(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】カルコンから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 35/04 20060101AFI20220209BHJP
A01N 43/10 20060101ALI20220209BHJP
A01P 5/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
A01N35/04
A01N43/10 C
A01P5/00
(21)【出願番号】P 2019559703
(86)(22)【出願日】2017-11-21
(86)【国際出願番号】 IB2017057288
(87)【国際公開番号】W WO2018203117
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】201741015450
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】519336768
【氏名又は名称】テルリス バイオテック インディア プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カルデロン - ウレア、アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】アッター、サイード
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】Saeed Attar et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2011年,Vol.19, No.6,p.2055-2073
【文献】Pierluigi Carboni et al.,Pest Management Science,2016年,Vol.72,No.1,p.125-130
【文献】Jose A. Gonzalez et al.,Journal of Agricultural and Food Chemistry,Vol.46, No.3,p.1163-1165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む線虫を防除するための組成物:
a)有効量の式2の化合物
【化1】
10
-2~10
-3Mの濃度で100%の抗線虫効果を有する;及び
b)有効量の式1の化合物
【化2】
式中、
環Aは
【化3】
であり
10
-2~10
-3Mの濃度で100%の抗線虫効果を有する
ここで、
前記式1の化合物と前記式2の化合物との比率は1:1であり、
前記組成物は10
-4~10
-6Mの濃度で100%の相乗的抗線虫効果を有し、
前記組成物は土壌微生物に対して低い活性を有する。
【請求項2】
少なくとも1つの増量剤、乳化剤及び/又は界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの農薬活性化合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
農薬活性化合物が、
殺菌剤、殺細菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、軟体動物駆除剤、薬害軽減剤、植物生育調節剤、植物栄養剤及び生物学的防除剤
から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
10
-4~10
-6Mの
濃度で農業上の目的に有用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
式1の化合物が式3で表される化合物である、請求項1に記載の組成物。
【化4】
【請求項7】
式1の化合物が式4で表される化合物である、請求項1に記載の組成物。
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圃場で植物寄生虫、特に線虫を死滅させるために用いられる組成物である殺線虫剤に関する。より具体的には、本発明は殺線虫特性及び静線虫(nematostatic)特性を有するカルコンの組合せから構成される殺線虫剤の、相乗的な作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
線虫は、収量に大きな損失をもたらし、それによって経済に大きな影響を及ぼすため、農業にとって大きな脅威である。線虫は、トマト、ウリ科植物、ジャガイモなどの野菜類、柑橘類、ココナッツ、グアバ、ブドウ及びザクロなどの果実類、米及び小麦などの食用穀物、綿及びタバコなどの商業的に重要な作物、ガーベラ及びバラなどの観賞用花卉に深刻な被害をもたらすことが知られている昆虫類に次いで多い。線虫は、単独で、又は他の土壌微生物と組み合わさって、根、茎、葉、果実及び種子を含む植物のほぼすべての部分を攻撃することが分かっている。それらは、世界中で12.3%(1570億ドル)の推定される収量損失を引き起こし、そのうち4,030万ドルがインドから報告されている(Singhら、2015)。
【0003】
メロイドギネ(Meloidogyne)属に属するネコブセンチュウは、園芸作物及び農作物に寄生する植物寄生線虫の3つの最も経済的に損害をもたらす属のうちの1つである。ネコブセンチュウは数種の植物の根に寄生する偏性寄生生物である。メロイドギネ・インコグニタ(Meloidogyne incognita)は世界中で主要な害虫である。
【0004】
殺線虫剤とは、これらの植物寄生線虫を死滅させるために使用される組成物である。使用される殺線虫剤の大部分は、ヒトに対して極めて毒性が高く、有用な土壌細菌にも有害である化学組成物である。また、一部の殺線虫剤は地下水を汚染し、オゾン層の減少を引き起こすことが示されている。公知の殺線虫剤の1つである臭化メチルは、米国及びインドを含む数カ国で禁止されている。農作物に広く使用されている別の極めて毒性の高い殺線虫剤がカルボフランであり、カルボフランは、鳥及びミツバチに有害な影響を与えるため、数カ国で段階的に廃止されている。ホラートなどの殺線虫剤は、土壌を容易に通過して地下水に入り、地下水を汚染する。
【0005】
化学殺線虫剤に関連する深刻な欠点は、線虫を防除するための新たな技術の開発を必要とする。そのような方法の1つが、線虫に対する耐性のためのトランスジェニック遺伝子を発現するトランスジェニック植物系統を作製することである。しかし、これは時間と費用のかかる方法であり、広範囲な事前の研究活動を必要とする。多くの国では、トランスジェニック系統の導入は激しく反対されている。
【0006】
1つの効果的な方法には、環境的に安全で、毒性がなく、生成及び使用が容易な殺線虫剤の組成物を生成することが挙げられる。
【0007】
カルコン又はカルコノイドは、芳香族ケトン及びエノンから構成される中心コアを有する天然に存在する化合物の群であり、親化合物(2E)-1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オンの誘導体である。カルコン及びそれらの誘導体は、広域スペクトルの生物学的活性を有する分子である。カルコンは、抗レトロウイルス特性、抗炎症特性、抗寄生虫特性、抗マラリア特性、抗真菌特性、抗原虫特性、抗細菌特性及び抗腫瘍特性を有することが知られている。いくつかの種類のカルコンは、様々な双子葉植物及び単子葉植物、シダ植物ならびに裸子植物に天然に存在することが知られている。カルコン及びカルコン様構造は多くの植物に天然に存在するため、環境に優しい。いくつかの生物学的活性とのそれらの関連は、農業にそれらを使用する可能性を大幅に増大させる。
【0008】
カルコン、(2E)-1,3-ジフェニルプロプ-2-エン-1-オンは、化学式C
15H
12Oを有し、他のカルコンは、一般に、式Xの構造を有するこの親化合物の誘導体である。
【化1】
カルコン構造は環A及び環Bの2つの芳香環から構成され、この2つの芳香環は、3つの炭素のα,β-不飽和カルボニル系によって結合されている。環A又は環Bに結合したいくつかの種類の化学基を有する少なくとも30種の天然カルコンが知られている。
【0009】
表1は、基本構造が式Xに示されるものである30種のカルコン、カルコン1からカルコン30の構造を示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0010】
Attarらは、カルコンが殺線虫活性を有することが知られていることを示しているが、個々のカルコンの効果は大きく異なり、様々な濃度で5%の低い殺線虫活性から100%の高い殺線虫活性まで変動する。さらに、カルコンの効果は、非寄生性モデルの線虫、カエノラブディティス-エレガンス(Caenorhabditis elegans)に対してのみ試験された。個々のカルコンの活性は、10-2Mを超える濃度で認められた。毒性、土壌汚染、地下水への浸透、及び他の関連する問題のために、最小の阻害効果を得るための高濃度の化合物の使用は極めて限られたものとなる。
【0011】
カルコンの群は、構造式1としてまとめて表すことができる。
【化2】
【0012】
カルコン17は、化学名(2E)-1-(2,4-ジクロロフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オンと、式2に示す式とを有する。
【化3】
【0013】
カルコン25は、化学名(2E)-1-(4-エトキシフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オンと、式3に示す式とを有する。
【化4】
【0014】
カルコン30は、化学名(2E)-3-フェニル-1-(2-チエニル)-2-プロペン-1-オンと、式4に示す式とを有する。
【化5】
【0015】
カルコン17、カルコン25及びカルコン30は、実験室条件下で10-4Mの濃度でC.エレガンスに対して個々に殺線虫活性を示した。しかし、圃場でのネコブセンチュウ、及び被処理植物の生長に対するそれらの効果は不明である。一般に、殺線虫剤の大部分は植物の生長に悪影響を及ぼし、植物の健全な生長に必要とされる重要な土壌細菌にも有害である。最新技術で知られているように、カルコンの使用は、経済的側面、毒性濃度、ならびに植物の生長及び環境に対する悪影響に限定されない独自の課題を有する。
【0016】
本発明は、先行技術の欠点を考慮し、極めて低濃度のカルコンの組合せから構成される組成物を使用して線虫を防除し、実用上それらを環境的に安全にする方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の主な目的は、殺線虫剤の相乗作用組成物を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、カルコンの組合せを含む相乗作用殺線虫組成物を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、カルコンの濃度が10-4~10-6Mの範囲にある相乗作用殺線虫組成物を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、10-4~10-6Mの範囲のカルコンの濃度がネコブセンチュウに対して殺線虫活性を示すのに十分である相乗作用殺線虫組成物を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、有益な土壌微生物に有害ではない相乗作用殺線虫組成物を提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、ネコブセンチュウの個体数を制御することに加えて、植物に対して植物強壮効果(phytotonic effect)を示す相乗作用殺線虫組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、植物寄生虫、特に線虫を防除するために農業目的で使用される殺線虫剤の組成物に関する。さらに具体的には、本発明は、カルコンの組合せを含む殺線虫剤の相乗作用組成物に関する。
【0024】
主な実施形態では、本発明は、カルコン又はカルコノイドと呼ばれる化合物の群に属し、親化合物1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オンの誘導体であるカルコンの組合せから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物を提供する。さらに具体的には、本発明は、少なくとも2つのカルコンの組合せから構成される殺線虫剤の組成物を提供し、この組合せは、
1.カルコン17{(2E)-1-(2,4-ジクロロフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン}、及びカルコン25{(2E)-1-(4-エトキシフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン
又は
2.カルコン17{(2E)-1-(2,4-ジクロロフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン}、及びカルコン30{(2E)-3-フェニル-1-(2-チエニル)-2-プロペン-1-オン}から構成され、
ここで、
カルコンの比率は1:1であり、
カルコンは、構造式1を有する化合物(2E)-1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オンの誘導体である。
【化6】
【0025】
カルコンは殺線虫活性を示すことが知られているが、それらの大部分は10-2Mという高い濃度で活性を示す。さらに、個々のカルコンに線虫を曝露しても、線虫を麻痺させるのに24~30時間かかり、線虫を死滅させるのに最低5日かかる。本発明は、10-4~10-6Mという低い濃度で効果的な殺線虫活性を示すカルコンの組合せの相乗作用組成物を提供し、線虫に対する麻痺効果は2時間以内に見られ、線虫は24時間以内に死滅させられる。
【0026】
さらに別の実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物を提供し、カルコンから構成される殺線虫剤を植物1株当たり5~40mgの濃度で植物に使用すると、土壌中の線虫に対して殺線虫作用及び静線虫作用を示し、被処理植物の根に対する線虫誘発虫えい形成の数を制限する上で著しく効果的である。したがって、少なくとも2つのカルコンの相乗的組合せは、強力で極めて経済的な殺線虫組成物として作用する。
【0027】
本発明の方法は、以下の図面を参照することにより完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】96ウェルプレートの実験における線虫に対するカルコン17とカルコン25との組合せの効果のグラフ表示である。
【
図2】96ウェルプレートの実験における線虫に対するカルコン17とカルコン30との組合せの効果のグラフ表示である。
【
図3】未処理植物と比較した被処理植物の10日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図4】未処理植物と比較した被処理植物の21日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図5】未処理植物と比較した被処理植物の35日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図6】未処理植物と比較した被処理植物の10日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図7】未処理植物と比較した被処理植物の21日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図8】未処理植物と比較した被処理植物の35日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図9】未処理植物と比較した被処理植物の10日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図10】未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図11】未処理植物と比較した被処理植物の35日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図12】未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図13】未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
【
図14】未処理植物と比較した被処理植物の35日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図15】それぞれの殺線虫剤による14日間の処理後(試料1)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図16】それぞれの殺線虫剤による14日間の処理後(試料2)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図17】それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料1)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図18】それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料2)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図19】それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料3)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【
図20】25日間の第1の処理に続いて25日目に第2の処理を行った後のキュウリ植物の根に対する虫えい形成の程度、及び20日間の第2の処理後、すなわち45日目のキュウリ植物の根に対する虫えい形成の程度に対する、表3に示す化学的又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、多くの異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、本実施形態は、本開示が徹底的なものとなり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0030】
本明細書で使用される用語「殺線虫剤」は、殺線虫活性及び/又は静線虫活性を有する化合物又は化合物の組合せを指す。
【0031】
本明細書で使用される用語「植物強壮効果」は、入力/プロセスが使用される直接効果以外の、被処理植物又は被処理作物の生長及び発達に対して特定の化合物又は化合物の組合せを使用することによって示される追加の有益な利点を指す。
【0032】
本発明は、特にネコブセンチュウに対して殺線虫活性を有する活性化合物から構成され、被処理作物に対して植物強壮効果を示す相乗作用組成物に関する。さらに具体的には、本発明は、カルコンの組合せから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物に関する。カルコンの相乗的組合せは独特であり、殺線虫組成物として極めて強力であり、他の既存の線虫防除法と比較して経済的である。カルコンは個々に殺線虫活性を示すが、少なくとも2つのカルコンの組合せは効果を高め、相乗効果をもたらし、殺線虫活性に必要なカルコンの量を大幅に削減するため、組成物の製造コストが削減される。追加の利点として、カルコンの相乗作用組成物は、被処理作物に対する植物強壮効果を有し、少なくとも苗条及び葉の長さ、ならびに作物が生じる花及び果実の数が改善される。
【0033】
本発明は、式2の化合物の有効量と
【化7】
(10
-2~10
-3Mの濃度で100%の抗線虫効果を有する)、式1の化合物の有効量とを含む
【化8】
(式中、
環Aは
【化9】
である)
(10
-2~10
-3Mの濃度で100%の抗線虫効果を有する)、線虫を防除するための相乗作用組成物に関し、
ここで、
式1と式2との比率は1:1であり、
組成物は、10
-4~10
-6Mの濃度で100%の相乗的抗線虫効果を有し、
組成物は、土壌微生物に対して低い活性を有する。
【0034】
本発明の主な実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤組成物を提供し、上記殺線虫剤組成物は、
1.カルコン17{(2E)-1-(2,4-ジクロロフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン}、及びカルコン25{(2E)-1-(4-エトキシフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン
又は
2.カルコン17{(2E)-1-(2,4-ジクロロフェニル)-3-フェニル-2-プロペン-1-オン}、及びカルコン30{(2E)-3-フェニル-1-(2-チエニル)-2-プロペン-1-オン}から構成される、少なくとも2つのカルコンの相乗的組合せであり、
選択されたカルコンの比率は1:1であり、
カルコンは、構造式1を有する化合物(2E)-1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オンの誘導体である。
【化10】
【0035】
カルコンは個々に、最大3日間にわたり10-2~10-3Mという高い濃度で100%の殺線虫活性を示した。カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30とを特定の組合せで含む提案された組成物では、1日以内に10-4~10-6Mの濃度で100%の殺線虫活性が認められる。カルコンは個々では、線虫を麻痺させるのに約24~30時間かかり(静線虫活性)、線虫を死滅させるのに72~12時間かかるが(殺線虫活性)、カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30との相乗的組合せでは、2時間以内に線虫を麻痺させ、24時間以内に線虫を死滅させる。したがって、提案されたカルコンの組合せは、強力な静線虫組成物及び殺線虫組成物として作用する。強力な静線虫特性を有する殺線虫組成物は、組成物が極めて早い段階で寄生虫に作用することを可能にする非常に望ましい特徴である。したがって、提案された殺線虫剤の相乗作用組成物は、著しく高い静線虫特性を有し、極めて経済的である。
【0036】
殺線虫組成物は、少なくとも1つの増量剤、乳化剤及び/又は界面活性剤をさらに含む。
【0037】
殺線虫組成物は、植物を処理することができる物質、殺菌剤、殺細菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、軟体動物駆除剤、薬害軽減剤、植物生育調節剤、植物栄養剤及び生物学的防除剤などの農薬活性化合物を含む。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤の組成物を有利に提供し、カルコンは殺線虫特性及び静線虫特性を示すが、他の有益な土壌微生物に対して深刻な影響を示さない。さらに具体的には、カルコンは10-4~10-6Mの濃度で100%の殺線虫活性を示したが、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)及びバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)などの土壌微生物に対しては著しく低い活性を示した。
【0039】
さらに別の実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物を有利に提供し、カルコンから構成される殺線虫剤を使用すると、作物の生長又は生産性を制限することなく、被処理作物に対する植物強壮効果が示され、事実、被処理作物の全体的な生産性が改善された。カルコンから構成される殺線虫剤の上記組成物を植物1株当たり5~40mgの濃度で適用しても、苗条の生長、葉の長さ、ならびに作物が生じる花及び果実の数を含め、植物の全体的な生長又は生産性に悪影響を及ぼさない。
【0040】
さらに別の実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物を提供し、カルコンから構成される殺線虫剤を植物に対して使用すると、土壌中の植物寄生線虫に対して著しい殺線虫効果及び/又は静線虫効果が示される。カルコンから構成される殺線虫剤の上記組成物を植物1株当たり5~40mgの濃度で適用したところ、土壌中の線虫の約95%を死滅させ、生きている線虫に損傷を与えたのに加えて、新たな幼若線虫は観察されなかった。カルコンから構成される殺線虫剤は、化学殺線虫剤カルボフラン、及び生物学的殺線虫剤ヘテロラブディティス・インディカ(Heterorhabditis indica)(昆虫病原性線虫)、及び殺線虫性真菌パエシロミセス・リラシナス(Paecilomyces lilacinus)よりも著しく効果的であった。
【0041】
さらに別の実施形態では、本発明は、カルコンから構成される殺線虫剤の相乗作用組成物を有利に提供し、カルコンから構成される殺線虫剤を植物に対して使用すると、線虫によって誘発される虫えいの生長及び数が著しく制限された。未処理植物、ならびに他の公知の殺線虫剤、例えば、化学殺線虫剤カルボフラン、及び生物学的殺線虫剤、昆虫病原性線虫ヘテロラブディティス・インディカ、及びパエシロミセス・リラシナスによって処理された植物と比較して、被処理植物の根の虫えい形成は極めて少なかった。
【0042】
本発明の別の実施形態では、殺線虫組成物は、多部位作用(multisite action)を示すことができる化合物、例えば、ボルドー液、カプタホール、カプタン、クロロタロニル、水酸化銅、ナフテン酸銅、酸化銅、塩基性塩化銅、硫酸銅(2+)、ジクロフルアニド、ジチアノン、ドジン、ドジン遊離塩基、フェルバム、フルオロフォルペット、フォルペット、グアザチン、グアザチンアセタート(guazatine acetate)、イミノクタジン、イミノクタジンアルベシラート(iminoctadine albesilate)、イミノクタジントリアセタート、マンカッパー(mancopper)、マンコゼブ(mancozeb)、マネブ、メチラム、メチラム亜鉛、オキシン銅、プロパミジン、プロピネブ、硫黄及び硫黄剤、例えば、多硫化カルシウム、チウラム、トリルフルアニド、ジネブ及びジラムをさらに含む。
【0043】
本発明の別の実施形態では、殺線虫組成物は、宿主防御を誘発することができる化合物、例えば、アシベンゾラル-5-メチル、イソチアニル、プロベナゾール及びチアジニルをさらに含む。
【0044】
本発明の別の実施形態では、殺線虫組成物は、脂質及び膜合成の阻害剤、例えば、ビフェニル、クロロネブ、ジクロラン、エディフェンホス、エトリジアゾール、ヨードカルブ(iodocarb)、イプロベンホス、イソプロチオラン、プロパモカルブ、プロパモカルブ塩酸塩、プロチオカルブ、ピラゾホス、キントゼン、テクナゼン及びトルクロホス-メチルをさらに含む。
【0045】
本発明の活性化合物の組合せと殺線虫組成物とは、少なくとも1つの他の追加成分、例えば、補助剤、溶媒、担体又は支持体、充填剤、界面活性剤又は増量剤をさらに含んでもよく、これらはいずれも農学的に許容される。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の活性化合物の組合せと殺線虫組成物とは、補助剤、溶媒、担体、界面活性剤及び/又は増量剤をさらに含む。
【0046】
本発明によれば、用語「支持体」又は「担体」は、植物又は植物部分又は種子に適用するために、優れた適用性のために活性化合物と混合されるか組み合わせられる天然又は合成、有機又は無機物質を含む。支持体又は担体は、固体でも液体でもよく、一般に不活性であり、農業に使用するのに適しているべきである。好適な固体又は液体の担体/支持体には、例えば、アンモニウム塩、及び粉砕天然鉱物、例えば、カオリン、クレー、タルク、チョーク、石英、アタパルガイト、モンモリロナイト又は珪藻土、及び粉砕合成鉱物、例えば、微粉砕シリカ、アルミナ、及び天然又は合成シリカート、樹脂、ワックス、固体肥料、水、アルコール、特にブタノール、有機溶媒、鉱油及び植物油、ならびにそれらの誘導体が挙げられる。そのような支持体又は担体の混合物を使用することも可能である。粒剤に適した固体支持体/担体には、例えば、粉砕及び分別天然鉱物、例えば、方解石、大理石、軽石、海泡石、白雲石、ならびに無機及び有機ミールの合成顆粒、さらに有機材料の顆粒、例えば、おが屑、ヤシ殻、トウモロコシ穂軸及びタバコ茎が挙げられる。好適な液化ガス増量剤又は担体には、周囲温度及び大気圧下で気体である液体、例えば、ブタン、プロパン、窒素及び二酸化炭素などのエアロゾル噴射剤が挙げられる。カルボキシメチルセルロースなどの粘着付与剤、及び粉末、顆粒及びラテックスの形態の天然及び合成ポリマー、例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、又は天然リン脂質、例えば、セファリン及びレシチン、及び合成リン脂質などを製剤に使用することができる。他の存在し得る添加物には、場合により改質された鉱物油及び植物油ならびにワックスが挙げられる。使用する増量剤が水である場合、例えば、補助溶媒として有機溶媒を使用することもできる。好適な液体溶媒は、本質的に、芳香族化合物、例えば、キシレン、トルエン又はアルキルナフタレン、塩素化芳香族化合物又は塩素化脂肪族炭化水素、例えば、クロロベンゼン、クロロエチレン又は塩化メチレン、脂肪族炭化水素、例えば、シクロヘキサン又はパラフィン、例えば、鉱油留分、鉱油及び植物油、アルコール、例えば、ブタノール又はグリコール、さらにそれらのエーテル及びエステル、ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はシクロヘキサノン、強極性溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド、さらに水である。
【0047】
本発明のさらに別の実施形態では、組成物は、イオン性又は非イオン性の乳化剤、分散剤もしくは湿潤剤又はそのような界面活性剤の混合物を含む「界面活性剤」をさらに含む。例えば、ポリアクリル酸塩、リグノスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩又はナフタレンスルホン酸塩、エチレンオキシドと脂肪アルコール又は脂肪酸又は脂肪アミンとの重縮合物、置換フェノール(特にアルキルフェノール又はアリールフェノール)、スルホコハク酸エステルの塩、タウリン誘導体(特にアルキルタウラート)、ポリオキシエチル化アルコール又はフェノールのリン酸エステル、ポリオールの脂肪酸エステル、ならびにサルファート、スルホナート及びホスファート官能基を含有する上記化合物の誘導体について言及することができる。好ましくは、界面活性剤含有量は、組成物の5重量%から40重量%の間で構成され得る。
【0048】
追加成分、例えば、保護コロイド、接着剤、増粘剤、チキソトロープ剤、浸透剤、安定剤、金属イオン封鎖剤が含まれてもよい。さらに一般に、活性物質は、通常の製剤化技術に準拠する任意の固体又は液体添加物と組み合わせることができる。
【0049】
一般に、本発明による組成物は、0.05~99重量%の活性物質、好ましくは10~70重量%の活性物質を含有してもよい。
【0050】
本発明による殺線虫組成物は、エアロゾルディスペンサー、カプセル懸濁液、コールド・フォギング(cold fogging)濃縮物、散粉性粉剤、乳化性濃縮物、水中油乳剤、油中水乳剤、カプセル化顆粒、微細顆粒、種子処理用フロアブル濃縮物、気体(圧力下)、気体発生製品、顆粒、ホット・フォギング(hot fogging)濃縮物、マクロ顆粒、ミクロ顆粒、油分散性粉末、油混和性流動性濃縮物、油混和性液体、ペースト、植物小棒(plant rodlet)、乾燥種子処理用粉末、殺虫剤により被覆した種子、可溶性濃縮物、可溶性粉末、種子処理用溶液、懸濁液濃縮物(流動性濃縮物)、超低容量(ulv)液体、超低容量(ulv)懸濁液、水分散性顆粒又は錠剤、スラリー処理用水分散性粉末、水溶性顆粒又は錠剤、種子処理用水溶性粉末及び水和剤などの様々な形態で使用することができる。
【0051】
これらの組成物は、スプレー又は散布装置などの好適な装置によって処理される植物又は種子に適用される準備のできた組成物だけでなく、作物に適用される前に希釈されなければならない濃縮された市販組成物も含む。
【0052】
例1
手順方法
A)M.インコグニタの伝播
トマト植物にM.インコグニタ幼虫を接種し、生長チャンバー内で維持した。少なくとも2カ月後、実験のために根からM.インコグニタの卵を抽出した。M.インコグニタの卵を抽出する手順を以下に説明する。
【0053】
根組織は、外科用ブレードと時計皿とを用いて手で切り刻むか、フードプロセッサを用いて切り刻んだ。次いで、切り刻んだ組織を瓶に入れ、10%希釈の漂白剤を用いて洗浄した。次いで、滅菌条件下で、篩(上部に60番手の篩、底部に500番手の篩)を通して根の溶液を注いだ。500番手の篩の底部から粗卵収集物を収集し、15mLのファルコンチューブに漂白剤及び卵混合物をそれぞれ5mL入れた。次いで、5mLの70%スクロース溶液を各ファルコンチューブに入れた。次いで、各ファルコンチューブ内のスクロース混合物の上に、滅菌二重蒸留水の1mL層を穏やかに置いた。試料を1200rpmで5分間遠心分離した。各ファルコンチューブから未使用の15mLのファルコンチューブに、スクロース溶液と1mLの水層との間に懸濁させた胚を合計3mL(溶液3mLの上層)採取した。10mLの5%漂白剤溶液を加え、卵を10分間ボルテックスした。次いで、ファルコンチューブを2000rpmで5分間遠心分離した。次いで、上清を除去し、卵を滅菌二重蒸留水10mLですすぎ、2000rpmで5分間再遠心した。このプロセスを2回以上繰り返した。最後の洗浄後、5mLの上清を除去し、残りの5mLの水を卵と混合し、5mLのペトリ皿に入れた。次いで、卵を25~27℃のインキュベーターに入れ、約10日後に幼若虫(J2期)を孵化させた。虫体は、保存のために25~27℃のインキュベーター内で保管した。
【0054】
B)試験溶液の調製及び線虫の配置
試験対象のカルコンを1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、1mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えて10-1M溶液を作成した。滅菌二重蒸留水でさらに希釈するために(10-4M~10-5M)、この原液を使用した。例えば、10-1MカルコンのDMSO溶液10μLを9990μLの滅菌二重蒸留水に加えて、線虫を用いたアッセイ用に10-4M溶液を作成した。100μLの水希釈液を96ウェルプレートの30ウェルにピペットで注入し、抽出したJ2のM.インコグニタのストックから1匹の虫体を各ウェルに移した。陰性対照については、DMSOの濃度が線虫を死滅させないことを確認するために、各実験について滅菌二重蒸留水中の1% DMSO100μL中に30匹の虫体を入れた(過去の研究では、C.エレガンス寄生虫はこの濃度のDMSOでも生存することができることが示されている(Attarら、2011)。
【0055】
C)線虫の監視
ペプチド及びカルコンが寄生虫を死滅させる能力(死亡率(%))を試験するために、バイオアッセイをデザインする。各ウェルに1匹の線虫を含む96ウェルプレートを用いて各試験を行った(合計30ウェル)。線虫を処理溶液中で5日間インキュベートした。線虫の生存性は、プローブによる撹乱後の動きをそれぞれ調べることにより、解剖顕微鏡下で試験した。
【0056】
例2
殺線虫組成物の効果
前述のように、96ウェルプレート中の様々な処理溶液中で同数の線虫を5日間インキュベートした。5日目に死亡した又は生存している線虫の数を数えた。実験の結果を
図1に要約する。
図1は、96ウェルプレート中の線虫に対する、カルコン17及びカルコン25から構成される組合せの処理効果を示すグラフを示す。
図2は、96ウェルプレート中の線虫に対する、カルコン17及びカルコン30から構成される組合せの処理効果を示すグラフを示す。
【0057】
図1及び
図2に示すように、J2期の幼若線虫を水中又は1%DMSO中でインキュベートすると、5日目に10%未満の線虫が死亡し、これらの処理は陰性対照として機能した。それに対して、クロルピリホス及びイミダクロプリドから構成される化学混合物(1:1の比率)中で幼若線虫をインキュベートすると、5日目に約50%が死亡し、これは陽性対照として機能した。カルコン17、又はカルコン25、又はカルコン30単独による幼若線虫の処理は、5日目までに約10
-4~10
-5Mの濃度で80~85%の死亡を引き起こした。それに対して、カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30との組合せを用いて幼若線虫を処理すると、5日目までに線虫のほぼ100%が死亡し、カルコンの総濃度は10
-4~10
-5Mであり、カルコンの比率は1:1であった。実際、カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30との組合せを適用すると、それ自体で3日間で線虫のほぼ100%が死亡した。96ウェルプレートの実験では、10
-4Mの用量でカルコン17とカルコン25(TA)とを組み合わせて適用すれば、線虫を100%死滅させるのに十分である。96ウェルプレートの実験では、10
-4M及び10
-5Mの用量でカルコン17とカルコン30(TB)とを組み合わせて適用すれば、線虫を100%死滅させるのに十分である。
【0058】
これらの結果は、カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30のカルコンとの組合せが、10-4~10-5Mという低い濃度で線虫を死滅させる相乗効果を有し、殺線虫組成物として極めて強力であることを示唆する。
【0059】
これは、カルコン17とカルコン25(TA)、カルコン17とカルコン30(TB)とのカルコンの組合せが、線虫を死滅させるのに極めて強力であることを明確に示している。
【0060】
例3
一般的な微生物に対するカルコンの効果
個々のカルコンの効果について、2つの一般的な土壌微生物(シュードモナス・エルジノーサ及びバチルス・スブチリス)と、2つの一般的な実験微生物(エシェリキア・コリ及びサッカロマイセス・セレビシエ)とを試験した。10
-4、10
-5又は10
-6Mの濃度のカルコンを含有する栄養寒天プレート上で微生物を増殖させ、栄養寒天プレート中で24~48時間増殖させた後、コロニー形成単位(CFU)を計数した。
【表2】
【0061】
カルコン17は、試験した2つの土壌微生物(P.エルジノーサ、B.スブチリス)の増殖を制限するが、E.コリ及びS.セレビシエの増殖は制限しないように思われた(表1)。一方、カルコン25は、P.エルジノーサの増殖を促進し、B.スブチリスの増殖を制限し、E.コリ及びS.セレビシエの増殖に影響を及ぼさないように思われた。
【0062】
全体として、個々のカルコンでは、寄生線虫に対する効果と比較して、他の微生物に対する効果は限定的であった。
【0063】
例4
植物の生長に対するカルコン17と25、又はカルコン17と30との組合せの効果
温室内のほぼ4500株のキュウリ作物を使用して、未処理植物、ならびに陽性対照であるカルボフラン(公知であり、広く使用されている化学殺線虫剤)、Nema power(生物学的殺線虫剤-昆虫寄生性線虫(EPN)、ヘテロラブディティス・インディカ)及び殺線虫性真菌パエシロミセス・リラシナスにより処理した植物と比較して、植物全体の生長に対するカルコンの組合せの効果を試験した。土壌タイプは赤色砂質土壌であった。
【0064】
以下の化学溶液を使用して、表3に示すように、植物全体の生長に対する各化学物質又は化学物質の組合せの効果を試験した。
【表3】
【0065】
簡単な解釈のために、
UTCとは未処理対照の植物であり、
TAとは、カルコン17とカルコン25との組合せであり、
TBとはカルコン17とカルコン30との組合せである。
【0066】
植物に対する化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果を試験し、10日目、21日目及び35日目にデータを収集した。以下の例は、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の10日目、21日目及び35日目の効果の代表的なデータを示している。
【0067】
A)苗条の長さに対する効果
図3は、未処理植物と比較した被処理植物の10日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示である。
図3に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ組成物(TB50)を適用すると、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物(対照-UTC)と比較した場合、TB50では、苗条の長さに32%の増加が観察された。
【0068】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ組成物(TA150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TA150被処理植物では、苗条の長さに21%の増加が観察された。
【0069】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養生長に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0070】
図4は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
図4に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)を適用すると、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TB50では、苗条の長さに34%の増加が観察された。
【0071】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TA150被処理植物では、苗条の長さに34%の増加が観察された。
【0072】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養効果に対して同等の有益な効果を有しなかった。
【0073】
図5は、未処理植物と比較した被処理植物の35日目の苗条の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
図5に示すように、植物1株当たり10mgの用量でのカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)の適用。TB50は植物の栄養生長を維持する上で高い効果を示した。未処理植物と比較した場合、TB50では、苗条の長さに36%の増加が観察された。
【0074】
同様に、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB150被処理植物では、苗条の長さに34%の増加が観察された。
【0075】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0076】
B)葉の長さに対する効果
図6は、未処理植物と比較した被処理植物の10日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0077】
図6に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TA50では、葉の長さに30%の増加が観察された。
【0078】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TA150被処理植物では、葉の長さに30%の増加が観察された。
【0079】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0080】
図7は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0081】
図7に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TA50では、葉の長さに39%の増加が観察された。
【0082】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB150被処理植物では、葉の長さに30%の増加が観察された。
【0083】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0084】
図8は、未処理植物と比較した被処理植物の35日目の葉の長さに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0085】
図8に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)を適用すると、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TB50では、葉の長さに30%の増加が観察された。
【0086】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA150)を適用しても、植物の栄養生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB150被処理植物では、苗条の長さに30%の増加が観察された。
【0087】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の栄養効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0088】
C)発生した花の数に対する効果
図9は、未処理植物と比較した被処理植物の10日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0089】
図9に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TA50では、花の数に200%の増加が観察された。
【0090】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB150)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB150被処理植物では、花の数に189%の増加が観察された。
【0091】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0092】
図10は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0093】
図10に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TA50では、花の数に187%の増加が観察された。
【0094】
同様に、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB50被処理植物では、花の数に121%の増加が観察された。
【0095】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0096】
図11は、未処理植物と比較した被処理植物の35日目の発生した花の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0097】
図11に示すように、植物1株当たり10mgの用量でのカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)の適用。TBは植物の生殖生長を維持する上で高い効果を示した。未処理植物と比較した場合、TB50では、花の数に112%の増加が観察された。
【0098】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0099】
D)発生した果実の数に対する効果
図12は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0100】
図12に示すように、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB150)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TB150では、果実の数に131%の増加が観察された。
【0101】
同様に、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン25(TA150)とを適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TA150被処理植物では、果実の数に120%の増加が観察された。
【0102】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0103】
図13は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0104】
図13に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TA50では、果実の数に187%の増加が観察された。
【0105】
同様に、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TB50被処理植物では、果実の数に121%の増加が観察された。
【0106】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【0107】
図14は、未処理植物と比較した被処理植物の21日目の発生した果実の数に対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0108】
図14に示すように、植物1株当たり20mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB100)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較した場合、TB150では、果実の数に135%の増加が観察された。
【0109】
同様に、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、植物の生殖生長を維持する上で高い効果が示された。未処理植物と比較して、TA50被処理植物では、果実の数に90%の増加が観察された。
【0110】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を示さなかった。
【表4】
【0111】
表4に示すように、カルコン17とカルコン25、又はカルコン17とカルコン30との組合せは、被処理植物の全体の生長にほとんど影響を及ぼさないが、植物を未処理のままにするか、他の殺線虫剤を用いて処理すると、植物の生長に対して著しい負の影響が示された。
【0112】
例5
土壌中のネコブセンチュウに対するカルコン17と25、又はカルコン17と30との組合せの効果
図15は、それぞれの殺線虫剤による14日間の処理後(試料1)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0113】
図16は、それぞれの殺線虫剤による14日間の処理後(試料2)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0114】
図15及び
図16に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すれば、土壌中の線虫を約95%死滅させるのに十分である。幼若線虫は観察されなかった。また、生きている線虫に損傷を与えた。それに対して、その20g又は30mgの用量では、効果が著しく低下する。これにより、カルコン17とカルコン25との組合せの最適な作業用量が植物1株当たり10mgであることが示唆された。
【0115】
同様に、植物1株当たり20mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB100)を適用すれば、土壌中の線虫を約95%死滅させるのに十分である。また、線虫はいずれも静線虫状態(nematostasis)を示した。それに対して、10mg又は30mgの用量では比較的効果が低下したが、植物1株当たり30mgの用量では、観察された線虫はいずれも静線虫であり、損傷が与えられ、麻痺していた。これにより、カルコン17とカルコン30との組合せの最適な作業用量が植物1株当たり20mgであることが示唆された。
【0116】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、高用量であっても土壌中の線虫に対して顕著な効果を示さなかった。
【0117】
これは、カルコン17とカルコン25、及びカルコン17とカルコン30とのカルコンの組合せが、土壌中の線虫の極めて強力な殺傷剤であることを明確に示している。
【0118】
図17は、それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料1)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0119】
図18は、それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料2)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0120】
図19は、それぞれの殺線虫剤による19日間の処理後(試料3)の土壌中のネコブセンチュウに対する、表3に示す化学物質又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0121】
図17、
図18及び
図19に示すように、植物1株当たり10mgの用量でカルコン17とカルコン25との組合せ(TA50)を適用すると、処理の19日後に土壌中の少数の線虫を死滅させ、それを維持する上で高い効果が示された。
【0122】
同様に、植物1株当たり20又は30mgの用量でカルコン17とカルコン30との組合せ(TB100及びTB150)を適用すると、土壌中の少数の線虫を死滅させ、それを維持する上で高い効果が示された。
【0123】
化学的陽性対照のカルボフラン、又は生物学的陽性対照のEPN及びパエシロミセス・リラシナスは、植物の生殖効果に対して同等の有益な効果を有しない。
【0124】
例6
寄生された植物の根の虫えい形成に対するカルコン17と25、又はカルコン17と30との組合せの効果
虫えいとは、虫えいを誘発する生物に反応する植物の異常な生長活性のために形成される構造である。同様に、ネコブセンチュウは、寄生した植物の根に対して、そのような虫えい形成を誘発する。寄生の時間が長くなると、虫えいの数が増える。
【0125】
寄生された植物の根の虫えい形成に対する化学物質及び生物学的殺線虫剤の効果を試験した。キュウリ植物にそれぞれの殺線虫剤を染み込ませるか、未処理のままにして(対照)、1日目及び処理の25日後に、虫えいが形成された植物の根の数を数えた。25日目に、同じ植物に対してそれぞれの殺線虫剤による2回目の処理を行った。各植物について45日目に、虫えいが形成された植物の根の数を数えた。
【0126】
表5は、温室内のキュウリ植物の根の虫えい形成に対する化学的又は生物学的殺線虫剤の全体的な効果を示している。1~5の根の虫えい指標を示す。
1=虫えいなし、
2=1~25%、
3=26~50%、
4=51~75%、及び
5=>75%の根に虫えいが形成された。
【表5】
【0127】
図20は、25日間の第1の処理に続いて25日目に第2の処理を行った後のキュウリ植物の根に対する虫えい形成の程度、及び20日間の第2の処理後、すなわち45日目のキュウリ植物の根に対する虫えい形成の程度に対する、表3に示す化学的又は生物学的殺線虫剤の効果のグラフ表示を示す。
【0128】
図20に示すように、植物1株当たり30mgの用量でカルコン17とカルコン25とを組み合わせ(TA100)、カルコン17とカルコン30とを組み合わせると(TB100)、キュウリ植物の根の虫えい形成を制御する上で高い効果が示された。ただし、TB100の組合せの方が高い効果を示した。
【0129】
同様に、トマト植物に対する様々なカルコンの効果を試験した。トマト植物は鉢で生長させ、温室内で維持した。この実験で使用されたカルコンの濃度は10-4Mであった。カルコン処理植物の虫えいの採点は、他の処理では平均4であるのと比較して、平均で2~3であった。