(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)によって認識される基質とその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220209BHJP
C07K 5/00 20060101ALI20220209BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220209BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220209BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20220209BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20220209BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220209BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220209BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220209BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220209BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220209BHJP
G01N 33/50 20060101ALN20220209BHJP
G01N 33/573 20060101ALN20220209BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K5/00 ZNA
C12N15/63 Z
C07K19/00
C07K16/40
C12Q1/37
C12Q1/06
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/50 Z
G01N33/573 A
(21)【出願番号】P 2019554371
(86)(22)【出願日】2018-04-04
(86)【国際出願番号】 US2018026009
(87)【国際公開番号】W WO2018187418
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2019-12-03
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベインブリッジ, トラヴィス ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】エルンスト, ジェームズ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】園田 純一郎
【審査官】新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-529954(JP,A)
【文献】特表2008-545661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0206023(US,A1)
【文献】J. Biol. Chem.,2016年,vol.291, no.11, p.5986-5996
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーペプチド、ドナーフルオロフォア部分、及びアクセプターフルオロフォア部分を含み、リンカーペプチドが線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)エンドペプチダーゼの基質である、分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)コンストラクト
であって、
前記ペプチドのアミノ末端が、ドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分の何れかに共有結合しており、前記ペプチドのカルボキシ末端が、ドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分の何れかに共有結合しており、
前記リンカーペプチドが、配列Val-(D-Ala)-Pro-Ser-Gln-Gly(配列番号:4)を有するペプチドを含むか、又はそれからなる、分子コンストラクト。
【請求項2】
リンカーペプチドが
、ヒトS9ペプチダーゼ
、ヒトS28ペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、DPP8、DPP9、及びプロリルエンドペプチダーゼ(PREP)からなる群から選択される少なくとも一つの酵素の基質ではない、請求項1に記載の分子コンストラクト。
【請求項3】
ドナーフルオロフォア部分及びアクセプターフルオロフォア部分の少なくとも一方が、リンカーを介してリンカーペプチドに共有結合している、請求項
1に記載の分子コンストラクト。
【請求項4】
リンカーが、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、及びアスパラギン(Asn)から選択される少なくとも一つのアミノ酸を含む、請求項
3に記載の分子コンストラクト。
【請求項5】
リンカーがリジン(Lys)残基である、請求項
3に記載の分子コンストラクト。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか一項に記載の
リンカーペプチ
ドをコードする
、核酸分子。
【請求項7】
請求項1から
5の何れか一項に記載の
リンカーペプチドの発現のための制御配列に作用可能に連結された請求項
6に記載の核酸分子を含む
、発現ベクター。
【請求項8】
請求項
7に記載の発現ベクターを含む
、宿主細胞。
【請求項9】
請求項1から
5の何れか一項に記載の分子コンストラクトと、少なくとも一つの薬学的に許容される賦形剤とを含む
、組成物。
【請求項10】
哺乳動物対象から取得された試料中の線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)酵素活性を決定する
ためのキットであって、
請求項1から5の何れか一項に記載の分子コンストラクトを含み、
a)試料の少なくとも一部を
前記分子コンストラクトと接触させ、試料に光を当て、ペプチダーゼ指示薬コンストラクトのFAP切断から生じる蛍光を検出することにより、試料にFAP酵素活性が存在するかどうか
が検出
され;及び
b)分子コンストラクトのFAP切断から生じる蛍光を、蛍光とFAP酵素活性の参照相関と比較することにより、試料中のFAP酵素活性
が決定
される、
キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
FAPα、セプラーゼ、又は循環抗プラスミン切断酵素としても知られるヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP;GenBankアクセッション番号AAC51668;EC3.4.21.B28)は、170kDaのII型膜貫通セリンプロテアーゼであり、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、DPP8、DPP9、プロリルエンドペプチダーゼ(PREP、POPとしても知られる)を含むプロリン特異的プロテアーゼのS9ファミリーのメンバーである。FAPは、酵素の触媒ドメインが位置する大きなC末端細胞外ドメインを持つ2つのNグリコシル化サブユニットを含むホモ二量体である。そのグリコシル化形態では、FAPはポストプロリルジペプチジルペプチダーゼとポストプロリルエンドペプチダーゼの両方の活性を有している。
【0002】
ヒトFAPは培養された線維芽細胞において元々同定され、そのタンパク質のホモログが、マウスを含む幾つかの種で見出された。集中的な研究にもかかわらず、FAPの生理学的基質のアイデンティティはとらえどころのないままである。FAPは、その最も近縁のDPPIVと同様に、ジペプチジルペプチダーゼ活性を示し、様々な分泌タンパク質及びペプチドホルモンのN末端から2番目の位置に存在するプロリンの後を切断する。加えて、DPPIVではなくFAPはエンドペプチダーゼ活性を有しており、優先的にカルボキシ末端をGly-Pro配列に切断する。コラーゲンは反復Gly-Proモチーフを有しているが、変性又は部分的に加工された形態(ゼラチンなど)を除き、FAPによる分解に耐性がある。コラーゲン代謝回転の調節におけるFAPの役割に一致して、Fap KOマウスは発症状態でコラーゲンレベルの上昇を示す。FAPは、α2-抗プラスミン(α2AP)のN末端近くの特定の部位で切断し、その活性を増強することもまた提案されている。加えて、本発明者等は、FAPがC末端に近い特定の部位で線維芽細胞増殖因子21(FGF21)を切断し、それによりこの代謝ホルモンを不活化することを見出した。α2APとFGF21の両方において、FAPの標的とされる特定の切断部位は、P2-P1の位置にコンセンサスGly-Pro配列を有しており、これらのアミノ酸残基はFAPによる切断に不可欠である。
【0003】
FAPは膜結合タンパク質として産生されるが、活性酵素をコードする細胞外ドメインは細胞表面から脱落する可能性があるため、可溶性FAPタンパク質は標準的サンドイッチELISAにより血清及び血漿中で容易に検出できる。FAPタンパク質のレベルは、幾つかの病的状態で上昇していることが示されている。FAPにはユニークな組織分布がある:その発現は、肝硬変の患者及び肺、結腸直腸、膀胱、卵巣、乳癌を含む全ての原発性及び転移性上皮性腫瘍の90%以上の反応性間質線維芽細胞で高度にアップレギュレートされることが見出されているが、正常な成人組織には一般に存在していない。その後の報告では、FAPが間質線維芽細胞だけでなく、上皮由来の悪性細胞の幾つかのタイプにおいても発現され、FAP発現が悪性表現型と直接相関していることが示された。
【0004】
肝硬変や多くの一般的ながんでのその発現と、正常組織でのその限られた発現により、FAPは、様々な哺乳動物疾患のイメージング、診断、及び治療のための有望な標的になる可能性がある。従って、多くのモノクローナル抗体がFAPに対して産生されている。FAPタンパク質レベルと酵素活性を測定するための、代替的で煩雑さが少ないアプローチが、研究、診断、及び治療の目的に対して望まれている。
【発明の概要】
【0005】
本発明者等は、FAPに選択的な、新たに同定されたFAPの天然基質であるFGF21のエンドペプチダーゼ切断部位に基づく修飾ペプチド基質を利用する、循環線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)エンドペプチダーゼ活性のための均一な蛍光強度アッセイを作り出した。従って、このアッセイは、活性に依存しないELISAとは対照的に、酵素活性に依存してFAPタンパク質レベルを測定する。
【0006】
従って、一態様では、この開示は、リンカーペプチド、ドナーフルオロフォア部分及びアクセプターフルオロフォア部分を含む分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)コンストラクトであって、リンカーペプチドがFAPの基質であり、別のヒトS9ペプチダーゼ、ヒトS28ペプチダーゼ、又はジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、DPP8、もしくはDPP9の何れか一つの基質ではないコンストラクトを提供する。特に、この開示のFRETコンストラクトは、プロリルエンドペプチダーゼ(PREP)の基質ではない。
【0007】
これらのFRETコンストラクトのリンカーペプチドは、ドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアを10nm以下の距離で隔離し、FAPによる特異的切断がドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアの十分な隔離を生じさせ、蛍光の検出可能な変化をつくるように、ドナーフルオロフォア部分の吸収スペクトルがアクセプターフルオロフォア部分の励起スペクトルと重複する。従って、この開示のFRETコンストラクトは、FAP酵素活性によるリンカーペプチドの切断に続いて、それぞれ蛍光の減少又は増加の何れかをもたらす消光FRETコンストラクト又は通常のFRETコンストラクトでありうる。この開示のための好ましいフルオロフォア対は、FRETドナーHyLite Fluor488とFRETアクセプターQXL520である。
【0008】
これらのFRETコンストラクトのリンカーペプチドは、少なくとも約6のアミノ酸残基と、配列番号:1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含みうる。これらのリンカーペプチドは、配列番号:1~4からなる群から選択される配列を含み、少なくとも約8、又は少なくとも約9、又は少なくとも約10、又は少なくとも約11、又は少なくとも約12、又は少なくとも約13、又は少なくとも約14、又は少なくとも約15、又は少なくとも約16、又は少なくとも約17、又は少なくとも約18、又は少なくとも約19、又は少なくとも約20、又は少なくとも約21、又は少なくとも約22のアミノ酸残基を含みうる。
【0009】
これらのリンカーペプチドは、配列番号:1~4からなる群から選択される配列を含み、少なくとも約30アミノ酸残基、又は少なくとも約40アミノ酸残基、又は少なくとも約45アミノ酸残基、又は少なくとも約50アミノ酸残基、又は少なくとも約55アミノ酸残基、又は少なくとも約65アミノ酸残基の配列を含む、より長いアミノ酸配列をまた含みうる。
【0010】
この開示は、上述のリンカーペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド分子を更に提供する。コンストラクトは、好ましくは、プロモーターに作用可能に連結されたポリヌクレオチド分子を含む発現ベクターである。これらの発現ベクターに好ましいプロモーターは誘導性プロモーターである。この開示はまたこれらの単離されたポリヌクレオチド分子の一又は複数を含む細胞を提供する。細胞は、CHO細胞、大腸菌細胞、又は酵母細胞から選択されうる。
【0011】
この開示は、適切な容器にこの開示のFRETコンストラクトを含むキットをまた提供する。
【0012】
この開示は、FAPエンドペプチダーゼ及び/又はFAP酵素活性を検出する方法であって、リンカーがFAP基質である上述のFRETコンストラクトを提供すること、FAP酵素がFAP基質を切断する条件下でFAP酵素活性を含むことが疑われる試料にコンストラクトを曝露すること、及びコンストラクトが試料に曝露される前後においてFRETシグナルを検出し比較することを含み、蛍光の増加が試料中の活性FAPタンパク質の存在を示す方法をまた提供する。これらの方法において、FRETコンストラクトのリンカーペプチドは、配列番号:4のアミノ酸配列を含みうる。これらの方法において、FRETは、アクセプター発光波長とドナー発光波長で放射される蛍光を測定し、それぞれの発光振幅の比でエネルギー移動を決定するもの;ドナーの蛍光寿命を測定するもの;ドナーの光退色率を測定するもの;ドナーとアクセプターの異方性を測定するもの;及びストークスシフトモノマー/エキシマー蛍光を測定するものから選択される方法で検出されうる。
【0013】
この開示は、FAPエンドペプチダーゼ活性の阻害剤をスクリーニングするための方法であって、コンストラクト中のリンカーがFAPのペプチド基質である上述のFRETコンストラクトを含む細胞を提供すること;細胞を候補阻害剤化合物に曝露すること;及び阻害剤化合物への曝露前後で細胞のFRETシグナルの検出することを含み、候補阻害剤の存在下でのFRETの実質的な減少又は消失の観察が、候補阻害剤がFAPを阻害できることを示す、方法をまた提供する。好ましくは、候補化合物は化合物のライブラリーの中にあり、方法はハイスループット法である。
【0014】
同様に、この開示は、FAPエンドペプチダーゼ活性の阻害剤をスクリーニングするための方法であって、コンストラクト中のリンカーがFAPのペプチド基質である上述のような、細胞成分を実質的に含まない単離されたFRETコンストラクトを提供すること;FRETコンストラクトを候補阻害剤化合物に曝露すること;及び阻害剤化合物への曝露の前後でFRETシグナルを検出することを含み、候補阻害剤の存在下でのFRETの実質的な減少又は消失の観察が、候補阻害剤がFAPを阻害できることを示す方法を提供する。これらの方法において、単離されたFRETコンストラクトは、蛍光活性又はFAPによるリンカーペプチドの切断を妨げない固体支持体と関連付けられ(すなわち、共有的又は非共有的に連結され)うる。好ましくは、候補化合物は化合物のライブラリーの中にあり、方法はハイスループット法である。
【0015】
この開示は、FAP酵素活性を検出するための方法であって、a)上述のFRETコンストラクトを提供すること、b)FAP酵素がFRETのリンカー部分を切断する条件下でFAPエンドペプチダーゼを含む疑いのある試料にコンストラクトを曝露すること、及びc)ドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアの蛍光シグナルの空間的隔離を検出することを含み、空間的隔離の発生が、試料中のFAP酵素活性の存在を示す、方法をまた提供する。好ましくは、コンストラクトは生細胞又は組織内にあり、リンカーペプチドは、FRETドナーHyLite Fluor488及びFRETアクセプターQXL520に連結された配列番号:4であり、蛍光の検出が試料中のFAP酵素活性の存在を示す。
【0016】
この開示はまた対象におけるFRETコンストラクトを検出し又は画像化する方法を提供する。一方法では、この開示のFRETコンストラクトを対象に投与し、インビボイメージングにより分子コンストラクトからの蛍光を検出することにより、FAP発現組織が対象内で画像化されるときにインビボイメージングが行われる。これらの方法において、FRETコンストラクトは近赤外蛍光(NIRF)フルオロフォアを含みうる。インビボイメージングは、NIRFイメージング、蛍光反射イメージング(FRI)、蛍光媒介断層撮影(FMT)、及びそれらの組み合わせから選択されうる。
【0017】
別の方法では、対象から組織試料を取得し;組織試料をこの開示のFRETコンストラクトと接触させ、エクスビボイメージングにより分子コンストラクトからの蛍光を検出することによって、FAP発現組織が画像化される場合に、エクスビボイメージングが行われる。エクスビボイメージングは、切除された組織を用いた低解像度イメージングを含みうる。エクスビボイメージングは、対象から得られた組織切片のインサイチュザイモグラフィーを含みうる。
【0018】
これらの方法は、対象のインビボイメージング後に、検出され又は画像化される対象からの組織(すなわち、切除組織)、例えばがん組織、固形腫瘍、器官内の線維性組織、又は器官の別の部分を除去することを更に含みうる。外科的切除は、当該分野で既知の任意の技術によって実施されうる。幾つかの実施態様では、この方法は、切除後に組織切除の完全性を測定するためにFRETコンストラクトを投与することを更に含みうる。
【0019】
この開示は、対象における線維症又はがんを診断し、検出し、又はモニターする方法であって、対象から採取した試験試料をこの開示のFRETコンストラクトと接触させること、試験試料中の蛍光の量を測定すること;及び試験試料中の蛍光の検出が、試料が得られた対象の線維症又は関連障害、例えばがんの診断となるように、対照試料からの蛍光に対して結果を正規化することを含む方法をまた提供する。これらの方法は、この開示のFRETコンストラクトを対象に投与し、その後、対象から試験試料を得て、試験試料中の蛍光の量を測定すること;及び試験試料中の蛍光の検出が、試料が得られた対象の線維症又は関連障害、例えばがんの診断となるように、対照試料からの蛍光に対して結果を正規化することを含みうる。
【0020】
この開示はまた線維症又は関連障害、例えばがんを診断し、検出し、又はモニターするためのキットをまた提供する。これらのキットは、この開示のFRETコンストラクトとその使用説明書を含みうる。
【0021】
本発明は、この開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない図面及び実施例の助けを借りて、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】N末端蛍光ドナーを含み、ヒトFGF21の優先的FAPエンドペプチダーゼ切断部位に隣接する6アミノ酸残基の領域がそれに続き、蛍光アクセプターにコンジュゲートした追加のC末端リジンで終わる蛍光消光ペプチドのデザイン。バリアント(表)には、グリシンによるP1プロリンの置換、D-アラニンによるP2グリシンの置換、又はマウスFGF21の相同領域全体の置換が含まれる。
【
図2】
図2A-2Dは蛍光消光ペプチドの血漿切断を示す。
図2Aは、示されているように、Fap
+/+、Fap
+/-、及びFap
-/-マウスから単離された血漿試料におけるヒトWT(GP)、ヒト変異体(GG)及びマウス(EP)FGF21ベースのペプチドの切断速度を示す(N=遺伝子型毎に3匹のマウス)。対照として、1nMの組換えマウスFAPを用いて切断反応を実行した。この実験におけるペプチド基質の濃度は3μMであった。
図2Bは、1nMの酵素濃度での組換えヒトFAP又はPREPタンパク質によるGPペプチドの切断速度を示す。
図2Cは、FAP特異的阻害剤cpd60及び/又はPREP特異的阻害剤KYP-2047(KYP)の存在下での組換えヒトFAP(左、青)又はPREP(右、赤)によるGPペプチドの切断速度を示す。
図2Dは、cpd60及び/又はKYPの存在下でのFap
+/+(青)、Fap
+/-(赤)、及びFap
-/-(黒)マウスの血漿中のGPペプチドの切断速度を示す(群当たりN=3)。
【
図3】
図3A-3Dは、組換えFAPによるGP及びaP基質の切断速度を示す。
図3A及び3Bは、(
図3A)GP又は(
図3B)aPペプチドのヒト(黒)又はマウス(青)組換えFAP切断に対するミカエリスメンテン飽和曲線を示す。
図3Cは、cpd60と共にGPペプチドを使用しての組換えマウス又はヒトFAPに対する、cpd60濃度の関数としての分数速度のプロットである。マウスとヒトのFAP製剤は、それぞれ74%と57%が活性であることが分かった。
図3Dは、
図3Cで決定された実験的に決定された活性酵素濃度について補正された、GP及びaP基質でのヒト及びマウスFAP酵素反応速度定数を示す。誤差は3回の実験の反復から決定されたSEMである。FAPモル濃度は、活性部位タイトレーションと反応速度の計算ではモノマーに基づいている。
【
図4】
図4A-4Fは、aPペプチド切断の特異性を示す。
図4Aは、1nMの組換えヒトFAP又はPREPによるaP又はGGペプチドの切断速度を示す。
図4Bは、組換えヒトプロリルペプチダーゼのパネルによるaPペプチドの切断速度を示す。各組換えペプチダーゼは2.5μg/mlで使用した。
図4C及び4Dは、10nMの組換えヒトFAP又はPREPによるANP
FAP(C)又はaP NIRF(D)の切断速度を示す。
図4Eは、Fap
+/+、Fap
+/-、及びFap
-/-マウスからの血漿中のaPペプチドの切断速度を示す。血漿は10倍に希釈した。
図4Fは、抗FAP又は対照IgG免疫枯渇ヒト血清中のaPペプチドの切断速度を示す。血清は2.5倍に希釈した。抗FAP免疫枯渇後の完全なFAP除去は、イムノブロッティングにより以前に示された(Dunshee等(2016)J Biol Chem 291:5986-96)。
【
図5】
図5A-5Cは、血清中のFAP活性が肝疾患及びFAPレベルと相関することを示している。
図5Aは、aPペプチドを使用して決定されたFAP活性レベル(x軸)と、健康な個体(N=16、黒丸)又は以前に肝硬変と診断された個体(N=17、赤丸)の血清試料中のELISAによって決定されたFAPタンパク質レベル(y軸)を示す散布図である。R
2値はグラフ中に示されている。
図5B及び5Cは、平均値±SEMとして提示された
図5Aと同じデータを示している。示されたP値は、スチューデントt検定によって計算された。
【
図6】
図6は、cpd60を含む飼料を与えられたマウスにおいて血漿FAP活性が完全に抑制されることを示す。10~18週齢のC57/BL6バックグラウンドマウスに、100ppmの化合物60を含む対照飼料又は食餌を自由に与えた。示された時点で回収された血液から血漿を単離し、aPペプチドを使用してFAP活性レベルを決定した。N=1群当たり6匹の動物(対照群では雄2匹、雌4匹、cpd60食餌群では雌3匹、雄3匹)。示されたP値は、スチューデントt検定によって計算した(
****:P<0.0001;
**:P<0.002)。
【
図7A】
図7Aは、3つの膵臓のエクスビボ画像を示す。全体の形態は左のパネルに示され、aP NIRFプローブイメージングシグナル強度のヒートマップ表示は右のパネルに示される。
【
図7B】
図7Bは、KPP膵臓におけるより大きな蛍光を示す画像化領域に正規化された相対蛍光強度の定量化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この開示は、FAP酵素活性を検出しかつモニターするための、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の基質で、それにより切断されるペプチドリンカーにより連結されたフルオロフォア間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく新規組成物及び方法を提供する。これらの方法及び組成物は、ピコモルレベルのFAPの検出を可能にし、FAP阻害剤の大規模スクリーニングのためのハイスループットアッセイ系において有用である。これらの組成物及び方法は、生細胞、組織、及び器官のFAP活性のイメージング、並びにそのような組織のエクスビボイメージングにも有用である。
【0024】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、一つの分子と別の分子(例えば、タンパク質又は核酸)の間、又は同じ分子の2つの位置の間の距離の評価を可能にするツールである。FRETは当該技術分野で知られている(概説については、Matyus, (1992) J. Photochem. Photobiol. B: Biol., 12:323;及びolympusmicro.com/primer/techniques/ fluorescence/fret/fretintro.htmlを参照のこと)。FRETは、励起されたドナー分子からアクセプター分子にエネルギーが移動する無放射プロセスである。無放射エネルギー移動は、一つのフルオロフォアの励起状態のエネルギーが実際の光子放出なしで第二のフルオロフォアに移動する量子力学的プロセスである。簡単に言えば、フルオロフォアは特有の波長の光エネルギーを吸収する。この波長は、励起波長とも呼ばれる。蛍光色素によって吸収されたエネルギーは、その後、様々な経路を介して放出され、一つが、蛍光を生成する光子の放出である。放出される光の波長は、発光波長として知られており、特定のフルオロフォアに固有の特性である。FRETでは、そのエネルギーが第二のフルオロフォアの発光波長で放出される。第一のフルオロフォアは一般にドナーと呼ばれ、アクセプターと呼ばれる第二のフルオロフォアのものよりも高いエネルギーの励起状態を有している。そのプロセスの本質的な特徴は、ドナーの発光スペクトルがアクセプターの励起スペクトルと重複し、ドナーとアクセプターが十分に近いことである。ドナーとアクセプターの間の距離は、フルオロフォア間のエネルギーの無放射移動を可能にするために十分に小さくなければならない。エネルギー移動の速度がドナーとアクセプター間の距離の6乗に反比例するため、エネルギー移動効率は距離の変化に極めて敏感である。エネルギー移動は、1~10nmの距離範囲で検出可能な効率で発生すると言われているが、最適な結果を得るには典型的には4~6nmである。無放射エネルギー移動が効果的な距離範囲は、ドナーの蛍光量子効率、アクセプターの消衰係数、その各スペクトルの重複度、媒質の屈折率、及び2つのフルオロフォアの遷移モーメントの相対的配向を含む、他の多くの要因に依存する。
【0025】
[この開示のFRETコンストラクト]
この開示は、フルオロフォアFRETドナーと、FAPにより切断可能なリンカーペプチド(「基質ペプチド」)により連結されたアクセプターとを含むコンストラクト(「FRETコンストラクト」)を提供する。FAP酵素活性の存在下で、リンカーペプチドは切断され、それによりエネルギー移動が減少し、ドナーフルオロフォアによる発光が増加するか又はアクセプターによる発光が減少する。このようにして、FAPのタンパク質分解活性を検出し、モニターし、及び定量することができる。
【0026】
これらのFRETコンストラクトにおいて、リンカーペプチドは、好ましくは、ヒトS9ペプチダーゼ又はヒトS28ペプチダーゼの基質ではない。同様に、リンカーペプチドは、好ましくは、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、DPP8、又はDPP9の何れか一つの基質ではない。更により好ましくは、リンカーペプチドはプロリルエンドペプチダーゼ(PREP)の基質ではない。
【0027】
これらのFRETコンストラクトにおいて、リンカーペプチドはドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアを10nm以下の距離で隔離し、ドナーフルオロフォア部分の発光スペクトルがアクセプターフルオロフォア部分の吸収スペクトルと重複する。
【0028】
この開示の例示的なFRETコンストラクトには、次の配列を含む分子コンストラクトが含まれる:
(ここで、
Xaa1は、天然又は非天然のアミノ酸残基又は誘導体であり;
Xaa2は、天然に生じるアミノ酸のD-エナンチオマー、又はアミノ酸アナログから選択される残基であり;
Xaa3は、プロリン(Pro)又はその誘導体であり;
Xaa4は、天然又は非天然のアミノ酸残基又は誘導体であり;
Xaa5は、天然又は非天然のアミノ酸残基又は誘導体であり;そして、
Xaa6は、天然又は非天然のアミノ酸残基又は誘導体である)
【0029】
これらの例示的なFRETコンストラクトにおいて、Xaa2は、D-アラニン、D-セリン、及びD-スレオニンから選択されうるか、又はXaa2は、式-NH-(CH2)n-COO-を有するアミノ酸アナログであり得、ここでn=2~10である。従って、Xaa2は、β-アラニン(bAla)、γ-アミノ酪酸(4Abu)、5-アミノ吉草酸、及び6-アミノヘキサン酸から選択されるアミノ酸アナログでありうる。
【0030】
これらの例示的なFRETコンストラクトにおいて、Xaa3はハロゲン化プロリン残基でありうる。フッ素化プロリン残基であるXaa3などの、請求項11に記載の分子コンストラクト。Xaa3は、また、デヒドロプロリン、4,4-ジフルオロプロリン、3-フルオロプロリン、4-フルオロプロリン、3-ヒドロキシプロリン(3Hyp)、及び4-ヒドロキシプロリン(4Hyp)から選択されるプロリンの誘導体でありうる。
【0031】
これらの例示的なFRETコンストラクトにおいて、Xaa1は、ドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分の何れかに共有的に連結されうる。同様に、これらのコンストラクトにおいて、Xaa6はドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分の何れかに共有的に連結されうる。ドナーフルオロフォア部分及びアクセプターフルオロフォア部分の少なくとも一方は、リンカーを介してリンカーペプチドに共有的に連結されうる。リンカーが存在する場合、リンカーは、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、及びアスパラギン(Asn)から選択される少なくとも一つのアミノ酸を含みうる。例示的なコンストラクトにおいて、リンカーはリジン(Lys)残基である。ドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分は、リンカーペプチドのアミノ末端に連結されうる。あるいは又は加えて、ドナーフルオロフォア部分又はアクセプターフルオロフォア部分は、ペプチドのカルボキシ末端に連結されうる。従って、一構成では、ドナーフルオロフォア部分はペプチドのカルボキシ末端に連結され、アクセプターフルオロフォア部分はペプチドのアミノ末端に連結される。別の構成では、ドナーフルオロフォア部分はペプチドのアミノ末端に連結され、アクセプターフルオロフォア部分はペプチドのカルボキシ末端に連結される。
【0032】
この開示の例示的なリンカーペプチドは、配列Val-(D-Ala)-Pro-Ser-Gln-Gly(配列番号:4)を有するペプチド、又は配列番号:4のアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を含むペプチドを含むか又はそれからなるが、FAPの基質であり、別のヒトS9又はS28ペプチダーゼの基質ではない。同様に、リンカーペプチドは、配列番号:4のアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドでありうるが、FAPの基質であり、ヒトS9又はS28ペプチダーゼの基質ではない。
【0033】
この開示の例示的なリンカーペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列と比較して1~3の保存的アミノ酸置換を有するペプチドを含むか、又はそれからなりうるが、FAPの基質であり、ヒトS9又はS28ペプチダーゼの基質ではない。同様に、リンカーペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列と比較して一つの保存的アミノ酸置換を含むペプチドでありうるが、FAPの基質であり、ヒトS9又はS28ペプチダーゼの基質ではない。
【0034】
この開示の本発明の方法及び組成物の文脈において、化学的又は遺伝的手段による任意のリンカーペプチドの修飾もまた考えられる。そのような修飾の例には、L-もしくはD-エナンチオマー型の非天然アミノ酸及び/又は天然アミノ酸を含む部分的又は完全な配列のペプチドの構築が含まれる。例えば、ここに開示されているリンカーペプチドの何れか、及びその任意のバリアントが、全D型で作製されうる。更に、ポリペプチドは、側鎖又はアミノ酸のN末端又はC末端に共有的に連結された糖又は脂肪酸などの炭水化物又は脂質部分を含むように修飾されうる。加えて、この開示のリンカーペプチドはリン酸化及びグリコシル化から選択される修飾をまた含みうる。
【0035】
加えて、この開示のリンカーペプチドは、投与されると溶解度及び/又は半減期を高めるように修飾されうる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)と関連するポリマーが、血液中のタンパク質治療薬の溶解度と半減期を高めるために使用されている。従って、この開示のリンカーペプチドは、PEGポリマー等によって修飾されうる。PEG又はPEGポリマーとは、ポリ(エチレングリコール)を必須部分として含む残基を意味する。そのようなPEGは、この開示のリンカーペプチドの治療活性に必要であり;分子の化学合成から生じ;又は分子の部分が互いに最適な距離を保つためのスペーサーである、更なる化学基を含みうる。加えて、このようなPEGは、互いに連結されている一又は複数のPEG側鎖からなりうる。一を超えるPEG鎖を持つPEG基は、マルチアーム又は分岐PEGと呼ばれる。分岐PEGは、例えば、グリセロール、ペンタエリスリオール、及びソルビトールを含む様々なポリオールへのポリエチレンオキシドの付加により調製されうる。例えば、4アームの分岐PEGはペンタエリスリオールとエチレンオキシドから調製されうる。分岐PEGは通常2~8のアームを有し、例えば米国特許第5932462号に記載されている。特に好ましいのは、リジンの第一級アミノ基を介して結合した2つのPEG側鎖(PEG2)を有するPEGである(Monfardini, C等, Bioconjugate Chem. 6 (1995) 62-69)。「PEG」という用語は、エチレングリコール(EG)単位の数が少なくとも460、好ましくは460~2300、特に好ましくは460~1840である任意のポリエチレングリコール分子を包含するために広く使用される(230EG単位は約10kDaの分子量を指す)。EG単位の上限数は、この開示のPEG化リンカーペプチドの溶解度によってのみ制限される。通常、2300単位を含むPEGよりも大きいPEGは使用されない。好ましくは、本発明で使用されるPEGは、一端がヒドロキシ又はメトキシで終わり(メトキシPEG,mPEG)、他端がエーテル酸素結合を介してリンカー部分に共有結合している。ポリマーは直鎖状又は分岐状である。分岐PEGは、例えば、Veronese, F. M.等, Journal of Bioactive and Compatible Polymers 12 (1997) 196-207に記載されている。この開示のPEG化リンカーペプチドとバリアントの生成のための適切なプロセスと好ましい試薬は米国特許出願公開第2006/0154865号に記載されている。プロセスがこの開示のPEG化リンカーペプチドを生じる限り、例えば、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417によって記載された方法に基づく修飾を手順中で行うことができることが理解される。この開示のPEG化リンカーペプチドの調製のための特に好ましいプロセスは、出典明示によりここに援用される米国特許出願公開第2008/0119409号に記載されている。この開示の例示的なリンカーペプチドは、75~2000のエチレングリコール(EG)単位を含むPEG分子などのポリエチレングリコール(PEG)分子に連結されうる。
【0036】
加えて又は代替的に、この開示のリンカーペプチドは、ヒトIgGのFc領域の一又は複数のドメインに融合されうる。抗体は、抗原に結合する「Fab」として知られる可変ドメインと、補体活性化や食細胞による攻撃などのエフェクター機能に関与する「Fc」として知られる定常ドメインの、二つの機能的に独立した部分を含む。Fcは長い血清半減期を有する一方、Fabは短命である(Capon等, 1989, Nature 337:525-31)。この開示の治療用タンパク質と一緒に構築される場合、Fcドメインは、より長い半減期を提供しうるか、Fc受容体結合、プロテインA結合、補体固定、更にはおそらく血液脳関門、又は胎盤通過などの機能を取り込みうる。一例では、当業者に知られた方法を使用して、この開示のリンカーペプチドのアミノ末端又はカルボキシル末端の何れかで、ヒトIgGヒンジ、CH2、及びCH3領域を融合させうる。得られた融合ポリペプチドは、プロテインAアフィニティーカラムの使用により精製されうる。Fc領域に融合されたペプチド及びタンパク質は、未融合の対応物よりも実質的に長いインビボ半減期を示すことが見出されている。また、Fc領域への融合により、融合ポリペプチドの二量体化/多量体化が可能になる。Fc領域は、天然に生じるFc領域であり得、又は治療品質、循環時間、又は凝集の減少などの所定の品質を改善するために改変されうる。例示的なリンカーペプチドは、ペプチドのアミノ末端又はカルボキシル末端の少なくとも一つに融合されるヒトIgGヒンジ、CH2、及び/又はCH3領域などのヒトIgG分子のFc領域の一又は複数のドメインに連結されうる。
【0037】
リンカーペプチドは、また硫黄、リン、ハロゲン、金属などを含むように修飾されうる。アミノ酸模倣物を使用してポリペプチドを生成することができ、従って、この開示のリンカーペプチドは、分解に対する耐性などの増強された特性を有するアミノ酸模倣物を含みうる。例えば、リンカーペプチドは、一又は複数(例えば、全て)のペプチドモノマーを含みうる。
【0038】
この開示のリンカーペプチドは、「タグポリペプチド」に融合したこの開示のリンカーペプチドを含むキメラペプチドを指す「エピトープタグ」ペプチドを含みうる。タグポリペプチドは、抗体が作製されうるエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、それが融合される阻害性ポリペプチドの活性を妨害しないように十分に短い。タグポリペプチドはまた抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように、かなり独特であることが好ましい。適切なタグポリペプチドは、一般に少なくとも6のアミノ酸残基を有し、通常は約8~50のアミノ酸残基(好ましくは約10~20のアミノ酸残基)を有する。
【0039】
この開示のリンカーペプチドはまたこの開示のペプチドが接着又は付着することができる非水性マトリックスである「固相」又は「固体支持体」に連結され又は関連付けられうる。ここに包含される固相の例には、部分的又は全体的にガラス(例えば、制御細孔ガラス)、多糖類(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンから形成されたものが含まれる。状況に応じて、固相は、アッセイプレート又は精製カラム(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラム)のウェルを含みうる。この用語には、米国特許第4275149号に記載されているような個別粒子の不連続固相もまた含まれる。従って、この開示のリンカーペプチドは、ガラス、多糖類、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、及びシリコーンのうちの少なくとも一つを含む固体支持体などの固体支持体にまた連結されうる。
【0040】
この開示は配列番号:1~4、好ましくは配列番号:4の配列の末端又は配列内に任意のFRET対を含むここに記載の基質ペプチドの何れかをまた考慮する。例えば、生物学的用途のための一つの一般的なフルオロフォア対は、シアン蛍光タンパク質(CFP)-黄色蛍光タンパク質(YFP)対である。FAP酵素活性が存在しない場合、レポーターはインタクトであり、CFP及びYFP部分は近接している。CFPが励起されると、FRETによりYFPにエネルギー移動が生じる。その結果、YFPがFRETにより蛍光を発しながら、CFPの発光は消光される。FAP酵素活性の存在下では、レポーターはFAPのタンパク質分解活性によって切断される。CFP及びYFP部分は物理的に隔離され、FRETはもはや発生しない。CFP発光が回復し、YFP発光が減少する。ここに開示されるペプチド基質にFRETタグを添加すると、市販されているFRET基質よりも高い検出が得られるはずである。この開示のペプチド基質は、有利には、FAP酵素活性の低い検出限界を有する。
【0041】
ドナー及び対応するアクセプター蛍光部分に関してここで使用される場合、「対応する」とは、ドナー蛍光部分の励起スペクトルと重複する発光スペクトルを有するアクセプター蛍光部分を指す。アクセプター蛍光部分の発光スペクトルの波長最大値は、ドナー蛍光部分の励起スペクトルの波長最大値より少なくとも100nm大きくなければならない。従って、効率的な非放射性エネルギー移動を生み出すことができる。
【0042】
基質ペプチド及びFAPに関してここで使用される場合、「対応する」とは、特定の切断部位でリンカーペプチドを切断するFAPエンドペプチダーゼを指す。
【0043】
蛍光ドナー及び対応するアクセプター部分は、(a)高効率フェルスターエネルギー移動;(b)大きな最終ストークスシフト(>100nm);(c)可視スペクトルの赤色部分(>600nm)への可能な限りの発光のシフト;及び(d)ドナー励起波長での励起により生じるラマン水蛍光発光よりも高い波長への発光のシフトに対して一般に選択される。例えば、レーザー線(例えば、ヘリウム-カドミウム442nm又はアルゴン488nm)近くのその励起最大値、高い吸光係数、高い量子収率、及び対応するアクセプター蛍光部分の励起スペクトルとのその蛍光発光の良好なオーバーラップを有するドナー蛍光部分を選択できる。高い吸光係数、高い量子収率、ドナー蛍光部分の発光とのその励起の良好なオーバーラップ、及び可視スペクトルの赤色部分(>600nm)の発光を有する、対応するアクセプター蛍光部分を選択できる。
【0044】
当業者は、多くのフルオロフォア分子がFRETに適していることを認識するであろう。蛍光タンパク質はフルオロフォアとして使用されうる。FRET技術において様々なアクセプター蛍光部分と共に使用できる代表的なドナー蛍光部分には、フルオレセイン、ルシファーイエロー、B-フィコエリトリン、9-アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4-アセトアミド-4’-イソチオ-シアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、7ジエチルアミノ-3-(4’-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン、1-ピレン酪酸スクシンイミジル、及び4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2-,2’-ジスルホン酸誘導体が含まれる。使用されるドナー蛍光部分に応じた代表的なアクセプター蛍光部分には、LC-レッド640、LC-レッド705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミンペンタアセテート又はランタニドイオン(例えばユーロピウム又はテルビウム)の他のキレートが含まれる。ドナー及びアクセプター蛍光部分は、例えば、Molecular Probes(Junction City, Oreg.)又はSigma Chemical社(St. Louis, Mo.)から入手できる。
【0045】
この開示のFRETコンストラクトで使用される蛍光標識の例には、フルオレセイン、6-FAMTM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、TETTM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、VICTM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、MAX、HEXTM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、TYETM(ThermoFisher Scientific, Waltham, Mass.)、TYE665、TYE705、TEX、JOE、CyTM(Amersham Biosciences, Piscataway, N.J.)色素(Cy2、Cy3、Cy3B、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7)、テキサスレッド(登録商標)(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)、テキサスレッド-X、AlexaFluor(登録商標)(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)色素(AlexaFluor350、AlexaFluor405、AlexaFluor430、AlexaFluor488、AlexaFluor500、AlexaFluor532、AlexaFluor546、AlexaFluor568、AlexaFluor594、AlexaFluor610、AlexaFluor633、AlexaFluor647、AlexaFluor660、AlexaFluor680、AlexaFluor700、AlexaFluor750)、DyLightTM(ThermoFisher Scientific, Waltham, Mass.)色素(DyLight350、DyLight405、DyLight488、DyLight549、DyLight594、DyLight633、DyLight649、DyLight755)、ATTOTM(ATTO-TEC GmbH, Siegen, Germany)色素(ATTO390、ATTO425、ATTO465、ATTO488、ATTO495、ATTO520、ATTO532、ATTO550、ATTO565、ATTO Rho101、ATTO590、ATTO594、ATTO610、ATTO620、ATTO633、ATTO635、ATTO637、ATTO647、ATTO647N、ATTO655、ATTO665、ATTO680、ATTO700、ATTO725、ATTO740)、BODIPY(登録商標)(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)色素(BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BOPDIPY530/550、BODIPY558/568、BODIPY564/570、BODIPY576/589、BODIPY581/591、BODIPY630/650、BODIPY650/665)、HiLyte FluorTM(AnaSpec, Fremont, Calif.)色素(HiLyte Fluor488、HiLyte Fluor555、HiLyte Fluor594、HiLyte Fluor647、HiLyte Fluor680、HiLyte Fluor750)、AMCA、AMCA-S、カスケード(登録商標)ブルー(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)、カスケードイエロー、クマリン、ヒドロキシクマリン、ローダミングリーンTM-X(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)、ローダミンレッドTM-X(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)、ローダミン6G、TMR、TAMRATM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、5-TAMRA、ROXTM(Applied Biosystems, Carlsbad, Calif.)、オレゴングリーン(登録商標)(Life Technologies, Grand Island, N.Y.)、オレゴングリーン500、IRDye(登録商標)700(Li-Cor Biosciences, Lincoln, Nebr.)、IRDye800、WellRED D2、WellRED D3、WellRED D4、及びLightcycler(登録商標)640(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)が含まれる。
【0046】
適切なアクセプターには、Black Hole Quencher(登録商標)-1(Biosearch Technologies, Novato, Calif.)、BHQ-2、Dabcyl、Iowa Black(登録商標)FQ(Integrated DNA Technologies, Coralville, Iowa)、アイオワブラックRQ、QXLTM(AnaSpec, Fremont, Calif.)、QSY7、QSY9、QSY21、QSY35、及びIRDye QCが含まれる。
【0047】
ここに記載されたリンカーペプチド(「基質ペプチド」)に加えて、リンカーペプチドバリアントを調製することができると考えられる。リンカーペプチドバリアントは、適切なヌクレオチド変化をコード化DNAに導入することにより、及び/又は所望のポリペプチドの合成により、調製することができる。
【0048】
ここに記載のリンカーペプチドの変異は、例えば、米国特許第5364934号に記載されている保存的及び非保存的変異のための技術及びガイドラインの何れかを使用して、行うことができる。変異は、天然配列ポリペプチドと比較してアミノ酸配列に変化をもたらすリンカーペプチドをコードする一又は複数のコドンの置換、欠失、又は挿入でありうる。場合によっては、変異は、少なくとも一つのアミノ酸を任意の他のアミノ酸で置換することによる。所望される活性に悪影響を与えることなく、どのアミノ酸残基が挿入され、置換され、又は欠失されうるかを決定する際のガイダンスは、リンカーペプチドの配列を相同な既知のタンパク質分子の配列と比較し、相同性の高い領域においてなされたアミノ酸配列変化の数を最小にすることによって、見出されうる。アミノ酸置換は、ロイシンのセリンへの置換、すなわち保存的アミノ酸置換など、一つのアミノ酸を類似の構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置換した結果でありうる。挿入又は欠失は、場合によっては約1~5のアミノ酸の範囲でありうる。許容される変異は、配列内のアミノ酸の挿入、欠失、又は置換を体系的に行い、得られたバリアントを全長又は成熟天然配列によって示される活性について試験することにより、決定されうる。
【0049】
ここではリンカーペプチド断片が提供される。そのような断片は、例えば、全長の天然ペプチドと比較した場合、N末端又はC末端で切断されうるか、又は内部残基を欠く場合がある。所定の断片は、FAP酵素活性の検出に必須ではないアミノ酸残基を欠いている。
【0050】
リンカーペプチド及び断片は、多くの一般的な技術の何れかによって調製されうる。所望されるペプチド断片は化学的に合成されてもよい。別のアプローチは、酵素消化により、例えば、特定のアミノ酸残基によって定まった部位でタンパク質を切断することが知られている酵素でタンパク質を処理することにより、又は適切な制限酵素でDNAを消化し、所望の断片を単離することにより、ポリペプチドを生成することを含む。更に別の適切な技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、所望のペプチド又は断片をコードするDNA断片を単離し増幅させることを含む。DNA断片の所望の末端を定めるオリゴヌクレオチドが、PCRの5’及び3’プライマーで用いられる。リンカーペプチド断片は、ここに開示された天然リンカーペプチドと少なくとも部分的なFAP基質特異性を共有する。
【0051】
保存的アミノ酸置換は、好ましい置換の見出しの下に表1に示されている。そのような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、表1に例示的置換と命名され、又はアミノ酸クラスに関して以下に更に記載される、より実質的な変化が導入され、産物がスクリーニングされる。
【0052】
【0053】
リンカーペプチドへの実質的な修飾は、(a)置換の領域内のペプチド骨格の構造を、例えばシート又はらせん形構造として、(b)標的部位での分子の電荷又は疎水性を、又は(c)側鎖の大部分を、維持することについてのその効果が有意に異なる置換を選択することによって達成される。天然に生じる残基は、一般的な側鎖特性に基づいてグループに分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;Asn;Gln
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を与える残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0054】
非保存的置換は、これらのクラスの一メンバーを別のクラスに交換することを伴う。そのような置換された残基はまた保存的置換部位に、又はより好ましくは、残りの(非保存的)部位に導入されうる。
【0055】
オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)変異誘発、アラニンスキャニング、及びPCR変異誘発などの当該技術分野で既知の方法を使用して、変異を行うことができる。部位特異的変異誘発(Carter等, Nucl. Acids Res., 13:4331 (1986);Zoller等, Nucl. Acids Res., 10:6487 (1987))、カセット変異誘発(Wells等, Gene, 34:315 (1985))、制限選択変異誘発(Wells等, Philos. Trans. R. Soc. London SerA, 317:415 (1986))又はその他の既知の技術を、クローン化されたDNAで実施して、リンカーペプチドバリアントDNAを作製することができる。
【0056】
近接配列に沿って一又は複数のアミノ酸を特定するために、スキャニングアミノ酸分析を用いることもまたできる。好ましいスキャニングアミノ酸には、比較的小さい中性アミノ酸がある。そのようなアミノ酸には、アラニン、グリシン、セリン、及びシステインが含まれる。アラニンは、ベータ炭素を超える側鎖を除去し、バリアントの主鎖の立体構造を改変する可能性が低いため、典型的にはこの群の中で好ましいスキャニングアミノ酸である(Cunningham及びWells, Science, 244:1081-85 (1989))。アラニンは最も一般的なアミノ酸であるため、典型的にまた好ましい。更に、アラニンは埋没位置と露出位置の両方で頻繁に見出される(Creighton, The Proteins, (W.H. Freeman & Co., N.Y.);Chothia, J. Mol. Biol., 150:1 (1976))。アラニン置換で十分な量のバリアントが得られない場合、アイソテリックなアミノ酸を使用できる。
【0057】
最小切断部位と、FRETシグナル強度とリンカー長の関係、及び切断効率とリンカー長の関係に関する上記の議論から、当業者ならば適切なリンカー長を容易に選択して、FRETシグナル強度と切断効率の最適なバランスを達成することができる。
【0058】
好ましくは、リンカー長は、試料中のFAP酵素活性の検出又は画像化におけるFRETコンストラクトの考えられる使用に応じて、約4アミノ酸から約100アミノ酸、6~50アミノ酸、7~30アミノ酸の何れかである。
【0059】
これらのリンカーペプチド又は断片は最初に精製されうるか、又はペプチドが最初に合成され、次に化学反応により所定のアミノ酸へ蛍光基が付加される。蛍光標識は、リンカーポリペプチドに付着されるか、又は別法では、蛍光タンパク質が、以下に記載されるように、リンカーポリペプチドとインフレームで融合される。従って、FAP酵素活性の検出特異性には短い基質断片が望ましいが、シグナル強度や切断特異性の改善、又は検出、イメージング、診断技術の別のパートとして機能するには、より長い断片が望ましい場合がある。より長いリンカーペプチド、特に全長の基質タンパク質が使用される場合、基質は、例えば、部位特異的変異誘発又は当業者に周知の他の分子工学的方法を介して、それがFAPペプチダーゼ認識部位を一つだけ含むように、操作されうる。好ましくは、この開示のリンカーペプチドは、最適なシグナル強度、切断効率及びペプチダーゼ特異性を達成するために、特異性工学及び長さ最適化の組み合わせを使用してデザインされる。
【0060】
フルオロフォアは、適切な基質ペプチドによって連結された適切な蛍光タンパク質である。ついで、FRETコンストラクトは、インビトロで(例えば、無細胞転写/翻訳系を使用して、又は代わりに当該技術分野で周知の方法を使用して形質転換又はトランスフェクトされた培養細胞を使用して)、そのようなポリペプチドと蛍光タンパク質標識をコードする配列のインフレーム融合を含む組換え核酸分子の発現によって産生されうる。
【0061】
この開示のリンカーペプチドのアミノ酸配列又はそのバリアントをコードする核酸分子は、当該技術分野で知られている様々な方法によって調製される。これらの方法には、限定されるものではないが、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列バリアントの場合)又はリンカーペプチドの先に調製されたバリアント又は非バリアント型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、及びカセット変異誘発による調製が含まれる。
【0062】
ペプチドリンカーをコードする核酸(例えば、cDNA又はゲノムDNA)は、クローニング(DNAの増幅)又は発現のために複製可能なベクターに挿入されうる。様々なベクターが公に入手可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、又はファージの形態でありうる。適切な核酸配列は、様々な手順によってベクターに挿入されうる。一般に、DNAは、当該分野で知られている技術を使用して適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入される。ベクター成分は、一般に、限定されるものではないが、シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの一又は複数を含む。これらの成分の一又は複数を含む適切なベクターの構築は、当業者に知られている標準的なライゲーション技術を用いる。
【0063】
リンカーペプチドは、直接的だけでなく、シグナル配列又は成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を有する他のポリペプチドでありうる異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても組換え的に産生されうる。一般に、シグナル配列はベクターの成分であり得、又は発現ベクターに挿入されるリンカーペプチドをコードするDNAの一部でありうる。シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、又は熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列でありうる。酵母分泌の場合、シグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼリーダー、アルファ因子リーダー(サッカロミセス及びクルイベロミセスα因子リーダーを含み、後者は米国特許第5010182号に記載されている)、又は酸性ホスファターゼリーダー、カンジダ・アルビカンス・グルコアミラーゼリーダー(欧州特許出願公開第362179号)、又は1990年11月15日に公開された国際公開第90/13646号に記載されたシグナルでありうる。哺乳動物細胞発現では、タンパク質の分泌を方向付けるために、例えば同じ又は関連種の分泌ポリペプチドからのシグナル配列、並びにウイルス分泌リーダーなど、哺乳動物シグナル配列が使用されうる。
【0064】
発現ベクターとクローニングベクターの両方に、一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列が含まれる。そのような配列は、様々な細菌、酵母、及びウイルスでよく知られている。プラスミドpBR322からの複製起点が殆どのグラム陰性菌に適しており、2μのプラスミド起点が酵母に適しており、様々なウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)が哺乳動物細胞においてクローニングベクターに有用である。
【0065】
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選択可能なマーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、テトラサイクリンに対する耐性を付与し、(b)栄養要求性欠乏を補完し、又は(c)桿菌のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子など、複合培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0066】
哺乳動物細胞に適した選択可能なマーカーの例は、DHFR又はチミジンキナーゼなどのリンカーペプチドをコードする核酸を取り込む能力のある細胞の同定を可能にするものである。野生型DHFRが用いられる場合の適切な宿主細胞は、Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980)に記載されたように調製され、増殖されるDHFR活性が欠損しているCHO細胞株である。酵母での使用に適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39 (1979);Kingsman等, Gene, 7:141 (1979);Tschemper等, Gene, 10:157 (1980))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC番号44076又はPEP4-1(Jones, Genetics, 85:12 (1977))など、トリプトファンで増殖する能力を欠く酵母の変異株の選択マーカーを提供する。
【0067】
発現及びクローニングベクターは、通常、mRNA合成を指示するリンカーペプチドをコードする核酸配列に作用可能に連結されたプロモーターを含む。様々な潜在的な宿主細胞によって認識されるプロモーターはよく知られている。原核生物宿主での使用に適したプロモーターには、β-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系(Chang等, Nature, 275:615 (1978);Goeddel等, Nature, 281:544 (1979))、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057 (1980))、及びtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーター(deBoer等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:21-25 (1983))が含まれる。細菌系で使用されるプロモーターは、リンカーペプチドをコードするDNAに作用可能に連結されたシャイン・ダルガルノ配列をまた含むであろう。
【0068】
酵母宿主での使用に適したプロモーティング配列の例には、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzeman等, J. Biol. Chem., 255:2073 (1980))又は他の糖分解酵素(Hess等, J. Adv. Enzyme Reg., 7:149 (1968);Holland, Biochemistry, 17:4900 (1978))、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
【0069】
増殖条件によって制御される転写の更なる利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトースとガラクトースの利用に関与する酵素のプロモーター領域である。酵母発現での使用に適したベクター及びプロモーターは、欧州特許出願公開第73657号に更に記載されている。
【0070】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからのリンカーペプチド転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス(英国特許出願公開第2211504号)、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びサルウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるプロモーター、異種哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、並びに熱ショックプロモーター(かかるプロモーターが宿主細胞系に適合しているという条件下で)によって制御される。
【0071】
エンハンサー配列をベクター中に挿入することにより、高等真核生物によるリンカーペプチドをコードするDNAの転写が増加する場合がある。エンハンサーは、プロモーターに作用してその転写を増加させる、通常約10から300bpのDNAのシス作用エレメントである。現在、哺乳類の遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、及びインスリン)。しかし、典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用する。例には、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(bp100-270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。エンハンサーは、リンカーペプチドをコードする配列の5’又は3’の位置でベクターにスプライスされうるが、好ましくはプロモーターから5’の部位に位置する。
【0072】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物の有核細胞)で使用される発現ベクターは、転写の終結とmRNAの安定化に必要な配列をまた含むであろう。そのような配列は、真核生物又はウイルスのDNA又はcDNAの5’及び場合によっては3’非翻訳領域から一般に入手可能である。これらの領域は、リンカーペプチドをコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含む。
【0073】
組換え脊椎動物細胞培養におけるリンカーペプチドの合成への適応に適した更に他の方法、ベクター、及び宿主細胞は、Gething等, Nature, 293:620-25 (1981);Mantei等, Nature, 281:40-46 (1979);欧州特許出願公開第117060号;及び欧州特許出願公開第117058号に記載されている。
【0074】
FRETコンストラクトを産生するのに適した細胞は、細菌、真菌、植物、又は動物細胞でありうる。FRETコンストラクトは、例えば、トランスジェニック植物、又は限定されないが昆虫、両生類、及び哺乳動物を含むトランスジェニック動物において、インビボでまた産生されうる。本発明において使用される組換え核酸分子は、当該技術分野でよく知られた分子法によって構築され、発現され得、加えて、限定されないが、容易な精製を可能にするタグ(例えば、ヒスチジンタグ)、リンカー、分泌シグナル、核局在化シグナル、又は望まれるならば特定の細胞位置にコンストラクトをターゲティングすることができる他の一次配列シグナルをコードするものを含む配列を含みうる。
【0075】
宿主細胞は、リンカーペプチド産生のためにここに記載の発現又はクローニングベクターでトランスフェクト又は形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適切に変更された一般的な培養液で培養される。培地、温度、pHなどの培養条件は、過度の実験をすることなく当業者によって選択されうる。一般に、細胞培養の生産性を最大にするための原理、プロトコル、及び実用的な手法は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach, M. Butler編 (IRL Press, 1991)及び上掲のSambrook等に見出すことができる。
【0076】
真核細胞のトランスフェクション及び原核細胞の形質転換の方法は、例えば、CaCl2、CaPO4、リポソーム媒介、及びエレクトロポレーションなど、当業者に知られている。使用される宿主細胞に応じて、形質転換はそのような細胞に適した標準的な技術を使用して実施される。上掲のSambrook等に記載されているように、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理、又はエレクトロポレーションは、原核生物に一般に使用される。Shaw等, Gene, 23:315 (1983)及び1989年6月29日公開の国際公開第89/05859号に記載されているように、アグロバクテリウム・ツメファシエンスでの感染がある種の植物細胞の形質転換に使用される。そのような細胞壁のない哺乳動物細胞では、Graham及びvan der Eb, Virology, 52:456-457 (1978)のリン酸カルシウム沈殿法を用いることができる。哺乳動物細胞宿主系トランスフェクションの一般的な態様は、米国特許第4399216号に記載されている。酵母への形質転換は、典型的には、Van Solingen等, J. Bact., 130:946 (1977)及びHsiao等, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 76:3829 (1979)の方法に従って実施されうる。しかし、核マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、インタクトな細胞との細菌プロトプラスト融合、又はポリカチオン、例えばポリブレン、ポリオルニチンなどにより、細胞にDNAを導入する他の方法もまた使用されうる。哺乳動物細胞を形質転換するための様々な技術については、Keown等, Methods in Enzymology, 185:527-537 (1990)及びMansour等, Nature, 336:348-352 (1988)を参照のこと。
【0077】
ここでのベクター中のDNAのクローニング又は発現に適した宿主細胞には、原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞が含まれる。適切な原核生物には、限定されるものではないが、グラム陰性又はグラム陽性生物などの真正細菌、例えば大腸菌などの腸内細菌科が含まれる。大腸菌K12株MM294(ATCC31446);大腸菌X1776(ATCC31537);大腸菌株W3110(ATCC27325)及びK5 772(ATCC53635)など、様々な大腸菌株が公に入手可能である。他の適切な原核生物宿主細胞には、腸内細菌科、例えば大腸菌属、例えば大腸菌、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスカンス(Serratia marcescans)、及びシゲラ属、並びにバチルス属、例えばB.スブチリス及びB.リケニフォルミス(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたB.リケニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌、及びストレプトマイセス属が含まれる。これらの例は、限定ではなく例示である。W3110株は、組換えDNA産物の発酵に一般的な宿主株であるため、一つの特に好ましい宿主又は親宿主である。好ましくは、宿主細胞は最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えば、W3110株は、宿主に内因性のタンパク質をコードする遺伝子に遺伝的変異をもたらすように改変され得、そのような宿主の例には、完全な遺伝子型tonAを持つ大腸菌W3110株1A2;完全な遺伝子型tonA ptr3を持つ大腸菌W3110株9E4;完全な遺伝子型tonA ptr3 phoA E15(argF-lac)169degP ompT kanrを持つ大腸菌W3110株27C7(ATCC55244);完全な遺伝子型tonA ptr3 phoA E15(argF-lac)169degP ompT rbs7 ilvG kanrを持つ大腸菌W3110株37D6;非カナマイシン耐性degP欠失変異を有する37D6株である大腸菌W3110株40B4;及び米国特許第4946783号に開示されている変異ペリプラズムプロテアーゼを有する大腸菌株が含まれる。あるいは、クローニングのインビトロ法、例えばPCR又は他の核酸ポリメラーゼ反応が適切である。
【0078】
特にリンカーペプチドのグリコシル化が所望されないか必要でない場合、全長リンカーペプチド、その断片、又は融合タンパク質は細菌内で産生されうる。大腸菌での産生がより速く、より費用効率が高い。発現後、リンカーペプチドは可溶性画分で大腸菌細胞ペーストから単離され、精製されうる。最終的な精製は、例えばCHO細胞において発現されたペプチドを精製するためのプロセスと同様に実施されうる。
【0079】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物が、リンカーペプチドをコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロマイセス・セレビシエは一般的に使用される下等真核生物宿主微生物である。他のものには、シゾサッカロミセス・ポンベ(Beach及びNurse, Nature, 290: 140 (1981);1985年5月2日公開の欧州特許出願公開第139383号);クリベロミセス属宿主(米国特許第4943529号;Fleer等, Bio/Technology, 9:968-975 (1991))、例えばK.ラクチス(MW98-8C、CBS683、CBS4574;Louvencourt等, J. Bacteriol., 154(2):737-742 (1983))、K.フラジリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィケラミイ(wickeramii)(ATCC24178)、K.ワルチイ(waltii)(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(drosophilarum)(ATCC36906;Van den Berg等, Bio/Technology, 8:135 (1990))、K.サーモトレランス(thermotolerans)、及びK.マルキシアヌス(marxianus);ヤロウイア属(欧州特許出願公開第402226号);ピキア・パストリス(欧州特許出願公開第183070号;Sreekrishna等, J. Basic Microbiol., 28:265-278 (1988));カンジダ属;トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許出願公開第244234号);アカパンカビ(Neurospora crassa)(Case等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:5259-5263 (1979)); シュワンニオマイセス属(Schwanniomyces)、例えばシュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)(1990年10月31日公開の欧州特許出願公開第394538号);及び糸状菌、例えばアカパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム属(1991年1月10日公開の国際公開第91/00357号)、及びアスペルギルス属宿主、例えばA.ニデュランス(Ballance等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 112:284-289 (1983);Tilburn等, Gene, 26:205-221 (1983);Yelton等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1470-1474 (1984))及びクロコウジカビ(Kelly及びHynes, EMBO J., 4:475-479 (1985))が含まれる。メチロトローフ酵母はここで適切であり、限定されるものではないが、ハンゼヌラ属、カンジダ属、クロエケラ属、ピキア属、サッカロミセス属、トルロプシス属、及びロドトルラ属からなる属から選択されるメタノール上で増殖可能な酵母が含まれる。このクラスの酵母の典型である特定の種のリストは、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269 (1982)に見出されうる。
【0080】
グリコシル化ペプチドの発現に適した宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例には、ショウジョウバエS2及びスポドプテラSf9などの昆虫細胞、並びに植物細胞、例えばワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ豆、ペチュニア、トマト、及びタバコの細胞培養物が含まれる。スポドプテラ・フルギペルダ(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)、及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の多数のバキュロウイルス株と変異株、及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクション用の様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変異株及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が公的に入手可能であり、そのようなウイルスは、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために、この開示に従ってここでのウイルスとして使用されうる。
【0081】
しかし、脊椎動物細胞への関心が最も高く、培養(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖は日常的な手順になっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胎児腎臓株(293又は293細胞で懸濁培養での増殖のためにサブクローン化されたもの、Graham等, J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB8065);マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝細胞癌株(Hep G2)である。
【0082】
宿主細胞は、ペプチドリンカー産生のための上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅させるために適切に変更された一般的な培養液で培養される。
【0083】
この開示のリンカーペプチドを産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地で培養されうる。 市販の培地、例えばハムF10(Sigma)、基礎培地((MEM),(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ変法イーグル培地((DMEM)、Sigma)などが宿主細胞の培養に適している。加えて、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979)、Barnes等, Anal. Biochem.102:255 (1980)、米国特許第4767704号;第4657866号;第4927762号;第4560655号;又は第5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された培地の任意のものが宿主細胞の培養培地として使用されうる。これらの培地の任意のものには必要に応じてホルモン及び/又は増殖因子(インスリン、トランスフェリン、又は上皮増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩など)、バッファー(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシンなど)、微量元素(通常、マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物として定義)、及びグルコース又は同等のエネルギー源が補充されうる。任意の他の必要なサプリメントもまた当業者に知られている適切な濃度で含められうる。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で過去に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。
【0084】
マイクロプレート分光蛍光光度計を使用して検出するのに十分な蛍光シグナルが、300nM程度の低さのこの開示のこれらのFRETコンストラクトによって生成されうる。蛍光シグナルの変化をリアルタイムで追跡して、FAP酵素活性を反映させることができる。リアルタイムモニタリングは、反応の進行に伴うシグナル変化を測定し、迅速なデータ収集と様々な条件下での反応速度に関する情報の生成を可能にする。FRET比の変化と切断度合いは、例えば、FRET比からの速度定数の単位を基質濃度へ相関させるために、HPLCアッセイなどの方法を使用して所定の分光蛍光計に対して相関させられうる。
【0085】
この開示の方法は高感度であり、結果として、環境試料中の微量のFAP酵素又はFAP酵素活性を直接検出するために使用することができる。従って、この開示は、環境試料を直接使用する毒素の検出及び同定のための方法を更に提供する。
【0086】
この開示は上述のインビトロ系を使用してFAPの阻害剤をスクリーニングするための方法を更に提供する。その高感度、迅速な読み出し、及び使い易さのため、この開示に基づくインビトロ系は、FAP阻害剤のスクリーニングにまた適している。具体的には、この開示のFRETコンストラクトは、候補阻害剤物質の存在下でFAPに曝露され、FRETシグナルの変化がモニターされて、候補がFAPの活性を阻害するかどうかが判定される。
【0087】
FAP酵素活性を検出するか又は推定阻害剤をスクリーニングするこれらの方法では、この開示のFRETコンストラクトが細胞内又は細胞の表面で発現され、ついで細胞がFAP酵素活性を含む疑いのある試料に曝露される細胞ベースの系が使用されうる。FRETシグナルの変化がついでFAP酵素活性の有無又は濃度の指標としてモニターされる。具体的には、FRETシグナルの増加が、試料にFAP酵素活性が含まれていることを示している。
【0088】
同様に、FRETコンストラクトを発現する細胞が、候補阻害剤物質の存在下でFAPに曝露され得、FRETシグナルの変化がモニターされて、候補がFAPの酵素活性を阻害するかどうかが判定される。
【0089】
これらの方法では、蛍光検出及び分析は、例えば、光子計数落射蛍光顕微鏡システム(適切な二色性ミラーと特定の範囲の蛍光発光をモニターするためのフィルターを含む)、光子計数光電子増倍管システム、又は蛍光光度計を使用して実行されうる。エネルギー移動を開始させるための励起は、アルゴンイオンレーザー、高強度水銀(Hg)アークランプ、光ファイバー光源、又は望ましい範囲での励起用に適切にフィルター処理された他の高強度光源を用いて実行されうる。検出感度を高めるために光電子増倍管手段を組み込むことにより、励起/検出手段を増強できることは当業者には明らかであろう。例えば、二光子相互相関法を使用して、単一分子スケールでの検出を達成することができる(例えば、Kohl等, Proc. Natl. Acad. Sci., 99:12161, 2002を参照のこと)。
【0090】
この開示はこの開示のFRETコンストラクトと担体を含む組成物をまた提供する。線維症又は線維症関連疾患又は障害を画像化し、診断し、及び/又は治療する目的に対して、これらの組成物は、そのような治療を必要とする患者に投与することができ、組成物はこの開示の一又は複数のFRETコンストラクトを含みうる。更なる実施態様では、これらの組成物は、他の治療薬と組み合わせてFRETコンストラクトを含みうる。従って、製剤は、薬学的に許容される担体を含む治療製剤である。
【0091】
この開示のFRETコンストラクトの薬学的製剤は、所望の純度を有するそのようなコンストラクトを一又は複数の任意成分の薬学的に許容される担体と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製されうる(Remington's Pharmaceutical Sciences 16版, Osol, A.編(1980))。そのような薬学的製剤は、FAP酵素活性を有する細胞又は組織の診断又は画像化のために対象に投与するのに有用である。薬学的に許容される担体は、一般に、用いられる用量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、限定されるものではないが、バッファー、例えばリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存料(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。ここでの例示的な薬学的に許容される担体には、組織内(insterstitial)薬物分散剤、例えば可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrHuPH20(HYLENEX(登録商標), Baxter International, Inc.)が更に含まれる。rHuPH20を含む所定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号及び第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの一又は複数の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0092】
この開示は、この開示の少なくとも一つのFRETコンストラクトを含むアッセイ装置、キット、及び製造品をまた提供する。製造品は、線維症又は線維症関連疾患又は障害の検出、画像化、診断、又は治療に有用な材料を含みうる。側方流アッセイ装置は、特に血液又は血清試料からの線維症のポイントオブケア検出及び/又は診断を提供する。製造品は、容器と、容器上又は容器に関連付けられたラベル又は添付文書を含む。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが含まれる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。容器には、線維症の検出、画像化、又は治療に有効な組成物が収容され、無菌のアクセスポートが備えられうる(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針で突き刺すことができるストッパーを備えたバイアルでありうる)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は、この開示のFRETコンストラクトである。ラベル又は添付文書は、組成物が線維症の検出又は治療に使用されることを示している。ラベル又は添付文書は、例えば、患者の検査又は治療において、組成物を使用するための指示書を更に含みうる。加えて、製造品は、静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液などの薬学的に許容されるバッファーを含む第二の容器を更に含みうる。それは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料を更に含みうる。
【0093】
様々な目的、例えば、線維性又は腫瘍細胞死滅アッセイ、精製、又は細胞からのFAP酵素の免疫沈降に有用なキットもまた提供される。FAPタンパク質の単離と精製では、キットには、ビーズ(例えば、セファロースビーズ)に結合したリンカーペプチドを含めることができる。インビトロでのFAP酵素の検出及び定量のために、この開示のFRETコンストラクトを含むキットを提供することができる。製造品の場合と同様に、キットは、容器と、容器上又は容器に関連付けられたラベル又は添付文書を含む。容器には、この開示の少なくとも一つのFRETコンストラクトを含む組成物が収容される。例えば、希釈剤及びバッファー、又は制御酵素又はペプチドコンストラクト又はFRETコンストラクトを含む追加の容器が含められてもよい。ラベル又は添付文書は、組成物の説明と、意図された診断、画像化、検出、又は治療的使用のための指示書を提供しうる。
【0094】
この開示のFRETコンストラクトはまたアッセイ装置の一部として提供されうる。そのようなアッセイ装置には側方流アッセイ装置が含められる。一般的なタイプの使い捨て側方流アッセイ装置は、液体試料を受け入れるためのゾーン又は領域、コンジュゲートゾーン、及び反応ゾーンを含む。これらのアッセイ装置は、一般的に側方流試験ストリップとして知られている。それらは、毛細管流を支えることができる流体流の経路を画成する、例えばニトロセルロースなどの多孔性材料を用いる。例としては、その全ての全体が出典明示によりここに援用される米国特許第5559041号、第5714389号、第5120643号、及び第6228660号に記載されているものが含まれる。この開示のリンカーペプチド又はオリゴペプチドは、一つの携帯型ポイントオブケア装置で試験されている対象又は患者からの単一の生体試料を使用する検出技術と併せて、側方流アッセイ装置においてまた使用されうる。
【0095】
別の種類のアッセイ装置は、毛細管流を誘導する突起を有する非多孔性アッセイ装置である。そのようなアッセイ装置の例には、PCT国際公報の国際公開第2003/103835号、国際公開第2005/089082号、国際公開第2005/118139号、及び国際公開第2006/137785号に開示されている開放側方流装置が含まれる。
【0096】
ここで提供されるFRETコンストラクトは、生体試料中のFAP酵素活性の存在を検出するのに有用でありうる。ここで使用される「検出する」という用語は、定量的又は定性的検出を包含する。所定の実施態様では、生体試料は、脳、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、骨格筋、皮膚、小腸、胃又は子宮からの細胞又は組織などの細胞又は組織を含み、これらの器官の細胞又は組織の腫瘍も含む。
【0097】
従って、本開示は、この開示の治療用組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の線維症又は線維症関連疾患又は障害を治療し、又は線維症の一又は複数の症状を緩和するのに有用な方法を提供する。治療用組成物は、医療専門家の指示に従って短期間(急性)又は慢性に、又は断続的に投与されうる。FAP酵素発現細胞の増殖を阻害し、死滅させる方法もまた提供される。
【0098】
診断又は検出の方法において使用するためのこの開示のFRETコンストラクトもまた想定される。更なる態様では、生体試料中のFAP酵素活性の存在を検出する方法が提供される。該方法は、リンカーペプチドのFAP酵素切断を許容する条件下で、ここに記載のこの開示のFRETコンストラクトと、場合により対照試料と、対象からの生体試料を接触させること、及びFRETコンストラクトにより放出される蛍光を検出することを含みうる。そのような方法は、インビトロ又はインビボ方法でありうる。一実施態様では、この開示のFRETコンストラクトは、抗線維症又は抗がん療法による治療に適格な対象を選択するために使用され、例えば、FAP酵素活性が患者の選択のためのバイオマーカーである。
【0099】
この開示のFRETコンストラクトを使用して診断されうる例示的な障害には、線維症、がん、及び所定の炎症状態など、FAPの発現又はFAP酵素活性に関連する障害が含まれる。一態様では、FAP酵素活性の検出を可能にするこの開示のFRETコンストラクトを含む有効量の診断薬を対象に投与することを含む、対象の疾患を診断する方法が提供される。
【0100】
この開示の例示的な診断方法は、哺乳動物対象から生体試料を得ること、試料の一部をこの開示のFRETコンストラクトと接触させ、試料に光を当て、FRETコンストラクトのFAP切断から生じる蛍光を検出することにより試料にFAP酵素活性が存在するかどうかを検出すること;及びFAP酵素活性に起因する蛍光が試料において検出されたときに、対象を線維症関連疾患又は障害を有すると診断することを含む。
【0101】
この開示のFRETコンストラクト又はFRETコンストラクトを含む薬学的製剤の何れも治療方法にまた使用されうる。この開示の例示的な治療方法は、ヒト対象から生体試料を得ること;試料の一部をこの開示のFRETコンストラクトと接触させ、試料に光を当て、FRETコンストラクトのFAP切断から生じる蛍光を検出することによりFAP酵素活性が試料中に存在するかどうかを検出すること、分子コンストラクトのFAP切断から生じる蛍光を線維症関連疾患又は障害におけるFAP酵素活性の参照レベルと比較することにより対象を線維症関連疾患又は障害と診断することであって、参照レベルと比較した試料中のFAP酵素活性の統計的に等しい又はより高いレベルが対象における線維症関連疾患又は障害を示すこと;及び診断された対象に効果的な治療剤を投与することを含む。これらの治療方法において使用するのに適した治療法には、二重特異性抗体及び/又は抗体薬物コンジュゲート(ADC)を含みうる、抗FAP酵素抗体などのFAP酵素活性の阻害剤の投与が含まれうる。
【0102】
この開示のFRETコンストラクトは、FAP発現、特に同じ細胞型の正常組織と比較したFAPの異常発現(例えば、細胞又は組織における過剰発現、又は異なるパターンの発現)によって特徴付けられる疾患の診断、画像化、又は治療に有用である。FAPは、同じ細胞型の非腫瘍組織と比較して、多くのヒト腫瘍において異常に発現(例えば、過剰発現)される。従って、この開示のFRETコンストラクトは、腫瘍の検出、画像化、及び治療に特に有用である。この開示のFRETコンストラクトを使用して、FAPを発現し、FAP酵素活性を有する、腫瘍組織を含む任意の組織を治療することができる。この開示のFAPコンストラクトを使用して診断され、ついで治療されうる特定の悪性腫瘍には、例えば、肺がん、結腸がん、胃がん、乳がん、頭頸部がん、皮膚がん、肝臓がん、腎臓がん、前立腺がん、膵臓がん、脳がん、骨格筋のがんが含まれる。
【0103】
この開示のFRETコンストラクトを使用して検出又は診断されうる線維症関連疾患又は障害には、線維性肝疾患、例えば非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、ウイルス性肝炎(肝炎ウイルス)、アルコール性肝疾患、脂肪性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、アルファ-1アンチトリプシン欠乏症、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、自己免疫性肝炎、及び肝硬変が含まれる。
【0104】
加えて、この開示のFRETコンストラクトを使用して検出又は診断されうる非肝線維性疾患には、慢性膵炎、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、放射線誘発肺損傷、心房線維症、心内膜心筋線維症、心筋梗塞、グリア性瘢痕、動脈硬直、関節線維症、クローン病、縦隔線維症、骨髄線維症、ペイロニー病、腎原性全身性線維症、進行性塊状線維症、後腹膜線維症、強皮症、全身性硬化症、関節リウマチ、変形性関節炎、アテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、線維筋痛症、シェーグレン症候群、抗リン脂質症候群、重症筋無力症、多発性硬化症、及び糸球体硬化症が含まれる。
【0105】
これらの線維症関連疾患又は障害には、2型糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群などのインスリン抵抗性関連疾患が含まれうる。
【0106】
線維症関連疾患又は障害は、肝細胞癌、膵管癌、腎癌、胃腸癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮内膜癌、膀胱癌、腎臓癌、又は甲状腺癌などの固形腫瘍でもありうる。
【0107】
これらの方法において、対象から採取された生体試料は、全血、血清、血漿、滑液、脳、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、骨格筋、皮膚、小腸、胃、又は子宮由来の細胞又は組織でありうる。
【0108】
イメージングのためにこの開示のFRETコンストラクトを使用する例示的な方法は、この開示のFRETコンストラクトを対象に投与し、インビボイメージングによって分子コンストラクトからの蛍光を検出することにより、対象におけるFAP発現組織を画像化することを含む。これらのイメージング法では、FRETコンストラクトは近赤外蛍光(NIRF)フルオロフォアを含みうる。これらの方法では、NIRFイメージング、蛍光反射イメージング(FRI)、蛍光媒介断層撮影(FMT)、又はそれらの任意の組み合わせを使用して、インビボイメージングが実施されうる。これらのイメージング技術において、FAP発現組織は固形腫瘍であり得、その方法は、インビボイメージング後に腫瘍を切除することを更に含みうる。同様に、FAP発現組織は器官内の線維性組織であり得、その方法は、インビボイメージング後に器官の腫瘍線維部分を切除することを更に含みうる。
【0109】
この開示の関連するイメージング方法では、対象にこの開示のFRETコンストラクトを投与し、エクスビボイメージングによりFRETコンストラクトからの蛍光を検出することにより、対象におけるFAP発現組織が画像化される。エクスビボイメージングは、対象から切除された組織の低解像度イメージングを含みうる。代替的又は追加的に、エクスビボイメージングは、対象からの組織切片のインサイチュザイモグラフィーを含みうる。
【0110】
別の態様では、医薬として使用するためのこの開示のFRETコンストラクトが提供される。更なる態様では、FAPの発現又はFAP酵素活性を特徴とする疾患の治療に使用するためのこの開示のFRETコンストラクトが提供される。治療方法で使用するためのこの開示のFRETコンストラクトもまた提供される。
【0111】
更なる態様では、この開示は、医薬の製造又は調製におけるこの開示のFRETコンストラクトの使用を提供する。医薬は、FAPの発現又はFAP酵素活性を特徴とする疾患の検出又は診断に使用されうる。
【0112】
本明細書において引用された全ての特許及び文献は、出典明示によりその全体がここに援用される。
【実施例】
【0113】
A.実験手順
これらの実施例において言及される市販試薬は、特に明記しない限り、製造業者の説明書に従って使用した。所定の試薬の供給源は以下に記載される。
【0114】
これらの実施例において言及されている組換えタンパク質-ヒトプロリルオリゴペプチダーゼ(PREP、4308-SE)、DPPIV(1180-SE)、DPP9(5419-SE)、及びDPPII/DPP7(3438-SE)タンパク質はR&D Systemsから購入した。ヒトDPP8(BML-SE527)タンパク質はEnzo Life Sciencesから購入した。細胞外ドメイン(それぞれ残基L26-D760及びL26-D761)を含むN末端オクタHisタグ付きヒト及びマウスFAPタンパク質は、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)と、続くサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、一過性にトランスフェクトされたCHO細胞の条件培地から精製した。
【0115】
これらの実施例で言及される阻害剤-FAP特異的阻害剤(S)-N-(2-シアノ-4,4-ジフルオロピロリジン-1-イル)-2-オキソエチル)-キノリン-4-カルボキサミド(化合物60又はcpd60)は、Jansen等(J Med Chem 57:3053-74)によって報告された実験手順に従って合成した。PREP特異的阻害剤KYP-2047は、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。
【0116】
インビボ研究-マウスは、特に示していない限り、通常の食餌(Labdiet5010)と水を自由に摂取させて、標準の12時間明/12時間暗サイクル下で21℃において病原体除去動物施設に維持した。Fap KOマウスの生成は以前に記載されている(Dunshee等 (2016) J Biol Chem 291:5986-96)。インビボでの薬理学的FAP阻害のために、C57BL/6バックグラウンドマウスに対照食餌(TD.00588, Envigo, Madison, WI)又は100ppmのcpd60を含む同じ食餌を自由に与えた。
【0117】
血漿と血清-マウス血漿試料をK3-EDTA MiniCollectチューブ(Greiner Bio-One, 450475)で調製し、分析前に-80℃で直ちに凍結した。ヒト血清試料は健康なドナーから入手したか、Discovery Life Sciences社(Los Osos, CA)から購入した。
【0118】
FAP ELISA-血清FAP濃度は、製造業者のプロトコルに従って、ヒトFAP DuoSet ELISAキット(R&D Systems, DY3715)を使用して測定した。
【0119】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)-消光アッセイ-アミン末端ドナー(HyLite Fluor488又はCy5.5(aP NIRFの場合))と、補足C末端リジンにコンジュゲートしたダーククエンチャーアクセプター(QXL520又はQSY21(aP NIRFの場合))を含め、C末端ヒトFGF21切断部位に隣接する領域のペプチド(VGPSQG)又はP2にD-アラニンを持つバリアント(VaPSQG)を合成した(Anaspec, Inc.)。
図1に示される残基配列を有する更なるペプチドを上記のように作製した。ANP
FAP( Bioconjugate Chem 23:1704-11)とaP NIRFは、CPC Scientific(Sunnyvale, CA)によって合成された。アッセイは、50mMのHEPES(pH7.2)、150mMのNaCl、1mMのEDTA、0.1mg/mlのBSA中37℃において実施した。切断されたペプチドの励起/発光波長は、ANP
FAP及びaP NIRFに対して490/520nm又は675/695nmである。蛍光を、キネティックモードでTecan M1000 Proプレートリーダーでモニターした。特に明記する場合を除いて、血清又は血漿FAP活性の測定は、アッセイバッファー中6μMのペプチド基質濃度及び血清又は血漿の10倍希釈で実施した。
【0120】
酵素速度-ミカエリスメンテン速度測定を、5nMのヒト又はマウスの組換えFAPを使用し、一連のペプチド基質タイトレーションで実施した。Tecan M1000 ProプレートリーダーのMagellanソフトウェアを使用して基質加水分解の初期速度を決定し、GraphPad Prismソフトウェアを用いた非線形回帰分析を使用して速度パラメーターをモデル化した。標準誤差は、3回の実験の反復から計算した。
【0121】
活性部位タイトレーション-強く結合するFAP阻害剤cpd60を、100nMのマウス又はヒト組換えFAPと6μMのGPを用いてGPペプチド切断反応に滴定した。ヒト及びマウスFAPエンドペプチダーゼ活性に対するcpd60のIC50は、以前に<0.5nMであると決定された(Dunshee等 (2016) J Biol Chem 291:5986-96)。Copeland(((2000) Enzymes : a practical introduction to structure, mechanism, and data analysis, 2版, J. Wiley, New York)に記載されているように、活性酵素濃度はx切片から決定した。
【0122】
統計-治療群を比較する統計分析に、独立スチューデントt検定(両側)を使用した。p値<0.05を統計的に有意であると考えた。特に記載がない限り、全ての値は平均値±SEMとして提示した。
【0123】
B.結果
[FGF21ベースの消光蛍光ペプチドは、FAP及びPREPによって切断される] 「GP」プローブと呼ばれる、ヒトFGF21のC末端付近でFAP切断部位を囲む6アミノ酸残基を含むペプチド(
図1)を、FAPエンドペプチダーゼ活性をモニターする目的で合成した。ペプチドには、FRETドナー(HyLite Fluor488)とダーククエンチャー(QXL520)が隣接している。デザインにより、クエンチャー色素がドナーフルオロフォアに近接しているため、蛍光強度が抑制され、プロテアーゼ触媒によるペプチドの切断により遊離される。対照として、グリシン(「GG」プローブ)又はマウスFGF21の相同領域(「EP」プローブ)によるP1プロリンの置換を含むバリアントペプチドをまた作製した。両対照プローブは、FAPベースの切断に必要なGly-Proコンセンサスを欠いているため、陰性対照となる(
図1)。これらの3つのペプチドを使用して、野生型(WT)、ヘテロ接合及びFap欠損(KO)マウスの血漿中のFAPエンドペプチダーゼ活性を評価した。我々は、以前、FAPがWTマウスの血漿中に存在し、ヘテロ接合体ではより少ない程度であり、KOマウスでは検出できないことを免疫ブロット分析で証明した(Dunshee等 (2016) J Biol Chem 291:5986-96)。GPプローブを使用した場合、WTマウスからの血漿は強いシグナルを発し、プローブの効率的な切断を示した(
図2A)。予想通り、Fapヘテロ接合マウスの血漿はWTマウスの血漿のおよそ半分の活性を示し、ホモ接合Fap KOマウスの血漿は更に低いが有意な活性を示した。GG及びEPプローブを使用してWTマウスからの血漿を試験した場合、それぞれシグナルは得られず、また非常に小さなシグナルが得られた。更に、精製された組換えマウスFAPタンパク質はGPを切断したが、GG又はEPプローブは切断しなかった(
図2A)。
【0124】
GPプローブを切断し、EPプローブをかなり少ない度合いで切断するがGGプローブはそうしないFap KOマウス血漿の能力は、血漿中における他のプロリン特異的エンドペプチダーゼの存在を示唆した。プロリルエンドペプチダーゼ(PREP)は主に細胞質酵素であるが、血漿中に様々なレベルで存在することが知られており、KO血漿による残基プローブ切断源の可能性が高い候補と思われた。実際、1nMの組換えヒトFAP又はPREPを試験した場合、両方の酵素が、変異体GGペプチドをインタクトのままにしながらGPペプチドを容易に切断した(
図2B)。GPプローブの切断におけるPREPの関与を更に調査するために、我々は、FAP選択的阻害剤であるcpd60(Dunshee等 (2016) J Biol Chem 291:5986-96)及びPREP選択的阻害剤KYP-2047(Venalainen等, (2000) Biochemical Pharmacology 71:683-92)を使用した。両方の阻害剤を、各酵素の選択的阻害をもたらす濃度で試験した(
図2C)。これらの阻害剤を使用して、我々は、Fap KO試料中の残基GPプローブ切断活性はKYPに感受性があるが、cpd60にはないことを見出した(
図2D)。同時に、WT又はヘテロ接合試料のGPプローブ活性は、cpd60に明らかに感受性があった。まとめると、我々は、FAPは血漿中のGPプローブの切断に関与する主要な酵素である一方、PREPはより少ないが有意な寄与があると結論付けた。
【0125】
[FAP切断速度に対するP
2 D-Ala置換の影響] FAPは以前、α2APベースのペプチド基質の位置P
2でコンセンサスグリシンのD-アラニンへの変化を許容することが示されているが、およそ8倍のk
catの減少のため、親ペプチドと比較してより弱い触媒効率が観察されている。FAP阻害剤に関して、この置換はPREPよりもFAPに特異性を与えることが報告されている(Poplawski等 (2013) J Med Chem 56, 3467-377)。我々のアッセイの特異性を高めるために、我々はこの置換をFGF21ベースのGPペプチドに組み込んで「aP」プローブを作製した(
図1)。診断目的で実用的に使用される活性プローブでは、この変化が酵素反応速度に大きな悪影響を与えないことが重要である。従って、我々は、ヒト及びマウス両方のFAPタンパク質を使用して、GP及びaPペプチド両方のミカエリスメンテン速度を比較した(
図3A、3B、及び3D)。
【0126】
興味深いことに、マウスFAPは、主にk
catの減少のため、ヒトFAPよりも低い触媒効率を示した(
図3A及び3B)。速度データだけでは、これがオルソログ間の生来の効率の違いなのか、それとも2つの製剤間の活性酵素濃度の違いによるのかは明らかではなかった。この問題に対処するために、強く結合する阻害剤cpd60を使用して、活性部位の滴定を実施した(
図3C)。我々は、マウスFAPの調製では、実際、活性酵素の相対濃度が高いことを見出し、その本質的に弱い触媒効率を確認した。従って、
図3Dに示される速度データは、実験的に決定された活性酵素濃度に対して補正される。K
m値は、親(GP)ペプチドとaPペプチドの間で本質的に変化せず、我々は、aP切断に対するk
catの予想される7から8倍の減少を観察した。
【0127】
[P
2 D-Ala置換はFAP特異性をもたらす] 速度データに勇気づけられ、我々は、PREP及び関連ペプチダーゼのパネルに対するaPプローブの特異性を試験することにした。1nMの酵素濃度を使用すると、ヒトFAPによるaPプローブの切断は明らかに検出可能であるが、GGプローブでは検出されない(
図4A)。対照的に、ヒトPREPは何れのプローブも消化できない。加えて、ヒトS9及びS28ペプチダーゼのより広範なセットは、aPプローブを切断する能力を示さなかった(
図4B)。これは、これらのプロリルジペプチジルペプチダーゼのエンドペプチダーゼ活性の一般的な欠如と一致している。
【0128】
FAPに対する別の内部消光FRETペプチド基質(ANPFAP)が報告されており、活性ベースのインビボイメージングツールとしての使用が実証されている(Li等 (2012) Bioconjugate Chem 23, 1704-1711)。ペプチド配列には、FAP切断の影響を受けやすい2つの内部Gly-Proジペプチドモチーフと、消光FRET対であるCy5.5/QSY21が含まれている。特異性を評価するために、著者等はFAP、DPPIV及びMMP-2によるインビトロでの切断についてANP
FAPを試験したが、FAPの存在下でのみ切断を検出した。GPプローブでの経験から、我々は、ANP
FAPのGly-ProモチーフもまたPREPによって認識されているのではないかと疑った。従って、ANP
FAPを合成し、組換えヒトFAP及びPREPによる切断について試験した(
図4C)。疑ったように、FAPとPREPの両方がインビトロでANP
FAPを効率的に切断する。現在、PREP又は他の非特異的プロリルエンドペプチダーゼ活性がインビボFAPイメージングの文脈でどれだけの責任を負うかは不明であるが、我々は、FRET対がインビボイメージングにより適した近赤外フルオロフォア(NIRF)に置き換えられると我々のaPプローブがその特異性とFAP切断性を保持するかどうかを調べることに興味があった。aPと同一の新しいペプチド(aP NIRF)を作製したが、FRETドナーとクエンチャーはそれぞれCy5.5とQSY21に置き換えた。ANP
FAPとは対照的に、我々は、PRAPではなくFAPがaP NIRFを効率的に切断することを見出した(
図4D)。
【0129】
最後に、幾つかの精製した組換え酵素を使用して特異性を実証したので、我々は、但しaPプローブを使用して、
図2AのようにWT及びFap KOマウス血漿の分析に戻った。予想通り、aPプローブはWT血漿で明確なシグナルを示し、ヘテロ接合血漿で中程度であり、満足のいくように、aPプローブはFap KO血漿試料では切断を示さない(
図4E)。更に、ヒト血清からのFAP免疫枯渇後にシグナルが失われるが、対照IgG免疫枯渇血清ではシグナルが失われない(
図4F)。
【0130】
[血中のFAP活性の分析におけるaPプローブの診断的有用性] 以前に、血清FAPレベルと活性が肝線維症と相関することが示されている。従って、我々は、aPプローブベースの蛍光アッセイによってこれらの知見を再現できるかどうかを決定することにした。我々は健康なボランティアと非ウイルス性肝硬変と診断された個体から血清試料を入手した。これら二群を比較したとき、我々はFAP活性(aPプローブを用いた蛍光強度アッセイによる)(
図5A及び5B)及びFAPレベル(一般的なサンドイッチELISAによる)(
図5A及び5C)の統計的に有意な増加を見出した。観察されたFAP活性はFAPタンパク質レベルとよく相関しており(R
2=0.76、p値<0.05)、活性アッセイを使用して、我々は63ng/mlという低いレベルを容易に検出することができた(
図5A)。
【0131】
我々は次に新しいaPベースのアッセイを使用して、インビボでのFAP阻害剤の薬力学的活性を決定できるかどうかを判断したいと考えた。これを行うために、我々は、FAP阻害剤cpd60を含む食餌又は阻害剤を含まない対照食餌をマウスに与えた(
図6)。FAP活性を、cpd60の給餌開始後4日目と7日目に単離された血漿において測定した。結果は、cpd60の給餌がマウスの循環FAP活性を完全に抑制できることを明らかに示した。従って、我々は、血漿中に潜在的に存在するPREP活性からの干渉なしに、aPベースのアッセイを使用してFAP阻害剤の薬力学を選択的に評価できると結論付ける。
【0132】
[組織内のFAP活性の分析におけるNIRFプローブの診断有用性]
組織FAP活性のイメージングのためのVaPSQG-NIRFプローブの有用性を、膵臓がんの遺伝子操作マウスモデルKrasLSL.G12D/wt;p16/p19fl/fl;Pdx1.Cre、又は略して「KPP」で研究した(Singh, M.等 Nat. Biotechnol. 28:585-593 (2010);Aguirre, A. J.等 Genes Dev. 17:3112-26 (2003))。KPPマウス系統は、超音波で検出可能な膵臓腫瘍を自然に発症することが示されている。同様のマウス系統(KrasLSL.G12D/wt;Tp53LSL.R172H/wt;Pdx1.Cre)は、膵腫瘍間質でFAPを発現することが示されている(Feig, C.等, Proc Natl Acad Sci USA. 110:20212-17 (2013))。VaPSQG-NIRFプローブは、CPC Scientific(Sunnyvale, CA)によって合成された。
【0133】
イメージング研究の前に、インビボ超音波スキャンに基づいて、腫瘍体積の異なる3匹のKPPマウス(9.3週齢)を選択した。加えて、3匹の健康なC57BL/6マウス(8.3週齢)をまた対照として研究した。150μLのPBSで希釈した1nmolのVaPSQG-NIRFプローブを麻酔下で尾静脈から各マウスに静脈内投与した。プローブ投与と安楽死の間に治療関連の有害作用は観察されなかった。4時間後、マウスを安楽死させ、膵臓組織を解剖した。解剖した組織をPBSですすぎ、ティッシュペーパーで乾燥させ、エクスビボNIRFイメージングのために黒い紙の上に置いた。CCDカメラ(Pearl Trilogy, Li-cor)を使用して近赤外画像を取得する。
【0134】
インビトロでのaP NIRFの特異性の検証に成功した後(
図4D)、エクスビボイメージングへのその潜在的な使用を調査した。この目的のために、我々は、膵臓腫瘍間質でFAPを発現するKPPマウス系統を使用し、健康なC57BL/6マウスを対照として含めた。各群からの3つの膵臓のエクスビボ画像を
図7Aに示すが、左パネルに肉眼形態を示し、右パネルにaP NIRFプローブイメージングシグナル強度のヒートマップ表示を示す。KPP群(下)は、健康な対照群に比べて膵臓が肥大しており、強い蛍光シグナルを示した。イメージング領域に正規化された相対蛍光強度の定量化(
図7B)は、KPP膵臓においてかなり大きな蛍光を示しており(P<0.05)、FAPのエクスビボイメージングにaP NIRFを成功裏に用いることができることを証明している。
【0135】
C.検討
これらのデータは、D-Ala-Proジペプチドを含むFGF21ペプチドに基づくこの開示の新しいFRETアッセイが幾つかの注目すべき進歩を提供することを証明している。何よりもまず、このアッセイは、関連S9プロテアーゼ、特にPREPを含む試料であっても、免疫捕獲や任意のその他の精製ステップなしで、血清又は血漿試料中のFAPエンドペプチダーゼ活性を測定することを可能にする。第二に、その厳密な特異性のため、FAPの活性アッセイは、少なくとも特定の用途に対して、より面倒なサンドイッチELISAの代わりになるであろう。実際、我々は、健康な個体と肝硬変患者の両方からのヒト血清試料において、FAP活性とFAPタンパク質レベルと間に非常に良好な相関関係を観察した(
図5)。これにより、FAP阻害剤を含まない試料中のFAPレベルの測定に関心のある研究者の時間とコストが節約できる。最後に、aPプローブは、何か特別な方法を使用することなく、一般的に使用される蛍光色素とアミノ酸から合成することができる。これは、カスタム合成の依頼を通じてペプチドプローブ供給業者にプローブを注文できることを意味する。これにより、この開示の新しいアッセイ方法の利用可能性、実用性、及び有用性が向上する。
【0136】
新しいアッセイの実用的な応用として、我々は、FAP選択的阻害剤cpd60をインビボで使用して、マウスの循環FAPの活性を持続的な形で抑制できることを実証した。我々は、ボーラス経口投与によってカニクイザルでこの化合物を以前に試験し、この化合物の循環からの迅速なクリアランスと一致して、FAP関連活性の一過性の減少を達成した(Dunshee等 (2016) J Biol Chem 291:5986-96)。従って、この研究では、我々は、cpd60を含む食餌をマウスに与える戦略を試験し、aPプローブを使用して結果として生じる薬力学を追跡した。その結果、cpd60がマウスのFAP活性を検出できないレベルまで抑制したことが示された。残留PREP活性の影響なしにFAP活性の変化をモニターするaPプローブの能力により、我々はcpd60が試験した用量でFAPを完全に抑制できることを実証できた。この食餌ベースのアプローチにより、α2APやFGF21などのエンドペプチド性基質を調節するFAPの役割、並びにFAPが関与している疾患におけるその役割の前臨床調査が容易になる。
【0137】
結論として、我々は、FAPのエンドペプチダーゼ活性についてのユニークでアクセス可能で、特異的な均質アッセイを開発した。ここで開示されるアッセイは、FAP生物学の前臨床調査と、将来のFAP阻害剤又はFAP局在性抗腫瘍療法の臨床開発を促進するであろう。
【0138】
本開示は、この開示の個々の態様の単一の例示として意図されるここに記載の特定の実施態様によって範囲が限定されるものではなく、機能的に等価な方法及び構成要素はこの開示の範囲内である。実際、ここに示され説明されたものに加えて、この開示の様々な変形態様が、前述の説明及び添付図面から当業者には明らかになるであろう。そのような変形態様は特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【配列表】