(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
F16F 9/58 20060101AFI20220209BHJP
F16F 9/36 20060101ALI20220209BHJP
F16F 9/49 20060101ALI20220209BHJP
B62K 25/08 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
F16F9/58 A
F16F9/36
F16F9/49
B62K25/08 Z
(21)【出願番号】P 2017208150
(22)【出願日】2017-10-27
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清哉
(72)【発明者】
【氏名】陣内 孝彦
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-023335(JP,U)
【文献】特開2014-190491(JP,A)
【文献】特開2004-044643(JP,A)
【文献】実開平06-004442(JP,U)
【文献】特開平11-117983(JP,A)
【文献】特開2015-175403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/58
F16F 9/36
F16F 9/49
B62K 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に移動可能に挿入されるロッドと、
前記シリンダの内周に取り付けられて前記ロッドを摺動自在に支持するロッドガイドとを備え、
前記ロッドガイドから突出する前記シリンダの先端部分がクッションケースとなっている
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記シリンダに形成された加締め部が前記ロッドガイドに嵌合している
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記ロッドの外周には、前記クッションケース内にロック室を形成する環状のロックピースが設けられており、
前記ロック室は、前記ロッドガイドで前記シリンダ内の反ロック室側と仕切られており、
前記ロックピースが前記クッションケース内を奥側へ進むと、前記クッションケースと前記ロックピースとの間を通って前記ロック室から前記クッションケース外へ向かう液体の流れに抵抗が付与される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記クッションケースには、前記ロック室から前記クッションケース外へ向かう液体の流れに抵抗を与えるオリフィスが形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記ロッドの外周には、クッションラバーが設けられており、
最収縮時には、前記クッションラバーが圧縮されて弾性変形し、前記クッションラバーの外周が前記クッションケースの内周に当接する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントフォークは、最収縮時の衝撃を緩和するための衝撃緩和機構を有している。このような最収縮時の衝撃緩和機構としては、例えば、オイルロック部材等の液圧ロック部材、クッションラバー等が利用される。
【0003】
具体的に、オイルロック部材は、フロントフォーク内に収容されるシリンダに連結されるオイルロックケースと、フロントフォークの伸縮に伴いシリンダに出入りするロッドの外周に装着されるオイルロックピースとを有して構成される。そして、フロントフォークが最収縮状態に近づくと、オイルロックピースがオイルロックケース内へ侵入し、オイルロックケース内からその外へ流出する液体の流れに抵抗を与えてフロントフォークの収縮速度を減速させる(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
また、クッションラバーを利用する場合、当該クッションラバーは、ロッドの外周に装着される。そして、フロントフォークが最収縮状態に近づくと、クッションラバーが弾性変形し、その変形に抗する弾性力を発揮してフロントフォークの収縮速度を減速させる(例えば、特許文献2)。さらに、弾性変形したクッションラバーの外周をシリンダに連結したラバーケースに当接させると、当該ラバーケースでクッションラバーの拡径方向の変形を制限し、収縮に抗する力を大きくできる。
【0005】
これらオイルロックケース及びラバーケース等のように、シリンダ側に固定されて最収縮時の衝撃を緩和するのに利用されるケースをクッションケースとすると、従来、このようなクッションケースは、ロッドを摺動自在に支持するロッドガイドと一体となって一つのシリンダヘッドを構成する。そして、当該シリンダヘッドをシリンダに螺合することで、クッションケースとロッドガイドがシリンダに連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平6-4442号公報、段落0021,0022,0026
【文献】特開平11-117983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のように、シリンダヘッドという一つの部品にクッションケースとロッドガイドの両方の機能をもたせると、クッションケースとロッドガイドを個別に形成してそれぞれをシリンダに取り付ける場合と比較して部品数、及び組付工数を減らして組立作業を容易にできる。
【0008】
とはいえ、シリンダヘッドにクッションケースとロッドガイドの両方の機能をもたせると、各機能を果たすために必要な形状をもつ部分をそれぞれシリンダヘッドに形成しなければならない。そして、クッションケースとロッドガイドの各機能を果たすために必要な長さ、例えば、ロッドガイドとして機能する部分では、ロッドを摺動自在に支持するための嵌合長を確保する必要もある。このため、シリンダヘッドの形状が大きく複雑になってコストが高くなる。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題を解決し、コストを低減できるフロントフォークの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するフロントフォークでは、ロッドを摺動自在に支持するロッドガイドがシリンダの内周に取り付けられており、ロッドガイドから突出するシリンダの先端部分がクッションケースとなっている。
【0011】
当該構成によれば、クッションケースとロッドガイドを別個に形成して各部品の形状を簡易にし、各部品のコストを低減できる。加えて、各部品のコストを低減したとしても、クッションケースがシリンダの一部となっていて、部品数、及び組付工数が増えない。このため、部品コストの低減による効果が減殺されず、フロントフォークのコストを低減できる。
【0012】
また、上記フロントフォークでは、シリンダに形成された加締め部がロッドガイドに嵌合しているとよい。当該構成によれば、加締め加工でシリンダの内周にロッドガイドを固定できる。つまり、ロッドガイドの固定に螺子締結を利用しないので、フロントフォーク製造時の螺子加工、及び螺合作業を減らしてコストを一層低減できる。
【0013】
また、上記フロントフォークでは、ロッドの外周にクッションケース内にロック室を形成する環状のロックピースが設けられるとともに、ロック室がロッドガイドでシリンダ内の反ロック室側と仕切られていて、ロックピースがクッションケース内を奥側へ進むとクッションケースとロックピースとの間を通ってロック室からクッションケース外へ向かう液体の流れに抵抗が付与されるとよい。当該構成によれば、クッションケースがフロントフォークの最収縮時の衝撃を緩和する液圧ロック部材のロックケースとして機能できる。
【0014】
また、上記フロントフォークでは、クッションケースにロック室からクッションケース外へ向かう液体の流れに抵抗を与えるオリフィスが形成されているとよい。当該構成によれば、液圧ロック部材による減衰力の特性を、オリフィスの位置、数、大きさ、形状等により設定できる。さらに、このような設定をするのにクッションケースを拡管する必要がないので、クッションケースを含むシリンダを容易に形成できる。
【0015】
また、上記フロントフォークでは、ロッドの外周にクッションラバーが設けられていて、最収縮時にクッションラバーが圧縮されて弾性変形し、その外周がクッションケースの内周に当接するとよい。当該構成によれば、フロントフォークの最収縮時の衝撃をクッションラバーで緩和できるとともに、クッションケースがクッションラバーの拡径方向の変形を制限するラバーケースとして機能できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフロントフォークによれば、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークを部分的に切欠いて示した正面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの第一の変形例を示し、当該変形例に係るフロントフォークの一部を示した縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの第二の変形例を示し、当該変形例に係るフロントフォークの一部を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態のフロントフォークについて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0019】
図1に示す本発明の一実施の形態に係るフロントフォークFは、鞍乗型車両の前輪を懸架する懸架装置である。以下の説明では、フロントフォークFが車両に取り付けられた状態での上下を、特別な説明がない限り、フロントフォークFの「上」「下」とする。
【0020】
フロントフォークFは、アウターチューブ1と、アウターチューブ1内に摺動自在に挿入されるインナーチューブ2とを有して構成されるテレスコピック型のチューブ部材Tと、このチューブ部材T内に収容されるダンパD、及び懸架ばねSとを備える。
【0021】
チューブ部材Tは、倒立型となっており、アウターチューブ1を上側(車体側)へ、インナーチューブ2を下側(車輪側)へ向けて配置される。つまり、本実施の形態では、アウターチューブ1が車体側チューブ、インナーチューブが車輪側チューブとなる。
【0022】
アウターチューブ1は、車体側ブラケット(図示せず)を介して車両の車体に連結される。その一方、インナーチューブ2は、車輪側ブラケット20を介して前輪の車軸に連結される。このようにしてフロントフォークFは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して前輪が上下に振動すると、インナーチューブ2がアウターチューブ1に出入りしてフロントフォークFが伸縮する。
【0023】
なお、チューブ部材Tは、正立型になっていて、アウターチューブ1を車輪側チューブ、インナーチューブ2を車体側チューブとしてもよい。また、フロントフォークFが搭載される鞍乗型車両とは、鞍に跨るような姿勢で乗員が乗車するタイプの車両全般のことであり、自動二輪車(スクーターを含む)、三輪車等を含む。そして、本発明に係るフロントフォークFは、如何なる鞍乗型車両に利用されていてもよい。
【0024】
つづいて、アウターチューブ1の上端は、キャップ10で塞がれている。また、インナーチューブ2の下端は、車輪側ブラケット20で塞がれている。さらに、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間は、シール部材11で塞がれている。
【0025】
このようにしてチューブ部材Tの内側は密閉空間とされており、チューブ部材Tの内側にダンパDが収容されている。また、チューブ部材TとダンパDとの間には、液溜室Rが形成されており、この液溜室Rには作動油等の液体が貯留されるとともに、その液面上側に気体が封入されている。そして、この液溜室Rに懸架ばねSが収容されている。
【0026】
ダンパDは、液体を収容するシリンダ3と、このシリンダ3内に摺動自在に挿入されるピストン4と、一端がピストン4に連結されて他端がシリンダ3外へ突出するロッド5と、シリンダ3においてロッド5が突出する側の先端から所定の間隔をあけた位置の内周に固定されてロッド5を摺動自在に支持する環状のロッドガイド6とを備える。
【0027】
また、ダンパDは、正立型となっており、シリンダ3外へ突出するロッド5をシリンダ3の上側(車体側)へ向けて配置されている。そして、ロッド5がキャップ10を介してアウターチューブ1に連結されるとともに、シリンダ3がインナーチューブ2に連結されている。
【0028】
このようにしてダンパDはアウターチューブ1とインナーチューブ2との間に介装されている。そして、フロントフォークFが伸縮すると、ロッド5がシリンダ3に出入りしてダンパDが伸縮し、ピストン4がシリンダ3内を上下に移動する。
【0029】
シリンダ3の上側の開口は、ロッドガイド6で塞がれている。そして、このロッドガイド6よりも下側のシリンダ3内には、液体が充填される液室が形成されており、この液室は、ピストン4で上側(ロッド5側)の伸側室L1と、下側(ピストン4側)の圧側室L2とに区画されている。
【0030】
ピストン4には、伸側室L1と圧側室L2とを連通するピストン通路(図示せず)が形成されている。また、圧側室L2は、ボトム通路(図示せず)を介して液溜室Rと連通可能となっている。
【0031】
そして、フロントフォークFが伸縮してロッド5がシリンダ3に出入りし、ピストン4がシリンダ内を上下に移動すると、液体がピストン通路を通って伸側室L1と圧側室L2との間を移動するとともに、シリンダ3に出入りしたロッド5体積分の液体がボトム通路を通って圧側室L2と液溜室Rとの間を移動する。
【0032】
また、ダンパDは、フロントフォークFの伸縮時に生じる液体の流れに抵抗を与えるバルブ、オリフィス、チョーク等の減衰要素を備えている。このため、フロントフォークFが伸縮すると、ダンパDが減衰要素の抵抗に起因するメインの減衰力を発揮して、フロントフォークFの伸縮運動を抑制する。
【0033】
なお、ダンパDの構成は、上記の限りではなく適宜変更できる。例えば、伸側室L1、圧側室L2、液溜室R等の各部屋を連通する通路の構成は、適宜変更できる。さらに、ダンパDが倒立型になっていて、シリンダ3から下側へロッド5を突出させてもよく、このような変更は、チューブ部材Tが倒立型である場合、正立型である場合に限らず可能である。
【0034】
また、本実施の形態では、ダンパDが片ロッド型になっており、液溜室Rがシリンダ3に出入りするロッド5の体積補償をするためのリザーバとして機能する。しかし、フリーピストン、ブラダ等を利用してシリンダ3内に膨縮可能な気室を形成し、当該気室でシリンダ3に出入りするロッド5の体積補償をしてもよい。さらに、ダンパDが両ロッド型になっていて、ロッドがピストン4の両側からシリンダ3外へ突出していてもよく、この場合には、シリンダ3に出入りするロッドの体積補償をする必要がない。
【0035】
また、本実施の形態では、シリンダ3、ロッド5、及びロッドガイド6が、液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発生する液圧ダンパであるダンパDを構成する部材であるが、これらは液圧ダンパ以外に利用されていてもよい。この場合、例えば、ピストン通路、ボトム通路、及び減衰要素を廃し、シリンダ3内に収容した懸架ばねをロッド5で圧縮するようにして、シリンダ3、ロッド5、ロッドガイド6、及び懸架ばねでばね装置を構成するとしてもよい。
【0036】
つづいて、ロッドガイド6は、環状であって、その外周には、周方向に沿って環状溝6aが形成されている。そして、ロッドガイド6をシリンダ3内へ挿入した状態で、シリンダ3において環状溝6aと対向する部分を加締めて内周側へ突出させ、その部分(以下、加締め部3aという)を環状溝6aに嵌め込む。すると、ロッドガイド6がシリンダ3の内周に保持されて、シリンダ3に対して軸方向へ動かなくなる。
【0037】
なお、シリンダ3を加締めてロッドガイド6をシリンダ3の内周に取り付けるとともに、このようなロッドガイド6の取付状態を確実に維持する上では、加締め部3aをシリンダ3の周方向に等間隔で3又は4カ所形成するのが好ましい。しかし、加締め部3aの数は適宜変更できる。
【0038】
また、ロッドガイド6の外周に形成した環状溝6aに加締め部3aを嵌合する場合、加締め加工によりシリンダ3に加締め部3aを形成する際、シリンダ3とロッドガイド6の周方向の位置合わせを不要にできる。しかし、加締め部3aを嵌合する部分の形状を適宜変更できるのは勿論、ロッドガイド6の固定方法も加締めに限られない。
【0039】
また、ロッドガイド6の内周には、ロッド5の外周に摺接する環状のブッシュ60が嵌合する。つまり、本実施の形態では、ロッドガイド6は、ブッシュ60を介してロッド5を摺動自在に軸支する。しかし、ロッドガイド6の内周に、直接ロッド5を摺接させてもよい。
【0040】
つづいて、ロッドガイド6の上方へ突出するシリンダ3の先端には、ばね受7が嵌合する。そして、このばね受7の上側には、懸架ばねSが積層されている。懸架ばねSは、コイルばねであり、懸架ばねSの上端は、キャップ10を介してアウターチューブ1で支持されている。その一方、懸架ばねSの下端は、ばね受7、及びシリンダ3を介してインナーチューブ2で支持される。
【0041】
このようにして懸架ばねSはアウターチューブ1とインナーチューブ2との間に介装されている。そして、フロントフォークFが収縮してインナーチューブ2がアウターチューブ1内へ侵入すると、懸架ばねSが圧縮されて弾性変形し、その変形量に見合った弾性力を発揮してフロントフォークFを伸長方向へ附勢する。フロントフォークFでは、この懸架ばねSで車体を弾性支持するようになっている。
【0042】
また、ばね受7は、環状であり、シリンダ3の上端に当接するとともにインナーチューブ2の内周に当接するシート部7aと、シート部7aから下方へ突出してシリンダ3の外周に嵌る外嵌部7bとを有する。このように、シリンダ3で支えられたシート部7aがインナーチューブ2に当接するので、シリンダ3とシート部7aとの当接位置から外周側へずれた位置に懸架ばねSが着座する場合であっても、ばね受7の外周側が内周側より低くなるように傾斜するのを抑制できる。
【0043】
さらに、ばね受7には、切欠き7cが形成されており、液溜室Rがばね受7で仕切らないように配慮されている。このため、フロントフォークFの伸縮時にシリンダ3内外を液体が移動すると、その分の液体が切欠き7cを通ってばね受7の上側とシリンダ3の外周側との間を行き来する。
【0044】
なお、ばね受7の構成は、適宜変更できる。例えば、ばね受7がワッシャであって、シリンダ3に積層されていてもよい。また、懸架ばねSの構成及び配置も適宜変更できる。例えば、懸架ばねSは、エアばね等のコイルばね以外のばねであってもよい。このように、懸架ばねSをエアばねにした場合には、液溜室Rの液面上側に気体を圧縮しながら封入し、当該気体を封入した気室を上記エアばねに利用するとともに、ばね受7を廃するとしてもよい。また、懸架ばねSは、シリンダ3内に収容されていて、ロッド5により圧縮されるとしてもよい。
【0045】
つづいて、シリンダ3内に挿入されたロッド5の外周であって、ロッドガイド6とピストン4との間には、伸切ばね8が設けられている。そして、フロントフォークFが最伸長状態に近づくと、伸切ばね8の上端がロッドガイド6に当接し、伸切ばね8が圧縮されて弾性変形する。
【0046】
伸切ばね8は、圧縮されるとその変形量に見合った弾性力を発揮してフロントフォークFを収縮方向、即ち、フロントフォークFの伸長を妨げる方向へ附勢する。このため、この伸切ばね8により、最伸長付近でのフロントフォークFの伸長速度を減速し、フロントフォークFの最伸長時の衝撃を緩和できる。
【0047】
このように、シリンダ3におけるロッドガイド6の下側に伸切ばね8とピストン4が収容されており、当該部分がシリンダ本体3bとなっている。その一方、シリンダ3におけるロッドガイド6よりも上側は、ロックケース3cとされている。
【0048】
液溜室Rの液面は、ロックケース3cの上端よりも高い位置にあり、ロックケース3cは、液中に浸漬した状態で設けられている。また、ロッドガイド6の上方へ突出したロッド5の外周には、環状のロックピース9が設けられている。ロックピース9はロックケース3cの内周に摺接可能となっており、フロントフォークFが最収縮状態に近づくと、ロックピース9がロックケース3c内へ侵入してロックケース3c内にロック室30を形成する。
【0049】
このとき、ロック室30は、ロックケース3c外の液溜室Rとロックピース9で区画されるとともに、シリンダ3内の液室とロッドガイド6で区画されている。そして、フロントフォークFの収縮に伴いロックピース9がロックケース3c内を奥側(ロッドガイド6側)へ進んでロック室30が縮小すると、ロック室30の液体がロックピース9とロックケース3cとの間の摺動隙間を通って液溜室Rへ流出する。
【0050】
摺動隙間は狭い隙間であって、摺動隙間を液体が流れる際に抵抗が付与されるので、ロックピース9がロックケース3c内を奥側へ進むとロック室30の圧力が上昇してフロントフォークFの収縮を妨げる位置依存の二次的な減衰力が発生し、ダンパDによるメインの圧側減衰力に付加される。このため、フロントフォークFの最収縮付近での圧側減衰力が大きくなって、当該大きな圧側減衰力でフロントフォークFの収縮速度を減速し、フロントフォークFの最収縮時の衝撃を緩和できる。
【0051】
また、ロックケース3cの上部には、ロックケース3cの肉厚を貫通するオリフィス3dが形成されている。このため、ロックピース9がロックケース3c内を奥側へ進む場合であって、ロックピース9の下端がオリフィス3dより高い位置にある場合には、ロック室30の液体がロックピース9の外周の摺動隙間の他にもオリフィス3dを通ってロックケース3c外へ流出できる。
【0052】
これに対して、ロックピース9がロックケース3cへ深く侵入し、ロックピース9の上端がオリフィス3dよりも低い位置まで移動すると、ロック室30とオリフィス3dがロックピース9により隔てられる。このため、このような状態でロックピース9がロックケース3c内をさらに奥側へ進むと、ロック室30の液体は、ロックピース9の外周の摺動隙間のみを通ってロックケース3c外へ移動するようになる。
【0053】
よって、ロックピース9がオリフィス3dよりも高い位置にある場合、ロックピース9がオリフィス3dよりも低い位置にある場合と比較して、ロック室30と液溜室Rとを連通する流路の流路面積が大きくなって、このときに発生する二次的な減衰力が小さくなる。
【0054】
換言すると、ロックピース9がロックケース3c内の浅い位置にある場合に生じる二次的な減衰力を小さくできるので、フロントフォークFの収縮時におけるロックピース9のロックケース3c内への侵入を境にした減衰力の急変が抑制されて、乗車フィーリングの急変を抑制できる。さらに、ロックピース9がロックケース3c内の深い位置まで進んだ場合に生じる二次的な減衰力を大きくできるので、フロントフォークFの最収縮時の衝撃を確実に緩和できる。
【0055】
また、オリフィス3dの位置、数、大きさ、形状等により、当該オリフィス3dを液体が流れる際に生じる二次的な減衰力の特性が変化して、乗車フィーリングが変わる。そこで、乗員の好みに合った乗車フィーリングになるように、オリフィス3dの位置、数、大きさ、形状等を変更できるのは勿論である。さらに、ロックケース3cの上端部を拡管したり、ロックケース3cの内周に溝を形成したりして、オリフィス3dと同様の機能をもたせてもよい。
【0056】
以下、本実施の形態に係るフロントフォークFの作用効果について説明する。
【0057】
本実施の形態において、フロントフォークFは、シリンダ3と、このシリンダ3内に移動可能に挿入されるロッド5と、シリンダ3の内周に取り付けられてロッド5を摺動自在に支持するロッドガイド6とを備える。そして、本実施の形態では、そのロッドガイド6から突出するシリンダ3の先端部分がロックケース3cとなっている。
【0058】
シリンダ3の先端部分とは、シリンダ3の軸方向の一端を含む部分のことである。また、ロックケース3cは、フロントフォークFの最収縮時の衝撃を緩和するのに利用されるクッションケースの一種である。そして、本実施の形態では、一本のシリンダ3の一部をロックケース(クッションケース)3cとして利用するとともに、当該ロックケース3cと別体形成されたロッドガイド6をシリンダ3の内周に取り付けている。よって、上記構成によれば、ロックケース(クッションケース)3cとロッドガイド6を別々に形成できるので、これらの形状をそれぞれ簡素化し、部品コストを低減できる。
【0059】
さらに、本実施の形態では、シリンダ3の一部をロックケース(クッションケース)3cとして利用している。よって、前述のように、ロックケース3cとロッドガイド6を別々に形成しても部品数が多くならない。そして、本実施の形態では、ロッドガイド6をシリンダ3へ取り付ける工程は必要であるものの、ロックケース3cをシリンダ3に取り付ける工程は不要である。よって、本実施の形態では、従来のようにロッドガイドとクッションケースとを含むシリンダヘッドをシリンダに取り付ける場合と比較して組付工数も増えない。このため、上記構成によれば、部品コストの低減による効果が減殺されず、フロントフォークFのコストを低減できる。
【0060】
また、本実施の形態では、シリンダ3に形成された加締め部3aがロッドガイド6に嵌合し、これによりロッドガイド6がシリンダ3の内周に取り付けられている。
【0061】
加締め部3aとは、加締め加工により塑性変形させた部分のことであり、上記構成によれば、加締め加工によりシリンダ3の内周にロッドガイド6を取り付けられる。つまり、上記構成によれば、ロッドガイド6のシリンダ3への取り付けに螺子締結を利用しないので、フロントフォークF製造時の螺子加工、及び螺合作業を減らしてコストを一層低減できる。
【0062】
なお、ロッドガイド6をシリンダ3の内周に取り付ける方法は、上記の限りではなく、適宜変更できる。例えば、
図2に示すように、シリンダ3の内周に装着される一対のスナップリング61,62でロッドガイド6を挟んで固定してもよい。また、図示しないが、シリンダ3の内周に段差を形成し、当該段差と一つのスナップリングとの間にロッドガイド6を挟んで固定してもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、ロッド5の外周に、ロックケース(クッションケース)3c内にロック室30を形成する環状のロックピース9が設けられている。さらに、ロック室30は、ロッドガイド6でシリンダ3内の液室(反ロック室側)と仕切られている。そして、ロックピース9がロックケース3c内を奥側へ進むと、ロックケース3cとロックピース9との間を通ってロック室30からロックケース3c外へ向かう液体の流れに抵抗が付与される。
【0064】
上記構成によれば、ロックピース9がロックケース3c内を奥側へ進む際にロック室30の内側から外側へ液体が流れ、その流れに抵抗が付与されて位置依存の減衰力が発生する。そして、当該減衰力によりフロントフォークFの収縮速度を減速させて最収縮時の衝撃を緩和できる。このように、上記構成によれば、液圧ロック部材でフロントフォークFの最収縮時の衝撃を緩和でき、クッションケースが液圧ロック部材のロックケース3cとして機能する。
【0065】
さらに、本実施の形態では、液圧ロック部材を構成するロックケース3cに、ロック室30からロックケース3c外へ向かう液体の流れに抵抗を与えるオリフィス3dが形成されている。このため、オリフィス3dの位置、数、大きさ、形状等により液圧ロック部材による減衰力の特性を設定できる。
【0066】
例えば、オリフィス3dを大きくすれば、オリフィスを液体が流れる際の液圧ロック部材による減衰力を小さくできる。また、オリフィス3dの位置を下げれば、液圧ロック部材による減衰力を大きくするタイミングを遅く(フロントフォークFの最収縮時に近く)できる。さらに、複数のオリフィスをロックケース3cの軸方向にずらして設ければ、フロントフォークFが最収縮状態に近づくに従って液圧ロック部材による減衰力を段階的に大きくできる。
【0067】
そして、上記構成によれば、このような液圧ロック部材による減衰力の特性の設定をするのを目的として、ロックケース3cの内径を拡径する必要がなく、ロックケース3cとシリンダ本体3bの内径を同じにできるので、シリンダ3を容易に形成できる。
【0068】
具体的に、ロックケース3cとシリンダ本体3bの内径が等しいシリンダ3を形成するには、内径一定の一本のチューブの内周に加締め加工等でロッドガイド6を取り付ければ済む。さらに、オリフィス3dは、孔開け加工等で容易に形成できるので、オリフィス3dの形成されたロックケース3cを含み、ロックケース3cとシリンダ本体3bの内径の等しいシリンダ3の形成は、極めて容易である。
【0069】
このため、本実施の形態のフロントフォークFでは、ロックケース3cとシリンダ本体3bの内径が等しくなっている。しかし、シリンダ3の母材となるチューブの一部を拡管したり絞ったりして、ロックケース3c又はシリンダ本体3bの一部に拡径部又は縮径部を形成してもよい。
【0070】
また、液圧ロック部材のロックピース9の構成も適宜変更できる。例えば、図示しないが、ロッド5が軸方向に移動自在に挿通される環状のロックピースをロックケース3c内に摺動自在に収容しておき、フロントフォークの最収縮付近でロッド5の外周に装着したストッパでロックピースをロックケース3c内へ押し込むようにしてもよい。
【0071】
さらに、
図3に示すように、液圧ロック部材に替えて、ゴム製のクッションラバー90で最収縮時の衝撃を緩和するとともに、ロックケース(クッションケース)3cをクッションラバー90の拡径方向の変形を制限するラバーケース3eとして利用してもよい。このようにするには、フロントフォークの最収縮時に、クッションラバー90が弾性変形してその外周がラバーケース3eの内周に当接するようになっていればよい。
【0072】
上記構成によれば、フロントフォークが最収縮状態に近づくと、クッションラバー90がラバーケース3e内に挿入されるとともに、ロッドガイド6に突き当たって弾性変形する。すると、クッションラバー90が変形量に見合った弾性力を発揮して、フロントフォークを伸長方向、即ち、フロントフォークの収縮を妨げる方向へ附勢する。また、このような状態から、さらにフロントフォークが収縮してクッションラバー90の外周がラバーケース3eに当接すると、クッションラバー90のそれ以上の拡径方向の変形が阻止されて、収縮に抗する力が一層大きくなる。
【0073】
このため、上記構成によれば、クッションラバー90の弾性変形を境にした乗車フィーリングの急変を抑制できるとともに、フロントフォークFの最収縮時の衝撃を確実に緩和できる。
【0074】
なお、クッションラバー90の構成も適宜変更できる。例えば、図示しないが、ロッド5が軸方向に移動自在に挿通される筒状のクッションラバーをラバーケース3e内に収容しておき、フロントフォークの最収縮付近でロッド5の外周に装着したストッパでクッションラバーを圧縮するようにしてもよい。さらに、クッションラバーの形状は、筒状に限られない。
【0075】
そして、前述のように、クッションケースがラバーケース3eである場合には、必ずしも、ラバーケース3eの内側とシリンダ本体3bの内側がロッドガイド6で仕切られていなくてもよい。具体的には、ピストン通路、ボトム通路、及び減衰要素を廃し、シリンダ3内に収容した懸架ばねをロッド5で圧縮するようにして、シリンダ3、ロッド5、ロッドガイド6、及び懸架ばねでばね装置を構成する場合等がそれに相当する。
【0076】
また、クッションラバーとオイルロックピースを組み合わせて利用してもよく、上記したようなフロントフォークの最収縮時の衝撃緩和機構の構成の変更は、ロッドガイド6の固定方法に限らず可能である。
【0077】
また、本実施の形態では、ロックケース3cと懸架ばねSとの間に介装される環状のばね受7に切欠き7cが形成されており、液溜室Rの液体が切欠き7cを通ってばね受7の上側とシリンダ3の外周側との間を移動できる。このため、本実施の形態のように、フロントフォークFの伸縮時にシリンダ3に出入りするロッド体積分の液体がシリンダ3の内外を移動する場合であっても、シリンダ3の外周側で液体が不足するのを防止できる。
【0078】
しかし、ばね受7の切欠き7cに替えて、ロックケース3cに通孔又は切欠きを形成してもよい。また、シリンダ3の上端部を外側へ折り曲げて曲げ部を形成し、当該曲げ部をばね受7に替えて利用してもよい。そして、これらの変更は、ロッドガイド6の固定方法によらず可能であり、また、ロックケース3cをラバーケース3eとして利用する場合にも勿論可能である。
【0079】
また、本実施の形態では、シリンダ3の外周に、シリンダ3とは別体のインナーチューブ2を設けている。しかし、シリンダ3を廃してインナーチューブ2にシリンダとしての機能をもたせ、このインナーチューブ2の内周にロッドガイド6を固定するとともに、インナーチューブ2のロッドガイド6よりも上側をロックケース3cとしてもよい。そして、このような変更は、ロッドガイド6の固定方法、及びばね受7の構成によらず可能であり、また、ロックケース3cをラバーケース3eとして利用する場合にも勿論可能である。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
F・・・フロントフォーク、3・・・シリンダ、3a・・・加締め部、3c・・・ロックケース(クッションケース)、3d・・・オリフィス、3e・・・ラバーケース(クッションケース)、5・・・ロッド、6・・・ロッドガイド、9・・・ロックピース、30・・・ロック室、90・・・クッションラバー