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特許7022072糸状真菌バイオマット、その製造方法及び使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】糸状真菌バイオマット、その製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20220209BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220209BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20220209BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20220209BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20220209BHJP
   C12R 1/645 20060101ALN20220209BHJP
   C12R 1/77 20060101ALN20220209BHJP
   C12R 1/845 20060101ALN20220209BHJP
【FI】
C12N1/14 A ZNA
C12N1/14 E
C12N1/00 B
C12N1/00 N
C12N1/00 S
A23L31/00
A23K10/16
A23K50/80
C12R1:645
C12R1:77
C12R1:845
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2018546545
(86)(22)【出願日】2017-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 US2017020050
(87)【国際公開番号】W WO2017151684
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】62/302,123
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/340,381
(32)【優先日】2016-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/345,973
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-10698
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518308809
【氏名又は名称】ザ・フィンダー・グループ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Fynder Group, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】コズバル、マーク
(72)【発明者】
【氏名】マキュール、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】アヴニエル、ユヴァル
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-130766(JP,A)
【文献】特表2003-526353(JP,A)
【文献】特開平09-313168(JP,A)
【文献】特表平08-504589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0213293(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0002680(US,A1)
【文献】特表平09-509580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞密度が少なくとも25g乾燥重量/L培地であり、かつ厚さが1~30mmである、糸状真菌バイオマット。
【請求項2】
糸状菌がフザリウム(Fusarium)、フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Trichoderma)、Mucorales目内のケカビ.sp、フィラメントを産生することができる酵母;及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のバイオマット。
【請求項3】
糸状菌がフザリウム(Fusarium)種及びクモノスカビ(Rhizopus)種からなる群から選択される、請求項1または2に記載のバイオマット。
【請求項4】
糸状菌がMK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)又はリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)である、請求項1-のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項5】
糸状菌がMK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)である、請求項1-のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項6】
バイオマットが固形分5%-20%を含む、請求項1-のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項7】
バイオマットが、気中菌糸層及び人工培地と接触する底部層を含む互いと接触する少なくとも2つの構造的に異なる細胞層を含み、ここで、気中菌糸層が底部層よりも密度が低く、かつ上部気中菌糸層の厚さに対する底部層の厚さの比が少なくとも0.41である、請求項1-6のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項8】
バイオマットが、気中菌糸層及び人工培地と接触する底部層を含む互いと接触する少なくとも2つの構造的に異なる細胞層を含み、ここで、気中菌糸層が底部層よりも密度が低く、かつバイオマットが気中菌糸層及び下部層の間に遷移層をさらに含む、請求項1-7のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項9】
バイオマットが平均フィラメント長が0.05cm-2cmである、請求項1-のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項10】
バイオマットが糸状菌より産生されたトリプトファン、システイン、メチオニン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、リシン、チロシン及びバリンから選択されるアミノ酸を含む、請求項1-のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項11】
バイオマットが全ての必須アミノ酸を含む、請求項1-10のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項12】
バイオマットが20%分岐鎖アミノ酸を含むタンパク質を含む、請求項1-11のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項13】
バイオマットが表面発酵法により産生される、請求項1-12のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項14】
バイオマットの引張強度が少なくとも0.2kg/マット幅(cm)である、請求項1-13のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項15】
少なくとも40%のタンパク質含有量を有する、請求項1-14のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項16】
引き裂かれることなく扱って持ち上げて移動させるのに十分な引張強度及び構造一体性を有する、請求項1-15のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項17】
少なくとも39%の脂質含有量を有する、請求項1-16のいずれか一項に記載のバイオマット。
【請求項18】
請求項1-17のいずれか一項に記載のバイオマットを含む、食品。
【請求項19】
食品がヒト食品、魚飼料及び動物飼料からなる群から選択される、請求項18に記載の食品。
【請求項20】
(a)有効量の少なくとも1つの糸状菌の生物学的に純粋な培養物を人工成長培地に播種するステップ;
(b)播種した糸状菌をインキュベートして成長培地の表面で糸状真菌バイオマットを産生するステップ;及び
(c)細胞密度が少なくとも25g乾燥重量/L培地であり、かつ厚さが1~30mmである、糸状菌バイオマットを採取するステップ、を含む、
糸状菌バイオマットを製造する方法。
【請求項21】
人工成長培地がグリセロール、酸ホエイ、デンプン、コーンスティープリカー、ジャガイモ廃棄物、サトウダイコン廃棄物、デキストロース、グルコース、マルトース、ガラクトース、マンノース、コーンシロップ、野菜スクラップ、及び牛の肥育池水からなる群から選択される炭素源を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
人工成長培地が農業廃棄物、医療用有機廃棄物、都市有機廃棄物、食品加工廃棄物、バイオ燃料製造廃棄物、工業廃棄物、リグノセルロースを含有する廃棄物、乳製品廃棄物、屠殺場廃棄物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される廃棄物を含む炭素源を含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
人工成長培地が単糖類、二糖類及びこれらの組み合わせからなる群から選択される炭素源を含む、請求項20-22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
人工成長培地がグリセロール、糖、乾燥小麦蒸留可溶物、コーンスティープリカー、牛の肥育池水、酸ホエイ、植物廃棄物、コーンシロップ及びこれらの組み合わせからなる群から選択される炭素源を含む、請求項20-23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
人工成長培地が18.6atmの浸透圧を有する、請求項20-24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
人工成長培地が0.368のイオン強度を有する、請求項20-25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
人工成長培地が硝酸アンモニウム、尿素、リン酸二水素カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及び酵母抽出物を含む、請求項20-26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
人工成長培地が硫酸第一鉄、硫酸亜鉛、塩化マンガン、塩化コバルト、硫酸銅及びホウ酸をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(a)が少なくとも1つの糸状菌の浮遊細胞を人工成長培地に播種するステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
7.5%(体積:体積)の浮遊細胞が人工成長培地に播種される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
人工成長培地が窒素源を含む、請求項20-30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
窒素源が硝酸塩、アンモニウム塩、タンパク質、ペプチド、尿素、窒素を含む廃液、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
人工成長培地が炭素及び窒素を含み、C:Nの比が7.5:1以下である、請求項20-32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
人工成長培地が炭素及び窒素を含み、C:Nの比が7.5:1を超える、請求項20-32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
バイオマットの引張強度が少なくとも0.2kg/マット幅(cm)である、請求項20-34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
(a)肥育池水をpH2.6に調整するステップ;
(b)調整した肥育池水にMK7株(ATCC寄託番号PTA-10698)を播種するステップ;及び
(c)肥育池水の表面に糸状菌バイオマットを産生するステップ、を含み;
ここで、バイオマットが肥育池水から除去した炭素及び窒素を含有し、かつ、糸状菌バイオマットが少なくとも25g乾燥重量/L培地の密度を有し、かつ厚さが1~30mmである、
肥育池水から炭素及び窒素を除去する方法。
【請求項37】
バイオマットの引張強度が少なくとも0.2kg/マット幅(cm)である、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、子嚢菌門(Ascomycota)、接合菌門(Zygomycota)、担子菌門(Basidiomycota)、グロムス門(Glomermycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)の範囲内、例えば、フザリウム(Fusarium)種、アスペルギルス(Aspergillus)種、トリコデルマ(Tricoderma)種、ペニシリウム(Penicillium)種、クモノスカビ(Rhizopus)種を含むケカビ目(Mucorales)の範囲内の種の単離された糸状真菌株、MK7と命名された好酸性糸状真菌及びその子孫、及び他種態様な有用な産物を産生するこのような真菌株から表面発酵を行い、糸状菌バイオマットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの真菌の細胞は、菌糸と呼ばれる、管状の細長く糸状の構造として成長し、菌糸は、複数の核を含んでいる場合もあり、先端で成長することによって伸びていく。これは、細胞の鎖を用いて繰り返し細胞分裂することによって成長する糸状の緑藻類などの同様の外観をした生物とは対照的である。
【0003】
真菌の栄養生長期を構成する菌糸の集合体は、菌糸体(mycelium)(複数形はmycelia)と呼ばれる。菌糸体は、真菌の主体又は主要形態と考えることができ、糸状であると記載されることが多い。成長は、菌糸の無性生殖によって起こり、菌糸は分岐鎖へと成長する。菌糸体が、土又は木材を通って移動し、その基質を食品として使用することができるため、菌糸体は、真菌にとって重要であり、真菌は、果実体(例えば、子実体)、例えば、キノコ、サルノコシカケ、トリュフ、チャワンタケ又はアミガサタケを産生する場合には必要とするだろう。
【0004】
菌糸体は、外酵素を分泌し、外酵素は、生きている組織を殺し(死体栄養性)、次いで、死んだ材料を吸収することができ(腐栄養性)、これらは、単純に、既に死んだ材料を吸収し(これも腐栄養性)、又は生きている組織を食べる(生体栄養性)ことによる。
【0005】
真菌界の全ての門は、糸状種を含んでいると考えられているが、子嚢菌門(Ascomycota)及び接合菌門(Zygomycota)は、特に、多数の糸状種を含む。これらの門のメンバーは、多種多様な製品、例えば、タンパク質、アミノ酸、油類、医薬品(例えば、ペニシリン)、食品(例えばテンペ)、食品添加物、食品防腐剤(例えば、クエン酸)、工業用酵素、及びベーキング、チーズ、ビール及びワインの製造に使用されるものを製造する。
【0006】
最先端の固体基質発酵(SSF)には、多くの明白な欠点がある。例えば、最終生成物(すなわち生成されたバイオマス)は、固体基質と密に混合し、基本的に、一方を他方から分離することが困難である。典型的には、SSFは、真菌バイオマスを低濃度で産生し、変換率が非常に低く、最終的には、収率が低い。SSFは、効果的な発酵のために、特定の水分活性を必要とする。正しい量の水分活性を供給し、維持することは困難であり、実施に費用がかかる。SSF系に空気を含ませることも、達成するのが困難であり、変換効率をさらに悪化させ、システム収率を制限してしまう。不適切な水分活性と換気不良は、物質移動と熱移動を制限し、その結果、過剰に加熱され、酸素の供給が不足する。得られたバイオマスは、無作為に配向したフィラメントを有するものとして特性付けられ、これは、特定の用途(すなわち食物及び/又は動物飼料)において有用性を大きく制限する。
【0007】
Quorn(商標)は、主にフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)糸状菌のバイオマスで構成される製品であり、比較的栄養価の高いマイコプロテインを与える。Quorn(商標)は、最先端の深部発酵系によって生産され、バッチ系連続プロセスで大量生産が可能である。商業的に実行可能ではあるものの、この生産方法論には、多くの明白な欠点がある。商業的な要求を満たすために、Quorn(商標)は、それぞれ3,500万~4,000万ドルのバイオリアクターを使用する。Quorn(商標)システムは、真菌系が主要な指標を超えて成熟するまで、又は別の種によって汚染されるまで、単一のリアクター内で連続的に実行される。この時点で、生産は停止し、リアクターと、関連する全ての配管が空にされ、滅菌され、プロセスを終了するのに数週間がかかる場合もあり、市販製品の供給業者にとって多くの重大な問題が発生する。このような問題は、例えば、(1)生産サイクルを予測することが困難であること、(2)清掃及び生産の停止に要する費用、(3)在庫管理の困難さなどである。さらに、大型のバイオリアクターにおける深部発酵は、通気及び混合に多大な量のエネルギーを必要とする。バイオマスを発酵させる液体からバイオマスを分離するには、遠心分離が必要であり、遠心分離も、労働集約的であり、エネルギーを必要とするプロセスであることが知られている。このプロセスは、さらに、水を多く消費し、多量の廃水を取り扱う必要がある。生産されたバイオマスは、フィラメント長が短いことを特性とし、結合剤を導入することなく食品/飼料製品に直接的に変換する能力を制限し、その後の処理工程は、さらに、費用、困難さを付与し、効率的に管理するのに努力が必要である。
【0008】
現在の糸状菌糸体成長の方法論には、多くの欠点がある。例えば、適切な通気を有する設備と、真菌の成長、その後の成長培地からの真菌の菌糸体の分離(例えば、遠心分離)に必要な装置は、特に、工業規模で真菌の成長を行うには、かなりの資本を必要とする。現行のプロセスは、大量のエネルギーと水の投入を必要とするだけでなく、大きな廃液の生成にもつながる。
【0009】
結果として、糸状菌糸体の糸状菌バイオマット形成への合理化された手法が業界において必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、現在使用されているプロセスの限界を克服する。ここで、糸状菌バイオマットは、換気を必要としない新規な成長培地に所望な真菌株を播種した後に、表面発酵によって生成される。この表面発酵の方法は、様々な範囲の産業にわたって幅広い種類の製品を生産することができる多種多様な真菌種に適用可能である。開発された培地は、迅速な細胞成長を引き起こし、長いフィラメントを含む高密度の糸状菌バイオマットを生成し、少量の廃液を生成し、炭素源、炭素と窒素の比率(C:N)、処理パラメータの関数として生産される糸状真菌バイオマットの操作を可能にする。全体的な影響は、水使用量、エネルギー使用量、設備要件及び二酸化炭素排出量によって測定されるような環境影響を最小限にしつつ、高い生産速度が得られることである。
【0011】
したがって、本開示は、糸状菌を培養し、糸状真菌バイオマットの生産を可能にするのに適した人工培地を提供する。人工培地は、窒素(N)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、炭素(C)、カリウム(K)、硫黄(S)、酸素(O)、水素(H)といった多量栄養素と、鉄(Fe)、ホウ素(B)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、及び亜鉛(Zn)といった微量栄養素とを少なくとも含む。ある場合では、クロム(Cr)、セレン(Se)、バナジウム(V)などのさらなる微量栄養素を用い、微量栄養素を強化する。人工培地は、高いタンパク質:脂質比又は高い脂質:タンパク質比のいずれかを有する糸状菌バイオマットの生成に望ましい様々なC:N比を有する。
【0012】
糸状菌バイオマット生産のための種々の糸状真菌を培養する条件も提供され、そのいくつかは好酸性であり、例えば、フザリウム(Fusarium)、フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))の種及び/又は菌株、及びMK7と命名される糸状真菌株である。種及び/又は菌株に応じて、培地のpHは、約0.68~約8.5の範囲、ある場合には、10.5までである。この方法の一実施形態は、1つ以上の真菌種及び/又は菌株を人工培地に播種すること、及びこの真菌種及び/又は菌株を成長させ、1つ以上の有用な産物を含む糸状バイオマスを生産することを含む。
【0013】
生産された糸状菌バイオマットは、表面発酵によって、嫌気性条件、微好気性条件、好気性条件、又はこれらの組み合わせから得られる。糸状菌バイオマットは、分生子、小分生子、大分生子、分生子殻(pycnidia)、厚膜胞子、菌糸、菌糸の一部、又はこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせの形態で、真菌種及び/又は菌株及び/又はそれらの子孫を含む。
【0014】
また、糸状菌バイオマットを採取する方法、糸状菌によって産生された有用なタンパク質、アミノ酸及び/又は脂質の単離及び/又は精製も提供される。これらのタンパク質、アミノ酸及び/又は脂質は、食品、魚飼料、動物飼料、油、脂肪酸、医薬品、栄養補助食品、殺真菌剤、除草剤、殺酵母剤、殺虫剤、バイオ潤滑剤に、及び他の価値が付加された製品のための原料として使用することができる。
本発明は、以下の態様を含む;
[項1]
糸状菌バイオマットを製造する方法であって、
(a)有効量の少なくとも1種類の糸状菌の浮遊細胞を人工成長培地に播種するステップ、
(b)撹乱のない状態で、所定期間、前記播種済成長培地をインキュベートするステップ、
(c)糸状菌バイオマットを製造するステップ、及び
(d)場合により、前記糸状菌バイオマットを採取するステップを含む、上記方法;
[項2]
糸状菌バイオマットを製造する方法であって、
(a)人工成長培地に、7.5%(体積:体積)の少なくとも1種類の糸状菌の浮遊細胞を播種するステップ、
(b)撹乱のない状態で、所定期間、前記播種済成長培地をインキュベートするステップ、
(c)糸状菌バイオマットを製造するステップ、及び
(d)場合により、前記糸状菌バイオマットを採取するステップを含む、上記方法;
[項3]
前記少なくとも1種類の糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)、フザリウム(Fusarium)種及びクモノスカビ(Rhizopus)種からなる群から選択される、項1又は2に記載の方法;
[項4]
前記少なくとも1種類の糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)又はリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)である、項1~3のいずれか一項に記載の方法;
[項5]
前記少なくとも1種類の糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)である、項1~4のいずれか一項に記載の方法;
[項6]
前記人工培地が約18.6atmの浸透圧を有する、項1~5のいずれか一項に記載の方法;
[項7]
前記人工培地が約0.368のイオン強度を有する、項1~6のいずれか一項に記載の方法;
[項8]
バイオマット細胞密度が少なくとも25g/L(乾燥重量/培地(L))である少なくとも1つの細胞層を含む、糸状菌バイオマット;
[項9]
前記糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)、フザリウム(Fusarium)種及びクモノスカビ(Rhizopus)種からなる群から選択される、項8に記載の糸状バイオマット;
[項10]
前記糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)又はリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)である、項8又は9に記載の糸状バイオマット;
[項11]
前記糸状菌が、MK7と命名された菌株(ATCC寄託番号PTA-10698)である、項8~10のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項12]
フィラメントが、空気:バイオマット界面及び/又はバイオマット:培地界面に対して平行に主に組織化されている、項8~11のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項13]
前記バイオマットが、少なくとも2つの構造的に異なる細胞層を含み、1つの細胞層は人工培地及び少なくとも1つのもう一方の細胞層と接触する、項8~12のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項14]
前記細胞層間の構造差が、層内の細胞の密度である、項8~13のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項15]
前記1つの細胞層が、空気及び少なくとも1つのもう一方の細胞層と接触している、項8~14のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項16]
前記バイオマットが、3つの構造的に異なる細胞層を含む、項8~15のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項17]
前記バイオマットの引張強度が、少なくとも0.2kg/マット幅(cm)である、項8~16のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項18]
細胞密度が少なくとも50g/l又は少なくとも75g/lである、項8~17のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;
[項19]
前記バイオマットは、タンパク質含有量が少なくとも40%である、項8~18のいずれか一項に記載の糸状バイオマット;または
[項20]
前記バイオマットは、脂質含有量が少なくとも39%である、項8~19のいずれか一項に記載の糸状バイオマット。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】A、B:イエローストーン国立公園の温泉環境における天然のMK7株。C、D:高い密度、高い引張強度、凝集性を有する純粋なバイオマスを示す、明確な人工的条件の下で製造されたMK7株バイオマス。E:C、DのMK7株バイオマスの断面。
図2】播種材料を作成するために使用される例示的な10Lバイオリアクター。
図3】A:第2世代の保管培養物から集められた白色菌糸体マットを示すループ。B:MK7株菌糸体マットを含むペトリ皿。
図4】トレイリアクターに播種するために使用される10Lバイオリアクター中でのMK7株培養物の成長及びpH。C:N比が7.5:1である7.5%グリセロール含有量でのMK7-1液体培地。播種材料として使用するための最適な培地は、バイオマスが後期対数成長期にあるとき(矢印の間)、72~90時間の間に作成される。
図5】A:バイオマットを製造するためのトレイリアクターとして使用されるトレイ。トレイ中のルーラーの長さは、31.75cm(12.5インチ)長である。B:39個のプラスチックトレイを保持するために使用されるトレイラックシステムからなるバイオリアクター。リアクター全体が、Saran(登録商標)などの透明プラスチックラップで包まれる。
図6】窒素を制限した条件下(C:N比が40:1)、1.5リットルのMK7-1培地と125g/Lのグリセロールが入った0.25mトレイ中、8日間表面発酵した後に、高脂質生産のために栽培された採取したMK7株バイオマット。
図7】遅延期を示す、浅いトレイ中でのMK7株の典型的な成長パターン。バイオマスの蓄積速度は、比較的遅く(0~1.5日間)、対数成長が始まったときのバイオマット形成時間(矢印、1.5日間)である。7.5%グリセロールを含み、C:N比が30:1のMK7-1培地中で成長させたバイオマット。
図8】3種類の大きさの範囲にあるトレイサイズにおいて、グリセロール上で成長させたMK7株バイオマットの乾燥重量。
図9】栽培期間及び温度の関数としてのMK7株によるリノレン酸産生。4%グリセロール表面発酵、pH2.8及びMK7-1培地。
図10】MK7-1培地+グリセロールを用いて製造した5日齢のMK7バイオマットの断面の透過光顕微鏡画像。A、B:気中菌糸層、遷移領域層及び緻密底部層の3層を示す50倍ズーム。C:2つの別個の層を示す50倍ズーム。
図11】MK7-尿素培地を用いて製造した5日齢のMK7バイオマットの断面顕微鏡写真。A:緻密菌糸体層から外側に伸びる気中菌糸と菌糸体を表すMK7株バイオマットの上部表面。倍率100倍で透過光顕微鏡を用いて生成された画像。B:緻密菌糸体層から外側に伸びる気中菌糸と菌糸体を表すMK7株バイオマットの上部表面。倍率400倍で透過光顕微鏡を用いて生成された画像。C:菌糸と菌糸体を表すMK7株バイオマットの底部表面。倍率400倍で透過光顕微鏡を用いて生成された画像。D:絡み合った繊維組成を表すMK7株バイオマットの緻密な内部。倍率400倍で透過光顕微鏡を用いて生成された画像。
図12】A、B:pH4.1、5%グリセロールを含むMK-7培地を用い、0.25mトレイで6日間成長させたリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)のバイオマット。C:マットにおけるリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)の菌糸の400倍光学顕微鏡画像。
図13】A:4日後、B:6日後の0.25mトレイリアクターで成長させたフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)の画像。MK7-1培地を用い、pH5.0、12.5%グリセロールでバイオマットを成長させた。画像Cは、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で撮影したF.ベネナタム(F.venenatum)の菌糸形態を示す。これらの条件下で、F.ベネナタム(F.venenatum)は、2つのトレイについて、1トレイ当たり平均で71gの乾燥バイオマスを産生した。
図14】A:5g未満のMK7株乾燥重量バイオマス/L(培地:原料混合物)で、リグノセルロース中に完全に組み込まれたMK7株を示す、固体状態発酵(SSF)によって栽培されたMK7株バイオマスの採取。B:小麦わらにランダムに組み込まれたフィラメントを示す、Aの採取されたMK7株バイオマスの顕微鏡画像。C:緻密な(180g・L)凝集性の本質的に純粋なMK7株バイオマスを示す、固体基質表面発酵(SSSF)によるMK7株バイオマット。
図15】12.7×12.7cmトレイ中で7日間、様々な処理をしたMK7株の栽培。エラーバーは、3つのトレイの標準偏差である。
図16】左:12.5%グリセロールと共にpH2.7で8時間培養した後のMK7株の光学顕微鏡画像。右:細胞面積の40~60%と推定される高い割合の脂質を示す、ナイルレッド染色後の蛍光画像。
図17】MK7株によって産生された脂質プロファイル。(左パネル)培地のC:N比の関数としての、直接的なエステル交換における全脂肪酸メチルエステル(FAME)(全燃料能)及び抽出可能な脂質フラクションの平均(n=3)。抽出可能な脂質フラクションの棒グラフ内の棒グラフは、トリアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリド(TAG、DAG、MAG)及び遊離脂肪酸(FFA)といった構成要素を表す。挿入図は、脂質フラクションの主成分であるTAG分子を含むGC-FIDクロマトグラムを示す。(右パネル)全ての脂肪酸からFAMEへの直接的なエステル交換(直接(Direct))から作られた脂質のFAMEプロファイルと、抽出可能な脂質前駆体のみから誘導されるFAME(抽出可能(Extractable))。挿入図は、Directフラクション及びExtractableフラクションのGC-MSクロマトグラムを示す。
図18】初期pH4.8で、Acid Whey Surrogate培地(AWS)で7日間成長させた後のMK7株バイオマット(A、B、C)。材料の糸状性を示すバイオマット(C)の透過光顕微鏡画像(400倍)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書で使用される場合、「~を含む(comprise)」との動詞及びその活用形は、非限定的な意味で、この単語に続く項目を含むが、具体的に述べられていない項目を除外しないことを意味するように、本明細書及び特許請求の範囲で使用される。これに加え、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」による、ある要素への言及は、文脈上、その要素が1つ存在し、1つのみであることを明確に要求する場合を除き、その要素が1つより多く存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「~に由来する」という用語は、供給源を指し、天然に存在する分子、組換え分子、未精製分子又は精製分子を含んでいてもよい。特定の単離された真菌株及び/又はその子孫に由来する真菌は、特定の突然変異を含んでいてもよいが、その由来となる単離された真菌株又はその子孫の顕著な形態学的特性及び生理学的特性の1つ、2つ、もしくはそれより多く、又は全てを依然として保持している。
【0018】
本明細書で使用される場合、「好酸性」との用語は、最適な成長条件が酸性条件下である生物を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、「原料」との用語は、燃料として直接使用することができ、又は別の形態の燃料又はエネルギー生成物に変換することができる任意の再生可能な生物学的材料を指す。バイオマス原料は、エタノール、ブタノール、バイオディーゼル及び他の炭化水素燃料のような燃料を得るために使用される植物材料及び藻類材料である。
【0020】
本明細書で使用される場合、「リグノセルロース系原料」という句は、リグノセルロースを含有する原料を指す。リグノセルロース系原料の非限定的な例としては、農業作物残留物(例えば、小麦わら、大麦わら、稲わら、小粒穀物わら、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維(例えば、トウモロコシ繊維ガム(CFG)、蒸留乾燥穀物(DDG)、コーングルテンミール(CGM))、目的をもって成長させた草作物、エネルギー作物、スイッチグラス、ヘイアルファルファ、サトウキビバガス)、コーンスティープリカー、ビートパルプ非農業バイオマス(例えば、藻類マット、都市樹木残留物)、コーンスティープリカー、ビートパルプ、森林産物及び工業残留物(例えば、軟木の一次/二次粉砕残留物、硬木軟木の一次/二次粉砕残留物、リサイクル紙、パルプスラッジ)、リグノセルロースを含有する廃棄物(例えば、新聞紙、廃棄紙、醸造穀物、都市有機廃棄物、庭塵芥、医療用有機廃棄物、バイオ燃料の生産中に作られる廃棄物(例えば、処理した藻類バイオマス、グリセロール、セルロースエタノールの生産からの残留物、バイオディーゼル生産からの固体残留物)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される場合、特に明記されない限り、「炭水化物」との用語は、少なくとも2個のヒドロキシル基と組み合わせてアルデヒド基又はケトン基を含む、炭素、水素及び酸素の化合物を指す。本発明の炭水化物は、1つ以上の位置で場合により置換又は脱酸素されていてもよい。したがって、炭水化物は、置換及び非置換の単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類を含む。糖は、アルドース又はケトースであってもよく、3個、4個、5個、6個又は7個の炭素を含んでいてもよい。一実施形態では、これらは、単糖類である。別の実施形態では、これらは、ピラノース糖及びフラノース糖であってもよい。これらは、場合により、任意の対応するC位置で脱酸素されていてもよく、及び/又は1つ以上の部分、例えば、水素、ハロ、ハロアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル誘導体、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、シアノ、スルホン酸、チオール、イミン、スルホニル、スルファニル、スルフィニル、スルファモイル、エステル、カルボン酸、アミド、ホスホニル、ホスフィニル、ホスホリル、チオエステル、チオエーテル、オキシム、ヒドラジン、カルバメートで置換されていてもよい。これらの糖単位は、任意の順序で並んでいてもよく、2つの糖単位間の架橋は、約10の異なる様式のいずれかで生じてもよい。その結果、異なる可能な立体異性体オリゴ糖鎖の数は膨大である。一実施形態では、上述の炭水化物は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0022】
本明細書で使用される場合、「単糖」という用語は、3炭素糖(トリオース)、4炭素糖(テトロース)、5炭素糖(ペントース)、6炭素糖(ヘキソース)など、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される糖モノマーを指す。一実施形態では、5炭素糖は、ケトペントース(例えば、リブロース、キシルロース)、アルドペントース(リボース、アラビノース、キシロース、リキソース)、デオキシ糖(デオキシリボース)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、6炭素糖は、アルドヘキソース(例えば、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、イドース、ガラクトース、タロース)、環状ヘミアセタール、ケトヘキソース(例えば、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース)からなる群から選択される。一実施形態では、上述の単糖類は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトースなど、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
一実施形態では、単糖類は、直鎖形態であり、別の実施形態では、単糖類は、環状形態である。
【0024】
本明細書で使用される場合、「発酵性糖」という句は、有用な付加価値が付けられた発酵産物に変換することが可能な糖化合物を指し、その非限定的な例としては、アミノ酸、タンパク質、糖類、炭水化物、脂質、核酸、ポリケチド、ビタミン、医薬品、動物飼料用補助物質、特殊化学品、化学原料、プラスチック、溶媒、燃料、又はその他の有機ポリマー、乳酸、エタノールが挙げられる。開示される方法によって生産され得る特定の付加価値が付けられた製品としては、限定されないが、β-グルカン、乳酸;特殊化学品;クエン酸、コハク酸及びマレイン酸を含む有機酸;溶媒;魚飼料及び動物飼料の補助物質;医薬品;ビタミン;アミノ酸、例えば、リシン、メチオニン、トリプトファン、トレオニン、カロテノイド、ヒト食品、栄養補助食品及びアスパラギン酸;工業的酵素、例えば、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リアーゼ、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ及びキシラナーゼ;及び化学原料が挙げられる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「真菌」又は「真菌類」との用語は、吸収性栄養素を含み、クロロフィルを欠く、真核生物の明確な一群を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「酸性化物質」との用語は、溶媒(例えば水)に添加されると、水素イオン活性が純粋な溶媒(例えば、水)よりも大きな溶液を与える、任意の物質、化学化合物、薬剤及び/又は組成物を指す。この物質は、気体、液体又は固体の形態であってもよい。この物質は、有機物及び/又は無機物であってもよい。酸性化物質の非限定的な例としては、ハロゲン化水素を含む任意の物質及びその溶液(例えば、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)及びヨウ化水素酸(HI))、ハロゲンオキソ酸(例えば、次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、及び臭素及びヨウ素についての対応する化合物)、硫酸(HSO)、フルオロスルホン酸、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、フルオロアンチモン酸、フルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸(HCrO)、スルホン酸、メタンスルホン酸(別名メシル酸、MeSOH)、エタンスルホン酸(別名エシル酸、EtSOH)、ベンゼンスルホン酸(別名ベシル酸、CSOH)、p-トルエンスルホン酸(別名トシル酸CHSOH)、トリフルオロメタンスルホン酸(別名トリフル酸、CFSOH)、カルボン酸(例えば、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸)、ビニル性カルボン酸(例えば、アスコルビン酸、メルドラム酸)、酸塩(例えば、重炭酸ナトリウム(NaHCO)、硫化水素ナトリウム(NaHS)、重硫酸ナトリウム(NaHSO)、リン酸一ナトリウム(NaHPO)及びリン酸二ナトリウム(NaHPO))が挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「中和する(neutralize)」、「中和する(neutralizing)」及び「中和」との用語は、水溶液中での化学反応を指し、酸と塩基が反応して水と塩を生成し、この溶液のpHは、初期pHに戻る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「マンガン供与体」との用語は、水溶液中でマンガンイオン(例えば、マンガン(I)、マンガン(II)及びマンガン(III))を与えることができる組成物又は化合物を指す。マンガン供与体の非限定的な例としては、Mn(CO)10、KMn(CN)NO、MnCl、MnF、MnBr、MnO、MnO、MnCh、MnF、MnBr、MnCO、Mn(CHCOO)、CMnO、MnTiO、[CHCOCH=C(O)CHMn、[C11(CHCOMn、(HCOMn、Mn(CHF、Mn(PH、MnI、(CMn、MnMoO、Mn(NO、Mn(ClO、C3216MnN、MnSO、(CHCOO)Mn、C3216ClMnN、C4828ClMnN、CCHMn(CO)、Mn(C及びC1622Mnが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「pH緩衝物質」との用語は、液体混合物中に添加された場合に、この液体混合物のpHを維持することができる組成物を指し、ここで、pHは、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3.0、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0付近に維持される。例えば、液体混合物のpHは、約0.5~約3.0の範囲内である。糸状好酸性MK7株の好ましいpHは、約2.2~約3.0である。このような組成物は、酸、酸塩、塩基及び塩基塩、例えば、HCl、HNO、HSO、NaHCO、NaHS、NaHSO、NaHPO、NaHPO、NaHSO、KHCO、KHS、KHSO、KHPO、KHPO、KHSO、NaOH、KOH、Mg(OH)、NaCO、KCO、KHCO、CaCO、MgCO、Na2S、KSなどの化合物を含んでいてもよい。
【0030】
本明細書で使用される場合、「好気性条件」との用語は、十分な酸素が供給され、このような条件下で成長する微生物における嫌気呼吸が妨げられ、嫌気性代謝経路が阻害され、嫌気呼吸を妨げる条件を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「微好気性(microaerobic)」及び「微好気性(microaerophilic)」との用語は、相互に置き換え可能に使用され、酸素の供給が制限されるが、生物における細胞呼吸が主に好気呼吸である条件を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、「脂肪酸」との用語は、一方の末端にメチル基を有し、他方の末端にカルボン酸基を有する長鎖分子を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「単離された真菌」との用語は、天然源から得られる真菌集団を含む任意の組成物を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「炭素源」との用語は、一般に、原核細胞又は真核細胞の成長のための炭素源として使用されるのに適した物質を指す。炭素源としては、限定されないが、バイオマス加水分解物、酸ホエイ、スイートホエイ、炭水化物(例えばデンプン、スクロース、多糖類及び単糖類)、セルロース、ヘミセルロース、キシロース及びリグニン、及びこれらの物質のモノマー構成要素及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。炭素源は、種々の形態での種々の有機化合物を含んでいてもよく、限定されないが、ポリマー、炭水化物、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミノ酸、ペプチドなどを含む。これらの炭素源としては、例えば、種々の単糖類、例えば、グルコース、デキストロース(D-グルコース)、マルトース、オリゴ糖類、多糖類、飽和又は不飽和の脂肪酸、サクシナート、ラクタート、アセタート、エタノールなど、又はこれらの混合物が挙げられる。炭素源は、原料又はリグノセルロース系原料、例えば、サトウダイコンパルプであってもよい。光合成生物は、光合成の産物としてさらに炭素源を産生することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「生体触媒」との用語は、反応の活性化エネルギーを下げることによって化学反応を加速させる任意の種類の生体系又は細胞を指し、プロセスで消費されたり、変化したりしない。生体触媒としては、限定されないが、酵母、真菌、細菌、古細菌などの微生物が挙げられるだろう。例えば、本発明の単離された真菌種及び/又は菌株は、タンパク質及び脂質の産生において、又はタンパク質及び脂質を産生するための炭素基質又は有機分子の分解において、生体触媒として使用することができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「発酵」又は「発酵プロセス」との用語は、生物又は生体触媒が、原材料(例えば、炭素源及び栄養素)を含む培地中で栽培され、その生物又は生体触媒が、これらの原材料を産物に変換するプロセスを指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「バイオマス」との用語は、生きている生物又は最近まで生きていた生物(例えば、緑色植物の茎、葉及びデンプン含有部分、又は木材、廃棄物、森林残留物(死んだ樹木、枝及び切り株)、庭塵芥、木材チップ、又は藻類又は動物に由来する物質、及び/又は工業副産物及び廃液、食品廃棄物/スクラップ及び他の単純な糖類)に由来する生体材料を指す。ある場合には、バイオマスは、かなりの部分のタンパク質及び/又は脂質を含有する。他の場合には、バイオマスは、主に、デンプン、リグニン、ペクチン、セルロース、ヘミセルロース及び/又はペクチンで構成される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「セルロース系バイオマス」との用語は、ヒトが食べることができないか、又はほとんど食べることができない植物繊維で主に構成され、顕著な構成要素としてセルロースを含むバイオマスを指す。これらの繊維は、加水分解され、微生物によって発酵され得る様々な糖類を生成し得る。セルロース系バイオマスの例としては、農業又は林産物産業から生じる草、木材、及びセルロースが豊富な残留物が含まれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「糸状バイオマット」及び「糸状菌バイオマット」との用語は、相互に置き換え可能に用いられ、糸状菌によって産生され、糸状菌を含むバイオマットを指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「デンプン」との用語は、消化酵素(例えば、アミラーゼ)によって容易に加水分解されるグルコースのポリマーを指す。デンプンは、通常、ジャガイモ、トウモロコシ穀粒、米穀、小麦穀物及びサトウキビ茎などの植物の特定の部分に濃縮されている。
【0041】
本明細書で使用される場合、「リグニン」との用語は、植物の構造的な剛性の基礎を形成し、多くは植物の木材部分と呼ばれる、主に架橋したフェノール系モノマー化合物(例えば、p-クマリルアルコール、コニフェリルアルコール及びシナピルアルコール)で構成されるポリマー材料を指す。リグニンは、植物の細胞壁の非炭水化物部分であるとも考えられている。
【0042】
本明細書で使用される場合、「セルロース」との用語は、リグニン及び任意のヘミセルロースと組み合わせて、通常は植物細胞壁中に見出される、式(C10のβ-グルコースの長鎖ポリマー多糖炭水化物を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、「ヘミセルロース」との用語は、いくつかのヘテロポリマーのいずれかであってもよい、ある種の植物細胞壁の多糖類を指す。これらの多糖類としては、キシラン、キシログルカン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、グルクロンオキシラン、ルコマンナン及びガラクトマンナンが挙げられる。ヘミセルロースのモノマー構成要素としては、限定されないが、D-ガラクトース、L-ガラクトース、D-マンノース、L-ラムノース、L-フコース、D-キシロース、L-アラビノース及びD-グルクロン酸が挙げられる。この種の多糖類は、セルロースと共にほぼ全ての細胞壁に見出される。ヘミセルロースは、セルロースよりも重量が小さく、熱水又はキレート化剤によって抽出することができないが、アルカリ水溶液によって抽出することができる。ヘミセルロースのポリマー鎖は、架橋繊維の網目構造中のペクチン及びセルロースに結合し、ほとんどの植物細胞の細胞壁を形成する。
【0044】
本明細書で使用される「ペクチン」との用語は、酸及びキレート化剤で処理することによって抽出することができる、ある種の食部細胞壁の不均一多糖類を指す。典型的には、ペクチンの70~80%が、α-(1-4)結合したD-ガラクツロン酸モノマーの直鎖として見出される。ペクチンのより小さいRG-1フラクションは、(1-4)結合したガラクツロン酸と(1-2)結合したL-ラムノースを交互に含み、かなりの量のアラビノガラクタン分岐がラムノース残基から生じている。他の単糖類、例えば、D-フコース、D-キシロース、アピオース、アセル酸、Kdo、Dha、2-O-メチル-D-フコース及び2-O-メチル-D-キシロースは、RG-IIペクチンフラクション中に見出される(2%未満)か、又はRG-Iフラクション中の微量構成成分として見出される。D-ガラクツロン酸に関連するそれぞれの単糖類の割合は、個々の植物及びその微小環境、種、成長周期中の時期に応じて変わる。同じ理由から、ホモガラクツロナン及びRG-1フラクションは、GalA残基上のメチルエステル含量、GalA及び中性糖のC-2位及びC-3位におけるアセチル残基エステル含量が大きく異なる可能性がある。
【0045】
本明細書で使用される場合、「通性嫌気性生物」又は「通性嫌気性微生物」又は「通性嫌気性生体触媒」との用語は、酸素の存在下又は非存在下で成長することができる生物、例えば、本発明で単離される真菌株であると定義される。
【0046】
本明細書で使用される場合、「蒸留乾燥粒子」との用語は、DDGと略記され、発酵後に残留する固体を指し、通常、消費されていない原料固体、残留する栄養素、タンパク質、繊維及び油、及び生体触媒の細胞破片からなる。この用語は、発酵からの可溶性残留物質も含んでいてもよく、次いで、「蒸留乾燥粒子及び可溶物」(DDGS)と呼ばれる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「栄養素」との用語は、成長し、生存するために生物又は生体触媒によって使用される化学化合物であると定義される。一例として、栄養素は、炭水化物及びアミノ酸などの有機化合物又は金属塩などの無機化合物であってもよい。
【0048】
本明細書で使用される場合、「複合栄養素」との用語は、タンパク質、DNA、脂質及び炭水化物の産生のために生物又は生体触媒によって使用される主としてモノマー有機化合物を含む栄養源と定義される。「豊富な栄養素」との用語は、複合栄養素との用語と、全体にわたって相互に置き換え可能に使用される。典型的には、複合栄養素又は豊富な栄養素は、屠殺場廃棄物、乳製品廃棄物又は農業残留物などの生体材料に由来する。複合栄養素又は豊富な栄養素としては、限定されないが、酵母抽出物、トリプトン、ペプトン、大豆抽出物、コーンスティープリカー、大豆タンパク質及びカゼインが挙げられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「好気性代謝」との用語は、炭水化物からエネルギーを、典型的にはATPの形態でエネルギーを生成するために酸素が使用される生化学的プロセスを指す。典型的な好気性代謝は、解糖及びTCAサイクルによって起こり、1個のグルコース分子は酸素の存在下で完全に二酸化炭素へと代謝される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「嫌気性代謝」との句は、酸素が、NADHに含まれる電子の最終的な受容体ではない生化学的プロセスを指す。嫌気性代謝は、酸素以外の化合物が末端電子受容体として機能する嫌気呼吸と、NADHからの電子が「発酵経路」を介して還元生成物を生成するために利用される発酵とに分けることができる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「微生物発酵」との語は、有機物質を分解し、微生物によって製品に再び組み立てるプロセスを指す。この物質には、限定されないが、グルコース、スクロース、グリセロール、デンプン、マルトデキストリン、ラクトース、脂肪、炭化水素、タンパク質、アンモニア、硝酸塩及びリン源が含まれるだろう。製品としては、限定されないが、専門品(限定されないが、マイコプロテイン製品、大豆製品、テンペなどを含む)、従来からある商品(限定されないが、パン、ビール、ワイン、スピリッツ、チーズ、乳製品、発酵した肉及び野菜、キノコ類、醤油及び酢を含む)、農業製品(限定されないが、ジベレリン、殺真菌剤、殺虫剤、サイレージ、L-グルタミン、L-リシン、L-トリプトファン、L-トレオニン、L-アスパラギン酸(+)、L-アリールグリシンなどのアミノ酸を含む)、酵素(限定されないが、炭水化物、セルロース、リパーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼを含む)、燃料及び化学原料(限定されないが、アセトン、ブタノール、ブタンジオール、イソプロパノール、エチルアルコール、グリセロール、メタン、グリセロール、酪酸、メタン、クエン酸、フマル酸、乳酸、プロピオン酸、コハク酸及びL-グルタル酸、又はこれらのいずれかの酸の塩を含む)、ヌクレオチド、有機酸、医薬及び関連する化合物(限定されないが、アルカロイド、抗生物質、ホルモン、免疫抑制剤、インターフェロン、ステロイド、ワクチン、ビタミンを含む)、ポリマー(限定されないが、アルギナート、デキストラン、ゲラン、ポリヒドロキシブチラート、セレログルカン、キサンタンを含む)が挙げられるだろう。発酵に使用される微生物は、原核微生物(細菌、シアノバクテリアを含む)及び真核微生物(酵母、真菌及び藻類を含む)の両方を含み得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「エネルギー作物」との句は、バイオ燃料を製造するために使用される低コストかつ低保守の採取物として栽培される植物、又はそのエネルギー含量のために直接的に利用される植物を指す。市販のエネルギー作物は、典型的には高密度に植えられ、高採取作物種であり、エネルギー作物を焼き、発電する。熱帯の草類、例えば、ミスカンサス(Miscanthus)及びペニセタム・プルプレウム(Pennisetum purpureum)(エレファント・グラスとして知られる)と同様、木質作物、例えば、ウィロー又はポプラは、広く利用されている。
【0053】
本明細書で使用される場合、「表面発酵」との用語は、使用される微生物が、さらなる支えを必要とせずに発酵培地の表面上で成長する発酵を指す。培地は、典型的には、自由に流動する水性培地である。理論に束縛されないが、糸状バイオマットは、好気性代謝、微好気性代謝及び/又は嫌気性代謝のいくつかの組み合わせから生じると考えられている。例えば、バイオマットの表面は好気呼吸に頼っていると考えられるが、一方、バイオマットの底は、微好気性から非常に嫌気性であるかもしれない。
【0054】
本明細書で使用される場合、「固体基質表面発酵」との用語は、使用される微生物が、発酵培地に沈められた固体によって供給される炭素及び栄養素を用い、発酵培地の表面上で成長する発酵を指す。ある実施形態では、バイオマットの一部分が部分的に沈められてもよい。
【0055】
本明細書で使用される場合、「深部発酵」との用語は、使用される微生物が発酵培地内に沈んだ状態で成長する発酵を指す。ペニシリン深部発酵技術のように、このカテゴリーには多くの発酵が含まれる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「固体状態発酵」との用語は、目的のために選択された固体支持体上で成長させた微生物の培養物を指す。例えば、微生物を播種した後、平らな床の上に、米又は小麦ふすまのような固体培養基質を堆積させる。次いで、この基質を、温度制御された室内に数日間放置する。固体状態発酵は、水分レベルが低い(水分活性が低い)培養基質を使用する。培地(例えば、米又は小麦ふすま)は、水で飽和されているが、ほとんど自由に流動することはない。固体培地は、基質と、発酵が行われる固体支持体の両方を含む。
【0057】
本明細書で使用される場合、「栄養補助食品」との用語は、健康上の利点又は薬効を有する物質を指す。ある場合では、栄養補助食品は、食飼料を補うだけでなく、疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療を助ける。「栄養補助食品(nutraceutical)」との用語は、1989年に、「Foundation of Innovation in Medicine(FIM)」の創設者兼会長であるStepen DeFelice(MD)によって、「栄養(nutrition)」と「医薬品(pharmaceutical)」を合わせて作られた。
【0058】
本明細書で使用される場合、「子孫」とは、どのように、又はどこで生成するかによらず、ある菌株に由来する系統別の任意の子孫及び全ての子孫をいう。本明細書で使用される場合、「子孫」の定義に含まれるのは、単離/寄託された菌株及びその子孫の任意の突然変異体及び全ての突然変異体であり、このような突然変異体は、単離/寄託された菌株及びその子孫の生理学的特性及び/又は形態特性のうち少なくとも1つを有する。
【0059】
糸状菌バイオマットの成長のための人工培地
糸状菌バイオマットを生産するために、人工培地が使用される。人工培地は、天然に見出されるものと比較して、細胞周期時間を増加させ(すなわち、成長速度を増加させ)、細胞密度を増加させるために必要な栄養素を与える。人工培地は、窒素(N)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、炭素(C)、カリウム(K)、硫黄(S)といった多量栄養素を少なくとも含む。炭素源を補うために、微量栄養素、例えば、鉄(Fe)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、銅(Cu)、セレン(Se)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)も、培地に添加することができる。炭素源、例えば、リグノセルロース系原料、スイートホエイ及び/又は酸ホエイは、典型的には、さらなる微量栄養素が必要とされないように、十分な微量栄養素を与える。
【0060】
さらなる栄養素の添加を、人工培地に加えることができる。このような栄養素の例は、炭水化物(例えば、単糖類、多糖類)、アミノ酸供与体(例えば、アミノ酸、ポリペプチド)、及びこれらの組み合わせである。これに加えて、リグノセルロース系炭素源の前処理を容易にすることができる化合物を人工培地に添加することもできる。このような化合物としては、限定されないが、酸性化物質、マンガン供与体、栄養素及びpH緩衝物質が挙げられる。
【0061】
人工培地は、液体含浸固体、液体又はゲルの形態であってもよい。人工培地は、固体炭素基質(例えば、リグノセルロース原料又は他の固体炭素基質)を覆う液体の形態であってもよい。ここで、固体基質は、液体表面より下に沈められ、その結果、バイオマットは、沈められた固体に由来する炭素と、固体基質表面発酵(SSSF)として知られるプロセスとを用い、液体表面で成長する。真菌から分泌された細胞外酵素は、固体炭素基質を分解し、可溶性の炭素を放出し、バイオマット/水界面又はこの界面付近で、この可溶性の炭素をバイオマットが吸収することができる。得られたバイオマットは、沈められた固体基質の上にある液体層の上にマットを形成する。一般に、沈められた炭素源より上にある液体層は、深さが約0.01~1.0cmであるべきである。液体が少なすぎると、マットが形成されず、固体状態発酵及び/又は深部発酵が起こる。液体が多すぎると、変換が非効率となり、バイオマットの成長周期が低下する。
【0062】
人工培地の炭素源として使用可能な多種多様な物質が存在する。これらの物質としては、糖類(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、アラビノース、マンノース、キシロース、フルクトースなど)、グリセロール、デンプン、炭水化物、グリセロール、ホエイ、リグノセルロース系原料、廃液(例えば、酸ホエイ)及びこれらの組み合わせが挙げられる。適切なリグノセルロース系原料としては、例えば、スイッチグラス、エネルギー作物、森林硬木及び他の産物、醸造使用済穀物、小麦わら、草、葉、AFEX作物残留物、嫌気性消化物、農業作物残留物(例えば、大麦わら、稲わら、小粒穀物わら、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維(例えば、トウモロコシ繊維ガム(CFG)、蒸留乾燥穀物(DDG)、コーングルテンミール(CGM))、ヘイアルファルファ、サトウキビバガス、非農業バイオマス(例えば、藻類マット、都市樹木残留物)、工業残留物(例えば、軟木の一次/二次粉砕残留物、硬木軟木、一次/二次粉砕残留物、リサイクル紙、パルプスラッジ)、リグノセルロースを含有する廃棄物(例えば、新聞紙、廃棄紙、醸造穀物、都市有機廃棄物、庭塵芥)、医療用有機廃棄物、バイオ燃料の生産中に作られる廃棄物(例えば、処理した藻類バイオマス、セルロースエタノールの生産からの残留物、バイオディーゼル生産からの固体残留物)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。適切な廃液としては、農業廃棄物、都市有機廃棄物、バイオ燃料の生産中に作られる廃棄物(例えば、セルロースエタノールの生産からの残留物)、藻類バイオマス、醸造使用済穀類及び/又は廃液(例えば、糖蜜、コーンシロップなど)、工業廃棄物(例えば、フェノール及び他の芳香族物質などの有機分子)、繊維、例えば、β-グルカン、セルロース、キチン、ヘミセルロース及びポリデキストロース、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。単糖類は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトースなど、及びこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせを包含し、ペントースは、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、及びこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせを包含し、一方、ヘキソースは、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グルコース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、及びこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせからなる群から選択される。二糖類は、スクロース、ラクトース、マルトース、及びこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせを包含し、一方、多糖類は、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、及びこれらの任意の組み合わせ及び全ての組み合わせを包含する。
【0063】
単離された真菌株を成長させるために使用される炭素源は、炭素源の乾燥重量の約5重量%~約100重量%、約10重量%~約95重量%、約20重量%~約90重量%、約30重量%~約85重量%、約40重量%~約80重量%、約50重量%~約75重量%、又は約60重量%~約70重量%の量でセルロースを含んでいてもよい。又は、セルロース系炭素源は、炭素源の乾燥重量の少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、又は少なくとも約70重量%の量でセルロースを含む。他の場合には、単離された真菌株を成長させるために使用されるセルロース系炭素源は、リグニン、ヘミセルロース、又はこれらの組み合わせから選択される構成要素を約1重量%~約50重量%、約5重量%~約40重量%、又は約10重量%~約30重量%含む。本発明のある実施形態では、微生物を成長させるために使用されるセルロース系炭素源は、リグニン、ヘミセルロース、又はこれらの組み合わせから選択される構成要素を少なくとも約1重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約20重量%、又は少なくとも約30重量%含む。
【0064】
適切な窒素源としては、尿素、硝酸アンモニウム(NHNO)、硫酸アンモニウム(NHSO)、硝酸塩(例えばKNO)、アンモニア塩(すなわちNHSO)及び有機N(例えばタンパク質、ペプチド)、窒素を多く含む産業廃液、コーンスティープリカー、及びこれらの組み合わせが挙げられる。純粋な尿素窒素源を用いて調製された人工培地は、尿素と硝酸アンモニウムを組み合わせて調製した人工培地よりも糸状菌の成長が約25%速い(すなわち、それぞれ、70g/m/日 対 52g/m/日)。尿素と硝酸アンモニウムとの組み合わせも使用することができる。硫酸アンモニウムが唯一の窒素源として使用される場合、尿素単独又は尿素の組み合わせを用いて生産されるよりもはるかに遅いが、これも成長は起こる。硝酸アンモニウムのみを使用することもできるが、この窒素源も、尿素の組み合わせで見られるような激しい成長を引き起こさない。
【0065】
人工培地中の炭素と窒素の比率(C:N)の操作は、真菌種及び/又は菌株によって産生されるバイオマットの組成に重要な影響を及ぼす。典型的には、7.5:1以下のC:N比などの低いC:N比は、脂質と比較してタンパク質及びアミノ酸の産生を助長する。一方、C:N比が7.5:1を超えると、タンパク質と比較して脂質の産生が促進される。多くは、人工培地が、少なくとも10:1、15:1、20:1、26:1、30:1、40:1又は50:1のC:N比を有する場合に、脂質の形成が特に促進される。
【0066】
人工培地のpHは、所望の生成物及び使用される真菌種及び/又は菌株に基づいて決定される。フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))、及びMK7と命名される単離された糸状好酸性真菌株、及びこれらの組み合わせは、2.0~7.0のpH範囲、最適には、3.5未満のpHで高脂質産生が起こる。高タンパク質産生は、主にC:N比の関数として影響を受けるが、少なくとも2.7、好ましくは4.5~5.5のpHを必要とする。
【0067】
単離された真菌種及び/又は菌株を含む培養物及び組成物
本発明は、単離された真菌種及び/又は菌株の純粋な培養物、又は2種類の真菌種及び/又は菌株の純粋な共培養物を使用するか、又は3種類以上の真菌種及び/又は菌株の実質的に純粋な培養物から構成される。多数の単離された糸状真菌種及び/又は菌株、例えば、フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Psedofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ピチア spp.(Pichia spp)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))の種及び/又は菌株、及びこれらの組み合わせを使用することができる。生物学的に純粋な培養物/共培養物/実質的に純粋な培養物は、MK7と命名される単離された糸状好酸性真菌株(ATCC Accession Deposit No.PTA-10698として寄託されている)、又はその活性な突然変異体も含んでいてもよい。遺伝的に改変された糸状菌の生物学的に純粋な培養物も使用することができる。純粋な真菌種及び/又は菌株及び/又はその子孫は、典型的には、分生子、小分生子、大分生子、分生子殻(pycnidia)、厚膜胞子、菌糸、菌糸の一部、菌糸体、又はこれらの組み合わせの形態である。
【0068】
糸状好酸性MK7真菌株は、好酸性真菌の新しい菌株であり、リグノセルロース系炭素源、炭水化物(例えば、酸ホエイ)及び藻類バイオマスなどの炭素源を、タンパク質及び脂質を含む糸状菌バイオマットに直接的に変換することができる。
【0069】
人工培地及び単離された真菌株及び/又はその子孫を使用して有用な製品を生産する方法は、
(a)容器中、真菌種又は菌株及び/又はその子孫のうち1つ以上を、糖、グリセロール、リグノセルロース系原料、炭素を含有する農業、工業及び都市廃棄物、炭水化物、酵母抽出物、カサミノ酸、酸ホエイ、スイートホエイ及び/又はこれらの組み合わせからなる群から選択される炭素源を含む人工培地に播種することであって、人工培地が、表面発酵によって、上述の単離された真菌株の成長を補助することができる、播種すること、
(b)上述の単離された真菌株を上述の人工培地中で成長させ、糸状菌バイオマットを生産すること、
(c)上述の糸状菌バイオマットを採取すること、並びに
(d)場合により、上述の糸状菌バイオマットからの産物を単離し、精製し、及び/又は生産することを含む。
【0070】
成長は、好気性条件下で生ずる。別の実施形態では、成長は、微好気性条件下で生ずる。又は、好気性条件、微好気性条件及び嫌気性条件の任意の組み合わせの結果として、例えば、表面発酵によって、成長が生じる。
【0071】
有用な製品は、タンパク質が豊富なバイオマス、バイオマット及び/又は糸状菌バイオマットである。例えば、開示した真菌及び方法を用いて産生された有用な産物としては、限定されないが、食品、魚飼料製品、動物飼料製品、バイオプラスチック及び/又はこれらの前駆体に使用するためのタンパク質バイオマットが挙げられる。ここでは、成長は、好気性条件、微好気性条件及び嫌気性条件、又はこれらの任意の組み合わせによって生じる。
【0072】
多数の好酸性真菌種及び/又は菌株、例えば、フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))、MK7と命名された単離された糸状好酸性真菌株、及びこれらの組み合わせ、及び/又は子孫は、汚染がほとんどないか、又は全くない状態で、抗生物質が存在しない状態で培養することができる。典型的には、人工培地中の汚染は、細菌、他の望ましくない真菌(例えば、酵母、カビ)、藻類、植物、昆虫、及びこれらの混合物などの他の生物によって引き起こされる。
【0073】
フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))、フィラメントを産生することができる酵母(すなわち、ヤロウイア(Yarrowia))、MK7と命名された単離された糸状好酸性真菌株、及びこれらの組み合わせの単離された真菌種及び/又は菌株を含む少なくとも1つの組成物も開示される。組成物は、さらに、真菌種及び/又は菌株の成長を補助する人工培地と、場合により、酸性化物質、マンガン供与体、栄養素の添加及び/又はこれらの混合物のうち1つ以上を含んでいてもよい。
【0074】
表面発酵
本開示は、人工培地に、所望の糸状真菌種及び/又は菌株の浮遊細胞の懸濁物を播種することによって、表面発酵を開始する。播種材料リアクターからの播種材料培養物を、所望の期間内に成熟したバイオマットを産生する濃度で、人工培地に加える。理論的には、この培地に、1個の細胞を播種することができた。しかし、このような播種は、成熟したバイオマットを発達させるためには、非常に厳しい滅菌条件及び著しく長い期間を必要とする。典型的には、成長培地1リットル当たり、0.5~1.0gの細胞を播種すると、3~6日でバイオマットが産生されるだろう。例えば、使用する培地の7.5%(体積対体積)で、約10g/Lの細胞を含有する播種材料を加えると、3~6日でバイオマットが産生されるだろう。人工培地にバブリング又は他の手段によって外部から酸素が導入されない場合、周囲条件又はほぼ周囲条件から十分な酸素を集めることができる。
【0075】
理論に束縛されないが、酸素の存在下で細胞成長がはるかに迅速であるため、より多くの酸素が存在する人工培地表面に存在する分生子は、迅速に成長し、菌糸体バイオマットの形成が始まると考えられる。酸素濃度は、人工培地の表面よりわずか数マイクロメートル下でもかなり低く、その結果、この領域に位置する真菌細胞は、ストレス環境におかれると考えられる。ストレスは、細胞外多糖類の分泌を増加させることが知られており、これは「粘着性」表現型を有し、そのため、表面で増殖する細胞に付着することによって、糸状菌バイオマットの迅速な形成を補助するだろう。しかしながら、基質濃度も、有意な効果を有する。例えば、炭素基質濃度が4%未満である場合、糸状菌バイオマットは形成されない。マットを形成するための初期の環境ストレスによって、ストレスを受けたマット(すなわち、ストレスを受けた生物によって分泌される毒素を含有するマット)が作られると必ずしも推測するわけではないことに留意すべきである。
【0076】
典型的には、人工培地を含む浅いトレイは、使用される真菌種及び/又は菌株に適した温度、湿度及び空気流が制御された条件下で表面発酵に使用される。最適な糸状菌バイオマットの成長のために、滅菌条件が維持される。十分な空気流が維持され、人工培地の表面を撹拌して真菌菌糸の成長を乱すことなく、微生物の呼吸から発生した熱及び二酸化炭素を除去し、酸素を供給する。
【0077】
一般に、播種から2日後に、「スキン」が人工培地表面に形成し始める。この「スキン」は、初期の糸状菌バイオマットであり、多くは、気中菌糸と、人工培地と接触した菌糸を含み、成長し、細胞密度が増加し続ける。典型的には、播種してから3~6日後に、得られた糸状菌バイオマットは、厚さが1~30mmであり、引き裂かれることなく取り扱うのに十分な引張強度と構造一体性を有する。
【0078】
産生された糸状菌バイオマットは、天然には見られない、上述のような構造を有する。第1に、天然に形成された糸状菌バイオマットは、純粋な培養物/共培養物/実質的に純粋な培養物から構成されたものではない。典型的には、天然に形成されるバイオマットは、少なくとも1つの糸状真菌種に加え、様々な種類の藻類及び/又は細菌を含み、人工マイクロエコシステムを形成する。天然に形成される真菌バイオマットの例は、菌根真菌マットであり、大部分は土壌に分散した形態で存在し、植物の根、地衣類(例えばトナカイ苔及び固着地衣)、及びキノコ(例えば、アルミラリア・オストヤエ(Armillaria ostoyae))と結合している。
【0079】
第2に、本明細書に記載の方法及び技術を用いて形成されたバイオマットは、天然に形成されるバイオマット中に見られる複数の種を考慮しても、天然で発見されるバイオマットよりも顕著に大きな細胞密度を有する。産生された糸状菌バイオマットは、非常に緻密な傾向があり、典型的には、1リットル当たり50~200グラムである。糸状菌の成長のための天然のプロセス及び深部でのプロセスは、一般に、1リットル当たり約15グラムのバイオマス密度を生じる。固体状態発酵プロセスによって、基質と少量の真菌の混合物が得られる(すなわち、5%未満の真菌組成物)。固形分の割合という観点から、本明細書に開示する方法は、固形分が一般に5~20%の範囲の糸状菌バイオマットを生成した。これとは対照的に、糸状菌の成長のための天然のプロセス及び深部でのプロセスは、一般に、固形分の割合が1.5%未満である。達成された密度、糸状性、及びこれらの緻密なバイオマット中に見出される細胞外マトリックスの1つの結果は、乾燥時に凝集性のマットとして維持される能力である。このことは、他の乾燥糸状菌バイオマットで通常見られる粉末状及び/又は非凝集性の形態とは著しく対照的である。
【0080】
第3に、本明細書に記載の方法及び技術を用いて形成されたバイオマットは、天然に存在するバイオマットと比較して高い引張強度を有し、それらを持ち上げて破損することなく移動させることができる。
【0081】
第4に、本発明のバイオマットは、所定の構造を有し、ある場合では、この構造は、空気:バイオマット界面にほぼ平行に整列した長いフィラメントで構成される単一の緻密層を含む。ある糸状菌バイオマットでは、(a)緻密底部層と(b)気中菌糸層の少なくとも2つの層が存在する。ある糸状菌バイオマットでは、(a)緻密底部層、(b)気中菌糸層、(c)遷移領域層の少なくとも3つの構造的に異なる層を見ることができる(図10A及びBを参照)。気中菌糸を有する系と、3層を有する系では、気中菌糸層は、典型的には、最も顕著に支配的な層であり、その後に緻密底部層があり、存在する場合には遷移領域層が最も小さい。それぞれの層は、通常、他の層と比較して、これに関連する特徴的な細胞密度を有する。例えば、気中菌糸層は、バイオマットの底部層よりも著しく密度が低い(例えば、図10A参照)。気中菌糸が生成する場合、気中菌糸は、主にバイオマット:空気界面及び/又はバイオマット:培地界面に垂直に配向する。全てのバイオマスについて、緻密層は、バイオマット:空気界面及び/又はバイオマット:培地界面と平行に整列するようにあらかじめ配置された長いフィラメントで構成される。さらに、得られるバイオマットは、少なくとも大部分の真菌バイオマスで構成されており、好ましい実施形態では、本質的に残留原料が存在せず、本質的に純粋な真菌バイオマスである。
【0082】
気中菌糸が作られる場合には、例えば、グリセロールを基質として使用する場合に、気中菌糸層と緻密底部層との間に多くの鍵となる識別因子も存在する。長さに関しては、気中菌糸は、緻密底部層中に見られるものよりも長くなる傾向がある。個々の気中菌糸の密度及び分布は、緻密層の菌糸体と結合しているものよりも少ない。気中菌糸は、大気に向かって並べられている末端で、垂直方向を向く傾向がある。すなわち、気中菌糸は、表面培地に対して相対的に垂直に成長する傾向がある。一方、緻密層の菌糸は、空気:バイオマット界面及び/又はバイオマット:培地界面に対して主に平行な方向に成長する傾向がある。気中菌糸の相対密度が低いことと、気中菌糸が長いこと、垂直方向を向いていることとを組み合わせると、酸素を最大限に取り入れることを示唆している。さらに、気中菌糸層には、余分な細胞マトリックスがほとんどないか、全くない。対照的に、緻密底部層には多くの細胞外マトリックスを見ることができる。
【0083】
バイオマットの気中層は、形成されれば、バイオマットの成長を促進するようである。気中層が破壊された気中層破壊領域ができると、バイオマットの加速成長に悪影響を与える。破壊には、固体物体との接触、水滴との接触、バイオマットが成長する液体培地の撹拌により生じる亀裂又は裂け目が含まれる。典型的には、破壊されたバイオマット領域は、破壊の原因が取り除かれたとき、それ以上は成長しない。一般に、バイオマットの成長は、好気性条件、微好気性条件及び嫌気性条件、又はこれらの任意の組み合わせによって生じる。
【0084】
バイオマットは、通常、使用される種/菌株と所望の生成物に応じて、播種してから3~12日間で採取されるが、もっと後の採取時期も可能である。糸状菌バイオマットは、多くの異なる方法論によって採取することができ、この方法論は、すすぎ、物理的な処理(サイズを小さくする、加圧処理、脱水など)、生存手順の不活性化、温度サイクリング、バイオマス構成要素の抽出及び/又は分離、変換及び/又は異なる系への導入が挙げられるだろう。ある実施形態では、糸状菌バイオマットは、採取され、水ですすがれ、次いで、温度制御されたオーブン中で乾燥され、多くの酵素を不活化し、バイオマット内の生化学的形質転換を制限するか、又は凍結させる。
【0085】
糸状菌は、組換えタンパク質生産及び発現プラットフォームのための宿主細胞として非常に有用であると認識され、バイオマス及び/又は糸状菌バイオマット内で発現される有用な産物を生じる。このようなプロセスで現在使用されているか、又は使用することが提案されている糸状菌の例としては、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、アクレモニウム・クリソゲナム(Acremonium chrysogenum)、トリポクラジウム・ゲオデス(Tolypocladium geodes)、ムーコル・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)及びアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)が挙げられる。さらに、開示されたようにバイオマットを産生するために使用される微生物種は、転写を含めた遺伝子発現の操作によって、系を発現/抑制するように遺伝子改変することができ、その結果、天然の形態又は改変されていない形態に見出される化合物又は化学物質を過剰に発現するか、又は発現しない。既存の化学物質を過剰発現させ、天然に存在しない系を発現するか、又は天然形態に一般的に存在する系を抑制するための真菌系の使用及び操作は、当該技術分野で公知であり、すなわち、アスペルギルス spp.(Aspergillus spp.)、ペニシリウム spp.(Penicillium spp.)、リゾプス spp.(Rhizopus spp.)、トリコデルマ spp.(Trichoderma spp.)及び酵母、例えば、ピチア spp.(Pichia spp.)である。開示されたバイオマット及び方法を使用して生産された有用な製品としては、限定されないが、医薬、栄養補助食品、工業用途のビルディングブロック化学物質、医薬品、酵素及び/又はそれらの前駆体を発現するために使用されるバイオマス及び/又はバイオマスバイオマットが挙げられる。
【0086】
好酸性真菌種及び/又は菌株
本発明で使用される好酸性真菌種及び/又は菌株は、以下の識別する特性を少なくとも有する、リグノセルロースを分解する糸状真菌株及び/又はその子孫である。
(a)単離された菌株は、好酸性であり、約0.68~約8.5の範囲のpHで成長することができ、
(b)人工培地から、好気性条件、微好気性条件、嫌気性条件、又はこれらの組み合わせで、表面発酵によって、タンパク質と脂質を含む糸状バイオマットを生成する。ここで、人工培地の炭素源には、炭水化物、リグノセルロース系原料、炭素含有廃棄物(例えば酸ホエイ)、又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0087】
単離された種及び/又は菌株は、さらに、典型的には、以下のさらなる識別する特性のうち1つ以上を少なくとも含む。
(c)タンパク質、脂質アミノ酸、酵素、核酸(ヌクレオチド)、炭水化物、繊維(例えばβグルカン)、ポリケチド、アルカロイド、顔料及び抗生物質などを生産する能力。例としては、限定されないが、エステル、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、核酸/ヌクレオチド:DNA/RNA、プリン、ピリミジン、オレイン酸、パルミトレイン酸、β-グルカン、キチン、β-カロテン、グリコシド、フェノール類、18ページ、段落[80]に記載される炭素源及び藻類原料からのテルペノイド、種々の嫌気性条件、好気性微好気性条件及び/又はこれらの任意の組み合わせでの、バイオ燃料の生産中に作られる廃棄物(例えば、処理した藻類バイオマス、グリセロール)からのものが挙げられる。
(d)配列番号1に対して少なくとも98%の同一性を共有する18S rRNA及びITS領域DNA配列を含む。
【0088】
適切な糸状好酸性真菌種及び/又は菌株としては、フシスポリウム(Fusisporium)、プソイドフザリウム(Pseudofusarium)、ジベレラ(Gibberella)、スポロトリチェラ(Sporotrichella)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Triocoderma)、ケカビ.sp(Mucorales sp.)内の種(例えば、リゾプス sp.(Rhizopus sp.))、及びMK7と命名される単離された糸状好酸性真菌株、及びこれらの組み合わせ、及び/又はこれらの子孫が挙げられる。MK7と命名された菌株は、ATCC Accession Deposit No.PTA-10698として寄託されている。
【0089】
好酸性真菌種及び/又は菌株及び/又はその子孫は、最大で約7.0、約6.5、約6.0、約5.5、約5.0、約4.5、約4.0、約3.5、約2.0、約1.8、約1.6、約1.4、約1.2、約1.0、約0.9、約0.8、又は約0.7、又は約0.6、又は約0.5の低pHで成長することができる。例えば、真菌株は、約0.68~約2.0の範囲の低pHで成長することができる。
【0090】
使用される好酸性種及び/又は菌株は、上述の低pH範囲で成長した糸状菌バイオマット内で、高品質の脂質とタンパク質を産生することができる。例えば、単離された菌株は、上述の低pHで、当該技術分野で既に報告されているものよりも速い速度で、炭素源を脂質に変換することができ、例えば、既に単離されたFusarium菌株が記載されている(Nairnら、1985、Bhatiaら、2006及びNaqviら、1997参照)。使用される好酸性種及び/又は菌株は、pH2.5で10日間インキュベートした後、少なくとも0.04脂質(g)/炭素源(g)、0.05脂質(g)/炭素源(g)、0.06脂質(g)/炭素源(g)、0.07脂質(g)/炭素源(g)、0.08脂質(g)/炭素源(g)、0.1脂質(g)/炭素源(g)、0.12脂質(g)/炭素源(g)、0.14脂質(g)/炭素源(g)、0.16脂質(g)/炭素源(g)、0.18脂質(g)/炭素源(g)、0.2脂質(g)/炭素源(g)、0.25脂質(g)/炭素源(g)、0.3脂質(g)/炭素源(g)、0.35脂質(g)/炭素源(g)、又は0.4脂質(g)/炭素源(g)の速度で、炭素源を脂質に変換することができる。
【0091】
本発明の培養条件は、培養した真菌又は微細藻類から以前に産生されたバイオマスと比較すると、より好ましい脂質プロファイルを有する糸状バイオマスも産生する。例えば、使用される好酸性種及び/又は菌株は、より多くの飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸(16:0)及びステアリン酸(18:0))と一不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸(18:1))を産生するが、酸化に対してより脆弱な多価不飽和脂肪酸は少ない。
【0092】
これに加えて、好酸性真菌種及び/又は菌株及び/又はその子孫は、高い金属濃度で成長することができ、金属は、Mn、Ag、Zn、Fe、Al、Be、Pb、Cu、Cr、Ni、Cd、Co、Ni、Pd、Pt、U、Th、Mo、Sn、Ti、As、Au、Se、Sb及びHgからなる群から選択される。
【0093】
好酸性真菌種及び/又は菌株及び/又はその子孫は、この培養条件下で、迅速な高密度の細胞成長が可能である。ここで、微生物は、(乾燥重量/人工培地(L)として測定すると)少なくとも約10g/L、少なくとも約15g/L、少なくとも約20g/L、少なくとも約25g/L、少なくとも約30g/L、少なくとも約50g/L、少なくとも約75g/L、少なくとも約100g/L、少なくとも約125g/L、少なくとも約135g/L、少なくとも約140g/L、少なくとも約145g/L、少なくとも約150g/L、少なくとも約160g/L、少なくとも約170g/L、少なくとも約180g/L、少なくとも約190g/L、少なくとも約200g/L、少なくとも約210g/L、少なくとも約220g/L、少なくとも約230g/L、少なくとも約240g/L、少なくとも約250g/Lの細胞密度を達成することができる。
【0094】
例えば、好酸性真菌種及び/又は菌株は、約10g/L~約300g/L、約15g/L~約300g/L、約20g/L~約300g/L、約25g/L~約300g/L、約30g/L~約300g/L、約50g/L~約300g/L、約75g/L~約300g/L、約100g/L~約300g/L、約125g/L~約300g/L、約150g/L~約300g/L、約170g/L~約300g/L、約130g/L~約290g/L、約135g/L~約280g/L、約140g/L~約270g/L、約145g/L~約260g/L、約150g/L~約250g/L、約170g/L~約250g/L、約100g/L~約280g/Lの細胞密度を達成することができる。好酸性真菌種及び/又は菌株の高密度成長は、発酵条件(例えば、温度、pH、イオン濃度、インキュベート時間及び/又はガス濃度など)を調整することによって、さらに増加させることができる。
【0095】
フザリウム種
好酸性フザリウム種に関する情報、同定し、単離し、培養する方法は、Nelsonら(Taxonomy,Biology,and Clinical Aspects of Fusarium Species,1994,Clinical Microbiology Reviews,7(4):479-504)、Toussoun及びNelson(1976,Fusarium),Booth(Fusarium:laboratory guide to the identification of the major species,1977,Commonwealth Mycological Institute,ISBN 0851983839,9780851983837)及びLeslieら(The Fusarium laboratory manual,2006,Wiley-Blackwell,ISBN 0813819199,9780813819198)に記載されており、それぞれ、その全体が本明細書に援用により組み込まれる。
【0096】
糸状真菌種及び/又は菌株によって産生されるタンパク質(例えば、特定の酵素を含む)は、生物によって産生される糸状バイオマスから精製することができる。タンパク質精製の方法は、当業者に公知である。詳細なタンパク質精製法は、Janson及びRyden(Protein purification:principles,high-resolution methods,and applications;Wiley-VCH,1998,ISBN 0471186260,9780471186267),Detscher(Guide to protein purification,Volume 182 of Methods in enzymology,Gulf Professional Publishing,1990,ISBN 0121820831,9780121820831)及びCutler(Protein purification protocols,Volume 244 of Methods in molecular biology,Humana Press,2004 ISBN 1588290670,9781588290670)に記載されており、あらゆる目的のために、その全体が援用により組み込まれている。
【0097】
製品としての実用性及び有用性を見出すために、タンパク質をマットから精製する必要はない。すなわち、マットは精製せずに処理することができ、有用である。すなわち、タンパク質源として、食物として、及び/又は動物飼料として有用である。マットから製品を作成することができる。バイオマットから作られた製品を系中で混合することは、重要であり、価値がある。
【0098】
真菌種及び/又は菌株の脂質
上述のように、高いC:N比を有する人工培地中で培養すると、藻類及び他の脂質を産生する生物と比較して、高い脂質含有量を有し、より望ましい脂質プロファイルを有する糸状菌バイオマットが産生される。脂質は、単離された糸状バイオマスから抽出することができる。ある場合には、脂質は、主に脂肪酸アシル基を有するトリアシルグリセリドである。ある場合では、脂肪酸は、本質的に不飽和脂肪酸及び/又は飽和脂肪酸である。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸(18:1)、α-リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。飽和脂肪酸としては、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、アラキジン酸(20:0)、ベヘン酸(22:0)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。産生し得る他の種類の脂質としては、限定されないが、ステロール(例えばエルゴステロール、D2前駆体中のビタミン)、ジアシルグリセリド、カロテノイド、飽和脂肪(例えば、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸)、モノ不飽和脂肪(例えば、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、エイコセン酸、ドコセン酸、cis-テトラコセン酸)、多価不飽和脂肪(例えば、ヘキサデカジエン酸、リノール酸、リノレン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パリナリン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、チモノドン酸、ブラシン酸、クルパノドン酸、ドコサヘキサエン酸)が挙げられる。
【0099】
糸状真菌種及び/又は菌株及び/又はその子孫は、脂質の効率的な産生が可能である。ある場合では、産生される脂質の量は、少なくとも約1g/L/日、5g/L/日、少なくとも約10g/L/日、少なくとも約20g/L/日、少なくとも約30g/L/日、少なくとも約40g/L/日、少なくとも約50g/L/日、少なくとも約60g/L/日、少なくとも約70g/L/日、又はもっと多い。例えば、産生される生体油の量は、約1g/L/日~約5g/L/日、約5g/L/日~約70g/L/日、約10g/L/日~約70g/L/日、約20g/L/日~約70g/L/日、又は約30g/L/日~約70g/L/日である。これらの値は、文献で約12g/L/日である、報告されている最も高い値より、はるかに大きい(Dey,P.ら(2011)Comparative lipid profiling of two endophytic fungal isolates-Colletotrichum sp. and Alternaria sp. having potential utilities as biodiesel feedstock. Bioresource Technology 102:5815-5823;Gong,Z.ら(2013)。Efficient conversion of biomass into lipids by using the simultaneous saccharification and enhanced lipid production process.Biotechnology for Biofuels 6:36;Gong,Z.ら(2014)、Lipid production from corn stover by the oleaginous yeast Cryptococcus curvatus.Biotechnology for Biofuels 7:158;Hui,L.ら(2010)、Direct microbial conversion of wheat straw into lipid by a cellulolytic fungus of Aspergillus oryzae A-4 in solid-state fermentation.Bioresource Technology 101:7556-7562;Liang,Y.ら(2014)Microbial lipid production from pretreated and hydrolyzed corn fiber.Biotechnol Progress 30:945-951;Liu,C.-Z.ら(2012)Ionic liquids for biofuel production:Opportunities and challenges.Applied Energy 92:406-414; Ruan,Z.ら(2013)Co-hydrolysis of lignocellulosic biomass for microbial lipid accumulation.Biotechnol.Bioeng.110:1039-1049;Sung,M.ら(2014)Biodiesel production from yeast Cryptococcus sp. using Jerusalem artichoke.Bioresource Technology 155:77-83;Xie,H.ら(2012)Enzymatic hydrolysates of corn stover pretreated by a N-methylpyrrolidone-ionic liquid solution for microbial lipid production.Green Chem.14:1202-1210を参照)。
【0100】
様々な手順を用いて、糸状菌バイオマットから脂質を抽出することができる。脂質抽出の非限定的な例は、Kingら(Supercritical Fluid Extraction:Present Status and Prospects,2002,Grasa Asceites,53,8-21)、Folchら(A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues,1957,J Biol.Chem.、226、497-509)、Bligh及びDyer(A rapid method of total lipid extraction and purification.1959,Can.J Biochem.Physiol.,37,911-917)、Cabriniら(Extraction of lipids and lipophilic antioxidants from fish tissues-a comparison among different methods.1992,Comp.Biochem.Physiol.,101(3),383-386)、Haraら(Lipid extraction of tissues with a low toxicity solvent.1978,Anal.Biochem.90,420-426)、Linら(Ethyl acetate/ethyl alcohol mixtures as an alternative to Folch reagent for extracting animal lipids.2004,J.Agric.Food Chem.,52,4984-4986)、Whiteleyら(Lipid peroxidation in liver tissue specimens stored at subzero temperatures.1992,Cryo-Letters,13,83-86)、Kramerら(A comparison of procedures to determine free fatty acids in rat heart.1978,J.Lipid Res.,19,103-106)及びSomashekarら(Efficacy of extraction methods for lipid and fatty acid composition from fungal cultures,2001,World Journal of Microbiology and Biotechnology,17(3):317-320)に記載されている。
【0101】
別の例では、FRIOLEX(登録商標)(Westfalia Separator Industry GmbH、ドイツ)プロセスと同様の方法によって脂質を抽出することができ、これを使用し、微生物によって産生される生体油を抽出する。FRIOLEX(登録商標)は、水系の物理的な油抽出プロセスであり、これにより、従来の溶媒抽出方法を使用することなく、油を含有する原材料を、油を抽出するために直接的に使用することができる。このプロセスでは、水溶性有機溶媒を処理助剤として使用し、重力又は遠心力を用いた密度分離によって、原料ブロスから油を分離する。
【0102】
脂質が抽出された後、脂質は、当該分野で公知の任意の適切な手段によって、回収することができるか、又は非脂質構成要素から分離することができる。例えば、脂質含有組成物を非脂質組成物から分離するために、低コストの物理的技術及び/又は機械的技術が使用される。脂質を抽出するために使用される抽出方法によって複数の相又はフラクションが作られる場合、1つ以上の相又はフラクションが脂質を含む場合には、脂質含有相又はフラクションを回収するための方法は、脂質含有相又はフラクションを、非脂質相又はフラクションから、又はその逆に物理的に除去することを含んでいてもよい。ある場合には、FRIOLEX(登録商標)型の方法を使用し、微生物によって産生された脂質を抽出し、次いで、脂質を豊富に含む相を、タンパク質を豊富に含む重い相から物理的に分離する(例えば、密度分離の後に、タンパク質を豊富に含む重い相の上にある、脂質を豊富に含む相を取り除くことによって)。
【0103】
糸状真菌種及び/又は菌株による脂質の産生には、(a)糸状菌バイオマットの蓄積段階と、(b)脂質産生段階の少なくとも2つの段階がある。糸状菌バイオマットの蓄積段階は、真菌株の糸状菌バイオマット産生の合計の約10%~約95%、約20%~約95%、約30%~約95%、約40%~約95%又は約50%~約95%が、糸状菌バイオマットの蓄積段階の間に達成されるように、真菌種及び/又は菌株の糸状バイオマスを産生する。他の場合には、微生物の糸状菌バイオマット産生の合計の約60%~約95%、約70%~約95%、又は約80%~約95%が、糸状菌バイオマットの蓄積段階の間に達成される。他の状況では、微生物の糸状菌バイオマット産生の合計の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は100%が、糸状菌バイオマットの蓄積段階の間に達成されるように、糸状菌バイオマットの蓄積段階は、微生物の糸状菌バイオマットを産生する。例えば、微生物の糸状菌バイオマット産生の合計の約50%~約95%が、糸状菌バイオマットの蓄積段階の間に達成される。
【0104】
脂質産生段階に関し、脂質は、細胞の成長及び増殖に必要なため、脂質は、全ての成長段階にわたって産生される。すなわち、脂質は、糸状菌バイオマットの蓄積段階中に産生される。理論に束縛されないが、貯蔵脂質のいくつかはバイオマット成長の後期に産生され、胃一方、他の貯蔵脂質は、バイオマット形成中の初期に産生されると考えられる。これに加え、低窒素条件下では、生物は、貯蔵脂質をより速い速度で蓄積するだろう。
【0105】
脂質蓄積段階は、微生物の全脂質産生の約10%~約95%、約20%~約95%、約30%~約95%、約40%~約95%、又は約50%~約95%が、脂質蓄積段階中に達成されるように脂質を産生する。ある場合には、微生物の全脂質産生の約60%~約95%、約70%~約95%、又は約80%~約95%が、脂質蓄積段階中に達成される。他の状況では、脂質蓄積段階は、微生物の全脂質産生の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%が、脂質蓄積段階中に達成されるように脂質を産生する。好ましくは、微生物の全脂質産生の約50%~約95%が、脂質蓄積段階中に達成される。
【0106】
脂質が本発明に従って産生されると、当該分野で公知の様々な方法を使用して、食品又は医薬品の成分として使用するために生体油を脂肪酸エステルに変換することができる。脂肪酸エステルの製造は、微生物によって産生された生体油をエステル交換することを含むことができる。微生物からの脂質の抽出及び脂質のエステル交換は、ワンステップ法で同時に行うことができる。例えば、単離された真菌株を含む培養物は、脂質の抽出及び脂質のエステル交換の両方を促進する条件又は処理(又は条件又は処理の組み合わせ)にさらされてもよい。このような条件又は処理としては、限定されないが、pH、温度、圧力、溶媒の存在、水の存在、触媒又は酵素の存在、洗剤の存在及び物理的/機械的な力が挙げられる。脂質の抽出又はエステル交換のいずれかの効率を顕著に下げずに、2セットの条件又は処理を合わせることができる限り、2セットの条件又は処理を組み合わせ、脂質を抽出し、エステル交換する1ステップでの方法を作り出すことができ、ここで、1セットの条件又は処理は、脂質の抽出を有利に促進し、他のセットの条件又は処理は、脂質のエステル交換を有利に促進する。加水分解及びエステル交換は、全細胞の糸状バイオマスに対して直接行うことができる。
【0107】
又は、脂質の抽出は、脂質のエステル交換の工程とは別の工程として行われる。このようなエステル交換反応は、酸触媒又は塩基触媒を用いて行われる。食品又は医薬品の成分として使用するために生体脂質を脂肪酸エステルにエステル交換する方法は、トリグリセリドを含む生体油を、アルコールと塩基が存在する条件下で反応させ、トリグリセリド由来の脂肪酸残基のエステルを生成することを含む。
【0108】
エステル交換に使用するのに適したアルコールには、1~6個の炭素原子を含む任意の低級アルキルアルコール(すなわち、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルアルコール及びそれらの異性体などのC1-6アルキルアルコール)が含まれる。理論に束縛されないが、低級アルキルアルコールの使用は、脂肪酸残基の低級アルキルエステルを生成すると考えられる。例えば、エタノールを使用すると、エチルエステルが生成する。アルコールがメタノール又はエタノールである場合、生成される脂肪酸エステルはそれぞれ脂肪酸残基のメチルエステル及びエチルエステルである。典型的には、アルコールは、脂質組成物、アルコール、塩基の混合物の約5重量%~約70重量%、約5重量%~約60重量%、約5%~約50重量%、約7重量%~約40重量%、約9重量%~約30重量%、又は約10重量%~約25重量%を含む。組成物及び塩基を、純粋なエタノール又は純粋なメタノールのいずれかに添加することができる。一般に、使用されるアルコールの量は、アルコール中のトリグリセリドを含む脂質又は組成物の溶解度によって変化し得る。
【0109】
トリグリセリド、アルコール及び塩基を含む組成物を、脂肪酸残基及びアルコールからのエステルの生成を可能にする温度及び時間で、一緒に反応させる。エステルを生成するのに適した反応時間及び温度は、当業者によって決定され得る。理論に束縛されないが、脂肪酸残基は、トリグリセリドのグリセロール主鎖から開裂し、各脂肪酸残基のエステルが反応段階中に形成されると考えられる。アルコール及び塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約20℃~約140℃、約20℃~約120℃、約20℃~約110℃、約20℃~約100℃、又は約20℃~約90℃の温度で行われる。又は、アルコール及び塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約20℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、105℃又は120℃、又はそれ以上の温度で行われる。所望の生成物に依存して、アルコール及び塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約2時間~約36時間、約3時間~約36時間、約4時間~約36時間、約5時間~約36時間、又は約6時間~約36時間の時間、行われる。その代わりに、アルコール及び塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、0.25時間、0.5時間、1.0時間、2.0時間、4.0時間、5.0時間、5.5時間、6時間、6.5時間、7時間、7.5時間、8時間、8.5時間、10時間、12時間、16時間、20時間、24時間、28時間、32時間又は36時間行うことができる。
【0110】
脂質組成物、アルコール及び塩基を反応させる工程は、構成要素を環流させ、脂肪酸エステル、例えば、PUFAエステルを生成することによって行われてもよい。脂質組成物を反応させる工程は、反応構成要素を環流させない温度で行うこともできる。例えば、大気圧よりも高い圧力下で脂質組成物を反応させる工程を実施することにより、反応混合物中に存在する溶媒の沸点を上昇させることができる。そのような条件下では、反応は、溶媒が大気圧で沸騰する温度で起こり得るが、反応構成要素が環流しない。一般に、反応は、約5~約20ポンド/平方インチ(psi)、約7~約15psi、又は約9から約12psiの圧力で行われる。いくつかの反応は、7psi、8psi、9psi、10psi、11psi又は12psiの圧力で行われる。加圧下で行われる反応は、上に列挙した反応温度で行われてもよい。加圧下で行われる反応は、約70℃、75℃、80℃、85℃又は90℃以上の温度で行うことができる。
【0111】
組成物を蒸留し、脂肪酸エステルを含むフラクションを回収することにより、脂肪酸エステルを反応混合物から分離する。目的の脂肪酸エステルを含む反応混合物の標的フラクションを反応混合物から分離して回収することができる。蒸留は高減圧下で行うことができる。理論に束縛されないが、高減圧下での蒸留は、高減圧が存在しない状態よりも低い温度で蒸留を達成することができ、したがってエステルの分解を防止することができる。典型的な蒸留温度は、約120℃~約170℃の範囲であり、例えば、約180℃未満、約175℃未満、約70℃未満、約165℃未満、約160℃未満、約155℃未満、約150℃未満、約145℃未満、約140℃未満、約135℃未満、又は約130℃未満の温度で蒸留を行う。高減圧蒸留の典型的な圧力は、約0.1mmHg~約10mmHgの範囲であり、例えば、約0.1mmHg、0.5mmHg、1mmHg、1.5mmHg、2mmHg、2.5mmHg、3mmHg、3.5mmHg又は4mmHg以上の高減圧蒸留圧力の範囲である。
【0112】
本発明の糸状真菌種又は菌株及び/又はその子孫から抽出された脂質は、バイオ潤滑剤を生成するために使用される。本明細書で使用される場合、「バイオ潤滑剤」との用語は、生きている生物又は最近まで生きていた生物に由来する物質を用いることによって作られる潤滑剤を指す。本明細書で使用される場合、「潤滑剤」との用語は、2つの移動表面の間の摩擦及び摩耗を低減するように、2つの移動表面の間に導入される物質(操作条件では通常は流体)を指す。モーターオイルとして使用されるベースオイルは、一般的にAmerican Petroleum Instituteによって鉱油(グループI、II及びIII)又は合成油(グループIV及びV)と分類される。American Petroleum Institute(API)Publication Number 09を参照。モーターオイルの形態での潤滑剤の最大の用途の1つは、自動車及び動力装置の内燃機関を保護することである。典型的には、潤滑油は、90%のベースオイル(鉱油と呼ばれることが、最も多い石油フラクションである)及び10%未満の添加剤を含む。水素化ポリオレフィン、エステル、シリコーン、フルオロカーボン及び多くの他のものなどの植物油又は合成液体が、ベースオイルとして使用されることがある。これらは主に植物及び動物由来のトリグリセリドエステルである。潤滑剤ベースオイルの使用には、植物由来の物質が好ましい。一般的なものには、高オレイン酸キャノーラ油、ヒマシ油、パーム油、植物由来のヒマワリ種子油及び菜種油、及び動物源由来のトール油が含まれる。多くの植物油はしばしば加水分解され、酸を生成し、その後選択的に合成され、特殊な合成エステルを形成する。
【0113】
したがって、本発明の糸状真菌種及び/又は菌株及び/又はそれらの子孫によって形成された糸状菌バイオマットから抽出された脂質は、適切な添加剤を添加することによってエステル系バイオ潤滑剤組成物を製造するために使用することができる。エステル系潤滑剤組成物を製造する方法は、当業者に知られている。非限定的な例として、トリグリセリドを含むある量の生物学的に誘導された油が提供され、トリグリセリドの少なくともいくつかを加水分解し、遊離脂肪酸を形成するように処理され、ここで、脂肪酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される種類の脂肪酸である。脂肪酸は、種類によって分離され、その結果、少なくとも一価不飽和脂肪酸が、飽和脂肪酸及び多価不飽和脂肪酸から実質的に単離される。次に、一価不飽和脂肪酸の少なくとも一部を改質し、エステル生成物(例えば、トリエステルを含む)を生成させ、飽和脂肪酸及び/又は多価不飽和脂肪酸の少なくとも一部を水素処理し、アルカン(パラフィン)を得る。ある実施形態では、このようなエステル生成物は、モノエステル種、ジエステル種、トリエステル種、及びこれらのヒドロキシル化類似体のうち1つ以上を含んでいてもよいことにも留意されたい。
【0114】
糸状真菌種及び/又は菌株からの酸性pH耐性の酵素
フザリウム・オキシスポラム f.sp.リコペルシシ(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)株4287のゲノムは、最近配列決定されており、リグニン、ヘミセルロース及びセルロースの分解に関与する様々な遺伝子を有することが示されている。さらに、これらの物質の分解に関与する酵素(例えば、セルラーゼ、キシラナーゼ、リグニナーゼ、グルクロニダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、アラビノガラクタナーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼ、グルコマンナーゼ、アミラーゼ、ラミナリナーゼ、キシログルカナーゼ、ガラクタナーゼ、グルコアミラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キチナーゼ、exo-[3-D-グルコサミニダーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、キシロシダーゼ、a-L-アラビノフラノシダーゼ、フェルロイルエステラーゼ、エンドグルカナーゼ、[3-グルコシダーゼ、Mn-ペルオキシダーゼ及びラカーゼ)は、F.oxysporum strain F3(Xirosら(2009)Enhanced ethanol production from brewer’s spent grain by a Fusarium oxysporum consolidated system.Biotechnol Biofuels 10:4)で広く研究されている。結果的に、好酸性糸状真菌種及び/又は菌株、例えば、フザリウム(Fusarium)種、及びMK7と命名された好酸菌性糸状菌株は、リグノセルロース材料及び廃液(例えば酸ホエイ)などの複合炭素源を加水分解するために完全に装備されることが期待される)。これらの好酸性糸状真菌種及び/又は菌株は、他の糸状菌株(pH>2、Starkey、1973)と比較して、かなり低いpH(0.7~7.5)で成長することができ、リグニン、ヘミセルロース及びセルロースの分解のための酵素は、低いpHでもっと高い活性を有するだろうということも期待される。酸性条件下で高活性を有する酵素は、低pHで実施されるプロセスにおいて特に有用である。
【0115】
フザリウム種によって産生される毒素
しばしば、微生物に基づく生産は、汚染を防ぐために費用と時間のかかる方法の使用を必要とする。上述のように、糸状好酸性真菌種及び/又は菌株は、他の生物による汚染に対して非常に耐性である。例えば、フザリウム属のメンバーが強力な抗生物質、殺虫剤及び植物毒性を有する毒素(例えば、フモニシン)を生成することが知られている。同様に、糸状好酸性MK7真菌株は、糸状菌バイオマットの生産に使用される場合、外部抗生物質をほとんど必要としないか、又は全く必要としない。いくつかのフザリウム種は、9種類の異なる毒素を産生し得る。その生成は、異なる宿主植物との関係に依存する(Marasasら、1984,Toxigenic Fusarium species,identity and mycotoxicology,ISBN 0271003480)。毒素の産生も、発酵に使用される培地によって異なる。フザリウム種によって産生され、分泌される毒素としては、限定されないが、ビカベリン、エンニアチン、フザリン酸、リコマラスミン、モニリホルミン、オキシスポロン、トリコテセン、ゼエレロン(zearelones)、種々のナフトキノン及びアントラキノン(例えば、ノナケチドナフタザリンキノン、ビカベリン及びノルビカベリン、ヘプタケチド、ネクタリアフロン、5-0-メチルジャバニシン、及びアンヒドロフサルビン(anhydrofusarubin)ラクトール)が挙げられる。
【0116】
さらに、フザリウム種由来の毒素としては、4-アセトキシシルペンジオール(4-3-アセトキシ-3,15-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)を含み得る。同様の化合物、モノデアセチラングイジン 4-又は15-アセチルシルペントリオール)、3-アセチルデオキシニバレノール(デオキシニバレノールモノアセタート、3”-アセトキシ-7”、l5-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン-8-オン)、8-アセチルネオソラニオール(ネオソラニオールモノアセタート、4”,8”,15-トリアセトキシ-3”-ヒドロキシ-12、13-エポキシトリコテック-9-エン)、4-又は15-アセチルシルペントリオール(4-アセトキシシルペンジオール)、アセチル T-2トキシン(3”,4”,15-トリアセトキシ-8”-(3-メチルブチル(methylbutyry)(オキシ)-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、アングイジン(ジアセトキシシルペノール)、アベナセイン、ビューベリシン、ブテノリド(4-アセトアミド-4-ヒドロキシ-2-ブテン酸-ラクトン)、カロネクトリン(3”,15-ジアセトキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、15-デアセチルカロネクトリン(15-デ-O-アセチルカロネクトリン、3”-アセトキシ-15-ヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、デオキシニバレノール(Rdトキシン、ボミトキシン、3”,T’,15-トリヒドロキシ-12、13-エポキシトリコテック-9-エン-8-オン)、デオキシニバレノールジアセタート(ジアセチルデオキシニバレノール)、デオキシニバレノールモノアセタート(3-アセチルデオキシンジャバレノール)、ジアセトキシシルペンジオール(7”-ヒドロキシジアセトキシシルペノール)、ジアセトキシシルペノール(アングイジン、4,15-ジアセトキシ-3’-ヒドロキシ 12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、ジアセトキシセルペントリオール(7”、8”-ジヒドロキシジアセトキシシルペノール)、ジアセチルデオキシニバレノール(デオキシニバレノールジアセタート、3”、15-ジアセトキシ-7-ヒドロキシ 12,13-エポキシトリコテック-9-エン-8-オン)、ジアセチルニバレノール(ニバレノールジアセタート、4,15-ジアセトキシ-3’、7’-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン-8-オン)、7”,8”-ジヒドロキシジアセトキシシルペノール(ジアセトキシシルペントリオール、4,15-ジアセトキシ-3”,7”,8”-トリヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、エンニアチン、フルクチゲニン、フモニシンB1(1,2,3-プロパントリカルボン酸 1,1-[1-(12-アミノ-4,9,11-トリヒドロキシ-2-メチルトリデシル)-2-(1-メチルペンチル)-1,2-エタンジイル]エステル;マクロフシン)、フザレノン(フザレノン-X、フザレノン、モノアセチルニバレノール、ニバレノールモノアセタート、4-アセトキシ-3”,7”,15-トリヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン-8-オン)フザル酸(フザリン酸、5-ブチルピコリン酸)、フザリン酸(フザル酸)、F-2(ゼアラレノン)、HT-2トキシン=15-アセトキシ-3”,4-ジヒドロキシ-8”-(3-メチルブチリルオキシ)-12-エポキシトリコテック-9-エン、7”-ヒドロキシ-ジアセトキシシルペノール(ジアセトキシシルペンジオール、4,15-ジアセトキシ-3”,7”-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、8”-ヒドロキシジアセトキシシルペノール(ネオソラニオール)、1,4-イポメアジオール(1-(3-フリル)-1,4-ペンタンジオール)、イポメアニン(1-(3-フリル)-1,4-ペンタンチオン)、1-イポメアノール(1-(3-フリル)-1-ヒドロキシ-4-ペンタノン)、4-イポメアノール(1-(3-フリル)-4-ヒドロキシ 4 ペンタノン)、ラテリチン、リコマラスミン、モニリホルミン(1-ヒドロキシシクロブタ-1-エン-3,4-ジオンのカリウム塩又はナトリウム塩)、モノアセトキシシルペノール(15-アセトキシ-3”,4”-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、モノアセチルニバレノール(フザレノン-X)、モノデアセチルアングイジン(4-アセトキシシルペンジオール)、ネオソラニオール(8”-ヒドロキシジアセトキシシルペノール,4,15-ジアセトキシ-3”8”-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、ネオソラニオールアセタート(8-アセチルネオソラニオール)、ネオソラニオールモノアセタート(8-アセチルネオソラニオール)、ニバレノール(3”,4”,7”,15”-テトラヒドロキシ-12,13-エポキシ-トリコテック-9-エン-8-オン)、ニバレノールジアセタート(ジアセチルニバレノール)、ニバレノールモノアセタート(フザレノン-X)、NT-1トキシン(T-1トキシン、4”,8”-ジアセトキシ-3”,15-ジヒドロキシ-12,13-エポキシ-トリコテック-9-エン)、NT-2トキシン(4”-アセトキシ-3”,8”,15-トリヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、Rdトキシン(デオキシニバレノール)、サムブシニン、シルペントリオール(3”,4”,l5”-トリヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、ソラニオール(ネオソラニオール)、T-1トキシン(NT-1トキシン)、T-2トキシン(4”,15”-ジアセトキシ-3”-ヒドロキシ-8”-(3-メチルブチリルオキシ)-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、トリアセトキシ-シルペンジオール(4”,8”,15”-トリアセトキシ-3”,7”-ジヒドロキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、トリアセトキシ-シルペノール(3”,4”,15”-トリアセトキシ-12,13-エポキシトリコテック-9-エン)、ボミトキシン(デオキシニバレノール)、ヤバニシン、ゼアラレノール(2,4-ジヒドロキシ-6-(6,10-ジヒドロキシ-trans-1-ウンデセニル)-安息香酸-ラクトン)、ゼアラレノン(6-(10-ヒドロキシ-6-オキソ-trans-1-ウンデセニル)-レソルシル酸ラクトン)。F.オキシスポラム(F.oxysporum)によって産生されるより詳細な毒素は、Tatumら(Naphthoquinones produced by Fusarium oxysporum isolated from citrus.1985,Phytochemistry 24:457-459),Tatumら(Naphthofurans produced by Fusarium oxysporum isolated from citrus.1987,Phytochemistry,26:2499-2500),Bakerら(Novel anthraquinones from stationary cultures of Fusarium oxysporum.1998,J Ferment Bioeng 85:359-361). Thrane(Fusarium species on their specific profiles of secondary metabolites,in Fusarium.Mycotoxins,taxonomy and pathogenicity,1989,Chelkowski J,Elsevierによって編集,NY,USA,pp199-225);Bakerら,Antimicrobial activity of naphthoquinones from Fusaria,Mycopathologia 111:9-15,1990;Marasasら(Toxigenic Fusarium species identity and mycotoxicology,1984,Pennsylvania State University Press,University Park,PA,USA)に記載され、それぞれ、あらゆる目的のために、その全体が援用により組み込まれる。
【0117】
本発明は、以下の例によってさらに説明されるが、これらの例は限定的に解釈されるべきではない。本出願を通して引用された全ての参考文献、特許及び公開された特許出願ならびに図及び配列表の内容は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】

例1:自然環境におけるMK7株
自然発生株MK7は、自然界の藻類、古細菌及び細菌と常に関連しており、平均密度が0.5g乾燥バイオマス/井戸水(L)未満であることを特徴とする(図1)。これに加え、MK7は、「ストリーマー」として自然界に存在する。Purcellらは、「ストリーマー」を以下のように定義している。「ストリーマーは、付着点から流水中に突出している糸状及び他の細胞形態を有する水中凝集物である」(Purcellら(2007)FEMS Microbiology Ecology7 60:456-466)。MK7株は、全ストリーマーバイオマスの割合として10%未満である。さらに、MK7株バイオマスは、本質的に、大きな分生子細胞としてバイオマスの30%を超えることを特徴とし、本開示の方法の概要によって作られる表面発酵バイオマット中には決して見出されない。
【0119】
例2:人工培地の調製
以下の手順で使用されるMK7-1液体培地は、表1Aに列挙される成分を、22~30℃の脱イオン水(18.2MΩ)に添加した後、13N HClを用い、元より低いpHであるpH2.8に調整することによって調製された。pHは、Oakton Instruments 150型のpH計とプローブ(オレンジバーグ、NY)を用いて測定した。次いで、培地を20分間沸騰させ、使用前に室温(約23℃)まで冷却した。液体培地を添加する直前に、Oakton Instruments 150のpH計とプローブを用いてpHを再び調べ、必要に応じてpH2.8に調整し直す。
【0120】
表1Bに列挙した成分を用い、MK7-3液体培地を同じ様式で調製した。
【0121】
ある実施形態では、使用される炭素源はグリセロールではないが、種々の他の炭素源、例えば、糖類、グリセロール、リグノセルロース系材料、リグノセルロース系材料の加水分解物、都市廃棄物又は農業廃棄物、食品加工廃棄物(例えば酸ホエイ)、工業用廃液生成物、ジャガイモ廃棄物(ジャガイモ皮、分解によるジャガイモ廃棄物、刻んだジャガイモ、傷ついたジャガイモ)、デンプン廃棄物、サトウダイコン廃棄物、サトウダイコンパルプ、トウモロコシ処理からの廃棄物(すなわち、コーンスティープリカー)、バイオ燃料製造からの廃棄物(セルロース系のエタノール生産、嫌気性消化物などからの残留物)から選択されてもよい。そのような場合には、培地は、使用される炭素源からの栄養素の寄与に対応するように調整される。例えば、炭素源が、糖蜜、酸ホエイ又はリグノセルロースである場合、必要とされる微量元素は、炭素源によって部分的又は完全に提供されると考えられ、培地には多量栄養素のみを加える必要があるだろう。他の実施形態では、炭素源は、「食品グレード」と分類されてもよい。これらの例では、炭素源に関連する微量元素と多量栄養素は期待されず、微量元素と多量栄養素を全て加えなければならない。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
例3:播種プロセス
トレイに播種するために使用される培養物を、MK7-1液体培地中、深部発酵条件下で10Lバイオリアクター中で成長させた。他の大きさのバイオリアクターに修正可能であり、10Lの大きさのリアクターの選択は、限定するものと解釈すべきではないことを注記しておくべきである。10Lリアクターは、直径10.16cmの透明なPVC管の長さ1.3mの部分から構成されており、底部にPVCエンドキャップを有している。3mmオリフィスを備えるプラスチック通気口/接続具を底部のエンドキャップと管に接続し、空気を供給するために通気口に接続した。プラスチックのサンプリング口/バルブを、底部エンドキャップの底から15cmの透明なPVC壁の側面に取り付けた。透明なPVCリアクターの上部を滅菌ガーゼで覆い、リアクターから気体を逃がすことができるように、3mmの穴を有するPVCエンドキャップをゆるく取り付けることによって、所定位置に保持した。組み立てられたバイオリアクターを図2に示す。
【0125】
10Lバイオリアクターのための播種材料は、糸状好酸性MK7真菌株の保管された培養ストック(ロット番号003)から調製した。保管されたストック培養物は、MK7-1プレート培地のために表1に記載されたように、1.5%の寒天(BD Difco顆粒寒天、ロット番号5287994、ThermoFisher、ウォルサム、MA)、グリセロール及び無機栄養素で構成された固体培地を含む滅菌ペトリ皿上で成長した糸状好酸性MK7真菌株菌糸体マットから構成されていた。寒天培地は、20分間沸騰させ、培地を50℃まで冷却し、次いで、この溶液25mLを滅菌ペトリ皿に注ぐことによって調製した。冷却して固化させた後、このプレートに第2世代の保管された凍結ストックを播種し、滅菌ループ(炎で赤くなるまで加熱し、冷却する)を用いることによって、保管されたストックからサンプルを集め、これをペトリ皿に筋状に播種した(図3A)。
【0126】
5日間成長させた後、菌糸体マットは、寒天培地表面に完全に成長した(図3B)。次いで、培養物を-80℃で凍結させた。10Lリアクターに播種する5日前に、ペトリ皿ストックを冷凍庫から取り出し、室温(約23℃)に2時間置き、平衡状態にした。次いで、寒天表面に成長した菌糸体マットを、滅菌鉗子(鉗子を炎で赤くなるまで加熱し、イソプロパノールを用いて冷却したもの)を用いて取り出し、滅菌ガーゼ布で覆った1Lの滅菌ガラス製バッフル付き振とうフラスコの中の滅菌MK7-1液体培地350mLに入れた。10Lバイオリアクターへの播種材料として使用する前に、このフラスコを、VWR OS-500ラボラトリシェーカー(VWR、ラドナー、PA)で、200rpmで5日間回転させた。
【0127】
播種材料を受け入れる準備として、10Lバイオリアクター中の飲料水道水11Lに濃次亜塩素酸Na溶液(Chlorox(登録商標)ブリーチ=8.25% 次亜塩素酸Na)330mLを添加し、平衡状態に2日間保つことによって、バイオリアクターを滅菌した。2日後、さらなる濃次亜塩素酸Na溶液330mLをこのリアクターに添加した。1日後、希釈した次亜塩素酸Na溶液をリアクターから完全に排出させ、熱水2Lを加え、旋回させ、バイオリアクター内側表面の全てをすすぐことによって、リアクターを約80℃の沸騰した水ですすいだ。次いで、洗浄水を排出させた。このバイオリアクターに滅菌MK7-1液体培地3.5Lを添加し、滅菌空気(0.2um濾過したもの)を、リアクターの底部にある通気口から400mL/分の速度でバブリングさせた。これらのバブリング条件によって、直径3~30mmの範囲の気泡を生じ、成長中に、液体培地(浮遊細胞)全体に真菌細胞が混合し、均一に分布した。実験では、バブリング速度を大きくするか、又は気泡の大きさを小さくすると、バイオフィルムの成育特性が得られ、バイオマスの塊を生成し、バイオリアクター表面に粘着することが示された。したがって、トレイリアクターの播種のために細胞の均一な懸濁が望ましいため、バイオフィルムの成長特性は、望ましくない。次いで、1Lシェーカーフラスコ中で成長した播種材料を、無菌技術を用い、10Lリアクターに添加した(バイオリアクターの上部を開ける前に、外側表面付近の全てに70%イソプロパノール/30%水を噴霧し、バイオリアクターの内表面には触れない)。10Lリアクター中にさらなる培養体積を構築するために、培地が、6g/Lの乾燥糸状バイオマス密度を得た後、滅菌の新鮮なMK7-1液体培地を、上述のリアクターに加えた。新鮮なMK7-1液体培地をリアクターに添加する場合、その体積は、リアクター中の液体培地の体積の9倍以下であるべきである。通気システムを操作させつつ、バイオリアクターの側面開口部を介してサンプルを集め、既知の体積を、高減圧濾過装置(Millipore、カタログ番号WP6111560、XX1004700、XX1004705、ダルムシュタット、ドイツ)を用い、0.22umフィルター(Millipore、カタログ番号GSWP04700、ダルムシュタット、ドイツ)で濾過することによって、乾燥糸状バイオマスを測定した。あらかじめ秤量しておいたフィルターと、濡れた糸状バイオマスをBenchmark Scientific Incu-Shaker Mini(エジソン、NJ)中、50℃で4時間乾燥させ、次いで、Mettler Toledo scale MS3035型(コロンブス、OH)で計量した。
【0128】
糸状好酸性MK7真菌株は、10Lリアクター中、比成長速度が約0.024h-1であり(図4)、対数期中の成長は、以下の式に従うだろう。
【数1】

式中、xは最終バイオマスであり、xは初期バイオマスであり、μは比成長速度であり、tは時間である。トレイリアクター中の播種材料として使用する場合、10Lリアクター中の培地の細胞密度は、後期対数成長期には、6g/乾燥重量(L)を上回るべきである(図4:対数成長は、細胞数が連続的に2倍になっている、培養物中の成長期間であり、後期対数成長は、細胞成長速度が減り始める、対数成長が止まる直前の期間である)。細胞密度が低い培地を播種材料に使用すると、バイオマット形成が顕著に遅くなる(2日より長い遅延期)ため、望ましくない。
【0129】
播種材料は、本質的に、浮遊細胞で構成されると本明細書では定義されており、浮遊細胞は、塊になっておらず、又は凝集しておらず、幅が約4ミクロン、長さが5~20ミクロンの単一細胞であると定義される。
【0130】
表面発酵又は固体基質表面発酵のために表面トレイリアクターに播種するために、バブリングによって連続的に混合しつつ、リアクター底部付近の開口部を介して10Lリアクターから液体培地を取り出した。開口部の内側に70%イソプロパノール/30%脱イオン水混合物を噴霧し、次いで、バルブを開け、培養物約25mLを外に出し、バルブをすすぐことによって、播種材料のために使用する培養物を無菌様式で取り出した。この廃棄播種材料培養物を廃棄した。例3に記載したように、播種材料培養物をトレイリアクターの培地に直接添加する。
【0131】
例4:表面発酵によるトレイリアクター中でのMK7株の成長
糸状好酸性MK7真菌株を、浅いトレイリアクターで成長させた。この革新的な考えの教示から、異なるトレイの大きさに修正可能であることを注記しておくべきである。この例では、ポリエチレントレイの内寸は、幅が41.27cm、長さが61.28cmであり、高さが2.54cmの側壁を有する(マットの成長に利用可能な全表面積=0.253m図5、Winco、アイダホフォールズ、ID)。トレイは、汚染の可能性を最小限に抑えるために、使用前に屑片及び化学物質をきれいに取り除き、滅菌しておくことが望ましい。その結果、使用前に、トレイを石鹸及び温かい飲料水道水(50~70℃)で十分に洗浄し、温かい水道水で1分間十分に洗浄し、全ての石鹸残留物が除去されたことを確認した。その後、トレイの全ての表面が70%イソプロパノール/30%脱イオン水(18.2MΩ)溶液で濡れるまで、トレイ全表面に噴霧し、上述のアルコール混合物に浸した紙タオルを用い、手袋を付けた手でトレイを拭いた。その後、漏れたり乾燥したりせずにトレイが液体培地(以下に記載)を受け入れ、保持することができるように、トレイをラックシステム内に配置した。
【0132】
本明細書に記載の表面発酵プロセスに使用されるトレイ及びラックシステムは、バイオマットを形成し、バイオマットの急速な成長を可能にするために必要な全ての構成要素を与える。リアクタートレイを保持するために使用されるラックシステムは、Global Equipment Company(シカゴ、イリノイ州、図5A、B)から購入したクロム被覆された鋼鉄製の39トレイ用ラックであった。透明なプラスチックであるSaran(登録商標)などの16インチ幅のラップ(Costco、ボーズマン、モンタナ州)を使用し、ラックシステムを包み、囲み込み、トレイを周囲の部屋から隔離した。これにより、環境条件(湿度、空気流量)の制御が可能になり、汚染が最小限に抑えられた(図5A、B)。加湿された滅菌空気を、800mL/分の速度で、(空気を加湿するための)水温22~30℃、オートクレーブ処理した0.2umフィルター(Millipore、カタログ番号SLFG85000、ダルムシュタット、ドイツ)に通し、微生物を除去するために200mLの脱イオン水(18.2MΩ)に通すバブリングによって、閉じたラックに吹き込んだ。理想的には、空気流の速度は、ラックシステムにわずかな正の圧力(>0.1psi)が生じるような速度であり、それによって、バイオマットが所望の密度及び/又は稠度に達するまで、閉じられたトレイ及びラック系に、空気に含まれる汚染物質が入り込む量を最低限にする。
【0133】
微生物マットが活動している間、細胞は呼吸している。すなわち、二酸化炭素と熱を生成し、酸素を消費する。二酸化炭素が蓄積すると、酸素の利用可能性を減らす可能性があり、これは制限されるべきである。したがって、空気流は、微生物の呼吸中に生成され、蓄積される二酸化炭素を流し出すようなものでなければならない。さらに、空気流は、微生物の呼吸中に生成する過剰な熱を取り除き、呼吸している細胞に十分な酸素を供給するようなものでなければならない。空気流は、これらの必要性を満たすように調整すべきである。例えば、さらに多くのトレイを使用する場合に必要性が増すにつれて、空気流は、上昇する温度及び大気の必要性を満たすように増加させるべきである。空気流は、真菌の菌糸を乱し、その成長と機能を阻害するのに十分なほど強いものであってはならない。理想的には、トレイシステムでは、空気流によって、トレイを横切る空気の流れを作り出す。一実施形態では、空気流は、空気を0.2umフィルターに通し、マットを横切って空気を通過させるファンによって作り出すことができる。ファンの速度及び得られる空気流は、ラック内に配置された温度、二酸化炭素及び酸素のセンサに基づき、スマートセンサ/アクチュエーションシステムによって制御することができる。
【0134】
トレイシステムの温度は、成長中に25℃±2℃の範囲であった。ThermoScientific Genesys 10S Series、Biomat 3S、Evolution 60Sソフトウェア及びセンサシステム(Thermo Fisher.ウォルサム、MA)を用い、温度を測定した。熱電対センサは、トレイラックシステムの内側の中程の高さ20mmのところと、トレイラックシステムの上部に配置した。
【0135】
例2に記載するように、MK7-1培地を調製した[栄養素の添加、pH調整、沸騰及び室温(約23℃)への冷却]。培地を調製した後、播種材料リアクターから播種材料培養物を得て(例3を参照)、MK7-1培地の7.5%(体積対体積)の割合でポットに加えた。例えば、このポットに入った培地1.5Lに播種材料113mLを加えた。培地に対する播種材料のこの比率は、細胞を迅速に成長させ、マットを形成するのに十分な条件を与える。この実施形態では、新鮮な培地を播種した後の所望な乾燥細胞糸状バイオマスは、0.45~0.75g/Lである。しかし、0.01~100g/Lの範囲の密度は、現在のトレイシステムにおいてバイオマットを首尾よく生成するために潜在的に使用される可能性がある。培地に対する播種材料の比率を小さくすると、例3に記載したように、成長が遅くなる。
【0136】
培地の体積に対する炭素基質の体積は、得られるバイオマスの生成速度に影響を与える。一般に、上述の比率が小さすぎると、利用可能な炭素が不足するため、成長速度が遅くなる。すなわち、成長速度は、炭素によって制限されるようになる。上述の比率が大きすぎると、得られる浸透圧が大きくなりすぎ、バイオマスの成長速度が低下する。さらに、炭素が限られている場合、得られるバイオマスの密度及びバイオマス凝集性は小さく、これによって、表面発酵プロセスによって与えられる処理及び取り扱いの利点が低くなる。例えば、MK7と命名された糸状真菌株は、上述の比率が8~15%であるときに、最適な成長条件を有する。
【0137】
培地/細胞懸濁物を、滅菌した大きなプラスチックスプーン(長さ30cm、上述のアルコール混合物で洗浄することによって滅菌)で混合し、得られた混合物1.5Lを、滅菌した(上述のアルコール混合物で洗浄した)メスシリンダーを用い、各トレイに加えた。全てのトレイがラックシステムに装填された後、ラックシステムを透明プラスチックで包んだ。
【0138】
6日間インキュベートした後、得られたバイオマットは、厚さが3~10mmであり、破損することなく取り扱うことができるほど、十分な引張強度及び構造一体性を有している(図6)。まず、ラックシステムの周りの透明プラスチックラップを取り除き、ラックからトレイを取り出すことによって、バイオマットを採取した。バイオマットを手でトレイから取り出し、12.7×23cmのPyrexガラストレイに入れ、飲料水道水で2分間、穏やかにすすいだ。すすいだバイオマットをガラストレイ上に置き、乾燥させるか、又は3.7リットルのプラスチック袋に入れて凍結させた。乾燥させるために、バイオマットを温度制御されたオーブンに入れ、バイオマットを45分間、60℃±1℃で加熱して酵素の多くを不活化し、マット内の生化学的変換を制御し、その後、乾燥重量が変化しなくなるまで50℃±1℃で加熱した(約48~72時間)。上述の条件で生成したバイオマットの平均乾燥重量は、糸状好酸性MK7真菌株についてトレイ当たり乾燥糸状バイオマス81gであった。これは、54g/L、324g/表面積(m)、生産性0.37g/L/時間に相当する。乾燥していないバイオマットの平均含水量は、0.17乾燥糸状バイオマス/g、又は83%液体であった。
【0139】
トレイにおける細胞成長は、典型的には、図7に示す成長曲線に従って起こる。細胞は、成長約48時間までは、プランクトン様の状態(培地全体に均質/均一に分布した細胞)で成長する。48時間後、培地表面で細胞が凝集し、バイオフィルム(言い換えると、細胞が絡み合い、互いに付着している微生物マット)を形成し始める。マットは、最初は非常に薄いスキン状態だが、炭素基質又は他の栄養素が不足するなどの制約要因が成長を抑制するまで、迅速に成長し続ける。
【0140】
バイオマットが撹乱に敏感な結果、成長が低下するため、トレイが撹乱されないまま維持され、全成長期間の間、バイオマットの一体性が維持されることが重要である。バイオマットに影響を与える撹乱としては、トレイの過剰な振動、マットに圧力をかけること、バイオマットの表面に液体をかけること、バイオマットを横切る急速な空気流、菌糸の乱れ、破壊又は圧縮、又はマット自体の物理的破壊が挙げられる。これらの種類の撹乱によって、迅速な成長速度、液体の体積及び表面積当たりの高い糸状バイオマス蓄積といった、バイオマットが成長する際の利点が失われる。
【0141】
気中菌糸及び菌糸体は、バイオマット全体に細胞が呼吸するための酸素を供給する際に重要な役割を果たすとの仮説が立てられている。したがって、気中菌糸/菌糸体の形成、成長及び機能は、バイオマットの迅速な成長にとって重要である。その結果、これらの菌糸/菌糸体の形成又は成長に影響を及ぼす撹乱は、バイオマットの成長を低下させる。
【0142】
上述の表面発酵方法及び培地は、バイオマットを形成させ、迅速な成長を可能にするために必要な構成要素を全て与える。多種多様なトレイシステムを、上述の概念を用いて試験し、単位面積当たりほぼ同等の生産性が得られた。例えば、7.5%グリセロール及びC:N比10:1を用い、バイオリアクターの表面積を0.02mから1mまで増やしたとき、生産性は成長期に約44g/m/日で一定のままであった。
【0143】
例5:糸状菌バイオマットの成長及び生産性にトレイサイズが及ぼす影響
バイオマットの成長及び生産性に対するトレイサイズの影響を試験するために、0.02mPyrex(登録商標)ガラストレイ、0.25mポリプロピレントレイ、1.77mプラスチックライナー付きトレイ中、7.5%グリセロールを含むMK7-1培地上でMK7株糸状菌バイオマットを成長させた。表面積に対する液体培地の体積の比率は、全ての処理について6L/mであった。成長速度は、トレイサイズによって最小限しか影響を受けず、6日後に、線形の成長速度が観察された(図8)。乾燥バイオマスの生産性は、それぞれ0.02、0.25、1.77mのトレイで、1.32、1.54及び1.57/m/hであった。
【0144】
例6:異なる培地上でのMK7株の成長
糸状好酸性MK7真菌株の成長特性(すなわち、成長速度、細胞密度、基質変換効率、マット形成)の成長特性は、成長培地の選択の関数として顕著に変動し、培養物は、SSF/深部発酵条件又はSSSF/表面発酵条件で成長する。糸状好酸性MK7真菌株を、イエローストーン国立公園の微生物の自然環境中に見出される化学物質を模倣するために最初に設計されたが、他の糸状真菌にとって有益であることがわかっている栄養源に適合するように窒素、リン、カルシウム及びマグネシウムの濃度を高めた、従来の(2009年5月から2012年11月まで)MK7A培地上で栽培した(表2、MK7A)。MK7-1培地は、糸状好酸性MK7真菌株の成長特性を、特に、表面発酵によるマット形成に関して向上させ、改善するために開発された(表2)。具体的には、リン、カルシウム、マグネシウム、窒素を増やし、さらなる窒素源(尿素)を加えた。カルシウム、マグネシウムを増やし、尿素を加えると、具体的には、成長速度が増加し、マット形成が向上した。
【0145】
【表3】
【0146】
MK7A培地を用いた最初の実験は、シェーカーフラスコ中の深部発酵条件下でのみ行われた。これらの条件下で、最大成長速度、変換効率(糸状バイオマスに変換される炭素基質のg数)、生成した最大糸状バイオマスは、それぞれ、0.072g/L/h、22%、8.6g/Lであった(表3)。
【0147】
【表4】
【0148】
細胞密度を高めるために、MK7A培地を表面発酵条件と組み合わせて利用した。バイオマットは、4~15%の炭素濃度、グルコース又はスクロース4~30%とグリセロールを含む状態で生成した。尿素は、表面発酵条件下で生成速度を高めることが見出され、NHNO、NHPO、NHSOは、NHの代替源である。尿素の添加は、他のNH源と比較して、市場価格が安価であるという利点を有する。糸状バイオマスの密度を180g/Lまで高め(トレイからバイオマットを取り出した後の密度)、成長速度を最適化するには、炭素基質12.5%が理想的であることがわかった。
【0149】
表面発酵及びMK7-1培地を用いて生産された高密度のバイオマットは、深部発酵条件(いずれかの培地を用いる)と比較して、以下を含む多くの利点を有する。(1)深部発酵の場合には最大で24.1g/Lであるのと比較して(表3)、糸状バイオマスの密度が180g/Lまで増加する(トレイからバイオマットを取り出した後の密度)、(2)深部条件では最大速度が0.28g/L/hrであるのと比較して、成長速度が0.46g/L/hrまで増加、(3)最大成長速度のために、炭素原料の密度が7.5%から12.5%まで増加、(4)特に、高密度糸状バイオマスが産生されたとき、糸状バイオマスの採取条件がかなり容易である(例えば、遠心分離を必要としない)、(5)深部発酵のための大きく複雑な通気バイオリアクターと比較して、糸状バイオマスを通気する必要がない、(6)非常に大きな市販の深部発酵機と比較して、表面トレイシステムを使用するようにかなりスケールアップし、拡張することが可能である、(7)液体の廃棄物が少ない。
【0150】
C:N比を10:1未満に下げることも、糸状バイオマス生産にとって非常に有益であり、脂質に対するタンパク質のレベルが増加した。歴史的に、MK7A培地は、特に30超:1のC:N比で、糸状好酸性MK7真菌株によって脂質を産生するように設計された。様々なC:N比と、培養条件とを合わせ、糸状好酸性MK7真菌株バイオマス中の脂質濃度を、バイオマスの5~60重量%に調整することができた。糸状バイオマスの脂肪酸プロファイルは、MK7A培地及びMK7-1培地と非常によく似ており、種々の単純な炭素基質(例えば、グリセロール、グルコース、スクロース)を含むが、温度は、多価不飽和脂肪酸の濃度を上げることがわかり、ω-3リノレン酸は、相対的にもっと低い温度で、時間経過に伴って増加していく(図9)。
【0151】
例7.MK7A培地及びMK7-1培地でのMK7株の成長
MK7株の糸状菌バイオマットは、MK7A培地及びMK7-1培地を用い、炭素源(原料)としてスクロース又はグリセロールを用いた表面発酵条件下で生産された。MK7A培地及びMK7-1培地から生産される糸状菌バイオマットを評価するために、5種類の異なる培地配合物を調製した。(1)MK7A培地中、4%のスクロース、(2)MK7-1培地中、4%のスクロース、(3)MK7A培地中、4%のグリセロール、(4)MK7-1培地中、10%のグリセロール、(5)MK7-1培地中、12.5%のグリセロール。5種類全ての培地配合物のpHを、濃HClを適切に添加して2.7に調整し、その後、10分間沸騰させた。室温(約23℃)まで冷却した後、7.5%(体積/体積)の対数成長期にあるMK7株播種材料を各培地に添加した。pHを2.7に再び調整し、播種した培地を250mLずつに小分けし、これを消毒した0.023mのPyrex(登録商標)ガラストレイに添加した。次いで、トレイをトレイラックシステムに入れ、培地と播種材料の混合物を23℃±1℃でインキュベートした。
【0152】
以前の実験結果に基づき、全ての培地の組み合わせでバイオマスが形成されると予想される。MK7-1培地と比較して、MK7A培地の方がバイオマスを迅速に生成することも予想される。これは、成長(例えば、より低いイオン強度/浸透圧、より低いアンモニウム濃度)のためのMK7A培地のより快適な化学的条件に起因する。しかし、時間の経過と共に、MK7-1培地表面に生育する糸状菌バイオマットは、MK7A培地上で成長するバイオマスよりも速い成長速度で成長する。すなわち、両方の系は異なる増殖速度曲線を有しており、MK7-1培地は、初期段階で急速な成長を示し、後期段階では成長速度が減少する。逆に、MK7-1培地上で成長した糸状菌バイオマットは、まず、初期成長段階では比較的遅い成長速度を示し、その後、バイオマス成長の後期段階で非常に急速な成長速度を示した。最終的に、MK7-1培地上で成長した糸状菌バイオマットは、MK7A培地上で成長したバイオマットよりも厚くなり、より大きな引張強度を有する。MK7A培地中の栄養素(例えば、N、P、K)の濃度が顕著に低いと、早期に栄養素の制限が起こり、MK7-1培地上で産生されるバイオマットほど厚くなく、又は強くないバイオマットでは、成長阻害を引き起こすことが予想される。
【0153】
例8:MK7株によって産生されたバイオマットの構造
バイオマットの構造は、透過型光学顕微鏡によって決定した。ここで、7.5%グリセロールを含むMK7-1培地上で5日間成長させたMK7株からバイオマットを生産した。バイオマットを採取し、凍結させ(-20℃)、1cm×1cmの正方形試験片に切除した後、クリオモルド(VWR 25608-916、ラドナー、PA)中の10%ゼラチン(Sigma G2500-3000 Bloomゼラチン、Sigma-Aldrich、セントルイス、MO)で包み込んだ。液体窒素浴の蒸気相にクリオモルドをさらすことによって、ゼラチン/組織サンプルをすばやく凍結させた後、-20℃に一晩置いた。
【0154】
凍結切除は、Leica 39475214型 Cryosectioner(Leica、ヴェッツラー、ドイツ)を用いて行った。クリオモルドからサンプルを取り出し、OTC組織凍結培地(Leica 14020108926)でコーティングした後、凍結切断して厚さ10~50μmの切片にした。透過光顕微鏡法(顕微鏡:Zeiss AxioObserver;カメラ:Zeiss AxioCam HRc、Carl Zeiss、オーバーコッヘン、ドイツ)を用い、サンプル切片を可視化し、画像化した。
【0155】
グリセロールマットでは、(a)緻密底部層と(b)気中菌糸層の少なくとも2つの別個の層が観察された。あるサンプルでは、(a)緻密底部層、(b)気中菌糸層、(c)遷移領域層の少なくとも3つの構造的に異なる層を見ることができた(図10A及びBを参照)。典型的には、気中菌糸層は、最も顕著に支配的な層であり、その後に緻密底部層があり、存在する場合及び/又は見ることができる場合には遷移領域層が最も小さい。ある場合では、例えば、図10Aに示すバイオマットでは、(a)緻密底部層と(b)気中菌糸層と(c)遷移領域層との目に見える比率は、約3.86対約9.43対約1であった。別のサンプルでは、例えば、図18Bに示すバイオマットでは、この比率は、約1.7対約3.7対約1であった。図18Cには、目に見えて明らかな遷移領域層は見られなかった。
【0156】
MK7-3で成長したバイオマットのさらなる光学画像は、緻密底部層と比較して、上部の気中菌糸層には脂質又は顔料の存在が示されなかった(図11A及び11B)。気中菌糸は、マットから伸びていることがわかり、それぞれが大気にさらされており、菌糸間に液体は存在しない。このことにより、液体及び/又は細胞外多糖/タンパク質マトリックスによって分離されているマットの他の層の菌糸/菌糸体とは区別される。気中菌糸は、酸素の移動とCOの移動を担う。酸素の利用可能性によって、上部の気中菌糸層に酸素を吸収する菌糸が得られる。これらの気中菌糸は、下部のマット層に見られる菌糸/菌糸体よりも長いように見える(図11B図11Cを比較)。上部層の気中菌糸は、垂直配向の優位性も有する傾向があり、すなわち、これらの気中菌糸は、糸状菌バイオマットと空気の界面に対して垂直に配向する傾向がある。
【0157】
緻密底部層の菌糸では、垂直配向は支配的ではなかった(図11C)。ここで、菌糸は絡み合い、配向が混在し、水平配向が優勢な傾向がある。底部層の菌糸は紫色顔料も含んでいるように見えたが、上部の気中層では明白ではなかった。予備実験では、底部層が約30%の脂質を含み、菌糸が、タンパク質及び/又は多糖のマトリックスに埋め込まれていることを示した。底部層の菌糸は、顔料、脂質、炭水化物及びタンパク質の主な貯蔵領域でもある。
【0158】
(1)MK7-1培地及び(2)MK7-3培地で成長させたMK7株から製造したバイオマットを5日後に採取し、20℃で凍結させた。両バイオマットの厚さは、2~4mmの範囲であった。1cmの正方形切片を、上述の2種類の凍結させたバイオマットから3個ずつ切断し、次いで、横方向に半分に切断し、それぞれの厚さが1.5mmの上部及び底部の半分の切片を作成した。
【0159】
MK7-1培地で成長させたバイオマットの平均密度は、上部の横方向の切片では0.131g/cm(標準偏差=0.068)であり、底部の横方向の切片では0.311g/cm(標準偏差=0.032)であった。上部密度と底部密度の比は、0.42であった。
【0160】
MK7-3培地で成長させたバイオマットでは、上部の横方向の切片の平均密度は、0.102g/cm(標準偏差=0.048)であり、一方、底部の横方向の切片の平均密度は、0.256g/cm(標準偏差=0.010)であった。上部密度と底部密度の比は、0.40であった。
【0161】
例9:MK7株によって産生されたバイオマットの引張強度
MK7-3培地で5日間成長させたMK7バイオマットの引張強度を評価した。ここでは、幅25.4cm、長さ46cm、厚さ3.5mmのマットを使用した。マットの含水率は約85%であり、乾燥重量の約15%に相当する。総乾燥重量は、70g/0.25mトレイ又は280g/mであった。このマットの密度は0.08g/cmであった。
【0162】
引張強度を測定するために、マットの一方の端部を静止位置にクランプ止めし、他方の端部を自由移動する装置にクランプ止めした。自由移動する装置自体は、加えられた張力を測定するスケールに取り付けられていた。マットが壊れるまで数秒間かけてスケールを引っ張り、安定してゆっくりとした張力をマットに加えた。マットの破断/裂き/引き裂きに必要な測定された張力は、0.28kg/マット幅2.54cm~0.58kg/マット幅2.54cmの範囲であり、これは、0.11kg/マット幅1cm~0.23kg/マット幅1cmに相当する。その平均は、0.5kg/マット幅2.54cm、又は0.2kg/マット幅1cmであった。
【0163】
例10:粗グリセリン上でのMK7株バイオマットの成長
粗グリセリンを炭素源及び栄養源(原料)として使用し、緻密なMK7株バイオマットを8日間で製造した。粗グリセリンは、バイオディーゼル生産の副産物であり、W-2 Fuels(製品コードGL32000、バッチ4300、カタログ番号56-81-5、エイドリアン、MI)から得た。粗グリセリンは、75~85%のグリセリン、2~10%の水、2~5%の塩、1~2%の脂肪、油又はエステル、1%未満のメタノールで構成されていた。
【0164】
全強度又は1/2強度のMK7-1培地塩に、7.5%濃度の粗グリセリンの飲料水道水溶液(重量:体積)を追加し、全強度又は1/2強度のMK7-1培地11Lを作成した。これらの溶液のpHを4.8に調整し、その後、10分間沸騰させた。室温(約23℃)まで冷却した後、例3に記載のように調製した5%体積:体積のMK7株播種材料を上述の培地に添加した。pHを再び4.8に調整し、播種した粗グリセリン培地を1.5Lずつに小分けし、トレイをラックシステムに配置する前に、これを消毒したポリプロピレン0.25mトレイに加えた。
【0165】
この混合物を23℃±1℃でインキュベートし、8日後に厚さ約4mmの可撓性で比較的緻密なバイオマットを得て、この時点で、バイオマットを採取した。バイオマットを50℃で72時間乾燥させ、平均乾燥重量±標準偏差は、全強度培地処理の場合には30.3±3.1g(n=6)、1/2強度培地処理の場合には30.2±2.8g(n=8)であった。グリセリンから乾燥バイオマットへの平均変換率は34%であり、乾燥バイオマスの重量を基準とした、湿ったマットの密度は、両処理で0.03g/cmであった。
【0166】
例11:小麦蒸留可溶物上で成長させたMK7株バイオマットの菌糸/菌糸体の構造
連結されたMK7株の糸状菌バイオマットは、炭素源及び栄養源(原料)として乾燥小麦蒸留可溶物(ds)を用いて7日間で生産された。小麦dsは、タンパク質31.5%、油8.6%、デンプン2.8%、砂糖13.5%、繊維2.7%、灰分8.5%、カルシウム0.19%、マグネシウム0.29%、カリウム1.7%、リン0.78%、硫酸3.5%から構成されていた。2種類の成長培地処理を調製した。処理1は、水中5%のds乾燥重量を使用し、処理2は、1/2強度のMK7-1塩培地中5%ds乾燥重量を使用した。混合物のpHを3.4に調整した。混合物に、7.5%(体積:体積)の例3に記載したように調製したMK7株播種材料を播種し、その培地175mlをアルコール滅菌した12.7×12.7cmのプラスチックトレイに添加した。糸状菌バイオマットを室温(約23℃)で7日間インキュベートした後に採取した。唯一の炭素源及び栄養源としての5%ds上で成長させたバイオマット(処理1、MK7-1塩を含まない)は、厚さが平均2.7mmであり(n=3トレイ)、明確な層化を示さず、平均乾燥重量は0.83gであり、平均密度は0.019g/cmであり、変換効率は約10%であった。気中菌糸は観察されず、マットは、全体的に液体で飽和されていた。すなわち、マットの上部表面は、液体の表面にあった。
【0167】
MK7-1塩を追加した5%dsで成長させたバイオマット(処理2)は、厚さが平均6.4mmであり、平均乾燥重量は3.11gであり、平均密度は0.030g/cmであり、変換効率は約40%であった。これらのマットは、厚さ約0.9mmの別個の緻密層のすぐ上に、厚さが約4~7mmの広範でふわふわした白い気中菌糸系を発達させた。上部層の密度は0.011g/cmであり、下部層の密度は0.148g/cmであった。
【0168】
例12:炭素源及び栄養源としてのコーンスティープリカー及びコーンスティープリカー/デンプン上でのMK7株の糸状菌バイオマットの成長
緻密なMK7株の糸状菌バイオマットは、唯一の炭素源及び栄養源(原料)としてコーンスティープリカーを用い、わずか4日間で生産された。さらに、デンプンを5%添加したコーンスティープリカーも、緻密な糸状菌バイオマットを生成することができることが示された。コーンスティープリカーは、トウモロコシ湿式粉砕の粘性のある副生成物であり、アミノ酸、ビタミン、及びミネラルの組成を有し、微生物発酵の補助剤として適している。この例で使用したコーンスティープリカーは、Santa Cruz Biotechnology,Inc.(ダラス、TX;ロット番号B0116)から購入した。これらの実験は、MK7-1栄養素の代替物としてのコーンスティープリカーの使用を示した。処理は、唯一の炭素源及び栄養源として10%及び20%のコーンスティープリカー、(それぞれ)5%デンプンを含む10%及び20%のコーンスティープリカーを含んでおり、デンプンは、糸状菌バイオマットの成長のためのさらなる炭素を与える。
【0169】
0g又は50gの乾燥デンプンを含む体積1Lに対し、10%又は20%のコーンスティープリカーを添加することによって、4バッチの培地を調製した。適切な量のHClを添加することによって培地をpH3.6に調整し、適切な容器中で15分間沸騰させた。室温まで冷却後、混合物のpHを3.6に再び調整し、混合物に、例3で調製した7.5%MK7株播種材料を播種した。培地を175mlに小分けし、これを5つの四角トレイ(0.016m表面積/トレイ)に添加し、ラックシステム中、23℃±1℃でインキュベートした。6日後に糸状菌バイオマットを採取した。10%、20%、10%+デンプン及び20%+デンプンにおけるコーンスティープリカー処理の平均最終pHは、それぞれ3.97、3.69、4.23及び4.15であった。これらの処理の平均バイオマス重量±標準偏差は、それぞれ1.1±0.2、0.1±0.1、2.3±0.1及び2.1±0.2gであった。
【0170】
例13:牛の肥育池水から糸状菌バイオマットへの変換
成長実験は、唯一の炭素源及び栄養源として牛の肥育池水を用いて実施した。水の初期溶存有機炭素含有量は4g/Lであり、初期総溶存窒素含有量は0.8g/Lであった。
【0171】
肥育池水を濃HClでpH2.6に調整し、例3で調製した7%MK7株播種材料を播種した。消毒した0.25mのポリプロピレントレイを1.5Lの播種した廃水で満たし、24℃±1℃でインキュベートするために、トレイラックシステムに入れた。播種から2日後に糸状菌バイオマットが液体表面に形成され始めた。10日後、糸状菌バイオマット及び残った液体を1つの容器に集め、乾燥させた後、Costech total C and N analyzer(ECS 4010,Costech Analytical Technologies,バレンシア、CA)を用い、総C及びNを分析した。トレイ当たりの平均乾燥バイオマスは、6.531g(n=2)であった。マットと残留液の分析により、炭素の約77%と窒素の99~100%が、マットによって肥育池廃水から除去されたことが明らかになった(この方法検出限界は約1%)。このシステムの炭素及び窒素の除去率は、10日間にわたって平均した場合、6.8mg/L/h及び1.2mg/L/hであった。現在の理解によれば、肥育池水をHClでpH2.6に酸性化し、MK7株を播種することによって、Cの大部分と、Nのほぼ全てを肥育池水から除去することが可能である。さらに、直接肥育池水を処理することが可能であり、現場の肥育池水上に浮遊する糸状菌バイオマットを生じ、その後使用するために採取することができる。
【0172】
例14:酸ホエイ代用培地上でのMK7株バイオマットの成長
緻密なMK7株バイオマットは、Acid Whey Surrogate Medium(AWS)から7日間で製造された。AWS培地の組成は、Tsakaliら(2010)に記載されている酸ホエイの典型的な組成に基づいていた。この例で使用したTsakali培地及びAWS培地の組成を表4に記載する。
【0173】
pH4.8のAWS培地87mLを使用して、滅菌した12.7×12.7cm(0.016m)のポリプロピレントレイでバイオマットを生産した。この培地は、1L三角フラスコ中で表4に記載の成分を混合し、pHを4.8に調整し、次いで10分間沸騰させることによって調製した。培地が約23℃まで冷却された後、7.5体積%(体積/体積)の対数成長期の播種材料を上述のフラスコに添加した。この播種材料を、例3に記載したように作成した。播種した培地を87mLに小分けし、これをイソプロピルスワブドトレイ(例3)に添加し、このトレイを、例3に記載したトレイラックシステムに取り付けた、これより大きな(0.25m)トレイに置いた。培養物を25±1℃でインキュベートし、比較的緻密なバイオマットを得て、これを7日後に採取した(図18)。7日後の残留液の平均pH値は、6.9±0.1であった。このように、成長プロセスは、AWSのpHを、酸ホエイに典型的な4.8から中性付近(約7)に中和した。透過型光学顕微鏡法は、AWS培地上に生成されたバイオマットの糸状性を明らかにした(図18)。湿ったバイオマットの平均厚さは4±0.5mmであった。バイオマットを50℃で30時間乾燥し、得られた平均乾燥重量は、1.88±0.2gであった。湿ったバイオマットの平均密度は、0.29g/cmであった。乾燥原料(ラクトース及び総タンパク質)の乾燥バイオマットへの平均変換率は42.2%であった。
【0174】
【表5】
【0175】
例15:酸ホエイ上でのMK7株バイオマットの成長
主な炭素源及び栄養源として酸ホエイを用い、MK7株バイオマットを6日間成長させた。バイオマットは、種々の処理を行った125mLの原料酸ホエイを使用し、滅菌済みの12.7×12.7cm(0.016m)のポリプロピレントレイで生産された。この処理は、pHを調整し、選択した栄養素を加え、及び/又は競合する微生物の存在を最小限にするために加熱した後、成長速度とバイオマスの生産性を評価するために行われる。
【0176】
あらかじめ滅菌しておいた1リットルの三角フラスコ(125℃で10分間加熱した)に、体積500mLの酸ホエイを加え、液体培地に、表5に概説するような選択した処理(1~12)を行う。pHを調整しない(酸ホエイの平均pHは4.8)か、又は濃HClでpH2.7に調整する。栄養素添加処理は、添加しない、窒素源として2.5g/Lの尿素、又は例1に記載したように酸ホエイ液中で調製した完全に適した栄養素として1/2強度のMK7-1、グリセロールを引いたものを含む。加熱殺菌は、他の処理(pH及び/又は栄養素添加)が行われた後、酸ホエイ液体培地を15分間沸騰させることによって行われる。培地が約23℃まで冷却された後、7.5体積%(体積/体積)の対数成長期の播種材料を上述のフラスコに添加する。この播種材料を、例3に記載したように作成する。播種した培地を125mLに小分けし、これをイソプロピルスワブドトレイ(滅菌手順について例3を参照)に添加し、このトレイを、例3に記載したトレイラックシステムに取り付けた、これより大きな(0.25m)トレイに置く。培養物を25±1℃で少なくとも6日間インキュベートする。
【0177】
【表6】
【0178】
例16:嫌気性消化物上でのMK7株の糸状菌バイオマットの成長
嫌気性消化物を唯一の炭素源及び栄養源(原料)として使用し、緻密なMK7株バイオマットを7日間で製造した。嫌気性消化物は、酸素制限条件下で、リグノセルロース富化バイオマス(例えば、トウモロコシ茎葉、小麦わら、牛肥料)の微生物発酵後に残るリグニンに富む固形残留物である。嫌気性消化物は、微生物によるさらなる分解に抵抗性があると考えられており、この理由から、土壌改質として一般に使用されているか、燃焼され、電気の生成のために蒸気発生器に動力を供給している。
【0179】
2Lの飲料水道水に湿った嫌気性消化物(500g)を加え、混合物を作成した。この混合物の天然pHは、5.5であった。混合物に、7.5%(体積:体積)の例3に記載したように調製したMK7株播種材料を播種し、得られた混合物200mlを、四角形の12.7×12.7cmトレイに添加した。連結されたバイオマットが表面に形成され、室温(約23℃)で7日間インキュベートした後に採取した。バイオマットの平均厚さは2.6mmであり、平均乾燥重量は0.62g(n=3、標準偏差=0.03g)であり、対応する密度は0.015g/cmであった。平均変換効率は2.3%であった。
【0180】
嫌気性消化物から微生物バイオマスへの変換率を高めるために、嫌気性消化物に大麦培地を追加することによって、強化された成長培地を効果的に用い、さらなる実験を行った。大麦培地を用いて成長を刺激し、嫌気性消化物から真菌バイオマスへのさらなる分解及び変換のためにMK7株による系中での酵素産生を誘導した。1Lの水道水、50gの大麦の花、1gの酵母抽出物、0.1mLのグルコアミラーゼ(Distillate VHP、Dupont)、0.1mLのα-アミラーゼ(SPEZYME ALPHA、13,775AAU/g、Dupont)及び0.1mLのβ-グルコナーゼ(Optimash TBG、Dupont)を合わせることによって、強化された大麦培地を調製した。混合物を65℃まで加熱し、65℃で15分間撹拌した。その後、混合物を15分間沸騰させ、酵素を不活化した。次いで、混合物を室温まで冷却した。
【0181】
嫌気性消化物の実験のための上述のプロトコルを、ただし、水道水を、強化された大麦培地で置き換え、使用する各構成要素の全体積を半分に減らした以外は、繰り返した。嫌気性消化物からバイオマットへの平均変換率は、嫌気性消化物を添加しないコントロール処理で生成したバイオマスを差し引いた後に、6±2%であった。
【0182】
例17:トレイリアクター中の他の糸状菌の成長
リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)及びフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)の成長を、MK7株について例1、2及び3に記載の表面発酵技術を用いて評価した。
【0183】
リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)は、世界中のテンペ(ヒトの食品)生産に広く用いられている。リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)株ATCC 22595は、2015年10月1日にATCCから入手した。ATCCから入手したR.オリゴスポラス(R.oligosporus)の純粋培養サンプルを、例2に記載したように、ペトリ皿中のMK7-1寒天培地上に置いた。
【0184】
Quorn(商標)食品製造で使用されているフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)は、ボーズマン(モンタナ州)のAlbertsonスーパーマーケットから2016年1月16日に購入したQuornチキンナゲットパッケージ(UPCコード:33735-00006)から取り出した。F.ベネナタム(F.venenatum)を単離するために、F.ベネナタム(F.venenatum)が入ったQuorn(商標)チキンナゲットサンプル(約0.25cm)を、250mlのバッフル付きシェーカーフラスコ中の100mLの滅菌MK7-1培地(pH5)に入れた。培地及びフラスコを、フラスコ内の培地を20分間沸騰させることによって滅菌した。Quorn(商標)サンプルを添加する前に、培地を23℃まで冷却した。23±1℃、200rpmで回転させつつ、3日間インキュベートした後、1mLの培養物を取り出し、別の同一のフラスコ及び培地に播種するために使用した。同じ方法でさらに3日間インキュベートした後、培養物を小分けした50μLを取り出し、無菌ペトリ皿中の滅菌MK7-1寒天培地(pH4.8)上に播種した。
【0185】
R.オリゴスポラス(R.oligosporus)及びF.ベネナタム(F.venenatum)プレート上で発育した菌糸体マットを使用し、例3に記載したように滅菌した1Lのバッフル付きシェーカーフラスコ中の350mLのMK7-1培地に播種した。例3に記載のシェーカーフラスコ中で5日間成長させた後、トレイリアクターのための播種材料として培養物を使用した。トレイリアクターのための望ましい播種材料は、対数期後期に6g/Lを超える細胞密度を有する微生物学的に純粋な培養物からなる(例3を参照)。例3に記載したように、1.5Lの播種したMK7-1培地を含む2つのトレイを、2種類の生物のそれぞれについて調製した。培地のpHは、リゾプス(Rhizopus)については4.1に、フザリウム(Fusarium)については5.0に調整した。得られた培養物及びマットの画像を図12及び13に示す。
【0186】
例18:固体基質表面発酵(SSSF)によって産生されたバイオマスと比較した、固体状態発酵(SSF)によって産生された糸状菌バイオマットの比較
SSF手順
ここでいう固体状態発酵(SSF)とは、含水量が低い、通常50%未満の固形分で起こる微生物発酵プロセスを意味する。
【0187】
MK7 SSF播種材料は、2Lガラス容器中、20gのグルコースを1LのMandels and Reese培地に加えることによって調製し、pH4.5、121℃で45分間、オートクレーブ処理した。得られた培地100mLを、250mlの三角フラスコに加え、-80℃グリセロールストックからMK7株0.25gを播種した。培養物を30℃、180rpmで14日間インキュベートした後、SSFの播種材料として使用した。
【0188】
SSFプロセスの一例は、WO2016/004380号及びUS2016/0002680号のバイオマットの製造に使用されたものである。具体的には、小麦わら100グラムを市販のブレンダーで細かくし、2リットルのガラス瓶に入れた。300mlのMandels and Reese培地及び3mlの濃HSOを加えた。得られたスラリーを121℃で45分間オートクレーブ処理した。オートクレーブ処理したスラリーのpHをNaOHで3.0に調整し、室温まで冷却し、次いで、250mlの三角フラスコ4本に等分して移した。10mlのMK7株播種材料を添加し、フラスコを30℃、180rpmで4日間振とうし、その後、全てのフラスコの内容物を9×9インチのPyrex(登録商標)皿に移した。得られた培養物をSaran(登録商標)ラップで覆い、採取前に30℃で7日間インキュベートした。
【0189】
SSSF手順
SSSF播種材料は例3に記載されており、手順は以下の例に記載されている(すなわち、液体層の上に浮遊するサトウダイコンパルプ及び他のリグノセルロース系材料の変換)。具体的には、本明細書で言及するSSSFは、固形基質が液体表面より下に沈められたときに起きる発酵を意味し、糸状菌バイオマットは、沈められた固体由来の炭素及び栄養素を用い、液体表面上で成長する。産生された糸状菌バイオマスは凝集性であり、高密度であり、原料を含まない(図14C)。
【0190】
バイオマス生産と、得られた生成したバイオマットは、SSSF手順とSSF手順との間でかなり異なる。培地構成要素、イオン強度、浸透圧、原料濃度、播種材料の品質、培養時間(表6及び7)は、全て、SSSFとSSF方法論との間の重要なパラメータの相違である。これらのプロセスの差は、バイオマス特性(例えば、密度、連結マットの形成、微生物の純度、フィラメントの長さ、フィラメントの組織化など)が大きく異なる結果である。
【0191】
SSSFによって生産されたバイオマスは、液体層の上部に浮遊し、固体の原料層から物理的に分離した糸状菌バイオマットの生産をもたらす。得られた糸状菌バイオマットは、凝集し稠密なマットに組織化された、本質的に純粋な真菌バイオマスである。マットは、高い引張強度を有し、(図1C、11及び12に示すように)数ミリメートルから数センチメートルにわたる平均長さを有する長いフィラメントで構成される。フィラメントは、主にバイオマットの表面に平行に組織化され、非常に高密度の真菌の塊で結合している。バイオマットの表面は、バイオマットの表面に対して垂直に配向された気中菌糸を示してもいてもよく、又は示していなくてもよい。糸状菌バイオマットは、液体又は固体基質から物理的に分離しているため、成長環境から容易に取り出され、比較的純粋な糸状菌バイオマットを迅速に、容易に採取することができる。
【0192】
対照的に、SSFによって成長したバイオマスは、ランダムな構成で固体基質と不均質に一体化したバイオマスを生成する。産生されたバイオマスのフィラメントは、一般に、長さが100μm未満である(図14B)。さらに、SSFによって生成したバイオマスは、凝集性はなく、単一の単位で拾い上げることができないほど、低い引張強度が問題となる(図14Aを参照)。得られたバイオマス/固体基質混合物は、特にSSSFによって生産された糸状菌バイオマットと比較した場合、密度が低い傾向がある。
【0193】
【表7】
【0194】
例19:MK7株によるサトウダイコンパルプのSSF及びSSSF
MK7株バイオマスは、SSF法及びSSSF法を用い、主な炭素源としてサトウダイコンパルプを用いて生産された。サトウダイコンパルプは、処理工場でサトウダイコンパルプから砂糖を除去した後に残る、サトウダイコンの野菜部分である。サトウダイコンパルプは、ビリングス、モンタナのWestern Sugar Cooperative製造工場から得て、約24%の乾燥物質、9.1%の粗タンパク質、0.6%の粗脂質、23.1%の粗繊維、4%の灰分、0.56%のカルシウムで構成されていた。
【0195】
SSF実験のために、乾燥サトウダイコンパルプ50gを250mlの水と混合した。混合物を20分間オートクレーブ処理して無菌性を確保した。室温(約23℃)まで冷却した後、トウモロコシ茎葉/水混合物の表面上にバイオマットとして成長させた250mgの湿ったMK7株バイオマットを混合物に播種した。MK7株バイオマットを、滅菌スパチュラを用いてサトウダイコンパルプ混合物に混合し、得られた播種された混合物を室温で4、5及び7日間インキュベートした。
【0196】
SSSF実験のために、サトウダイコンパルプを、1/2強度のMK7-1培地に対して7%の濃度で加え(パルプ重量:液体体積)、300mlの培地を作成した。適当な量のHClを添加することにより培地のpHを4.8に調整し、続いて20分間沸騰させた。室温まで冷却した後、例Cに記載のトウモロコシ茎葉/水混合物の表面上に糸状菌バイオマットとして成長させた約100mgのMK7バイオマットを、滅菌したスパチュラを用いて培地に混合した。適切な量のHClを添加することによってpHを4.8に再び調整し、トレイラックシステムにトレイを入れる前に、滅菌した0.023mのパイレックス(登録商標)ガラストレイに、播種したパルプ培地を小分けした100mlを添加した。播種した混合物を23℃±1℃でインキュベートした結果、それぞれ4、5及び7日後に、約2.9、3.4及び4.1mmの厚さの柔軟で緻密なバイオマットが得られた。バイオマットを採取し、50℃で48時間乾燥し、乾燥重量は、1.85g(4日間)、2.25g(5日間)及び2.85g(7日間)であった。サトウダイコンパルプから乾燥バイオマットへの変換率は、それぞれ4、5及び7日のマットで26.4%、32.1%及び40.7%であった。ほとんどのバイオマットの体積の乾燥重量に基づくバイオマット密度は、それぞれ4、5及び7日間のマットについて、0.028、0.029及び0.030g/cmであった。
【0197】
SSF対SSSFを使用した成長から、著しく異なるバイオマス形態が生じた。SSFは、バイオマスと基質の両方の密接した混合物であるバイオマス構造を生成した。これらの混合物は、サトウダイコンパルプ基質の断片の周り及びその中に絡み合った低密度の真菌バイオマスを含んでいた。これらの密接した混合物は、主として少量の真菌バイオマスが散在した基質から構成されていた。バイオマスを基質から分離することは、かなりの追加のプロセスを必要とし、技術的に達成するのが困難であるため、行わなかった。
【0198】
対照的に、SSSFは、サトウダイコンパルプ基質と物理的に分離した別個の糸状菌バイオマットを生じ、バイオマットの直接的かつ簡単な採取を可能にした。さらに、得られた糸状菌バイオマットは、緻密であり、本質的に純粋であり、長く整列したフィラメントから構成されていた。
【0199】
例20:ニンジン及びブロッコリーの廃棄物上でのMK7株の糸状菌バイオマットの成長
緻密なMK7株バイオマットは、ホモジナイズされたブロッコリー又はホモジナイズされたニンジンを原料として使用して、6日間で生産された。ブロッコリーとニンジンは、ボーズマン、モンタナ州のCostco Wholesaleから購入した。100グラムの各原料を、市販のフードプロセッサーで、金属ブレードを用い、高速で個別に5分間ホモジナイズし、9000mlの水道水を用い、2リットルのビーカーに入れた。中程度の塩を以下のように加えて混合物を形成した。


【0200】
1.3mlの濃HClを添加することにより、混合物のpHを3.5に調整した。培地をアルミニウム箔で覆い、次いで、30分間沸騰させた。室温(約23℃)まで冷却した後、例3に記載のように調製した播種材料50ml(7.5%体積:体積)を各供給原料の培地に添加し、均質な混合物が形成されるまで撹拌した。250mlの混合物を4つの別個の5×7インチ(0.02m)のトレイに注ぎ、Saran(登録商標)ラップで覆った。採取前にトレイを23℃±1℃で7日間栽培した。得られたバイオマスは、残っているブロッコリー原料又はニンジン原料を含まない、可撓性で緻密な糸状菌バイオマットであった。すなわち、原料残留物を含まず、本質的に純粋なMK7バイオマスからなる糸状菌バイオマットが生産された。採取後の残留液の平均pH値は、6.2であった。湿ったバイオマットの平均厚さは3±1mmであった。糸状菌バイオマットを50℃で72時間乾燥させ、平均乾燥重量±標準偏差は、ブロッコリーで1.7±0.2g、ニンジンで1.7±0.2gであった。ブロッコリーの乾燥重量に対する平均変換率は、52±5g MK7株乾燥重量/ブロッコリーの乾燥重量100gであった。ニンジンの乾燥重量に対する平均変換率は、55±7g MK7株乾燥重量/ニンジンの乾燥重量100gであった。
【0201】
例21:都市有機廃棄物代用物(前処理の機能としての草刈り及び葉)上でのMK7株栽培
都市有機廃棄物に対する酸及び塩基の前処理の影響は、原料から糸状菌バイオマットへの変換率の関数として評価した。ケンタッキー・ブルーグラスの切り抜きとトネリコの木の葉は、含水量が8%未満になるまで60℃で別々に乾燥させた。各原料は、市販のブレンダーで細かい粉末に粉砕した。
【0202】
HCl酸の前処理
・100ml水道水中、pH2.5で(33%HClで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。
・100ml水道水中、pH2.5で(33%HClで調整)、10mMのMnSOを含み、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。
・100mlのMK7-1培地中、pH2.5で(33%HClで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。
・100mlのMK7-1培地中、pH2.5で(33%HClで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10mMのMnSOと共に10分間沸騰させることによって前処理した。
【0203】
NaOH系の前処理
・100ml水道水中、pH10.75で(1%NaOHで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。HClを用い、最終pHを2.5に調整した。
・100ml水道水中、pH10.75で(1%NaOHで調整)、10mMのMnSOを含み、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。HClを用い、最終pHを2.5に調整した。
・100mlのMK7-1培地中、pH10.75で(1%NaOHで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10分間沸騰させることによって前処理した。HClを用い、最終pHを2.5に調整した。
・100mlのMK7-1培地中、pH10.75で(1%NaOHで調整)、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)の3個組を、10mMのMnSOと共に10分間沸騰させることによって前処理した。HClを用い、最終pHを2.5に調整した。
【0204】
コントロールの前処理
・100mlの水道水中、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)を3個組。最終pH5.5。
・100mlの水道水、10mMのMnSO中、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)を3個組。最終pH5.5。
・100mlのMK7-1培地中、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)を3個組。最終pH5.5。
・100mlのMK7-1培地、10mMのMnSO中、10gの草/葉(乾燥重量で50:50)を3個組。最終pH5.5。
サンプルを12.7×12.7cmのトレイに入れ、カバーし、次いで7日間インキュベートした。結果を図15に示す。それぞれの場合に、前処理を適用すると、得られた変換率が増えた。すなわち、酸又は塩基による前処理を適用することによって、また、マンガンの添加によって、得られた糸状菌バイオマットに対する原料の変換量が増えた。
【0205】
例22:デンプン上でのMK7株バイオマットの成長
緻密なMK株及び糸状菌バイオマットは、炭素源及び栄養源(原料)としてデンプンを用い、わずか4日間で生産された。これらの具体的な実験で使用されたデンプンは、Argo Food Companies,Inc(メンフィス、TN)によって製造された100% Argo Corn Starchであり、ボーズマン、MHのAlbertsonスーパーマーケットから購入した。
【0206】
鋼鉄製の10Lポット中、6L容積の飲料水道水に、6%、8%及び10%の乾燥デンプン粉末を添加することによって、3バッチのデンプン培地を調製した。この混合物にMK7-1塩を追加し、10分間沸騰させた後、室温(約23℃)まで冷却した。混合物を加熱すると、融合したデンプンの塊が得られ、次いで、これを物理的に小さな塊へと分解した。混合物のpHを2.7に調整し、例3に記載したようにして調製した7.5%(体積:体積)のMK7播種材料を播種した。
【0207】
播種された培地を1.5Lに小分けし、これを4つの消毒したポリプロピレン0.25mトレイに加え、トレイラックシステムに入れ、23℃±1℃でインキュベートした。成長させてちょうど2日後に、緻密な糸状菌バイオマットを観察し、バイオマットを6日後に採取した。採取後のトレイに残っている残留液体の平均pH値は、それぞれ、6%、8%、10%での処理の場合に、6.05、6.11、5.88であった。バイオマットの平均厚さは、3回の処理でそれぞれ2.9mm、3.1mm、3.3mmであった。糸状菌バイオマットを50℃で72時間乾燥させ、平均乾燥重量±標準偏差は、それぞれ6%、8%、10%のデンプンを含む4個ずつのトレイについて、29.0±1.3、34.4±1.5、38.2±1.9gであった。これは、糸状菌バイオマット乾燥重量に対して、32%、29%、及び25%のデンプンの変換率に相当する。湿った糸状菌バイオマットについての乾燥重量を基準とした平均密度は、上述の3種類の処理についてそれぞれ0.04、0.04及び0.05g/cmであった。
【0208】
例23:ジャガイモ処理廃液上でのMK7株の糸状菌バイオマットの成長
緻密なMK7株の糸状菌バイオマットは、炭素源及び栄養源(原料)としてジャガイモ処理廃棄物を用い、7日間で生産された。ジャガイモ処理廃棄物は、一般に、ジャガイモの処理中に生成し、洗浄、皮むき、切断操作(すなわち、フライドポテト、ポテトキューブ、フレークなど)からの廃液を含む。ジャガイモ処理廃液は、ひとかたまりの複数のジャガイモ処理廃液のピリンで構成される廃棄堆積物も含み、覆いのない自然環境にさらされる。この例では、複数の様々なジャガイモの処理廃棄物で構成されるジャガイモ処理廃液を、2016年9月21日にホワイトホール、モンタナ州のBauch Farmsから入手し、MK7株バイオマットを成長させるための炭素源及び栄養源として48時間以内に使用した。
【0209】
ジャガイモ切れ端は、フライドポテトをジャガイモ全体から切り取った後に残るジャガイモ片である。ジャガイモ切れ端は、大きさ及び寸法が様々であり、非限定的な例として、薄い細長片から、長さが6インチ、厚さが0.5インチ以上のジャガイモ片までがある。大部分の場合には、新鮮な廃棄物は、傷、傷みなどのためにジャガイモから除去されたジャガイモ片を記述する。ある場合には、ジャガイモ全体が廃棄サンプルとして含まれる。皮は、主にジャガイモから表皮を剥がしたものである。
【0210】
ジャガイモ切れ端、廃棄物及び表皮は、フードプロセッサー(高に設定したFarbarware 103742型フードプロセッサー)によって均一な稠度を有するようになるまで、体積約500mlのバッチで1分間処理された。食品加工されたサンプルは、この例の説明では、混合物と呼ばれる。
【0211】
混合したジャガイモ切れ端と新鮮な廃棄物を、15Lのエポキシコーティングした鋼製調理用ポット2個に、MK7-1培地の体積に対して湿潤時の重量ブレンド10%の比率で、4.5Lの液体MK7-1培地に対してブレンド500gの比率で加え、混合物を作成する。混合物のpHを、濃HClを用いて2.45に調整した。例3に記載したように調製したMK7株播種材料を、7.5%体積:体積(すなわち、4625mlの混合物に対して375mlの播種材料)の比率で添加した。播種した懸濁物を小分けした1.5Lを、個々の0.25mの滅菌したポリプロピレントレイに3個ずつ加え、トレイラックシステムに入れた。培養物を23℃±1℃でインキュベートし、7日後にn個の可撓性で緻密なバイオマットを採取した。採取後のトレイに残っている残留液体の平均pH値は、それぞれ、切れ端では7.1、新鮮な廃棄物処理では6.9であった。採取したバイオマットを水道水7Lで、10分間穏やかに撹拌しながらすすぎ、50℃で72時間乾燥させた。
【0212】
湿ったバイオマットの平均厚さは、切れ端の場合3.8±0.9mm、廃棄物の場合3.9±1.0mmであった。各トレイにおけるバイオマスの平均乾燥重量±標準偏差は、切れ端からは33.6±0.6gであり、新鮮廃棄物からは40.2±2.7gであった。乾燥重量に基づくバイオマットの平均密度は、切れ端では0.035g/cmであり、廃棄物では0.041g/cmであった。元のジャガイモ副生成物中の全固形物から乾燥バイオマットへの平均変換率は、切れ端で36%、新鮮な廃棄物で43%であった。MK7株によって使用される炭素の約50%が二酸化炭素として大気に放出されるという事実を考慮すると、50%近くの変換率が、炭素の100%変換効率になると考えられる。
【0213】
ブレンドしたジャガイモの皮を、成長実験に先立って前処理し、MK7株に対するジャガイモの皮の栄養素の接近を増加させた。ブレンドしたジャガイモの皮(175g)を、それぞれの9個の12.7×17.8cm(0.023cm)のPyrex(登録商標)ガラストレイに加え、それぞれ3個ずつ、3回の処理の実験マトリックスを作成した。処理1には、50mlの飲用水道水が与えられた。処理2は、トウモロコシ茎葉上で成長させたときにMK7株によって分泌された一連のMK7株加水分解酵素を含むMK7株加水分解物を小分けした45mlが与えられた。処理3は、50mlの水道水と、0.05gのセルラーゼY-C(MP Biomedicals、カタログ番号320951、ロット番号M4156)、2.5mlのグルコアミラーゼ(Distillate VHP、Dupont)、2.5mlのα-アミラーゼ(APEZYME ALPHA、13,775AAU/g、Dupont)、2.5mlのβ-グルコナーゼ(Optimash TBG、Dupont)から構成される一連の市販の酵素が与えられた。処理3のトレイを50℃で30分間インキュベートして酵素加水分解を刺激し、その後、5分間沸騰させ、酵素を不活化した。処理のpHを、濃HClを用いて3.0に調整し、例2に記載したように調製した10mlのMK7株を全てのトレイに播種した。7日後、バイオマットを液体表面から取り出し、水道水で10秒間すすぎ、60℃で48時間乾燥させた。ジャガイモ皮の乾燥重量から乾燥バイオマットへの変換率は、コントロール(HOのみ)平均=5.9%(5.5%、6.5%、5.8%)、MK7株酵素=9.0%(7.2%、10.1%、9.8%)、市販の酵素=9.9%(10.2%、8.4%、11%)であった。
【0214】
例24:SSSFによって生産されたバイオマットに対する、SSFによって生産されたバイオマスの栄養分析
栄養分析は、SSSF方法論に対し、SSF法から得られたバイオマットと比較し、Eurofinsによって実施された。SSFサンプルは、Michigan Biotechnology Instituteのアンモニア繊維拡張(AFEX)で前処理したトウモロコシ茎葉上で培養したMK7株から得た。150gのAFEXを500mlの水道水に添加し、濃HCLでpHを3.5に調整した後、121℃でオートクレーブ処理した。得られた混合物に、例18に従って25mlのMK7株播種材料を播種した。スラリーを23×23cmのPyrex(登録商標)ガラストレイに移し、室温で11日間インキュベートした。統合したMK7株バイオマスとトウモロコシ茎葉を採取し、60℃で48時間乾燥させた。Eurofins USA(デモインズ、アイオワ州)では、総タンパク質、総繊維、総炭水化物、灰分及び総脂肪についてサンプルを分析した。
【0215】
SSSFサンプルは、5%AFEXトウモロコシ茎葉で産生されたマットから得た。AFEXトウモロコシ茎葉50gを水道水1Lに添加し、濃HClでpHを3.5に調整した後、121℃でオートクレーブ処理した。得られた混合物に、例3に記載したように調製した50mlのMK7株播種材料を播種した。スラリーを2つの23×23cmのPyrex(登録商標)ガラストレイに移し、室温で11日間インキュベートした。マットを採取し、30秒間水道水ですすぎ、続いて60℃で24時間乾燥させた。Eurofins USA(デモインズ、アイオワ州)では、総タンパク質、総繊維、総炭水化物、灰分及び総脂肪についてサンプルを分析した。
【0216】
【表8】
【0217】
例25:糸状好酸性MK7真菌株のアミノ酸プロファイル
糸状好酸性MK7真菌株バイオマットは、MK7-1培地において例2及び3に記載の方法を使用し、トレイリアクター中で産生された。6つのトレイからの糸状バイオマスを合わせた後、60℃で45分間、50℃で72時間乾燥させた。この糸状バイオマス400gを、栄養分析のために、デモイン、アイオワ州のEurofins Scientific Inc.のNutritional Analysis Centerに送った。アミノ酸は、Association of Official Agricultural Chemists(AOAC)Official Methods of Analysisで公開された国際的に認められた、以下のような方法を用いて分析した。トリプトファンについてはAOAC 988.15、シスチン及びメチオニンについてはAOAC 994.12改変法、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、総リシン、チロシン及びバリンについてはAOAC 982.30改変法。Eurofinsによって報告された糸状好酸性MK7真菌株サンプルのアミノ酸組成を、魚飼料について使用したフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)のアミノ酸組成と比較する(Alriksson,B.ら、(2014)Fish feed from wood.Cellulose Chemistry and Technology 48:9-10(2014),Quorn(Nutritional Profile of Quorn Mycoprotein,2009),egg albumin(Food and Agriculture Organization of the United Nations.The Amino Acid Content of Foods and Biological Data on Proteins,Nutritional Study #24.Rome(1970).UNIPUB,Inc.,4611-F Assembly Drive,Lanham,MD 20706)and Rhizopus oligosporus(Graham,D.C.,Steinkraus,K.H. & Hackler,L.R.(1976)Factors affecting production of mold mycelium and protein in synthetic media.Appl Environ Microbiol 32:381-387)in Table 8。総タンパク質含有量は、4.5%の含水量のバイオマスの41.5%として測定された。注目すべきことに、糸状好酸性MK7真菌株は、4種類の他のタンパク質源の全てと比較して、より高い濃度の必須アミノ酸を含むことが示され、糸状好酸性MK7真菌株は、食品及び飼料にとって非常に望ましいタンパク質源となった。
【0218】
【表9】
【0219】
例26:食品グレードのグリセロールからの糸状好酸性MK7真菌株による、C18を豊富に含む脂質の産生
培地調製:125g/Lのグリセロール(The Chemistry Store-Kosher Food Grade Glycerol>99.7%、ASIN:B00KN1LRWQ、インターネット上で入手可能)(562.5g)と、C:N比を40:1に変更するNHNO及び尿素窒素濃度(C源中の炭素のモル数:窒素化合物中のNのモル数)を用い、4.5リットルのMK7-1培地を調製した。
【0220】
【表10】
【0221】
混合物のpHを2.7に調整し、フラスコの上部をアルミ箔で覆った2リットルの三角フラスコ中で30分間沸騰させることにより加熱滅菌した。混合物を2時間かけて25℃まで冷却した。
【0222】
播種:播種材料(対数成長期(例3を参照)の乾燥重量として15g/Lの浮遊細胞)を、最終的な乾燥重量濃度が1g/Lになるように、冷却したフラスコに加えた。播種材料を均一に分布させるために、フラスコを十分に混合した。浮遊状態の細胞は、マット形成にとって重要であり、細胞のクラスター化(すなわち、1mmを超えるバイオフィルム)が最小限になることが望ましい。理想的には、2.5mmより大きい細胞クラスターは、分配する前に播種物から濾過されるべきである。
【0223】
インキュベート及び採取:播種材料を含む混合物を、体積1.5リットル/トレイ又は6リットル/平方メートルで3個の0.25mトレイに均一に分配し、25℃、湿度90~100%で8日間インキュベートした。連結されたバイオマットバイオマスは、細胞密度が30g/Lを超えるように生産され、バイオマスは、1つの凝集マットとして採取することができる。一実施形態では、マットはトレイから単に引き出される(図6)。流水を用いてマットを30秒間すすぎ、5~10分間かけて滴を落として乾燥させる。タンパク質及び他の真菌の栄養素が、過剰な水の除去により失われるので、マットを絞ることは避けた。滴を落として乾燥させた後の糸状バイオマスは、湿潤時の重量が410グラムであった(又は1620グラム/m)。乾燥重量73.8g/トレイ又は295g/mに対応する82%(すなわち、18%の乾燥重量)で含水量を測定した。18%の乾燥重量の糸状バイオマスは、典型的な乾燥重量1.5%の深部培養で成長した他の真菌バイオマスの処理と比較して優れている。これとは対照的に、最先端の技術プロセスは、所望の真菌バイオマス密度を達成するために遠心分離(エネルギー及び資本の集約的なプロセス)を利用する。本明細書に記載のプロセスは、これらの高価な方法と比較して、必要な処理、設備及びエネルギー投入量がはるかに少ない。
【0224】
脂質分析:全脂質の推定は、ナイルレッド染色(Cookseyら、1987;図16)を用いたUV-Vis顕微鏡検査によって行われ、全脂質は40~50%と推定された。Lohmanら(2013)に記載されているGC-MS分析と組み合わせた直接エステル交換を用い、総細胞内脂質の定量値を決定したところ、39%であることがわかった。この値は、8日間で115g/m(14g/m/日)の脂質産生、又は0.39g/リットル/時間の平均生産速度に相当する。これらの速度は、8%グリセロール(0.245g/L/hr)を含む糸状好酸性MK7真菌株を用いた深部培養で見出されるものよりかなり速く、酵母及び藻類を含む文献に見出される他の生物と非常に競合するものである。さらに、糸状好酸性MK7真菌株は、これらの競争的な速度で、ほとんどの生物が耐えることができない非常に高いグリセロール濃度で、脂質を産生し、この酸性pH範囲に耐えることができる唯一の生物であり(我々の知る限り)、汚染を制限するための顕著な利点である。さらに、脂質係数(脂質(g)/基質(g))は、0.21脂質(g)/グリセロール(g)(別表参照)で他の菌株と非常に競合する。増加した脂質生産速度及び180g/Lの細胞密度は、現在開発中又は商業的に使用されている多種多様な微生物による微生物油の生産を変えてしまう直接的な影響を有する。
【0225】
糸状好酸性MK7真菌株の脂質プロファイルは、異なる種類の処理(すなわち、pH、温度、成長基質、培養期間、含水量)間で著しく一致しており、C16:0及びC18:0、C18:1及びC18:2のトリアシルグリセリドが多数を占める(全脂質の95%を超える、以下の表10、図17)。脂肪酸プロファイルは、ω-7バクセン酸(11-オクタデセン酸メチル)、ω-7パルミトレイン酸(メチルヘキサデカ-9-エノエート、商品名Provinal(商標))及びテトラコサン酸メチルエステルを含む多くの高価値産物も示す。これらは、植物油には通常見られない珍しい脂肪酸であり、バイオディーゼル単独よりも原料1トン当たりの収入が大幅に増加する可能性がある。
【0226】
【表11】
【0227】
例27:MK7株の毒性分析
異なる条件下で成長させたMK7株の5つのサンプルを、マイコトキシンの存在についてアッセイした。サンプル1のバイオマスは、C:N比が30:1であったことを除いて、例1に記載した播種材料を生成するために使用したのと同じ条件下で、10Lのバイオリアクターで生産された。バイオマスサンプルを、例1に記載した高減圧濾過装置を用い、0.2umのフィルターに通して濾過することによって集めた。
【0228】
滅菌した12.7×17.8cm(0.02m)のPyrex(登録商標)ガラストレイ中、培地に12%グリセロール及び0.2%ペプトン(重量/体積、顆粒状態のペプトン、Fisher Scientific、ロット番号143241、サマービル、ニュージャージー州)を追加した以外は例1に記載のように調製したpH2.8のMK7-1培地50mLを使用し、サンプル2のバイオマットを生産した。サンプル2は、例3に関連して0.25mのトレイに使用したのと同じ手順を滅菌に使用した。
【0229】
サンプル3は、pHを4.5に調整し、培地にペプトンを追加しなかった以外は、サンプル2と同じ条件で成長させた。
【0230】
サンプル4は、培地に4%グリセロールを追加したことを除き、サンプル2と同一の条件で成長させた。
【0231】
サンプル5は、pHを2.2に調整し、培地にペプトンを追加しなかった以外は、サンプル2と同じ条件で成長させた。サンプル2~5の培地に、サンプル1に用いた液体培地を7.5%(体積/体積)播種した。湿ったバイオマスサンプルを、成長8日後に収集し、マイコトキシンの抽出前に-20℃で保存した。
【0232】
マイコトキシンは、Myco6in1+アッセイキットマニュアルに記載される標準プロトコルに従って、Vicamから提供されるMyco6in1+マイコトキシンアッセイキット(ロット番号100000176:ニクサ、ミズーリ州)を用い、湿ったバイオマスから抽出した。Myco6in1+LC/MS/MS Instruction Manualに記載されているプロトコルを使用して、LC-Q-TOFにより12種類の異なるマイコトキシンを分析した。Montana State UniversityのMass Spectrometer Core Facilityに収容されたAgilent 1290 HPLCに連結されたAgilent 6538 Q-TOFを、トキシンの同定及び定量に使用した。フモニシンB1及びフモニシンB2を確実な標準として使用した。
【0233】
試験した全てのトキシンの測定値は、U.S.Food and Drug Administrationによって設定されたヒトの消費レベルの規制値を下回っていた(表11)。測定レベルは、規制レベルよりも少なくとも1桁低かったが、例外的に、規制レベル20ng/gと比較して、サンプル4に見られる総アフラトキシンは8.76ng/gであった。しかし、アフラトキシン生産の遺伝子はMK7株には存在しないので、このトキシンの供給源はペプトン及び培地中で使用される他の成分からの汚染であり、MK7の産物ではないと予想される。
【0234】
【表12】
【0235】
MK7培地及びバイオマスの非毒特性を、毒性アッセイに一般的に使用される高感度大型無脊椎動物であるダフニア・マグナ(Daphnia magna)を用いたバイオアッセイによってさらに確認した(EPA Publication、1987;Guilherminoら、2000)。生きたD.マグナ(D.magna)をCarolina Biological Supply(バーリントン、ノースカロライナ州)から購入し、供給業者によって提供されるマニュアルに記載の条件下で成長させた。成長及び観察の24時間後、オオミジンコを、毒性実験に使用した。3つのペトリ皿を、例3に記載のように播種材料リアクターで6日間成長させたMK7培地(MK7培地及びMK7-1培地)30%と、D.マグナ(D.magna)を運搬してきた水70%とを合わせたもの30mLで満たした。実験コントロールのために、3つのさらなるペトリ皿を30mLの運搬用水で満たした。元気なように見える7匹のD.マグナ(D.magna)を、上述の6つのペトリ皿それぞれに加え、3日間、毎日観察した。D.マグナ(D.magna)の死亡は、1分後に目に見える動きがないことと定義された。MK7培地及びバイオマスで3日間処理したD.マグナ(D.magna)と、実験コントロールとの間に、生存率に有意な差は観察されなかった(各処理について、3日後にペトリ皿当たり平均で1.2匹が死亡)。
【0236】
MK7株バイオマスの毒性は、金魚(カラシウス・オーラタス(Carassius auratus))でも試験した。2つの同一の5.7Lの魚用タンク、ポンプ及びフィルターをボーズマン、モンタナ州のPetco(Aqueon E414W型、フランクリン、ウィスコンシン州)から購入した。このタンクに、Albertsonスーパーマーケット(ボーズマン、モンタナ州)から購入したポーランドの湧き水5.7Lを満たした。6匹の金魚(長さは約3cm)をPetco(ボーズマン、モンタナ州)から購入し、各タンクに3匹を入れた。タンクの1つに、約0.05gの乾燥TetraFin Goldfish Flakes Plus(ブラックスバーグ、VA)の魚の飼料を1日に一回入れた(Petco、ボーズマン、モンタナ州から購入)。他方のタンクには、約0.0.05gの乾燥したMK7株バイオマスを毎日入れた。湿ったMK7バイオマスは、例3に記載のプロトコルに従って製造されたトレイリアクターの1つから得た。トレイから40gのMK7を取り出し(例3を参照)、このバイオマスを250mLのビーカーに入れることによって、MK7バイオマスを調製した。次いで、湿ったバイオマスを、GE microwave(WES1452SS1SS型)を30秒間用い、マイクロ波を照射した。乾燥したバイオマスの含水量は、0.5%未満であった。次いで、バイオマスをステンレス鋼のスパチュラで粉砕し、TetraFin Goldfish Flakesと同様のサイズの小さなフレークを得た。飼料を与えてから60日後に、全ての魚は生存しており、健康なように見え(激しく泳いでいる)、MK7が産生したバイオマスマットを食べることに対し、顕著な熱中が見られた。実験は60日後に終了した。
【0237】
配列番号1 MK7株と命名された好酸性糸状真菌種の18S rRNA及びITS領域のDNA配列

【0238】
配列番号2 翻訳伸長因子1α(Tef1)
【0239】
配列番号3 チューブリンβ鎖(Tub1):部分配列

【0240】
参考文献





図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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