(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】有害獣侵入防止システム
(51)【国際特許分類】
A01M 29/24 20110101AFI20220210BHJP
A01M 29/10 20110101ALI20220210BHJP
A01M 29/16 20110101ALI20220210BHJP
A01M 29/30 20110101ALI20220210BHJP
【FI】
A01M29/24
A01M29/10
A01M29/16
A01M29/30
(21)【出願番号】P 2019189328
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018212059
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518402026
【氏名又は名称】溝口 芳雄
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】溝口 芳雄
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-299186(JP,A)
【文献】特開2018-157767(JP,A)
【文献】特開2017-077220(JP,A)
【文献】特開2010-246535(JP,A)
【文献】登録実用新案第3177796(JP,U)
【文献】特開2018-046803(JP,A)
【文献】特開2004-065090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0261151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/00 - 29/34
G08B 21/00 - 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害獣生息エリアと保護エリアとを区画し、前記有害獣生息エリアにいる有害獣が前記保護エリアに侵入するのを阻止する電気柵と、前記保護エリアの内外を結ぶ内外通行道路を通すため前記電気柵の途中を開放して設けられた通行口と、前記通行口に設置されたゲート装置とを備え、
前記ゲート装置は、前記有害獣生息エリア側から前記通行口に近づく人間を、有害獣とは区別して検出可能な第1の通行者検出装置と、前記有害獣生息エリア側から前記通行口に近づく有害獣を検出可能な第2の通行者検出装置と、前記保護エリア側から前記通行口に近づく人間を検出可能な第3の通行者検出装置と、前記通行口に近づいた有害獣に対し、有害獣が嫌がる忌避刺激を発射して有害獣を前記有害獣生息エリア側に追い払う忌避刺激発射装置とを備え、
前記忌
避刺激発射装置は、前記第2の通行者検出装置によって有害獣が検出されている時に前記忌避刺激を発射し、前記第1の通行者検出装置によって人間が検出されている時、及びその人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間は、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射せず、前記第3の通行者検出装置によって人間が検出されている時、及びその人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間は、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射しないことを特徴とする有害獣侵入防止システム。
【請求項2】
前記忌避刺激発射装置は、前記通行口の近傍に、前記内外通行道路と交差する方向に前記忌避刺激を発射する請求項1記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項3】
前記第2の通行者検出装置は、有害獣の位置が前記通行口に近いか遠いかを判定可能に設けられ、
前記忌避刺激発射装置は、前記第2の通行者検出装置の判定結果を受け、有害獣の位置が前記通行口に近い時ほど、発射する前記忌避刺激の強度を強くする請求項1又は2記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項4】
前記電気柵は、前記内外通行道路の両側で互いに対向する所定長さの対向部分を有し、前記対向部分の、前記保護エリア側に位置する一対の端部の間が前記通行口となり、
前記第2の通行者検出装置は、前記対向部分の間に入った有害獣を検出可能に設置され、前記忌避刺激発射装置は、前記対向部分の間にいる有害獣に向けて前記忌避刺激を発射する請求項1乃至3のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項5】
前記第3の通行者検出装置は、前記保護エリア側から前記通行口に近づく人間及び有害獣を検出可能に設けられ、
前記忌
避刺激発射装置は、前記第3の通行者検出装置によって人間又は有害獣が検出されている時、及びその人間又は有害獣が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射しない請求項1乃至4のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項6】
前記忌避刺激発射装置が発射する忌避刺激には、有害獣が嫌がる光点滅信号が含まれる請求項1乃至5のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項7】
前記忌避刺激発射装置が発射する忌避刺激には、有害獣が嫌がる音信号が含まれる請求項1乃至5のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項8】
前記音信号は、指向性スピーカを通じて前記内外通行道路と交差する方向に発射される請求項7記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項9】
前記忌避刺激発射装置が発生する忌避刺激には、有害獣が嫌がる噴射液が含まれる請求項1乃至5のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項10】
前記噴射液は、所定電圧が印加された導電性液体である請求項9記載の有害獣侵入防止システム。
【請求項11】
前記第1乃至第3の通行者検出装置及び前記忌避刺激発射装置は、各々、前記内外通行道路の両側に一対に設けられ、
2つの前記忌避刺激発射装置には、全ての前記通行者検出装置の検出状況の情報を互いに共有するための通信手段が各々設けられている請求項1乃至10のいずれか記載の有害獣侵入防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農作物に被害を与える猪等の有害獣の侵入を防止する有害獣侵入防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、高電圧が印加された電気柵で農耕地エリアを囲み、農耕地エリアに有害獣が侵入するのを防止する獣害電気柵システムがあった。電気柵には、作業者の出入口を開閉するためのゲートグリップが設けられている。ゲートグリップは、電気柵の裸電線の一部をフックで着脱可能に接続した構造であり、作業者が農耕地エリアに出入りする時、手でフックを外して出入口を開き、出入口を通った後、再びフックを接続して出入口を閉じる。
【0003】
また、特許文献2には、牧区の出入口部に設置されて家畜の出入りを規制する自動開閉門扉が開示されている。この自動開閉門扉は、家畜が接触した時に電気衝撃を与える腕木と、照度センサ等のデータに基づいて腕木の開閉指令を出力する制御装置とを備え、制御装置の開閉指令に従って腕木が昇降して出入口部が開閉される。
【0004】
その他、特許文献3には、鹿や猪等の有害獣を捕獲するための野生動物捕獲装置が開示されている。この野生動物捕獲装置は、野生動物の侵入口が設けられた四角形の捕獲檻を有し、この侵入口に開閉扉が設置されている。また、捕獲檻の内外に、外部から捕獲檻に近づく動物や人を感知する安全確認センサと、内部に侵入した野生動物を感知する主感知センサとが設置されている。開閉扉は、開状態にして放置され、各センサの出力に基づいて自動的に閉鎖される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-47122号公報
【文献】特開平3-259023号公報
【文献】実用新案登録第3209816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定の地域や集落等の中にある複数の田畑に対し、個々の田畑を電気柵で囲んで個別に保護する小型のシステムを複数設置すると、全体として、設置や維持管理に大きなコストが掛かる。そこで、近年、複数の田畑を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵で囲んで保護する大型の有害獣侵入防止システムが検討されている。
【0007】
特定の地域や集落等を電気柵で囲む場合、電気柵の内側領域(保護エリア)と外側領域(有害獣生息エリア)とを結ぶ通行道路の交通を妨げないようにするため、電気柵の途中を開放し、通行道路を通す通行口を設けなければならない。したがって、このような大型の有害獣侵入防止システムを構築する場合、有害獣が通行口から侵入するのを防止しつつ、歩行者や自動車が通行口をスムーズに通過できるようにすることが課題になる。
【0008】
特許文献1の電気柵システムは、個々の田畑を電気柵で個別に囲んで保護する小規模のシステムであり、複数の田畑を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵で囲んで保護するシステムではない。また、人間が通る出入口部は、手動でゲートグリップを開閉する形態であり、自動車等が出入口部をスムーズに通行できるようにすることは考慮されていない。そして、この電気柵システムに、特許文献2,3に記載された開閉扉の技術を組み合わせたとしても、上記の課題を解決することはできない。また、通行道路が県道や市道のような幹線道路の場合、道路交通法上の規定により、開閉扉のような物理的障害物を設置することは認められない可能性がある。
【0009】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、有害獣が電気柵の通行口から侵入するのを防止しつつ、歩行者や自動車が通行口をスムーズに通行できる有害獣侵入防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、有害獣生息エリアと保護エリアとを区画し、前記有害獣生息エリアにいる有害獣が前記保護エリアに侵入するのを阻止する電気柵と、前記保護エリアの内外を結ぶ内外通行道路を通すため前記電気柵の途中を開放して設けられた通行口と、前記通行口に設置されたゲート装置とを備え、
前記ゲート装置は、前記有害獣生息エリア側から前記通行口に近づく人間を、有害獣とは区別して検出可能な第1の通行者検出装置と、前記有害獣生息エリア側から前記通行口に近づく有害獣を検出可能な第2の通行者検出装置と、前記保護エリア側から前記通行口に近づく人間を検出可能な第3の通行者検出装置と、前記通行口に近づいた有害獣に対し、有害獣が嫌がる忌避刺激を発射して有害獣を前記有害獣生息エリア側に追い払う忌避刺激発射装置とを備え、
前記忌避刺激発射装置は、前記第2の通行者検出装置によって有害獣が検出されている時に前記忌避刺激を発射し、前記第1の通行者検出装置によって人間が検出されている時、及びその人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間は、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射せず、前記第3の通行者検出装置によって人間が検出されている時、及びその人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間は、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射しない有害獣侵入防止システムである。
【0011】
前記忌避刺激発射装置は、前記通行口の近傍に、前記内外通行道路と交差する方向に前記忌避刺激を発射する構成であることが好ましい。また、前記第2の通行者検出装置は、有害獣の位置が前記通行口に近いか遠いかを判定可能に設けられ、前記忌避刺激発射装置は、前記第2の通行者検出装置の判定結果を受け、有害獣の位置が前記通行口に近い時ほど、発射する前記忌避刺激の強度を強くする構成であることが好ましい。
【0012】
前記電気柵は、前記内外通行道路の両側で互いに対向する所定長さの対向部分を有し、前記対向部分の、前記保護エリア側に位置する一対の端部の間が前記通行口となり、前記第2の通行者検出装置は、前記対向部分の間に入った有害獣を検出可能に設置され、前記忌避刺激発射装置は、前記対向部分の間にいる有害獣に向けて前記忌避刺激を発射する構成であることが好ましい。また、前記第3の通行者検出装置は、前記保護エリア側から前記通行口に近づく人間及び有害獣を検出可能に設けられ、前記忌避刺激発射装置は、前記第3の通行者検出装置によって人間又は有害獣が検出されている時、及びその人間又は有害獣が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間、前記第2の通行者検出装置の検出状況に関係なく、前記忌避刺激を発射しない構成であることが好ましい。
【0013】
前記忌避刺激発射装置が発射する忌避刺激には、有害獣が嫌がる光点滅信号が含まれる構成にしてもよい。また、前記忌避刺激発射装置が発射する忌避刺激には、有害獣が嫌がる音信号が含まれる構成にしてもよい。この場合、前記音信号は、指向性スピーカを通じて前記内外通行道路と交差する方向に発射されることが好ましい。また、前記忌避刺激発射装置が発生する忌避刺激には、有害獣が嫌がる噴射液が含まれる構成にしてもよい。この場合、前記噴射液は、所定電圧が印加された導電性液体であることが好ましい。
【0014】
また、前記第1乃至第3の通行者検出装置及び前記忌避刺激発射装置は、各々、前記内外通行道路の両側に一対に設けられ、2つの前記忌避刺激発射装置には、全ての前記通行者検出装置の検出状況の情報を互いに共有するための通信手段が各々設けられている構成にしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の有害獣侵入防止システムは、複数の田畑等を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵で囲んで保護する大型のシステムなので、従来のように小型のシステムを複数設置するよりも、トータルコストを大幅に削減することができる。また、電気柵の途中に内外通行道路を通すための通行口が設ける必要があるが、通行口に独特な構成のゲート装置が設置されているので、有害獣は通行口から保護エリアに侵入することができず、歩行者や自動車は通行口をスムーズに通ることができる。また、停電等が発生してゲート装置が動作不能になった場合でも、通行口が開閉扉等の物理的障害物で封鎖される状態にならないので、歩行者や自動車は支障なく交通することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の有害獣侵入防止システムの一実施形態の全体像を示す平面図である。
【
図2】この実施形態の有害獣侵入防止システムが有するゲート装置の外観を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示すゲート装置が有する第1乃至第3の通行者検出装置の構成を示す平面図(a)、忌避刺激発射装置の構成を示す平面図(b)である。
【
図4】
図2に示す電気柵の対向部分の変形例を示す平面図(a)、(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の有害獣侵入防止システムの一実施形態について、図面に基づいて説明する。この実施形態の有害獣侵入防止システム10は、山間にある集落等を猪等の有害獣から保護するために設置されるシステムである。例えば
図1に示す集落は、有害獣が生息する有害獣生息エリアYAに囲まれた内側にあり、複数の田畑T、住宅J、生活道路SD等を含む集落のほぼ全域が保護エリアHAとなる。また、この集落には、保護エリアHAの内側と外側を結ぶ内外通行道路NDが横断している。内外通行道路NDは、隣接する他の集落に通じる道路であり、歩行者、自転車、自動車(二輪、四輪)が通行する。
【0018】
有害獣侵入防止システム10は、有害獣生息エリアYAと保護エリアHAとを区画し、有害獣が保護エリアHAに侵入するのを阻止する電気柵12を備えている。そして、内外通行道路NDを通すため、電気柵12の途中の2箇所を開放して通行口14が設けられ、各通行口14にゲート装置16が設置されている。
【0019】
電気柵12は、
図2に示すように、2本の裸電線18を多数の支柱に架設し、図示しない電撃手段を取り付けることによって設けられている。裸電線18が2本の場合、約20cmと約40cmの高さに架設することが好ましい。この高さにすれば、猪等の有害獣が飛び越えたり通り抜けたりすることができず、しかも、有害獣が接触すると的確に電気衝撃を与えることができる。裸電線18の数は3本以上に増やしてもよい。
【0020】
電気柵12は、内外通行道路NDの両側で互いに対向する所定長さの対向部分12aを有している。対向部分12aの、有害獣生息エリアYA側にある一対の端部を第1端部12b(1)、保護エリアHA側にある一対の端部を第2端部12b(2)とすると、2つの第二端部12b(2)の間が通行口14となる。
【0021】
ゲート装置16は、第1の通行者検出装置20、第2の通行者検出装置22、第3の通行者検出装置24、忌避刺激発射装置26及び太陽光発電装置28とで構成される。
【0022】
第1の通行者検出装置20は、有害獣生息エリアYA側から通行口14に近づく人間(歩行者、自転車に乗った人、自動車を運転する人等)を、有害獣とは区別して検出できる装置であり、内外通行道路NDの側方に支柱を立設し、この支柱に非接触式のセンサ20aを取り付けることによって設けられている。センサ20aは、例えば、内外通行道路NDを横切るように水平方向に光を照射し、対象物からの反射光を受光して対象物との距離の変化を検出する距離センサ等であり、低背の有害獣を検出できず、歩行者及び自動車を検出できる高さに固定されている。
【0023】
第1の通行者検出装置20は、センサ22aが反応した時、すなわち歩行者、自転車又は自転車に乗った人、人が運転する自動車を感知した時に、「人間が検出された」と判定する。
【0024】
第2の通行者検出装置22は、有害獣生息エリアYA側から通行口14に近づく有害獣(有害獣生息エリアYA側から対向部分12aの間に入った有害獣)を検出できる装置であり、対向部分12aの外側に3つ支柱を立設し、第1の支柱に非接触式のセンサ22a(1)を、第2の支柱に非接触式の22a(2)を、第3の支柱に非接触式のセンサ22a(3)を各々取り付けることによって設けられている。
図3(a)に示すように、各センサの設置場所は、センサ22a(1)が通行口14から最も離れた位置、センサ22a(3)が通行口14に最も近い位置、センサ22a(2)が中間の位置である。センサ22a(1),22a(2),22a(3)も上記と同様の距離センサ等であり、低背の有害獣を検出できる高さに固定されている。
【0025】
第2の通行者検出装置22は、センサ22a(1),22a(2),22a(3)の中の少なくとも1つが反応した時に、すなわち有害獣を感知した時に、「有害獣が検出された」と判定する。また、有害獣が通行口14に近づく時は、必ず第1端部12b(1)から対向部分12aに入って第2端部12b(2)の方向に進むので、3つのセンサの中のどれが物体を感知したかによって、有害獣の位置が通行口14に近いか遠いかを判定することができる。なお、センサ22a(1),22a(2),22a(3)は、有害獣と人間を区別できないので、人間を感知した時も「有害獣が検出された」と判定することになる。
【0026】
第3の通行者検出装置24は、保護エリアHA側から通行口14に近づく人間(歩行者、自転車に乗った人、自動車を運転する人等)を検出できる装置であり、内外通行道路NDの側方に支柱を立設し、この支柱に非接触式のセンサ24aを取り付けることによって設けられている。センサ24aも上記と同様の距離センサ等であり、低背の有害獣を検出できず、歩行者及び自動車を検出できる高さに固定されている。
【0027】
第3の通行者検出装置24は、センサ24aが物体を感知した時、すなわち歩行者、自転車又は自転車に乗った人、人が運転する自動車を感知した時に、「人間が検出された」と判定する。
【0028】
忌避刺激発射装置26は、通行口14に近づいた有害獣(対向部分12aの間にいる有害獣)に対し、有害獣が嫌がる忌避刺激を発射して有害獣を有害獣生息エリアYA側に追い払う装置であり、対向部分12aの外側に設置されている。
【0029】
図3(b)に示すように、忌避刺激発射装置26は、互いに異なる忌避刺激を発射する3つの発射部26a(1),26a(2),26a(3)を備えている。発射部26a(1)は、センサ22a(2)とセンサ22a(3)の間の、センサ22a(2)に近い位置に配置され、忌避刺激である光点滅信号S1を発生させ、内外通行道路NDを横切るように発射する。発射部26a(2)は、センサ22a(2)とセンサ22a(3)の間の、センサ22a(3)に近い位置に配置され、忌避刺激である音信号S2を発生させ、内外通行道路NDを横切るように発射する。音信号S2は、パラメトリックスピーカ等の指向性スピーカを通じて発射することが好ましい。発射部26a(3)は、センサ22a(3)と通行口14の間に配置され、忌避刺激である噴射液S3を、内外通行道路NDを横切るように発射する。例えば、噴射液S3として所定の高電圧が印加された導電性液体を使用し、有害獣に電撃を与えるようにしてもよい。
【0030】
忌避刺激発射装置26は、第2の通行者検出装置22によって有害獣が検出されている時に忌避刺激を発射する。そして、有害獣の位置が通行口14に近いと判定された時ほど、発射する忌避刺激の強度を強くする。ただし、忌避刺激発射装置26は、第1の通行者検出装置20によって人間が検出されている時、及び人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間は、第2の通行者検出装置22の検出状況に関係なく、忌避刺激を発射しない。同様に、第3の通行者検出装置24によって人間が検出されている時、及び人間が検出されなくなってから基準時間が経過するまでの間も、第2の通行者検出装置22の検出状況に関係なく、忌避刺激を発射しない。上記の基準時間は、人間が通行口14を通行するのに必要な時間よりも長い時間に設定されている。忌避刺激発射装置26の具体的な動作は、後で詳しく説明する。
【0031】
太陽光発電装置28は、ゲート装置16が有する各装置の動作用電源を確保するための装置であり、ここでは、第1の通行者検出装置20の側方に設置され、図示しないケーブルで各装置に接続されている。
【0032】
次に、有害獣侵入防止システム10の動作の一例を説明する。通行口14及びゲート装置16の近くに人間も有害獣もいない時を初期状態とすると、初期状態では、ゲート装置16の忌避刺激発射装置26は、忌避刺激を発射していない。
【0033】
まず、人間(歩行者、自転車に乗った人、自動車を運転する人等)が有害獣生息エリアYA側から通行口14に近づいた場合を考える。この場合、最初にセンサ20aが反応し、第1の通行者検出装置20が「人間が検出された」と判定する。その後、人間がさらに進むと、第1の通行者検出装置20の判定が「人間は検出されない」に戻り、今度は、センサ22a(1),センサ22a(2),センサ22a(3)が順に反応し、第2の通行者検出装置22が「有害獣が検出された」と判定する。
【0034】
ただし、第2の通行者検出装置22が「有害獣が検出された」と判定するのは、第1の通行者検出装置20の判定が「人間は検出されない」に戻ってから基準時間が経過する前になるので、忌避刺激発射装置26は忌避刺激を発射しない。したがって、人間は、忌避刺激を受けることなく通行口14を通過し、保護エリアHAに入ることができる。
【0035】
次に、人間(歩行者、自転車に乗った人、自動車を運転する人等)が保護エリアHA側から通行口14に近づいた場合を考える。この場合、最初にセンサ24aが反応し、第3の通行者検出装置24が「人間が検出された」と判定する。その後、人間がさらに進むと、第3の通行者検出装置24の判定が「人間は検出されない」に戻り、通行口14を通過して対向部分12aに入ると、今度は、センサ22a(3),センサ22a(2),センサ22a(1)が順に反応し、第2の通行者検出装置22が「有害獣が検出された」と判定する。
【0036】
ただし、第2の通行者検出装置22が「有害獣が検出された」と判定するのは、第3の通行者検出装置24の判定が「人間は検出されない」に戻ってから基準時間が経過する前になるので、忌避刺激発射装置26は忌避刺激を発射しない。したがって、人間は、忌避刺激を受けることなく対向部分12aを通過し、有害獣生息エリアYAに出ることができる。
【0037】
次に、有害獣が有害獣生息エリアYA側から通行口14に近づいた場合を考える。この場合、センサ20aは有害獣に反応しないので、有害獣は、第1の通行者検出装置20の判定が「人間は検出されない」に保持された状態で対向部分12aに入る。そして、センサ22a(1),センサ22a(2),センサ22a(3)が順に反応し、第2の通行者検出装置22が「有害獣が検出された」と判定する。
【0038】
忌避刺激発射装置26は、最初のセンサ22a(1)が反応すると、発射部26a(1)から光点滅信号S1を発射して有害獣を警戒させ、有害獣の侵入速度を減速させる。次のセンサ22a(2)が反応すると、光点滅信号S1の点滅速度を速くする等してより強く警戒させ、さらに発射部26a(2)から音信号S2を発射して有害獣を強く威嚇する。さらに、次のセンサ22a(3)が反応すると、忌避刺激発射装置26は、音信号S2の音量をもっと大きくするとともに、さらに発射部26a(3)から噴射液S3を発射し、有害獣を激しく威嚇する。したがって、有害獣は通行口14を通過することができず、有害獣生息エリアYAに追い払うことができる。
【0039】
忌避刺激発射装置26は、忌避刺激を内外通行道路NDと交差する方向に発射するので、有害獣にすれば、強い忌避刺激を突然受ける形になり、非常にびっくりする。したがって、十分な威嚇効果が得られ、しかも有害獣はなかなか忌避刺激に慣れることができない。また、有害獣が通行口14に近づくほど忌避刺激の強度が強くなるので、有害獣はこれに耐え続けることができず、ほぼ確実に逃げ帰ってしまう。
【0040】
また、電気柵12は、所定長さの対向部分12aを有し、有害獣が侵入しようとする時、必ず第1端部12b(1)側から対向部分12aに入って第2端部12b(2)の方向に進む構成になっている点も大きな特徴である。この対向部分12aがあることによって、「有害獣が通行口14に近づくほど忌避刺激の強度を強くする」という動作を、第2の通行者検出装置22及び忌避刺激発射装置26のようなシンプルな装置で実現することができる。
【0041】
以上説明したように、有害獣侵入防止システム10は、複数の田畑等を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵12で囲んで保護する大型のシステムなので、従来のように小型のシステムを複数設置するよりも、トータルコストを大幅に削減することができる。また、電気柵12の途中に内外通行道路NDを通すための通行口14があるが、通行口14に独特な構成のゲート装置16が設置されているので、有害獣は通行口14から保護エリアHAに侵入することができず、歩行者や自動車は通行口14をスムーズに通ることができる。また、停電等が発生してゲート装置16が動作不能になった場合でも、通行口14が開閉扉等の物理的障害物で封鎖される状態にならないので、歩行者や自動車は支障なく交通することができる。
【0042】
なお、本発明の有害獣侵入防止システムは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の通行者検出装置20,22,24が有する非接触式のセンサ20a,22a(1)~22a(3),24aは距離センサであるが、例えば赤外線センサや超音波センサ等を使用しても、同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
上記の第2の通行者検出装置22は、3つのセンサ22a(1)~22a(3)を備え、有害獣の位置が通行口14に近いか遠いかを3段階で判定できる構成になっているが、何段階で判定するかは自由に決定することができ、それに合わせてセンサの数を変更することができる。
【0044】
上記の第3の通行者検出装置24は、保護エリアHA側から通行口14に近づく人間を検出できるようにするため、センサ24aが、低背の有害獣を検出できず、人間や自動車を検出できる高さに固定されているが、保護エリアHA側から通行口14に近づく人間と有害獣の両方を検出できるように、センサ24aの高さを、低背の有害獣を検出できる高さに変更してもよい。このように変更すれば、第3の通行者検出装置24によって保護エリアHA内に迷い込んでしまった有害獣が検出され、忌避刺激発射装置26が忌避刺激を発射しなくなるので、有害獣は忌避刺激を受けずに通行口14を通り、有害獣生息エリアYAに戻ることができる。
【0045】
上記の忌避刺激発射装置26は、3つの発射部26a(1)~26a(3)を有し、互いに異なる3種類の忌避刺激(光点滅信号S1、音信号S2、噴射液S3)を発射する構成になっているが、発射部の数や各発射部が発射する忌避刺激の種類は自由に変更することができる。例えば発射部の数を2つに減らし、どちらも音信号S2を発射する構成にしてもよい。また、忌避刺激発射装置26は、有害獣の位置に応じて忌避刺激の強度を3段階に変化させる構成にしているが、何段階に変化させるかは自由に決定することができる。あるいは、忌避刺激の強度は変化させず、非常に強い強度に固定してもよい。
【0046】
電気柵の構造は特に限定されず、電気柵12のように支柱に複数本の裸電線を架設した構造以外に、例えば、金網を張り巡らした構造にしてもよい。また、上記の電気柵12は、
図3(a)に示すように、対向部12aが有する2つの第1端部12b(1)が電気柵12の開放端になっているが、
図4(a)に示すように、片方の第1端部12b(1)と片方の第2端部12b(2)とが電気柵12の開放端になるレイアウトに変更してもよいし、
図4(b)に示すように、2つの第2端部12b(2)が電気柵12の開放端になるレイアウトに変更してもよい。
【0047】
また、電気柵12に対向部分12aを設けているのは、「有害獣が通行口14に近づくほど忌避刺激の強度を強くする」という動作を、第2の通行者検出装置22(センサ22a(1)~22a(3))や忌避刺激発射装置26(発射部26a(1)~26a(3))のようなシンプルな装置で実現することが主目的になるので、対向部分12aの長さは、この目的が達成できる範囲で自由に設定することができる。なお、第2の通行者検出手段及び忌避刺激発射装置を上記と異なる構成にする場合(例えば、第2の通行者検出手段を、カメラの画像データを解析して有害獣の存在及び位置を検出する構成にする場合)は、対向部分12aを設ける必要性が低くなるので、対向部分12aは省略してもよい。
【0048】
上記の有害獣侵入防止システム10は、内外通行道路NDの幅が比較的狭いため、1組のゲート装置16(3つの通行者検出装置及び1つの忌避刺激発射装置)を内外通行道路NDの片側にまとめて設置している。しかし、内外通行道路NDの幅が広い場合は、各センサの検出能力が不足したり忌避刺激発射装置26による威嚇効果が不十分になったりする可能性があるので、内外通行道路NDの両側に1組ずつ設置することが好ましい。この場合、2つの忌避刺激発射装置26が連携して動作できるように、各忌避刺激発射装置26に、全ての通行者検出装置20,22,24の検出状況の情報を互いに共有するための通信手段を設けることが好ましい。太陽光発電装置28は、内外通行道路NDの両側に別々に設置してもよいが、片側に1つだけ設置し、反対側に設置されたゲート装置16には、地中に埋設したケーブルを通して電源を供給する構成にしてもよい。
【0049】
その他、保護エリアは、電気柵で区画することが可能であれば、広さや形状に制限はない。したがって、本発明の有害獣侵入防止システムは、山間の集落だけでなく、様々な場所や地域に設置することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 有害獣侵入防止システム
12 電気柵
12a 対向部分
14 通行口
16 ゲート装置
20 第1の通行者検出装置
22 第2の通行者検出装置
24 第3の通行者検出装置
26 忌避刺激発射装置
28 太陽光発電装置
HA 保護エリア
ND 内外通行道路
S1 光点滅信号(忌避刺激)
S2 音信号(忌避刺激)
S3 噴射液(忌避刺激)
YA 有害獣生息エリア