(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】繊維複合材及び繊維複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/425 20120101AFI20220210BHJP
B27N 3/04 20060101ALI20220210BHJP
D04H 1/587 20120101ALI20220210BHJP
【FI】
D04H1/425
B27N3/04 B
D04H1/587
B27N3/04 D
(21)【出願番号】P 2017231533
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 元貴
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-174471(JP,A)
【文献】特開平08-011131(JP,A)
【文献】特開2015-048571(JP,A)
【文献】特開2007-056202(JP,A)
【文献】特開2018-176542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N1/00-9/00
B29B11/16
15/08-15/14
C08J5/04-5/10
5/24
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性繊維と高強力伸長繊維との混合繊維と、
前記混合繊維同士を結着する熱可塑性樹脂と、を含み、
前記高強力伸長繊維は、引張弾性率が前記熱可塑性樹脂より大きく、かつ、4000MPa以上であり、引張破断伸度が前記植物性繊維より大き
く、
前記高強力伸長繊維は、前記熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみを基準として±5%以内の引張破断伸度を有している繊維複合材。
【請求項2】
植物性繊維と高強力伸長繊維との混合繊維と、
前記混合繊維同士を結着する熱可塑性樹脂と、を含み、
前記高強力伸長繊維は、引張弾性率が前記熱可塑性樹脂より大きく、かつ、4000MPa以上であり、引張破断伸度が前記植物性繊維より大きく、
前記熱可塑性樹脂は、酸変性熱可塑性樹脂を含有する繊維複合材。
【請求項3】
前記混合繊維及び前記熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に、前記高強力伸長繊維が30質量%以下含まれている、請求項1又は請求項2に記載の繊維複合材。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の繊維複合材の製造方法であって、
前記植物性繊維と、前記高強力伸長繊維と、前記熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維とを混繊して繊維マットを得る繊維マット形成工程と、
前記繊維マットを、前記熱可塑性樹脂繊維が溶融する温度以上であって前記高強力伸長繊維が繊維状態を維持可能な温度で加熱する加熱工程と、を備える、繊維複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、繊維複合材及び繊維複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、植物性繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造の植物性繊維複合材の製造方法が開示されている。特許文献1に開示の植物性繊維複合材では、熱可塑性樹脂は、酸変性熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性の樹脂であることが記載されている。そして、特許文献1の植物性繊維複合材の製造方法によれば、従来と同等の機械的特性を得るために必要な目付を小さくすることができ、従来に比べて軽量な植物性繊維複合材を得ることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、繊維複合材に対するニーズが高まっており、繊維複合材には種々の性能が高い水準で求められている。そして、特許文献1に開示の植物性繊維複合材のような植物性繊維を含む繊維複合材の更なる軽量化を推進するうえで、繊維複合材の剛性を確保しつつ、耐衝撃性を向上する技術が求められている。
【0005】
本明細書に開示の技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、繊維複合材の剛性を確保しつつ、耐衝撃性を向上可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、植物性繊維と熱可塑性樹脂との接着性が良好な繊維複合材において、植物性繊維の引張弾性率の高さが繊維複合材の剛性向上に寄与する一方、その背反として、繊維複合材の耐衝撃性の低下を招来する点に着目した。そして、そのような繊維複合材では、植物性繊維と熱可塑性樹脂との接着性が高いがゆえに、植物性繊維の引張破断伸度より引張破壊呼びひずみが大きい熱可塑性樹脂の伸び特性を活かせず、繊維複合材の引張破断伸度が植物性繊維の引張破断伸度に近い水準に制限されているのではないかとの仮説に立ち、鋭意検討を重ね、本明細書に開示の技術を開発するに至った。
【0007】
上記課題を解決するために、本願明細書に開示の繊維複合材は、植物性繊維と高強力伸長繊維との混合繊維と、前記混合繊維同士を結着する熱可塑性樹脂と、を含み、前記高強力伸長繊維は、引張弾性率が前記熱可塑性樹脂より大きく、かつ、4000MPa以上であり、引張破断伸度が前記植物性繊維より大きい構成である。
【0008】
このような繊維複合材によれば、植物性繊維を含むことによる高い剛性を確保しつつ、植物性繊維が破断した後も、引張破断伸度が植物性繊維より大きい高強力伸長繊維が熱可塑性樹脂の伸びに追従して伸びることにより、繊維複合材の引張破断伸度を高めることができる。この結果、相反する課題である剛性の確保と引張破断伸度の向上とを両立して、耐衝撃性に優れた繊維複合材を得ることができる。
【0009】
上記繊維複合材において、前記高強力伸長繊維は、前記熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみを基準として±5%以内の引張破断伸度を有する構成であってもよい。高強力伸長繊維が熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみの-5%より高い引張破断伸度を有していることにより、例えば、これよりも低い引張破断伸度を有する場合に比して、高強力伸長繊維が熱可塑性樹脂の伸びに十分に追従して伸びる繊維複合材の構造を実現することができる。また、高強力伸長繊維が熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみの+5%より低い引張破断伸度を有していることにより、高強力伸長繊維の引張弾性率を十分なものとし易く、繊維複合材の引張弾性率を高めるうえで好適である。
【0010】
上記繊維複合材において、前記混合繊維及び前記熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に、前記高強力伸長繊維が30質量%以下含まれている構成であってもよい。植物性繊維を含む繊維複合材の軽量かつ高剛性である性質を確保するために、繊維複合材における植物性繊維の含有量を低減することは好ましくない。このため、仮に、高強力伸長繊維を30質量%より多く含む繊維複合材では、熱可塑性樹脂の含有量を低下させざるを得ない。しかしながら、繊維複合材において熱可塑性樹脂の含有量を低下させると、熱可塑性樹脂により混合繊維同士を十分に結着することが難しくなり、繊維複合材の成形性が悪化する。本願発明者は、鋭意研究した結果、高強力伸長繊維の含有量を30質量%以下とした場合であっても、十分な耐衝撃性を有する繊維複合材を得ることができるとの知見を得た。そして、高強力伸長繊維の含有量を30質量%以下とすることで、植物性繊維及び熱可塑性樹脂の含有量が十分である繊維複合材を開発するに至った。つまり、上記のような構成によれば、軽量かつ高剛性で、成形性が良好な性質を有しつつ、耐衝撃性に優れた繊維複合材を得ることができる。
【0011】
上記繊維複合材において、前記熱可塑性樹脂は、酸変性熱可塑性樹脂を含有していてもよい。このような構成によれば、酸変性熱可塑性樹脂を含有しない熱可塑性樹脂のみを含む繊維複合材に比べて、熱可塑性樹脂と植物性繊維との接着性を向上することができ、繊維複合材の剛性を好適に向上することができる。そのうえで、熱可塑性樹脂と植物性繊維との接着性が高いことに起因して、繊維複合材の引張破断伸度が低下する事態を、高強力伸長繊維を含むことで抑制することができる。この結果、繊維複合材の剛性の確保と耐衝撃性の向上を、好適に両立することができる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本願明細書に開示の繊維複合材の製造方法は、上記繊維複合材の製造方法であって、前記植物性繊維と、前記高強力伸長繊維と、前記熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維とを混繊して繊維マットを得る繊維マット形成工程と、 前記繊維マットを、前記熱可塑性樹脂繊維が溶融する温度以上であって前記高強力伸長繊維が繊維状態を維持可能な温度で加熱する加熱工程と、を備える。
【0013】
このような繊維複合材の製造方法によれば、例えば、高強力伸長繊維を含まない従来の繊維複合材の製造方法において、繊維マット形成工程で高強力伸長繊維を追加して植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維とともに混繊し、加熱工程の加熱温度を適宜設定することにより繊維複合材を製造することができる。このため、従来製法と同等の工数及び設備で、従来製法で製造した製品より耐衝撃性に優れた繊維複合材を得ることができ、また、耐衝撃性を向上するために、従来製法の後工程で製品に飛散防止フィルムを貼り付ける方法等のように追加加工の必要もない。この結果、工数を増大させることなく、耐衝撃性に優れた繊維複合材を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に開示の技術によれば、繊維複合材の剛性を確保しつつ、耐衝撃性を向上可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る繊維複合材を模式的に示す図
【
図4】比較例及び実施例における繊維複合材の引張弾性率、引張破断伸度、シャルピー衝撃強度、及び耐衝撃性を示す表
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態を
図1ないし
図4によって説明する。本実施形態では、繊維複合材10として、乗物用内装材に用いられるものについて例示する。繊維複合材10としては、その耐衝撃性に優れる点において、乗員の側方に配される車両用ドアトリムや、乗員の前方に配されるインストルメントパネル等に好適に用いることができる。
【0017】
繊維複合材10は、
図1に示されるように、植物性繊維21と高強力伸長繊維23との混合繊維20と、混合繊維20同士を結着する熱可塑性樹脂30と、を含んでいる。繊維複合材10は、熱可塑性樹脂30を母材とし、混合繊維20を補強繊維とする繊維強化樹脂の構造を有している。繊維複合材10は、例えばプレス成形により成形されたボード状をなし、植物性繊維21及び高強力伸長繊維23が交絡しつつ、概ね板面方向に沿って延びるような配向性を有している。本願において、繊維複合材10の引張特性については、特に断りがない限り、JIS K7161に準拠した試験方法で測定したものとし、繊維単体の引張特性については、特に断りがない限り、JIS L1013に準拠した試験方法で測定したものとする。以下、繊維複合材10の母材である熱可塑性樹脂30について説明した後に、植物性繊維21と高強力伸長繊維23について順次に説明する。
【0018】
熱可塑性樹脂30は、熱可塑性であること以外特に限定されず、種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂(メタクリレート及び/又はアクリレート等を用いて得られた樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂及びABS樹脂などが挙げられる。このうち、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体)などが挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂、並びに、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本実施形態では、熱可塑性樹脂30として、酸変性熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性の樹脂を例示する。以下、熱可塑性樹脂のうち、酸変性熱可塑性樹脂を除く他の熱可塑性樹脂を非酸変性熱可塑性樹脂ともいう。酸変性熱可塑性樹脂は、酸変性により酸変性基が導入された熱可塑性樹脂である。この熱可塑性樹脂に導入された酸変性基の種類は特に限定されないが、通常、無水カルボン酸残基(-CO-O-OC-)及び/又はカルボン酸残基(-COOH)である。酸変性基はどのような化合物により導入されたものであってもよく、その化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、無水マレイン酸及び無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0020】
更に、酸変性熱可塑性樹脂の骨格となる熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂(メタクリレート及び/又はアクリレート等を用いて得られた樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂及びABS樹脂などが挙げられる。このうち、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体などが挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂、並びに、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0021】
酸変性熱可塑性樹脂の骨格となる熱可塑性樹脂と、非酸変性熱可塑性樹脂と、は同種であってもよく、異種であってもよいが、同じであることが好ましく、更には、共にポリオレフィンであることが好ましい。ポリオレフィンは、取扱いが容易であり、生産性を向上させることができる。また、高い柔軟性と優れた賦形性が得られる。ポリオレフィンのなかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、及びポリプロピレンとポリエチレンとの混合樹脂(アロイ)が好ましい。更には、非酸変性熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン又は上記混合樹脂が特に好ましく、酸変性熱可塑性樹脂の骨格となる熱可塑性樹脂としてはポリプロピレンが特に好ましい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂30の全体を100質量%とした場合、上記酸変性熱可塑性樹脂の割合は15質量%以下(通常0.3質量%以上)であることが好ましい。この範囲の配合量であれば、スムーズな紡糸を行うことができると共に、非酸変性熱可塑性樹脂との併用により、得られる成形体(繊維複合材10)の機械的特性を効果的に向上させることができる。この配合量は、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~7質量%が特に好ましく、3~7質量%がとりわけ好ましい。これら各々好ましい範囲では、各々更に優れた上記効果を得ることができる。
【0023】
本実施形態では、熱可塑性樹脂30として、ポリプロピレン(以下、非酸変性PPと称する)と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(以下、酸変性PPと称する)とを含み、引張弾性率が1000~1800MPa程度であり、引張破壊呼びひずみが20%程度のものを例示する。
【0024】
繊維複合材10は、混合繊維20及び熱可塑性樹脂30の合計を100質量%とした場合に、植物性繊維21が30~95質量%含まれている。この範囲では、繊維複合材10において優れた賦形性が得られる共に、繊維複合材10の軽量化及剛性の確保に寄与することができる。植物性繊維21の含有量は、混合繊維20及び熱可塑性樹脂30の合計を100質量%とした場合に、40~85質量%がより好ましく、45~75質量%が特に好ましい。これらの範囲では各々更に優れた効果が得られる。
【0025】
植物性繊維21は、植物に由来する繊維である。植物性繊維21としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた繊維が挙げられる。この植物性繊維は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかではケナフが好ましい。ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できるからである。また、上記植物性繊維として用いる植物体の部位は特に限定されず、繊維を採取できればよく、非木質部、茎部、根部、葉部及び木質部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0026】
植物性繊維21の平均繊維長及び平均繊維径等は特に限定されないが、平均繊維長は、10mm以上が好ましい。この範囲の植物性繊維を用いることで、混合繊維20同士(植物性繊維21及び高強力伸長繊維23)を混繊し易く(特に、絡み合いを形成し易く)、また、後述する熱可塑性樹脂繊維31とも混繊し易く、得られる繊維複合材10において優れた機械的特性が発揮される。この平均繊維長は10~150mmがより好ましく、20~100mmが更に好ましく、30~80mmが特に好ましい。各々範囲では上記効果を更に向上させることができる。なお、この平均繊維長は、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、伸張させずにまっすぐに伸ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。
【0027】
また、植物性繊維21は、平均繊維径が1mm以下が好ましい。この範囲の平均繊維径の熱可塑性樹脂繊維を用いることで、得られる繊維複合材10において優れた機械的特性が発揮される。この平均繊維径は0.01~1mmがより好ましく、0.05~0.7mmが更に好ましく、0.07~0.5mmが特に好ましい。各々範囲では上記効果を更に向上させることができる。なお、この繊維径は、繊維長を測定した当該植物性繊維について、繊維の長さ方向の中央における繊維径を、光学顕微鏡を用いて測定した値(t)である。
【0028】
植物性繊維21は、引張弾性率が好ましくは10000~40000MPa程度であり、後述する熱可塑性樹脂30に比べて大きい引張弾性率を有している。「繊維複合材」の弾性率は、一般的に、構成部材の体積率に各部材の引張弾性率を乗じた値の合算値として表される。このため、熱可塑性樹脂30に比して、高い引張弾性率を有する植物性繊維21は、繊維複合材10の引張弾性率向上に寄与し得る。一方、植物性繊維21は、引張破断伸度がおよそ2.5%程度であり、熱可塑性樹脂30の引張破壊呼びひずみに比べて小さい引張破断伸度を有している。
【0029】
繊維複合材10は、混合繊維20及び熱可塑性樹脂30の合計を100質量%とした場合に、高強力伸長繊維23が30質量%以下含まれている。この高強力伸長繊維23の含有量の上限値は、繊維複合材10の軽量化及び成形性の観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、高強力伸長繊維23の含有量は、耐衝撃性を満足し得る範囲内でより少ない方が好ましく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であっても十分な耐衝撃性が得られる。また、本願発明者が鋭意研究した結果、高強力伸長繊維23の含有量は少量でも、繊維複合材10のシャルピー衝撃強度を向上する効果が得られることがわかった。このため、繊維複合材10における高強力伸長繊維23の含有量は特にその下限値を定めるものではないが、例えば、高強力伸長繊維23の含有量を2質量%以上とすることにより、好適に乗物用内装材等に用いることができる。また、本願発明者は、酸変性PPを含有する繊維複合材10であっても、高強力伸長繊維23の含有量が1.8質量%程度において、非酸変性PPのみからなる繊維複合材(後述する比較例2)と同等の耐衝撃性を発揮し得るとの知見を得た。このため、酸変性熱可塑性樹脂を含有する繊維複合材における剛性の確保と耐衝撃性の両立という観点においても、2質量%以上とすることが好ましいと言える。さらに、高強力伸長繊維23の含有量の下限値は、繊維複合材10の軽量化及び耐衝撃性の観点から、5質量%以上がより好ましく、9質量%以上が特に好ましい。また、高強力伸長繊維23の含有量は、植物性繊維21の含有量との比較では、植物性繊維21の含有量より少ないことが好ましく、植物性繊維21の含有量の6割以下とされることがより好ましい。
【0030】
高強力伸長繊維23は、引張弾性率が熱可塑性樹脂30より大きく、かつ、4000MPa以上であり、植物性繊維21より引張破断伸度が大きい構成である。高強力伸長繊維23としては、上記引張弾性率及び引張破断伸度を有するものであれば、無機繊維、有機繊維等の種別は問わないが、合成繊維、特に熱可塑性樹脂繊維を好適に用いることができる。熱可塑性樹脂繊維によれば、母材となる熱可塑性樹脂30の引張破壊呼びひずみ及び引張弾性率を勘案して、その引張破断伸度及び引張弾性率をバランスよく設計することができ好適である。また、高強力伸長繊維23は、成形性の観点から、熱可塑性樹脂30の溶融温度において溶融しない、つまり、熱可塑性樹脂30の溶融温度より高い溶融温度を有するか、高温下で溶融しない繊維では熱可塑性樹脂30の溶融温度より高い分解温度を有するものが好ましい。
【0031】
高強力伸長繊維23としては、高強力ポリエステル繊維(高強力ポリエチレンテレフタラート繊維など、以下、PET繊維と称する)、芳香族ポリアミド繊維(メタ型アラミド繊維など)、脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46など)を例示することができる。ポリアミド繊維としては、脂肪族ポリアミド繊維よりも高耐熱性の芳香族ポリアミド繊維がより好ましい。また、繊維複合材10の生産性の観点から、一般的にポリアミド繊維より廉価なPET繊維が特に好ましい。PET繊維としては、非強化のポリエチレンテレフタラート樹脂(引張弾性率:3000~3700MPa程度)より引張弾性率が高い、エアバッグやシートベルト等にも用いられる高強力繊維を好適に用いることができる。
【0032】
高強力伸長繊維23の平均繊維長及び平均繊維径等は特に限定されないが、平均繊維長は、10mm以上が好ましい。この範囲の植物性繊維を用いることで、混合繊維20同士(植物性繊維21及び高強力伸長繊維23)を混繊し易く(特に、絡み合いを形成し易く)、また、後述する熱可塑性樹脂繊維31とも混繊し易く、得られる繊維複合材10において優れた機械的特性が発揮される。この平均繊維長は10~150mmがより好ましく、20~100mmが更に好ましく、30~70mmが特に好ましい。各々範囲では上記効果を更に向上させることができる。一方、上記平均繊維径は、1mm以下が好ましい。この範囲の平均繊維径の熱可塑性樹脂繊維を用いることで、得られる繊維複合材10において優れた機械的特性が発揮される。この平均繊維径は0.01~1mmがより好ましく、0.05~0.7mmが更に好ましく、0.07~0.5mmが特に好ましい。各々範囲では上記効果を更に向上させることができる。尚、平均繊維長及び平均繊維径等の測定方法については植物性繊維における方法をそのまま適用する。
【0033】
高強力伸長繊維23の繊度等は特に限定されないが、1~100dtexであることが好ましい。この範囲では、植物性繊維との混繊を行いやすく、混繊工程で得られる繊維混合物内において、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とをより均一に分散させて含有させることができる。この繊度は、1~50dtexがより好ましく、1~20dtexが更に好ましく、3~10dtexが特に好ましい。これら各々好ましい範囲では、各々更に優れた上記効果を得ることができる。
【0034】
高強力伸長繊維23は、好ましくは4000~20000MPa程度、より好ましくは8000~20000MPa程度、特に好ましくは12000~20000MPa程度の引張弾性率を有するものとすることができる。高強力伸長繊維23の引張弾性率の上限値は特に定めるものではないが、繊維複合材10の引張弾性率が植物性繊維21により十分に確保されている構造上、高強力伸長繊維23の引張弾性率は、その引張破断伸度とのバランスを勘案して、熱可塑性樹脂30の引張弾性率より大きく植物性繊維21の引張弾性率より小さい値、例えば、その中間的な値のものとすることができる。
【0035】
高強力伸長繊維23は、好ましくは4%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上の引張破断伸度を有している。この範囲によれば、繊維複合材10の引張破断伸度、ひいては、耐衝撃性を好適に向上することができる。また、高強力伸長繊維23は、熱可塑性樹脂30の引張破壊呼びひずみを基準として±5%以内の引張破断伸度を有している。このような範囲内によれば、熱可塑性樹脂30の降伏点での伸びに追従して、高強力伸長繊維23が伸びる構造となるため、繊維複合材10引張破断伸度を飛躍的に上昇させることができる。
【0036】
続いて、繊維複合材10の製造方法について説明する。繊維複合材10の製造方法は、植物性繊維21と、高強力伸長繊維23と、熱可塑性樹脂30からなる熱可塑性樹脂繊維31とを混繊して、繊維マット11を得る繊維マット形成工程と、繊維マット11を、熱可塑性樹脂繊維31が溶融する温度以上であって高強力伸長繊維23が繊維状態を維持可能な温度で加熱する加熱工程と、を備える。植物性繊維21、高強力伸長繊維23、及び熱可塑性樹脂繊維31の各々は、公知またはそれに準ずる方法で製造したもの、あるいは、市販の繊維を適宜使用することができる。また、熱可塑性樹脂繊維31の平均繊維長及び平均繊維径、並びに繊度については高強力伸長繊維23と同等のものを用いることができる。
【0037】
上記「混繊」とは、植物性繊維21、高強力伸長繊維23、及び熱可塑性樹脂繊維31の繊維どうしを混合して繊維混合物(例えば、マット状物など)を得ることを意味する。この際の混繊方法は特に限定されず種々の方法を用いることができ、通常、乾式法又は湿式法が用いられるが、このうち乾式法が好ましい。本実施形態では、吸湿性を有する植物性繊維21を用いるために、湿式法(抄紙法など)を用いると高度な乾燥工程を要することになるため、より簡略に製造できる乾式法が好ましい。上記乾式法としては、エアーレイ法及びカード法などが挙げられ、以下、カード法による繊維マット形成工程について説明する。
【0038】
繊維マット形成工程では、
図2に示されるように、植物性繊維21、高強力伸長繊維23、及び熱可塑性樹脂繊維31を所定の配合比率で混合し、繊維供給部41に投入する。繊維供給部41に投入された各繊維21,23,31は、繊維供給部41からカード機43へ連続的に供給されてウェブにされる。その後、このウェブが交絡手段(ニードルパンチ装置)45で交絡され、次いで、カッター47により裁断されて、繊維マット11が得られる。本明細書に開示の技術では、繊維複合材10の耐衝撃性を高めるための構造として、繊維状の高強力伸長繊維23を含む構造を採用することで、従来の繊維複合材の製造に用いられるカード機43等を利用して、繊維マット11を形成することができる。
【0039】
この繊維マット11の密度、目付及び厚さ等は特に限定されるものではないが、通常、密度は0.3g/cm3以下(通常0.05g/cm3以上)である。また、目付は400~3000g/m2(好ましくは600~2000g/m2)である。更に、厚さは10mm以上(通常50mm以下、好ましくは10~30mm、より好ましくは15~40mm)である。尚、上記密度はJIS K7112(プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法)に準じて測定される値である。また、上記目付は、含水率10%における1m2あたりの質量である。
【0040】
加熱工程では、繊維マット11内の熱可塑性樹脂繊維31を溶融して、植物性繊維21と高強力伸長繊維23との混合繊維20同士を熱可塑性樹脂30により結着する。この加熱工程における加熱温度は、高強力伸長繊維23として、PET繊維を用いる場合には、PET繊維の溶融温度より低い温度に設定されている。この加熱温度は、PET繊維の引張弾性率を好適に維持するために、その溶融温度より-5℃以下に設定されることが好ましく、-10℃以下に設定されることがより好ましい。熱可塑性樹脂繊維31を構成している熱可塑性樹脂30が、ポリプロピレンと無水マレイン酸ポリプロピレンからなる場合には、加熱温度は、170~240℃とすることが好ましく、200~210℃がより好ましい。
【0041】
加熱工程は、上記加熱だけを行ってもよいが、同時に(例えば、熱間プレス成形法)又は加熱の後に圧縮を行う(例えば、冷間プレス成形法)ことが好ましい。圧縮を行うことで圧縮を行わない場合に比べて、より強固に混合繊維20同士を熱可塑性樹脂30により結着することができる。この圧縮を行う際の加圧圧力は特に限定されないが1~10MPaとすることが好ましく、1~5MPaとすることがより好ましい。また、この圧縮を行う場合には、その際に同時に賦形を行うことができる。圧縮に成形型(後述する熱板51,51や金型54,55等)を用いることで、板状及びその他の各種形状へ成形を行うことができる。上記板状に賦形を行った場合には、そのまま用いることもできるが、板状のプレボード13に更に本成形を施して、最終形態を得ることもできる。つまり、プレボード13を成形する予備成形工程と、最終形状へ賦形する本成形工程と、を備えることができる。以下、冷間プレス成形法による加熱工程について説明する。
【0042】
加熱工程では、
図3に示されるように、繊維マット11を熱板51,51により加熱圧縮する。そして、内部の熱可塑性樹脂30が溶融した状態のプレボード13を成形装置53の金型54と金型55との間に配置し、金型54と金型55を型閉じする。これにより、繊維マット11が金型54と金型55によってプレスされ、内部の熱可塑性樹脂30が冷却し、固化すると、キャビティの形状に賦形された繊維複合材10が得られる。
【0043】
続いて、本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態によれば、植物性繊維21を含むことによる高い剛性を確保しつつ、植物性繊維21が破断した後も、引張破断伸度が植物性繊維21より大きい高強力伸長繊維23が熱可塑性樹脂30の伸びに追従して伸びることにより、繊維複合材10の引張破断伸度を高めることができる。この結果、相反する課題である剛性の確保と引張破断伸度の向上とを両立して、耐衝撃性に優れた繊維複合材10を得ることができる。
【0044】
また、本実施形態では、高強力伸長繊維23は、熱可塑性樹脂30の引張破壊呼びひずみを基準として±5%以内の引張破断伸度を有している。高強力伸長繊維23が熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみの-5%より高い引張破断伸度を有していることにより、例えば、これよりも低い引張破断伸度を有する場合に比して、高強力伸長繊維23が熱可塑性樹脂30の伸びに十分に追従して伸びる繊維複合材10の構造を実現することができる。また、高強力伸長繊維23が熱可塑性樹脂30の引張破壊呼びひずみの+5%より低い引張破断伸度を有していることにより、高強力伸長繊維23の引張弾性率を十分なものとし易く、繊維複合材10の引張弾性率を高めるうえで好適である。
【0045】
また、本実施形態では、混合繊維20及び熱可塑性樹脂30の合計を100質量%とした場合に、高強力伸長繊維23が30質量%以下含まれている。植物性繊維21を含む繊維複合材10の軽量かつ高剛性である性質を確保するために、繊維複合材10における植物性繊維21の含有量を低減することは好ましくない。このため、仮に、高強力伸長繊維23を30質量%より多く含む繊維複合材では、熱可塑性樹脂30の含有量を低下させざるを得ない。しかしながら、繊維複合材10において熱可塑性樹脂30の含有量を低下させると、熱可塑性樹脂30により混合繊維20同士を十分に結着することが難しくなり、繊維複合材10の成形性が悪化する。本願発明者は、鋭意研究した結果、高強力伸長繊維23の含有量を30質量%以下とした場合であっても、十分な耐衝撃性を有する繊維複合材10を得ることができるとの知見を得た。そして、高強力伸長繊維23の含有量を30質量%以下とすることで、植物性繊維21及び熱可塑性樹脂30の含有量が十分である繊維複合材10を開発するに至った。つまり、上記のような構成によれば、軽量かつ高剛性で、成形性が良好な性質を有しつつ、耐衝撃性に優れた繊維複合材10を得ることができる。
【0046】
また、本実施形態では、熱可塑性樹脂30は、酸変性熱可塑性樹脂を含有している。このため、酸変性熱可塑性樹脂を含有しない熱可塑性樹脂のみを含む繊維複合材に比べて、熱可塑性樹脂30と植物性繊維21との接着性を向上することができ、繊維複合材10の剛性を好適に向上することができる。そのうえで、熱可塑性樹脂30と植物性繊維21との接着性が高いことに起因して、繊維複合材10の引張破断伸度が低下する事態を、高強力伸長繊維23を含むことで抑制することができる。この結果、繊維複合材10の剛性の確保と耐衝撃性の向上を、好適に両立することができる。
【0047】
また、本実施形態の繊維複合材10の製造方法によれば、例えば、高強力伸長繊維23を含まない従来の繊維複合材の製造方法において、繊維マット形成工程で高強力伸長繊維23を追加して植物性繊維21及び熱可塑性樹脂繊維31とともに混繊し、加熱工程の加熱温度を適宜設定することにより繊維複合材10を製造することができる。このため、従来製法と同等の工数及び設備で、従来製法で製造した製品より耐衝撃性に優れた繊維複合材10を得ることができ、また、耐衝撃性を向上するために、従来製法の後工程で製品に飛散防止フィルムを貼り付ける方法等のように追加加工の必要もない。この結果、工数を増大させることなく、耐衝撃性に優れた繊維複合材10を製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に 限定されるものではない。
[1]実施例1~5(高強力伸長繊維の含有量が異なる繊維複合材の製造)
ケナフ繊維、高強力伸長繊維及び熱可塑性樹脂繊維の合計を100質量%とした場合に、ケナフ繊維が50質量%、高強力伸長繊維が5~25質量%、残部が熱可塑性樹脂繊維となるように混合し、カード法により繊維マットを作成した。ケナフ繊維は、平均繊維長が70mmのものを用いた。高強力伸長繊維は、繊度6.6dtex、平均繊維長51mmの、下記のPET繊維(実施例1~4)またはメタ型アラミド繊維(実施例5)を用いた。熱可塑性樹脂繊維は、繊度6.6dtex、平均繊維長51mmの、下記の非酸変性PP(47.5質量部)と酸変性PP(2.5質量部)を含む熱可塑性樹脂からなるものを用いた。実施例1~5における各繊維の配合割合は、
図4の表に示すとおりとした。
(1)高強力伸長繊維
PET繊維:引張弾性率10000MPa、引張破断伸度18%、溶融温度260℃
メタ型アラミド繊維:引張弾性率8800MPa、引張破断伸度40%、分解温度415℃
(2)熱可塑性樹脂
非酸変性PP:商品名「ノバテックSA01」(日本ポリプロ株式会社製)
酸変性PP:商品名「ユーメックス1001」(三洋化成工業株式会社製)
【0049】
(1)で得られた繊維マットを235℃に加熱した熱板を用いて、内部温度が210℃となるまで加熱圧縮し、得られたプレボードを内部の熱可塑性樹脂が溶融した状態で、成形装置を用いて内部温度が25℃になるまで60秒間冷却プレスし、目付1.5kg/m2、厚さ約2.5mmのボード状の繊維複合材を得た。
【0050】
[2]比較例1,2(高強力伸長繊維を含まない繊維複合材の製造)
比較例1は、高強力伸長繊維を混合しないこと以外は、上記[1]と同様にして繊維複合材を得た。比較例2は、高強力伸長繊維を混合せず、かつ、熱可塑性樹脂として酸変性PPを含まずに非酸変性PPのみを含むものを用いたこと以外は、上記[1]と同様にして繊維複合材を得た。
【0051】
[3]実施例1~5及び比較例1,2の繊維複合材における引張弾性率及び引張破断伸度の測定
上記[1][2]で得られた繊維複合材について、JIS K7161に準拠して、引張弾性率及び引張破断伸度を測定した。その結果を
図4の表に示す。
【0052】
[4]実施例1~5及び比較例1,2の繊維複合材におけるシャルピー衝撃強度の測定
上記[1][2]で得られた繊維複合材について、JIS K7111-1に準拠してシャルピー衝撃強度の測定を行った。その結果を
図4の表に示す。なお、このシャルピー衝撃強度の測定では、ノッチ(タイプA)を有する試験片を用い、温度23℃において、エッジワイズ試験法による衝撃の測定を行った。
【0053】
[4]実施例1~5及び比較例1,2における耐衝撃性の評価
続いて、上記[1][2]で得られた繊維複合材について、次のような基準によりランク付けして耐衝撃性の評価をした。その結果を
図4の表に示す。
◎:シャルピー衝撃強度が30kJ/m
2以上である
〇:シャルピー衝撃強度が25kJ/m
2以上30kJ/m
2未満である
△:シャルピー衝撃強度が20kJ/m
2以上25kJ/m
2未満である
×:シャルピー衝撃強度が20kJ/m
2未満である
【0054】
[5]考察
まず、熱可塑性樹脂に酸変性PPを含有する比較例1では、熱可塑性樹脂に酸変性PPを含まない比較例2に比して、引張弾性率は向上するものの、引張破断伸度が低下するとともにシャルピー衝撃強度が低下していることが確認できた。これは、酸変性PPとケナフ繊維との接着性が、非酸変性PPとケナフ繊維との接着性より高いために、比較例1では、比較例2に比して熱可塑性樹脂とケナフ繊維との接着性が向上したためと考えられる。耐衝撃性に関しては、力を受けた際の伸びが重要な指標となるが、比較例1では、比較例2に比して繊維複合材の引張破断伸度がケナフ繊維の引張破断伸度により制限され易く、熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみを十分に活かすことなく破断して、そのシャルピー衝撃強度が低下したものと推察し得る。
【0055】
一方、実施例1~実施例4では、高強力伸長繊維としてPET繊維を含有することで、比較例1に比して、引張破断伸度が飛躍的に向上し、これに伴ってシャルピー衝撃強度が向上することが確認できた。特に、実施例3及び実施例4のように、PET繊維の含有割合が15質量%以上では、比較例1に比して、引張破断伸度が10倍以上、シャルピー衝撃強度が約3.5倍以上と、大きく向上することが確認できた。さらに、実施例1のように、PET繊維の含有量が5質量%程度の比較的少量の場合であっても、比較例1に比してシャルピー衝撃強度が2倍以上となることが確認でき、本願明細書に開示の技術によれば、熱可塑性樹脂の含有量を低下させて繊維複合材の成形性等を損なうことなく、繊維複合材の耐衝撃性を効果的に向上可能であることが確認できた。
【0056】
また、実施例5では、高強力伸長繊維としてメタ型アラミド繊維を含有する場合であっても、実施例1~4と同様に、比較例1に比して、引張破断伸度が飛躍的に向上し、これに伴ってシャルピー衝撃強度が向上することが確認できた。つまり、高強力伸長繊維としては、特定の材質のものによらず、種々の繊維を用いた場合であっても、繊維複合材の耐衝撃性を向上する効果が期待できることが確認できた。
【0057】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、熱可塑性樹脂として、酸変性熱可塑性樹脂を含むものを例示したが、これに限られない。例えば、熱可塑性樹脂は、酸変性熱可塑性樹脂を含んでいないものであっても、高強力伸長繊維を含むことによる耐衝撃性の向上の効果を奏する。
(2)上記実施形態では、高強力伸長繊維が熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみを基準として±5%以内の引張破断伸度を有しているものを例示したが、これに限られない。例えば、高強力伸長繊維の引張破断伸度は、熱可塑性樹脂の引張破壊呼びひずみや植物性繊維の引張破断伸度に応じて、適宜設定可能である。
(3)上記実施形態以外にも、植物性繊維、高強力伸長繊維、熱可塑性樹脂の含有量は適宜変更可能である。また、繊維複合材は、上記以外の他の成分を更に含んで構成されていても構わない。
(4)上記実施形態以外にも、繊維複合材は、種々の材質の材料を用いて、様々な製造方法により製造することができる。
(5)上記実施形態では、繊維複合材及びその製造方法として、乗物用内装材及びその製造方法を例示したが、繊維複合材は、自動車関連分野以外にも建築関連分野などにおいて広く利用することができる。特に自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等に好適であり、なかでも自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等に好適である。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材にも好適である。具体的には、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等としても好適である。
【符号の説明】
【0058】
10…繊維複合材、11…繊維マット、20…混合繊維、21…植物性繊維、23…高強力伸長繊維、30…熱可塑性樹脂、31…熱可塑性樹脂繊維