(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】燃料ポンプ組付構造
(51)【国際特許分類】
F02M 59/10 20060101AFI20220210BHJP
F02M 39/02 20060101ALI20220210BHJP
F02M 59/44 20060101ALI20220210BHJP
F02M 37/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F02M59/10 B
F02M39/02 A
F02M59/44 C
F02M37/06 Z
(21)【出願番号】P 2018015894
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】小林 優介
(72)【発明者】
【氏名】大石 和貴
(72)【発明者】
【氏名】中西 良
(72)【発明者】
【氏名】山城 竜太郎
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-272959(JP,A)
【文献】特開平03-294653(JP,A)
【文献】特開平07-332186(JP,A)
【文献】特開平06-159192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00,39/00,59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのカムシャフトのカムに向かって開口する内部開口から外部へ向かって所定方向に沿って延びるアダプタ挿入孔を有し、内部に前記カムシャフトを収容するカムシャフトハウジングと、
前記所定方向に沿って延び
るポンプ挿入孔を径方向内側に有し、少なくとも一部の領域が前記カムシャフトハウジングの前記アダプタ挿入孔に挿入される筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部のうち前記アダプタ挿入孔に挿入された領域に配置されて前記シリンダ部の内周面から径方向内側
の前記ポンプ挿入孔へ突出する突出部とを有し、前記カムシャフトハウジングに対して固定されるアダプタと、
前記カムシャフトの前記カムに当接するローラを支持した状態で前記アダプタの
前記ポンプ挿入孔の前記所定方向の一側に配置され、前記シリンダ部の内周面に前記所定方向に摺動自在に支持される
筒状のタペットを有し、前記カムの回転運動を前記所定方向に沿った前記タペットの往復運動に変換し、前記タペットの往復運動を利用して燃料を前記エンジン側へ供給する燃料ポンプと、を備え、
前記タペットの外周面には、前記所定方向に沿って直線状に延び、前記アダプタの前記突出部の挿入を許容して前記突出部と係合する溝部が形成され、
前記溝部は、前記タペットの前記外周面から径方向内側へ凹み、前記タペットの径方向内側へ貫通せず、且つ前記アダプタの前記ポンプ挿入孔のうち前記タペットよりも前記所定方向の他側の領域と連通しない有底の溝形状であり、
前記アダプタの前記突出部と前記タペットの前記溝部との係合は、前記所定方向に沿った前記タペットの往復移動を許容し、且つ前記溝部と交叉する方向への前記タペットの回転移動を規制する
ことを特徴とする燃料ポンプ組付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料ポンプ組付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高圧燃料ポンプが設けられたエンジンが記載されている。エンジンのシリンダヘッドとカムハウジングとの間には動弁室が形成されており、動弁室には吸気カムシャフトおよび排気カムシャフトが収容されている。排気カムシャフトには、排気弁を昇降させる複数の排気カムおよび高圧燃料ポンプを駆動する1つの駆動カムが設けられている。カムハウジングの一部は、高圧燃料ポンプの一部であるポンプハウジング部を構成している。ポンプハウジング部には駆動カムに対向するガイド孔が形成されており、このガイド孔にはタペットが昇降自在に設けられている。タペットの外周面にはガイド穴が形成されている。ポンプハウジング部にはボス部が設けられており、このボス部にはボルト穴が形成されている。ボルト穴に螺合されたボルトの先端部は、タペットの外周面のガイド穴に挿通され、タペットの進退時にタペットの回転や傾きの発生を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の高圧燃料ポンプでは、タペットの周り止めのボルトを螺合するためのボルト穴が、エンジンのカムハウジングの一部であるポンプハウジング部に形成されるので、ポンプハウジング部内のオイルがボルト穴からエンジンの外部へ漏れてしまう可能性がある。このオイル漏れを回避するために、タペットの外周面に突出部を設け、ポンプハウジング部のガイド孔の内周面に溝を設けることが考えられるが、この場合、孔の内部に溝を成形するので、タペットの外周面に溝を成形する場合に比べて溝の成形が難しく、作業の効率性が悪化して加工コストが増大する可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、タペットの回転を防止しつつオイル漏れを防止することが可能な燃料ポンプ組付構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示に係る燃料ポンプ組付構造は、カムシャフトハウジングとアダプタと燃料ポンプとを備える。カムシャフトハウジングは、エンジンのカムシャフトのカムに向かって開口する内部開口から外部へ向かって所定方向に沿って延びるアダプタ挿入孔を有し、内部にカムシャフトを収容する。アダプタは、上記所定方向に沿って延びるポンプ挿入孔を径方向内側に有し、少なくとも一部の領域がカムシャフトハウジングのアダプタ挿入孔に挿入される筒状のシリンダ部と、シリンダ部のうちアダプタ挿入孔に挿入された領域に配置されてシリンダ部の内周面から径方向内側のポンプ挿入孔へ突出する突出部とを有し、カムシャフトハウジングに対して固定される。燃料ポンプは、カムに当接するローラを支持した状態でアダプタのポンプ挿入孔の上記所定方向の一側に配置され、シリンダ部の内周面に上記所定方向に摺動自在に支持される筒状のタペットを有し、カムシャフトのカムの回転運動を上記所定方向に沿ったタペットの往復運動に変換し、タペットの往復運動を利用して燃料をエンジン側へ供給する。タペットの外周面には、上記所定方向に沿って直線状に延び、アダプタの突出部の挿入を許容して突出部と係合する溝部が形成される。溝部は、タペットの外周面から径方向内側へ凹み、タペットの径方向内側へ貫通せず、且つアダプタのポンプ挿入孔のうちタペットよりも所定方向の他側の領域と連通しない有底の溝形状である。アダプタの突出部とタペットの溝部との係合は、上記所定方向に沿ったタペットの往復移動を許容し、且つ溝部と交叉する方向へのタペットの回転移動を規制する。
【0007】
上記構成では、アダプタの突出部が、シリンダ部の内周面から径方向内側へ突出し、燃料ポンプのタペットの外周面には、所定方向に沿って直線状に延びてアダプタの突出部の挿入を許容して突出部と係合する溝部が形成される。このため、アダプタの突出部とタペットの溝部とを適切に配置することによって、タペットをアダプタのシリンダ部内に挿入する際に、カムシャフトの回転軸(カムの回転軸)と燃料ポンプのローラの回転軸とを、互いに略平行になるように容易に位置決めすることができる。
【0008】
また、アダプタの突出部とタペットの溝部との係合は、溝部と交叉する方向へのタペットの回転移動を規制する。このため、タペットをアダプタのシリンダ部内に挿入する際に設定したカムの回転軸と燃料ポンプのローラの回転軸との略平行な位置関係が、燃料ポンプの駆動時(タペットの往復移動時)に回転方向(溝部と交叉する方向)に変化して略平行ではなくなってしまうことを防止することができ、カムとローラとの焼け付き等を防止することができる。
【0009】
また、アダプタの突出部は、シリンダ部のうちアダプタ挿入孔に挿入された領域に配置される。このため、例えば、アダプタのシリンダ部に径方向に貫通するピン挿入孔を設け、該ピン挿入孔にピンを挿入してシリンダ部の内周面から径方向内側へ突出させることによってピンを突出部として機能させる場合であっても、ピン挿入孔がシリンダ部のうちカムシャフトハウジングのアダプタ挿入孔に挿入された領域に配置されているので、ピン挿入孔からシリンダ部の外部へ流出するオイルをカムシャフトハウジング内に留めることができる。従って、カムシャフトハウジングの外部へのオイルの流出を防止することができる。
【0010】
また、カムシャフトハウジングと燃料ポンプとの間にアダプタを設け、アダプタのシリンダ部の内周面がタペットを摺動自在に支持するので、仮にタペットの摺動によってシリンダ部が損傷したとしても、アダプタを交換することによって対処することができ、燃料ポンプをカムシャフトハウジングに直接取り付ける場合とは異なり、カムシャフトハウジングを交換する必要が無い。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、タペットの回転を防止しつつオイル漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料ポンプ組付構造を適用したエンジンの概略図である。
【
図3】燃料ポンプ組付構造の要部の概略断面図である。
【
図6】ピンとスライド溝部の係合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、上下方向は、
図1~
図6の上下方向に対応する。また、各図において、CL1はクランクシャフト8の回転軸を、CL2はカムシャフト13の回転軸を、CL3はサプライポンプ50のタペットローラ51の回転軸をそれぞれ示す。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る燃料ポンプ組付構造は、例えば、コモンレール式燃料噴射システムを備えるディーゼルエンジン1(以下、単にエンジン1という。)のサプライポンプ(燃料ポンプ)50の組付構造に適用される。コモンレール式燃料噴射システムでは、燃料タンク2内の燃料をフィードポンプ3によってサプライポンプ50側へ供給し、サプライポンプ50によって燃料を加圧してコモンレール4へ供給し、サプライポンプ50によって加圧された高圧の燃料をコモンレール4に貯留し、コモンレール4に貯留された高圧の燃料を複数(本実施形態では、4つ)のインジェクタ5からエンジン1の複数(本実施形態では、4つ)の燃焼室6へ噴射する。インジェクタ5から燃焼室6へ噴射された燃料は、燃焼室6内でピストン7によって圧縮された高温の空気によって着火して燃焼し、この燃焼によって膨張したガスが、ピストン7を押し下げてエンジン1のクランクシャフト8を回転させる。なお、
図2には、1つの燃焼室6のみが図示されている。
【0015】
エンジン1は、燃焼室6への吸気を制御する吸気弁11、燃焼室6からの排気を制御する排気弁12、フィードポンプ3、及びサプライポンプ50を駆動するためのカムシャフト13を有する。エンジン1のシリンダブロック1aは、カムシャフト13を回転自在に支持する。シリンダブロック1aの内部には、カムシャフト13を収容するシャフト収容空間21(
図3参照)が区画される。すなわち、シリンダブロック1aの一部は、シャフト収容空間21を区画するカムシャフトハウジング20(
図3参照)として機能する。吸気弁11及び排気弁12は、アーム15を介してプッシュロッド16に連結され、カムシャフト13の回転によって駆動される。なお、
図2では、吸気弁11側のアーム15及びプッシュロッド16を図示し、排気弁12側のアーム15及びプッシュロッド16の図示を省略している。
【0016】
図1~
図3に示すように、カムシャフト13は、棒状部材であって、複数のカムを一体的に有し、エンジン1のシリンダブロック1aに回転自在に支持される。複数のカムには、複数の吸気弁駆動カム17と、複数の排気弁駆動カム18(
図3には、1つの排気弁駆動カム18のみが図示されている。)と、フィードポンプ駆動カム19と、サプライポンプ駆動カム(カム)14とが含まれる。カムシャフト13は、カムシャフト13の軸方向(延設方向)に延びる回転軸CL2を有し、カムシャフト13の回転軸CL2がクランクシャフト8の回転軸CL1と略平行になるように配置される。カムシャフト13の一端側の端部には、入力ギア9が固定的に設けられる。カムシャフト13の入力ギア9は、クランクシャフト8に対してギアまたはチェーン等を介して連結される。この連結によって、カムシャフト13の入力ギア9には、カムシャフト13を回転させるための力がクランクシャフト8から入力し、カムシャフト13は、クランクシャフト8の回転に伴って回転する。吸気弁駆動カム17には、吸気弁11側のプッシュロッド16の先端が当接し、排気弁駆動カム18には、排気弁12側のプッシュロッド16の先端が当接し、フィードポンプ駆動カム19には、フィードポンプ3のタペットローラ(図示省略)が当接し、サプライポンプ駆動カム14には、サプライポンプ50の後述するタペットローラ(ローラ)51が当接する。吸気弁駆動カム17は吸気弁11を駆動し、排気弁駆動カム18は排気弁12を駆動し、フィードポンプ駆動カム19はフィードポンプ3を駆動し、サプライポンプ駆動カム14はサプライポンプ50を駆動する。
【0017】
図3に示すように、本実施形態に係る燃料ポンプ組付構造は、エンジン1のカムシャフトハウジング20とアダプタ30とサプライポンプ50とを備える。
【0018】
カムシャフトハウジング20は、上下方向(所定方向)に沿って貫通するアダプタ挿入孔22を有し、シャフト収容空間21を区画する。アダプタ挿入孔22は、シャフト収容空間21とカムシャフトハウジング20の外部とを連通する。アダプタ挿入孔22は、カムシャフト13の回転軸CL2と交叉する方向に延びる。アダプタ挿入孔22のシャフト収容空間21側の開口23(以下、内部開口23という。)は、シャフト収容空間21に収容されたカムシャフト13のサプライポンプ駆動カム14から上方に離間した位置に配置され、サプライポンプ駆動カム14に向かって開口する。
【0019】
図3及び
図4に示すように、アダプタ30は、上下方向に延びる筒状のシリンダ部31と、シリンダ部31の上端部から径方向外側へ拡がる鍔状のフランジ部32と、シリンダ部31に固定されるピン37とを有し、カムシャフトハウジング20に対して固定される。
【0020】
シリンダ部31は、カムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に上方から挿入される。シリンダ部31がカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に上方から挿入された状態で、フランジ部32は、カムシャフトハウジング20の外部に配置され、アダプタ挿入孔22の周囲のカムシャフトハウジング20の上面に対して締結固定される。フランジ部32とアダプタ挿入孔22の周囲のカムシャフトハウジング20の上面との間には、ガスケット等のシール部材(図示省略)が介在する。シリンダ部31は、上端開口33と下端開口34とを連通して上下方向に直線状に延びるポンプ挿入孔35を有する。ポンプ挿入孔35の軸が延びる方向(上記所定方向)は、カムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向である。下端開口34は、シャフト収容空間21に収容されたカムシャフト13のサプライポンプ駆動カム14から上方に離間した位置に配置され、サプライポンプ駆動カム14に向かって開口する。シリンダ部31のうちカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に挿入される領域36には、シリンダ部31を径方向(本実施形態では、シリンダ部31の軸と直交する方向)に貫通するピン挿入孔38が形成される。ピン挿入孔38は、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に沿って延びる。ピン挿入孔38が設けられる位置は、シリンダ部31の上記領域36のうち、サプライポンプ50の後述するタペット52が摺動する範囲に含まれる。
【0021】
ピン37は、シリンダ部31のピン挿入孔38に沿って延びる棒体であって、ピン挿入孔38に圧入されてシリンダ部31に対して固定される。すなわち、ピン37は、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に沿って延びる。ピン37がシリンダ部31に固定された状態で、シリンダ部31の径方向のピン37の外端は、シリンダ部31の外周面31aと略同一面上に配置され、シリンダ部31の径方向のピン37の内端は、シリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に配置される。すなわち、ピン37は、シリンダ部31に固定された状態でシリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に突出する突出部39(
図6参照)を有する。ピン37の突出部39は、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に沿って突出する。
【0022】
図3に示すように、サプライポンプ50は、ポンプ本体53とプランジャ54とタペット52とタペットローラ51とを有するピストン式ポンプであって、カムシャフト13の回転運動をタペットローラ51及びタペット52の往復運動に変換し、タペット52の往復運動によってポンプ本体53内のプランジャ54を往復運動させて、フィードポンプ3から供給される燃料をコモンレール4(
図1参照)側へ供給する。サプライポンプ50は、カムシャフトハウジング20に対してアダプタ30を介して固定される。
【0023】
図3及び
図5に示すように、タペット52は、略円筒状に形成され、その外周面52cがアダプタ30のシリンダ部31の内周面31bに沿って摺動し、シリンダ部31内を上下に往復移動する。タペット52の摺動範囲62(往復移動する範囲)は、上死点(
図5に二点鎖線で示す位置)におけるタペット52の下端52aが、下死点(
図5に実線で示す位置)におけるタペット52の上端52bよりも下方に位置するように設定される。すなわち、タペット52の摺動範囲62には、タペット52の往復移動時に常にタペット52が存在する領域63(上死点におけるタペット52の下端52aと下死点におけるタペット52の上端52bとの間の領域。以下、重複領域63という。)が存在する。シリンダ部31のピン挿入孔38(
図4参照)は、シリンダ部31の上記領域36(カムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に挿入される領域36)のうち、タペット52の摺動範囲62の重複領域63に含まれる高さ位置(
図5に一点鎖線64で示す位置)に形成され、ピン37もタペット52の摺動範囲62の重複領域63に含まれる高さ位置(
図5に一点鎖線64で示す位置)に配置される。タペット52の内径部には、該内径部を上方の領域と下方の領域とに仕切る壁部60が設けられる。
【0024】
図5及び
図6に示すように、タペット52の外周面52cには、外周面52cから径方向内側へ凹んだ状態で上下方向に沿って直線状に延びるスライド溝部(溝部)61が形成される。スライド溝部61は、タペット52の上端52bよりも下方の所定の高さ位置から下方へ延びて、タペット52の下端52aから下方へ開放されている。スライド溝部61は、アダプタ30のピン37の突出部39の挿入を許容してピン37の突出部39と係合する大きさに形成される。スライド溝部61の幅(タペット52の周方向の長さ)は、タペット52のスライド溝部61とアダプタ30のピン37の突出部39とを係合させた際に、アダプタ30に対するタペット52の回転移動(タペット52の周方向への移動)が規制されるように、ピン37の径よりも僅かに長く設定される。スライド溝部61の長さ(上下方向の長さ)は、ピン37の径よりも長く、且つスライド溝部61にピン37の突出部39が挿入された状態で、タペット52の上死点と下死点との間での移動を許容する長さに設定される。すなわち、スライド溝部61の上端は、タペット52が下死点にある状態でピン37の高さ位置64よりも上方に位置するように設定され、スライド溝部61の下端(本実施形態では、タペット52の下端52a)は、タペット52が上死点にある状態でピン37の高さ位置64よりも下方に位置するように設定される。タペット52の内径部の壁部60よりも下方の領域には、タペットローラ51が配置される。
【0025】
図3に示すように、タペットローラ51は、タペット52から下方に延びる一対のローラ支持部65に、軸棒66を介して回転自在に支持される。一対のローラ支持部65は、カムシャフト13の回転軸CL2が延びる方向に離間して相対向し、軸棒66は、一対のローラ支持部65の間でカムシャフト13の回転軸CL2に沿って直線状に延びる。すなわち、軸棒66が延びる方向(タペットローラ51の回転軸CL3が延びる方向)は、カムシャフト13の回転軸CL2と略平行となり、且つスライド溝部61が凹む方向と上面視において直交するように設定される。タペットローラ51は、下方のサプライポンプ駆動カム14に向かって付勢された状態で、サプライポンプ駆動カム14に当接する。カムシャフト13の回転によってサプライポンプ駆動カム14が回転すると、タペットローラ51が回転軸CL3を中心として回転しつつ、タペットローラ51、タペット52及びプランジャ54が上下方向に沿って往復運動し、プランジャ54がポンプ本体53のポンプ室で燃料を加圧してコモンレール4側へ供給する。すなわち、サプライポンプ50は、カムシャフト13の回転運動を、タペット52の往復運動に変換し、タペット52の往復運動を利用してプランジャ54を往復運動させて、燃料を加圧してコモンレール4へ供給する。なお、サプライポンプ50のタペット52の外周面52cやタペットローラ51には、図示しないオイル流路からオイルが供給される。
【0026】
サプライポンプ50をエンジン1に対して組み付ける際には、先ず、タペットローラ51を支持した状態のタペット52を、アダプタ30のポンプ挿入孔35に上方から挿入し、タペット52のスライド溝部61の下端からアダプタ30のピン37を挿入して係合させる。次に、プランジャ54をアダプタ30のポンプ挿入孔35に上方から挿入してポンプ本体53のフランジ部53aをアダプタ30に締結固定し、サプライポンプ50とアダプタ30とをユニット化する。最後に、サプライポンプ50とユニット化されたアダプタ30のシリンダ部31を、エンジン1のカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に上方から挿入し、アダプタ30のフランジ部32を、カムシャフトハウジング20に対して締結固定する。なお、エンジン1に対するサプライポンプ50の組付方法は、上記に限定されるものではなく、例えば、先ず、アダプタ30をカムシャフトハウジング20に対して締結固定し、その後、アダプタ30に対してサプライポンプ50を固定する方法であってもよい。
【0027】
上記のように構成された燃料ポンプ組付構造では、アダプタ30のピン37の突出部39が、シリンダ部31の内周面31bから径方向内側に突出し、サプライポンプ50のタペット52の外周面52cに形成されたスライド溝部61と係合する。そして、タペットローラ51の回転軸CL3が延びる方向は、カムシャフト13の回転軸CL2と略平行に設定される。すなわち、アダプタ30側の突出部39とサプライポンプ50の側のスライド溝部61とが係合した状態で、タペットローラ51の回転軸CL3の方向が所望の方向(本実施形態では、カムシャフト13の回転軸CL2と略平行となる方向)になるように、アダプタ30側の突出部39とサプライポンプ50の側のスライド溝部61とが配置されている。このため、サプライポンプ50をアダプタ30に取り付ける際に、タペット52のスライド溝部61とアダプタ30のピン37とを係合させることによって、カムシャフト13の回転軸CL2とサプライポンプ50のタペットローラ51の回転軸CL3とを、互いに略平行になるように容易に位置決めすることができる。
【0028】
また、タペット52のスライド溝部61とアダプタ30のピン37の突出部39との係合は、アダプタ30に対するタペット52の回転移動(タペット52の周方向(スライド溝部61と交叉する方向)への移動)を規制する。このため、カムシャフト13の回転軸CL2とサプライポンプ50のタペットローラ51の回転軸CL3との略平行な位置関係が、サプライポンプ50の駆動時(タペット52の往復移動時に)に回転方向に変化して略平行ではなくなってしまうことを防止することができ、サプライポンプ駆動カム14とタペットローラ51との焼け付き等を防止することができる。
【0029】
また、アダプタ30のピン37の突出部39は、シリンダ部31のうちカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に挿入される領域36に配置される。このため、仮に、アダプタ30のピン挿入孔38からシリンダ部31の外部へオイルが流出したとしても、オイルがエンジン1の外部(カムシャフトハウジング20の外部)へ流出せず、オイルをカムシャフトハウジング20内に留めることができ、カムシャフトハウジング20の外部へのオイルの流出を防止することができる。
【0030】
また、カムシャフトハウジング20とサプライポンプ50との間にアダプタ30を設け、アダプタ30のシリンダ部31の内周面31bがタペット52を摺動自在に支持するので、仮にタペット52の摺動によってシリンダ部31の内周面31bが損傷したとしても、アダプタ30を交換することによって対処することができ、サプライポンプ50をカムシャフトハウジング20に直接取り付ける場合とは異なり、カムシャフトハウジング20を交換する必要が無い。
【0031】
なお、本実施形態では、エンジン1のシリンダブロック1aの一部をカムシャフトハウジング20として機能させたが、カムシャフトハウジング20はこれに限定されるものではなく、例えば、エンジン1のシリンダヘッドの内部にカムシャフト13を配置し、エンジン1のシリンダヘッドの一部をカムシャフトハウジング20として機能させてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、カムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22やアダプタ30のポンプ挿入孔35等が延びる方向(上記所定方向)を上下方向としたが、上記所定方向はこれに限定されるものではなく、カムシャフト13の回転軸CL2に直交する方向であれば、他の方向であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、複数のカム(複数の吸気弁駆動カム17、複数の排気弁駆動カム18、フィードポンプ駆動カム19、及びサプライポンプ駆動カム14)を有するカムシャフト13を設けたが、カムシャフト13はこれに限定されるものではなく、少なくともサプライポンプ駆動カム(カム)14を有するカムシャフト13であればよい。
【0034】
また、本実施形態では、アダプタ30のシリンダ部31にピン挿入孔38を設け、ピン挿入孔38にピン37を圧入し、ピン37をシリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に突出させることによって、突出部39を形成したが、突出部39はこれに限定されるものではない。例えば、シリンダ部31にボルト挿入孔を設け、該ボルト挿入孔に外部からボルトを螺合し、ボルトの先端側をシリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に突出させることによって、突出部を形成してもよい。或いは、シリンダ部31の内周面31bから径方向内側に突出する突出部を、シリンダ部31と一体成形してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、ピン37の突出部39が、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に突出する。このように、本実施形態では、シリンダ部31のうち、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する仮想線と交叉する部分に突出部39を設けたが、突出部39を設ける位置はこれに限定されるものではなく、シリンダ部31の周方向の任意の位置に突出部39を設けることができる。また、ピン37の突出部39と同様に、タペット52に設けられるスライド溝部61も、タペット52の外周面52cの周方向の任意の位置に設けることができる。すなわち、アダプタ30側の突出部39とサプライポンプ50の側のスライド溝部61とが係合した状態で、タペットローラ51の回転軸CL3の方向が所望の方向(本実施形態では、カムシャフト13の回転軸CL2と略平行となる方向)になるように、アダプタ30側の突出部39とサプライポンプ50の側のスライド溝部61とを配置することができる。
【0036】
また、本実施形態では、スライド溝部61の下側を、タペット52の下端52aから下方へ開放したが、これに限定されるものではなく、スライド溝部61は、アダプタ30側のピン37の突出部39が挿入されて互いに係合した状態で、アダプタ30に対するタペット52の上下方向の往復移動を許容する長さを有していればよい。
【0037】
また、本実施形態では、本開示に係る燃料ポンプ組付構造を、高圧燃料ポンプであるサプライポンプ50の組付構造に適用したが、これに限定されるものではなく、例えば、フィードポンプ3の組付構造に適用してもよい。
【0038】
以上、本開示について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本開示は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本開示を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本開示の範疇に含まれることは勿論である。
【0039】
例えば、上記実施形態では、本開示に係る燃料ポンプ組付構造を、ディーゼルエンジン1に適用したが、ガソリンエンジンに適用してもよい。また、コモンレール式燃料噴射システムを備えないエンジンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1:エンジン
13:カムシャフト
14:サプライポンプ駆動カム(カム)
20:カムシャフトハウジング
22:アダプタ挿入孔
23:内部開口
30:アダプタ
31:シリンダ部
31b:シリンダ部の内周面
36:領域(シリンダ部の一部の領域)
50:サプライポンプ(燃料ポンプ)
51:タペットローラ(ローラ)
52:タペット
52c:タペットの外周面
61:スライド溝部(溝部)