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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】蛋白質キナーゼの活性ランキング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/48 20060101AFI20220209BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20220209BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20220209BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20220209BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220209BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220209BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C12Q1/48 Z
C07K1/14
C07K1/16
C07K1/22
C12N9/12
G01N27/62 X
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/68
G01N30/88 J
G01N30/02 B
G01N30/72 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018523428
(86)(22)【出願日】2016-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2016077845
(87)【国際公開番号】W WO2017085116
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-10-11
(31)【優先権主張番号】1520178.3
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521247168
【氏名又は名称】キノミカ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101281
【弁理士】
【氏名又は名称】辻永 和徳
(72)【発明者】
【氏名】カチラス ペトロ ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルケス エドモンド
(72)【発明者】
【氏名】キャサド-イズクェルド ペドロ
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515610(JP,A)
【文献】特表2011-522212(JP,A)
【文献】特表2013-526843(JP,A)
【文献】特表2010-527232(JP,A)
【文献】CURRENT DRUG DISCOVERY TECHNOLOGIES,2013年,Vol.10, No.4,p.283-304
【文献】MOLECULAR CELL,2008年,Vol.31, No.3,p.438-448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、患者を治療するために好適な、タンパク質修飾酵素の阻害剤を同定する方法:
(i) 前記患者から採取されたサンプル中の各タンパク質修飾酵素のK値を、以下を含むサンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法を使用して計算する方法;
定量的質量分析(MS)リン酸化プロテオミックス・データを入力し、タンパク質修飾酵素についてのK値を以下のように計算すること;
【数1】


ここで、m=前記タンパク質修飾酵素の基質である、サンプル中の修飾ペプチドの数;
α=修飾ペプチドiの強度;
i=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の個々の修飾ペプチド;
l=サンプル中の修飾ペプチドの総数;
β=修飾ペプチドjの強度;および
j=サンプル中の修飾ペプチドのすべて;
(ii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素を同定すること;および
(iii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素をターゲットとする阻害剤を選択すること;
ここで前記タンパク質修飾酵素はプロテインキナーゼであり、前記患者は癌にかかっているかまたは癌にかかっていることが疑われている患者である。
【請求項2】
前記タンパク質修飾酵素のK値が以下のように計算される、請求項1記載の方法:
【数2】

ここで、t=前記タンパク質修飾酵素のための既知の目標修飾ペプチドの総数。
【請求項3】
癌が白血病またはリンパ腫である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
癌が急性骨髄白血病(AML)である、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
プロテインキナーゼが、CDK1、CDK2、ERK1、PAK1、CK2、ATRおよびPKACAからなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
質量分析(MS)を使用して、第1のサンプルおよび第2のサンプル中の修飾ペプチドを同定および/または定量することを含み、該第1のサンプルおよび該第2のサンプルは同一の患者由来である、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第1のサンプルと第2のサンプル中の修飾ペプチドの定量および/または同定は下記工程を含む方法を使用して行なわれる、請求項6記載の方法:
(a) サンプルからペプチドを得ること;
(b) 参照修飾ペプチドをステップ(a)の中で得られたペプチドに加え、ペプチドと参照修飾ペプチドの混合物を生産すること;
(c) ペプチドと参照修飾ペプチドの前記混合物に質量分析(MS)を実行し、サンプル中のペプチドに関するデータを得ること;および
(d) コンピューター・プログラムを使用して、修飾ペプチドのデータベース中のデータとサンプル中のペプチドに関するデータとを比較すること;
ここで、修飾ペプチドのデータベースは以下を含む方法によりコンパイルされる:
i) サンプルからペプチドを得ること;
ii) ステップiで得られたペプチドから修飾ペプチドを富化すること;
iii) ステップiiで得られた富化された修飾ペプチドに、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を行なうこと;
iv) 既知のレファレンス・データベースとステップiiiで検知された修飾ペプチドを比較し、修飾ペプチドを同定すること;および
v) データベースの中へ、ステップivで同定された修飾ペプチドに関するデータをコンパイルすること。
【請求項8】
前記ステップ(b)は、ペプチドおよび参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を生産することをさらに含み、前記ステップ(c)は、富化された修飾ペプチドの混合物について質量分析(MS)を実行し、サンプル中の修飾ペプチドに関係のあるデータを得ることを含み、
任意に、前記修飾ペプチドを富化するステップはクロマトグラフィーを使用して行なわれる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記クロマトグラフィーは、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーおよび酸化ジルコニウム(ZrO2)クロマトグラフィーから成る群から選ばれ、
任意に、修飾ペプチドを富化するステップは抗体に基づく方法を使用して行なわれる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
サンプル中のペプチドに関するデータは、質量/荷電(m/z)比、荷電(z)およびペプチドの相対保持時間を含む、請求項7から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ステップivはMASCOTサーチエンジンを使用して実行されるか、またはステップivで同定された修飾ペプチドに関係するデータは、修飾ペプチドの同一性、質量/荷電(m/z)比、荷電(z)および修飾ペプチドの相対保持時間からなる群から選択される、請求項7から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
MS技術は定量化のためのアイソトープラベルを使用し、任意にMS技術は代謝のアイソトープ、または化学誘導体化を使用する、請求項6記載の方法。
【請求項13】
以下を含む方法により、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。;
(i’)サンプル中の修飾ペプチドの総数を決定すること;
(ii’)修飾ペプチドの強度を決定すること;
(iii’)前記タンパク質修飾酵素の基質である、サンプル中の修飾ペプチドの数を決定すること;
(iv’)前記タンパク質修飾酵素の基質である、修飾ペプチドの強度を決定すること;および
(v’) 前記タンパク質修飾酵素のK値を請求項1記載の方法により計算すること:
ここで、K値は前記タンパク質修飾酵素の活性水準に正比例する
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項記載の方法を実行するようにされたコンピュータを操作可能なコードが格納されたメモリー。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項記載の方法を実行するようにされたコンピュータを操作可能なコードが格納されたメモリー、およびメモリー内に格納されたコードを実行するようにされたプロセッサーを含むデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法に関し、特には蛋白質キナーゼの活性の定量化方法に関する。本発明の方法は、患者を治療するためのタンパク質修飾酵素(例えばキナーゼ阻害剤)の最も適切な阻害剤を決定するために使用することができ、したがって、テーラーメイド医療の分野に役立つ。
【0002】
本発明の背景
プロテイン・キナーゼは細胞シグナリング経路の活性をコントロールし、次いで遊走、代謝および増殖を含む重要な生物学的機能を調節する。細胞シグナリング経路は、適切な細胞のレスポンスへ細胞外の信号を統合し解読する生化学反応の複合体ネットワークを形成する。これらのネットワークの改造およびそれらの特性の組織的な分析は、システム・レベルでの疾病についての我々の分子の理解を進めるのに重要である。細胞生物学の調整でのそのような経路の重要性は、キナーゼが多くの疾病中で脱制御(deregulate)されるという事実によって強調される;例としては、糖尿病におけるAMP活性化キナーゼ(AMPK)、自己炎症性状態におけるヤヌス・キナーゼ(JAK)、神経変性におけるGSK3β、および癌の異なる形態におけるAktを含む。
【0003】
ヒトは500を超えるキナーゼ遺伝子を有し、与えられた細胞集団で約200が発現された。このエリアにおける多くの研究にもかかわらず、全体的なシグナリング出力へのこれらのキナーゼの各々の貢献を定量する方法が欠けている。確かに、シグナリング(それは質量分析(MS)または免疫化学技術のいずれかに基づく)を定量するために現在使用される方法はすべて、コントロール、または別のサンプルとの対比で与えられたシグナリング経路の活性を評価する。例えば、WO 2013/132075として公表された発明者の先の出願は、異なるサンプルからの修飾ペプチドの分析により、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法に関する。これはキナーゼ基質富化分析(KSEA)と名付けられ、Casado et al Science Signaling 6, rs6 (2013)にも開示されている。
【0004】
したがって、これらの方法はシグナリングが異なる条件でどのように調整されるか調査するのに有用である。しかし、これらは与えられた細胞集団内での互いに関するシグナリングにそれらがどれくらい寄与するかに基づいてキナーゼをランク付けするために使用することができない。
【0005】
それらが与えられた表現型にどれほど寄与するかに基づいて細胞集団または組織内のキナーゼをランク付けすることに対する、最先端技術の無力は、周知の臨床上の問題である。キナーゼの阻害剤は幾分かの癌患者に有効である。しかし、かなりの数の患者はそのような薬に反応しない。いくつかの実例では、遺伝マーカーまたはタンパク質マーカーは癌治療の個別化のために使用される。しかし、レスポンスに対する現在のバイオマーカーの正確さは多くの場合低い。これは、テーラーメイド医療の発達を妨げる。
【0006】
キナーゼ療法に対する癌の反応の変異は、恐らく癌が生物学上異質的であるという事実による。確かに、すべての癌患者の中で一般に活性化される1セットの本質的なキナーゼを同定する努力は、代わりに、キナーゼ増殖のネットワークのワイヤリングは、異なる患者から採取された細胞間で著しく異なることを明らかにした。したがって、癌細胞は、増殖のために必要なキナーゼの著しい変化を示す。この異質さの実際的な帰結は、患者が異なる程度でキナーゼ阻害剤に応答するということである。例えば、黒色腫の約50%は、BRAFプロテインキナーゼ上のV600E突然変異を保護する;これらの50%(つまり全体のレスポンスの25%)は、変異させられたBRAFの阻害剤であるベムラフェニブ(vemurafenib)によく応答した。同様に、乳癌の約30%は、PIK3CA(PI3Kのp110αアイソフォームのためのコード化遺伝子)上に突然変異を持っている。最近の臨床試験は、PIK3CA突然変異に陽性の患者の約30%(つまり全体のレスポンスの10%)が定義された基準によりPI3K阻害剤に応答したことを示した。現在では、与えられた突然変異には陽性の患者が、変異させられた目標のキナーゼ特異性阻害に対して異なる応答をするかは知られていない。また、これらの遺伝子上の突然変異のない腫瘍の悪性表現型に導く経路の同一性も、ほとんどの患者で知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、患者を治療する最も適切な療法の決定を許可するために、タンパク質修飾酵素(特定のサンプル内のキナーゼ)の活性を定量することへの技術的な必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要約
本発明の発明者は、与えられた細胞集団での、細胞シグナリングへの個々のタンパク質修飾酵素(たとえばプロテイン・キナーゼ)の寄与を定量するために2つのアルゴリズムを開発した。これらのアルゴリズムの出力は、合理的に個々の患者を治療する最も適切な細胞シグナリング阻害剤を選択するために使用することができる。アルゴリズムの出力は、キナーゼ活性序列(Kinase Activity Ranking:KAR)および「感度係数」(Sensitivity Coefficient:SC)とそれぞれ名付けられる。KARの出力は「K-スコア」と名付けたキナーゼ活性のインデックスである(以下においてKと呼ぶ)。
【0009】
従って、第1の態様では、本発明は、前記タンパク質修飾酵素のK値を以下のように計算することを含む、サンプル中のタンパク質修飾酵素(protein modifying enzymes)の活性を定量する方法を提供する:
【0010】
【数1】
【0011】
ここで、m=前記タンパク質修飾酵素の基質(substrates)であるサンプル中の修飾ペプチドの数;
α=修飾ペプチドiの強度;
i=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の個々の修飾ペプチド;
l=サンプル中の修飾ペプチドの総数;
β=修飾ペプチドjの強度;
j=サンプル中の修飾ペプチドのすべて。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、前記タンパク質修飾酵素についてSC値を以下のように計算することを含む、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法を提供する:
【0013】
【数2】
【0014】
ここで、PCi=Cで阻害剤を使用した増殖の低減;
=増殖が測定される阻害剤濃度;また、
IC50i=一次標的に対する阻害剤の「生体外の」IC50
【0015】
異なる態様では、本発明の開示は、以下を含む、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性水準を決定する方法に関する;
(i)サンプル中の修飾ペプチドの総数を決定すること;
(ii)修飾ペプチドの強度を決定すること;
(iii)前記タンパク質修飾酵素の基質である、サンプル中の修飾ペプチドの数を決定すること;
(iv)前記タンパク質修飾酵素の基質である、修飾ペプチドの強度を決定すること
前記タンパク質修飾酵素のK値を以下のように計算すること:
【0016】
【数3】
【0017】
ここで、m=前記タンパク質修飾酵素の基質である、サンプル中の修飾ペプチドの数;
α=修飾ペプチドiの強度;
i=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の個々の修飾ペプチド;
l=サンプル中の修飾ペプチドの総数;
β=修飾ペプチドjの強度;および
j=サンプル中の修飾ペプチドのすべて、
ここで、K値は前記タンパク質修飾酵素の活性水準に正比例する。
【0018】
本発明の詳細な記述
本発明は、タンパク質修飾酵素(たとえばサンプル中のプロテインキナーゼ)の活性を定量する方法に関する。方法は修飾ペプチド(例えばリン酸化ペプチド)の分析に基づく。それは、MSに基づいた技術を使用して、本発明の第1の態様の中で典型的に同定される。
【0019】
本明細書に記載されたように、本発明の方法は、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法である。ほとんどのタンパク質は官能基の付加による方法で修飾される。また、そのような修飾はタンパク質修飾酵素によって達成される。質量分析によって検知することができるタンパク質修飾はリン酸化、グリコシレーション、アセチル化、メチル化および脂質化を含んでいる。これらのタンパク質修飾には細胞の様々な生物学的役割がある。したがって、修飾部位は翻訳後修飾の部位であることができる。例えば、修飾部位は、リン酸化、グリコシレーション、アセチル化、メチル化および脂質化の部位であることができる。修飾部位は典型的にタンパク質および/またはペプチド修飾部位である。修飾部位は、官能基(たとえば燐酸基)がペプチドまたはタンパク質に付加するペプチドまたはタンパク質の1つ以上のアミノ酸残基であることができる。異なる官能基としては炭水化物、アセチル基、メチル基および脂質を含んでいる。「タンパク質修飾酵素」の用語は、タンパク質またはペプチドへの官能基の付加に関する反応に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。「修飾ペプチド」は、官能基の付加または除去によって修飾されたペプチドとして定義される。「タンパク質修飾酵素」は、タンパク質またはペプチドへの官能基の付加または除去に関する反応に触媒作用を及ぼす酵素として定義される。
【0020】
本発明の方法は、その活性がMSに基づいた方法を使用して検知することができるあらゆるタンパク質修飾酵素の活性の定量化に適用することができる。そのような酵素としては、プロテイン・キナーゼ(さらに本明細書では「キナーゼ」とも呼ばれる)、タンパク質グリコシルトランスフェラーゼ、タンパク質アセチルトランスフェラーゼ、蛋白質メチルトランスフェラーゼおよびタンパク質パルミトイルトランスフェラーゼを含んでいる。これらの酵素の活性は、タンパク質またはペプチド基質のリン酸化、アセチル化、グリコシレーション、メチル化および脂質化にそれぞれ帰着する。これらのタンパク質修飾はすべて質量分析によって検知することができる。
【0021】
本発明の方法は修飾ペプチドの分析に基づく。修飾ペプチドは、タンパク質修飾酵素によって例えば燐酸化、アセチル化、グリコシレーション、メチル化または脂質化された、1つ以上の修飾アミノ酸を含む。そのような修飾アミノ酸はここに「修飾部位」と呼ばれる。修飾ペプチドが特定のタンパク質修飾酵素によって修飾される場合、それはその酵素の「基質」として言及される。修飾ペプチドは、タンパク質修飾酵素によって修飾された1つ以上のアミノ酸を含んでいる。
【0022】
1つの実施態様では、本発明の方法はプロテインキナーゼの活性を定量する方法である。この実施態様では、方法はリン酸化ペプチドの分析に基づく。
【0023】
燐酸化されたペプチドは、燐酸化された(つまり、リン酸塩(PO)基がアミノ酸に付加されている)1つ以上のアミノ酸を含んでいる。そのような燐酸化されたアミノ酸はここに「燐酸化部位」と呼ばれる。ペプチドが特定のプロテインキナーゼによって燐酸化される場合、それはそのプロテインキナーゼの「基質」として言及される。本発明のこの実施態様に関して、用語「燐蛋白質」は燐酸化されたタンパク質を言及するためにここに使用される。また、用語「フォスフォペプチド」はリン酸化ペプチドを言及するためにここに使用される。
【0024】
ヒト・プロテイン・キナーゼはAGCキナーゼ(例えばプロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼB(PKB)(Aktとしても知られる)、プロテインキナーゼC(PKC)、およびプロテインキナーゼG(PKG);チロシンキナーゼ;チロシンキナーゼ様キナーゼ;カルシウム/カルモジュリン依存性のプロテイン・キナーゼ;カゼイン・キナーゼ1グループ;CMGCグループ(例えばCDK、MAPK、GSK3、CLKキナーゼ);およびSTE、イーストステライト7、ステライト11,およびステライト20キナーゼの同族体を含む多くの群に分けられる。
【0025】
本発明の方法は、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法である。本発明の方法の中で使用されるサンプルはペプチドを含むあらゆるサンプルであることができる。サンプルは典型的に生体試料で、生物から得られた任意のタイプのサンプル(例えばヒト、動物、植物あるいはバクテリアから得られたサンプル)であることができる。本発明は、このようにヒトおよびヒト以外の源から得られたサンプルの使用を包含する。
【0026】
本発明の方法の中で使用されるサンプルは任意の対象の種からのものでありえる。典型的には、サンプルはヒトまたは動物からのものである。動物は、典型的に哺乳動物(例えばげっ歯動物(マウス、ネズミまたはモルモット))または有蹄動物(雌牛、羊またはヤギ)である。動物は、または鳥(たとえば鶏)、魚(たとえばゼブラフィッシュ)、線虫(たとえば虫線虫)または昆虫(たとえばミバエ・キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster.))である。本発明の方法の中で使用されるサンプルはさらに他の生活形(たとえばバクテリアおよび酵母)からのものでありえる。本発明の方法の中で使用されるサンプルは、典型的にバクテリア(たとえば大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラエンテリカ(Salmonella enterica)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、または酵母(たとえばパン酵母、出芽酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)、または分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)の実験的に重要な種からのサンプルである。本発明の方法の中で使用されるサンプルは植物または菌類、またはウイルスからでありえる。
【0027】
本発明はテーラーメイド医療の分野に用途を見いだす。典型的には、生体試料はヒト由来で、体液(たとえば尿または血液)のサンプル、または別の組織であることができる。典型的には、生体試料は細胞株または組織であり、典型的に一次組織(primary tissue)である。例えば、サンプルはヒトまたは動物からの組織であることができる。ヒトまたは動物は健康体または病気のものであることができる。実施態様では、ヒトは、癌(例えばリンパ腫、白血病、例えば急性骨髄白血病)(AML))を持っていると診断されたか、または持っていることが疑われるものであることができる。従って、組織は癌組織であることができる。例えば、サンプルは腫瘍からのものであることができる。あるいは、サンプルは、健康か病気のヒトまたは動物細胞由来の細胞株であることができる。本発明の方法の中で使用される1番目と2番目のサンプルは、典型的には細胞株(例えば癌細胞株、たとえば乳癌細胞株、たとえばMCF7細胞株)からの細胞であるか、またはこれを含んでいる。多くの癌細胞株が技術分野の中で知られており、http://www.broadinstitute.org/ccle/homeのBroad-Novartis Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) にオンラインでリストされる。
【0028】
1番目と2番目のサンプルは典型的に同じ細胞株からであるが異なってもよい。1番目と2番目のサンプルは同じ源から由来することができる。例えば、1番目と2番目のサンプルは両方とも一人の個人からのものであることができる。1番目と2番目のサンプルは同じ組織からのものであることができる。1番目と2番目のサンプルは同じ体液からのものであることができる。
【0029】
サンプルは本発明の方法の中で使用されるサンプルと別のサンプルを区別するために「試験サンプル」とここに呼ばれる場合がある。例えば、対照試料との比較を含む方法について記述する場合に、サンプルは試験サンプルと呼ばれることがある。
【0030】
本発明の方法は生体外の方法であり、したがって、生物(たとえば動物)からサンプルを得るステップを含まない。
【0031】
修飾ペプチドは、サンプル内で修飾されることができる。修飾ペプチドは、生体内で修飾されることができる。修飾ペプチドは、内因的な修飾ペプチドであることができる。
【0032】
本発明の第1の態様の方法は、タンパク質修飾酵素のK値を以下のように計算することを含む、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法である:
【0033】
【数4】
【0034】
K値は、サンプルの中にあるすべての修飾ペプチドの強度の合計で割られた、与えられたタンパク質修飾酵素の基質であることが知られていたすべての修飾ペプチドの強度の合計である。当業者が理解するように、ペプチドの「強度」はアバンダンス(abundance)に相当し、たとえばサンプル中のアバンダンスに相当する。強度は、たとえばLC-MSデータからのクロマトグラムのピーク面積または高さを使用して計算することができる。
【0035】
上に述べられた式の中で、m=その活性が定量されるタンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の修飾ペプチドの数;
α=修飾ペプチドiの強度、ここで、i=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の個々の修飾ペプチド;
l=サンプル中の修飾ペプチドの総数;
β=修飾ペプチドjの強度、ここで、j=サンプル中のすべての修飾ペプチド。
【0036】
いくつかの実施態様では、修飾ペプチドiおよびjの強度は正規化される。
正規化は、典型的には強度の合計に対して行なわれる。
【0037】
いくつかの実施態様では、修正係数が、いくつかのキナーゼが他のものより多くの基質を持っており、より多くの情報がよく知られているキナーゼについてキナーゼ-基質の関係が知られているという事実を考慮するために使用される。これらの実施態様では、K値は、前記タンパク質修飾酵素について以下のように計算される:
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、t=前記タンパク質修飾酵素のための既知の目標修飾ペプチドの総数。
【0040】
増倍率(multiplication factor)はより扱いやすいレベルでK値を示すために使用することができる。例えば、10、10または10の増倍率を使用することができる。106の増倍率が使用される場合、K値は以下のように計算される:
【0041】
【数6】
【0042】
本発明の第1の態様の方法は、特定のタンパク質修飾酵素の基質である、サンプル中の修飾ペプチドの数を決定することを含んでいる。言いかえれば、方法は同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を有する修飾ペプチドの数を決定することを含んでいる。したがって、これらの修飾ペプチドの各々は、同じタンパク質修飾酵素によって修飾される少なくとも1つの修飾部位がある。例えば、プロテインキナーゼの活性が分析される場合、方法は同じキナーゼによって燐酸化される燐酸化部位を有するリン酸化ペプチドの数を決定することを含んでいる。この実施態様では、各々のリン酸化ペプチド内の燐酸化部位は同じキナーゼによって燐酸化されることが知られている。同様に、タンパク質修飾酵素がアセチラーゼである場合、方法は同じアセチラーゼによってアセチル化されるアセチル化部位を有する修飾ペプチドの数を決定することを含んでいる。この実施態様では、各々のアセチル化されたペプチド内のアセチル化部位は同じ特定のアセチラーゼによってアセチル化されことが知られている。
【0043】
キナーゼ-基質に関係する情報、したがって特定のキナーゼによって燐酸化される燐酸化部位の情報は、公に利用可能なデータベースから得ることができ、たとえば、PhosphoSite (Hornbeck et al, Proteomics 4, 1551 (Jun, 2004)), PhosphoSitePlus (「<http://www.phosphosite.org/>」) and PhosphoElm (Dinkel et al, Nucleic Acids Res 39, D261 (Jan, 2011))で利用できる。同様に、他の修飾についての情報は実験的に、または公に利用可能なデータベース、および文献に記載された個々の研究報告から得ることができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施態様では、サンプル、またはサンプルが得られる生物はそれ自身、本発明の方法を実行する前に検体で処理される。したがって、この実施態様では、組織が得られる細胞株または生物は本発明の方法を実行する前に検体で処理される。検体は、典型的に外因性の化学薬品または薬(小分子阻害剤、RNAi、治療用ペプチドおよび抗体)である。本発明のこの実施態様は、タンパク質修飾酵素の活性に対する検体の影響の調査を許可する。
【0045】
例えば、1つの実施態様では、細胞株は、本発明の方法を実行する前に経路のアゴニストおよび/またはキナーゼ阻害剤で処理することができる。典型的なキナーゼ阻害剤としては、srcおよびホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、たとえばPP2およびPI-103の阻害剤を含んでいる。PI3Kの他の阻害剤はウォルトマンニンを含んでいる。少なくとも80のキナーゼ阻害剤が、異なる臨床段階にある(Zhang, J.; et al Nat Rev Cancer 2009, 9, (1), 28-39)。さらに技術はキナーゼ経路に効果があると期待される他のタイプの阻害剤、たとえばHSP90阻害剤、ホスファターゼ阻害剤および抗体医薬剤を調査するのに有用である。
【0046】
ここに定義される「ペプチド」は、短いアミノ酸配列で、オリゴペプチドとポリペプチドを含んでいる。典型的には、そのようなペプチドは、5から30、たとえば6または7から25、26または27のアミノ酸、8、9または10から20のアミノ酸、11または12から18のアミノ酸、または14から16のアミノ酸、たとえば15のアミノ酸長を有する。しかしながらより短いかまたはより長いペプチド、たとえば約2から約50、約3から約35または40、または約4から約45のアミノ酸長のものも使用することができる。典型的には、ペプチドは質量スペクトル分析に適している。すなわちペプチドの長さが質量スペクトル分析に適しているのである。分析することができるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチドシークエンスする能力によって制限されている。ある場合には、300までのアミノ酸のポリペプチドを分析することができ、たとえば50から250のアミノ酸、100から200のアミノ酸、または150から175のアミノ酸を分析することができる。
【0047】
本明細書に記載される本発明の第1の態様の方法は、MSベースの技術を使用した本発明の1つの実施態様において同定および/または定量される修飾ペプチドの分析に基づく。いくつかの実施態様では、本発明の第1の態様の方法は、質量分析(MS)を使用してサンプル中の修飾ペプチドを同定および/または定量するステップと、その後に対象のタンパク質修飾酵素のK値を計算することを含んでいる。この実施態様では、本発明は、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法であって、質量分析(MS)を使用して修飾ペプチドを同定および/または定量し、前記タンパク質修飾酵素のK値を計算することを含む方法を提供する:
【0048】
【数7】
【0049】
ここで、m=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の修飾ペプチドの数;
α=修飾ペプチドiの強度;
i=前記タンパク質修飾酵素の基質であるサンプル中の個々の修飾ペプチド;
l=サンプル中の修飾ペプチドの総数;
β=修飾ペプチドjの強度;
j=サンプル中の修飾ペプチドのすべて。
【0050】
修飾ペプチドの同定および/または定量化は任意の適切な方法を使用して実行することができる。典型的には、同定および/または定量化は質量分析(MS)を含む任意の方法(たとえば液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS))によって実行することができる。LC-MSまたはLC-MS/MSは典型的にラベルなしのMSである。しかし、同位元素標識を同定および/または定量化の基礎として使用する技術も、分析の基礎として使用することができる。
【0051】
本発明の方法では、その全体が参照として組み入れられるWO 2010/119261(国際特許出願番号PCT/GB2010/000770)に述べられたように、タンパク質修飾(たとえばリン酸化)の同定および/または定量化はTIQUAS(targeted and in-depth quantification of signalling)技術を使用して、典型的に実行される。この技術は、修飾ペプチドの敏感で、迅速で、包括的な定量化を許容する。この方法は、1つの単純な分析において、タンパク質上の何千もの燐酸化部位の量を同時に測定することができる。WO 2010/119261に述べられるように、TIQUAS技術もリン酸化ペプチド以外の修飾ペプチドを定量するために使用することができる。実際、TIQUAS技術は質量分析によって検知することができるいずれかの修飾を含んでいるペプチドを定量するために使用することができる。
【0052】
本発明の第1の態様の方法のこの実施態様では、前記タンパク質修飾酵素についてK値を計算する前に、質量分析(MS)を使用して、修飾ペプチドを定量するおよび/または同定するステップは下記工程を含む方法を使用して行なわれる:
(a) サンプルからペプチドを得ること;
(b) 参照修飾ペプチドをステップ(a)の中で得られたペプチドに加え、ペプチドと参照修飾ペプチドの混合物を生産すること;
(c) ペプチドと参照修飾ペプチドの前記混合物に質量分析(MS)を実行し、サンプル中のペプチドに関するデータを得ること;および
(d) コンピューター・プログラムを使用して、修飾ペプチドのデータベース中のデータとサンプル中のペプチドに関するデータとを比較すること;
ここで、修飾ペプチドのデータベースは以下を含む方法によりコンパイルされる:
i) サンプルからペプチドを得ること;
ii) ステップiで得られたペプチドから修飾ペプチドを富化すること;
iii) ステップiiで得られた富化された修飾ペプチドに、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を行なうこと;
iv) 修飾ペプチドを同定するために既知のレファレンス・データベースとステップiiiで検知された修飾ペプチドを比較すること;および
v) データベースの中へ、ステップivで同定された修飾ペプチドに関するデータをコンパイルすること。
【0053】
本発明の第1の態様の方法の1つの実施態様では、タンパク質修飾酵素がプロテインキナーゼであり、修飾がリン酸化であり、前記プロテインキナーゼについてK値を計算する前に、質量分析(MS)を使用して修飾ペプチドを定量するおよび/または同定するステップは下記工程を含む方法を使用して行なわれる:
(a) サンプルからリン酸化ペプチドを得ること;
(b) 参照リン酸化ペプチドをステップ(a)の中で得られたペプチドに加え、リン酸化ペプチドと参照リン酸化ペプチドの混合物を生産すること;
(c) リン酸化ペプチドと参照リン酸化ペプチドの前記混合物について質量分析(MS)を実行し、サンプル中のリン酸化ペプチドに関係するデータを得ること;および
(d) コンピューター・プログラムを使用して、サンプル中のリン酸化ペプチドに関するデータとリン酸化ペプチドのデータベース中のデータと比較すること;
ここで、リン酸化ペプチドのデータベースは以下を含む方法によりコンパイルされる:
i) サンプルからペプチドを得ること;
ii) ステップiで得られたペプチドからリン酸化ペプチドを富化すること;
iii) ステップiiで得られた富化されたリン酸化ペプチドに、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を行なうこと;
iv) リン酸化ペプチドを同定するために、既知のレファレンス・データベースとステップiiiで検知されたリン酸化ペプチドを比較すること;および
v) データベースの中へ、ステップivで同定されたリン酸化ペプチドに関するデータをコンパイルすること。
【0054】
本発明のこの実施態様に関して、用語「ペプチド」は、用語「ポリペプチド」と交換可能に使用される。
【0055】
本発明のこの実施態様のステップ(a)は、サンプルからペプチドを得ることを含んでいる。
ペプチドは技術中で既知の任意の適切な方法を使用して、サンプルから得ることができる。1つの実施態様では、本発明の方法のステップ(a)は次のものを含む:
(1) サンプル中の細胞を溶解(lysing)すること;
(2) ステップ(1)で得られた、溶解された細胞からタンパク質を抽出すること;および
(3) ペプチドへ前記タンパク質を開裂すること。
本発明のこの実施態様のステップ(1)では、サンプル中の細胞は溶解されるか、またはスプリットオープン(split open)される。
【0056】
細胞は技術中で既知の任意の適切な手段を使用して溶解することができ、例えば、物理的方法(機械的な細胞溶解(例えば、ワーリングブレンダーを使用して))の使用、液体の均質化、超音波処理またはマニュアル細胞溶解(例えば、乳棒と乳鉢を使用して)あるいは界面活性剤ベースの方法(CHAPSまたはトリトン-X)で行うことができる。
典型的には、細胞はデネイチャリングバッファー(denaturing buffer)(たとえば尿素ベースのバッファー)を使用して細胞溶解される。
【0057】
本発明のこの実施態様のステップ(2)では、タンパク質はステップ(1)で得られた細胞溶解された細胞から抽出される。言いかえれば、タンパク質は細胞溶解された細胞の他の成分から分けられる。本発明のこの実施態様のステップ(3)では、細胞溶解された細胞からのタンパク質はペプチドへ開裂される。言いかえれば、タンパク質はより短いペプチドにブレークダウンされる。タンパク質ブレークダウンは一般に消化と呼ばれる。タンパク質分裂は技術の中で既知の任意の適切な作用薬を使用して、本発明の中で実行することができる。
【0058】
タンパク質分裂(cleavage)または消化はプロテアーゼを使用して、典型的に実行される。任意の適切なプロテアーゼを本発明の中で使用することができる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にトリプシン、キモトリプシン、アルギニンC、ペプシン、V8、Lys-CおよびAsp-Cおよび/またはAspNである。あるいは、タンパク質は、たとえばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPSスカトール、2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適切な作用薬を使用して、化学的に開裂することができる。
【0059】
この実施態様のステップ(b)で、参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)がステップ(a)の中で得られたペプチドに加えられ、ペプチドと参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)の混合物を生産する。ステップ(b)は、1つのサンプル当たり1つのペプチド(修飾ペプチドを含む、典型的に燐酸化ペプチド)の1つの混合物に帰着する。参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)は「内部標準」(ISs)とも呼ばれる。典型的には、5~10、たとえば6から9または7または8の、参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)が加えられる。
【0060】
本発明では、参照修飾ペプチドは典型的に参照リン酸化ペプチドであり、しばしば内部標準(IS)タンパク質と呼ばれる、定義された性質および濃度の比較蛋白質に典型的に由来する。ISsは市販のタンパク質(例えばカゼイン)であることができる。あるいは、ISsは特異的に本発明で使用するために合成される。本発明のこの実施態様の中で、参照リン酸化ペプチドは、典型的にそれの定量が望まれるリン酸化ペプチドのうちのいくらかと同じシーケンスで合成されるが、炭素と窒素の安定した重同位元素で富化される。ペプチドは、アミノ酸鎖またはポリペプチドを形成するために、一度に1つのアミノ酸が付加される固相化学を使用して、典型的に合成される。典型的には、そのようなペプチドは、一般の12Cおよび14Nを置換する13Cおよび15Nで富化されている。この富化は、質量分析計を使用してそれらを識別することができるように、同じシーケンスを備えた内因的なリン酸化ペプチドよりおよそ6~10ダルトン重い参照リン酸化ペプチドに帰着する。
【0061】
本発明の別の実施態様の中で、タンパク質修飾酵素がタンパク質アセチルトランスフェラーゼであり、アセチル化されたペプチドが定量される場合、参照修飾ペプチドは、参照アセチル化ペプチドである。そのような参照アセチル化ペプチドは、典型的にアセチル化されたアミノ酸を含む合成ペプチドである。
【0062】
参照修飾ペプチド(典型的には参照リン酸化ペプチド)は、比較されるサンプルの各々に既知量で典型的に加えられる。内因的な修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の信号は、下流の分析で参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)の信号に規格化(normalised)される。
【0063】
1つの実施態様では、この実施態様のステップ(b)は、富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の混合物を生産するために、ステップ(b)で得られたペプチドおよび参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)の混合物から修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)を富化することをさらに含む。この追加のステップは、1つのサンプル当たり1つの富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の混合物に帰着する。本発明のこの実施態様では、ステップ(c)は、サンプル中のペプチドに関係のあるデータを得るために、富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の混合物について質量分析(MS)を実行することを含む。本発明のこの実施態様では、ステップ(b)は富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の混合物に典型的に帰着する。
【0064】
修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)を富化するステップはクロマトグラフィーを使用して、典型的に行なわれる。1つの実施態様では、クロマトグラフィーは、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィー、および/または酸化ジルコニウム(ZrO)クロマトグラフィーである。
典型的には、クロマトグラフィーはIMACおよびTiOクロマトグラフィーである。
【0065】
別法として、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)を富化するステップは抗体に基づいた方法を使用して行なわれる。
【0066】
本発明の1つの実施態様で、タンパク質修飾酵素がプロテインキナーゼであり、同定されるか、および/または定量されるペプチドが燐酸化ペプチドである場合、燐酸化されたアミノ酸(たとえばチロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジン)への親和性を備えた抗体は、固体のマトリックスにリンクされる(不動化される)。燐酸化されたペプチドは、これらの抗体が特異的にリン酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。その後、燐酸化されていないペプチドが洗い流され、燐酸化されたペプチドは抗体でコーティングされたマトリックス上で保持される。不動化された抗体からのリン酸化ペプチドの溶離は、典型的には低pH溶剤を使用して実行されるか、または抗体とリン酸化ペプチドの間の相互作用をデネイチャー(denature)する他の適当な方法で行われる。
【0067】
本発明の別の実施態様の中で、タンパク質修飾酵素がタンパク質アセチルトランスフェラーゼであり、同定および/または定量されるペプチドがアセチル化されたペプチドである場合、アセチル化されたペプチドは、アセチル化されたアミノ酸残基に対する特異性抗体の使用によって富化される。そのような抗体は固体のマトリックスにリンクされ、次に、抗体がアセチル化されたアミノ酸残基に特異的に結合する能力によって富化される。その後、アセチル化されていないペプチドは洗浄除去され、アセチル化されたペプチドは不動化された抗体上で保持される。
【0068】
この実施態様のステップ(c)では、質量分析(MS)がステップ(b)の中で得られたペプチドおよび参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)の混合物に対して実行され、サンプル中のペプチドに関係のあるデータを得る。典型的には、このデータは、サンプルのMSのデータファイルの形をしている。本発明の1つの実施態様の中で、この実施態様のステップ(b)がステップ(b)の中で得られたペプチドと参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)との混合物から修飾ペプチド、典型的にはリン酸化ペプチドを富化して修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の混合物を生産することを含む場合、ステップ(c)は富化した修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の前記混合物に質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチドに関するデータ、典型的にはサンプルのMSのデータファイルとして得ることを含む。典型的には、質量分析は液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)である。ステップ(c)は、このようにLC-MSデータファイル(各サンプルからのもの)に典型的には帰着する。
【0069】
サンプル中のペプチドに関するデータは、典型的には質量/荷電(m/z)比、荷電(z)および/またはペプチドの相対保持時間を含む。
【0070】
この実施態様のステップ(d)では、サンプル中のペプチドに関するデータ(典型的にはMSのデータファイルの形式、およびより典型的にはLC-MSデータファイルの形式で)は、コンピューター・プログラムを使用して、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)のデータベース中のデータと比較される。例えば、サンプル中のペプチドの質量/荷電(m/z)比、荷電(z)および/またはペプチドの相対保持時間は、データベース中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の質量/荷電(m/z)比、荷電(z)および/またはペプチドの相対保持時間と比較される。これは、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)のデータベースを使用して、サンプルの個々の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の同定および定量化を可能にする。
【0071】
典型的には、コンピューター・プログラムは、PESCAL(Cutillas, P. R.; Vanhaesebroeck, B. Mol Cell Proteomics 6(9), 1560-73, 2007)と名付けられたプログラムである。PESCALは、比較されることになっているすべてのサンプルにわたるデータベースの中にある修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の各々のために抽出されたイオン・クロマトグラム(XIC、すなわち溶出プロファイル)を構築する。これは、同定され修飾されるペプチド(典型的に燐酸化された)(すなわち手続きの第一段階で造られたデータベースの中にある)のm/z、および保持時間にXICをセンタリング(centring)することにより行われる。PESCALは、ペプチドの荷電も考慮して同一性の正確な指定を支援する。プログラムは、さらに各XICのピーク高さおよび曲線下面積を計算する。データは、参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)の読み強度で、分析される各修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の読み強度(ピーク面積または高さ)を割ることにより規格化される。
【0072】
この実施態様では、修飾ペプチドのデータベースは下記工程を含む方法によってコンパイルされる:
i) サンプルからペプチドを得ること;
ii) ステップi)で得られたペプチドから修飾ペプチドを富化すること;
iii) ステップii)で得られた富化された修飾ペプチドに、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を行うこと;
iv) ステップiii)で検知された修飾ペプチドと、既知のレファレンス・データベースを比較し、修飾ペプチドを同定すること;および
v) データベースの中へ、ステップiv)で同定された修飾ペプチドに関するデータをコンパイルすること。
他のコンピュータープログラムおよびワークフロー(たとえばMaxQuant[Nature Biotechnology 26,1367-1372(2008)])は、ペプチドを定量するために使用されることができ、これらは本発明と同等である。
【0073】
この実施態様のステップi)はサンプルからペプチドを得ることを含んでいる。ペプチドは、公知の技術およびここに記述された任意の適切な方法を使用して、サンプルから得ることができる。ステップi)のサンプルは第3のサンプルであることができる。
【0074】
サンプルは典型的に生体試料で、先に記述されたように、生物ソースから得られた任意のタイプのサンプルであることができる。典型的には、サンプルは細胞株または組織である。
【0075】
本発明のいくつかの実施態様中で、ステップi)の中で使用されるサンプルが細胞株である場合、サンプルはステップi)を実行する前に阻害剤で処理される。阻害剤は任意の適切なタイプの阻害剤であることができる。典型的に、燐酸化されたペプチドが同定および/または定量される場合、阻害剤はホスファターゼ阻害剤である。ホスファターゼ阻害剤での処理は、リン酸化の化学量論を増加させて、データベースに含むことができる多くのリン酸化ペプチドに帰着する。さらに、目的がメチル化またはアセチル化されたペプチドを同定および/または定量することである場合、それぞれメチル基転移酵素阻害剤またはアセチルの加水分解酵素阻害剤を使用することができる。
【0076】
1つの実施態様では、本発明の方法のこの実施態様のステップiは、以下を含む:
(1) サンプル中の細胞を溶解すること;
(2) ステップ(1)で得られた溶解された細胞からタンパク質を抽出すること;および
(3) ペプチドへ前記タンパク質を開裂すること。
【0077】
本発明のこれらの態様は上に記述された通りである。しかしながら、ステップ(3)は上に記述されたステップ(a)と同じ方法を使用して、典型的に実行される。
【0078】
この実施態様のステップiiでは、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)はステップiの中で得られたペプチドから富化される。ステップiiは、このように修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)中で富化されたいくつかのフラクションに帰着する。
【0079】
ステップiiの中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の富化は、多次元クロマトグラフィーを使用して、典型的に実行される。1つの実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、強陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー(SCX-HPLC)、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーを使用して実行される。別の実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(SAX-HPLC)、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーを使用して実行される。本発明のこれらの実施態様では、クロマトグラフ技術は連続して実行される。
【0080】
あるいは、上に記述されるように、ステップiiの中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の富化は抗体に基づいた方法を使用して実行される。
【0081】
この実施態様のステップiiiでは、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)は、ステップiiの中で得られた富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)に行なわれる。この実施態様のステップivでは、ステップiiiで検知された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)は、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)を同定するために既知のレファレンス・データベースと比較される。このステップは市販のサーチエンジンを使用して、典型的に行なわれ、たとえば(しかし制限されない)が、MASCOT、ProteinProspectorまたはSequestサーチエンジンを使用して行われる。
【0082】
この実施態様のステップvでは、ステップivで同定された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)に関するデータは、データベースへコンパイルされる。このデータベースは、後の生物学的実験中のリン酸化ペプチドの定量化に必要とされるパラメーターをすべてリストする。典型的には、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)に関係のあるデータは、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の同定、質量電荷比(m/z)、電荷および/または相対保持時間を含む。これはサンプル中のペプチドに関係のあるデータ、典型的にはサンプル内のペプチドの質量電荷比(m/z)、電荷(Z)および相対保持時間を、データベース中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)についての値と比較することを許容し、したがってサンプル中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の同定および定量化を許容する。
【0083】
この実施態様では、本発明の方法と同時にデータベースの編集を実行する必要はない。データベースの編集は、サンプル中の修飾ペプチド上の修飾部位を定量するために本発明の方法の中で使用されているTIQUAS技術の前に、別々に実行することができる。
【0084】
TIQUAS技術の基礎は、LC-MSによって検知され定量することができる修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)のデータベースの構築である。このデータベースは、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の同定、質量電荷比(m/z)、電荷(Z)および相対保持時間を含む、後の生物学的実験において修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の定量化のために必要なすべてのパラメーターをリストする。データベースは、多次元クロマトグラフィー(たとえば強陽イオン交換、IMACおよびTiO2)を使用して、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)を富化することにより構築することができる。その後、修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の同定のために、LC-MS/MSにより富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)のフラクションを分析することができる。
【0085】
PESCAL(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007)の名称のコンピュータ・プログラムは、生物学的実験から得られた修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)のLC-MS実行でのデータベースにリストされた修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の各々の定量化を自動化する。これらの生物学的実験については、細胞溶解物(cell lysates)中のタンパク質はトリプシンまたは他の適切なプロテアーゼを使用して消化される。参照修飾ペプチド(典型的に参照リン酸化ペプチド)であるペプチド(たとえばフォスフォペプチド)内部標準は、比較されるすべてのサンプル中に既知量でスパイクされる。得られたペプチド混合物中の修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)はシンプル-トウ-パーフォームIMAC(simple-to-perform IMAC)またはTiO抽出ステップを使用して富化される。富化された修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)は、シングルLC-MSで分析される。典型的には約120分(サイクルの合計)であるが、これには制限されない。その後、PESCALは、比較されることになっているすべてのサンプルにわたるデータベースの中にある修飾ペプチド(典型的にリン酸化ペプチド)の各々のために抽出されたイオン・クロマトグラム(XIC、すなわち溶出プロフィール)を構築する。プログラムは、さらに各XICのピーク高さおよび曲線下面積を計算する。データは、修飾ペプチド(典型的にフォスフォペプチド)の内部標準読み強度で、それぞれの修飾ペプチド(典型的にフォスフォペプチド)分析物の読み強度(ピーク面積または高さ)を割ることにより規格化される。
【0086】
本発明の方法においてTIQUAS技術を使用することの代わりに、リン酸化のような修飾の定量化を、アイソトープ・ラベルを定量化(たとえば代謝の標識化(例えば、培地中の安定同位体でラベルされたアミノ酸(SILAC))を使用するMSの技術を使用して実行することができる。Olsen, J.V. et al. Cell 127, 635-648 (2006)),および化学的誘導体化 (たとえば、iTRAQ (Ross, P. L. ; et al. Mol Cell Proteomics 2004, 3, (12), 1154-69), ICAT (Gygi, S.P. et al. Nat Biotechnol 17, 994-999 (1999)), TMT (Dayon L et al, Anal Chem. 2008,Apr 15; 80(8):2921-31)。本発明の方法では、タンパク質修飾はフラグメントにされていないイオンの強度を測定するLC-MS技術、またはフラグメントイオンの強度を測定するLC-MS/MS技術(たとえばマルチリアクションモニタリング(MRM)という名でも呼ばれるセレクティドリアクションモニタリング(SRM))で定量することができる。
【0087】
本発明の第1の態様の方法は、サンプル中の特定のタンパク質修飾酵素のK値に帰着する。その後、特定のタンパク質修飾酵素のK値は、どのタンパク質修飾酵素がそのサンプルの中で最も活性かを決めるためにサンプル中の他のタンパク質修飾酵素のK値と比較することができる。ここで、より高いK値はより高い活性酵素を示す。特定のサンプル中のタンパク質修飾酵素は、これをするためにそれらのK-スコアの順にランク付けすることができる。これは、サンプル内で最も活性なタンパク質修飾酵素(つまり最も高いK値を備えたタンパク質修飾酵素)に基づいて、サンプルが採取された患者を治療する、適切な阻害剤の選択を許可する。
【0088】
従って、第2の態様では、本発明は、以下を含む、患者を治療する、タンパク質修飾酵素の阻害剤を同定する方法を提供する:
(i) 本発明の第1の態様の方法を使用して、前記患者から採取されたサンプル中の各タンパク質修飾酵素のK値を計算すること;
(ii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素を同定すること;および
(iii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素をターゲットとする阻害剤を選択すること。
【0089】
本発明のこの態様の方法は、患者または対象を選択された阻害剤で治療するステップと組み合わせて使用することができる。
従って、第3の態様では、本発明は、以下を含むタンパク質修飾酵素の阻害剤でその必要のある患者を治療する方法を提供する:
(i) 本発明の第1の態様の方法を使用して、前記患者から採取されたサンプル中の各タンパク質修飾酵素のK値を計算すること;
(ii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素を同定すること;
(iii) 最も高いK値を有するタンパク質修飾酵素をターゲットとする阻害剤を選択すること;および
(iv) 前記患者へ前記阻害剤を適用すること。
【0090】
治療法はヒトまたは動物の治療法であることができる。また、本発明は等しくヒトおよび/または獣医学の用途に等しく及ぶ。阻害剤は、好ましくは「治療上有効な量」で個人に適用される。これは疾病の1つ以上の徴候を改善するか、除去するか、防ぐ、個々への有益性を示すのに十分な量である。本明細書に使用される時、「治療」は、例えばヒトまたは非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、経済的に重要な哺乳動物(たとえば牛、羊、ヤギおよび豚)に有用なあらゆるレジームを含む。その治療は存在する条件に対するものであるか、または予防的で(予防的処理)であることができる。
【0091】
患者は、タンパク質修飾酵素の阻害剤(たとえばプロテインキナーゼの阻害剤)での治療を必要とする患者である。例えば、患者は、癌、たとえばリンパ腫または白血病、例えば急性骨髄白血病(AML)に罹患している者、または罹患の疑いのある者であることができる。この場合、患者は、プロテインキナーゼの阻害剤で典型的に治療され、典型的にはAGCキナーゼ(例えばプロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼB(PKB)(Aktとしても知られる)、プロテインキナーゼC(PKC)、プロテインキナーゼG(PKG)から成る群から選ばれたヒト・プロテインキナーゼの阻害剤;チロシンキナーゼ;チロシンキナーゼ様キナーゼ;カルシウム/カルモジュリン依存性プロテイン・キナーゼ;カゼイン・キナーゼ1グループ;CMGCグループ(例えばCDK、MAPK、GSK3、CLKキナーゼ);およびSTE、酵母Sterile 7,Sterile 11,およびSterile 20キナーゼの同族体の阻害剤で治療される。本発明のこの態様に従う使用にふさわしいキナーゼ阻害剤は、AZD-5438(CDK2i;)、GF-109203X(PKCαi;Tocris)、PF-3758309(PAKi;Calbiochem)、Trametinib(MEKi; Selleckchem)、MK-2206(AKTi;Selleckchem)、KU-0063794(mTORi;Chemdea)、TAK 715(P38αi;)、PKC-412(PKC/Flt3i;Tocris)、TBB(CK2i;)、PF-3758309(PAKi)およびC4945(CK2i;)を含んでいる。
【0092】
本発明で使用されるタンパク質修飾酵素の阻害剤の投与量は、治療される疾病または病状、年齢および治療される個人などの条件によって、広い範囲間に変わる場合がある。また、医師は、使用される適切な量を決定するだろう。
【0093】
投与は適切な頻度で繰り返すことができる。副作用が生じた場合には、投与量および/または頻度を、正常な臨床実績に応じて低減することができる。
【0094】
哺乳動物、特にヒトへの適用については、活性薬剤の毎日の投与量が1μg/体重1kgから10mg/体重1kg、典型的には10μg/体重1kgから1mg/体重1kgだろうことが期待される。医師は、どんな場合も個人にとって最適な実際の量(それは年齢、個人の体重、性および反応を含む要因に依存するだろう)を決定するだろう。上記の量は平均的な場合の例である。これらは例示に過ぎず、より高いかより低い量であることができ、そのようなものも本発明の範囲内の例でありえる。本発明の発明者は、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量するための第2のアルゴリズムをさらに考案した。
【0095】
従って、第4の態様では、本発明は、前記タンパク質修飾酵素のSC値を以下のように計算することを含む、サンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量する方法を提供する:
【0096】
【数8】
【0097】
ここでPCi=Cで阻害剤を使用する時の増殖の低減;
=増殖が測定される阻害剤濃度;および、
IC50i=一次標的(primary target)に対する阻害剤の「生体外の」IC50
本発明の第4の態様の方法は、タンパク質修飾酵素の阻害剤(たとえばプロテインキナーゼ阻害薬)を使用して、生体外の実験から得られた薬学データに基づいてSC値を計算することを含んでいる。従って、本発明の第4の態様に関して言及される「阻害剤」は、タンパク質修飾酵素の阻害剤である。
【0098】
SC値を計算するための情報を提供するために使用される実験は、タンパク質修飾酵素の阻害剤を加える前後の、サンプル内の生体外の細胞増殖のレベルを決定することを含んでいる。これは、濃度Ciで阻害剤を使用する時に見られる増殖の低減であるPCiの決定を許可する。たとえば、MTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)と、ガバナバイアカウント(Guava ViaCount)を使用するクリスタルバイオレットアッセイのような任意の適当な方法を使用して決定することもできる。
【0099】
SC値の計算は、さらにIC50iの決定を含んでいる。IC50iは、一次標的に対する阻害剤の「生体外の」IC50(生体外の分析でタンパク質修飾酵素の活性を50%低減する阻害剤の濃度)であり、一次標的とは、いくつかの阻害剤は多数のタンパク質修飾酵素(たとえばキナーゼ)に効果があるので、その主な標的をいう。IC50を決定する方法は、当業者に公知である。典型的には、タンパク質修飾酵素はプロテインキナーゼである。
【0100】
本発明の第1の態様、第2の態様および第4の態様の方法は、典型的にはコンピュータ・プログラムプロダクトを使用して、コンピューター上で実現される。コンピュータ・プログラムプロダクトは、上に記述された様々な方法の1つ以上の機能を行なうようにコンピューターに命じるように構成されたコンピューター・コードを含むことができる。そのような方法を行なうためのコンピュータ・プログラムおよび/またはコードは、コンピューター読取り可能なメディアまたはコンピュータ・プログラムプロダクト上で装置(コンピューター)に提供されることができる。コンピューター読取り可能なメディアは、一時的メディアまたは非一時的メディアであることができる。例えば、コンピューター読取り可能なメディアは、たとえば電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、または半導体システムであることができ、または例えばインターネットからのコードのダウンロードのようなデータ伝送用の伝播媒体であることができる。あるいは、コンピューター読取り可能なメディアは、物理的なコンピューター読取り可能なメディア(半導体またはソリッドステートメモリ)、磁気テープ、消去可能なコンピューター・ディスケット、ランダム・アクセス・メモリー(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、堅い磁気円盤および光ディスク(CD-ROMおよびCD-R/WまたはDVD)の形式をとることができる。
【0101】
コンピューターのような装置は、ここに議論された様々な方法に従う1つ以上のプロセスを行なうためのコードに従って構成されることができる。1つの構成では、装置はプロセッサー、メモリおよびディスプレイを含む。典型的には、これらは、中央バス構造、ディスプレイ・アダプターによって接続しているディスプレイに接続される。システムはさらに1つ以上の入力装置(たとえばマウスおよび/またはキーボード)、および/または、他の装置またはネットワークに装置を接続するための通信アダプターを含むことができる。そのような装置は、データ処理システムの形式をとってもよい。そのようなデータ処理システムは分散システムであることができる。例えば、そのようなデータ処理システムはネットワークを介して分散されてもよい。
【0102】
本明細書に記載されたように、本発明の発明者は、合計のシグナリングへの、与えられた細胞集団の中の個々のタンパク質修飾酵素(たとえばキナーゼ)の寄与を定量するために2つのアルゴリズムを開発した。そのようなアルゴリズムの1つは、発明者によりキナーゼ活性序列(Kinase Activity Ranking (KAR))と命名され、「K-スコア」を生成し、定量的MSデータ(たとえば定量的MSリン酸化プロテオミックス・データ)を入力として使用し、それらの活性に基づいてすべてのタンパク質修飾酵素(たとえば基質が既知であるキナーゼ)をランク付けするために使用することができるスコアを生成する。KARは、合理的に個々の患者を治療する最も適切な細胞シグナリング阻害剤を選択するために一般化されて理に適ったアプローチを表す。この観念はデータに基づき、明細書に記載された実施例において詳細に議論され、K-スコアが細胞表現型を反映するか(つまり、キナーゼ阻害剤に細胞がどの程度感受性か)を示す。第2のアルゴリズムは「比較鋭敏度分析(Relative Sensitivity Analysis)」と命名され、サンプル内のタンパク質修飾酵素の阻害剤(たとえばキナーゼ阻害剤)の影響を互いに比較するために使用することができる「感度係数(Sensitivity Coefficients)(SC)」を生成するために薬学データを使用する。2つのアルゴリズムのための入力データは、タンパク質質量分析(MS)および薬学実験からそれぞれ得られる;したがって、2つの方法は本来直交(orthogonal)である。
【0103】
1つの実施態様では、KARは入力としてMSベースのリン酸化プロテオミックス・データを使用する。この実施態様では、その結果生成されたK-スコアは、所定のキナーゼの基質であることが知られていたリン酸化ペプチドの強度の合計を、サンプル中のすべてのリン酸化ペプチドの強度の合計で割り、いくつかのキナーゼが他のものより多くの基質を持っていること、およびキナーゼ基質の関係のデータベースは、名高いキナーゼについてより多くの基質をリストすることを考慮に入れた修正係数を掛けて得られる。
【0104】
【数9】

【0105】
従って、KAR(K-スコア)の原理は下記のように説明されてもよい。
【0106】
【表1】

【0107】
所定のキナーゼによって一般に燐酸化される部位を含むリン酸化ペプチドの強度は合計され、すべてのフォスフォペプチド強度の合計に規格化される。得られた値は、1つのキナーゼ当たり既知で同定された基質の数にさらに規格化される。発明者の前の出版物(例えばTIQUAS特許出願WO 2010/119261および以下の文献)でのような定量的ラベルなしのMSにより、燐酸化部位の強度を決定することができる:
【0108】
* Alcolea, M. P., Casado, P., Rodriguez-Prados, J. C., Vanhaesebroeck, B. & Cutillas, P. R. Molecular & cellular proteomics : MCP 11, 453-466, doi:10.1074/mcp.M112.017483 (2012).
* Casado, P. et al. Genome biology 14, R37, doi:10.1186/gb-2013-14-4-r37 (2013).
* Casado, P., Bilanges, B., Rajeeve, V., Vanhaesebroeck, B. & Cutillas, P. R. Molecular & cellular proteomics : MCP 13, 836-848, doi:10.1074/mcp.M113.034751 (2014).
* Casado, P. & Cutillas, P. R. Molecular & cellular proteomics : MCP 10, M110 003079, doi:10.1074/mcp.M110.003079 (2011).
* Casado, P. et al. Science signaling 6, rs6, doi:10.1126/scisignal.2003573 (2013).
* Cutillas, P. R., Geering, B., Waterfield, M. D. & Vanhaesebroeck, B. Molecular & cellular proteomics : MCP 4, 1038-1051, doi:10.1074/mcp.M500078-MCP200 (2005).
* Montoya, A., Beltran, L., Casado, P., Rodriguez-Prados, J. C. & Cutillas, P. R. Methods 54, 370-378, doi:10.1016/j.ymeth.2011.02.004 (2011).
* Rajeeve, V., Pearce, W., Cascante, M., Vanhaesebroeck, B. & Cutillas, P. R. The Biochemical journal 450, 619-628, doi:10.1042/BJ20121525 (2013).
* Rajeeve, V., Vendrell, I., Wilkes, E., Torbett, N. & Cutillas, P. R. Molecular & cellular proteomics : MCP 13, 1457-1470, doi:10.1074/mcp.M113.035204 (2014)。
【0109】
KARは、WO 2013/132075 および、Casado, P. et al. Science Signaling 6, rs6 (2013)として公表された特許出願の主題である、発明者のキナーゼ基質富化分析(Kinase Substrate Enrichment Analysis:KSEA)という名の以前に公表されたアルゴリズムとは概念的に異なる。違いは、KSEAがサンプル内のキナーゼ活性を比較するのに対し、KARではサンプル内の互いに対するキナーゼの活性の相違を比較するということである。両方のアルゴリズムは燐酸化部位の強度を上流で作用するキナーゼにリンクすることを含んでいるが、それらの出力は実際上異なる。KARがそれらがサンプル中でどれくらい活性かに基づいてキナーゼ活性をランク付けするのに対し、KSEAはそのような目的に使用することができないからである。
【0110】
一方、KARの試験および開発において、発明者は、アルゴリズムが細胞表現型を反映すると仮定した。それがシグナリングの強度の指標であるからである。キナーゼの寄与を互いに関するシグナリング出力と比較するために使用することができる他の方法がないので、K-スコア(KARの出力)のシグナリングの強度の基準としての正確さのテストは、これらの値がシグナリング出力と関連するかどうかを評価することを要求する。したがって、発明者はシグナリングへの異なるキナーゼの寄与を定量およびランク付けするためにMSベースのリン酸化プロテオミックスと完全に無関係な方法を開発した。これらが容易に測定することができる細胞シグナリングの重要な終点であるので、細胞増殖と生存度は測定するべき適切な出力である。
【0111】
この方法の結果は「比較鋭敏度分析(RSA)」アルゴリズムだった。それは、1つの実施態様中で与えられたキナーゼについて「感度係数」(SC)を導く。それは、規定するキナーゼに対する薬学的阻害剤は、シグナリングに、より寄与しないキナーゼに対する阻害剤よりも、大きな程度に細胞の生存率/増殖を低減するだろうという仮定に基づく。これはよく容認された概念である;しかしながら、そのような観念を適用する問題は、異なる阻害剤はそれらの目標に対する異なる親和性があるということである。その結果、測定する阻害剤の効果は、薬学の概念(たとえば50%だけ生存度/増殖を低減する阻害剤の濃度(IC50))を使用する場合に、それらの目標のための阻害剤の親和性、および調査中の生物学的プロセスのレギュレーションに対する目標の寄与の両方を反映することである。親和性の差を説明するために、SCは、その主な目標に対する阻害剤の生体外のIC50(生体外のキナーゼ分析でキナーゼ活性を50%低減する阻害剤の濃度)掛ける、使用される阻害剤の濃度の関数として細胞の生存率/増殖を表現する。このように、キナーゼ阻害剤は、それらがどれくらいよく目標を阻害するかによってではなく、研究下の生物学的プロセスに対してそれらの目標がしている寄与に基づいてランク付けすることができる;したがって、それらは互いに比較することができる。
感度係数 SC
【0112】
【数10】
【0113】
上記の方程式中のPCiはPCと呼ばれることもできる。一次標的に対する生体外のIC50として、IC50(あるいはIC50i)は定義されてもよい。
【0114】
本発明の方法の利点は以下のとおりである:
-KARは、「絶対単位」でのシグナリングの定量化を提供する。つまり、分析は平行した対照試料の分析を要求しない;
したがって、KARは、臨床サンプルの分析に適用することができる。
-KARおよびK-スコアは、感受性細胞が細胞シグナリングの阻害剤にどのようにしてなるだろうかの予言的な手段である。それはテーラーメイド医療の発育に役立つ。
-すべてのキナーゼ活性およびシグナリング経路は、臨床的に有用な時間枠で行なうことができる単一の分析で測定される。
これは、1つの分析当たり一つの経路を測定する多くの免疫化学的な技術と対照的である。
-方法は、十分な特異性を有する抗体の有効性に依存しない。
-RSAは細胞増殖/生存度のレギュレーションへの阻害剤目標の寄与をテストすることを可能にする。
【0115】
第2および本発明の後の態様の好ましい特徴は、第1の態様に関するものを準用する。本明細書に記載された実施態様は、広範に適用可能で有り、適切な全ての他の実施態様で広く適用可能で、結合可能であることが認識されるだろう。そのような組み合わせは本発明の範囲内にあると考えられる。本発明は、例示の目的のみで示される実施例への言及によりさらに記述される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1】K-スコア決定の再現性、線形性および正確さ(a) キナーゼ活性序列(KAR、それはK-スコアを生成する)の原理。所定のキナーゼによって一般に燐酸化される部位を含むリン酸化ペプチドの強度は合計され、すべてのフォスフォペプチド強度の合計について規格化される。得られた値は、1つのキナーゼ当たりの既知で同定された基質の数にさらに規格化される。(b) アルゴリズムの定量的性質を評価する実験計画。(c、d)、3つの代表的なキナーゼについてのK-スコアの再現性、および線形性。(e) pV処理された細胞の関数としての、K-スコアに基づいたキナーゼのランク付け。 チロシンキナーゼ(三角形データポイントとして示される)は、サンプル内に存在するpV処理された抽出物の関数としての、K-スコアに基づいたランクを明白に増加する。
【0117】
図2】EGFまたはIGF治療の関数としてのK-スコア。WilkesらのPNAS 112, 7719-7724 (2015)中のリン酸化プロテオミックス・データはKAR分析のために処理された。結果は、これらの値がキナーゼ活性上の成長因子刺激の予期された動力学を示すので、KAR(K-スコア)の出力がキナーゼ活性の指標であることを例証する。
【0118】
図3】K-スコアは、互いに関する細胞のリン酸化へのそれらの寄与に基づいてキナーゼ活性をランク付けする。(a) 8つの血液細胞株にわたる60以上のキナーゼのK-スコア。リン酸化プロテオミックス実験は、先に記載されたように4つの独立した場合の指定された細胞株上で行なわれた。また、各々はLC-MS/MSによって2度分析された。8つの分析の平均のK-スコアが示される。(b) KAR分析によって決定されるような合計の細胞のリン酸化へのそれらの寄与に基づいたキナーゼのランク付け。
【0119】
図4】キナーゼ阻害剤のパネルで処理された血液細胞株の投与量作用曲線。指定された細胞株は、示された阻害剤で処理され、処理の72時間後にGuava分析を使用して生存度を測定した。データポイントは平均±SD(n=4)である。
【0120】
図5】キナーゼ活性序列は、血液細胞株中の細胞の生存率へのキナーゼ活性の寄与をモデル化する。(a) 8つの血液細胞株にわたる指定された化合物のSC(感度係数)。(b) 細胞株にわたるそれらのSCに基づいたキナーゼ阻害剤のランクの頻度。(c) 個々の細胞株内のキナーゼ活性(KARによって測定されたもの、図1)とSCの間の関係。K-スコア値は、4つの独立した実験(各々二重反復試験で測定された)の平均の±SEMとして示される。rはピアソン相関係数;p値はr値から導かれる。
【0121】
図6】K-スコアと8つの血液の細胞株にわたるキナーゼ阻害剤の感度の関係。8つの細胞株にわたり測定された線形回帰分析は、9つの異なる薬剤の感度係数は、著しくそれらの主な目標キナーゼのためのK-スコアに関係していたることを示した。
【0122】
図7】急性骨髄白血病(AML)細胞の生存率へのキナーゼ活性の寄与のモデル化。(a) 45の原発性AML生検のK-スコアの分布。(b) K-スコア分析によって決定される指定されたキナーゼのランクの頻度。(c) 指定されたキナーゼ阻害剤で処理された、36のAML生検のIC50sおよびSCの分布;P38i、TAK775;CK2i、CX494;MEKiトラメニチブ(MAPKシグナリングを阻害する);PAKi、PF-03758309。(d) 2つの代表的なAML患者サンプル、および原発性AML(e)の36のケース中のSCとK-スコアの間の関係。(f、g) それぞれMEK1およびJAK2のためのK-スコアと、MEKiおよびPKC412処理の関数としての細胞の生存率の間の相関。
【0123】
図8】キナーゼ阻害剤のパネルで処理された原発性AML細胞の投与量作用曲線。AML生検は、倫理上の同意を得たBarts Cancer Institute生体バンクから得られ、指定された化合物で72時間処理され、GuavaViaCount分析間て測定した。データポイントは平均の±SD(n=3)である。
【0124】
図9】複合体薬物応答表現型はキナーゼ活性の違いに関係している。(a) 原発性AML細胞の5つのキナーゼ阻害剤に対する反応のパターン。感度は5の阻害剤濃度で測定された。ヒートマップは1μM濃度での生存度を示し(左)、>%50での生存度の減少は緑の箱によって示される(右)。反応に基づいた13のグループの合計が同定された。これは5つの主な反応グループにさらに分類することができた、(b-g)指定されたキナーゼのためのK-スコア、反応グループにわたるそれらの比率。個々のK-スコアは患者にわたり平均に規格化された。反応グループの内の平均の±SEMおよび個々の値が示される。P-値は、それぞれ(c)、(d)、(f)、および(g)での反応グループ12または11に対する、アンペアードt-検定によって計算された。
【0125】
図10】原発性AML生検のパネル中の細胞の生存率のモデル。K-スコアおよび感度コンフィデンス(Sensitivity Confidents)は、リン酸化プロテオミックスと細胞の生存率のデータからそれぞれ得られ、36の異なるAML患者生検の中で比較された。
【0126】
図11】キナーゼ阻害剤に対する反応のパターンと関連するキナーゼ活性。(a) K-スコアは、主テキスト(列の平均)の図4aの中で示され対数変換された反応グループにわたり平均に規格化された。(b) すべての化合物に耐性を有する細胞(グループ13)からのものと、少なくとも3つの化合物に感受性の細胞(グループ1-5)間のK-スコアの比較は、キナーゼ活性が感受性細胞(赤いフォント)の中で増加したことを示す。(c) MEK1iのみに敏感な細胞(グループ12)およびCK2iのみに敏感な細胞(グループ11)間のK-スコアの比較。(d) CK2iのみに敏感な細胞(グループ11)およびPAKiのみに敏感な細胞(グループ10)間のK-スコアの比較。(e) MEK1iのみに敏感な細胞(グループ12)およびPAKiのみに敏感な細胞(グループ10)間のK-スコアの比較。
【0127】
実施例
材料と方法
細胞培養
B細胞リンパ腫および白血病細胞株は、10%のウシ胎児血清(FBS)および100U・mL-1ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)で補われたRPMI-1640ミディアムの中で慣例的に維持された。細胞は0.5-2.0×10 細胞・mL-1のコンフリューエンシー(confluency)で維持された。間質細胞は、IMDMミディアム(10%のFBSおよび100 U.mL-1P/Sで補われた)の中で育てられ、175cmフラスコの中で2.0-30.0×10細胞のコンフリューエンシーで維持された。MS-5でコンディショニングされたIMDMミディアムは、3日間IMDM中で間質細胞を育てることにより生成された。細胞はすべて5%COの湿潤大気中で37℃で維持された。
【0128】
原発性AML細胞
すべての患者から、研究用のための血球の貯蔵のために説明し同意を得た。(Miraki-Moud, F. et al. Blood 125, 4060-4068 (2015))に記載されたように、East London and City Research Ethics Committeeに従って、それぞれの手続きが行なわれた。すべての研究は、改訂されたHelsinki protocolにより、Review Boardの規則に従って行われた。末梢血はSt Bartholomew病院でAML患者から採取され、単核細胞がフィコール勾配を使用して分離され、次いで赤血球溶血し、液体窒素中で貯蔵された。原発性AMLブラストは溶解され、以下の標準手順を行った:簡潔に言えば、37℃でガラス瓶がデフロストされ、5分間DNAse(シグマ)の500μgに暴露された。2%のFBSで補われたPBSの10mLが加えられた。また、細胞懸濁液は5℃で5分間1500毎分回転数で遠心分離機にかけられた。細胞はMS-5でコンディショニングされたIMDM培地中に再懸濁され、70μmストレーナ(Fisherbrand)を使用してろ過した。細胞数と生存度はVi-CELL XR細胞生存率アナライザー(Beckman Coulter)を使用して、トリパンブルー染色によって決定された。
【0129】
細胞溶解およびタンパク質消化
各細胞株については、4つの独立した生物学的複製が行なわれた:10×10細胞は0.5×10 細胞・mL-1で接種され、一晩置かれた。各原発性AMLサンプルについては、10×10細胞が1×10 細胞・mL-1で接種され、2時間インキュベータの中に置かれた。細胞は、遠心分離によって収穫され、続いて1mM NaVOおよび1mM NaFで補われた氷冷燐酸塩緩衝食塩水で2度洗われて、氷冷尿素細胞溶解バッファー(1mM NaVO、1mM NaF、1mM Naおよび1mM β-グリセリンリン酸で補われた20mM HEPES(pH 8.0)中の8M尿素)の0.2 mLの中で溶解した。溶解物は超音波処理により均質化され、遠心分離によってすべての不溶性の物質が除去された。タンパク濃度はビシンコニン酸(BCA)分析によって評価された。一般的なタンパク濃度(0.5μg・μL-1)へ各条件を規格化した後に、サンプルはそれぞれ、暗所室温で30分間、10mMジチオトレイトールおよび16.6mMヨードアセトアミドでの連続するインキュベーションによって還元されアルキル化された。タンパク質消化のため、20mM HEPES(pH 8.0)の添加を通じて尿素濃度が低減された。不動化されたトシル-リシン クロロメチルケトン(TLCK)-トリプシンが次いで加えられ、サンプルは37℃で一晩インキュベートされた。トリプシン・ビーズが遠心分離により除去され、結果として得られたペプチド溶液は、先に記述されたように(Montoya, A. et al. Methods 54, 370-378 (2011))、OASIS HLB 1ccの固相抽出カートリッジを使用して脱塩された。
【0130】
フォスフォペプチド富化
先に記述されたように(Wilkes, E. H. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 112, 7719-7724 (2015))、TiO(GL サイエンス)を使用してフォスフォリル化ペプチドが富化された。結果として得られたフォスフォペプチド溶液はスナップ凝固され、SpeedVacで乾かされ、後の使用まで-80℃で貯蔵した。
【0131】
LC-MS/MSリン酸化プロテオミックス分析
細胞株サンプルについては、LC-MS/MSによって2回の生物学的複製で、以下のように分析された:フォスフォペプチド・ペレットは0.1%TFAの14μLの中で再懸濁された。技術的な複製当たり4.0μLが、LTQ-Orbitrap-XL質量分析計 (Thermo Fisher Scientific)にオンラインでつながれた、NanoACQUITY UPLC system (Waters, Manchester, UK) (Thermo Fisher Scientific))に注入された。サンプルは、300nL・分-1の流量でACQUITY BEH130 C18 UPLC カラム (15 cm x 75 μm, 1.7 μm, 130 A)上の5および35%のACNの間の100分の直線濃度勾配上で分離された。各MS走査で最も強い多価イオンのトップ5が選択され、衡突解離切断(多段活性化が可能)に供された。MSの解像度は30,000FWHMにセットされた。
【0132】
原発性AMLサンプルについては、技術的な複製(1つのサンプル当たり2)がそれぞれ、QExactive PLus(QEP)質量分析計(Thermo Fisher Scientific)にオンラインでつながれた、Dionex Ultimate nRSLC システム(Thermo Fisher Scientific)への3.0μL注入から成った。サンプルは、300nL・分-1の流量でAcclaim PepMap C18 RSLCカラム(25cm×75μm、2μm、100A)上での、3および30%のACNの間の120分の直線濃度勾配上で分離された。各MS走査の中に存在するトップ20の最も強い多価イオンが選ばれ、高エネルギー衡突解離(HCD)に供された。MS走査の解像度は70,000FWHMにセットされた。
【0133】
フォスフォペプチド同定および定量化
ペプチド同定は、マスコット・サーバー・バージョン2.4を利用してUniprot-Swissprotのヒト蛋白質データベース(20,233のエントリーを含んでいる2014年9月のリリース)への、デアイソトープされたMS/MSのデータとのマッチングにより行なわれた。Mascot Distillerが、マスコットジェネリックフォーマットでのピーク・リストを生成するために使用された。質量寛容度(Mass tolerances)は、それぞれ前駆物質とフラグメントイオンについて10ppmおよび600mmu(XL)/25mmu(QEP)にセットされた。リン酸化プロテオミックス実験については、許可された変数は次のとおりだった:フォスホ-Ser、フォスホ-Thr、フォスホ-Tyr、ピロ-Glu(N末端)および酸化-Met。サンプルの各々からの同定されたフォスフォペプチドはインハウススクリプトを使用して、収集され照合された。予測値<0.05%のユニークなフォスフォペプチド・イオンはインキュベートされ、その後の分析に含まれた。マスコットデコイデータベース(Mascot decoy database)検索は、これらのセッティングがほぼ1%のフォルスディスカバリーレイト(false discovery rate)を生ずることを示した。我々のグループ(Montoya et al. (2011), supra; Casado, P. & Cutillas, P. R. Molecular & Cellular Proteomics: MCP 10, M110 003079 (2011); Cutillas, P. R. & Vanhaesebroeck, B. Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007)) 、および第三者 (Tsou, C. C. et al. Molecular & Cellular Proteomics : MCP 9, 131-144 (2010); Mann, B. et al. Rapid Communications in Mass Spectrometry : RCM 22, 3823-3834 (2008))によって以前に記述されたようにペプチド定量化が行なわれた。その後、簡潔に言えば、Pescalソフトウェア(Python v2.7で書かれた)が、データベース中のフォスフォペプチド・イオンの各々の抽出されたイオン・クロマトグラムのピーク面積を得るために比較されているサンプルのすべてにわたり使用された。各サンプル中の各フォスフォペプチド・イオンの保持時間は、イン-ハウスの線形モデル化アルゴリズムを使用して、一般的なフォスフォペプチドの保持時間のアラインメントを介して予測された。各サンプル内の各フォスフォペプチドについての抽出されたイオン・クロマトグラムから得られたクロマトグラフィーのピークは積算され、記録された。質量-荷電(m/z)および保持時間(tR)の寛容度は、それぞれ7ppmおよび1.5分にセットされた。
【0134】
キナーゼ基質富化分析およびキナーゼ活性序列
技術的な複製が平均され、各フォスフォペプチド・イオンのピーク面積は、各サンプルのペプチド強度の合計に規格化された。キナーゼ基質マッチングは、PhosphoSitePlusデータベース(2014年7月にダウンロードされた)に対するVBAスクリプトを使用して、先に報告された(Casado, P. et al. Science Signaling 6, rs6 (2013)) ようにしてこれらのデータ上で行なわれた。キナーゼ活性序列(KAR)は以下の式を使用して、キナーゼKについて計算された。ここで、 =キナーゼKにマッチしたデータセット中の燐酸化部位の数;α 1i1 =燐酸化部位 の規格化された強度; =任意のキナーゼ-基質組み合わせにかかわらずデータセット中の燐酸化部位の総数;β 1j1 =燐酸化部位 の規格化された強度; =キナーゼKのためのPhosphoSitePlusデータベース中の既知の目標燐酸化部位の総数である。データはMicrosoft Excel 2007/2010、またはreshape2とggplot2のパッケージの組み合わせを使用する、R統計計算環境(v3.0.0)で視覚化された。
【0135】
【数11】

【0136】
過バナジン酸処理
P31/Fuj細胞は1mM過バナジン酸ナトリウムに暴露されたか、または30分未処理のまま置かれた(過バナジン酸ナトリウムは、30% Hおよび100mM NaVO pH 8.0を1:100比率で15分間混合することにより調製された)。
その後、上に概説されるように、細胞は収穫され溶解された。均質化およびタンパク質定量化の後、処理されたものと処理されない細胞溶解物は、1.0μg・μL-1の最終タンパク濃度で混合された。使用される比率は、過バナジン酸で処理された抽出物の0%、25%、50%、75%および100%と、非処理物の抽出物の100%、75%、50%、25%および0%だった。タンパク質混合物は、次いでトリプシン消化および上に記述されるようなフォスフォペプチド富化に供された。
【0137】
EGFおよびIGF処理
KAR結果は、Wilkesら(2015)、上掲、の中のSupplementary Dataset 2のメタ分析から得られた。簡潔に言えば、MCF-7細胞は24時間飢えさせ、続いて、100ng・mL-1 EGFまたはIGF-1で、0、5、10、30または60分処理され、またWilkesら(2015)、上掲に述べられているようにMS分析のために処理された。上に記述されるように、K-スコアが計算された。
【0138】
生存度分析および感度係数
細胞株が96ウェルプレート(10,000細胞/ウエル)にシードされ、一晩置かれ、ビヒクル、または1~1000 nMのAZD-5438(CDK2i;)、GF-109203X(PKCαi; Tocris)、PF-3758309(PAKi; Calbiochem)、Trametinib(MEKi; Selleckchem)、MK-2206(AKTi; Selleckchem)、KU-0063794(mTORi; Chemdea)またはTAK 715(P38αi;)で処理された。細胞は、0.01~10μMのPKC-412(PKC/Flt3i; Tocris)または0.1~10μMのTBB(CK2i シグマ)でも処理された。72時間の後に、細胞は、メーカーによって指示されたようにGuava ViaCount 試薬 (Millipore)で染色された。また、細胞数と生存度はGuava EasyCyte Plusを使用して測定された。原発性AML細胞は、上に記述されるように溶かされ、MS-5コンディショニングされたIMDM培地に再懸濁され、96ウェルプレート(20,000細胞/ウエル)らシードされ、ビヒクルで処理されるかまたは1~10000 nMのPF-3758309(PAKi)、PKC412(Flt3/PKCi)、CX4945(CK2i;Selleckchem)、Trametinib(MEKi)およびTAK 715(P38i)で処理された。72時間の後に、細胞は、Guava ViaCount 試薬で染色された。また、細胞数と生存度が測定された。薬はすべてDMSOに溶解された。測定はすべて3回繰り返して行なわれた。流動細胞計測法データはCytoSoft(v2.5.7)を使用して分析された。IC50値はGraphpad PRISM(v5.03)を使用して計算された。感度係数(SC)は以下の式を使用して計算された。ここでPCi=Cでの増殖の低減、IC50i=主標的に対する「生体外の」IC50、およびC=増殖が測定される阻害剤濃度である。データはMicrosoft Excel 2007/2010、またはreshape2とggplot2のパッケージの組み合わせを使用する、R統計計算環境(v3.0.0)で視覚化された。
【0139】
【数12】
【0140】
結果
キナーゼ活性序列を使用するシグナリング定量化の線形性および再現性
我々は、最初にネット・キナーゼ活性の基準としてキナーゼ活性序列(KAR、それはK-スコアを生成する))の再現性および定量性を調査した。この目的のために、DHL6細胞株を、過バナジン酸ナトリウム(pV)で処理し、細胞溶解の後に、異なる比率で、処理していない細胞からの細胞溶解物と混合した(図1b)。分析の再現性をテストするために、我々は3つの独立した状況で実験を行なった。また、各々は3つの複製で分析された。予想通りに、pV、チロシンホスファターゼ阻害剤は、チロシンキナーゼのK-スコアの増加を引き起こした;結論として、pVで処理された細胞の関数としてサンプル中でより高くランク付けされた(図1c-e)。したがって、これらのデータは、K-スコアがキナーゼ基質グループの定量的読み出しであることを示し、これらの値が、再現可能な態様でそれらの活性化ステータスに基づいてキナーゼをランク付けするために使用されることができることを示唆する。さらに、我々は、EGFまたはIGFで処理された細胞の時間的経過実験から得られた、公表されたフォスホプロテミクス(phosphoprotemics)データのメタ分析を行なった(Wilkesら(2015)、上掲)。我々は、セリン/トレオニンおよびチロシンキナーゼのためのK-スコアが予期された動力学で成長因子で処理した際に変化し(図2)、KAR出力(K-スコア)が予期されたキナーゼ活性を真に反映することを示すことを観察した。
【0141】
キナーゼ活性序列(KAR)は、血液細胞株中の細胞の生存率へのキナーゼ活性の寄与をモデル化する。 その後、我々は8つの血液癌細胞株を分析し、互いに関するそれらの活性化に基づいて100以上のキナーゼをランク付けした。図3aは、より大きなK-スコアを備えた60のキナーゼを示し、CDK1、CDK2、ERK1、PAK1およびCK2が最も高いものとランク付けされた(図3b)。
【0142】
K-スコアが細胞の生存率へのキナーゼの寄与を反映したかどうか調査するために、我々は、高いK-スコアを有するキナーゼがより低いK-スコアを有するものより細胞生存により大きく寄与していれば、個々のキナーゼのK-スコアと細胞の生存率の抑制への影響の間に相関が存在するだろうと推論した。したがって、我々は、9つのキナーゼ阻害剤(投与量作用曲線は図4に示される)での処理の関数として、8つの細胞株パネルの細胞の生存率を測定した。迅速な方法で酵素阻害を滴定するために、我々は、薬学的阻害剤(遺伝手段に対立するものとして)を使用することを選んだ。しかしながら、細胞行動に対する小分子阻害剤の影響は、経路フラックス(pathway flux)への目標の寄与、および目標への化合物の親和性(それは生体外のIC50により反映される)の両方に依存する。これを説明するために、我々は、その既知の目標に対する化合物の報告された生体外のIC50により、細胞の生存率の薬剤により導かれた抑制を規格化した。我々はこの値を「感度係数」(SC)と名付けた。それはここに定義されるように計算された。これをすることによって、阻害剤潜在能の差は規格化され、細胞の生存率へのそれらの目標の寄与に基づいて、互いに対して異種の生体外のIC50値を有するキナーゼ阻害剤をランク付けすることができるかもしれない。
【0143】
表1 -血液細胞株のパネルを指定された化合物で処理し、Guava Viacount 分析を使用して、48時間後にそれらの生存度が測定された。
【0144】
【表2】
【0145】
それらのSCに基づいた表1に示されるキナーゼ阻害剤のランク付けは、CDK2iとPAKiが最も高くランク付けされることを実証した。また全体として、ランク付けの頻度(ranking frequencies)は、KARによって得られたものを反映した(図5a、b)。PKCα阻害剤(PKCαi)も高い潜在能を有してCDK2を阻害することが注目されるべきである。より直接的な比較は、特定のキナーゼのK-スコアと、それらの阻害剤に対するSCとの間の強い関連性を明らかにした(図5c)。全体として、KARは試験された8つの細胞株において生存度を正確にモデル化した。線形回帰分析(ピアソンr値は0.49~0.90で、平均は0.76であり、P=0.016であった)によって評価された時、全体として、モデルは、2つのメトリック(r=0.67;P=1.0×10-10;4 図6)の統計的に有意な関係を示した。これらのデータは、KARが、生体外の細胞株培地中の細胞の生存率へのキナーゼの寄与を正確にモデル化したことを示す。
【0146】
キナーゼ活性序列(KAR)は、原発性AML細胞中の細胞の生存率へのキナーゼ活性の寄与をモデル化する。
アプローチが、細胞の独立したセット中の規定するキナーゼを同定することができるかどうかを決定するために、我々は、正常核型(その病気のための中間の危険マーカー)が富化された、45の原発性AML生検のリン酸化プロテオームを測定した。結果として得られたデータセットのKAR(図7a)は、細胞株の実験でのようにCDKs、ERK1、CK2A1およびPAK1がこれらの原発性癌細胞の中で頻繁に高度にランク付けされることを示した(図7b)。しかしながら、細胞株と対照的に、ATRとPKACAは、さらに多くの患者の中で高度にランク付けされた。
【0147】
KARが原発性AMLサンプル中の生存度へのそれぞれのキナーゼの寄与を反映したかどうか調査するために、細胞は、P38A、CK2、MEK1(ERKシグナリングを阻害するため)、PAK、およびPKC412(それはレセプター・チロシンキナーゼFlt3(その遺伝子はAMLの中でしばしば変更される)を含むいくつかのキナーゼを阻害する)に対する阻害剤で処理された。我々は、これらの化合物をテストすることに決めた。なぜなら、AMLへのCDKの関与が十分立証されている一方、AML生物学へのERK1、PAKおよびCKsの寄与は、それほどよく理解されていないからである。それらのキナーゼ目標のK-スコアがほとんどの場合低いと分かったので、PKC/Flt3iおよびP38αiは負の対照として貢献する。我々は、36の原発性AMLサンプルで用量-作用曲線を得た(図8)。また、IC50とSC値が計算された(図7c)。平均では、原発性AML細胞はCK2i、PAK1iおよびMEK1iに対して、PKC/Flt3iおよびP38αiに対してよりも敏感だった(図7c)。これはPKC/Flt3iおよびP38αi目標(それぞれPKCs/チロシンキナーゼおよびP38A)に関するよりも、CK2A1、PAK1およびERK1に関しての高いK-スコアと一致する。
【0148】
細胞株データ(図5)でのように、予測されたキナーゼ活性は原発性AMLブラスト中の阻害剤への細胞の感度を反映した。2つの患者のサンプルのデータの例は図7dの中で示される。また、他の患者のデータは図10に示される。線形回帰分析モデルは、36の生検のうちの31の生検では、K-スコアおよびSCが関連していたことを示し、r>0.6(図7e)であり、全体の平均のr=0.84であった。興味深いことには、MEK1 K-スコアは、NRasまたはKras(これらは以前にAMLにおけるMEK阻害剤に対するレスポンスに連鎖性だった)の突然変異ステータスに関係なく、MEK1阻害剤に対するレスポンスに関係していた(図7f)。同様に、JAK2 K-スコア(JAK2はFlt3の下流で作用することに留意)は、サンプルにわたりPKC412(それはFlt3を阻害する)への感度と弱く関係し、これは、Flt3突然変異ステータスより感度のよりよい指標だった(図7g)。全体として、これらのデータは、シグナリング出力へのキナーゼの寄与を定量するためにK-スコアを使用するモデルが、細胞株(図5)および初代細胞(図7 d、eおよび図10)中の細胞の生存率への所定のキナーゼを阻害するインパクトを予測することができることを示す。
【0149】
キナーゼ活性の差は、薬物応答表現型の複雑さに関係している。
1つの化合物に対する耐性または感受性の代わりに、原発性AML細胞は反応の複雑なパターンを示した(図9a)。例えば、1μM処理で生存度の50%低減のしきい値を課して、10/36のケースが、少なくとも3つの阻害剤(図9a中でグループ1~5)に敏感だった。しかし、13/36のケースがすべての化合物(グループ13)に耐性だった。5つおよび3つのケースが、CKiのみ(グループ11)、またはMEK1iのみ(グループ12)にそれぞれ感受性だった。目標キナーゼの寄与だけの考慮によってこれらの表現型を合理化することができなかった。したがって、我々は、観察された反応の相違を説明することができるキナーゼ活性のパターンを調査した。細胞遺伝学の分類またはFAB(フランス・アメリカ・英国)分類が反応グループの間で異なっていないが、K-スコアに著しい違いがあった(図11a)。例えば、チロシンキナーゼとPLK1は感受性細胞(グループ1-5)中で、耐性細胞(グループ13)よりも増加された。また、MEK1iのみ、またはCK2iのみに感受性の細胞には活性間に逆の相関があった(図11b-e)。MEK1i感受性細胞(グループ12)では、RAFのK-スコアは増加された。しかし、ATRでは、阻害の他のパターンを有する患者サンプルに比べて減少した(図9b、c)。したがって、ATRと、RAFとK-スコアの比率は、他の反応グループよりこのグループにおいて著しくより大きかった(図9d)。同様に、CK2A1 K-スコアがグループ11において予想外にそれほど大きくなかった(図9e、細胞はCK2iにのみ敏感であった)。一方、PKCA K-スコアはこのサンプルのグループでは著しく低下し(図9f)、CK2A1:PKCA比率はCK2i感受性細胞では他のグループに比較してより大きかった(図9g)。したがって、目標キナーゼの活性化に加えて、所定の化合物に対する排他的なレスポンスは、目標と平行して作用する生存支持経路の活性化の非存在を要求した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】