(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】空気噴射式織機における緯糸飛走情報の設定方法
(51)【国際特許分類】
D03D 47/30 20060101AFI20220209BHJP
D03D 51/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
D03D47/30
D03D51/00 Z
(21)【出願番号】P 2017197497
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000215109
【氏名又は名称】津田駒工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】特許業務法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜田 健司
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 英之
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-003585(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02163670(EP,A1)
【文献】特開2004-052171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 47/30
D03D 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸の飛走経路に沿って配置された複数のサブノズル、貯留ドラムを備えると共に該貯留ドラム上に緯入れされる緯糸が貯留される緯糸測長貯留装置、及び前記貯留ドラムから解舒される緯糸を解舒毎に検出する解舒センサであって緯入れ期間中に複数回発生する緯糸の検知毎に解舒信号を出力する解舒センサを備え、緯糸の緯入れが開始される緯入れ開始タイミング及び反給糸側に設定された到達位置に緯入れされた緯糸の先端が到達する目標の緯糸到達タイミングを含む緯入れ条件に従って緯入れが実行されると共に、想定される緯糸の飛走状態に関する情報である緯糸飛走情報に基づいて設定される噴射態様に従ってその緯入れ中において各サブノズルの噴射動作が実行される緯入れ装置を含む空気噴射式織機であって、織機主軸の回転角度であるクランク角度及び織幅方向における緯入れ開始位置からの距離の一方を横軸とすると共に他方を縦軸とするグラフ領域に前記飛走状態が飛走線のかたちで描かれることを可能とする情報を含む前記緯糸飛走情報が設定される空気噴射式織機において、
前記空気噴射式織機における前記緯糸飛走情報の設定方法であって、
前記緯入れ開始位置から前記到達位置までの前記飛走経路中で給糸側に定められる第1の位置及び反給糸側に定められる第2の位置を設定した上で、
前記緯糸飛走情報によって表される前記飛走線を、織幅方向における緯入れ開始位置から前記第1の位置までの第1の区間における第1の部分飛走線、前記第1の位置から前記第2の位置までの第2の区間における第2の部分飛走線、及び前記第2の位置から前記到達位置までの第3の区間における第3の部分飛走線の連続する3つの部分飛走線に分けて捉え、
前記緯糸飛走情報が、各前記部分飛走線に関する情報を含む情報として設定されると共に、その各前記部分飛走線に関する情報が次の(a)~(c)の情報として求められる
ことを特徴とする空気噴射式織機における緯糸飛走情報の設定方法。
(a)前記第2の部分飛走線は、前記解舒センサから前記解舒信号が出力された各時点もしくは出力されるとみなされる各時点の前記クランク角度と前記解舒信号が出力される各時点で緯糸の先端が到達しているとみなされる前記距離とから得られる前記グラフ領域上での各通過点に対する近似直線として求められ、前記第2の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第2の区間内に前記近似直線が描かれるように求められた情報であり、
(b)前記第1の部分飛走線は、前記グラフ領域上で、前記緯入れ開始位置に相当する前記距離が零の位置での前記緯入れ開始タイミングとして設定された前記クランク角度から得られる開始点と、前記第2の部分飛走線の始点とを結ぶ直線として求められ、前記第1の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第1の区間内にその直線が描かれるように求められた情報であり、
(c)前記第3の部分飛走線は、前記グラフ領域上で、前記第2の部分飛走線の終点と、前記到達位置に対応する前記距離及び前記目標の緯糸到達タイミングとして設定された前記クランク角度から得られる到達点とを結ぶ直線として求められ、前記第3の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第3の区間内にその直線が描かれるように求められた情報である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緯糸の飛走状態に関する情報である緯糸飛走情報であって織機主軸の回転角度及び織幅方向における緯入れ開始位置からの距離の一方を横軸とし他方を縦軸とするグラフ領域内に前記飛走状態が飛走線のかたちで描かれることを可能とするように設定された緯糸飛走情報に基づいて各サブノズルの噴射態様が定められる空気噴射式織機における前記緯糸飛走情報の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気噴射式織機では、緯入れにおいてメインノズルから射出された緯糸の飛走を助勢するための各サブノズルによる圧縮空気の噴射は、その緯入れにおける緯糸の飛走の状態(以下、「実際の緯糸飛走状態」と言う。)に応じた噴射態様(噴射開始、終了タイミング)で行われることが望まれる。各サブノズルの噴射態様(以下、単に「噴射態様」とも言う。)がそのときの実際の緯糸飛走状態に対し適切に定められていないと、無駄に空気が噴射されて空気消費量の増大を招いたり、緯入れ(緯糸の飛走自体、飛走する緯糸の状態等)に悪影響を及ぼしたりするといった問題が生じるからである。言い換えれば、その噴射態様が実際の緯糸飛走状態に対し適切に定められていれば、そのような問題の発生を防ぐことができる。
【0003】
そこで、その各サブノズルの噴射態様を設定するにあたっては、想定される緯糸の飛走状態(前記の「実際の緯糸飛走状態」に対し「想定の緯糸飛走状態」と言う。以下同じ。)に関する情報(緯糸飛走情報)を求め、その求められた緯糸飛走情報に基づいて噴射態様を設定する、といった手法が従来から行われている。なお、その緯糸飛走情報は、例えば横軸を織機主軸の回転角度(以下、「クランク角度」とも言う。)とすると共に縦軸を緯入れ開始位置(織幅方向におけるメインノズルの先端位置)からの距離とするグラフ領域内に前記の想定の緯糸飛走状態を線図(飛走線)のかたちで描くことが可能な情報となっている。因みに、そのグラフ領域内に描かれる飛走線は、想定の緯糸飛走状態で緯糸が飛走すると仮定した場合における各クランク角度での緯糸の先端位置を結んだ線図であり、その場合の緯糸の先端の飛走軌跡に相当する。そのような各サブノズルの噴射態様を定める技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0004】
ところで、従来においては、前記のように各サブノズルの噴射態様を定めるにあたって求められる(設定される)緯糸飛走情報は、実際の緯糸飛走状態に則していない情報となっている。そのため、従来においては、その緯糸飛走情報に基づいて定められる各サブノズルの噴射態様は、実際の緯糸飛走状態に対し適切なものとはなっていない。詳しくは、以下の通りである。
【0005】
従来においては、その緯糸飛走情報は、特許文献1に記載されているように、設定された緯入れ開始タイミングと目標の到達タイミングとを直接的に結ぶ飛走線で想定の緯糸飛走状態が描かれるような情報として設定されている。あるいは、その緯糸飛走情報は、特許文献2に記載されているように、設定された緯入れ開始タイミングと目標の到達タイミングとを緩やかな曲線で結ぶ飛走線で想定の緯糸飛走状態が描かれるような情報として設定されている。すなわち、各サブノズルの噴射態様を定めるための従来技術においては、緯糸飛走情報は、緯入れ期間に亘って緯糸の飛走速度が変化しない、もしくは殆ど変化しないように設定された情報となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-92754号公報
【文献】特開昭62-125049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際の緯入れにおいては、緯入れ期間を緯入れ開始直後である緯入れ初期、緯入れの終了付近である緯入れ終期、及びその間の緯入れ中期に分けて考えると、その緯入れ初期における緯糸の飛走速度(初期飛走速度)と緯入れ中期における飛走速度(中期飛走速度)とを比べると、その両者は大きく異なっている。また、その中期飛走速度と緯入れ終期の飛走速度(終期飛走速度)とを比べても、その両者は大きく異なっている。より詳しくは、以下の通りである。
【0008】
緯入れ初期においては、メインノズルによって噴射される圧縮空気の圧力が立ち上がる過渡期間を含むことや緯入れ開始直後はメインノズルのみによって緯入れが行われること、あるいは停止状態からの動き出しに伴う緯糸の慣性や給糸体からの解舒抵抗が大きいこと等の影響により、その緯糸の飛走速度は、緯入れ中期の飛走速度と比べて遅くなっている。
【0009】
一方、緯入れ終期の緯糸の飛走速度について、織機に対し緯糸ブレーキ速度が設けられるのは周知であり、緯糸ブレーキ装置が設けられた空気噴射式織機おいては、その緯糸ブレーキ装置の作用により、緯糸の飛走速度は、その緯糸ブレーキ装置が作動する以前の緯入れ中期の飛走速度と比べて遅くされる。また、緯糸ブレーキ装置を備えない場合でも、一般的な空気噴射式織機においては、メインノズルによる圧縮空気の噴射は、緯入れ期間全体に亘って行われず、緯入れ終期よりも前に停止されるため、その影響で、緯入れ終期において緯糸の飛走速度が失速する場合がある。
【0010】
このように、実際の緯入れにおいては、緯入れ初期、緯入れ中期及び緯入れ終期において飛走速度が前記のように変化する。それに対し、従来においては、前述のように飛走速度が殆ど変化しないものとして緯糸飛走情報が設定されており、その緯糸飛走情報は、実際の緯糸飛走状態に対し明らかに対応していない情報となっている。そのため、そのような従来の考え方に基づく緯糸飛走情報に基づいて定められる各サブノズルの噴射態様は、実際の緯入れにおける緯糸の飛走に対し適切なものとはならず、その結果として前述のような問題が生じる場合がある。
【0011】
本発明は、上記実情を考慮して創作されたものであり、その目的は、前述のような空気噴射式織機において、サブノズルの噴射態様が実際の緯糸飛走状態に対しより適切に設定されるように、そのサブノズルの噴射態様を設定するための基礎とされる前記の緯糸飛走情報を可及的に実際の緯糸飛走状態に応じた情報とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、緯糸の飛走経路に沿って配置された複数のサブノズル、貯留ドラムを備えると共に該貯留ドラム上に緯入れされる緯糸が貯留される緯糸測長貯留装置、及び前記貯留ドラムから解舒される緯糸を解舒毎に検出する解舒センサであって緯入れ期間中に複数回発生する緯糸の検知毎に解舒信号を出力する解舒センサを備える空気噴射式織機を前提とする。また、その前提とする前記空気噴射式織機は、緯糸の緯入れが開始される緯入れ開始タイミング及び反給糸側に設定された到達位置に緯入れされた緯糸の先端が到達する目標の緯糸到達タイミングを含む緯入れ条件に従って緯入れが実行されると共に、想定される緯糸の飛走状態に関する情報である緯糸飛走情報に基づいて設定される噴射態様に従ってその緯入れ中において各サブノズルの噴射動作が実行される緯入れ装置を含む。さらに、その前提とする前記空気噴射式織機には、織機主軸の回転角度であるクランク角度及び織幅方向における緯入れ開始位置からの距離の一方を横軸とすると共に他方を縦軸とするグラフ領域に前記飛走状態が飛走線のかたちで描かれることを可能とする情報を含む前記緯糸飛走情報が設定される。
【0013】
なお、ここで言う「緯糸の飛走状態」とは、実際の緯入れにおける緯糸の飛走の状態と完全に一致する状態ではなく、緯入れ条件を含む製織条件等の予め設定された設定値や実際の緯入れにおいて飛走する緯糸を対象としてセンサ等で検出された検出値から求められる仮定の(想定された)飛走状態である。
【0014】
また、前記で言う(サブノズルの)「噴射態様」は、各サブノズルの噴射開始タイミング、噴射終了タイミング(もしくは噴射期間)を含む。実際には、その噴射態様は、複数のサブノズルが割り当てられる複数の電磁開閉弁であって対応するサブノズルが接続される電磁開閉弁のそれぞれの駆動を制御するために定められる。
【0015】
そして本発明は、前記空気噴射式織機における前記緯糸飛走情報の設定方法であって、前記緯入れ開始位置から前記到達位置までの前記飛走経路中で給糸側に定められる第1の位置及び反給糸側に定められる第2の位置を設定した上で、前記緯糸飛走情報によって表される前記飛走線を、織幅方向における緯入れ開始位置から前記第1の位置までの第1の区間における第1の部分飛走線、前記第1の位置から前記第2の位置までの第2の区間における第2の部分飛走線、及び前記第2の位置から前記到達位置までの第3の区間における第3の部分飛走線の連続する3つの部分飛走線に分けて捉え、前記緯糸飛走情報が、各前記部分飛走線に関する情報を含む情報として設定されると共に、その各前記部分飛走線に関する情報が次の(a)~(c)の情報として求められることを特徴とする。
【0016】
(a)前記第2の部分飛走線は、前記解舒センサから前記解舒信号が出力された各時点もしくは出力されるとみなされる各時点の前記クランク角度と前記解舒信号が出力される各時点で緯糸の先端が到達しているとみなされる前記距離とから得られる前記グラフ領域上での各通過点に対する近似直線として求められ、前記第2の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第2の区間内に前記近似直線が描かれるように求められた情報である。
【0017】
(b)前記第1の部分飛走線は、前記グラフ領域上で、前記緯入れ開始位置に相当する前記距離が零の位置での前記緯入れ開始タイミングとして設定された前記クランク角度から得られる開始点と、前記第2の部分飛走線の始点とを結ぶ直線として求められ、前記第1の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第1の区間内にその直線が描かれるように求められた情報である。
【0018】
(c)前記第3の部分飛走線は、前記グラフ領域上で、前記第2の部分飛走線の終点と、前記到達位置に対応する前記距離及び前記目標の緯糸到達タイミングとして設定された前記クランク角度から得られる到達点とを結ぶ直線として求められ、前記第3の部分飛走線に関する情報は、前記グラフ領域における前記第3の区間内にその直線が描かれるように求められた情報である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、想定される緯糸の飛走状態に関する緯糸飛走情報であって各サブノズルの噴射態様を設定するための基礎とされる緯糸飛走情報について、その緯糸飛走情報が、実際の緯糸飛走状態に対しより則したものとして設定される。したがって、その緯糸飛走情報に基づいて各サブノズルの噴射態様が設定されることで、その噴射態様は実際の緯糸飛走状態に対し適切に設定された態様となり、その結果として、前述のような空気消費量の増大や緯入れに悪影響を及ぼすといった問題の発生を可及的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に用いられる緯入れ装置の一例を示す説明図である。
【
図2】緯入れ装置の緯入れ制御器と、該緯入れ制御器に関連のある装置等との関係を示すブロック図である。
【
図3】緯入れ装置の入力設定器における表示画面の一例を示す説明図である。
【
図4】緯糸飛走情報に基づく飛走線と各サブノズルの噴射態様とを、本発明に従って求められた場合と従来の手法に従って求められた場合とで対比して表示した表示画面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、緯入れノズルが噴射する圧縮空気によって経糸開口内への緯糸の緯入れが行われる空気噴射式織機における前記緯入れを実行する緯入れ装置を前提とする。
図1、2に示すのはその緯入れ装置の一例である。
【0022】
図1に示すように、緯入れ装置1は、前記緯入れに関与する構成としての給糸体3、緯糸測長貯留装置4、及び前記緯入れノズルとしてのメインノズル7を含む緯糸供給系列2と、その緯糸供給系列2に含まれる各装置の動作等を制御する緯入れ制御器8とを含む。なお、
図1では、その緯入れ装置1が、前記の緯糸供給系列2を2つ備える多色緯入れ装置として描かれている。
【0023】
各緯糸供給系列2において、緯糸9は、給糸体3から引き出され、緯糸測長貯留装置4の糸巻き付けアーム4aの内部に導かれ、静止状態の貯留ドラム4bの上(外周面)で係止ピン4cにより係止されながら、糸巻き付けアーム4aの回転運動により貯留ドラム4bの上に巻き付けられる。これによって、1回の緯入れに必要な長さの緯糸9は、貯留ドラム4bの上に巻き付けられ、緯糸9の緯入れ時まで貯留されている。
【0024】
各緯糸供給系列2は、緯入れノズルとして、前記のメインノズル7に加え、そのメインノズル7の上流側(詳しくは、給糸体3からメインノズル7に至る緯糸経路の上流側)に配置された補助メインノズル6を備える。補助メインノズル6は、それ自体は周知であり、メインノズル7による経糸開口12内への緯糸9の緯入れを補助するのに設けられた緯入れノズルである。さらに、各緯糸供給系列2は、補助メインノズル6の前記上流側の直近で前記緯糸経路上に配置された緯糸ブレーキ装置5を備える。
【0025】
緯入れ開始タイミングで係止ピン4cが駆動されて、貯留ドラム4bの外周面から後退すると、貯留ドラム4bの上に巻き付けられている緯糸9は、貯留ドラム4bの上において解除可能な状態になる。そして、貯留ドラム4bから緯糸ブレーキ装置5を経て補助メインノズル6、メインノズル7に通された緯糸9は、補助メインノズル6とメインノズル7とが噴射動作を行うことにより、貯留ドラム4bから解舒されて緯入れされる。
【0026】
緯糸ブレーキ装置5は、緯糸9を案内すると共に緯糸経路に沿って離間して配置された一対の固定ガイド5a、5aと、両固定ガイド5a、5aの間において回動可能に設けられると共にその回動によって緯糸9に対し係合可能に設けられた可動ガイド5bと、可動ガイド5bを回動駆動するアクチュエータとしての駆動モータMを備える。そして、緯糸ブレーキ装置5は、緯入れ終期において駆動モータMが作動して可動ガイド5bが両固定ガイド5a、5aの間において回動することにより、緯糸9を屈曲させて緯糸9に対し制動力を作用させる。これにより、緯入れ終了時点で緯糸9が緯糸測長貯留装置4(係止ピン4c)に拘束されることに起因する緯糸9の拘束切れが防止される。
【0027】
また、各緯糸供給系列2において、緯糸測長貯留装置4における貯留ドラム4bの近傍には、解舒センサ11が設けられている。また、その解舒センサ11は、対応する貯留ドラム4bの外周面(ドラム径方向)に対向させるかたちで設けられている。なお、解舒センサ11は、
図1においては、便宜上、貯留ドラム4bを挟んで係止ピン4cとは反対側の位置に設けられるように示されている。しかし、実際には、解舒センサ11は、貯留ドラム4bの回りにおける係止ピン4cと同じ位置において、貯留ドラム4bの中心軸線の方向に位置をずらして設けられている。その上で、解舒センサ11は、緯入れ制御器8に対し電気的に接続されている。
【0028】
前記した緯入れに伴い、貯留ドラム4b上の緯糸9が貯留ドラム4bから解舒される。そうすると、貯留ドラム4bの1巻分の緯糸9が貯留ドラム4bから解舒される毎に、緯糸9が貯留ドラム4bと解舒センサ11との間を通過する。解舒センサ11は、その通過を検知し、その検知毎に検知信号を発生する。そして、その検知信号が、解舒信号RSとして緯入れ制御器8へ出力される(
図2参照)。因みに、緯入れ装置によっては、その解舒信号RSが係止ピン4cの駆動制御に用いられる場合もある。
【0029】
さらに、緯入れ装置1は、2つの緯糸供給系列2、2に対し共通に設けられ、各緯糸供給系列2による緯入れを助勢する複数のサブノズルSを備える。その複数のサブノズルSは、筬13を支持するリードホルダ(図示略)上で、隣り合うサブノズルS、Sが所定の間隔で配置されるように設けられている。なお、緯入れ装置1においては、メインノズル7もリードホルダ上に設けられており、メインノズル7によって緯入れされる緯糸9は、リードホルダ上での筬13の前面(織前側の面)に沿って飛走する。したがって、その複数のサブノズルSは、緯糸9の飛走経路に沿って設けられていることとなる。
【0030】
各サブノズルSは、空気供給管による供給路23を介して共通の圧縮空気供給源21に接続されている。また、各サブノズルSと圧縮空気供給源21との間の供給路23中には、サブノズル用の共通の空気タンク(サブタンク)22が設けられている。さらに、そのサブタンク22と各サブノズルSとの間には、サブノズルSに対する圧縮空気の供給を制御するための電磁開閉弁が設けられている。但し、本実施例では、その電磁開閉弁は、サブノズルS毎に設けられている。すなわち、その緯入れ装置1は、サブノズルSと電磁開閉弁24とが1対1の関係で設けられた構成となっている。具体的には、各サブノズルSとサブタンク22との間の供給路23は、サブタンク22から各サブノズルSの方に向かう共通の供給路23a、及び共通の供給路23aと各サブタンク22とを別々に接続する個別の供給路23bを備えている。そして、電磁開閉弁24は、共通の供給路23aではなく、個別の供給路23bに設けられている。したがって、その緯入れ装置1では、サブノズルS毎に噴射態様(噴射開始タイミング、噴射終了タイミング(噴射期間))が制御可能となっている。
【0031】
因みに、メインノズル7及び補助メインノズル6も、空気供給管による供給路を介してサブノズルSと共通の圧縮空気供給源21に接続されている。但し、メインノズル7と圧縮空気供給源21とを接続する供給路と、補助メインノズル6と圧縮空気供給源21とを接続する供給路とは、圧縮空気供給源21側において共通と為っている。具体的には、メインノズル7と圧縮空気供給源21とを接続する供給路は、圧縮空気供給源21側の共通の供給路36と、その共通の供給路36から分岐してメインノズル7に接続される供給路32とで構成されている。また、補助メインノズル6と圧縮空気供給源21とを接続する供給路は、圧縮空気供給源21側の共通の供給路36と、その共通の供給路36から分岐して補助メインノズル6に接続される供給路31とで構成されている。その上で、共通の供給路36中には、メインノズル7と補助メインノズル6とに共通の空気タンク(メインタンク)33が設けられている。さらに、供給路32中にはメインノズル7に対する圧縮空気の供給を制御するための電磁開閉弁35が設けられており、供給路31中には補助メインノズル6に対する圧縮空気の供給を制御するための電磁開閉弁34が設けられている。
【0032】
そして、メインノズル7、補助メインノズル6、各サブノズルSに接続された各供給路23、31、32中に設けられた各電磁開閉弁24、34、35は、緯入れ制御器8に対し電気的に接続されている。緯入れ制御器8は、メインノズル7、補助メインノズル6、及び各サブノズルSについて予め設定された噴射態様の設定値に基づき、各電磁開閉弁24、34、35に開閉動作を行わせる(各電磁開閉弁24、34、35の開閉制御を実行する)。なお、
図2示すように緯入れ制御器8には制御部8aが備えられており、その開閉制御は、その制御部8aによって実行される。
【0033】
また、緯入れ装置1は、緯入れされた緯糸を検知するために設けられた緯糸フィーラ14を備えている。その緯糸フィーラ14は、前記したリードホルダ上で、緯入れ方向に関し緯入れされた緯糸の先端(以下、「緯糸端」とも言う。)が到達する位置に設けられている(
図1参照)。また、その緯糸フィーラ14は、予め定められた検知期間内において緯糸端がその位置に達したとき、その緯糸を検知してその検知信号を発生するように構成されている。さらに、その緯糸フィーラ14は、緯入れ制御器8に対し電気的に接続されている。その上で、緯糸フィーラ14は、その発生した検知信号を到達信号ASとして緯入れ制御器8に対し出力する。
【0034】
また、緯入れ制御器8には、空気噴射式織機における入力設定器41が電気的に接続されている。なお、公知の構成であることから詳細な図示は省略するが、入力設定器41は、表示画面を有しており、表示器としても機能している。さらに、その入力設定器41における表示画面は、所謂タッチパネルで構成されており、画面をタッチ操作することで、各種の表示の要求や各設定値(前記の噴射態様を含む)の入力設定等が行えるものとなっている。
【0035】
その上で、緯入れ制御器8は、記憶部8bを備え、入力設定器41によって入力設定された設定値等をその記憶部8bにおいて記憶するように構成されている。したがって、その記憶部8bは、入力設定器41に対し電気的に接続されている。また、その記憶部8bは、前記の制御部8aに対しても電気的に接続されている。
【0036】
また、緯入れ制御器8には、織機主軸15の回転角度(クランク角度)を検出するエンコーダENが電気的に接続されており、そのエンコーダENの出力信号である角度信号θが入力されている。因みに、エンコーダENは織機制御装置16にも電気的に接続されており、織機制御装置16は、エンコーダENからの角度信号θに基づいて織機主軸15の回転回数を検出する。
【0037】
前述のように、緯入れ制御器8には、緯入れ期間中において、解舒センサ11から出力される解舒信号RSが入力される。そして、緯入れ制御器8は、その解舒信号RSが発生する毎に、その解舒信号RSが発生した時点のクランク角度を求めるように構成されている。詳しくは、緯入れ制御器8は、
図2に示すように、タイミング検出部8cを備えている。また、解舒センサ11から出力される解舒信号RSは、そのタイミング検出部8cに入力される。さらに、前記したエンコーダENからの角度信号θも、そのタイミング検出部8cに入力されている。その上で、緯入れ制御器8は、そのタイミング検出部8cが、その両信号に基づき、解舒信号RSが発生する毎にその解舒信号RSが発生した時点のクランク角度(解舒タイミング)Rθを求めるように構成されている。
【0038】
さらに、そのタイミング検出部8cは、緯入れ制御器8において記憶部8bにも電気的に接続されている。そして、タイミング検出部8cで求められた解舒タイミングRθは、記憶部8bに対し出力されると共に、記憶部8bにおいて記憶される。因みに、本実施例では、一例として、1回の緯入れにおける緯入れ長さを緯糸測長貯留装置4における貯留ドラム4bの5巻分(5ターン分)とする。その場合、解舒タイミングRθは、緯入れ毎に4回、すなわち、1ターン目の解舒タイミングRθ1から4ターン目の解舒タイミングRθ4として求められる。そして、記憶部8bには、解舒タイミングRθに関する1回の緯入れ分のデータとしてその4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4が緯入れ毎に記憶される。
【0039】
また、前述のように、緯糸フィーラ14が到達信号ASを発生した時点で、その到達信号ASは緯入れ制御器8に対し出力される。そして、その到達信号ASは、
図2に示すように、緯入れ制御器8におけるタイミング検出部8cに入力される。その上で、タイミング検出部8cは、その到達信号ASとエンコーダENからの角度信号θとに基づき、その到達信号ASが発生した時点のクランク角度も求めるように構成されている。それにより、緯入れ制御器8においては、そのタイミング検出部8cにおいて、到達位置として定められた緯糸フィーラ14の前記位置に緯糸端が到達した時点のクランク角度(実際の緯糸到達タイミング)Aθが緯入れ毎に求められる。そして、そのタイミング検出部8cで求められた緯糸到達タイミングAθは、記憶部8bに対し出力される。
【0040】
また、前述のように緯入れ制御器8は制御部8aを備えており、その制御部8aは、緯糸ブレーキ装置(具体的には、可動ガイドを駆動するアクチュエータ(駆動モータM))5にも電気的に接続されている。そして、その制御部8aは、その緯糸ブレーキ装置5の作動(アクチュエータの駆動)を制御する。なお、制御部8aは、所定の長さの緯糸が緯入れされた時点(緯糸端が到達位置に対する所定の距離の位置に達した時点(≠一定のクランク角度の時点)が緯糸ブレーキ装置5による緯糸に対する制動が開始される時点(制動開始時点)となるように、緯糸ブレーキ装置5におけるアクチュエータの駆動を制御する。具体的には、次のようにしてそのアクチュエータの駆動が制御される。
【0041】
先ず、前記の制動開始時点が設定される。但し、その制動開始時点は、一定のクランク角度ではなく、緯入れ方向における到達位置に対するメインノズル側の位置を到達位置からの距離(例えば、設定値が「26cm」であれば、到達位置からメインノズル側に26cm離れた位置)で設定される。さらに、その制御のために、緯糸測長貯留装置4における貯留ドラム4bのドラム径が設定されると共に、緯糸に対する制動を停止する時点(制動終了タイミング)がクランク角度で設定される。これらの設定は、入力設定器41により行われ、その設定値が記憶部8bに記憶される。
【0042】
緯糸が緯入れされるのに伴い、緯入れ制御器8においては、その緯糸の飛走速度(以下、単に「飛走速度」とも言う。)が求められる。そこで、緯入れ制御器8は、その飛走速度を求めるための演算部8dであって、記憶部8b及び制御部8aに対し電気的に接続された演算部8dを含む。そして、その飛走速度は、緯入れ開始タイミング、前記のようにして求められた解舒タイミングRθ、織機の設定回転数、貯留ドラム4bの1巻分の緯糸長さに基づき、演算部8dに記憶された演算式によって求められる。なお、解舒タイミングRθは前記のように記憶部8bに記憶されているが、緯入れ開始タイミング及び織機の設定回転数も、入力設定器41によって入力設定され、予め記憶部8bに記憶されている。また、貯留ドラム4bの1巻分の緯入れ長さは、記憶部8bに記憶されたドラム径により演算部8dにおいて演算で求められる。
【0043】
その上で、演算部8dは、その求められた飛走速度、織機の設定回転数、緯入れ開始位置(メインノズルの先端位置)から到達位置までの距離、及び前記した制動開始時点に関する設定値(到達位置に対する距離)等に基づき、緯糸ブレーキ装置5におけるアクチュエータの駆動を開始する駆動開始タイミングを求め、それを制御部8aに対し出力する。因みに、前記の緯入れ開始位置から到達位置までの距離は、緯入れ長さに相当する。その距離は、実際に測って(あるいは既知の数値から演算等によって求めて)設定されていても良いが、通常において製織条件として設定されている織幅の設定値によって代替することも可能である。なお、その織幅の設定値も、緯入れ制御器8における記憶部8bに記憶されている。
【0044】
そして、制御部8aは、その求められた駆動開始タイミングに従い、緯糸ブレーキ装置5を緯糸に対し制動をかけた状態である作動状態とすべく、アクチュエータの駆動を開始する。また、その制御部8aによる緯糸ブレーキ装置5の作動状態は、前記した制動終了タイミングまで継続され、クランク角度がその制動終了タイミングに達した時点で、制御部8aによるアクチュエータの駆動が停止される。
【0045】
因みに、織機においては連続的に緯入れが実行されるが、その各緯入れにおける緯糸の飛走状態は、常に一定とは限らず、緯入れ毎にばらつきが生じたり、製織の進行に伴って変化したりする場合がある。そして、その場合には、同じクランク角度での緯糸端の位置が一定ではない状態となる。その場合でも、前記のような緯入れ制御器8による緯糸ブレーキ装置5の作動制御によれば、常に、緯糸端が緯入れ開始位置からの同じ距離の位置に達した時点で、緯糸ブレーキ装置5による緯糸に対する制動が開始されることとなる。
【0046】
なお、前記の駆動開始タイミングの求め方としては、緯糸ブレーキ装置(アクチュエータ)5が駆動されるのと同じ織機サイクル中で求められた飛走速度を用いて求める、あるいは、その駆動される織機サイクルよりも前の織機サイクルで求められた飛走速度を用いて求める、といった2つの手法が考えられる。その前者の場合は、緯入れ期間中の例えば前半の解舒タイミングRθに基づいて飛走速度が求められ、その同じ緯入れ期間中において駆動開始タイミングが求められる。また、後者の場合は、例えば、1つ前の織機サイクルにおける緯入れによって求められた飛走速度を用いてその駆動開始タイミングを求める等である。さらに、後者の場合は、その駆動開始タイミングを織機サイクル毎に求めるのに代えて予め設定された数(複数)の織機サイクル置きに求めるといったことも可能である。但し、その場合は、緯糸ブレーキ装置5は、次に求められるまでは同じ駆動開始タイミングで駆動が開始されることとなる。
【0047】
以上のような空気噴射式織機における緯入れ装置において、想定される(実際の緯入れに基づいて想定される場合、及び製織条件等の設定値から想定される場合を含む)緯糸の飛走状態に関する情報である緯糸飛走情報に基づいてサブノズルの噴射態様を設定する設定方法は周知である。また、その緯糸飛走情報は、クランク角度、及び織幅方向における緯入れ開始位置からの距離(以下、「織幅位置」とも言う。)の一方を横軸とし他方を縦軸とするグラフ領域において前記飛走状態を線図(この飛走状態を表す線図を「飛走線」と言う。)のかたちで描くことが可能な情報となっている。そして、本発明もそのような設定方法を前提とする。その上で、本発明では、一例として、その緯糸飛走情報が以下のようにして求められる。先ず、本実施例では、以下を前提として本発明の一例を説明する。
【0048】
緯糸飛走情報は、クランク角度を横軸とすると共に織幅位置を縦軸とするグラフ領域上でその想定される緯糸の飛走状態を飛走線のかたちでグラフィック表示し得る情報として求められる。なお、
図3は、後述のようにして求められた緯糸飛走情報に基づき、入力設定器における表示画面上のグラフ領域にその飛走線gを表示する場合における表示例を示している。
【0049】
前記した緯入れ長さ(緯入れ開始位置~到達位置)は織幅によって代替することとし、その織幅は図示のように190cmとする。また、前記のように緯入れ制御器8における記憶部8bに記憶されている緯入れ開始タイミングについて、その設定値はθs(図示の例では、クランク角度80°相当)とする。さらに、目標の緯糸到達タイミングの設定値はθe(図示の例では、クランク角度236°相当)とし、それも入力設定器41を介して記憶部8bに記憶されている。因みに、
図3において、θsは緯入開始角度として表示され、θeは目標到達角度として表示されている。したがって、前記のようにグラフ領域上に飛走線gを描くにあたり、そのグラフ領域上における飛走線gの開始点は、縦軸(織幅位置):0(零)(cm)の位置で且つ横軸(クランク角度):θs(°)の位置(座標<0、θs>の位置であって、
図3において符号「a」で示す位置)となる。また、到達点は、縦軸(織幅位置):190(cm)の位置で且つ横軸(クランク角度):θe(°)の位置(座標<190、θe>の位置であって、
図3において符号「b」で示す位置)となる。
【0050】
さらに、前記した緯糸ブレーキ装置の制動開始時点として設定される距離であって到達位置に対する距離について、その設定値はLr(cm)とする。すなわち、制動開始時点の設定は、緯入れ開始位置からの距離が(190-Lr)cmの位置に緯糸端が達した時点で緯糸ブレーキ装置による緯糸に対する制動が開始されるような設定となっている。因みに、
図3おいて制動開始時点の設定値であるLrは、WBS作動位置として表示されている。以上のような前提の基に、本発明で言う第1の位置、及び第2の位置が設定される。
【0051】
その第1の位置は、緯糸の飛走速度が定常の速度に達するとみなされる時点での緯糸端の織幅位置であり、織幅方向における緯入れ開始位置からの距離L1の織幅位置(縦軸のL1の位置)として設定されている。なお、その第1の位置については、例えば、織機の試運転(試織)を行って適宜な位置を見出す、といったかたちで求められる。
【0052】
また、第2の位置は、本実施例では、緯糸ブレーキ装置の制動開始時点の織幅位置(到達位置までの距離がLrの位置)として設定されている。すなわち、緯糸ブレーキ装置が緯糸に対し制動を掛けることにより、飛走速度が定常の速度からその制動力に応じた速度に変化する(遅くなる)ため、その緯糸ブレーキ装置の制動開始時点の織幅位置が、第2の位置として設定されている。したがって、その第2の位置の緯入れ開始位置からの距離L2(縦軸のL2の位置)は、L2=190-Lr(cm)となる。
【0053】
そして、そのように第1の位置及び第2の位置が設定されるのに伴い、第1の位置については、その設定値L1が、入力設定器によって入力設定され、緯入れ制御器における記憶部に記憶される。また、第2の位置については、記憶部に記憶されている前記制動開始時点の設定値(Lr)と織幅の設定値(190(cm))に基づいて演算部で求められた値が、その設定値L2として設定される(記憶部に記憶される)。
【0054】
そして、前記のように第1の位置:L1、第2の位置:L2が設定されることにより、織幅方向における織幅の区間(織幅位置:0~190(cm))は、設定上において、織幅位置が0(cm)の位置(緯入れ開始位置)から第1の位置:L1までの第1の区間、織幅位置が第1の位置:L1から第2の位置:L2までの第2の区間、及び織幅位置が第2の位置:L2から到達位置までの第3の区間に区分される。
【0055】
また、飛走線gは、前述のように緯入れ開始位置から到達位置までの緯糸端の軌跡に相当し、織幅の区間に亘って連続するものである。そこで、織幅の区間を前記のように3つの区間に区分することで、飛走線gを、その3つの区間のそれぞれに対応する部分に分けて捉えることが可能となる。すなわち、飛走線gを、第1の区間における第1の部分飛走線g1、第2の区間における第2の部分飛走線g2、及び第3の区間における第3の部分飛走線g3が連続するかたちで描かれるものとみなすことができる。
【0056】
その上で、それらの部分飛走線のそれぞれについて、それらに関する情報であってその情報に基づいてそれらが前記のようにグラフ領域上に描かれることを可能とする情報が、以下の手法により求められる。なお、以下の説明においては、各部分飛走線について、第1の部分飛走線を第1飛走線、第2の部分飛走線を第2飛走線、第3の部分飛走線を第3飛走線と省略して述べる。
【0057】
第2飛走線g2に関する情報は以下のようにして求められる。
【0058】
先ず前提として、前記のように1回の緯入れにおいて4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4が求められており、その4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4の基となる4回の解舒信号RSの出力は、第2の区間を緯糸端が通過する間に行われている。すなわち、1ターン目の解舒が完了する前に飛走速度が定常の速度に達することから、第1の位置:L1は、1ターン目の解舒が完了した時点における緯糸端の織幅位置よりも緯入れ開始位置側に設定されている。また、前記の緯糸ブレーキ装置の制動開始時点は、最終ターン(5ターン目)の解舒が行われている途中に設定されており、したがって、第2の位置は、4ターン目の解舒が完了した時点における緯糸端の位置よりも到達位置側に設定されることとなる。
【0059】
さらに、貯留ドラムからの1~4ターン目の緯糸の解舒が完了した各時点で緯糸端が達している織幅位置(中間到達位置)が、入力設定器を介して記憶部に記憶されている。なお、貯留ドラムから解舒された緯糸の長さ(緯入れ長さ)が緯糸端の織幅位置に相当することから 、その中間到達位置は、貯留ドラム1巻分の緯糸の長さに解舒ターン数を掛けることで求められる。また、貯留ドラム1巻分の緯糸の長さは、前記のように入力設定された貯留ドラムのドラム径から求められる。その各中間到達位置は、記憶部において、その解舒ターン数と対応付けて記憶されている。
【0060】
それらの前提の基に、製織中においては、前記のように1回の緯入れにおいて4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4が求められる。すなわち、本実施例における緯入れは、その緯入れ毎に第2の区間を緯糸端が通過する間に4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4が発生するものとなっている。そして、製織中においては、その4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4は、前記のように、実際の緯入れに伴って発生する解舒信号RSに基づいて実測値として求められる。但し、その4つの解舒タイミングRθ1~Rθ4は、過去の製織におけるデータや緯入れ装置の構成(状態)及び緯入れ条件等から、実際の緯入れを伴わない予測値として求めることも可能である。
【0061】
そのように求められた各解舒タイミングRθ(実測値又は予測値)はその解舒ターン数に対応する中間到達位置に緯糸端が達した時点のクランク角度に相当する。したがって、その解舒タイミングRθが求められることで、前記のような横軸(X軸)をクランク角度とすると共に縦軸(Y軸)を織幅位置とするグラフ領域上でプロットされ得る4つの座標<Xn、Yn>(X:クランク角度、Y:織幅位置、n=1~4)が求められる。その上で、その求められた4つの座標に基づき、前記のグラフ領域上でその4つの座標の点に対して描き得る近似直線(回帰直線)を表す式(近似直線式)が求められる。具体的には、その近似直線式を求める(より詳しくは、その近似直線式は一次関数:Y=aX+bのかたちで表され、そのa、bを求める)ための演算式が記憶部に記憶されており、その演算式と4つの座標に基づいて演算部においてその近似直線式が求められる。
【0062】
その近似直線式によってグラフ領域上に描かれる直線は、第2飛走線g2に対応する。但し、第2飛走線g2は、第2の区間での緯糸の飛走状態を表すものであり、表示におけるグラフ領域上では、縦軸(織幅位置)に関し、第1の位置:L1から第2の位置:L2の範囲で描かれるものである。したがって、第2飛走線g2は、その近似直線を表す前記の近似直線式(Y=aX+b)とグラフ領域上におけるY軸:L1の位置でX軸と平行な直線を表す式(Y=L1)とから求められる両直線の交点を始点とすると共に、その近似直線式とY軸:L2の位置でX軸と平行な直線を表す式(Y=L2)とから求められる両直線の交点を終点とする部分直線となる。そこで、その始点及び終点の座標((織幅位置は既知のL1、L2であることから)求められるのはクランク角度)が、近似直線式及び設定されたL1、L2の値から、演算部において求められる。そして、その演算部において求められた近似直線式、及び始点、終点の座標は、記憶部に対し出力され、第2飛走線g2に関する情報として記憶部において記憶される。
【0063】
なお、前記の実測値として求められる各解舒タイミングRθ1~Rθ4について、緯入れ毎及び緯入れの進行に伴う変化を考慮し、本実施例では、予め設定された複数回(以下、「設定回数」と言う。)の緯入れ分の各解舒タイミングRθ1~θ4からそれぞれの平均値を算出し、その各解舒タイミングRθ1~Rθ4の平均値が、前記のように第2飛走線g2に関する情報を求める上で用いられる。その解舒タイミングRθの算出は、緯入れ制御器における演算部において行われる。また、製織中において前記のように第2飛走線g2に関する情報を求める場合にはそのような実測値による解舒タイミングRθが用いられるが、製織運転が開始される前の初期設定段階で第2飛走線g2に関する情報を求める場合には、前記した予測値による解舒タイミングRθが用いられる。
【0064】
第1飛走線g1に関する情報は以下のようにして求められる。
【0065】
飛走線の開始点は、グラフ領域上における座標で言うと、緯入れ開始位置(織幅位置が0(零)の位置)における緯入れ開始タイミングθsの位置であり、座標<X、Y>=<θs、0>の位置(
図3における位置a)である。そして、その開始点が、第1飛走線g1の始点となる。また、第2飛走線g2が第1飛走線g1に連続することから、第1飛走線g1の終点は、前記のようにして求められた第2飛走線g2の始点と一致する。そこで、演算部は、先に求められた第2飛走線g2の始点の座標(織幅位置:L1及びそのクランク角度)と記憶部に記憶されている緯入れ開始タイミングθsとから、第1飛走線g1を表す直線式(一次関数)を求める。そして、その演算部において求められた直線式、及び始点(並びに終点)の座標は、記憶部に対し出力され、第1飛走線g1に関する情報として記憶部に記憶される。
【0066】
第3飛走線g3に関する情報は以下のようにして求められる。
【0067】
飛走線の到達点は、グラフ領域上における座標で言うと、到達位置(本実施例では、織幅位置が190cmの位置)における目標の緯糸到達タイミングθeの位置であり、座標<X、Y>=<θe、190>の位置(
図3における位置b)である。そして、その到達点が、第3飛走線g3の終点となる。また、第3飛走線g3は第2飛走線g2に連続していることから、第3飛走線g3の始点は、前記のようにして求められた第2飛走線g2の終点と一致する。そこで、演算部は、先に求めた第2飛走線g2の終点の座標(織幅位置:L2及びそのクランク角度)と、記憶部に記憶されている織幅の設定値(190(cm))及び目標の緯糸到達タイミングθeとから、第3飛走線g3を表す直線式(一次関数)を求める。そして、その演算部において求められた直線式、及び(始点並びに)終点の座標は、記憶部に対し出力され、第3飛走線g3に関する情報として記憶部に記憶される。
【0068】
以上のようにして第1、第2、第3の部分飛走線に関する情報が求められることにより、それらの部分飛走線に関する情報から成る本発明に従った緯糸飛走情報が得られると共に、その緯糸飛走情報が記憶部に記憶された状態となる。
【0069】
前記のように緯糸飛走情報が記憶部に記憶された状態となることで、入力設定器における表示画面上において、その緯糸飛走情報が表す(想定の)緯糸飛走状態を、飛走線のかたちで前記のグラフ領域上に描くことが可能となる。具体的には、入力設定器が操作されて表示要求が発生した状態となると、入力設定器が備える表示制御器(図示略)が、前記の緯糸飛走情報(第1、第2、第3の部分飛走線に関する情報)を含む必要な情報を、緯入れ制御器における記憶部から読み込む。そして、表示制御器は、それらの情報に基づき、予め定められた表示態様(フォーマット)で表示画面上に前記のグラフ領域を表示すると共に、そのグラフ領域上に描かれるかたちで各部分飛走線をグラフィック表示する(
図3参照)。
【0070】
なお、その表示画面上における飛走線等のグラフィック表示については、それは、作業者が緯糸の飛走状態等を視覚的に把握できるようにするためのものであり、前述のようにその飛走線に基づいてサブルズルの噴射態様を設定するにあたっては、その表示がなくてもその設定は可能である。したがって、本発明においては、その表示は必須の要件ではない。また、その表示は、
図3のようなグラフィック表示に限らず、数値等で表すかたちで表示することも可能である。
【0071】
因みに、
図3で示す表示について、織幅位置が0の位置を示す横軸よりも下方の表示は、メインノズル及び補助メインノズルの噴射態様を表している。詳しくは、上側の表示は、メインノズルの噴射態様を表しており、その表示から、メインノズルの噴射開始タイミング、及び噴射終了タイミング(噴射期間)が把握できる。また、下側の表示は、補助メインノズルの噴射態様を表しており、その表示から、補助メインノズルの噴射開始タイミング、及び噴射終了タイミング(噴射期間)が把握できる。なお、図示の例では、メインノズル及び補助メインノズルの噴射開始タイミングは、緯入れ開始タイミングθsよりも前に設定されている。すなわち、この例の緯入れ装置は、緯入れ開始タイミングθsに先行してメインノズル及び補助メインノズルの噴射が開始され、係止ピンによる緯糸の係止が解除された時点で緯入れ開始されるように設定されている。
【0072】
前述のように、緯糸飛走情報が前記のようにして求められるのに伴い、電磁開閉弁と1対1の関係で設けられた各サブノズルの噴射態様が設定される。そのような緯糸飛走情報に基づく各サブノズルの噴射態様の設定については、前述した特許文献1、2や他の従来技術文献によって種々の設定方法が提案されており、そのいずれかの設定方法に基づいて行われれば良い。以下では、その設定方法の一例について説明する。なお、以下の説明では、その各サブノズルの噴射態様に関する情報として、緯入れ中の制御に用いられる噴射開始タイミング及び噴射終了タイミングが設定される例について述べる。また、以下の説明は、前記のような織幅190cmの製織において、サブノズルのピッチが65mmに設定されており、緯入れ装置が28本のサブノズルSを備える場合について述べる。また、以下の説明では、その28本のサブノズルSを区別して表す場合は、サブノズルのうち緯入れ開始位置側から1番目のものをS1と記し、以下順番にS2、S3、…、S28と記す。
【0073】
先ず、緯入れ装置に含まれる28本のサブノズルS1~S28のうちの織幅位置に関し前記の第2の区間内に位置するサブノズル(以下、「第2グループのサブノズル」と言う。)については、前記のようにして求められた第2飛走線g2に関する情報と、予め設定された設定先行角等に基づき、その噴射開始タイミング及び噴射終了タイミングが設定される。
【0074】
因みに、サブノズルの噴射態様における先行角とは、サブノズルが存在する織幅位置に緯糸端が達するとみなされる時点(クランク角度)に対し、そのサブノズルが先行して噴射を行う先行噴射期間であって、クランク角度の角度範囲(以下、単に「角度範囲」と言う。)で表される期間である。なお、後述に基づく
図3に示されたグラフィック表示では、各サブノズルの噴射態様に関する表示は、縦軸(織幅位置)方向に幅を持った横長の長方形で表されている。但し、その表示においては、その長方形の2つの長辺のうちの下側(緯入れ開始位置に近い側)の長辺の位置が、各サブノズルの織幅位置に相当する。したがって、この例では、第2グループのサブノズルは、緯入れ開始位置側から3番目のサブノズルS3~25番目のサブノズルS25で構成されている。そして、その全てのサブノズルSの織幅位置は、予め入力設定器によって入力設定され、各サブノズルに対応付けるかたちで記憶部において記憶されている。
【0075】
その上で、その第2グループのサブノズルS3~S25の噴射態様は、次のように設定される。先ず、噴射態様の設定に用いられる前記の設定先行角は、その設定値が入力設定器によって入力設定され、記憶部において予め記憶されている。その設定先行角の設定値は、入力設定器によって数値で入力されるか、あるいは、複数の角度範囲が予め設定・記憶されており、製織条件等に応じて選択して入力される。その上で、その設定先行角の設定値に基づき、初期設定段階あるいは製織中において、第2グループの各サブノズルSm(m:3~25)の噴射開始タイミングが、緯入れ制御器における演算部において求められる。具体的には、以下の通りである。
【0076】
演算部は、各サブノズルSmについて、記憶部に記憶されている各サブノズルSmの織幅位置及び第2飛走線g2に関する情報における近似直線式を用い、緯糸端がそのサブノズルSmの位置に達するとみなされる時点のクランク角度θmを求める。但し、その求められる時点は、前記の想定された飛走状態で緯糸が飛走すると仮定した状態(想定飛走状態)での、緯糸端がそのサブノズルSmの位置に達するとみなされるクランク角度である。その上で、演算部は、各サブノズルSmについて、前記で求められたクランク角度θmから設定先行角の設定値θpを減算する。そして、その減算によって得られたクランク角度(θm-θp)が、各サブノズルSmの噴射開始タイミングとして設定される。なお、噴射開始タイミングがそのように設定される結果として、第2グループの各サブノズルSmの噴射態様における先行角(角度範囲)は、前記の設定先行角に一致したものとなる。
【0077】
また、第2グループの各サブノズルSmの噴射終了タイミングについては、それらは、各サブノズルSmの織幅位置に応じて、例えば過去の製織におけるデータや経験値等に基づき、適宜なタイミングに設定される。なお、噴射終了タイミングの設定については、例えば、予め設定された後噴射期間(緯糸端がサブノズルSの位置に達したクランク角度から噴射終了タイミングまでの期間)や全噴射期間の設定値等に基づいて設定することも可能である。具体的には、例えば各サブノズルSmに応じた設定値あるいは固定の設定値としての前記の後噴射期間を予め記憶部に記憶させておき、前記のようにして求められた緯糸端が各サブノズルSmの位置に達するとみなされるクランク角度に対しその後噴射期間の設定値を加算することで、各サブノズルSmの噴射終了タイミングが設定される。
【0078】
そして、以上のようにして設定された第2グループの各サブノズルSmの噴射態様に関する情報は、緯入れ制御器における記憶部において各サブノズルSmに対応付けるかたちで前記の織幅位置と共に記憶される。
【0079】
織幅位置に関し前記の第1の区間内に位置するサブノズル(第1グループのサブノズルS1、S2)、及び前記の第3の区間内に位置するサブノズル(第3グループのサブノズルS26~S28)について、その噴射態様に関する情報(噴射開始タイミング、噴射終了タイミング)は次のようして設定される。
【0080】
第1グループのサブノズルS1、S2のうちのサブノズルS1(緯入れ開始位置側のサブノズル)については、本実施例では、その噴射開始タイミングは、メインノズルの噴射開始タイミングに一致させるかたちで設定されている。すなわち、サブノズルS1の噴射開始タイミングは、演算により求められるのではなく、メインノズルの噴射開始タイミングの設定に伴って併せて設定されるかたちで設定されている。したがって、メインノズルの噴射開始タイミングが変更された場合には、サブノズルS1の噴射開始タイミングも併せて変更される。
【0081】
また、サブノズルS2の噴射開始タイミングは、第2グループのサブノズルSmと同様の手法で、演算部において求められる。具体的には、先ず、記憶部に記憶されている第1飛走線g1に関する情報における直線式を用い、その直線式とサブノズルS2の織幅位置とから、前記想定飛走状態で緯糸端がサブノズルS2の織幅位置に達するとみなされる時点のクランク角度が求められる。その上で、その求められたクランク角度と設定先行角の設定値θpとから求められたクランク角度が、サブノズルS2の噴射開始タイミングとして設定される。
【0082】
また、第1グループのサブノズルS1、S2の噴射終了タイミングについては、それらは、第2グループのサブノズルSmと同じ手法で設定される。そして、そのようにして設定された第1グループのサブノズルS1、S2の噴射態様に関する情報も、緯入れ制御器における記憶部において各サブノズルS1、S2に対応付けるかたちで前記の織幅位置と共に記憶される。
【0083】
第3グループのサブノズルS26~S28について、本実施例では、その噴射開始タイミングは、求められた飛走線とは無関係に、緯入れ開始位置側(緯糸の飛走方向における1つ手前)に位置するサブノズルの噴射開始タイミングとの関係を維持するかたちで設定される。具体的には、前記のようにして第2グループのサブノズルSmの噴射開始タイミングが求められた結果として、サブノズルSmの噴射開始タイミングとサブノズルSm+1の噴射開始タイミングとの差がクランク角度でθdであるとすると、第3グループのサブノズルS26~S28のうちの最も緯入れ開始位置側のサブノズルS26については、第2グループのサブノズルS25(最も到達位置側のサブノズル)の噴射開始タイミングに対しクランク角度θdだけ後に噴射が開始されるようにその噴射開始タイミングが設定される。同様に、サブノズルS27、S28についても、緯入れ開始位置側に位置するサブノズルS26、S27の噴射開始タイミングに基づいてその噴射開始タイミングが設定される。因みに、その場合、サブノズルS26~S28の噴射態様における先行角(先行噴射期間)は、第2グループのサブノズルSmの噴射態様における先行角よりも大きくなる。
【0084】
また、第3グループのサブノズルS26~S28について、その噴射終了タイミングも、第1、第2グループのサブノズルと異なるかたちで設定される。具体的には、サブノズルS26の噴射終了タイミングは、その後噴射期間が前記1つ手前のサブノズル(第2グループのサブノズルS25)の後噴射期間に対応させるかたちで(例えば一致するようにして)設定される。一方、サブノズルS27、S28については、任意のクランク角度でその噴射終了タイミングが設定される。その設定は、サブノズルS28よりも反緯入れ開始位置側に設けられたストレッチノズル(図示略)の噴射態様や経糸の開口運動等を考慮し、緯入れが終了した時点(緯糸端が到達位置に達した時点)以降において緯糸に緩みが生じないようにすることを考慮し、適宜なクランク角度に設定される。そして、そのようにして設定された第3グループのサブノズルS26~S28の噴射態様に関する情報も、緯入れ制御器における記憶部において各サブノズルS26~S28に対応付けるかたちで前記の織幅位置と共に記憶される。
【0085】
以上のようにして各サブノズルの噴射態様に関する情報が求められると共にそれが緯入れ制御器における記憶部に記憶されることにより、そのサブノズルの噴射態様を、入力設定器における表示画面上で、前記のグラフ領域上に描かれるかたちで表示することが可能となる。具体的には、入力設定器が操作されて表示要求が発生した状態とされると、前記の表示制御器は、各サブノズルについて、その噴射態様に関する情報を記憶部から読み込み、前記のようにして飛走線が描かれたグラフ領域上に、前述のような長方形の形態でその噴射態様をグラフィック表示する(
図3)。また、その各サブノズルの噴射態様に関する情報は、緯入れ制御器における制御部に対しても出力される。そして、制御部は、その噴射態様に関する情報に基づき、各電磁開閉弁の開閉制御を実行する。その結果として、各サブノズルが製織中においてその噴射態様に従った噴射動作を実行し、それにより、各緯糸供給系列による緯入れ(緯糸の飛走)が助勢される。
【0086】
図4には、従来の考え方で緯糸飛走情報を求める、すなわち、想定される飛走状態を表す飛走線が前記の開始点aと到達点bとを直線で結ぶかたちで求められる場合について、本発明で言う第2の区間に位置するサブノズル(第2グループのサブノズル)の噴射態様を、その飛走線に基づいて設定した結果を表している。なお、その
図4において、二点鎖線で示す直線fは、その従来の考え方で求められた緯糸飛走情報に基づく飛走線を示し、実線で示す曲線gは、前記のように本発明に従って求められた緯糸飛走情報に基づく飛走線を示す。また、その図では、本発明による飛走線gに基づいて前記のようにして求められた各サブノズルの噴射態様(本発明の場合の噴射態様)が点線で描かれるかたちで示されている。その上で、その図では、第2グループの各サブノズルSmについて、飛走線fに基づいて前記と同様にして求められた噴射態様(従来の噴射態様)が、実線で描かれるかたちで示されている。なお、図示の例はあくまでも一例であるが、その例では、緯入れ開始位置から18番目のサブノズルS18と19番目のサブノズルS19との間で飛走線fと飛走線gとは交差している。
【0087】
その
図4から、本発明による噴射態様(実際の緯糸飛走状態により近い飛走線gに基づく噴射態様)と従来の噴射態様との関係が、以下のように理解できる。サブノズルS19よりも緯入れ開始位置側のサブノズル(サブノズルS3~S18)の噴射態様は、前記した本発明の場合の噴射態様と比べ、その先行噴射期間が長い設定となっている。したがって、その従来の噴射態様では、例えば設定先行角に亘る先行噴射が有効な噴射であるとすると、その設定先行角よりも長い分だけ余計に噴射を行っていることとなり、空気消費量の観点で無駄が生じることとなる。また、サブノズルS18よりも到達位置側のサブノズル(サブノズルS19~S25)の噴射態様は、前記した本発明の場合の噴射態様と比べ、先行噴射期間が短い設定となっている。そのため、緯糸の飛走状態やその飛走する緯糸の状態が悪くなって適切な緯入れが行われないといった問題が生じる虞がある。それに対し、本発明によれば、緯糸の実際の飛走状態により近いかたちで飛走線が求められるため、飛走線に基づいて設定される各サブノズルの噴射態様が緯糸の実際の飛走状態により適したものとされ、前記のような問題の発生が防止される。
【0088】
本発明によるサブノズルの噴射態様の設定について、先ず、織機の製織運転を開始するのに先立ち、その初期設定が為される。その初期設定については、前述のように予測値による解舒タイミングRθが用いられて第2飛走線g2に関する情報が求められると共に、それに基づいて第1、第3飛走線g1、g3に関する情報が求められ、その各情報に基づいて前述のようにして各サブノズルSの噴射態様が初期設定される。そして、各サブノズルSの噴射態様がそのように初期設定された状態で、製織運転が開始される。
【0089】
そのように製織運転が開始されて継続されるのに伴い、前述のように、織機1サイクル毎に(1回の緯入れ毎)に解舒タイミングRθ1~Rθ4の実測値が求められると共に、それが記憶部に順次記憶され蓄積される。なお、前述したように製織中における織機主軸15の回転回数(=緯入れ回数)は、
図2に示すようにエンコーダENからの角度信号θに基づいて織機制御装置16においてカウントされているものとする。
【0090】
そして、前記した設定回数分の緯入れが完了した時点で、言い換えれば、前記設定回数分の緯入れによる解舒タイミングRθが記憶部に蓄積された時点で、織機制御装置16から演算部8d及び記憶部8bに対し指令信号Cが出力される。その指令信号Cの入力に応じて、記憶部8bから演算部8dに対し前記設定回数分の解舒タイミングRθの情報(ターン数、クランク角度)が出力され、演算部8dは、その解舒タイミングRθ1~Rθ4の平均値を求める。その上で、演算部8dは、その解舒タイミングの平均値に基づいて第2飛走線g2に関する情報を求めると共に第1、第3飛走線g1、g3に関する情報を求め、その求められた各部分飛走線g1~g3に関する情報等に基づき、前述のようにして各サブノズルの噴射態様が設定される。
【0091】
このように、製織中においては、前記設定回数分の緯入れ毎に、緯糸飛走情報及びその緯糸飛走情報に基づく各サブノズルの噴射態様が設定される。因みに、空気噴射式織機においては、給糸体の巻径の変化等に起因し、製織の進行に伴って実際の緯糸飛走状態が徐々に変化することが知られている。したがって、前記のように設定される各サブノズルの噴射態様は、その実際の緯糸飛走状態の変化に伴い、その実際の緯糸飛走状態に応じた態様に順次変更されていく。なお、記憶部は、記憶している解舒タイミングRθの情報を前記のように出力した時点でリセットされ、その後、次の前記設定回数分の情報を記憶すべく、新たに記憶を開始していく。
【0092】
なお、そのように製織の進行に伴って各サブノズルの噴射態様が変更される場合において、それは、噴射開始タイミングのみが変更されるように行われる、すなわち、噴射開始タイミングのみが変更後の新たな緯糸飛走情報に基づいて求め直されるようにしても良いし、噴射開始タイミングの変更に応じて、全噴射期間が維持されるように噴射終了タイミングも変更されるようにしても良い。因みに、製織中に求められる各サブノズルの噴射態様に関し、その噴射終了タイミングが前述した予め設定された後噴射期間や全噴射期間の設定値に基づいて設定される場合には、緯糸飛走情報(噴射開始タイミング)の変更に伴って必然的に噴射終了タイミングも変更されることとなる。
【0093】
また、空気噴射式織機においては、製織中における実際の緯糸到達タイミングを目標の緯糸到達タイミングに応じたタイミングとすべく、緯入れ開始タイミングを変更する制御が行われる場合がある。詳しくは、空気噴射式織機においては、前記のように実際の緯糸到達タイミングAθが緯入れ毎に求められて記憶部に記憶されている。そこで、それを用い、その実際の緯糸到達タイミングと目標の緯糸到達タイミングとを緯入れ毎に比較する。あるいは、予め設定された所定の回数分(例えば、前記設定回数分)の実際の緯糸到達タイミングの平均値と目標の緯糸到達タイミングとをその回数の緯入れ毎に比較する。そして、その比較によって求められた実際の緯糸到達タイミング(又は平均値)と目標の緯糸到達タイミングとの偏差が予め設定された許容値を超えた場合に、その偏差を解消するように緯入れ開始タイミングを変更する、といった制御が実行される場合がある。そのような制御が実行されると、その緯入れ開始タイミングの変更に伴ってクランク角度に対する緯糸の飛走状態が変化した状態となるため、その場合にも、前記のように新たに飛走線が求められ、それに基づいて各サブノズルの噴射態様の設定が変更される。
【0094】
以上で説明した実施例(前記実施例)に対し、本発明は以下(1)~(4)のように変形した実施形態(変形例)による実施も可能である。
【0095】
(1)本発明が前提とする空気噴射式織機における緯入れ装置、すなわち、本発明が適用される緯入れ装置は、前記実施例で述べたような、サブノズルと電磁開閉弁とが1対1の関係で設けられた緯入れ装置には限らない。空気噴射式織機における緯入れ装置としては、全サブノズルをそれぞれが2以上のサブノズルから成る複数のグループに分けると共に各グループに含まれるサブノズルの全てが共通の電磁開閉弁に接続されるように構成された緯入れ装置も有り、本発明は、そのような緯入れ装置に対しても適用可能である。なお、そのような緯入れ装置では、各グループにおけるサブノズルの噴射態様は、その共通の電磁開閉弁毎に設定される。
【0096】
(2)前記実施例は、緯糸ブレーキ装置を備えた緯入れ装置に対し本発明が適用される例となっている。すなわち、前記実施例は、緯入れ終期において緯糸ブレーキ装置により緯糸の飛走速度に変化が加えられる緯入れ装置に対し、その飛走速度の変化を考慮して本発明が適用される例となっている。しかし、本発明は、緯糸ブレーキ装置を備えない緯入れ装置に対しても有効である。何故なら、緯入れ装置が緯糸ブレーキ装置を備えていないからといって、緯入れ時において前記実施例で言う第1の位置から到達位置に亘って緯糸が定常の速度で飛走する(飛走速度が一定である)とは限らず、メインノズルの噴射態様や製織条件等によって緯入れ期間の終盤において緯糸の飛走速度が低下することがあるからである。したがって、本発明が適用される緯入れ装置は、前記実施例のような緯糸ブレーキ装置を備えた緯入れ装置に限らず、緯糸ブレーキ装置を備えない緯入れ装置も含む。
【0097】
(3)緯糸飛走情報を求める上で設定される第1の位置について、前記実施例では、その第1の位置は、その織機での試織に基づいて求めるといった手法で求められている。しかし、本発明において、その第1の位置は、そのような試織に基づいて求められるのには限らず、例えば、過去の製織による経験値や予想等に基づいて求めるといった手法で求められるようにしても良い。
【0098】
また、その第1の位置は、緯糸の飛走経路に沿って配置されたサブノズルの位置に基づいて設定することも可能である。何故なら、メインノズルが噴射する圧縮空気によってメインノズルから射出された緯糸がサブノズルの位置に達すると、緯糸の飛走状態がそのサブノズルが噴射する圧縮空気による影響を受け始め、その影響が加わることで緯糸の飛走速度が定常の速度に向けて変化すると考えられるからである。そこで、緯入れ開始位置に近い側に位置するサブノズル(例えば3番目乃至4番目までのサブノズルのいずれか)の位置を第1の位置とするといった求め方で第1の位置を設定しても良い。
【0099】
(4)緯糸飛走情報を求める上で設定される第2の位置について、前記実施例では、その第2の位置は、緯糸ブレーキ装置の制動開始時点として設定された位置(到達位置までの距離がLrの位置)として設定している。しかし、前記のように本発明は緯糸ブレーキ装置を備えない緯入れ装置にも適用され得るものであり、緯糸ブレーキ装置を備えない緯入れ装置に適用される場合には、当然ながら第2の位置は緯糸ブレーキ装置の制動開始時点として設定された位置とはならない。そこで、その場合には、例えば、前記実施例の第1の位置と同様に試織等を行ってみて適宜な位置を見出す、あるいは過去の製織による経験値や予想等に基づいて求めるといった手法で、第2の位置を求めるようにすれば良い。
【0100】
(5)前記実施例では、製織中においては、前記設定回数分の緯入れにおいて求められた解舒タイミングRθ(平均値)に基づき、その前記設定回数毎に緯糸飛走情報を求めている。しかし、緯糸飛走情報を求めるにあたっては、そのように前記設定回数毎に前記設定回数分の緯入れにおいて求められた解舒タイミンRθに基づいて求めるのに代えて、1回の緯入れ毎に、その緯入れにおいて求められた解舒タイミングRθに基づいて求めるようにしても良い。なお、その場合は、その求められた緯糸飛走情報は、次の織機サイクルの緯入れに反映される。
【0101】
また、前記実施例と同様に前記設定回数分の緯入れにおいて求められた解舒タイミングRθに基づいて緯糸飛走情報を求める場合でも、緯糸飛走情報を求める周期は、その前記設定回数よりも少ない数の緯入れ回数毎であっても良い。すなわち、前記設定回数をt回とすると、緯糸飛走情報が求められる時点に対する過去t回分の緯入れで求められた解舒タイミングRθを用いて緯糸飛走情報が求められると共に、緯糸飛走情報がu回(u<t)の緯入れ毎に求められるようにしても良い。
【0102】
さらに、前記実施例では、緯糸飛走情報を求めるにあたり、前記設定回数分の解舒タイミングRθを用い、その平均値を用いて緯糸飛走情報を求めているが、それに代えて、前記設定回数分の解舒タイミングRθについて、その各解舒タイミングRθ1~Rθ4の最早値を用いて緯糸飛走情報を求めるようにしても良い。
【0103】
(6)各サブノズルの噴射態様の設定方法について、前記実施例では、第1グループのサブノズルにおける1番目のサブノズルS1の噴射開始タイミング、及び第3グループの各サブノズルの噴射態様(噴射開始タイミング)は、求められた緯糸飛走情報に基づかない手法で設定されている。しかし、その各サブノズルについても、その噴射開始タイミングを、第2グループのサブノズルと同様に、求められた緯糸飛走情報に基づいて設定するようにしても良い。
【0104】
(7)前記実施例では、製織運転の開始に先立って行われる初期設定段階及び製織中のそれぞれにおいて、本発明に従って緯糸飛走情報が求められ、それに基づいて各サブノズルの噴射態様が設定されている。しかし、本発明は、そのような実施形態に限らず、例えば、各サブノズルの噴射態様の初期設定は従来の考え方による緯糸飛走情報に基づいて行われることとし、製織中にのみ、本発明に従って緯糸飛走情報が求められてそれに基づいて各サブノズルの噴射態様が設定されるようにしても良い。あるいは、初期設定においてのみ、本発明に従って緯糸飛走情報が求められて各サブノズルの噴射態様が設定されるようにしても良い。後者の場合は、製織中における実際の緯糸飛走状態の変化への対応は、他のサブノズルの噴射制御等によって行えば良い。
【0105】
なお、本発明は、上記実施例や変形例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 緯入れ装置
2 緯糸供給系列
3 給糸体
4 緯糸測長貯留装置
4a 糸巻き付けアーム
4b 貯留ドラム
4c 係止ピン
5 緯糸ブレーキ装置
5a 固定ガイド
5b 可動ガイド
6 補助メインノズル
7 メインノズル
8 緯入れ制御器
8a 制御部
8b 記憶部
8c タイミング検出部
8d 演算部
9 緯糸
11 解舒センサ
S サブノズル
12 経糸開口
13 筬
14 緯糸フィーラ
15 織機主軸
16 織機制御装置
21 圧縮空気供給源
22 サブタンク(空気タンク)
23 供給路
23a 共通の供給路
23b 個別の供給路
24 電磁開閉弁
31 供給路
32 供給路
33 メインタンク(空気タンク)
34 電磁開閉弁
35 電磁開閉弁
36 共通の供給路
41 入力設定器
【0107】
θ 角度信号
Aθ 緯糸到達タイミング
Rθ 解舒タイミング
AS 到達信号
EN エンコーダ
RS 解舒信号
C 指令信号
θd サブノズルの噴射開始タイミングの差
θp 設定先行角の設定値
θm 緯糸端がサブノズルの位置に達するとみなされる時点のクランク角度
θs 緯入れ開始タイミングの設定値
θe 緯糸到達タイミングの設定値
Lr 緯糸ブレーキ装置の制動開始時点(設定値)
L1 緯入れ開始位置から第1の位置までの距離(設定値)
L2 緯入れ開始位置から第2の位置までの距離(設定値)
M 駆動モータ
f 従来の考え方で求められた緯糸飛走情報に基づく飛走線(直線)
g 本発明に従って求められた緯糸飛走情報に基づく飛走線(曲線)
g1 第1の部分飛走線(第1飛走線)
g2 第2の部分飛走線(第2飛走線)
g3 第3の部分飛走線(第3飛走線)