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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】抗体検出法及び抗体検出系
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220209BHJP
   G01N 33/80 20060101ALI20220209BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/80
C12Q1/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017545404
(86)(22)【出願日】2016-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2016053989
(87)【国際公開番号】W WO2016135246
(87)【国際公開日】2016-09-01
【審査請求日】2019-01-25
(31)【優先権主張番号】15156590.0
(32)【優先日】2015-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511025329
【氏名又は名称】デーエルカー-ブルートシュペンデディーンスト・バーデン-ヴェルテンブルク-ヘッセン・ゲーゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】DRK-BLUTSPENDEDIENST BADEN-WURTTEMBERG-HESSEN GGMBH
(73)【特許権者】
【識別番号】507038825
【氏名又は名称】ヨハン ウォルフガング ゲーテ-ウニベルジテート フランクフルト アム マイン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】ベーニヒ,ハルファルド
(72)【発明者】
【氏名】ガイセン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルチンスカ,エリザ ユスチナ
(72)【発明者】
【氏名】リシュカ,ニコラス
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-529655(JP,A)
【文献】特表2010-523995(JP,A)
【文献】特開2013-011626(JP,A)
【文献】特表2013-520664(JP,A)
【文献】特表平08-501145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の1種以上のヒト抗体種の検出をin vitroで行う方法であって、
a.前記1種以上のヒト抗体種を含むことが疑われる試料を、1種以上の非ヒトプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触させることと、
i.前記抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつヒト抗体に結合することが可能であり、かつ、
ii.非ヒトプロービング細胞種の非ヒトプロービング細胞は、第二の検出可能な標識及び抗原性タンパク質を発現するのであって、該抗原性タンパク質は検出されるべき1種以上のヒト抗体種のヒト抗体に結合することが可能であるか、又は該ヒト抗体によって結合されることが可能である抗原性部分を含むものである;
b.各々の非ヒトプロービング細胞について、第一の検出可能な標識及び第二の検出可能な標識からのシグナルの存在を検出することと、
該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在及び該第二の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での前記1種以上のヒト抗体種の存在を示している;
を含む、方法。
【請求項2】
試料中の1種以上のヒト抗体種の検出をin vitroで行う方法であって、
a.前記1種以上のヒト抗体種を含むことが疑われる試料を、1種以上の非ヒトプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触させることと、
i.前記抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつヒト抗体に結合することが可能であり、かつ、
ii.非ヒトプロービング細胞種の非ヒトプロービング細胞は、固体基材上の予め決められた位置に固定化されており、かつ該非ヒトプロービング細胞は、検出されるべき1種以上のヒト抗体種のヒト抗体に結合することが可能であるか、又は該ヒト抗体によって結合されることが可能である抗原性部分を含む抗原性タンパク質を発現する
b.前記固体基材上に固定化された各々の非ヒトプロービング細胞について、第一の検出可能な標識からのシグナルの存在を検出することと、
該固体基材上の予め決められた位置における該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での前記1種以上のヒト抗体種の存在を示している;
を含む、方法。
【請求項3】
抗体結合剤は、抗ヒト抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非ヒトプロービング細胞種は、抗原性タンパク質も、検出されるべき1種以上のヒト抗体種によって結合され得るあらゆるその他のタンパク質も内因的に発現しない細胞であり、該抗原性タンパク質および第二の検出可能な標識の発現は、組換え発現によって達成されるものである、又は、
非ヒトプロービング細胞種は、抗原性タンパク質も、検出されるべき1種以上のヒト抗体種によって結合され得るあらゆるその他のタンパク質も内因的に発現しない細胞であり、該抗原性タンパク質および第二の検出可能な標識の発現は、組換え発現によって達成されるものであり、該非ヒトプロービング細胞種は、マウス細胞である若しくは哺乳類細胞ではない、又は、
非ヒトプロービング細胞種は、抗原性タンパク質も、検出されるべき1種以上のヒト抗体種によって結合され得るあらゆるその他のタンパク質も内因的に発現しない細胞であり、該抗原性タンパク質および第二の検出可能な標識の発現は、組換え発現によって達成されるものであり、該非ヒトプロービング細胞種は、無脊椎動物細胞である、又は
非ヒトプロービング細胞種は、抗原性タンパク質も、検出されるべき1種以上のヒト抗体種によって結合され得るあらゆるその他のタンパク質も内因的に発現しない細胞であり、該抗原性タンパク質および第二の検出可能な標識の発現は、組換え発現によって達成されるものであり、該非ヒトプロービング細胞種は、昆虫細胞である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の検出可能な標識及び第二の検出可能な標識は、区別することが可能なシグナルを生ずる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上のヒト抗体種は、血液型抗原に特異的なヒト抗体種であり、かつ抗原性タンパク質は、相応の血液型抗原である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1種以上の非ヒトプロービング細胞種と抗体結合剤とを含むヒト抗体検出系であって、
該抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつヒト抗体に結合することが可能であり、かつ、
前記1種以上の非ヒトプロービング細胞種の各々は、検出されるべき異なるヒト抗体種に結合することができるか、又は該ヒト抗体種によって結合される異なる抗原性部分を含む異なる抗原性タンパク質及び該系中のその他の非ヒトプロービング細胞種のあらゆるその他の検出可能な標識とは異なる(すなわち、その標識と区別することができる)第二の検出可能な標識を発現するか、又は発現することが可能であり、かつ該系中の第二の検出可能な標識種のシグナルは、非ヒトプロービング細胞中の相応の抗原性タンパク質の存在を示していることを特徴とする、ヒト抗体検出系。
【請求項8】
2種、3種、4種、5種又はそれより多くの種類の非ヒトプロービング細胞種を含み、かつ各々の非ヒトプロービング細胞種は、該系中の非ヒトプロービング細胞種のいずれかの抗原性タンパク質のいずれも内因的に発現しないものであり、該抗原性タンパク質の発現は、組換え発現によって達成されるものである、請求項7に記載のヒト抗体検出系。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のヒト抗体検出系を含む、診断キット。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で使用するための、請求項9に記載の診断キット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法、又は請求項7若しくは8に記載のヒト抗体検出系、又は請求項9若しくは10に記載の診断キットの、診断されるべき被験体からの生物学的試料中の1種以上のヒト抗体種の存在によって特徴付けられる疾患の診断におけるin vitroでの使用。
【請求項12】
試料からヒト抗体種の除去をin vitroで行う方法において、
a.該ヒト抗体種を含むと疑われる試料を、非ヒトトラッピング細胞種と、該ヒト抗体種がその非ヒトトラッピング細胞種に結合して非ヒトトラッピング細胞ヒト抗体複合体種を形成することを可能にする条件下で接触させることと、
該非ヒトトラッピング細胞種は、該ヒト抗体種に結合する、又は該ヒト抗体種によって結合され得る抗原性部分を有する抗原性タンパク質を発現する
b.引き続き、該非ヒトトラッピング細胞ヒト抗体複合体種を試料から除去することで、精製された試料を得ることと、
を含む、方法。
【請求項13】
非ヒトトラッピング細胞種は、マウス細胞である、又は前記非ヒトトラッピング細胞種は、抗原性タンパク質を内因的に発現しない、該抗原性タンパク質の発現は、組換え発現によって達成されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記方法は、c.精製された試料を、ヒト抗体種の抗体の存在について試験することを更に含み、除去されるべきヒト抗体種の残留ヒト抗体が存在する場合に、方法工程(a)~(b)及び任意に(c)を、該精製された試料がヒト抗体種のあらゆる残留ヒト抗体を含まなくなるまで繰り返す、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)は、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法、又は従来の抗体スクリーニングアッセイを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
除去されるべきヒト抗体種は、血液型抗原に結合するヒト抗体であり、かつ試料は血清試料である、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中、特に血清試料又は血漿試料中の1種以上の抗体種の存在の検出のための細胞系を提供する。本方法は、赤血球、血小板又は顆粒球上に発現される血液型抗原に対して感作された患者の分析に特に有用である。上記系は、各々の抗原に特異的な、故に各々の抗体種に特異的な蛍光性標識された細胞を使用する。本発明の方法を実施するための方法、系及び診断キットが提供される。さらに、本発明は、血清試料等の試料から抗体を除去する方法を開示している。そのような方法は、多凝集反応を示す血清から抗体を吸収するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
感作(輸血、妊娠等)に続いて、赤血球(RBC)、血小板及び顆粒球上の血液型抗原に対する抗体が誘導され得る。それらの抗体は、再負荷に際して有害反応を引き起こし得るので、該抗体の検出のために感度の高い診断試験が使用される。
【0003】
そこで輸血のためには、抗原陰性の血液製剤が使用される。これらの抗体の検出は、古くから、各々が、ランダムな組み合わせではあるが全範囲の抗原特異性を発現する細胞パネルの使用に頼っている。それにより、特定のパネル細胞とは反応するが、その他とは反応しない反応強度の分析は、特定の抗原(これらの個々のパネル細胞が共有する又は共通点を有する抗原)に対する反応性として解釈される。その反対に、特定の抗原をホモ接合的に有する細胞との反応性が存在しないということは、この抗原と非反応性であると解釈される。今日では、30種の血液型系において400種を超える既知のRBC血液型抗原が存在し、それぞれ約12種の顆粒球血液型抗原及び血小板血液型抗原が存在する。天然の細胞(ドナーからのRBC、血小板又は顆粒球)の場合に、各々のパネル細胞は、多数の抗原を、一般的には各々の抗原の群からの又は血液型系からの少なくとも1種の抗原を明らかに有する。RBCについては、ドイツだけで年間4百万件より多くある全ての輸血前に、可能性のある抗RBC抗原に対する試験が実施される。顆粒球及び血小板については、堅牢で素早く手頃な試験がないため、輸血の頻度が既により大幅に低くなっており、抗体診断は、輸血に対して有害反応又は不応性を示す患者についてのみ開始されているにすぎない。
【0004】
RBCの場合には、簡単で効率の良い多くの慣例的な試験を利用することができ、その殆どは、上記のようにパネル反応性に頼っている。幾つかの状況では、これらの試験は役に立たない。汎凝集反応を示す抗体が存在する場合に、特定の抗原に対する寛容を除外するために使用され得る負のパネル細胞は存在しない。自己反応性抗体、幾つかの抗原に対する抗体の混合物又は高頻度抗原に対する抗体を有する患者においては、同様に上記試験では、寛容性抗原は同定されない。こうして、抗体の識別は妨害されることとなるか、又は特異抗体(の組み合わせ)は、汎凝集反応を示すと誤って解釈されることとなり、それは、一般的に臨床的に不適切である。一般的にパネルは、希少抗原に対する抗原を同定し損なう。それというのも、該パネルにおけるどの細胞も、偶然にそれらの抗原を発現することはないためであり、したがって、大事な抗体を捕らえ損ねる場合がある。このように、標準的な診断法は利用することができ、殆どの場合には成果が上がるが、特定の状況では役に立たない。血液型抗原が蛍光性ラテックス粒子上に固定化されている幾つかの代替となる試験が存在するが、これらは、非常に複雑なタンパク質構造の膜タンパク質である典型的なRBC抗原については適していない。その一方で、血小板及び顆粒球に関する類似の試験は、あまり十分には標準化されておらず、それは、血小板又は顆粒球の試験パネルの保存寿命が短いことによってかなり複雑なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液型抗原の抗体検出系の技術水準に付随する上述の課題を考慮して、本発明は、被験体からの試料中の血液型を測定するのに改善されたより単純な方法論を提供しようとするものである。
【0006】
さらに、本発明は、多数の血液型抗原に対する抗体を含む多凝集反応を示す血清に付随する課題を解決しようとするものである。そのような血清は、1種以上の抗体種の選択的除去後に従来の診断法につながるかもしれない。したがって、本発明が解決しようとするもう一つの課題は、血液型抗原の抗体を血清試料から簡単に除去する又は枯渇させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第一の課題は、第一の態様において、試料中の1種以上の抗体種を検出する方法であって、
a.上記1種以上の抗体種を含むことが疑われる試料を、1種以上のプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触させることと、
i.上記抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつ抗体に結合することが可能であり、かつ、
ii.プロービング細胞種のプロービング細胞は、第二の検出可能な標識及び検出されるべき1種以上の抗体種の抗体に結合することが可能であるか、又は該抗体によって結合されることが可能である抗原性部分を含む抗原性タンパク質を発現するか、又は発現することが可能である;
b.各々のプロービング細胞について、第一の検出可能な標識及び第二の検出可能な標識からのシグナルの存在を検出することと、
該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在及び該第二の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での上記1種以上の抗体種の存在を示している;
を含む、方法によって解決される。
【0008】
上記第一の課題は、代替的な態様において、試料中の1種以上の抗体種を検出する方法であって、
a.上記1種以上の抗体種を含むことが疑われる試料を、1種以上のプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触させることと、
i.上記抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつ抗体に結合することが可能であり、かつ、
ii.プロービング細胞種のプロービング細胞は、固体基材上の予め決められた位置に固定化されており、かつ該プロービング細胞は、検出されるべき1種以上の抗体種の抗体に結合することが可能であるか、又は該抗体によって結合されることが可能である抗原性部分を含む抗原性タンパク質を発現するか、又は発現することが可能である;
b.上記固体基材上に固定化された各々のプロービング細胞について、第一の検出可能な標識からのシグナルの存在を検出することと、
該固体基材上の予め決められた位置における該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での上記1種以上の抗体種の存在を示している;
を含む、方法によって解決される。
【0009】
この態様においては、多数のプロービング細胞種が、1つの固体基材上の予め決められた位置に、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールを含めて固定化されていてよい。試料中の1種以上の抗体種の存在の検出は、第一の検出可能な標識のシグナルについて固体基材をスキャンすることによって達成される。つまり、それぞれの抗原性タンパク質を発現するプロービング細胞が固定化された予め決められた位置のシグナルの存在だけが、試料中の1種以上の抗体種の存在についての指標である。
【0010】
この態様における固体基材又はチップは、ガラススライド若しくはプラスチックスライド、又はプロービング細胞種の固定化を可能にするあらゆるその他の適切な担体であってよい。試料中の1種以上の抗体種の検出(例えば、血液型抗原特異的な抗体の検出のため)は、上記の抗体結合剤を使用することによって達成される。抗体結合剤に適した標識は、本明細書で以下に記載される。検出されるべき抗体種の有無の同定は、この実施の形態においては、抗体特異性を表すために一致せねばならない細胞の蛍光性標識及び抗ヒトIg抗体上の第二の標識の検出による同定と全く同じように、固体基材(チップ)上のプロービング細胞種の予め決められた物理的位置を基礎とするものである。
【0011】
本発明者らは、本明細書において、細胞(異種細胞、任意の種、又はヒトであるが対象とする系統ではない、すなわちRBC、巨核球/血小板若しくは顆粒球の系統ではない)当たりに1つだけしか抗原を発現せず、1つ又は幾つかの検出可能なマーカーを同時発現することに基づく、RBC、血小板及び顆粒球における血液型抗原を検出する新規方法を提案している。異なる蛍光色素によってそれぞれ識別される異なる抗原(対象とする全ての抗原)を表面発現した細胞を含む細胞の混合物が準備される。該細胞の混合物は、患者からの血清又は血漿と一緒にインキュベートされる。それらの細胞のうち1つに対する抗体は、細胞の混合物中に含まれない判別蛍光色素(例えばAPC)に結合された抗ヒトIgG中で該細胞をインキュベートすることによって認識される。その細胞の混合物は、次いでフローサイトメトリーによって分析される。APC陽性の(すなわち、抗体被覆)細胞集団は、その内発的蛍光、例えばRFPについて分析される。このことは、患者の血清が、RFP+細胞によって発現される単独の血液型抗原に対する抗体を含んでいたことを示している。細胞の混合物は、RBC抗体診断法の最近の器具を補うために、特定の抗原、例えば共通の抗原、希少抗原、高頻度抗原等の群を一緒に発現する細胞を含めて生成されることとなる。同様に、標準的技術による診断法を不明瞭にする共通抗原を発現する細胞を、血清から枯渇させることができる。そのために、例えばRh血液型系からの抗原「e」に対する抗体、つまり自己反応性の臨床的に重要ではないが診断法を不明瞭にする抗体の非常に頻繁な擬特異性を含む患者の血清は、この場合に血液型抗原「e」を発現する細胞と一緒にインキュベートされる。該細胞は、その抗体を捕らえ、遠心分離によって沈降されることとなる。こうして抗「e」が枯渇された血清は、慣例的な診断法(標準的診断試験又は新規の診断試験を使用する追加の特異抗体の検出)に供され得る。上記のように細胞上に血小板抗原又は顆粒球抗原を発現させて、抗IgG蛍光色素結合された二次抗体を用いて患者の血清中のHPA又はHNAに対する抗体を検出するために同じ技術が適用されることとなる。診断試験としてそれほど頻繁に必要とされないものの、この試験を現在利用可能な技術と比較して極めて簡易なものにすることで、この試験は抗血小板抗体及び抗顆粒球抗体についての慣例的な診断となるであろうと予想される。
【0012】
プロービング細胞種及び抗原結合剤を、検出されるべき抗体種の1種以上の抗体を含むと疑われる試料と接触させることによって、そのような抗体が存在すると、プロービング細胞種と、検出されるべき抗体と、抗体結合剤との複合体が形成される。該複合体は、プロービング細胞中の抗原性タンパク質と、検出されるべき相補的抗体との特異的な相互作用とともに、抗体結合剤の検出されるべき抗体への結合によって形成される。したがって、1種のプロービング細胞について、第一及び第二の(又はそれより多くの)検出可能な標識の存在が観察される場合に、両方のシグナルの存在は、形成された複合体の存在についての指標である。検出されるべき対象抗体が存在しないと、該複合体は形成されず、プロービング細胞種は第一及び第二の検出可能な標識を有さない。
【0013】
本発明における用語「抗体結合剤」とは、抗体に結合する能力を有するあらゆる分子を指すものとする。特に、抗体又はTCR構築物等の免疫グロブリンタンパク質が好ましい。本明細書に開示される内容で最も好ましいのは、抗体結合剤が、対象抗体の生物型(種)に特異的な抗体であることである。
【0014】
本発明における「試料」は、好ましくは生物学的試料である。本明細書に記載される発明における用語「生物学的試料」とは、好ましくは液体試料、例えば血液試料、血清試料又は血漿試料を指す。以下で使用される場合に、用語「血液試料」は、血液、好ましくは末梢血(又は循環血)から得られる生物学的試料である。血液試料は、例えば全血、血漿又は血清であってよい。
【0015】
好ましい実施の形態においては、本明細書に開示される発明の方法は、in vitroでの方法又はex vivoで実施される。
【0016】
本発明の幾つかの実施の形態においては、試験されるべき試料を被験体、例えば患者から収集する工程は、記載される方法から除外されることが好ましい。
【0017】
抗原性タンパク質は、好ましくは、細胞表面抗原であり、かつ好ましくは膜貫通型ドメイン又は膜貫通型アンカーを含み得る。用語「細胞表面抗原」とは、細胞表面、すなわち細胞膜に発現及び局在化される生物学的分子を指す。細胞表面抗原の使用は、本発明の方法の実施のために好ましいが、プロービング細胞種中又はその上にのみ位置するように発現されるあらゆるその他の抗原を使用してもよい。抗原性タンパク質と本発明の対象抗体種との間の結合を可能にするために、プロービング細胞を固定し、透過処理することで、該対象抗体種がプロービング細胞中に入ることを可能にすることもできる。したがって、抗原性タンパク質が分泌性タンパク質ではないことが最も好ましい。
【0018】
本発明の方法によって検出されるべき1種以上の抗体種は、ヒト抗体であり、かつ抗体結合剤は、抗ヒト抗体である。本明細書で使用される用語「抗体」には、抗原に応答して産生されるモノクローナル又はポリクローナル起源からの抗体が含まれるだけでなく、そのような抗体のフラグメント、キメラ形、改変形及び誘導体が含まれ、同様にそれらの化学的に及び組換え的に作製された形も含まれる。本明細書で使用される用語「抗ヒト抗体」とは、ヒト免疫グロブリンを認識して結合する抗体を指す。
【0019】
幾つかの実施の形態においては、プロービング細胞種は、抗原性タンパク質も、検出されるべき1種以上の抗体種によって結合され得るあらゆるその他のタンパク質も内因的に発現しない細胞であり、好ましくは、該プロービング細胞種は、ヒト細胞ではなく、例えばマウス細胞であるか、或いは哺乳類細胞ではなく、最も好ましくは無脊椎動物細胞、例えば昆虫細胞である。また本方法は、ヒト抗体種を、プロービング細胞種としてヒト細胞を含む本明細書に記載される方法を用いて検出するような同種同系の場合にも機能するが、抗原性タンパク質を発現することも、本発明の方法で使用される抗原性タンパク質に密に関連したタンパク質も発現し得ない細胞を使用することは好ましい一実施の形態である。本発明の方法は、対象抗体種が、プロービング細胞種中又はその上で発現されるその他の成分と非特異的に結合する可能性を減らすために有利である。本発明において使用される最も簡単なアプローチは、検出されるべき抗体種とは異なる生物から得られるプロービング細胞種を選択することである。例えば、検出されるべき抗体種がヒト抗体であれば、非ヒト細胞系統、例えばマウス細胞又はラット細胞から得られるプロービング細胞種を使用することが好ましいこととなる。
【0020】
本発明のプロービング細胞種を得るためには、上記の抗原性タンパク質及び検出可能な標識を、該細胞種中で発現させる必要がある。このことは、好ましくは抗原性タンパク質及び/又は検出可能な標識の組換え発現によって達成される。したがって、本発明においては、プロービング細胞種が、抗原性タンパク質をコードする第一の遺伝子構築物及び第二の検出可能な標識をコードする第二の遺伝子構築物を含むか、又は抗原性タンパク質及び第二の検出可能な標識が1つの遺伝子構築物上にコードされることが好ましい。
【0021】
本明細書で使用される場合に、用語「遺伝子構築物」とは、抗原性タンパク質又は検出可能な標識をコードするヌクレオチド配列を含むDNA分子又はRNA分子を指す。コーディング配列は、本発明の方法の実施のために使用されるプロービング細胞種中での発現を導くことができるプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む調節エレメントに作動可能に連結された開始シグナル及び終結シグナルを含む。
【0022】
本明細書で使用される場合に、用語「発現可能な形」とは、検出可能な標識又は抗原性タンパク質をコードするコーディング配列に、細胞種中に存在する場合に、該コーディング配列が発現されるように作動可能に連結された必要とされる調節エレメントを含む遺伝子構築物を指す。
【0023】
本発明における「検出可能な標識」は、視覚的手段又は装置的手段によって検出可能なシグナルを生ずることができる検出可能なマーカー、例えば蛍光性タンパク質、放射線標識されたアミノ酸が導入されたタンパク質又は標識化アビジン若しくはストレプトアビジン(光学的方法又は比色的方法によって検出することができる蛍光性マーカー又は酵素活性を有するストレプトアビジン)によって検出することができるビオチニル部分のポリペプチドに結合されたタンパク質である。ポリペプチドのための標識の例には、限定されるものではないが、以下の、放射線同位体又は放射線核種(例えば3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho又は153Sm)、クロモゲン、蛍光性標識(例えばFITC、ローダミン、ランタニド蛍光体)、酵素的標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、化学発光性マーカー、ビオチニル基、二次リポーターによって認識される予め決められたポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体のための結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)及び磁性剤(例えば、ガドリニウムキレート)が含まれる。イムノアッセイのために通常使用される標識の代表的な例には、光を生ずる部分、例えばアクリジニウム化合物、及び蛍光を生ずる部分、例えばフルオレセインが含まれる。本発明の検出可能な標識は、直接的に発現され得るか、或いは検出可能に標識されることになると意図される成分、例えば本発明の抗体結合剤に結合されてもよい。
【0024】
好ましくは、上記第一の検出可能な標識及び第二の検出可能な標識は、区別可能なシグナルを生ずるものであり、例えば異なる波長を有する光シグナルを生ずる蛍光性タンパク質である。
【0025】
蛍光性標識とは、必要な波長で励起された場合に蛍光を発するか又は光を生ずることが可能なタンパク質を指す。本発明の目的のためには、蛍光性タンパク質は、適切な波長で励起した場合に、検出することができる光シグナルの放出をもたらすタンパク質である。好ましい実施の形態においては、本発明による蛍光性タンパク質からの発光スペクトルは、445 nm~660 nmの間、550nm~660 nmの間、最も好ましくは550 nm~660 nmの間である。
【0026】
本発明において標識として使用される場合の蛍光性タンパク質は、a.EGFG、AcGFP、TurboGFP、Emerald、AzaniGreen及びZsGreenの群から選択される緑色蛍光性タンパク質、b.EBFP、Sapphire及びT-Sapphireの群から選択される青色蛍光性タンパク質、c.ECFP、mCFP、Cerulean、CyPet、AmCyan1、Midori-IshiCyan及びmTFPI(Teal)の群から選択されるシアン蛍光性タンパク質、d.EYFP、Topaz、Venus、mCitrine、Ypet、PhiYFP、ZsYellow1及びmBananaの群から選択される黄色蛍光性タンパク質、e.Kusabira Orange、mOrange、dTomato、dTomato-Tandem、DsRed、DsRed2、DsRed-Express(T1)、DSRed-Monomer、mTangerine、mStrawberry、AsRed2、mRFP1、Jred、mCherry、HcRed1、mRaspberry、HcRed-Tandem、mPlum及びAQ143から選択される橙色及び赤色蛍光性タンパク質から選択することができる。上述の蛍光性標識の配列及びそれらの検出法は、当業者に良く知られている。
【0027】
本発明の幾つかの実施の形態においては、各々のプロービング細胞のための第一の検出可能な標識及び第二の検出可能な標識からのシグナルの存在は、サイトメトリーにより又は鏡検法により実施される。上記のように、本開示は、プロービング細胞の検出のためのサイトメトリー法を提供する。用語「サイトメトリー法」は、本明細書においては、フローサイトメトリー法及び/又はイメージングサイトメトリー法を説明するために使用される。したがって、「サイトメトリーアッセイ」とは、フローサイトメトリーアッセイ及び/又はイメージングサイトメトリーアッセイを指すことができ、そして「サイトメーター」とは、フローサイトメーター及び/又はイメージングサイトメーターを指すことができる。
【0028】
その一方で、第一及び第二の検出可能な標識の存在は、蛍光顕微鏡を使用して分析することができる。
【0029】
本方法は、原則的に試料中の任意の抗体の検出のために適用することができるが、特定の好ましい実施の形態においては、本発明の抗体種は、血液型抗原に特異的な抗体種であり、ここで、該抗原性タンパク質は、相応の血液型抗原である。用語「血液型抗原」は、A抗原、B抗原、同時に発現されたA抗原及びB抗原若しくはH抗原を有するABO系の、D抗原、E抗原、e抗原、Cw抗原及びC抗原若しくはc抗原を有するRh系の、K抗原若しくはk抗原を有するKell系の、Duffy系(Fya、Fyb)の、Kidd系(Jka、Jkb)の、又はあまり通常は実際に調査されないが存在するその他の系、例えばMNS、Lewis等の任意の抗原を意味することが意図される。さらに、この用語に含まれるのは、血小板抗原(HPA)及び好中球抗原(HNA)である。
【0030】
この実施の形態においては、本発明の方法は、被験体から得られた試料中の血液型抗原の検出に使用することができ、被験体から得られた上記試料は、生物学的試料である。
【0031】
本発明の上記方法は、試料中の1種の抗体種の検出を含む。しかしながら、試料中に存在し得る複数の異なる対象抗体種の検出において該方法を使用することがより好ましい。各々の抗体種を検出するこの態様においては、(対象抗体種に結合することが可能な)相応の抗原性タンパク質及び異なる検出可能な標識を有する異なる相応のプロービング細胞種が提供される。開示される方法の工程(a)の間に、試料は、全てのプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触される。そこで種々の抗体とプロービング細胞種との複合体は、検出されるべき複数の対象抗体種の有無に応じて形成されるのであれば、プロービング細胞種で使用される第二の検出可能な標識を基礎としてそれ以外と区別することができる。プロービング細胞について観察される第一の検出可能な標識と第二の検出可能な標識との組み合わせに応じて、抗体種の有無を推論することができる。したがって、この実施の形態については、第一及び第二の又は更なる検出可能な標識が全て互いに区別することができることは有益ではない。
【0032】
1つの例示的な実施の形態は、試料中の少なくとも2種以上の抗体種のいずれかを検出する方法であって、
a.上記2種以上の抗体種のいずれかを含むことが疑われる試料を、2種以上のプロービング細胞種及び抗体結合剤と接触させることと、
i.上記抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつ抗体に結合することが可能であり、かつ、
ii.第一のプロービング細胞種は、第二の検出可能な標識及び検出されるべき第一の抗体種に結合することが可能であるか、又は該抗体種によって結合されることが可能である抗原性部分を含む第一の抗原性タンパク質を発現するか、又は発現することが可能であり、かつ、
iii.第二のプロービング細胞種は、第三の検出可能な標識及び検出されるべき第二の抗体種に結合することが可能であるか、又は該抗体種によって結合されることが可能である抗原性部分を含む第二の抗原性タンパク質を発現するか、又は発現することが可能である;
b.各々のプロービング細胞について、第一の検出可能な標識、第二の検出可能な標識及び第三の検出可能な標識からのシグナルの存在を検出することと、
プロービング細胞において、該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在及び該第二の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での上記第一の抗体種の存在を示しており、及び/又はプロービング細胞において、該第一の検出可能な標識からのシグナルの存在及び該第三の検出可能な標識からのシグナルの存在は、試料中での上記第二の抗体種の存在を示している;
を含む、方法に関する。
【0033】
上記方法は、検出されるべき3種、4種、5種又はそれより多くの種類の抗体種を検出することが可能な方法を提供するために、それぞれの第四の、第五の、第六等の検出可能な標識を有するプロービング細胞種(iv、v、vi等)を追加することによって更に拡張することができる。先にも説明されたこの場合において、全ての第一から第五以上の検出可能な標識を、区別することができるものとする。
【0034】
そこで、本発明の別の態様は、1種以上のプロービング細胞種と抗体結合剤とを含む抗体検出系であって、
該抗体結合剤は、第一の検出可能な標識に結合されており、かつ抗体に結合することが可能であり、かつ、
上記1種以上のプロービング細胞種の各々は、検出されるべき異なる抗体種に結合することができるか、又は該抗体種によって結合される異なる抗原性部分を含む異なる抗原性タンパク質及び該系中のその他のプロービング細胞種のあらゆるその他の検出可能な標識とは異なる(すなわち、その標識と区別することができる)第二の検出可能な標識を発現するか、又は発現することが可能であり、かつ該系中の第二の検出可能な標識種のシグナルは、プロービング細胞中の相応の抗原性タンパク質の存在を示していることを特徴とする、抗体検出系に関する。
【0035】
好ましい一実施の形態においては、本明細書中の他の箇所で第一及び/又は第二の検出可能な標識として記載される蛍光性標識を有する、本発明による抗体検出系が提供される。
【0036】
本発明の上記の方法に相応して、上記抗体検出系は、好ましい実施の形態においては、複数の抗体種(2種、3種、4種、5種から10種以上)を検出することが可能な拡張された系を提供するために拡張されてもよい。該系を拡張するためには、その他のプロービング細胞種と同様であるが、検出されるべき更なる抗体種に対して異なる特異性を有し、かつ該系中のその他の検出可能な標識のいずれかと好ましく区別することが可能な更なる異なる検出可能な標識(第三、第四等)を有する、更なるプロービング細胞種が含まれる。
【0037】
これに関して、2種、3種、4種、5種、10種又はそれより多くの種類のプロービング細胞種を含み、かつ各々のプロービング細胞種は、該系中のプロービング細胞種のいずれかの抗原性タンパク質のいずれも内因的に発現しない、抗体検出系が好ましい。
【0038】
試料中の複数の異なる抗体種の検出のための方法及び系の利点は、本発明の方法又は系を使用することにより、複数の抗体種の存在が同時に分析可能となることである。
【0039】
そこで、本発明のもう一つの態様は、本明細書で先に記載された抗体検出系を含む診断キットに関する。本発明の診断キットは、好ましくは、本明細書で先に記載された方法で使用するための診断キットである。
【0040】
そこで、本発明のもう一つの態様は、本発明の様々な実施の形態及び態様による方法、抗体検出系又は診断キットの、診断されるべき被験体からの生物学的試料中の1種以上の抗体種の存在によって特徴付けられる臨床状態、病状又は疾患の診断における使用に関する。その使用は、好ましくはin vitro又はex vivoでの使用である。
【0041】
本発明の上記第二の課題は、第一の態様において、試料から抗体種を除去する方法であって、
a.該抗体種を含むと疑われる試料を、トラッピング細胞種と、該抗体種がそのトラッピング細胞種に結合して、トラッピング細胞抗体複合体種を形成することを可能にする条件下で接触させることと、
該トラッピング細胞種は、該抗体種に結合する、又は該抗体種によって結合され得る抗原性部分を有する抗原性タンパク質を発現する、又は発現することが可能である;
b.引き続き、該トラッピング細胞抗体複合体種を試料から除去することで、精製された試料を得ることと、
c.任意に、該トラッピング細胞種を、そのトラッピング細胞種の表面に結合された抗体の検出を可能にする検出可能な標識で再プロービングすることと、
を含む、方法によって解決される。
【0042】
この態様における用語「試料」の定義は、本明細書で本発明のその他の態様について先に規定された試料の定義と同様である。
【0043】
幾つかの実施の形態においては、上記抗体種及びトラッピング細胞種は、種々の生物から得られ、例えば除去されるべき抗体種がヒトである場合に、トラッピング細胞種は、非ヒト種、例えばマウスから選択されるか、若しくはその逆である。この実施の形態では、トラッピング細胞種と、精製されるべき試料中に存在するかもしれないその他の抗体との交差反応性を回避することが意図される。
【0044】
その一方で、上記方法は、トラッピング細胞種が、抗原性タンパク質を内因的に発現しないことを含む。
【0045】
幾つかの実施の形態においては、トラッピング細胞抗体複合体種の除去は、遠心分離又は濾過及び細胞不含の上清の分離によって行われる。細胞性材料と液体との分離の仕方は、当該技術分野で良く知られている。分離方法は、トラッピング細胞種を傷つけず又は破壊しないことが好ましい。
【0046】
幾つかの実施の形態においては、上記方法は、
d.精製された試料を、抗体種の抗体の存在について試験することを更に含み、除去されるべき抗体種の残留抗体が存在する場合に、方法工程(a)~(b)及び任意に(c)を、該精製された試料が抗体種のあらゆる残留抗体を含まなくなるまで繰り返す。
【0047】
例えば、幾つかの好ましい実施の形態においては、工程(d)は、本明細書で先に記載された抗体の検出法、又は従来の抗体スクリーニングアッセイを含む。
【0048】
抗体検出に関連する上記態様と同様に、抗体を除去するこの態様においても、除去されるべき抗体種は、好ましくは血液型抗原に結合する抗体であり、ここで、試料は血清試料である。そのような抗原の一層の更に具体的な例については、上記開示を参照されたい。
【0049】
好ましくは、該方法は、ex vivo又はin vitroでの方法である。
【0050】
また、本発明の更なる態様においては、上記方法で使用するための抗体除去系であって、1種以上のトラッピング細胞種を含み、該トラッピング細胞種が、試料から除去されるべき抗体種に結合する、又は該抗体種によって結合され得る抗原性部分を有する抗原性タンパク質を発現する、又は発現することが可能である、抗体除去系も含まれる。
【0051】
本発明をここで以下の実施例において添付の図面及び配列表を参照して更に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本発明の目的上、本明細書で引用される全ての参照文献は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】新規の血液型抗体同定試験の原理を示す図である。詳細は、実施例の項目で示される。
図2】提案される発明の原理証明実験を図解する代表的な例である。抗原を発現せず、かつ発光色素を発現しない細胞(ネガティブコントロール)は、青色で示されており、「抗原A」及び赤色蛍光を同時発現する細胞は、暗灰色として示されており、そして「抗原B」及び緑色蛍光を同時発現する細胞は、明灰色として示されている。左側の3つのパネルにおける平均APC蛍光は同じであり、それは、ランダムなドナーからの試験血清において抗「抗原A」抗体及び抗「抗原B」抗体が存在しないことを示している。右側の3つのパネルにおいて、APC蛍光が、中央のパネルで右にずれており(陽性)、それは、試験血清が「抗原A」に対する抗体を含むことを示している。この例では、「抗原A」は、Duffy血液型系からの抗原Fy(a)であり、「抗原B」は、その対となる抗原のFy(b)である。抗Fy(a)は、多輸血歴のある患者において比較的一般的な同種異系抗体である。
図3】本発明による多凝集反応を示す血清からの特異抗体の特異性の吸収方法の原理を示す図である。
図4】多凝集反応を示す血清から選択的に抗体を枯渇させる一方で、その他の特異性に対する抗体を定性的、かつ定量的に保持することに関して提案される発明の原理証明実験を図解する代表的な例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0053】
材料及び方法
血液型抗原に関するmRNAを、骨髄、臍帯血又は動員末梢血由来の未成熟な造血細胞から単離したトータルRNAから単離する。cDNAを、特定の、ランダムなオリゴヌクレオチド、又はポリAオリゴヌクレオチドを使用して生成する。該オリゴヌクレオチドは、選択されるベクター中に挿入するための制限部位を含んでいてよい。該cDNAによってコードされる血液型抗原を、シーケンシングによって分析する。選択される血液型抗原を最初に単離するか、又は該血液型抗原を、部位特異的突然変異誘発によって生成してもよい。cDNAは、所望であればコドン最適化されてよい。血液型抗原のcDNAを、蛍光性リポーター遺伝子を含む発現ベクター中に挿入し、発現ベクターを増幅させ、全長シーケンシングによって同一性を確認し、標的細胞中に形質導入する。標的細胞は、異種起源又はヒト起源の細胞培養中では連続的に増殖するが、血液型抗原を一切発現しない不死化細胞である。
【0054】
細胞を形質導入し、蛍光色素発現に基づいてフローサイトメトリーによってソーティングし、次いで増殖させる。抗原発現を、DNAの分析(シーケンシング)、mRNAの分析(シーケンシング)、蛍光色素に直接的又は間接的に結合された抗血液型抗原特異的な抗体で染色された細胞のフローサイトメトリー分析による間接的又は直接的な蛍光の分析によって評価(確認)する。細胞の再ソーティングは、その集団が血液型抗原及び蛍光色素発現に関して均質でない場合に検討される。該当する場合には、最も高い発現細胞がソーティングされることとなる。
【0055】
細胞の混合物は、一般的に(必ずしもそうではないが)、パネル中に表されることが示唆される種々の抗原の各々を発現する細胞の等しい頻度で生成される。妥当な抗原の組み合わせは、高頻度抗原又は低頻度抗原、抗原ペア、抗体がしばしば標的とする抗原、ガイドラインで要求される抗原を表す1つ以上の慣例的なパネルであってよいが、あらゆるその他の組み合わせも同様に実現可能である。特定のパネルは、顆粒球抗原(HNA)又は血小板抗原(HPA)のみを表すこととなり、最近知られた抗原の全パネルは、該パネルの各々に表されることとなる。したがって、診断キットは、定義された抗原のパネルを表す細胞の混合物並びに蛍光色素に結合された二次抗体及び必要なバッファーを含んで作成されることとなる。抗体同定を不明瞭にするとしばしば認められる抗原、具体的にはRhの「D」、Rhの「e」、Kellの「k」等については、特定の吸収パネルは、同様に上記のようにして生成されることとなる。
【0056】
既知の抗体特異性を有する血清(細胞、パネル及び混合物の生成の間、並びに形式的なバリデーションの間)又は血液型抗原に対する抗体を有すると疑われる患者由来の血清を、細胞の混合物と一緒にインキュベートする。細胞を、室温又はそれより高い温度(37℃程度の高さ)若しくはそれより低い温度(4℃程度の低さ)でインキュベートする。細胞血清混合物を、少なくとも1回洗浄し、引き続き、蛍光が結合された抗ヒトIgG及び/又は蛍光が結合された抗ヒトIgMと一緒にインキュベートする。これまでは、抗ヒトIgG-APCが使用されていたが、細胞の混合物中の個々の細胞の蛍光と競合しない限りあらゆるその他の蛍光色素を使用することができ、かつあらゆるその他の抗ヒト免疫グロブリンを使用することができる。種々の抗ヒトアイソタイプ抗体は、患者の抗体のアイソタイプ、したがってその溶血能を測定することが可能であると考えられる。細胞を再び少なくとも1回洗浄し、次いでフローサイトメトリーにかける。APC陽性細胞の追加の1つ以上の蛍光色を評価する。例えば、APC陽性のシフトが赤色蛍光色素を発現する細胞中で観察されれば、血清は、赤色蛍光性細胞中で発現される血液型抗原(本発明の実施例における「抗原A」、図1図2)に対する抗体を含むものであった。該血清は、幾つかの特異性に対する抗体を含むかもしれず、そうすると、幾つかの蛍光色の細胞が、右シフトし得る。血清は、血漿によって置き換えることもできる。
【0057】
実施例1:抗体検出
図1は、本明細書に開示される発明による試験系の一例を図解している。第一のクローニングサイトに血液型抗原発現カセットを有するとともに、第二及び/又は第三のクローニングサイトに少なくとも1つの蛍光色素発現カセットを有する2シストロン性又は3シストロン性のベクターを使用すると、選択される血液型抗原は、1種以上の蛍光色素と一緒に同時発現されることとなる。発現カセットの形質導入は、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターで実施されることとなり、2シストロン性ベクター又は3シストロン性ベクターの代わりに、血液型抗原発現ベクター及び蛍光色素発現ベクターの同時形質導入を、多シストロン性ベクターを使用する代わりに実施することができる。このように、単独の血液型抗原として「抗原A」を発現する細胞は、それらの赤色蛍光によって認識されることとなり、「抗原B」を発現する細胞は、緑色として認識されることとなる等である。全ての考えられる組み合わせで組み合わせることができる蛍光色素の大きなパネルを単独の反応で利用することができ、こうして試験されるべき原則的に際限のない数の種々の抗体を有する混合された細胞集団を生成することが可能である。
【0058】
図1に図解されるように、全てのその他のIgG特異性のなかでも抗「抗原A」抗体を含む患者の血清が、細胞の混合物(ここでは、例示のために、抗原も蛍光色素も発現しないただの細胞(バックグラウンド/ネガティブコントロール)、「抗原A」及び赤色蛍光を同時発現する細胞、並びに「抗原B」及び緑色蛍光を同時発現する細胞を含む)と一緒にインキュベートされることとなる。「抗原A」を発現する赤色蛍光性の細胞は、該血清からの抗「抗原A」抗体に結合することとなる。APC蛍光性標識を有する二次抗ヒトIgG抗体は、次いで該細胞の混合物と一緒にインキュベートされる。抗「抗原A」被覆(赤色蛍光を含む)細胞だけが、その二次抗体に結合することとなる。APC蛍光は、フローサイトメトリーによって計測されることとなる。赤色蛍光を発現する細胞集団(「抗原A」を有する)だけが、APC陽性となる。
【0059】
結果は、図2に示されている。左側の3つのパネルにおける平均APC蛍光は同じであり、それは、ランダムなドナーからの試験血清において抗「抗原A」抗体及び抗「抗原B」抗体が存在しないことを示している。右側の3つのパネルにおいて、APC蛍光が、中央のパネルで右にずれており(陽性)、それは、試験血清が「抗原A」に対する抗体を含むことを示している。この例では、「抗原A」は、Duffy血液型系からの抗原Fy(a)であり、「抗原B」は、その対となる抗原のFy(b)である。抗Fy(a)は、多輸血歴のある患者において比較的一般的な同種異系抗体である。
【0060】
実施例2:選択的な抗体吸収
患者の血清は、血液型抗原に対する2種以上の抗体特異性を有してよい(図3に図解されるような所定の実施例においては、血液型抗原A及びXに対する抗体)。抗Aの存在は、その他の血液型抗原に対する抗体の存在を不明瞭にすることがあり、又は抗原Aについて陰性でない(つまり「反応性」、したがって役に立たない)試験RBCが少なすぎることは、ガイドラインに要求される血液型抗原反応性の全パネルを除外する妨げになることがある。そのような状況では、1種の特異性の吸収が有益であることがある。
【0061】
したがって、多凝集反応を示す患者の血清(この実施例では、抗A及び抗Xを含む)は、単独の抗原、この場合には抗原Aを発現する細胞と一緒にインキュベートされることとなる。残りの血清は回収されて、従来の血液型抗体試験に供されることとなる。抗原Aを発現する(しかし抗原Xを発現しない)RBCは非反応性となるが、抗原Xを発現するRBCは、反応性を留めるであろうと予想される。該アッセイは、同時発現される蛍光性タンパク質を使用しないが、回収された抗原A発現細胞を抗IgG-APCと一緒にインキュベートするのに続き、確認のためにフローサイトメトリー分析が検討され得る。
【0062】
結果は、図4に示されている。この実施例では、患者の血清は、2種の血液型特異性、つまりFy(a)及びK(Kell血液型系からの抗原Kell(KEL1))に対する抗体を含んでいた。Fy(a)ホモ接合型のK陰性の試験RBCに対する反応性は、左側のゲルカラム中の最上のパネルに示されている。右側のゲルカラムにおける微妙な陽性反応は、Fy(b)ホモ接合型(すなわち、Fy(a)陰性)のKellヘテロ接合型(Kk)のRBCに対して向けられる。Fy(a)発現マウス細胞(本発明)を患者の血清中でインキュベートすることに続き、細胞を沈降させ、その上清を同じ試験RBCと一緒にインキュベートすることにより、左側のカラム(抗Fy(a)は完全に除去されている)中では反応性の不存在が示されるが、右側のカラムにおいては、該細胞との同じ反応強度が示される。こうして、低力価の抗K抗体が、定量的に保持される。吸収作用の特異性を裏付ける第二の系統として、同じ血清を、Fy(b)発現細胞と一緒にインキュベートした。両方の抗体特異性は維持された。
【符号の説明】
【0063】
図1
Murine Cells マウス細胞
Antigen 抗原
Anti-huIgG APC 抗ヒトIgG APC
Serum with anti-"antigen A"antibody 抗「抗原A」抗体を含む血清
Cell count 細胞数

図2
Random blood donor serum (noanti-"antigen A" antibody), APC Mean ランダムな血液ドナーの血清(抗「抗原A」抗体無し)、APCの平均
Serum from a patient withanti-"antigen A" antibody; APC Mean 抗「抗原A」抗体を有する患者からの血清、APCの平均
Count 計数
Cytofix-BD-secondary Cytofix-BD-2番目
Cytofix-BD-#17 Cytofix-BD-17番目
Antigen A: Fy(a) from the Duffy blood groupsystem 抗原A:Duffy血液型系からのFy(a)

図3
Patient serum with antibodies againstantigens A and X 抗原A及びXに対する抗体を有する患者血清
Incubation of patient serum with cellsexpressing antigen A 患者血清を、抗原Aを発現する細胞と一緒にインキュベートする
Serum purged of antibody against A Aに対する抗体が取り去られた血清

図4
Patient serum, untreated 患者の血清、未処理
Treated w/ Fy(a) cells Fy(a)細胞により処理
Treated w/ Fy(b) cells Fy(b)細胞により処理
図1
図2
図3
図4