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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】飲食品の液体原料用消泡剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20220210BHJP
   B01D 19/04 20060101ALI20220210BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20220210BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20220210BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20220210BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20220210BHJP
   A23L 2/02 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
A23L29/00
B01D19/04 B
A23L2/00 A
A23F5/24
A23L2/52
A23L2/52 101
A23L2/38 P
A23L2/02 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020155152
(22)【出願日】2020-09-16
(62)【分割の表示】P 2019082878の分割
【原出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020195409
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 正憲
(72)【発明者】
【氏名】石井 智
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輔
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-129116(JP,A)
【文献】特開昭61-247345(JP,A)
【文献】特開2008-263828(JP,A)
【文献】特開昭60-192568(JP,A)
【文献】特表2021-516543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00
B01D 19/04
A23L 2/00
A23F 5/24
A23L 2/52
A23L 2/38
A23L 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品に添加される香料の成分として用いられるプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2-メチルブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、デカノール、及びドデカノールから選ばれる1または2以上を含有する飲食品の液体原料用消泡剤。
【請求項2】
請求項1に記載の飲食品の液体原料用消泡剤を飲食品の混合工程中に生じた泡に対して添加する消泡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の製造工程中に生じる泡に対して用いる飲食品の液体原料用消泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の製造工程においては様々な食品原料を混合する工程がある。粉末の原料や分散性の悪い原料については、個別で溶解する等してから混合することがしばしば行われる。
【0003】
原料を混合する際、使用する原料や、その組み合わせによっては泡が発生し、送液不良や収率の低下等の作業効率の低下につながることがある。特に界面活性効果を有する原料や空気を抱き込みやすい粉末原料の溶解、粘性を有する原料の溶解等の際には泡立ちが生じやすく、食品製造時の課題となっている。
【0004】
特許文献1には、乳脂肪分を含む原料を単独あるいは複数の脂肪分解酵素で処理して得られる物質を含む食品用消泡剤が開示されている。また、特許文献2には、糖質を多く含むような高粘度、もしくは加熱処理により経時的に増粘を伴う食品製造時の高温煮沸下における発泡に対する消泡剤が開示されている。
【0005】
また、食品の製造時の泡を消泡や抑泡する手段としてはシリコン等の消泡剤やグリセリン脂肪酸エステル・エタノールの利用が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-146751号公報
【文献】特開2017-000915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしシリコン等の消泡剤やグリセリン脂肪酸エステル・エタノールは、国際基準への対応、最終製品への表示・残存等の課題点も多く、昨今使用を自粛せざるを得ない状況も少なくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、前記課題を解決する手段は、以下の通りである。
〔1〕 飲食品に添加される香料の成分として用いられる炭素数3~12のアルコール類(グリセライドを除く。)から選ばれる1または2以上を含有する飲食品の液体原料用消泡剤。
〔2〕 飲食品に添加される香料の成分として用いられる炭素数3~13のエステル類(グリセライドを除く。)、及び香料に用いられる炭素数3~12のアルコール類から選ばれる1または2以上を含有する飲食品の液体原料用消泡剤。
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載の飲食品の液体原料用消泡剤を含有する飲食品。
〔4〕 〔1〕または〔2〕に記載の飲食品の液体原料用消泡剤を飲食品の混合工程中に生じた泡に対して添加する消泡方法。
〔5〕 〔4〕に係る消泡方法を用いることを特徴とする飲食品製造方法。
【0009】
香料に用いられる炭素数3~13のエステル類として好適なものとしては、ぎ酸エチル(Ethyl formate)、酢酸エチル(Ethyl acetate)、酪酸エチル(Ethyl butyrate)、イソ酪酸エチル(Ethyl isobutyrate)、2-メチル酪酸エチル(Ethyl 2-methyl-butyrate)、吉草酸エチル(Ethyl valerate)、イソ吉草酸エチル(Ethyl isovalerate)、2-メチル吉草酸エチル(Ethyl 2-methyl-valerate)、プロピオン酸エチル(Ethyl propionate)、デカン酸エチル(Ethyl decanoate)、安息香酸エチル(Ethyl benzoate)、ぎ酸フェネチル(Phenylethyl formate)、ギ酸シトロネリル(Citronellyl formate)、ジヒドロジャスモン酸メチル(Methyl dihydro jasmonate)が挙げられる。
【0010】
香料に用いられる炭素数3~12のアルコール類として好適なものとしては、プロパノール(Propanol)、ブタノール(Butanol)、イソブタノール(Isobutanol)、1-メチルブタノール(2-Methyl-butanol)、アミルアルコール(Amyl alcohol)、イソアミルアルコール(Isoamyl alcohol)、2-エチルヘキサノール(2-Ethyl hexanol)、デカノール(Decanol)、ドデカノール(Dodecanol)が挙げられる。
【0011】
本発明によって製造できる飲食品の例としては、清涼飲料、果汁入り清涼飲料、乳飲料、表以下、アイスクリーム、及びデザートソースなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品の混合工程中で生じる泡に対して、シリコン等従来の消泡剤を使用せずに消泡を達成する事が可能である。
【0013】
本発明によれば、香料として用いられる成分に飲食品の液体原料用消泡剤としての用途を見出すことができた。これにより、最終製品に残存する消泡剤を、香料として取り扱うことができる。
【実施例
【0014】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0015】
<実施例1>
本発明の消泡剤の効果を、具体的な評価結果と共に説明する。泡を発生させる飲食品の液体原料を構成するものとして、乳蛋白、乳化剤、カラメル、ピーチ果汁を用いた。
【0016】
<評価方法>
乳蛋白(森永乳業株式会社製 トータルミルクプロテイン)、乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社製 リョートーシュガーエステルP-1670)、カラメル(昭和化学工業株式会社製 SビターII)、ピーチ果汁(株式会社果香製 ピーチ4倍混濁果汁)を、それぞれ表1に記載の濃度で水に添加し、乳たんぱく混合液(検体1)、乳化剤混合液(検体2)、カラメル混合液(検体3)、及びピーチ果汁混合液(検体4)を作製した。撹拌機にて6000rpm1分間混合撹拌することで泡を発生させた。具体的には300mlのビーカーに対して検体150gを投入し、撹拌することで泡の上端面が200ml~250mlの目盛りに至るまで泡立たせ、発生させた泡の容量をビーカーの目盛りから計測した。
【0017】
【表1】
【0018】
次に示す香料成分から消泡成分として1つ選択し、実施例1~23とした(表2参照)。選択された消泡成分(濃度100%)からなる液体を、マイクロピペットを用いて泡の容量に対して0.1%の容量となるように取得した。続けて、消泡成分を泡の上方からマイクロピペットを用いて滴下により添加し、泡が消泡される様子を目視にて評価した。評価は、消泡成分の滴下から泡が消泡した状態となるまでの時間を計測して行った。また、評価は飲食品製造における消泡工程に割ける最大許容時間として3分、及びその半分の時間である1分30秒を基準とした3段階とした。評価結果を表2に示す。
・× 効果なし(3分より長い時間経過しても泡が消泡された状態に至らない)
・○ 効果あり(1分31秒~3分以内に消泡された状態となる)
・◎ 高い効果あり(1分30秒以内に消泡された状態となる)
なお、泡が消泡した状態とは、各検体を構成する液状体の液面が露出し、ビーカーの壁面に沿って残存する泡以外には泡が消失した状態をいう。
【0019】
(香料成分)
Ethyl formate、Ethyl acetate、Ethyl butyrate、Ethyl isobutyrate、Ethyl 2-methyl-butyrate、Ethyl valerate、Ethyl isovalerate、Ethyl 2-methyl-valerate、Ethyl propionate、Ethyl decanoate、Ethyl benzoate、Phenylethyl formate、Citronellyl formate、Methyl dihydro jasmonate、Propanol、Butanol、Isobutanol、2-Methyl-butanol、Amyl alcohol、Isoamyl alcohol、2-Ethyl hexanol、Decanol、Dodecanol
【0020】
【表2】
【0021】
表2から、実施例1~23は、表1に示した少なくとも1種の飲食品の液体原料に由来の泡に対して消泡効果を示すことが分かった。これに対し、比較例1に示すように検体1~4に係る飲食品の液体原料に由来の泡を発生させ、本発明に係る消泡剤を添加せずに静置すると、いずれも3分以上泡は消えずに残っていた。
【0022】
また、実施例1~9、及び実施例12~23については複数種の飲食品の液体原料に由来の泡に対して消泡効果を示した。さらに、実施例1,2,7~9,及び14~22については4種全ての飲食品の液体原料に由来の泡に対して消泡効果を示した。さらにまた、実施例2,7~9,及び16~21については、4種全ての食品の液体原料に由来の泡を1分30秒以内に消泡させ、良好な消泡効果を示した。なお、表2に示した実施例1~23の成分を2以上あわせて用いても、表1に示した飲食品の液体原料に由来の泡に対して消泡効果を示した。
【0023】
<実施例2>
本発明に係る飲食品の液体原料用消泡剤を配合した飲食品の例
<コーヒー飲料(乳飲料)>
本発明に係る飲食品の液体原料用消泡剤を配合したコーヒー飲料の処方を以下に示す。
牛乳 6.0重量%
全脂粉乳 0.8重量%
脱脂粉乳 0.5重量%
乳蛋白 0.2重量%
コーヒーエキス 5.2重量%
砂糖 1.6重量%
乳化剤 0.08重量%
炭酸水素Na 0.04重量%
アセスルファムK 0.006重量%
スクラロース 0.003重量%
香料 0.2重量%
水 残量
(製法)
上記処方に記載された原料を用いてコーヒー飲料を作製した。全脂粉乳、脱脂粉乳、乳蛋白、砂糖、乳化剤、炭酸水素Na、アセスルファムK、スクラロースの粉末原料は、別途、水もしくは湯に添加し、6000rpmで1分間の撹拌を行い、溶解後に溶液として添加した。作製中に泡が生じた後、生じた泡の容量に対して香料と同一成分からなる消泡剤(Ethyl acetate及び2-Methyl-butanolを同量混合したもの)を合計で0.1%の容量で滴下すると1分30秒以内に泡が消えた。その後、上記消泡剤を差し引いた残量を香料として滴下し、6000rpmで1分間の撹拌を行う事でコーヒー飲料を作製した。
【0024】
<ピーチ果汁飲料>
果糖ぶどう糖液糖 10.5重量%
砂糖 1.0重量%
ピーチ混濁果汁 3.0重量%
ピーチピューレ 11.0重量%
クエン酸 0.1重量%
香料 0.2重量%
クエン酸Na 0.02重量%
水 残量
(製法)
上記処方に記載された原料を用いてピーチ果汁飲料を作製した。果糖ぶどう糖液糖、砂糖、ピーチ混濁果汁、ピーチピューレを添加し、クエン酸、クエン酸Naは別途、水若しくは湯に添加し、6000rpmで1分間の撹拌を行い、溶解後に溶液として添加した。作製中に泡が生じた後、生じた泡の容量に対して香料と同一成分からなる消泡剤(Ethyl acetate)を0.1%の容量で滴下すると1分30秒以内に泡が消えた。その後、上記消泡剤を差し引いた残量を香料として滴下し、6000rpmで1分間の撹拌を行う事でピーチ果汁飲料を作製した。
【0025】
以上より、本発明の組成物を添加することによる消泡効果は明らかであり、従来の一般的な消泡剤を用いずに消泡効果を発揮できる事がわかった。