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特許7022069ラパドシン(Rapadocins)、受動拡散型ヌクレオシド輸送体1阻害剤及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ラパドシン(Rapadocins)、受動拡散型ヌクレオシド輸送体1阻害剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/54 20060101AFI20220209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C07K7/54
A61P43/00 111
A61P31/12
A61P33/00
A61P29/00
A61P25/04
A61P9/10
A61P3/00
A61P25/08
A61P15/10
A61P1/16
A61P11/00
A61P31/04
A61P7/02
A61P9/12
A61P37/08
A61P9/00
A61P25/16
A61P9/04
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P27/04
A61P17/06
A61P7/00
A61K38/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018540114
(86)(22)【出願日】2017-02-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 US2017016494
(87)【国際公開番号】W WO2017136717
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】62/291,428
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ジュン リュー
(72)【発明者】
【氏名】ジンシン ワン
(72)【発明者】
【氏名】チャオリ サン
(72)【発明者】
【氏名】サム ホン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-527618(JP,A)
【文献】J. Med. Chem.,2004年,Vol.47,p.5441-5450
【文献】J. Med. Chem.,2007年,Vol.50,p.3906-3920
【文献】European Journal of Pharmacology,2007年,Vol.568,p.75-82
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2007年,Vol.282, No.19,p.14148-14157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/54
A61K 38/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群から選択される化合物
【化1】
【化2】
【請求項2】
以下の表からの化合物:
【化3】
ここで、残基1、残基2、残基3及び残基4は、以下から交換される、及び選択される:
【表1】
【請求項3】
ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体1(ENT1)を阻害する際に使用するための請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
アデノシン・シグナル伝達を増加させる際に使用するための請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項5】
請求項に記載した使用するための化合物であって、前記化合物を投与することにより、抗ウイルス活性の増加、抗寄生虫活性の増加、アルコール耐性の増加、疼痛の減少、虚血からの保護、てんかん発作の重症度の低下、勃起不全の軽減、肝機能の改善、呼吸器疾患の改善、敗血症の改善、血栓症の改善、高血圧の改善、炎症性疾患の改善、アレルギーの改善、心虚血の改善、不整脈の改善、パーキンソン病の改善、慢性心不全の改善、間接リウマチの改善、ドライアイ疾患の改善、慢性局面型乾癬(chronic plaque type psoriasis)の改善、慢性神経因性疼痛の改善及び鎌状赤血球疾患の改善からなる群から選択される 1 つ以上の効果をもたらす、化合物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、35 U.S.C. § 119(e) による優先権の利益を 2016 年 2 月 4 日に出願された米国仮特許出願第 62/291,428 号に対して主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
助成金の情報
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)の助成金 DP1CA174428 に基づく政府の支援によってなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、広く低分子化合物に関するものであり、より具体的にはヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体 1(ENT1)を阻害するためにかかる化合物を使用することに関する。
【背景技術】
【0004】
輸送体タンパク質は、細胞内への及び/又は細胞を通過する様々な分子の細胞内取り込みに関与する。キャリア媒介輸送系は、典型的には複数の膜貫通領域によって細胞膜に固定されたタンパク質を使用し、能動的又は受動的メカニズムを介してそれらの基質を輸送することによって機能する。キャリア媒介輸送系は、ビタミン、糖、及びアミノ酸などの多くの重要な栄養素の能動的又は非能動的に促進される輸送に関与する。キャリア媒介輸送体はまた、肝臓及び腎臓などの器官にも存在し、そこで、前記タンパク質は体内を循環する化合物の排泄又は再吸収に関与する。極性又は親水性化合物は、典型的には、細胞膜を構成する脂質二重層を通ってほとんど拡散しない。多くの小分子(例えば、アミノ酸、ジ - 及びトリペプチド、単糖類、ヌクレオシド及び水溶性ビタミン)に関しては、その溶質分子を生体膜を通して能動的輸送をするための特異的キャリア媒介輸送体が存在する。
【0005】
哺乳動物細胞によって、生理学的ヌクレオシド及びそれらの合成類縁体の多くを取り込むこと又は放出することは、主に、ヌクレオシド輸送体として知られる特異的キャリア媒介輸送体によって行われる。ヌクレオシド輸送体は、2 つのカテゴリー:(i)受動拡散型(促進拡散)及び(ii)濃縮(二次性能動)ナトリウム依存型、に分類されている。類似した広範な基質特異性を有する 2 つの受動拡散型輸送系が、ニトロベンジルチオイノシン(NBMPR、1)による阻害に対して感受性であるか、又は非感受性であるかに基づいて、それぞれ、es(受動拡散感受性)及びei(受動拡散非感受性)輸送体として同定及び分類されている。
【0006】
特定の輸送体が、細胞膜を横切ってヌクレオシドを透過させるために必要である。ヌクレオシド輸送体ファミリーの中で受動拡散型ヌクレオシド輸送体(ENT)が最も広く発現しており、ヒトにおいては 4 つのヒト ENT:すなわち hENT-1、hENT-2、hENT-3 及び hENT-4 が同定されている。最も良くその特徴がわかっているのは、細胞表面タンパク質であり、プリン及びピリミジン・ヌクレオシドの両方に対して広く選択的である hENT-1 及び hENT-2 である。これらは、ニトロベンジルメルカプトプリン・リボシド(NBMPR)による阻害に対する感受性によって、互いに区別することができる。ENT1 はナノモル濃度の NBMPR によって強力に阻害されるので NBMPR 感受性受動拡散型ヌクレオシド輸送タンパク質とも称される。ENT2 は、ナノモル濃度の NBMPR に対して感受性ではないが、より高い(マイクロモル濃度)濃度の NBMPR によって阻害され、それ故に、NBMPR 非感受性受動拡散型ヌクレオシド輸送タンパク質(iENTP)とも呼ばれる(Griffith et al., Biochim. Bioph. Acta 1286:153-181 (1986))。
【0007】
ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体 1(ENT1)は、SLC29a1 遺伝子によってコードされる。この遺伝子は、受動拡散型ヌクレオシド輸送体ファミリーのメンバーである。この遺伝子は、細胞膜及びミトコンドリア膜に局在し、周囲の培地からヌクレオシドを細胞内に取り込むことを媒介する膜貫通糖タンパク質をコードする。このタンパク質は、ニトロベンジルメルカプトプリン・リボヌクレオシド(NBMPR)による阻害に対して感受性である受動拡散型(濃縮型ではなく)輸送体として分類される。ヌクレオシド輸送体は、デ・ノボ・(de novo)ヌクレオシド合成経路を欠く細胞におけるヌクレオチド合成に必要であり、がん及びウイルスの化学療法で使用される細胞傷害性ヌクレオシドの取り込みにも必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Griffith et al., Biochim. Bioph. Acta 1286:153-181 (1986).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アデノシンは、虚血、炎症及び痛みのような病態生理学的状態においてとりわけ放出される内在性プリン・ヌクレオシドである。このような状況下では、アデノシンは重要な神経及び免疫調節の役割を果たす。アデノシンを投与することは、ヒトの様々な侵害受容モダリティ(nociceptive modalities)において鎮痛作用をもたらす。アデノシンの半減期が短く、その投与によって引き起こされる副作用のために、内因性アデノシンの効果を強化する方法を見出すことにかなりの関心が寄せられている。ENT1 を阻害すれば、アデノシンの細胞への取り込みを阻害し、その有益な効果を増強することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施形態では、本発明は、以下:式I、式II、式III、式IV、式V、式VI、式VII、式VIII、式IX、式X、式XI、XII JW95-1、JW95-2、JW95-3、JW95-4、JW95-5、JW95-6、JW95-7、JW95-8、JW95-9、JW95-10、JW95-11、JW95-12、JW95-13、JW95 -14、JW95-15、JW95-16、JW95-17、JW95-18、JW95-19、JW95-20、JW95-21、JW95-22、JW95-23、JW95-24、JW95-25、95-15-1、95-15-2、95-15-3、95-15-4、95-15-5、95-15-6、95-15-7、95-15-8、95-15-9、95-15-10、95-15-11、95-15-12、95-15-13、95-15-14、95-15-15、95-15-16、95-15-17、95-15-18、95-15-19、95-15-20、95-15-21、95-15-22、95-15-23、95-15-13-2、95-15-13-3、95-15-13-4、95-15-13-5、95-15-13-6、95-15-13-7、95-15-13-8、95-15-13-9、95-15-13-10、95-15-13-11、95-15-13-12、95-15-13-13、95-15-13-14、95-15-13-15 及び JW95S2 ビオチンを含む化合物群を提供する。前記化合物群は、本明細書で提供される構造で例示される。
【0011】
本発明の別の実施形態は、ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体 1(ENT1)を阻害する方法であって、それを必要とする被験体に、有効な量の上記に列記した化合物を投与することを含む方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の実施形態は、アデノシン・シグナル伝達を増加させる方法であって、それを必要とする被験体に、有効な量の上記に列記した化合物を投与することを含む方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の実施形態は、アデノシン・シグナル伝達を増加させる方法であって、それを必要とする被験体に、有効な量の上記に列記した化合物を投与することを含む方法を提供することである。上記の化合物を投与すると、1 つ以上の以下の効果:抗ウイルス活性の増加、抗寄生虫活性の増加、アルコール耐性の増加、疼痛の減少及び虚血からの保護、てんかん発作の重症度の低下、勃起不全の軽減、肝機能の改善、呼吸器疾患の改善、敗血症の改善、血栓症の改善、高血圧の改善、炎症性疾患の改善、アレルギーの改善、心虚血の改善、不整脈の改善、パーキンソン病の改善、慢性心不全の改善、間接リウマチの改善、ドライアイ疾患の改善、慢性局面型乾癬(chronic plaque type psoriasis)の改善、慢性神経因性疼痛の改善及び鎌状赤血球疾患の改善、がもたらされる。
【0014】
本発明の別の実施形態は、以下の構造を有する化合物を提供することである:
【化1】
ここで、残基 1 から 4 は、以下に列記した何れのアミノ酸ビルディング・ブロック又はその改変体であっても良い。
【化2】
【0015】
本発明の別の実施形態は、上記の方法において上記化合物を使用することである。
【0016】
本発明の他の態様及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ラパドシン(RapADOcin)は、hENT1 を特異的に阻害することによって 3H-アデノシンの取り込みを阻害する。
図2】ラパドシン(Rapadocin)は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)で、3H-アデノシンの取り込みを阻害する。
図3】ラパドシン(RapADOcin)による取り込み阻害は、FKBP12 の結合体であるラパマイシン及び FK-506 によって拮抗される。
図4】ラパドシン(RapADOcin)は、ADP によって活性化された場合のヒト血液中での血小板凝集を阻害する。
図5】ラパドシン(RapADOcin)は、マウスのモデルで、腎臓の虚血再還流傷害に対して保護する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細な説明
本発明の他の態様及び利点は、以下の説明から明らかになるであろう。ラパドシンである式 I(RapADOcin として定型化され又は JW95 とも呼ぶ)は、合成大員環状低分子である。ラパドシンは、ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体 1(hENT1 又は SLC29a1)を高い効力で特異的に阻害する。
【化3】
【0019】
ラパドシンは、腎臓虚血モデルによって動物において安全に忍容されることが示されている。ラパドシンは、FKBD(FKBP12 結合ドメイン(FKBP12 binding domain))及びペプチド・ドメインの 2 つの「ドメイン」を含む合成大員環状分子である。前記 FKBD は、ジメトキシ・フェニル領域において、特にジヒドロキシ・フェニル類縁体へ、改変を許容することができる。前記ペプチド・フラグメントは、ENT1 阻害に対する様々な効果を伴いながら、ある幅での修飾を許容することができる。特に、前記ペプチド・フラグメントは、N-メチル・フェニルアラニン残基において、いくつかの重要な改変を許容することができる。
【0020】
式 I の化合物は、水溶液中で 10 μM まで可溶性であり、細胞培養培地(37 ℃、10 %ウシ胎仔血清)中で 5 日間にわたり分解されないことが示されてきている。
【0021】
ヌクレオシド輸送体(NT)の 2 つの異なるファミリーの特徴がわかってきている:即ち、受動拡散型ヌクレオシド輸送体及び濃縮型ヌクレオシド輸送体である。「受動拡散型ヌクレオシド輸送体」又は「ENTs」は、受動輸送又は促進拡散を介して基質の濃度勾配の低い方へ基質を移動させる輸送体を指す。ENT 活性はナトリウム・イオン(又は他のイオン)勾配を必要とせず、したがって「Na+ 非依存性」輸送体と呼ばれる。ENTは、ニトロベンジルメルカプトプリン・リボシド(NBMBR)による阻害に対する感受性に基づいて、 2 つのサブタイプのうちの 1 つに分類される。
【0022】
ENT ファミリーの 4 つのメンバーがクローニングされ、ENT1、ENT2、ENT3、及び ENT4 と命名されている。全ての 4 つの ENT はアデノシンを輸送するが、他のヌクレオシド又は核酸塩基を輸送するそれらの能力に関しては互いに異なる。ENT1 は es サブタイプ輸送体である。ヒト ENT1 をコードする例示的なポリヌクレオチド配列は GenBank アクセション番号 U81375 を含み、GenBank アクセション番号 AAC51103.1 はその対応するアミノ酸配列を表す。ENT1 は、ヒト及びげっ歯類の組織において広く発現しているが、発現レベルは組織間で異なる。ENT1 は、様々なプリン及びピリミジン・ヌクレオシドを輸送することが知られている。
【0023】
ENT2 は ei サブタイプの輸送体である。ヒト ENT2 をコードする例示的なポリヌクレオチド配列は GenBank アクセション番号 AF029358 を含み、GenBank アクセション番号 AAC39526 はその対応するアミノ酸配列を表す。ENT2 は、血管内皮、心臓、脳、胎盤、胸腺、膵臓、前立腺、腎臓、及び筋肉、骨格筋、心筋、血液、皮膚並びに ENT2 発現がん細胞を含む広範囲のヒト及びげっ歯類組織において発現している。ENT2 発現がん細胞には、例えば、ある腎腫瘍細胞、乳房腫瘍細胞(breast tumor cells)、前立腺がん細胞、結腸がん細胞、胃がん細胞、白血病細胞、肺がん細胞及び卵巣がん細胞が含まれる。他のタイプの ENT-2 発現がん細胞は当該分野で公知である;(例えば、Lu X et al., Journal of Experimental Therapeutics and Oncology 2 : 200-212, 2002 及び Pennycooke M et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 208, 951-959, 2001 を参照)。ENT2は、骨格筋において高い発現レベルを示す。ENT2 は、核などの細胞小器官の膜でも発現される。ENT2は、様々なプリン及びピリミジン・ヌクレオシド及び核酸塩基を輸送することが知られている。
【0024】
ラパドシン及びその類縁体による hENT1 の阻害は、アデノシンの細胞外濃度を増加させ、それによってアデノシン受容体を介したアデノシンのシグナル伝達を増強すると予想される。アデノシン受容体アゴニストは、複数の疾患の治療として求められてきている。ラパドシンはアデノシン受容体アゴニストと同様の活性を有することが期待される。
【0025】
本明細書で使用される場合、化合物の「治療に有効な量(therapeutically effective amount)」は、化合物の量であり、個体又は動物に投与されたときに、前記 ENT1 輸送体をはっきりと阻害するために、個体又は動物において、十分な高レベルにその化合物がある、化合物の量のことである。当業者には周知のように、投与の正確な用量及び頻度は、使用する本発明の具体的な化合物、治療を受ける具体的な症状、治療を受ける症状の重症度、具体的な患者の年齢、体重及び一般的な身体的状態並びに他の薬物(患者が服用している可能性がある)、に依存する。さらに、前記「治療に有効な量」を、治療を受ける患者の応答性及び/又は本発明の化合物を処方する医師の評価に依存して、減量する又は増量することができる。したがって、上記の有効 1 日量の範囲は、ガイドラインにしか過ぎない。本発明の化合物は、受動拡散型ヌクレオシド輸送体 ENT1 の活性、特に受動拡散型ヌクレオシド輸送体 ENT1 の活性阻害によって媒介される症状又は疾患を治療するための医薬品の製造に使用することができる。
【0026】
限定されるのものではないが、受動拡散型ヌクレオシド輸送体 ENT1 を介した症状又は疾患には、炎症性疼痛、神経因性疼痛、がん疼痛などを含む急性及び慢性疼痛の症状、心臓保護、脳保護、外傷性脳損傷(TBI)、骨髄保護、神経保護、慢性圧迫性皮膚潰瘍、創傷治癒、虚血、抗けいれん薬、臓器移植(臓器保護、心臓麻痺など)、睡眠障害、膵炎、糸球体腎炎及び抗血栓(抗血小板)を含む。
【0027】
「ヌクレオシド輸送経路」は、1 つ以上の生体膜を横切る基質の輸送に影響する 1 つ以上の輸送タンパク質の系を指す。例えば、ヌクレオシド輸送経路は、細胞膜を横切る基質の段階的な輸送を仲介し、続いて細胞内オルガネラの膜を横切る前記基質の輸送を仲介することがある。2 つの生体膜を横切って、基質をこのような段階的に移動することを担う輸送タンパク質又はヌクレオシド輸送体は、同じ型のヌクレオシド輸送体であってもよく、又は異なる型であってもよい。ある実施形態では、前記ヌクレオシド輸送体は、受動拡散型ヌクレオシド輸送体であってもよい。他の実施形態では、前記ヌクレオシド輸送体は、濃縮型ヌクレオシド輸送体であってもよい。
【0028】
「輸送タンパク質」又は「輸送体」は、膜を横切って分子を輸送する際に直接的又は間接的な役割を果たすタンパク質である。この用語には、例えば、基質を認識し、キャリア媒介輸送体又は受容体媒介輸送によって基質が細胞に入る又は細胞から出ることに効果を示す膜結合タンパク質が含まれる。輸送体は、細胞膜上又は細胞内オルガネラの膜上に存在することがある。従って、輸送体は、分子の細胞質内への輸送又は細胞内オルガネラ内への輸送を促進する。
【0029】
用語「ヌクレオシド」は、5-炭糖(すなわち、ペントース)に共有結合しているプリン又はピリミジン塩基を指す。前記糖がリボースである場合、前記ヌクレオシドはリボヌクレオシドであり;それが2-デオキシリボースである場合、前記ヌクレオシドはデオキシリボヌクレオシドである。例示的なヌクレオシドには、シチジン、ウリジン、アデノシン、グアノシン、及びチミジン、並びに対応するデオキシリボヌクレオシドが含まれ、DNA 及び RNA を形成するヌクレオチドの基礎を形成する。
【0030】
本明細書で使用する用語「ヌクレオシド類縁体」は、前記塩基部分、前記糖部分又はその両方が改変されているヌクレオシドを指す。そのような類縁体は、一般的に、合成されるもので及び天然のヌクレオシドを模倣していて、細胞機能においてヌクレオシドと置き換わることができる。例えば、天然のヌクレオシドの代わりに対応するヌクレオシドが DNA 又は RNA に取り込まれても良い。そのように組み込まれたある特定のヌクレオシド類縁体は、例えば、合成中の核酸鎖のさらなる伸長を妨げることがある。多くのヌクレオシド類縁体は、抗ウイルス性又は抗がん性を有する。ヌクレオシド類縁体の例には、イノシン、ジダノシン(2',3'-ジデオキシイノシン、ddI)及びビダラビン(9-O-D-リボフラノシルアデニン)などのデオキシアデノシン類縁体、シタラビン(シトシン・アラビノシド)、エムトリシタビン、ラミブジン(2'-3'-ジデオキシ-3'-チアシチジン、3TC)、及びザルシタビン(2'-3'-ジデオキシシチジン、ddC)などのデオキシシチジン類縁体、アバカビルなどのデオキシグアノシン類縁体、スタブジン(2'-3'-ジデハイドロ-2'-3'-ジデオキシチミジン、d4T)及びジドブジン(アジドチミジン又はAZT)などの(デオキシ-)チミジン類縁体、並びにイドクスウリジン及びトリフルリジンなどのデオキシウリジン類縁体、が含まれる。
【0031】
用語「薬学的に許容される塩」は、本発明の化合物の生理学的及び薬学的に許容される塩、例えば、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、且つそれに望ましくない毒性効果を与えない塩、を指す。
【0032】
本発明の医薬組成物を調製するために、有効な量の活性成分としての具体的な化合物(塩基又は酸付加の塩形態にある)を、少なくとも 1 つの薬学的に許容される担体と緊密に混合し、その担体は、投与のために所望される製剤の形態に応じて種々の形態をとることができる。これらの医薬組成物は、望ましくは経口投与、直腸投与、経皮投与又は非経口注射に適した単位剤形である。
【実施例
【0033】
(実施例1)
ラパドシンはヌクレオシド取り込みを阻害する
ラパドシンは、2 種類の最も主要な受動拡散型ヌクレオシド輸送体の内、hENT2よりも、ヒト受動拡散型ヌクレオシド取り込み輸送体 1(hENT1)によるヌクレオシドの取り込みを、強力かつ特異的に阻害する(図1)。
【0034】
ラパドシンは、少なくとも 7 つの細胞株におけるヌクレオシドの取り込みを阻害し、すべてのヒト細胞株におけるヌクレオシドの取り込みを阻害すると予測される(例えば、図2及び表1参照)。
【0035】
【表1】
【0036】
ラパフシン類縁体
表2は様々なラパドシン類縁体の効力を開示する。
【0037】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
1JW95Diol は改変した FKBD を使用しており、2 つのメトキシ基がヒドロキシル基と置き換わっている。
【0038】
選択したラパドシン類縁体の構造は以下のように表される:
【0039】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0040】
(実施例2)
ヒトと動物のモデル
ラパドシンの有効性を示すために、2 つのヒト及び動物モデルで研究を行った(図4及び5)。いくつかの生理学的条件下で、アデノシンは血液中に放出され、そこでアデノシン受容体に作用し得る。通常、このアデノシン(ADO)は ENT1 を介して迅速に再吸収される。ラパドシンの存在下では、取り込みが阻害され、ADO は、いくつかの潜在的に有益な生理学的応答をもたらす増強されたシグナル伝達を生成することができる。
【0041】
(実施例3)
前記リードの薬物動態/薬力学及び溶解性を改善するために使用することができる追加的な化合物は、以下を含む:
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0042】
(実施例4)
スキーム 1
FKBD 8を用いたラパドシンの合成経路。
【化15】
反応条件:i)KOH、H2O/EtOH(1/20)、室温、6 時間;ii)Pd/C(10%)、H2、MeOH、室温、1.5 時間;iii)tert-ブチル 2-ブロモ酢酸、K2CO3、DMF/アセトン(1/2)、室温、4 時間;iv)(+)-DIPCl、THF、-20 ℃から室温、5 時間;v)FKBD 8、塩化ベンゾイル、DMAP(5%)、NEt3、CH2Cl2、室温、4 時間;vi)TFA(10%)、CH2Cl2、室温、6 時間;vii)無水コハク酸、DMAP(5%)、CH2Cl2、室温、3 時間;viii)臭化アリル、Cs2CO3、DMF、室温、2 時間;ix)Pd(PPh3)4(10%)、N-メチルアニリン、THF、室温、6 時間。
【0043】
(実施例5)
薬物動態/薬力学及び溶解度を改善するために使用することができる化合物は、以下の一般構造によって表される:
【化16】
残基 1 から 4 は、表3に列記した何れのアミノ酸ビルディング・ブロック又はその改変体であっても良い。
【0044】
【表3】
【0045】
参考文献11から15は、種々の疾患の治療におけるアデノシン・アゴニストの使用を記載している。これらの参考文献に開示された情報に基づいて、当業者は、本出願に開示された化合物がこれらの疾患の治療に使用できることを認識するであろう。例えば、不整脈の治療に関連するので、参考文献15の表2を参照されたい。
【0046】
本発明を、具体的で例示的な実施形態及び実施例に関して説明したが、本明細書に開示された実施形態は例示のみを目的としており、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく当業者によって様々な修正や変更が可能であり、以下の請求項に記載の本発明の範囲内である。
【0047】
参考文献
以下の参考文献はそれぞれ、本明細書に援用され、その全体が本明細書に組み込まれる。
1) Passer, B. J. et al. Identification of the ENT1 Antagonists Dipyridamole and Dilazep as Amplifiers of Oncolytic Herpes Simplex Virus-1 Replication. Cancer Res. 70, 3890-3895 (2010).
2) Kose, M. & Schiedel, A. C. Nucleoside/nucleobase transporters: drug targets of the future? Future Med. Chem. 1, 303-326 (2009).
3) Melendez, R. I. & Kalivas, P. W. Last call for adenosine transporters. Nat. Neurosci. 7, 795-796 (2004).
4) Choi, D.‐S. et al. The type 1 equilibrative nucleoside transporter regulates ethanol intoxication and preference. Nat. Neurosci. 7, 855-861 (2004).
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8) Grenz, A. et al. The Reno-Vascular A2B Adenosine Receptor Protects the Kidney from Ischemia. PLoS Med. 5, e137 (2008).
9) Grenz, A. et al. Equilibrative nucleoside transporter 1 (ENT1) regulates postischemic blood flow during acute kidney injury in mice. J. Clin. Invest. 122, 693-710 (2012).
10)Zimmerman, M. A. et al. Equilibrative nucleoside transporter (ENT)-1-dependent elevation of extracellular adenosine protects the liver during ischemia and reperfusion. Hepatology 58, 1766-1778 (2013).
11)Mohamadnejad, M. et al. Adenosine inhibits chemotaxis and induces hepatocyte-specific genes in bone marrow mesenchymal stem cells. Hepatology 51(3), 963-73 (2010).
12)Wen, J. et al.Adenosine signaling: good or bad in erectile function? Arterioscler Thromn Vasc Biol 32(4), 845-50 (2012).
13)Xu, Z. et al. ENT1 inhibition attenuates epileptic seizure severity via regulation of glutamatergic neurotransmission. Neuromolecular Med. 17(1), 1-11 (2015).
14)Chen, J. eta al. Adenosine receptors as drug targets-what are the challenges? Nat Rev Drug Disc 12(4), 265-86 (2013).
15)Sachdeva, S. et al. Adenosine and its receptors as therapeutic targets: An overview. Saudi Pharmaceutical Journal 21, 245-253 (2013).
16)Griffith et al., Biochim. Bioph. Acta 1286:153-181 (1986).
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図1
図2
図3
図4
図5