IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

<>
  • 特許-建物補強方法 図1
  • 特許-建物補強方法 図2
  • 特許-建物補強方法 図3
  • 特許-建物補強方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】建物補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220209BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04H9/02 301
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018119687
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020002534
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓己
(72)【発明者】
【氏名】青木 和雄
(72)【発明者】
【氏名】須賀 順子
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224480(JP,A)
【文献】特開2004-316253(JP,A)
【文献】特開2011-064024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の複数の柱間に制振機構を亘らせて建物の鉛直構面を制振補強する建物補強方法であって、
前記制振機構が、複数の前記柱間に亘る状態で複数の前記柱に取り付けられる上下の弦材と、上下の前記弦材間に亘る状態で上下の前記弦材にピン連結される複数の連結部材と、前記弦材と複数の前記連結部材の各々とに亘って備えられ、前記弦材と複数の前記連結部材の各々との相対変位に減衰力を付与する複数のダンパとを備えて構成され、
前記制振機構が、前記建物の床下空間又は天井裏空間に納められる建物補強方法。
【請求項2】
前記制振機構が、建物を制振補強前の姿に復元可能なように、前記柱の周囲に備えられる接合用部材を介して前記柱に対して着脱自在な状態で間接的に固定される請求項記載の建物補強方法。
【請求項3】
建物の複数の柱間に制振機構を亘らせて建物の鉛直構面を制振補強する建物補強方法であって、
前記制振機構が、複数の前記柱間に亘る状態で複数の前記柱に取り付けられる上下の弦材と、上下の前記弦材間に亘る状態で上下の前記弦材にピン連結される複数の連結部材と、前記弦材と複数の前記連結部材の各々とに亘って備えられ、前記弦材と複数の前記連結部材の各々との相対変位に減衰力を付与する複数のダンパとを備えて構成され、
前記制振機構が、建物を制振補強前の姿に復元可能なように、前記柱の周囲に備えられる接合用部材を介して前記柱に対して着脱自在な状態で間接的に固定され、
前記制振機構として、複数の前記柱の表側に配置される表側の制振機構と、複数の前記柱の裏側に配置される裏側の制振機構とが備えられ、
複数の前記柱の間に表側及び裏側の前記制振機構を設けるのに、前記接合用部材が表側及び裏側の前記制振機構で挟み込まれ、表側及び裏側の前記制振機構と前記接合用部材とが前記柱から外れた箇所で締結具にて締結固定される建物補強方法。
【請求項4】
前記接合用部材が、前記柱の表側に配置される表側の分割接合用部材と、前記柱の裏側に配置される裏側の分割接合用部材とに分割され、
表側及び裏側の前記制振機構と表側及び裏側の前記分割接合用部材とが前記締結具にて締結固定される請求項記載の建物補強方法。
【請求項5】
前記接合用部材が、前記柱の建物内方側に配置される内側接合用部材と、前記柱の建物外方側に配置されて前記柱を挟み込む状態で前記内側接合用部材と連結される接合用バンド部材とから構成され、
表側及び裏側の前記制振機構と前記内側接合用部材とが前記締結具にて締結固定される請求項記載の建物補強方法。
【請求項6】
多数の前記連結部材が、前記弦材の延在方向で間隔を空けて並設される請求項1~5のいずれか1項に記載の建物補強方法。
【請求項7】
前記ダンパが、上下の前記弦材と複数の前記連結部材との仕口部の各々に取り付けられ、地震時に前記柱よりも先に降伏する仕口ダンパである請求項1~6のいずれか1項に記載の建物補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の複数の柱間に制振機構を亘らせて建物の鉛直構面を制振補強する建物補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の鉛直構面を制振補強する技術として、軸方向に沿って変形して地震エネルギーを減衰可能なダンパを備えた制振ブレースが広く知られている(例えば、特許文献1参照)。このような制振ブレースを建物に設ければ、建物の鉛直構面を制振補強することができるが、制振ブレースは鉛直構面の対角の仕口部間に斜めに配置されるので、鉛直構面の全高に相当する上下に広い設置スペースが必要で、どうしても制振補強の前後(又は採否)で建物内の間取りや見栄え等が変更されることになる。
【0003】
特許文献2には、鉛直構面の上部側において略水平方向に延びる架設材を建物とは独立して設け、建物の柱と架設材との間にダンパを設けた建物補強方法が記載されている。この建物補強方法では、架設材が鉛直構面の上部側において略水平方向に延びているので、建物内の間取りや見栄え等を余り変更せずに建物を補強することができる。
なお、特許文献3には、木造の建物の天井側において梁を井桁状に組んだ水平構面の仕口部にダンパを設ける建物補強方法が記載されているが、この技術は、建物の水平構面を制振補強するもので、建物の鉛直構面を制振補強するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-357013号公報
【文献】特開2016-50474号公報
【文献】特許第6095017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載の技術では、建物内の間取りや見栄え等を余り変更せずに建物を補強することができるものの、架設材を建物とは独立して支持するための専用の柱等が必要となり、構造が複雑化・大型化する不都合がある。
【0006】
本発明は、上述の如き実情に鑑みてなされたものであって、その主たる課題は、シンプルな構造で、建物内の間取りや見栄え等の変更を極力抑えながら建物を補強することが可能な建物補強方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、建物の複数の柱間に制振機構を亘らせて建物の鉛直構面を制振補強する建物補強方法であって、
前記制振機構が、複数の前記柱間に亘る状態で複数の前記柱に取り付けられる上下の弦材と、上下の前記弦材間に亘る状態で上下の前記弦材にピン連結される複数の連結部材と、前記弦材と複数の前記連結部材の各々とに亘って備えられ、前記弦材と複数の前記連結部材の各々との相対変位に減衰力を付与する複数のダンパとを備えて構成され、
前記制振機構が、前記建物の床下空間又は天井裏空間に納められる点にある。
【0008】
本構成によれば、地震時において、一つの鉛直構面を構成する一対の柱が一方(例えば右方)に傾くと、下方側の弦材よりも上方側の弦材が右方に移動して上下の弦材間に亘らせた複数の連絡部材も柱と同様に一方に傾くことになる。よって、複数の連結部材の各々と弦材とに亘って設けられた複数のダンパは、夫々が比較的小型のものであっても、複数の連結部材の各々と弦材との相対変位に対して充分な減衰力を付与することができ、地震エネルギーを効率良く減衰することができる。
そして、制振機構を構成する上下の弦材は、建物の柱に取り付けられるので、専用の柱等の別途の支持構造が不要であり、更に、制振機構を構成する上下の弦材が水平方向に延在する部材であるので、制振機構の設置スペースを鉛直構面の上部や下部等の一部の高さ領域とすることができる。
したがって、シンプルな構造で、建物内の間取りや見栄え等の変更を極力抑えながら建物を補強することが可能となる。
更に、本構成によれば、制振機構が、建物の床下空間又は天井裏空間に納められるので、建物内の間取りや見栄え等を変更せずに建物を補強することが可能となる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、前記制振機構が、建物を制振補強前の姿に復元可能なように、前記柱の周囲に備えられる接合用部材を介して前記柱に対して着脱自在な状態で間接的に固定される点にある。
【0010】
本構成によれば、柱に対して着脱自在な状態で間接的に取り付けられた制振機構を取り外すことで、必要に応じて建物を制振補強前の姿に復元することができる。
【0015】
本発明の第特徴構成は、建物の複数の柱間に制振機構を亘らせて建物の鉛直構面を制振補強する建物補強方法であって、
前記制振機構が、複数の前記柱間に亘る状態で複数の前記柱に取り付けられる上下の弦材と、上下の前記弦材間に亘る状態で上下の前記弦材にピン連結される複数の連結部材と、前記弦材と複数の前記連結部材の各々とに亘って備えられ、前記弦材と複数の前記連結部材の各々との相対変位に減衰力を付与する複数のダンパとを備えて構成され、
前記制振機構が、建物を制振補強前の姿に復元可能なように、前記柱の周囲に備えられる接合用部材を介して前記柱に対して着脱自在な状態で間接的に固定され、
前記制振機構として、複数の前記柱の表側に配置される表側の制振機構と、複数の前記柱の裏側に配置される裏側の制振機構とが備えられ、
複数の前記柱の間に表側及び裏側の前記制振機構を設けるのに、前記接合用部材が表側及び裏側の前記制振機構で挟み込まれ、表側及び裏側の前記制振機構と前記接合用部材とが前記柱から外れた箇所で締結具にて締結固定される点にある。
【0016】
本構成によれば、地震時において、一つの鉛直構面を構成する一対の柱が一方(例えば右方)に傾くと、下方側の弦材よりも上方側の弦材が右方に移動して上下の弦材間に亘らせた複数の連絡部材も柱と同様に一方に傾くことになる。よって、複数の連結部材の各々と弦材とに亘って設けられた複数のダンパは、夫々が比較的小型のものであっても、複数の連結部材の各々と弦材との相対変位に対して充分な減衰力を付与することができ、地震エネルギーを効率良く減衰することができる。
そして、制振機構を構成する上下の弦材は、建物の柱に取り付けられるので、専用の柱等の別途の支持構造が不要であり、更に、制振機構を構成する上下の弦材が水平方向に延在する部材であるので、制振機構の設置スペースを鉛直構面の上部や下部等の一部の高さ領域とすることができる。
したがって、シンプルな構造で、建物内の間取りや見栄え等の変更を極力抑えながら建物を補強することが可能となる。
また、本構成によれば、柱に対して着脱自在な状態で間接的に取り付けられた制振機構を取り外すことで、必要に応じて建物を制振補強前の姿に復元することができる。
【0018】
更に、本構成によれば、表側と裏側の両方の制振機構を用いて地震時の地震エネルギーを大きく減衰することができる。しかも、表側及び裏側の制振機構を、柱の周囲に備えられる接合用部材を介して柱から外れた箇所で締結固定するので、柱を傷つけずに複数の柱間に表側及び裏側の制振機構を亘らせて建物を補強することができる。
【0019】
本発明の第特徴構成は、前記接合用部材が、前記柱の表側に配置される表側の分割接合用部材と、前記柱の裏側に配置される裏側の分割接合用部材とに分割され、
表側及び裏側の前記制振機構と表側及び裏側の前記分割接合用部材とが前記締結具にて締結固定される点にある。
【0020】
本構成によれば、柱を挟み込む状態に表側及び裏側の分割接合用部材を配置し、その表側及び裏側の分割接合用部材を挟み込む状態で表側及び裏側の制振機構を配置し、表側及び裏側の分割接合用部材と、表側及び裏側の分割接合用部材を締結具にて締結固定することで、柱を傷つけずに効率良く制振機構を設置することができる。
【0021】
本発明の第特徴構成は、前記接合用部材が、前記柱の建物内方側に配置される内側接合用部材と、前記柱の建物外方側に配置されて前記柱を挟み込む状態で前記内側接合用部材と連結される接合用バンド部材とから構成され、
表側及び裏側の前記制振機構と前記内側接合用部材とが前記締結具にて締結固定される点にある。
【0022】
本構成によれば、接合用部材のうち、柱の建物外方側に配置されるのが嵩の低い接合用バンド部材であるので、柱が建物の外周部に配置される外周柱であっても、建物補強後に接合用部材が目立つことがなく、建物外観を良好に維持することができる。
本発明の第6特徴構成は、多数の前記連結部材が、前記弦材の延在方向で間隔を空けて並設される点にある。
本構成によれば、多数の連結部材を弦材の延在方向で間隔を空けて並設することで、多数の連結部材と弦材とに亘らせる多数のダンパの設置スペースを適切に確保することができる。よって、多数のダンパを適切に作動させて大きな減衰力を実現することができる。
本発明の第7特徴構成は、前記ダンパが、上下の前記弦材と複数の前記連結部材との仕口部の各々に取り付けられ、地震時に前記柱よりも先に降伏する仕口ダンパである点にある。
本構成によれば、上下の前記弦材と複数の前記連結部材との仕口部の各々に仕口ダンパを取り付けることで、ダンパの設置箇所を多くして各ダンパを小型化することができる。
そして、多数の仕口ダンパが地震時に柱よりも先に降伏して振動エネルギーを減衰することで、柱の損傷を適切に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)建物補強方法により制振補強を施した建物補強構造の要部の縦断面図、(b)建物補強構造の制振メカニズムを示す要部の縦断面図
図2】建物補強構造の要部の分解斜視図
図3】(a)内部柱に対する制振機構の取り付け構造を示す図、(b)外周柱に対する制振機構の取り付け構造を示す図
図4】建物補強方法の別実施形態を示す建物補強構造の要部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の建物補強方法(建物補強構造)の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は、建物補強方法により既存建物EB(建物の一例)に制振補強を施した建物補強構造の要部を示している。この建物補強方法は、既存建物EBの複数の柱(既存柱)P間に制振機構1を亘らせて既存建物EBの鉛直構面Kを制振補強する。
【0025】
補強対象とする既存建物EBの構造形式は、各種の構造形式であってよいが、本実施形態では、木造である場合を例に挙げている。この木造の既存建物EBは、コンクリートや石材等からなる支持構造Sの上に木製の複数の柱Pを立設し、複数の柱P間に木製の梁(図示省略)等の横架材を架け渡して複数の柱Pと横架材からなる鉛直構面Kを有する既存躯体が構成されている。この既存躯体には、床材Fや壁材W、屋根材(図示省略)等が支持されている。
そして、本実施形態の建物補強方法では、制振機構1を、既存建物EBにおける床材Fの下方の床下空間(既存床下空間)S1に納めることで、既存建物EB内の間取りや見栄え等を変更せずに既存建物EBを補強するようにしている。
【0026】
以下、制振機構1について説明を加える。
制振機構1は、図1に示すように、複数の柱P間に亘る状態で複数の柱Pに取り付けられる上下の弦材11A,11Bと、上下の弦材11A,11B間に亘る状態で上下の弦材11A,11Bにピン連結される複数の連結部材12と、各弦材11A,11Bと複数の連結部材12の各々とに亘って備えられ、各弦材11A,11Bと複数の連結部材12の各々との相対変位に減衰力を付与する複数のダンパ20とを備えて構成される。
【0027】
上下の弦材11A,11Bは、略水平姿勢の木製の横桟にて構成され、複数の鉛直構面Kを構成する四つの柱Pに亘る状態で四つの柱Pに取り付けられている。また、下方の弦材11Bは、支持構造Sの上面に接する状態で設置されている。なお、上下の弦材11A,11Bは、少なくとも鉛直構面Kを構成する二本の柱P間に亘る状態で二本の柱Pに取り付けられていればよく、鉛直構面K毎に分けて構成することができる。
【0028】
連結部材12は、略鉛直姿勢の木製の縦桟にて構成され、上下の弦材11A,11Bの延在方向(図中のX方向)で所定の間隔を空けて並設される。連結部材12は、鉛直構面Kの内部に複数個が配置される状態で並設される。図1では、中央側の鉛直構面Kの内部に5個の連結部材12が配置され、左側と右側の鉛直構面Kの夫々に2個の連結部材12が配置されている場合を例示している。上下の弦材11A,11Bと多数の連結部材12とで、梯子状の構造体が構成される。
【0029】
連結部材12は、上端部が上方の弦材11Aにピン連結され、下端部が下方の弦材11Bにピン連結される。連結部材12と上下の弦材11A,11Bとのピン連結構造としては、例えば、上下の弦材11A,11Bの延在方向(X方向)に直交する表裏方向(Y方向)に沿う一本の貫通ボルトにて回転自在に連結したり、固定度の低いピン接合等の接合形式で連結したりしてもよく、上下の弦材11A,11Bの延在方向(X方向)に直交する表裏方向(Y方向)に沿う軸周りで回転が可能な各種のピン連結構造を採用することができる。
【0030】
前記ダンパ20は、地震時に柱Pよりも先に降伏する金属系等のせん断ダンパであって、上下の弦材11A,11Bと複数の連結部材12との仕口部の各々に取り付けられる仕口ダンパにて構成される。
【0031】
例えば、各ダンパ20は、1/4円弧に沿って延びるダンパ本体の一端側及び他端側にフランジ状等の取り付け部を設けて構成される。そして、上下の弦材11A,11Bと複数の連結部材12との仕口部の各々において、ダンパ20の一端側の取り付け部が上下の弦材11A,11Bの側にボルト等の固定具にて固定状態で取り付けられ、ダンパ20の他端側の取り付け部が連結部材12の側にボルト等の固定具にて固定状態で取り付けられる。
ダンパ20は、上下の弦材11A,11Bと連結部材12との相対的な姿勢変化(相対変位)に連れてダンパ本体が塑性変形することで、上下の弦材11A,11Bの相対変位に減衰力を付与することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、図2(連結部材12及びダンパ20は省略)に示すように、制振機構1として、複数の柱Pの表側(図中の右下側)に配置される表側の制振機構1Aと、複数の柱Pの裏側(図中の左上側)に配置される裏側の制振機構1Bとが備えられ、省スペース化を図りながら大きな制振効果を発揮するようにしている。表側の制振機構1Aと制振機構1Bは、例えば、上下の弦材11A,11Bどうしを複数の横連結部材(図示省略)等を介して連結する等により一体化することができる。
【0033】
このように制振補強を施した建物補強構造は、図1(b)に示すように、地震時において、一つの鉛直構面Kを構成する一対の柱Pが右側(一方側)に傾くと、下方側の弦材11Bよりも上方側の弦材11Aが右方に移動して上下の弦材11A,11B間に亘らせた複数の連結部材12も柱Pと同様に一方に傾くことになる。よって、複数の連結部材12の各々と弦材11A,11Bとに亘って設けられた複数のダンパ20は、夫々が比較的小型のものであっても、複数の連結部材12の各々と弦材11A,11Bとの相対変位に対して充分な減衰力を付与することができ、地震時において地震エネルギーを効率良く減衰することができる。
【0034】
次に、図2図3を参照し、柱Pに対する制振機構1の取り付け方法(取り付け構造)について説明を加える。本実施形態の建物補強方法では、内部柱P2(建物内部の柱P)に対する制振機構1の取り付け方法(図3(a)参照)と、外周柱P1(建物外周部の柱P)に対する制振機構1の取り付け方法(図3(b)参照)の二種類の方法を用いている。
【0035】
(共通構成)
二種類の取り付け方法の共通構成として、いずれの取り付け方法も、図2図3に示すように、制振機構1が、既存建物EBを制振補強前の姿に復元可能なように、柱Pの周囲に備えられる接合用部材31を介して柱Pに対して着脱自在な状態で間接的に固定される。よって、必要に応じて制振機構1を取り外して既存建物EBを制振補強前の姿に復元することができる。
【0036】
具体的には、図2に示すように、制振機構1は、上下二つの接合用部材31を用いて柱Pの夫々に上下の二箇所で固定される。
図3に示すように、上方側では、表側及び裏側の制振機構1A,1Bの上方側の弦材11A,11Aと、柱Pの周囲に備えられる上方側の接合用部材31が、柱Pから左右方向(X方向)で外方に外れた箇所で共通の締結具32にて締結固定される。同様に、下方側では、表側及び裏側の制振機構1A,1Bの下方側の弦材11B,11Bと、柱Pの周囲に備えられる下方側の接合用部材31が、柱Pから左右方向で外方に外れた箇所で共通の締結具32にて締結固定される。
締結具32は、例えば、図3に示すように、長ボルト32Aと、そのボルト軸方向の両端側に螺合されるナット32B等から構成され、表側及び裏側の制振機構1A,1B及び接合用部材31が表裏方向(Y方向)から共締め状態で締め付け固定される。
【0037】
このように、表側及び裏側の制振機構1A,1Bを、柱Pの周囲に備えられる接合用部材31を介して柱Pから外れた箇所で締結固定することで、柱Pを傷つけずに複数の柱P間に表側及び裏側の制振機構1A,1Bを亘らせることができる。
なお、制振機構1と柱Pとは、制振機構1の上下の弦材11A,11Bの延在方向(X方向)に直交する軸周りで回転が可能な上述したピン連結構造等にて取り付けてもよい。
【0038】
(内部柱P2に対する制振機構1の取り付け方法)
内部柱P2に対する取り付け方法では、図3(a)に示すように、接合用部材31が、内部柱P2の表側に配置される表側の木製の分割接合用部材31Aと、内部柱P2の裏側に配置される裏側の木製の分割接合用部材31Bとに表裏方向(図中の上下方向)で二分割(複数分割の一例)される。そして、表側及び裏側の制振機構1A,1Bと表側及び裏側の分割接合用部材31A,31Bが、表裏方向から内部柱P2を挟み込む状態で配置され、表裏方向から締結具32にて締結固定される。
【0039】
表側及び裏側の両分割接合用部材31A,31Bは、平面視において矩形状の一辺の中間部位に内部柱P2の約半分が嵌り込み可能な半円状の装着凹部31aを備えており、それら装着凹部31aどうしの間に柱Pが位置し、且つ、両分割接合用部材31A,31Bの相対向する面(装着凹部31aの両脇に位置する面)どうしが接触する状態で柱Pの周囲に配置可能に構成される。表側及び裏側の両分割接合用部材31A,31Bは、表裏方向(Y方向)で対称な形状で構成され、平面視で矩形状を形成する状態で内部柱P2の周囲に配置される。
【0040】
(外周柱P1に対する制振機構1の取り付け方法)
外周柱P1に対する取り付け方法では、図3(b)に示すように、接合用部材31が、外周柱P1の建物内方側(図中右側)に配置される木製の内側接合用部材31Dと、外周柱P1の建物外方側(図中左側)に配置されて外周柱P1を挟み込む状態で内側接合用部材31Dと連結される可撓性の接合用バンド部材31Eとから構成され、表側及び裏側の制振機構1A,1Bと、外周柱P1の周囲に取り付けられた内側接合用部材31Dとが表裏方向(Y方向)から締結具32にて締結固定される。接合用バンド部材31Eは、例えば、炭素繊維等の強度の高い素材にて構成される。
このように、接合用部材31のうち、外周柱P1の建物外方側に配置されるのが嵩の低い接合用バンド部材31Eとすることで、建物補強後に接合用部材31が目立つことがなく、建物外観を良好に維持することができる。
【0041】
内側接合用部材31Dは、平面視で外周柱P1側(左側)の辺の中間部位に外周柱P1側に突出する突出部31bが備えられる。突出部31bの表裏方向(Y方向)の幅は、外周柱P1の直径と同等の寸法で構成される。突出部31bの先端面には、外周柱P1の約半分が嵌り込み可能な半円状の装着凹部31aが形成される。
内側接合用部材31Dは、突出部31bの先端面の装着凹部31aに柱Pの建物内方側が位置する状態で外周柱P1の周囲に配置され、外周柱P1を囲うように配置された接合用バンド部材31Eの両端部を内側接合用部材31Dの突出部31bの表裏の両面に対してボルトやビス等の固定具33で固定することで、外周柱P1に固定される。
【0042】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態では、図1(a)に示すように、制振機構1を、既存建物EBにおける床材Fの下方の床下空間(既存床下空間)S1に納めるようにしていたが、これに代えて、図4に示すように、制振機構1を、既存建物EBにおける天井材C(天井材Cがない場合は室内空間)の上方の天井裏空間(既存天井裏空間)S2に納めるようにしてもよい。この場合も、既存建物EB内の間取りや見栄え等を変更せずに既存建物EBを補強することができる。
【0043】
(2)前述の実施形態では、上下の弦材11A,11B及び連結部材12が、木製である場合を例に示したが、鋼製や金属製等であってもよい。
【0044】
(3)前述の実施形態では、ダンパ20が、せん断ダンパにて構成される場合を例に示したが、粘性ダンパやオイルダンパ等にて構成されてもよい。
【0045】
(4)柱Pに対する制振機構1の取り付け方法(取り付け構造)は、前述の実施形態で示した取り付け方法(取り付け構造)に限らず、既存建物EBの状態や制振機構1の設置部位等に応じた各種の取り付け方法(取り付け構造)を用いることができる。
【0046】
(5)本発明の建物補強方法(建物補強構造)は、前述の実施形態で示した既存建物EBに制振補強を施す場合に限らず、新築建物に制振補強を施す場合にも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 制振機構
1A 表側の制振機構
1B 裏側の制振機構
11A 上方側の弦材
11B 下方側の弦材
12 連結部材
20 ダンパ
31 接合用部材
31A 表側の分割接合用部材
31B 裏側の分割接合用部材
31D 内側接合用部材
31E 接合用バンド部材
32 締結具
EB 既存建物(建物)
K 鉛直構面
P 柱
S1 床下空間
S2 天井裏空間
図1
図2
図3
図4