(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】還元剤供給装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20220210BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220210BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
B01D53/94 222
F01N3/24 Z
(21)【出願番号】P 2018066417
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】水上 直
(72)【発明者】
【氏名】景山 遊大
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/053265(WO,A1)
【文献】特開2016-151186(JP,A)
【文献】特開2015-206299(JP,A)
【文献】特開2012-215151(JP,A)
【文献】特開2010-024896(JP,A)
【文献】特開2015-021464(JP,A)
【文献】特開2008-101564(JP,A)
【文献】特表2006-516696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08~ 3/38
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤タンク内の液体還元剤をエンジン側から延びる排気管の内部の排気流路へポンプによって供給する還元剤供給装置であって、
前記排気管に接続され、前記ポンプからの液体還元剤を前記排気流路へ噴射する噴射弁と、
下方へ膨出するように湾曲する少なくとも1つの谷状部を有し、一端が前記噴射弁に接続され、他端が前記ポンプ側に接続されて、液体還元剤が流通可能な還元剤供給通路を内部に区画する還元剤供給管と、
前記還元剤供給管のうち前記谷状部の最下端よりも前記ポンプ側のポンプ側領域に配置されて、前記還元剤供給通路と前記還元剤供給管の外部とを連通し、前記還元剤供給通路から前記還元剤供給管の外部への空気の流通を許容する空気排出部と、を備え、
前記空気排出部は、前記還元剤供給管の前記ポンプ側領域のうち前記ポンプ側から前記噴射弁側へ向かって下方から上方へ延びる上昇流領域以外の領域に設けられる
ことを特徴とする還元剤供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の還元剤供給装置であって、
前記空気排出部を設ける前記還元剤供給管の前記上昇流領域以外の前記領域は、前記ポンプ側から前記噴射弁側へ向かって上方から下方へ延びる下降流領域であり、
前記空気排出部は、前記還元剤供給管の前記谷状部から連続して前記ポンプ側へ延びる前記下降流領域のうち、前記谷状部の近傍に設けられる
ことを特徴とする還元剤供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、還元剤供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気浄化装置が記載されている。この排気浄化装置では、排気通路のうち鉛直方向に延在している部位に還元剤噴射弁が設置され、還元剤供給通路はポンプに向かって下降していくように配置されている。空気透過部材は、液体(水分)は通さないが空気(気体)を通すという特性を備えており、還元剤噴射弁に設けられた孔を覆うように装着されている。貯蔵タンク内の還元剤を還元剤噴射弁へ供給する際、還元剤の供給前に貯蔵タンクから還元剤噴射弁に至る経路に存在していた空気は、還元剤の供給により空気透過部材から外部へ排出される。還元剤噴射弁が尿素の結晶化等により開弁できなくなっている場合は、還元剤噴射弁に還元剤が供給されることによって結晶が溶解し、開弁を可能としている。また、同公報には、空気透過部材を還元剤供給通路に設けてもよいことや、空気透過部材をできるだけ還元剤噴射弁と近接する位置に配置することが望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、還元剤噴射弁とポンプとの間の還元剤供給通路に、下方へ膨出するように湾曲した谷状の部分(以下、谷状部という。)が存在する場合には、この谷状部に結晶化した尿素が溜まり易く、結晶化した尿素によって還元剤供給通路が詰まってしまい、エンジン始動時等に尿素水を還元剤噴射弁から噴射できない可能性がある。上記特許文献1に記載の排気浄化装置では、還元剤噴射弁に空気透過部材を設けているので、還元剤噴射弁よりもポンプ側の還元剤供給通路で尿素が結晶化した場合、エンジン始動時等に貯蔵タンクから尿素水を還元剤噴射弁側へ供給しようとしても、結晶化した尿素によって空気が抜けず、結晶化した還元剤を溶解して取り除くことができない可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、還元剤供給通路で結晶化した還元剤による還元剤供給通路の詰まりを解消することが可能な還元剤供給装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、還元剤タンク内の液体還元剤をエンジン側から延びる排気管の内部の排気流路へポンプによって供給する還元剤供給装置であって、噴射弁と還元剤供給管と空気排出部とを備える。噴射弁は、排気管に接続され、ポンプからの液体還元剤を排気流路へ噴射する。還元剤供給管は、下方へ膨出するように湾曲する少なくとも1つの谷状部を有し、一端が噴射弁に接続され、他端がポンプ側に接続されて、液体還元剤が流通可能な還元剤供給通路を内部に区画する。空気排出部は、還元剤供給管のうち谷状部の最下端よりもポンプ側のポンプ側領域に配置されて、還元剤供給通路と還元剤供給管の外部とを連通し、還元剤供給通路から還元剤供給管の外部への空気の流通を許容する。空気排出部は、還元剤供給管のポンプ側領域のうちポンプ側から噴射弁側へ向かって下方から上方へ延びる上昇流領域以外の領域に設けられる。
【0007】
上記構成では、空気排出部は、還元剤供給管のうち谷状部の最下端よりもポンプ側のポンプ側領域に配置され、還元剤供給通路から還元剤供給管の外部への空気の流通を許容する。このため、還元剤供給管の谷状部の最下端に還元剤が結晶化して谷状部が詰まったとしても、ポンプを作動した際に還元剤供給通路から還元剤供給管の外部へ空気排出部を介して空気が排出されるので、液体還元剤を空気排出部側へ供給することができる。また、空気排出部は、還元剤供給管のポンプ側領域のうちポンプ側から噴射弁側へ向かって下方から上方へ延びる上昇流領域以外の領域に設けられるので、ポンプに圧送されて空気排出部に到達した液体還元剤は、上昇流とはならない。このように、空気排出部に到達した液体還元剤が上昇流とはならない位置に空気排出部を配置するので、上昇流領域以外の領域の適切な位置(例えば、下降流領域や下降流領域の近傍の水平領域等)に空気排出部を設けることによって、空気排出部に到達した液体還元剤を谷状部の最下端へ流下させることができ、谷状部内の結晶化した還元剤を液体還元剤によって溶解して取り除くことができる。
【0008】
従って、還元剤供給通路で結晶化した還元剤による還元剤供給通路の詰まりを解消することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の還元剤供給装置であって、空気排出部を設ける還元剤供給管の上昇流領域以外の上記領域は、ポンプ側から噴射弁側へ向かって上方から下方へ延びる下降流領域である。空気排出部は、還元剤供給管の谷状部から連続してポンプ側へ延びる下降流領域のうち、谷状部の近傍に設けられる。
【0010】
上記構成では、空気排出部は、還元剤供給管の谷状部から連続してポンプ側へ延びる下降流領域のうち、谷状部の近傍に設けられるので、還元剤が結晶化し易い谷状部の最下端へ液体還元剤を確実に流下させることができ、谷状部内の結晶化した還元剤を液体還元剤によって溶解して取り除くことができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、還元剤供給通路で結晶化した還元剤による還元剤供給通路の詰まりを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る還元剤供給装置を備えた車両の概略図である。
【
図2】
図1の還元剤供給装置の概略的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、
図2において、UPは上方を示す。また、白抜き矢印は排気の流通方向を示す。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る還元剤供給装置10は、エンジン2から排出される排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)システムを備える車両1に適用される。SCRシステムでは、液体還元剤(本実施形態では、尿素水)が加水分解することによって生成されるアンモニアを用いて排気ガス中のNOxを還元している。エンジン2に接続された排気管3には、排気ガス中のNOxを還元浄化するSCR触媒4が配設される。還元剤供給装置10は、還元剤タンク5内の液体還元剤を排気管3の内部の排気流路6へポンプ7によって供給し、排気ガス中のNOxを還元する。
【0015】
図1及び
図2に示すように、還元剤供給装置10は、還元剤噴射ノズル(噴射弁)11と、還元剤供給管12と、空気排出部13とを備える。
【0016】
還元剤噴射ノズル11は、SCR触媒4よりも排気上流側に配置され、還元剤噴射ノズル11の先端が排気管3内の排気流路6に配置された状態で排気管3に対して接続され、ポンプ7からの液体還元剤を排気流路6に噴射する。
【0017】
還元剤供給管12は、一端が還元剤噴射ノズル11に接続され、他端が還元剤タンク5に接続された状態で、還元剤噴射ノズル11と還元剤タンク5とを連結する。還元剤供給管12の内部には、液体還元剤が流通可能な還元剤供給通路14が区画される。還元剤供給管12には、ポンプ7が設けられる。ポンプ7よりも還元剤噴射ノズル11側の還元剤供給管12は、上昇流領域15と下降流領域16と水平領域17とによって構成される。上昇流領域15は、液体還元剤を還元剤タンク5から排気流路6へ供給する際に、還元剤上流側から還元剤下流側へ向かって下方から上方へ延び、液体還元剤が上昇流となる領域である。下降流領域16は、液体還元剤を還元剤タンク5から排気流路6へ供給する際に、還元剤上流側から還元剤下流側へ向かって上方から下方へ延び、液体還元剤が下降流となる領域である。水平領域17は、その高さが略水平の領域である。上昇流領域15と下降流領域16との連結部分には、上方へ膨出するように湾曲する山状の山状部18、または下方へ膨出するように湾曲する谷状の谷状部19が形成される。本実施形態では、還元剤供給管12は、還元剤噴射ノズル11からポンプ7側へ向かって、第1下降流領域16a、第1上昇流領域15a、第2下降流領域16b、第2上昇流領域15b、第3下降流領域16c、水平領域17、第4下降流領域16dの順に連続している。第1下降流領域16aと第1上昇流領域15aとの連結部分には、第1山状部18aが形成され、第1上昇流領域15aと第2下降流領域16bとの連結部分には、第1谷状部19aが形成され、第2下降流領域16bと第2上昇流領域15bとの連結部分には、第2山状部18bが形成され、第2上昇流領域15bと第3下降流領域16cとの連結部分には、第2谷状部19bが形成される。
【0018】
空気排出部13は、第2下降流領域16bのうち第1谷状部19aの近傍に配置される。すなわち、空気排出部13は、還元剤供給管12のうち第1谷状部19aの最下端20よりもポンプ7側のポンプ側領域21に配置される。空気排出部13は、還元剤供給管12内の還元剤供給通路14と還元剤供給管12の外部とを連通する貫通孔22と、貫通孔22に設けられる開閉弁23とを有する。開状態の開閉弁23は、還元剤供給通路14から還元剤供給管12の外部への空気の流出を許容する。閉状態の開閉弁23は、還元剤供給通路14から還元剤供給管12の外部への空気及び液体還元剤の流出を規制する。開閉弁23の開閉は、コントローラ(図示省略)によって制御される。コントローラは、還元剤供給通路14に設けたセンサ等によって、還元剤供給通路14のうち貫通孔22の位置24(
図2に一点鎖線24で示す位置)での液体還元剤の有無を検出し、貫通孔22の上記位置24に液体還元剤が無い場合(上記位置24に空気がある場合)に開閉弁23を開状態にし、貫通孔22の上記位置24に液体還元剤がある場合に開閉弁23を閉状態にする。
【0019】
上記のように構成された還元剤供給装置10では、空気排出部13が、還元剤供給管12のうち第1谷状部19aの最下端20よりもポンプ7側のポンプ側領域21に配置され、開状態の開閉弁23が、還元剤供給通路14から還元剤供給管12の外部への空気の流出を許容する。このため、還元剤供給管12の第1谷状部19aの最下端20に還元剤(尿素)が結晶化して第1谷状部19aが詰まったとしても、ポンプ7を作動した際に還元剤供給通路14から還元剤供給管12の外部へ空気排出部13を介して空気が排出されるので、液体還元剤を少なくとも空気排出部13まで供給することができる。また、空気排出部13は、第2下降流領域16bのうち第1谷状部19aの近傍に配置される。このように、空気排出部13は、還元剤供給管12のポンプ側領域21のうち第2下降流領域16b(上昇流領域15以外の領域)に設けられるので、ポンプ7に圧送されて空気排出部13に到達した液体還元剤は、開閉弁23を閉じても、下降流となって第1谷状部19aの最下端20へ流下する。このため、第1谷状部19aの最下端20へ流下した液体還元剤によって、第1谷状部19aの最下端20で結晶化した還元剤を溶解して取り除くことができる。
【0020】
また、空気排出部13が、第2下降流領域16bのうち第1谷状部19aの近傍に配置されるので、還元剤が結晶化し易い第1谷状部19aの最下端20へ液体還元剤を確実に流下させることができ、第1谷状部19aの最下端20で結晶化した還元剤を液体還元剤によって溶解して取り除くことができる。
【0021】
従って、本実施形態によれば、還元剤供給通路14で結晶化した還元剤による還元剤供給通路14の詰まりを解消することができる。
【0022】
なお、本実施形態では、空気排出部13に機械的な開閉弁23を設け、開閉弁23の開閉をコントローラ(図示省略)によって制御したが、空気排出部13はこれに限定されるものではなく、液体の流通を規制し気体の流通を許容する材質の非機械的弁を開閉弁23に代えて空気排出部13に設けてもよい。非機械的弁は、例えば、多孔質のプラスチック(超高分子量ポリエチレン等)で成形されたフィルターなどであってもよい。
【0023】
また、本実施形態では、空気排出部13を第2下降流領域16bに配置したが、空気排出部13を配置する位置は第2下降流領域16bに限定されるものではない。例えば、
図2に二点鎖線で示すように、空気排出部30を、第2下降流領域16bの空気排出部13に加え、或いは第2下降流領域16bの空気排出部13に代えて、水平領域17に配置してもよい。この場合、空気排出部30は、還元剤供給管12のうち第2谷状部19bの最下端25よりもポンプ7側のポンプ側領域26に配置される。ポンプ7に圧送されて第4下降流領域16dを流下し、水平領域17の空気排出部30に到達した液体還元剤は、開閉弁23を閉じても、第4下降流領域16dを流下してきた流れ(勢い)によって第3下降流領域16cへ到達し、第2谷状部19bの最下端25へ流下する。このため、第2谷状部19bの最下端25へ流下した液体還元剤によって、第2谷状部19bの最下端25で結晶化した還元剤を溶解して取り除くことができる。
【0024】
また、本実施形態では、還元剤噴射ノズル11からポンプ7側へ向かって、第1下降流領域16a、第1上昇流領域15a、第2下降流領域16b、第2上昇流領域15b、第3下降流領域16c、水平領域17、第4下降流領域16dの順に連続している還元剤供給管12を設けたが、還元剤供給管12の形状はこれに限定されるものではない。還元剤供給管12は、少なくとも1つの谷状部19を有する形状であればよい。
【0025】
また、液体還元剤は尿素水に限定されるものではなく、例えば、アンモニア水等であってもよい。
【0026】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本開示に係る還元剤供給装置は、液体還元剤を排気流路に噴射して排気を浄化するシステムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
2:エンジン
3:排気管
5:還元剤タンク
6:排気流路
7:ポンプ
10:還元剤供給装置
11:還元剤噴射ノズル(噴射弁)
12:還元剤供給管
13:空気排出部
14:還元剤供給通路
15:上昇流領域
16:下降流領域
19:谷状部