奮剤、心臓血管用薬剤、抗不整脈薬、抗高血圧薬、利尿薬、血管拡張剤、免疫抑制薬、筋弛緩剤、副交感神経遮断薬、覚醒薬、鎮静剤、精神安定剤、コリン作用薬、化学療法薬、放射性医薬品、骨誘導性薬、膀胱静止性のヘパリン中和剤、凝血原、止血剤、キサンシン誘導体、ホルモン、天然由来又は遺伝子工学によって合成されたタンパク質、多糖類、糖蛋白質、リポ蛋白質、オリゴヌクレオチド、抗体、抗原、バソプレシン、バソプレシン類似体、エピネフリン、セレクチン、凝血促進性の毒物、プラスミノゲン活性化因子阻害剤、血小板活性剤、骨形成因子、骨成長因子、止血作用を有する合成ペプチド、及びその他の薬学的又は治療的成分がある。これら成分を含むことにより、本発明の硬組織補修用組成物は、ドラッグ・デリバリー・システムや再生医療用途にも用いることができる。
【0092】
抗菌剤の具体例としては、元素ヨウ素、固体ポリビニルピロリドンヨウ素、ポリビニルピロリドンヨウ素;トリブロモフェノール、トリクロロフェノール、テトラクロロフェノール、ニトロフェノール、3-メチル-4-クロロフェノール、3,5-ジメチル-4-クロロフェノール、フェノキシエタノール、ジクロロフェン、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、2-ベンジル-4-クロロフェノール、2,4-ジクロロ-3,5-ジメチルフェノール、4-クロロチモール、クロルフェン、トリクロサン、フェンチクロール、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、4-エチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、4-n-プロピルフェノール、4-n-ブチルフェノール、4-n-アミルフェノール、4-tert-アミルフェノール、4-n-ヘキシルフェノール、4-n-ヘプチルフェノール、モノアルキルハロフェノール、ポリアルキルハロフェノール、芳香族ハロフェノール、並びにそれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等のフェノール化合物;硝酸銀、ヘキサクロロフェン、メルブロミンが挙げられる。
【0093】
抗生物質の具体例としては、ゲンタマイシン、ゲンタマイシン硫酸塩、トブラマイシン、トブラマイシン硫酸塩、アミカシン、アミカシン硫酸塩、ジベカシン、ジベカシン硫酸塩、バンコマイシン、バンコマイシン塩酸塩、ホスホマイシン、セファゾリン、セファゾリンナトリウム塩、ミノサイクリン、クリンダマイシン、コリスチン、リネゾリド、テトラサイクリン塩酸塩、テトラサイクリン水和物、オキシテトラサイクリン及びエリスロマイシンが挙げられる。
【0094】
抗生物質の添加量は、その種類によって適宜決定すれば良いが、重合体(B)、重合開始剤(C)及び造影剤(X)の合計100質量%に対して、通常0~30質量%、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0095】
本発明の硬組織補修用組成物は、組織修復の促進を目的として、骨形成因子、骨成長因子、及びその他の薬学的又は治療的成分を含んでも良い。
【0096】
その他成分としては、さらに香料がある。香料の具体例としては、オレンジ油、グレープフルーツ油、レモン油、ライム油、丁子油、ウインターグリーン油、ペパーミント油、ペパーミントスピリット、バナナ留出物、キュウリ留出物、蜂蜜留出物、ローズウオータ、メントール、アネトール、サリチル酸アルキル、ベンズアルデヒド、グルタミン酸一ナトリウム、エチルバニリン、チモール、バニリンが挙げられる。
【0097】
その他成分の例としては、さらに、周辺の骨組織との視覚的な区別の明瞭化、密着性の向上、圧縮強度等の物性の強化、又は、活性ラジカル種の補足による周辺の骨組織への侵襲性の低減を目的とする、無機充填剤(ただし、前述のX線造影剤を除く)、有機充填剤、有機複合フィラー、着色剤がある。
【0098】
無機充填剤の具体例としては、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム粒子等の金属酸化物粉末;リン酸ジルコニウム等の金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ジルコニウムシリケートガラス等のガラスフィラー;銀徐放性を有するフィラー、カルシウム徐放性を有するフィラー:フッ素徐放性を有するフィラーが挙げられる。硬化後の無機充填剤とモノマー(A)との間で強固な結合を形成する点から、シラン処理、ポリマーコート等の表面処理を施した無機充填剤が好ましい。これら無機充填材は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0099】
着色剤の具体例としては、赤色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色3号及びそのアルミニウムレーキ、赤色102号及びそのアルミニウムレーキ、赤色104号の(1)及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ、赤色105号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色106号及びそのアルミニウムレーキ、黄色4号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ又はジルコニウムレーキ、黄色5号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ又はジルコニウムレーキ、緑色3号及びそのアルミニウムレーキ、青色1号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ又はジルコニウムレーキ、青色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色201号、赤色202号、赤色203号、赤色204号、赤色205号、赤色206号、赤色207号、赤色208号、赤色213号、赤色214号、赤色215号、赤色218号、赤色219号、赤色220号、赤色221号、赤色223号、赤色225号、赤色226号、赤色227号及びそのアルミニウムレーキ、赤色228号、赤色230号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色230号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、赤色231号及びそのアルミニウムレーキ、赤色232号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色201号、だいだい色203号、だいだい色204号、だいだい色205号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ又はジルコニウムレーキ、だいだい色206号、だいだい色207号及びそのアルミニウムレーキ、黄色201号、黄色202号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色202号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、黄色203号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ又はジルコニウムレーキ、黄色204号、黄色205号、緑色201号及びそのアルミニウムレーキ、緑色202号、緑色204号及びそのアルミニウムレーキ、緑色205号及びそのアルミニウムレーキ又はジルコニウムレーキ、青色201号、青色202号及びそのバリウムレーキ、青色203号、青色204号、青色205号及びそのアルミニウムレーキ、褐色201号及びそのアルミニウムレーキ、紫色201号、赤色401号及びそのアルミニウムレーキ、赤色404号、赤色405号、赤色501号、赤色502号及びそのアルミニウムレーキ、赤色503号及びそのアルミニウムレーキ、赤色504号及びそのアルミニウムレーキ、赤色505号、赤色506号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色401号、だいだい色402号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ、だいだい色403号、黄色401号、黄色402号及びそのアルミニウムレーキ、黄色403号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色404号、黄色405号、黄色406号及びそのアルミニウムレーキ、黄色407号及びそのアルミニウムレーキ、緑色401号、緑色402号及びそのアルミニウムレーキ又はバリウムレーキ、青色403号、青色404号、紫色401号及びそのアルミニウムレーキ、黒色401号及びそのアルミニウムレーキ;クロロフィル、クロロフィリン、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、コバルトフタロシアニン、カロテン、ビタミンB12及びこれらから誘導された誘導体が挙げられる。これら着色剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
着色剤の添加量は、その種類によって適宜決定すれば良いが、重合体(B)、重合開始剤(C)及び造影剤(X)の合計100質量%に対して、通常0~5質量%、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%である。
【0101】
[硬組織補修用組成物]
本発明の硬組織補修用組成物は、モノマー(A)、重合体(B)、重合開始剤(C)、造影剤(X)及びその他必要に応じて含まれる成分を混合して調製される。この組成物は、例えば患部に適用することにより使用できる。なお、本発明において「硬組織補修用組成物」とは、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着及び/又は密着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着及び/又は密着に用いられるものであって、歯と充填物との接着(即ち、歯科用途)は含まない。
【0102】
これら各成分を混合する際は、混合する順序は限定されない。得られる硬組織補修用組成物の安定性がより優れるという点から、まずモノマー(A)及び重合開始剤(C)を混合し、続いて造影剤(X)が配合された重合体(B)を混合することが好ましく、モノマー(A)、重合開始剤(C)及び、造影剤(X)が配合された重合体(B)を同時に混合されることがより好ましい。
【0103】
本発明の硬組織補修用組成物が重合禁止剤を含む場合は、得られる組成物の安定性がより優れるという点から、まずモノマー(A)と重合禁止剤の混合物、及び、重合開始剤(C)を混合し、続いて造影剤(X)が配合された重合体(B)混合することが好ましく、モノマー(A)と重合禁止剤の混合物、重合開始剤(C)、及び、造影剤(X)が配合された重合体(B)を同時に混合することがより好ましい。
【0104】
本発明の硬組織補修用組成物は、以下の方法で測定される模擬骨侵入性が、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.0~6.0mmである。これにより硬組織補修用組成物は骨組織との密着性がより優れることになる。
(模擬骨侵入性の測定方法)
模擬骨侵入性は、連通した気泡を有するポリウレタンフォーム(空孔率95%)に生理食塩水(和光純薬工業製、商品名0.01mol/Lりん酸緩衝生理食塩水)を含浸させ、その上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物をのせ、75kPaの圧力で30秒間加荷重し、組成物が侵入した深さ(mm)を測定する。
【0105】
本発明の硬組織補修用組成物に含まれる粒子(具体的には、粉末状である場合の重合体(B)、造影剤(X)及びその他の粒子)全体の体積平均粒径は、好ましくは32μm以下、より好ましくは15~26μmである。粒子全体の体積平均粒径が26μmを超えると、上述の模擬骨侵入性が劣る。体積平均粒径の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0106】
本発明の硬組織補修用組成物に含まれる粒子のうち、造影剤(X)の含有量は、1.0質量%以上20質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以上19質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上18質量%以下であることが特に好ましい。
【0107】
本発明の硬組織補修用組成物を硬化する前に、例えば、ドライ・ヒート処理、スチーム、エチレンオキサイド(EO)、過酸化水素等のガスを用いた処理、濾過処理、液体を用いた処理等の処理によって滅菌しても良い。硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、あらかじめ患部表面をアルコール等の消毒液で消毒しても良い。さらに、硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、患部との密着性を改善することを目的として前処理を行っても良い。前処理用の液としては、例えば生理食塩水が挙げられる。
【0108】
[硬組織補修用キット]
本発明の硬組織補修用組成物が長い期間経過することにより形態や性能が変化し、本発明の効果が損なわれる恐れがある場合は、モノマー(A)、重合体(B)、重合開始剤(C)、造影剤(X)及びその他必要に応じて含まれる全成分を、任意の組合せで3つ以上に分割し、それらを各々3つ以上の部材に収容し、硬組織補修用キットとして保存できる。各成分は、使用直前に混合して硬組織補修用組成物とすれば良い。モノマー(A)や重合開始剤(C)を収容するための部材としては、それらの揮散及び飛散を防ぐ部材が好ましく、その具体例としてはガスバリヤー性を有する密閉可能な樹脂容器やガラスアンプルが挙げられる。重合体(B)を収容するための部材の具体例としては、吸湿を防ぐことができる密閉性が良好な樹脂容器やガラス容器、エチレンオキサイド(EO)や過酸化水素等のガスによる滅菌を行うことが可能な通気性を有する樹脂製不織布、滅菌紙が挙げられる。
【0109】
硬組織補修用キットとしては、モノマー(A)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、造影剤(X)が配合された重合体(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の3つに分割し、各々を3つの部材に収容した硬組織補修用キットが好ましい。ただし硬組織補修用キットはこれに限定されず、例えば、モノマー(A)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合体(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、造影剤(X)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の4つに分割し、各々を4つの部材に収容した硬組織補修用キットでも良いし、モノマー(A)、造影剤(X)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合体(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の3つに分割し、各々を3つの部材に収納した硬組織補修用キットでも良い。これら各成分が収容された3つ以上の部材を有する硬組織補修用キットは、製品として提供できる。
【0110】
硬組織補修用キットを使用する際は、例えば、モノマー(A)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物と、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物を混合し、続いて造影剤(X)が配合された重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物を混合することが好ましい。また、それらを同時に混合しても良い。このように混合することで、より安定した性能を有する硬組織補修用組成物が得られ易い。
【0111】
硬組織補修用キットは、各成分を収容する部材(例えば、樹脂容器、ガラスアンプル)だけでなく、各成分を取り出して混合するための部材(例えば、セメントガン、混合容器、混合皿、セメント注入器、シリンダー)を有していても良い。
【0112】
硬組織補修用キットにおいて、1つのチャンバー(混合容器)の内部が隔壁又はスペーサーによって3つ以上に分離され、その分離された3つ以上の箇所に各成分が収容されていても良い。さらに硬組織補修用キットは、その隔壁の破壊や移動又はスペーサーの除去によってモノマー(A)及び重合開始剤(C)を造影剤(X)が配合された重合体(B)に接触させた後、撹拌翼を操作して各成分を混合するための撹拌ユニットを有していても良い。このような硬組織補修用キットは、各容器から各成分を取り出して混合する場合と比較して作業が容易である。さらにチャンバー(混合容器)から組成物を患部に直接充填するためのセメントガン等の治具を利用することも、作業を容易にする点で有用である。
【0113】
硬組織補修用組成物を骨、軟骨等の硬組織等の患部や軟組織、その他チタン、セラミックス、ステンレス等の人工物に塗布する際に使用する治具に対して、あらかじめ重合開始剤(C)成分の一部又は全部を含有させておいても良い。この場合は、使用直前にモノマー(A)、重合体粉末(B)、及びその他必要に応じて含まれる成分と治具とを接触させることによって硬組織補修用組成物を調製し、これをそのまま患部に充填する。
【0114】
患部に硬組織補修用組成物を充填する治具としては、例えばセメントガンが挙げられる。
【0115】
硬組織補修用キットは、例えば、先に述べたアルコール等の消毒液や密着性を改善することを目的とした前処理のための溶液を有していても良い。
【0116】
硬組織補修用キットに各成分を収納する際には、好ましくは各成分が変質しない(例えばモノマーが硬化しない)条件で、可視光等の電磁波により各成分を滅菌処理しても良い。
【実施例
【0117】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する、ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0118】
(1)比表面積
重合体粉末の比表面積は、前処理として室温での真空脱気を行い、装置BELSORP-mini(マイクロトラックベル社製)を用いて、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法にて測定した。
【0119】
(2)重量平均分子量(Mw)
重合体粉末を試薬特級テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)に溶解させ、この溶液を疎水性0.45μmポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過した。この濾過後の溶液をサンプルとし、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、LC-10AD)、分離カラム(PLgel(10μm)MIXED-B×2)、検出器(Shodex社製、RI-101)を用いて、重合体粉末の重量平均分子量(Mw)を測定した(標準ポリスチレン換算)。
【0120】
(3)体積平均粒径D50
分散溶媒として試薬特級メタノール(和光純薬工業社製、溶媒屈折率1.33)又は0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製、溶媒屈折率1.33)を用いて、重合体粉末又は造影剤を超音波ホモジナイザーで5分間(出力25W)分散させた。この分散液をサンプルとし、粒度分布計(Microtrac社製、Microtrac MT3300EXII)を用いて、装置Loading Index適量範囲内の濃度条件で、且つ循環速度50%(100%時、65mL/sec)の条件で、重合体粉末、造影剤、及び、組成物に含まれる粒子全体の体積平均粒径D50を測定した。
【0121】
(4)模擬骨侵入性
模擬骨侵入性については、連通した気泡を有するポリウレタンフォームからなる海綿模擬骨(ヒューマンボディ社製、商品名SAW1522-507、空孔率95%)に生理食塩水(和光純薬工業製、商品名0.01mol/Lりん酸緩衝生理食塩水)を含浸させ、その上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物をのせ、75kPaの圧力で30秒間加荷重し、組成物が侵入した深さ(mm)を測定した。
【0122】
(5)ブタ大腿骨との密着性
ブタ大腿骨との密着性については、食用のブタ大腿骨の髄腔内に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物の適量を充填し、200gの荷重を加えながら、温度37℃、相対湿度95%RHの環境下で24時間硬化させた組成物を、5mm/分の速度でブタ大腿骨から刳り貫くのに要する負荷の値(N)を測定した。評価方法は「Canadian Journal of Surgery,54(2011)33-38,Stephen Hunt,Craig Stone,Shane Seal」を参考にした。なお、食用のブタ大腿骨は、あらかじめ長さ10mmで切断し、髄腔内を生理食塩水(和光純薬工業製、商品名0.01mol/Lりん酸緩衝生理食塩水)で十分洗浄し、髄腔の内径(最小値と最大値との平均値)が10~25mmの範囲であって、傷や割れがないことを確認して用いた。
【0123】
[実施例1a~6a、比較例1a~6a]
実施例1a~6a、比較例1a~6aにおいて、モノマー(A)としてメタクリル酸メチル、球状の重合体粉末(b1)としてポリメチルメタクリレート(比表面積=0.32m/g、Mw=12.1万、体積平均粒径D50=21.9μm)、不定形の重合体粉末(b3)としてポリメチルメタクリレート(比表面積=2.9m/g、Mw=44.2万、体積平均粒径D50=21.3μm)、重合開始剤(C)として、85質量%の部分酸化トリブチルホウ素と15質量%のエタノール混合物(三井化学社製、品番BC-S1i)(重合開始剤(C)の合計を100質量%とする)、造影剤(X)として硫酸バリウム(堺化学工業社製)を用いた。
【0124】
まず表1及び2に示す配合比で、重合体(B)及び造影剤(X)を均一に分散させて混合物を調製し、またこれとは別に、5mLガラス製サンプル管内でモノマー(A)と重合開始剤(C)の混合物を調製した。そして、ポリプロピレン製容器(松風社製、商品名トレーレジン混和器)及びシリコンゴム製のヘラを用いて、これら2つの混合物を23℃で60秒間混合した。得られた混合物を適切な時間静置して、糸引きが無くなり軟塊状となった硬組織補修用組成物を得た。この組成物を用いて模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0125】
なお、表中の各成分の括弧書きで示す配合比は、成分(A)~(C)の合計100質量部を基準とする比率(質量部)である。また、成分(b1)及び(b3)の配合比は、重合体粉末(B)100質量%を基準とする比率(質量%)である。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
表1及び2に示すとおり、造影剤(X)として体積平均粒径が大きい硫酸バリウムを使用した実施例1a~6aの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が優れていた。この硬組織補修用組成物は、骨セメントとして患者の治療に使用した場合に接着性の向上が期待できる。
【0129】
一方、造影剤(X)として体積平均粒径が小さい硫酸バリウムを使用した比較例1a~6aの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が劣っていた。また、比較例1a~6aの中で硬組織補修用組成物に含まれる粒子全体の体積平均粒径が最も大きい比較例6aの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が最も劣っていた。この結果から、硬組織補修用組成物に含まれる粒子全体の体積平均粒径が大き過ぎると、逆に模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が低下する傾向があることが分かる。
【0130】
[実施例1b及び比較例1b]
造影剤(X)として硫酸バリウムの代わりに表3に示す体積平均粒径のジルコニア株式会社高純度化学研究所製、商品名酸化ジルコニウム(IV)、及びAldrich社製、商品名Zirconium(IV))を用いたこと以外は、実施例4aと同様にして硬組織補修用組成物を調製し、評価した。結果を表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表3に示すとおり、造影剤(X)を硫酸バリウムからジルコニアに変更した場合も同様に、造影剤(X)として体積平均粒径が大きいジルコニアを使用した実施例1bの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が優れていた。一方、造影剤(X)として体積平均粒径が小さいジルコニアを使用した比較例1bの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が劣っていた。
【0133】
[実施例1c~3c及び比較例1c~3c]
重合開始剤(C)としてアルキルボラン系重合開始剤の代わりに過酸化ベンゾイル(Aldrich社製、商品名Luperox(登録商標)A75)を表4及び5に示す配合量で用い、モノマー(A)であるメタクリル酸メチルに0.5質量%のN,N-ジメチル-p-トルイジンを添加し、硫酸バリウムの体積平均粒径を表4及び5に示すように変更したこと以外は、実施例4aと同様にして硬組織補修用組成物を調製し、評価した。結果を表4及び5に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
【表5】
【0136】
表4及び5に示すとおり、重合開始剤(C)をアルキルボラン系重合開始剤から過酸化ベンゾイルに変更した場合も同様に、造影剤(X)として体積平均粒径が大きい硫酸バリウムを使用した実施例1c~3cの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が優れていた。一方、造影剤(X)として体積平均粒径が小さい硫酸バリウムを使用した比較例1c~3cの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が劣っていた。
【0137】
また、重合開始剤(C)として過酸化ベンゾイルを使用した実施例1c~3cと、重合開始剤(C)としてアルキルボラン系重合開始剤を使用した実施例4a~6aとをそれぞれ比較すると、実施例4a~6aの方が模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性がより優れていた。この結果から、重合開始剤(C)としては、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物よりも、アルキルボラン系重合開始剤等の有機ホウ素化合物の方が密着性の点でより好ましいことが分かる。
【0138】
[実施例1d及び比較例1d]
造影剤(X)として硫酸バリウムの代わりに表6に示す体積平均粒径のジルコニア株式会社高純度化学研究所製、商品名酸化ジルコニウム(IV)、及びAldrich社製、商品名Zirconium(IV))を用いたこと以外は、実施例1cと同様にして硬組織補修用組成物を調製し、評価した。結果を表6に示す。
【0139】
【表6】
【0140】
表6に示すとおり、重合開始剤(C)として過酸化ベンゾイルを用い且つ造影剤(X)としてジルコニアを用いた場合も同様に、造影剤(X)として体積平均粒径が大きいジルコニアを使用した実施例1dの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が優れていた。一方、造影剤(X)として体積平均粒径が小さいジルコニアを使用した比較例1dの硬組織補修用組成物は、模擬骨侵入性及びブタ大腿骨との密着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の硬組織補修用組成物は、例えば、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着の用途に有用である。また、本発明の硬組織補修用組成物は、例えば、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定に用いる骨セメント、骨の欠損部への充填材、骨補填材、人工骨として有用である。