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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/416 311G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018114321
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019219176
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】中垣 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
(72)【発明者】
【氏名】生駒 信和
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/222002(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/222001(WO,A1)
【文献】特開2017-072502(JP,A)
【文献】特開2010-127938(JP,A)
【文献】特開2018-063145(JP,A)
【文献】特開2018-040746(JP,A)
【文献】特開2013-040959(JP,A)
【文献】特開2018-040723(JP,A)
【文献】特開2017-003298(JP,A)
【文献】特開2012-127668(JP,A)
【文献】特開2002-071639(JP,A)
【文献】特開2001-133447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の存在下に複数成分の濃度を測定するガスセンサであって、
少なくとも酸素イオン導伝性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、
予備ポンプ電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、
主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した主空室と、
補助ポンプ電極を有し、前記主空室に連通した副空室と、
測定電極を有し、前記副空室に連通した測定空室と、
前記測定空室内の特定成分の濃度を測定する特定成分測定手段と、
前記予備ポンプ電極の電圧に基づいて前記予備空室内の酸素濃度を制御する予備酸素濃度制御手段と、
前記主ポンプ電極の電圧に基づいて前記主空室内の酸素濃度を制御する主酸素濃度制御手段と、
前記予備酸素濃度制御手段の第1動作時における前記特定成分測定手段からのセンサ出力と、前記予備酸素濃度制御手段の第2動作時における前記特定成分測定手段からのセンサ出力との差、及び前記各々のセンサ出力の一方に基づいて、アンモニア及び酸化窒素の濃度を取得する目的成分取得手段と、を備え、
前記予備ポンプ電極の少なくとも表面が、アンモニアと酸素との反応に対する活性の低いAu(金)を含む合金で形成され、前記予備ポンプ電極の表面のAu(金)の濃度が、前記主ポンプ電極の表面におけるAu(金)の濃度よりも高いガスセンサ。
【請求項2】
請求項記載のガスセンサであって、前記予備ポンプ電極の少なくとも表面におけるAu(金)濃度が10atm%以上であるガスセンサ。
【請求項3】
請求項記載のガスセンサであって、前記予備ポンプ電極がAu(金)/Pt(白金)合金よりなり、前記予備ポンプ電極の表面にAu(金)が析出してなるガスセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサであって、前記予備ポンプ電極の表面がAu(金)を含む膜で被覆されてなるガスセンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサの製造方法であって、
前記予備ポンプ電極は、仕込組成で1wt%以上のAu(金)を含むAu(金)/Pt(白金)合金を、前記予備空室内で前記構造体を構成する固体電解質と共に焼成して作製するガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中のガス濃度を検出するガスセンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガスのような、酸素の存在下に共存する、NO(酸化窒素)やNH3(アンモニア)等の複数の成分の濃度を測定するガスセンサが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸素イオン導伝性の固体電解質に、拡散抵抗部を隔てて予備空室、主空室、副空室及び測定空室を設けると共に、それぞれの空室内にポンピング電極を設けたガスセンサが提案されている。このガスセンサでは、予備空室のポンピング電極の駆動又は停止を切り替えることで、予備空室内でアンモニアの窒素酸化物への酸化反応の進行又は停止を切り替える。そして、副空室から主空室へのアンモニア及び窒素酸化物の拡散速度差により生じる測定電極のポンピング電流の変化に基づいて、アンモニア及び窒素酸化物のガス濃度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/222002号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排気ガス中の酸素濃度は、エンジンの運転状態によって大きく変動する。エンジンへの燃料供給を絞った状態では、排気ガス中の酸素濃度は大気中の酸素濃度(20%)に近い値まで上昇することもある。
【0006】
しかしながら、上記のガスセンサでは、被測定ガス中の酸素濃度が増加すると、予備空室のポンピング電極の駆動又は停止を切り替えても、測定電極のポンピング電流の変化が現れないことが判明した。そのため、従来のガスセンサでは、被測定ガスの酸素濃度が高くなると、アンモニア及び窒素酸化物のガス濃度を分離して測定することができない。
【0007】
本発明は、被測定ガス中の酸素濃度が増加した場合であっても、被測定ガス中の複数のガス成分の濃度を測定できるガスセンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点は、酸素の存在下に複数成分の濃度を測定するガスセンサであって、少なくとも酸素イオン導伝性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、予備ポンプ電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した主空室と、補助ポンプ電極を有し、前記主空室に連通した副空室と、測定電極を有し、前記副空室に連通した測定空室と、前記測定空室内の特定成分の濃度を測定する特定成分測定手段と、前記予備ポンプ電極の電圧に基づいて前記予備空室内の酸素濃度を制御する予備酸素濃度制御手段と、前記主ポンプ電極の電圧に基づいて前記主空室内の酸素濃度を制御する主酸素濃度制御手段と、前記予備酸素濃度制御手段の第1動作時における前記特定成分測定手段からのセンサ出力と、前記予備酸素濃度制御手段の第2動作時における前記特定成分測定手段からのセンサ出力との差、及び前記各々のセンサ出力の一方に基づいて、アンモニア及び酸化窒素の濃度を取得する目的成分取得手段と、を備え、前記予備ポンプ電極の少なくとも表面が、アンモニアと酸素との反応に対する活性の低いAu(金)を含む合金で形成され、前記予備ポンプ電極の表面のAu(金)の濃度が、前記主ポンプ電極の表面におけるAu(金)の濃度よりも高いガスセンサである。
【0009】
本発明の別の観点は、上記観点のガスセンサの製造方法であって、前記予備ポンプ電極は、仕込組成で1wt%以上のAu(金)を含むAu(金)/Pt(白金)合金を、前記予備空室内で前記構造体を構成する固体電解質と共に焼成して作製するガスセンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
上記観点のガスセンサ及びその製造方法によれば、被測定ガス中の酸素濃度が高い場合であっても、予備空室のポンピング電極の駆動又は停止を切り替えに応じて測定電極にポンピング電流の変化が現れるため、複数のガス成分の濃度を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るガスセンサの一構造例を示す断面図である。
図2図1のガスセンサを模式的に示す構成図である。
図3】予備ポンプセルが第1動作している場合の予備空室内、酸素濃度調整室内及び測定空室内の反応を模式的に示す説明図である。
図4】予備ポンプセルが第2動作している場合の予備空室内、酸素濃度調整室内及び測定空室内の反応を模式的に示す説明図である。
図5図5Aは、比較例に係るガスセンサにおいて、第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)について、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流Ip3の測定結果を示すグラフであり、図5B図5Aの測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を示すグラフである。
図6図6Aは、実施例1に係るガスセンサにおける、酸素濃度1%の第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)について、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流Ip3の変化を示すグラフであり、図6B図6Aの測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を示すグラフであり、図6Cは酸素濃度10%の第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)について、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流Ip3の変化を示すグラフであり、図6D図6Cの測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を示すグラフである。
図7】実施例1に係るガスセンサの測定メカニズムを示す模式図である。
図8図8Aは、実施例2に係るガスセンサにおける、酸素濃度1%の第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)について、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流Ip3の変化を示すグラフであり、図8B図8Aの測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を示すグラフであり、図8Cは酸素濃度10%の第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)について、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流Ip3の変化を示すグラフであり、図8D図8Cの測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限又は上限として含むものとする。
【0013】
(第1の実施形態)
本実施形態に係るガスセンサ10は、図1及び図2に示すように、センサ素子12を有する。センサ素子12は、酸素イオン導伝性の固体電解質からなる構造体14と、該構造体14に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口16と、構造体14内に形成され、ガス導入口16に連通する酸素濃度調整室18と、構造体14内に形成され、酸素濃度調整室18に連通する測定空室20とを有する。
【0014】
酸素濃度調整室18は、ガス導入口16側に設けられた主空室18aと、主空室18aに連通する副空室18bとを有する。測定空室20は、副空室18bに連通している。
【0015】
さらに、このガスセンサ10は、構造体14のうち、ガス導入口16と主空室18aとの間に、予備空室21を有する。主空室18aは、予備空室21を介してガス導入口16と連通している。
【0016】
このような複数の空室18a、18b、20、21を有する構造体14は、例えば、セラミックスよりなる複数層の基板を積層して構成される。具体的には、センサ素子12の構造体14は、第1基板22aと、第2基板22bと第3基板22cと、第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28とよりなる6つの層が、下から順に積層されてなる。各層は、例えばジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン導伝性の固体電解質によって構成される。
【0017】
センサ素子12の一端には、ガス導入口16が設けられている。ガス導入口16は、第2固体電解質層28の下面28bと第1固体電解質層24の上面24aとの間に形成されている。
【0018】
第2固体電解質層28の下面28bと第1固体電解質層24の上面24aとの間には、さらに、第1拡散律速部30と、予備空室21と、第2拡散律速部32と、酸素濃度調整室18と、第3拡散律速部34と、測定空室20とが形成されている。酸素濃度調整室18を構成する主空室18aと副空室18bとの間には第4拡散律速部36が設けられている。
【0019】
ガス導入口16と、第1拡散律速部30と、予備空室21と、第2拡散律速部32と、主空室18aと、第4拡散律速部36と、副空室18bと、第3拡散律速部34と、測定空室20とは、この順に連通するように隣接して形成されている。ガス導入口16から測定空室20に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0020】
ガス導入口16と、予備空室21と、主空室18aと、副空室18bと、測定空室20とは、スペーサ層26を厚み方向に貫通するようにして形成されている。それらの空室18a、18b、20、21の上部には、第2固体電解質層28の下面28bが露出し、下部には第1固体電解質層24の上面24aが露出している。また空室18a、18b、20、21の側部は、スペーサ層26又は拡散律速部30、32、34、36で区画されている。
【0021】
第1拡散律速部30、第3拡散律速部34及び第4拡散律速部36は、いずれも2本の横長なスリット30a、34a、36aを備えている。すなわち、スリット30a、34a、36aは、図の紙面に垂直な方向に長く伸びたスリット状の開口を上部及び下部に有している。また、第2拡散律速部32は、1本の横長のスリット32aを備えている。
【0022】
また、センサ素子12の他端(ガス導入口16が設けられた端部と反対側の端部)には、基準ガス導入空間38が設けられている。基準ガス導入空間38は、第3基板22cの上面22c1と、スペーサ層26の下面26bとの間に形成されている。また、基準ガス導入空間38の側部は第1固体電解質層24の側面で区画されている。基準ガス導入空間38には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0023】
ガス導入口16は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入口16を通じて外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれる。
【0024】
第1拡散律速部30は、ガス導入口16から予備空室21に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。予備空室21については後述する。
【0025】
第2拡散律速部32は、予備空室21から主空室18aに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0026】
主空室18aは、ガス導入口16から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。酸素分圧は、主ポンプセル40が作動することによって調整される。
【0027】
主ポンプセル40は、主ポンプ電極42と、外側ポンプ電極44と、これらに挟まれた酸素イオン導伝性の固体電解質とで構成される電気化学的ポンプセルであり、主電気化学ポンピングセルとも呼ぶ。主ポンプ電極42は、主空室18aを区画する第1固体電解質層24の上面24a、第2固体電解質層28の下面28b、及びスペーサ層26の側面のそれぞれの略全面に設けられている。外側ポンプ電極44は、第2固体電解質層28の上面28aに形成されている。外側ポンプ電極44の位置は、主ポンプ電極42と対応する領域に外部空間に露出する態様で設けると好適である。主ポンプ電極42は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料で構成することが好ましい。例えば、平面視して矩形状の多孔質サーメット電極として構成することができる。具体的には、例えば、0.1~30wt%のAu(金)を含むPt(白金)等の貴金属とZrO2とのサーメット電極とすることができる。
【0028】
主ポンプセル40は、センサ素子12の外部に備わる第1可変電源46により、第1ポンプ電圧Vp1を印加して、外側ポンプ電極44と主ポンプ電極42との間に第1ポンプ電流Ip1を流すことにより、主空室18a内の酸素を外部に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を主空室18a内に汲み入れることが可能となっている。
【0029】
また、センサ素子12は、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50を有する。この第1酸素分圧検出センサセル50は、主ポンプ電極42と、基準電極48と、これらの電極に挟まれた酸素イオン導伝性の第1固体電解質層24とによって構成される。基準電極48は、第1固体電解質層24と第3基板22cとの間に形成された電極であり、外側ポンプ電極44と同様の多孔質サーメットからなる。基準電極48は、平面視して矩形状に形成されている。また、基準電極48の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間38につながる基準ガス導入層52が設けられている。基準電極48の表面には、基準ガス導入空間38の基準ガスが基準ガス導入層52を介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50では、主空室18a内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して主ポンプ電極42と基準電極48との間に第1起電力V1が発生する。
【0030】
第1酸素分圧検出センサセル50において生じる第1起電力V1は、主空室18aに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子12は、上記の第1起電力V1によって、主ポンプセル40の第1可変電源46をフィードバック制御する。これにより、第1可変電源46が主ポンプセル40に印加する第1ポンプ電圧Vp1、主空室18aの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0031】
第4拡散律速部36は、主空室18aでの主ポンプセル40の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを副空室18bに導く部位である。
【0032】
副空室18bは、予め主空室18aにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部36を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル54による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、副空室18b内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができ、精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0033】
補助ポンプセル54は、電気化学的ポンプセルであり、副空室18bに面する第2固体電解質層28の下面28bの略全体に設けられた補助ポンプ電極56と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成される。なお、補助ポンプ電極56についても、主ポンプ電極42と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0034】
補助ポンプセル54は、補助ポンプ電極56と外側ポンプ電極44との間に所望の第2ポンプ電圧Vp2を印加することにより、副空室18b内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から副空室18bに汲み入れることができる。
【0035】
また、副空室18b内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極56と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって、電気化学的なセンサセルが構成される。すなわち、補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル58が構成されている。
【0036】
第2酸素分圧検出センサセル58では、副空室18b内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度に起因して、補助ポンプ電極56と基準電極48との間に第2起電力V2が発生する。この第2酸素分圧検出センサセル58で生じる第2起電力V2は、副空室18bに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。
【0037】
センサ素子12は、上記の第2起電力V2に基づいて、第2可変電源60を制御することにより、補助ポンプセル54のポンピングを行う。これにより、副空室18b内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的な影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0038】
また、これと共に、補助ポンプセル54の第2ポンプ電流Ip2が、第2酸素分圧検出センサセル58の第2起電力V2の制御に用いられるようになっている。具体的には、第2ポンプ電流Ip2は、制御信号として第2酸素分圧検出センサセル58に入力される。その結果、第2起電力V2が制御され、第4拡散律速部36を通じて副空室18b内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定になるように制御される。ガスセンサ10をNOxセンサとして使用する際には、主ポンプセル40と補助ポンプセル54との働きによって、副空室18b内での酸素濃度は、各条件の所定の値に精度よく保たれる。
【0039】
第3拡散律速部34は、副空室18bで補助ポンプセル54の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを測定空室20に導く部位である。
【0040】
NOx濃度の測定は、主として、測定空室20に設けられた測定用ポンプセル61の動作により行われる。測定用ポンプセル61は、測定電極62と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極62は、測定空室20内の例えば第1固体電解質層24の上面24aに設けられる。測定電極62は被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、主ポンプ電極42よりも高めた材料で構成される。測定電極62は、例えば多孔質サーメット電極とすることができる。また、測定電極62は、雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する材料を用いることが好ましい。
【0041】
測定用ポンプセル61は、測定空室20内において、測定電極62の周囲で窒素酸化物を分解することで酸素を生じさせる。さらに、測定用ポンプセル61は、測定電極62で発生した酸素を、汲み出し、その酸素の発生量を測定ポンプ電流Ip3、すなわち、センサ出力として検出することができる。
【0042】
また、測定空室20内の測定電極62の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層24と、測定電極62と、基準電極48とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル66が構成されている。第3酸素分圧検出センサセル66で検出された第3起電力V3に基づいて、第3可変電源68が制御される。
【0043】
副空室18bに導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部34を通じて測定空室20内の測定電極62に到達する。測定電極62の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は、還元されて酸素を発生する。ここで発生した酸素は、測定用ポンプセル61によってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された第3起電力V3が一定となるように第3可変電源68の第3ポンプ電圧Vp3が制御される。測定電極62の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。したがって、測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip3を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、測定用ポンプセル61は、測定空室20内の特定成分(NO)の濃度を測定する特定成分測定手段104を構成する。
【0044】
また、ガスセンサ10は、電気化学的なセンサセル70を有する。このセンサセル70は、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24と、第3基板22cと、外側ポンプ電極44と、基準電極48とで構成される。このセンサセル70によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0045】
さらに、センサ素子12においては、第2基板22bと第3基板22cとに上下から挟まれた態様にて、ヒータ72が形成されている。ヒータ72は、第1基板22aの下面22a2に設けられた図示しないヒータ電極を介して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子12を構成する固体電解質の酸素イオン導伝性が高められる。ヒータ72は、予備空室21、酸素濃度調整室18及び測定空室20の全域に亘って埋設されており、センサ素子12の所定の場所を所定の温度に加熱及び保温することができるようになっている。なお、ヒータ72の上下には、第2基板22b及び第3基板22cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている。以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部とも称する。
【0046】
そして、予備空室21は、後述する駆動制御手段108(図2参照)によって駆動し、駆動中は、ガス導入口16から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として機能する。酸素分圧は、予備ポンプセル80が作動することによって調整される。
【0047】
予備ポンプセル80は、予備空室21に面する第2固体電解質層28の下面28bの略全体に設けられた予備ポンプ電極82と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0048】
予備ポンプセル80は、予備ポンプ電極82と、外側ポンプ電極44との間に所望の予備ポンプ電圧Vp0を印加することにより、予備空室21内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から予備空室21内に酸素を汲み入れることが可能となっている。
【0049】
本実施形態のガスセンサ10では、予備ポンプ電極82を構成する材料として、NH3のNOへの酸化反応への活性の低い材料を用いることとした。具体的には、予備ポンプ電極82の材料として、Au(金)を混合したAu(金)/Pt(白金)合金を用いることとした。Au(金)の濃度は、予備ポンプ電極82の少なくとも表面付近において、10atm%以上とすることが好ましい。ここで、Au(金)の濃度(atm%)とは、Au原子数/(Pt原子数+Au原子数)で求まる原子百分率であり、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により求めることができる。
【0050】
上記のAu(金)を含んだ予備ポンプ電極82は、Au添加量がPt比で1~5wt%(重量%)のAu/Pt合金を含むペーストを、第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28を積層する際に、予備空室21に塗布しておく。その後、構造体14を構成するジルコニアと共に例えば1400℃程度の温度で焼成することにより予備ポンプ電極82を形成できる。このような処理を行うことで、Au/Pt合金の粒子の表面にAuが析出して、予備ポンプ電極82の表面において10~60atm%の金濃度が達成される。
【0051】
予備ポンプ電極82は、上記の方法以外の方法で形成してもよい。例えば、メッキ法や成膜法等により、Pt膜の表面にAu膜を形成することで、予備ポンプ電極82を形成してもよい。
【0052】
なお、予備ポンプ電極82以外の電極については、金を含まないか、金濃度を予備ポンプ電極82の表面の金濃度よりも低くすることが好ましい。例えば、主空室18aの主ポンプ電極42の表面に金のようなNH3のNOへの酸化反応への活性の低い材料が高濃度で含まれていると、主空室18aにおけるNH3のNOへの酸化反応が十分に進まず、測定誤差を生じるおそれがあるためである。
【0053】
ガスセンサ10は、予備空室21内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、予備ポンプ制御用の予備酸素分圧検出センサセル84を有する。この予備酸素分圧検出センサセル84は、予備ポンプ電極82と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とを有する。予備酸素分圧検出センサセル84は、予備空室21内の雰囲気中の酸素濃度と基準ガス中の酸素濃度との差によって生じる、予備ポンプ電極82と基準電極48との間の起電力を予備起電力V0として検出する。
【0054】
なお、この予備酸素分圧検出センサセル84にて検出される予備起電力V0に基づいて電圧制御される予備可変電源86にて、予備ポンプセル80がポンピングを行う。これにより、予備空室21内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響を及ぼさない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0055】
また、これと共に、その予備ポンプ電流Ip0が、予備酸素分圧検出センサセル84の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、予備ポンプ電流Ip0は、制御信号として予備酸素分圧検出センサセル84に入力され、その予備起電力V0が制御されることにより、第1拡散律速部30から予備空室21内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。
【0056】
なお、予備空室21は、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消すことが可能である。このような被測定ガスの圧力変動としては、例えば自動車の排気ガスの排気圧の脈動等が挙げられる。
【0057】
さらに、ガスセンサ10は、図2に模式的に示すように、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を制御する酸素濃度制御手段100(主酸素濃度制御手段)と、センサ素子12の温度を制御する温度制御手段102と、測定空室20内の特定成分(NO)の濃度を測定する特定成分測定手段104と、予備酸素濃度制御手段106と、駆動制御手段108と、目的成分取得手段110とを有する。
【0058】
なお、酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、特定成分測定手段104、予備酸素濃度制御手段106、駆動制御手段108及び目的成分取得手段110は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路により構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路等で構成してもよい。
【0059】
ガスセンサ10は、上述した酸素濃度調整室18、酸素濃度制御手段100及び温度制御手段102及び特定成分測定手段104に加えて、予備空室21、予備酸素濃度制御手段106、駆動制御手段108及び目的成分取得手段110を具備することで、NO(酸化窒素)及びNH3(アンモニア)の各濃度を取得することができる。
【0060】
酸素濃度制御手段100は、予め設定された酸素濃度の条件と、第1酸素分圧検出センサセル50(図1参照)において生じる第1起電力V1とに基づいて、第1可変電源46をフィードバック制御し、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を上記条件に従った濃度に調整する。
【0061】
温度制御手段102は、予め設定されたセンサ温度の条件と、センサ素子12の温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、ヒータ72をフィードバック制御することにより、センサ素子12の温度を上記条件に従った温度に調整する。
【0062】
ガスセンサ10は、これら酸素濃度制御手段100又は温度制御手段102の単独の動作、若しくは酸素濃度制御手段100及び温度制御手段102の協動によって、酸素濃度調整室18内のNOを分解させることなく、NH3が全てNOに変換されるように、酸素濃度調整室18内の状態を制御する。
【0063】
予備酸素濃度制御手段106は、予め設定された酸素濃度の条件と、予備酸素分圧検出センサセル84(図1参照)において生じる予備起電力V0とに基づいて、予備可変電源86をフィードバック制御することにより、予備空室21内の酸素濃度を、条件に従った濃度に調整する。
【0064】
そして、目的成分取得手段110は、予備酸素濃度制御手段106の第1動作による特定成分測定手段104からのセンサ出力と、予備酸素濃度制御手段106の第2動作による特定成分測定手段104からのセンサ出力との差に基づいて、NO及びNH3の各濃度を取得する。
【0065】
ここで、予備酸素濃度制御手段106により予備ポンプ電極82に印加される予備ポンプ電圧Vp0によって、被測定ガス中のNO及びNH3は以下のように変化する。
【0066】
まず、第1の電圧範囲では、予備空室21内のNH3がNH3のままに保たれる。予備空室21内のNH3はNH3のまま、第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18内に到達する。また、予備空室21内のNOはNOのまま第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18内に到達する。
【0067】
第2の電圧範囲では、予備空室21内のNH3がNOに酸化されて第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18に到達する。また、NOはNOのまま第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18に到達する。
【0068】
第3の電圧範囲では、予備空室21内のNH3がNOに酸化された後、さらにN2とO2に分解されて、第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18に到達する。また、予備空室21内のNOは、N2とO2に分解されて第2拡散律速部32を通過して酸素濃度調整室18に到達する。
【0069】
予備酸素濃度制御手段106の停止時に予備ポンプ電極82に印加される電圧をVoffとし、第1の電圧範囲から選ばれる第1電圧をVaとし、第2の電圧範囲から選ばれる第2電圧をVbとし、第3の電圧範囲から選ばれる第3電圧をVcとすると、上記の各電圧は以下の関係にある。
Va<Voff<Vb<Vc もしくは、 Voff<Va<Vb<Vc
【0070】
予備酸素濃度制御手段106は、第1動作時において第1電圧Vaを予備ポンプ電圧Vp0として印加し、第2動作時において第2電圧Vbを予備ポンプ電圧Vp0として出力する。なお、被測定ガスの酸素濃度によっては、予備空室21内に酸素を汲み入れる場合もあり、その場合には、第1電圧Vaは負の値をとってもよい。予備空室21内の酸素の汲み出し又は汲み入れを行わない場合には、第1電圧VaをVoffとしてもよい。
【0071】
上記のように、第1動作時にはNH3成分がNH3のまま第2拡散律速部32を通過して測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3に反映される。また、第2動作時にはNH3成分がNOとして第2拡散律速部32を通過して測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3に反映される。NH3は、NOよりも素早く第2拡散律速部32を拡散できるため、第1動作時と第2動作時とで、測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3が変化する。それらの差分の大きさは、被測定ガス中のNH3の濃度を反映したものとなる。すなわち、NH3とNOの拡散速度差を利用して、測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3をNO成分とNH3成分とに分解できる。したがって、ガスセンサ10は、予備酸素濃度制御手段106の第2動作による特定成分測定手段104からのセンサ出力との差に基づいて、NO及びNH3の濃度を求める。
【0072】
次に、ガスセンサ10の処理動作について、図3及び図4を参照しつつ説明する。
【0073】
まず、駆動制御手段108によって予備酸素濃度制御手段106が第1動作している期間では、図3に示すように、ガス導入口16を通じて導入したNH3は、酸素濃度調整室18まで到達する。酸素濃度調整室18では、酸素濃度制御手段100によって、NH3を全てNOに変換するように制御されることから、予備空室21から酸素濃度調整室18に流入したNH3は酸素濃度調整室18内でNH3からNOに酸化される反応が起こり、酸素濃度調整室18内の全てのNH3がNOに変換される。したがって、ガス導入口16を通じて導入されたNH3は、第1拡散律速部30及び第2拡散律速部32をNH3の拡散係数(例えば、2.2cm2/sec)で通過し、酸素濃度調整室18内でNOに変換された後は、第3拡散律速部34をNOの拡散係数(例えば、1.8cm2/sec)で通過して、隣接する測定空室20内に移動する。
【0074】
一方、駆動制御手段108によって予備酸素濃度制御手段106が第2動作している期間では、図4に示すように、予備空室21内でNH3からNOの酸化反応が起こり、ガス導入口16を通じて導入された全てのNH3がNOに変換される。したがって、NH3は第1拡散律速部30をNH3の拡散係数で通過するが、予備空室21より奥にある第2拡散律速部32以降はNOの拡散係数で通過して測定空室20に移動する。
【0075】
すなわち、予備酸素濃度制御手段106が第1動作状態から第2動作状態に切り替わることで、NH3の酸化反応が起こる場所が酸素濃度調整室18から予備空室21に移動する。
【0076】
NH3の酸化反応が起こる場所が酸素濃度調整室18から予備空室21に移動することは、被測定ガス中のNH3が第2拡散律速部32を通過する際の状態がNH3からNOに変わることに等しい。そして、NO、NH3は各々異なる拡散係数を持つため、第2拡散律速部32をNOで通過するか、NH3で通過するかの違いは、測定空室20に流れ込むNOの量の違いとして現れ、測定用ポンプセル61に流れる測定ポンプ電流Ip3を変化させる。
【0077】
この場合、予備ポンプセル80の第2動作を行っている際の測定ポンプ電流Ip3(Vb)と、予備ポンプセル80の第1動作時の測定ポンプ電流Ip3(Va)の変化量ΔIp3は、被測定ガス中のNH3の濃度によって一義的に定まる。そのため、測定ポンプ電流Ip3(Vb)又は測定ポンプ電流Ip3(Va)と、測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3とからNOとNH3の各濃度を算出することができる。
【0078】
目的成分取得手段110は、予備ポンプセル80の第1動作時の測定ポンプ電流Ip3(Va)と、第1動作時及び第2動作時の測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3とのマップ112に基づいてNO及びNH3の各濃度を求めることができる。
【0079】
また、目的成分取得手段110は、予め実験又はシミュレーションで求めた変化量ΔIp3とNH3濃度との相関関係に基づいてNH3濃度を求めてもよい。この場合には、予備ポンプセル80の第2動作時におけるセンサ出力から得られるNO濃度、すなわち、NOとNH3の濃度の全てをNOに換算した総NO濃度から、上述して求めたNH3濃度を差し引くことでNO濃度を求めることができる。
【0080】
(実施例及び比較例)
以下、Au(金)を含んだ予備ポンプ電極82の効果について、比較例及び実施例を参照しつつ説明する。
【0081】
(比較例)
比較例に係るガスセンサの機械的構造は、本実施形態のガスセンサ10と略同一となっている。但し、予備ポンプ電極82を、Ptのみで構成し、Auを含まない点で、ガスセンサ10と異なる。
【0082】
比較例では、酸素濃度が10%の第1被測定ガス及び第2被測定ガスをガスセンサに供給して、予備ポンプ電圧Vp0の変化に対する測定ポンプ電流Ip3の変化及びその変化量ΔIp3の測定を行った。この測定は、ヒータによりガスセンサを840℃に保った状態で測定した。
【0083】
なお、第1被測定ガスは、温度が250℃、H2O濃度が3%、NO濃度が500ppmのガスであり、その流量は200L/minである。以下の説明では、第1被測定ガスを「第1被測定ガス(NO)」と記す。
【0084】
また、第2被測定ガスは、温度が250℃、H2O濃度が3%、NH3濃度が500ppmのガスであり、その流量は200L/minである。以下の説明では、第2被測定ガスを「第2被測定ガス(NH3)」と記す。
【0085】
第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NOの測定結果及び第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NH3の測定結果を、図5Aに示す。また、Vp0が-0.3Vのときの測定ポンプ電流Ip3の値から、予備ポンプ電圧Vp0の増加に伴って徐々に低下する測定ポンプ電流Ip3の値を差し引いた変化量ΔIp3を、図5Bに示す。
【0086】
図5Bに示すように、ΔIp3NO及びΔIp3NH3に着目すると、これらの差異が殆どなく、予備ポンプ電圧Vp0を高電圧と低電圧(あるいはVoff)とで切り替えても、NH NOの2種類のガスのΔIp3の値の差を得られない。これは、酸素濃度が高い場合には、予備空室21においてPtよりなる電極の触媒活性により、NHが酸化されてNOに変化してしまうためと考えられる。そのため、予備ポンプ電圧Vp0を低電圧にした場合であっても、予備空室21でNHがNOに変化されてしまい、予備ポンプ電圧Vp0を高電圧にしたときと同様の酸化反応が起こっているものと推測される。その結果、被測定ガスの酸素濃度が10%と高い場合には、NHとNOとの2種類のガスの濃度を分離して検出できなくなってしまう。
【0087】
(実施例1)
実施例1では、ガスセンサ10の予備ポンプ電極82を、仕込組成でAuを5wt%含むAu/Pt合金のペーストを用いて作製した。予備ポンプ電極82は、構造体14を積層して予備空室21を形成する際に、予備空室21内にAu/Pt合金のペーストを塗布して形成する。その後、塗布したAu/Pt合金のペーストを約1400℃程度の温度で構造体14と共に焼成して予備ポンプ電極82を形成した。
【0088】
実施例1のガスセンサ10を切断して予備ポンプ電極82の表面の原子百分率をXPSにより測定したところ、予備ポンプ電極82の表面のAu(金)の原子百分率は60atm%であった。
【0089】
次に、実施例1に係るガスセンサ10について、酸素濃度が1%の第1被測定ガス及び第2被測定ガス、並びに、酸素濃度が10%の第1被測定ガス及び第2被測定ガスを供給した際の、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3の変化、及び測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を求めた。ガスセンサ10による測定は、ヒータ72を用いて840℃に保った状態で行った。
【0090】
なお、第1被測定ガス(NO)は、温度が250℃、H2O濃度が3%、NO濃度が500ppmのガスであり、その流量は200L/minである。また、第2被測定ガス(NH3)は、温度が250℃、H2O濃度が3%、NH3濃度が500ppmのガスであり、その流量は200L/minである。
【0091】
第1被測定ガス(NO)での測定は、予備ポンプ電圧Vp0を-0.3Vから0.8Vに変化させた場合のNO濃度の変化、すなわちNOに関する測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3NOの変化を求めた。また、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3Vのときの測定ポンプ電流Ip3NOの値から、予備ポンプ電圧Vp0の増加に伴って徐々に低下する測定ポンプ電流Ip3NOの値を差し引いた変化量ΔIp3NOの変化を求めた。
【0092】
第2被測定ガス(NH3)での測定は、予備ポンプ電圧Vp0を-0.3Vから0.8Vに変化させた場合のNH3濃度の変化、すなわち、測定ポンプ電流Ip3NH3の変化を求めた。また、予備ポンプ電圧Vp0=-0.3Vのときの測定ポンプ電流Ip3NH3の値から、予備ポンプ電圧Vp0の増加に伴って徐々に低下する測定ポンプ電流Ip3NH3の値を差し引いた変化量ΔIp3NH3の変化を求めた。
【0093】
酸素濃度が1%のときの第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)に対する、測定ポンプ電流Ip3NO、Ip3NH3図6Aに示し、その変化量ΔIp3NO、ΔIp3NH3図6Bに示す。また、酸素濃度が10%のときの第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NO、Ip3NH3図6Cに示し、その変化量ΔIp3NO、ΔIp3NH3図6Dに示す。
【0094】
図6A及び図6Bに示すように、酸素濃度が1%の条件における第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NOは、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.8Vの範囲で一定である。このことから、比較的高い予備ポンプ電圧Vp0を印加しても、NOは全く分解されないことがわかる。
【0095】
一方、酸素濃度が1%の条件における第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3は、予備ポンプ電圧Vp0が0V~0.2Vの範囲で急峻に低下している。これは、予備ポンプ電圧Vp0が0V以上に上がることで、予備空室21内でNH3→NOの酸化反応が起こり、ガス導入口16を通じて導入されたNH3がNOに変換されたことを示している。
【0096】
図6C及び図6Dに示すように、酸素濃度が10%の条件における第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NOは、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.8Vの範囲で略一定の値を示す。このことから、比較的高い予備ポンプ電圧Vp0を印加しても、NOは分解されないことがわかる。
【0097】
また、酸素濃度が10%の条件における第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3は、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0Vの範囲において殆ど変化せず、一定の値を保っている。したがって、本実施形態の予備ポンプ電極82によれば、酸素濃度が10%と高い場合であっても、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0Vの範囲であれば、NH3がNOに酸化される反応が起きていないことがわかる。
【0098】
また、予備ポンプ電圧Vp0が0V~0.6Vの範囲では、測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3が、徐々に低下する結果を示している。これは、予備ポンプ電圧Vp0が0V以上に上がることで、予備空室21内でNH3→NOの酸化反応が起こり、ガス導入口16を通じて導入されたNH3がNOに変換されたことを示している。
【0099】
一方、酸素濃度が10%の条件における第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NOは、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.8Vの範囲で一定である。このことから、酸素濃度が10%の場合においても、NOは全く分解されないことがわかる。
【0100】
以上のことから、酸素濃度が高い場合であっても、予備ポンプ電圧Vp0を高電圧と低電圧(あるいはVoff)とで切り替えることにより、NH NOの2種類のガスの変化量ΔIp3の値の差を得ることができる。したがって、実施例1のガスセンサによれば、被測定ガスの酸素濃度が高い場合であっても、NH NOの2種類のガスの濃度をそれぞれ検出できる。
【0101】
ところで、図6A及び図6Bの測定ポンプ電流Ip3NH3及び測定ポンプ電流Ip3NOに着目すると、第1被測定ガス(NO)の測定ポンプ電流Ip3NOは、予備ポンプ電圧Vp0に関係なく一定である。これに対し、第2被測定ガス(NH )の測定ポンプ電流Ip3NH3は予備ポンプ電圧Vp0の増加に応じて小さくなっている。当初想定されたガスセンサ10の動作メカニズムであれば、予備ポンプ電圧Vp0を増加させると、以下の(1)の反応が起きているはずである。
4NH+5O→4NO+6HO …(1)
【0102】
したがって、NH3がNOに変換された後は、それ以上NOが分解されなくなり、第1被測定ガス(NO)の測定ポンプ電流Ip3NOと同じラインをたどるはずである。
【0103】
ところが、実際の測定ポンプ電流Ip3NH3は、上記の予想に反して、予備ポンプ電圧Vp0の増加に応じて小さくなっている。この理由として、本願発明者らは、Auを高濃度で含む予備ポンプ電極82の上では、反応速度が遅くなることにより、図7に示す反応が生じるものと考えた。すなわち、予備ポンプ電極82において、(1)の反応で生成したNOの周りにNH3が多い状態が生じ、下記の(2)のようにNH3とNOとの反応が生じる。その結果、第2被測定ガス中のNH3(反応後のNOを含む)の量が減少すると考えた。
4NH3+6NO→5N2+6H2O …(2)
【0104】
ここで、雰囲気中にNOとNH3が混在する場合、予備空室21に被測定ガスが入っただけで、(2)の反応が起こり、測定ポンプ電流Ip3の感度が得られなくなる懸念がある。そこで、本願発明者らは、実際にNOとNH3が混在する被測定ガスについて、試験を行ったところ、雰囲気ガス中でNOとNH3とが(2)の反応を起こす挙動は確認できなかった。
【0105】
このことから、被測定ガスとして予備空室21に導入されたNOとNH3との間では(2)の反応は起きないようであり、予備ポンプ電極82の表面において(1)の反応が起きるサイトの近傍のみで局所的に(2)の反応が生じるものと考えられる。
【0106】
以上のように、実施例1のようにAuを原子百分率で60atm%以上含む予備ポンプ電極82によれば、予備ポンプ電圧Vp0の高電圧と低電圧とで切り替えた際の測定ポンプ電流Ip3の変化がNH3ガスのみで発現するため、広い酸素濃度領域において、NO及びNH3の濃度を分離して検出することが可能となる。
【0107】
(実施例2)
実施例2では、ガスセンサ10の予備ポンプ電極82を、仕込組成でAuを1wt%含むAu/Pt合金のペーストを用いて作製した。予備ポンプ電極82は、塗布したAu/Pt合金のペーストを約1400℃程度の温度で構造体14と共に焼成して形成した。このガスセンサ10を切断して予備ポンプ電極82の表面の原子百分率をXPSにより測定したところ、予備ポンプ電極82の表面のAu(金)の原子百分率は10atm%であった。
【0108】
次に、実施例2に係るガスセンサ10について、酸素濃度が1%の第1被測定ガス及び第2被測定ガス、並びに、酸素濃度が10%の第1被測定ガス及び第2被測定ガスを供給した際の、予備ポンプ電圧Vp0に対する測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3の変化、及び測定ポンプ電流Ip3の変化量ΔIp3を求めた。本実施例におけるガスセンサ10による測定は、ヒータ72を用いて840℃に保った状態で行った。
【0109】
ここで、第1被測定ガス(NO)は、温度が250℃、H2O濃度が3%、NO濃度が500ppm、流量が200L/minである。また、第2被測定ガス(NH3)は、温度が250℃、H2O濃度が3%、NH3濃度が500ppm、流量が200L/minである。
【0110】
第1被測定ガス(NO)での測定は、予備ポンプ電圧Vp0を-0.3Vから1.0Vに変化させた場合のNO濃度の変化、すなわちNOに関する測定ポンプ電流(センサ出力)Ip3NOの変化を求めた。また、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3Vのときの測定ポンプ電流Ip3NOの値から、予備ポンプ電圧Vp0の増加に伴って徐々に低下する測定ポンプ電流Ip3NOの値を差し引いた変化量ΔIp3NOの変化を求めた。
【0111】
第2被測定ガス(NH3)での測定は、予備ポンプ電圧Vp0を-0.3Vから1.0Vに変化させた場合のNH3濃度の変化、すなわち、測定ポンプ電流Ip3NH3の変化を求めた。また、予備ポンプ電圧Vp0=-0.3Vのときの測定ポンプ電流Ip3NH3の値から、予備ポンプ電圧Vp0の増加に伴って徐々に低下する測定ポンプ電流Ip3NH3の値を差し引いた変化量ΔIp3NH3の変化を求めた。
【0112】
酸素濃度が1%のときの第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)に対する、測定ポンプ電流Ip3NO、Ip3NH3図8Aに示し、その変化量ΔIp3NO、ΔIp3NH3図8Bに示す。また、酸素濃度が10%のときの第1被測定ガス(NO)及び第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NO、Ip3NH3図8Cに示し、その変化量ΔIp3NO、ΔIp3NH3図8Dに示す。
【0113】
図8A及び図8Bに示すように、酸素濃度が1%の条件における第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NOは、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.1Vの範囲で一定である。この予備ポンプ電圧Vp0の範囲では、NOは全く分解されないことがわかる。
【0114】
また、酸素濃度が1%の条件における第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3は、測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NOが低下していなかった予備ポンプ電圧Vp0が0.0V~0.1Vの範囲で急峻に低下している。これは、予備ポンプ電圧Vp0が0.0V以上に上がることで、予備空室21内でNH3→NOの酸化反応が起こり、ガス導入口16を通じて導入されたNH3がNOに変換されたことを示している。
【0115】
図8C及び図8Dに示すように、酸素濃度が10%の条件における第1被測定ガス(NO)に対する測定ポンプ電流Ip3NO及び変化量ΔIp3NO、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.8Vの範囲で一定である。このことから、比較的高い予備ポンプ電圧Vp0を印加しても、NOは全く分解されないことがわかる。
【0116】
また、酸素濃度が10%の条件における第2被測定ガス(NH3)に対する測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3は、予備ポンプ電圧Vp0が-0.3V~0.2Vの範囲において殆ど変化せず、一定の値を保っている。この領域では変化量ΔIp3NH3は、変化量ΔIp3NOに略等しい。本実施形態の予備ポンプ電極82によれば、酸素濃度が10%と高い場合であっても、NH3がNOに酸化される反応が起きていないことがわかる。
【0117】
また、予備ポンプ電圧Vp0が0.2V~0.9Vの範囲では、測定ポンプ電流Ip3NH3及び変化量ΔIp3NH3が、-0.3V~0.2Vよりも低下する結果を示している。これにより、変化量ΔIp3NH3と変化量ΔIp3NOとの間に差が生じている。これは、予備ポンプ電圧Vp0が0.2V以上に上がることで、予備空室21内でNH3→NOの酸化反応が起こり、ガス導入口16を通じて導入されたNH3がNOに変換されたことを示している。なお、このときの変化量ΔIp3NH3と変化量ΔIp3NOとの差は0.01μA程度だが、十分識別できる大きさである。
【0118】
以上のことから、酸素濃度が高い場合であっても、予備ポンプ電圧Vp0を高電圧と低電圧とで切り替えることにより、NH NOの2種類のガスの変化量ΔIp3の値の差を得ることができる。したがって、実施例2のガスセンサ10によれば、被測定ガスの酸素濃度が高い場合であっても、NH NOの2種類のガスの濃度をそれぞれ検出できる。
【0119】
上記のガスセンサ10は、以下の効果を奏する。
【0120】
実施例1、2及び比較例に示すように、ガスセンサ10においては、少なくとも表面にAuを原子百分率で10atm%以上含むAu/Pt合金よりなる予備ポンプ電極82を用いることで、予備空室21内でのNH3の酸化を防止できる。その結果、被測定ガス中の酸素濃度が高くなった場合であっても、予備ポンプ電極82に加える予備ポンプ電圧Vp0を高電圧と低電圧(あるいはVoff)とで切り替えることにより、第2拡散律速部32におけるNH3とNOとの拡散速度差を利用して、これらの2種類のガスの濃度をそれぞれ分離して検出することができる。
【0121】
ガスセンサ10において、予備ポンプ電極82の表面におけるアンモニアと酸素との反応に対する活性の低い材料であるAu(金)の濃度が、主ポンプ電極42の表面におけるAu(金)の濃度よりも高くなっている。これにより、被測定ガス中の酸素濃度が高い場合であっても、予備空室21内でのNH3がNOに変換される反応を防ぐことができる一方、主空室18aにおいてNH3を確実にNOに変換することができる。
【0122】
ガスセンサ10において、アンモニアと酸素との反応に対する活性の低い材料であるAu(金)を含む合金としたことにより、予備空室21の予備ポンプ電極82を低電圧とした際にNH3がNOに変換される反応を防止できる。
【0123】
ガスセンサ10において、予備ポンプ電極82の少なくとも表面におけるAu(金)濃度(原子百分率)が10atm%以上とした。これにより、予備ポンプ電極82の予備ポンプ電圧Vp0を高電圧状態と低電圧状態とに切り替えを行った際に、NH3とNOの濃度に応じた測定ポンプ電流Ip3及び変化量ΔIp3の出力の変化を検出できる。これにより、NH3及びNOの濃度をそれぞれ別々に検出することができる。
【0124】
ガスセンサ10において、予備ポンプ電極82がAu(金)/Pt(白金)合金よりなり、予備ポンプ電極82の表面にAu(金)が析出又は被覆されていてもよい。このように、予備ポンプ電極82の表面のAu(金)の濃度を高めるだけでも、上記の効果を得ることができる。
【0125】
本実施形態のガスセンサ10の予備ポンプ電極82は、仕込組成で1wt%以上のAu(金)を含むAu(金)/Pt(白金)合金を、予備空室21内で構造体14を構成する固体電解質と共に焼成することで、得られる。これにより、Ptに比べて融点が低く揮発性の高いAuが予備空室21内で拡散し、予備ポンプ電極82の表面に析出する。その結果、表面のAu濃度が高い予備ポンプ電極82が得られる。
【0126】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0127】
10…ガスセンサ 12…センサ素子
14…構造体 16…ガス導入口
18…酸素濃度調整室 20…測定空室
21…予備空室 30、32、34、36…拡散律速部
42…主ポンプ電極 48…基準電極
62…測定電極 82…予備ポンプ電極
106…予備酸素濃度制御手段 110…目的成分取得手段
図1
図2
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図6
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図8