(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/00 20060101AFI20220209BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20220209BHJP
B60W 50/02 20120101ALI20220209BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
B60R21/00 310Z
B60W30/09
B60W50/02
B60R21/00 993
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2017188488
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-08-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章也
(72)【発明者】
【氏名】澄川 瑠一
(72)【発明者】
【氏名】大野 翼
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 剛
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123898(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190329(WO,A1)
【文献】特開2012-104029(JP,A)
【文献】特開2002-316629(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056374(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00
G08G 1/16
B60W 30/09
B60W 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次衝突が発生した場合に、車両の
故障箇所の診断である故障診断を行う故障診断部と、
前記故障診断の結果に基づいて、一次衝突後の車両経路を判断する車両経路判断部と、
を備え、
前記車両経路判断部は、
前
記故障箇所と前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断
し、
複数の異なる前記故障箇所がある場合、前記複数の異なる前記故障箇所の組み合わせと、前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、
前記車両経路の判断において、前記故障診断の結果に基づいて、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右の双方に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行不可能であるが前記車両の左右に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行可能であるが前記車両の左右に走行不可能であるか、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右のいずれにも走行不可能であるかを判断する走行可否判断を行い、前記走行可否判断の判断結果に基づいて、前記車両経路を判断することを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両経路判断部は、前記車両の外部の空間を分割して得られる複数のエリアに関し、前記故障箇所に応じて走行可否を判断することを特徴とする、請求項
1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記故障箇所は、ブレーキ、ステアリング操舵系、前記車両を駆動する駆動源の少なくともいずれかを含む、請求項1
又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
一次衝突が発生した場合に、車両の
故障箇所の診断である故障診断を行う第1のステップと、
前記故障診断の結果に基づいて、一次衝突後の車両経路を判断する第2のステップと、
を備え、
前記第2のステップにおいて、
前
記故障箇所と前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断
し、
複数の異なる前記故障箇所がある場合、前記複数の異なる前記故障箇所の組み合わせと、前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、
前記車両経路の判断において、前記故障診断の結果に基づいて、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右の双方に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行不可能であるが前記車両の左右に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行可能であるが前記車両の左右に走行不可能であるか、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右のいずれにも走行不可能であるかを判断する走行可否判断を行い、前記走行可否判断の判断結果に基づいて、前記車両経路を判断することを特徴とする、車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1には、被衝突時に自動的に車両を制動する衝突時制御装置に関し、後部衝突後に車両の挙動に応じた挙動安定制御を行うことによって、早期に車両の安定性を確保することを想定した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が最初に障害物に衝突(一次衝突)した場合に、一次衝突が発生した後も車両は動いているため、他車、建物、歩行者などに車両が衝突する可能性がある。しかしながら、上記特許文献に記載された技術では、これらの障害物を考慮して車両を制御することは想定していないため、二次衝突の被害が拡大する可能性がある。
【0005】
また、一次衝突により車両が破損した場合、例えば、ブレーキ、ステアリング操舵系、車両を駆動するモータなど、故障箇所に応じて車両が走行可能な方向が異なる場合がある。上記特許文献1に記載された技術では、故障により走行性能に制約は生じることを考慮していないため、二次災害の被害が拡大する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、一次衝突が発生した場合に、車両を最適な経路に走行させることで、二次災害の発生を抑制することが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、一次衝突が発生した場合に、車両の故障箇所の診断である故障診断を行う故障診断部と、前記故障診断の結果に基づいて、一次衝突後の車両経路を判断する車両経路判断部と、を備え、前記車両経路判断部は、前記故障箇所と前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、複数の異なる前記故障箇所がある場合、前記複数の異なる前記故障箇所の組み合わせと、前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、前記車両経路の判断において、前記故障診断の結果に基づいて、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右の双方に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行不可能であるが前記車両の左右に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行可能であるが前記車両の左右に走行不可能であるか、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右のいずれにも走行不可能であるかを判断する走行可否判断を行い、前記走行可否判断の判断結果に基づいて、前記車両経路を判断する車両の制御装置が提供される。
【0010】
また、前記車両経路判断部は、前記車両の外部の空間を分割して得られる複数のエリアに関し、前記故障箇所に応じて走行可否を判断するものであっても良い。
【0011】
また、前記故障箇所は、ブレーキ、ステアリング操舵系、前記車両を駆動する駆動源の少なくともいずれかを含むものであっても良い。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、一次衝突が発生した場合に、車両の故障箇所の診断である故障診断を行う第1のステップと、前記故障診断の結果に基づいて、一次衝突後の車両経路を判断する第2のステップと、を備え、前記第2のステップにおいて、前記故障箇所と前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、複数の異なる前記故障箇所がある場合、前記複数の異なる前記故障箇所の組み合わせと、前記車両の走行可能な方向との関係に基づいて、前記車両経路を判断し、前記車両経路の判断において、前記故障診断の結果に基づいて、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右の双方に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行不可能であるが前記車両の左右に走行可能であるか、前記車両が前記車両の前方に走行可能であるが前記車両の左右に走行不可能であるか、前記車両が前記車両の前方と前記車両の左右のいずれにも走行不可能であるかを判断する走行可否判断を行い、前記走行可否判断の判断結果に基づいて、前記車両経路を判断する車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、一次衝突が発生した場合に、車両を最適な経路に走行させることで、二次災害の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両システムの構成を示す模式図である。
【
図2】制御装置で行われる処理を示すフローチャートである。
【
図3】相対ベクトルの算出、及び相対ベクトルに基づく衝突回避判定の手法を説明するための模式図である。
【
図4】ステップS20における障害物の優先順位による経路判断の処理を示すフローチャートである。
【
図5】ステップS32で車両前方のエリアを任意の数に区切った状態を示す模式図である。
【
図6】ステップS34で優先順位を演算する様子を模式的に示す図である。
【
図7】作成したマップの一例(例1~例3)を示す模式図である。
【
図8】マーカの種類に応じて車両が進行可能な領域を示す模式図である。
【
図9】
図2のステップS22における故障判断による経路判断の処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図9のステップS44で故障箇所を特定した場合に、車両が走行可能なエリアを示す模式図である。
【
図11】故障箇所と走行可能なパターンを示す模式図である。
【
図12】パターン(1)~(4)のそれぞれについて、ステップS42で区切ったエリアを走行可能エリア410、走行不可能エリア412に分類し、ステップS46のマップを作成した状態を示す模式図である。
【
図13】ステップS24の処理を示すフローチャートである。
【
図17】安全エリアが
図14に示すエリアc,h,l,m,n,oの場合に、重心点を算出する方法を示す模式図である。
【
図18】
図14~
図16のそれぞれの安全エリアから重心点Oを求めた状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両システム1000の構成を示す模式図である。
図1に示す車両システム1000は、自動車などの車両に搭載される。本実施形態に係る車両として、内燃機関を駆動源とするもの、モータを駆動源とするもの等が挙げられる。モータを駆動源とする車両の場合、モータは各輪用に個別に設けることができる。以下では、モータで駆動される車両を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すように、車両システム1000は、車外センサ100、車両センサ102、乗員センサ104、入力装置106、表示装置108、スピーカ110、通信装置112、データベース200、制御装置300、を有して構成されている。また、車両システム1000は、車両を制動する摩擦ブレーキ600、車両を駆動するとともに回生により車両を制動するモータジェネレータ620、電動パワーステアリング(EPS)610を備える。
【0018】
車外センサ100は、ステレオカメラ、単眼カメラ、ミリ波レーダ、赤外線センサ等から構成され、自車両周辺の人や車両などの障害物の位置、速度等を測定する。車外センサ100がステレオカメラから構成される場合、ステレオカメラは、CCDセンサ、CMOSセンサ等の撮像素子を有する左右1対のカメラを有して構成され、車両外の外部環境を撮像し、撮像した画像情報を制御装置300へ送る。一例として、ステレオカメラは、色情報を取得可能なカラーカメラから構成され、車両のフロントガラスの上部に設置される。なお、
図1では1つの車外センサ100を示しているが、車外センサ100は複数1つであっても良い。車外センサ100を複数設けた場合は、車両の前後左右に向けて配置することが望ましい。
【0019】
車両センサ102は、GPS、ヨーレートセンサ、車速センサ、操舵角センサ、加速度センサ等を含み、自車両の状態を検知する。車両センサ102は、車車間通信、路車間通信等により自車両の状態を検知するものを含む。
【0020】
乗員センサ104は、車内に設置されたカメラ、圧力センサ、静電容量センサ、ミリ波レーダ等から構成され、乗員の着座位置、体格などを検知する。
【0021】
入力装置106は、車内に備えられたマルチファンクションディスプレイ等から構成され、乗員の優先度、体格などを乗員が手動で入力可能な装置である。運転者は、乗員の身長、補助席の使用の有無及びタイプなどの情報を入力装置106から入力できる。
【0022】
表示装置108は、マルチファンクションディスプレイ、HUD(Head-UP Display)等から構成され、各種情報を乗員へ伝達する。表示装置108は、衝突回避行動を促す際に視覚的にドライバへ情報を伝えることができる。スピーカ110は、音声により各種情報を乗員に伝達する。スピーカ110は、衝突回避行動を促す際に聴覚的にドライバへ情報を伝えることができる。
【0023】
通信装置112は、無線により外部との通信を行う装置である。なお、通信装置112における通信方式は、電話、インターネットを用いるもの、車車間通信、路車間通信、その他のどのような方式でも良く、特に限定されるものではない。
【0024】
データベース200は、各種情報を格納したデータベースである。特に本実施形態では、データベース200は、障害物の優先順位に基づく経路判断、および故障判断による経路判断を行うための情報を格納している。
【0025】
制御装置300は、車両進行方向に存在する障害物と自車両との相対ベクトルを算出する相対ベクトル算出部302、障害物との衝突が回避できるか否かを判定する衝突回避判定部304、障害物の大きさ、障害物の種類等の属性を判定する障害物判定部306、衝突箇所を予測する衝突箇所予測部308、衝突時間を予測する衝突時間予測部310、加減速制御部314、操舵制御部316、トルクベクタリング制御部318、第1の経路判断部330、第2の経路判断部331、進路方向決定部332、故障診断部336を有して構成されている。加減速制御部314、操舵制御部316、トルクベクタリング制御部318は、車両挙動制御部320に含まれる。なお、
図1に示す制御装置100の各構成要素は、回路(ハードウェア)、またはCPUなどの中央演算処理装置とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成することができる。
【0026】
相対ベクトル算出部302は、車外センサ100から送られた情報に基づいて、車外センサ100で検出された障害物と自車両との相対ベクトルを算出する。衝突回避判定部304は、相対ベクトル算出部302が算出した相対ベクトルに基づいて、障害物との衝突を回避できるか否かを判定する。より具体的には、相対ベクトル算出部302は、例えば車外センサ100を構成するステレオカメラの左右1対のカメラによって自車両進行方向を撮像して得られた左右1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって対象物(進行方向前方の障害物など)までの距離情報を生成して取得することができる。そして、三角測量の原理によって生成した障害物との距離情報を用いて、距離情報Lの変化量、障害物との相対速度Vを算出することができる。距離情報の変化量は、単位時間ごとに検知されるフレーム画像間の車間距離Lを積算することにより求めることができる。また、相対速度Vは、単位時間ごとに検知される車間距離を当該単位時間で割ることにより求めることができる。
【0027】
障害物判定部306は、車外センサ100から送られた情報に基づいて、障害物の大きさ、障害物の種類等の属性を判定する。衝突回避判定部304は、相対ベクトルに加え、障害物の属性に基づいて、障害物との衝突を回避できるか否かを判定することができる。この際、三角測量の原理によって生成した距離情報に対して、周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な立体物データ等と比較することにより、障害物の大きさや種別などの属性を判定できる。衝突箇所予測部308は、衝突回避判定部304により障害物との衝突が回避できないと判定された場合に、自車両と障害物との衝突箇所を予測する。衝突時間予測部310は、衝突回避判定部304により障害物との衝突が回避できないと判定された場合に、自車両と障害物が衝突する時間を予測する。
【0028】
加減速制御部314は、車両の加減速を制御する。加減速制御部314は、摩擦ブレーキ600、モータジェネレータ620を制御することによって、車両の加減速を制御する。操舵制御部316は、車両の操舵(転舵)を制御する。操舵制御部316は、電動パワーステアリング610を制御することによって、車両の操舵を制御する。トルクベクタリング制御部318は、車両のトルクベクタリングを制御する。トルクベクタリング制御部318は、モータジェネレータ620を制御し、左右輪のトルクに差を持たせることで、トルクベクタリングによる制御を行う。
【0029】
本実施形態の車両システム1000では、一次衝突が発生した後、車両の進行方向を最適に調整することで、二次災害を防止し、最小限の被害に留める。車外センサ104の情報から衝突予測を行い、一次衝突が不可避と判断した場合は、車両姿勢を変化させて二次衝突を生じさせずにエスケープゾーンへ退避させる可能性を上げる。
【0030】
具体的には、一次衝突後に、車両外の障害物の優先順位に基づく経路判断と、車両の故障に応じた経路判断を行う。一次衝突後に最適な経路で車両を走行させることで、二次災害を最小限に抑えることができる。また、2つの経路判断を組み合わせることで、より最適な経路で車両を走行させることができる。
【0031】
図2は、制御装置300で行われる処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS10では、車両の運転を開始する。次のステップS12では、車外センサ104による車両周辺の監視を行う。次のステップS14では車外センサ104により障害物を検知し、次のステップS16では衝突の可否を判定する。
【0032】
より詳細には、ステップS16では、相対ベクトル算出部302が障害物と自車両との相対ベクトルを算出し、衝突回避判定部304が相対ベクトルに基づいて、障害物との衝突を回避できるか否かを判定する。
【0033】
図3は、相対ベクトルの算出、及び相対ベクトルに基づく衝突回避判定の手法を説明するための模式図である。
図3において、自車両は原点Oに位置するものとする。自車両に対する障害物の相対位置は丸印500,502、丸印510,512で示しているが、各丸印の位置が障害物500の自車両側の先端であっても良い。また、各丸印の位置は、障害物500の属性の推定結果により抽出された、障害物500の特定の箇所であっても良い。
【0034】
図3では、自車両の右前方から障害物が近づく場合(ケース1;丸印500,502)と、自車両の左前方から障害物が近づく場合(ケース2;丸印510,512)を示している。ケース1において、時刻T1における丸印500の座標は(X
T1,Y
T1)であり、時刻T1よりも後の時刻T2における丸印502の座標は(X
T2,Y
T2)である。また、ケース2において、時刻T1における丸印500の座標は(X
T1,Y
T1)であり、時刻T1よりも後の時刻T2における丸印502の座標は(X
T2,Y
T2)である。
【0035】
図3において、実線で示すベクトルは、車外センサ100の測定によって、時刻T1と時刻T2の間で測定された相対ベクトルV
xyを示しており、破線で示すベクトルは時刻T2以降に予測した相対ベクトルV
xyを示している。ケース1、ケース2のそれぞれにおいて、破線で示す相対ベクトルを予測した結果、時刻T2よりも後の時刻T3における丸印504の座標は(X
T3,Y
T3)である。
【0036】
扇形の領域520,522は、自車両の加減速、操舵、トルクベクタリング等により相対ベクトルが変化する範囲を示している。また、領域530,532は、所定時間経過後に自車両の外郭が到達可能な範囲を示しており、領域532は時刻T3において自車両の外郭が到達可能な範囲を示している。
【0037】
時刻T3において、ケース1では、領域520と領域532重複していない領域が存在し、衝突を回避可能な範囲(衝突回避可能範囲)が存在する。一方、ケース2では、領域522と領域532は全て重複しており、衝突を回避可能な範囲は存在しない。従って、時刻T2から時刻T3の間で予測した相対ベクトルに基づいて、衝突を回避できるか否かを判定できる。
【0038】
障害物が
図3に示す半径Rmの範囲内に入ったら障害物の位置の測定を開始し、車外センサ100から得られる情報から障害物の大きさや形状を推定する。さらに、時刻Tnにおける自車両に対する障害物の相対座標を計測し、対象物と自車との相対ベクトル算出し、時刻Tn+1の相対座標を予測して衝突回避可能か衝突回避不可能かを判定する。上述のように、時刻T3における相対座標の予測値は(X
T3,Y
T3)である。
【0039】
具体的には、半径Rmの円弧内に障害物が入った時点で、車外センサ100を用いて障害物の大きさや形状を推定し、自車との相対座標(XTn,YTn)をTn-1からTnを求め、式(1)、式(2)から相対速度ベクトルVxy=(vx,vy)を算出する。
【0040】
【0041】
その後、算出した相対速度ベクトルを用いて、T
n+1後の相対座標(X
Tn+1,Y
Tn+1)を以下の式(3)、式(4)から予測する。障害物の大きさや形状と予測した相対座標(X
Tn+1,Y
Tn+1)から衝突回避判定を行う。障害物との衝突が回避できるか否かは、障害物の大きさ、形状、相対速度ベクトルより
図3に示すマッピングを行うことによって判定することができる。なお、(v
x
self,v
y
self)は、自車両の速度ベクトルを示している。自車両の速度ベクトルは、自車両の速度と旋回量から求まる。
【0042】
【0043】
例えば、障害物がトラックの場合、障害物が大きく形状も長いので相対ベクトルよりも大きさ、形状が優先されて衝突を回避できない範囲が大きくなる。このような場合、
図3の丸印の大きさを障害物の大きさに合わせて拡大することで、衝突を回避できるか否かを判定できる。また、障害物が自車両と同等の大きさの車両の場合、大きさ、形状よりは相対ベクトルの大きさが優先されて衝突を回避できない範囲が変動することになる。
【0044】
半径Rmの範囲は任意とすることができる。自車両に対して障害物の一番近い部分が半径Rmの中に入った時点で計算を開始する。時刻Tnは以下の式(5)から算出できる。
Tn=Σ(Tn-1+ΔT) ・・・(5)
なお、ΔTはサンプリング周期、nはステップ数を示している。Tn+1の値は一定ではなく、相対速度の絶対値(=√(vx
2+vy
2))とすることができる。
【0045】
以上により、衝突を回避可能な範囲および衝突を回避不可能な範囲は、相対速度からマッピングして範囲を決定することができる。従って、
図2のステップS16において、衝突回避可能範囲が存在する場合は衝突を回避できると判定し、衝突回避可能範囲が存在しない場合は衝突を回避できないと判定する。
【0046】
ステップS16で衝突を回避できないと判定した場合は、ステップS18へ進み、一次衝突が発生したか否かを判定する。一方、ステップS16で衝突を回避できると判断した場合は、車両をエスケープゾーンに退避させる(ステップS17)。
【0047】
ステップS18では、一次衝突が発生したか否かを判定し、一次衝突が発生した場合はステップS20,S22へ進む。一方、一次衝突が発生していない場合はステップS14に戻る。ステップS20,S22では、一次衝突後に車両が進行すべき経路判断を行う。この際、ステップS20では障害物の優先順位による経路判断を行い、ステップS22では故障判断による経路判断を行う。
【0048】
図4は、ステップS20における障害物の優先順位による経路判断の処理を示すフローチャートである。優先順位は、制御装置300の優先順位判定部328が判定する。また、第1の経路判断部330は、優先順位の判定結果に基づいて、優先順位による経路判断を行う。先ずステップS30では、車外センサ104による車両周辺の監視を行う。次のステップS32では、車両前方のエリアを任意の数に区切る処理を行う。
【0049】
次のステップS34では、ステップS32で区切ったエリア毎に優先順位を演算する。次のステップS36では、ステップS34で演算した優先順位に基づいて、マップを作成する。次のステップS38では、ステップS36で作成したマップを表示装置108に表示し、ドライバに進行可能エリアを把握させる。
【0050】
図5は、ステップS32で車両前方のエリアを任意の数に区切った状態を示す模式図であって、車両の上方から見た状態を示している。
図5に示す例では、車両(自車)の前方が15のエリアに区切られている。1つのエリアは車両1台分に相当する2m×5m程度の大きさとされている。
【0051】
図6は、ステップS34で優先順位を演算する様子を模式的に示す図である。
図6に示すように、優先順位は、各エリアが空間であるか(空間にモノや人が存在しないか)、モノ(物体)が存在するか、人が存在するか、によって異なり、空間に何も存在しない場合、モノが存在する場合、人が存在する場合、の順で優先順位が高くなる。また、人の場合は、個人よりも集団の方が優先順位は高くなる。また、人の場合は、身長の低い方が優先順位が高くなる。後述するように、二次災害を抑制するため、優先順位の低いエリアに車両が進行するように処理が行われる。そして、ステップS36では、
図6に示す優先順位を示すマーカ400,402,404,406を
図5の各エリアに付与し、マップを作成する。
【0052】
図7は、作成したマップの一例(例1~例3)を示す模式図である。また、
図8は、マーカの種類に応じて車両が進行可能な領域を示す模式図である。
図8に示すように、任意のエリアにマーカ406が付与された場合、そのエリアの左右のエリアと、そのエリアの車両側のエリアの走行が禁止される。
図8では、走行禁止エリアを×印で示している。
【0053】
また、
図8に示すように、任意のエリアにマーカ404が付与された場合、そのエリアの車両側のエリアの走行が禁止される。一方、任意のエリアにマーカ400又はマーカ402が付与された場合、走行禁止エリアは設定されない。
【0054】
図7に示すマップでは、
図8に示すルールに従って走行禁止エリアを×印で示している。×印で示す走行禁止エリア以外が優先順位に基づく走行経路となる。これにより、
図4のステップS20における優先順位に基づく経路判断の処理が完了する。
【0055】
図9は、
図2のステップS22における故障判断による経路判断の処理を示すフローチャートである。故障の診断は、故障診断部336によって行われる。一例として、故障診断部336は、診断対象箇所に装着されたセンサの検出値に基づいて、診断対象箇所が故障しているか否かを判定する。例えば、ブレーキが故障しているか否かは、ブレーキ液の圧力を検出するセンサの検出値に基づいて判断できる。また、車両を駆動するモータが故障しているか否かは、モータの電流値、電圧値を検出するセンサの値に基づいて判断できる。また、ステアリングが故障しているか否かは、電動パワーステアリングのモータの電流値、電圧値を検出するセンサの値に基づいて判断できる。第2の経路判定部331は、故障診断の結果に基づいて経路判断を行う。なお、第1の経路判断部330と第2の経路判断部331のいずれか又は双方により、本発明に係る車両経路判断部が構成される。先ずステップS40では、車外センサ104による車両周辺の監視を行う。次のステップS42では、車両前方のエリアを任意の数に区切る処理を行う。ステップS40,S42の処理は
図4のステップS30,S32の処理と同様である。
【0056】
次のステップS44では、故障診断部334が故障箇所の特定を行う。次のステップS46では、第2の経路判断部331が、故障箇所に基づいて、車両が移動可能な経路パターンを示すマップを作成する。
【0057】
図10は、
図9のステップS44で故障箇所を特定した場合に、車両が走行可能なエリアを示す模式図である。
図10に示すように、(A)ブレーキが故障した場合、車両の前方は走行可能であるが、車両の左右は走行不可能とされる。また、(B)ステアリングが故障した場合は、車両の前方は走行不可能であるが、車両の左右は走行可能とされる。また、(C)モータが故障した場合は、車両の前方と左右の双方が走行可能とされる。
【0058】
図11は、故障箇所と走行可能なパターンを示す模式図である。
図11に示すように、ブレーキのみが故障している場合(No.1)は、ステアリングによりエリアの左右は走行可能であり、モータにより前方及び左右に走行可能である。従って、前方、左右ともに走行可能となる。なお、
図11中で前方または左右に走行可能な場合は○印で示している。また、例えば
図11のNo.8に示すように、ステアリングとモータが故障しているが、ブレーキは故障していない場合は、前方への走行のみ可能となる。
【0059】
従って、
図11に示すように、故障箇所に応じて車両が前後左右のいずれに走行可能かを判断することができ、車両が走行可能なパターンをパターン(1)~(4)の4つに分類することができる。ここで、パターン(1)は前方と左右の双方に走行可能(全域走行可能)であり、パターン(2)は前方は走行不可能であるが左右は走行可能であり、パターン(3)は前方は走行可能であるが左右は走行不可能であり、パターン(4)は前方と左右のいずれも走行不可能である。
【0060】
図12は、パターン(1)~(4)のそれぞれについて、ステップS42で区切ったエリアを走行可能エリア410、走行不可能エリア412に分類し、
図9のステップS46のマップを作成した状態を示す模式図である。
図12に示すように、パターン(1)の場合は、全てのエリアが走行可能エリア410となる。パターン(2)の場合は、前方は走行不可能であるが左右は走行可能であるため、エリアc,h,m以外が走行可能エリア410となる。パターン(3)の場合は、前方は走行可能であるが左右は走行不可能であるため、エリアc,h,mが走行可能エリア410となる。パターン(4)の場合は、前方と左右のいずれも走行不可能であるため、全エリアa~oが走行不可能エリア412となる。以上のようにして
図2のステップS22における故障診断による経路判断の処理が完了する。なお、
図10~
図12に示す情報は、予めデータベース200に登録されている。
【0061】
図2に戻り、ステップS20,22の後はステップS24へ進む。ステップS24では、進路方向決定部332が、ステップS20,22の経路判断を統合して車両の進行方向を決定する。詳細には、
図4のステップS36で作成したマップと
図9のステップS46で作成したマップを乗算し、車両の進行方向を決定する。
【0062】
図13は、ステップS24の処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS50では、
図4のステップS36で作成したマップ1と
図9のステップS46で作成したマップ2の組み合わせ(乗算)を行い、車両が移動可能なパターンを決定する。
図14~
図16は、
図13のステップS50の処理を示す模式図である。
【0063】
図14に示す例では、
図8に示した例2をマップ1とし、
図12に示したパターン(1)をマップ2とし、両者を組み合わせた場合を示している。この場合、マップ1とマップ2の双方で走行可能なエリアとして、エリアc,h,l,m,n,oが決定される。
【0064】
図15に示す例では、
図8に示した例2をマップ1とし、
図12に示したパターン(2)をマップ2とし、両者を組み合わせた場合を示している。この場合、マップ1とマップ2の双方で走行可能なエリアとして、エリアa,l,n,oが決定される。
【0065】
図16に示す例では、
図16に示すマップ1と、
図12に示したパターン(2)を組み合わせた場合を示している。この場合、マップ1とマップ2の双方で走行可能なエリアとして、エリアa,l,nが決定される。
【0066】
以上のようにして
図13のステップS50で移動可能なパターンが決定されると、次のステップS52では、安全エリアを算出する。
図14に示す例では、安全エリアはエリアc,h,l,m,n,oである。
図15に示す例では、安全エリアはエリアa,l,n,oである。また、
図16に示す例では、安全エリアはエリアa,l,nである。
【0067】
次のステップS54では、ステップS52で算出した安全エリアの重心点を演算する。
図17は、安全エリアが
図14に示すエリアc,h,l,m,n,oの場合に、重心点を算出する方法を示す模式図である。先ず、エリアc,h,l,m,n,oについて、計算がし易くなるように複数の長方形に分割する。これにより、長方形αと長方形βが得られる。次に、長方形αと長方形βの面積をそれぞれ求める。上述のようにエリアの一辺が5m×2mであるとすると、長方形αの面積は20m
2、長方形βの面積は40m
2となる。
【0068】
次に、
図17に示すX軸、Y軸から長方形α、長方形βのそれぞれの重心(図心)までの距離を求める。Y軸から長方形αの重心までの距離(Xα)は3m、X軸から長方形αの重心までの距離(Yα)は7.5mとなる。また、Y軸から長方形βの重心までの距離(Xβ)は4m、X軸から長方形βの重心までの距離(Yβ)は2.5mとなる。
【0069】
従って、X軸の計算では、以下の通り重心位置が得られる。
Y=(20×3+40×4)/(20+40)
また、Y軸の計算では、以下の通り重心位置が得られる。
X=(20×7.5+40×2.5)/(20+40)=4.17
【0070】
図18は、
図14~
図16のそれぞれの安全エリアから重心点Oを求めた状態を示している。
図13のステップS56では、重心点Oに車両を移動させる。
【0071】
以上のように、安全エリアに基づいて重心点Oが求まると、
図18に示すような各エリア、重心点O、重心点Oに向かう矢印を表示装置108に表示し、車両のドライバへ重心点Oへの移動を促す。ドライバが表示装置108を視認しながら重心点Oの方向へ車両を移動させることで、車両に故障が生じていても走行が可能な範囲で、最も安全な経路で車両を動かすことができ、安全な場所に車両を停止させることができる。
【0072】
また、車両挙動制御部320(加減速制御部314、操舵制御部316、トルクベクタリング制御部318)がブレーキ600、電動パワーステアリング(EPS)610、モータジェネレータ620を制御することで、車両が重心点Oに向かうように制御しても良い。
【0073】
以上説明したように本実施形態によれば、一次衝突後に車外センサ100から車両周辺の環境情報を取得し、車両が走行する経路の優先順位を判定することで、優先順位に基づいて最適な経路に車両を走行させることができる。また、一次衝突後に車両の故障診断を行い、故障診断結果に基づいて車両が走行する経路を判断することで、故障に応じて車両が走行できる最適な経路に車両を走行させることができる。従って、一次衝突後に二次災害の発生を確実に抑えることが可能となる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
100 車外センサ
200 データベース
300 制御装置
302 相対ベクトル算出部
304 衝突回避判定部
306 障害物判定部
312 理想衝突箇所決定部
314 加減速制御部
316 操舵制御部
318 トルクベクタリング制御部
320 車両挙動制御部