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特許7021994ロックウール組成物用結合材およびロックウール組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ロックウール組成物用結合材およびロックウール組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20220209BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220209BHJP
   C04B 14/46 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B18/14 A
C04B14/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018061035
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172489
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常藤 光
(72)【発明者】
【氏名】谷辺 徹
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-038920(JP,A)
【文献】特表平04-506236(JP,A)
【文献】特表2010-532307(JP,A)
【文献】特開平10-001337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸アルカリと、高炉スラグ粉末と、水とを含有し、酸化物換算の総アルカリ量(M2O)に対する高炉スラグ粉末の質量(BS)の質量比(BS/M2O)が6以上であるロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材。
【請求項2】
高炉スラグ粉末の含有率が40質量%以上である請求項1記載のロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材。
【請求項3】
含有するアルカリの酸化物換算の総含有率が8質量%以下である請求項1又は2記載のロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材。
【請求項4】
水の含有率が20質量%以上である請求項1~3の何れかに記載のロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材。
【請求項5】
水の含有率が47質量%以下である請求項4記載のロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のロックウール吹付け材用のロックウール組成物用結合材とロックウールとを含有するロックウール吹付け材用のロックウール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックウール組成物用結合材およびロックウール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の部材に耐火性、防火性、吸音性又は断熱性等を付与する目的で、ロックウール、セメント及び水からなるロックウール吹付け材が吹付けられている。このロックウール吹付け材は耐火性、施工性等の点で優れていることから広く使用されている(例えば特許文献1参照)。セメントは安価で優れた無機質結合材であるが、原料の石灰岩を高温で分解し更に二酸化珪素原料、酸化アルミニウム原料、酸化鉄原料等と高温で反応させ製造するため、製造時に温室効果ガスの代表である二酸化炭素を多く発生させてしまう。このため、セメントを主成分としない無機質結合材を用いたロックウール吹付け材、そのためのロックウール組成物、及びそのための無機質結合材が望まれる。
【0003】
特定組成の岩綿繊維(ロックウール)の結合材として、リンケイ酸塩、アルカリケイ酸塩(例えば、水ガラス)、ジオポリマー類、コロイドシリカ又はコロイドアルミナを用いることができることの開示がされている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-348978号公報
【文献】特表2012-532830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロックウールの結合材として特許文献2記載の珪酸アルカリを用いてロックウール吹付け材を製造したところ、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せてしまう場合があることが判明した。
従って、本発明の課題は、セメントを主成分とせずにセメント以外の無機質結合材を用いたロックウール組成物において、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せるような欠点のないロックウール組成物用結合材およびロックウール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、セメント以外の無機質結合材として珪酸アルカリに加えて高炉スラグ粉末を配合してロックウール組成物を製造し、種々検討したところ、ロックウール組成物用結合材中の総アルカリ量と高炉スラグ粉末との質量比を6以上にすれば、ロックウール組成物を吹付けて硬化させた後に、ロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることがなく、対象物に安定したロックウール硬化体が形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕珪酸アルカリと、高炉スラグ粉末と、水とを含有し、酸化物換算の総アルカリ量(M2O)に対する高炉スラグ粉末の質量(BS)の質量比(BS/M2O)が6以上であるロックウール組成物用結合材。
〔2〕高炉スラグ粉末の含有率が40質量%以上である〔1〕記載のロックウール組成物用結合材。
〔3〕含有するアルカリの酸化物換算の総含有率が8質量%以下である〔1〕又は〔2〕記載のロックウール組成物用結合材。
〔4〕水の含有率が20質量%以上である〔1〕~〔3〕の何れかに記載のロックウール組成物用結合材。
〔5〕水の含有率が47質量%以下である〔4〕記載のロックウール組成物用結合材。
〔6〕〔1〕~〔5〕の何れかに記載のロックウール組成物用結合材とロックウールとを含有するロックウール組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることが起こり難い、セメント以外の無機質結合材を主成分とするロックウール組成物用結合材およびロックウール組成物が提供できる。
また、本発明のロックウール組成物用結合材を用いたロックウール組成物は、吹付けできる程度の流動性を有し、かつ硬化体での時間が短いため、ロックウール吹付け材として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のロックウール組成物用結合材は、珪酸アルカリと、高炉スラグ粉末と、水とを含有し、酸化物換算の総アルカリ量(M2O)に対する高炉スラグ粉末の質量(BS)の質量比(BS/MO)が6以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明において、ロックウールとは、溶融炉で溶融された岩石や高炉スラグ等を主体とする材料が、急冷されながら、繊維化された素材(鉱物繊維)である。例えば、高炉スラグを主体とする材料より製造されたスラグウールなども含まれる。
また、ロックウール組成物とは、ロックウールと結合材を主成分とする組成物であるが、その他の成分を含有していてもよい。
【0012】
本発明に用いる珪酸アルカリとしては、メタ珪酸ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウム、水ガラス等の珪酸ナトリウム又は珪酸ナトリウム水溶液、珪酸リチウム又は珪酸リチウム水溶液、珪酸カリウム又は珪酸カリウム水溶液、或いはこれらの2種以上の混合物が好ましい。
【0013】
本発明に用いる高炉スラグ粉末としては、ブレーン比表面積が2000cm2/g以上のものが硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることが起こり難いことから好ましく、より好ましくは3000cm2/g以上のものを用いる。また、本発明に用いる高炉スラグ粉末のブレーン比表面積の上限値としては、流動性を保持できる時間を長く取れることから12000cm2/g以下が好ましく、より好ましくは10000cm2/g以下とする。
【0014】
本発明のロックウール組成物用結合材には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ又はその水溶液を添加してもよい。
【0015】
ロックウール組成物用結合材中の酸化物換算の総アルカリ量(M2O)は、水酸化アルカリ又はその水溶液が添加されている場合は、これらに含まれるアルカリ量も珪酸アルカリに含まれるアルカリ量に合わせて求める。
本発明において、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることが起こり難くするために、酸化物換算の総アルカリ量(M2O)に対する高炉スラグ粉末の質量(BS)の質量比(BS/M2O)を6以上とする。当該BS/M2Oが、6未満の場合には、硬化後にロックウールの一部が溶け痩せが生じる。硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることがより起こり難いことから、BS/M2Oを8以上とすることが好ましく、10以上とすることが更に好ましい。また、BS/M2Oは、短時間での硬化性、コンシステンシーの観点から25以下が好ましく、22以下がより好ましく、21以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明のロックウール組成物用結合材に含有するアルカリの酸化物換算の総含有率、即ち酸化物換算の総アルカリ量(M2O)は、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることが起こり難いことから、8質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましい。また、総アルカリ量は、硬化性、バインダーとしての強度の点から、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、2.3質量%以上がさらに好ましい。
【0017】
本発明のロックウール組成物用結合材に含有する高炉スラグ粉末の含有率が40質量%以上であると、硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることが起こり難いことから好ましい。硬化後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せることがより起こり難いことから、ロックウール組成物用結合材中の高炉スラグ粉末の含有率を43質量%以上とすることがより好ましく、46質量%以上とすることが更に好ましい。また、高炉スラグ粉末の含有率は、コンシステンシーの点から、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、67質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明のロックウール組成物用結合材に含有する水の含有率(CW)は、下記式(1)のように本発明のロックウール組成物用結合材に含有する水の質量(MW)をロックウール組成物用結合材の質量(MB)で除した値をパーセント表示で表したものであるが、このときのロックウール組成物用結合材に含有する水の質量(MW)には、大気中の水分の影響で高炉スラグに含まれる水の質量等のように無視できる程小さい場合はこれを考慮しなくともよい。
【0019】
(%)=M÷M×100 ・・・・ (1)
【0020】
また、珪酸アルカリ及び水酸化アルカリ(その水溶液含む。)に由来する本発明のロックウール組成物用結合材に含有する水の質量は、珪酸アルカリ又は水酸化アルカリの含有量から、これらに含まれる酸化物換算のアルカリ量及び二酸化珪素の含有量を減じた値を用いる。
本発明のロックウール組成物用結合材に含有する水の含有率(C)は、吹付けできる程度の流動性を得るために、20質量%以上とすることが好ましく、22質量%以上とすることがより好ましく、更には23質量%以上とすることが好ましい。また、硬化までの時間が短いことから、水の含有率(C)は、47質量%以下とすることが好ましく、更には40質量%以下とすることがより好ましく、35質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のロックウール組成物用結合材は、珪酸アルカリと、高炉スラグ粉末と、水とを主成分として含有する無機質結合材であるが、これらの他に、他の無機質成分、有機質成分を含有してもよい。この他の無機質成分として、セメントを10質量%以下含有させてもよく、この場合のセメントは主に高炉スラグ粉末の刺激剤として作用する。原材料の製造により発生する二酸化炭素の発生量が少ないことから、本発明のロックウール組成物用結合材におけるセメントの含有率を5質量%以下とすることがより好ましく、2質量%以下とすることが更に好ましい。
【0022】
本発明のロックウール組成物は、上記のロックウール組成物用結合材とロックウールとを含有する。ここで云うロックウールは上記のものと同じで、高炉スラグを主体とする材料より製造されたスラグウールなども含まれる。
【0023】
本発明のロックウール組成物に含まれる上記のロックウール組成物用結合材とロックウールとの含有割合は、ロックウールの質量(MRW)に対するロックウール組成物用結合材の質量(M’)の割合(M’/MRW)を1~6とすることが、硬化時間を短くでき且つ硬化体後の耐火性、防火性、吸音性又は断熱性等のロックウール組成物としての機能が優れることから好ましく、M’/MRWを1.5~5とすることがより好ましく、2~4とすることが更に好ましく、2~3.6とすることがより更に好ましい。
【0024】
本発明のロックウール組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記の成分以外のもの、例えば炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩を含む各種のセメント用・モルタル用又はコンクリート用混和材料のうち上記以外のもの、シラスバルーンやパーライト等の軽量細骨材を含む骨材、上記以外の繊維(グラスウール,セラミックウール,セルロース繊維,ナイロン繊維,ポリプロピレン繊維等の無機又は有機繊維のうち混和材料に含まれないもの)等が含まれていてもよい。
【0025】
本発明のロックウール組成物は、ミキサ等で混合することで製造することもできるが、硬化した後の硬化物の単位容積重量を小さくすることができることから、ロックウール吹付工法における半乾式工法と同様に吹付工法で製造することが好ましい。この場合、半乾式工法のロックウール吹付工法におけるセメントペーストの代わりに、上記のロックウール組成物用結合材を用いる。圧送ホース内を圧送させたロックウールを、圧送ホースに連通した吹付けノズルの吐出口から吐出させ、これに上記のロックウール組成物用結合材を噴霧することで、本発明のロックウール組成物を製造することができる。
【0026】
本発明のロックウール組成物は、ロックウールとセメントペーストとを主成分とするロックウール組成物の代替物として用いることができる。
【実施例
【0027】
水ガラス、水酸化ナトリウム水溶液、高炉スラグ粉末及び水を用い、表1に示す配合割合で無機質結合材を作製した。用いた材料を以下に示した。表1中の「%」は「質量%」を意味する。
【0028】
(使用材料)
(1)水ガラス:2号水ガラス(SiO2;31.41質量%,Na2O;12.29質量%,H2O;56.30質量%)
(2)水酸化ナトリウム水溶液:4規定水酸化ナトリウム水溶液(比重;1.153,Na2O;12.29質量%,H2O;56.30質量%)(配合No.1のみ使用)、及び8規定水酸化ナトリウム水溶液(比重;1.280,Na2O;19.38質量%,HO;80.63質量%)
(3)高炉スラグ粉末:エスメント関東社製「エスメント4000」(商品名)(ブレーン比表面積;4130cm2/g)
(4)水:佐倉市上水
【0029】
【表1】
【0030】
作製した無機質結合材を次の項目について評価試験を行った。その結果を表2に示した。
【0031】
(評価試験)
(1)コンシステンシー
作製した無機質結合材をポリカップ内でステンレス製薬さじによりかき混ぜ、ポンプ圧送が可能なコンシステンシーであるか評価した。
ポンプ圧送可能な流動性が無いと思える場合を「不良」(記号:×)、エアレスポンプではポンプ圧送可能な流動性があると思える場合(即ち、ポンプ圧送可能であるが、粘度がエアレスポンプが必要な程度高い場合)を「良好」(記号:○)、エアレスポンプを用いずともスクイズポンプでもポンプ圧送可能な流動性があると思える場合(即ち、粘度が低くスクイズポンプでもポンプ圧送可能な流動性があると思える場合)を「優良」(記号:◎)と評価した。
【0032】
(2)バインダー機能性
噴霧器を用いてロックウールに作製した無機質結合材を吹付け、1週間後に硬化後の状況を確認した。
吹付けが行え、更に1週間後にロックウールの一部が溶けることによる硬化物の痩せが見られなかった、即ち体積減少が見られなかった場合を「優良」(記号:◎)、吹付けが行え、更に1週間後にロックウールの極一部が溶けたが、硬化物の痩せが見られなかった、即ち体積減少が目視で確認できなかった場合を「良好」(記号:○)、吹付けが行えたが1週間後にロックウールの一部が溶け硬化物が痩せた、即ち体積減少が目視で確認できた場合を「不良」(記号:×)と評価した。
【0033】
(3)硬化時間
噴霧器を用いてロックウールに作製した無機質結合材を吹付け、その吹付けた無機質結合材の硬化時間を確認した。
【0034】
【表2】
【0035】
作製した無機質結合材のうち実施例に当たるもの(配合No.3~13)は、少なくともポンプ圧送可能なコンシステンシーを備え、吹付けが行え更に1週間後に硬化物の痩せが見られず又バインダーとしての強度も充分ありバインダー機能性を備えていた。