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特許7022243工作機械のクーラント供給装置及び工作機械のクーラント供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】工作機械のクーラント供給装置及び工作機械のクーラント供給方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/10 20060101AFI20220209BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B23Q17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021108150
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】船越 元気
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-086943(JP,U)
【文献】特開2013-193175(JP,A)
【文献】特開平10-029132(JP,A)
【文献】特開2012-200862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/10
B23Q 17/00
B23B 25/00
B24B 55/03
G05D 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、
前記ポンプから吐出されたクーラントを供給する給液管と、
前記ポンプの吐出し側に設置した第1圧力センサと、
前記第1圧力センサの設置位置より下流側で前記給液管から分岐し、ワークの加工部を含む複数の供給先にクーラントを供給する複数の分岐管と、
各分岐管に設置され各供給先にクーラントを供給または停止するバルブ機構と、
前記ポンプおよび各バルブ機構を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記バルブ機構のうち少なくとも前記ワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記第1圧力センサの値が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちに前記ワークの加工を停止する停止信号を出力し、前記特定供給状態で前記第1圧力センサの値が前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、前記停止信号を出力することなく警報信号を出力するように構成され、前記警報信号を出力すると、少なくとも前記ワークに対する一連の加工プロセスの終了時に前記ワークの加工を停止する停止信号を出力する工作機械のクーラント供給装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記特定供給状態で前記第1圧力センサの値が前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合であっても前記特定バルブ機構が閉塞状態であることを検知すると、直ちに前記ワークの加工を停止する停止信号を出力するように構成されている請求項記載の工作機械のクーラント供給装置。
【請求項3】
前記特定分岐管に設置した前記特定バルブ機構の下流側に第2圧力センサを備え、前記制御回路は、前記第2圧力センサの値が第2許容圧力範囲から下方に逸脱すると前記特定バルブ機構が閉塞状態であると検知するように構成されている請求項記載の工作機械のクーラント供給装置。
【請求項4】
前記制御回路は、各分岐管に備えた各バルブ機構の開閉の組合せに応じて予め設定したクーラントの吐出圧力および給液量を規定するテーブルデータを備え、前記テーブルデータに基づいて前記ポンプの吐出圧力および給液量を制御するとともに各バルブ機構を開閉制御するように構成されている請求項1からの何れか1項に記載の工作機械のクーラント供給装置。
【請求項5】
クーラントタンクからポンプを介して給液管にクーラントを給液し、前記給液管に分岐接続されバルブ機構を備えた複数の分岐管を介してワークの加工部を含む複数の供給先に選択的にクーラントを供給する工作機械のクーラント供給方法であって、
前記バルブ機構のうち少なくとも前記ワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記ポンプの吐出し側の圧力が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちにワークの加工を停止し、前記特定供給状態で前記ポンプの吐出し側の圧力が予め設定された前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、前記ワークの加工を停止することなく警報し、少なくとも前記ワークに対する一連の加工プロセスの終了時に前記ワークの加工を停止する停止信号を出力する工作機械のクーラント供給方法。
【請求項6】
前記特定供給状態で前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合であっても、前記特定バルブ機構が閉塞状態であることを検知すると前記ワークの加工を停止する請求項記載の工作機械のクーラント供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のクーラント供給装置及び工作機械のクーラント供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特別なセンサを設けることなく、異常状態を検出することができる高圧クーラント供給装置が開示されている。当該高圧クーラント供給装置はモータにより固定容量ポンプを駆動してタンクからクーラントをアタッチメントに供給するとともに、オンロード弁によって吐出クーラントのアタッチメントへの供給を制御するように構成されている。
【0003】
そして、指令値およびフィードバック値を入力として前記モータを制御するとともに、オンロード弁を制御する制御手段と、指令値およびフィードバック値を入力とし、モータの回転数が最低回転数と最高回転数との間の回転数であり、かつオンロード弁がオンされている状態において、負荷トルクが最低負荷トルクを下回ることを条件として異常状態を検出する異常状態検出手段を備えている。
【0004】
当該異常検出手段を備えることにより、空運転、アタッチメントの取付けの忘れ、配管破裂などを異常状態として検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-160617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、タンクに充填されたクーラントを、主軸クーラントや切屑流しクーラント、チップコンベヤの逆洗浄等の複数の供給先に給液する場合には、給液先に応じてモータの負荷トルクが異なるため、一律にモータの負荷トルクに基づいて異常を検出することは困難であった。
【0007】
また、給液先が加工精度に直接的な影響を及ぼす主軸クーラントでは、異常が発生すると直ちに機械を停止する必要があるが、加工精度に直接的な影響を及ぼさないチップコンベヤの逆洗浄などが給液先である場合には、生産性の低下を回避するために、異常が発生しても直ちに機械を停止したくない場合もある。
【0008】
本発明の目的は、タンクから複数の供給先にクーラントを給液する場合に、発生した異常に対する緊急度合に応じて適切に対処することができる工作機械のクーラント供給装置及び工作機械のクーラント供給方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明による工作機械のクーラント供給装置は、クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、前記ポンプから吐出されたクーラントを供給する給液管と、前記ポンプの吐出し側に設置した第1圧力センサと、前記第1圧力センサの設置位置より下流側で前記給液管から分岐し、ワークの加工部を含む複数の供給先にクーラントを供給する複数の分岐管と、各分岐管に設置され各供給先にクーラントを供給または停止するバルブ機構と、前記ポンプおよび各バルブ機構を制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記バルブ機構のうち少なくとも前記ワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記第1圧力センサの値が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちに前記ワークの加工を停止する停止信号を出力し、前記特定供給状態で前記第1圧力センサの値が前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、前記停止信号を出力することなく警報信号を出力するように構成され、前記警報信号を出力すると、少なくとも前記ワークに対する一連の加工プロセスの終了時に前記ワークの加工を停止する停止信号を出力することを特徴とする。
【0010】
制御回路は、上述した特定供給状態で第1圧力センサの値が予め設定された第1許容圧力範囲から逸脱すると、各給液管に備えた何れかのバルブ機構に異常が生じていると判断できる。その際に、第1圧力センサの値が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱していると、緊急度合が高い異常であると判断して、と判断して、ワークの加工を停止する停止信号を直ちに出力することで、ワークの加工部に必要量のクーラントが供給されないワークや工具の損傷を未然に防止する。
【0011】
また、本発明による工作機械のクーラント供給方法は、クーラントタンクからポンプを介して給液管にクーラントを給液し、前記給液管に分岐接続されバルブ機構を備えた複数の分岐管を介してワークの加工部を含む複数の供給先に選択的にクーラントを供給する工作機械のクーラント供給方法であって、前記バルブ機構のうち少なくとも前記ワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記ポンプの吐出し側の圧力が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちにワークの加工を停止し、前記特定供給状態で前記ポンプの吐出し側の圧力が予め設定された前記第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、前記ワークの加工を停止することなく警報し、少なくとも前記ワークに対する一連の加工プロセスの終了時に前記ワークの加工を停止する停止信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンクから複数の供給先にクーラントを給液する場合に、発生した異常に対する緊急度合に応じて適切に対処することができる工作機械のクーラント供給装置及び工作機械のクーラント供給方法を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(a)は、カバー体で覆われた加工空間に設置された工作機械の正面視の説明図、図1(b)は工作機械に隣接される段取ステーションの説明図である。
図2図2は、クーラント供給装置の配管説明図である。
図3図3は、クーラント供給装置に備えた制御回路の説明図である。
図4図4は、各分岐管に選択的にクーラントを供給する場合のポンプの動作点の説明図である。
図5図5は、クーラント供給方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて工作機械のクーラント供給装置及びクーラント供給方法を説明する。
【0015】
図1(a)には、カバー部材300で仕切られワークWを加工する加工空間に設置された工作機械200が示されている。工作機械200は、ベッド201と、ベッド201上の案内面に沿ってZ軸方向に移動するテーブル202と、テーブル202上で垂直姿勢のB軸周りに回転するパレット203と、ベッド201に垂設されたコラム204と、コラム204の案内面に沿ってX軸及びY軸方向に移動する主軸頭205とを備えた横形のマシニングセンタで構成されている。破線で示されているように、工作機械200の周囲がカバー部材300で被覆され、カバー部材300には開閉可能な扉(図示せず)が設けられている。
【0016】
サーボモータMZが駆動されるとベッド201上でテーブル202がZ軸方向の直動駆動軸に沿って移動し、サーボモータMBが駆動されるとテーブル202上でパレット203がB軸周りに回転し、サーボモータMXが駆動されるとコラム204上で主軸頭205がX軸方向の直動駆動軸に沿って移動し、サーボモータMYが駆動されるとコラム204上で主軸頭205がY軸方向の直動駆動軸に沿って移動する。
【0017】
主軸頭205に設けられた工具ホルダ206によって工具207が保持され、サーボモータMS1が駆動されると工具207が水平軸心周りに回転する。パレット203に設けたイケール等の治具により被加工物であるワークWが保持され、サーボモータMBが駆動されるとイケール等の治具によって保持されたワークWがパレット203とともにB軸に沿う垂直軸心周りに回転する。
【0018】
予め設定されたNCプログラムに基づいてNC装置が上述した各サーボモータを駆動することにより、ワークWと工具207が相対移動されてワークWが所望の形状に機械加工される。
【0019】
図1(a)に示す工作機械200の右側に位置する側壁に隣接して、段取ステーション250が設置されている。図1(b)に示すように、段取ステーション250では加工前のワークWや加工後のワークを収容する収容部が設けられ、加工前のワークWに対する前処理や、加工後のワークWに対する洗浄などの後処理が実行される。
【0020】
段取ステーション250は、カバー部材300に隣接したカバー部材350で仕切られ、カバー部材300,350の間には、各領域間でワークWを受け渡すための開閉シャッターが設けられている。また、段取ステーション250には、加工前のワークWを加工空間に搬入し、加工後のワークを加工空間から搬出するためのAPC(オートパレットチェンジャ)ユニットが設置されている。
【0021】
主軸頭205には、ワークWの加工部位に向けてクーラントを吐出するクーラントノズル220が設けられている。工具207によってワークWが機械加工される際の切削負荷を低減させるとともに、加工部位に生じる切削熱による温度上昇を抑制し、さらには加工部位に付着した切屑を除去することで高い加工精度を確保するべく、冷却及び洗浄用の流体であるクーラントが加工部位に向けて噴射される。
【0022】
図1には示していないが、加工により飛散した切屑を回収するために、カバー部材300の内壁やテーブル202に向けて、或いは段取ステーション250に収容されたワークWなどに向けてクーラントを吐出する複数のクーラント供給ノズルが設けられている。
【0023】
テーブル202の下方にはクーラントを回収するクーラント回収部208が設置され、機械加工に伴って発生する切屑がクーラントとともにクーラント回収部208に回収されるように構成されている。クーラント回収部208の底部にはチップコンベア209が配設され、クーラント回収部208に回収された切屑はチップコンベア209により機外に搬出されて回収容器212に回収される。
【0024】
クーラント回収部208に回収されたクーラントは、ドラムフィルタ208Fを介して切屑などの異物が除去された後に大容量のクーラントタンク1(図2参照。)に循環供給される。
【0025】
図2には、上述した工作機械200に組み込まれたクーラント供給装置100の配管経路図が示されている。
クーラント供給装置100は、クーラントタンク1と、給液管2と、クーラントタンク1に充填されたクーラントを給液管2に吐出する第1給液ポンプP1と、第1給液ポンプP1で吐出されたクーラントを複数のクーラント供給先に分岐して供給する分岐管6~14、制御回路30(図3参照。)などを備えている。
【0026】
給液管2に供給されたクーラントは、ヘッダー管4を介して分岐管6~12に給液される。分岐管6は機内の側壁などに向けてシャワーリングする第1の給液経路であり、分岐管7はワークの加工部に配されたクーラントノズル220を供給先とする給液経路であり、分岐管8は治具洗浄などのために段取ステーション250へ給液する給液経路である。
【0027】
分岐管9は機内の側壁などに向けてシャワーリングする第2の給液経路であり、分岐管10はプロテクタービルトインクーラントへの給液経路であり、分岐管11は段取ステーションのオイルパンへの給液経路であり、分岐管12はテーブル横XYプロテクターへの給液経路であり、分岐管13は予備の給液経路であり、分岐管14はクーラントガンへの給液経路である。なお、分岐管10,11,12はヘッダー管4から分岐した1本の分岐管が3本に分岐されている。
【0028】
分岐管6~14には、ヘッダー管4側に電磁バルブでなるバルブ機構V6~V12が介装されている。バルブ機構V6~V12は後述の制御回路30により開閉制御されることで、各分岐管6~12へのクーラントの給液が許容または停止制御される。
【0029】
各分岐管6~14から給液されたクーラントは、最終的にクーラント回収部208に回収され、ドラムフィルタ208Fを介して切屑などの異物が除去された後に、給液ポンプP3によってクーラントタンク1に給液される。
【0030】
クーラントタンク1に給液されたクーラントの底部にはドラムフィルタ208Fで除去仕切れなかった異物が沈降するが、給液管2はクーラントタンク1の側壁で底部より上方位置に接続されているため、底部に沈降した異物が直ちに給液管2に吐出されることはない。
【0031】
クーラントタンク1の底部に沈降した異物は定期的または不定期に駆動される給液ポンプP2によってクーラントと共に循環路15を介して湿式サイクロンフィルタ22に供給され、異物が除去された後にクーラントタンク1に循環される。なお、湿式サイクロンフィルタ22で異物が除去されたクーラントは、クーラントタンク1とは異なる他のクーラントタンクに戻すように構成してもよい。
【0032】
給液管2には第1給液ポンプP1の下流側に第1圧力センサSE1が配置され、分岐管7にはバルブ機構V7の下流側に第2圧力センサSE2が配置されている。
【0033】
図3には、クーラント供給装置100に備えた制御回路30の回路図が示されている。制御回路30はCPU、CPUで実行される給液制御プログラムが記憶されたメモリ、入出力回路、通信回路などが搭載された制御基板で構成されている。
【0034】
制御回路30に備えた入出力回路に含まれる複数の出力ドライバ回路は、上述したバルブ機構V6からV12及び各給液ポンプP1,P2,P3が接続されている。また、入出力回路に含まれるA/Dコンバータでなる入力回路は、第1圧力センサSE1、第2圧力センサSE2の値が入力され、A/D変換された値がCPUに入力される。さらに、制御回路30と工作機械200の操作盤50とが通信線で接続され、操作盤50とNC装置70とが通信線で接続されている。
【0035】
オペレータによる操作盤50の操作を介してNC装置70及び制御回路30が起動される。予めプログラムされた手順に従ってNC装置70を介して工作機械がシーケンシャルに制御されるとともに、制御回路30を介して必要部位にクーラントが給液制御される。
【0036】
制御回路30に備えたメモリには、クーラントの給液に対する複数の動作モードを規定するデータが記憶されている。制御回路30は、オペレータが操作する制御盤50から指示される各動作モードに応じて第1給液ポンプP1やバルブ機構V6~V12を制御し、各制御状態で測定した第1圧力センサSE1または第2圧力センサSE2の値に基づいて異常であるか否かを診断する。
【0037】
制御回路30は診断した異常状態を操作盤50に送信し、操作盤50は受信した異常状態に応じて工作機械200を直ちに停止する必要がある場合にはNC装置70に停止信号を出力し、直ちに停止する必要がない場合にはアラートを鳴動させ、或いは操作盤50の操作画面にアラートを表示する。
【0038】
図4には、流量を横軸、必要揚程を縦軸に表わした第1給液ポンプP1の動作点が示されている。動作点1はチップコンベアを稼働させるモードで、流量150L/min、揚程31mに設定されている。動作点2は加工部にクーラントを供給して主軸を動作させるモードで、流量400L/min、揚程27mに設定されている。
【0039】
動作点3は動作点3の経済性を向上させるモードで、流量400L/min、揚程26mに設定されている。また、動作点4は流量150L/min、揚程13mに設定され、動作点5は流量200L/min、揚程30mに設定されている。
【0040】
つまり、制御回路30のメモリには、各分岐管に備えた各バルブ機構の開閉の組合せに応じて予め設定したクーラントの吐出圧力および給液量を規定するとともに、各組み合わせに応じて検出される圧力センサSE1,S2の許容圧力範囲を規定したテーブルデータが記憶され、制御回路30は、当該テーブルデータに基づいて第1給液ポンプP1の吐出圧力および給液量を制御するとともに各バルブ機構を開閉制御するように構成されている。なお、上述した各動作モード、流量、必要揚程は例示であり、これらの値に限るものではない。
【0041】
図5に示すように、制御盤50から起動指令を受けると、制御回路30は図4に示した複数の動作点の何れの動作点で制御する動作モードであるのかを起動指令に基づいて判定し(S1)、該当する動作モードに応じて給液ポンプを制御するとともに、バルブ機構V6~V12のうち、必要なバルブ機構が開放され、不要なバルブ機構は閉塞状態が維持される(S2)。さらに、第1圧力センサSE1、第2圧力センサSE2の値が読み込まれる(S3)。
【0042】
各動作モードに応じて第1圧力センサSE1の適性範囲、つまり第1許容圧力範囲が予め定められている。制御回路30は、第1圧力センサSE1の値が各動作モードに対して第1許容圧力範囲の下限を下回る低圧異常であるか、上限を上回る高圧異常であるか、適正範囲に収まる正常範囲であるかを判別する。
【0043】
低圧異常と判別され(S4,Y)、動作点が3または4、つまり加工部にクーラントを供給するモードである場合には(S5,Y)、何れかの経路で漏れが生じているため、圧力異常が検知され、機械を停止させなければならない時は、センサから圧力異常に関する信号が制御回路30に送信され、制御回路30が機械を停止させる。機械を停止させる時に、制御回路30からの信号によって各バルブV6~V12が閉塞される。なお、ノーマルクローズのバルブを使用する場合には、当該バルブへの電源遮断により自動閉塞させることも可能である。
【0044】
制御盤50は当該状態信号を受信すると、NC装置70に工作機械200を緊急停止させるべく停止信号を出力する(S6)。本実施形態では、加工部にクーラントを供給するモードである場合で少なくとも他のバルブ機構の少なくとも一つは閉塞されている。例えば、分岐管8に備えたバルブV8が閉塞されている。
【0045】
動作点が3または4以外である場合には(S5,N)、低圧異常である旨の状態信号を制御盤50に送信する。制御盤50は当該状態信号を受信すると、NC装置70に工作機械200を緊急停止させることなく表示部にアラートを表示するとともに、ブザーを鳴動させ、オペレータに注意を喚起する(S7)。
【0046】
その状態でワークの加工を継続し、所定の加工処理が終了して、ワークから工具が離れた状態になると(S8,Y)、制御回路30から停止信号が出力され、制御盤50は工作機械200を停止させる(S9)。また、所定の加工処理が終了するまでの間は(S8,N)、ステップS1に戻って同様の処理を繰り返す。所定の加工処理が終了とは、当該ワークに対する全ての加工プロセスの終了、または現在実行中の加工プロセスの終了の何れかを意味する。
【0047】
ステップS4で、低圧異常でなければ(S4,N)、高圧異常であるか否かを判定し、高圧異常であれば(S8,Y)、ステップS7のアラート処理を実行し、正常であれば(S8,N)、ステップS8以降の処理を実行する。
【0048】
加工部にクーラントを供給するモードで低圧異常となると、ワークや工具に損傷を来す虞があるために、工作機械200を緊急停止するのである。また、加工部にクーラントを供給するモードで高圧異常となる場合には、加工部にクーラントが適正に供給され、ワークの加工は適切に行える状態であるものの、他の給液先にクーラントが供給されていない状態と判断し、加工効率の低下を回避しながら、オペレータにアラートを発して注意を喚起するのである。
【0049】
なお、図5の説明ではステップS9で、第1圧力センサSE1の値のみに基づいて状態を判別する例を説明したが、第2圧力センサSE2の値を加味して状態を判別してもよい。具体的に、ステップS9で第1圧力センサSE1が第1許容圧力範囲を上回る高圧異常を示し、第2圧力センサSE2が第2許容圧力範囲よりも低い低圧異常を示すと、ステップS6の処理を実行するように構成するのである。第2圧力センサSE2の適性範囲つまり第2許容圧力範囲も予め設定されていることは言うまでもない。
【0050】
第2圧力センサSE2の値を参照する以外に、バルブ機構V7である電磁バルブの弁体の作動状態を検知する位置センサを備え、バルブ機構V7に対して開放指令を出力した場合に弁体が開放位置に切替わっているか否かを位置センサの値で確認してもよい。つまり、ステップS9で第1圧力センサSE1が高圧異常を示し、位置センサが閉塞位置を示している場合に、分岐管7に給液されていないと判断してステップS6の処理を実行するように構成するのである。
【0051】
バルブ機構V7は、通常、制御回路30からの駆動信号が入力されない状態で閉塞状態となるノーマルクローズ型の電磁バルブが用いられるが、制御回路30からの駆動信号が入力されない状態で開放状態となるノーマルオープン型の電磁バルブを採用すると、仮に制御信号線が断線したような場合でも加工部にクーラントを供給することができるようになる。
【0052】
以上説明したように、本発明を適用した工作機械のクーラント供給装置100は、クーラントタンク1からクーラントを給液する第1給液ポンプP1と、第1給液ポンプP1から吐出されたクーラントを供給する給液管2と、第1給液ポンプP1の吐出し側に設置した第1圧力センサSE1と、第1圧力センサSE1の設置位置より下流側で給液管2から分岐し、ワークの加工部を含む複数の供給先にクーラントを供給する複数の分岐管5~14と、各分岐管5~14に設置され各供給先にクーラントを供給または停止するバルブ機構V6~V12と、第1給液ポンプP1および各バルブ機構V6~V12を制御する制御回路30と、とを備えている。
【0053】
そして、制御回路30は、バルブ機構V6~V12のうち少なくともワークの加工部を供給先とする特定分岐管7に設置した特定バルブ機構V7を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で第1圧力センサSE1の値が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちにワークの加工を停止する停止信号を出力するように構成されている。
【0054】
なお、上述した例では、制御回路30とNC装置70とが別体で構成されているが、制御回路30がNC装置70に組み込まれて一体に構成されていてもよい。
【0055】
そして、制御回路30は、特定供給状態で第1圧力センサSE1の値が第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、停止信号を出力することなく警報信号を出力するように構成されている。特定分岐管7を介して加工部に適正にクーラントが供給されていると判断して、加工動作を継続するのである。
【0056】
さらに、制御回路30は、特定供給状態で第1圧力センサSE1の値が第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合であっても特定バルブ機構V7が閉塞状態であることを検知すると、直ちにワークの加工を停止する停止信号を出力するように構成されている。
【0057】
特定分岐管7に設置した特定バルブ機構V7の下流側に第2圧力センサSE2を備え、制御回路30は、第2圧力センサSE2の値が第2許容圧力範囲から下方に逸脱すると特定バルブ機構V7が閉塞状態であると検知するように構成されている。
【0058】
制御回路30は、警報信号を出力すると、少なくともワークに対する一連の加工プロセスの終了時にワークの加工を停止する停止信号を出力する。
【0059】
さらに、制御回路30は、各分岐管に備えた各バルブ機構の開閉の組合せに応じて予め設定したクーラントの吐出圧力および給液量を規定するテーブルデータを備え、テーブルデータに基づいてポンプの吐出圧力および給液量を制御するとともに各バルブ機構を開閉制御するように構成されている。
【0060】
以上説明したように、本発明による工作機械のクーラント供給方法は、クーラントタンクからポンプを介して給液管にクーラントを給液し、給液管に分岐接続されバルブ機構を備えた複数の分岐管を介してワークの加工部を含む複数の供給先に選択的にクーラントを供給する工作機械のクーラント供給方法であって、バルブ機構のうち少なくともワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記ポンプの吐出し側の圧力が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちにワークの加工を停止するように構成されている。
【0061】
また、特定供給状態でポンプの吐出し側の圧力が予め設定された第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合に、ワークの加工を停止することなく警報する。
【0062】
さらに、特定供給状態で第1許容圧力範囲から上方に逸脱した場合であっても、特定バルブ機構が閉塞状態であることを検知するとワークの加工を停止する。
【0063】
さらに、少なくともワークに対する一連の加工プロセスの終了時にワークの加工を停止する停止信号を出力する。
【0064】
以上、本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上に説明したように、本発明により、発生した異常に対する緊急度合に応じて適切に対処することができる工作機械のクーラント供給装置が実現できる。
【符号の説明】
【0066】
1:クーラントタンク
2:給液管
4:ヘッダー管
6~14:分岐管
30:制御回路
100:クーラント供給装置
P1;第1給液ポンプ
P2:第2給液ポンプ
P3:第3給液ポンプ
SE1:第1圧力センサ
SE2:第2圧力センサ
V6~V12:バルブ機構
【要約】
【課題】タンクから複数の供給先にクーラントを給液する場合に、発生した異常に対する緊急度合に応じて適切に対処することができる工作機械のクーラント供給装置を提供する。
【解決手段】クーラントタンクからクーラントを供給するポンプと、第1圧力センサと、クーラントをワークの加工部を含む複数の供給先に供給する複数の分岐管及びバルブ機構と、前記ワークの加工部を供給先とする特定分岐管に設置した特定バルブ機構を開き、かつ、他のバルブ機構の少なくとも一つを閉じた特定供給状態で前記第1圧力センサの値が予め設定された第1許容圧力範囲から下方に逸脱した場合に、直ちに前記ワークの加工を停止する停止信号を出力する制御回路を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5