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特許7022233背面層用樹脂組成物及び感熱転写記録材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】背面層用樹脂組成物及び感熱転写記録材料
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/40 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
B41M5/40 340
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021040462
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2021-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】名村 実公賢
(72)【発明者】
【氏名】川口 健
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基昭
【審査官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-213883(JP,A)
【文献】特開平11-335424(JP,A)
【文献】特開平11-335423(JP,A)
【文献】特開平04-278391(JP,A)
【文献】特開昭64-001586(JP,A)
【文献】特開2019-177667(JP,A)
【文献】特開2006-306017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/382 - 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの一方の面に設けられた感熱転写記録層と、他方の面に設けられた背面層とを有してなる感熱転写記録材料の、前記背面層の形成に用いる樹脂組成物であって、
皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aと、樹脂Bと、架橋剤Cとを有してなり、
前記樹脂Aは、ポリシロキサン成分を5~55質量%の範囲で含み、
前記樹脂Bは、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有し、且つ、ガラス転移点(Tg)が100℃未満である、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、カプロラクトンポリオール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、エポキシポリオール及びシリコーンポリオールからなる群から選択される少なくともいずれかであり、
前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記架橋剤Cの合計を100質量%としたとき、前記樹脂Aを1~79質量%、前記樹脂Bを1~79質量%、前記架橋剤Cを20~80質量%、の範囲内で含んでなることを特徴とする背面層用樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂Bは、水酸基価(OHv)が22~900mgKOH/gのものである請求項1に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂Bが、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリエーテルポリオールからなる群から選択される少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂Bは、分子量が200~100000のものである請求項1~3のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂Aが、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物(a)と、イソシアネート化合物(b)と、ポリオール及び/又はポリアミン(c)を形成成分としてなる反応物、或いは、イソシアネート化合物(b)と、ポリシロキサンポリオール及び/又はポリシロキサンポリアミン(c’)を形成成分としてなる反応物を有してなり、これらの反応物は、全活性水素含有基とイソシアネート基とを、NCO/活性水素含有基=0.9~1.2のモル比で反応させて得られたものであり、且つ、数平均分子量が、2000~500000である1~4のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項6】
前記架橋剤Cがポリイソシアネートであり、該架橋剤のイソシアネート基と、前記樹脂Bのもつ活性水素含有基との比が、NCO/活性水素含有基=0.3~30であるように、ポリイソシアネートを配合してなる請求項1~5のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項7】
前記架橋剤Cが、カルボジイミド架橋剤又はオキサゾリン架橋剤を含んでなる請求項1~6のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂Aと前記樹脂Bとを含む混合液と、前記架橋剤Cを含む液の2液型であるか、前記樹脂Aを含む液と、前記樹脂Bを含む液と、前記架橋剤Cを含む液の3液型である請求項1~7のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物。
【請求項9】
基材シートの一方の面に設けられた感熱転写記録層と、他方の面に設けられた背面層とを有してなる感熱転写記録材料の製造方法であって、前記背面層は、請求項1~8のいずれか1項に記載の背面層用樹脂組成物を、前記基材シートの前記他方の面に塗工して形成した皮膜であることを特徴とする感熱転写記録材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面層用樹脂組成物及び感熱転写記録材料に関する。詳しくは、サーマルヘッドの高温化にも対応できる、高い耐熱滑性を示し、耐久性にも優れる背面層の形成を可能にできる背面層用樹脂組成物を提供することで、優れた感熱転写記録を可能にできる感熱転写記録材料を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマル記録方式で使用される感熱転写記録材料の背面層(耐熱滑性層)は、例えば、インクリボンではバックコート層と呼ばれている。背面層は、印画時のサーマルヘッドに対する耐熱滑性付与を主目的に設けられている。近年、印画画質の向上、印画スピードの向上、印画物の耐久性向上などの要望が強まり、これら要望を解決する手段として、サーマルヘッドの温度を高温化する処方が採用されている。サーマルヘッドの高温化は、より優れた感熱転写記録を可能にするものの、その場合に使用される背面層には、「耐熱性(スティッキング防止性)」、「サーマルヘッドへのダメージ軽減(カス低減)」及び「移行性の低減(低移行性)」などについて、より高い性能の実現が求められる。
【0003】
従来から、背面層を形成するための樹脂組成物について検討されており、種々の提案もされている。サーマルヘッドの高温化に対し、本願出願人は、特許文献1で、皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aと、耐熱性高分子Bとを特定の比率で用い、さらに、背面層の耐熱性を十分なものにするために、耐熱性高分子Bとしてガラス転移温度が100℃以上のもの、好ましくは140℃以上のものを用いることを提案している。皮膜形成成分を上記のように構成することで、サーマルヘッド高温化に対応した高耐熱滑性の背面層を有する感熱記録材の提供が可能になる。
【0004】
特許文献2では、耐熱滑性層を、シリコーン変性樹脂を熱架橋剤で熱硬化させ、且つ、フィラー成分を添加することでフィラーの脱落をなくし、カス付着を低減することが提案されている。そして、高エネルギー印画に十分対応可能な熱転写シートを提供するとしている。
【0005】
特許文献3には、反応性基を含む熱可塑性樹脂と、反応性基を有するシリコーン変性樹脂化合物とイソシアネート化合物との反応生成物を主成分とし、滑剤として有機樹脂微粒子を含む熱硬化被膜で構成された耐熱滑性層が提案されている。そして、該耐熱滑性層は、硬化被膜(架橋被膜)を用いることで十分な耐熱性が得られ、滑剤としてシリコーン変性樹脂化合物と有機樹脂微粒子を用いることで十分な走行性とサーマルヘッドの表面保護層の傷つき防止が図れ、さらに、ベース樹脂と相溶性のよいシリコーン変性樹脂化合物を用いているので均一な塗工膜を容易に得ることができるとしている。
【0006】
特許文献4では、ヒドロキシル基含有樹脂、熱可塑性樹脂、滑剤及び架橋剤を用いて構成された滑性耐熱層において、熱可塑性樹脂にガラス転移温度が70℃以上のものを用いること、ヒドロキシル基含有樹脂と架橋剤との反応により架橋構造を形成すること、滑剤にポリシロキサン構造を有する共重合体を用いることが提案されている。そして、該滑性耐熱層は、記録画像に微細な細線やドロップアウトを発生せず、十分な滑性特性により記録ヘッドとの走行安定性が優れ、高温度高湿度条件下に巻回保存後も色材層と滑性耐熱層との融着が無く、滑性特性の低下も小さく良好な保存特性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-116035号公報
【文献】特開2006-306017号公報
【文献】特開平6-79978号公報
【文献】特許第3505995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来技術では、サーマルヘッドの背面層の形成には、耐熱滑性付与を主目的として、皮膜形成成分にポリシロキサン変性の樹脂を使用することが提案されており、広く利用もされている。また、近年のサーマルヘッドの高温化に対応するために要望される優れた背面層の形成を目的として、皮膜形成成分に、ガラス転移温度が高い耐熱性高分子を利用することや、反応性基を有する樹脂とイソシアネート化合物などの架橋剤との反応生成物を利用することで、耐熱性の向上、フィラーや滑剤の脱落の抑制を図ることなどが提案されている。
【0009】
例えば、先述したように、本願出願人は、背面層用樹脂組成物について、皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aと、耐熱性高分子Bとを特定の比率で用い、さらに、背面層の耐熱性を十分なものにするため、耐熱性高分子Bとしてガラス転移温度(Tg)が100℃以上のもの、好ましくは140℃以上のものを用いることを提案している。
【0010】
本発明者らの検討によれば、ポリシロキサン変性の樹脂は、背面層に耐熱滑性を付与する材料として極めて有用であるものの、耐熱性を高めるためにシリコーンの含有量を上げると(共重合体であっても)、未反応のシリコーンモノーマがブリードすることがあり、移行性の悪化が避けられなかった。このため、シリコーンの含有量を多くして耐熱性を高めることには、要望される「低移行性」との兼ね合いで制限があった。
【0011】
これに対し、出願人が提供した前記技術によれば、耐熱性に優れ、背面層からの移行による印画画質の低下が抑制されるなどの、優れた性能の背面層を有する感熱転写記録材が提供される。しかし、本発明者らのさらなる検討の結果、下記の点で改善する余地があることがわかった。この従来技術では、皮膜形成成分として、ポリシロキサン変性の樹脂に高Tgの樹脂を併用しているが、この高Tgの樹脂が固いため削れ易く、サーマルヘッドに粉状のカスが付着してヘッド汚染が生じる場合があった。この問題を抑制した構成の背面層の形成を実現できれば、前記従来技術に比べて、感熱転写記録材(インクリボン)の耐久性や、サーマルヘッドの耐汚染性をより高めることが可能になる。
【0012】
したがって、本発明の目的は、サーマルヘッドの高温化に対し、感熱転写記録材の背面層が、スティッキング(熱融着)が防止されて走行にも問題がなく、より耐熱性に優れ、密着性にも優れ、また、サーマルヘッドに粉状のカスが付着するといったヘッド汚染が抑制されて、サーマルヘッドへのダメージ軽減(カス低減)が実現でき、また、シリコーンの含有量を多くしたとしても、シリコーンモノーマなどの背面層の形成材料がブリード(移行)することが抑制されて「シリコーンの低移行性」が実現できる、耐久性に優れる背面層用樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、上記した、サーマルヘッドの高温化に対応できるレベルの、より優れた性能の背面層の形成が可能な背面層用樹脂組成物の提供を実現することで、近年の、印画画質の向上、印画スピードの向上、印画物の耐久性向上などの要望を満足した感熱転写記録を可能にできる感熱転写記録材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の背面層用樹脂組成物を提供する。
[1]基材シートの一方の面に設けられた感熱記録層と、他方の面に設けられた背面層とを有してなる感熱転写記録材料の、前記背面層の形成に用いる樹脂組成物であって、皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aと、樹脂Bと、架橋剤Cとを有してなり、前記樹脂Aは、ポリシロキサン成分を5~55質量%の範囲で含み、前記樹脂Bは、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有し、且つ、ガラス転移点(Tg)が100℃未満であり、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記架橋剤Cの合計を100質量%としたとき、前記樹脂Aを1~79質量%、前記樹脂Bを1~79質量%、前記架橋剤Cを20~80質量%、の範囲内で含んでなることを特徴とする背面層用樹脂組成物。
【0014】
上記の背面層用樹脂組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2]前記樹脂Bは、水酸基価(OHv)が22~900mgKOH/gである上記[1]に記載の背面層用樹脂組成物。
[3]前記樹脂Bが、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、カプロラクトンポリオール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、アクリルポリオール、エポキシポリオール及びシリコーンポリオールからなる群から選択される少なくともいずれかである上記[1]又は[2]に記載の背面層用樹脂組成物。
[4]前記樹脂Bは、分子量が200~100000のものである上記[1]~[3]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物。
【0015】
[5]前記樹脂Aが、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物(a)と、イソシアネート化合物(b)と、ポリオール及び/又はポリアミン(c)を形成成分としてなる反応物、或いは、イソシアネート化合物(b)と、ポリシロキサンポリオール及び/又はポリシロキサンポリアミン(c’)を形成成分としてなる反応物を有してなり、これらの反応物は、全活性水素含有基とイソシアネート基とを、NCO/活性水素含有基=0.9~1.2のモル比で反応させて得られたものであり、且つ、数平均分子量が、2000~500000である上記[1]~[4]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物。
【0016】
[6]前記架橋剤Cがポリイソシアネートであり、該架橋剤のイソシアネート基と、前記樹脂Bのもつ活性水素含有基との比が、NCO/活性水素含有基=0.3~30であるように、ポリイソシアネートを配合してなる上記[1]~[5]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物。
[7]架橋剤Cが、カルボジイミド架橋剤又はオキサゾリン架橋剤を含んでなる上記[1]~[6]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物。
【0017】
[8]前記樹脂Aと前記樹脂Bとを含む混合液と、前記架橋剤Cを含む液の2液型であるか、前記樹脂Aを含む液と、前記樹脂Bを含む液と、前記架橋剤Cを含む液の3液型である上記[1]~[7]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物。
【0018】
本発明は、別の実施形態として下記の感熱転写記録材料を提供する。
[9]基材シートの一方の面に設けられた感熱記録層と、他方の面に設けられた背面層とを有してなる感熱転写記録材料であって、前記背面層が、上記[1]~[8]のいずれかに記載の背面層用樹脂組成物で形成されてなることを特徴とする感熱転写記録材料。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明によれば、感熱転写記録材を構成する背面層を、サーマルヘッドの高温化に対応できるレベルで、スティッキング(熱融着)が防止されて走行にも問題がなく、より耐熱性に優れ、密着性にも優れ、また、サーマルヘッドに粉状のカスが付着するといったことが抑制されて、サーマルヘッドへのダメージ軽減(カス低減)が実現でき、背面層を形成する材料中のポリシロキサン量が多くても、シリコーンが他の部材に移行することが抑制された、耐久性に優れるより高い性能を実現した背面層にできる背面層用樹脂組成物の提供が可能になる。また、本発明によれば、上記した優れた性能の背面層の形成が可能な背面層用樹脂組成物の提供を実現することで、近年の、印画画質の向上、印画スピードの向上、印画物の耐久性向上などの要望を満足した感熱転写記録を可能にできる感熱転写記録材を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明の背面層用樹脂組成物は、皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aと、樹脂Bと、架橋剤Cとを有してなり、前記樹脂Aは、ポリシロキサン成分を5~55質量%の範囲で含み、前記樹脂Bは、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有し、且つ、ガラス転移点(Tg)が100℃未満であり、さらに、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記架橋剤Cの合計を100質量%としたとき、前記樹脂Aを1~79質量%、前記樹脂Bを1~79質量%、前記架橋剤Cを20~80質量%、の範囲内で含んでなることを特徴とする。
【0021】
上記した本発明の背面層用樹脂組成物を構成する各材料について説明する。
〔シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂A〕
本発明で用いる樹脂Aは、構造中のシロキサン結合によって滑性を有し、耐熱滑性が必要な感熱転写記録材における背面層用材料として有用であり、数々の実績がある。しかし、先に述べたように、耐熱性を高めるためにシリコーンの含有量を上げると(共重合体であっても)、未反応のシリコーンモノーマがブリードすることがあり、移行性の悪化が避けられなかった。これに対し、本発明では、背面層における高い耐熱滑性の実現を目的として、皮膜形成成分のシリコーンの含有量を上げるため、樹脂Aに、ポリシロキサン成分を5~55質量%の範囲で含むものを用いる。好ましくは7~55質量%、より好ましくは20~50質量%であるものを用いる。
【0022】
本発明者らの検討によれば、このようなポリシロキサン成分の含有率の高い樹脂Aを用いる構成としたことで、本発明では、皮膜形成成分中のポリシロキサン成分の含有量を、1.9~8.5質量%、より好ましくは3~8質量%の、高い含有率でポリシロキサン成分を含有した構成とすることができる。本発明者らの検討によれば、皮膜形成成分中のポリシロキサン成分の含有量が8.5質量%を超える場合は、低移行性の効果が、安定して十分に得られないことがあるので好ましくない。また、皮膜形成成分中のポリシロキサン成分の含有量が1.9質量%に満たない場合は、背面層を形成した場合に十分な耐熱滑性を有するものにならないので好ましくない。
【0023】
本発明者らは、本発明において、皮膜形成成分中のポリシロキサン成分の含有濃度が高くても、形成した背面層におけるシリコーンの移行を低減することができたのは、下記の理由によると考えている。すなわち、皮膜形成成分に、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aを用い、該樹脂Aに、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有する樹脂Bと、架橋剤Cを併用させたことで、これらのA、B、Cが反応して、具体的には、BとCが反応、場合によってはAとCが反応するなどで、強固な膜となって、シリコーン成分のブリードアウトを効果的に防止できためと考えられる。併用する樹脂B及び架橋剤Cについては、後述する。
【0024】
本願の出願人は既に、近年要望されている、より高温のサーマルヘッドを使用して印字を行う場合に求められる、より高い耐熱滑性層の形成を可能にできる皮膜形成成分の構成として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂に、ガラス転移点(Tg)が100℃以上、好ましくは140℃以上である耐熱性高分子を組合わせることを提案している。先述したように、本発明は、ガラス転移点(Tg)が高い樹脂との併用では、樹脂が硬いため削れやすく、サーマルヘッドに粉状のカスが付着する場合がある点を改善することを目的の一つとしており、この点を、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aとしてポリシロキサン成分の含有率の高い材料を用いる一方、該樹脂Aに併用する成分を工夫することで解決している。このため、本発明を構成する樹脂Aは、ポリシロキサン成分を5~55質量%の範囲で含むものであればよく、基本的には、上記した従来技術で用いるシロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂と同様の構造のものをいずれも使用できる。したがって、本発明で規定するポリシロキサン成分の含有量を満たせば、特開2011-116035号公報に記載されているいずれのシロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂についても、本発明の樹脂Aとして使用することができる。
【0025】
樹脂Aとしては、例えば、下記のような構成のものを好適に用いることができる。分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物(a)と、イソシアネート化合物(b)と、ポリオール及び/又はポリアミン(c)を形成成分としてなる反応物、或いは、イソシアネート化合物(b)と、ポリシロキサンポリオール及び/又はポリシロキサンポリアミン(c’)を形成成分としてなる反応物を有してなり、これらの反応物は、全活性水素含有基とイソシアネート基とを、NCO/活性水素含有基=0.9~1.2のモル比で反応させて得られたものであり、且つ、数平均分子量が、2000~500000であるものが挙げられる。例えば、数平均分子量が、9000~200000であるものなどが好適である。なお、本発明で使用する樹脂Aは、前記した特開2011-116035号公報に記載されている合成方法で得ることができる。
【0026】
本発明において、ウレタン(ウレア)とは、ポリウレタン、ポリウレア及びポリウレタン-ポリウレアの総称である。また、上記における活性水素含有基とは、イソシアネート基と反応性のある、水酸基、メルカプト基、カルボキシ基またはアミノ基などの活性水素を有する基をいう。
【0027】
〔分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有する樹脂B〕
先に記載したように、本発明では、本発明の目的を達成するため、皮膜形成成分を、上記した構成のシロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂Aに、分子内に少なくとも1個の活性水素含有基を有する樹脂Bと、架橋剤Cとを併用させた構成としたことで、より優れた性能の背面層の形成を可能にしている。まず、本発明を特徴づける樹脂Bについて説明する。
【0028】
本発明を構成する樹脂Bとしては、例えば、水酸基価(OHv)が22~900mgKOH/gであるものが好適である。さらに、水酸基価(OHv)が30~700mgKOH/gであるものを用いることがより好ましい。また、樹脂Bの分子量としては、重合単位にもよるが、200~100000程度のものを用いるとよい。例えば、500~3000程度の低分子量の重合体も好適に使用することができる。
【0029】
本発明で使用する樹脂Bとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、カプロラクトンポリオール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、アクリルポリオール、エポキシポリオール及びシリコーンポリオールなどの、水酸基を有する樹脂が挙げられる。勿論、本発明を構成する樹脂Bはこれらの水酸基を有するものに限定されず、併用する架橋剤Cの反応性基と反応性のある、メルカプト基、カルボキシ基またはアミノ基などの活性水素含有基を有するものであってもよい。例えば、ポリアミドアミン、ポリアミドイミドアミン、ダイマー酸、トリマー酸などを用いることもできる。
【0030】
本発明を構成する皮膜形成成分における、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aと、樹脂Bの配合は、樹脂A100質量部に対して樹脂Bを50~600質量部とすることが好ましい。より好ましくは、樹脂A100質量部に対して樹脂Bを、100~400質量部の範囲で使用することが好ましい。このようにすることで、皮膜形成成分中のポリシロキサン成分を高めることができる。
【0031】
〔架橋剤C〕
上記した樹脂Bが有する活性水素基や、樹脂Aが有する活性水素基と反応する架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤が好ましい。イソシアネート系架橋剤としては、公知・汎用のポリイソシアネート類を用いることができ、特に限定はされない。架橋剤Cがポリイソシアネートである場合、その使用量は、該架橋剤のイソシアネート基と、前記樹脂Bのもつ活性水素含有基との比が、NCO/活性水素含有基=0.3~30であるように、架橋剤Cを配合させることが好ましい。より好ましい配合量としては、NCO/活性水素含有基=0.5~20.0である。
【0032】
本発明で使用する好適なイソシアネート系架橋剤としては、例えば、2,4-トルイレンジイソシアネートの二量体、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス-(p-イソシアネートフェニル)チオフォスファイト、多官能芳香族イソシアネート、多官能芳香族脂肪族イソシアネート、多官能脂肪族イソシアネート、脂肪酸変性多官能脂肪族イソシアネート、ブロック化多官能脂肪族イソシアネートなどのブロック型ポリイソシアネート、ポリイソシアネートプレポリマーなどが挙げられる。
【0033】
これらイソシアネート系架橋剤のうち、芳香族系或いは脂肪族系のどちらでも使用可能であり、好ましくは芳香族系ではジフェニルメタンジイソシアネート及びトリレンジイソシアネート、脂肪族系ではヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートなどの変性体であり、分子中にイソシアネート基を3個以上含むものが好ましく、前記ポリイソシアネートの多量体や他の化合物との付加体、さらには低分子量のポリオールやポリアミンとを末端イソシアネートになるように反応させたウレタンプレポリマーなども好ましく使用される。
【0034】
本発明を構成する被膜形成成分におけるイソシアネート系架橋剤の使用量としては、架橋剤のイソシアネート基と、前記樹脂Bのもつ活性水素含有基との比が、NCO/活性水素含有基=0.3~30であるように、架橋剤を配合させることが好ましい。より好ましくは、NCO/活性水素含有基=0.5~20.0となるように、さらに好ましくは、NCO/活性水素含有基=0.85~6.5となるようにイソシアネート系架橋剤を配合させるとよい。
【0035】
本発明では、イソシアネート系架橋剤に加えて、カルボジイミド系架橋剤又はオキサゾリン系架橋剤を使用することができる。例えば、樹脂Aを合成する際に、カルボキシ基を有するポリオールを用いて合成した酸変性した樹脂Aを使用した場合には、イソシアネート系架橋剤に加えて、カルボキシ基反応性のカルボジイミド系架橋剤やオキサゾリン系架橋剤を適宜に使用するとよい。
【0036】
〔添加剤〕
本発明の背面層用樹脂組成物には、上記した樹脂A、樹脂B及び架橋剤Cに加えて、さらに、必要に応じて、滑剤(ワックス、界面活性剤、金属石鹸、シリコーン系オイル)や、有機・無機フィラーや、帯電防止剤等の添加剤を配合することもできる。これらの添加剤を、背面層を構成する皮膜形成成分の性能を損なわない範囲で、1種もしくは2種以上を添加することで、例えば、背面層の、耐熱性及び滑性のさらなる向上、帯電防止性、サーマルヘッド清浄性などのさらなる向上が可能になる。その際の添加剤の配合量としては、皮膜形成成分100質量部中に、0.1~20質量部程度の範囲で使用することが好ましい。本発明で使用する添加剤は、前記した特開2011-116035号公報に記載されている添加剤をいずれも使用することができる。
【0037】
〔配合〕
上記した通り、本発明の背面層用樹脂組成物は、前記したシロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aと、前記した活性水素含有基を有する樹脂Bと、前記した架橋剤Cとを有し、必要に応じて添加剤を含有してなる。そして、本発明の背面層用樹脂組成物は、固形分で、樹脂A、樹脂B及び架橋剤Cの合計を100質量%としたときに、樹脂Aを1~79質量%、樹脂Bを1~79質量%、架橋剤Cを20~80質量%、の範囲内で含んでなることを要す。架橋剤Cは、29質量%以上で配合することが好ましい。本発明者らの検討によれば、固形分で、樹脂A、樹脂B及び架橋剤Cの合計を100質量%としたときに、樹脂Aを10~33質量%、樹脂Bを25~40質量%、架橋剤Cを33~50質量%の範囲内で含有するように配合することがより好ましい。
【0038】
また、固形分で、樹脂A100質量部に対して樹脂Bを50~600質量部の範囲内で配合させることが好ましい。樹脂A100質量部に対して樹脂Bを、100~400質量部の範囲で配合することがより好ましい。
【0039】
また、本発明の背面層用樹脂組成物は、配合液中の固形分で、架橋剤のイソシアネート基の量が、樹脂Bのもつ活性水素基の合計量に対して、NCO/活性水素含有基=0.3~30であるように、架橋剤を配合させることが好ましい。より好ましくは、NCO/活性水素含有基=0.5~20.0、さらに好ましくは、NCO/活性水素含有基=0.85~6.5となるようにイソシアネート系架橋剤を配合させるとよい。
【0040】
また、本発明の背面層用樹脂組成物を構成するシロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aとしては、固形分で、樹脂Aの100質量部中に、ポリシロキサン成分を5~55質量部含有するものを使用することを要す。好ましくは7~55質量部、より好ましくは、20~50質量部含有するものを用いる。そして、このような樹脂Aを使用してなる本発明の背面層用樹脂組成物は、配合液中の固形分100質量部に、好ましくはポリシロキサン成分を1.9~8.5質量部含み、より好ましくは、ポリシロキサン成分を4.5~7質量部の範囲で含むものであり、高い耐熱滑性を示す背面層の形成を可能にする。
【0041】
上記した通り、本発明の背面層用樹脂組成物は、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂Aと、前記した活性水素含有基を有する樹脂Bと、前記した架橋剤Cとを有してなる。製品としては、前記樹脂Aと前記樹脂Bとを含む混合液と、前記架橋剤Cを含む液を、配合した場合に本発明の要件を満たすようにしてセットされた構成の2液型とすることが好ましい。本発明者らの検討によれば、樹脂Aと、樹脂Bとを予め混合し、塗工直前に混合液に架橋剤Cを混ぜるようにすることで、背面層用樹脂組成物の固形分(樹脂成分)を大幅に高めることができるという実用上のメリットがある。すなわち、固形分を高めることで、塗工膜(背面層)の乾燥工程などを短縮できるといった製造上のメリットが得られる。勿論、前記樹脂Aを含む液と、前記樹脂Bを含む液と、前記架橋剤Cを含む液を、配合した場合に本発明の要件を満たすようにしてセットとした3液型とし、塗工直前にこれらの液を混合することも可能である。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0043】
[合成例1](シリコーン変性ウレタン樹脂PU-1の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管及びマンホールを備えた反応容器を用意し、容器内を窒素ガスで置換した。置換後、反応容器に、化合物(a)として、水酸基価(OHv)=22mgKOH/gのKF-6003(商品名、信越化学工業社製、両末端シリコーンジオール)を16部、化合物(c)としてCD-220(商品名、ダイセル社製、ヘキサメチレンポリカーボネートジオール、分子量2000)を100部、及び、1,3-ブタンジオール(1,3-BD)10部、及び、反応溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)71.7部を加えた。
【0044】
続いて、化合物(b)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を41.1部加えて80℃にて反応を進行させた。30分後、ジブチルチンジラウレートを触媒として、全固形分の0.1%となる量を加え、赤外吸収スペクトルで2270cm-1の遊離イソシアネート基による吸収が消失するまで反応を行った。粘度上昇に伴いメチルエチルケトンで希釈を行い、最終固形分を30%とした。上記のようにして、シリコーン変性ポリウレタン樹脂PU-1を得た。PU-1は、固形分(NV)30%、ポリシロキサン成分の含有量9.6%、数平均分子量=122000である。分子量測定はGPCで行い、ポリメタアクリル酸メチル換算値である。上記をまとめて表1に示した。表1中、ポリシロキサン成分の含有量をSi成分%と表記した。この点は、他の表においても同様である。
【0045】
[合成例2~8](シリコーン変性ウレタン樹脂及びウレタン樹脂の合成)
各資材の配合量を表1の配合量にそれぞれ変えた以外は合成例1と同様にして、シリコーン変性ポリウレタン樹脂、PU-2~PU-5、PU-7及びPU-8を合成した。この中のPU-7は、シロキサン変性の樹脂であるものの、ポリシロキサン成分が本発明で規定する樹脂Aに必要な量を満たさない、樹脂Aに該当しない例である。また、PU-8は、樹脂Aに該当するシロキサン変性の樹脂であるものの、他と異なり、1,3ブタンジオールに替えてカルボキシ基を有するジメチオールプロピオン酸を用いて合成した酸変性された樹脂Aの例である。また、表1の配合量で、樹脂Aに該当しないシリコーン未変性のウレタン樹脂PU-6を合成した。
【0046】
【0047】
[実施例1](背面層用樹脂組成物の作製)
先の合成例1で得たシリコーン変性ウレタン樹脂PU-1を樹脂Aとして用い、以下の資材を混合して本実施例の背面層用樹脂組成物(配合液)を調製した。
PU-1(NV=30%) 100部
ポリエステルポリオール1 30部
コロネートL(NV=75%) 40部
MEK 1464部
シクロヘキサノン 366部
【0048】
上記で用いたポリエステルポリオール1は、1,4-ブタンジオールとアジピン酸との反応物で、分子量が500、水酸基価(OHv)=224.4mgKOH/g、25℃で液体であり、樹脂Bに該当する。
【0049】
上記で用いたコロネートL(商品名、東ソー社製、固形分75%)は、イソシアネート系架橋剤であり、NCOを13.2%含有し、架橋剤Cに該当する。本実施例では、該架橋剤を40部用いた。配合液中における、該架橋剤のイソシアネート基と前記樹脂Bのもつ活性水素含有基(各表中に、NCO/OHと表示)の算出値は、1.048である。また、固形分換算での、配合液中のポリシロキサン成分の配合率の算出値(Si成分/A+B+C)は、3.19%である。この算出値を表中では「Si成分%」と表示した。上記をまとめて表2-1(A)に示した。
【0050】
[実施例2~6](背面層用樹脂組成物の作製)
資材の配合を表2-1(A)の配合にそれぞれ替えた他は実施例1と同様にして、実施例2~6の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに得た。
【0051】
実施例6で用いたポリエステルポリオール-2は、TPEP1030(商品名、台精化学社製)分子量3000、水酸基価(OHv)=37.4mgKOH/g、80℃で液体であり、樹脂Bに該当する。
【0052】
[評価]
(感熱転写記録材の作製)
上記配合で得た実施例1~6の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに用い、グラビア印刷により、厚さ6μmの易接着されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材シート)の表面に、乾燥後の厚みが0.5μmになるように塗布し、塗布後、乾燥機中で溶剤を蒸発させて背面層を形成した。
【0053】
上記のようにして背面層を形成したPETフィルム(基材シート)の、背面層と反対の面に、感熱転写記録層(インク層)用の塗工液(溶融熱転写用塗料)を塗布してインク層を形成して、実施例1~6の感熱転写記録材をそれぞれ作製した。具体的には、下記の組成の塗工液を、その塗布量が5g/mになるようホットメルトによるロールコート法によって塗布してインク層を形成して、背面層の構成がそれぞれに異なる実施例1~6の感熱転写記録材を得た。
【0054】
感熱転写記録層(インク層)塗工液
・パラフィンワックス 10部
・カルナウバワックス 10部
・ポリブテン(新日本石油社製) 1部
・カーボンブラック 2部
【0055】
(印画方法)
上記のようにして得た各感熱転写記録材を、市販のバーコードプリンターに搭載して、下記の条件下で印画を行った。そして、それぞれ下記のようにして、スティッキング性、サーマルヘッドの耐汚染性、シリコーンの低移行性、及び、背面層と基材シートとの密着性を評価した。評価結果を表2-1(B)にまとめて示した。
【0056】
(評価方法)
(1)スティッキング性
感熱転写記録材を実装試験に供した場合の印画時における、感熱転写記録材の皺の発生、サーマルヘッドの背面層に対するスティッキングの発生及びサーマルヘッドと感熱記録材との熱融着を目視にて観察し、以下の基準で5段階の評価をした。評価する際に、感熱転写記録材の走行、搬送時の音の変化にも注目し、この点も加味して評価した。評価結果は、評点4以上を合格(○)とし、3以下を不合格(×)とした。
【0057】
5:スティッキングがなく、走行にも問題がない
4:スティッキングがないが、走行音が変化する
3:スティッキングが発生気味(僅かに認められる)である
2:スティッキングが発生しているが、走行はしている
1:スティッキングにより走行が不可能となった
【0058】
(2)サーマルヘッドの耐汚染性
感熱転写記録材を実装試験に供した場合の、サーマルヘッドのヘッド熱素子部分に対する汚れの有無を、デジタルマイクロスコープにて観察した。また、実装試験後の、サーマルヘッド部分における粉状の付着物の有無を、目視にて走行前の状態と比較観察した。そして、下記の基準で3段階の評価をした。
◎:熱素子の汚れなし且つ粉なし、印刷良好
○:熱素子の汚れ僅か且つ粉なし、印刷問題なし
×:熱素子の汚れあり又は粉発生、印刷不良
【0059】
(3)シリコーンの低移行性
感熱転写記録材の背面層と、100μmの厚さのPETフィルムとを重ね合わせて、7cm×7cm単位あたり20kgの荷重をかけた状態にして、50℃の恒温槽内に72時間放置した。恒温槽内から取り出し後、背面層と重なっていた100μm厚のPETの表面エネルギーを、ぬれ張力試験用混合液を用いてシリコーンの移行の有無を確認した。確認は、JIS K 6768に準拠して行い、富士フイルム和光純薬社製の、ぬれ張力試験用混合液をフィルム表面に塗布し、ちょうどフィルムを濡らすと判定された混合液の表面張力を求めた。そして、得られた表面張力の値を用い、下記の基準で3段階の評価をした。すなわち、上記方法で測定した面を濡らすと判定された混合液の表面張力(濡れ張力)が相対的に大きい値を示すことは、測定対象である背面層に重ねた面が相対的に濡れやすいこと、具体的には、シリコーンの移行が少ないことを意味している。
◎:36mN/m以上
○:36mN/m未満、34mN/m以上
×:34mN/m未満
本発明では、上記の判断基準で、◎及び○の場合を合格とし、×の場合を不合格として評価した。
【0060】
(4)密着性
感熱転写記録材の背面層と基材シートとの接着性を、セロハンテープにて剥離試験を行い評価した。幅24mmのセロテープ(登録商標、ニチバン社製)を、圧着ローラー1kg-1往復で貼り付け、90°で剥離を行った。そして、背面層の剥離がないものを合格(○)、剥離が見られるものを不合格(×)と評価した。
【0061】
【0062】
[実施例7~12](背面層用樹脂組成物の作製)
資材の配合を表2-2(A)の配合にそれぞれ替えた他は実施例1と同様にして、実施例7~12の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに得た。
【0063】
実施例7で用いたヘキサメチレンポリカーボネートジオールは、UH-50(商品名、宇部興産社製)で、分子量500、融点33℃、水酸基価=224mgKOH/gであり、樹脂Bに該当する。
【0064】
実施例8で用いたポリカプロラクトントリオールは、プラクセル 305(商品名、ダイセル社製)であり、分子量550、25℃で液体、25℃の粘度1100~1600mPa・s、水酸基価=305mgKOH/gであり、樹脂Bに該当する。
【0065】
実施例9で用いたエスレックBX-1(商品名、積水化学工業社製)は、ポリビニルアセタール樹脂であり、水酸基含有量=21wt%、Tg=95℃であり、樹脂Bに該当する。
【0066】
実施例10~12で用いたポリエステルポリオール1は、1,4-ブタンジオールとアジピン酸との反応物で、分子量が500、水酸基価(OHv)=224.4mgKOH/g、25℃で液体、樹脂Bに該当する。
【0067】
[評価]
(感熱転写記録材の作製)
上記配合で得た実施例7~12の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに用い、先の実施例1~6に記載したと同様にして背面層を形成し、さらに、該背面層と反対の面に先と同様にしてインク層を形成して、背面層の構成がそれぞれに異なる実施例7~12の感熱転写記録材を得た。
【0068】
(印画方法及び評価方法)
上記で得た実施例7~12の各感熱転写記録材を、市販のバーコードプリンターに搭載して、印画して実装試験に供し、先に記載したと同様に、スティッキング性、サーマルヘッドの耐汚染性、シリコーンの低移行性、及び、背面層と基材シートとの密着性を評価した。そして、評価結果を表2-2(B)にまとめて示した。
【0069】
【0070】
[比較例1~5](比較の背面層用樹脂組成物の作製)
資材の配合を表3-1(A)の配合に替えた他は実施例1と同様にして、比較例1~5の面層用樹脂組成物を得た。表3-1(A)に「樹脂A成分の質量%」として記載したものには、本発明で規定する樹脂Aを用いた場合、シリコーン変性していないポリウレタン樹脂A''を用いた場合、シリコーン変性しているがSi成分量が本発明で規定する範囲を外れたポリウレタン樹脂A’を用いた場合を含むものである。また、表3-1(A)中に記載した「配合液中のSi成分%」には、丸カッコ書きで使用したシリコーンオイルの配合量を掲載し、角括弧書きで、樹脂A’又は樹脂A’’を用いた配合量を記載した。
【0071】
比較例1は、樹脂Bを用いない例であり、比較例2は、架橋剤Cの配合量が、樹脂Aと樹脂Bと架橋剤Cの合計100質量%に10質量%であり、本発明で規定するよりも少ない例である。比較例3は、シロキサン変性の樹脂Aを用いずに、未変性のポリウレタン樹脂を用いた例であり、比較例4は、シロキサン変性の樹脂Aを用いず、未変性のポリウレタン樹脂とシリコーンオイルを用いた例である。比較例5は、シロキサン変性のポリウレタン樹脂のシロキサン成分が5%であり、本発明で規定するよりも量が少ない例である。
【0072】
[評価]
(感熱転写記録材の作製)
上記配合で得た比較例1~5の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに用い、先の実施例1~6に記載したと同様にして背面層を形成し、さらに、該背面層と反対の面に先と同様にしてインク層を形成して、背面層の構成がそれぞれに異なる比較例1~5の感熱転写記録材を得た。
【0073】
(印画方法及び評価方法)
上記で得た比較例1~5の各感熱転写記録材を、市販のバーコードプリンターに搭載して、印画して実装試験に供し、先に記載したと同様に、スティッキング性、サーマルヘッドの耐汚染性、シリコーンの低移行性、及び、背面層と基材シートとの密着性を評価した。そして、評価結果を表3-1(B)にまとめて示した。
【0074】
【0075】
[比較例6~11](比較の背面層用樹脂組成物の作製)
資材の配合を表3-2(A)の配合に替えた他は実施例1と同様にして、比較例6~11の面層用樹脂組成物を得た。表3-2(A)に「樹脂A成分の質量%」として記載したものには、本発明で規定する樹脂Aを用いた場合、シリコーン変性しているがSi成分量が本発明で規定する範囲を外れたポリウレタン樹脂A’を用いた場合を含むものである。また、表3-2(A)中に記載した「配合液中のSi成分%」には、カッコ書きで使用したシリコーンオイル量を掲載した。また、表3-2(A)に「樹脂B成分の質量%」として記載したものには、本発明で規定するガラス転移点以上の値を示す樹脂B’を含むものである。
【0076】
比較例6は、シロキサン変性の樹脂Aのシロキサン成分が59.7%であり、本発明で規定するよりもシロキサン成分が多い例である。比較例7は、シロキサン変性の樹脂Aを用いない例であり、比較例8は、シロキサン変性の樹脂Aを用いず、シリコーンオイルを用いた例である。比較例9は、架橋剤Cの配合量が、樹脂Aと樹脂Bと架橋剤Cの合計100質量%において80質量%よりも多く、本発明で規定するよりも架橋剤Cの配合量が多い例である。比較例10、11は、樹脂B’としてガラス転移点(Tg)が159℃のものを用いた例であり、本発明の樹脂Bで規定するガラス転移点(Tg)100℃未満の要件を満たさない例である。
【0077】
[評価]
(感熱転写記録材の作製)
上記配合で得た比較例6~11の背面層用樹脂組成物(配合液)をそれぞれに用い、先の実施例1~6に記載したと同様にして背面層を形成し、さらに、該背面層と反対の面に先と同様にしてインク層を形成して、背面層の構成がそれぞれに異なる比較例6~11の感熱転写記録材を得た。
【0078】
(印画方法及び評価方法)
上記で得た比較例6~11の各感熱転写記録材を、市販のバーコードプリンターに搭載して、印画して実装試験に供し、先に記載したと同様に、スティッキング性、サーマルヘッドの耐汚染性、シリコーンの低移行性、及び、背面層と基材シートとの密着性を評価した。そして、評価結果を表3-2(B)にまとめて示した。
【0079】
【0080】
上記した表2の実施例の評価結果と、表3の比較例の評価結果との比較から、下記のことが確認できる。
比較例3、比較例5及び比較例7に示したように、配合液中にポリシロキサン(シリコーン分)を含有しない例や、配合量が少ない例では、背面層を形成した場合に、耐熱性に劣り、スティッキングが生じることを確認した。そして、比較例4及び比較例8にある通り、配合液中にシロキサン変性ウレタン(ウレア)系の樹脂を含有させない場合であっても、シリコーンオイルを用いることで、耐熱性を有し、スティッキングが低減された背面層を得られることを確認した。しかし、この場合は、ヘッド汚染や、密着性については良好な結果が得られる背面層になるものの、シリコーンが移行し、低移行性を達成できないという問題があった。
【0081】
また、比較例6に示しように、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂のポリシロキサン量が本発明で規定するよりも多い場合は、高い耐熱滑性が得られ、スティッキングが低減され、ヘッド汚染や密着性に問題のない背面層を得られるものの、シリコーンが移行し、低移行性を達成できないことが確認できた。一方、比較例5に示すように、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂のポリシロキサン量が本発明で規定するよりも少ない場合は、耐熱滑性に劣り、スティッキングが生じ、さらに、背面層が密着性に劣るものになることが確認できた。
【0082】
また、比較例10及び11にある通り、シロキサン変性ウレタン(ウレア)系樹脂に、Tgが高い樹脂B’を併用することで、高い耐熱滑性を示す背面層が得られ、スティッキングの問題がないことを確認した。しかし、この場合は、サーマルヘッドに粉が付着しヘッド汚染の問題が生じるという問題があることを確認した。
【0083】
また、比較例1にあるように、樹脂Bを配合しない場合は、シリコーンが移行して低移行性を達成できないという問題があることを確認した。比較例2にある通り、架橋剤Cの配合量が本発明で規定するよりも少ないと、形成した背面層は、耐熱滑性に劣り、スティッキングが生じる傾向があることに加えて、シリコーンが移行し、低移行性を達成できないという問題があることを確認した。一方、比較例9に示したように、架橋剤Cの配合量が本発明で規定するよりも多いと、背面層は、耐熱滑性に劣り、スティッキングが生じる傾向があることに加えて、ヘッド汚染も見られるようになることを確認した。
【0084】
比較例3にあるように、シロキサンで変性していない未変性ウレタン樹脂と、樹脂B及び架橋剤を用いた例では、シリコーンの移行がないものの、ヘッド汚染の点で劣り、さらに、基材への密着性に劣る背面層になることを確認した。
【0085】
上記に対し、実施例に示した通り、本発明で規定する要件を全て満足する背面層用樹脂組成物によれば、高い耐熱滑性が得られ、スティッキングが低減され、シリコーンの移行がなく低移行性を達成でき、しかも、ヘッド汚染や密着性に何らの問題のない背面層の形成が可能になることが確認できた。
【要約】
【課題】サーマルヘッドの高温化に対し、感熱転写記録材の背面層が、より耐熱性に優れ、ヘッドへのダメージ軽減が実現でき、シリコーンの含有量を多くしたとしても、ブリードすることが抑制された、耐久性に優れる背面層用樹脂組成物の提供。
【解決手段】感熱転写記録材料の背面層の形成に用いる樹脂組成物であって、皮膜形成成分として、シロキサン変性ウレタン(ウレア)樹脂Aと、樹脂Bと、架橋剤Cとを有し、樹脂Aは、ポリシロキサン成分を5~55%の範囲で含み、樹脂Bは、少なくとも1個の活性水素含有基を有し、且つ、ガラス転移点が100℃未満であり、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記架橋剤Cの合計を100%としたとき、前記樹脂Aを1~79%、前記樹脂Bを1~79%、前記架橋剤Cを20~80%、の範囲内で含んでなる背面層用樹脂組成物及び感熱転写記録材。
【選択図】なし