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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガス濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
G01N27/416 376
G01N27/416 331
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018114325
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019219177
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072502(JP,A)
【文献】特開2017-194439(JP,A)
【文献】特開2018-063145(JP,A)
【文献】特開2018-054545(JP,A)
【文献】特開2018-040746(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222002(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030369(WO,A1)
【文献】特開2018-072315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の存在下に複数成分の濃度を測定するガスセンサであって、
少なくとも酸素イオン導電性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、
混成電位電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、
主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した酸素濃度調整室と、
測定電極を有し、前記酸素濃度調整室に連通した測定空室と、
前記構造体の表面に形成されるとともに基準ガスと接した基準電極と、
前記構造体の外側に露出した外側ポンプ電極と、
前記主ポンプ電極と前記基準電極の間の電圧に基づいて前記酸素濃度調整室内の酸素濃度を制御する主酸素濃度制御手段と、
前記基準電極と前記混成電位電極との間の混成電位を検出するNH濃度測定手段と、
前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるポンプ電流に基づいて前記測定空室内のNO濃度を測定するNO濃度測定手段と、
前記被測定ガス中のNH濃度及びNO濃度を取得する目的成分取得手段と
を備えたガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサであって、前記混成電位電極が、金(Au)-白金(Pt)合金、ビスマスバナジウム酸化物(BiVO)、銅バナジウム酸化物(Cu(VO)、タングステン酸化物、及びモリブデン酸化物のいずれかよりなるガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガスセンサであって、前記混成電位電極の少なくとも表面が、金を30at%以上の濃度で含む金(Au)/白金(Pt)合金よりなるガスセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサであって、前記目的成分取得手段は、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるポンプ電流から求めたNO濃度から前記NH濃度による寄与分を減算することにより、前記NO濃度を取得するガスセンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、前記目的成分取得手段は、前記主ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるポンプ電流から前記被測定ガス中の酸素濃度を測定するとともに、前記被測定ガス中の酸素濃度に基づいて、混成電位とNH濃度の相関関係を補正してNH濃度を取得するガスセンサ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、さらに、前記混成電位電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給して前記予備空室の酸素分圧を制御する予備酸素濃度制御手段を備え、前記予備酸素濃度制御手段で前記予備空室の酸素分圧を一定に保った条件の下で、前記目的成分取得手段が混成電位に基づいて前記被測定ガス中のNH濃度を取得するガスセンサ。
【請求項7】
少なくとも酸素イオン導電性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、混成電位電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した酸素濃度調整室と、測定電極を有し、前記酸素濃度調整室に連通した測定空室と、前記構造体の表面に形成されるとともに基準ガスと接した基準電極と、前記構造体の外側に露出した外側ポンプ電極と、を備えたガスセンサを用いて、酸素の存在下に前記被測定ガス中の複数成分の濃度を測定するガス濃度測定方法であって、
前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給して前記被測定ガス中の酸素を排出しつつ、前記混成電位電極と前記基準電極との間の混成電位を検出することにより前記被測定ガス中のNH濃度を取得するガス濃度測定方法。
【請求項8】
請求項7記載のガス濃度測定方法であって、
前記酸素濃度調整室において、前記主ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に所定のポンプ電流を供給することにより前記酸素濃度調整室内でNHをNOに変換させ、
前記測定空室で前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給して酸素を排出することでNOを分解させ、
前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間のポンプ電流からNO濃度を測定するガス濃度測定方法。
【請求項9】
請求項8記載のガス濃度測定方法であって、前記測定空室内のNO濃度から前記混成電位から求めたNH濃度を減ずることにより前記被測定ガス中のNO濃度を取得するガス濃度測定方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載のガス濃度測定方法であって、
前記混成電位電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給することなく前記混成電位を測定するステップと、
前記主ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に供給されるポンプ電流の値から、前記被測定ガス中の酸素分圧を求めるステップと、
前記被測定ガス中の酸素分圧に基づいて前記混成電位の酸素濃度依存性を補正してNH濃度を取得するステップと、
を有するガス濃度測定方法。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか1項に記載のガス濃度測定方法であって、前記混成電位電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給して前記予備空室内の酸素分圧を一定に保ちつつ、前記混成電位電極と前記基準電極との間前記混成電位を測定することにより前記被測定ガス中のNH濃度を取得するガス濃度測定方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載のガス濃度測定方法であって、前記混成電位電極に、少なくとも表面において、金が30at%以上の濃度で含まれる金(Au)/白金(Pt)合金を用いるガス濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガス濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガスのような酸素の存在下に共存する窒素酸化物(NO)やアンモニア(NH3)等の複数の成分の濃度を測定するガスセンサが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸素イオン導電性の固体電解質に、拡散抵抗部を隔てて、予備空室、主空室、副空室及び測定空室を設けるとともに、それぞれの空室にポンピング電極を設けたガスセンサが記載されている。このガスセンサでは、予備空室のポンピング電極の駆動又は停止を切り替えることで、予備空室内でNH3からNOへの酸化反応の進行又は停止を切り替える。そして、予備空室から主空室へのNH3及びNOの拡散速度差により生じる測定電極のポンプ電流の変化に基づいて、NH3及びNOのガス濃度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/222002号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたガスセンサでは、一定時間ごとにポンピング電極の駆動又は停止を切り替えながら測定を行う必要がある。測定の際のポンピング電極の駆動又は停止の時間は、予備空室、主空室、副空室及び測定空室内のガス濃度が一定になるまでの時間よりも十分に長くとる必要があり、NH3及びNOのガス濃度の測定結果が得られるまで所定の時間が必要となっている。そのため、ガス濃度の変化に対するセンサ出力の応答速度が低いという問題がある。
【0006】
本発明は、ガス濃度の変化に対するセンサ出力の応答速度に優れたガスセンサ及びガス濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点は、酸素の存在下に複数成分の濃度を測定するガスセンサであって、少なくとも酸素イオン導電性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、混成電位電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した酸素濃度調整室と、測定電極を有し、前記酸素濃度調整室に連通した測定空室と、前記構造体の表面に形成されるとともに基準ガスと接した基準電極と、前記構造体の外側に露出した外側ポンプ電極と前記主ポンプ電極と前記基準電極の間の電圧に基づいて前記酸素濃度調整室内の酸素濃度を制御する主酸素濃度制御手段と、前記基準電極と前記混成電位電極との間の混成電位を検出するNH濃度測定手段と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるポンプ電流に基づいて前記測定空室内のNO濃度を測定するNO濃度測定手段と、前記被測定ガス中のNH濃度及びNO濃度を取得する目的成分取得手段とを備えたガスセンサにある。
【0008】
また、本発明の別の一観点は、少なくとも酸素イオン導電性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、混成電位電極を有し、前記ガス導入口に連通した予備空室と、主ポンプ電極を有し、前記予備空室に連通した酸素濃度調整室と、測定電極を有し、前記酸素濃度調整室に連通した測定空室と、前記構造体の表面に形成されるとともに基準ガスと接した基準電極と、前記構造体の外側に露出した外側ポンプ電極と、を備えたガスセンサを用いて、酸素の存在下に前記被測定ガス中の複数成分の濃度を測定するガス濃度測定方法であって、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間にポンプ電流を供給して前記被測定ガス中の酸素を排出しつつ、前記混成電位電極と前記基準電極との間の混成電位を検出することにより前記被測定ガス中のNH濃度を取得するガス濃度測定方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記観点のガスセンサ及びガス濃度測定方法によれば、予備空室の予備ポンプ電極の駆動又は停止を切り替えることなくNH3濃度及びNO濃度を測定できるので応答速度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るガスセンサの一構造例を示す断面図である。
図2図1のガスセンサのブロック図である。
図3】第1の実施形態におけるガスセンサ内の反応を模式的に示す説明図である。
図4】第1の実施形態に係るガス濃度測定方法を示すフローチャートである。
図5図1のガスセンサにおける被測定ガスのNH3濃度に対する混成電位の測定結果を示すグラフである。
図6】第2の実施形態におけるガスセンサ内の反応を模式的に示す説明図である。
図7】第2の実施形態に係るガス濃度測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るガスセンサ及びガス濃度測定方法の実施形態について、図1図7を参照しながら説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値又は上限値として含む意味として使用される。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るガスセンサ10は、図1及び図2に示すように、センサ素子12を有する。センサ素子12は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14を備える。構造体14の内部には、被測定ガスが導入されるガス導入口16と、ガス導入口16に連通する酸素濃度調整室18と、酸素濃度調整室18に連通する測定空室20とが形成されている。
【0013】
酸素濃度調整室18は、ガス導入口16に連通する主空室18aと、主空室18aに連通する副空室18bとを有する。測定空室20は、副空室18bに連通している。
【0014】
さらに、ガスセンサ10は、構造体14のうち、ガス導入口16と主空室18aとの間に設けられ、ガス導入口16に連通する予備空室21を有する。
【0015】
具体的には、センサ素子12の構造体14は、第1基板層22aと、第2基板層22bと第3基板層22cと第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質層にて構成されている。
【0016】
センサ素子12の先端部側であって、第2固体電解質層28の下面28bと第1固体電解質層24の上面24aとの間には、ガス導入口16と、第1拡散律速部30と、予備空室21と、第2拡散律速部32と、酸素濃度調整室18と、第3拡散律速部34と、測定空室20とが備わっている。また、酸素濃度調整室18を構成する主空室18aと、副空室18bとの間に第4拡散律速部36が備わっている。
【0017】
これらガス導入口16と、第1拡散律速部30と、予備空室21と、第2拡散律速部32と、主空室18aと、第4拡散律速部36と、副空室18bと、第3拡散律速部34と、測定空室20とは、この順に連通する態様で、隣接して形成されている。ガス導入口16から測定空室20に至る部分をガス流通部とも称する。
【0018】
ガス導入口16と、予備空室21と、主空室18aと、副空室18bと、測定空室20は、スペーサ層26を厚み方向に貫通した態様で設けられた内部空間である。予備空室21、主空室18a、副空室18b、及び測定空室20の上部は第2固体電解質層28の下面28bで区画されており、下部は第1固体電解質層24の上面24aで区画されている。また、予備空室21、主空室18a、副空室18b、及び測定空室20の側部は、スペーサ層26の側面で区画されている。
【0019】
第1拡散律速部30、第3拡散律速部34及び第4拡散律速部36は、いずれも2本の横長の(図の紙面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。第2拡散律速部32は、1本の横長の(図の紙面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。
【0020】
また、第3基板層22cの上面22c1と、スペーサ層26の下面26bとの間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間38が設けられている。基準ガス導入空間38は、上部がスペーサ層26の下面26bで、下部が第3基板層22cの上面22c1で、側部が第1固体電解質層24の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間38には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0021】
ガス導入口16は、外部空間に対して開口している部分であり、該ガス導入口16を通じて外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれる。
【0022】
第1拡散律速部30は、ガス導入口16から予備空室21に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0023】
予備空室21は、ガス導入口16から導入された被測定ガス中のNH3濃度を測定するための空間として機能する。また、予備空室21は、必要に応じて、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間としても機能する。予備空室21の内部には、NH3濃度に応じた混成電位を発生する混成電位電極82が設けられている。
【0024】
混成電位電極82では、混成電位電極82と予備空室21内の被測定ガスと、固体電解質との三相界面において、被測定ガス中のO2と被測定ガス中のNOやNH3等との間の酸化・還元反応が発生する。その結果、後述する基準電極48との間でNOやNH3濃度に応じた電位差(混成電位)V0が発生する。
【0025】
混成電位電極82の材料としては、NH3とO2との反応に対する触媒活性が低く、NH3とO2が電極表面で燃焼反応を起こすことなく、上述のガス成分が三相界面まで拡散可能な材料を用いることが好ましい。特に限定されるものではないが、混成電位電極82は、NO及びNH3のうち、NH3の濃度変化に対する混成電位V0の変化が大きく、NOの濃度変化に対する混成電位V0の変化の小さな材料を用いると、被測定ガス中のNH3濃度を容易に求めることができる。
【0026】
混成電位電極82の材料として、具体的には、例えば、Au(金)-Pt(白金)合金、Ni(ニッケル)合金、Co(コバルト)合金などのがある。また、例えば、V(バナジウム)、W(タングステン)、及びMo(モリブデン)のいずれか又は複数を含む酸化物、並びにそれらの酸化物にNH3に対する検出選択性を高めるための添加物を加えた複合酸化物を用いることができる。酸化物としては、具体的には、例えば、ビスマスバナジウム酸化物(BiVO4)、銅バナジウム酸化物(Cu2(VO32)のいずれかを用いることができる。
【0027】
混成電位電極82にAu-Pt合金を用いる場合には、混成電位電極82の表面におけるAuの濃度(原子百分率)が30at%以上のものを用いると、混成電位V0が大きくなって好適である。Au-Pt合金よりなる混成電位電極82は、例えば、予備空室21内にAu-Pt合金のペーストを塗布した後、構造体14を構成する固体電解質を積層し、その後固体電解質とともに焼成することで作製できる。その際のAu-Pt合金のAuの仕込組成量を1~10%としておくと、混成電位電極82の表面において、XPS法(X線光電子分光法)により測定されるAuの原子百分率が30at%以上のAu濃度が得られて好適である。
【0028】
予備ポンプセル80は、予備空室21に面する第2固体電解質層28の下面28bの略全体に設けられた混成電位電極82と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成される電気化学的ポンプセルである。
【0029】
予備ポンプセル80は、混成電位電極82と、外側ポンプ電極44との間に所望の予備ポンプ電圧Vp0を印加することにより、予備空室21内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは外部空間から予備空室21内に酸素を汲み入れることが可能となっている。
【0030】
なお、第1の実施形態におけるNH3濃度及びNO濃度の測定は、予備ポンプセル80を稼働させることなく行なう。したがって、本実施形態においては予備ポンプセル80は必須ではない。後述する第2の実施形態の測定方法において予備ポンプセル80を稼働させる。
【0031】
ガスセンサ10は、予備空室21内における雰囲気中のNH3濃度の検出を行うため、NH3検出用の混成電位センサセル84を有する。この混成電位センサセル84は、混成電位電極82と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とを有する。混成電位センサセル84は、予備空室21内の雰囲気中のNH3と酸素との反応により生じる電位と、基準電極48の電位との電位差を混成電位V0として検出する。
【0032】
予備空室21は、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消すことが可能である。このような被測定ガスの圧力変動としては、例えば自動車の排気ガスの排気圧の脈動などが挙げられる。
【0033】
第2拡散律速部32は、予備空室21から主空室18aに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0034】
主空室18aは、ガス導入口16から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。酸素分圧は、主ポンプセル40が作動することによって調整される。
【0035】
主ポンプセル40は、主ポンプ電極42と、外側ポンプ電極44と、これらに挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とで構成される電気化学的ポンプセルであり、主電気化学ポンピングセルとも呼ぶ。主ポンプ電極42は、主空室18aを区画する第1固体電解質層24の上面24a、第2固体電解質層28の下面28b、及びスペーサ層26の側面のそれぞれの略全面に形成されている。外側ポンプ電極44は、第2固体電解質層28の上面28aに形成されている。外側ポンプ電極44の位置は、主ポンプ電極42と対応する領域に、外側空間に露出する態様で設けると好適である。主ポンプ電極42と外側ポンプ電極44とは、例えば、平面視して矩形状の多孔質サーメット電極として構成することができる。
【0036】
主ポンプ電極42は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料で構成することが好ましい。また、主ポンプ電極42については、被測定ガス中のNH3の酸化能力を有する材料で構成することが好ましい。具体的には、例えば、0.1wt%~1wt%のAu(金)を含むPt(白金)等の貴金属とZrO2とのサーメット電極とすることができる。なお、Auの濃度を上記の値よりも高くすると、主ポンプ電極42のNH3に対する酸化能力が低下するため、主空室18aにおいてNH3をNOに変換する反応が進みにくくなる。
【0037】
主ポンプセル40は、センサ素子12の外部に備わる第1可変電源46を介して、第1ポンプ電圧Vp1を印加する。その結果外側ポンプ電極44と主ポンプ電極42との間に、第1ポンプ電流Ip1が流れることにより、主空室18a内のO2を外部に汲み出し、あるいは、外部空間のO2を主空室18a内に汲み入れることが可能となっている。
【0038】
また、センサ素子12は、電気化学センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50を有する。この第1酸素分圧検出センサセル50は、主ポンプ電極42と、基準電極48と、これらの電極に挟まれた酸素イオン導電性の第1固体電解質層24とによって構成される。基準電極48は、第1固体電解質層24と第3基板層22cとの間に形成された電極であり、外側ポンプ電極44と同様の多孔質サーメットよりなる。
【0039】
基準電極48は、平面視して矩形状に形成されている。また、基準電極48の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間38につながる基準ガス導入層52が設けられている。基準電極48の表面には、基準ガス導入空間38の基準ガスが基準ガス導入層52を介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50では、主空室18a内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して主ポンプ電極42と基準電極48との間に第1起電力V1が発生する。
【0040】
第1酸素分圧検出センサセル50において生じる第1起電力V1は、主空室18aに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子12は、上記の第1起電力V1によって、主ポンプセル40の第1可変電源46をフィードバック制御する。これにより、第1可変電源46が印加する第1ポンプ電圧Vp1を主空室18aの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0041】
なお、第1可変電源46が主ポンプ電極42に供給する第1ポンプ電流Ip1は、主空室18aから汲み出され、又は汲み入れられるO2の量を反映する。したがって、第1起電力V1を一定にするように動作している条件の下で、第1可変電源46が主ポンプ電極42に供給する第1ポンプ電流Ip1は、被測定ガス中のO2の濃度を反映している。そのため、第1ポンプ電流Ip1を検出することにより、被測定ガス中の酸素濃度が得られる。被測定ガス中の酸素濃度は、後述するように、混成電位の酸素濃度依存性の補正に用いられる。
【0042】
第4拡散律速部36は、主空室18a内での主ポンプセル40の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを副空室18bに導く部位である。
【0043】
副空室18bは、あらかじめ主空室18aにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部36を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル54による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、副空室18b内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができ、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0044】
補助ポンプセル54は、電気化学的ポンプセルであり、副空室18bに面する第2固体電解質層28の下面28bの略全体に設けられた補助ポンプ電極56と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成されている。なお、補助ポンプ電極56についても、主ポンプ電極42と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0045】
補助ポンプセル54は、補助ポンプ電極56と外側ポンプ電極44との間に所望の第2ポンプ電圧Vp2を印加することにより、副空室18b内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から副空室18bに酸素を汲み入れることができる。
【0046】
また、副空室18b内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極56と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって、電気化学的なセンサセルが構成される。すなわち、補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル58が構成されている。
【0047】
第2酸素分圧検出センサセル58では、副空室18b内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して、補助ポンプ電極56と基準電極48との間に第2起電力V2が発生する。この第2酸素分圧検出センサセル58で生じる第2起電力V2は、副空室18bに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。
【0048】
センサ素子12は、上記の第2起電力V2に基づいて、第2可変電源60を制御することにより、補助ポンプセル54のポンピングを行う。これにより、副空室18b内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的な影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0049】
また、補助ポンプセル54の第2ポンプ電流Ip2が、第2酸素分圧検出センサセル58の第2起電力V2の制御に用いられるようになっている。具体的には、第2ポンプ電流Ip2は、制御信号として第2酸素分圧検出センサセル58に入力される。その結果、第2起電力V2が制御され、第4拡散律速部36を通じて副空室18b内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定になるように制御される。ガスセンサ10をNOxセンサとして使用する際には、主ポンプセル40と補助ポンプセル54との働きによって、副空室18b内での酸素濃度は、各条件の所定の値に精度よく保たれる。
【0050】
第3拡散律速部34は、副空室18bで補助ポンプセル54の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、被測定ガスを測定空室20に導く部位である。
【0051】
NOx濃度の測定は、主として、測定空室20に設けられた測定用ポンプセル61の動作により行われる。測定用ポンプセル61は、測定電極62と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とスペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極62は、測定空室20内の例えば第1固体電解質層24の上面24aに設けられ、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、主ポンプ電極42よりも高めた材料で構成される。測定電極62は、例えば多孔質のサーメット電極とすることができる。また、測定電極62は、雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する材料を用いることが好ましい。
【0052】
測定用ポンプセル61は、測定空室20内において、測定電極62の周囲で窒素酸化物を分解することで酸素を生じさせる。さらに、測定用ポンプセル61は、測定電極62で発生した酸素を汲み出し、その酸素の発生量を測定ポンプ電流Ip3、すなわち、センサ出力として検出することができる。
【0053】
また、測定空室20内の測定電極62の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層24と、測定電極62と、基準電極48とによって電気化学的なセンサセル、すなわち測定ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル66が構成されている。第3酸素分圧検出センサセル66で検出された第3起電力V3に基づいて、第3可変電源68が制御される。
【0054】
副空室18bに導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部34を通じて測定空室20内の測定電極62に到達する。測定電極62の周囲の被測定ガス中のNOは、還元されて酸素を発生する。ここで発生した酸素は、測定用ポンプセル61によってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された第3起電力V3が一定となるように第3可変電源68の第3ポンプ電圧Vp3が制御される。測定電極62の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOの濃度に比例する。したがって、測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip3を用いて被測定ガス中のNO濃度を算出することができる。すなわち、測定用ポンプセル61は、測定空室20内の特定成分(NO)の濃度を測定するNO濃度測定手段104を構成する。
【0055】
また、ガスセンサ10は、電気化学的なセンサセル70を有する。このセンサセル70は、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24と、第3基板層22cと、外側ポンプ電極44と、基準電極48とで構成される。このセンサセル70によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0056】
さらに、センサ素子12においては、第2基板層22bと第3基板層22cとに上下から挟まれた態様で、ヒータ72が形成されている。ヒータ72は、第1基板層22aの下面22a2に設けられた図示しないヒータ電極を介して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子12を構成する固体電解質の酸素イオン導電性が高められる。ヒータ72は、予備空室21、酸素濃度調整室18及び測定空室20の全域に亘って埋設されており、センサ素子12の所定の場所を所定の温度に加熱及び保温することができるようになっている。なお、ヒータ72の上下には、第2基板層22b及び第3基板層22cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナなどよりなるヒータ絶縁層74が形成されている。以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部とも称する。
【0057】
ヒータ部によるセンサ素子12の加熱温度は、例えば、500~900℃とすることができる。混成電位電極82によるNH3の測定精度を高める観点から、センサ素子12の温度は上記の温度範囲の中でも極力低い温度を選択することが好ましい。その一方で、センサ素子12の温度が低すぎると、測定空室20内のNOの分解反応及び測定電極62の測定ポンプ電流Ip3の出力自体が低下してしまう。したがって、測定ポンプ電流Ip3のセンサ出力が検出可能な範囲で、センサ素子12の加熱温度をなるべく低くすることが好ましい。以上のことから、センサ素子12の温度は、700~800℃とすると大きなセンサ出力が得られて好適に動作する。
【0058】
さらに、ガスセンサ10は、図2に模式的に示すように、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を制御する酸素濃度制御手段100(主酸素濃度制御手段)と、センサ素子12の温度を制御する温度制御手段102と、NO濃度測定手段104と、予備酸素濃度制御手段106と、NH3濃度測定手段108と、目的成分取得手段110とを有する。
【0059】
なお、酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、NO濃度測定手段104、予備酸素濃度制御手段106、NH3濃度測定手段108及び目的成分取得手段110は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置などを有する1以上の電子回路により構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能にあわせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路等で構成してもよい。
【0060】
ガスセンサ10は、上述した酸素濃度調整室18、酸素濃度制御手段100、温度制御手段102及びNO濃度測定手段104に加えて、予備空室21、予備酸素濃度制御手段106、NH3濃度測定手段108及び目的成分取得手段110を具備することで、NO及びNH3の各濃度を取得することができる。
【0061】
酸素濃度制御手段100は、あらかじめ設定された酸素濃度の条件と、第1酸素分圧検出センサセル50(図1参照)において生じる第1起電力V1とに基づいて、第1可変電源46をフィードバック制御し、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0062】
温度制御手段102は、あらかじめ設定されたセンサ温度の条件と、センサ素子12の温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、ヒータ72をフィードバック制御することにより、センサ素子12の温度を上記条件に従った温度に調整する。
【0063】
ガスセンサ10は、これらの酸素濃度制御手段100又は温度制御手段102、あるいは酸素濃度制御手段100及び温度制御手段102によって、酸素濃度調整室18内のNOを分解させることなく、NH3が全てNOに変換されるように、酸素濃度調整室18内の状態を制御する。また、被測定ガス中のNO2は、酸素濃度調整室18内でNOに還元される。
【0064】
NO濃度測定手段104は、測定電極62の測定ポンプ電流Ip3を第1センサ出力として測定する。
【0065】
予備酸素濃度制御手段106は、必要に応じて、主ポンプセル40の第1ポンプ電流Ip1があらかじめ設定された値となるように、予備可変電源86をフィードバック制御することにより、予備空室21内の酸素濃度を、条件に従った濃度に調整する。なお、第1の実施形態においては、予備酸素濃度制御手段106は稼働させないで測定を行う。
【0066】
NH3濃度測定手段108は、混成電位電極82の混成電位を第2センサ出力として測定する。
【0067】
そして、目的成分取得手段110は、NO濃度測定手段104の第1センサ出力と、NH3濃度測定手段108の第2センサ出力とに基づいて、被測定ガス中のNO及びNH3の濃度を取得する。
【0068】
本実施形態の混成電位電極82の混成電位は、主に、被測定ガス中のNH3と酸素との反応によって生じる。そのため、混成電位は、NH3の濃度だけでなく酸素の濃度によって変動する。そこで、目的成分取得手段110は、主ポンプセル40の第1ポンプ電流Ip1に基づいて、被測定ガス中の酸素濃度を求める。そして、目的成分取得手段110は、あらかじめ測定して求めておいた、混成電位の酸素濃度依存性に関するデータを含んだマップ112を参照する。マップ112には、混成電位とNH3濃度との相関関係と、その相関関係の酸素濃度依存性に関するデータが含まれている。目的成分取得手段110は、第2センサ出力と、被測定ガス中の酸素濃度とに基づいて、マップ112を参照することで、酸素濃度による誤差を補正して、被測定ガス中のNH3濃度を求める。
【0069】
また、目的成分取得手段110は、NO濃度測定手段104の第1センサ出力から、測定空室20内のNO濃度を測定する。そして、測定空室20内のNO濃度から、マップ112を参照して求めた被測定ガス中のNH3濃度を減ずることにより、被測定ガス中のNO濃度を求める。
【0070】
次に、ガスセンサ10内の被測定ガスの化学反応について、図3を参照しつつ説明する。
【0071】
図3に示すように、ガス導入口16を通じて予備空室21に導入した被測定ガスは、ごく一部が混成電位電極82の表面で反応して混成電位電極82に混成電位V0を発生させる。混成電位V0の発生に寄与するガス成分の量はわずかであるため、予備空室21において、被測定ガス中のNO、NH3及び酸素の濃度は殆ど変化しない。
【0072】
予備空室21から酸素濃度調整室18に流入した被測定ガス中の酸素は、主ポンプセル40によって汲み出され、所定の酸素分圧に設定される。また、被測定ガス中のNH3は、酸素濃度調整室18内でNH3からNOに酸化される反応が起こることで、酸素濃度調整室18内で全てのNH3がNOに変換される。また、NO2等の窒素酸化物は、NOに変換される。
【0073】
その後、酸素濃度調整室18内のNOが測定空室20に流入し、そのNO濃度が測定用ポンプセル61に流れる測定ポンプ電流Ip3として検出される。
【0074】
次に、ガスセンサ10における被測定ガス中のNO及びNH3濃度の測定方法について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0075】
まず、ステップS10において、ガスセンサ10は、ガス導入口16を通じて予備空室21内にO2、NO及びNH3が混在する被測定ガスを導入する。
【0076】
次に、ステップS12において、酸素濃度制御手段100が酸素濃度調整室18の酸素濃度を所定の一定値に制御する。上述したように、酸素濃度調整室18内において、全てのNOx及びNH3がNOに変換され、且つ、NO濃度の測定を妨げる余分な酸素を汲み出すように動作する。その際に、酸素濃度制御手段100は、第1酸素分圧検出センサセル50のセンサ出力である第1起電力V1を検出する。そして、酸素濃度制御手段100は、第1起電力V1が一定の値となるように、主ポンプセル40の主ポンプ電極42に第1ポンプ電流Ip1の値をフィードバック制御する。以後、酸素濃度制御手段100により、第1ポンプ電流Ip1の制御は、ガスセンサ10の測定を行う間、継続される。
【0077】
ステップS14において、NH3濃度測定手段108が混成電位電極82と基準電極48との間の電位差である混成電位V0を検出する。この混成電位V0の測定結果(第2センサ出力)は、目的成分取得手段110に入力される。
【0078】
ステップS16において、目的成分取得手段110が、酸素濃度制御手段100の第1ポンプ電流Ip1を取得して、被測定ガス中の酸素濃度を測定する。目的成分取得手段110は、第1ポンプ電流Ip1と、被測定ガス中の酸素濃度との相関関係を表すマップ112を参照することにより、被測定ガス中の酸素濃度を測定する。
【0079】
ステップS18において、目的成分取得手段110が被測定ガス中のNH3濃度を取得する。目的成分取得手段110は、あらかじめ実験的に求めた、混成電位とNH3濃度との相関関係と、その相関関係の酸素濃度依存性を表すデータを格納したマップ112を参照して、被測定ガス中のNH3濃度を取得する。これにより、酸素濃度による混成電位の誤差が補正される。
【0080】
ステップS20において、NO濃度測定手段104が測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip3の値(第1センサ出力)を検出する。
【0081】
ステップS22において、目的成分取得手段110は、被測定ガス中のNO濃度を取得する。ここで、マップ112には、あらかじめ実験的に求めた、測定ポンプ電流Ip3とNO濃度との相関関係を表すデータが含まれている。目的成分取得手段110は、ステップS20で取得した測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip3の値に基づいて、マップ112を参照して、測定空室20内の雰囲気中のNO濃度を取得する。次いで、目的成分取得手段110は、測定空室20内の雰囲気中のNO濃度から、ステップS18で求めたNH3濃度に由来するNO濃度分を減算することにより、被測定ガス中のNO濃度を取得する。
【0082】
以上により、被測定ガス中のNO及びNH3の濃度が求まったことになる。その後、ステップS24において、目的成分取得手段110が測定を継続するか否かを判定する。ステップS24において、目的成分取得手段110が測定を継続すると判断した場合には、ステップS14に移行して、NO及びNH3の濃度の測定を繰り返す。一方、ステップS24において、目的成分取得手段110が測定を終了すると判断した場合には、ガスセンサ10による測定処理を終了する。
【0083】
(実験例)
以下、本実施形態のガスセンサ10において、NO及びNH3を含んだ被測定ガスを導入して、混成電位電極82の混成電位を測定した実験例について説明する。本実験例では、ガスセンサ10の混成電位電極82を、仕込み組成でAuを5wt%含むAu-Pt合金のペーストを用いて作製した。混成電位電極82は、構造体14を積層して予備空室21を形成する際に、予備空室21内のAu-Pt合金のペーストを塗布して形成した。その後、構造体14とともに約1400℃の温度で焼成することにより、混成電位電極82を形成した。
【0084】
なお、本実験例に係るガスセンサ10を切断して混成電位電極82の貴金属粒子表面の原子百分率をXPS法により測定したところ、Auの原子百分率は、60at%であった。
【0085】
本実験例に係るガスセンサ10について、ヒータ72を用いて温度を750℃に保った状態で、被測定ガスを導入して、混成電位V0を測定した。なお、被測定ガスは、酸素濃度が10%、H2O濃度が3%、NO濃度が0~500ppm、NH3濃度が0~500ppmであり、流量が200L/minである。
【0086】
図5に示すように、本実験例の混成電位電極82では、混成電位V0は、NH3濃度の増加とともに上昇している。その一方で、NOの濃度を0~500ppmの範囲で変化させても、混成電位V0はほとんど変化せず、NH3濃度に対してのみ変化することがわかる。
【0087】
したがって、予備空室21内の混成電位電極82の混成電位を検出することで、NOとNH3の濃度のうち、NH3の濃度のみを選択的に測定できることが確認できた。
【0088】
上記のガスセンサ10は、以下の効果を奏する。
【0089】
ガスセンサ10においては、予備空室21に混成電位電極82を設けたことにより、混成電位電極82の混成電位(第2センサ出力)に基づいて、NO及びNH3を含む被測定ガスについて、NH3濃度を選択的に検出することができる。また、測定ポンプ電流Ip3(第1センサ出力)に基づいて検出したNO濃度から、NH3濃度を差し引くことで、被測定ガス中のNO濃度を測定することができる。
【0090】
また、ガスセンサ10によれば、一定時間ごとに予備空室21内の予備ポンプセル80の駆動又は停止を切り替えながら測定を行う必要がないため、被測定ガスのNO及びNH3を常時測定することができる。そのため、ガス濃度の変化に対するセンサ出力の応答速度に優れる。さらに、ガスセンサ10は、酸素濃度調整室18及び測定空室20において、被測定ガスの吸入が行われるため、被測定ガスを予備空室21や測定空室20に素早く導入することができる。そのため、ガスセンサ10によれば、従来の混成電位型のガスセンサよりもさらに応答性に優れる。
【0091】
また、混成電位電極82は、センサ素子12の表面(例えば、外側ポンプ電極44の隣)に配置しても、NH3の測定は可能だが、本発明のように予備空室21の内部に形成することによって、排気ガス中に含まれる不純物(例えば、硫黄、リン、シリコン等)にさらされる機会が減り、混成電位電極82の耐久性が向上する。
【0092】
ガスセンサ10において、混成電位電極82を、金(Au)-白金(Pt)合金、ビスマスバナジウム酸化物(BiVO4)、銅バナジウム酸化物(Cu2(VO32)、タングステン酸化物、及びモリブデン酸化物で構成してもよい。また、混成電位電極82をAu-Pt合金とする場合には、Auを30at%以上の濃度とすることで、大きな混成電位出力が得られる。また、上記の混成電位電極82を用いることにより、被測定ガスの中からNH3の濃度を選択的に測定することができる。
【0093】
ガスセンサ10において、目的成分取得手段110は、測定電極62の測定ポンプ電流Ip3から求めたNO濃度からNH3濃度による寄与分を減算することにより、被測定ガス中のNO濃度を取得できる。
【0094】
ガスセンサ10において、目的成分取得手段110は、主ポンプ電極42の第1ポンプ電流Ip1から被測定ガス中の酸素濃度を測定するとともに、該酸素濃度の測定結果に基づいて、混成電位とNH3濃度の相関関係を補正してNH3濃度を取得する。これにより、酸素濃度の変動による混成電位の誤差の影響を取り除くことができ、正確なNH3濃度を求めることができる。
【0095】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係るガス濃度の測定方法について説明する。なお、本実施形態のガス濃度の測定に使用するガスセンサ10は、図1に示すガスセンサ10と同じである。
【0096】
本実施形態では、混成電位の酸素濃度による変動を防ぐために、図1のガスセンサ10において、混成電位電極82と外側ポンプ電極44との間に予備ポンプ電圧Vp0を印加して、予備空室21内の酸素濃度を一定に制御する動作を行う。
【0097】
すなわち、図2の予備酸素濃度制御手段106を稼働させる。本実施形態においては、予備酸素濃度制御手段106は、主ポンプセル40の第1ポンプ電流Ip1を取得し、第1ポンプ電流Ip1が一定となるように混成電位電極82の予備ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御する。これにより、図6に示すように、予備空室21内の余分なOは、混成電位電極82と外側ポンプ電極44との間に形成される予備ポンプセル80によって汲み出される。また、酸素濃度が所定値よりも低い場合には、予備ポンプセル80によって予備空室21内に酸素が汲み入れられる。これにより、被測定ガス中の酸素濃度の変動が生じても、予備空室21内の酸素分圧が一定値の値に保たれる。このように、予備酸素濃度制御手段106による酸素濃度の制御の下で混成電位の測定が行われる。
【0098】
なお、酸素濃度調整室18及び測定空室20の構成及び動作は、第1実施形態のガスセンサ10によるNO濃度の測定動作と同様である。
【0099】
以下、図7のフローチャートを参照しつつ、本実施形態のガス濃度の測定動作について説明する。
【0100】
まず、ステップS30において、ガスセンサ10は、ガス導入口16を通じて予備空室21内にO2、NO及びNH3が混在する被測定ガスを導入する。
【0101】
次に、ステップS32において、酸素濃度制御手段100が酸素濃度調整室18の酸素濃度を所定の一定値に制御する。上述したように、酸素濃度調整室18内において、全てのNOx及びNH3がNOに変換され、且つ、NO濃度の測定を妨げる余分な酸素を汲み出すように動作する。その際に、酸素濃度制御手段100は、第1酸素分圧検出センサセル50のセンサ出力である第1起電力V1を検出する。そして、酸素濃度制御手段100は、第1起電力V1が一定の値となるように、主ポンプセル40の主ポンプ電極42に第1ポンプ電流Ip1の値をフィードバック制御する。以後、酸素濃度制御手段100により、第1ポンプ電流Ip1の制御は、ガスセンサ10の測定を行う間、継続される。
【0102】
ステップS34において、予備酸素濃度制御手段106が予備空室21内の酸素濃度を一定の値にフィードバック制御する。すなわち、予備酸素濃度制御手段106は、混成電位電極82と外側ポンプ電極44との間に、酸素濃度制御手段100の第1ポンプ電流Ip1の大きさに応じた予備ポンプ電圧Vp0を印加する。以後、予備酸素濃度制御手段106により、予備ポンプ電圧Vp0の制御は、ガス濃度の測定を行う間、継続される。
【0103】
次に、ステップS36において、NH3濃度測定手段108が混成電位電極82と基準電極48との間の電位差である混成電位V0を検出する。この混成電位V0の測定結果(第2センサ出力)は、目的成分取得手段110に入力される。
【0104】
ステップS38において、目的成分取得手段110は、あらかじめ実験的に求めた混成電位とNH3濃度との相関関係(図5参照)に関するマップ112を参照して、混成電位から被測定ガスのNH3濃度を取得する。
【0105】
ステップS40において、NO濃度測定手段104は、測定ポンプ電流Ip3を検出する。
【0106】
ステップS42において、目的成分取得手段110は、被測定ガスのNO濃度を取得する。ここで、マップ112には、あらかじめ実験的に求めた、測定ポンプ電流Ip3とNO濃度との相関関係を表すデータが含まれている。目的成分取得手段110は、測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip3の値に基づいて、マップ112を参照して、測定空室20内の雰囲気中のNO濃度を取得する。次いで、目的成分取得手段110は、測定空室20内の雰囲気中のNO濃度から、ステップS38で求めたNH3濃度に由来するNO濃度分を減算することにより、被測定ガス中のNO濃度を取得する。以上により、被測定ガス中のNO及びNH3濃度が求まったことになる。
【0107】
その後、ステップS44において、目的成分取得手段110が測定を継続するか否かを判定する。ステップS44において、目的成分取得手段110が測定を継続すると判断した場合には、ステップS36に移行して、NO及びNH3の濃度の測定を繰り返す。一方、ステップS44において、目的成分取得手段110が測定を終了すると判断した場合には測定処理を終了する。
【0108】
本実施形態の動作態様におけるガスセンサ10は以下の効果を奏する。
【0109】
本実施形態の動作態様のガスセンサ10は、予備酸素濃度制御手段106により、予備空室21内の酸素濃度を一定に保った条件の下で、目的成分取得手段110が混成電位電極82の混成電位に基づいてNH3濃度を取得する。したがって、主ポンプセル40の第1ポンプ電流Ip1に基づいて、混成電位の補正を行う必要がなく、測定データの処理が簡略化される。
【0110】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0111】
10…ガスセンサ 12…センサ素子
14…構造体 16…ガス導入口
18…酸素濃度調整室 20…測定空室
21…予備空室 42…主ポンプ電極
44…外側ポンプ電極 62…測定電極
70…センサセル 100…酸素濃度制御手段
104…NO濃度測定手段 106…予備酸素濃度制御手段
108…NH3濃度測定手段 110…目的成分取得手段
112…マップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7