(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】膜厚監視装置、成膜装置及び膜厚監視方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20220210BHJP
C23C 14/52 20060101ALI20220210BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220210BHJP
G01B 17/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C23C14/54 C
C23C14/52
H01L21/31 B
G01B17/02 A
(21)【出願番号】P 2017189665
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016194567
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100100860
【氏名又は名称】長谷川 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【氏名又は名称】杉本 和之
(72)【発明者】
【氏名】古泉 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 慶
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-010174(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031138(WO,A1)
【文献】Agilent,E5100A ネットワークアナライザの水晶振動子測定機能と測定方法 アプリケーション・ノート E5100A-2,2003年05月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
C23C 14/52
H01L 21/31
G01B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室内に配置された被成膜対象と同一の成膜室内に配置された圧電素子を用いて、成膜処理が施されている前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する膜厚監視装置であって、
周波数が所定の範囲で変化する測定信号を前記圧電素子に出力する出力部と、
前記測定信号と、前記測定信号を前記圧電素子が反射した反射信号と、を受信する受信部と、
受信された前記測定信号と前記反射信号に基づいて、
変化する周波数毎の前記圧電素子のインピーダンス
を測定し、測定された前記インピーダンスに基づいて、前記圧電素子の共振周波数
を決定し、決定された前記共振周波数の変化量に基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する監視部と、を備
え、
前記監視部は、成膜処理の進行と連動して、掃引する周波数帯域を、低周波数の側にシフトさせてインピーダンスを測定し、共振周波数を決定する、
ことを特徴とする膜厚監視装置。
【請求項2】
前記監視部は、掃引した周波数帯域で決定された共振周波数と成膜レートに基づいて、次の共振周波数を予測し、予測された共振周波数を含んだ周波数帯域を次に掃引する周波数帯域と決定する、
請求項1に記載の膜厚監視装置。
【請求項3】
前記出力部は、
前記測定信号を入力信号とリファレンス信号に分配し、前記入力信号を前記圧電素子に入力する信号分配器と、
前記入力信号と、前記入力信号を前記圧電素子が反射した反射信号とを分離する信号分離器と、を含み、
前記受信部は、前記信号分配器で分配された前記リファレンス信号と、前記信号分離器で分離された前記反射信号を受信し、
前記監視部は、
変化する周波数毎の受信された前記リファレンス信号と前記反射信号に基づいて、前記圧電素子のインピーダンスの周波数特性
を取得し、取得されたインピーダンスの周波数特性に基づいて、前記圧電素子の共振周波数と等価回路のパラメータを
決定し、
決定された前記共振周波数の変化量
と前記等価回路のパラメータに基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の膜厚監視装置。
【請求項4】
前記監視部は、
決定された前記等価回路のパラメータに基づいて、前記圧電素子の寿命を監視する、
ことを特徴とする請求項
3に記載の膜厚監視装置。
【請求項5】
前記監視部は、前記圧電素子の共振周波数を含む予め設定された範囲の周波数帯域を掃引し、前記圧電素子のインピーダンスの周波数特
性から、前記圧電素子の共振周波数及び等価回路のパラメータを
決定する、
ことを特徴とする請求項
1から4の何れか1項に記載の膜厚監視装置。
【請求項6】
前記圧電素子は、水晶振動子であり、
前記水晶振動子の等価回路のパラメータは、クリスタルインピーダンスである、
ことを特徴とする請求項
3から
5の何れか1項に記載の膜厚監視装置。
【請求項7】
前記圧電素子は、対向する両主面に一対の電極が設置され、前記圧電素子の一方の主面に設置された電極は接地され、他方の主面に設置された電極は前記出力部に接続される、
ことを特徴とする請求項1から
6の何れか1項に記載の膜厚監視装置。
【請求項8】
前記圧電素子の一方の主面に設置された前記電極は、前記成膜室の構成部品に接地された、
ことを特徴とする請求項7に記載の膜厚監視装置。
【請求項9】
所定の軸を中心に複数の圧電素子を周方向に配置して、各前記圧電素子の一方の主面を底部に対向させ、前記複数の圧電素子を収容する圧電素子ホルダであって、前記底部には、収容された前記複数の圧電素子のうち何れか1つの圧電素子が対向する位置に、成膜材料を導入する開口部が形成された圧電素子ホルダと、
前記複数の圧電素子を、前記圧電素子ホルダ内で前記所定の軸を中心に回転させる回転駆動部と、
予め設定された等価回路のパラメータに基づき、前記開口部と対向している圧電素子の交換時期を判断し、交換時期であると判断したときは前記回転駆動部により、前記複数の圧電素子を、前記圧電素子ホルダ内で前記所定の軸を中心に回転させ、前記開口部に対向している圧電素子以外の圧電素子を前記開口部に対向するように移動させる第1の制御部と、を更に備え、
前記出力部は、前記開口部と対向している圧電素子に、前記周波数が所定の範囲で変化する測定信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1から
8の何れか1項に記載の膜厚監視装置。
【請求項10】
請求項1から
9の何れか1項に記載された膜厚監視装置と、
前記被成膜対象に成膜される成膜材料を蒸発させる蒸着源と、
前記圧電素子の共振周波数に基づいて、前記被成膜対象に成膜される膜の成膜レートを求め、当該成膜レートが予め設定された成膜レートの範囲内となるように、前記蒸着源から蒸発する成膜材料の蒸発速度を制御する第2の制御部と、を備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
成膜室内に配置された被成膜対象と同一の成膜室内に配置された圧電素子を用いて、成膜処理が施されている前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する膜厚監視方法であって、
周波数が所定の範囲で変化する測定信号を前記圧電素子に出力する出力工程と、
前記測定信号と、前記測定信号を前記圧電素子が反射した反射信号と、を受信する受信工程と、
受信された前記測定信号と前記反射信号に基づいて、
変化する周波数毎に前記圧電素子のインピーダンス
を測定し、測定された前記インピーダンスに基づいて、前記圧電素子の共振周波数を
決定し、決定された前記共振周波数の変化量に基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する監視工程と、を備
え、
前記監視工程では、成膜処理の進行と連動して、掃引する周波数帯域を、低周波数の側にシフトさせてインピーダンスを測定し、共振周波数を決定する、
ことを特徴とする膜厚監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚監視装置、成膜装置及び膜厚監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着やスパッタリング等による成膜処理は、被成膜対象の表面に堆積する膜の膜厚が、予め設定された膜厚に一致するか否かを監視しながら行っている。膜厚を監視する方法の1つとして、水晶発振式膜厚監視法という監視方法が用いられる。水晶発振式膜厚監視法は、被成膜対象が配置された成膜室に水晶振動子を配置し、当該水晶振動子を発振器に接続して発振させ、水晶振動子の共振周波数変化量を膜厚に換算する方法である。水晶振動子の表面に成膜材料が付着すると、水晶振動子の共振周波数が減少するという現象を利用した監視方法である。
【0003】
水晶発振式膜厚監視方法は、例えば、特許文献1に記載された成膜装置に適用されている。特許文献1の
図4に示すように、成膜装置は、真空チャンバ1内の底部に配置された蒸発源2と、被成膜対象である基板と、水晶振動子3を収納するセンサ4と、から構成される。そして、水晶振動子3の固有振動数の変化を測定することにより膜厚および成膜速度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水晶発振式膜厚監視法は、発振器を用いて水晶振動子を発振させているため、周波数ジャンプと呼ばれる副振動での発振現象を生じるという課題がある。通常水晶振動子は、主振動に対して副振動のレベルが十分に小さくなるように製作されているが、成膜材料の堆積により水晶振動子の負荷質量が増加すると、副振動が強勢となり、副振動による発振に周波数ジャンプし、モニタリング中の共振周波数が不連続に変動する。周波数ジャンプが生じると主振動の共振周波数変化量を検出できないため、膜厚監視精度が低下し、不良品の発生や生産効率の低下につながる。
【0006】
また、水晶発振式膜厚監視法は、水晶振動子の発振が不安定になると膜厚測定精度が著しく悪化するため、予め共振周波数の許容範囲を定め、この範囲を逸脱したきには、水晶振動子の膜厚を監視するセンサとしての寿命がきたとして水晶振動子を交換する必要がある。また、水晶振動子を発振させて共振周波数を検出する方式のため、発振が停止すれば膜厚測定は不能となる。
【0007】
更に、水晶発振式膜厚監視法は、水晶振動子の発振周波数のみに基づき成膜レートを制御するため、副振動を判別できず、成膜レートが不安定となる場合がある。また、副振動に起因する共振周波数の変動を、そのまま成膜レート制御にフィードバックしてしまうため、不必要な蒸着源のパワー調整等が生じる。例えば成膜レートを一定に維持する制御を実施している場合、副振動が原因で実際の成膜レートが不安定に乱れるという結果に陥ってしまう。加えて、水晶振動子のセンサとしての寿命が短く、水晶振動子を頻繁に交換する必要があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、発振器を用いずに圧電素子の周波数特性を検出することで、副振動による影響を除去し、被成膜対象に成膜される膜厚を高精度に監視することのできる膜厚監視装置、成膜装置及び膜厚監視方法を提供することを目的とする。また、共振周波数以外の特性も監視することで、所望の成膜レートを安定に維持することができる。更に、膜厚監視装置に使用する圧電素子を長寿命化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る膜厚監視装置は、
成膜室内に配置された被成膜対象と同一の成膜室内に配置された圧電素子を用いて、成膜処理が施されている前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する膜厚監視装置であって、
周波数が所定の範囲で変化する測定信号を前記圧電素子に出力する出力部と、
前記測定信号と、前記測定信号を前記圧電素子が反射した反射信号と、を受信する受信部と、
受信された前記測定信号と前記反射信号に基づいて、変化する周波数毎の前記圧電素子のインピーダンスを測定し、測定された前記インピーダンスに基づいて、前記圧電素子の共振周波数を決定し、決定された前記共振周波数の変化量に基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する監視部と、を備え、
前記監視部は、成膜処理の進行と連動して、掃引する周波数帯域を、低周波数の側にシフトさせてインピーダンスを測定し、共振周波数を決定する、
ことを特徴とする。
前記監視部は、掃引した周波数帯域で決定された共振周波数と成膜レートに基づいて、次の共振周波数を予測し、予測された共振周波数を含んだ周波数帯域を次に掃引する周波数帯域と決定してもよい。
【0010】
前記出力部は、
前記測定信号を入力信号とリファレンス信号に分配し、前記入力信号を前記圧電素子に入力する信号分配器と、
前記入力信号と、前記入力信号を前記圧電素子が反射した反射信号とを分離する信号分離器と、を含み、
前記受信部は、前記信号分配器で分配された前記リファレンス信号と、前記信号分離器で分離された前記反射信号を受信し、
前記監視部は、変化する周波数毎の受信された前記リファレンス信号と前記反射信号に基づいて、前記圧電素子のインピーダンスの周波数特性を取得し、取得されたインピーダンスの周波数特性に基づいて、前記圧電素子の共振周波数と等価回路のパラメータを決定し、決定された前記共振周波数の変化量と前記等価回路のパラメータに基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視してもよい。
【0011】
前記監視部は、決定された前記等価回路のパラメータに基づいて、前記圧電素子の寿命を監視してもよい。
【0012】
前記監視部は、前記圧電素子の共振周波数を含む予め設定された範囲の周波数帯域を掃引し、前記圧電素子のインピーダンスの周波数特性から、前記圧電素子の共振周波数及び等価回路のパラメータを決定してもよい。
【0013】
前記圧電素子は、水晶振動子であり、
前記水晶振動子の等価回路のパラメータは、クリスタルインピーダンスであってもよい。
【0014】
前記圧電素子は、対向する両主面に一対の電極が設置され、前記圧電素子の一方の主面に設置された電極は接地され、他方の主面に設置された電極は前記出力部に接続されていてもよい。
前記圧電素子の一方の主面に設置された前記電極は、前記成膜室の構成部品に接地されてもよい。
【0015】
所定の軸を中心に複数の圧電素子を周方向に配置して、各前記圧電素子の一方の主面を底部に対向させ、前記複数の圧電素子を収容する圧電素子ホルダであって、前記底部には、収容された前記複数の圧電素子のうち何れか1つの圧電素子が対向する位置に、成膜材料を導入する開口部が形成された圧電素子ホルダと、
前記複数の圧電素子を、前記圧電素子ホルダ内で前記所定の軸を中心に回転させる回転駆動部と、
予め設定された等価回路のパラメータに基づき、前記開口部と対向している圧電素子の交換時期を判断し、交換時期であると判断したときは前記回転駆動部により、前記複数の圧電素子を、前記圧電素子ホルダ内で前記所定の軸を中心に回転させ、前記開口部に対向している圧電素子以外の圧電素子を前記開口部に対向するように移動させる第1の制御部と、を更に備え、
前記出力部は、前記開口部と対向している圧電素子に、前記周波数が所定の範囲で変化する測定信号を出力してもよい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る成膜装置は、
前記膜厚監視装置と、
前記被成膜対象に成膜される成膜材料を蒸発させる蒸着源と、
前記圧電素子の共振周波数に基づいて、前記被成膜対象に成膜される膜の成膜レートを求め、当該成膜レートが予め設定された成膜レートの範囲内となるように、前記蒸着源から蒸発する成膜材料の蒸発速度を制御する第2の制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第3の観点に係る膜厚監視方法は、
成膜室内に配置された被成膜対象と同一の成膜室内に配置された圧電素子を用いて、成膜処理が施されている前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する膜厚監視方法であって、
周波数が所定の範囲で変化する測定信号を前記圧電素子に出力する出力工程と、
前記測定信号と、前記測定信号を前記圧電素子が反射した反射信号と、を受信する受信工程と、
受信された前記測定信号と前記反射信号に基づいて、変化する周波数毎に前記圧電素子のインピーダンスを測定し、測定された前記インピーダンスに基づいて、前記圧電素子の共振周波数を決定し、決定された前記共振周波数の変化量に基づいて、前記被成膜対象に成膜された膜の膜厚を監視する監視工程と、を備え、
前記監視工程では、成膜処理の進行と連動して、掃引する周波数帯域を、低周波数の側にシフトさせてインピーダンスを測定し、共振周波数を決定する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発振器を用いずに圧電素子の周波数特性を検出することで、被成膜対象に成膜される膜厚を精度良く監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に係る膜厚監視装置を含む成膜装置の概念図である。
【
図2】膜厚監視装置に接続された水晶振動子ホルダの断面図である。
【
図5】水晶振動子のインピーダンスの周波数特性と位相の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】成膜毎のインピーダンス周波数特性を示す図である。
【
図7】主振動と副振動のインピーダンス周波数特性を示すグラフである。
【
図10】水晶振動子のインピーダンスの周波数特性と位相の周波数特性を示す他のグラフである。
【
図11】実施の形態2に係る膜厚監視装置の水晶振動子ホルダの概略図である。
【
図13】水晶振動子交換処理のフローチャートである。
【
図14】変形例1の水晶振動子交換処理のフローチャートである。
【
図15】変形例2の水晶振動子交換処理のフローチャートである。
【
図16】CI値の上限を決定する際に使用されるグラフである。
【
図17】実施の形態3に係る成膜装置における成膜レートの制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る膜厚監視装置の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものに置換した実施の形態を採用することが可能であるが、これらの実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
(実施の形態1)
本発明の膜厚監視装置を備える成膜装置について、
図1を参照して説明する。
【0022】
本実施の形態1に係る成膜装置1は、
図1に示すように、膜厚監視装置10と、水晶振動子ホルダ20と、蒸着源30と、基板ホルダ40と、第1のコントローラ50と、を備える。
【0023】
成膜装置1は、真空雰囲気下で蒸着原料を加熱して、加熱により気化された蒸着原料を、被成膜対象である基板に膜として蒸着させる装置である。成膜装置1は、成膜室2を備え、成膜室2内に、水晶振動子ホルダ20と、蒸着源30と、基板ホルダ40と、が収容される。成膜室2には、真空ポンプ3が接続され、成膜室2内は、真空ポンプ3により所定の真空度になるまで排気される。真空ポンプ3としては、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ等が使用される。
【0024】
本実施の形態1では、真空蒸着法による成膜処理を適用するが、成膜処理の方法は、真空蒸着法に限定されない。例えば、アルゴン等の不活性ガスの充満した真空雰囲気下で、ターゲットに電圧を印加し、イオン化されたアルゴン原子をターゲットに衝突させてターゲットの原子をたたき出し、この原子により基板を成膜するスパッタリングによる成膜処理を適用してもよい。
【0025】
膜厚監視装置10は、成膜処理が施される基板に堆積する膜の厚みを監視する装置であり、本実施の形態1では、ネットワークアナライザを使用する。膜厚監視装置10の詳細は、後述する。
【0026】
水晶振動子ホルダ20は、水晶振動子23を保持するホルダであり、金属等の導電性材料で形成されている。
【0027】
水晶振動子23を保持した水晶振動子ホルダ20の概略図を、
図2に示す。水晶振動子ホルダ20は、ホルダ本体21と、蓋部22と、バネ電極26と、を備える。
【0028】
ホルダ本体21は、凹状に形成され、凹状の底部21aには、上方からみて円形の開口部21bが形成されている。開口部21bは、蒸着源30から気化した成膜材料を、ホルダ本体21の内部に導入する孔である。水晶振動子23は、水晶振動子23の一方の主面である蒸着面23aが、底部21aと対向して配置された状態で、ホルダ本体21内部に保持される。
【0029】
蓋部22は、ホルダ本体21の凹状の開口部を閉塞する部材である。
【0030】
水晶振動子23は、円板状の水晶振動子23であり、対向する主面23a、23bを備える。ここで、成膜材料が付着する側の主面を蒸着面23aといい、成膜材料が付着しない側の主面を非蒸着面23bという。なお、本実施の形態1では、水晶振動子23を用いて説明するが、本発明は、圧電素子であればよく、圧電セラミック等にも同様に適用することができる。
【0031】
水晶振動子23の蒸着面23aには第1の電極部24が、非蒸着面23bには第2の電極部25が設けられている。第1の電極部24は、接地電極としての機能を有し、成膜装置1のいずれかの構成部品、例えば、ホルダ本体21を介して接地される。第2の電極部25は、後述するバネ電極26を介して膜厚監視装置10に電気的に接続される。
【0032】
バネ電極26は、金属材料から形成された弾性部材である。バネ電極26は、水晶振動子23と蓋部22との間に挿入され、蓋部22により圧縮されてホルダ本体21内に収容される。バネ電極26は、ホルダ本体21内での水晶振動子23の動きを規制するとともに、水晶振動子23の振動を許容する柔軟性を備える。
【0033】
バネ電極26は、水晶振動子23がホルダ本体21に収容されると、蓋部22の板面と接触し、膜厚監視装置10と電気的に接続される。
【0034】
蒸着源30は、坩堝に充填された成膜材料を加熱して、成膜材料を気化させる装置である。加熱方法として、抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、電子ビーム加熱法などが適用される。蒸着源30は、成膜室2の底部に設置され、水晶振動子ホルダ20は、蒸着源30の成膜材料が蒸発する方向と対向する位置に配置される。
【0035】
基板ホルダ40は、被成膜対象である基板41を保持する部材である。基板ホルダ40に保持された基板41の蒸着面は、蒸着源30の成膜材料が蒸発する方向と対向し、蒸着面に蒸発した成膜材料が蒸着される。
【0036】
第1のコントローラ50は、蒸着源30、膜厚監視装置10の動作を制御する。プロセッサ、メモリ等から構成され、メモリに成膜装置1の制御プログラムを記憶している。第1のコントローラ50は、この制御プログラムに従って、成膜装置1全体を制御する。
【0037】
次に、膜厚監視装置10の詳細を、
図3、4を用いて説明する。膜厚監視装置10の基本構成を、
図3に示す。膜厚監視装置10は、信号源11と、信号分配器12と、信号分離器13と、受信器14と、第2のコントローラ15と、表示器16と、から構成される。
【0038】
信号源11は、被測定対象である水晶振動子23に測定信号である正弦波信号を印加する装置である。信号源11は、周波数掃引が可能であり、発生させる正弦波信号の周波数を所定の範囲で変化させることができる。
【0039】
信号分配器12は、信号源11が発信した正弦波信号を、水晶振動子23に入力する入力信号と、直接受信器14に送るリファレンス信号とに分配する装置である。信号分離器13は、水晶振動子23に入射する入力信号と、水晶振動子23から反射する反射信号とを分離する装置である。本実施の形態1では、信号分離器13として、方向性結合器を用いる。信号分離器13は、入力信号と反射信号を分離可能な装置であればよく、例えばSWRブリッジを用いてもよい。
【0040】
受信器14は、信号分配器12により分配されたリファレンス信号である正弦波信号と、信号分配器12により分配されて水晶振動子23に入力され、水晶振動子23により反射された反射信号を受信する装置である。また、受信器14は、受信した信号を、第2のコントローラ15に送信する。
【0041】
第2のコントローラ15は、受信器14から送信された信号に基づき、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性から、共振周波数及び水晶振動子23の等価回路のパラメータを求める。検出した共振周波数の変化量から水晶振動子23に堆積する成膜材料の膜厚を算出する。第2のコントローラ15は、水晶振動子23に堆積する成膜材料の膜厚から、基板41に堆積する成膜材料の膜厚、及び単位時間当たりの膜厚変化量である成膜レートを算出する。水晶振動子23に堆積する成膜材料の膜厚を、基板41に堆積する成膜材料の膜厚を換算するには、補正係数を乗じる等の処理をすればよい。第2のコントローラ15は、プロセッサ、メモリ等から構成され、メモリに膜厚監視装置10の制御プログラムを記憶している。
【0042】
表示器16は、第2のコントローラ15によって求められた基板41に堆積する成膜材料の膜厚、及び成膜レートを表示する機器であり、モニターを備える。表示器16は、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性、共振周波数、及び等価回路のパラメータを表示してもよい。
【0043】
次に、本実施の形態1における膜厚監視装置10の機能ブロック図を、
図4を用いて説明する。
【0044】
膜厚監視装置10は、出力部17、受信部18、監視部19と、から構成される。
【0045】
出力部17は、所定の範囲で周波数が変化する正弦波信号である測定信号を、水晶振動子23に印加する。変化する周波数の範囲は、扱う水晶振動子23の種類に応じて変更することが可能であり、本実施の形態1では、5.5MHz~6MHzの範囲内で掃引幅を適宜定めるものとする。出力部17から出力された測定信号は、リファレンス信号と入力信号に分配され、入力信号は、水晶振動子23に入力される。信号源11、信号分配器12、信号分離器13が、出力部17として機能する。
【0046】
受信部18は、出力部17から出力された測定信号の一部をリファレンス信号として受信する。また、受信部18は、当該入力信号に対して水晶振動子23が反射した反射信号を受信する。受信器14が、受信部18として機能する。
【0047】
監視部19は、受信部18により受信されたリファレンス信号と反射信号に基づき、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を求めて、水晶振動子23の共振周波数及び等価回路のパラメータを求める。そして、求められた水晶振動子23の共振周波数の変化量に基づき、基板41に成膜された膜厚を監視する。第2のコントローラ15と、表示器16とが、監視部19として機能する。
【0048】
水晶振動子23の周波数特性は、入力信号と反射信号とを比較して、両信号の位相差と振幅比から
決定される。
すなわち、入力信号と反射信号を比較することにより、振幅比と位相差を反射特性として検知する。この反射特性を、インピーダンスに変換することにより、水晶振動子23のインピーダンスの大きさと位相を取得することができる。このようにして検知された水晶振動子23のインピーダンスの大きさと位相を、変化する周波数毎にプロットしたグラフが図5である。図5は、このようにして作成されたインピーダンスの
大きさの周波数特性と位相の周波数特性を
示す図である。図5において、グラフXは、周波数によるインピーダンスの
大きさの変化を示すグラフであり、グラフYは、位相の変化を示すグラフである。
図5に示すグラフから位相がゼロのときの最も低い周波数(点A)を、共振周波数として決定する。図中インピーダンス
の大きさをZで示す。
【0049】
図5に示すインピーダンス
の周波数特性から、共振周波数及び等価回路のパラメータを求める際には、グラフXの全てのデータを用いるのではなく、所定の範囲の周波数帯域を掃引(sweep)して、その範囲のデータを解析して求める。例えば、共振周波数近傍の周波数帯域を、300Hz(51ポイント)の範囲で掃引する。
【0050】
水晶振動子23のインピーダンス
の周波数特性は、一回の成膜処理中に掃引する周波数帯域を徐々に変更し、複数回継続して求めるものとする。
図6に、成膜処理をしたときの、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性の変化を示す。掃引領域は、帯域内に必ず水晶振動子23の直列共振点を含むよう選択される。水晶振動子に膜が堆積するスピードに連動して、掃引領域を徐々に低周波数側にシフトさせればよい。具体的には、直前に測定した共振周波数の値と成膜レートに基づいて、次測定の直列共振点を予測し、予測値を含んで前後に幅を有するよう周波数帯域を決定すればよい。掃引領域を徐々にシフトさせることにより、主振動による直列共振を常に追っていくことができるため、主振動と副振動を混同することなく共振周波数をモニタリングすることができる。
【0051】
図6に示すように、膜厚に応じて所定の範囲の周波数帯域を掃引し、その範囲のデータを解析して共振周波数及び等価回路のパラメータを求める。所定の範囲の周波数帯域を掃引することにより、解析処理速度を保ちながら、高い周波数分解能の解析を可能にする。なお、本実施の形態1において使用されるネットワークアナライザの周波数最大分解能は、1601ポイントである。
【0052】
図7に主振動と副振動のインピーダンス周波数特性を示す。図中低周波数側に存在する振動特性が主振動であり、高周波数側に存在する2つの振動特性が副振動である。図示の副振動は主振動よりもインピーダンスが小さいため、従来の水晶発振式膜厚監視法では周波数ジャンプが生じ、主振動の共振周波数を測定することができない。しかし、本発明の膜厚監視装置10であれば、インピーダンスの周波数特性から主振動と副振動を識別し、主振動の共振周波数を測定することができる。なお、副振動とは、モードの異なる振動や輪郭すべり振動、屈曲振動など、主振動ではない不要な振動すべてを総称するものとする。
【0053】
監視部19は、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を求めことにより、水晶振動子23の共振周波数及び等価回路のパラメータを求める。以下、水晶振動子23の等価回路について説明する。
【0054】
水晶振動子23は、
図8に示す等価回路として電気的に表示することができる。等価回路は、直列インダクタンスL1と、直列容量C1と、並列容量C0と、直列抵抗R1と、から構成される。L1、C1、C0、R1が示す値は、等価回路のパラメータの一種であり、膜厚の監視に利用することができる。
【0055】
図5に示す水晶振動子23の周波数特性において、グラフXの線が、グラフYの位相0°の部分と交差する点A(直列共振点)の周波数が、直列共振周波数(本明細書では単に共振周波数と記載する。)であり、同じく点Bの周波数が並列共振周波数である。共振周波数の変化量を膜厚に換算して変化を追跡することにより、基板41に成膜された膜の膜厚を監視することができる。
【0056】
膜厚監視装置10を用いて測定した共振周波数とCI値の関係を示すグラフを、
図9に示す。CI値はクリスタルインピーダンスの値を示し、水晶振動子23の等価回路のパラメータであるR1に等しい。
図9に示すように、水晶振動子23に堆積する膜の厚みが増すほど(負荷質量が増加するほど)CI値は上昇する。これは、CI値が小さいほど、発振しやすく膜厚が薄いことと同義であり、大きいほど発振しづらく膜厚が厚いことと同義である。したがって、CI値の変化を追跡することにより、水晶振動子23の使用限界を監視することができる。
【0057】
さらに、インピーダンスの逆数であるアドミッタンスを求めて、水晶振動子23の等価回路のパラメータを求めることもできる。アドミッタンス(Y)は、Y=G+jB(G:コンダクタンス、B:サセプタンス)という実数部と虚数部で表示できる。アドミッタンスのコンダクタンスの周波数特性を求めることにより、例えば、Q値、D値を求めることができる。Q値は、水晶振動子の共振しやすさを示すパラメータであり、D値は、Q値の逆数であり、水晶振動子のエネルギー損失を示すパラメータである。
【0058】
監視部19は、このようにして求められた共振周波数及び等価回路のパラメータに基づき、基板41に成膜された膜厚を監視する。具体的には、求められた単位時間当たりの共振周波数変化量を成膜レートに換算して、成膜レートの変化を監視する。成膜レートは、どのくらいの速度で成膜をするのかを示す値であり、本実施の形態1では、Å/sの単位で示す。監視部19は、成膜レートを表示器16のモニターに表示する。ユーザは、モニターに表示された成膜レートの変化を監視することで、成膜の状況を確認することができる。
【0059】
また、監視部19は、CI値の変化を監視する。監視部19は、求められたCI値の変化を表示器16のモニターに表示してもよい。ユーザは、モニターに表示されるCI値の変化を見て、水晶振動子のモニターとしての寿命を予測することができる。
【0060】
このような構成を備える膜厚監視装置10において、膜厚を監視する方法について説明する。当該方法は、第2のコントローラ15により制御されて実行される。
【0061】
まず、成膜室2内を真空ポンプ3により真空排気して、成膜処理が開始する。成膜処理が開始されると、蒸着源30の成膜材料が加熱され気化されて、被成膜対象の基板41の蒸着面に成膜材料が蒸着する。また、気化した成膜材料は、水晶振動子ホルダ20の開口部21bから導入され、水晶振動子23の蒸着面23aに付着する。
【0062】
信号源11は、周波数が所定の範囲で変化する測定信号を出力し、測定信号は、信号分配器12により、受信器14に入力されるリファレンス信号と、水晶振動子23に入力される入力信号に分配される。水晶振動子23に入力された入力信号は、一部が反射信号として反射する。リファレンス信号と、反射信号は、受信器14(受信部18)に入力される。
【0063】
受信器14(受信部18)は、リファレンス信号と、反射信号と、を受信し、両信号を、第2のコントローラ15に送信する。第2のコントローラ15(監視部19)は、受信されたリファレンス信号と反射信号に基づいて、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を取得し、水晶振動子の共振周波数を決定する。そして、第2のコントローラ15は、共振周波数の変化量に基づいて基板41に成膜された膜の膜厚、及び成膜レートを算出する。
【0064】
第2のコントローラ15は、求めた基板41の膜厚、及び成膜レートを、表示器16のモニターに表示する。
【0065】
本実施の形態1によれば、水晶発振式膜厚監視法のように発振器を用いず、水晶振動子のインピーダンスの周波数特性に基づいて共振周波数を検出している。したがって、水晶発振式膜厚監視法のように発振が不安定となり、又は発振が停止し共振周波数が測定できないという状況は発生しない。また、副振動による影響を受けず、主振動の共振周波数を精度良く検出することができる。更に、共振周波数のみでなく水晶振動子のインピーダンスの周波数特性を検出できるため、成膜レート制御や水晶振動子の寿命管理などに利用することができる。
【0066】
本実施の形態1によれば、副振動が発生した場合でも、副振動の影響を受けずに成膜レートを制御することができる。例えば、
図10に副振動に起因する波形の歪みを示す。
図10に示すように、副振動の影響を受けると、インピーダンスの周波数特性を示すグラフの波
形は変動する。このような場合、波形の歪みから副振動が発生していると判断し、直前の共振周波数測定値から算出した制御値を用いて蒸着源のパワーを制御するものとする。従来の水晶発振式膜厚監視法では、副振動に起因する共振周波数の変動を成膜レート制御にフィードバックすることで成膜レートが不安定となってしまう課題があったが、本実施の形態1では共振周波数のみでなく、
図10に示すよう
なインピーダンスの周波数特性を取得することができるため、主振動ではない他の振動モードによる影響を除去する制御が可能となる。
【0067】
本実施の形態1によれば、入力信号が水晶振動子を通過した通過信号は利用せずに、入力信号と、入力信号が反射した反射信号より水晶振動子の共振周波数及び等価回路のパラメータを求めている。したがって、水晶振動子23の他方の主面に取り付けられた第1の電極部24を接地することができ、配線構造を簡単にすることができる。
【0068】
(実施の形態2)
実施の形態1では、1つの水晶振動子23を用いた膜厚監視装置10を説明したが、本発明は1つの水晶振動子を使用することに限定されず、複数の水晶振動子を用いて膜厚を監視する膜厚監視装置に適用してもよい。
【0069】
本実施の形態2の膜厚監視装置を備える成膜装置は、膜厚監視装置100と、水晶振動子ホルダ200と、蒸着源30と、基板ホルダ40と、第1のコントローラ50と、を備える。蒸着源30、基板ホルダ40、第1のコントローラ50は、
図1に示す構成と同一である。
図11には、膜厚監視装置100と、水晶振動子ホルダ200と、水晶振動子ホルダ200を回転させる回転駆動機構300と、を示す。また、水晶振動子は、実施の形態1で使用した水晶振動子23と同一のものを使用する。
【0070】
水晶振動子ホルダ200は、
図11に示すように、膜厚監視装置100と、回転駆動機構300と、に接続され、膜厚監視装置100は、回転駆動機構300に接続されている。
【0071】
水晶振動子ホルダ200は、
図11に示すように、ヘッド部210と、ホルダ本体220と、カバー部230と、から構成される。
【0072】
ヘッド部210は、回転軸201を中心に回転する円筒部材であり、その一端部には、回転軸201を中心に周方向に複数のバネ電極26が取り付けられている。バネ電極26は、実施の形態1で適用したバネ電極26と同一の部材を用い、ネジ26aによりヘッド部210に固定される。
【0073】
ホルダ本体220は、金属等の導電性材料で形成された円板状の部材である。ホルダ本体220は、ヘッド部210のバネ電極26が設けられた一端面と対向して配置される。ホルダ本体220の底部220aには、回転軸201と同軸の軸を中心に複数の第1の開口部220bが設けられる。複数の第1の開口部220bの各々に対応する位置に、ヘッド部210に対向して、複数の水晶振動子23が収容される。また、ホルダ本体220は、円板の中心からヘッド部210に向けて突出した円筒嵌合部221を備える。円筒嵌合部221にヘッド部210の回転軸201の軸端が嵌合して、ヘッド部210にホルダ本体220が取付けられる。そして、ホルダ本体220は、ヘッド部210の回転軸201と同軸に回転される。
【0074】
回転駆動機構300は、ヘッド部210を、回転軸201を中心に回転させる駆動部材であり、例えば、パルスモータが適用される。
【0075】
カバー部230は、ホルダ本体220を底部220a側から覆う円板状のカバーである。カバー部230が、水晶振動子ホルダ200全体の底部に相当する。カバー部230には、ホルダ本体220に形成された第1の開口部220bと同一径に形成された第2の開口部231が形成されている。第2の開口部231は、ホルダ本体220に形成された複数の第1の開口部220bのいずれか1つと対向するように配置される。
【0076】
また、水晶振動子23の蒸着面23a側の主面に取り付けられた第1の電極部24は、ホルダ本体220に接地され、蒸着面23aと反対側の主面に取り付けられた第2の電極部25は、膜厚監視装置100に接続される。
【0077】
膜厚監視装置100の基本構成は、
図3に示す基本構成と同一であり、膜厚監視装置100は、信号源11、信号分配器12、信号分離器13、受信器14、第2のコントローラ15、表示器16を備える。各構成についての説明は省略する。
【0078】
膜厚監視装置100の機能ブロック図を、
図12に示す。膜厚監視装置100は、第1の制御部140と、回転駆動部150と、出力部160と、受信部170と、監視部180と、を備える。出力部160、受信部170、監視部180は、
図4に示す出力部17、受信部18、監視部19と同様の機能を備えるので、説明を省略する。
【0079】
第1の制御部140は、水晶振動子23の寿命を判断し、寿命がきたと判断したときは、回転駆動部150により水晶振動子ホルダ200のホルダ本体220を回転軸201と中心に回転させるよう制御する。膜厚監視装置100の第2のコントローラ15が、第1の制御部140としての機能を果たす。
【0080】
回転駆動部150は、第1の制御部140から、水晶振動子23が寿命であることを示す信号を受信して、水晶振動子ホルダ200のホルダ本体220を、回転軸201を中心として回転させる。回転駆動機構300が、回転駆動部150としての機能を果たす。
【0081】
回転駆動部150により、水晶振動子ホルダ200のホルダ本体220が回転したのちは、成膜処理が開始し、出力部160、受信部170、監視部180により、基板41に成膜される膜厚を監視する。
【0082】
このような構成を備える膜厚監視装置10において、膜厚を監視しながら水晶振動子23の交換処理をする方法について、
図13に示すフローチャートを用いて説明する。
【0083】
まず、実際に成膜処理をしてCI値を実測し、この実測値に基づいて、CI値の上限を設定する(ステップS1001)。具体的には、複数回の成膜処理を基板に施す毎に、成膜レートとCI値を求め、その結果に基づいてCI値の上限を設定する。
図16は、複数の膜を基板41に積層させて成膜させたときのCI値と成膜レートとの関係を示すグラフである。実線は、膜毎の成膜レートを示し、破線は、CI値を示す。基板41には、第1膜、第2膜・・・第8膜と、一膜ずつ膜が積層されて、複数の成膜層が蒸着される。
図16に示すように、成膜レートは、第1膜から第8膜まで成膜処理を実行すると、第6膜を成膜したときから成膜レートを示す波形が乱れ、成膜レートが不安定になっていることがわかる。したがって、第6膜を成膜したときのCI値を、CI値の上限と定める。
【0084】
次に、第1の制御部140により、基板41に成膜する前のCI値を求める(ステップS1002)。具体的には、ネットワークアナライザ等の測定装置を用い、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を取得することにより、CI値を求める。
【0085】
次に、第1の制御部140が、ユーザにより事前に入力された予め設定された膜厚に基づいて、成膜後のCI値を予測する(ステップS1003)。
【0086】
そして、第1の制御部140は、予測されたCI値が上限CI値よりも大きいか否かを判断する(ステップS1004)。予測されたCI値が上限CI値よりも大きい場合には(ステップS1004:YES)、第1の制御部140は、水晶振動子23の寿命がきたと判断する。
【0087】
第1の制御部140は、水晶振動子23の寿命がきたと判断したときには、水晶振動子ホルダ200のホルダ本体220を所定の方向に、所定の角度回転させるように、回転駆動部150に指示する。具体的には、回転駆動機構300は、寿命がきたと判断された水晶振動子23の隣に配置された未使用の水晶振動子23が、カバー部230の第2の開口部231に対向して配置されるように、ホルダ本体220を回転させ、水晶振動子を切り替える(ステップS1005)。未使用の水晶振動子23への切り替えが終了した後、基板41への成膜処理が開始される(ステップS1006)。
【0088】
成膜処理が開始されると、蒸着源30の成膜材料が加熱され気化されて、被成膜対象の基板41の蒸着面に成膜材料が蒸着する。一方、ホルダ本体220と、カバー部230とは、ホルダ本体220に収容された複数の水晶振動子のうちの1つが、第1の開口部220bを介してカバー部230の第2の開口部231と対応するように配置されている。そして、第2の開口部231から、ホルダ本体220の内部に成膜材料が導入され、水晶振動子23の蒸着面23aに成膜材料が付着する。
【0089】
また、成膜処理が開始されると、実施の形態1と同様に、膜厚監視の処理が開始する(ステップS1007)。信号源11は、周波数が所定の範囲で変化する測定信号を出力し、測定信号は、信号分配器12により受信器14に入力されるリファレンス信号と、水晶振動子23に入力される入力信号に分配される。水晶振動子23に入力された入力信号は、一部が反射信号として反射する。反射信号は信号分離器13により分離され、リファレンス信号と反射信号は、受信器14により受信される。
【0090】
リファレンス信号と、反射信号と、を受信した受信器14は、両信号を、第2のコントローラ15に送信する。第2のコントローラ15は、リファレンス信号と反射信号に基づいて、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を取得して、水晶振動子23の共振周波数及び等価回路のパラメータを求める。求められた共振周波数の変化量に基づいて基板41に成膜された膜の膜厚を監視する。
【0091】
一方、第1の制御部140が、予測されたCI値が上限CI値よりも小さいと判断した場合には(ステップS1004:NO)、そのまま成膜処理が開始され(ステップS1006)、膜厚監視も開始する(ステップS1007)。
【0092】
そして、監視部180が膜厚を監視することで、成膜処理が終了したか否かが判断され(ステップS1008)、成膜処理が終了した場合には(ステップS1008:YES)、処理を終了する。成膜処理が終了していない場合には(ステップS1008:NO)、次の成膜処理を開始する前に、成膜前のCI値を測定し(ステップS1002)、同様の処理を繰り返す。ここで、「成膜処理が終了した」とは、所定の膜厚になったと判断された場合、又は複数の膜を積層するときは全ての膜が成膜されたと判断された場合を含む。
【0093】
(変形例1)
図13示すフローチャートでは成膜開始前に水晶振動子23の交換要否を判断するが、成膜処理中にCI値を監視しながら水晶振動子23の交換判断を行ってもよい。
図14に示すフローチャートを用いて、CI値をモニタリングしながら成膜を実施する例について説明する。
【0094】
まず、成膜開始前に水晶振動子23の交換要否を判断する場合と同様に、CI値の上限を設定する(ステップS1101)。
【0095】
次に、基板41への成膜処理が開始され(ステップS1102)、第1の制御部140は、成膜中、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性からCI値を取得し(ステップS1103)、実測されたCI値が上限CI値よりも大きいか否かを判断する(ステップS1104)。実測されたCI値が上限CI値よりも大きい場合には(ステップS1104:YES)、第1の制御部140は、水晶振動子23の寿命がきたと判断する。
【0096】
第1の制御部140は、水晶振動子23の寿命がきたと判断したときには、成膜を停止させ(ステップS1105)、水晶振動子ホルダ200を操作し未使用の水晶振動子23への切り替えを行う(ステップS1106)。未使用の水晶振動子23への切り替えが終了した後、基板41への成膜処理が開始される(ステップS1102)。
【0097】
成膜処理が開始されると、CI値の測定(ステップS1103)、成膜停止判断(ステップS1104)、膜厚監視(ステップS1107)、及び成膜処理終了判断(ステップS1108)を繰り返し、成膜処理が終了していれば(ステップS1108:YES)、処理を終了する。
【0098】
実測されたCI値が上限CI値よりも小さい場合には(ステップS1104:NO)、膜厚を監視し(ステップS1107)、成膜処理終了を判断する(ステップS1108)。
【0099】
成膜処理が終了していなければ(ステップS1108:NO)、成膜処理を継続して処理を繰り返す。成膜処理が終了していれば(ステップS1108:YES)、処理を終了する。
【0100】
図14に示すフローチャートでは、実測されたCI値が上限CI値より大きい場合に成膜を停止するものとするが、成膜を停止せず、直前の蒸着源パワーを維持し、成膜を継続させてもよい。直前の成膜レートから、目標膜厚に達するまでの時間を算出し、算出時間経過と同時に成膜処理を終了させればよい。
【0101】
変形例1によれば、CI値の上限値を設定して、成膜しながらCI値を測定するので、CI値を予測して水晶振動子を交換する場合よりも、水晶振動子の寿命を延ばすことができる。
【0102】
(変形例2)
変形例1では、CI値の上限値を一つ設定して、水晶振動子の交換時期を判断していた。しかしながら、本発明は、CI値の上限値を一つ設定する場合に限定されず、複数の上限値を設定して、各上限値に応じた処理をすることにより、水晶振動子の交換時期を遅らせ、水晶振動子の寿命を延ばすことが可能である。
【0103】
本変形例では、CI値の上限値として、3つの上限値を設定する。CI値は、
図16に示すように、膜厚が厚くなるほど上昇し、成膜レートの乱れを起こす。実施の形態2においては、
図16に示すように、成膜レートの乱れが大きくなりつつある第6膜を成膜しているときのCI値の値を、水晶振動子を交換する上限値として設定した。
【0104】
一方で、CI値は、温度や副振動の影響を受けて一時的に上昇して、上限値となるCI値の値を示し、これらの影響が無くなると上限値より下がるという変化を示す場合がある。このような場合に、CI値が上昇したと判断して、成膜レートを制御するようにフィードバックをかけると、膜厚に起因したCI値の上昇が主な上昇原因ではないので、成膜レートのコントロールが難しくなる。
【0105】
本変形例では、
図16で規定したCI値の上限値を、第1の上限値として設定し、
図16の第8膜における成膜レートの波形が大きく乱れ、成膜処理に致命的な影響を与えるCI値を、第3の上限値として設定した。そして、第1の上限値と第3の上限値の間のCI値を第2の上限値として設定した。3つのCI値の上限値は、第1の上限値<第2の上限値<第3の上限値という関係を有する。
【0106】
そして、CI値が、第1の上限値と第2の上限値の間の値になったときには、CI値の変動を成膜レート制御にフィードバックしないように、成膜レート制御をOFFにして、水晶振動子の使用を継続する。CI値がその後、第1の上限値以下になった場合には、成膜レート制御ONにして、成膜を継続する。
【0107】
CI値が、第2の上限値と第3の上限値の間の値になったときには、成膜レート制御をOFFとして、そのときに成膜している成膜層の成膜処理を完了させてから、水晶振動子を交換する。CI値が第3の上限値より大きい場合には、直ちに、成膜を停止して水晶振動子を交換する。
【0108】
このような水晶振動子交換処理を、
図15に示すフローチャートを用いて詳述する。フローチャート中、Yは「YES」を、Nは「NO」を示す。
【0109】
まず、CI値の第1の上限値と、第3の上限値を、
図16に示すグラフを用いて設定し、第1の上限値と第3の上限値の間の値を、第2の上限値として設定する(ステップS1301)。そして、成膜処理が開始される(ステップS1302)。なお、第2の上限値は、成膜レートを示すグラフの特徴に応じて、第1の上限値と第3の上限値の間の任意の位置に設定する。
【0110】
成膜処理が開始されると、第1の制御部140は、水晶振動子23のCI値を測定し(ステップS1303)、CI値が第1の上限値以下であった場合(ステップS1304;YES)、成膜レートの制御をONとする(ステップS1305)。そして、監視部180は、膜厚を監視する(ステップS1306)。第1の制御部140は、成膜中の層の成膜が完了した否かを判断し(ステップS1307)、完了したと判断したら(ステップS1307;YES)、全ての層の成膜が完了したか否かを判断する(ステップS1308)。全ての層の成膜が完了した(ステップS1308:YES)と判断したら、処理を終了する。全ての層の成膜が完了していなければ(ステップS1308;NO)、次の層の成膜が開始される(ステップS1302)。
【0111】
CI値が、第1の上限値以下で、成膜中の層の成膜が完了していないと判断された場合には(ステップS1307;NO)、再度、第1の制御部140はCI値を測定し、CI値が、第1の上限値から第2の上限値の間の値であると判断された場合には(ステップS1309;YES)、成膜レート制御をOFFとし(ステップS1310)、直前の蒸着源パワーを維持し成膜処理を継続する。このような処理をすることで、温度の変化や副振動により一時的にCI値が上昇した場合には、成膜レート制御をせずに、膜厚を適切に保つことができる。そして、監視部180が膜厚を監視し(ステップS1306)、第1の制御部140が、成膜中の層の成膜処理が完了したか否かを判断する(ステップS1307)。そして、成膜中の層の成膜処理が完了したと判断された場合には(ステップS1307;YES)、全ての成膜が完了したかが判断される(ステップS1308)。全ての成膜が完了したと判断された場合には(ステップS1308;YES)、処理を終了する。全ての成膜が完了していないと判断された場合には(ステップS1308;NO)、次の成膜処理が開始される(ステップS1302)。
【0112】
CI値が、第1と第2の上限値の間の値であり、成膜レート制御がOFFになっても、再度、CI値を測定して(ステップS1303)、第1の上限値以下であると判断された場合には(ステップS1304;YES)、成膜レート制御はONとなり(ステップS1305)、通常の成膜処理が進行する。
【0113】
CI値が、第2と第3の上限値の間の値である場合には(ステップS1311;YES)、成膜レート制御はOFFとなり(ステップS1312)、膜厚が監視されて(ステップS1313)、成膜中の層の成膜が完了するまで、成膜処理は蒸着源パワーが一定で継続される(ステップS1314)。そして、全ての成膜が終了した場合には(ステップS1315;YES)、処理は終了する。全ての成膜が終了していない場合(ステップS1315;NO)、水晶振動子23は交換され(ステップS1316)、次の成膜処理が開始される(ステップS1302)。CI値が、第2と第3の上限値の間の値である場合には、成膜レート制御をOFFとするので、成膜レートへの温度や副振動の影響を極力排除できる。また、成膜中の層の成膜が完了するまで水晶振動子23の使用を継続するので、水晶振動子23の寿命を延ばすことができる。
【0114】
CI値が、第3の上限値以上である場合(ステップS1318;YES)、直ちに成膜処理は停止され(ステップS1319)、水晶振動子23は交換される(ステップS1316)。CI値が、第3の上限値以下である場合には(ステップS1318;NO)、CI値は第1の上限値より小さいことと同義であるので、成膜レート制御をONとし(ステップS1305)、CI値が第1の上限値以下である場合と同様の処理をする。
【0115】
変形例2によれば、CI値の上限値を3つ設定して、膜厚以外の要因である、副振動や温度のCI値への影響を考慮しながら成膜することができ、水晶振動子の使用期間を変形例1より更に延ばすことができる。
【0116】
本実施の形態2において、水晶振動子の交換時期を判断する等価回路のパラメータとして、CI値を用いたが、本発明は、CI値に限定されない。他にQ値、D値等を用いてもよい。
【0117】
本実施の形態2において、1つの水晶振動子23の寿命がきた場合には、ヘッド部210とホルダ本体220とが所定角度回転して、ホルダ本体220に収容された水晶振動子と第2の開口部231との位置を変更していたが、本発明はこのような方法に限定されない。例えば、ヘッド部210とホルダ本体220は固定し、カバー部230を回転させて水晶振動子23と、第2の開口部231との位置を変更してもよい。
【0118】
本実施の形態2において、第2のコントローラ15を、第1の制御部140として機能させるように構成したが、第1のコントローラ50に第1の制御部140の機能をもたせることもできる。
【0119】
本実施の形態2において、回転駆動機構300は、寿命がきた水晶振動子の隣に配置された未使用の水晶振動子が使用状態となるように、水晶振動子ホルダ200を回転させているが、移動されるのは、隣に配置された水晶振動子でなくてもよい。不良品等の理由で、隣の水晶振動子が使用できる状態にない場合には、別の未使用の水晶振動子を、第2の開口部231まで移動させてもよい。
【0120】
本実施の形態2において、予め上限CI値を求めて水晶振動子を交換処理する方法を説明したが、予め上限CI値を求める方法は、実施の形態1にも適用できる。具体的には、予め上限のCI値を定め、ユーザがモニターに表示されたCI値を確認して、水晶振動子の交換時期を予測できるようにしてもよい。また、上限のCI値に近くなったときには、警告等をモニターに表示して、ユーザに水晶振動子23の交換を喚起するようにしてもよい。
【0121】
本実施の形態2によれば、膜厚監視装置10は、周波数を掃引した測定信号を印加し、反射信号を受信するという反射法による監視方法を採用しているので、水晶振動子23の一方の主面に取り付けられた第1の電極部24を接地することができる。したがって、配線構造を簡単にすることができるとともに、複数の水晶振動子23を収容して、所定の回転軸を中心に回転できる水晶子ホルダを採用して、膜厚を監視することができる。したがって、連続して、膜厚の監視をすることができる。
【0122】
本実施の形態2において、第2の電極部25は、バネ電極26を介して膜厚監視装置10(100)に接続されている。また、図示はしていないが、バネ電極26と膜厚監視装置10との接続は、第2の開口部231に対向した水晶振動子23のみが選択される切り替え構造なっている。第2の電極部25から膜厚監視装置10までの電気長は、バネ電極26の個体差やバネ電極26と膜厚監視装置10との接続を選択する切り替え構造の接触状態により、第1の開口部220bの個数分ある複数の経路で異なる。電気長の違いにより、水晶発振式膜厚計では、共振周波数の変化量に微妙な違いが生じてしまう。本実施の形態2によれば、水晶振動子23を測定する前に、各複数経路の電気長の較正を行うため、複数経路の電気長の違いを相殺して、精度よく共振周波数の変化量を求めることができる。水晶発振式膜厚監視法を採用した場合には、複数の水晶振動子毎に異なる負荷容量の影響を受けて、共振周波数を精度よく測定することができない。
【0123】
本実施の形態2によれば、予め上限CI値を設定し、上限CI値より予測CI値が大きければ、回転駆動機構300が自動的にホルダ本体220を回転して水晶振動子を切り替えることができる。したがって、成膜の途中で水晶振動子が寿命を迎えることを防止するとともに、ユーザの作業負担を軽減し、連続して適切な膜厚を監視することができる。
【0124】
(実施の形態3)
本実施の形態1、2においては、適切に膜厚を監視する膜厚監視装置を説明したが、このような膜厚監視装置の監視結果に基づいて、適切な膜厚になるように成膜処理を制御できる成膜装置を提供することも可能である。
【0125】
本実施の形態3は、適切な膜厚になるように成膜処理をするため、成膜レートを制御する実施の形態である。本実施の形態3で使用される成膜装置は、
図1に示す成膜装置1を用い、成膜装置1は、膜厚監視装置10と、蒸着源30と、第1のコントローラ50と、を含む。成膜装置1は、膜厚を所定の成膜レートに制御する第2の制御部を備える。第1のコントローラ50が、第2の制御部として機能する。
【0126】
成膜レートは、真空蒸着法を用いて成膜する場合、成膜材料により異なる。例えば、低融点の成膜材料と、高融点の成膜材料とでは、蒸発させるための加熱温度が相違し、各々の成膜材料に適した成膜レートが設定されている。また、成膜処理の初期は、成膜レートが安定しないので、成膜レートが安定したか否かを確認する必要がある。したがって、成膜レートを所定の値に制御することは、成膜処理では重要である。
【0127】
基板41に成膜される膜の成膜レートを制御する方法を、
図16に示すフローチャートを用いて説明する。
【0128】
まず、ユーザが、蒸着したい膜の成膜レートを表示器16のモニター等を介して設定する(ステップS1201)。第2の制御部は、蒸着源30を加熱して、基板41への成膜処理を開始するよう指示する(ステップS1202)。
【0129】
そして、第2の制御部は、膜厚監視装置10に、水晶振動子23のインピーダンスの周波数特性を取得させ、共振周波数を求めさせる。膜厚監視装置10は、求められた共振周波数の変化量を膜厚換算し、単位時間当たりの膜厚変化量を成膜レートに換算して、成膜レートの値を第2の制御部に送信する(ステップS1203)。
【0130】
第2の制御部は、換算された成膜レートと、予め設定した成膜レートと、を比較して、同一か否かを判断する(ステップS1204)。第2の制御部は、換算された成膜レートと設定された成膜レートとが同一であれば(ステップS1204:YES)、蒸着源30の蒸発速度を維持し(ステップS1205)、同一でなければ(ステップS1204:NO)、蒸着源30の蒸発速度を、設定された成膜レートに近づけるように増減するように制御する(ステップ1206)。
【0131】
第2の制御部は、膜厚監視装置10が求めた共振周波数変化量に基づいて、基板41に成膜された膜厚が所定の膜厚になったか否かを判断し(ステップS1207)、所定の膜厚になっていれば(ステップS1207:YES)、成膜処理を終了する。所定の膜厚になっていなければ(ステップS1207:NO)、成膜処理(ステップS1202)を継続し、同一の処理を繰り返す。
【0132】
本実施の形態3によれば、膜厚監視装置10が求めた単位時間当たりの共振周波数変化量に基づいて、成膜レートを算出している。本実施の形態3においては、周波数特性を示すグラフにおいて、位相0°の共振周波数が取得できれば、成膜レートに換算することができる。したがって、水晶発振式膜厚監視法により測定する共振周波数よりも、確実に共振周波数を取得することができ、成膜レートに反映させることができる。
【0133】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれまで説明した実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更が加えられたものを含む。
【0134】
本実施の形態1から3では、一枚の基板41を保持す基板ホルダ40を例として説明したが、本発明はこのような基板ホルダ40に限定されない。例えば、ドーム型の基板ホルダの内面に複数の基板を保持して、ドームを回転させて、一度に複数枚の基板を一緒に処理する場合にも適用される。
【0135】
本実施の形態2、変形例1及び変形例2において、寿命のきた水晶振動子は、
図11に示す回転駆動機構300がホルダ本体220を回転させることにより、新しい水晶振動子に切り替えられるとして説明した。本発明は、このような水晶振動子23の切り替え機構に限定されず、一つの水晶振動子を保持する水晶振動子ホルダを用いて、寿命が来た水晶振動子を、交換装置により個別に交換してもよい。
【0136】
変形例2では、CI値の上限値を3つ設定して、水晶振動子の交換時期を判断していたが、第2の上限値と第3の上限値、又は第1の上限値と第3の上限値という2つの上限値の組合せであってもよい。変形例2では、CI値が第1の上限値を超えた場合に成膜レートの制御をOFFするが、予めCI値の変動を予測し、予測CI値と実測CI値との差が所定値以上となった場合に成膜レートの制御をOFFとしてもよい。または、実測CI値変動振幅幅が所定幅以上となった場合に、成膜レートの制御をOFFしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、基板の表面に成膜処理により形成された膜の膜厚を監視する膜厚監視装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 成膜装置
2 成膜室
3 真空ポンプ
10 膜厚監視装置
11 信号源
12 信号分配器
13 信号分離器
14 受信器
15 第2のコントローラ
16 表示器
17 出力部
18 受信部
19 監視部
20 水晶振動子ホルダ
21 ホルダ本体
21a 底部
21b 開口部
22 蓋部
23 水晶振動子
23a 蒸着面
23b 非蒸着面
24 第1の電極部
25 第2の電極部
26 バネ電極
26a ネジ
30 蒸着源
40 基板ホルダ
41 基板
50 第1のコントローラ
100 膜厚監視装置
140 第1の制御部
150 回転駆動部
160 出力部
170 受信部
180 監視部
200 水晶振動子ホルダ
201 回転軸
210 ヘッド部
220 ホルダ本体
221 円筒嵌合部
220a 底部
220b 第1の開口部
230 カバー部
231 第2の開口部
300 回転駆動機構