(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】X線コーンビームCT画像再構成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
A61B6/03 350K
A61B6/03 360T
(21)【出願番号】P 2019150024
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519300909
【氏名又は名称】中川 恵一
(72)【発明者】
【氏名】中川 恵一
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/063760(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0330233(US,A1)
【文献】国際公開第2013/089155(WO,A1)
【文献】Yusuke Nomura et al.,"Projection-domain scatter correction for cone beam computed tomography using a residual cobolutional neural network",Medical Physics,vol.46(7),2019年,pp.3142-3155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の患者のコーンビームCT画像を用いてコーンビームCT撮像時の各投影画像に混入する散乱線による各投影画像成分を計算する第1のステップと、前記多数の患者のコーンビームCT画像を入力訓練画像とし、前記計算された散乱線による各投影画像成分を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワークを設定し、前記多層ニューラルネットワークの深層学習を実施する第2のステップと、前記深層学習を実施した多層ニューラルネットワークに新規患者のコーンビームCT画像を入力することにより、前記新規患者の散乱線による各投影画像成分を予測する第3のステップと、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像を用いてコーンビームCT画像を再構成する第4のステップを有するX線コーンビームCT画像再構成方法
において、前記第4のステップにおける差分投影画像を計算する前に、ファントムを用いて第1のステップにおける散乱線による各投影画像成分をキャリブレーションすることを特徴とするX線コーンビームCT画像再構成方法。
【請求項2】
多数の患者のコーンビームCT画像を用いてコーンビームCT撮像時の各投影画像に混入する散乱線による各投影画像成分を計算する第1のステップと、前記多数の患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像を入力訓練画像とし、前記計算された散乱線による各投影画像成分を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワークを設定し、前記多層ニューラルネットワークの深層学習を実施する第2のステップと、前記深層学習を実施した多層ニューラルネットワークに新規患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像を入力することにより、前記新規患者の散乱線による各投影画像成分を予測する第3のステップと、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像を用いてコーンビームCT画像を再構成する第4のステップを有するX線コーンビームCT画像再構成方法
において、前記第4のステップにおける差分投影画像を計算する前に、ファントムを用いて第1のステップにおける散乱線による各投影画像成分をキャリブレーションすることを特徴とするX線コーンビームCT画像再構成方法。
【請求項6】
前記予測した新規患者の散乱線による各投影画像成分に前記キャリブレーション係数Aを乗算しキャリブレーションして、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による前記キャリブレーション後の各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することを特徴とする請求項1ないし請求項
5いずれかに記載のX線コーンビームCT画像再構成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線コーンビームCT画像再構成方法に関するもので、特に放射線治療装置に組み込まれたX線コーンビームCT装置を用いた画像再構成方法で、例えば適応型放射線治療を実施するための技術に関する。
【背景技術】
【先行技術文献】
【0002】
従来より患者体内の腫瘍を治療寝台上で位置決めすることを目的として、X線コーンビームCTを具備した放射線治療装置が知られている。詳細は、例えば特許文献1および対応日本出願である特許文献2に記載されている。体内の腫瘍は患者体表のマークでは高精度に位置決めすることが困難であり、リニアックなどの放射線治療装置にX線コーンビームCT装置を直交同軸配置した装置が放射線治療における位置決め精度向上に有効である。
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第6842502号公報
【文献】特許第5572103号公報
【文献】米国特許第8504361B2号公報
【文献】米国特許第6148272号公報
【文献】特許第3730514号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Wang A,Maslowski A,Wareing T,Star-Lack J,Schmidt TG.A fast,linear Boltzmann transport equation solver for computed tomography dose calculation(Acuros CTD).Med Phys.2019 Feb;46(2):925-933.
【文献】Wang A,Maslowski A,Messmer P,Lehmann M,Strzelecki A,Yu E,Paysan P,Brehm M,Munro P,Star-Lack J,Seghers D.Acuros CTS:A fast,linear Boltzmann transport equation solver for computed tomography scatter-Part II:System modeling,scatter correction,and optimization.Med Phys.2018 May;45(5):1914-1925.
【文献】Maslowski A,Wang A,Sun M,Wareing T,Davis I,Star-Lack J.Acuros CTS:A fast,linear Boltzmann transport equation solver for computed tomography scatter-Part I:Core algorithms and validation.Med Phys.2018 May;45(5):1899-1913.
【文献】Feldkamp L A,Davis L C and Kress J W 1984 Practical cone-beam algorithm J.Opt.Soc.Am.A 1 612-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線コーンビームCT装置に備えられたX線管で発生したX線は患者体内を直線的に通過して、投影画像を撮像する平面パネル面に配置された2次元検出器に到達するが、検出器には患者体内で散乱した散乱X線も混入する。後者の散乱X線による検出信号は、投影画像からコーンビームCT画像を再構成するためには不要であり、投影画像のコントラストを悪化させ、さらにコーンビームCT画像のコントラストを悪化させることが知られている。
【0006】
このような散乱線混入によるコーンビームCTの画質劣化は、軟組織の輪郭抽出を困難にすることが知られている。散乱線低減用のグリッドを用いることも報告されているが、グリッドだけでは、散乱抑制は高々50%程度であり、さらなる改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、多数の患者のコーンビームCT画像を用いてコーンビームCT撮像時の投影画像に混入する散乱線による投影画像成分を計算する第1のステップ、前記多数の患者のコーンビームCT画像を入力訓練画像とし、前記計算された散乱線による各投影画像成分を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワークを設定し、前記多層ニューラルネットワークの深層学習を実施する第2のステップ、前記深層学習を実施した多層ニューラルネットワークに新規患者のコーンビームCT画像を入力することにより、前記新規患者の散乱線による各投影画像成分を予測する第3のステップ、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による各投影画像成分を減算することにより得た差分投影画像を用いてコーンビームCT画像を再構成する第4のステップを有する。第1のステップにおける散乱線による各投影画像成分は、コーンビームCT装置に備えられたX線管で患者を照射する条件で、モンテカルロ計算またはボルツマン輸送方程式を用いてシミュレーション計算する。なお、散乱線低減用グリッドをコーンビームCT装置の平面検出器に設置してあらかじめ散乱の影響を近似的に半減しておくことも有効である。
【発明の効果】
【0008】
散乱線の影響を正確かつ高速に抑制できるため、毎回撮像するコーンビームCT画像のコントラストノイズ比が改善される。この結果、その日の腫瘍と注意臓器の輪郭を抽出して、治療直前にその日の解剖に合わせた最適な治療計画を短時間で実現できる。したがって、腫瘍や近傍の注意臓器が多数回の照射期間中に大きく変形・移動しても、腫瘍の局所制御性を高く維持しながら、同時に注意臓器の副作用がない安全な適応型放射線治療を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るX線コーンビームCT画像再構成方法の好適な実施形態について添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0010】
[1.本実施形態の構成]
図1は、放射線治療装置の外観図であり、治療用X線ビームを生成するガントリヘッド1、前記治療用X線ビームを腫瘍形状に整形するコリメータユニット3、ガントリヘッドを回転させる回転機構5、患者の病変部を前記治療用X線ビーム位置に位置決めする寝台7、コーンビームCT画像を得るためのX線管9と平面検出器11、治療用X線ビーム用の平面検出器13、装置の動作状況を表示する表示装置15を備えている。
【0011】
図2は、
図1で例示した放射線治療装置のブロック図である。高精度に位置決め可能な3軸または6軸駆動の寝台7上の患者22体内の腫瘍24を治療用ビーム20と位置合わせするために、X線コーンビームCT画像を利用する。X線管9から患者22に透視用X線コーンビーム26を照射し、散乱低減用のグリッド12を経て、平面検出器11に透視用X線が到達する。
図1の回転機構5でX線コーンビームの照射方向を回転しながら、例えばガントリ角1度ごとに平面検出器11で計測したX線投影画像を近似的に半回転、または1回転にわたり逆投影演算することにより、X線コーンビームCT画像を再構成することができる。一方、放射線治療開始より1週間程度前に治療計画用CT装置で撮像した患者CT画像を治療計画装置に転送し、腫瘍24や近傍の注意臓器の位置・形状を解析し、放射線治療計画を立案しておく。この治療計画で設定された腫瘍座標を前記X線コーンビームCT画像上に重ね合わせ表示することにより、治療計画通りに治療ビームを腫瘍に照射するために必要な寝台7の移動量が計算される。この結果、ガントリヘッド1の内部で発生した治療用X線ビームは、コリメータ3により、寝台7上の患者22内の腫瘍24の形状に合致したビーム20に整形され、腫瘍24に照射される。
[2.本実施形態の動作]
【0012】
図3は本実施形態に係るX線コーンビームCT画像再構成方法を説明するフローチャートである。第1のステップ(S1)で、多数の患者のコーンビームCT画像を用いてコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像に混入する散乱線による各投影画像成分をモンテカルロ法で計算する。コーンビームCT画像の画素値は密度や原子組成情報を与えないため、体内を水、空気、骨の3部位(あるいは、軟組織、空気、肺、骨の4部位)にセグメント化して、典型的な密度や原子組成比を与えることにより、モンテカルロ計算が可能である。次に、第2のステップ(S2)では、前記多数の患者のコーンビームCT画像を入力訓練画像とし、前記計算された散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワークを設定し、前記多層ニューラルネットワークの深層学習を実施する。第3のステップ(S3)では、前記深層学習を実施した多層ニューラルネットワークに新規患者のコーンビームCT画像を入力することにより、前記新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を予測する。第4のステップ(S4)では、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像を用いてコーンビームCT画像を再構成する。
【0013】
第1のステップ(S1)における散乱線による投影画像の導出においては、コーンビームCT装置に備えられたX線管で患者を照射する計算条件で、モンテカルロ計算またはボルツマン輸送方程式を用いてシミュレーションする。なお、多層ニューラルネットワークに入力訓練画像と出力訓練画像を深層学習して、新規入力画像を入力した時に、出力画像を予測する技術に類似する技術として、文字画像を入力画像、文字の認識ラベルを出力とした多層ニューラルネットワークを深層学習して、新規文字画像を入力したときに、その文字を認識する手法が特許文献3に記載されている。本発明でも、演算の詳細をブラックボックス化して、画像入力と画像出力を直接深層学習する手法を用いているが、数学的な処理内容は特許文献3に記載されている。さらに、モンテカルロ計算による体内線量計算方法の詳細は特許文献4およびその対応日本出願である特許文献5に記載されている。また、ボルツマン輸送方程式による線量計算方法の詳細は、非特許文献1ないし3に記載されている。投影画像からコーンビーム画像を再構成する計算方法については、非特許文献4に記載されている。これはフェルドカンプの投影再構成法と呼ばれている方法で、多方向からコーンビームで被験者を照射した時に得られる投影画像を逆投影して、3次元体積を再構成する方法であり、今や産業界で一般的に利用されている。
【0014】
図4にモンテカルロ法で散乱線による投影画像を計算する手順を示す。第1のステップ(ST1)で、コーンビームCT画像内を例えば空気、肺、軟組織、骨に分類し、各領域の密度を対応する計画CT画像におけるCT値、または計画CTのCT値にキャリブレーションされたコーンビームCT画像のボクセル値に基づいて、ボクセルごとに与える。第2のステップ(ST2)で、文献記載の例えば空気、肺、軟組織、骨の典型的な原子組成比を与える。第3のステップ(ST3)で、コーンビームCTのX線管から出射されるX線のエネルギーを指定して、モンテカルロ法でコーンビームCT体積画像を通過するコンプトン散乱線の輸送過程を計算し、出口側の平面検出器における前記散乱線による入射X線強度を計算する。使用したモンテカルロコードはEGSであるが、これ以外にもGEANTやPHITSなどのモンテカルロコードを使うことが可能である。
【0015】
図5は
図3のフローチャートの第2ステップS2で示した多層ニューラルネットワークの深層学習過程を示すブロック図である。多数の患者のコーンビームCT画像40を入力訓練画像とし、モンテカルロ計算またはボルツマン輸送方程式を用いて、例えばガントリ角1度ごとにシミュレーション計算した散乱線による各投影画像成分44を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワーク42を設定し、前記多層ニューラルネットワーク42の深層学習を実施する。
【0016】
図6に多層ニューラルネットワークの構成例を示す。
図6において、多層ニューラルネットワークは入力層、出力層、隠れ層から構成されており、隠れ層は通常4層以上の構造を有する。各層には入力と出力を結びつけるパーセプトロンが配置され、その重みが深層学習で最適化される。
【0017】
図7に
図6の構成例で示されたパーセプトロンを示す。入力xと出力yは、y=f(w
1x
1+w
2x
2+
…)+bの関係式で与えられる。fは活性化関数、bはバイアスである。入力と出力を多数与えて実行される深層学習の過程で、重み
wが反復計算で最適化される。この結果、入力を与えると、瞬時に出力を求めることができる。
【0018】
図8は学習後の多層ニューラルネットワークを用いて散乱の影響を抑制した投影画像およびX線コーンビームCT画像を計算する過程を示すブロック図である。深層学習を実施後の多層ニューラルネットワーク52に新規患者のコーンビームCT画像50を入力することにより、前記新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分54を予測する。さらに、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像50Aから前記予測した新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分54を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像56を用いてコーンビームCT画像58を再構成する。胸部領域に関して、
図8の50A,54、56の画像例を、それぞれ
図9、
図10、
図11に示す。さらに、
図12は本発明を腹部領域に適用した結果であり、左側は本発明を実施前のコーンビームCT画像で、右側は本発明による散乱除去後のコーンビームCT画像である。
図16は、モンテカルロ計算結果を実測値に対してキャリブレーションするフローチャートである。すなわち、モンテカルロ計算結果をキャリブレーションすることにより実測投影画像と計算された散乱線による投影画像の減算が可能になる。例えば固体ファントムを寝台に設置する第1のステップ、
図4のST3と同様に、コーンビームCTのX線管から出射されるX線のエネルギーを指定して、モンテカルロ法で前記ファントムを通過する直接線およびコンプトン散乱線を含むすべての反応過程を含む輸送過程を計算し、i,jを検出器上の空間座標とした時に、出口側の平面検出器における入射ビーム強度分布P(i,j)を計算する第2のステップ、平面検出器における入射ビーム強度分布Q(i,j)を実測し、QmとPmをそれぞれQ(i,j)、P(i,j)の空間平均として、キャリブレーション係数A=Qm/Pmを計算する第3のステップを有する。前記予測した新規患者の散乱線による各投影画像成分に前記キャリブレーション係数Aを乗算してキャリブレーションし、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による前記キャリブレーション後の各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算する。
【0019】
上記実施形態では、多層ニューラルネットワークの入力として、患者コーンビームCT画像を用いたが、これ以外に、患者コーンビームCT画像を再構成する時に利用した各方向からの投影画像を前記多層ニューラルネットワークの入力として利用しても良いので、次にこの実施形態について説明する。
【0020】
[3.他の実施形態の構成]
図13は本実施形態に係るX線コーンビームCT画像再構成方法を説明するフローチャートである。第1のステップ(S1)で、多数の患者のコーンビームCT画像を用いてコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像に混入する散乱線による各投影画像成分をモンテカルロ法で計算する。コーンビームCT画像の画素値は密度や原子組成情報を与えないため、体内を例えば、水、空気、骨にセグメント化して、典型的な密度や原子組成比を与えることにより、モンテカルロ計算が可能である。次に、第2のステップ(S2A)では、前記多数の患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像を入力訓練画像とし、前記計算された散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワークを設定し、前記多層ニューラルネットワークの深層学習を実施する。第3のステップ(S3A)では、前記深層学習を実施した多層ニューラルネットワークに新規患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像を入力することにより、前記新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を予測する。第4のステップ(S4)では、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像から前記予測した新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像を用いてコーンビームCT画像を再構成する。
【0021】
第1のステップ(S1)における散乱線による投影画像の導出においては、コーンビームCT装置に備えられたX線管で患者を照射する計算条件で、モンテカルロ計算またはボルツマン輸送方程式を用いてシミュレーションする。なお、先の実施形態と同様に、多層ニューラルネットワークに入力訓練画像と出力訓練画像を深層学習して、新規入力画像を入力した時に、出力画像を予測する技術に類似する技術として、文字画像を入力画像、文字の認識ラベルを出力とした多層ニューラルネットワークを深層学習して、新規文字画像を入力したときに、その文字を認識する手法が特許文献3に記載されている。本発明でも、演算の詳細をブラックボックス化して、画像入力と画像出力を直接深層学習する手法を用いているが、数学的な処理内容は特許文献3に記載されている。さらに、モンテカルロ計算による体内線量計算方法の詳細は特許文献4およびその対応日本出願である特許文献5に記載されている。また、ボルツマン輸送方程式による線量計算方法の詳細は、非特許文献1ないし3に記載されている。投影画像からコーンビーム画像を再構成する計算方法については、非特許文献4に記載されている。
【0022】
図14は
図13のフローチャートで示した多層ニューラルネットワークの深層学習過程を示すブロック図である。多数の患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像41を入力訓練画像とし、モンテカルロ計算またはボルツマン輸送方程式を用いて、例えばガントリ角1度ごとにシミュレーション計算した散乱線による各投影画像成分44を出力訓練画像とする多層ニューラルネットワーク42を設定し、前記多層ニューラルネットワーク42の深層学習を実施する。
【0023】
図15は学習後の多層ニューラルネットワークを用いて散乱の影響を抑制した投影画像およびX線コーンビームCT画像を計算する過程を示すブロック図である。深層学習を実施後の多層ニューラルネットワーク52に新規患者のコーンビームCT画像撮像時の各投影画像51を入力することにより、前記新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分54を予測する。さらに、前記新規患者のコーンビームCT撮像時の例えばガントリ角1度ごとの各投影画像51から前記予測した新規患者の散乱線による例えばガントリ角1度ごとの各投影画像成分54を近似的に同一なガントリ角のデータに対して減算することにより得た差分投影画像56を用いてコーンビームCT画像58を再構成する。減算前のモンテカルロ計算結果のキャリブレーションについては、第1の実施例で述べたとおりであり説明を省略するが、
図16記載の方法を用いればよい。
【0024】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態に係る放射線治療装置の外観図である。
【
図2】
図1で例示した放射線治療装置のブロック図である。
【
図3】本実施形態に係るX線コーンビームCT画像再構成方法を説明するフローチャート
【
図4】モンテカルロ法で体内で生成された散乱線による投影画像成分を計算するフローチャート
【
図5】多層ニューラルネットワークの深層学習を示すブロック図
【
図8】学習後の多層ニューラルネットワークを用いて散乱の影響を抑制した各投影画像成分を計算し、散乱を抑制したX線コーンビームCT画像を再構成する過程を示すブロック図
【
図10】
学習後の多層ニューラルネットワークから出力された散乱線による投影画像
【
図11】
図9のコーンビームCT画像の投影画像から
図10の散乱線による投影画像を減算して得られた散乱線の寄与を除去した投影画像
【
図12】腹部領域における本発明適用前のコーンビームCT画像(左)と本発明適用後のコーンビームCT画像(右)
【
図13】他の実施形態に係るX線コーンビームCT画像再構成方法を説明するフローチャート
【
図14】他の実施形態における多層ニューラルネットワークの深層学習を示すブロック図
【
図15】他の実施形態における学習後の多層ニューラルネットワークを用いて散乱の影響を抑制した各投影画像成分を計算し、散乱を抑制したX線コーンビームCT画像を再構成する過程を示すブロック図
【
図16】モンテカルロ計算結果を実測値に対してキャリブレーションするフローチャート
【符号の説明】
【0026】
1 ガントリーヘッド
3 コリメータ
5 ガントリー回転機構
7 寝台
9 X線管
11 平面検出器
12 グリッド
13 平面検出器
15 表示装置
20 治療用X線ビーム
22 患者
26 コーンビームCT撮像用コーンビーム
28 計算機
30 寝台移動用制御信号線
32 X線管制御用信号線
34 コーンビームCT撮像用信号線
36 平面パネル用信号線
38 治療用X線ビーム制御用信号線
40 訓練用の多数患者のコーンビームCT画像
41 訓練用の多数患者のコーンビームCT画像の投影画像
42 多層ニューラルネットワーク
44 訓練用の多数患者画像から計算した散乱線による各投影画像成分
50 新しい患者のコーンビームCT画像
50A 新しい患者のコーンビームCT画像の投影画像
51 新しい患者のコーンビームCT画像の投影画像
52 多層ニューラルネットワーク
54 多層ニューラルネットワークから出力された散乱線による各投影画像成分の予測値
56 散乱線を除去した各投影画像データ
58 散乱線を除去した投影画像から再構成されたコーンビームCT画像