(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】光ビーム処理デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 26/00 20060101AFI20220209BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G02B26/00
G02B26/10 108
(21)【出願番号】P 2019526291
(86)(22)【出願日】2017-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2017079969
(87)【国際公開番号】W WO2018091749
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-19
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,マーク トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ハッケンス,フランシスキュス ヨーハネス ヘラルデュス
(72)【発明者】
【氏名】ヒルゲルス,アヒム
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-133135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0223118(US,A1)
【文献】国際公開第2005/085930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性光学コンポーネントであって、
光学機能を果たす光学活性層を有する電気活性材料層構造と、
前記電気活性材料層構造の変形を制御し、それにより、当該コンポーネントの光透過特性を変化させる電極構成と、
前記電極構成に印加される駆動信号を制御する駆動装置と
を有し、
前記駆動装置は、前記電気活性材料層構造の異なる領域で異なる相対厚さ変化を誘起し、それにより、それら異なる領域間で一様でない光学機能変化を提供するように適応され、
前記電気活性材料層構造は、中間層によって分離された電気活性材料層のスタックを有し、前記電気活性材料層は均一な厚さを有し、前記中間層は不均一な厚さを有し、その結果、前記電気活性材料層構造はその非アクチュエート状態において不均一な厚さを有する、
コンポーネント。
【請求項2】
前記電気活性材料層構造の少なくとも幾つかの異なる領域が、異なる誘電率及び/又は剛性を有する、請求項1に記載のコンポーネント。
【請求項3】
前記電気活性材料層構造は、誘電率又は剛性を局所的に変更するための電気活性材料と粒子との複合体を有する、請求項2に記載のコンポーネント。
【請求項4】
前記電極構成は、前記電気活性材料層構造の前記異なる領域に異なるアクチュエーション信号が印加され得るように電極のアレイを有する、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載のコンポーネント。
【請求項5】
前記電極構成は、共有の電極駆動信号を処理して、変更された局所電極駆動信号を得るための、各電極に結合された信号処理ユニットを有する、請求項
4に記載のコンポーネント。
【請求項6】
前記電気活性材料層構造は、部分的な光吸収層又は光散乱層を有
する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のコンポーネント。
【請求項7】
前記電気活性材料層構造は、電気活性材料と光吸収粒子又は光散乱粒子との複合体を有する、請求項6に記載のコンポーネント。
【請求項8】
前記電気活性材料層構造は
、所望の屈折
率境界を形成する層を有
する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のコンポーネント。
【請求項9】
前記電気活性材料層構造は、電気活性材料と異なる屈折率の粒子との複合体を有する、請求項8に記載のコンポーネント。
【請求項10】
前記電気活性材料層構造は光の色を変化させる層構造である、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のコンポーネント。
【請求項11】
前記電気活性材料層構造は、電気活性材料と色変化粒子との複合体を有する、請求項10に記載のコンポーネント。
【請求項12】
前記色変化粒子は蛍光体粒子を有する、請求項11に記載のコンポーネント。
【請求項13】
前記電気活性材料層構造は光の方向を制御する層である、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のコンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを処理するための制御可能なデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光の色、光の出力方向、又は光の強度を変化させるなど、システムからの光出力を処理すべき状況が数多く存在する。
【0003】
光学特性におけるこれらの変化を作り出すように光出力を処理する様々なデバイスが存在する。一般に、全体的な変化は光学コンポーネントによって為される。
【0004】
ある領域にわたって光学特性の一様ではない変化が望まれる状況がある。これは一連の制御装置を使用して達成されることができるが、これは複雑な構造をもたらす。
【0005】
例として、自動車ヘッドライトでは、異なる光学効果を調整できることが望ましい。それらの効果は、光強度、色、拡散率、屈折率、及び光ビーム内でのこれらの効果の分布を含み得る。天候、暗さ、道路に対する向き、他のトラフィックのような条件に応じて、これらの効果の一部又は全てを調整できることが有益である。
【0006】
さらに、光ビーム内の位置に応じて、より大きい又はより小さい変化を有することが有益である。
【0007】
WO2005/085930(特許文献1)は、レンズ形状が電気的に制御される、電気活性ポリマー材料で形成されたレンズの形態の適応光学素子を開示している。US2007/263963(特許文献2)は、光ビームの方向を制御するためにアクチュエータが光学プリズムの形状を制御するアライメントシステムを開示している。
【0008】
単純なデバイス構造でありながら、ある領域にわたって一様でないように光学特性を制御できることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2005/085930号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2007/263963号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、光透過性光学コンポーネントが提供され、当該コンポーネントは、
光学機能を果たす光学活性層を有する電気活性材料層構造と、
電気活性材料層構造の変形を制御し、それにより、当該コンポーネントの光透過特性を変化させる電極構成と、
電極構成に印加される駆動信号を制御する駆動装置と
を有し、
駆動装置は、電気活性材料層構造の異なる領域で異なる相対厚さ変化を誘起し、それにより、それら異なる領域間で一様でない光学機能変化を提供するように適応され、
電気活性材料層構造は、中間層によって分離された電気活性材料層のスタックを有し、電気活性材料層は均一な厚さを有し、中間層は不均一な厚さを有し、その結果、電気活性材料層構造はその非アクチュエート状態において不均一な厚さを有する。
【0011】
このコンポーネントは、当該コンポーネントを透過する光ビームを処理する。電気活性材料層のアクチュエーションに応じて、光ビームの異なる部分に異なる光学機能が適用される。特に、二次元の層構造の異なる位置で、層の厚さに異なる相対変化が存在する。この不均一な厚さの変化は、層構造のアクチュエートされる部分間で起こり、すなわち、両面にアクチュエーション電極が設けられているときにアクチュエーション電極間で起こる。
【0012】
電気活性材料は、それが単層又は多層の構成であり得るという意味で“構造”を形成する。それは、透明であるのではなく光学機能を果たすという意味で“光学的に活性”である。光学機能は、例えば屈折率境界によって生じる偏向、(出力光の広がりを変化させるための)光散乱、光吸収、又は波長(すなわち色)操作とし得る。
【0013】
電気活性材料層構造は、その非アクチュエート状態において不均一な厚さを有する。異なる厚さの領域が、(該当し得る場合に)異なるレベルの吸収、散乱又は波長変化を与えることになり、あるいは、全体形状が、電気活性材料層構造の両面間の角度に基づいてビーム操舵機能を果たし得る。
【0014】
電気活性材料層構造は、中間層によって分離された電気活性材料層のスタックを有し、電気活性材料層は均一な厚さを有し、中間層は不均一な厚さを有する。異なる位置での中間層の異なる厚さが、電界制御デバイス用に、(実効的な)誘電率の差を生じさせる。そして、これがデバイスの異なる部分における支配的電界を変化させる。
【0015】
電気活性材料層構造の少なくとも幾つかの異なる領域が、異なる誘電率を有し得る。他の一構成において、電気活性材料層構造の少なくとも幾つかの異なる領域が、異なる剛性を有し得る。局所的な誘電率又は剛性の制御は、印加される汎用アクチュエーション信号に応答して電気活性材料層構造が局所的にどのように変形するかに影響を及ぼす。
【0016】
この目的のため、電気活性材料層構造は、誘電率又は剛性を局所的に変更するための電気活性材料と粒子との複合体を有し得る。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、光透過性光学コンポーネントが提供され、当該コンポーネントは、
光学機能を果たす光学活性層を有する電気活性材料層構造と、
電気活性材料層構造の変形を制御し、それにより、当該コンポーネントの光透過特性を変化させる電極構成と、
電極構成に印加される駆動信号を制御する駆動装置と
を有し、
駆動装置は、電気活性材料層構造の異なる領域で異なる相対厚さ変化を誘起し、それにより、それら異なる領域間で一様でない光学機能変化を提供するように適応され、
電気活性材料層構造の少なくとも幾つかの異なる領域が、異なる誘電率及び/又は剛性を有する。
【0018】
上述のように、局所的な誘電率又は剛性の制御は、印加される汎用アクチュエーション信号に応答して電気活性材料層構造が局所的にどのように変形するかに影響を及ぼす。ここでも、電気活性材料層構造は、誘電率又は剛性を局所的に変更するための電気活性材料と粒子との複合体を有し得る。
【0019】
双方の態様において、電極構成は、電気活性材料層構造の異なる領域に異なるアクチュエーション信号が印加され得るように電極のアレイを有し得る。電気活性材料層構造は共有されるが、個々のデバイスのアレイのようにしてアクチュエートされる。斯くして、局所的な厚さ制御又は他の局所的アクチュエーションが実装され得る。
【0020】
電極構成は、共有の電極駆動信号を処理して、変更された局所電極駆動信号を得るための、各電極に結合された信号処理ユニットを有し得る。従って、単一の制御信号を使用することができ、そして、それが、一組の異なる駆動信号を得るために局所的に変換される。信号処理ユニットは、フィールド駆動電気活性材料のための電圧の制御を為すことができ、あるいは、イオン性電気活性材料のための電荷の制御を為すことができる。
【0021】
様々な取り得る物理的又は電気的構成の全てで、電気活性材料層は一例において部分的な光吸収層又は光散乱層とし得る。その場合、局所的な厚さが、為される局所的な吸収又は散乱に影響を及ぼし、その結果、一様でない強度制御又は散乱制御が為される。
【0022】
この目的のため、電気活性材料層は、電気活性材料と光吸収粒子又は光散乱粒子との複合体を有し得る。
【0023】
様々な取り得る物理的又は電気的構成の全てで、電気活性材料層構造は代わりに屈折層を有していてもよい。これは、所望の屈折率境界を形成するために使用され得る。電気活性材料層構造は、電気活性材料と異なる屈折率の粒子との複合体を有し得る。
【0024】
様々な取り得る物理的又は電気的構成の全てで、電気活性材料層構造は代わりに光の色を変化させる構造であってもよい。これは、元々は単一である光源から一様でない色出力を提供するために使用され得る。電気活性材料層構造は、例えば、電気活性材料と色変化粒子との複合体を有し得る。色変化粒子は例えば蛍光体粒子を有する。
【0025】
様々な取り得る物理的又は電気的構成の全てで、電気活性材料層構造は代わりに光の方向を制御する層であってもよい。これは、当該コンポーネントからの光出力方向の制御を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
次に、添付の図面を参照して、本発明の例を詳細に説明する。
【
図1】クランプされていない既知の電気活性ポリマーデバイスを示している。
【
図2】裏張り層によって制約されている既知の電気活性ポリマーデバイスを示している。
【
図3】光透過性光学コンポーネントの第1の例を示している。
【
図4】多層構造として形成された光透過性光学コンポーネントの第2の例を示している。
【
図5】ビーム方向付けコンポーネントとしての光透過性光学コンポーネントの一実装を示している。
【
図6】楔形の誘電体中間層を備えた、一定厚さの複数の電気活性材料層のスタックの一例を示している。
【
図7】非アクチュエート状態が均一厚さを有する光透過性光学コンポーネントのバリエーションを示している。
【
図8】セグメント化電極設計を利用する光透過性光学コンポーネントのバリエーションを示している。
【
図9】EAP材料にフィラーを付加する効果を示すとともに、様々な粒子濃度について印加電界に対する歪みを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、変形が制御される電気活性材料層構造を有する光透過性光学コンポーネントを提供する。当該コンポーネントをアクチュエートするとき、電気活性材料層の異なる領域で異なる相対厚さ変化が為され、それにより、それら異なる領域間で一様でない光学機能変化がもたらされる。
【0028】
本発明は、電気的応答材料の分野における1つのクラスの材料である電気活性材料(electroactive material:EAM)を利用する。作動(アクチュエーション)デバイスにて実装されるとき、EAMに電気駆動信号を受けさせることで、それらを大きさ及び/又は形状において変化させることができる。この効果は、アクチュエーション及びセンシングの目的で使用されることができる。
【0029】
無機及び有機のEAMが存在している。
【0030】
特別な種類の有機EAMは、電気活性ポリマー(electroactive polymer:EAP)である。電気活性ポリマー(EAP)は、新たに出現したクラスの電気的応答材料である。EAPは、EAMのように、センサ又はアクチュエータとして動作することができるが、より容易に様々な形状に製造されることができ、多様なシステムへの容易なインテグレーションを可能にする。EAPの他の利点は、低電力、小さいフォームファクタ、柔軟性、ノイズレス動作、精度、高分解能の可能性、高速な応答時間、周期的な作動を含む。EAPデバイスは、電気作動に基づいた、部品又は機構の小量の動きが望まれるあらゆる用途に使用されることができる。同様に、この技術は、小さい動きを検知するために使用されることができる。EAPの使用は、一般的なアクチュエータと比較して小さい体積又は薄いフォームファクタでの比較的大きい変形及び力の組み合わせにより、以前は可能でなかった機能を可能にし、又は、一般的なセンサ/アクチュエータソリューションに対する大きな利点を提供する。EAPはまた、ノイズレス動作、正確な電子制御、高速応答、及び例えば0-20kHzなどの広い範囲で可能な作動周波数を与える。
【0031】
どのようにしてEAMデバイスが構築されて動作し得るかの一例として、
図1及び2は、電気活性ポリマー層14を、その両側の電極10、12の間に挟んで有するEAPデバイスについて、2つの可能な動作モードを示している。
【0032】
図1は、キャリア層にクランプされていないデバイスを示している。電圧を用いることで、電気活性ポリマー層が図示の全ての方向に膨張させられる。
【0033】
図2は、膨張が一方向のみに生じるように設計されたデバイスを示している。この目的のため、
図1の構造が、キャリア層16にクランプされ又は取り付けられている。電圧を用いることで、電気活性ポリマー層が湾曲され又は弓形に曲げられる。この動きの性質は、作動されたときに膨張する活性層とそうではない受動キャリア層との間の相互作用から生じる。
【0034】
図3は、光学機能を果たす光学活性層を有する電気活性材料層構造32を有した光透過性光学コンポーネント30の第1の例を示している。電気活性材料層32の変形を制御し、それにより、コンポーネントの例えば光透過などの光処理機能を変化させるために、電極構成が設けられている。電極構成は、層構造32の両側の電極層33として示されている。しかしながら、代わりに櫛形電極構成が片側だけに設けられてもよい。
【0035】
電極構成に駆動信号を印加し、それにより、電気活性材料層32の変形を制御するために、駆動装置34が設けられる。単純さのため、駆動装置は左側の図のみに示されている。右側の図及び殆どの他の図は、単純さのために駆動装置を省略している。
【0036】
図3は、左側に非アクチュエート状態を示し、右側にアクチュエート状態を示している。この例において、層構造は、非アクチュエート状態及びアクチュエート状態の双方において楔形状を有している。アクチュエーションは層の横方向の膨張及び薄化を誘起する。フィールド駆動デバイスでは、異なる厚さの異なる位置で材料内の電界強度が異なるため、アクチュエート状態は、異なる位置で一様でない量の変形を生み出す。
【0037】
アクチュエーションは、故に、電気活性材料層の異なる領域において異なる相対厚さ変化を引き起こす。例えば、図示の薄い側は厚さが50%減少し得る一方で、厚い側は20%だけ減少し得る。これが、異なる相対厚さ変化(すなわち元の厚さに対する)が意味するものである。相対的な変化は、例えば電界強度の関数である。それはまた、非アクチュエート状態とアクチュエート状態との間で楔角度が異なるようになることも意味し得る。楔角度の変化は、厚さの違いに対する構造の横幅に依存することになる。
【0038】
電気活性材料層32は光学機能を果たす。これは単に、それがデバイスの外側の材料とは異なる屈折率を有するということであってもよいし、あるいは、光の散乱、色の変化、又は他の光学機能が存在するということであってもよい。その結果は、コンポーネントがアクチュエート時にそれら異なる領域間で一様でない光学機能変化をもたらすというものである。典型的に、光学機能は、デバイスがアクチュエートされるときにあらゆるところで変化するが、その変化は一様でない。
【0039】
異なる相対厚さ変化の原因は、層の全体的形状、又は電極構成、又は駆動装置、又は層の材料の局所的な特性であり得る。以下、様々なオプションを説明する。しかしながら、概して、駆動装置は、電気活性材料層の異なる領域で異なる相対厚さ変化を誘起し、それにより、それら異なる領域間で所望の一様でない光学機能変化を提供するように適応される。
【0040】
このコンポーネントは、当該コンポーネントを透過する光ビームを処理する。電気活性材料層のアクチュエーションに応じて、光ビームの異なる部分に異なる光学機能が適用される。
図3は、入射ビーム36及び透過ビーム38を示している。
【0041】
図3は、電気活性材料層構造32を単層として示している。層の厚さは、実行される光学機能に影響を及ぼす。構造32は、例えば、光の減衰、散乱又は色変換を実行することができ、各位置において構造を貫く経路の長さが、適用される光学機能のレベルを決定する。
【0042】
光吸収特性を有する層構造の場合、その光学機能は強度を変化させることである。デバイスのアクチュエーションは、デバイスにわたる強度変動の変化をもたらすことになる。
図3の状況では、強度変動はデバイスの左側で右側よりも大きくなり、すなわち、デバイスの両側が明るくなるが、相対的に左側がよりいっそう明るくなる。
【0043】
光散乱特性を有する層構造の場合、その光学機能はビームの広がり又はコリメーションの程度を変化させることである。当初コリメートされていたビームが、デバイスの異なる領域で異なる程度だけ広げられることになり得る。その場合、デバイスをアクチュエートすることは、異なる非一様パターンのビーム広がりを生じさせることになる。
【0044】
デバイスは用途に応じて異なるサイズを有し得る。例として、デバイスの厚さ(
図3の縦方向)は典型的に50マイクロメートルと1mmとの間とし得る。概して、アクチュエータは、より薄い複数の活性層のスタックとして形成されることができる。
【0045】
楔形状の薄い部分は、例えば、楔の厚い部分の厚さの20-80%の範囲内の厚さを有し得る。デバイスは、正方形、又はディスク、又は厚い部分が内径若しくは外径にあるリングとすることができる。
【0046】
内径(又は一辺)及び外径(又は反対側の辺)の双方が薄いものであって、厚い部分がそれらの間にあることも可能である。代わりに、中間部分が薄い方の部分であってもよい。
【0047】
横方向のサイズは、典型的に、1mmから数十センチメートルの範囲内となる。
【0048】
図3は単一の層を示している。
図4に示すように、構造は代わりに複数の層40を有していてもよい。従って、電気活性材料層構造32は複数の層40のスタックとして形成される。それらの層は全て同じであってもよく、その場合、機能は変わらず、その目的は単に、ラミネートされた層のスタックとしての製造の容易さのためである。
【0049】
しかしながら、スタックは異なる屈折率を有する交互層を有していてもよい。それらは全て電気活性材料とすることができ、あるいは、受動ポリマー層と交互に配置された電気活性材料層があってもよい。その場合、屈折率境界がリフレクタとして機能し、その結果、透過光が特定のスペクトルを有するよう、スタックが誘電体グレーティングの機能を果たし得る。このスペクトルは、異なる位置における異なる層厚さの結果として、デバイスの領域にわたって異なる。デバイスのアクチュエーションはまた、層の厚さ、ひいては、光学機能に影響を及ぼす。
【0050】
電気活性材料は、故に、それが単層構成(
図3)又は多層構成(
図4)であり得るという意味で“構造”を形成する。
【0051】
図4の多層干渉フィルタは色変化を為す。これに代わる色制御アプローチは、層構造32内に蛍光体又は他の光変換粒子を供するものである。この場合、デバイスのアクチュエーションは、デバイスにわたる色変動の変化をもたらすことになる。
図3の状況では、色の変化はデバイスの左側で右側よりも大きくなる。何故なら、蛍光体の量がより大きく変化するからである。同様に、
図4の構造では、薄い方の領域で多層干渉フィルタの間隔が相対的に大きく減少し、それ故に、より大きい色変化を与える。
【0052】
図5は、ビーム方向付けコンポーネントとしての実装を示している。層構造32は、デバイスの外側の材料に対して異なる屈折率を有する。その屈折率は、電気活性材料層に粒子を付加することによって調整されることができる。頂面が入射光の屈折方向変化を提供する。アクチュエーションが頂面の角度の変化を生じさせ、その結果、異なるビーム方向付け機能が達成される。
【0053】
それぞれの側に異なる屈折率を有する材料間の界面の角度的な向きが変化するにつれて、偏向角が変化する。
【0054】
以上の例は全て、不均一な厚さを有する1つ以上の電気活性材料層を利用している。同じ効果を、テーパー状(又は他の形状)の中間誘電体層を用いて、均一な厚さの層で達成することができる。
図6は、楔形の誘電体中間層61を備えた、一定厚さの複数の電気活性材料層60のスタックの一例を示している。
【0055】
より厚い中間層の領域においては、大きめの距離のために電気活性材料層内の電界強度が小さくなり、それ故に、電気活性材料層が一定厚さを有していても、この領域における活性化/偏向がより小さくなる。中間層61は楔形の接着剤層であり、そして、上部電極及び下部電極が存在している。これに代えて、中間層及び電気活性材料層の対ごとに電極層が存在してもよい。
【0056】
理解され得ることには、概して、電気活性材料層、中間接着剤層、又は電極層のうちの任意の1つ以上に、所望の不均一な厚さ(例えば、楔形)が使用され得る。
【0057】
厚さの変動は楔形に限定されない。例えば、ドーナツ状の構成などの他の形状も可能であり、その場合、デバイスの中央が外周とは異なるように挙動する。
【0058】
以上の設計は全て、緩和(非アクチュエート)状態において不均一な厚さを有している。しかしながら、これは必須ではない。
図7は、非アクチュエート状態が均一厚さを有するバリエーションを示している。電気活性材料層構造32は、例えば高誘電率粒子のフィラー濃度を局所的に増加させることによって、異なる誘電率の領域70、72、74、76を有している。
【0059】
その結果は、電極に印加される均一な電圧が、層の異なる部分に異なる電界強度を生じさせることになるというものである。結果として、右側の図に示すように、異なる部分がアクチュエーション信号に対して異なるように応答して、アクチュエート状態において不均一な厚さを与えることになる。このアプローチは、上記のオプションのいずれとも組み合わされることができる。
【0060】
以上の例は全て、デバイス全体に印加される単一の大域的(グローバル)アクチュエーション信号を利用しており、局所的(ローカル)なデバイス幾何学構成又は物理/電気特性が非一様な変形をもたらしている。
【0061】
これに代わるアプローチを
図8に示す。一方の電極(又は両方でもよい)が一組のサブ電極80として形成されている。これらはデバイスの表面にわたって電荷又は印加電圧を変えることを可能にする。これは光学特性(上述の選択肢、すなわち、色変換、吸収、散乱、操舵のいずれともし得る)を変えることにつながる。これは、個別の電極セクションを設けることによって達成されることができる。このオプションは、効果を更に高めるために、上述した他のアプローチのいずれとも組み合わせされることができる。
【0062】
図8は、非アクチュエート状態にあるデバイスと、アクチュエート状態にあるデバイスとを示している。
【0063】
図8では、上部電極のみがセグメント化されており、例えば、サブ電極ストライプとして形成され、底部には共通のグランドが存在している。(1つの上部サブ電極と共通グランドとの間の)各電極対は、異なる電圧振幅で動作される。動作振幅が小さいほど、その領域内での偏位が小さくなる。直線的でない楔形状又は波打った形状が実現されてもよい。
【0064】
各サブ電極がそれ自身の制御信号を提供され得る。しかしながら、
図8に示されている選択肢は、共有の電極駆動信号84を処理して変更された局所電極駆動信号を得るための信号処理ユニット82に各電極が結合されるものとなっている。
【0065】
ユニット82は、例えば、サブ電極間に取り付けられた小型表面実装デバイス部品を有する分圧器などの抵抗網を有し得る。それらは、個々の電極対のために電圧振幅を内部で低下させるために使用され得る。ユニット82は代わりに、例えば特定のタイミング挙動を導入するために、及び/又は各電極対に送達される電荷を制限するために、リアクタンス網を有していてもよい。例えば、容量性分圧器を使用してもよく、あるいは、各サブ電極と直列にキャパシタを使用してもよい。
【0066】
例えば楔形などの不均一厚さを実現するための別のアプローチは、電気活性材料層に軟質粒子(例えばシリコーンナノ粒子)を局所的に付加する又は埋め込むものである。軟質粒子が供された領域では、変位が妨げられ、それ故に、より小さくなる。
【0067】
理解され得ることには、不均一な厚さ変動は、以下の1つ以上の効果の組み合わせに基づいて達成されることができる:
- 不均一厚さの電気活性層又は不均一厚さの中間層若しくは電極のいずれかに基づいて、非アクチュエート状態において不均一厚さを有する電気活性材料層又はレイヤスタック;
- その領域全体にわたって不均一な誘電特性を有する電気活性材料層又はレイヤスタック;
- 異なる領域で異なるアクチュエーション信号を印加される電気活性材料層又はレイヤスタック;
- 異なる領域で不均一な物理的変形特性(例えば柔軟性など)を有する電気活性材料層又はレイヤスタック。
【0068】
以上の詳細な説明では、本発明に従ったデバイス及びシステムの構成及び動作をEAPについて説明したが、本発明は、実際には、他の種類のEAM材料に基づくデバイスに使用されることができる。従って、別段の指示がない限り、以上でのEAP材料は、他のEAM材料で置き換えられることができる。そのような他のEAM材料は技術的に知られており、当業者は、それらをどこで見つけるべきか及びそれらをどのように適用すべきかを知ることになる。多数のオプションを以下に記載する。
【0069】
EAMデバイスの一般的な細分類は、フィールド駆動EAMと、電流又は電荷(イオン)駆動EAMである。フィールド駆動EAMは、直接的な電気機械的カップリングを通じて電場によって作動されるが、電流又は電荷駆動EAMのアクチュエーション機構は、イオンの拡散を伴う。後者の機構は、例えばEAPなどの対応する有機EAMで、より頻繁に見られる。フィールド駆動EAMは、一般に、電圧信号で駆動され、対応する電圧ドライバ/コントローラを必要とするが、電流駆動EAMは、一般に、電流信号又は電荷信号で駆動され、時にして、電流ドライバを必要とする。どちらのクラスの材料も複数の系列メンバを有し、各々が自身の利点及び欠点を有する。
【0070】
フィールド駆動EAMは、有機材料又は無機材料とすることができ、有機である場合、単一分子、オリゴマー又はポリマーとすることができる。本発明では、それらは好ましくは、有機であり、その場合にはまた、オリゴマー又は更にはポリマーである。有機材料及び特にポリマーは、アクチュエーション特性を、例えば軽量、安価な製造、及び容易な処理などの材料特性と組み合わせるので、ますます関心が高まっている新たに出現したクラスの材料である。
【0071】
フィールド駆動EAM、及び故にまたEAPは、一般的に圧電性であるとともに場合により強誘電性の材料であり、故に、自発的な永久分極(双極子モーメント)を有する。他の例では、それらは電歪材料であり、故に、駆動時のみに分極(双極子モーメント)を有し、駆動されないときには分極を有しない。他の例では、それらは誘電リラクサ材料である。そのようなポリマーは、以下に限られないが、圧電ポリマー、強誘電性ポリマー、電歪ポリマー、リラクサ強誘電性ポリマー(例えば、PVDF系リラクサポリマー又はポリウレタンなど)、誘電エラストマー、液晶エラストマーを含む。他の例は、電歪グラフトポリマー、電歪紙、エレクトレット、電気粘弾性エラストマー、及び液晶エラストマーを含む。
【0072】
自発分極の欠如は、非常に高い動作周波数であっても電歪ポリマーがヒステリシス損失を殆ど又は全く示さないことを意味する。これらの利点は、しかしながら、温度安定性の犠牲の下で得られる。リラクサは、温度がおよそ10℃以内に安定化されることが可能な状況で最良に動作する。これは、一見すると極端に制限的であるように見え得るが、電歪が高周波及び非常に低い駆動フィールドで優れることを考慮すると、用途は特殊なマイクロアクチュエータにある傾向がある。このような小型デバイスの温度安定化は、比較的単純であり、全体的な設計及び開発のプロセスにおいて僅かな問題しか示さないことが多い。
【0073】
リラクサ強誘電体材料は、良好な実用的用途に十分な高さの電歪定数を有することができ、すなわち、同時センシング及びアクチュエーション機能に有利である。リラクサ強誘電体材料は、それにゼロ駆動電界(すなわち、電圧)が印加されているときは非強誘電性であるが、駆動中は強誘電性となる。従って、非駆動時には材料内に電気機械的な結合が存在しない。電気機械的な結合は、駆動信号が印加されたときに非ゼロになり、上述の手順に従って駆動信号の上に小振幅高周波信号を印加することによって測定されることができる。リラクサ強誘電体材料は、また、非ゼロの駆動信号での高い電気機械的結合と良好なアクチュエーション特性との独特な組み合わせの恩恵を受ける。
【0074】
最も一般的に使用される無機リラクサ強誘電体材料の例は、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛(PMN-PT)及び鉛ランタンジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)である。しかし、他のものも技術的に知られている。
【0075】
フィールド駆動EAPの例は、圧電ポリマー、強誘電性ポリマー、電歪ポリマー(例えば、PVDFベースのリラクサポリマー又はポリウレタンなど)、誘電エラストマー及び液晶エラストマー(LCE)である。故に、好ましくは、EAP材料は、例えば、PVDF系リラクサ強誘電体ベースのポリマーは自発的な電気分極を示し、それらは歪み方向での改善された性能のために予め歪ませることができる。それらは、以下の材料の群から選択されるいずれか1つとし得る。
【0076】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン(PVDF-TrFE)、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン-クロロフルオロエチレン(PVDF-TrFE-CFE)、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン-クロロトリフルオロエチレン(PVDF-TrFE-CTFE)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリウレタン、又はそれらの混合物を含む。
【0077】
電流駆動されるEAM及びEAPは、共役ポリマー、イオン性ポリマー金属複合材料、イオン性ゲル、及びポリマーゲルを有する。
【0078】
イオン駆動EAPの例は、共役ポリマー、カーボンナノチューブ(CNT)ポリマー複合材料、及びイオン性ポリマー金属複合材料(IPMC)である。
【0079】
誘電エラストマーのサブクラスは、以下に限定されないが、アクリレート、ポリウレタン、シリコーンを含む。
【0080】
共役ポリマーのサブクラスは、以下に限定されないが、ポリピロール、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリアニリンを含む。
【0081】
以上の材料は、純粋材料として、又はマトリクス材料に懸濁された材料として実装され得る。マトリクス材料はポリマーを有することができる。
【0082】
EAM材料を有する何らかのアクチュエーション構造に対して、印加駆動信号に応答してEAM層の挙動に影響を及ぼすための追加の受動層が設けられてもよい。
【0083】
EAPデバイスのアクチュエーション構成又は構造は、電気活性材料の少なくとも一部に制御信号又は駆動信号を提供するための1つ以上の電極を有することができる。好ましくは、この構成は2つの電極を有する。EAPは、2つ以上の電極間に挟まれ得る。この挟み込みは、エラストマー誘電材料を有するアクチュエータ構成に必要とされる。何故なら、そのアクチュエーションが、とりわけ、電極が駆動信号によって互いに引き付け合うことによって加えられる圧縮力に因るからである。これら2つ以上の電極は、エラストマー誘電材料に埋め込まれることもできる。電極はパターン化されていてもいなくてもよい。
【0084】
例えばインターディジテイト型櫛形電極を使用して片側だけに電極層を設けることも可能である。電極が片側だけにある場合、透明電極を必要とすることなく反射デバイスが形成され得る。
【0085】
基板は、アクチュエーション構成の一部とすることができる。それは、EAP及び電極の集合体に、電極間に、又は外側で電極のうちの一方上に、取り付けられることができる。
【0086】
電極は、それらがEAM材料層の変形に追従するように伸張可能とし得る。これは、EAP材料にとって特に有利である。電極に適した材料も知られており、例えば、金、銅、又はアルミニウムなどの薄い金属膜、又は例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリアニリン(PANI)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)(例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS))などの有機導電体からなる群から選択され得る。例えば、(例えばアルミニウムコーティングを用いて)金属化されたポリエチレンテレフタレート(PET)などの、金属化ポリエステル膜も使用され得る。
【0087】
これら様々な層の材料は、例えば、これら様々な層の弾性率(ヤング率)を考慮して選択されることになる。
【0088】
デバイスの電気的又は機械的挙動を適応させるために、上述したものへの追加の層(例えば追加のポリマー層など)が使用されてもよい。
【0089】
上での少なくとも一部の例は、例えば波長シフト、散乱、吸収などの光学特性を変化させること、又は誘電体の誘電率を変化させることのために、電気活性材料(特にポリマー)と他の粒子(一般に“フィラー”と呼ばれる)とを組み合わせた複合材料を利用する。バインディングマトリクス内に固体粒子又は液体若しくはゲルの小滴が存在することができ、あるいは、実効的に粒子を形成するカプセル化された小滴が存在してもよい。最も好ましくは、固体粒子が使用される。
【0090】
そのような複合材料を製造することができる手法を、電気活性材料の物理特性及び電気特性に対する影響とともに、ここで説明する。
【0091】
先ず、誘電エラストマー電気活性材料の例を提示する。これらが2つの電極間に挟み込まれることで、誘電性電気活性ポリマーアクチュエータが作り出される。主な適用エラストマー群はシリコーンゴムである。変形は、正に帯電された電極と負に帯電された電極との間の引力の結果である。
【0092】
シリコーン中への粒子の配合は工業的規模で広く使用されている。一例として、超音波トランスデューサレンズは、音響インピーダンス及び耐摩耗性を高めるために、鉄及び酸化シリコンの粒子を充填されたシリコーン(PDMS、ポリジメチルシロキサン)で製造される。ルチル(TiO2)を含有するPDMS(シリコーン)コンパウンドは、屈折率を高めるため、又は白色反射材料を作り出すために広く使用されている。
【0093】
誘電性電気活性ポリマーの性能に関して、例えばセラミックなどの非導電性硬質粒子との配合は、主に2つの有意な効果を有する。第一に、材料の剛性が高まり、同じ歪みレベルを得るためにいっそう大きい力を必要とする。もう1つの効果は、複合体の誘電率が変化することである(一般に、フィラーのそれは、3に近いものであるシリコーンのそれよりも高い)。電圧に応じた歪み効果が正であるか負であるかは、粒子の誘電率及び粒子サイズに依存し、より小さい粒子が、より大きい影響を剛性に対して持つ。
【0094】
このことは、S.Somiya、“Handbook of Advanced Ceramics:Materials,Applications,Processing,and Properties”、Nonlinear Dielectricity of MLCCs、Waltham、Academic Press、2013、p.415で議論されている。例として、粒子を付加することは誘電率を増加させるが、剛性も増加させる。
【0095】
このように、誘電性電気活性ポリマーの特性に影響を及ぼすためにエラストマーにフィラーを配合することが知られている。エラストマーの誘電率を増加させるために高誘電率粒子を付加することは広く研究されてきた。
【0096】
図9は、EAP内のシリコーンエラストマーにBaTiO
3を付加することの効果を示している。これは、様々な粒子濃度について印加電界に対する歪みを示しており、粒子は密度6g/cm
3の1μm粒子である。およそ20wt%にて、電界強度の関数としてのEAP歪みが大きくなっている。これは、増加した誘電率のプラスの効果が、増加した剛性のマイナスの効果を上回るからである。
【0097】
誘電率を増加されることは電圧に応じた歪みを増大させるが、剛性の増加は歪みを低減させる。
【0098】
シリコーンエラストマーは、一般に、2つの成分を混ぜ合わせることによって調合される。それらのうちの一方はPt又は過酸化物硬化触媒を含有する。それら異なる成分は、高速ミキサー内で混合されることができる。同一プロセスにてフィラーを付加することができ、あるいは、一方又は双方の成分中に既に前もってフィラーが混合されていてもよい。フィラー材料は、一般に、処理中に蒸発する溶媒中に適用される。高速ミキサー内での混合後又は混合中、一般に、空気(及び/又は溶媒)の含有を除去するために真空が適用される。この後に、混合物をキャストして硬化させることができる。硬化の温度及び時間はポリマーグレードに依存するが、典型的には、80℃前後で10分間である。大抵の粒子は、それらが触媒(例えば、硫黄含有材料)を不活性化しない限り、シリコーンと相性が良い。過酸化物硬化シリコーンはあまり影響を受けない。
【0099】
シリコーンは射出成形されることができる(液体シリコーンゴム、LSR)。2つの成分は、(静的)ミキサーを通った後、LSR射出成形機のスクリュー上に射出される。フィラー粒子は、一方又は双方の成分に予め混合されていてもよい。その材料が、コールドスクリューで運ばれて熱い金型内に注入され、そこで温度に応じて素早く硬化する。LSRは非常に低い粘度を有するので、非常に薄い部分を実現することができる。典型的な硬化温度は180℃近くであり、時間はおよそ30秒から1分である。
【0100】
やはり薄膜の形態でシリコンゴムコンパウンド部品を製造することには、キャスティング及び射出成形の他に、数多くの他の整形技術が利用可能である。それらの例は、押出成形(フォイル及びプロファイル)、フォイルの圧延、多層のラミネーション及び圧延、ドクターブレードフィルムキャスティング、スピンコーティング及びスクリーン印刷である。
【0101】
充填は、例えば、マルチショット射出成形(2ショット又はオーバーモールド)、シリコーンディスペンシングとオーバーキャスティング、又はシリコーン積層造形(すなわち3Dプリンティング)を使用することによって、製造時点で局所的に実行されることができる。
【0102】
次に、圧電ポリマー複合材料の例を提示する。
【0103】
PVDFのコンパウンド(マトリクスポリマー)と例えばPZTなどのセラミック粒子とを含有する圧電ポリマー複合材料が研究されてきた。溶媒キャスティング及びスピンコーティングのような製造技術が適している。また、冷間及び熱間プレス技術も適している。PVDFを溶解した後、粘性混合物が得られるまで溶媒を蒸発させ、次いでフィラー粒子の混入が実行され得る。十分に分散された粒径分布と完全なままのポリマーマトリクスとを有するPVDFポリマーベースの複合材料が実現され得る。
【0104】
次に、リラクサ電歪ポリマーアクチュエータの例を提示する。
【0105】
中程度の歪みで比較的高い力を届けることができるクラスの半結晶質ターポリマーが存在する。従って、それらのアクチュエータは広範囲の潜在的用途を有する。リラクサ電歪ポリマーは、適切な欠陥修正を使用することによって“通常の”PVDFポリマーから開発されてきた。それらは、フッ化ビニリデン(VDF)と、トリフルオロエチレン(TrFE)と、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とを含有する。
【0106】
VDF-TrFEと共重合される、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)のような、化学モノマーの形態をした欠陥の付加は、通常の強誘電相を排除し、7%よりも大きい電気機械歪みと、150MV/mで0.7J/cm3の弾性エネルギー密度とを有するリラクサ強誘電体をもたらす。さらに、それは、P(VDF-TrFE)コポリマーの高電子照射によって欠陥を導入することによって、コポリマーを“通常の”強誘電体P(VDFTrFE)から強誘電体リラクサへと変換することもできることが記載されている。
【0107】
これらの材料は、F.Carpi等、“Dielectric Elastomers as Electromechanical Transducers:Fundamentals,Materials,Devices,Models and Applications of an Emerging Electroactive Polymer Technology”、Oxford、Elsevier、2011、p.53に記載されているポリマー合成によって形成され得る。これは、懸濁重合法と酸素活性化開始剤との組み合わせを開示している。このフィルムは、ガラス基板上に溶液を注ぎ、次いで溶媒を蒸発させることによって形成されることができる。
【0108】
フィルムキャスティングの前に、所望のフィラーを溶媒に付加することができる。キャスティング後、溶媒を除去して結晶化度を高めるために、複合材料をアニールすることができる。結晶化速度は、フィラー濃度及び粒径分布に応じて低下し得る。引き延ばすことは、分子鎖を整列させることになり、粒子が分子鎖を動かないようにし得るので、より困難になる。誘電率が大抵の添加剤で増加することになり、それにより、ある一定の歪みに達するために必要なアクチュエーション電圧が低下する。材料の剛性は歪み減少を高めることになる。
【0109】
製造プロセスは、このように、ポリマー溶液を形成し、粒子を付加し、混合し、続いて、場合によりラミネーションと組み合わせてキャスティング(例えば、テープキャスティング)することを含む。これに代わるものとしてスピンコーティングやプレスなどがある。
【0110】
ディスペンシング及び/又は3D溶媒プリンティングを用いて、濃度の局所的変動を実現することができる。3Dプリンティング法では、例えば10μmから20μmの間の層厚さが可能である。
【0111】
全ての例において、フィラーの付加は一般に絶縁破壊電圧に対して影響を持つ。電気活性ポリマーで到達することができる最大歪みは、印加することができる最大電圧(これが絶縁破壊電圧(又は絶縁耐力)である)によって決定される。
【0112】
ポリマーの絶縁破壊電圧は、印加された外部電界の下でのポリマー分子の解離に関係している。ポリマーマトリクスへのフィラー粒子の付加は、絶縁破壊電圧に対して有意な影響を持ち得る。特に、大きめの粒子は局所的に電界を増大させ得る。故に、サブミクロン範囲の粒子を用いてポリマーを配合することは、電圧破壊に対して、より低い悪影響を有する。また、ポリマー-フィラー界面構造が電圧破壊に強く影響し得る。
【0113】
絶縁破壊電圧を低下させる別の効果が粒子の凝集である。しかしながら、粒子表面を修飾して、凝集を防ぎ、界面構造を改善することにより、電圧破壊レベルの悪影響を減らすことができる。しかしながら、充填されたポリマーは、充填されていないポリマーよりも低い絶縁破壊強度のみを得て、より低いアクチュエーション歪みにつながることになる。
【0114】
結論として、誘電性電気活性ポリマーについて、広範囲の工業的配合及び整形技術を用いて粒子との配合を達成することができる。剛性への影響を、ひいては、アクチュエータのストローク減少を限られたものに保つために、より小さい濃度が好ましい。所与の体積濃度では、剛性への影響を限られたものに保つために、小さ過ぎない粒子がまた好ましい。剛性の上昇を補償するために、軟質のベースポリマーを選択することができる。増加した誘電率は、低下された電圧でのアクチュエーションを可能にすることができる。絶縁耐力を維持するために、粒径及び濃度は制限されるべきであり、ポリマー-フィラー界面と粒子分散とを改善するための手段を取ることができる。局所的な濃度変動をプリントすることができる。
【0115】
リラクサタイプの電気活性ポリマーでも、粒子との配合が可能である。剛性及び絶縁耐力に対する粒子の濃度及び大きさの影響に関する同様の傾向は、上述の影響に匹敵するものである。粒子は重合後に付加されることができる。例えばテープキャスティング及びスピンコーティングなどの様々な技術を用いて、溶解したポリマーを整形することができる。局所的な濃度変動も可能である。
【0116】
様々な異なる充填剤粒子が使用され得る。
【0117】
光吸収性又は光散乱性のフィラー粒子の場合、光の波長に対して有意である大きさ(例えば、波長の1/10よりも大きいなど)が望ましい。従って、粒子は典型的に20nmから数マイクロメートルまでの線寸法を有する。一般に、粒径は、電気活性材料層又はサブレイヤの厚さと比較して大きくあるべきではない。何故なら、そのようにすると性能に影響を及ぼし得るからである。当然ながら、更に小さい粒子が凝集する場合、それらはなおも光を吸収又は散乱することになる。
【0118】
光吸収粒子は、例えば、グラファイト若しくはカーボンブラックなどのカーボン系、又は炭化物などの黒みがかったセラミック粒子を有することができる。
【0119】
光散乱粒子又は屈折率調整粒子は、マトリクスとの有意な屈折率差を有するように選択される。好適な材料の例は、TiO2、ZrO2、Y2O3、NiO、Cr2O3、V2O3、ZnO、CuO、Bi2O3及びHfO2から選択される1つ以上の酸化物、又は例えばCdSなどの非酸化物のセラミック粒子である。
【0120】
これらの粒子は電気活性材料の屈折率の調整を可能にする。処理される光の波長と比較して粒径を小さくすることにより、光の吸収及び散乱が低減される。
【0121】
色変換粒子の場合、蛍光体粒子を使用することができ、それらが光と相互作用する必要がある。従って、直径が光の波長よりも遥かに短くあるべきでない。非常に小さいが多数の粒子は、少ない大きめの粒子と同じ色変換を有する。しかしながら、多数の小さい粒子は剛性をいっそう高め、それによりアクチュエーションを制限する。大抵の場合、EAPは駆動電圧を低下させるために多層構造を有し、サブレイヤは数ミクロン厚である。多層スタックは例えば100μm厚である。粒子は、層又はサブレイヤの厚さよりもかなり薄いことになる。粒子は、例えば約1μmの直径を有し、一般的に30nmと3μmとの間である。
【0122】
光変換粒子は、蛍光体、セラミック、ポリマー、量子ドットとすることができ、また、それらは有機又は無機とし得る。セラミック粒子は、実装するのが最も容易であり、以下のポリマーマトリクス中で非常に安定である。
【0123】
セラミック蛍光体の幾つかの例は、
YAG:Ce(黄色)
GdYAG:Ce(黄色)
CaAlSiN3:Eu(赤色) CaはSr又はBaで置き換えられ得る
(Zn,Cd)S:Ag(黄色)
ZnS:Cu(緑色)
である。
【0124】
量子ドットの幾つかの例(サイズが発光の波長を決める)は、
CdSe/GdS(コア/シェル)
InP/ZnS
CuInS/ZnS
である。
【0125】
有機蛍光体及び有機金属蛍光体も使用され得る。
【0126】
上記の例から理解され得ることには、本発明を適用することで、アクチュエーション時に変化する強度パターン及び/又は散乱パターン及び/又は色パターンを生成し得る。これは、単純な強度制御又は方向制御よりも完全なやり方で照明条件を変更することを可能にする。適応自動車照明の例が上で与えられている。機能的又は審美的な照明条件が調整可能にされる数多くの他の用途が存在する。
【0127】
開示の実施形態への他の変形が、図面、本開示及び添付の請求項の検討から、特許請求される発明を実施する際に当業者によって理解されて実現され得る。請求項において、用語“有する”はその他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞“a”又は“an”は複数を排除するものではない。特定の複数の手段が相互に異なる従属項に記載されているという単なる事実は、それらの手段の組合せが有利に使用され得ないということを指し示すものではない。請求項中の如何なる参照符号も、範囲を限定するものとして解されるべきでない。