(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】自壊性アセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体及びそれを用いた複合体
(51)【国際特許分類】
C08G 65/329 20060101AFI20220210BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20220210BHJP
【FI】
C08G65/329
A61K47/59
(21)【出願番号】P 2018053824
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017067636
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】粒崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】玉川 晋也
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-508400(JP,A)
【文献】特表2012-500804(JP,A)
【文献】特開2016-194057(JP,A)
【文献】特開2014-208794(JP,A)
【文献】特表2012-530688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-67/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(3)、式(4)、式(5)または式(6)で表されることを特徴とする、親水性ポリマー誘導体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(
式(3)、式(4)、式(5)および式(6)中、
B
1は水素原子または-C(R
6)(R
7)OC(O)E
1であり;
E
1は脱離基であり;
R
1
、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は、それぞれ独立して、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり;
mは0または1であり;
P
1
は親水性ポリマー部であり;
wは1~20の整数であり;
Z
1
はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z
1
がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下であり;
A
1
は炭素数1~10の2価の炭化水素基、または置換基を有していてもよいフェニレン基であり;
A
2
は炭素数1~10の炭化水素基、置換基を有していてもよいフェニル基または水素原子であり;
R
8
およびR
9
は、それぞれ独立して炭素数1~9の炭化水素基または水素原子であり;
R
10
およびR
11
は、それぞれ独立して炭素数1~10の炭化水素基または水素原子である。)
【請求項2】
P
1が、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型のポリエチレングリコールである、請求項
1記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項3】
wが1であり、P
1が式(7)または式(8)で示されることを特徴とする、請求項
2記載の親水性ポリマー誘導体。
【化5】
(式(7)中、
Y
1は炭素数1~24の炭化水素基であり;および
nは3~2000の整数である。)
【化6】
(式(8)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;および
nは3~2000の整数である。)
【請求項4】
P
1が、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する分岐型のポリエチレングリコールである、請求項
1記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項5】
wが1であり、P
1が式(9)または式(10)で示されることを特徴とする、請求項
4記載の親水性ポリマー誘導体。
【化7】
(式(9)中、
Y
1は炭素数1~24の炭化水素基であり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【化8】
(式(10)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【請求項6】
wがv+2であり、P
1が式(11)で示されることを特徴とする、請求項
4記載の親水性ポリマー誘導体。
【化9】
(式(11)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【請求項7】
X
1がマレイミド基、α-ハロアセチル基、アクリル基、ビニルスルホン基、保護されたチオール基、ピリジルジチオ基、アルデヒド基、エポキシ基、カルボキシ基、保護されたカルボキシ基、保護されたアミノ基、保護されたオキシアミノ基、保護されたヒドラジド基、アジド基、アリル基、ビニル基、アルキニル基およびヒドロキシ基よりなる群から選択される、請求項
3、5または6に記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項8】
X
1が式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)、式(n)および式(o)からなる群から選択される、請求項
3、5または6に記載の親水性ポリマー誘導体。
【化10】
(式(a)中、R
12は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり;
式(b)中、R
13は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子であり、
式(l)中、R
14は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である。)
【請求項9】
Z
3はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z
3がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である、請求項
3、5または6記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項10】
P
1が末端数2~8のポリエチレングリコールであり、P
1を構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれZ
1に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい、請求項
1記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項11】
P
1が、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される、請求項
10記載の親水性ポリマー誘導体。
【化11】
(式
(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)中、
nは3~2000の整数であり、
P
1が式(r)で表される場合にはwが2であり、
P
1が式(s)で表される場合にはwが3であり、
P
1が式(t)で表される場合にはwが4であり、
P
1が式(u)で表される場合にはwが4であり、
P
1が式(v)で表される場合にはwが8である。)
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一つの請求項に記載の親水性ポリマー誘導体のOC(O)E
1基と生体機能性分子に含まれるアミノ基とを反応させて得られる、式(12)
、式(13)
、式(14)または式(15)で表される構造を含むことを特徴とする複合体。
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
(
式(12)、式(13)、式(14)および式(15)中、
B
1は水素原子または-C(R
6)(R
7)OC(O)D
1であり;
R
1
、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6
、R
7
およびR
15は、それぞれ独立して、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり;
mは0または1であり;
P
1
は親水性ポリマー部であり;
wは1~20の整数であり;
Z
1
はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z
1
がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下であり;
A
1
は炭素数1~10の2価の炭化水素基、または置換基を有していてもよいフェニレン基であり;
A
2
は炭素数1~10の炭化水素基、置換基を有していてもよいフェニル基または水素原子であり;
R
8
およびR
9
は、それぞれ独立して炭素数1~9の炭化水素基または水素原子であり;
R
10
およびR
11
は、それぞれ独立して炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、
D
1は、前記生体機能性分子に含まれるアミノ基のうち、カーバメート結合を構成するアミノ基を除いた残基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性タンパク質、ペプチド、抗体、核酸および低分子薬物などの生体機能性分子、並びにリポソームやポリマーミセルなどの薬物キャリアのプロドラッグ化のために用いられる親水性ポリマー誘導体及びそれを用いた複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグデリバリーシステムにおいて、抗原性の低い親水性ポリマーによる生体機能性分子や薬物キャリアの化学修飾は、これら薬物等の水溶解性の改善、腎臓クリアランスの回避、代謝酵素による分解の抑制などの利点があり、薬物等の血中循環時間を延長させ、バイオアベイラビリティーを増大させる有効な手法である。その一方で、親水性ポリマーが共有結合で永久的に結合した薬物等は、当該親水性ポリマーによる水和層の形成や活性部位の立体的な遮蔽効果のために、ターゲットとする生体内因性分子、受容体または細胞膜との相互作用が低下し、薬物本来の薬理作用の低下や体内・細胞内動態の変化など、薬物等に好ましくない影響を与える場合があることも知られている。
【0003】
上記のような課題に対するアプローチとして、薬物等に一時的結合(temporary linkage)を介して親水性ポリマーを化学修飾し、生体内でこの一時的結合を開裂させて化学修飾されていない活性な薬物等を放出させる方法、即ちプロドラッグ(pro-drug)化の方法が用いられる「Bioconjugate Chemistry 2015,26(7), 1172-1181」。その中で最も有望な方法の一つが、カスケード(cascade)機構で開裂するプロドラッグ化である。
【0004】
カスケード機構による開裂は、マスキング(masking)基と活性化(activating)基との組み合わせで構成されるリンカー構造により可能となる(
図1)。マスキング基は第一の一時的結合によって活性化基に結合させる。その活性化基は、第二の一時的結合を介して薬物等に存在するアミノ基に結合させる。第二の一時的結合の安定性は、マスキング基が存在しているか否かに大きく依存する。マスキング基の存在下では、第二の一時的結合は非常に安定であり、結合している薬物の放出は通常起こりえない。一方、マスキング基が存在していない場合、第二の一時的結合は非常に不安定となり、急速に開裂して薬物を放出する。したがって、活性化基は自壊性(self-immolative)スペーサーとも呼称される。このように、カスケード機構による開裂は、マスキング基と活性化基との第一の一時的結合の開裂が律速段階(rate-determining step)である。
【0005】
マスキング基には、生体内の各部分における環境的特性、即ち特異的酵素の有無、還元的環境といった環境刺激を引き金として第一の一時的結合が開裂する原子団が用いられる場合が多い。また、活性化基で最もよく用いられるものの一つは、1,4-または1,6-ベンジル脱離に基づく原子団である。
【0006】
特許文献1では、マスキング基としてカーバメート基、アミド基またはオリゴペプチド基を導入し、活性化基として2-アミノベンジルアルコールおよび4-アミノベンジルアルコールを用いた親水性ポリマープロドラッグの例が開示されている(
図2および
図3)。ここでは、マスキング基と活性化基との第一の一時的結合であるカーバメート結合またはアミド結合(ペプチド結合)の酵素的または非酵素的な加水分解が引き金となり、2-アミノベンジルアルコールまたは4-アミノベンジルアルコールと薬物との第二の一時的結合であるカーバメート結合が、1,4-または1,6-ベンジル脱離に基づいて開裂し、薬物が放出される。薬物が放出される過程において、2-アミノベンジルアルコールまたは4-アミノベンジルアルコールと二酸化炭素が遊離する。
【0007】
また、特許文献2では、マスキング基としてジスルフィド基を導入し、活性化基として2-メルカプトベンジルアルコールおよび4-メルカプトベンジルアルコールを用いた親水性ポリマープロドラッグの例が開示されている。ここでは、マスキング基と活性化基との第一の一時的結合であるジスルフィド結合の還元的開裂が引き金となり、2-メルカプトベンジルアルコールまたは4-メルカプトベンジルアルコールと薬物との第二の一時的結合であるカーバメート結合が、1,4-または1,6-ベンジル脱離に基づいて開裂し、薬物が放出される。薬物が放出される過程において、2-メルカプトベンジルアルコールまたは4-メルカプトベンジルアルコールと二酸化炭素が遊離する。
図4にその一例を示している。
【0008】
特許文献1と特許文献2で開示されている親水性ポリマープロドラッグは、薬物が放出される過程において、それぞれアミノベンジルアルコールとメルカプトベンジルアルコールが遊離する。アミノベンジルアルコールのアミノ基は、生体内のpHではプロトン化されて正電荷を帯びており、通常、負電荷を帯びている細胞膜と相互作用する可能性がある。また、メルカプトベンジルアルコールのメルカプト基は、タンパク質に存在するジスルフィド結合と交換反応を起こす可能性がある。したがって、これらのリンカー構造を介して親水性ポリマーが修飾された薬物等は、アミノベンジルアルコールやメルカプトベンジルアルコールが遊離した後の二次的な相互作用の評価の必要性が生じたり、薬物等の薬理活性の解析が複雑になるなどの好ましくない側面がある。
【0009】
一方、非特許文献1では、マスキング基としてエステル基またはカーボネート基を導入し、活性化基として2-ヒドロキシベンジルアルコールおよび4-ヒドロキシベンジルアルコールを用いた親水性ポリマープロドラッグの例が開示されている。ここでは、マスキング基と活性化基との第一の一時的結合であるエステル結合またはカーボネート結合の酵素的または非酵素的な加水分解が引き金となり、2-ヒドロキシベンジルアルコールまたは4-ヒドロキシベンジルアルコールと薬物との第二の一時的結合であるカーバメート結合が、1,4-または1,6-ベンジル脱離に基づいて開裂し、薬物が放出される。薬物が放出される過程において、2-ヒドロキシベンジルアルコールまたは4-ヒドロキシベンジルアルコールと二酸化炭素が遊離する。
図5にその一例を示している。
【0010】
ここで遊離したヒドロキシベンジルアルコールに含まれる官能基はヒドロキシ基のみであり、特許文献1と特許文献2のアミノベンジルアルコールやメルカプトベンジルアルコールとは異なり、細胞膜やタンパク質との相互作用は非常に小さい。
【0011】
ところが、非特許文献1で開示されているリンカー構造は、マスキング基としてエステル基またはカーボネート基を用いているため、血中での酵素依存的な開裂(加水分解)が速く、薬物等の血中循環時間を延長させるという親水性ポリマーによる化学修飾の本来の目的との矛盾が生じてしまう。酵素依存的な開裂の更なる欠点は、患者間の可変性である。酵素レベルは個々の間で有意に異なり得るため、酵素依存的な開裂によるプロドラッグからの薬物等の放出には、生物学的変動が生じる。また、酵素レベルは投与部位によっても変わり得るため、その薬剤設計は非常に難しい。
【0012】
また、非特許文献1では、活性化基と薬物等のアミノ基との結合反応において、エステル基やカーボネート基がアミノ基と副反応を起こしてしまい、望まない副生物が生じてしまう問題が潜在的に存在することも述べられている。このような副生物は、薬物等の体内動態や物理的性質などに大きな影響を与えるため、製剤化の前に除去する必要があるが、工業的スケールで生産する場合、その分離除去は技術面およびコスト面で大きな弊害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第1999/30727号パンフレット
【文献】国際公開第2000/64483号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【文献】Journal of Medical Chemistry 1999, 42(18), 3657-3667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、上記のような従来の親水性ポリマープロドラッグの制限を克服するために、アミノ基を含有する薬物等の親水性ポリマープロドラッグを形成させることが可能な、新規のリンカー技術を有する親水性ポリマー誘導体及びそれを用いた複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、pHのみに依存して開裂可能なアセタール構造を有し、さらにアセタールの開裂に伴って化学修飾されていない薬物等を放出することが可能な親水性ポリマー誘導体を開発した。
【0017】
更に本発明は、薬物等が放出される過程において遊離する低分子化合物が、官能基としてヒドロキシ基のみを有するベンジルアルコール誘導体であるため、生体内での二次的な相互作用が生じ難いという特徴を有する。また、アセタール構造はアミノ基に対して根本的に不活性であるため、アミノ基を有する薬物等との結合反応において、副生物が生じないという利点も有する。
【0018】
即ち、本発明は以下のものである。
[1] 親水性ポリマー部およびアセタール部を含む親水性ポリマー誘導体であって、 式(1)または式(2)で表される構造を含むことを特徴とする、親水性ポリマー誘導体。
【化1】
【化2】
(式(1)および式(2)中、
B
1は水素原子または-C(R
6)(R
7)OC(O)E
1であり;
E
1は脱離基であり;
R
1は、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、R
1が前記アセタール部の酸素原子に対して結合されていてよく;
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は、それぞれ独立して、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり;
mは0または1であり;
前記アセタール部に含まれる2つの酸素原子の一方がフェニル基に結合しており;および
波線は前記アセタール部に含まれる2つの酸素原子の両方に結合している炭素原子に対する共有結合を表す。)
【0019】
[2] 式(3)または式(4)で示されることを特徴とする、[1]の親水性ポリマー誘導体。
【化3】
【化4】
(式(3)および式(4)中、
P
1は前記親水性ポリマー部であり;
wは1~20の整数であり;
Z
1はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z
1がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下であり;
A
1は炭素数1~10の2価の炭化水素基、または置換基を有していてもよいフェニレン基であり;
R
8およびR
9は、それぞれ独立して炭素数1~9の炭化水素基または水素原子であり;および
R
10は、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子である。)
【0020】
[3] 式(5)または式(6)で示されることを特徴とする、[1]の親水性ポリマー誘導体。
【化5】
【化6】
(式(5)および式(6)中、
P
1は前記親水性ポリマー部であり;
wは1~20の整数であり;
Z
2はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z
2がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下であり;
A
2は炭素数1~10の炭化水素基、置換基を有していてもよいフェニル基または水素原子であり;
R
11は、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子である。)
【0021】
[4] P1が、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型のポリエチレングリコールである、[2]または[3]の親水性ポリマー誘導体。
【0022】
[5] wが1であり、P
1が式(7)または式(8)で示されることを特徴とする、[4]の親水性ポリマー誘導体。
【化7】
(式(7)中、
Y
1は炭素数1~24の炭化水素基であり;および
nは3~2000の整数である。)
【化8】
(式(8)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;および
nは3~2000の整数である。)
【0023】
[6] P1が、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する分岐型のポリエチレングリコールである、[2]または[3]の親水性ポリマー誘導体。
【0024】
[7] wが1であり、P
1が式(9)または式(10)で示されることを特徴とする、[6]の親水性ポリマー誘導体。
【化9】
(式(9)中、
Y
1は炭素数1~24の炭化水素基であり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【化10】
(式(10)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【0025】
[8] wがv+2であり、P
1が式(11)で示されることを特徴とする、[6]の親水性ポリマー誘導体。
【化11】
(式(11)中、
X
1は化学反応可能な官能基であり;
Z
3は2価のスペーサーであり;
nは3~1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【0026】
[9] X1がマレイミド基、α-ハロアセチル基、アクリル基、ビニルスルホン基、保護されたチオール基、ピリジルジチオ基、アルデヒド基、エポキシ基、カルボキシ基、保護されたカルボキシ基、保護されたアミノ基、保護されたオキシアミノ基、保護されたヒドラジド基、アジド基、アリル基、ビニル基、アルキニル基およびヒドロキシ基よりなる群から選択される、[5]、[7]または[8]の親水性ポリマー誘導体。
【0027】
[10] X
1が式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)、式(n)および式(o)からなる群から選択される、[5]、[7]または[8]の親水性ポリマー誘導体。
【化12】
(式(a)中、R
12は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり;
式(b)中、R
13は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子であり、
式(l)中、R
14は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である。)
【0028】
[11] Z3はエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z3がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である、[5]、[7]または[8]の親水性ポリマー誘導体。
【0029】
[12] P1が末端数2~8のポリエチレングリコールであり、P1を構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれZ1に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい、[2]または[3]の親水性ポリマー誘導体。
【0030】
[13] P
1が、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される、[12]の親水性ポリマー誘導体。
【化13】
(式中、nは3~2000の整数であり、
P
1が式(r)で表される場合にはwが2であり、
P
1が式(s)で表される場合にはwが3であり、
P
1が式(t)で表される場合にはwが4であり、
P
1が式(u)で表される場合にはwが4であり、
P
1が式(v)で表される場合にはwが8である。)
【0031】
[14] [1]~[13]のいずれかの親水性ポリマー誘導体のOC(O)E
1基と生体機能性分子に含まれるアミノ基とを反応させて得られる、式(12)または式(13)で表される構造を含むことを特徴とする複合体。
【化14】
【化15】
(式(12)および式(13)中、
B
2は水素原子または-C(R
6)(R
7)OC(O)D
1であり;
R
1は、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、R
1が前記アセタール部の酸素原子に対して結合されていてよく;
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
15は、それぞれ独立して、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり;
mは0または1であり;
波線は前記アセタール部に含まれる2つの酸素原子の両方に結合している炭素原子に対する共有結合を表し;および
D
1は、前記生体機能性分子に含まれるアミノ基のうち、カーバメート結合を構成するアミノ基を除いた残基である。)
【発明の効果】
【0032】
本発明による自壊性アセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体は、pHのみに依存して開裂可能なアセタール構造を有し、さらにアセタールの開裂に伴って化学修飾されていない薬物等を放出することが可能である。したがって、当該親水性ポリマー誘導体で修飾したプロドラッグからの薬物等の放出挙動の制御が容易であり、更に放出された薬物等は化学修飾されていないことから、その薬理作用が損なわれることなく発揮される。
【0033】
更に、当該親水性ポリマー誘導体を用いたプロドラッグは、薬物等が放出される過程において遊離するベンジルアルコール誘導体の生体内での二次的な相互作用が生じ難く、その薬剤設計が簡便であるとともに、アセタール構造はアミノ基に対して根本的に不活性であるため、アミノ基を有する薬物等との結合反応において副生物が生じず、工業的スケールでの生産が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】親水性ポリマープロドラッグのカスケード機構による薬物放出を示す図である。
【
図2】4-アミノベンジルアルコールを用いたプロドラッグの1,6-ベンジル脱離に基づく開裂を示す図である。
【
図3】2-アミノベンジルアルコールを用いたプロドラッグの1,4-ベンジル脱離に基づく開裂を示す図である。
【
図4】6-メルカプトベンジルアルコールを用いたプロドラッグの1,6-ベンジル脱離に基づく開裂を示す図である。
【
図5】6-ヒドロキシベンジルアルコールを用いたプロドラッグの1,6-ベンジル脱離に基づく開裂を示す図である。
【
図6】実施例に記載の式(44)の化合物を用いたpD 3.0、4.0、7.4の重水緩衝液中、37℃におけるベンジルアミンの放出試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書で使用する用語「アセタール部」とは、アルデヒド類から誘導されるアセタール構造およびケトン類から誘導されるアセタール構造、即ちケタール構造の両方を意味する。
【0036】
本明細書で使用する用語「プロドラッグ」とは、生体内変換を受けた後でその薬理効果を示す任意の化合物である。したがって、プロドラッグは親分子における望ましくない特性を改変するか、または排除するために一時的な方法で用いられる特殊化した保護基を含んで成る薬物である。
【0037】
本明細書で使用する用語「カスケード機構」とは、活性化基が脱マスキング(unmasking)されて初めて薬物の放出が起こるプロドラッグの開裂機構を意味する。
【0038】
本発明の自壊性アセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体は、末端にアセタール部を介して活性カーボネート基を有し、アセタール部を構成する2つのエーテル部分のうち、末端に活性カーボネート基を有するエーテル部分が式(1)または式(2)で表される構造を含む。
【化16】
【化17】
【0039】
本発明における活性カーボネート基とは、式(1)および式(2)における「-O-C(=O)-E1」で表わされる官能基であり、活性化されたカーボネート基を示し、E1は脱離基を示す。
【0040】
前記活性カーボネート基は、好ましくは生体機能性分子や薬物キャリアに含まれるアミノ基と反応してカーバメート結合を形成する。E1の好ましい例を挙げれば、スクシンイミジルオキシ基、フタルイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基および7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基であり、より好ましくはスクシンイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基であり、更に好ましくはスクシンイミジルオキシ基または4-ニトロフェノキシ基である。
【0041】
本発明における親水性ポリマー部P1を構成する親水性ポリマーの具体的な例としては、ポリアルキレングリコール、ポリオキサゾリン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアミノ酸、並びに上記ポリマーに由来するコポリマーなどが挙げられ、好ましくはポリアルキレングリコールであり、更に好ましくはポリエチレングリコールである。
【0042】
P1を構成するポリエチレングリコールは、エチレンオキシドの重合で得られる分子量分布を有するポリエチレングリコール、並びに単一分子量のオリゴエチレングリコール類をカップリング反応で結合した単分散のポリエチレングリコールの両方を含む。
【0043】
本発明の式(1)および式(2)におけるR2、R3、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ独立して炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R2、R3、R4、R5、R6およびR7の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0044】
本発明の式(1)および式(2)におけるR1は、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、R1が前記アセタール部の酸素原子に対して結合されていてよい。本発明の好ましい一態様において、R1は炭素数1~10の2価の炭化水素基であり、具体的にはメチレン基、モノアルキルメチレン基、ジアルキルメチレン基、エチレン基、モノアルキルエチレン基、ジアルキルエチレン基、プロピレン基、モノアルキルプロピレン基およびジアルキルプロピレン基などが挙げられる。好ましくはメチレン基、エチレン基またはプロピレン基であり、より好ましくはメチレン基またはエチレン基であり、更に好ましくはメチレン基である。
【0045】
本発明の式(1)および式(2)におけるmは0または1である。好ましい実施形態では、mが0であり、式(14)または式(15)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0046】
【0047】
【0048】
本態様の別の好ましい実施形態では、mが1かつB1が水素原子であり、式(16)または式(17)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0049】
【0050】
【0051】
本態様のもう一つの好ましい実施形態では、mが1かつB1が-C(R6)(R7)OC(O)E1であり、式(18)または式(19)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。この実施形態においては、一つのアセタールに対して二つのE1を有する誘導体が提供される。
【0052】
【0053】
【0054】
本発明の一態様では、式(3)または式(4)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【化24】
【化25】
【0055】
この態様の式(3)および式(4)における R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR10は、それぞれ独立して炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR10の具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR10の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0056】
この態様の式(3)および式(4)におけるR8およびR9は、それぞれ独立して炭素数1~9の炭化水素基または水素原子であり、R8およびR9の具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R8およびR9の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0057】
この態様の式(3)および式(4)におけるA1は、炭素数1~10の2価の炭化水素基または置換基を有していてもよいフェニレン基であり、具体的な炭化水素基としてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基およびブチレン基などが挙げられ、フェニレン基は1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基または1,4-フェニレン基であってよい。フェニレン基の置換基は、当該親水性ポリマー誘導体の合成過程において副反応を生じない置換基であれば、電子求引性の置換基または電子供与性の置換基のいずれでもよく、それぞれ単独もしくは組み合わせて使用してもよい。
電子求引性の置換基としては、炭素数2~5のアシル基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~5のカルバモイル基、炭素数2~5のアシルオキシ基、炭素数2~5のアシルアミノ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~4のアルキルスルファニル基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基であり、好ましい例としてはアセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基が挙げられる。電子供与性の置換基としては、炭素数1~4のアルキル基であり、好ましい例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基およびt-ブチル基が挙げられる。メタ位では電子求引性、パラ位およびオルト位では電子供与性である置換基としては、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基および炭素数6~10のアリールオキシ基であり、好ましい例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、フェニル基およびフェノキシ基が挙げられる。
【0058】
この態様の式(3)および式(4)におけるZ1は前記A1と親水性ポリマー鎖間の2価のスペーサーである。これらは共有結合で構成され、アセタール構造よりも加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~24である。
【0059】
説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1~12の整数である。例えば、末端の活性カーボネート基をタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。ただし、Z1がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である。
【0060】
【0061】
この態様の式(3)および式(4)におけるE1は脱離基であり、好ましい例を挙げれば、スクシンイミジルオキシ基、フタルイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基および7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基であり、より好ましくはスクシンイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基であり、更に好ましくはスクシンイミジルオキシ基または4-ニトロフェノキシ基である。
【0062】
この態様の式(3)および式(4)におけるmは0または1である。好ましい実施形態では、mが0であり、式(20)または式(21)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0063】
【0064】
【0065】
本発明の式(20)で示される親水性ポリマー誘導体と薬物との複合体における分解機構は、下記の模式図で説明される。
【0066】
【0067】
この態様の別の好ましい実施形態では、mが1かつB1が水素原子であり、式(22)または式(23)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0068】
【0069】
【0070】
本発明の式(22)で示される親水性ポリマー誘導体と薬物との複合体における分解機構は、下記の模式図で説明される。
【0071】
【0072】
この態様のもう一つの好ましい実施形態では、mが1かつB1が-C(R6)(R7)OC(O)E1であり、式(24)または式(25)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。この実施形態においては、当該親水性ポリマー誘導体1分子で、2分子の薬物をプロドラッグ化することが可能である。
【0073】
【0074】
【0075】
本発明の別の一態様では、式(5)または式(6)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【化35】
【化36】
【0076】
この態様の式(5)および式(6)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR11は、それぞれ独立して炭素数1~10の炭化水素基または水素原子であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR11の具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR11の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0077】
この態様の式(5)および式(6)におけるA2は、炭素数1~10の炭化水素基、置換基を有していてもよいフェニル基または水素原子であり、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基または置換基を有していてもよいフェニル基である。
【0078】
具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基およびt-ブチル基などが挙げられる。フェニル基の置換基は、当該親水性ポリマー誘導体の合成過程において副反応を生じない置換基であれば、電子求引性の置換基または電子供与性の置換基のいずれでもよく、それぞれ単独もしくは組み合わせて使用してもよい。電子求引性の置換基としては、炭素数2~5のアシル基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~5のカルバモイル基、炭素数2~5のアシルオキシ基、炭素数2~5のアシルアミノ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~4のアルキルスルファニル基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基であり、好ましい例としてはアセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基が挙げられる。電子供与性の置換基としては、炭素数1~4のアルキル基であり、好ましい例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基およびt-ブチル基が挙げられる。メタ位では電子求引性、パラ位およびオルト位では電子供与性である置換基としては、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基および炭素数6~10のアリールオキシ基であり、好ましい例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、フェニル基およびフェノキシ基が挙げられる。
【0079】
この態様の式(5)および式(6)におけるZ2はアセタールの片方の酸素原子と親水性ポリマー鎖間の2価のスペーサーである。これらは共有結合で構成され、アセタール構造よりも加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~24である。
【0080】
説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1~12の整数である。例えば、末端の活性カーボネート基をタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。ただし、Z2がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である。
【0081】
【0082】
この態様の式(5)および式(6)におけるE1は脱離基であり、好ましい例を挙げれば、スクシンイミジルオキシ基、フタルイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基および7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基であり、より好ましくはスクシンイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基であり、更に好ましくはスクシンイミジルオキシ基または4-ニトロフェノキシ基である。
【0083】
この態様の式(5)および式(6)におけるmは0または1である。好ましい実施形態では、mが0であり、式(26)または式(27)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0084】
【0085】
【0086】
この態様の別の好ましい実施形態では、mが1かつB1が水素原子であり、式(28)または式(29)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。
【0087】
【0088】
【0089】
この態様のもう一つの好ましい実施形態では、mが1かつB1が-C(R6)(R7)OC(O)E1であり、式(30)または式(31)で示される親水性ポリマー誘導体が提供される。この実施形態においては、一つのアセタールに対して二つのE1を有する誘導体が提供される。
【0090】
【0091】
【0092】
本発明の一態様では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP1は直鎖型のポリエチレングリコールである。
【0093】
この態様の好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP
1は式(7)で示される。
【化44】
【0094】
式中、nはポリエチレングリコール鎖1本あたりの繰り返しユニット数であり、分子量分布を有するポリエチレングリコールにおいては、化合物の数平均分子量(Mn)に基づいて、各種理論的な計算をすることにより算出することと定義する。
【0095】
式中、Y1は炭素数1~24の炭化水素基であり、具体的な例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トイコシル基、テトラコシル基、フェニル基、ベンジル基、クレジル基、ブチルフェニル基、ドデシルフェニル基およびトリチル基などが挙げられ、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0096】
この態様のもう1つの好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP
1は式(8) で示される。
【化45】
【0097】
式中、X1は化学反応可能な官能基であり、Z3は官能基X1とポリエチレングリコール鎖間の2価のスペーサーである。
【0098】
この実施形態のポリエチレングリコール誘導体は、例えば活性カーボネート基に薬物を結合させ、X1に抗体等の標的指向性を有する生体機能性分子を結合させることで、標的指向性能を持つ薬物複合体を提供することができる。
【0099】
X1の好ましい例を挙げれば、アルデヒド基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、保護基で保護されたチオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、保護基で保護されたアミノ基、保護基で保護されたオキシアミノ基、保護基で保護されたヒドラジド基またはアジド基である。
【0100】
更に具体的には、生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、アルデヒド基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基およびカルボキシ基であり、生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、アルデヒド基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、保護基で保護されたチオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基およびビニル基であり、生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、保護基で保護されたチオール基、保護基で保護されたアミノ基、保護基で保護されたオキシアミノ基および保護基で保護されたヒドラジド基であり、生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、保護基で保護されたチオール基およびアジド基であり、生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基はアルキニル基および三重結合を含む官能基である。
【0101】
ここで「保護基」とは、ある反応条件下で分子中の特定の化学反応可能な官能基の反応を防止または阻止する成分である。保護基は、保護される化学反応可能な官能基の種類、使用される条件および分子中の他の官能基もしくは保護基の存在により変化する。保護基の具体的な例は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば「Wuts, P. G. M.; Greene, T. W. Protective Groups in Organic Synthesis, 4th ed.; Wiley-Interscience: New York, 2007」に記載されている。また、保護基で保護された官能基は、それぞれの保護基に適した反応条件を用いて脱保護、すなわち化学反応させることで、元の官能基を再生させることができる。したがって、本明細書では、保護基で保護されており、各種反応によって脱保護が可能な官能基は「化学反応可能な官能基」に含まれる。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されている。
【0102】
保護される官能基と保護基の好ましい組み合わせとして、保護される官能基がアミノ基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはトリフルオロアセチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、保護される官能基がヒドロキシ基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。保護される官能基がカルボキシ基のときは、例えばアルキルエステル系保護基およびシリルエステル系保護基が挙げられ、具体的にはメチル基、9-フルオレニルメチル基およびt-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。保護される官能基がスルファニル基のときは、例えばアシル系保護基、チオエーテル系保護基、チオカーボネート系保護基およびジスルフィド系保護基が挙げられ、具体的にはアセチル基、S-2,4-ジニトロフェニル基、S-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基およびS-t-ブチルジスルフィド基などが挙げられる。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されており、それぞれの保護基に適した反応条件を選択することができる。
【0103】
この態様の好適な実施形態において、X1は群(I)、群(II)、群(III)、群(IV)または群(V)で示される基である。
群(I):生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(e)および(f)
群(II):生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(l)
群(III):生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(h)、(i)、(j)および(o)
群(IV):生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(c)、(d)、(g)、(h)、(i)、(j)および(k)
群(V):生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(m)および(n)
【0104】
【0105】
式中、R12およびR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基およびペンチル基などが挙げられる。R13は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。
【0106】
Z3は共有結合で構成され、アセタール構造よりも加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~24である。説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。
【0107】
カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1~12の整数である。例えば、官能基X1をタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。ただし、Z3がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である。
【0108】
【0109】
本発明の別の一態様では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP1は分岐型のポリエチレングリコールである。
【0110】
この態様の好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP
1は式(9)で示される。
【化48】
【0111】
式中、Y1は炭素数1~24の前記炭化水素基であり、vは0または2である。
【0112】
vが0の場合は2本のポリエチレングリコール鎖を有し、vが2の場合は4本のポリエチレングリコール鎖を有する。一般にポリエチレングリコールによる生体関連物質の化学修飾では、必要以上にポリエチレングリコールとの結合点を導入すると生体関連物質の活性点を潰し、その機能を低下させるため、ポリエチレングリコールの分子量を大きくして効果を高める試みが行われている。しかし、分子量の増大にともなって粘度も増大するため、例えば注射製剤のような水溶液製剤での取り扱いが困難となる。当該ポリエチレングリコール誘導体は分岐型構造であるため、同一分子量の直鎖型のポリエチレングリコール誘導体と比較して粘度が低く、水溶液製剤などの用途で有用である。
【0113】
この態様の別の好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP
1は式(10)で示される。
【化49】
【0114】
式中、X1は化学反応可能な前記官能基であり、Z3は前記2価のスペーサーであり、vは0または2である。
【0115】
この実施形態のポリエチレングリコール誘導体は、1つの活性カーボネート基と2つまたは4つのX1を有しており、例えば活性カーボネート基に薬物を結合させ、X1に抗体等の標的指向性を有する生体機能性分子を結合させれば、高い標的指向性能を持つ薬物複合体を提供することができる。
【0116】
この態様のもう一つの好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP
1は式(11)で示される。
【化50】
【0117】
式中、X1は化学反応可能な前記官能基であり、Z3は前記2価のスペーサーであり、vは0または2である。
【0118】
抗体-薬物複合体(ADC)関連分野においては、薬物の運搬効率を上げるために抗体に対して複数の薬物を結合させることが好ましいが、抗体に複数の結合点を導入すると抗原との親和性の低下が問題となる。この実施形態のポリエチレングリコール誘導体は、2つまたは4つの活性カーボネート基と1つのX1を有しており、例えばガンを標的としたADCで活性カーボネート基に抗ガン剤を結合させ、X1に抗体を結合させれば、抗体との結合点を増加させずに、抗ガン剤の運搬効率を向上させることができる。
【0119】
本発明の更に別の一態様では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP1は末端数2~8のポリエチレングリコールであり、P1を構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれ、式(3)および式(4)についてはZ1に対して結合しており、式(5)および式(6)についてはZ2に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい。
【0120】
この態様の好ましい実施形態では、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)のP1は、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される。P1が式(r)で表される場合にはwが2であり、P1が式(s)で表される場合にはwが3であり、P1が式(t)で表される場合にはwが4であり、P1が式(u)で表される場合にはwが4であり、P1が式(v)で表される場合にはwが8である。
【0121】
【0122】
本発明の式(7)および式(8)におけるnの好適な範囲は3~2000であり、より好ましくは20~1500であり、更に好ましくは40~1000であり、最も好ましくは60~500である。式(9)、式(10)および式(11)におけるnの好適な範囲は3~1000であり、好ましくは10~800であり、更に好ましくは20~500であり、最も好ましくは30~300である。また、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v) におけるnの好適な範囲は3~2000であり、より好ましくは20~1500であり、更に好ましくは40~1000であり、最も好ましくは60~500である。
【0123】
本発明のもう一つの態様では、本発明の自壊性アセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体の活性カーボネート基と生体機能性分子に含まれるアミノ基とを反応させて得られる、式(12)または式(13)で表される構造を含む複合体が提供される。
【化52】
【化53】
【0124】
この態様の式(12)および式(13)におけるD1は、生体機能性分子に含まれるアミノ基のうち、本発明の自壊性アセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体の活性カーボネート基と反応してカーバメート結合を構成するアミノ基を除いた残基である。R15は前記アミノ基の置換基であり、炭素数1~10の炭化水素基または水素原子である。具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R15の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0125】
この態様の好ましい実施形態では、前記生体機能性分子には化学療法薬が含まれる。化学療法薬は、ガンの処置において有用な化合物である。化学療法薬の例には次のものが含まれる:アルキル化剤、例えばチオテパ(thiotepa)およびシクロホスファミド(CYTOXAN(商標));アルキルスルホネート類、例えばブスルファン(busulfan)、インプロスルファン(improsulfan)およびピポスルファン(piposulfan);アジリジン類(aziridines)、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン(carboquone)、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);エチレンイミン類およびメチルアメラミン類(methylamelamines)、アルトレタミン(altretamine)、トリエチレンメラミン(triethylenemelamine)、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphaoramide)およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む;アセトゲニン類(acetogenins)(特にブラタシン(bullatacin)およびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(camptothecin)(合成類似体であるトポテカンを含む);ブリオスタチン (bryostatin);カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン(adozelesin)、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)合成類似体を含む);クリプトフィシン類(cryptophycins)(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン(dolastatin);デュオカルマイシン(duocarmycin)(その合成類似体であるKW-2189およびCBI-TMIを含む));エレウテロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコディクチン(sarcodictyin);スポンジスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード類、例えばクロラムブシル(chlorambucil)、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estramustine)、イホスファミド(ifosfamide)、メクロレタミン(mechlorethamine)、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン(melphalan)、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロホスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素類(nitrosureas)、例えばカルムスチン(carmustine)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン(lomustine)、ニムスチン(nimustine)、ラニムスチン(ranimustine);抗生物質、例えばエネジイン(enediyne)抗生物質(例えばカリケアマイシン(calicheamicin)、特に、カリケアマイシンガンマ1およびカリケアマイシンシータI、例えばAngew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186 (1994)を参照;ダイネマイシン(dynemicin)、ダイネマイシンAを含む;エスペラマイシン(esperamicin);ならびに、ネオカルジノスタチンクロモフォア(neocarzinostatin chromophore)および関連する色素タンパク質エネジイン抗生物質クロモモフォア類)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン(azaserine)、ブレオマイシン類(bleomycins)、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin);クロモマイシン類(chromomycins)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン(epirubicin)、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、マルセロマイシン(marcellomycin)、ナイトマイシン類(nitomycins)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン類(olivomycins)、ペプロマイシン(peplomycin)、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン(streptonigrin)、ストレプトゾシン(streptozocin)、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス(ubenimex)、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えば、メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン(doxifluridine)、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU;アンドロゲン類、例えばカルステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎薬(anti-adrenals)、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充薬、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォミチン(elfomithine);エリプチニウムアセテート(elliptinium acetate);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン(lentinan);ロニダミン(lonidamine);マイタンシノイド類、例えばマイタンシン(maytansine)およびアンサミトシン類(ansamitocins);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン(mitoxantrone);モピダモール(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン(pentostatin);フェナメット(phenamet);ピラルビシン(pirarubicin);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム(spirogermanium);テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジクオン(triaziquone);2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(trichothecenes)、(特にT-2トキシン、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobronitol);ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(arabinoside)(“Ara-C”);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド類(taxoids)、例えばパクリタキセル(paclitaxel)(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer);クロラムブシル;ゲムシタビン(gemcitabine);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン(vinorelbine);ナベルビン(navelbine);ノバントロン(novantrone);テニポシド(teniposide);ダウノマイシン(daunomycin);アミノプテリン;ゼローダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオミチン(difluoromethylomithine)(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン(capecitabine);ならびに上記のいずれかの医薬的に許容できる塩類、酸類、または誘導体。腫瘍に対するホルモンの作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば次のものもこの定義に含まれる:例えばタモキシフェン、ラロキシフェン(raloxifene)、アロマターゼを阻害する4(5)-イミダゾール類、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)、およびトレミフェン(toremifene)(ファレストン(Fareston))を含む抗エストロゲン薬;ならびに抗アンドロゲン薬、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド(bicalutamide)、ロイプロリド(leuprolide)、およびゴセレリン(goserelin);siRNAならびに上記のいずれかの医薬的に許容できる塩類、酸類、または誘導体。
本発明と共に用いることができる他の化学療法薬が、米国特許出願公開第2008/0171040号明細書または米国特許出願公開第2008/0305044号明細書において開示されており、それらをそのまま援用する。
【0126】
本発明の好ましい実施形態において、化学療法薬は低分子薬物である。低分子薬物は、好ましくは100~1500、より好ましくは120~1200まで、さらに好ましくは200~1000までの分子量を有する。典型的には約1000未満の分子量を有する有機、無機、または有機金属化合物を指して広く用いられる。また、本発明の低分子薬物は、約1000未満の分子量を有するオリゴペプチドおよび他の生体分子を含む。低分子薬物は当分野において、例えばとりわけ国際公開第05/058367号パンフレット、欧州特許出願公開第85901495号明細書および第8590319号明細書において、ならびに米国特許第4,956,303号明細書においてよく特性付けされており、それらをそのまま援用する。
【0127】
本発明の好ましい低分子薬物は、抗体への連結が可能な低分子薬物である。本発明には、既知の薬物および既知になる可能性がある薬物が含まれる。特に好ましい低分子薬物には細胞毒性薬物が含まれる。
【0128】
好ましい細胞毒性薬物はマイタンシノイド類、CC-1065類似体、モルホリノ類(morpholinos)、ドキソルビシン類、タキサン類(taxanes)、クリプトフィシン類(cryptophycins)、エポチロン類(epothilones)、カリケアマイシン類(calicheamicins)、アウリスタチン類(auristatins)、およびピロロベンゾジアゼピン(pyrrolobenzodiazepine)二量体類である。
【0129】
本明細書で使用する用語「抗体」とは、その最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ダイマー、マルチマー、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体フラグメントを、それらが望ましい生物学的活性を示す限り、網羅する(Miller, K. et al. J. Immunol. 2003, 170, 4854-4861)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または他の種由来であり得る。抗体は、特定の抗原を認識および結合することが可能な、免疫系によって生成されるタンパク質である(Janeway, C.; Travers, P.; Walport, M.; Shlomchik, M. Immunobiology,
5th ed.; Garland Publishing: New York, 2001)。標的抗原は、一般的には、複数の抗体上にあるCDRによって認識される多数の結合部位(エピトープとも呼ばれる)を有する。異なるエピトープに特異的に結合する抗体は、異なる構造を有する。従って、ある1つの抗原は、1つよりも多くの対応する抗体を有し得る。抗体は、全長免疫グロブリン分子、または全長免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、対象とする抗原もしくはその部分に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子)を包含する。そのような標的としては、ガン細胞、または自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を生成する細胞が挙げられるが、これらに限定はされない。本明細書において開示される免疫グロブリンは、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、およびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であり得る。上記免疫グロブリンは、任意の種に由来し得る。しかし、一態様において、上記免疫グロブリンは、ヒト起源、マウス起源、またはウサギ起源である。
【0130】
ポリクローナル抗体は、免疫化動物の血清由来のものなどの、抗体分子の不均一集団である。当分野において既知のさまざまな手順を用いて対象抗原に対するポリクローナル抗体を作り出してよい。例えば、ポリクローナル抗体を作り出すために、対象抗原またはその誘導体を注射して、ウサギ、マウス、ラットおよびモルモットを含むがそれらに限定されないさまざまな宿主動物を免疫化してよい。宿主種に依存して、フロインドの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リソレシチンなどの表面活性物質、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳化物、キーホールリンペットヘモシニアン、ジニトロフェノール、およびBCG(bacille Calmett-Guerin)およびCorynebacteriumu parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがそれらに限定されない、さまざまなアジュバントを用いて免疫応答を増加させてよい。そのようなアジュバントも、当分野では公知である。
【0131】
モノクローナル抗体は、特定の抗原決定基(例えば、細胞抗原(ガンまたは自己免疫細胞抗原)、ウイルス抗原、微生物抗原、タンパク質、ペプチド、炭水化物、化学物質、核酸またはそれらの抗原結合フラグメント)に対する抗体の均一な集団である。当分野において既知の任意の技法を用いて対象抗原に対するモノクローナル抗体(mAb)を調製してよい。これらは、Kohler, G; Milstein, C. Nature 1975, 256, 495-497)が最初に記載したハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor, D. et al. Immunol. Today 1983, 4, 72-79)およびEBV-ハイブリドーマ技法(Cole, S. P. C. et al. Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy; Alan R. Liss: New York, 1985, pp. 77-96)を含むが、それらに限定されない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA及びIgDを含む任意の免疫グロブリンの種類およびそれらの任意の亜種であってよい。本発明においてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養してよい。
【0132】
モノクローナル抗体は、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体および抗体フラグメントを含むがそれらに限定されない。ヒトモノクローナル抗体は、当分野で既知の多数の技法のうちの任意のもの(例えば、Teng, N. N. et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1983, 80, 7308-7312、Kozbor, D. et al. Immunology Today 1983, 4, 72-79、Olsson, L. et al. Meth. Enzymol. 1982, 92, 3-16、および米国特許第5939598号明細書および第5770429号明細書を参照)によって作成してよい。キメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体などの組み換え抗体は、当分野で既知の標準的な組み換えDNA技法を用いて作ることができる(例えば、米国特許第4816567号明細書、第4816397号明細書を参照)。
【0133】
抗体の表面再構成(resurfacing)処理によっても、抗体の免疫原性を減少させることができる(米国特許第5225539号明細書、欧州特許第0239400号明細書、第0519596号明細書、第0592106号明細書を参照)。
【0134】
本発明の一実施形態において、抗体は二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体を作るための方法は、当分野で既知である。従来の完全長二重特異性抗体の作製方法は、2つの鎖が異なる特異性を有する場合の2つの免疫グロブリン重鎖―軽鎖対の同時発現を利用している(Milstein, C et al. Nature 1983, 305, 537-539を参照)。また、別の方法として、所望の結合特異性(抗体―抗原結合部位)を有する抗体可変分域を免疫グロブリン不変分域配列と融合させることでも、二重特異性抗体を作製することができる。
【0135】
その他の有用な抗体は、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、Fabフラグメント、Fvs、単鎖抗体(SCA)(例えば、米国特許第4946778号明細書、Bird, R. E. et al. Science1988, 242, 423-442、Huston, J. S. et at. Proc. Natl. Acad. Sot USA 1988, 85, 5879-5883及びWard, E. S. et al. Nature 1989, 334, 544-554に記載されている)、scFv、sc-Fv-Fc、FvdsFv、ミニボディー、ダイアボディー、トライアボディー、テトラボディー、およびCDRを含み、抗体と同じ特異性を有する任意の他の分子、例えばドメイン抗体などが挙げられるが、それらに限定されない抗体のフラグメントを含む。
【0136】
本発明の好ましい実施形態では、ガンの治療または予防のための既知の抗体を用いてよい。発現がガン、細胞増殖障害または腫瘍の細胞上での発現と相関関係にある任意の標的タンパク質を含む、すべての標的タンパク質を、抗体の標的とすることができる。
【0137】
本発明の好ましい実施形態において、抗体はガンの治療に有用である。ガンの治療に利用可能な抗体の例は、非ホジキンリンパ腫を有する患者の治療のためのキメラ抗CD20モノクローナル抗体であるリツキサン(登録商標)(ジェネンテック社)、卵巣ガンの治療のためのマウス抗体であるオバレックス(アルタレックス社)、結直腸ガンの治療のためのマウスIgG2a抗体であるパノレックス(グラクソウェルカム社)、頭部ガンおよび頚部ガンなどの上皮細胞成長因子陽性ガンの治療のための抗EGFR IgGキメラ抗体であるセツキシマブエルビツクス(イムクローンシステムズ社)、肉腫の治療のためのヒト化抗体であるビタキシン(メドイミューン社)、慢性リンパ球白血病(CLL)の治療のためのヒト化IgG1抗体であるキャンパスI/H(ロイコサイト社)、急性骨髄性白血病(AML)の治療のためのヒト化抗CD33 IgG抗体であるスマートM195(プロテインデザインラブズ社)、非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗CD22 IgG抗体であるリンフォサイド(イムノメディックス社)、非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗HLA-DR抗体であるスマートID10(プロテインデザインラブズ社)、非ホジキンリンパ腫の治療のための放射性元素標識化マウス抗HLA-Dr10抗体であるオンコリム(テクニクローン社)、ホジキン氏病または非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗CD2 mAbであるアロミューン(バイオトランスプラント社)、肺ガンおよび結直腸ガンの治療のための抗VEGFヒト化抗体であるアバスチン(ジェネンテック社)、非ホジキンリンパ腫の治療のための抗CD22抗体であるエプラツザマブ(イムノメディックス社およびアムジェン社)、および結直腸ガンの治療のためのヒト化抗CEA抗体であるシーサイド(イムノメディックス社)を含むがそれらに限定されない。
【0138】
本発明の好ましい実施形態において、抗体は以下の抗原に対する抗体である。CA125、CA15-3、CA19-9、L6、ルイスY、ルイスX、アルファフェトタンパク質、CA242、胎盤アルカリホスファターゼ、前立腺特異性膜抗原、EphB2、TMEFF2、前立腺酸性ホスファターゼ、上皮増殖因子、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、MAGE-4、抗トランスフェリン受容体、p97、MUC1-KLH、CEA、gp100、MART1、前立腺特異性抗原、IL-2受容体、CD20、CD52、CD33、CD22、ヒト絨毛膜ゴナドトロピン、CD38、CD40、ムチン、P21、MPGおよびNeuガン遺伝子産物。いくつかの特異的な有用な抗体は、BR96 mAb(Trail, P. A. et al. Science 1993, 261, 212-215)、BR64(Trail, P. A. et al. Cancer Research 1997, 57, 100-105)、S2C6 mAb(Francisco, J. A. et al. Cancer Res. 2000, 60, 3225-3231)などのCD40抗原に対するmAb、または米国特許出願公開第2003/0211100号明細書および第2002/0142358号明細書に開示されているようなその他の抗CD40抗体、1F6 mAbおよび2F 2mAbなどのCD70抗原に対するmAb、およびAC10(Bowen, M. A. et al. J. Immunol. 1993, 151, 5896-5906、Wahl, A. F. et al. Cancer Res.2002, 62(13), 3736-42)またはMDX-0060(米国特許出願公開第2004/0006215号明細書)などのCD30抗原に対するmAbを含むが、それらに限定されない。
【0139】
本発明の式(12)および式(13)におけるmは0または1である。好ましい実施形態では、mが0であり、式(32)または式(33)で示される複合体が提供される。
【0140】
【0141】
【0142】
本態様の別の好ましい実施形態では、mが1かつB2が水素原子であり、式(34)または式(35)で示される複合体が提供される。
【0143】
【0144】
【0145】
本態様のもう一つの好ましい実施形態では、mが1かつB2が-C(R6)(R7)OC(O)D1であり、式(36)または式(37)で示される複合体が提供される。この実施形態においては、一つのアセタールに対して二つのE1を有する誘導体が提供される。
【0146】
【0147】
【実施例】
【0148】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0149】
1H-NMR分析では日本電子データム(株)製JNM-ECP400またはJNM-ECA600を使用した。測定にはφ5mmチューブを用い、重水素化溶媒がCDCl3またはd6-DMSOの場合は、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用し、D2Oの場合はHDOを基準とした。
【0150】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析では、GPCシステムとしてSHODEX GPC SYSTEM-11、検出器である示唆屈折計としてSHODEX RIX8、GPCカラムとしてSHODEX KF801L、KF803L、KF804L(φ8mm×300mm)を3本直列に繋ぎ、カラムオーブンの温度を40℃とした。溶離液としてはテトラヒドロフランを用い、流速は1ml/分とし、試料の濃度は0.1wt%とし、注入容量は0.1mLとして測定を行った。検量線は関東化学(株)製のエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、並びにPolymer Laboratory製の分子量600~70000のポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキシドのGPC用Polymer Standardsを用いて作成したものを用いた。データの解析はBORWIN GPC計算プログラムを使用した。Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量を表わし、分子量分布はMw/Mnとしてその計算値を示した。
【0151】
加水分解試験で使用するpD 3.0のクエン酸重水緩衝液、pD 4.0の酢酸重水緩衝液、pD 7.4のHEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-pipe razinyl]ethanesulfonic acid)重水緩衝液は、それぞれ0.1Mのクエン酸重水溶液、0.1Mの酢酸重水溶液、0.1MのHEPES重水溶液に0.1Mの水酸化ナトリウム重水溶液を加え、「Glasoe, P. K.; Long, F. A. J. Phys. Chem. 1960, 64, 188-190」に記載されている以下の関係式に基づいて調製した。
pD=pHメーターの測定値+0.40
【0152】
ベンジルアミンの放出率は式(44)の化合物を用いて1H-NMRで評価し、式(44)の化合物におけるベンジルアミンのメチレン水素の積分値をI1、アセタールの加水分解に伴う1,6-ベンジル脱離により放出されるベンジルアミンのメチレン水素の積分値をI2として、次の計算式により算出した。
ベンジルアミンの放出率(%)=[I2/(I1+I2)]×100
【0153】
(実施例1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに3-ヒドロキシベンズアルデヒド(2.00 g, 16.4 mmol)、オルトギ酸トリメチル(3.48 g, 32.8 mmol)、メタノール(17 g)を仕込み、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.312 mg, 1.64 mmol)を加えて25℃にて2時間反応を行った。水酸化ナトリウムを加えてしばらく撹拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解し、5wt%炭酸水素ナトリウム水溶液、25wt%食塩水の順で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(38)の化合物を得た。
【0154】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
3.33(6H, s, -OCH
3
),
5.35(1H, s, -CH<),
6.81(1H, d, arom. H),
6.95(1H, d, arom. H),
7.23-7.26(1H, m, arom. H)
【0155】
【0156】
(実施例2)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに文献(Freeman, J. H.; J.Am.Chem.Soc. 1952, 74, 6257-6260)に従い合成した2,4-ジ(ヒドロキシメチル)フェノール(50.0 mg, 0.324 mmol)、式(38)の化合物(217 mg, 1.29 mmol)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(7.14 mg, 0.0324 mmol)、無水硫酸ナトリウム(1 g)およびシクロペンチルメチルエーテル(10 g)を仕込み、p-トルエンスルホン酸一水和物(4.10 mg, 0.0212 mmol)を加えて40℃にて2時間反応を行った。N-メチルモルホリンを加えてしばらく撹拌した後、濾過を行った。10wt%食塩水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(39)の化合物を得た。
【0157】
1H-NMR(d6-DMSO, 内部標準TMS);
δ(ppm):
4.42(2H, d, -CH
2
OH),
4.93(1H, d, -CH
2
O-),
5.10(1H, t, -CH2OH),
5.15(1H, d, -CH
2
O-),
6.01(1H, s, -CH<),
6.80-7.21(7H, m, arom. H),
9.53(1H, bs, >C-OH)
【0158】
【0159】
(実施例3)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した300 mLの四つ口フラスコに脱水メタノール(12.8 g, 0.400 mol)、脱水トルエン(150 g)および金属ナトリウム0.3 g(13 mmol)を仕込み、窒素を吹き込みながら金属ナトリウムが溶解するまで室温で攪拌した。この溶液を5 Lオートクレーブへ仕込み、系内を窒素置換後、100℃に昇温した。100~130℃、1 MPa以下の圧力でエチレンオキシド(1,987 g, 45 mol)を加えた後、更に2時間反応を続けた。減圧にて未反応のエチレンオキシドガスを除去後、60℃に冷却し、85%リン酸水溶液でpH 7.5に調整して式(40)の化合物を得た。
【0160】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
2.68(1H, t, OH),
3.38(3H, s, CH
3
O-),
3.49-3.85(450H, m, -(OCH
2
CH
2
)n-)
GPC分析;
数平均分子量(Mn): 5119,
重量平均分子量(Mw): 5226,
多分散度(Mw/Mn): 1.021
【0161】
【0162】
(実施例4)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した500 mLの三つ口フラスコに式(40)の化合物(100 g, 20.0 mmol)とトルエン(250g)を仕込み、水をトルエンで共沸除去した。40℃へ冷却後、トリエチルアミン(3.24 g, 32.0 mmol)を仕込み、滴下漏斗に準備した塩化メタンスルホニル(2.75 g, 24.0 mmol)を徐々に滴下した。滴下終了後、40℃で3時間反応を行った。エタノール(1.11 g, 24.0 mmol)を加えてしばらく攪拌し、濾過後、酢酸エチル(200 g)で希釈した。ヘキサン(500 g)を添加して晶析を行い、濾過後、結晶を酢酸エチル(500 g)に溶解させた。ヘキサン(500g)を添加して再度晶析を行い、濾過後、減圧下で乾燥して式(41)の化合物を得た。
【0163】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
3.08(3H, s, -OSO2CH
3
),
3.38(3H, s, CH
3
O-),
3.52-3.85(448H, m, -(OCH
2
CH
2
)n-OCH
2
-),
4.37-4.39(2H, m, -CH
2
OSO2CH3)
GPC分析;
数平均分子量(Mn): 5197,
重量平均分子量(Mw): 5306,
多分散度(Mw/Mn): 1.021
【0164】
【0165】
(実施例5)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(39)の化合物(37.0 mg, 0.141 mmol)、式(41)の化合物(705 mg, 0.141 mmol)、炭酸カリウム(97.0 mg, 0.705 mmol)およびアセトニトリル(3.5 g)を仕込み、80℃にて4時間反応を行った。濾過後、溶媒を減圧留去し、残渣をジクロロメタンに溶解した。10wt%食塩水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去し、残渣をトルエン(50 g)に溶解した。ヘキサン(50 g)を添加して晶析を行い、濾過後、減圧乾燥して式(42)の化合物を得た。
【0166】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
3.38(3H, s, -OCH
3
),
3.52-4.18(450H, m, -(OCH2CH2)n-),
4.62(2H, s, -CH
2
OH),
4.98(1H, d, -CH
2
O-),
5.18(1H, d, -CH
2
O-),
5.95(1H, s, -CH<),
6.87-7.34(7H, m, arom. H)
GPC分析;
数平均分子量(Mn): 5375,
重量平均分子量(Mw): 5490,
多分散度(Mw/Mn): 1.021
【0167】
【0168】
(実施例6)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(42)の化合物(300 mg, 0.0600 mmol)、炭酸ジ(N-スクシンイミジル)(46.0 mg, 0.180 mmol)、トリエチルアミン(21.0 mg, 0.208 mmol)およびジクロロメタン(5 g)を仕込み、25℃にて12時間反応を行った。濾過後、5wt%食塩水で洗浄し、有機層の溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル(6 g)に溶解し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過を行った。酢酸エチル(44 g)を加えた後、ヘキサン(50 g)を添加して晶析を行い、濾過後、減圧乾燥して式(43)の化合物を得た。
【0169】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
2.85(4H, s, -COCH
2
CH
2
CO-),
3.38(3H, s, -OCH
3
),
3.52-4.18(450H, m, -(OCH2CH2)n-),
5.00(1H, d, -CH
2
OCH<),
5.18(1H, d, -CH
2
O-),
5.25(2H, s, -CH
2
OCO-),
5.97(1H, s, -CH<),
6.96-7.35(7H, m, arom. H)
GPC分析;
数平均分子量(Mn): 5516,
重量平均分子量(Mw): 5634,
多分散度(Mw/Mn): 1.021
【0170】
【0171】
(実施例7)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(43)の化合物(72.0 mg, 0.0144 mmol)、ベンジルアミン(6.17 mg, 0.0576 mmol)およびトルエン(5 g)を仕込み、40℃で1時間反応を行った。濾過後、酢酸エチル(50 g)を加え、ヘキサン(50 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧乾燥して式(44)の化合物を得た。
【0172】
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
3.38(3H, s, -OCH
3
),
3.52-4.18(450H, m, -(OCH2CH2)n-),
4.82(2H, s, -NH-CH
2
-),
4.98(1H, d, -CH
2
OCH<),
5.07(2H, s, -CH
2
OCO-),
5.17(1H, d, -CH
2
O-),
5.95(1H, s, -CH<),
6.93-7.35(12H, m, arom. H)
GPC分析;
数平均分子量(Mn): 5508,
重量平均分子量(Mw): 5625,
多分散度(Mw/Mn): 1.021
【0173】
【0174】
(実施例8)
式(44)の化合物(20 mg)をそれぞれpD 3.0のクエン酸重水緩衝液(1mL)、pD 4.0の酢酸重水緩衝液(1mL)、pD 7.4のHEPES重水緩衝液(1mL)に溶解した。37℃の恒温槽で静置し、アセタールの加水分解に伴うベンジルアミンの放出率を
1H-NMRで測定した。測定結果を
図6に示した。
【0175】
図6に示すように、式(44)の化合物はpD 3.0および4.0においてアセタールの加水分解に伴う1,6-ベンジル脱離によりベンジルアミンを放出し、ベンジルアミンの放出半減期(t
1/2)はそれぞれ6時間および44時間であった。pD 7.4においては96hr後でも加水分解は見られなかった。