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特許7022410流体処理システム、注入容器および回収容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】流体処理システム、注入容器および回収容器
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20220210BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220210BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20220210BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20220210BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20220210BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
G01N37/00 103
B81B3/00
B81B1/00
C12M1/34 B
C12Q1/66
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019570773
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2019004205
(87)【国際公開番号】W WO2019156112
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018018833
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591129025
【氏名又は名称】株式会社塚田メディカル・リサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100188329
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 義行
(72)【発明者】
【氏名】塚田 修
(72)【発明者】
【氏名】仲佐 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】芳田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 直希
(72)【発明者】
【氏名】福場 辰洋
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-083318(JP,A)
【文献】特開2015-213596(JP,A)
【文献】特開2000-254223(JP,A)
【文献】特表2013-531825(JP,A)
【文献】特開2017-140865(JP,A)
【文献】特開平09-095984(JP,A)
【文献】特開昭50-012226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
B01J 4/00、13/00-19/00
G01N 1/10-20、37/00
B81B 1/00、3/00、7/00
C12M 1/34
C12Q 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留された注入用流体を注入する注入容器と、
前記注入容器から注入された前記注入用流体と、流体処理システム外部から取り込まれた外部流体とに対して所定の処理を行う処理部と、
前記処理部で処理された処理後流体を回収する回収容器と、
を備えた流体処理システムにおいて、
前記注入容器は、
少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された前記注入用流体を吐出する注入側貯留部と、
前記注入用流体の流量を制御することで、前記注入容器の注入量を制御する注入量制御部と、
を含み、
前記回収容器は、
前記処理後流体を保持する保持部と、
前記保持部内に設けられ、少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された回収用流体を吐出し、前記保持部内に前記処理後流体を吸引する回収側貯留部と、
前記回収用流体の流量を制御することで、前記回収容器の回収量を制御する回収量制御部と、
を含み、
前記回収容器の回収量は、前記注入容器の注入量よりも高くなるように設定され、前記外部流体は、前記回収容器の回収量と前記注入容器の注入量との差に応じて、前記流体処理システムに取り込まれ
前記処理部は、マイクロ流体デバイスを含み、
前記注入容器は、前記マイクロ流体デバイス上に一体的に形成されている
流体処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の流体処理システムにおいて、
前記注入容器は、前記注入側貯留部と前記注入量制御部との組を複数備えている
流体処理システム。
【請求項3】
請求項に記載の流体処理システムにおいて、
前記注入容器は、アデノシン三リン酸を測定するための細胞溶解試薬、発光試薬および標準液のそれぞれが前記注入用流体として貯留された複数の前記注入側貯留部を含み、
前記処理部は、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応が可能な微細流路が形成されたマイクロ流体デバイスを含む
流体処理システム。
【請求項4】
流体に対して所定の処理を行う処理部を備えた流体処理システムに使用され、前記処理部に注入用流体を注入する注入容器であって、
少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された前記注入用流体を吐出する注入側貯留部と、
前記注入用流体の流量を制御することで、前記注入容器の注入量を制御する注入量制御部と、
の組を複数備え
前記処理部は、マイクロ流体デバイスを含み、
前記注入容器は、前記マイクロ流体デバイス上に一体的に形成されている
注入容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入された流体等を、例えばマイクロ流体デバイスを用いて反応させる流体処理システム、並びに流体処理システムに使用される注入容器および回収容器に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術を用いて製作されたマイクロ流体デバイスを備えた流体処理システムが実用化され、ライフサイエンス、化学・生化学分析等の分野において大きな期待が寄せられている。マイクロ流体デバイスを備えた流体処理システムとして、電動シリンジポンプ等のポンプにより、流量を制御しながら流体をマイクロ流体デバイスに注入し、注入された流体を反応させることで、反応効率を向上させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、微細加工技術を応用することで、化学・生化学分析等に必要な流体処理を小型かつ軽量なシステムに集積化することができるので、マイクロ流体デバイスを屋外での各種分析に適用することも期待されている。例えば、海洋の現場における金属イオン濃度や微生物バイオマスの指標物質の定量分析等に、マイクロ流体デバイスを備えた流体処理システムを適用することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-210265号公報
【文献】福場辰洋、花谷耕平、藤井輝夫、「マイクロ流体デバイス技術を応用した現場計測システム」、光アライアンス、日本工業出版、Vol.26、No.5(2015)、pp.7-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および非特許文献1に記載された流体処理システムでは、ポンプ駆動用の電力を外部から供給する必要がある。そのため、屋外等において長期にわたって連続的に流体処理システムを稼働しようとした場合、大容量のバッテリが必要になる。また、ポンプ駆動用の電力を確保することができない状況では、流体処理システムを使用することができない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ポンプ駆動用の電力を確保することができない状況であっても、流体を注入することができる流体処理システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る流体処理システムは、貯留された注入用流体を注入する注入容器と、注入容器から注入された注入用流体と、流体処理システム外部から取り込まれた外部流体とに対して所定の処理を行う処理部と、処理部で処理された処理後流体を回収する回収容器と、を備え、注入容器は、少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された注入用流体を吐出する注入側貯留部と、注入用流体の流量を制御することで、注入容器の注入量を制御する注入量制御部と、を含み、回収容器は、処理後流体を保持する保持部と、保持部内に設けられ、少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された回収用流体を吐出し、保持部内に処理後流体を吸引する回収側貯留部と、回収用流体の流量を制御することで、回収容器の回収量を制御する回収量制御部と、を含み、回収容器の回収量は、注入容器の注入量よりも高くなるように設定され、外部流体は、回収容器の回収量と注入容器の注入量との差に応じて、流体処理システムに取り込まれるものである。
【0008】
このとき、処理部は、マイクロ流体デバイスを含んでもよい。また、注入容器は、マイクロ流体デバイスと一体化されていてもよい。また、注入容器は、注入側貯留部と注入量制御部との組を複数備えていてもよい。また、注入容器は、アデノシン三リン酸を測定するための細胞溶解試薬、発光試薬および標準液のそれぞれが注入用流体として貯留された複数の注入側貯留部を含み、処理部は、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応が可能な微細流路が形成されたマイクロ流体デバイスを含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る流体処理システムによれば、ポンプ駆動用の電力を確保することができない状況であっても、流体を注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る流体処理システムを示す構成図である。
図2】一実施形態に係る注入容器を示す模式図である。
図3】一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す構成図である。
図4】一実施形態に係る回収容器を示す模式図である。
図5】一実施形態に係る注入容器およびマイクロ流体デバイスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る流体処理システムについて図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。なお、以下の実施形態では、海水中に投入された流体処理システムを用いて海水中の微生物に由来するアデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)を測定する場合を例に挙げて説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る流体処理システムを示す構成図である。図1において、流体処理システム100は、注入容器10と、海水取り込み部20と、処理部30と、回収容器40とを備えている。
【0013】
注入容器10は、貯留された注入用流体を注入する。海水取り込み部20は、流体処理システム100の外部から外部流体として海水を取り込む。処理部30は、注入容器10から注入された注入用流体と、海水取り込み部20から取り込まれた海水とに対して所定の処理を行う。回収容器40は、処理部30で処理された処理後流体を回収する。
【0014】
注入容器10は、注入側貯留部11a~11eと、注入量制御部12a~12eとを含んでいる。すなわち、注入容器10は、注入側貯留部11と注入量制御部12との組を複数(ここでは、5組)備えている。
【0015】
図2は、一実施形態に係る注入容器を示す模式図である。図2において、注入容器10は、注入側貯留部11と、注入量制御部12と、チューブ13と、チューブ14とを含んでいる。
【0016】
注入側貯留部11は、少なくとも一部がシリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体で楕円形状断面を有するように形成されている。注入側貯留部11は、内部に注入用流体S1を貯留するようになっており、弾性力で収縮するときに、圧力P1が注入用流体S1に付与され、貯留された注入用流体S1をチューブ13に吐出する。注入側貯留部11に貯留される注入用流体S1は、例えばATPを測定するための細胞溶解試薬、発光試薬および標準液である。
【0017】
また、注入側貯留部11は、注入用流体S1と接触する内面に、注入用流体S1により注入側貯留部11が侵されないためのコーティングが施されているとともに、ガスバリア性を有している。
【0018】
チューブ13は、注入側貯留部11と注入量制御部12とを流体的に連通させており、図2に矢印F1で示すように、注入側貯留部11から吐出された注入用流体S1を注入量制御部12に送るようになっている。チューブ13は、シリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体や、熱可塑性樹脂で形成されている。
【0019】
注入量制御部12は、ガラス、ポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)、セラミックス等の中空糸(オリフィス)で形成されている。注入量制御部12は、一端がチューブ13に接続されているとともに、他端がチューブ14を介して外部器具に接続されるようになっている。
【0020】
注入量制御部12は、中空糸の穴径(例えば、数十マイクロメートル~百マイクロメートル程度)と長さ(例えば、1.5センチ程度)とで管抵抗を設定することで、チューブ13から送られてきた注入用流体S1の流量を制御可能に設けられている。すなわち、注入量制御部12は、注入側貯留部11から吐出された注入用流体S1の流量を制御することで、注入容器10の注入量を制御している。これにより、注入容器10は、例えば数週間~数か月の期間にわたって、一定量の注入用流体S1を注入することができる。なお、電動ポンプを用いた場合には脈動が生じるが、弾性体で形成された注入側貯留部11を用いることにより、無脈動で注入用流体S1を注入することができる。
【0021】
チューブ14は、注入量制御部12と外部器具とを流体的に連通させており、注入量制御部12から吐出された注入用流体S1を外部器具に送るようになっている。チューブ14は、シリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体や、熱可塑性樹脂で形成されている。
【0022】
図1に戻って、一実施形態において、注入側貯留部11aは、注入用流体として、ATPを測定するための細胞溶解試薬を貯留している。また、注入側貯留部11b~11dのそれぞれは、注入用流体として、ATPを測定するための標準液1~3を貯留している。また、注入側貯留部11eは、注入用流体として、ATPを測定するための発光試薬を貯留している。
【0023】
海水取り込み部20は、処理部30と流体的に連通された例えばチューブ等であり、海水を吸引するためのポンプ等は備えていない。
【0024】
処理部30は、注入容器10、海水取り込み部20および回収容器40と流体的に連通され、注入容器10から注入用流体が注入され、海水取り込み部20から海水が取り込まれて、処理後流体を回収容器40に吐出する。
【0025】
処理部30は、ルシフェリン-ルシフェラーゼ(L-L:Luciferin-Luciferase)反応が可能な微細流路が形成されたマイクロ流体デバイス31と、L-L反応を促進させる反応促進部32と、L-L反応で発生した光を検出する光検出器33とを含んでいる。マイクロ流体デバイス31は、シリコン、シリコーンゴム、ガラス等の基板上に、半導体微細加工技術によってマイクロスケールの流路等が形成されたものである。
【0026】
図3は、一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す構成図である。図3において、マイクロ流体デバイス31は、第1供給口31aと、第2供給口31bと、細胞溶解部31cと、第3供給口31dと、L-L反応部31eと、排出口31fとを含んでいる。
【0027】
第1供給口31aには、注入側貯留部11a~11dのそれぞれに貯留された細胞溶解試薬および標準液1~3が供給される。第2供給口31bには、海水取り込み部20から取り込まれた海水が供給される。細胞溶解部31cでは、海水中の微生物の細胞が、細胞溶解試薬により溶解される。第3供給口31dには、注入側貯留部11eに貯留された発光試薬が供給される。L-L反応部31eでは、L-L反応が起こり、海水中のATP濃度に応じた発光が生じる。排出口31fからは、処理後流体が排出される。
【0028】
反応促進部32は、図示しないヒータと温度センサとを含み、L-L反応部31eを例えば摂氏25度程度に保ってL-L反応を促進させる。光検出器33は、例えば光電子倍増管(PMT:photomultiplier tube)であり、L-L反応で発生した光を電気信号に変換して出力する。ここで、反応促進部32および光検出器33の駆動には、バッテリが用いられるが、消費電力がポンプ駆動用の電力よりもずっと小さいので、流体処理システム100の連続稼働に必要な電力を大幅に削減することができ、小型のバッテリで十分な電力を供給することができる。
【0029】
図4は、一実施形態に係る回収容器を示す模式図である。図4において、回収容器40は、保持部41と、回収側貯留部42と、回収量制御部43と、チューブ44と、チューブ45とを含んでいる。保持部41は、プラスチック等の非弾性体で形成され、処理後流体を保持する。
【0030】
回収側貯留部42は、少なくとも一部がシリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体で楕円形状断面を有するように形成されている。回収側貯留部42は、内部に回収用流体S2を貯留するようになっており、弾性力で収縮するときに、圧力P2が回収用流体S2に付与され、貯留された回収用流体S2をチューブ44に吐出する。これにより、回収側貯留部42は、保持部41内に処理後流体を吸引する。回収側貯留部42に貯留される回収用流体S2は、空気や水等、環境に影響を与えないものであればよい。
【0031】
また、回収側貯留部42は、処理後流体と接触する外面に、処理後流体により回収側貯留部42が侵されないためのコーティングが施されているとともに、ガスバリア性を有している。
【0032】
チューブ44は、回収側貯留部42と回収量制御部43とを流体的に連通させており、図4に矢印F2で示すように、回収側貯留部42から吐出された回収用流体S2を回収量制御部43に送るようになっている。チューブ44は、シリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体や、熱可塑性樹脂で形成されている。
【0033】
回収量制御部43は、ガラス、ポリ塩化ビニル(PVC)、セラミックス等の中空糸(オリフィス)で形成されている。回収量制御部43は、一端がチューブ44に接続されているとともに、他端がチューブ45に接続されている。
【0034】
回収量制御部43は、中空糸の穴径(例えば、数十マイクロメートル~百マイクロメートル程度)と長さ(例えば、1.5センチ程度)とで管抵抗を設定することで、チューブ44から送られてきた回収用流体S2の流量を制御可能に設けられている。すなわち、回収量制御部43は、回収側貯留部42から吐出された回収用流体S2の流量を制御することで、回収容器40の回収量を制御している。これにより、回収容器40は、例えば数週間~数か月の期間にわたって、一定量の処理後流体を回収することができる。なお、電動ポンプを用いた場合には脈動が生じるが、弾性体で形成された回収側貯留部42を用いることにより、無脈動で処理後流体を回収することができる。
【0035】
チューブ45は、回収量制御部43と流体処理システム100の外部とを流体的に連通させており、回収量制御部43から吐出された回収用流体S2を流体処理システム100の外部に排出するようになっている。チューブ45は、シリコーンゴム、イソプレンゴム等の弾性体や、熱可塑性樹脂で形成されている。
【0036】
ここで、回収容器40の回収量は、注入容器10の注入量よりも高くなるように設定されている。具体的には、例えば回収容器40の回収量が300マイクロリットル/分であるのに対して、注入容器10の注入量が200マイクロリットル/分に設定されている。なお、注入容器10の注入量の内訳は、例えば注入側貯留部11a~11dの注入量が100マイクロリットル/分で、注入側貯留部11eの注入量が100マイクロリットル/分である。
【0037】
これにより、回収容器40の回収量と注入容器10の注入量との差に応じて、海水取り込み部20から、100マイクロリットル/分の流量で海水が流体処理システム100に取り込まれる。
【0038】
続いて、一実施形態に係る流体処理システムの動作について説明する。まず、流体処理システム100が海水中に投入されると、回収容器40の回収量と注入容器10の注入量との差に応じて、海水取り込み部20から、一定の流量で海水が流体処理システム100に取り込まれる。
【0039】
続いて、マイクロ流体デバイス31において、注入側貯留部11a~11dのそれぞれに貯留された細胞溶解試薬および標準液1~3と海水取り込み部20から取り込まれた海水とが混合され、細胞溶解部31cで、海水中の微生物の細胞が、細胞溶解試薬により溶解される。
【0040】
次に、海水中の微生物の細胞が溶解された流体と、注入側貯留部11eに貯留された発光試薬とが混合され、L-L反応部31eで、L-L反応が起こり、海水中のATP濃度に応じた発光が生じる。L-L反応で発生した光は、光検出器33で検出され、光検出器33により電気信号に変換されて出力される。L-L反応後の流体は、回収容器40に回収される。
【0041】
以上のように、一実施形態に係る流体処理システムによれば、注入容器は、少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された注入用流体を吐出する注入側貯留部と、注入用流体の流量を制御することで、注入容器の注入量を制御する注入量制御部と、を含み、回収容器は、処理後流体を保持する保持部と、保持部内に設けられ、少なくとも一部が弾性体で形成されて、収縮することで貯留された回収用流体を吐出し、保持部内に処理後流体を吸引する回収側貯留部と、回収用流体の流量を制御することで、回収容器の回収量を制御する回収量制御部と、を含み、回収容器の回収量は、注入容器の注入量よりも高くなるように設定され、外部流体は、回収容器の回収量と注入容器の注入量との差に応じて、流体処理システムに取り込まれる。そのため、ポンプ駆動用の電力を確保することができない状況であっても、流体を注入することができ、流体処理システムを使用することができる。また、超低消費電力かつコンタミネーションのない流体処理システムを実現することができる。
【0042】
なお、上述した一実施形態に係る流体処理システムにおいて、注入容器10をマイクロ流体デバイス31と一体化させてもよい。図5は、一実施形態に係る注入容器およびマイクロ流体デバイスを示す模式図である。図5において、シリコーンゴム基板で形成されたマイクロ流体デバイス31上に、注入側貯留部11a、11bと、注入量制御部12a、12bとが一体的に形成されている。これにより、注入容器10とマイクロ流体デバイス31とを接続する際の汚染等を防止することができる。
【0043】
また、図1に示した注入側貯留部11a~11eに、ATPを測定するための細胞溶解試薬、発光試薬および標準液を、あらかじめ注入用流体として貯留した状態で、マイクロ流体デバイス31と一体化させることにより、ATP測定キットを構成してもよい。
【0044】
また、上述した一実施形態では、流体処理システムを用いて微生物由来のアデノシン三リン酸を測定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、これに限定されず、注入容器から注入された注入用流体と、流体処理システム外部から取り込まれた外部流体とに対して所定の処理を行う処理部を備えた流体処理システムであれば、海中環境、地球外環境、深部地下、生体内等における各種分析、印刷分野、医療分野、飼育用餌の供給等のペット分野等に、本発明の一実施形態に係る流体処理システムを適用することができる。
【0045】
また、上述した一実施形態では、注入容器10と回収容器40とを備えた流体処理システム100を例に挙げて説明した。しかしながら、これに限定されず、注入側貯留部11と注入量制御部12との組を複数備えた注入容器10を単体で用いて、処理部30に注入用流体を注入してもよい。また、保持部41と、回収側貯留部42と、回収量制御部43とを備えた回収容器40を単体で用いて、処理部30で処理された処理後流体を回収してもよい。
【0046】
また、上述した一実施形態では、注入側貯留部11が、楕円形状断面を有すると説明したが、これに限定されず、注入側貯留部は、少なくとも一部が弾性体であれば、蛇腹形状等、他の形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10…注入容器
11、11a~11e…注入側貯留部
12、12a~12e…注入量制御部
13…チューブ
14…チューブ
20…海水取り込み部
30…処理部
31…マイクロ流体デバイス
31a…第1供給口
31b…第2供給口
31c…細胞溶解部
31d…第3供給口
31e…反応部
31f…排出口
32…反応促進部
33…光検出器
40…回収容器
41…保持部
42…回収側貯留部
43…回収量制御部
44…チューブ
45…チューブ
100…流体処理システム
図1
図2
図3
図4
図5