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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220209BHJP
   F16H 57/021 20120101ALI20220209BHJP
   F16C 19/34 20060101ALI20220209BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20220209BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20220209BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/021
F16C19/34
F16C33/62
F16C33/78 Z
F16H55/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018118460
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019219041
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124876(JP,A)
【文献】特開2000-186718(JP,A)
【文献】特開2015-104939(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091522(WO,A1)
【文献】特開2014-067728(JP,A)
【文献】特開2005-188740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/021
F16C 19/34
F16C 33/62
F16C 33/78
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心部を有する入力軸と、前記外歯歯車の自転と同期する第1部材と、前記内歯歯車の自転と同期する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置される主軸受と、前記入力軸よりも径方向外側にオフセットした位置で前記外歯歯車を貫通する内ピンと、を備え、前記第1部材および前記第2部材の一方が被駆動部材に連結され、他方が外部部材に固定される減速装置であって、
前記内ピンは、前記外歯歯車に設けられた内ピン孔に隙間を有した状態で挿通されるとともに、前記内ピン孔の一部と当接し、さらに前記第1部材に連結され、
前記第1部材、前記第2部材および前記主軸受は、前記外歯歯車および前記内歯歯車を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成され
前記内ピンは、前記外歯歯車よりも剛性の高い素材により構成されることを特徴とする減速装置。
【請求項2】
前記第1部材、前記第2部材および前記主軸受を構成する素材は、前記外歯歯車および前記内歯歯車を構成する素材よりもヤング率が10倍以上で比重が3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記第1部材、前記第2部材前記主軸受および前記内ピンは、鉄系の素材で構成され、前記外歯歯車および前記内歯歯車は、樹脂により構成されることを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項4】
前記第1部材の内側に一体化され入力軸を支持する第1入力軸軸受が配置される第3部材を有し、
前記第3部材は、前記第1部材を構成する素材よりも比重が小さい素材により構成されることを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項5】
前記第2部材は、前記内歯歯車の軸方向一端部に連結され、
前記第1部材は、前記外歯歯車の軸方向一側部において、前記第2部材の径方向内側に配置され
前記第1部材は、径方向中心に開口を有し、
前記第3部材は、前記第1部材の開口に嵌入されることを特徴とする請求項4に記載の減速装置。
【請求項6】
前記第3部材は、前記第1部材から軸方向に突出するつば部を有し、
前記つば部の外周面は、前記被駆動部材がインロー嵌合されるインロー部を構成することを特徴とする請求項4または5に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1において、偏心体の半径方向外側に設けられた外歯歯車と、この外歯歯車と内接噛合する内歯歯車とを備えた減速機を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-150520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機は、外歯歯車および内歯歯車に加えて、主要な構成要素として、第1、第2フランジや内歯歯車を覆う枠体などを備えている。従来の減速機構では、これらの主要な構成要素は鉄系材料で構成されているため、減速機構の重量が増加する傾向にある。このような減速機構に関しては、用途を拡大するために軽量化することが求められている。しかし、軽量化するために各部材を単純に樹脂化すると、当該減速機に駆動される被駆動部材から受けるモーメントを支えきれないおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、軽量化が可能な減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の減速装置は、外歯歯車と、外歯歯車と噛合う内歯歯車と、外歯歯車の自転と同期する第1部材と、内歯歯車の自転と同期する第2部材と、第1部材と第2部材との間に配置される主軸受と、を備え、第1部材および第2部材の一方が被駆動部材に連結され、他方が外部部材に固定される減速装置であって、第1部材、第2部材および主軸受は、外歯歯車および内歯歯車を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成される。
【0007】
本発明の別の態様もまた、減速装置である。この装置は、外歯歯車と、外歯歯車と噛合う第1内歯歯車および第2内歯歯車と、第1内歯歯車の自転と同期する第1部材と、第2内歯歯車の自転と同期する第2部材と、第1部材と第2部材との間に配置される主軸受と、を備え、第1部材および第2部材の一方が被駆動部材に連結され、他方が外部部材に固定される減速装置であって、第1部材、第2部材および主軸受は、第1内歯歯車および第2内歯歯車を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成される。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量化が可能な減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の減速装置を示す側面断面図である。
図2図1の減速装置のA-A線断面図である。
図3】第2実施形態の減速装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、比較例および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
以下、図1図2を参照して、第1実施形態に係る減速装置10の構成について説明する。図1は、第1実施形態の減速装置10を示す側面断面図である。図2は、図1のA-A線に沿った減速装置10の断面図である。この図では、理解を容易にするため、2枚の外歯歯車14の一方を表示し、他方は表示していない。他方の外歯歯車14は、一方の外歯歯車14と180度の位相差を有して偏心する点で相違し、その他の構成は同様である。本実施形態の減速装置10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた運動成分を出力部材から被駆動装置に出力する偏心揺動型歯車装置である。本減速装置10の用途は、特に限定されないが、例えば人と協働して作業を行う協働ロボットの関節部に組み込まれる。
【0013】
減速装置10は、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、第1部材18と、第2部材20と、第3部材26と、ケーシング22と、カバー部23と、主軸受24と、内ピン40と、を主に備える。内歯歯車16と外歯歯車14とは、互いに噛合う。第1部材18は、外歯歯車14の自転と同期する。第2部材20は、内歯歯車16の自転と同期する。主軸受24は、第1部材18と第2部材20との間に配置される。第3部材26は、第1部材18の内側に一体化される。第3部材26には、入力軸12を支持する入力軸軸受34が配置される。各部材の素材については後述する。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0015】
(入力軸)
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。本実施形態の減速装置10は、入力軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0016】
本実施形態の入力軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する偏心体軸である。このような構成の入力軸12は、クランク軸と称されることがある。偏心部12aの軸芯は、入力軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0017】
ケーシング22は、その内周部に内歯を有する中空円筒形の部材である。つまり、ケーシング22は内歯歯車16を構成する部材である。カバー部23は、ケーシング22の一端を塞ぐと共に、入力側において入力軸12を支持する入力軸軸受34を保持するための円板状の部材である。本実施形態のカバー部23は、ケーシング22と単一の素材により一体に形成されている。カバー部23には、入力側の入力軸軸受34の外輪を収納する凹部23bが設けられる。入力軸12は、その入力側が入力軸軸受34を介してカバー部23に支持され、その反入力側が入力軸軸受34を介して第3部材26に支持されている。つまり、入力軸12は、第1部材18およびカバー部23に対して回転自在に支持されている。入力軸軸受34は、その構成に特別の制限はないが、この例では、球状の転動体を有する玉軸受けである。入力軸軸受34には、与圧を与えてもよいが、この例では与圧を与えていない。
【0018】
(外歯歯車)
外歯歯車14は、入力軸12の回転に基づき揺動回転する部材である。外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心軸受30を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車16の内歯と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車14が揺動できるようになっている。
【0019】
外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に複数の内ピン孔38が設けられる。内ピン孔38は、外歯歯車14を入力側から反入力側に貫通する円形の孔である。内ピン孔38それぞれには内ピン40が貫通する。内ピン40と内ピン孔38の間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。内ピン40と内ピン孔38の内壁面とは一部で接触する。
【0020】
(内歯歯車)
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う内歯を有し、外歯歯車14の揺動回転に基づいて外歯歯車14に対して相対回転する部材である。本実施形態の内歯16aは、ケーシング22の内周部に一体的に形成されている。内歯歯車16の内歯16aの数は、本実施形態において、外歯歯車14の外歯数より一つ多い。なお、内歯歯車16は、ケーシング(内歯歯車本体)22の内周に軸方向のピン溝を周方向に複数形成し、各ピン溝に外ピンを(回転自在に)配置した構成とし、外ピンにより内歯を構成してもよい。
【0021】
(第1部材)
第1部材18は、外歯歯車14からの動力が伝達される部材である。第1部材18は、外歯歯車14の軸方向で反入力側の側部に配置され、主軸受24の径方向内側に設けられる円形(ドーナツ型)の部材である。第1部材18は、主軸受24を介して第2部材20に回転自在に支持されている。本実施形態では、第1部材18の径方向中心には、第3部材26が嵌入される円形の開口18cが設けられている。
【0022】
(内ピン)
内ピン40は、外歯歯車14と第1部材18との間で動力を伝達する部材である。本実施形態は、円形断面を有する棒状の内ピン40を有している。図1の内ピン40は、反入力側の端部が第1部材18の孔部18bに圧入されている。内ピン40は、第1部材18の一部として一体に形成されてもよい。内ピン40は、外歯歯車14の内ピン孔38に隙間を有した状態で挿通される。内ピン40は、外歯歯車14に形成された内ピン孔38の一部と当接しており、外歯歯車14の自転を拘束しその揺動のみを許容している。このように構成されることにより、第1部材18は、外歯歯車14の自転と同期して運動する。
【0023】
(第2部材)
第2部材20は、内歯歯車16からの動力が伝達される部材であり、内歯歯車16に固定される。本実施形態の第2部材20は、第1部材18の径方向外側に配置される円板状(ドーナツ型)の部材で、ケーシング22の反入力側の側部にボルト20bによって固定されている。このように構成されることにより、第2部材20は、内歯歯車16の自転と同期して運動する。図1の例では、第1部材18とケーシング22の位置決めのために、第1部材18とケーシング22との間に平行ピン20pが設けられている。なお、平行ピン20pを設けることは必須ではない。
【0024】
(主軸受)
主軸受24は、第1部材18および第2部材20を相互に回転自在に支持する軸受機構である。主軸受24は、内輪と、外輪と、複数の転動体24hと、リテーナ(不図示)と、オイルシール24cと、を備える。本実施形態の主軸受24は、円筒形のコロを転動体24hとするクロスローラベアリングであり、内輪は、第1部材18と一体に設けられ、外輪は、第2部材20と一体に設けられている。つまり、第1部材18の外周面と第2部材20の内周面には、転動体24hを保持するための溝が形成されている。複数の転動体24hは、周方向に間を置いて設けられる。リテーナは、複数の転動体24hの相対位置を保持するとともに複数の転動体24hを回転自在に支持する。オイルシール24cは、主軸受24の外輪と内輪の反入力側の隙間を覆う中空円板状の部材であり、主軸受24のオイルシールとして機能する。
【0025】
具体的には、オイルシール24cは、第2部材20に固定されるリング状の固定部24dと、固定部24dの内側に一体的に設けられるリング状の蓋部24eと、蓋部24eの軸方向主軸受側の側面に設けられるリング状の第1リップ24fおよび第2リップ24gと、を有する。固定部24dは、ボルト20bによって共締めされ、第2部材20に固定される。蓋部24eは、固定部24dを第2部材20に固定した状態で、第1部材18および第2部材20から軸方向に離れるように設けられる。第1リップ24fは、第1部材18の軸方向端面に当接し、第2リップ24gは、第2部材20の軸方向端面に当接する。オイルシール24cをこのような構成とすることにより、通常のオイルシールに比べて軸方向の配置スペースを小さくできる。
【0026】
(第3部材)
第3部材26は、反入力側において入力軸12を支持する入力軸軸受34を保持するための部材である。第3部材26の中央部には、入力軸12を支持する入力軸軸受34が配置される。第3部材26は、第1部材18と一体に形成されてもよいが、本実施形態の第3部材26は、第1部材18とは別に形成されて、第1部材18の開口18cに嵌合されることによって一体化された円形の部材である。本実施形態の第3部材26は、軸受収納部26bと、外周部26cと、つば部26dと、を有している。軸受収納部26bは第3部材26の入力側の端面から反入力側に凹んだ有底の凹部であり、反入力側の入力軸軸受34の外輪を収納する。外周部26cは、第1部材18の開口18cに嵌合される円筒状の部分であり、接着や締り嵌めなどによって開口18cに固定されている。
【0027】
つば部26dは、外周部26cの反入力側の外周面から径方向で外側に張出した部分であり、第1部材18の反入力側の側部に接するように構成されている。つば部26dは、第1部材18に対する第3部材26の軸方向の位置を一定に保つ機能を有している。つば部26dの外周面は、被駆動部材に設けられた凹部に嵌合するインローとして用いられてもよい。このように構成された第3部材26は、入力軸軸受34を介して入力軸12を回転自在に支持する。また、第3部材26は、入力軸12の回転により温度が上昇した入力軸12と入力軸軸受34の放熱を促す放熱部材としても機能する。第3部材26は、第1部材18に比べ被駆動部材から受ける荷重が小さい。
【0028】
第1部材18と第2部材20の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は減速装置10を支持するための外部部材(例えば、協働ロボットの基端側アーム)52に固定される被固定部材として機能する。出力部材は、被固定部材に主軸受24を介して回転自在に支持される。本実施形態において、出力部材は第1部材18であり、被固定部材は第2部材20である。第1部材18の反入力側の側部には、減速装置10によって回転駆動される被駆動部材(例えば、協働ロボットの先端側アーム)50が、ボルト50bによって連結される。
【0029】
次に、本実施形態の各構成部材を構成する材料について説明する。近年、人の近くで稼働するロボット等への減速装置の適用が拡大するにつれて、減速機の軽量化及び騒音低減が望まれている。減速装置の軽量化のためには、構成部材を低比重の素材で構成することが考えられる。このような低比重の素材としては、樹脂等が好適である。一方、本発明者らの検討によれば、関節部に用いられる減速装置の出力部に大きなモーメント荷重が作用するため、単純に構成部材を樹脂化するとモーメント剛性が不足することがわかった。したがって、減速機の軽量化のためには、出力部のモーメント剛性を確保することが課題であるといえる。このような課題は、関節部に用いられる減速装置に限らず、他の目的の減速装置についても生じうる。
【0030】
これらの研究結果に基づき、本発明者らは、第1部材18、第2部材20および主軸受24を、外歯歯車14および内歯歯車16を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成することにより、減速機の軽量化とモーメント剛性の確保の両立が可能であることを見出した。特に、軽量化とモーメント剛性とを所望のレベルで両立させるためには、第1部材18、第2部材20および主軸受24を構成する素材は、外歯歯車14および内歯歯車16を構成する素材よりもヤング率が10倍以上で比重が3倍以上であることが好ましい。
【0031】
各部材の素材は、上述の条件を満たしうるものであれば、特に限定されないが、本実施形態では、第1部材18、第2部材20および主軸受24は鉄系の素材で構成され、外歯歯車14および内歯歯車16(ケーシング22)は樹脂により構成されている。第1部材18、第2部材20および主軸受24に用いる鉄系金属としては、所望の特性に応じて炭素鋼、軸受鋼、ステンレス鋼などを用いることができる。特に、本実施形態の第1部材18、第2部材20および主軸受24は、軸受鋼(例えばSUJ2)により構成されている。
【0032】
また、外歯歯車14および内歯歯車16に用いる樹脂としては、所望の特性に応じて種々の樹脂を用いることができる。これらを構成する樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維などの強化用繊維を含む樹脂であってもよいし、強化用繊維を含まない樹脂であってもよいし、紙や布などの基材に樹脂を含浸して積層したものであってもよい。特に、本実施形態の内歯歯車16は、PEEK(polyetheretherketone:ポリエーテルケトンケトン)により構成されている。
【0033】
また、内歯歯車16の内歯を外ピンで構成する場合、ケーシング(内歯歯車本体)22は樹脂製とするが、外ピンは樹脂で構成されてもよいし、軸受鋼等の鉄系の素材で構成されてもよい。
【0034】
外歯歯車14は、温度上昇の大きい入力軸12の近傍に配置されているため、外歯歯車14の耐熱温度は高いことが望ましい。この観点から、外歯歯車14は、ケーシング22よりも耐熱温度が高い樹脂により構成されてもよい。この例では、外歯歯車14は、PEEKにより構成されている。
【0035】
軽量化の観点から、ケーシング22およびカバー部23は樹脂により構成されてもよい。これらは、同じ樹脂により構成されてもよいし、異なる樹脂により構成されてもよい。この例では、ケーシング22およびカバー部23はPEEKにより構成されている。ケーシング22およびカバー部23は、POM(polyacetal:ポリアセタール)など他の種類の樹脂により構成されてもよい。
【0036】
入力軸12は偏心体軸として大きなねじれ応力が加わるため、入力軸12は第3部材26より剛性の高い材料で構成されることが望ましく、この例の入力軸12は、鉄系金属で構成されている。軽量化の観点から、第3部材26は、第1部材18より低比重の材料で構成されることが望ましい。また、放熱性の観点から、第3部材26は、外歯歯車14を構成する素材よりも熱伝導率が高い素材により構成されることが望ましい。これらの条件を満たすために、第3部材26は、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、チタンなどの軽金属(比重が4ないし5以下の金属)や、これらの複合材料で構成されてもよい。この例では、第3部材26は、第1部材18を構成する素材よりも比重が小さい素材により構成されている。具体的には、第3部材26は、アルミニウムにより構成されている。
【0037】
この場合、第3部材26が、第1部材18を構成する素材よりも比重が小さい素材により構成されているので、高比重素材により構成される場合と比べて、第3部材26を軽量化することができる。また、この場合、第3部材26は、外歯歯車14を構成する素材よりも比重が大きく熱伝導率が高い素材により構成されているので、熱伝導率が低い素材により構成される場合と比べて、入力軸12の許容回転数を高くすることができる。
【0038】
内ピン40には大きな応力が加わるため、内ピン40は外歯歯車14より剛性の高い材料で構成されることが望ましく、この例の内ピン40は、浸炭鋼などの鉄系金属で構成されている。
【0039】
以上のように構成された減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が入力軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、外歯歯車14が自転し、第1部材18から減速回転が出力される。
【0040】
上述したように、本実施形態の減速装置10は、第1部材18、第2部材20および主軸受24が、外歯歯車14および内歯歯車16を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成されている。この場合、各部材を単純に樹脂化した場合と比べて、被駆動部材から受けるモーメント剛性を向上することが可能になり、軽量化とモーメント剛性の確保の両立を図ることができる。また、第1部材18、第2部材20および主軸受24を鉄系金属で構成し、外歯歯車14および内歯歯車16を樹脂で構成することにより、ヤング率の比を10倍以上で比重の比を3倍以上にすることができる。この場合、モーメント剛性を一層向上することができる。
以上が、第1実施形態の説明である。
【0041】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る減速装置10の構成について説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。図3は、第2実施形態の減速装置10を示す側面断面図であり、図1に対応する。
【0042】
第1実施形態の説明では、減速装置が偏心揺動型歯車装置である例を示したが、本実施形態の減速装置は、楕円と真円の差動を利用したいわゆる波動型歯車装置(撓み噛合い式歯車装置)である。本実施形態の減速装置10は、入力軸12と、第1波動発生部13aと、第2波動発生部13bと、外歯歯車14と、第1内歯歯車15と、第2内歯歯車17と、第1部材18と、第2部材20と、主軸受24と、ケーシング22と、カバー部23と、を主に備える。
【0043】
第1内歯歯車15および第2内歯歯車17は、外歯歯車14と噛合う。第1内歯歯車15および第2内歯歯車17を総称するときは内歯歯車という。第1部材18は、第1内歯歯車15の自転と同期する。第2部材20は、第2内歯歯車17の自転と同期する。主軸受24は、第1部材18と第2部材20との間に配置される。第1部材18および第2部材20の一方が被駆動部材50に連結され、他方が外部部材52に固定される。図3の例では、第1部材18が被駆動部材50に連結され、第2部材20が外部部材52に固定されている。本実施形態のカバー部23は、ケーシング22の入力側の側部に、ボルト23eによって固定されている。
【0044】
本実施形態の入力軸12は、中空の円筒状の部材であり、その入力側はカバー部23に配置された入力軸軸受34に支持され、その反入力側は第1部材18に配置された入力軸軸受34に支持される。入力側の入力軸軸受34の外輪はカバー部23に設けられた凹部23bに収納されている。反入力側の入力軸軸受34の外輪は第1部材18に設けられた凹部18eに収納されている。
【0045】
入力軸12の外周には、楕円形の外周面を有する第1波動発生部13aと、第2波動発生部13bとが設けられる。第1波動発生部13aおよび第2波動発生部13bを総称するときは波動発生部という。波動発生部は、外歯歯車14の胴部の内側位置に嵌め込まれている。波動発生部は、外歯歯車の内側に当接して外歯歯車を半径方向に撓めて内歯歯車に部分的に噛み合わせると共に、内歯歯車と外歯歯車14の噛み合い位置を周方向に移動させる。本実施形態では、第1波動発生部13aは、外歯歯車14と第1内歯歯車15の噛み合い位置を周方向に移動させ、第2波動発生部13bは、外歯歯車14と第2内歯歯車17の噛み合い位置を周方向に移動させる。図3の第2波動発生部13bは、第1波動発生部13aの入力側に配置されている。第1波動発生部13aは、入力軸12に設けられ外周形状が略楕円状の起振体と、起振体と外歯歯車14の間に配置された第1起振体軸受と、を有する。第2波動発生部13bは、第1波動発生部13aと共通の起振体と、起振体と外歯歯車14の間に配置された第2起振体軸受と、を有する。
【0046】
外歯歯車14は、内歯歯車の内側に配置され、波動発生部が当接するとき径方向に撓む外周面に外歯を有する。第1内歯歯車15は、外歯歯車14の外歯のうち第1波動発生部13aによって撓まされた外歯と噛み合う。第2内歯歯車17は、外歯歯車14の外歯のうち第2波動発生部13bによって撓まされた外歯と噛み合う。図3の第2内歯歯車17は、第1内歯歯車15の入力側に配置されている。第1内歯歯車15は、中空円盤状の部材で、その内周面に内歯15aが一体的に設けられている。第2内歯歯車17は、中空円盤状の部材で、その内周面に内歯17aが一体的に設けられている。本実施形態では、第1内歯歯車15の歯数は、外歯歯車14の歯数と同じであり、第2内歯歯車17の歯数は、外歯歯車14の歯数よりも2つ多い。第1内歯歯車15および第2内歯歯車17の歯数は、所望の特性に応じて変更されてもよい。
【0047】
第1部材18は、第1内歯歯車15からの動力が伝達される中空円環状の部材である。本実施形態の第1部材18の入力側の側部が、第1内歯歯車15の反入力側の側部にボルト15bによって固定されている。このように構成されることにより、第1部材18は、第1内歯歯車15の自転と同期して運動する。
【0048】
ケーシング22は、第2内歯歯車17と一体に形成される中空円筒状の部材であり、第2内歯歯車17と第2部材20とを連結し、第2内歯歯車17からの動力を第2部材20に伝達する。本実施形態の第2部材20は、第1部材18の径方向外側に配置される中空円環状の部材で、ケーシング22の反入力側の側部にボルト22bによって固定されている。このように構成されることにより、第2部材20は、第2内歯歯車17の自転と同期して運動する。
【0049】
図3の例では、被駆動部材50が第1部材18の反入力側の側部にボルト50bによって固定され、外部部材52が第2部材20の入力側の側部にボルト20eによって固定されている。
【0050】
以上のように構成された第2実施形態の減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の外周に設けられた第1波動発生部13aおよび第2波動発生部13bが回転する。第1波動発生部13aおよび第2波動発生部13bが回転すると、外歯歯車14を径方向に撓めて内歯歯車に部分的に噛み合わせると共に、内歯歯車と外歯歯車14の噛み合い位置を周方向に移動させる。このとき、第2内歯歯車17と外歯歯車14とは、歯数差に相当する分だけ相対回転する。具体的には、外歯歯車14が自転する。一方、第1内歯歯車15は、外歯歯車14と同じ歯数のため、相対回転は発生せず、外歯歯車14と一体的に回転する。つまり、外歯歯車14の自転(減速回転)が第1内歯歯車15から出力される。その結果、第1内歯歯車15から第1部材18を介して被駆動部材50に減速回転が伝達される。
【0051】
本実施形態の減速装置10では、第1部材18、第2部材20および主軸受24は、第1内歯歯車15および第2内歯歯車17を構成する素材よりもヤング率が大きく、かつ比重が大きい素材により構成されている。この例では、第1部材18、第2部材20、主軸受24、入力軸12、第1波動発生部13a、第2波動発生部13bおよび外歯歯車14は、鉄系金属により構成されている。具体的には、第1部材18、第2部材20および主軸受24は、軸受鋼(例えばSUJ2)で形成され、入力軸12、第1波動発生部13a、第2波動発生部13bおよび外歯歯車14は、浸炭鋼で形成されている。
【0052】
また、この例では、第1内歯歯車15、第2内歯歯車17、ケーシング22およびカバー部23は、PEEKなどの樹脂により構成されている。これらの鉄系金属は、これらの樹脂よりもヤング率は10倍以上で比重は3倍以上である。第2実施形態は、第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
以上が、第2実施形態の説明である。
【0053】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0054】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0055】
[変形例]
第1実施形態の説明では、減速装置がいわゆるセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置である例を示したが、本実施形態の減速装置はこれに限定されない。減速装置は、内歯歯車の軸心からオフセットした位置に複数のクランク軸が配置されるいわゆる振り分けタイプの偏心揺動型歯車装置であってもよい。
【0056】
第1実施形態の説明では、外歯歯車14を2枚備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。3枚以上の外歯歯車14を備えてもよい。例えば、入力軸には、それぞれ120°ずつ位相がずれた3つの偏心部12aを設け、この3つの偏心部12aに揺動される3枚の外歯歯車14を備えてもよい。また、外歯歯車14は1枚であってもよい。
【0057】
第1実施形態の説明では、主軸受24の内輪が第1部材18と一体で、外輪が第2部材20と一体である例を示したが、本発明はこれに限定されない。主軸受24の内輪と外輪は、第1部材18、第2部材20とは別に形成された部材であってもよい。
【0058】
第1実施形態の説明では、入力軸軸受34が球状の転動体を備えるボールベアリングである例を示したが、本発明はこれに限定されない。この軸受の一部または全部は、円筒状の転動体を備えるころ軸受であってもよい。
【0059】
第1実施形態の説明では、出力部材は第1部材18であり、被固定部材は第2部材20である例を示したが、本発明はこれに限定されない。被固定部材が第1部材18であり、出力部材が第2部材20であってもよい。
【0060】
第1実施形態の説明では、内ピン40の入力側の端部が支持されていない例を示したが、本発明はこれに限定されない。内ピン40の入力側の端部を支持する部材が設けられてもよい。
【0061】
第1実施形態の説明では、第3部材26が金属で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。第3部材26はPEEKなどの樹脂で構成されてもよい。
【0062】
第1実施形態の説明では、第3部材26が、第1部材18とは別に形成され、後に結合される例を示したが、本発明はこれに限定されない。第3部材26は、第1部材18と一体にシームレスに形成されてもよい。
【0063】
第2実施形態の説明では、減速装置10が筒型の外歯歯車を有する波動歯車装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。減速装置10は、カップ型やシルクハット型の波動歯車装置であってもよい。
【0064】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0065】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0066】
10・・減速装置、 12・・入力軸、 13a・・第1波動発生部、 13b・・第2波動発生部、 14・・外歯歯車、 15・・第1内歯歯車、 16・・内歯歯車、 17・・第2内歯歯車、 18・・第1部材、 20・・第2部材、 22・・ケーシング、 24・・主軸受、 26・・第3部材、 30・・偏心軸受、 34・・入力軸軸受、 50・・被駆動部材、 52・・外部部材。
図1
図2
図3