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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】電極構造体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20220209BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220209BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220209BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220209BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20220209BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20220209BHJP
   H01M 4/13 20100101ALN20220209BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/62 Z
H01M8/10 101
H01M4/96 B
H01G11/36
H01G11/42
H01M4/13
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018518269
(86)(22)【出願日】2017-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2017018076
(87)【国際公開番号】W WO2017199884
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2016098926
(32)【優先日】2016-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】八名 拓実
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-076948(JP,A)
【文献】特開2013-062236(JP,A)
【文献】特開2005-294109(JP,A)
【文献】特開2011-148674(JP,A)
【文献】特開2003-257797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/62、4/86
H01B5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスに用いられる電極構造体であって、
粉末状の電極材料と、
体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であり、且つ、電子顕微鏡観察に基づく平均長さが1μm以上であるカーボンナノチューブと
を含み、
ラマン分光分析によって測定される前記カーボンナノチューブのG/D比が、70以上であり、
樹脂バインダを含まない
電極構造体。
【請求項2】
集電体を含まない、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項3】
電子デバイスに用いられる電極構造体であって、
粉末状の電極材料と、
体積抵抗率が2×10 -2 Ω・cm以下であり、且つ、電子顕微鏡観察に基づく平均長さが1μm以上であるカーボンナノチューブと
を含み、
ラマン分光分析によって測定される前記カーボンナノチューブのG/D比が、70以上であり、
集電体を含まない
電極構造体。
【請求項4】
前記電子デバイスは、電気二重層キャパシタであり、前記電極材料として活性炭を含む、請求項1~3の何れか一つに記載の電極構造体。
【請求項5】
前記電子デバイスは、固体高分子形燃料電池であり、前記電極材料として触媒担持カーボンを含む、請求項1~3の何れか一つに記載の電極構造体。
【請求項6】
前記電子デバイスは、二次電池であり、前記電極材料として活物質を含む、請求項1~3の何れか一つに記載の電極構造体。
【請求項7】
前記活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な少なくとも一種の化合物を含む、請求項6に記載の電極構造体。
【請求項8】
前記化合物として、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物またはリン酸塩を含む、請求項7に記載の電極構造体。
【請求項9】
電子デバイスに用いられる電極構造体であって、
粉末状の電極材料と、
体積抵抗率が2×10 -2 Ω・cm以下であり、且つ、電子顕微鏡観察に基づく平均長さが1μm以上であるカーボンナノチューブと
を含み、
ラマン分光分析によって測定される前記カーボンナノチューブのG/D比が、70以上であり、
前記電子デバイスは、電気二重層キャパシタであり、前記電極材料として活性炭を含む
電極構造体。
【請求項10】
電子デバイスに用いられる電極構造体であって、
粉末状の電極材料と、
体積抵抗率が2×10 -2 Ω・cm以下であり、且つ、電子顕微鏡観察に基づく平均長さが1μm以上であるカーボンナノチューブと
を含み、
ラマン分光分析によって測定される前記カーボンナノチューブのG/D比が、70以上であり、
前記電子デバイスは、固体高分子形燃料電池であり、前記電極材料として触媒担持カーボンを含む
電極構造体。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブの含有量が、10質量%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の電極構造体。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブの平均アスペクト比が、100以上である、請求項1~11の何れか一つに記載の電極構造体。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブとして、単層カーボンナノチューブを含む、請求項1~12の何れか一つに記載の電極構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスに用いられる電極構造体に関する。
なお、本国際出願は2016年5月17日に出願された日本国特許出願第2016-098926号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池あるいはキャパシタなどの蓄電デバイスは、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として好ましく用いられている。また、燃料電池や太陽電池などの発電デバイスは、クリーンな電気エネルギー供給源として重要性が高まっている。これら電子デバイスに用いられる電極構造体は、一般に、各々の目的に応じた粉末状の電極材料をバインダおよび溶媒と混合したスラリーを調製し、該スラリーをシート状または箔状の集電体に塗工することで作製されている。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)等の樹脂バインダが広く用いられている。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-092760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極構造体に含まれる樹脂バインダは、抵抗成分として働くため、電極抵抗が増大する要因になり得る。樹脂バインダを用いることなく、低抵抗な電極構造体を実現できる技術が提供されれば有用である。また、近年、リチウムイオン二次電池その他の電子デバイスについて、高性能化の一環として小型化、薄型化が要求されるようになっている。このため、小型化、薄型化に適した薄膜状の電極構造体が求められている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、リチウムイオン二次電池その他の電子デバイスに用いられる電極構造体において、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電極構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブを電極材料に混合し、バインダおよび導電材として機能させることによって、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電子デバイス用電極構造体を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明によって提供される電極は、電子デバイスに用いられる電極構造体である。この電極構造体は、粉末状の電極材料と、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも表記する。)と、を含む。カーボンナノチューブは、
上記特定の体積抵抗率を有するCNTを電極材料に混合して用いることにより、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電子デバイス用電極構造体が実現され得る。
【0008】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、ラマン分光分析によって測定される前記カーボンナノチューブのG/D比が、50以上(好ましくは70以上)である。かかるG/D比を有するCNTは、膜強度の向上に効果的に寄与し得る。
【0009】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、前記カーボンナノチューブの含有量が、10質量%以下である。上記体積抵抗率を有するCNTを、このような含有量の範囲内で用いると、小型化、薄型化に適した薄膜状の電極構造体がより良く実現され得る。
【0010】
ここで開示される電子デバイス用電極の好ましい一態様では、樹脂バインダを含まない。かかる電極は、樹脂バインダを含まないことで、樹脂バインダに起因して電極抵抗が大きくなって十分な特性が得られなかったり、樹脂バインダの存在が電極材料の含有量の増加に対する制約になったりする不都合を解消し得る。
【0011】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、集電体を含まない。このようにすれば、電極の構造を簡素化でき、より小型化、軽量化に適した薄膜状の電極構造体を実現することができる。また、電極構造体が集電体を含まないことで、集電体と電極材料との界面抵抗(典型的には接触抵抗)に起因して電極抵抗が大きくなって十分な特性が得られなかったり、集電体に電極材料を塗工する際に生じ得る温度湿度管理やスラリー粘度管理に起因して製造コストが増大したりする不都合を解消し得る。
【0012】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、前記カーボンナノチューブの平均アスペクト比が、100以上(好ましくは500以上、さらに好ましくは800以上)である。このような平均アスペクト比を有するCNTを用いることで、低抵抗と膜強度向上との両立がより高いレベルで実現され得る。
【0013】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブである。単層CNTは、多層CNTに比べて強い分子間力を有するため、本発明の目的に適したCNTとして好適である。
【0014】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、前記電子デバイスは、リチウムイオン二次電池であり、前記電極材料として活物質を含む。かかる構成によると、従来に比して、低抵抗で且つ膜強度に優れた高性能なリチウムイオン二次電池用電極構造体が実現され得る。
【0015】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、前記電子デバイスは、電気二重層キャパシタ(非対称型のハイブリッドキャパシタ用電極を含み得る。)であり、前記電極材料として活性炭を含む。かかる構成によると、従来に比して、低抵抗で且つ膜強度に優れた高性能な電気二重層キャパシタ用電極が実現され得る。
【0016】
ここで開示される電極構造体の好ましい一態様では、固体高分子形燃料電池であり、前記電極材料として触媒担持カーボンを含む。かかる構成によると、従来に比して、低抵抗で且つ膜強度に優れた高性能な固体高分子形燃料電池用電極が実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる流動気相CVD装置を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を模式的に示す図である。
図3図3は、例7に係る電極構造体のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここに開示される電極構造体は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電子デバイスに用いられる電極構造体であって、粉末状の電極材料と、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブ(CNT)とを含む。
【0020】
<CNTの体積抵抗率>
ここに開示される技術において、電極構造体に用いられるCNTの体積抵抗率は、例えば四端子四探針法に基づく抵抗率測定を行うことによって把握することができる。具体的な手順としては、測定対象のCNT10mgを液状媒体(例えばエタノール)に分散させ、得られた分散体を直径47mmのメンブレンフィルタ、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過し、フィルタ上にペーパ状試験片を作製する。次いで、試験片に4本の針状の探針(電極)を接触させ、外側の2本の探針間に流した電流と、内側の2本の探針間に生じる電位差とから試験片の抵抗を求める。そして、測定された抵抗と試験片の厚さとから、CNTの体積抵抗率を算出することができる。この抵抗率測定は、体積抵抗率測定装置(例えば株式会社三菱化学アナリテック製Loresta-GP)を用いて行うことができる。
【0021】
ここに開示される電極構造体を構成するために用いられるCNTは、上記抵抗率測定によって測定された体積抵抗率が、2×10-2Ω・cm以下である。このことにより、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電極構造体が実現され得る。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、体積抵抗率が小さいCNTは、構造欠陥が少なく(高結晶性で)かつ比表面積が大きいため、各CNT間に大きな分子間力が発現する。また、導電パスが従来に比して長い(典型的には高アスペクト比を有する)ため、CNTにより強固で且つ緻密なネットワークが形成され、そのネットワーク中に粉末状の電極材料を好適に閉じ込めることができる。このことが抵抗低減および膜強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0022】
低抵抗かつ膜強度に優れた電極構造体を実現する観点から、上記CNTとしては、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下のものを好適に使用し得る。CNTの体積抵抗率は、好ましくは8×10-3Ω・cm以下、より好ましくは7×10-3Ω・cm以下、さらに好ましくは5×10-3Ω・cm以下である。例えば、CNTの体積抵抗率は、3×10-3Ω・cm以下であってもよく、典型的には1×10-3Ω・cm以下であってもよい。また、CNTの体積抵抗率の下限は特に限定されないが、製造容易性等の観点から、例えば5×10-6Ω・cm以上、典型的には8×10-6Ω・cm以上、例えば1×10-6Ω・cm以上である。ここに開示される技術は、例えば、CNTの体積抵抗率が7×10-6Ω・cm以上8×10-3Ω・cm以下(典型的には5×10-5Ω・cm以上7×10-4Ω・cm以下)である態様で好ましく実施され得る。体積抵抗率を7×10-4Ω・cm以下にすることによって、より低抵抗かつ膜強度に優れた電極構造体を実現し得る。
【0023】
上記CNTとしては、ラマン分光分析によって測定されるG/D比が50以上のものを好ましく採用することができる。G/D比が大きいCNTほど、表面欠陥が少なく、各CNT間の分子間力が効果的に高まる。そのため、バインダとしての機能がより良く発揮され得る。膜強度向上の観点から、CNTのG/D比は、好ましくは70以上、より好ましくは100以上、特に好ましくは120以上である。例えば、CNTのG/D比は、150以上であってもよく、典型的には180以上であってもよく、例えば200以上(典型的には220以上)であってもよい。上記CNTのG/D比の上限は特に限定されないが、製造容易性等の観点からは、例えば500以下、典型的には400以下、例えば300以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、上記CNTのG/D比が50以上400以下(より好ましくは100以上300以下、例えば120以上280以下)である態様で好ましく実施され得る。なお、本明細書において、CNTのG/D比は、レーザ波長532nmにおけるラマンスペクトル測定によって測定される1600cm-1付近のGバンドと1350cm-1付近のDバンドとの高さの比として把握され得る。このラマンスペクトル測定は、ラマンスペクトル測定装置(例えばB&W Tek社製InnoRam)を用いて行うことができる。
【0024】
CNTのアスペクト比(CNTの長さ/直径)の平均値は、体積抵抗率が前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、典型的には100以上である。CNTのアスペクト比が大きいほど、CNT同士が機械的に絡み合いやすくなり、バインダおよび導電材としての機能がより好適に発揮される。そのため、ここに開示される技術の適用効果が適切に発揮され得る。CNTのアスペクト比の平均値は、低抵抗や膜強度を高める等の観点から、好ましくは250以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは800以上、特に好ましくは1000以上である。CNTのアスペクト比の上限は特に限定されないが、取扱性や製造容易性等の観点からは、概ね25000以下にすることが適当であり、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下、さらに好ましくは12000以下、特に好ましくは10000以下である。例えば、CNTの平均アスペクト比が100~10000であるCNTが好適である。なお、CNTの平均アスペクト比(CNTの長さ/直径)、平均長さおよび平均直径は、典型的には電子顕微鏡観察に基づく測定で得られた値を採用することができる。
【0025】
CNTの平均直径は、概ね50nm以下であることが好ましい。低抵抗や膜強度を高める等の観点から、CNTの直径の平均値は、好ましくは30nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。CNTの直径(平均値)の下限は特に限定されないが、概ね0.1nm以上にすることが適当であり、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上である。例えば、CNTの平均直径が0.5nm以上~10nm以下(好ましくは1nm以上~5nm以下)であるCNTが好適である。
【0026】
CNTの平均長さは、典型的には1μm以上にすることが適当である。低抵抗や膜強度を高める等の観点から、CNTの長さの平均値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上(例えば10μm超)である。CNTの長さ(平均値)の上限は特に限定されないが、概ね30μm以下にすることが適当であり、例えば25μm以下、典型的には20μm以下(例えば15μm以下)であってもよい。例えば、CNTの平均長さが5μm以上30μm以下(好ましくは10μm超25μm以下、典型的には12μm以上20μm以下)であるCNTが好適である。
【0027】
CNTの純度は、体積抵抗率が前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、典型的には85%以上である。低抵抗化や膜強度向上等の観点から、CNTの純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。CNTの純度の上限は特に限定されないが、製造容易性等の観点からは、典型的には99%以下、例えば98%以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、CNTの純度が85%以上100%以下(典型的には95%以上99%以下)である態様で好ましく実施され得る。なお、本明細書において、CNTの純度は、熱重量分析(TGA)装置による測定で得られた値を採用することができる。
【0028】
上記CNTの材質は、体積抵抗率が前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はない。例えばCNTは、単層カーボンナノチューブ(SWNT:例えば1~3層、典型的には1または2層)であってもよく、多層カーボンナノチューブ(MWNT:例えば4~200層、典型的には4~60層)であってもよい。また、単層CNTと多層CNTとを任意の割合(単層CNT:多層CNTの質量比が例えば100:0~50:50、好ましくは100:0~80:20)で含むCNTであってもよいが、バインダとして機能させる観点からは、実質的に単層CNTのみからなるものが好ましい。グラフェンシートの構造は特に限定されず、カイラル(らせん)型、ジグザグ型、アームチェア型の何れのタイプであってもよい。また、CNTの合成に用いられた触媒金属等を含む(該触媒金属が残留している)ものであってもよい。上記触媒金属は、例えば、Fe,Coおよび白金族元素(Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属または該金属を主体とする合金であり得る。このような触媒金属は、典型的には微粒子(例えば平均粒径3nm~100nm程度)の形態でCNTに含まれ得る。ここに開示される電極構造体の好ましい一態様では、上記炭素質材料の85atom%以上(より好ましくは90atom%以上)が炭素原子(C)である。該炭素質材料の95atom%以上が炭素原子であってもよく、99atom%以上が炭素原子であってもよく、実質的に炭素原子のみからなるCNTであってもよい。後述するCNT製造方法により得られた生成物に任意の後処理(例えば、アモルファスカーボンの除去、触媒金属の除去等の精製処理)を施したものを上記CNTとして使用してもよい。
【0029】
電極構造体におけるCNTの含有量は、特に制限はないが、典型的には10質量%以下であり、薄膜状の電極構造体を得る等の観点から、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。例えばCNTの含有量は2質量%以下であってもよく、典型的には1質量%以下(例えば1質量%未満)であってもよい。低抵抗や膜強度を高める等の観点から、上記CNTの含有量は、概ね0.01質量%以上が適当であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上である。ここに開示される技術は、例えば電極構造体におけるCNTの含有量が0.01質量%以上10質量%以下(好ましくは0.08質量%以上5質量%以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0030】
<電極材料>
ここに開示される電極構造体は粉末状の電極材料を含む。電極材料としては、この種の電子デバイスに用いられている各種電極の主材料(以下、電極主材料ともいう。)を特に限定なく使用することができる。例えば、電極構造体がリチウムイオン二次電池用正極の場合、電極主材料として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含み得る。正極活物質の例として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩などが挙げられる。また、電極構造体がリチウムイオン二次電池用負極の場合、電極主材料として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含み得る。負極活物質の例として、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、アモルファスカーボン等の炭素系材料、チタン酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属窒化物、シリコン化合物などが挙げられる。
【0031】
電極構造体が電気二重層キャパシタ用電極の場合、電極主材料として活性炭を含み得る。活性炭としては、この種の電気二重層キャパシタの活性炭として用いられている各種の材料を特に限定なく使用することができる。例えば、鉱物系、植物系、樹脂系などの炭素質材料を炭化、賦活して得られたものを好ましく用いることができる。鉱物系の炭素質材料としては、石炭(亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等)、コークス類、不融化ピッチ、オイルカーボンなどが例示される。植物系の炭素質材料としては、木炭、ヤシ殻、オガ屑、木材チップ、草炭などが例示される。樹脂系の炭素質材料としては、フェノール樹脂が例示される。炭素質材料の炭化および賦活処理は、従来公知の方法で行うことができる。あるいは、市販されている活性炭を購入して使用してもよい。
【0032】
電極構造体が固体高分子形燃料電池用電極の場合、電極主材料としてカーボン担体に触媒を担持した触媒担持カーボンを含み得る。カーボン担体に担持される触媒としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム等の貴金属、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ゲルマニウム、錫などの卑金属、これら貴金属と卑金属との合金、あるいは金属酸化物、金属錯体などの化合物を採用することができる。
【0033】
電極構造体における電極主材料の含有量は、特に制限はないが、概ね90質量%以上であり、より薄膜状の電極構造体を得る等の観点から、92質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。例えば電極材料の含有量は98質量%以上であってもよく、典型的には99質量%以上(例えば99質量%超)であってもよい。低抵抗化や膜強度を高める等の観点から、上記電極主材料の含有量は、99.99質量%以下が適当であり、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.92質量%以下である。ここに開示される技術は、例えば電極構造体における電極主材料の含有量が90質量%以上99.99質量%以下(好ましくは95質量%以上99.92質量%以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0034】
ここに開示される電極構造体は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した電極主材料以外の電極材料(以下、電極添加材料ともいう。)を含有してもよい。そのような電極添加材料の例として、樹脂バインダ、導電材、増粘剤などが挙げられる。上記電極添加材料の含有量は、電極構造体に含まれる電極材料の全質量のうち、例えば10質量%以下とすることが適当であり、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0035】
ここに開示される電極構造体は、電極材料として樹脂バインダを実質的に含まないことが好ましい。ここでいう樹脂バインダの具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリアクリルニトリル(PAN)、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。かかる樹脂バインダは抵抗成分として働くため、低抵抗化の制限要因となり得る。また、樹脂バインダの存在が電極材料の含有量の増加に対する制約になる不都合が生じ得る。これに対し、ここに開示される電極構造体は、樹脂バインダを実質的に含まないことで、樹脂バインダに起因して電極抵抗が大きくなって十分な特性が得られなかったり、樹脂バインダの存在が電極材料の含有量の増加に対する制約になったりする不都合を解消し得る。また、樹脂バインダ成分を用いる従来の電極に比べて、電極の厚みが小さくなるので、電極主材料の使用量を減らすことなく、より小型化、薄型化に適した薄膜状の電極が実現され得る。好ましい一態様では、上記CNTを用いた電極構造体の厚みは、樹脂バインダを用いた従来の電極構造体の厚みの1/2以下(好ましくは1/3以下、より好ましくは1/4以下)であり得る。
【0036】
また、ここに開示される技術では、前述のように、CNT間の分子間力に起因した結着力によって電極材料同士が強固に結合され、電極構造体の形が適切に保持される。そのため、金属箔(例えばアルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス箔など)の集電体が不要である。すなわち、ここに開示される技術は、電極構造体が集電体を含まない態様で好ましく実施され得る。電極構造体が集電体を含まないことで、電極の構造を簡素化でき、より小型化、軽量化に適した薄膜状の電極構造体を実現することができる。また、電極構造体が集電体を含まないことで、集電体と電極材料との界面抵抗(接触抵抗)に起因して電極抵抗が大きくなって十分な特性が得られなかったり、集電体に電極材料を塗工する際に生じ得る温度湿度管理やスラリーの粘度管理等に起因して製造コストが増大したりする不都合を解消し得る。
【0037】
<電極構造体の製造方法>
ここで開示される電極構造体は、以下の工程(1)~(4)を経て製造され得る。
(1)体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるCNTを用意(購入または合成)すること。
(2)上記CNTと粉末状の電極材料とを液状媒体に分散させた分散液であって実質的に樹脂バインダを含まない分散液を調製すること。
(3)上記分散液をフィルタで濾過することにより該フィルタ上に前記CNTと前記電極材料との集積物を得ること。
(4)上記集積物を乾燥すること。
【0038】
<(1)CNTの用意>
ここに開示されるCNTは、流動気相CVD法によって合成され得る。流動気相CVD方法では、触媒や反応促進剤を含む炭素原料を霧状にして高温の加熱炉に導入することによってCNTを流動する気相中で生成する。かかる方法では、反応場を適切に制御することで、体積抵抗率が従来に比して低減されたCNTを得ることができる。
【0039】
図1に、一実施形態に係る流動気相CVD装置1を模式的に示す。図1に示す流動気相CVD装置1は、筒体のチャンバ10と、チャンバ10に開口する炭素源供給口32から該チャンバ10に炭素源Aを供給する炭素源供給部30と、チャンバ10に開口するガス供給口82から該チャンバ10に非酸化性ガスを供給するガス供給部80と、チャンバ10内のガスを排出可能に構成された排気管50と、排気管50に設けられたバルブ60と、を備える。
【0040】
炭素源供給部30は、チャンバ10に開口する炭素源供給口32から該チャンバ10に炭素源Aを供給(例えば噴霧)するものとして構成されている。この実施形態では、炭素源供給部30は、チャンバ10内の後述する反応ゾーン20内を延びて炭素源供給口32に連なる炭素源導入管34を備えている。炭素源導入管34の先端に設けられた炭素源供給口32は、反応ゾーン20またはその近傍に開口している。炭素源導入管34の先端に設けられた炭素源供給口32は、チャンバ10の上流側に開口している。このように炭素源Aが、反応ゾーン20(高温領域)に直接供給される構成とすることにより、炭素源供給口32から供給された炭素源(典型的には液体)Aが短時間でガス(蒸気)化する。また、炭素源導入管34を用いることで、炭素源供給口32から炭素源導入管34の壁面を通じて反応ゾーン20の熱を該導入管34内の炭素源(液体)Aに伝え、これにより炭素源供給口32から供給された炭素源Aが短時間でガス化する。炭素源としては、例えば、トルエンやベンゼン等を用いることができる。
【0041】
炭素源供給部30は、炭素源供給口32からチャンバ10に上述した炭素源とともに触媒金属または触媒金属化合物を供給する。上記触媒金属としては、FeおよびCoの少なくとも一方を使用することが好ましい。触媒金属化合物としては、有機遷移金属化合物、無機遷移金属化合物等を挙げることができる。有機遷移金属化合物としては、フェロセン等が例示される。中でもフェロセンを使用することが好ましい。
【0042】
炭素源供給部30は、炭素源供給口32からチャンバ10に上述した炭素源および触媒金属とともに反応促進剤を供給する。反応促進剤としては、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物等を挙げることができる。有機硫黄化合物としては、チオフェン、チアナフテン、ベンゾチオフェン等の含硫黄複素環式化合物が例示される。また、無機硫黄化合物としては、例えば硫化水素等が例示される。中でもチオフェンを使用することが好ましい。
【0043】
ガス供給部80は、チャンバ10に開口するガス供給口82から該チャンバ10に非酸化性ガス(キャリアガス)を供給するものとして構成されている。この実施形態では、ガス供給部80は、反応ゾーン20内を延びてガス供給口82に連なるガス供給管84を備えている。ガス供給管84の先端に設けられたガス供給口82は、反応ゾーン20またはその近傍に開口している。ガス供給管84の先端に設けられたガス供給口82は、チャンバ10の上流側に開口している。
【0044】
ガス供給口82からチャンバ10に供給されるキャリアガスとしては、還元性ガス(例えばH2ガス)が使用され得る。また、ガス供給口82からチャンバ10に供給される非酸化性ガスは、常温で気体の炭素源ガスを含んでいる。炭素源ガスとしては、前述した炭素源供給口32からチャンバ10に供給される炭素源よりも低い温度で熱分解する物が好ましい。そのような性質を有する炭素源ガスとして、二重結合を有するエチレン、プロピレン、三重結合を有するアセチレン等の不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。これらの混合物を炭素源ガスとして用いてもよい。
【0045】
図示した例では、上記ガス供給部80および前記炭素源供給部30は、ガス供給管84を外管とし、炭素源導入管34を内管とする二重管構造を有する。ここでは、炭素源導入管34の先端に設けられた炭素源供給口32が、ガス供給管84の先端に設けられたガス供給口82よりも下流側(下方)に突出している。これにより、ガス供給口82から供給された非酸化性ガスが、炭素源供給口32から供給された炭素源(液体)に接触し、該炭素源(液体)のガス化および拡散が促進される。
【0046】
排気管50は、チャンバ10の後述する堆積ゾーン22よりも下流に配置されたガス抜き口52からチャンバ10内のガスを排出可能に構成されている。この実施形態では、チャンバ10の下流側(下方)に連結された後述する回収部(回収容器)70の側面に排気管50のガス抜き口52が開口している。また、排気管50の途上には、バルブ60が設けられている。バルブ60は、通常の使用時(すなわちCNTの製造時)においては閉状態に制御されている。そして、後述するCNTを回収する際に、閉状態から開状態に切り替えられる。また、この実施形態では、排気管50は、バルブ60を経由しないバイパス管54を備えている。これにより、バルブ60が閉状態であっても、バイパス管54を通じてガス抜き口52から一定量のガスが排出される。具体的には、ガス供給口82からチャンバ10に供給される非酸化性ガス(キャリアガス)の量と、バルブ60を閉じた状態においてガス抜き口52からバイパス管54を通じて排出されるガスの量とのバランスを適切に設定することで、ガス化した炭素源が反応ゾーン20よりも上流側および下流側に拡散しないように(換言すれば、ガス化した炭素源を反応ゾーン20内に留めるように)ガス化した炭素源の移動を制御する。
【0047】
チャンバ10は、直管状に形成されている。チャンバ10の長さは特に限定されないが、約1400mmであり、そのうち反応ゾーン20の長さは約800mm、堆積ゾーン22の長さは約400mmであり得る。チャンバ10の上流側の開口は、上流蓋12によって塞がれている。一方、チャンバ10の下流端は開口状態となっている。
【0048】
反応ゾーン20は、チャンバ10内においてCNTが生成する温度に加熱されるゾーンである。チャンバ10の筒軸方向の一部範囲(ここでは上部および中央部)はヒータ3によって囲まれており、この囲まれた領域の内側に位置する部分が反応ゾーン20となっている。ヒータ3は、反応ゾーン20をCNTが生成する温度に加熱するようになっている。反応ゾーン20をCNTが生成する温度に加熱することにより、炭素源供給口32から供給された炭素源がガス(蒸気)化、さらに熱分解されてCNTが生成する。CNTの体積抵抗率を低減する観点から、加熱温度は1300℃以上(好ましくは1350℃以上)であって、1400℃以下(例えば1380℃)に設定され得る。
【0049】
堆積ゾーン22は、チャンバ10内において反応ゾーン20よりも下流に設けられ、生成したCNT24を冷却して堆積するゾーンである。すなわち、反応ゾーン20で炭素源を熱分解することにより生成したCNT24は、堆積ゾーン22に移動して冷却され、典型的にはチャンバ10の出口付近に堆積する。これに伴ってチャンバ10の出口付近がCNT24によって次第に厚く覆われる。このように、反応ゾーン20よりも下流の堆積ゾーン22をCNTによって厚く覆う(ひいては閉塞状態に近づける)ことにより、ガス化した炭素源が反応ゾーン20内に留まる(すなわち反応ゾーン20の下流側への拡散が抑えられる)。堆積ゾーン22に堆積したCNTは、前述したバルブ60を開状態に切り替えることで、回収することが可能である。すなわち、バルブ60を開状態に切り替えると、反応ゾーン20に溜まった大量の高圧ガス(ガス化した炭素源および非酸化性ガス)が堆積ゾーン22および回収部70を経てガス抜き口52から排出される。このガス流れに乗って、堆積ゾーン22に堆積されたCNTが回収部70まで移動し、回収部70にて回収され得る。
【0050】
かかる構成の流動気相CVD装置1によると、バルブ60を閉じて堆積ゾーン22にCNTを堆積(典型的にはチャンバの内壁に付着)させることで、ガス化した炭素源が堆積ゾーン22よりも上流の反応ゾーン20内に留められ(反応ゾーン20の下流側への拡散が抑えられ)、反応ゾーン20における炭素源の濃度および圧力が効果的に高まる。かかる高濃度かつ高圧状態で、反応ゾーン20を1300℃~1400℃の高温域に加熱することで、該炭素源から従来に比して体積抵抗率が低減された(典型的には体積抵抗率が2×10-2Ω・cmを下回る)CNTを生成することができる。また、堆積ゾーン22でCNTの堆積がある程度進むと、バルブ60を開いて堆積ゾーン22に堆積されたCNTを回収することにより、CNTを連続して製造することができる。
【0051】
<(2)分散液の調製>
ここに開示される電極構造体の製造方法では、次に、上記CNTと粉末状の電極材料とを液状媒体(典型的には、少なくとも室温において液状を呈する媒体)に分散させた分散液を調製する。
【0052】
上記CNTおよび上記電極材料を分散させる液状媒体としては、溶媒の含有割合が95質量%以上である(換言すれば、溶媒以外の成分すなわち不揮発分の含有割合が5質量%未満である)ものが好ましく、上記割合が99質量%以上である液状媒体がさらに好ましい。実質的に不揮発分を含まない液状媒体であってもよい。該液状媒体を構成する溶媒の組成は、目的および態様等に応じて適宜選択することができ、例えば水、有機溶媒またはこれらの混合溶媒であり得る。加熱により容易に(例えば200℃以下、より好ましくは120℃以下の温度域で)除去可能な溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素原子数1~5程度のアルコール)、低級ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、低級アルコールの酢酸エステル(例えば酢酸エチル)等から選択されるいずれかの一種または二種以上の溶媒であり得る。なかでも、エタノール、プロパノール等の低級アルコールの使用が好ましい。
【0053】
上記分散液は、例えば、CNTおよび電極材料からなる固形分と液状媒体とを共存させて攪拌処理および超音波処理の少なくとも一方を行うことにより好ましく調製することができる。固形分と液状媒体との使用割合は特に限定されない。例えば、固形分100mgに対して液状媒体を5ml~40mlの割合で使用することができる。
【0054】
上記攪拌処理としては、例えば、適当な形状の攪拌体を高速(高回転数)で回転させて炭素質材料と電極材料と液状媒体とを攪拌する処理(高速攪拌処理)を好ましく採用することができる。例えば、モータに接続された攪拌軸にカーターナイフや細長い板状もしくはプロペラ形状の攪拌体(攪拌羽根)が取り付けられた構成の攪拌装置を用いて上記高速攪拌処理を行うことが好ましい。なお、上記攪拌処理(上記高速攪拌処理であり得る。)と上記超音波処理とを任意の順序で組み合わせて、あるいは同時に(並行して)実施することによりCNTおよび電極材料を液状媒体に分散させてもよい。好ましい一態様では、CNTと液状媒体とを先に混合して攪拌処理し、次いで電極材料を投入して超音波処理する。これにより、CNTと電極材料とが液状媒体に均一に分散した分散液が得られる。
【0055】
<(3)フィルタ濾過>
ここに開示される電極構造体の製造方法では、次に、得られた分散液をフィルタで濾過する。このことによって、上記分散液中に含まれていたCNTおよび電極材料の集積物(集合体)をフィルタ上に集積することができる。濾過に使用するフィルタの材質および形状は特に限定されず、一般に固液分離に使用される各種のフィルタから目的に応じて適当なものを選択して用いることができる。通常は、シート状のフィルタ(典型的には濾紙)を使用することができる。例えば、セルロース系繊維を主体とする濾紙を用いることができる。
【0056】
上記分散液の濾過は、上記フィルタの分散液供給側よりも濾液排出側の圧力を低くする態様で好ましく行うことができる。かかる濾過態様を採用することによって濾過速度を高め、また炭素質材料および電極材料をより適切に集積することができる。例えば、フィルタ(典型的には濾紙)をヌッチェ(ブフナー漏斗ともいう。)に平らにセットして上記濾過を行う態様を好ましく採用し得る。かかる態様は、上記フィルタ上にCNTおよび電極材料を集積するのに適している。濾液排出側を減圧する吸引濾過および分散液供給側を昇圧する加圧濾過のいずれも採用可能であるが、吸引濾過を採用することがより好ましい。これにより、フィルタ上にCNTおよび電極材料をより適切に(典型的には、より高密度に)集積することができる。あるいは、分散液供給側よりも濾液排出側の圧力を同程度として濾過(典型的には、主として分散液の重さを利用する濾過(自然濾過))を行ってもよい。
【0057】
<(4)集積物の乾燥>
ここに開示される電極構造体の製造方法では、次に、CNTおよび電極材料の集積物をフィルタから分離して乾燥する。該集積物を乾燥させる方法としては、常温乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の従来公知の乾燥方法を適宜採用することができる。好ましい一態様では、集積物を加熱して乾燥させる。例えば、湿った集積物を加熱炉内において乾燥させるとよい。集積物を乾燥させる際の加熱温度は、液状媒体の組成(特に溶媒の沸点)等を勘案して適宜設定することができる。通常は、該乾燥温度を凡そ40℃~250℃(例えば凡そ60℃~150℃)程度とすることが好ましい。
【0058】
このように集積物を乾燥して液状媒体を揮発させることで、粉末状の電極材料と、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるCNTとの集合体からなり、実質的に樹脂バインダ成分を含まない電極構造体を得ることができる。乾燥後、必要に応じて電極構造体をプレス(例えばロールプレス)してもよい。
【0059】
<用途>
ここに開示される電極構造体は、上記のように低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電極構造体であることから、種々の形態の電子デバイスに内蔵される電極として好ましく利用され得る。例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ(非対称型の電気二重層キャパシタ、例えばハイブリッドキャパシタを包含する。)、固体高分子形燃料電池に内蔵される電極として好適である。
【0060】
<リチウムイオン二次電池>
上記リチウムイオン二次電池200は、図2に示すように、セパレータ230と、セパレータ230を介して対向して配置された正極210および負極220と、非水電解液(図示せず)とを含むものであり得る。かかるリチウムイオン二次電池200の正極210および負極220の何れか一方または両方(好ましくは両方)に、ここに開示される電極構造体を用いることができる。かかる用途では、低抵抗かつ膜強度の高い薄膜状の正極210および/または負極220を用いることでリチウムイオン二次電池200を高性能化(例えば低抵抗化、高容量化、高エネルギー密度化、高耐久性化)し得るため、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0061】
セパレータ230としては、従来と同様のセパレータを使用することができる。例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂から成る多孔質のシート(多孔質フィルム)を使用することができる。あるいは、セルロース、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、全芳香族ポリエステル等の繊維からなる不織布を用いてもよい。
【0062】
好ましい一態様では、前述した電極構造体の製造過程において分散液からCNTおよび電極材料の集積物を濾別する際に用いたフィルタをセパレータとして利用する。すなわち、電極構造体の製造過程において該フィルタ(セパレータ)上に集積した炭素質材料および電極材料の集積物を該フィルタ(セパレータ)とともに回収し、乾燥する。このことによって、セパレータと電極とが一体となったセパレータ電極一体型素子を得ることができる。かかる態様によると、セパレータと電極とが一体となったセパレータ電極一体型素子を効率良く得ることができる。
【0063】
電解液(非水電解液)としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。
【0064】
リチウムイオン二次電池の構造は特に限定されない。例えば、シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して捲回されてなる捲回電極体を外装ケースに収容した構造であってもよく、正極とセパレータと負極とセパレータとがこの順で繰り返して積層されてなる積層電極体を外装ケースに収容した構造であってもよい。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、外装ケースが円筒形状や直方体形状の円筒型電池、角型電池でもよく、あるいは小型のコイン形状であってもよい。また、ボタン型電池、ペーパ型電池などの種々の形態であり得る。
【0065】
<電気二重層キャパシタ>
前記電気二重層キャパシタは、例えば、一対の電極(正極および負極)と、これらの電極の間に介在させたセパレータと、電解液とを含むものであり得る。かかる電気二重層キャパシタの一対の電極の何れか一方または両方(好ましくは両方)に、ここに開示される電極構造体を用いることができる。かかる用途では、低抵抗かつ膜強度の高い薄膜状の電極を用いることで電気二重層キャパシタを高性能化(例えば低抵抗化、高容量化、高エネルギー密度化、高耐久性化)し得るため、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。上記セパレータとしては、前述のリチウムイオン二次電池用セパレータと同様のものを用いることができる。
【0066】
電解液としては、水系または非水系の電解液を使用することができる。非水系の電解液としては、適当な非水溶媒に支持塩を含有させたものを用いることができる。支持塩としては、(CNBF、(CCHNBF、(CNBF、(C13NBF、(CCHPBF、(CPBF、(CPBFなどの第4級アンモニウム塩や、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、スルホラン系炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類などが例示される。水系の電解液としては、イオン導電性塩を水に溶解したものを使用することができる。イオン導電性塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属と、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸を形成するアニオンや、飽和カルボン酸、脂肪族カルボン酸などの有機酸を形成するアニオンとを組み合わせた塩を用いることができる。具体的としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、硫酸などが例示される。
【0067】
電気二重層キャパシタの構造は特に限定されない。例えば、一対の電極の間にセパレータを介在させて捲回した捲回電極体を外装ケースに収容した構造であってもよく、一対の電極の間にセパレータを介在させて積層した積層電極体を外装ケースに収容した構造であってもよい。また、本実施形態に係る電気二重層キャパシタは、外装ケースが円筒形状や直方体形状の円筒型、角型でもよく、あるいは小型のコイン形状であってもよい。また、ボタン型、ペーパ型などの種々の形態であり得る。
【0068】
<固体高分子形燃料電池>
前記固体高分子形燃料電池は、例えば、燃料極(負極)、固体高分子膜(電解質)および空気極(正極)を接合してなる膜電極接合体(MEA)を含むものであり得る。かかる固体高分子形燃料電池の燃料極および空気極の何れか一方または両方(好ましくは両方)に、ここに開示される電極構造体を用いることができる。かかる用途では、低抵抗かつ薄膜状の燃料極および/または空気極を用いることで固体高分子形燃料電池を高性能化(例えば低抵抗化、低触媒量化、高耐久性化)し得るため、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0069】
上記固体高分子膜としては、プロトンを伝達できるものであれば特に限定なく使用することができる。例えば、プロトン伝導性を示す官能基を有するポリマーが挙げられる。プロトン伝導性を示す官能基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などが挙げられる。該ポリマーの主骨格としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレンなどの炭化水素系重合体、パーフルオロカーボン重合体などが例示される。
【0070】
以下、本発明に関する具体的な実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0071】
<試験例1>
体積抵抗率およびG/D比が異なる複数の単層CNTを用意した。各々の単層CNT20mgを液状媒体40mlと混合し、イワタニ製ラボミルサーにて1分間攪拌した。次いで、活性炭180mgを投入して日本エマソン株式会社製の超音波ホモジナイザーを用いて30秒間攪拌した。得られた分散体を直径47mmのメンブレンフィルタ、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過し、フィルタ上にCNTおよび活性炭の集積物を成膜した。かかる集積物をフィルタから分離・乾燥した後、ロールプレスすることにより、例1~7に係る電極構造体を作製した。例7の電極構造体のSEM(Scanning Electron Microscope)像を図3に示す。また、各例に係る電極構造体について、使用したCNTの体積抵抗率およびG/D比を表1に纏めて示す。なお、CNTとしては、例1がゼオンナノテクノロジー株式会社製「ZEONANO TMSG101」、例2が SouthWest NanoTechnologies 社製「SWeNT SG60」、例3が RAYMOR 社製「RN-020」、例4が株式会社名城ナノカーボン製「EC2.0」、例5が株式会社名城ナノカーボン製「EC1.5」、例6が株式会社名城ナノカーボン製「EC2.0P」、例7が株式会社名城ナノカーボン製「EC1.5P」を使用した。また、液状媒体は今津薬品工業株式会社製エコノールHを使用し、活性炭はATエレクトロード株式会社製の品番「BELLFINEAP11-0010」を使用した。
【0072】
なお、各例のCNTの体積抵抗率は四探針法に基づく前述の方法に準じて求めたものである。また、G/D比はラマン分光分析に基づく前述の方法に準じて求めたものである。
【0073】
得られた各例の電極構造体につき、膜強度を評価した。具体的には、電極材料(活性炭)の固着の程度を評価するために該電極構造体を垂直に立てた状態で軽い衝撃を加えた。そして、活性炭の剥落の有無を確認した。ここでは活性炭の剥落が認められなかったものを「○」、活性炭の剥落が激しく、電極の形状を維持できなかったものを「××」と評価した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるCNTを用いた例4~7では、電極材料の剥落は認められず、例1~3に比べて、膜強度でより良好な結果が得られた。この結果から、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるCNTを用いた電極構造体によると、樹脂バインダを実質的に使用することなく、電極材料同士が強固に固着した電極構造体を実現し得ることが確かめられた。
【0076】
<試験例2>
ここに開示される電極構造体を用いて電気二重層キャパシタを構築し、その性能評価を行った。具体的には、例7の電極構造体を直径16mmの円形に打ち抜いて、キャパシタ用の正極および負極とし、これらをセパレータおよび電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)の実施例に係るコイン型電気二重層キャパシタを構築した。セパレータとしては、アドバンテック株式会社製ガラスフィルターGA‐55を用いた。電解液としては、アセトニトリル(AN)に支持塩としての(CNBFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた(キシダ化学株式会社製CPG-00101)。なお、かかるキャパシタの静電容量は4Fである。
【0077】
また、比較のために、活性炭160mgと、バインダとしてのPTFE20mgと、導電材としてのカーボンブラック20mgとを適当な溶媒中で混合し、ペースト状組成物を調製した。このペースト状組成物をアルミニウム箔(集電体)の片面に塗布し、乾燥することにより、該集電体の片面に電極材料が設けられた電極シートを得た。次いで、電極シートを円形に打ち抜いて、キャパシタ用の正極および負極とし、前述した実施例と同じ手順で、比較例に係るコイン型電気二重層キャパシタを構築した。
【0078】
上記得られた各例の電気二重層キャパシタに対して、環境温度25℃にて40mAの定電流で2.5Vまで充電し、次いで、2.5V定電圧充電を30分間行い、その後、40mAの定電流で0Vまで放電したときの静電容量を測定した。また、測定された静電容量を電極の質量および体積でそれぞれ除した値を重量エネルギー密度および体積エネルギー密度として算出した。また、各例の電極の体積抵抗率を四探針法に基づく前述の方法に準じて求めた。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示されるように、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブを用いた実施例では、比較例に比べて、重量エネルギー密度、体積エネルギー密度および体積抵抗率のすべての点でより良好な結果が得られた。この結果から、本構成の電極構造体を用いれば、低抵抗かつ高エネルギー密度の電気二重層キャパシタを実現し得ることが確認された。
【0081】
<試験例3>
ここに開示される電極構造体を用いてリチウムイオン二次電池用正極を構築し、その動作確認を行った。具体的には、例7と同じ単層CNTを用意した。この単層CNTを液状媒体と混合し、イワタニ製ラボミルサーにて1分間攪拌した。次いで、正極活物質としてのLiCoOをLiCoO:CNTの質量比が90:10となるように投入して超音波ホモジナイザーを用いて30秒間攪拌した。得られた分散体を直径47mmのメンブレンフィルタ、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過し、フィルタ上にCNTおよびLiCoOの集積物を成膜した。かかる集積物をフィルタから分離・乾燥した後、ロールプレスすることにより、本例に係る電極構造体を作製した。
【0082】
上記得られた電極構造体を直径16mmの円形に打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用の正極を作製した。この正極(作用極)と、負極(対極)としての金属リチウムと、セパレータ(PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層構造多孔質シートを使用した。)とを、非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)のコインセルを構築した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。
【0083】
上記得られた評価用コインセルに対して、環境温度25℃にて1Cの定電流で4.2Vまで充電し、次いで、1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電試験を行った。その結果、評価用コインセルは充放電可能であり、リチウムイオン二次電池として機能することが確認できた。
【0084】
<試験例4>
ここに開示される電極構造体を用いてリチウムイオン二次電池を構築し、その動作確認を行った。具体的には、例7と同じ単層CNTを用意した。この単層CNTを液状媒体と混合し、イワタニ製ラボミルサーにて1分間攪拌した。次いで、負極活物質としての黒鉛を黒鉛:CNTの質量比が90:10となるように投入して超音波ホモジナイザーを用いて30秒間攪拌した。得られた分散体を直径47mmのメンブレンフィルタ、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過し、フィルタ上にCNTおよび黒鉛の集積物を成膜した。かかる集積物をフィルタから分離・乾燥した後、ロールプレスすることにより、本例に係る電極構造体を作製した。
【0085】
上記得られた電極構造体を直径16mmの円形に打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用の電極を作製した。この電極(作用極)と、対極としての金属リチウムと、セパレータ(PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層構造多孔質シートを使用した。)とを、非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)のコインセルを構築した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。
【0086】
上記得られた評価用コインセルに対して、環境温度25℃にて1Cの定電流で1.5Vまで充電し、次いで、1Cの定電流で50mVまで放電する充放電試験を行った。その結果、評価用コインセルは充放電可能であり、リチウムイオン二次電池として機能することが確認できた。
【0087】
以上、本発明の一実施形態に係る電子デバイス用電極構造体を説明したが、本発明に係る電子デバイス用電極構造体は、上述した何れの実施形態にも限定されず、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電子デバイス用電極構造体を提供することができる。
図1
図2
図3