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特許7021950IL-17抗体中のシステイン残基の選択的還元
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】IL-17抗体中のシステイン残基の選択的還元
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20220209BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220209BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220209BHJP
【FI】
C07K16/24 ZNA
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2017551390
(86)(22)【出願日】2015-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 IB2015059824
(87)【国際公開番号】W WO2016103146
(87)【国際公開日】2016-06-30
【審査請求日】2018-12-21
(31)【優先権主張番号】62/095,361
(32)【優先日】2014-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ハイツマン,マークス
(72)【発明者】
【氏名】ウィンクラー,ヨハン
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-507988(JP,A)
【文献】特表2008-520190(JP,A)
【文献】特表2014-530891(JP,A)
【文献】特開平06-192297(JP,A)
【文献】特表2005-505494(JP,A)
【文献】特開平01-131195(JP,A)
【文献】特表2010-533192(JP,A)
【文献】特表2009-526080(JP,A)
【文献】特表2018-502910(JP,A)
【文献】審議結果報告書,医薬食品局審査管理課,2014年12月03日,表紙, pp.1-90
【文献】LANGLEY, R.G. et al.,N. Engl. J. Med.,2014年07月24日,Vol.371, No.4,pp.326-338
【文献】ClinicalTrials.gov, NCT01365455,2021年01月22日,pp.1-10,https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT01365455,[retrieved on 2021-01-22], Retrieved from the Internet
【文献】ClinicalTrials.gov, NCT01358578,2021年01月22日,pp.1-8,https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT01358578,[retrieved on 2021-01-22], Retrieved from the Internet
【文献】WHO Drug Information,2010年,Vol.24, No.3,pp.259-260,278-279
【文献】HUEBER, W. et al.,Sci. Transl. Med.,2010年,Vol.2, No.52,Article No.52ra72(pp.1-9)
【文献】LIU, H. et al.,mAbs,2014年10月,Vol.6, No.5,pp.1145-1154
【文献】MULLAN, B. et al.,BMC Proceedings,2011年,Vol.5, No.Suppl.8,Article. No.P110(pp.1-3)
【文献】GADGIL, H.S. et al.,Anal. Biochem.,2006年,Vol.355,pp.165-174
【文献】BUCHANAN, A. et al.,mAbs,2013年,Vol.5, No.2,pp.255-262
【文献】GOMEZ, N. et al.,Biotechnol. Prog.,2010年,Vol.26, No.5,pp.1438-1445
【文献】BANKS, D.D. et al.,J. Pharm. Sci.,2008年,Vol.97, No.2,pp.764-779
【文献】ヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤 コセンティクス(商標),医薬品インタビューフォーム,第1版,2015年01月,第1版,表紙, 目次, pp.1-8,67-73, 奥付
【文献】ヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤,コセンティクス(商標),第3版,2015年12月,表紙, 目次, pp.1-8,70-77, 奥付
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞によって組換え産生された、セクキヌマブ抗体を含む組成物中の、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基を、
非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも80%となるように選択的に還元する方法であって、
a)容器内で前記組成物を少なくとも1つの還元剤と接触させて還元性混合物を形成するステップであって、前記少なくとも1つの還元剤が、チオール-ジスルフィド交換によって測定した場合、pH7.0で-0.20V~-0.23Vの標準酸化還元電位Eを有するチオール含有還元剤であり、前記還元性混合物中の還元剤:抗体のモル比が、46:1~118:1の間である、ステップ、および
b)溶存酸素曲線を飽和曲線に当てはめることによって計算される≦0.37h-1の酸素物質移動容量係数(k)を容器内で維持しながら前記還元性混合物をインキュベートするステップ
を含み、
ステップa)の前、前記容器において、前記組成物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも60%に調整されている、方法。
【請求項2】
哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体を含む組成物中の、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基を、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも80%となるように選択的に還元する方法であって、
a)容器内で前記組成物をシステインと接触させて還元性混合物を形成するステップであって、前記還元性混合物中のシステイン:抗体のモル比が46:1~118:1の間であるステップ、および
b)溶存酸素曲線を飽和曲線に当てはめることによって計算される≦0.37h-1の酸素物質移動容量係数(k)を容器内で維持しながら前記還元性混合物をインキュベートするステップ
を含み、
ステップa)の前、前記組成物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも60%である、
方法。
【請求項3】
ステップb)中の前記容器内のkが、
a.≦0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、56:1~118:1の間であり、前記還元性混合物が、ステップb)に従って最大240分までインキュベートされるか、
b.≦0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、77:1~118:1の間であり、前記還元性混合物が、ステップb)に従って最大300分までインキュベートされるか、
c.<0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、46:1~118:1の間であるか、
d.<0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、54:1~82:1の間であるか、または、
e.≦0.27h-1である、
請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、66:1である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記還元性混合物中のシステインの濃度が、4.0mM~8.0mMである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)とステップb)の間に、前記還元性混合物が、45~90分間、32℃~42℃の間の温度に加熱され、加熱中の前記容器内のkが、≦0.69h-1であり、前記kが、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記還元性混合物が、ステップb)に従って、210~420分間、20℃~42℃の間の温度でインキュベートされる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記還元剤の酸化型が前記還元性混合物に添加されない、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
変性剤が前記還元性混合物に添加されない、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体を含む組成物中の配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基を、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも80%となるように選択的に還元する方法であって、
a)容器内で前記組成物を、4.0mM~8.0mMのシステインと接触させて、還元性混合物を形成するステップ、
b)前記還元性混合物を、45~90分間、32℃~42℃の間の温度に加熱するステップであって、加熱中の前記容器内の酸素物質移動容量係数(k)が0.69h-1であるステップ、および
c)前記還元性混合物を20℃~42℃の間の温度でインキュベートし、この間、前記容器内のkを、
i.≦0.37h-1に維持するステップであって、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が56:1~118:1の間であり、前記還元性混合物が最大240分までインキュベートされる、ステップ、
ii.≦0.37h-1に維持するステップであって、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が77:1~118:1の間であり、前記還元性混合物が最大300分までインキュベートされる、ステップ、
iii.<0.37h-1に維持するステップであって、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が46:1~118:1の間であるステップ、
iv.<0.37h-1に維持するステップであって、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が54:1~82:1の間であるステップ、または、
v. ≦0.27h-1に維持するステップ
を含み、
前記kが、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算され、
ステップa)の前、前記組成物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも60%である、方法。
【請求項11】
哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体を含む組成物中の配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基を、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも80%となるように選択的に還元する方法であって、
a)前記組成物を、システイン/シスチンおよびシステイン/シスタミンから選択される酸化/還元試薬のセットと接触させて、還元性混合物を形成するステップであって、前記還元性混合物中の酸化試薬:還元試薬のモル比が、4:1~80:1の間であり、前記還元性混合物中のシステイン:セクキヌマブ抗体のモル比が、21:1~296:1の間である、ステップ、および
b)前記還元性混合物を
i. 37℃の温度で嫌気条件下、少なくとも4時間インキュベートするか、または
ii. 18~24℃の温度で16~24時間インキュベートする
ステップを含む、方法。
【請求項12】
酸化/還元試薬の前記セットがシステイン/シスチンであり、前記還元性混合物中の酸化試薬:還元試薬のモル比が、26:1~80:1の間である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物中の前記セクキヌマブ抗体の活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定した場合、ステップb)後60分以内に少なくとも10パーセントポイント増加する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体を含む組成物中の配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基を、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも80%となるように選択的に還元する方法であって、
a)前記組成物中のセクキヌマブ抗体の濃度を4mg/ml~19.4mg/mlの間に調整するステップ、
b)前記組成物の酸素飽和度パーセントを少なくとも60%に調整するステップ c)前記組成物のpHを、7.4~8.5に調整するステップ、
d)前記組成物を容器内でシステインと接触させて還元性混合物を形成するステップであり、前記還元性混合物中のシステインの濃度が4.0mM~8.0mMである、ステップ;
e)前記還元性混合物を32℃~42℃の間の温度に加熱するステップ、
f)ステップe)からの前記還元性混合物を20℃~42℃の間の温度でインキュベートするステップであり、前記インキュベートを210~420分間行い、この間、容器内で≦0.37h-1の酸素物質移動容量係数(k)を維持し、前記kは飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、ステップ、
g)ステップf)から結果として得られる混合物を16℃~28℃の温度に冷却するステップであって、前記冷却を45~90分間行うステップ、および
h)ステップg)から結果として得られる混合物のpHを5.1~5.3の間に調整するステップ
を含む方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を含む、精製されたセクキヌマブ抗体を含む組成物を製造する方法。
【請求項16】
非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも90%となるように、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基が還元されている、セクキヌマブ抗体を含有する組成物であって、前記組成物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定された場合、少なくとも90%であり、前記組成物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定された場合、少なくとも90%である、精製された組成物
【請求項17】
非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合に、16個すべての保存ジスルフィド架橋を有するインタクト抗体が理論最大値に対して少なくとも90%となるように、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8において酸化されたシステイン残基が還元されている、セクキヌマブ抗体を含有する組成物であって、前記組成物は、カラム溶出液、濾過溶出液または透析緩衝液中に、セクキヌマブ抗体を含み、前記組成物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定された場合、少なくとも90%であり、前記組成物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定された場合、少なくとも90%である、精製された組成物
【請求項18】
前記組成物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定された場合、少なくとも92%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【請求項19】
前記組成物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定された場合、少なくとも93%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【請求項20】
前記組成物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定された場合、少なくとも96%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【請求項21】
前記組成物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定された場合、少なくとも92%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【請求項22】
前記組成物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定された場合、少なくとも93%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【請求項23】
前記組成物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定された場合、少なくとも96%である、請求項16または17に記載の精製された組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる2014年12月22日に出願した米国仮出願第62/095,361号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の調製物、例えばセクキヌマブの調製物、中のCysL97を選択的に還元する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
古典的抗体は、各々約25kDの分子量を有する2本の軽鎖(L)および各々約50kDの分子量を有する2本の重鎖(H)で構成されている。軽鎖および重鎖はジスルフィド結合(L-S-S-H)によって接続されており、さらに、2つのLHユニットが重鎖間で2つのジスルフィド結合によって連結されている。古典的抗体の一般式は、L-SS-H(-SS-)H-SS-Lまたは単純にH(HHLL)である。これらの保存鎖間ジスルフィド結合に加えて、保存鎖内ジスルフィド結合もある。両方のタイプのジスルフィド結合が抗体の安定性および挙動(例えば、親和性)にとって重要である。一般に、ジスルフィド結合は、抗体鎖内の保存部位にある2つのシステイン残基(Cys-SH)によって生成され、これらの残基は、自発的にジスルフィド結合(Cys-S-S-Cys)を形成する。ジスルフィド結合形成は、環境のレドックス電位によって、およびチオール-ジスルフィド交換に特化した酵素の存在によって決まる。内部ジスルフィド結合(Cys-S-S-Cys)は、抗体の三次元構造を安定させる。
【0004】
抗原認識および結合に関与するさらなる遊離システイン(すなわち、不対システイン)を含有する異常な抗体がある。これらの抗体についての遊離システインの修飾は、分子の活性および安定性にマイナス影響を及ぼすことがあり、免疫原性増加につながることもある。結果として、これらの抗体の処理は、最終製品が不活性な、誤って折り畳まれた、使い物にならない抗体物質を相当な量含有する可能性があるので、困難でありうる。その全体が参照によって本明細書に組み入れられている米国特許出願公開第2009/0280131号明細書には、IL-17抗体、例えば、軽鎖相補性決定領域(CDR)3ループ(L-CDR3)内のcis-プロリンの後に遊離システイン残基(すなわち、配列番号10として記載する軽鎖可変領域のアミノ酸97(以降「Cys97」と呼ぶ)に対応する、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8)を有するセクキヌマブ(すなわち、AIN45)が提供されている。完全活性を維持するために、他のシステイン残基との酸化的ジスルフィド対合によっても、外因性化合物での酸化(例えば、他のタンパク質との混合ジスルフィドの形成、細胞代謝産物[例えば、システインもしくはグルタチオン]での誘導体化、および酸素によるスルホキシドの形成)によっても、セクキヌマブの不対システイン残基をマスクすることはできない。残念なことに、セクキヌマブは、哺乳動物細胞を使用して製造されるので、細胞に基づく望ましくないCysL97修飾が起こる。
【0005】
文献には、混合ジスルフィドを有する、折り畳まれていない不溶性凝集物(封入体)として哺乳動物タンパク質を産生する細菌細胞において発現された哺乳動物細胞の再折り畳みが記載されている。細菌から哺乳動物タンパク質を得るために、封入体タンパク質が単離され、可溶化され、強いカオトロピック試薬および還元剤で変性される。変性剤、還元剤、ジスルフィド付加体形成剤、および弱酸化/還元環境(pH7~9)を使用するジスルフィド結合の完全変性および還元も、商業的供給源から得られるまたは酵母によって組換え産生される植物タンパク質を再び正しく折り畳むために使用されている(米国特許第4,766,205明細書)。タンパク質の完全変性および再折り畳みを用いるこれらのプロセスは、費用がかかり、腐食性であり、時間がかかり、哺乳動物細胞において産生されるタンパク質には不必要である。
【0006】
天然に存在しないFc融合タンパク質の誤った折り畳みを修正するための還元/酸化カップリング試薬の使用は公知である(国際公開第02/68455号パンフレット)。国際公開第02/68455号パンフレットのFc融合タンパク質は、開示されているプロセスによって還元され再び酸化される鎖間ジスルフィドをFc領域内におそらく含有するが、選択的に還元されたシステイン残基を有する分子をどのようにして生成するかについての教示がそのパンフレットにはない。さらに、Fc融合タンパク質は、単なる抗体ではなく、構造および活性が非常に多数の正しく連結された鎖間および鎖内ジスルフィド結合に依存する非常に複雑な免疫グロブリンである。
【0007】
米国特許出願公開第2005/0123532号明細書には、抗体を還元剤で活性化することによって、またはL-システインを補足した無血清培地で抗体産生細胞を培養することによって、遊離システインを有する抗体を産生させる方法が提供されている。この細胞培養法を使用した場合、後の処理ステップ、例えば、濾過、ウイルス不活化およびクロマトグラフィーは、細胞培養法によって生成される遊離システインの酸化につながることがあった。そのような場合、遊離システインは、理想的には、遊離チオール基を酸化剤で修飾することによって後のステップの間、保護され、酸化剤自体は、後に様々な技法、例えば濾過、を使用して除去される(米国特許出願公開第2006/0257393号明細書)。商業生産については、そのような方法は、元の培地中に大量の還元剤を必要とし、後の処理中に大量の酸化剤を必要とし、その酸化剤を除去するためのさらなる濾過方法を必要とするので、時間がさらにかかり、生産コストの支出がさらにかさむ。
【0008】
米国特許第7,928,205号明細書には、哺乳動物細胞培養物から得られるIgG抗体の再折り畳みにレドックスペアを使用することの選好、ならびに146B7(IgG)抗体の可変領域内の遊離システインの脱システイニル化(decysteinylation)方法が教示されている。対応する研究出版物、Banks et al.(2008) J. Pharmaceutical Sci.97:764-779には、組換えモノクローナルIgG抗体(MAB007)の可変領域内の不対スルフヒドリルの脱システイニル化が教示されている。Banksらは、MAB007の脱システイニル化には強い変性剤(GdnHCL)および還元剤(システイン)の使用が必要であるのかどうか、または選択的還元がシステインのみの存在下で起こりうるのかどうかを研究した。著者らは、システイニル化が変性剤の存在および不在下でMAB007から有効に除去されると断定した。
【0009】
上記のどの参考文献にも、セクキヌマブのCysL97の選択的還元が可能であるのかどうかは教示されていない。上記のどの参考文献にも、特に、セクキヌマブの一次、二次および三次構造;セクキヌマブ中の酸化CysL97の位置および場所(例えば、溶媒に露出しているまたは露出していない);ならびに抗体中の保存ジスルフィド結合の相対強度(例えば、CysL97が所与の還元剤と最初に反応するのか、または保存システインが還元された後にしか反応しないのか)に依存する、セクキヌマブのCysL97の選択的還元に必要な試薬および条件は教示されていない。さらに、これらのどの参考文献にも、セクキヌマブ中の酸化CysL97の選択的還元が、抗体構造(例えば、折り畳み)、化学組成(例えば、脱アミド化)、または特性(結合活性、凝集もしくは分解傾向)の変化をもたらすのかどうか記載されておらず、これら変化はすべて、商業規模でのセクキヌマブの選択的還元を実現不能/実現困難にしうる。
【発明の概要】
【0010】
最大セクキヌマブ抗原結合活性を維持するために、本発明者らは、セクキヌマブの処理中に、保存ジスルフィド結合を有意に低減させることなくCysL97をマスクされた形態(1)を遊離形態(2)に変換すること(下記Iを参照されたい)が必要であると断定した。そうしなければ、より低い活性および不活性のより低い分子量のバリアントが鎖の連結解除によって形成されることになる(H→HL、HL、HL、HおよびL)。
(I)H-Cys-SX+試薬→H-Cys-SH+X-試薬
(1) (2)
【0011】
商業規模の抗体調製における還元条件の導入は、常識では考えられない(例えば、抗体の細胞培養製造中の抗体ジスルフィド結合還元を防止するために様々な試薬および方法を用いる、Trexler-Schmidt et al. 2010 Biotech and Bioengineering 106:452-61を参照されたい)。それにもかかわらず、本発明者らは、哺乳動物細胞における大規模商業生産中にセクキヌマブのCysL97を選択的に還元することが、この抗体を有意に変性させることなく、可能であると断定した。米国特許出願公開第2009/0280131号明細書に開示されているIL-17抗体(およびそれらの断片)、特にセクキヌマブ、の抗原結合部位におけるCysL97を選択的に還元する方法を本明細書に開示する。これらの方法は、これらの抗体の結合活性の回復を助長し、したがって、それらの調製物の生物学的活性を増加させる。さらに、これらの方法は、インタクト抗体レベルの増加、およびこれらの抗体の調製物の均一性の向上を助長する。開示するプロセスは、インキュベーション中のシステム内の特定の抗体:還元剤比と制御された酸素移動速度の複合効果に依存する。
【0012】
したがって、哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)システム内で調製物を少なくとも1つの還元剤と接触させて還元性混合物を形成するステップ、および
b)システム内で≦約0.37h-1の酸素物質移動容量係数(k)を維持しながら還元性混合物をインキュベートするステップ
を含み、前記kが、溶存酸素曲線を飽和曲線に当てはめることによって計算され;
IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)と、配列番号10に記載のVの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)とを含み;ならびにさらに、
ステップa)の前に、調製物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも約60%である、方法を本明細書に開示する。
【0013】
哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)調製物を、システイン/シスチンおよびシステイン/シスタミンから選択される酸化/還元試薬のセットと接触させて、還元性混合物を形成するステップ、および
b)還元性混合物を約37℃の温度で嫌気条件下、少なくとも4時間インキュベートするか、または還元性混合物を約18~24℃の温度で約16~24時間インキュベートするステップ
を含み、
IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)と、配列番号10に記載のVの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)とを含む、方法も本明細書に開示する。
【0014】
また、セクキヌマブの精製された調製物であって、調製物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合、少なくとも約90%であり、調製物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定した場合、少なくとも約90%である、精製された調製物も本明細書に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】異なる還元剤を受けた後のインタクト抗体(LHHL)のパーセンテージを経時的に示す図である。
図2-1】図2Aは、嫌気条件下で8mMシステインでの選択的還元を受けた後の室温でのインタクト抗体(LHHL)のパーセンテージを経時的に示す図である。図2Bは、好気条件下で8mMシステインでの選択的還元を受けた後の室温でのインタクト抗体(LHHL)のパーセンテージを経時的に示す図である。
図2-2】図2Cは、嫌気条件下で8mMシステインでの選択的還元を受けた後の37℃でのインタクト抗体(LHHL)のパーセンテージを経時的に示す図である。図2Dは、好気条件下で8mMシステインでの選択的還元を受けた後の37℃でのインタクト抗体(LHHL)のパーセンテージを経時的に示す図である。
図3】様々な溶存酸素濃度で8mMシステインでの選択的還元を受けた後の37℃でのインタクト抗体のパーセンテージを経時的に示す図である。
図4図4Aは、CEXによる活性の4Dコンタープロットを示す図である。図4Bは、CE-SDSについての純度の4Dコンタープロットを示す図である。図4のプロットは、出力パラメータであるCEXによる活性およびCE-SDSによる純度に対するシステイン濃度、タンパク質含有量およびシステイン/シスチン比の影響、ならびにシステイン濃度とタンパク質含有量とシステイン/シスチン比の交互作用を分析するものである。
図5図5Aは、CEXによる活性の4Dコンタープロットを示す図である。図5Bは、CE-SDSについての純度の4Dコンタープロットを示す図である。図5のプロットは、出力パラメータであるCEXによる活性およびCE-SDSによる純度に対するシステイン濃度、タンパク質含有量およびシスチン濃度の影響、ならびにシステイン濃度とタンパク質含有量とシスチン濃度の交互作用を分析するものである。
図6】pH、時間、温度およびシステイン濃度の影響および交互作用を見る、CEXによる活性の4Dコンタープロットを示す図である。
図7】pH、時間、温度およびシステイン濃度の影響および交互作用を見る、CE-SDSによる純度の4Dコンタープロットを示す図である。
図8】確認試行1のシステイン処理の溶存酸素チャートを示す図である。
図9】確認試行2のシステイン処理の溶存酸素チャートを示す図である。
図10】確認試行3のシステイン処理の溶存酸素チャートを示す図である。
図11】確認試行4のシステイン処理の溶存酸素チャートを示す図である。
図12】CEXによる活性およびCE-SDSによる純度に関して確認試行3と確認試行4の反応動態を比較する図である。
図13図13Aは、REACT.PのCEXによる活性のスケーリングおよびセンタリングを施した係数プロットを示す図である。図13Bは、REACT.PのCEXによる活性の4Dコンタープロットを示す図である。図13のプロットは、出力パラメータであるCEXによる活性およびCE-SDSによる純度に対するシステイン濃度、タンパク質含有量および撹拌機速度の影響、ならびにシステイン濃度とタンパク質含有量と撹拌機速度の交互作用を分析するものである。
図14A】0rpmでのプロセス特性解析試行の溶存酸素プロファイルを示す図である(説明文中の数字は、試行番号、撹拌機速度ならびにシステインおよび抗体濃度を示す)。
図14B】50rpmでのプロセス特性解析試行の溶存酸素プロファイルを示す図である(説明文中の数字は、試行番号、撹拌機速度ならびにシステインおよび抗体濃度を示す)。
図14C】100rpmでのプロセス特性解析試行の溶存酸素プロファイルを示す図である(説明文中の数字は、試行番号、撹拌機速度ならびにシステインおよび抗体濃度を示す)。
図14D】一方は抗体なしで、もう一方は12.7g/Lの抗体を用いて、50mL規模で、50rpmおよび6.0mMで行った2つの試行の溶存酸素プロファイルを比較する図である。
図15】異なるインキュベーション温度でのCEXによる活性の選択的還元の動態を示す図である。
図16】プロセスの様々なステップ(システイン添加、加熱、インキュベーション、冷却およびpH調整)のタイミングの表示を伴う、縮小モデル適格性確認試行からの溶存酸素チャートのオーバーレイを示す図である。
図17】選択的還元中の製造規模試行および縮小モデル試行のCEXによる活性についての動態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の目的は、セクキヌマブなどの、ある特定のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の抗原結合部位におけるCysL97を選択的に還元する方法を提供することである。「選択的に還元すること」とは、開示するIL-17抗体またはその抗原結合断片中のCysL97、これらの抗体の保存システイン残基を還元することなく、酸化型へ還元されることを意味する。保存システイン残基は、古典的IgG抗体の場合、ヒンジ領域における2つのジスルフィド架橋、2つの鎖間ジスルフィド架橋(各Fabに1つ)、Fc領域における4つの鎖内ジスルフィド結合、および抗体のFab部分における8つの鎖内ジスルフィド架橋として存在する。選択的還元プロセス中に、特定の調製物中の一部の抗体の保存システインの一時的還元が起こることもある。しかし、反応完了時には、一時的に還元された保存システインの圧倒的多数が再び酸化されて典型的抗体に見られる保存的ジスルフィド結合を形成しており、その結果、抗体の選択的に還元された調製物(すなわち、精製された調製物)の純度および活性は高くなる。選択的還元反応の完了時、選択的に還元された調製物(すなわち、精製された調製物)は、インタクト抗体を100%含有するとは期待されないが、その代わり、選択的に還元された調製物は、CE-SDSによって測定した場合、インタクト抗体を(理論最大値に対して)理想的には少なくとも約80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または約100%含有すると予想される。
【0017】
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」に加えて「からなる」も含み、例えば、X「を含む」組成物は、排他的にXからなっていてもよいし、または何か追加のもの、例えばX+Yを含んでいてもよい。
【0018】
数値xに関しての用語「約」は、例えば、+/-10%を意味する。数値範囲または数のリストの前に使用されている場合、用語「約」は一連の数の各々に当てはまり、例えば、「約1~5」という句は、「約1~約5」と解釈すべきであり、または例えば、「約1、2、3、4」という句は、「約1、約2、約3、約4など」と解釈すべきである。
【0019】
翻訳後アミノ酸配列に基づくセクキヌマブの相対分子量は、147,944ダルトンである。この分子量(すなわち、147,944ダルトン)を本開示を通してセクキヌマブモルモル濃度値およびモル比の計算に使用する。しかし、CHO細胞における産生中に、一般に、C末端リシンは各重鎖から除去される。各重鎖からのC末端リシンを欠くセクキヌマブの相対分子量は、147,688ダルトンである。セクキヌマブの調製物は、重鎖にC末端リシン残基がある分子とない分子の混合物を含有する。したがって、本開示において使用するセクキヌマブモル濃度値(およびこれらのモル濃度値を用いる比)は推定値であり、これらの数値に関しての用語「約」、「おおよそ」などは、少なくとも、相対分子量およびそれらを用いて行う結果として生じる計算のこのばらつきを包含する。
【0020】
「実質的に」という語は、「完全に」を除外せず、例えば、Yが「実質的にない」は、Yが完全にないこともある。必要に応じて、「実質的に」という語は、本開示の定義から削除されることもある。
【0021】
用語「抗体」は、本明細書において述べる場合、全抗体および任意の抗原結合部分またはそれらの一本鎖を含む。天然に存在する「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続されている少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3、からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CL、からなる。VおよびV領域は、フレームワーク領域(FR)と称する、より保存される領域が散在する、超可変領域または相補性決定領域(CDR)と称する超可変性の領域にさらに細分することができる。各VおよびVは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端へ次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む、宿主組織または因子との、免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0022】
抗体の「抗原結合断片」という用語は、本明細書で使用する場合、抗原(例えば、IL-17)と特異的に結合する能力を保持する抗体の断片を指す。抗体の抗原結合機能を完全長抗体の断片が果すことができることは証明されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、V、V、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;ヒンジ領域においてジスルフィド結合によって連結されている2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab)2断片;VおよびCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一アームのVおよびVドメインからなるFv断片;VドメインからなるdAb断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546);および単離されたCDRが挙げられる。例示的抗原結合部位は、配列番号1~6および11~13(表1)に記載のセクキヌマブのCDR、好ましくは重鎖CDR3を含む。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVおよびVは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらを単一タンパク質鎖とすることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を使用して、連結させることができ、この場合、VおよびV領域が対合して一価分子(一本鎖Fv(scFv)として公知)を形成する(例えば、Bird et al., 1988 Science 242:423-426、およびHuston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照されたい)。そのような、一本鎖抗体も、用語「抗体」に包含されることを意図している。一本鎖抗体および抗原結合部分は、当業者に公知の従来の技術を使用して得られる。
【0023】
「単離された抗体」は、本明細書で使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えば、IL-17に特異的に結合する単離された抗体が、IL-17以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、本明細書で使用する場合、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用する場合、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト由来の配列に由来する可変領域を有する抗体を含むことを意図したものである。「ヒト抗体」は、ヒト、ヒト組織またはヒト細胞によって産生される必要はない。本開示のヒト抗体は、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダムもしくは部位特異的変異誘発によって、抗体遺伝子の組み換え中のin vivoでの接合部へのN-ヌクレオチド付加によって、またはin vivoで体細胞変異によって導入される変異)を含むこともある。開示するプロセスおよび組成物の一部の実施形態において、IL-17抗体は、ヒト抗体、単離された抗体、および/またはモノクローナル抗体である。
【0024】
用語「IL-17」は、以前はCTLA8として知られていたIL-17Aを指し、様々な種(例えば、ヒト、マウスおよびサル)からの野生型IL-17A、IL-17Aの多型バリアント、およびIL-17Aの機能的等価物を含む。本開示によるIL-17Aの機能的等価物は、好ましくは、野生型IL-17A(例えば、ヒトIL-17A)と少なくとも約65%、75%、85%、95%、96%、97%、98%、またはさらには99%の全配列同一性を有し、ヒト皮膚線維芽細胞によるIL-6産生を誘導する能力を実質的に保持する。
【0025】
用語「K」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図したものである。用語「K」は、本明細書で使用する場合、KのKに対する比(すなわち、K/K)から得られる、モル濃度(M)として表される、解離定数を指すことを意図したものである。抗体のK値は、当技術分野において確立されている方法を使用して決定することができる。抗体のKを決定する方法は、表面プラズモン共鳴を使用することによる、またはBiacore(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムを使用することによる。一部の実施形態において、IL-17抗体または抗原結合断片、例えばセクキヌマブは、ヒトL-17に対して約100~250pMのKを有する。
【0026】
用語「親和性」は、単一抗原部位における抗体と抗原間の相互作用の強度を指す。各抗体部位内では抗体「アーム」の可変領域が弱い非共有結合力によって非常に多数の部位の抗原と相互作用しており、相互作用が大きいほど、親和性が強い。様々な種のIL-17に対する抗体の結合親和性を評価するための標準的アッセイは、例えばELISA、ウェスタンブロットおよびRIAを含めて、当技術分野において公知である。抗体の結合動態(例えば、結合親和性)も、当技術分野において公知の標準的アッセイによって、例えば、Biacore分析によって評価することができる。
【0027】
当分野に公知の本明細書に記載の方法論に従って判定してこれらのIL-17機能的特性(例えば、生化学的活性、免疫化学的活性、細胞活性、生理的活性または他の生物学的活性など)の1つまたは複数を「阻害する」抗体は、その抗体の不在下で(または無関係な特異性の対照抗体が存在するときに)見られるものと比較して特定の活性の統計的に有意な減少に関係すると解されることになる。IL-17活性を阻害する抗体は、統計的に有意な減少、例えば、測定パラメータの少なくとも約10%の減少、少なくとも50%、80%または90%の減少をもたらし、開示する方法および組成物のある特定の実施形態において、使用するIL-17抗体は、IL-17機能活性の95%、98%または99%超を阻害することもある。
【0028】
「IL-6を阻害する」は、本明細書で使用する場合、初代ヒト皮膚線維芽細胞からのIL-6産生を減少させるIL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)の能力を指す。初代ヒト(皮膚)線維芽細胞におけるIL-6の産生は、IL-17に依存する(Hwang et al., (2004) Arthritis Res Ther; 6:R120-128)。要するに、Fc部を有する様々な濃度のIL-17結合分子またはヒトIL-17受容体の存在下でヒト皮膚線維芽細胞を組換えIL-17で刺激する。キメラ抗CD25抗体Simulect(登録商標)(バシリキシマブ)を陰性対照として使用してもよい。16時間刺激後に上清を採取し、ELISAによってIL-6をアッセイする。IL-17抗体またはその抗原結合断片、例えばセクキヌマブは、上記のように試験したとき、すなわち、前記阻害活性をヒト皮膚線維芽細胞においてhu-IL-17によって誘導されるIL-6産生に基づいて測定したとき(1nMヒトIL-17の存在下で)IL-6産生の阻害について約50nM以下(例えば、約0.01~約50nM)のIC50を概して有する。開示する方法および組成物の一部の実施形態において、IL-17抗体またはそれらの抗原結合断片、例えばセクキヌマブ、およびそれらの機能的誘導体は、上で定義したようなIL-6産生の阻害について、約20nM以下、より好ましくは約10nM以下、より好ましくは約5nM以下、より好ましくは約2nM以下、より好ましくは約1nM以下のIC50を有する。
【0029】
用語「誘導体」は、別段の指示がない限り、アミノ酸配列バリアント、および本開示によるIL-17抗体またはその抗原結合断片、例えばセクキヌマブの、例えば、特定の配列(例えば可変ドメイン)の、共有結合性修飾(例えばPEG化、脱アミド化、ヒドロキシル化、リン酸化、メチル化など)を定義するために使用している。「機能的誘導体」は、開示するIL-17抗体と同様に、同等の生物学的活性を有する分子を含む。機能的誘導体は、本明細書に開示のIL-17抗体の断片およびペプチド類似体を含む。断片は、本開示による、例えば指定配列の、ポリペプチドの配列内の領域を含む。本明細書に開示するIL-17抗体の機能的誘導体(例えば、セクキヌマブの機能的誘導体)は、本明細書に開示するIL-17抗体およびそれらの抗原結合断片のVおよび/またはV配列(例えば、表1のVおよび/またはV配列)と少なくとも約65%、75%、85%、95%、96%、97%、98%または99%の全配列同一性を有するVおよび/またはVドメインを好ましくは含み、ヒトIL-17に結合する能力、例えば、IL-17誘導ヒト皮膚線維芽細胞のIL-6産生を阻害する能力を実質的に保持する。
【0030】
「実質的に同一の」という句は、関連アミノ酸またはヌクレオチド配列(例えば、VまたはVドメイン)が、特定の参照配列と比較して同一であるであろうまたは(例えば保存アミノ酸置換によって)非実質的相違を有すると予想されるということを意味する。非実質的相違は、小さなアミノ酸変化、例えば、指定領域(例えば、VまたはVドメイン)の5アミノ酸配列内の1つまたは2つの置換を含む。抗体の場合、二次抗体は、同じ特異性を有し、その親和性の少なくとも50%を有する。本明細書に開示する配列と実質的に同一の配列(例えば、少なくとも約85%配列同一性)も本出願の一部である。一部の実施形態において、誘導体IL-17抗体(例えば、セクキヌマブの誘導体、例えばセクキヌマブバイオシミラー抗体)の配列同一性は、開示する配列と比較して約90%以上、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上でありうる。
【0031】
ネイティブポリペプチドおよびその機能的誘導体に対する「同一性」は、配列をアラインし、必要に応じて、最大同一性パーセントを達成するためにギャップを導入した後の、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と見なさない、対応するネイティブポリペプチドの残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと本明細書では定義する。N末端伸長も、C末端伸長も、挿入も、同一性を低下させると見なさないものとする。アラインメントのための方法およびコンピュータプログラムは周知である。同一性パーセントは、標準的アラインメントアルゴリズム、例えば、Altshulら((1990) J. Mol.Biol., 215: 403 410)によって記載された基礎局所的アラインメント検索ツール(BLAST:Basic Local Alignment Search Tool)、Needlemanら((1970) J. Mol.Biol., 48: 444 453)のアルゴリズム、またはMeyersら((1988) Comput.Appl.Biosci., 4: 11 17)のアルゴリズムによって決定することができる。パラメータセットは、ギャップペナルティが12であり、ギャップ伸長ペナルティが4であり、フレームシフトギャップペナルティが5である、Blosum 62スコア行列であってもよい。2アミノ酸またはヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、PAM120残基質量表、12のギャップ長ペナルティおよび4のギャップペナルティを使用してALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.MeyersおよびW.Miller((1989) CABIOS, 4:11-17)のアルゴリズムを使用して決定することもできる。
【0032】
「アミノ酸」は、例えば、すべての天然に存在するL-α-アミノ酸を指し、D-アミノ酸を含む。「アミノ酸配列バリアント」という句は、それらのアミノ酸配列に本開示の配列と比較して多少の差がある分子を指す。本開示による、例えば指定配列の、抗体のアミノ酸配列バリアントは、ヒトIL-17に結合する能力を有するものとし、例えば、IL-17誘導ヒト皮膚線維芽細胞のIL-6産生を阻害するものとする。アミノ酸配列バリアントは、置換バリアント(少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、本開示によるポリペプチドの同じ位置のその場所に異なるアミノ酸が挿入されたもの)、挿入バリアント(1つまたは複数のアミノ酸が本開示によるポリペプチドの特定の位置のアミノ酸に直接隣接して挿入されたもの)、および欠失バリアント(本開示によるポリペプチドの1つまたは複数のアミノ酸が除去されたもの)を含む。
【0033】
「遊離システイン」、「非伝統的システイン」および「不対システイン」という句は同義語として、保存抗体ジスルフィド結合に関与しないシステインを指す。遊離システインは、抗体フレームワーク領域に存在することもあり、または可変領域に(例えばCDR内に)存在することもある。セクキヌマブの場合、配列番号10として記載する軽鎖可変領域のアミノ酸97に対応する、配列番号6として記載するL-CDR3のアミノ酸8(本明細書では以降CysL97と呼ぶ)は、遊離システインである。セクキヌマブの各分子は、2つのそのような遊離システイン残基-各Vドメインに1つ-を含む。開示するプロセスは、セクキヌマブの両方の遊離システイン残基を選択的に還元することができる。一部の実施形態では、開示するIL-17抗体またはその抗原結合断片の軽鎖における欠失および/または置換のため、遊離システインはCysL97位に存在しないことになる。そのような場合、対応する遊離システインは、選択的還元反応の標的であり、用語「CysL97」に含まれる。
【0034】
IL-17抗体およびそれらの抗原結合断片
開示する様々なプロセスは、ある特定のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)の選択的還元に関係する。一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)を含み、前記CDR1は、アミノ酸配列配列番号1を有し、前記CDR2は、アミノ酸配列配列番号2を有し、前記CDR3は、アミノ酸配列配列番号3を有する。一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む、少なくとも1つの免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL’)を含み、前記CDR1’は、アミノ酸配列配列番号4を有し、前記CDR2’は、アミノ酸配列配列番号5を有し、前記CDR3’は、アミノ酸配列配列番号6を有する。一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、超可変領域CDR1-x、CDR2-xおよびCDR3-xを含む、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)を含み、前記CDR1-xは、アミノ酸配列配列番号11を有し、前記CDR2-xは、アミノ酸配列配列番号12を有し、前記CDR3-xは、アミノ酸配列配列番号13を有する。
【0035】
一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、少なくとも1つの免疫グロブリンVドメインおよび少なくとも1つの免疫グロブリンVドメインを含み、a)Vドメインは、(例えば、順番に)、i)超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3(前記CDR1は、アミノ酸配列配列番号1を有し、前記CDR2は、アミノ酸配列配列番号2を有し、前記CDR3は、アミノ酸配列配列番号3を有する)またはii)超可変領域CDR1-x、CDR2-xおよびCDR3-x(前記CDR1-xは、アミノ酸配列配列番号11を有し、前記CDR2-xは、アミノ酸配列配列番号12を有し、前記CDR3-xは、アミノ酸配列配列番号13を有する)を含み、およびb)Vドメインは、(例えば、順番に)、超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’(前記CDR1’は、アミノ酸配列配列番号4を有し、前記CDR2’は、アミノ酸配列配列番号5を有し、前記CDR3’は、アミノ酸配列配列番号6を有する)を含む。
【0036】
一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、a)配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V);b)配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V);c)配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンVドメインと配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンVドメイン;d)配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の超可変領域を含む免疫グロブリンVドメイン;e)配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を含む免疫グロブリンVドメイン;f)配列番号11、配列番号12および配列番号13として記載する超可変領域を含む免疫グロブリンVドメイン;g) 配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の超可変領域を含む免疫グロブリンVドメインと配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を含む免疫グロブリンVドメイン;またはh)配列番号11、配列番号12および配列番号13として記載する超可変領域を含む免疫グロブリンVドメインと配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を含む免疫グロブリンVドメインを含む。
【0037】
言及を容易にするために、カバット定義に基づく、およびX線分析によってならびにコチアおよび共同研究者のアプローチを使用して決定した、セクキヌマブモノクローナル抗体の超可変領域のアミノ酸配列を、下の表1に提供する。
【0038】
【表1】
【0039】
好ましい実施形態において、定常領域ドメインは、好適なヒト定常領域、例えば、"Sequences of Proteins of Immunological Interest", Kabat E.A. et al, US Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institute of Healthに記載のものも好ましくは含む。セクキヌマブのVLをコードするDNAを配列番号9に記載する。セクキヌマブのVをコードするDNAを配列番号7に記載する。
【0040】
一部の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)は、配列番号10の3つのCDRを含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号8の3つのCDRを含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号10の3つのCDR、および配列番号8の3つのCDRを含む。配列番号8および配列番号10のCDRは、表1において見つけることができる。軽鎖内の遊離システイン(CysL97)は、配列番号6で見ることができる。
【0041】
一部の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の軽鎖を含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、(C末端リシンを有するまたは有さない)配列番号15の重鎖を含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の軽鎖および(C末端リシンを有するまたは有さない)配列番号15の重鎖を含む。一部の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の3つのCDRを含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号15の3つのCDRを含む。他の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の3つのCDR、および配列番号15の3つのCDRを含む。配列番号14および配列番号15のCDRは、表1において見つけることができる。
【0042】
超可変領域は、好ましくはヒト由来のものであるが、いずれの種類のフレームワーク領域と会合していてもよい。好適なフレームワーク領域は、Kabat E.A. et al, ibidに記載されている。好ましい重鎖フレームワークは、ヒト重鎖フレームワーク、例えば、セクキヌマブ抗体のものである。それは、順番に、例えばFR1(配列番号8のアミノ酸1~30)、FR2(配列番号8のアミノ酸36~49)、FR3(配列番号8のアミノ酸67~98)およびFR4(配列番号8のアミノ酸117~127)領域からなる。セクキヌマブのX線分析によって決定された超可変領域を考慮に入れて、別の好ましい重鎖フレームワークは、順番に、FR1-x(配列番号8のアミノ酸1~25)、FR2-x(配列番号8のアミノ酸36~49)、FR3-x(配列番号8のアミノ酸61~95)およびFR4(配列番号8のアミノ酸119~127)領域からなる。同様の方法で、軽鎖フレームワークは、順番に、FR1’(配列番号10のアミノ酸1~23)、FR2’(配列番号10のアミノ酸36~50)、FR3’(配列番号10のアミノ酸58~89)およびFR4’(配列番号10のアミノ酸99~109)領域からなる。
【0043】
一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)は、a)ヒト重鎖の超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を順番に含む可変ドメインと定常部分またはその断片とを含む、免疫グロブリン重鎖またはその断片(前記CDR1は、アミノ酸配列配列番号1を有し、前記CDR2は、アミノ酸配列配列番号2を有し、前記CDR3は、アミノ酸配列配列番号3を有する)、およびb)ヒト軽鎖の超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を順番に含む可変ドメインと定常部分またはその断片とを含む、免疫グロブリン軽鎖またはその断片(前記CDR1’は、アミノ酸配列配列番号4を有し、前記CDR2’は、アミノ酸配列配列番号5を有し、前記CDR3’は、アミノ酸配列配列番号6を有する)を少なくとも含む、ヒトIL-17抗体から選択される。
【0044】
一実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、抗原結合部位を含む、一本鎖抗体またはその抗原結合断片から選択され、抗原結合部位は、a)順番に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む第1のドメイン(前記CDR1は、アミノ酸配列配列番号1を有し、前記CDR2は、アミノ酸配列配列番号2を有し、前記CDR3は、アミノ酸配列配列番号3を有する);b)順番に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を順番に含む第2のドメイン(前記CDR1’は、アミノ酸配列配列番号4を有し、前記CDR2’は、アミノ酸配列配列番号5を有し、前記CDR3’は、アミノ酸配列配列番号6を有する);c)第1のドメインのN末端先端および第2のドメインのC末端先端と結合されている、または第1のドメインのC末端先端および第2のドメインのN末端先端と結合されているペプチドリンカーを含む。
【0045】
あるいは、開示する方法で使用される場合のIL-17抗体またはその抗原結合断片は、本明細書に記載のIL-17抗体の配列による誘導体(例えば、セクキヌマブのPEG化バージョン)を含むことがある。あるいは、本開示の方法で使用されるIL-17抗体またはその抗原結合断片のVまたはVドメインは、本明細書に記載のVまたはVドメイン(例えば、配列番号8および10に記載するもの)と実質的に同一であるVまたはVドメインを有することがある。本明細書に開示するヒトIL-17抗体は、(C末端リシンを有するもしくは有さない)配列番号15に記載のものと実質的に同一である重鎖、および/または配列番号14に記載のものと実質的に同一である軽鎖を含むことがある。本明細書に開示するヒトIL-17抗体は、(C末端リシンを有するもしくは有さない)配列番号15を含む重鎖、および配列番号14を含む軽鎖を含むことがある。本明細書に開示するヒトIL-17抗体は、a)配列番号8に示すものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインとヒト重鎖の定常部とを含む1本の重鎖、およびb)配列番号10に示すものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインとヒト軽鎖の定常部とを含む1本の軽鎖を含むことがある。
【0046】
あるいは、開示する方法で使用されるIL-17抗体またはその抗原結合断片は、本明細書に記載する参照IL-17抗体のアミノ酸配列バリアントであってもよいが、それがCysL97を含有することを条件とする。本開示は、セクキヌマブのVHまたはVLドメインのアミノ酸残基(しかしCysL97ではない)の1つまたは複数、通常はほんの少数(例えば1~10)が、例えば、変異、例えば、対応するDNA配列の部位特異的変異誘発によって変更されている、IL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)も含む。誘導体およびバリアントのすべてのそのような場合、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、前記分子の約50nM以下、約20nM以下、約10nM以下、約5nM以下、約2nM以下、またはより好ましくは約1nM以下の濃度で、約1nM(=30gn/ml)ヒトIL-17の活性を50%阻害することができ、前記阻害活性は、国際公開第2006/013107号パンフレットの実施例1に記載されているようにヒト皮膚線維芽細胞においてhu-IL-17によって誘発されるIL-6産生に基づいて測定される。
【0047】
一部の実施形態において、IL-17抗体またはそれらの抗原結合断片、例えばセクキヌマブは、Leu74、Tyr85、His86、Met87、Asn88、Val124、Thr125、Pro126、Ile127、Val128、His129を含む、成熟ヒトIL-17のエピトープと結合する。一部の実施形態において、IL-17抗体、例えばセクキヌマブは、Tyr43、Tyr44、Arg46、Ala79、Asp80を含む、成熟ヒトIL-17のエピトープと結合する。一部の実施形態において、IL-17抗体、例えばセクキヌマブは、2本の成熟ヒトIL-17鎖を有するIL-17ホモ二量体のエピトープと結合し、前記エピトープは、一方の鎖にLeu74、Tyr85、His86、Met87、Asn88、Val124、Thr125、Pro126、Ile127、Val128、His129を、他方の鎖にTyr43、Tyr44、Arg46、Ala79、Asp80を含む。これらのエピトープを定義するために使用した残基ナンバリングスキームは、成熟タンパク質の第1のアミノ酸である残基(すなわち、23アミノ酸N末端シグナルペプチドを欠き、グリシンで始まる、IL-17A)のものに基づく。未成熟IL-17の配列は、Swiss-ProtエントリーQ16552に記載されている。一部の実施形態において、IL-17抗体は、約100~200pMのKを有する。一部の実施形態において、IL-17抗体は、約0.67nM ヒトIL-17Aの生物学的活性のin vitro中和について約0.4nMのIC50を有する。一部の実施形態において、皮下(s.c.)投与されるIL-17抗体の絶対バイオアベイラビリティは、約60~約80%の範囲、例えば約76%、を有する。一部の実施形態において、IL-17抗体、セクキヌマブは、約4週間(例えば、約23~約35日、約23~約30日、例えば30日)の排出半減期を有する。一部の実施形態において、IL-17抗体(例えば、セクキヌマブ)は、約7~8日のTmaxを有する。
【0048】
開示する方法で使用される特に好ましいIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片は、ヒト抗体、特に、国際公開第2006/013107号パンフレットの実施例1および2に記載のセクキヌマブである。セクキヌマブは、免疫媒介炎症状態の処置について現在臨床試験中である、IgG1/カッパアイソタイプの組換え高親和性、完全ヒトモノクローナル抗ヒトインターロイキン-17A(IL-17A、IL-17)抗体である。セクキヌマブ(例えば国際公開第2006/013107号および同第2007/117749号パンフレットを参照されたい)は、IL-17に対する非常に高い親和性、すなわち、約100~200pMのK、および約0.67nM ヒトIL-17Aの生物学的活性のin vitro中和について約0.4nMのIC50を有する。したがって、セクキヌマブは、約1:1のモル比で抗原を阻害する。この高い結合親和性のため、セクキヌマブは治療への応用に特に好適なのである。さらに、セクキヌマブ抗体は、非常に長い半減期、すなわち約4週間の半減期を有し、このことによって投与間の期間延長が可能であり、これは、関節リウマチなどの一生続く慢性障害を処置するときの並外れた特性である。
【0049】
上述のIL-17抗体およびそれらの抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)の調製物中のCysL97を選択的に還元するプロセスを本明細書において開示する。開示する方法を抗体(例えば、IL-17抗体、例えばセクキヌマブ)の調製物に対して適便に行ってコストを削減することができる。抗体の「調製物」は、複数の抗体分子を有する組成物(例えば、溶液)を指す。「調製物」は、IL-17抗体またはその抗原結合断片を含むあらゆる液体組成物を含む。したがって、調製物は、例えば、水または緩衝液中、カラム溶出液中、透析緩衝液中などの、IL-17抗体またはその抗原結合断片、例えばセクキヌマブ、を含むことがある。一部の実施形態において、抗体の初期調製物は、緩衝液(例えば、Tris、例えば、1mM~1M Tris、pH6.0~8.0)またはWFI中のIL-17抗体およびそれらの抗原結合断片、例えばセクキヌマブ、のプールを含む。抗体への還元剤の添加前に、溶存酸素レベル、溶液pH、抗体濃度などを変更することによって調製物を調整することもある。一部の実施形態では、還元剤の添加前に、調製物中の抗体(例えば、セクキヌマブ)の濃度を、約4mg/ml~約19.4mg/ml、例えば、約10mg/ml~約19.4mg/ml、約10mg/ml~約15.4mg/ml、約12mg/ml~約15mg/ml、または約13.5mg/mlに調整する。一部の実施形態では、還元剤の添加前に、調製物中の酸素飽和度パーセントを、少なくとも約60%(25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合)、例えば、少なくとも80%に調整する。一部の実施形態では、還元剤の添加前に、調製物のpHを、約7.3~約8.5、例えば、約7.8~約8.2、例えば、約7.9~約8.1、例えば、約8.0に調整する。抗体の濃度、pHおよび酸素レベルを還元剤の添加直後(またはさらには添加中)に調整することもでき、したがって、等価と解釈すべきである。
【0050】
開示するプロセスで使用するためのIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の調製物は、任意の哺乳動物細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)細胞、マウス骨髄腫NS0細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞株HEK-293、ヒト網膜細胞株Per.C6(Crucell、NL)、HKB11細胞クローン(HEK293Sとバーキットリンパ腫株2B8のハイブリッド細胞融合から得られるもの)などを使用して、任意の哺乳動物細胞によって組換え産生させることができるだろう。「哺乳動物細胞によって組換え産生された」とは、哺乳動物細胞における抗体の産生が、組換えDNA技術を使用して果されたことを意味する。選択的還元に晒されたIL-17抗体調製物は、(後の精澄化を伴うまたは伴わない)遠心分離によって哺乳動物細胞から収集された抗体のプールであってもよい。あるいは、選択的還元に晒されたIL-17抗体調製物は、さらなる下流のクロマトグラフィーステップからの抗体のプール、例えば、アフィニティーカラム(例えば、プロテインAカラム、陽イオン交換カラム、陰イオン交換カラムなどからの溶出物であってもよい。あるいは、選択的還元に晒されたIL-17抗体調製物は、下流の濾過ステップ、例えば、深層濾過、ナノフィルトレーション、限外濾過などからの抗体のプールであってもよい。あるいは、選択的還元に晒されたIL-17抗体調製物は、宿主細胞タンパク質を除去するようにおよび/またはウイルス不活化するように処理された、下流のステップからの抗体のプールであってもよい。一実施形態において、選択的還元に晒されたIL-17抗体調製物は、抗体のプロテインA溶出物プールである。
【0051】
選択されるプロセス条件(例えば、温度、還元時間の長さ、pHなど)に依存して、元の調製物中の抗体濃度は変わることになる。一部の実施形態において、元の調製物に使用されるIL-17抗体の濃度は、IL-17抗体またはそれらの抗原結合断片約2mg/ml~約20mg/mlの間、約3.8mg/ml~約19.5mg/mlの間、約4mg/ml~約19.5mg/mlの間、約10mg/ml~約19.4mg/mlの間、例えば、約10mg/ml~約15.4mg/mlの間、例えば、約12mg/ml~約15mg/mlの間、例えば、約13.5mg/mlである。選択的還元の前に、注射用水(WFI)または最適な緩衝液を使用して初期抗体調製物中の抗体濃度を所望通りに調整することができるだろう。
【0052】
本明細書に記載する選択的還元プロセスをいずれのサイズの容器で行ってもよい。一部の実施形態において、容器は、実験室規模(例えば1L~2L)である。他の実施形態において、容器は、パイロット規模(例えば12L~20L)である。さらなる実施形態において、容器は、商業規模(例えば、10,000L超、例えば、14,000L、15,000L、16,000Lなど)である。
【0053】
還元剤
還元剤は、レドックス(還元-酸化)反応において電子供与できる物質である。具体的には、そのような薬剤は、IL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ抗体)中に存在するマスクされた(遮断された)システインへの水素の供給に有用である。本明細書に開示するプロセスは、IL-17抗体の選択的還元に還元剤を使用する。本明細書において言及する各還元剤は、それらの誘導体(例えば、塩、エステルおよびアミド)を含む。したがって、例えば、「システイン」への言及は、システインおよびシステイン-HCLを含み、「TCEP」への言及は、TCEPおよびTCEP-HCLを含み、チオグリコール酸ナトリウムへの言及は、チオグリコール酸エステルなどを含む。開示する方法において使用するための還元剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アンモニア、トリエチルシラン、グリシルシステイン、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸ナトリウム、アスコルビン酸、ヒドロキノン、アミノメタンスルホン酸、システイン酸、システインスルフィン酸、エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ホモタウリン、ヒポタウリン、イセチオン酸、メルカプトエタンスルホン酸、N-メチルタウリン(MTAU)、TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、N-N-ジメチル-N-Nビス(メルカプトアセチル)ヒドラジン(DMH)、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール(ベータ-メルカプトエタノール)、2-メルカプト酢酸(チオグリコール酸、TGA)、システイン(L-システイン)、システアミン(ベータ-メルカプトエチルアミン、またはMEA)、グルタチオン、およびこれらの組合せが挙げられる。一部の実施形態において、開示するプロセスで使用するための還元剤は、チオール含有還元剤(すなわち、R-SH基を有する化合物)、例えば、有機硫黄化合物である。一部の実施形態において、開示するプロセスで使用するための還元剤は、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、2-メルカプト酢酸、システイン、システアミン、グルタチオンおよび組合せである。
【0054】
還元剤の強度は、その酸化還元電位(レドックス電位)Eによって示され、酸化還元電位は、ボルト(V)で与えられ、伝統的にpH7、25℃で判定される。例えば、CSH/CSSCについての標準酸化還元電位Eは、約-0.20V~約-0.23V(pH7、25℃)とされている(P. C. Jocelyn (1967) Eu.J. Biochem 2:327-31、Liu “The role of Sulfur in Proteins,” in The Proteins, 3rd Ed.(ed. Neurath) p. 250-252 Academic Press 1977)。DTTの標準酸化還元電位Eは、約-0.33V(pH7、25℃)とされている(M.J.O'Neil, ed. by (2001).Merck Index: an encyclopedia of chemicals, drugs, & biologicals: 13th ed. (13. ed. ed.) United States: MERCK & CO INC.、Liu, supra)。グルタチオンの標準酸化還元電位Eは、約-0.24Vまたは約-0.26V(pH7、25℃)とされている(Rost and Rapoport (1964) Nature 201:185; Gilbert (1990) Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol.Biol.63:69-172、Giles (2002) Gen.Physiol Biophys 21:65-72、Liu, supra)。2-メルカプトエタノールの標準酸化還元電位Eは、約-0.26Vとされている(Lee and Whitesides (1990) J. Org.Chem 58:642-647)。一部の実施形態において、還元剤は、システインと同様の標準酸化還元電位E(例えば、約-0.20V~約-0.23V、約-0.20V~約-0.22V、約-0.20V~約-0.21V、約-0.21V~約-0.23V、約-0.21V~-0.22V、約-0.22V~約-0.23V、約-0.20V、約-0.21V、約-0.22V、約-0.23V)を有する。
【0055】
チオール含有化合物の標準酸化還元電位Eは、熱分析、NAD+の還元、ポーラログラフィー、Fe++との反応、またはチオール-ジスルフィド交換研究によって測定されうる(Jocelyn, supra、Borsook et al.(1937) J. Biol.Chem 117:281、Ghosh et al.(1932) J. Indian Chem.Soc.9:43、Kolthoff et al.(1955) J. Am. Chem.Soc.77:4739、Tanaka et al.(1955) J. Am. Chem.Soc.77:2004、Kolthoff et al.(1955) J. Am. Chem.Soc.77:4733、Eldjarn (1957) J. Am. Chem.Soc.79:4589)。一部の実施形態では、標準酸化還元電位Eを、熱分析、ポーラログラフィー、Fe++との反応、またはチオール-ジスルフィド交換研究によって、例えば、好ましくはチオール-ジスルフィド交換研究によって判定する。一部の実施形態では、標準酸化還元電位Eを、pH7、25℃で判定する。
【0056】
還元剤は、抗体調製物と併せると、「還元性混合物」になる。還元性混合物は、還元剤およびIL-17抗体に加えて賦形剤を含有することもある。例えば、ある特定の実施形態では、小モル比の還元剤の酸化型(例えば、システイン、シスタミン)を、還元性混合物に、還元剤と同時に添加してもよく、または逐次的に、例えば、インキュベーション開始の10~30分以上後に添加してもよい。例えば、システインが還元剤である場合には、少量のシステインを還元性混合物に、例えば、システインと同時に添加してもよく、または例えば、システインをIL-17抗体もしくはその抗原結合断片と併せた15、20、30分後に添加してもよい。したがって、一部の実施形態において、還元性混合物は、酸化剤/還元剤のセットを含む。「酸化剤/還元剤のセット」とは、レドックスペアまたはレドックス対、すなわち、半反応式の両側に出現する酸化剤および還元剤(例えば、還元種およびその対応する酸化型、例えば、Fe2+/Fe3+、システイン/シスチン、システアミン/シスタミン)を意味する。
【0057】
反応条件(温度、反応時間の長さ、IL-17抗体またはその抗原結合断片の量、pHなど)に依存して、特定の還元性混合物および選択的還元反応に使用される還元剤の濃度は変わることになる。一部の実施形態において、還元性混合物に使用される還元剤の量は、約1から約20mMまで様々である。一部の実施形態において、還元性混合物に用いられる還元剤の濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16mMである。一実施形態において、還元剤(例えば、システイン)の量は、約4mM~約8mMの間、例えば、5.9mM、6mM、7.7mM、7.9mM、8mMである。
【0058】
一実施形態において、還元剤は、ベータ-メルカプトエタノールである。ある特定の実施形態では、ベータ-メルカプトエタノールを約2.0mM~約8.0mMの濃度で用いる。
【0059】
一実施形態において、還元剤は、グルタチオンである。ある特定の実施形態では、グルタチオンを約2.0mM~約5.0mMの濃度で用いる。
【0060】
一実施形態において、還元剤は、システアミンである。ある特定の実施形態では、システアミンを約1.0mM~20mM、約4.0mM~約19mM、約2.0mM~約8.0mM、約4.0mM~約8.0mM、約4.8mM~約8.0mM、約5.5mM~約6.7mM、または約6.0mMの濃度で用いる。
【0061】
一実施形態において、還元剤は、システインである。ある特定の実施形態では、システインを約1.0mM~20mM、約4.0mM~約19mM、約2.0mM~約8.0mM、約4.0mM~約8.0mM、約4.8mM~約8.0mM、約5.5mM~約6.7mM、または約6.0mMの濃度で用いる。例えば120mM システイン-HCLのストック溶液を使用して、システイン濃度を調整することができる。
【0062】
各IL-17抗体は、選択的還元を必要とする2つのCysL97残基を有する。したがって、用いられる還元剤の量は、伝統的ジスルフィド結合を不可逆的に還元することによって抗体を同時に過剰還元することなく、抗体の調製物中のかなりの部分のIL-17抗体の両方のCysL97残基を選択的に還元するために十分な量であるべきである。反応条件(酸化剤の存在、温度、反応時間の長さ、pHなど)に依存して、特定の還元性混合物および選択的還元反応に使用される還元剤:IL-17抗体のモル比は変わることになる。本発明者らは、還元剤(例えば、システイン):抗体(例えば、セクキヌマブ)のモル比が、約11:1(実施例5.2)から約546:1(実施例6.2)まで多岐にわたりうることを発見した。開示する方法の一部の実施形態において、還元剤(例えば、システイン):抗体(例えば、セクキヌマブ)のモル比は、約11:1~約462:1の間(例えば、約21:1)、約31:1~約545:1(例えば、約31:1~約156:1)の間、約21:1~約296:1の間、または約46:1~約91:1の間である。他の実施形態において、還元剤(例えば、システイン):抗体(例えば、セクキヌマブ)のモル比は、約23:1~約91:1(例えば、約23:1~約57:1)の間、約44:1~約275:1の間(例えば、約44:1)、約44:1~約66:1(例えば、約44:1~約66:1)の間、好ましくは、約46:1~約118:1(例えば、約56:1~約118:1)の間、より好ましくは、約54:1~約82:1の間である。一実施形態において、還元剤(例えば、システイン):抗体(例えば、セクキヌマブ)のモル比は、約66:1である。
【0063】
還元剤(例えば、システイン):抗体(例えば、セクキヌマブ)のより高いモル比を使用する(抗体と比較して過剰な還元剤を意味する)場合には、少量の対応する酸化剤(例えば、シスチンまたはシスタミン)の添加は、還元剤(例えば、システインまたはシステアミン)の還元力を弱めるのに有用でありうる。これは、嫌気環境において特に有益である。したがって、一部の実施形態では、酸化剤/還元剤のセットを使用して(例えば、好気または嫌気環境、好ましくは嫌気環境で)選択的還元を行う。一部の実施形態では、還元性混合物中、約2:1~約80:1、約4:1~約80:1、約26:1~約80:1、約2:1~約10:1(例えば、約6:1~約10:1)、約4:1~約28:1(約4:1~約18:1)、約27:1~約53:1(例えば、約27:1)の還元剤(例えば、システイン):酸化剤(例えば、シスチン)のモル比を使用して、選択的還元を行う。ある特定の実施形態では、還元性混合物に酸化剤シスチンまたはシスタミン(好ましくは、シスチン)とシステインを併用する。一部の実施形態では、約4mM~14mMシステイン(例えば、約7.7mM~約8.0mMシステイン)および約0.1~約1mMシスチン(例えば、約0.1~約0.3mMシスチン)を還元性混合物に使用する条件で、選択的還元を行う。ある特定の実施形態において、還元性混合物は、約8.0mMシステインおよび約0.1mMシスチン、約7.9mMシステインおよび約0.1mMシスチン、または約7.7mMシステインおよび約0.3mMシスチンを含有する。開示するプロセスで酸化剤、例えばシスチンを還元剤、例えばシステインを併用する場合、還元剤、例えばシステインをIL-17抗体またはその抗原結合断片と併せた後の時点で酸化剤、例えばシスチンを添加してもよいことは、理解されるであろう。例えば、IL-17抗体またはその抗原結合断片をシステインと併せて還元性混合物にし、次いで、例えば15~30分間インキュベートし、その後、シスチンをその反応に加えてもよい。
【0064】
溶存酸素
本明細書で使用する場合、「溶存酸素」、「dO」および「DO」は、所与の媒体に溶解または担持されている酸素の量を指す。それを液体媒体中の酸素センサーまたはオプトードなどの酸素プローブで測定することができる。DOは、濃度(ミリグラム毎リットル(mg/L))または「飽和度パーセント」のいずれかとして報告される。ミリグラム毎リットルは、溶媒1リットル中の酸素の量であり、百万分率=ppmにも等しい。酸素飽和度パーセントは、溶液が特定の温度で保持できる酸素の総量に対する溶液中の酸素の量である。
【0065】
本明細書で使用する場合、「初期酸素飽和度パーセント」は、IL-17抗体(例えば、セクキヌマブ)の調製物中の溶存酸素の量であって、調製物を容器内で還元剤と接触させて還元性混合物を形成する前の量を指す。初期酸素飽和度パーセントを選択的還元プロセス開始前に直接(例えば、スパージングによって)または間接的に(例えば、撹拌によって)調整して所望の酸素レベルを達成することができる。例えば、一部の実施形態では、IL-17抗体調製物中の初期酸素飽和度パーセントを、還元剤との接触前に少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%に、またはさらには100%までにも調整する。還元剤をIL-17抗体調製物に添加して還元性混合物を形成し次第、最初にその還元剤の力を弱めるためにこの調整を行うことができ、それによって、そうしなければ活性および純度の低下をもたらすことになる抗体の伝統的ジスルフィドの部分的または完全還元を避けられる。好ましい実施形態では、IL-17抗体調製物の初期酸素飽和度パーセントを(25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合)少なくとも60%に調整する。好ましい実施形態では、IL-17抗体調製物の初期酸素飽和度パーセントを(25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合)少なくとも80%に調整する。
【0066】
本発明者らは、システイン処理ステップ中の酸素レベル上昇は、システインの還元力を抑制してセクキヌマブのC97の不十分な還元をもたらすその酸素に起因する可能性が高い有害な作用を抗体活性に及ぼしうると断定した。大気からのこの酸素取り込みの問題は、特に生産規模で作業する場合、還元剤の量を変えること、還元剤:抗体のモル比を変えること、被定義核酸速度を使用すること、またはさらには撹拌中断を用いることによってうまく対処することができる。還元剤(例えばシステイン)の量が多いほど、処理できる還元性混合物中の酸素レベルが高いことは理解されるであろう。一部の実施形態では、選択的還元プロセスのインキュベーションステップ中、還元性混合物中の酸素飽和度を一般に低いパーセンテージ(例えば、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満)に維持する。
【0067】
還元剤(例えば、システイン)の還元力の低下は、インキュベーションステップ中のより早い時点でのCysL97-SHの不完全な脱遮断につながる可能性が高く、インキュベーションステップのより後の部分に(または冷却ステップ中に)残留還元剤(例えば、システイン)がない場合には、脱遮断されたCys97L-SHの再酸化が起こりうる。したがって、理想的には、低い酸素飽和度パーセンテージを少なくとも約60分~約330分、例えば、少なくとも約60分、少なくとも約90分、少なくとも約120分、少なくとも約150分、少なくとも約180分、少なくとも約210分、少なくとも約240分、少なくとも約270分、少なくとも約300分、または少なくとも約330分維持することになる。一部の実施形態では、この低い酸素飽和度パーセンテージを全インキュベーションステップはもちろん、冷却ステップの一部にも維持することになる。
【0068】
還元性混合物のインキュベーション中、酸素飽和度パーセントを直接(例えば、スパージングによって)または間接的に(例えば、撹拌によって)調整して所望の酸素レベルを達成することができる。好気環境の場合、還元溶液の(連続的ではなく)間欠混合、例えば、<15分/時、例えば2分/時を使用することによって、または低い回転速度での連続撹拌によって、低い酸素飽和度パーセントを達成することができる。嫌気環境の場合、還元剤の消費につながることになる酸素は、全く(または殆ど)存在しない。
【0069】
酸素物質移動容量(k
選択的還元を好気条件下で行う場合、反応における酸素レベルを直接制御せず、他のプロセスパラメータ、例えば、撹拌速度によって制御する。各反応の物理的設定も反応混合物中に存在する酸素レベルに影響を与える。したがって、溶液中に移動する酸素を、物理的設定間で、特定の抗体処理ステップ中に比較するために使用することができる変数を特定することは重要である-その変数が「k」である(例えば、Garcia-Ochoa and Gomez (2009) Biotechnology Advances 27:153-176、Bandino et al. (2001) Biochem.Engineering J. 8:111-119、Juarez and Orejas (2001) Latin Am. Appl.Res.31:433-439、Yange and Wang (1992) Biotechnol.Prog.8:244-61を参照されたい)。kは、スパージングなしでヘッドスペースによって経時的に溶液中に移動する酸素の量を表す。この値は、各設定および規模に特異的であり、撹拌機タイプ、撹拌機速度、充填容量、およびヘッドスペースと接触している溶液の表面積(これは各容器の個々の幾何形状による影響を受ける)に依存する。各物理的設定のkは異なるが、選択的還元プロセス中の溶液中の酸素レベルはセクキヌマブの活性および完全性に影響を与えるので、本発明者らは、選択的還元プロセスは、同様のk範囲を示すシステムで行うと、同様の品質を有するセクキヌマブの調製物をもたらすことになると予想する。
【0070】
本明細書で使用する場合、用語「システム」は、スパージングなしでヘッドスペースによって経時的に溶液に移動する酸素に影響を及ぼす物理的設定(容器、撹拌タイプなど)とプロセス条件(充填容量、回転速度など)の両方、すなわち、規模、撹拌機速度、充填容量、ヘッドスペースと接触している溶液の表面積(これは各容器の個々の幾何形状による影響を受ける)などを包含する。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「容器」は、選択的還元反応を行う任意の容器を意味する。容器は、限定ではないが、パイロット規模および商業規模抗体生産に使用されるバイオリアクター(例えば、鋼製、撹拌タンク、使い捨てまたは非使い捨てなど)、ならびに一般的な実験用容器、例えば、フラスコ、試験管などを含む。一部の実施形態において、容器は、少なくとも約2リットル、少なくとも約100リットル、少なくとも約500リットル、少なくとも約1000リットル、少なくとも約2000リットル、少なくとも約5000リットル、少なくとも約10,000リットル、少なくとも約15,000リットル以上の容量を保持することができるバイオリアクターである。
【0072】
を酸素移動実験で直接決定することはできない。その代わり、試験溶液中のdOを窒素によって置換し、較正dOプローブを使用して経時的なdOの増加をモニターし、それによって実験dO曲線を作成することができる。その後、この実験dO曲線を下に示す方程式に従って(例えば、Mathcad(登録商標)を使用して)飽和曲線に当てはめることによって、本明細書で使用するk値を特定のシステムについて計算する:
【0073】
【化1】
(式中、DO=溶存酸素の測定値、Cは酸素の飽和値(無限に撹拌し飽和に達したとき100%を意味する)であり、オイラー数e=2.718281・・・、t=DO値に対応する時点、およびt=開始時点)。この方程式は、溶液への酸素移動(k値)の決定のために確立された積分形の実験式を表す。この式は、様々な実験で異なる著者によって確認された(Doran, P. M. 1995.Bioprocess Engineering Principles, Academic Press, San Diego, California)。
【0074】
本発明者らは、選択的還元プロセスの加熱および冷却ステップのほうが、一般に、インキュベーションステップより高いkに対する許容可能性が高いと断定した。これは、インキュベーションステップ中の酸素レベル上昇が抗体活性に対して有害な作用を及ぼしうるからであり、その原因は、還元剤(例えば、システイン)の還元力を抑制してセクキヌマブのC97の不十分な還元をもたらす酸素移動増加である可能性が高い。好気環境では、選択的還元プロセス中の還元性混合物に関する撹拌速度(または撹拌時間)の増加は、kを増加させる。より高いk値をもたらす還元性混合物の連続撹拌を、加熱および冷却ステップ中、許容できる。一部の実施形態において、加熱および冷却ステップ中のkは(別々に)、約0.12h-1~約1.69h-1、約0.08h-1~約0.69h-1、約0.24h-1~約0.44h-1、約0.39h-1~約0.69h-1である。一部の実施形態において、加熱および冷却ステップ中のシステム内のkは、≦約0.69h-1であり、前記kは、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算する。
【0075】
インキュベーションステップ中は、例えば、低い回転速度での連続撹拌または好ましくは間欠撹拌を使用して、kをより低く保つほうが好ましい。一部の実施形態では、≦約0.37h-1、≦約0.27h-1、または≦約0.18h-1の酸素物質移動容量係数(k)をシステム内で維持しながら還元性混合物をインキュベートし、前記kは、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算する。選択的還元反応のインキュベーションステップ中のシステム内のkが0.37h-1未満(<0.37h-1)である場合には、還元剤(例えば、システイン):抗体のモル比は、(より短いインキュベーション時間およびより長いインキュベーション時間両方、例えば、約210~約330分について)46.11:1(約46:1)~118.36:1(約118:1)間で変動しうる。選択的還元反応のインキュベーションステップ中のシステム内のkは、還元剤(例えば、システイン):タンパク質のモル比が、(より短いインキュベーション時間、例えば、最大約240分までのインキュベーションについて)69.89:1(約70:1)~118.36:1(約118:1)の間、または(より長いインキュベーション時間、例えば、最大約300分までのインキュベーションについて)76.85(約77:1)~118.36:1(約118:1)の間である場合、0.37h-1ほども高い(≦0.37h-1)ことがある。
【0076】
全選択的還元プロセス(すなわち、加熱ステップ、インキュベーションステップおよび冷却ステップ)は、還元剤(例えば、システイン):抗体のモル比が約46:1~約118:1の間である場合、約210~約330分のインキュベーション時間(例えば、約240分~300分のインキュベーション時間)を含む、<0.37h-1のkを使用して、一般に行うことができる。全選択的還元プロセス(すなわち、加熱ステップ、インキュベーションステップおよび冷却ステップ)は、還元剤(例えば、システイン):抗体のモル比が約70:1~約118:1の間であり、インキュベーションが最大約240分までである場合、または還元剤(例えば、システイン):抗体のモル比が約77:1~約118:1の間であり、インキュベーションが最大約300分までである場合、k≦0.37h-1を使用して、一般に行うことができる。
【0077】
さらなるプロセス成分
本開示は、ある特定のIL-17抗体、例えばセクキヌマブ、中のCysL97の選択的還元の方法であって、抗体を還元剤と接触させて還元性混合物を形成するステップを含む方法を提供する。還元製混合物が、IL-17抗体またはその抗原結合断片および還元剤の他にも成分を含むことがあることは理解されるであろう。還元性混合物は、水性成分(例えば、緩衝液、例えばTris緩衝液)を含有することがあり、還元性混合物、塩、EDTAなどのpHを増加または減少させるために使用される試薬も含有することがある。したがって、還元性混合物は、IL-17抗体(例えば、セクキヌマブ)および還元剤を必然的に含有することになるが、還元性混合物は、追加の成分を含有することもあり、またはしないこともある。一部の実施形態において、還元性混合物は、金属キレート剤(例えば、EDTA、DMSA、DMPS)を含有する。一部の実施形態において、還元性混合物は、1.3mM~約0.8mM、約1.1~約0.9mM、または約1.0mM EDTA(例えば、EDTA二ナトリウム)を含有する。
【0078】
反応条件(温度、反応時間の長さ、IL-17抗体の量、還元剤の濃度、還元剤:抗体比など)に依存して、特定の抗体調製物のpHは変わりうる。しかし、本明細書に記載する反応条件に基づいて、そのような条件を変えて所望の選択的還元を達成することができる。一部の実施形態において、還元剤と接触させる前の抗体調製物のpHは、約6.5から約9.5まで様々である、例えば、約7から約9まで様々である。他の実施形態において、抗体調製物のpHは、約7.4~約8.5、約7.8~約8.2、約7.9~約8.1、または約8.0である。一部の実施形態において、抗体調製物のpHは、(例えば、初期酸素飽和度パーセントを調整するためのガッシング後に)緩衝液、例えば、1M Tris緩衝液(例えば、1M Tris緩衝液 pH10.8)を使用して調整することがある。
【0079】
IL-17抗体またはその抗原結合断片(例えば、セクキヌマブ)を含有する調製物を還元剤と接触させた後、インタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片(HLLH)のレベルで初期還元があることもある。用語「インタクト」は、すべての保存ジスルフィド架橋(例えば、古典的IgG抗体の場合、16の保存ジスルフィド架橋)を有する抗体を指す。様々なIL-17抗体断片、すなわち、HL、HL、HL、HおよびLバンド、ならびにインタクトH(HHLL)バンドの形成は、当技術分野において公知の様々な分析ツール(例えば、SDS-PAGE、陽イオン交換HPLC)を使用して判定することができる。好ましくは、混合物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルをドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定する。CE-SDSは、タンパク質をそれらの分子量に従って電場で分離する。非還元CE-SDSを使用して、抗体の調製物中のサイズバリアントを評価することができる。一部の実施形態において、混合物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、抗体調製物への還元剤の添加から約1~30分(例えば、約15分)以内に、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約80%に減少する。一部の実施形態において、混合物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約83%に減少する。一部の実施形態において、混合物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、約75%~約87%の間に減少する。一部の実施形態において、混合物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約38、39、40、41、45、50、55、60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86または87%に減少する。
【0080】
CE-SDS分析は、Beckman Coulter PA-800キャピラリー電気泳動システムを使用して行うことができる。内径50μmおよび長さ30cm(還元CE-SDSおよび非還元CE-SDS分析についての分離範囲、それぞれ、20cmおよび10cm)を有する非被覆溶融シリカキャピラリーを分析に使用する。分離をUV検出器で、214nmでモニターする。非還元CE-SDS分析については、抗体を水で6.0mg/mLに希釈し、非還元CE-SDS試料用緩衝液(0.1M Tris/1.0%SDS、pH7.0)および250mMヨードアセトアミドと20/75/5(v/v/v)比で十分に混合し、70℃で10分間加熱して、ジスルフィド架橋シャッフリングを防止する。キャピラリー温度を分離のために25℃に設定する。電気泳動を15kVの定電圧で、通常の正極性モードで20分間行う。
【0081】
一部の実施形態では、還元性混合物を加熱する。一部の実施形態では、インキュベーションステップの前に加熱を行う。一部の実施形態では、還元性混合物を約32℃~約42℃の間の温度に、約35℃~約39℃の間に、約37℃に加熱する。一部の実施形態では、加熱を約30分~約120分間、約45分~約90分間、約45分~約75分間、約60分間行う。加熱中、撹拌用の任意の手段を使用して、例えば連続的にまたは間欠的に、還元性混合物を撹拌してもよい。撹拌は、軸流式であってもよく(例えば、傾斜翼インペラを使用)、または半径流式であってもよい(例えば、ラシュトンタービンを使用)。一部の実施形態では、加熱中、還元性混合物を65~200rpm(例えば、50rpm、65rpm、75rpm、85rpm、100rpmまたは200rpm)で絶えず撹拌する。
【0082】
インキュベーションステップ中、還元性混合物は、概して、遊離システイン(例えば、セクキヌマブの遊離システイン)の選択的還元を可能にする所定の時間、インキュベートされることになる。一部の実施形態では、インキュベーションを還元性混合物の加熱後に行う。反応条件(還元剤、温度、IL-17抗体またはその抗原結合断片の量、pHなど)に依存して、還元性混合物の所定のインキュベーション時間は変わることになる。一部の実施形態において、この時間は、約1~約24時間の間で様々であるであろう(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、16、18、20または24時間)。一部の実施形態では、インキュベーションを約200分~約500分間、約210分~約420分間、約210分~約330分間、約240~約300分間、約250分間行う。
【0083】
インキュベーションステップ中、標的遊離システイン(例えば、セクキヌマブの抗原結合部位のCysL97)の選択的還元を可能にする所定の温度でインキュベーションを行うことになる。反応条件(還元剤、時間、IL-17抗体またはその抗原結合断片の量、pHなど)に依存して、インキュベーション温度は変わることになる。一部の実施形態において、所定の温度は、約20~約42℃の間で様々であるであろう。一部の実施形態では、所定の温度は、約32℃~約42℃、約35℃~約39℃の間、または約37℃であるであろう。
【0084】
インキュベーションステップ中、還元剤をIL-17抗体調製物、例えば、セクキヌマブとインキュベートしている間、還元性混合物を撹拌して生成物の均一性を確実なものにすることができる。しかし、選択的還元反応のこの部分の間は、還元剤によるIL-17抗体中のCysL97の選択的還元を可能にするために容器内の酸素レベルを低く保つべきである。好気条件下では、連続撹拌を回避することによって、例えば、間欠撹拌、例えば、≦15分/時、例えば、≦2分/時を使用することによって、低酸素を達成することができる。嫌気条件下では、酸素の移動が制限されるため、撹拌をより長い期間、続行することがあり、または撹拌が連続的であることもある。さらに、嫌気条件下では、酸素移動の(例えば、調節スパージングによる)厳密な制御によっても、より長い撹拌期間(連続撹拌を含む)の適用が可能になる。
【0085】
一部の実施形態では、混合物をインキュベーションステップ後に冷却する。一部の実施形態では、混合物を室温(例えば、約16℃~約28℃の間の温度)に冷却する。一部の実施形態では、冷却を約30分~約120分間、約45分~約90分間、約45分~約75分間、約60分間行う。冷却中、撹拌用の任意の手段を使用して、例えばコンスタントにまたは間欠的に、還元性混合物を撹拌してもよい。撹拌は、軸流式であってもよく(例えば、傾斜翼インペラを使用)、または半径流式であってもよい(例えば、ラシュトンタービンを使用)。一部の実施形態では、冷却中、還元性混合物を65~200rpm(例えば、50rpm、65rpm、75rpm、85rpm、100rpmまたは200rpm)で絶えず撹拌する。
【0086】
選択的還元反応は、例えば、ヨードアセトアミドまたはo-リン酸を使用して(例えば、0.3M o-リン酸のストック溶液を使用して)停止させることができるだろう。一部の実施形態では、反応停止を冷却ステップ後に行う。一部の実施形態では、混合物のpHを約5.0~約5.5の間、約5.1~約5.3、約5.2に調整することによって選択的還元を停止させる。o-リン酸を使用してpH調整を達成することができる。
【0087】
「精製された調製物」という句は、選択的還元を受けたIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片を指す。選択的還元の完了後、精製された調製物中のインタクトIL-17抗体のレベルは増加されているであろう。選択的還元後の精製された調製物中のインタクト抗体のレベルは、様々な周知の技法(例えば、非還元SDS PAGE、CE-SDS PAGE、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、HPLC)によって測定することができる。一部の実施形態では、インタクト抗体のレベルをCE-SDSによって測定する。一部の実施形態では、選択的還元の完了後(例えば、冷却ステップ後)、精製された調製物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約80%である。一部の実施形態において、選択的還元後、精製された調製物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または約100%である。一部の実施形態において、精製された調製物中のインタクトIL-17抗体またはその抗原結合断片のレベルは、選択的還元後、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約90%である。
【0088】
選択的還元前の調製物中、選択的還元中の調製物中、または選択的還元後の調製物中(すなわち精製された調製物中)の抗体の活性(例えば、生物学的活性など)を、様々な周知の技法(例えば、国際公開第2006/013107号パンフレット、国際公開第2007/117749号パンフレット、Shen and Gaffen (2008) Cytokine.41(2): 92-104を参照されたい)によって測定することができる。ある特定の実施形態では、ELISAベースのアッセイまたは細胞ベースのアッセイ(例えば、IL-6またはGROalphaの、例えばC-20/A4軟骨細胞またはBJ細胞株からの、IL-17依存性放出の阻害)を使用して、活性を測定する。一部の実施形態では、シスタミン-CEX(陽イオン交換クロマトグラフィー)法によって活性を測定する。シスタミン-CEX法は、シスタミン(2,2’-ジチオビス(エチルアミン))での抗体の誘導体化、続いての陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を使用する分析的分離を含む。本明細書に開示する抗体(例えば、セクキヌマブ)の活性は、CysL97が酸化型である場合、減少するので、シスタミンでのCysL97の誘導体化は、抗体活性を測定するためのプロキシとして役立つ。すなわち、選択的還元が成功した場合には還元されたCysL97をシスタミンで誘導体化できるが、選択的還元が失敗した場合には酸化されたCysL97をシスタミンで誘導体化できない。シスタミンの誘導体化は、遊離Cys97残基1つにつき1つの正電荷の付加をもたらす。結果として得られる誘導体化された形態のセクキヌマブ(例えば、+2、+1電荷)を、その後、誘導体化されていない形態から分離し、CEXによって定量することができる。両方の軽鎖上にある不対Cys97に結合している2つのシスタミンを有する、シスタミン誘導体化セクキヌマブ分子は、理論上、100%生物学的活性と考えることができる。一方の軽鎖上にある不対Cys97に結合している1つのシスタミンが付加された、シスタミン誘導体化セクキヌマブ分子は、50%生物学的活性と考えることができる。分子に結合しているシスタミンが一切ない、シスタミン誘導体化セクキヌマブは、生物学的不活性と考えることができる。したがって、抗体の調製物(例えば、セクキヌマブ抗体の調製物)中のシスタミン誘導体のレベルを、この調製物のシスタミン誘導体化の理論上の最大レベル(例えば、理論上の最大パーセンテージとして表される)と比較して、この調製物の活性の尺度として使用することができる。
【0089】
簡単に言うと、シスタミン-CEXを次のように行うことができる:抗体試料(50μg)を先ずカルボキシペプチダーゼB(1:40 w:w)で処理して重鎖内のC末端リシンを除去し、次いで酢酸ナトリウム5mM、0.5mM EDTA、pH4.7中、4mM シスタミンで、室温で2時間、誘導体化する。2μLの1Mリン酸の添加によって誘導体化を停止させる。ProPac(商標)WCX-10分析カラム(4mm×250mm、Dionex)を使用してシスタミン誘導体化抗体試料でCEXを行う。1.0ml/分の流量での、25mMリン酸ナトリウム、pH6.0中、12.5mM~92.5mMの塩化ナトリウム勾配を、分離に使用する。220nmでの吸収をUV検出器(Agilent HPLC 1200)によって記録する。
【0090】
酸化された遊離システインを有するIL-17抗体の一部の初期調製物は、45%ほどもの低さの活性レベルを有する。一部の実施形態では、選択的還元プロセスの開始前、調製物中のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の活性レベルは、(例えば、シスタミン-CEX法によって測定した場合)約80%未満、約75%未満、約70%未満、約65%未満、約60%未満、約55%未満、約50%未満、または約45%未満ある。選択的還元中に、精製された調製物中のIL-17抗体の活性レベルは増加することになる。一部の実施形態において、抗体調製物中のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の活性レベルは、還元性混合物を形成するために抗体調製物を還元剤と接触させた後約60分以内に(例えば、シスタミン-CEX法によって測定した場合)少なくとも約15パーセントポイント(例えば、約60%から少なくとも約75%に)、少なくとも約20パーセントポイント(例えば、約60%から少なくとも約80%に)、少なくとも約25パーセントポイント(例えば、約60%から少なくとも約85%に)または少なくとも約30パーセントポイント(例えば、約60%から少なくとも約90%に)増加する。
【0091】
選択的還元後、精製された調製物は、CysL97の還元型を有するIL-17抗体について富化されることになり、初期調製物と比較して増加した活性レベルを示すことになる。一部の実施形態では、選択的還元の完了後、精製された調製物中のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の活性レベルは、シスタミン-CEX、ELISA、または細胞ベースの結合アッセイ(例えば、シスタミン-CEXアッセイ)によって測定した場合、(理論上の最大値と比較して)少なくとも約80%である。一部の実施形態では、選択的還元の完了後、精製された調製物中のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の活性レベルは、CEX、ELISA、または細胞ベースの結合アッセイ(例えば、シスタミン-CEXアッセイ)によって測定した場合、少なくとも約80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または約100%である。一部の実施形態では、選択的還元の完了後、精製された調製物中のIL-17抗体またはそれらの抗原結合断片の活性レベルは、シスタミン-CEX、ELISA、または細胞ベースの結合アッセイ(例えば、シスタミン-CEXアッセイ)によって測定した場合、少なくとも約93%である。
【0092】
したがって、哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)システム内で調製物を少なくとも1つの還元剤と接触させて還元性混合物を形成するステップ、および
b)溶存酸素曲線を飽和曲線に当てはめることによって計算される≦約0.37h-1の酸素物質移動容量係数(k)をシステム内で維持しながら還元性混合物をインキュベートするステップ
を含み、
IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)と、配列番号10に記載のVの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)とを含み、
ステップa)の前、調製物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも約60%である、方法を本明細書に開示する。
【0093】
したがって、哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)調製物を、システイン/シスチンおよびシステイン/シスタミンから選択される酸化/還元試薬のセットと接触させて、還元性混合物を形成するステップ、および
b)還元性混合物を約37℃の温度で嫌気条件下、少なくとも4時間インキュベートするか、または還元性混合物を約18~24℃の温度で約16~24時間インキュベートするステップ
を含み、
IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)と、配列番号10に記載のVの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)とを含む、方法も本明細書に開示する。
【0094】
したがって、哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)調製物中のセクキヌマブの濃度を約4mg/ml~約19.4mg/mlの間、例えば、約10mg/ml~約19.4mg/ml、例えば、約10~約15.4、例えば、約12mg/ml~約15mg/ml、例えば、約13.5mg/mlに調整するステップ、
b)調製物の酸素飽和度パーセントを少なくとも約60%、例えば、少なくとも約80%に調整するステップ、
c)調製物のpHを、約7.4~約8.5、例えば、約7.8~約8.2、例えば、約7.9~約8.1、例えば、約8.0に調整するステップ、
d)調製物を容器内でシステインと接触させて還元性混合物を形成するステップであり、還元性混合物中のシステインの濃度が約4.0mM~約8.0mM、例えば、約4.8mM~約8.0mM、例えば、約5.5mM~約6.7mM、例えば、約6.0mMである、ステップ、
e)還元性混合物を約32℃~約42℃の間の温度に、例えば、約35℃~約39℃の間に、例えば、約37℃に加熱し、前記加熱を約45~約90分、例えば、約45~約75分、例えば約60分間行うステップ、
f)ステップe)からの還元性混合物を約20℃~約42℃の間、例えば約32℃~約42℃の温度で、例えば、約35℃~約39℃に、例えば、約37℃にインキュベートするステップであり、前記インキュベーションが、約210~約420分、例えば、約210~約330分、例えば、約240~約300分、例えば、約250分間行われ、この間、容器内で≦0.37h-1の酸素物質移動容量係数(K)が維持され、前記Kが飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、ステップ、
g)ステップf)からの結果として得られる混合物を約16℃~約28℃の温度に冷却し、前記冷却を約45~約90分、例えば、約45~約75分、例えば、約60分間行うステップ、および
h)ステップg)から結果として得られる混合物のpHを約5.1~約5.3の間に、例えば約5.2に調整するステップ
を含む方法も、本明細書に開示する。
【0095】
セクキヌマブの精製された調製物であって、調製物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合、少なくとも約90%であり、調製物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定した場合、少なくとも約90%である、精製された調製物も本明細書に開示する。
【0096】
通則
上記方法の一部の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、i)配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH);ii)配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL);iii)配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンVHドメインと配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンVLドメイン;iv)配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVHドメイン;v)配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVLドメイン;vi)配列番号11、配列番号12および配列番号13として記載する超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVHドメイン;vii) 配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVHドメインと配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVLドメイン;およびviii)配列番号11、配列番号12および配列番号13として記載する超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVHドメインと配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の超可変領域を順番に含む免疫グロブリンVLドメインを含む。開示する方法の一部の実施形態において、IL-17抗体またはその抗原結合断片は、IgGアイソタイプのヒト抗体である。開示する方法の一部の実施形態において、抗体はセクキヌマブである。
【0097】
本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細は、上の付随する説明の中に記載している。本明細書に記載のものと同様または等価の任意の方法および材料を本開示の実施または試験の際に使用することができるが、好ましい方法および材料を次に説明する。本開示の他の特徴、目的および利点は、この説明からおよび特許請求の範囲から明らかになる。本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形は、文脈による別段の明白な指示がない限り、複数の言及対象も含む。別段の定義がない限り、本明細書において使用するすべての専門および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に引用するすべての特許および出版物は、参照によって組み入れられている。以下の実施例は、本開示の好ましい実施形態をより十分に例証するために提供するものである。これらの実施例は、いかなる点においても、添付の特許請求の範囲によって定義する通りの本開示特許事項の範囲を限定するものと見なしてはならない。
[実施例]
【実施例1】
【0098】
異なるスルフヒドリル剤によるセクキヌマブプロテインA中間体の還元
実施例1.1
様々なスルフヒドリル基含有還元剤(例えば、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、2-メルカプト酢酸、システイン、システアミン、グルタチオン)を、セクキヌマブの軽鎖の酸化Cys97の選択的還元におけるそれらの使用についてスクリーニングした。第1の実験セットでは、プロテインA捕捉ステップ後の初期発酵プロセスから得た不活性出発物質の1mL分を、様々な濃度のβ-メルカプトエタノール、システインおよびグルタチオンとともに、37℃で、様々なpHでインキュベートした。ある特定の時点後、試料を20mM酢酸pH6緩衝液へのゲル濾過によって脱塩し、活性の回復をELISAによって判定した。また、遊離スルフヒドリル基の含有量をエルマン試験によって決定した(スルフヒドリル基の脱遮断は抗体1molにつき2molの遊離SH値を与えると予想される)。結果を下の表2に収載する。
【0099】
【表2】
【0100】
これらの研究の結果として、pH範囲7~9で、1~20mMの濃度で、20~40℃の温度のメルカプトエタノールおよびシステインが最も好適であると判明した。
【0101】
さらなる調査の過程で、抗体は、還元剤への曝露中に過剰還元されて、鎖間ジスルフィド架橋が部分的に還元された抗体が形成されることに気がついた。この過剰還元は、例えば、上記のダイアフィルトレーションによってまたはクロマトグラフィーによって、抗体を反応混合物から単離すると、大気条件下で可逆である。なぜなら、緩衝液中に存在する溶存酸素が自発的再酸化をもたらし、インタクト抗体が再形成されるからである。
L-SS-HH-SS-L→L-SH+HS-HH-SS-L→L-SS-HH-SS-L
(インタクト抗体) (還元された鎖間ジスルフィド架橋) (インタクト抗体)
【0102】
実施例1.2(嫌気条件)
第2の実験セットでは、プロテインA捕捉ステップ後に得たセクキヌマブ抗体の処理を、脱気溶液およびアルゴンまたは窒素雰囲気の使用により嫌気条件下で行って、還元結果に対する溶存酸素の影響を排除した。簡単に言うと、プロテインA捕捉ステップからのセクキヌマブ溶液をTris塩基ストック溶液の添加によってpH8.0に調整した。次いで、その溶液を、システイン/EDTAストック溶液(例えば、pH8で、200mM/12.5mM EDTA)の添加によって8mMのシステイン濃度システインおよび1mMのEDTA濃度に調整した。還元性溶液中のセクキヌマブの濃度は、4mg/mL(約296:1のシステイン:抗体のモル比)であった。その混合物を室温でさらに24時間インキュベートした。異なる時点で、試料を抜き取り、過剰なヨードアセトアミドでスパイクした。このヨードアミドが、還元剤および抗体のスルフヒドリル基を失活させることによって反応を停止させる。
【0103】
同じ設定を2-メルカプトエタノール、2-メルカプト酢酸、システイン、システアミンおよびグルタチオンでの実験にも使用した。DTTについては、1mMの濃度を使用した。
【0104】
反応を停止させた試料を非還元モードでのSDSによるキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって分析した。この分析法は、抗体の異なる反応生成物(HHL、HH、HL、HおよびL種)をインタクト抗体(LHHL)から分離し、それらを、オンラインUV検出および得られたシグナルの面積積分によって定量する。
【0105】
図1中の、0、3、15分、1時間、2時間、4時間および20~24時間還元処理からのインタクト抗体(LHHL)のデータは、DTTおよびβ-メルカプト酢酸が、インタクト抗体との再平衡化なしに、抗体を完全に還元することを示す。グルタチオンおよびβ-メルカプトエタノールもまた顕著な還元を示すが、インタクト抗体(LHHL)との再平衡を誘導することができた。システインは、抗体を約50%還元し、その後、インタクト抗体と簡単に再平衡化される。システアミンのデータは、この試薬が、殆ど還元をもたらさない、または極めて急速に(3分未満の時間内に)再平衡化に至ることを示す。
【0106】
判明した還元の順番(すなわち、DTT>β-メルカプト酢酸>β-メルカプトエタノール>グルタチオン)は、レドックス電位またはジスルフィド相互交換についての発表データと相関する。T. Liu in “The Proteins, 3rd Edition, Volume 3 (1977) p. 239を参照されたく、この参考文献には下記のコメントおよびデータが与えられている:
レドックス電位E=E+0.059×log[R-SS-R]/[R-SH]
電極が硫黄によって被毒するので直接測定できない標準レドックス電位(ボルトでのE)。したがって、レドックス電位を間接的測定から演繹した:
ジチオトレイトール DTT/DTTox: E約-0.33V(pH7、25℃)
グルタチオン GSH/GSSG: E約-0.24V(pH7、25℃)
システイン CSH/CSSC: E約-0.22V(pH7、25℃)
【実施例2】
【0107】
システインは好気および嫌気条件下でセクキヌマブを選択的に還元する。
8mMシステイン、4mg/mlセクキヌマブ、pH8(システイン:抗体のモル比約295.88:1)を使用して室温(RT)(約25℃)または37℃でさらなる実験を行った。反応を好気下で行った(すなわち、溶液の調製および処理を通常の空気のもとで行った)または嫌気下で行った(すなわち、溶液の調製および処理を、脱気およびその後のアルゴンまたは窒素雰囲気下での作業によって、酸素排除または低減下で行った)。
【0108】
嫌気条件(例えば、溶存酸素0%である窒素またはアルゴン雰囲気)下では、処理の初期段階に、抗体断片の形成-過剰還元の兆候-を伴う抗体の実質的分解がある。約40%へのインタクト抗体(LHHL)の最大の減少は、室温(図2A)または37℃(図2C)どちらかで行った実験についてはおよそ15分間で起こる。20時間時点でのインタクト抗体との再平衡化は、室温試料に残存する約17.1%過剰還元バリアント、および37℃試料に残存する12.1%過剰還元バリアントを示す。
【0109】
好気条件下、すなわち、溶存酸素の存在下では、より穏やかな反応がある。室温で行った実験(図2B)についてはインタクト抗体(LHHL)の約80%残留レベルへの最大減少および37℃で行った実験(図2D)については約73%への最大減少がおよそ15分で起こる。インタクト抗体との再平衡化は、20時間後の室温試料に残存するたった5.8%過剰還元バリアント、および8時間後に37℃試料に残存するたった9.3%過剰還元バリアントを示す。
【0110】
したがって、嫌気条件下では、初期還元がより大きく、インタクト抗体との再平衡化が好気条件下ほど完全でない。
【実施例3】
【0111】
選択的還元に対する溶存酸素およびシスチンの影響
システイン(Cys-SH)は空気の存在下でシスチン(Cys-SS-Cys)に酸化するため、好気条件下と嫌気条件下で観察される差は、好気条件下でシステイン溶液の調製中およびまたセクキヌマブのシステインでの実際の処理中に形成される少量のシスチンによって起こりえた。セクキヌマブの選択的還元に対するdOおよびシスチン(またはシスタミン)レベルの影響を評価するために、本発明者らは、抗体の単離を伴う、いくつかのさらなる調製実験を行った。
【0112】
一部の試料について、4mg/ml セクキヌマブの選択的還元は、pH8.0を有する溶液中、8mMシステイン(システイン:抗体のモル比295.88:1)で、37℃で、好気条件下、100%dO(窒素による燻蒸なし)、50%、および20%dO(溶存酸素が実験を通して目標レベルにとどまるように窒素で燻蒸しながら周囲雰囲気で撹拌)で、ならびにシスチンなしの嫌気(0%dO)条件(脱気溶液、完全窒素雰囲気)下で、ならびに100%dO下、約0.1mMシスチンの存在下[システイン:シスチン比=80:1]で、行った。一実施形態では、0.3mMシステインを添加し、その後、8mMシステインとともに嫌気条件下で最初の30分のインキュベーションを行った。別の実験では、選択的還元を嫌気条件下で、7.7mMシステインおよび0.3mMシスチン[システイン:シスチン比=25.66:1]を使用して行った。別の試料には、0.1mMシスタミンをシスチンの代わりに添加した。
【0113】
これらの実施例すべてに関して、試料を異なる時点で抜き取った。処理(37℃で240分)の終了時に、バルク溶液のpHを5.0に調整し、抗体に結合する陽イオン交換カラムに負荷することによって、抗体を単離した。洗浄して還元剤を除去した後、抗体を塩および/またはpH勾配によって溶出し、CE-SDS、SE-HPLCおよびCEXによって分析した。
【0114】
図3は、異なる処理時点で抜き取った、ヨードアセトアミドで反応停止させた試料のCE-SDS分析を示す。dOが少ないほど、選択的還元の初期段階での還元が多く、より後の段階での平衡が遅かった。インタクト抗体のレベルは、完全嫌気条件(0%dO)でのレベルのほうが処理終了時に実施的に低かった(70%)。インタクト抗体のレベルは、反応を溶存酸素50%以上の条件下で行うと、90%より上に向上した。少量のシスチン(またはシステアミン)の添加は、抗体の初期還元を減少させた。
【0115】
表3は、異なる再活性化処理(嫌気および好気条件)からの試料を、SP-セファロースFFでのその後のクロマトグラフィーを使用して精製した後に得た、抗体の活性および純度を示す。
【0116】
【表3】
【0117】
生物学的活性に関しては、すべての場合、45%の活性しか有さない非選択的還元を受けたセクキヌマブ出発物質に対して完全活性物質(理論上の最大値の86~108%)を得た。CE-SDS純度に関しては、シスチンを欠く完全嫌気性処理下で得た抗体において純度低下(82.3%)が認められ、この原因は、高い確実性で、これらの条件下での過剰還元であった(注記:嫌気性反応へのシスチンの添加は、CE-SDSによって測定して、試料の純度を増加させた。その理由は、還元電位がより小さいためであり、この過剰還元による可能性は低い)。しかし、すべての他の選択的還元処理は、より小さい、および高い、抗体の質および活性をもたらした。本発明者らは、SP-セファロースクロマトグラフィーステップ前の一部のCE-SDS純度値が、このクロマトグラフィーステップ後に得た値よりわずかに低かった(例えば、処理後の82%に対して処理前の65%)(データを示さない)ことにも注目した。このことは、さらなる再酸化がクロマトグラフィーステップ中に起こりうることを示唆している。CEX活性は、一般に、様々な好気条件下でのほうが、システインの還元力を弱める酸素がより多かったので低かった。酸化剤であるシスチンおよびシスタミンの好気条件下での添加は、CEX活性をさらに減少させた。
【0118】
実施例1~3から引き出された要約および結論
本発明者らは、セクキヌマブのCysL97が、例えばグアニジンHClを使用して、完全抗体構造の折り畳み構造を部分的にほどく必要なく、溶解状態で還元に利用可能であると断定した。さらに、セクキヌマブは、総体的には選択的還元を受けやすく、制御された条件下では、実質的な分解なしに抗体の活性化を可能にすると予想される。
【0119】
システインは、迅速な平衡に加えてほんのわずかな過剰活性化しか示さないので、セクキヌマブの選択的還元にとって特に理想的であると判明した。システインを使用する選択的還元が始まって1時間のうちに、抗体は、部分的に還元する、例えば、嫌気条件下では最大60%まで、および完全好気条件下では最大約30%まで還元する。その後、セクキヌマブは、ゆっくりとインタクト抗体へと再酸化する。システインでの選択的還元に晒された試料の再酸化は、37℃で行った反応より室温でのほうがはるかにゆっくりと進行した(37℃での平衡化のための8時間に対して室温での再平衡化のための21時間を比較されたい)。室温試料は、一般に、37℃で行った選択的還元反応と比較してインタクト抗体のより小さい最大減少も示した。
【0120】
嫌気条件下で、本発明者らは、抗体の初期還元がより大きく、インタクトセクキヌマブとの再平衡化が好気条件下ほど完全でないことに注目した。しかし、少量のシスチンの嫌気性反応への添加は、シスチン不在下で行った嫌気性反応と比較して向上した純度および活性をもたらした。したがって、好気性反応過程を、小モル比の還元剤の酸化型(例えば、還元剤としてのシステインの場合のシスチン)が存在する嫌気条件下でシミュレートすることができる。さらに、本発明者らは、シスチンの添加が-シスチンがインキュベーションの最初の30分間に存在しないときでさえ-インタクト抗体の平衡を加速したことに注目した。したがって、選択的還元を空気の存在下で行うことができ、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素またはアルゴン)を使用することによって溶存酸素の不在下でも行うことができる。完全嫌気条件下で行う場合、小モル比の還元剤の酸化型の添加は有用である。
【実施例4】
【0121】
システイン選択的還元ステップ開発研究:概念実証(DoE1)
実施例4.1-研究計画および方法
システイン処理ステップの主な目的は、細胞培養、回収および/またはプロテインAクロマトグラフィー中に行うことができる、軽鎖の97位におけるシステインの-SH基のマスキングによるセクキヌマブ抗体の完全生物学的活性の回復である。以下の実施例では、抗体完全性をモニターする非還元CE-SDS法によって抗体の純度(「CE-SDSによる純度」と呼ぶ)を分析し、シスタミン-CEXクロマトグラフィー法によって抗体の生物学的活性(「CEXによる活性」と呼ぶ)を分析する。シスタミン-CEXクロマトグラフィーでは、シスタミンを抗体試料に添加し、そのままセクキヌマブ中のすべての遊離システインを誘導体化させる。次いで、シスタミン誘導体化抗体種が追加の正電荷を有するので非誘導体化抗体種の後に溶出する陽イオン交換クロマトグラフィーによる分析的分離に試料を付した。次いで、そのクロマトグラムを未処理試料のクロマトグラムと比較した。溶出位置がシフトした処理試料のクロマトグラムにおける種の部分は、元の試料における遊離CysL97-SHの存在量の直接的尺度であり、活性の代替マーカーとして使用することができる。
【0122】
概念実証研究(DoE1)の主な目的は、システイン処理ステップを向上させるためにパラメータ範囲の第1のセットを試験して主な影響因子を特定し、操作範囲の定義を裏づけるための実験研究計画の適用性を確認することであった。加えて、DoE1は、実験設定が出力パラメータに対する入力パラメータの影響を検出することに適用可能であるかどうかを評価するために行った。Modde 9.0(Umetrics)ソフトウェアを使用して、この概念研究を分析した。
【0123】
入力パラメータを表4に示す。レドックス電位は、還元型/酸化型比、この場合はシステイン/シスチン比、による影響を受けるので、シスチン(酸化型)の添加を追加の入力パラメータとして試験した。システイン/シスチン比およびシステイン濃度を3つのレベル各々に関して調査し、抗体濃度(「ALCによる含有量」)を2つのレベルに関して調査した。製品品質出力パラメータ、CECによる活性およびCE-SDSによる純度を判定した。
【0124】
【表4】
【0125】
この計画は、中心点試行を伴わない3×2マルチレベル要因計画である。システイン処理ステップの向上のためのデータおよびプロセス理解を得るために、この計画を選択した。このタイプの計画は、入力パラメータシステイン/シスチン比およびシステイン濃度についての線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。この実験計画プランを表5に与える。
【0126】
【表5】
【0127】
水浴に入れ、37℃に加温した15mL密閉式ポリエチレン製試験管で、選択的還元反応を行った。タンパク質溶液をWFIで目標濃度に希釈し、1M TrisでpH8.0に調整した。システインおよびシスチン溶液の添加後、試験管を調節し、水浴内で4時間インキュベートした。次いで、ALCによる含有量の判定のための試料を抜き取った。インキュベーション後に直接抜き取り、10倍過剰(システイン濃度に関して)のヨードアセトアミドの添加によって反応を停止させた試料を用いて、CE-SDSを行った。残りの溶液を周囲温度の冷却し、そのpHをpH5.0~5.5に調整し、CEXおよびSEC分析用の試料を抜き取った。
【0128】
この計画は、表6の実際の実験計画に従って行った。
【0129】
【表6】
【0130】
実施例4.2-概念実証研究の結果
出力パラメータの値を入力パラメータとともに表7に収載する。試行をCEXによる活性の値の上昇に伴って収載する。0.5mM濃度のシステインでのすべての試行が、より低い活性を有することが分かる-この理由は、高い確実性で、このシステイン濃度が低すぎてCys97の完全なアンマスキングを果せないためである。このセットでは、システイン:抗体比が約11:1から約21:1に増加したとき、CEXによる活性のわずかな向上が認められた(REACT00_17、_14および_12)。これらの3試行のうち、わずかに高いシステイン:シスチン比(REACT007_14および_12)(高い確実性で、システインの還元力のわずかな減弱を表す)を有したものは、CE-SDSパラメータによる良好な純度も有した。したがって、一連の試行は、活性出力パラメータの差が小さく(92.4~93.1%)、高い確実性で分析精度の範囲内であり、そのためこの群間の解釈が難しくなる。最後に、4試行の1セットは、活性が最も高かった(93.7~95.1%)。注目に値することとして、これらの試行は、最高システイン/タンパク質比(462.33)を有さなかった。
【0131】
【表7】
【0132】
良好なモデル適合度のため、システムの主要影響パラメータを理解するためにコンタープロットを使用することが可能であった。モデルの品質を4つのツール、すなわち、R、Q、モデル有効性および反復の標準偏差(SD)によって表す。データと十分一致しているモデルは、1.0に近いRおよびQ、ならびに0.25より上のモデル有効性を有することになる。統計的有意性がより低いモデルは、より低いRおよびQ値を有する。品質出力パラメータについてのモデル診断は、CEXによる活性およびCE-SDSによる純度のモデルが、高い統計的有意性(CEXによる活性についてはR=0.88およびQ=0.73、ならびにCE-SDSによる純度についてはR=0.84およびQ=0.63)を有することを示す。CEXによる活性についてのコンタープロット(図4A)は、入力パラメータシステイン濃度が4.0mM~0.9mMの間である場合、93.0%以上のCEXによる活性値が達成されることを教示している。さらに、入力因子であるALCによる含有量は、入力因子であるシステイン/シスチン比を6のその中心点に設定したとき、低レベル(3.25mg/mL)から高レベル(6.5mg/mL)まで様々でありうる。CEXによる活性を向上させるために、モデルは、入力パラメータALCによる含有量が6.5mg/mLの調査された上方レベルより高くあるべきであることを示す。
【0133】
表8に、試行をCE-SDS純度の増加に従って収載する。462モル/モルの高いモル比を有する試行が属する、低純度(</=70%)を有する試行;中純度(70~83%)を有する試行;および高純度(>83%)を有する試行という3群を見ることができる。良好なモデル適合度のため、入力パラメータが表8に示すCE-SDSによる純度値にどのように影響を及ぼすかを理解するためにコンタープロットを使用することも可能である。図4BのCE-SDSのコンタープロットによると、理論上最適に最も近くなる区域は右下側に位置する。これは、システイン/シスチン比をより高レベルに設定すべきであり、システイン濃度をより低レベルに設定すべきであることを含意する。加えて、ALCによるより高い含有量を使用して、CE-SDSによる純度を増加させることができよう。
【0134】
【表8】
【0135】
実施例4.3-概念実証研究の要約
概念実証研究によって、システイン処理ステップの入力パラメータの評価および精密化への実験設定の適用性を確認した。本発明者らは、システインのタンパク質に対する高いモル比がCE-SDSによる低い純度値につながりうることに注目した。モデルは、タンパク質およびシステイン濃度を増加させることでCE-SDSによる純度およびCEXによる活性を向上させることができるだろうということも示唆した。したがって、システイン濃度、ならびにALCによる含有量についてのパラメータ範囲増加の製品品質特性であるCEXによる活性およびCE-SDSによる純度に対する影響を、以下の研究(応答局面計画1)でより詳細に評価した。
【実施例5】
【0136】
システイン選択的還元ステップ開発研究:応答局面計画1
実施例5.1-研究計画および方法
実施例4からのデータに基づいて、選択的還元ステップの入力パラメータを調整した。Modde 9.0(Umetrics)ソフトウェアを使用して、この開発研究を分析した。入力パラメータを表9に収載する。因子を各々3レベルで調査した。この計画は、入力パラメータALCによる含有量およびシステイン濃度のレベルを調整した、概念実証研究の調整バージョンであった。入力パラメータ「システイン/シスチン比」をパラメータ「シスチンの濃度」によって置き換えて、実験設定およびさらにデータの評価を単純化した。
【0137】
【表9】
【0138】
この計画は、中心点条件での4つの中心試行を伴う2中心複合面(Center Composite Face)(CCF)計画である。このタイプの計画は、線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。この実験計画プランを表10に与える。
【0139】
【表10】
【0140】
水浴に入れ、37℃に加温した15mL密閉式ポリエチレン製試験管で、選択的還元反応を行った。この計画は、表11の実際の実験計画に従って行った。
【0141】
【表11】
【0142】
実施例5.2-応答局面計画1の結果
入力パラメータ、および出力パラメータの値を表12に収載する。試行をCEXによる活性の増加に従って収載する。高いCEX活性を有する試行は、より高いシステイン濃度を使用したことが分かる。より低い活性を有する単一の試行(React016_13)は、高いタンパク質濃度、低いシステイン濃度、および高いシスチン濃度を有した。
【0143】
製品品質出力パラメータのモデル診断は、CEXによる活性についてはR=0.95、Q=0.76、SD=0.20、およびモデル有効性=0.78であり、CE-SDSによる純度についてはR=0.79、Q=0.53、SD=2.91、およびモデル有効性=0.83であった。これは、両方の出力パラメータについての有意なモデルを示す。入力パラメータ設定の影響およびCEXによる活性に対する影響を見抜くために、コンタープロットを計算した(図5)。
【0144】
【表12】
【0145】
図5のコンタープロットに示すように、CEXによる高い活性を達成するために最も影響の大きい入力パラメータはシステイン濃度であり、このパラメータをその高レベルに設定すべきである。しかし、低レベルのシステイン濃度であっても、ALCによる含有量およびシスチン濃度が上限でない場合、高いCEX活性(>93%)をかなえる。入力パラメータALCによる含有量およびシスチン濃度は、出力パラメータCEXによる活性にも、より小さい程度にではあるが、影響を及ぼす。
【0146】
表13に、試行をCE-SDS純度の上昇に従って収載する。これらの試行を3群に分けることができる。低純度(<80%)を有する一連の6つの試行(主として14mM試行)と、中純度(85~91%)を有する一連の試行と、より高い純度(>91%)を有する一連の試行とがあり、後述ものはすべて4mMシステイン試行であった。
【0147】
【表13】
【0148】
結果に基づいて、CE-SDSによるより高い純度値を達成するためには、システイン濃度は低くあるべきであり、ALCによる含有量およびシスチン濃度を高く設定すべきである。
【0149】
実験React016_6、React016_7、React016_8およびReact016_11は、2つの品質出力パラメータ両方について高い値を有する。このDoEによって確立したモデルに基づいてシステイン処理ステップの失敗リスクを推定するために、モンテカルロシミュレーションを使用して計画空間推定器を実行した。この計画空間推定器によって、因子が変動できる範囲であって、しかも出力パラメータが製品品質およびプロセス性能出力パラメータの目標範囲を超えない範囲が得られる。これは、ALCによる含有量を理想通りの12mg/mLに設定すべきであることを示唆する。システイン濃度は、この特定の実験では4.0mMが理想である。シスチン濃度については、理想は0.32mMである。
【0150】
この研究の結果によると、システイン処理ステップは、主として、システイン濃度による影響を受ける。高いシステイン濃度は、CEXによる高い活性を促進するが、同時に、CE-SDSによる低い純度をもたらす。この計画空間推定器によると、システイン濃度を4mMに保つべきであり、ALCによる含有量を12mg/mL(約49のシステイン対タンパク質比)に設定すべきである。
【0151】
この統計学的計画の結果の検証のために、空気オーバーレイおよび開放ヘッドスペースを有する撹拌式2Lバイオリアクターで標的試行を行った。インキュベーション中に撹拌を適用しなかった。プロセスパラメータを表14に収載し、分析結果を表15に示す。
【0152】
【表14】
【0153】
【表15】
【0154】
3試行すべてが、CEXによる活性に関して同様の結果をもたらす。これは、4.0mMシステインが抗体の活性を回復させるのに十分なものであることを示す以前のDoE研究の結果に対応する。第3の標的試行(REACT021)にはシスチンを含めず、その結果、CE-SDSによる純度について試行1(REACT019)と匹敵する結果となり、これは、試験した条件下ではシスチンがシステイン処理ステップに対してほんのわずかな影響しか与えないことを示唆していた。8.0mM(システインのタンパク質に対する比 約91)へのシステイン濃度の増加は、CEXによるより高い活性値につながるばかりでなく、そのプールにおけるCE-SDSによるより低い純度にもつながり、その結果、90%の開発目標を下回った。シスチンはこの統計学的計画において有意性を示したが、プラスの効果は標的試行では検出できなかった。加えて、この統計学的計画においてCEXによる活性に対する影響は小さく(図5を参照されたい)、シスチン含有緩衝液の調製は、非塩基性緩衝液へのシスチンの低い溶解度のため困難である。それ故、シスチンをシステイン処理用緩衝液に含めないことができる。
【実施例6】
【0155】
システイン選択的還元ステップ開発研究:応答局面計画2
実施例6.1-研究計画および方法
応答局面計画2(DoE3)の主な目的は、システイン濃度に加えて、システイン処理ステップにおけるプロセスパラメータ温度、時間およびpHの調査であった。これらのデータを、操作範囲の定義を裏づけることおよび主要影響因子を特定することにも使用した。Modde 9.0(Umetrics)ソフトウェアを使用して、この開発研究を分析した。入力パラメータは、表16に見出される。
【0156】
【表16】
【0157】
この計画は、3つの中心点試行を伴う中心複合面(CCF)計画である。この実験計画プランを表17に与える。システイン処理溶液を前の実験で向上させので、さらなるプロセスパラメータの影響を評価するためにこの計画を選択した。システイン濃度は、システイン処理ステップの最も影響の大きい入力パラメータであり、入力パラメータとの交互作用が予想されたので、システイン濃度を再び分析した。このタイプの計画は、線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。
【0158】
【表17】
【0159】
水浴に入れ、37℃に加温した15mL密閉式ポリプロピレン製試験管で、選択的還元反応を行った。
【0160】
実施例6.2-応答局面計画2の結果
この計画は、表18の実際の実験計画に従って行った。
【0161】
【表18】
【0162】
製品品質出力パラメータについての値を、CEX活性結果についての昇順で表19に収載する。製品品質出力パラメータのモデル診断は、CEXによる活性についてはR=0.93、Q=0.80、モデル有効性=0.79、およびSD=0.42であり、CE-SDSによる純度についてはR=0.96、Q=0.89、モデル有効性=0.67およびSD=0.00である。
【0163】
【表19】
【0164】
表19は、試行を主に3群:低活性(<93%)、中活性(93~95%)および高活性(>95%)に分けることができることを示す。良好なモデル適合度のため、システムの主要影響パラメータを特定するためにコンタープロットを使用することが可能である(図6)。図6は、中~高インキュベーション時間(例えば4~7時間)および高システイン濃度がCEXによる活性を増加させるのに有益であることを示す。インキュベーション温度およびプロセスpHは、出力パラメータCEXによる活性に殆ど影響を与えない。それにもかかわらず、95%以上の純度についての面積は、37℃でpH8.0および8.5のプロットでは最大であり、このことは、これが最適操作範囲であることを示唆している。
【0165】
表20に、試行をCE-SDS純度の増加に応じて収載する。試行を3群:低純度(<82%)を有する試行、中純度を有する試行、および高純度(>90%)を有する試行に分けることができる。CD-SDSによる高い純度を有するすべての試行は、2mMシステインを用いた。
【0166】
【表20】
【0167】
良好なモデル適合度のため、プロセスおよび主要影響入力パラメータを理解するためにコンタープロットを使用することができる(図7)。図7は、中~高インキュベーション時間および低いシステイン濃度がCE-SDSによる純度を増加させることを示す。入力パラメータインキュベーション温度およびプロセスpHは、CE-SDSによる純度に対してわずかな影響しか与えなかった。
【0168】
実施例6から引き出された要約および結論
温度は中心から高まで様々であってよく、pHは中心から高まで様々であってよく、時間は中心から高まで様々であってよいが、システイン濃度を低レベルで保持したとき、開発目標は達成される。高い製品品質につながる入力パラメータ範囲の推定を助長するために、モンテカルロシミュレーションを使用する計画空間推定器を実行した。このシミュレーションのために、CEX活性については>93%およびCE-SDS純度については>90%の目標を設定した。モンテカルロシミュレーションにより、温度は38.6℃~39.7℃の間で様々であってもよいが、理想的には39.1℃であるとき、これらの品質目標が達成されると予測された。インキュベーション時間は、4.0時間~6.0時間の間の様々であってもよいが、5.0時間が理想である。pHについては、理想は8.2であり、8.15~8.25まで様々であってよい。最後の入力パラメータシステイン濃度については、予測される理想は2.4mMであり、2.2mMから2.5mMまで様々であってもよい。これらの範囲内で、計画空間推定器により、製品品質出力パラメータCEXによる活性についての予測DPMO(100万回の操作当りの欠陥数)値は110となり、CE-SDSによる純度についてのDPMO値は20となることが判明した。これは、CEXによる活性についての目標限界である100万のうち110回が達成されず、CE-SDSによる純度についての目標限界である100万のうち20回が達成されないことを意味する。
【0169】
コンタープロットの結果に従って、および前の開発研究(DoE1およびDoE2)の結果を考慮に入れて、インキュベーション温度の目標を37℃に設定した。インキュベーション時間目標を4時間(240分)に設定し、本実験の設定と同様に、製造規模の応用については考慮されることになる加熱および冷却時間を含まなかった。加熱および冷却時間と併せて、おおよそ6時間の全プロセス時間が適用されることになる。pHのCE-SDSによる純度に対する影響は検出できず、CEXによる活性に対する影響は小さい。それ故、目標を8.0に設定した。これは十分に試験範囲内であり、CEXによる活性についての開発目標を安全に達成することができ、CEXによる(塩基性条件によって増進される)酸性バリアント形成のリスクを減少させることになるからである。入力パラメータシステイン濃度の結果は、2.4mMの低い最適レベルを示すが、2mMシステインを用いる殆どの実験は、CEXによる活性が所望したものより低い結果となった。これは、標的試行の結果と併せて、システイン濃度の目標が、確認試行中、より高い、すなわち4mMであるべきであることを示唆している。
【実施例7】
【0170】
プロセス比較および連続撹拌の分析
実施例7.1-プロセスB2とプロセスCの比較
実施例6で説明した考慮事項は、選択的還元を今まで製造規模で行われていたもの(本明細書におけるプロセスB2)より高いタンパク質濃度および低いシステイン濃度(4~6mM)で好ましく行うことができることを示唆した。表21は、以前のプロセスB2と提案プロセスCについて入力パラメータを比較するものである。水浴に入れ、37℃に加温したポリプロピレン製試験管の中で、50mL規模で、比較試行を2回ずつ行った。結果を表22に示す。
【0171】
【表21】
【0172】
【表22】
【0173】
表22は、プロセスCの改良システイン処理が、CE-SDS純度の有意な増加とともにCEXによる活性の非常にわずかな減少をもたらすことを示す。選択的還元ステップ中のタンパク質濃度増加およびシステイン濃度減少(すなわち、システインのタンパク質に対するより小さいモル比)によって、CE-SDSによるより高い純度値が得られる。これは、より低い還元力につながるにもかかわらず、この還元力は、セクキヌマブの適切活性を確保するのになお十分なものである。
【0174】
実施例7.2-インキュベーション中の連続撹拌についての試験
プロセスB2による臨床製造の間、37℃でのインキュベーション段階中の不均一性を回避するために間欠混合(1時間につき2分)を適用した。インキュベーションを通して均一性を保証するために連続撹拌を使用することの実行可能性を2Lバイオリアクター(試行REACT029)で試験した。この実験設定およびプロセス条件を表23に示す。
【0175】
【表23】
【0176】
REACT029について、CE-SDSによる純度は96%であり、CEXによる活性は92.7%であった。この活性は、撹拌せずに小規模で行った試行REACT030およびREACT031(提案プロセスC)によって示されたものより低いCEX活性である。したがって、連続混合に起因するシステイン処理溶液への酸素移動増加は、システインの還元力を抑制した。それにもかかわらず、システイン処理プールにおけるCEXによる活性は品質目標に近かった。酸素移動および表面/容量比は製造規模への拡大に伴って減少するので、この実験を高い酸素移動に関する最悪ケースと考えた。それ故、プロセス溶液の均一性を確保するためにパイロット規模の試行(「プロセスC」)には連続混合を使用した。
【0177】
実施例5~7から引き出された要約および結論
本発明者らは、システイン処理中のタンパク質濃度を3倍増加でき、このことがプロセス容積を有意に減少させるということを断定した。本発明者らは、より低いシステイン濃度によって、システイン処理後に同様の製品活性およびCE-SDSによる製品純度増加が得られるということも立証した。したがって、より低いシステイン:タンパク質比によって高品質の製品を確保することができる。
【0178】
データは、温度およびpHがシステイン処理ステップに対して小さい影響しか及ぼさないこと、ならびに高品質の製品を得るためにシステインの酸化型-シスチン-の添加が必要でないことも示す。インキュベーション時間は5時間で理想を示したが、本発明者らは、目標を4時間に設定し、本実験の設定と同様に、製造規模の応用中に考慮しなければならない加熱および冷却時間を含まなかった。能動的曝気を伴わない開放条件下での連続撹拌を選択的還元法で使用することは実行可能であるようであったが、本発明者らが後の実施例で示すように、溶液への酸素移動を(例えば、低/緩速撹拌を使用して)制限すべきである。
【実施例8】
【0179】
パイロット規模でのプロセス確認
プロセス向上後の提案精製条件を7Lパイロット規模でのプロセス確認によって試験して、第1の拡大を行い、プロセスの再現性および堅牢性に対する第一印象を得た。プロセスCによる選択的還元ステップ(表21)をパイロット規模実験(REACT035)で使用した。連続撹拌を適用した。溶存酸素濃度をpOプローブによって測定した。
【0180】
確認試行1による選択的還元ステップ後のREACT035のCEXによる活性化は、90.4%に過ぎなかった。溶存酸素曲線(図8を参照されたい)の分析によって処理の最初の3時間にpOの着実な減少があることが明らかになった。これは、撹拌によって誘発される溶液への酸素移動より速い酸素消費が溶液中で起こることを示す。本発明者らは、酸素消費がシステイン試薬(Cys-SH)のシスチンへまたはシステイン酸(Cys-SO)への酸化に起因すると推測する。したがって、最後の反応時間における酸素レベルの増加は、システイン試薬が消費されてしまったこと、そして撹拌に起因する溶液による酸素取り込みが可視化することを示す。これは、システインの還元力がこの処理の最後の期間に有効でないことを含意し、このことによって、この試行から得られる活性減少が説明できよう。
【0181】
実施例8.1-確認試行1中のシステインステップの調査
第1のパイロット規模試行REACT035においてCEXによって判定された低い活性(90.4%)の根本原因を調査するために、可能性のある影響因子を評価した。上で述べたように、低いシステイン濃度、反応中の長時間の撹拌による酸素の導入、および規模変化(反応容量増加)は、不十分な還元力をもたらしうる。それ故、インキュベーション中の撹拌機速度およびシステイン濃度を評価した。
【0182】
実験プラン、および出力パラメータCEXによる活性を表24に示す。この実験では、溶存酸素濃度をpOプローブによって測定した。
【0183】
【表24】
【0184】
3つのより小規模の反応(REACT038、REACT039およびREACT040)すべてが、確認試行1(REACT035)と比較してCEXによる活性の向上を示した(表24)。しかし、CEXによる対応する活性は、システイン濃度を上昇させた実験(REACT040)においても、インキュベーション時間中に連続混合しなかった実験(REACT038)においても、REACT039と比較して増加されなかった。それ故、システイン濃度もインキュベーション中の撹拌もこの時点では主要影響因子として特定することができなかった。それにもかかわらず、パイロット規模確認試行1(REACT035)の溶存酸素(dO)プロファイル(図8)は、おおよそ3時間のインキュベーション後にdOの増加を示した。これは、システインの還元力が消耗されたことを示す。連続撹拌を行わなかった2つのより小規模の実験REACT039およびREACT040のdOチャートは、処理の最後に向かってdOの増加を示さず(データを示さない)、これは、システインの還元力がこれらのより小規模の実験では消耗されなかったことを示す。
【0185】
実施例8.2-確認試行2中のシステインステップの調査
充填容量は、確認試行1の場合のような7Lではなく14Lであり、2台の撹拌機(底部で半径流撹拌機、加えて、上部で軸流撹拌機)を撹拌に使用した。システイン濃度(4mM)および撹拌機速度(100rpm)は、確認試行1、REACT035と同じであった。選択的還元後、抗体溶液の活性は、CEXによって測定して85.5%に過ぎなかった。図9に示すdOチャートによると、システインの還元力は、確認試行1中のより早期でさえ消耗された(図8)。これは、連続撹拌による溶液への酸素移動がこの試行でのほうが顕著であったことを示唆している。
【0186】
図8~9)でのdO曲線の傾向は、連続撹拌によるヘッドスペース全体にわたっての酸素移動が、確認試行1および2中の選択的還元後のより低い活性の主な根本原因であることを示唆している。確認試行1での7L充填容量に関しては、1台だけの撹拌機(底部の半径流撹拌機)をシステイン処理ステップのプロセス溶液に沈めた。確認試行2での14L充填容量に関しては、2台の撹拌機(底部に半径流撹拌機および上部に軸流撹拌機)をプロセス溶液に沈め、その結果、溶液への酸素移動がさらにいっそう増加した。それ故、確認試行2のよりいっそう不良な結果は、プロセス溶液への酸素移動上昇にほぼ確実に起因し、このことをdO曲線によって見ることができる(図9)。確認試行2についての溶液へのより高い酸素移動に起因して、システインの還元力はより早期に消耗され、その結果、CEXによる活性がより低くなる。それ故、プロセス中間体への酸素移動を、例えばインキュベーション中の混合(速度、継続期間および頻度)の調整によって、制限すべきである。
【0187】
実施例8.3-確認試行3中のシステインステップの調査
充填容量は、確認試行2の場合のような14Lではなく16Lであり、撹拌プロファイルを適応させた。システイン処理中に連続撹拌ではなく、以前のプロセスB2に対応する1時間に2分間の混合のみを適用した。選択的還元ステップ後にCEXによって測定した抗体溶液の活性は、92.5%であった。
【0188】
システイン処理ステップに連続混合を含めないことから酸素移動が制限され、その結果、十分な還元力が確保され、CEXによる活性が高くなった。図10に示すdOチャートは、処理を始めた頃に酸素レベルの-ほぼゼロ%への-急激な減少を示す。この実験は、システイン処理中に導入された酸素量の調整によって適切な反応条件が確保され、そしてその結果としてCEXによる高い活性が確保されることを立証する。
【0189】
実施例8.4-確認試行4中のシステインステップの調査
確認試行3の結果に基づいて、第4のパイロット規模確認試行(REACT040)を、確認試行3のものと同一の設定およびプロセス条件で行った。しかし、確認試行4のプロセスが溶液へのより高い酸素移動を取り扱うことができるように、このプールにおけるシステイン処理を4mMから6mMに増加させた。この増加した還元力と起こりうる抗体過剰還元とのバランスをとらなければならない。それにもかかわらず、REACT040の結果(表24を参照されたい)に基づいて、この適応は、失敗のリスクが低い変更を表す。選択的還元ステップ後のREACT040のCEXによる活性化は、91.9%であった。
【0190】
図11に、確認試行4のdOチャートを示す。確認試行3と同様に、dOは、システイン添加後に減少し、低レベルのままであった。これは、この実験ではシステインの還元力が消耗されず、その上、CE-SDSによって判定される製品純度要求を満たすことを示す。
【0191】
図12では、CEXによる活性およびCE-SDSによる純度に関して確認試行3と確認試行4の反応動態を比較する。CEXによる活性の動態は、両方の実験で同等であり、おおよそ2時間後にプラトーに達し、その後、後続の2時間の処置における活性の増加は小さかった。CE-SDSによる純度の曲線は、反応の初期段階で、より高いシステイン濃度(6mM)での試行におけるほうが純度の降下が顕著である点で、わずかに異なった。しかし、両方の手順がシステイン処理終了時に同等の製品品質をもたらしたので、両方が適切な製品品質の確保に適している。それにもかかわらず、プロセス溶液中の酸素レベル上昇の効果を考えると、確認試行4に適用した、システイン濃度を増加させたプロセスのほうが、システイン処理中のプロセス溶液への酸素移動の変動に対してより堅牢であると予想される。最終的に、6mMのシステイン濃度(13.5mg抗体=65.75:1のシステイン:抗体のモル比[すなわち、約66:1]を有する)を、確認試行4の条件と同一の製造スケールでのシステイン処理ステップに選択した。本発明者らは、約275:1(システイン:タンパク質)のモル比で行った試行でのCEX活性について(1時間中にプラトーに達する)より速い動態にも注目した(データを示さない)。
【0192】
実施例8から引き出された要約および結論
本発明者らは、システイン処理ステップ中の酸素レベル上昇は、システインの還元力を抑制してセクキヌマブのC97の不十分な還元をもたらすその酸素に起因する可能性が高い有害な作用をCEXによる活性に及ぼしうると断定した。大気からのこの酸素取り込みは、生産規模で作業する場合、システイン/タンパク質比を変えること、被定義撹拌速度を使用すること、またはさらには撹拌中断を用いることによってうまく対処することができる。
【0193】
確認試行の結果に基づいて、システイン濃度を4mM(システインのタンパク質に対するモル比43.84)から、反応溶液中に存在する酸素を相殺すると予想される6mM(システインのタンパク質に対するモル比65.75)へと増加させた。さらに、選択的還元反応のインキュベーション段階中に存在する溶存酸素のレベルを低下させるために、連続混合をインキュベーション中、1時間につき2分の混合に置き換えた。選択的還元手順をプロセス確認中に変更するが、明らかな根本原因(選択的還元中に溶液に移動した酸素のレベル)を同定して、その調整したシステイン処理ステップによって原薬におけるCEXによる適切な活性を確実なものにした。
【実施例9】
【0194】
選択的還元ステップの特性解析
選択的還元ステップに対する入力パラメータタンパク質濃度、システイン濃度および撹拌機速度の影響を統計学的計画で評価した。出力パラメータCEXによる活性およびCE-SDSによる純度を使用して、選択的還元ステップ後の製品品質を評価し、入力パラメータの立証された許容範囲を定義した。出力パラメータ範囲は、以前の計画プロセスに従って定義した。これらの制約を用いて、入力パラメータ範囲を定義した。
【0195】
加えて、3つの縮小モデル適格性確認試行の結果、および製造規模で行った7つの選択的還元サイクルの結果を使用して、還元力に関する最悪/最良ケース研究のために選択的還元後の製品品質を評価し、インキュベーション時間およびインキュベーション温度についての専用試行を評価した。
【0196】
実施例9.1-プロセス特性解析応答局面計画
実施例9.1.1-実験計画および方法
タンパク質含有量、システイン濃度、およびインキュベーション中の撹拌モード(撹拌なし、50または100rpmでの連続撹拌)を応答局面計画の入力パラメータとして選択した。表25を参照されたい。
【0197】
【表25】
【0198】
「TITR3添加による希釈係数」と表現する、様々なシステイン濃度を用いた。これは、プロセス条件および潜在的変動を反映し、潜在的変動は、例えば、計量の不正確さ、溶液添加の不正確さなどによって誘導される。抗体濃度はシステインのタンパク質に対する比に寄与するため、潜在的交互作用を検出するために抗体濃度も本研究の中で試験した。加えて、インキュベーション中の撹拌機速度を入力パラメータとして試験した。なぜなら、実施例8に示すようにヘッドスペースから溶液への酸素移動は選択的還元ステップに影響を及ぼすからである。
【0199】
3つの中心点試行を用いる中心複合面計画(Central Composite Face Design)を使用した。このタイプの計画は、線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。製造規模試行B012307に由来するセクキヌマブ、INAKT.F(-60℃未満で保存したもの)を使用した。プロセス特性解析に使用した緩衝液は、Titration Buffer AIN457-TITR1(1M Tris塩基、pH10.8[pH範囲≧10.0;導電率0.10~0.30mS/cm])、Titration buffer AIN457-TITR2(0.3M o-リン酸、pH1.4[pH範囲≦2.0;導電率範囲19.5~22.7mS/cm])、Titration buffer AIN457-TITR3(120mMシステイン-HCL+20mM EDTA二ナトリウム、pH8.0[pH範囲7.8~8.2;導電率範囲14.7~18.3mS/cm])であった。
【0200】
適格な縮小モデル(実施例10で詳細に説明する)を用いて、撹拌式バイオリアクター(最大容量2L)で、周囲雰囲気で、自由空気交換で、pH、溶存酸素、撹拌機速度および温度をモニターしながら、実験を行った。この実験計画プランを表26に示す。個々の研究の一部でない入力パラメータはすべて、表27に従ってそれぞれの目標値で一定に保った。
【0201】
【表26】
【0202】
【表27】
【0203】
INAKT.Fをハンド温水浴(hand warm water bath)で解凍し、WFIで目標濃度に希釈した。pH調整後、dOプローブと撹拌機とを装備した適格な2Lバイオリアクターに1Lの溶液を移入した。表28に収載するシステイン目標濃度を達成するように算定した容量のシステインストック溶液(TITR3緩衝液)を添加することによって、選択的還元を開始した。溶液を50rpmの撹拌下で60分以内に37℃のインキュベーション温度に加熱した。次いで、実験計画プランに従って50もしくは100rpmで連続撹拌しながら、または撹拌せずに(0rpm)、300分間、37℃で溶液をインキュベートした。300分の反応時間(60分加熱および240分インキュベーション)後、試料を抜き取った(REACT.PT300)。37℃でのさらなる60分のインキュベーション(60分加熱および300分インキュベーション)の後、溶液を50rpmの撹拌機速度で60分以内に周囲温度に冷却し、別の試料を抜き取った(REACT.P、全反応時間420分)。この手順が2時点で計画(「REACT.PT300」および「REACT.P」と呼ぶ)の評価およびインキュベーション時間の潜在的影響の評価を可能にする。
【0204】
実施例9.1.2-応答局面計画の出力パラメータ
試料REACT.PT300およびREACT.Pについての製品品質出力パラメータの値を表28(REACT.PT300試料におけるCEX活性の昇順)および表29(REACT.P試料におけるCEX活性の昇順)に収載する。一般に、データは、CE-SDSによる純度がすべての試行において高かった(>90%)が、一部の試行がCEXによるより低い活性(<90%)を有したことを示す。REACT.PT300試料におけるCEX活性(表28)に関しては、低い活性(89.4%)を有する試行が1つあった。この試行(REACT085)において、システイン濃度は下限であり、抗体濃度は高く(したがってシステイン対タンパク質のモル比は最低であり)、撹拌速度は最高(最高酸素移動速度)であった。また、撹拌を行わなかったすべての試行を含む、高い活性(96%超)を有する8試行の1群があることが分かる。
【0205】
【表28】
【0206】
表29に示すように、REACT.P試料におけるCEX活性に関しては、より低い活性(<94%)をもたらす6試行の1群があった。この群は、高い撹拌機速度を有するすべての試行を含む。注目に値することとして、撹拌を伴わないすべての試行は、最高CEX活性(96%超)をもたらした。CEX活性がREACT.P試料において100rpmで行った試行で(REACT.PT300試料におけるCEX活性と比較して)低下し、および50rpmで行った試行で(然程顕著でないが)低下したことも、表29から分かる。これらの試行での最高の低下は、システインのモル比が下端であったときに見られる(例えば、モル比が約46:1であったREACT085における89.4から84.0%への低下、ならびにREACT075、REACT084およびREACT072における同様の低下)。
【0207】
【表29】
【0208】
この統計的診断(表30)は、両方の時点のCE-SDSによる純度についてのおよび選択的還元終了時のREACT.PのCEXによる活性についての統計的に有意なモデルを示す。REACT.PT300のCEXによる活性についてのモデルは、より低い統計的有意性(0.15のQ)を示す。
【0209】
【表30】
【0210】
実施例9.1.2.1-時点1(REACT.PT300)での製品品質出力パラメータのモデリング評価
時点REACT.PT300でのCEX活性についての係数プロットおよびコンタープロットは、入力パラメータインキュベーション中の撹拌機速度(stir)がCEXによる活性に影響を及ぼすことを明示する(データを示さない)。パラメータタンパク質濃度(contA)およびシステイン濃度(dil-c)は、調査範囲内でCEXによる活性に対する統計的に有意な影響を示さない。CEXによる高い活性を達成するために、インキュベーション中の撹拌機速度は低くあるべきである。
【0211】
表29に示すように、時点REACT.PT300でのすべての実験は、CE-SDSによる少なくとも90%の純度を有した。係数プロット(データを示さない)は、3つの入力パラメータすべてがCE-SDSによる純度に影響を及ぼすことを明示する。ALCによる含有量(contA)および撹拌機速度(stir)についての2次の項もある。TITR3添加による希釈係数(システイン濃度を表すdil-c)と撹拌機速度の交互作用項があり、TITR3添加による希釈係数とALCによる含有量の交互作用項もある。このコンタープロット(データを示さない)において可視化したときのモデル係数は、高い撹拌機速度、TITR3添加による高い希釈係数(それぞれ、低いシステイン濃度)、およびALCによる中~高含有量が、CE-SDSによる純度に良い影響を与えることを示す。これらの設定すべてが、システインの還元力を低下させ、抗体完全性に良い影響を与える。それにもかかわらず、すべての試行はCE-SDSによる高い純度を有するので、調査した全入力パラメータ範囲が、選択的還元後のCE-SDSによる適切な純度の確保に適している。
【0212】
実施例9.1.2.2-時点2(REACT.P)での製品品質出力パラメータのモデリング
時点REACT.PでのCEX活性についての図13Aの係数プロットおよび図13Bのコンタープロットは、特に入力パラメータ撹拌機速度(stir)がCEXによる活性に対して影響を及ぼすことを確認するものである。したがって、CEXによる高い活性を達成するために、インキュベーション中に行う撹拌を最小限にして、溶液への酸素移動を制限すべきである。また、TITR3添加による低い希釈係数(dil-c、それぞれ高いシステイン濃度)は、選択的還元後のCEXによる活性に有益である。加えて、撹拌機速度とTITR3添加による希釈の交互作用は、CEXによる活性に対して-小さいが-有意な影響を及ぼすが、ALCによる含有量とTITR3添加による希釈係数の交互作用は不明確である。ALCによる含有量に対する影響は有意でない。これらの結果は、還元力を増加させる条件、例えば、最小撹拌速度による限られた酸素移動、およびより低い希釈によるより高いシステイン濃度が、CEXによるより高い活性をもたらすことを明確に示す。
【0213】
表29に示すように、時点REACT.Pでのすべての実験は、CE-SDSによる少なくとも90%の純度を有した。CE-SDS純度についての係数プロットおよびコンタープロット(データを示さない)は、入力パラメータALCによる含有量(タンパク質濃度を表す)、TITR3添加による希釈係数(システイン濃度を表す、dil-c)、および撹拌機速度(酸素移動を表す、stir)が、CE-SDSによる純度に対して小さい影響しか与えないことを明示する。撹拌機速度は二次効果を示し、TITR3による希釈係数と撹拌機速度の交互作用は、統計的に有意である。CE-SDSによる純度は、中~高撹拌機速度およびTITR3添加による高い希釈係数によって向上する。これらの設定は、システインの還元力を低下させ、抗体完全性に良い影響を与える。それにもかかわらず、すべての試行はCE-SDSによる純度の指定範囲を満たすので、調査した全入力パラメータ範囲が、選択的還元ステップ後のCE-SDSによる適切な純度の確保に適している。
【0214】
実施例9.1.2.1-溶存酸素レベルと出力パラメータの関係
表26に示す反応の酸素プロファイルを分析して、入力パラメータ撹拌速度、抗体含有量およびシステイン濃度の酸素レベルに対する影響を判定した。これらの酸素プロファイルのグラフを図14に提供する(注記:x軸の0~1.00は、撹拌がすべての試行において50rpmであった1時間加熱段階に対応し、1.00~6.00は、撹拌が0rpm[すなわち、撹拌なし]、50または100rpmいずれかであった5時間インキュベーション段階に対応し、6.00~7.00は、撹拌がすべての試行において50rpmであった1時間冷却段階に対応する。すべての試行は、溶存酸素の初期段階での低レベルへの減少を示す。注目に値することとして、この減少は、低い抗体含有量を有する試行では然程顕著ではなく(0rpmシリーズの試行REACT090およびREACT080(図14A)、50rpmシリーズのREACT086(図14B)ならびに100rpmシリーズのREACT084およびREACT091(図14C)を参照されたい)、高い抗体含有量を有する試行で最も顕著であった(図14の15.4mg/mLでの試行のグラフのプロファイルを参照されたい)。
【0215】
インキュベーション中に撹拌のないすべての試行(図14A)において、dOレベルは、インキュベーション段階中も冷却段階中も約20%未満のままであった。また、REACT086を除いて、インキュベーション中に50rpm撹拌を使用した試行(図14B)では、50rpm撹拌によって可能になったインキュベーション段階での酸素移動にもかかわらず、インキュベーション段階中も冷却段階中もdOレベルは約20%未満にとどまった。しかし、システイン濃度が低かった(4.8mM)、試行REACT072では、最終冷却段階で酸素レベルのわずかな増加を見ることができる。インキュベーション中に100rpm撹拌を用いる試行(図14C)は、非常に異なるプロファイルを示した。第一に、上で述べたように、低い抗体含有量(10mg/mL)を有する試行(REACT084およびREACT091)は、より遅いdO減少を示し、インキュベーション段階の間その減少が継続した。しかし、システイン濃度が低かった(4.8mM)、試行REACT084では、インキュベーションの最後の時間である時間5.00および6.00中にdOレベルがほぼ飽和レベルまで増加した。そのような増加が試行REACT085ではより早い時点(時間4.00)でも観察された。REACT085はまた、高抗体含有量(15.4mg/mL)だが低レベルのシステインを使用した。dOレベルの増加は、試行REACT075では冷却段階(時間6.00~7.00)中にも観察された。試行REACT075でのシステイン濃度は中レベル(6.0mM)であった。
【0216】
これらのプロファイルは、酸素が反応混合物においてその混合物からヘッドスペースに移動するより速い速度で消費されること、およびより高い抗体濃度を有する試行では酸素消費がより速いことを示す。そしてまたこれは、抗体自体がdO消費を誘発しうることを示唆する。低いシステインレベルを有する試行での選択的還元のより後の段階における酸素の増加は、酸素消費がシステイン(Cys-SH)との反応に、高い確実性で次のように、関連づけられることを示す:4Cys-SH+O→2Cys-SS-Cys+2HO および/または2Cy-SH+3O2→2Cys-SOH。実際、速度は、試行REACT085ではおおよそ4時間後、および試行REACT084では5時間後にすべてのシステインを消費するほど速かった(図14C)。システインの消費後には、dOレベルが飽和レベル(100%O)に回復した。
【0217】
酸素消費に対する抗体の影響を研究するために、本発明者らは、6mMシステインおよび50rpmの撹拌機速度を使用して50mL規模で2つのさらなる試行を行った。一方の試行では、抗体濃度は12.7mg/ml(システイン:抗体のモル比=69.89:1、すなわち約70:1)であり、他方の試行では、抗体濃度はゼロであった。図14Dに示すように、抗体なしの試行では、最初の1時間のうちにdOのおよそ75%への減少があり、この時間の間に反応温度は20℃から37℃に上昇された。dOのこの75%減少は、報告されている20℃での8.9mg/Lから37℃での6.6mg/LへのdO飽和濃度減少(U.S. Geological Survey TWRI Book 9, April, 98)とよく適合する。dOレベルは、インキュベーション段階の残りの時間の間、一定のままである。冷却段階が(6時間後に)始まると、37℃から20℃への温度の低下に起因してdOレベルの増加がある。したがって、抗体不在下では、溶液における酸素消費はなく、システインによる酸素の消費が緩速で起こり、したがって、撹拌に起因するヘッドスペースからの酸素移動が直ちにその消費を代償する。対照的に、抗体がある試行では、最大でおおよそ5.5時間までdOレベルの着実な減少がある。インキュベーション段階の最後の0.5時間に、dOレベルのわずかな増加があり、その後、冷却層中(すなわち、時間6~7)にdOレベルのより強い増加がある。したがって、この抗体含有試行では、すべてではないがほぼ確実に、5.5時間後にはシステインが消費された。実際、この試行のアミノ酸分析(データを示さない)は、システインのほぼ完全な消費に対応する、シスチンレベルの上昇を示した。
【0218】
この情報を用いて、一部の試行において認められたCEXによる低い活性をdOプロファイルと相関させることが可能である。試行REACT085(図14C)(システイン:抗体のモル比約46:1)は、システインが4.00時点後には消費されて、抗体の完全還元に至ったので、REACT.PT300(5.00時間時点からの試料)でCEXによる89.4%活性を有した(表28を参照されたい)。より遅い時点REACT.P(終点7.00時間からの試料)でのREACT085(図14C)は、システイン不在下での反応の最終段階における高い酸素レベルが抗体の酸化的分解ともたらしたので、CEXによるよりいっそう低い活性(84.0%、図29を参照されたい)を有した。試行REACT084(図14C)(システイン:抗体のモル比約71:1)およびREACT075(図14C)(システイン:抗体のモル比約71:1)は、より遅い時点REACT.Pで相対的に低い活性を有する2つの別の試行であったが、活性は、より早いREACT.PT300時点では高かった。これらの試行では、抗体の還元は、時点5.00時間(REACT.PT300時点)で完了するようであったが、増加したdOレベルおよびシステイン不在のため、より遅い時点REACT.Pまでに分解が起こった。同様に、試行REACT072についてより遅い時点REACT.Pで認められる相対的に低い活性(90.2%)(システイン:抗体のモル比約56:1)は、反応の冷却段階中の酸素レベルの増加によって説明される。0rpmでの試行で(抗体含有量が高く、システイン濃度が低い[システイン:抗体のモル比約46:1]、試行REACT082でも)得られる高い活性は、酸素移動速度が低く、したがってシステイン消費がほんのわずかであり、その結果、還元のより遅い冷却段階中の酸化的分解に対する完全還元(およびまた保護)が保証されるため、起こった。
【0219】
要するに、酸素が還元剤(システイン)を消費し、その消費が抗体自体によって媒介される(または加速される)ので、還元システム内での酸素移動を少なく保つべきである。したがって、このシステイン消費には二重の影響がある:1)システインの還元力の低下は、より早い時点REACT.PT300でのCysL97-SHの不完全な脱遮断につながり、2)脱遮断されたCys97LをREACT.P300~REACT.Pの時間の間、保護するのに利用できる残留システインがない場合には、脱遮断されたCys97L-SHの再酸化が起こりうる。
【0220】
実施例9.2-プロセス特性解析:最悪/最良ケースのシナリオ
最悪/最良ケースの研究の主な目的は、実験計画(DOE)研究中に試験しなかったが、プロセスリスク分析において重要である可能性があると評価された、選択的還元ステップの入力因子の特性解析であった。このデータは、立証された許容範囲を定義することおよび入力パラメータの製品特性に対するそれらの影響に基づく分類を支援することにも使用した。
【0221】
実施例9.2.1-実験計画および方法
加熱時間増加を有意である可能性があると評価した。加熱時間増加は、長時間の撹拌継続時間のため選択的還元溶液への酸素移動を増加させ、その結果、システインのシスチンへの変換によって、およびしたがって抗体のより少ない選択的還元によって、還元力が低下されることになりうるからである。同じ理由で、初期dOレベルの向上を有意である可能性のある入力パラメータとして評価した。
【0222】
システインのスルフヒドリル基の酸化は、pH依存性である。それ故、pHの影響を有意である可能性がある入力パラメータとして評価した。
【0223】
高い還元力は、抗体の過剰還元をもたらすことがあり、長時間の冷却時間は、抗体再構築を促進することもあった。したがって、長時間の冷却時間も、有意である可能性がある入力パラメータとして評価した。
【0224】
温度は、前のプロセス開発中に既に試験した(32~42℃)が、有意である可能性があると評価した。典型的に、化学反応速度は、より低い温度で減少する。したがって、専用試行において上限と下限の動態を決定した。
【0225】
インキュベーション時間も調査した。少ないインキュベーション時間は、選択的還元プール中の過剰還元製品のより高いレベルをもたらすことがあった。逆に言うと、長時間のインキュベーション時間は、応答局面計画結果で示されるように、CEXによるより低い活性につながることもあった(表29を参照されたく、REACT.PT300およびREACT.P試料のCEX活性を比較されたい)。
【0226】
3つの最悪/最良ケースシーケンスを定義して、上で説明したパラメータの選択的還元ステップに対する影響を評価した。最悪/最良ケースシーケンスでの還元力を評価するための入力パラメータを表30に示す。第2の最悪/最良ケースシーケンスを作成して、選択的還元ステップに対する温度の影響を評価した(表31)。インキュベーション時間の影響を表32に収載する入力パラメータに従って第3の最悪/最良ケーススタディで評価した。これらの最悪/最良ケーススタディの結果を評価するために使用した製品品質出力パラメータは、CEXによる活性およびCE-SDSによる純度である。
【0227】
【表31】
【0228】
【表32】
【0229】
【表33】
【0230】
専用試行を行って、重要である可能性のあるさらなるパラメータの影響を評価した。製造規模試行B008530に由来するセクキヌマブ、INAKT.F(-60℃未満で保存したもの)を使用した。緩衝液AIN457-TITR1、AIN457-TITR2およびAIN457-TITR3は、実施例10において説明する通りである。実験は、開放型撹拌式バイオリアクター(最大2L容積)の適格な縮小モデル(実施例10において詳細に説明する)を用いて、pH、溶存酸素、撹拌機速度および温度をモニターしながら行った。すべての試行に、表27からのプロセスパラメータを適用した。個々の研究の一部でない入力パラメータはすべて、標準シーケンスの操作範囲内の表27中の目標値で一定に保った。
【0231】
実施例9.2.2-最悪/最良シナリオの結果
加熱時間、冷却時間、開始時dOおよびプロセスpHの影響を調査するための実験計画プランおよび出力パラメータ(CE-SDSによる純度およびCEXによる活性)を表33に示す。インキュベーション温度の影響を調査するための実験計画プランおよび出力パラメータ(CE-SDSによる純度およびCEXによる活性)を表34に示す。インキュベーション時間を調査するための実験計画プランおよび出力パラメータ(CE-SDSによる純度およびCEXによる活性)を表35に示す。
【0232】
表33に示すように、高い還元力を有する二重反復試行はもちろん、低い還元力を有する二重反復試行も、CEXによる高い活性、およびCE-SDSによる高い純度を生じさせた。したがって、このプロセスは、試験範囲内の入力パラメータ加熱時間および冷却時間(撹拌を含む)、開始時dOレベル、およびプロセスpHの変動を対象にすることができる。
【0233】
【表34】
【0234】
インキュベーション温度の影響を評価するための実験の結果を、表34に示す。CE-SDSによる純度は常に高いが、CEXよる高い活性が32℃以上の試行でのみ得られたことが分かる。
【0235】
【表35】
加えて、CEXによる活性の動態を異なるインキュベーション温度で判定した。これらの結果を図15に示す。42℃での動態が32℃より速いことが、特に、より後(60分以上)の段階で分かる。しかし、両方の温度で、240分およびREACT.Pにおいて同じプラトーに達する。18℃で、反応速度はより遅く、その結果、試験したステップ継続時間内でCEXによる活性の増加がより低くなる。
【0236】
インキュベーション時間の影響を評価するための実験の結果を、表35に示す。すべてのケースで高い活性および純度が得られた。
【0237】
【表36】
【0238】
実施例9.3-プロセスパラメータの分類および正当化
実施例9.3.1-応答局面計画研究:許容範囲
CE-SDSによる純度は、すべての実験において、時点1(REACT.PT300)および選択的還元終了時(REACT.P)に少なくとも90%であった。CE-SDSによる高レベルの純度を達成するために、入力パラメータTITR3添加による希釈係数を高く設定すべきであり、撹拌機速度を中心から高速に設定すべきである。これらの条件は、より低いシステイン濃度およびヘッドスペース全体にわたっての酸素移動増加に起因して、低い還元力に対応する。入力パラメータALCによる含有量、すなわち抗体濃度には、選択的還元ステップ中の時間点1(REACT.PT300)において有意な影響力があり、理想は中心点付近である。CE-SDSによる純度の絶対値に対する抗体濃度(ALCによる含有量)の影響は、調査した範囲内では小さい。それにもかかわらず、すべての実験で指定純度値を満たし、パラメータALCによる含有量(抗体濃度)、TITR3添加による希釈係数(システイン濃度)および撹拌機速度(酸素移動)について調査した全範囲が、選択的還元後のCE-SDSによる適切な純度の確保に適している。
【0239】
CEXによる活性は、時点1(REACT.PT300)にREACT085を除くすべてについて少なくとも90%であった(表28を参照されたい)。この実験は、より高い酸素移動を表す、その高レベルの撹拌機速度で行った。期待に反して、さらなる2つの実験(REACT075およびREACT084、表29を参照されたい)が93%未満のCEXによる活性を示したので、より長いインキュベーション時間(すなわち、さらなる60分、時点REACT.P)は、出力パラメータCEXによる活性に対して特に有益ではなかった。これらの実験は、低いシステイン濃度、およびヘッドスペース全体にわたっての酸素移動増加を表す、高い撹拌機速度、またはTITR3添加による高レベルの希釈係数のどちらかを有する。これらの結果は、CEXによる最高活性を達成するために、入力パラメータ撹拌機速度を低レベルに設定すべきであり(低い酸素移動を含意する)、TITR3添加による希釈係数を中心点または低レベルに設定すべきである(より高いシステイン濃度を含意する)ことを示唆している。抗体濃度を表す、入力パラメータALCによる含有量は、これらの実験におけるCEXによる活性に有意な影響を与えなかった。
【0240】
ヘッドスペースから溶液への酸素移動を媒介する入力パラメータ撹拌機速度は、選択的還元ステップに重要であり、CEXによる適切な活性を確保するために撹拌速度をそのより低いレベルに設定すべきである。さらなる製造規模試行(B018838、データを示さない)に従って1時間につき最大15分の撹拌を試験し、その結果、選択的還元ステップ後に許容可能な製品品質を得た。しかし、実施例8の結果は、撹拌による酸素移動が規模および設定各々に特有であり、間接的に制御されることを明示する。したがって、例えば、プロセス変更または拡大の場合、インキュベーション中の撹拌条件を評価すべきである。反応溶液へのdO移動レベルを間接的に表す、インキュベーション中の撹拌を、プロセスの視点から有意な入力パラメータとして分類する。
【0241】
入力パラメータALCによる含有量、すなわち抗体濃度、およびTITR3添加による希釈係数、すなわちシステイン濃度は、統計的に有意な効果を示すが、十分に制御され、選択的還元ステップに与える影響が小さい。したがって、それらをプロセスの観点から重要でないものとして分類する。インキュベーション中の混合時間が許容範囲内である限り、調査したシステイン濃度および抗体濃度範囲内の変動は、選択的還元ステップ後に適切なプロセス性能および製品品質をもたらすであろう。これらの入力パラメータの立証された許容範囲を伴うリストを表36に示す。
【0242】
【表37】
【0243】
実施例9.3.2-最悪/最良ケーススタディ:許容範囲
入力パラメータ加熱時間および冷却時間(撹拌を含む)、開始時dOレベルおよびプロセスpHには、表37に示した調査範囲内の製品品質特性CEXによる活性およびCE-SDSによる純度に関して有意な影響力がない。しかし、応答局面計画の経験のために、選択的還元溶液への過度に高い酸素移動は、還元力を低下させるので、避けるべきである。酸素移動は、規模および設定各々に特異的であるが、好気プロセスでは、他のプロセス条件、例えば、撹拌、ヘッドスペースへの気流量によって間接的に制御される。したがって、酸素移動に影響を与える加熱および冷却中の撹拌は、特に、例えばプロセス変更、プロセス移動または拡大の場合、慎重に評価しなければならない。したがって、加熱および冷却時間(撹拌を含む)をプロセスの観点から有意なパラメータとして分類する。加熱および冷却時間(撹拌を含む)について45~90分の範囲を試験したが、許容範囲を≦90分に設定した。これは、90分の加熱および冷却時間(撹拌を含む)は、CEXによる適切な活性およびCE-SDSによる適切な純度をもたらす酸素移動に関する最悪ケースを反映しているためである。
【0244】
【表38】
【0245】
入力パラメータインキュベーション温度を調査する実験の結果は、18℃のインキュベーション温度が遅い反応動態をもたらし、その結果、不十分な再活性化となることを明示する。この低い温度は、240分のインキュベーション時間内にCEXによる活性を93.0%より高いレベルに増加させるのに十分でなかった。それ故、製品品質特性CE-SDSによる純度を18~42℃のインキュベーション温度範囲内で達成することはできるが、選択的還元ステップ後にCEXによる適切な活性を確保するために18~42℃の試験範囲を32~42℃に狭めた。したがって、インキュベーション温度の許容範囲は、下限32℃および上限42℃である。
【0246】
最後に、210~330分インキュベーション時間の試験範囲によって、選択的還元ステップ後のCEXによる適切な活性およびCE-SDSによる適切な純度は確保される。
【0247】
実施例9から引き出された要約および結論
プロセス特性解析研究の結果に基づいて、調査したプロセス入力パラメータの許容範囲を定義した。選択的還元ステップを2つの製品品質出力パラメータCE-SDSによる純度およびCEXによる活性によって特性解析する。パラメータ分類および許容範囲を表38に要約する。PARのシステイン:抗体比は、約46:1~約118:1である。SORのシステイン:抗体比は、約54:1~約83:1である。
【0248】
【表39】
【0249】
選択的還元ステップの開始時、酸素は、システインの還元力を弱めるが、溶液への酸素の連続移動の結果、酸素レベルは上昇し、CEXによる抗体活性は低くなる。しかし、選択的還元ステップの終了時、酸素の導入は、還元力が高い反応開始時に解離した抗体のジスルフィド結合の形成を増進させることができるだろう。したがって、酸素は、非還元CE-SDSによる適切な純度を確保するのに重要である。抗体活性にとっての酸素移動の重要性は、酸素移動、したがってCEXによる製品活性、に対する撹拌機速度の有意な影響が観察された、応答局面計画研究の結果によって立証される(表28および29を参照されたい)。しかし、撹拌機速度は、容器のサイズ、撹拌機のサイズ、撹拌機のタイプなどに依存してdOレベルに異なる影響を与える。したがって、溶液に移動した酸素を物理的設定間で比較するために使用することができる変数を特定することは重要である。
【実施例10】
【0250】
縮小モデルの酸素移動速度(k
前の実施例において、本発明者らは、とりわけ、選択的還元中、特に、インキュベーションステップ中に存在するdOの量が、セクキヌマブの量および活性に強い影響を与えることを示した。選択的還元を好気条件下で行う場合、反応における酸素レベルを直接制御せず、他の操作条件、例えば、撹拌速度、およびヘッドスペースへの気流量によって制御する。各反応の物理的設定も反応混合物中に存在する酸素レベルに影響を与える(装置および操作条件が一緒に「システム」を形成する)。「k」は、溶液中に移動する酸素を、物理的設定間で、特定の抗体処理ステップ中に比較するために使用することができる(例えば、Garcia-Ochoa and Gomez (2009) Biotechnology Advances 27:153-176、Bandino et al.(2001) Biochem.Engineering J. 8:111-119、Juarez and Orejas (2001) Latin Am. Appl.Res.31:433-439、Yange and Wang (1992) Biotechnol.Prog.8:244-61を参照されたい)。kは、スパージングなしでヘッドスペースによって経時的に溶液中に移動する酸素の量を表す。この値は、各設定および規模に特異的であり、撹拌機タイプ、撹拌機速度、充填容量、およびヘッドスペースと接触している溶液の表面積(これは各容器の個々の幾何形状による影響を受ける)に依存する。各物理的設定のkは異なるが、選択的還元ステップ中の溶液中の酸素レベルはセクキヌマブの活性および完全性に有意な影響を与えるので、本発明者らは、選択的還元ステップは、同様のk範囲を示すシステムで行うと、同様の品質を有するセクキヌマブの調製物をもたらすことになると予想する。
【0251】
を酸素移動実験で直接決定することはできない。その代わり、試験溶液中のdOを窒素によって置換し、較正dOプローブを使用して経時的なdOの増加をモニターし、それによって実験dO曲線を作成することができる。その後、この実験dO曲線を下に示す方程式に従って(例えば、Mathcad(登録商標)を使用して)飽和曲線に当てはめることによって、k値を特定のシステムについて計算する:
【0252】
【化2】
(式中、DO=溶存酸素の測定値、Cは酸素の飽和値(無限に撹拌し飽和に達したとき100%を意味する)であり、e=2.718281・・・、t=DO値に対応する時点、およびt=開始時点)。
この方程式は、溶液への酸素移動(k値)の決定のために確立された積分形の実験式を表す。この式は、様々な実験で異なる著者によって確認された(Doran, P. M. 1995.Bioprocess Engineering Principles, Academic Press, San Diego, California, chapter 9.10.2, p. 210-213)。
【0253】
実施例10.1-実験および統計学的計画方法
溶存酸素レベルはレドックス反応にとって重要な影響因子であるため、縮小モデルの適格性確認のために、および製造規模との比較のために酸素移動を評価した。
【0254】
統計学的計画を使用して、容量、ヘッドスペースへの気流量、撹拌機速度および撹拌機タイプの入力パラメータとkの依存性を判定した。入力パラメータを表39に収載する。各々が統計学的計画プランに従う3レベルで因子を調査した。出力パラメータは、k値である。
【0255】
【表40】
【0256】
各試料のk値を決定するために、2Lバイオリアクターに水を充填し、37℃に加熱した。気流量を質量流量計によって制御し、ヘッドスペースに適用した。その後、溶液を窒素ガスでスパージして水からdOを除去した。次いで、ラシュトンタービン(半径流式)を使用して定常撹拌を適用した。酸素プローブ(室温、約18~25℃で較正したもの)を使用して、dOが90%に達するまで、水中のdOのレベルを経時的に記録した。その後、上で説明したように実験dO曲線を飽和曲線に当てはめることによってk値を計算した。
【0257】
3つの中心点試行を用いる面心中心複合計画(CCF)を使用した。最も重要なプロセスパラメータ間の相関関係、およびkに対するそれらの影響を判定するために、この計画を選択した。このタイプの計画は、線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。
【0258】
実施例10.3-出力パラメータ(k)値
実験条件およびプロセス性能出力パラメータkの値を表40に収載する。
【0259】
【表41】
【0260】
実施例10.4-出力パラメータkの統計的診断
モデルの品質を4つのツール、すなわち、R、Q、モデル有効性および反復の標準偏差(SD)によって表す。データをよく説明するモデルは、1.0に近いRおよびQ、ならびに0.25より上のモデル有効性を有することになる。モデル分析では、k結果の評価は、変換しなければ、残差が正規分布の要件を満たさないモデルに至ることが確認された。これは、バイオリアクターに関する一般的k測定に見られることがあるk値の変換が適切な方法で結果を記述するために必要であることを示す。プロセス性能出力パラメータについてのモデル診断は、R=0.98、Q=0.91(-0.5の累乗による変換に従って)、モデル有効性=0.56、および反復の標準偏差=0.06であり、これは、統計的有意性が高いモデルを示す。
【0261】
実施例10.5-数理モデルの説明
残差のNプロットでは、標準化残差(標準偏差で割った応答の残差)を横軸にプロットし、正規確立を縦軸にプロットする。異常値は、±4標準化残差から外れているとき、グラフで特定することができる。また、非線形プロットは、出力パラメータ変換を必要とするモデルを示すことができる(“Design of Experiments - Principles and Applications,” (1999-2008) MKS Umetrics AB, ed. Eriksson et al.)。プロセス出力パラメータkについての残差のNプロット(データを示さない)は、実験結果とモデルの良好な適合性を示す。値は回帰直線にうまく当てはまり、これは、そのモデル変換が適切である(標準化残差が正規分布の要件を満たす)ことを意味する。加えて、すべての実験値は、±3標準化残差の範囲内であり、これは、測定値がいかなる異常値も含まないことを示す。
【0262】
プロセス出力パラメータの係数プロット(データを示さない)は、入力パラメータである気流量、容量および撹拌機速度がプロセスパラメータkに有意な影響を与えることを示す。コンタープロット(データを示さない)は、気流量、容量および撹拌機速度のkに対する影響を図示するものである-気流量が多いほど、容量が小さいほど(すなわち、ヘッドスペースが大きいほど)、および撹拌速度が高いほど、kとして表されるヘッドスペース全体にわたっての酸素移動は多い。
【0263】
コンタープロットおよび係数プロットを使用して、実験条件の対応するk値を統計モデルの使用によりMODDE 8.02で予測した。結果を表41に示す。これは、縮小モデルを使用してプロセス特性解析(実施例9を参照されたい)中に試験したk範囲を実証するものである。
【0264】
【表42】
【実施例11】
【0265】
製造規模での酸素移動速度(k
製造規模(1800L容器)での定常撹拌(すなわち、選択的還元プロセスの加熱および冷却段階中に使用した撹拌のタイプ)中のkを決定した。
【0266】
実施例11.1-SITE Aでの製造規模でのk値の決定
実施例11.1.1-実験および統計学的計画方法
統計学的計画を使用して、試験入力パラメータ範囲内のkの依存性を判定した。入力パラメータを下の表42に収載する。各々が統計学的計画プランに従う3レベルで因子を調査する。出力パラメータは、k値である。
【0267】
【表43】
【0268】
SITE Aでのこれらの実験は、最大作業容量1800L、高さ2.7m、直径1.0mを有するステンレス鋼容器で行った。各試料のk値を決定するために、容器に水を充填し、指示温度に加熱した。その後、窒素ガスをヘッドスペースに適用して水からdOを除去した。次いで、定常撹拌を(底部からプロペラ撹拌機を使用して)適用した。酸素プローブ(室温、例えば18~25℃で較正したもの)を使用して、dOが90%に達するまで、水中のdOのレベルを経時的に記録した。その後、上で説明したように実験dO曲線を飽和曲線に当てはめることによってk値を計算した。入力パラメータおよび対応する結果を表43に示す。
【0269】
4つの中心点を用いる面心中心複合(CCF)計画を使用した。最も重要な入力パラメータ間の相関関係、および酸素移動に対するそれらの影響を判定するために、この計画を選択した。このタイプの計画は、線形項、交互作用項および2次の項を有する数理モデルの計算を支援する。
【0270】
実施例11.1.2-出力パラメータ(k)値
実験条件およびプロセス性能出力パラメータkの値を表43に収載する。
【0271】
【表44】
【0272】
実施例11.1.3-出力パラメータkの統計的診断
モデルの品質を4つのツール、すなわち、R、Q、モデル有効性および反復の標準偏差(SD)によって表す。データをよく説明するモデルは、1.0に近いRおよびQ、ならびに0.25より上のモデル有効性を有することになる。統計的有意性が低いモデルは、低いRおよびQ値を有する。k結果の評価は、変換しなければ、残差が正規分布の要件を満たさないモデルに至ることが確認された。これは、適切な方法で結果を記述するためにkの変換が必要であることを示す。堅牢なモデルを得るために、出力パラメータを-0.5の累乗によって変換した。プロセス性能のモデル診断は、R=0.95、Q=0.88、モデル有効性=0.82、SD=0.15であった。これは、統計的有意性が高いモデルを示す。
【0273】
実施例11.1.4-数理モデルの説明
プロセス出力パラメータk値についての残差のNプロット(データを示さない)は、実験結果とモデルの良好な適合性を示す。値は回帰直線にうまく当てはまり、これは、そのモデル変換が適切である(標準化残差が正規分布の要件を満たす)ことを意味する。加えて、すべての実験値は、±3標準化残差の範囲内であり、これは、測定値が異常値を含まないことを示す。
【0274】
係数プロット(データを示さない)は、エラーバーがx軸を切らないので、すべての入力パラメータ、すなわち、撹拌速度、容量および温度、がプロセスパラメータk値に有意な影響を与えることを示す。加えて、撹拌機速度と容量の交互作用は有意である。k値のコンタープロット(データを示さない)は、温度、容量および撹拌機速度のkに対する影響を図示するものであり、すなわち、温度が高いほど、容量が小さいほど、および撹拌機速度が高いほど、kとして表されるヘッドスペース全体にわたっての酸素移動は多い。
【0275】
実施例11.1.5-製造規模での専用試行の結果
値を専用実験で決定し、MODDE 8.02によって算出するモデルの予測と比較した。予測および専用試行の結果を表44に示す。これらの結果によると、この数理モデルは、適切な方法でk値を予測することができた。
【0276】
【表45】
【0277】
実施例11.1.6-SITE Aでのプロセス条件についての予測k
SITE AでのキャンペーンAT493021中に使用したプロセス条件についてのkをMODDE 8.02によって算出するモデルで予想した。結果を表45に示す。定常撹拌を適用するときの予測k値は0.05h-1~0.69h-1である。これらの値は、このプロセスステップが、異なるプロセス容量に起因する広いk値範囲にわたって堅牢であることを示す。k(およびしたがって酸素移動)に影響を与えるパラメータをプロセス頑強性の最終評価に考慮すべきである。例えば、全撹拌時間が酸素移動に有意な影響を与える。
【0278】
【表46】
【実施例12】
【0279】
縮小モデルの適格性確認試行およびSite Aでの製造規模との比較
実施例12.1-方法
標準条件下で行った縮小モデル適格性確認試行(REACT065、REACT066およびREACT067)を製造規模での7つの代表試行と比較した。縮小モデル適格性確認試行のために、製造規模試行B008530(キャンペーンAT493021、SITE A)に由来するINAKT.F(-60℃未満で保存されたもの)であるセクキヌマブを使用した。負荷量(INAKT.F)を使用前にハンド温水浴(15~35℃)で解凍した。全選択的還元手順のステップを表46に示す。
【0280】
【表47】
【0281】
表47に収載するプロセスパラメータを縮小モデル適格性確認試行に適用した。これらのパラメータは、製造規模(SITE A)でのプロセス条件に対応するものであり、適切に縮小したものである。
【0282】
【表48】
【0283】
試料を抜き取り、5分以内にpHを0.3Mリン酸でpH1.4(AIN457-TITR2)から5.2(許容範囲5.0~5.4)に調整し、次いで試料を分析実験室に移動させた。すべての保持試料を解凍し、≦-60℃で保存した。前に説明した通りの製品品質特性CEXによる活性およびCE-SDSによる純度の比較によって、縮小モデルの適格性確認を評価した。次の時間間隔を試験した:0、10、20、30、45、60、120、240分。
【0284】
実施例12.2-結果
3つの代表製造規模試行からの溶存酸素チャート(データを示さない)および縮小モデル適格性確認試行からの溶存酸素チャート(図16)は、選択的還元ステップの特徴的形状を示す。これらの曲線は、溶存酸素がシステインの酸化によってシステムから除去されることを示す。開発経験によると、長時間の撹拌は、より高度な酸素移動をもたらし、CEXによる不十分な活性につながる。それ故、選択的還元溶液をインキュベーション中に1時間につき2~15分間しか撹拌しないことによって、溶液への酸素移動を制限し、選択的還元を停止させるまで溶存酸素レベルを低く保つ。冷却段階中、酸素レベルは、連続混合による溶液への酸素移動に起因してわずかに増加し、それと同時にある一定の量のシステインが酸化され、その結果、そのシステインを溶存酸素の還元剤として利用できなくなる。
【0285】
SITE AでのキャンペーンAT493021の製造規模試行3~6については、CEXによる活性は、標準偏差0.8%で平均96.3%であった一方で、CE-SDSによる純度は、標準偏差1%で平均92%であった。各試行の結果を、表45から得た予測k値とともに、表48に示す。
【0286】
【表49】
【0287】
縮小モデル適格性確認試行については、CEXによる活性は、標準偏差1.6%で平均値95.0%であった一方で、CE-SDSによる純度は、標準偏差1%で平均94%であった(表49)。
【0288】
【表50】
【0289】
選択的還元ステップ終了時の製品品質の評価に加えて、CEXによる活性についての動態もモニターし、縮小モデル試行の結果(REACT065、66および67の平均)とSITE Aでの製造規模の結果を比較した。結果を図17に示す。縮小モデルから得たデータは、製造規模の変動の範囲内であり、これは、大規模(Site A)での動態と小規模での動態が同等であることを実証する。
【実施例13】
【0290】
実施例9~12からのk値の複合解析
選択的還元反応中の溶液中の溶存酸素レベルの重要性のため、ヘッドスペースから容器への制御された酸素移動は、選択的還元ステップにとって重要である。各システムについて、これらの変数をk値として捕捉することができる。kは、撹拌機速度、撹拌機タイプ、充填容量、温度、およびヘッドスペースと接触している溶液の表面積(これは、各容器の個々の幾何形状による影響を受ける)に依存する。kは各設定に依存して変化することになるが、上記実験から、k値の範囲は、選択的還元プロセス中のセクキヌマブの品質および活性を保証するために許容されうることが分かる。
【0291】
縮小研究の実験条件についての予測k範囲0.18h-1~0.37h-1は、統計モデルの使用により決定した(表41)。k値は、固定容量を前提として、撹拌速度が低下するにつれて減少した。実施例9における応答局面計画実験条件および設定は実施例10における縮小モデルに関して使用したものと同じであるため、表41の予測k値を表28中の条件および結果と相関させることができる。この解析を表50に提示する。
【0292】
【表51】
【0293】
240分インキュベーション期間(REACT.PT300)を有する実験については、REACT085を除くすべての反応が、CEXおよびCE-SDSによって測定して適切な製品品質を伴う非常に高い選択的還元性能をもたらした(表50)。REACT085は、100rpmの撹拌速度、インキュベーション中の0.37h-1のk、およびシステインの抗体に対する非常に低いモル比(約46:1)を有した。容器への多い酸素移動(高いk値によって表される)と併せて、システインの抗体に対する低いモル比は、不十分な再活性化をもたらす可能性が高かった。
【0294】
300分インキュベーション期間(REACT.P)を有する実験については、REACT085、REACT075およびREACT084を除くすべての反応が、CEXおよびCE-SDSによって測定して適切な製品品質を伴う非常に高い選択的還元性能をもたらした(表50)。REACT085、REACT075およびTRACT084は、100rpmの撹拌速度、インキュベーション中の0.37h-1のk、およびシステインの抗体に対する低い~中等度のモル比(約46:1および約71:1)を有した。容器への多い酸素移動(高いk値によって表される)と併せて、システインの抗体に対する低い~中等度のモル比は、不十分な再活性化をもたらす可能性が高かった。インキュベーション時間の(REACT.PT300試料に対する)増加は、一部のREACT.P施行ではより不良なCEX値の一因となるように見えた。
【0295】
表50から分かるように、90%より大きいCEX活性を有する反応は、選択的還元反応のインキュベーション部分の間にシステムのkに関して次の特性を有する:
1)選択的還元反応のインキュベーションステップ中のシステム内のkが、<0.37h-1である場合には、システイン:抗体のモル比は、(より短いインキュベーション時間およびより長いインキュベーション時間両方、例えば、約210~約330分、例えば、約240~約300分について)約46:1~約118:1間で変動しうる;および
2)選択的還元反応のインキュベーションステップ中のシステム内のkは、システイン:タンパク質のモル比が、(より短いインキュベーション時間、例えば、最大約240分までのインキュベーションについて)約56:1~約118:1の間、または(より長いインキュベーション時間、例えば、最大約300分までのインキュベーションについて)約77:1~約118:1の間である場合、0.37h-1ほども高いことがある。
もちろん、加熱および冷却段階中のkは、インキュベーション段階中のkよりはるかに高いことがあり、例えば、表54は、0.69h-1ほども高いkが加熱/冷却段階中に適用され、高品質の製品をなお生成できることを示す。
【0296】
実施例9(プロセス特性解析研究)では、インキュベーション段階中に定常撹拌を適用する縮小モデルを使用して出力パラメータCEXによる活性およびCE-SDSによる純度を検査した。実施例10では、同じく定常撹拌を適用する縮小モデルのk値を検査した。実施例11では、製造規模で連続撹拌を使用する場合のk値を検査した。実際の製造中、連続撹拌は、選択的還元反応の加熱および冷却段階中にしか適用されず、間欠撹拌(例えば、1時間につき2~15分)が選択的還元反応のインキュベーション段階中に適用される。したがって、製造中、選択的還元反応ステップのインキュベーション段階中のシステムのkは、実施例10および11で観察されたk値よりはるかに低いことになる。それにもかかわらず、実施例9~11を組み合わせた結果から、システイン:抗体のモル比が約46:1~約118:1の間である場合には約240~約300分のインキュベーション段階を含む全選択的還元ステップ(すなわち、加熱段階、インキュベーション段階、および冷却段階)を、一般に、<0.37h-1のkを使用して行うことができることが分かる。
【0297】
実施例9の最悪/最良実験は、同じ適格な縮小モデルを使用して、約66:1のシステイン:抗体のモル比を使用して、インキュベーション段階(<0.18h-1のk)中に極わずかな撹拌(すなわち、1時間につき2分)で行った。実施例9の最悪/最良ケース実験における210~330分間インキュベートした反応すべてが高品質の製品を生成したので、kが低く、システイン:抗体のモル比が中等度(約66:1)である場合、インキュベーション時間を約210~約330分に拡大することができると予想される。
【実施例14】
【0298】
好ましい選択的還元プロセスパラメータおよび手順
選択的還元ステップの好ましいプロセスパラメータを表51に収載する。設定点についてのシステイン:抗体のモル比は約66:1であり、推奨操作範囲は約54:1~約83:1であり、立証された許容範囲は約46:1~約118:1である。
【0299】
【表52】
【0300】
選択的還元手順の個々のステップを表52に示す。先ず、出発物質のタンパク質濃度をWFIの添加によって13.5mg/mLの目標濃度に調整する。次に、1M Trisの添加によってpHを8.0に調整する。dOを確認し、操作範囲に対応しない場合は、例えばさらなる混合、水中曝気などによって、(例えば、≧60%に)調整する。システインを6mMまで添加することによって反応を開始させ、その後、溶液を(約1時間にわたって)インキュベーション温度(約37℃)に加熱する。その溶液を1時間につき約2分の撹拌で約250分間インキュベートして、インキュベーション時間中のヘッドスペースから溶液への酸素移動を制限する。最後に、溶液を(約1時間にわたって)室温に冷却し、pHを、例えば0.3Mオルト-リン酸で、約5.2に調整して反応を停止させる。
【0301】
【表53】

本願は以下の態様にも関する。
(1) 哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
c)システム内で前記調製物を少なくとも1つの還元剤と接触させて還元性混合物を形成するステップ、および
d)溶存酸素曲線を飽和曲線に当てはめることによって計算される≦約0.37h-1の酸素物質移動容量係数(kLa*)をシステム内で維持しながら前記還元性混合物をインキュベートするステップ
を含み、
前記IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVHの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号10に記載のVLの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)とを含み、
ステップa)の前、前記調製物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正した酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも約60%である、方法。
(2) 前記少なくとも1つの還元剤が、システアミン、システインおよびこれらの組合せからなる群から選択される、前記(1)に記載の方法。
(3) 前記少なくとも1つの還元剤が、チオール-ジスルフィド交換によって測定した場合、pH7.0で約-0.20V~約-0.23Vの標準酸化還元電位E0を有するチオール含有還元剤である、前記(1)に記載の方法。
(4) 前記少なくとも1つの還元剤がシステインである、前記(2)に記載の方法。
(5) ステップb)中の前記システム内のkLa*が、≦約0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:IL-17抗体のモル比が、約56:1~約118:1の間であり、前記還元性混合物が、ステップb)に従って最大約240分までインキュベートされる、前記(4)に記載の方法。
(6) ステップb)中の前記システム内のkLa*が、≦約0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:IL-17抗体のモル比が、約77:1~約118:1の間であり、前記還元性混合物が、ステップb)に従って最大約300分までインキュベートされる、前記(4)に記載の方法。
(7) ステップb)中の前記システム内のkLa*が、<約0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:IL-17抗体のモル比が、約46:1~約118:1の間である、前記(4)に記載の方法。
(8) ステップb)中の前記システム内のkLa*が、<約0.37h-1であり、前記還元性混合物中のシステイン:IL-17抗体のモル比が、約54:1~約82:1の間である、前記(4)に記載の方法。
(9) システイン:IL-17抗体のまたは前記還元性混合物中のモル比が、約66:1である、前記(4)に記載の方法。
(10) ステップb)中の前記システム内のkLa*が、≦約0.27h-1、好ましくは、≦約0.18h-1である、前記(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11) ステップa)の前に、前記調製物が、約4mg/ml~約19.4mg/ml、例えば、約10mg/ml~約19.4mg/ml、例えば、約10mg/ml~約15.4mg/ml、例えば、約12mg/ml~約15mg/ml、例えば、約13.5mg/mlのIL-17抗体を含む、前記(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 前記還元性混合物中のシステインの濃度が、約4.0mM~約8.0mM、例えば、約4.8mM~約8.0mM、例えば、約5.5mM~約6.7mM、例えば、約6.0mMである、前記(4)に記載の方法。
(13) ステップa)の前に、前記調製物のpHが、約7.3~約8.5、例えば、約7.8~約8.2、例えば、約7.9~約8.1、例えば、約8.0である、前記(1)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14) ステップa)の前に、前記調製物の初期酸素飽和度パーセントが、25℃で較正された酸素プローブを使用して測定した場合、少なくとも約80%または少なくとも約60%である、前記(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 前記還元性混合物が、EDTAをさらに含み、前記還元性混合物中のEDTAの濃度が、約1.3mM~約0.8mM、例えば、約1.1~約0.9mM、例えば、約1.0mMである、前記(1)~(14)のいずれかに記載の方法。
(16) ステップa)とステップb)の間に、前記還元性混合物が約32℃~約42℃の間の温度に、例えば、約35℃~約39℃の間に、例えば、約37℃に加熱される、前記(1)~(15)のいずれかに記載の方法。
(17) 前記還元性混合物が、約45~約90分間、例えば約45~約75分間、例えば、約60分間加熱される、前記(16)に記載の方法。
(18) 加熱中の前記システム内のkLa*が、≦約0.69h-1であり、前記kLa*が、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、前記(16)に記載の方法。
(19) 前記還元性混合物が、ステップb)に従って、約20℃~約42℃の間の温度、例えば、約32℃~約42℃、例えば、約35℃~約39℃、例えば、約37℃でインキュベートされる、前記(1)~(18)のいずれかに記載の方法。
(20) 前記還元性混合物が、ステップb)に従って、約210~約420分間、例えば約210~約330分間、例えば、約240分~約300分間、例えば、約250分間インキュベートされる、前記(7)に記載の方法。
(21) ステップb)中、前記還元性混合物が、1時間につき≦約15分間、例えば、1時間につき≦約5分間、例えば、1時間につき≦約2分間撹拌される、前記(1)~(20)のいずれかに記載の方法。
(22) ステップa)後の前記還元性混合物中のインタクトIL-17抗体のレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合、少なくとも約80%に減少する、前記(1)~(21)のいずれかに記載の方法。
(23) c)ステップb)から結果として得られる混合物を室温、例えば、約16℃~約28℃の間に冷却するステップ
をさらに含む、前記(1)~(22)のいずれかに記載の方法。
(24) 前記混合物が、ステップc)に従って、約45~約90分間、例えば約45~約75分間、例えば、約60分間冷却される、前記(23)に記載の方法。
(25) ステップc)中の前記システム内のkLa*が、≦約0.69h-1であり、前記kLa*が、飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、前記(23)に記載の方法。
(26) d)ステップc)から結果として得られる混合物のpHを約5.1~約5.3の間に、例えば5.2に調整するステップ
をさらに含む、前記(23)に記載の方法。
(27) 調整ステップd)が、o-リン酸を、ステップc)から結果として得られる混合物に添加することを含む、前記(26)に記載の方法。
(28) ステップd)から結果として得られる混合物中のインタクトIL-17抗体のレベルが、CE-SDSによって測定した場合、少なくとも約90%である、前記(26)に記載の方法。
(29) ステップd)から結果として得られる混合物中のIL-17抗体の活性レベルが、シスタミン陽イオン交換クロマトグラフィー(シスタミン-CEX)によって測定した場合、少なくとも約90%である、前記(26)に記載の方法。
(30) 前記還元剤の酸化型、例えば、シスチンまたはシスタミンが前記還元性混合物に添加される、前記(1)~(29)のいずれかに記載の方法。
(31) 変性剤、例えば、グアニジン塩酸塩が前記還元性混合物に添加されない、前記(1)~(30)のいずれかに記載の方法。
(32) 哺乳動物細胞によって組換え産生されたIL-17抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
a)前記調製物を、システイン/シスチンおよびシステイン/シスタミンから選択される酸化/還元試薬のセットと接触させて、還元性混合物を形成するステップ、および
b)前記還元性混合物を約37℃の温度で嫌気条件下、少なくとも4時間インキュベートするか、または前記還元性混合物を約18~24度の温度で約16~24時間インキュベートするステップ
を含み、
前記IL-17抗体各々が、配列番号8に記載のVHの3つの相補性決定領域(CDR)を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号10に記載のVLの3つのCDRを含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む、方法。
(33) 前記還元性混合物中の酸化/還元試薬のモル比が、約4:1~約80:1の間である、前記(32)に記載の方法。
(34) 前記還元性混合物中の酸化/還元試薬のモル比が、約26:1~約80:1の間である、前記(33)に記載の方法。
(35) 酸化剤/還元試薬の前記セットがシステイン/シスチンである、前記(33)に記載の方法。
(36) 酸化剤/還元試薬の前記セットがシステイン/シスタミンである、前記(33)に記載の方法。
(37) 前記還元性混合物中のシステイン/IL-17抗体のモル比が、約21:1~約296:1の間である、前記(32)に記載の方法。
(38) 配列番号8に記載の前記VHの3つのCDRが、順番に、配列番号1、2および3に記載のアミノ酸配列、または配列番号11、12および13に記載のアミノ酸配列であり、
配列番号10に記載の前記VLの3つのCDRが、順番に、配列番号4、5および6に記載のアミノ酸配列である、前記(1)~(37)のいずれかに記載の方法。
(39) 前記IL-17抗体各々が、
i)配列番号10に記載のVLセットおよび配列番号8に記載のVHセット、または ii)C末端リシンを有するもしくは有さない、配列番号14に記載の完全長軽鎖および配列番号15に記載の完全長重鎖
を含む、前記(1)~(38)のいずれかに記載の方法。
(40) 前記IL-17抗体が、IgG1アイソタイプのヒト抗体である、前記(1)~(39)のいずれかに記載の方法。
(41) 前記IL-17抗体が、セクキヌマブ抗体である、前記(1)~(40)のいずれかに記載の方法。
(42) 前記調製物中の前記IL-17抗体の活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定した場合、ステップb)後約60分以内に少なくとも約10パーセントポイント、少なくとも約15パーセントポイント、少なくとも約20パーセントポイント、少なくとも約25パーセントポイント、または少なくとも約30パーセントポイント増加する、前記(1)~(41)のいずれかに記載の方法。
(43) 哺乳動物細胞によって組換え産生されたセクキヌマブ抗体の調製物中のCysL97を選択的に還元する方法であって、
g)前記調製物中のセクキヌマブの濃度を約4mg/ml~約19.4mg/mlの間、例えば、約10mg/ml~約19.4mg/ml、例えば、約10~約15.4、例えば、約12mg/ml~約15mg/ml、例えば、約13.5mg/mlに調整するステップ、
h)前記調製物の酸素飽和度パーセントを少なくとも約60%、例えば、少なくとも約80%に調整するステップ
i)前記調製物のpHを、約7.4~約8.5、例えば、約7.8~約8.2、例えば、約7.9~約8.1、例えば、約8.0に調整するステップ、
j)前記調製物を容器内でシステインと接触させて還元性混合物を形成するステップであり、前記還元性混合物中のシステインの濃度が約4.0mM~約8.0mM、例えば、
約4.8mM~約8.0mM、例えば、約5.5mM~約6.7mM、例えば、約6.0mMである、ステップ;
k)前記還元性混合物を約32℃~約42℃の間の温度に、例えば、約35℃~約39℃の間に、例えば、約37℃に加熱し、前記加熱を約45~約90分、例えば、約45~約75分、例えば約60分間行うステップ、
l)ステップe)からの前記還元性混合物を約20℃~約42℃の間、例えば約32℃~約42℃の温度で、例えば、約35℃~約39℃に、例えば、約37℃にインキュベートするステップであり、前記インキュベーションが、約210~約420分、例えば、約210~約330分、例えば、約240~約300分、例えば、250分間行われ、この間、容器内で≦0.37h-1の酸素物質移動容量係数(KLa*)が維持され、前記KLa*が飽和曲線を溶存酸素曲線に当てはめることによって計算される、ステップ、
g)ステップfからの結果として得られる混合物を約16℃~約28℃の温度に冷却し、前記冷却を約45~約90分、例えば、約45~約75分、例えば、約60分間行うステップ、および
h)ステップg)から結果として得られる混合物のpHを約5.1~約5.3の間に、例えば5.2に調整するステップ
を含む方法。
(44) 前記(1)~(43)のいずれかによって作製されるIL-17抗体の精製された調製物。
(45) 前記IL-17抗体が、セクキヌマブ抗体である、前記(44)に記載の精製された調製物。
(46) セクキヌマブの精製された調製物であって、前記調製物中のインタクトセクキヌマブのレベルが、ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)によって測定した場合、少なくとも約90%であり、前記調製物中のセクキヌマブの活性レベルが、シスタミン-CEXによって測定した場合、少なくとも約90%である、精製された調製物。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17
【配列表】
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