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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】車両のパワーユニットのカプセル装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 5/00 20060101AFI20220210BHJP
   B60K 11/08 20060101ALI20220210BHJP
   B60K 13/04 20060101ALI20220210BHJP
   F02B 77/13 20060101ALI20220210BHJP
   F02B 67/00 20060101ALI20220210BHJP
   F01P 5/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B60K5/00 E ZHV
B60K11/08
B60K13/04 Z
F02B77/13 B
F02B77/13 M
F02B77/13 P
F02B77/13 U
F02B67/00 G
F01P5/06 504Z
F01P5/06 511A
F01P5/06 507
F01P5/06 511Z
F02B77/13 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017189313
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064341
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝人
(72)【発明者】
【氏名】角田 隆
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-119384(JP,A)
【文献】特開昭60-248437(JP,A)
【文献】特開2006-207576(JP,A)
【文献】特開平03-005245(JP,A)
【文献】実公昭60-037846(JP,Y2)
【文献】実開昭53-045330(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12,
7/00- 8/00,
11/00-16/00
F02B 67/00,77/13
F01P 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の房室に設けられて混合気をエンジン本体で燃焼させて排気系部材を通じて排気するパワーユニットを有する車両についての、少なくとも前記エンジン本体および前記排気系部材を囲うカプセル構造と、
前記カプセル構造の前部に設けられ、外気を前記カプセル構造の内側へ取り込むために開閉可能な第一開閉機構および第二開閉機構と、
前記第一開閉機構および前記第二開閉機構の開閉を制御する制御部と、
を有し、
前記第一開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記エンジン本体を循環させるオイルを収容するオイルパンまたは前記排気系部材へ直接的に向かう外気を取り込む部位に設けられ、
前記第二開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記オイルパンまたは前記排気系部材との間に他の部材が介在する部位に設けられ
前記制御部は、
前記エンジン本体の音が大きくなる状態では、前記第二開閉機構を開くとともに前記第一開閉機構を閉じた遮音優先状態から、前記第二開閉機構を閉じるとともに前記第一開閉機構を開く冷却優先状態へ切り替える、
車両のパワーユニットのカプセル装置。
【請求項2】
前記カプセル構造の内側において前記第二開閉機構を通気可能に覆う遮音板、
を有する、
請求項1記載の車両のパワーユニットのカプセル装置。
【請求項3】
前記遮音板の表面および前記遮音板に対向する前記カプセル構造の内面の少なくとも一方には、ラビリンス構造が設けられる、または吸音材が設けられる、
請求項2記載の車両のパワーユニットのカプセル装置。
【請求項4】
前記第一開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記エンジン本体を循環させるオイルを収容するオイルパンまたは前記排気系部材の高さ位置に設けられ、
前記第二開閉機構は、前記カプセル構造の前部において、前記第一開閉機構より上側の高さ位置に設けられる、
請求項1からのいずれか一項記載の車両のパワーユニットのカプセル装置。
【請求項5】
前記カプセル構造は、前記車両の中において、少なくとも前記エンジン本体を囲う被覆ケース部材を有し、
前記被覆ケース部材は、前記エンジン本体とともに、前記車両の骨格部材または構造部材に取り付けて支持される、
請求項1からのいずれか一項記載の車両のパワーユニットのカプセル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車といった車両のエンジン本体といったパワーユニットを囲うカプセル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、近年、パワーユニットとしてバッテリおよびモータを使用する電気自動車の開発が進められている。しかしながら、電気自動車の本格的な実用化には今後の開発に委ねられている状況にある。
このため、現在および少なくとも近い未来においては、ハイブリッド自動車を含めて、混合気をエンジン本体で燃焼させる内燃機関の利用がなくなるとは考えにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-119384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、エンジン本体をカプセル構造で覆っている。これにより、エンジン本体の動作音が外へ漏れ出にくくなる。
しかしながら、特許文献1では、車両走行中には、カプセル構造の前面流入口を開放状態に制御している。また、前面流入口は、エンジン本体と同等の高さで開口している。前面流入口の内側には、エンジン本体に循環させるオイルを蓄えるオイルパンが直接的に露出している。
この場合、車両走行中にオイルパンから発生される放射音は、前面流入口を通じて直接的に車両の外へ出力されてしまう。
なお、放射音は、オイルパンだけでなく、排気管、排気管に設けられるターボ機器、マフラ、触媒機器などからも発生することが知られている。
【0005】
このように自動車といった車両では、放射音などの音が外へ漏れ出にくくすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両のパワーユニットのカプセル装置は、車両の房室に設けられて混合気をエンジン本体で燃焼させて排気系部材を通じて排気するパワーユニットを有する車両についての、少なくとも前記エンジン本体および前記排気系部材を囲うカプセル構造と、前記カプセル構造の前部に設けられ、外気を前記カプセル構造の内側へ取り込むために開閉可能な第一開閉機構および第二開閉機構と、前記第一開閉機構および前記第二開閉機構の開閉を制御する制御部と、を有し、前記第一開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記エンジン本体を循環させるオイルを収容するオイルパンまたは前記排気系部材へ直接的に向かう外気を取り込む部位に設けられ、前記第二開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記オイルパンまたは前記排気系部材との間に他の部材が介在する部位に設けられる。
【0007】
好適には、前記カプセル構造の内側において前記第二開閉機構を通気可能に覆う遮音板、を有する、とよい。
【0008】
好適には、前記遮音板の表面および前記遮音板に対向する前記カプセル構造の内面の少なくとも一方には、ラビリンス構造が設けられる、または吸音材が設けられる、とよい。
【0009】
好適には、前記制御部は、前記エンジン本体の音が大きくなる状態では、前記第二開閉機構を開くとともに前記第一開閉機構を閉じた遮音優先状態から、前記第二開閉機構を閉じるとともに前記第一開閉機構を開く冷却優先状態へ切り替える、とよい。
【0010】
好適には、遮音板は、前記カプセル構造に用いる被覆部材と一体的に設けられる、とよい。
【0011】
好適には、前記第一開閉機構は、前記カプセル構造の前部についての、前記エンジン本体を循環させるオイルを収容するオイルパンまたは前記排気系部材の高さ位置に設けられ、前記第二開閉機構は、前記カプセル構造の前部において、前記第一開閉機構より上側の高さ位置に設けられる、とよい。
【0012】
好適には、前記排気系部材は、前記エンジン本体の下面から下向きに突出する前記オイルパンの前側を通るように設けられ、前記第一開閉機構は、前記排気系部材および前記オイルパンの高さ位置に設けられる、とよい。
【0013】
好適には、前記カプセル構造は、前記車両の中において、少なくとも前記エンジン本体を囲う被覆ケース部材を有し、前記被覆ケース部材は、前記エンジン本体とともに、前記車両の骨格部材または構造部材に取り付けて支持される、とよい。
【0014】
好適には、前記カプセル構造、前記第一開閉機構および前記第二開閉機構は、前記車両の骨格部材または構造部材より内側に位置するように設けられる、とよい。
【0015】
好適には、前記カプセル構造は、前記車両において、少なくとも前記エンジン本体を含む、オイルにより潤滑される機器を囲う、とよい。
【0016】
好適には、前記カプセル構造は、前記車両に設けられる前記エンジン本体、エンジン補器、トランスミッション、およびハイブリッド機器の中の、少なくとも前記エンジン本体を囲う、とよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、カプセル構造の前部に設けられて外気を前記カプセル構造の内側へ取り込むために開閉可能な開閉機構として、第一開閉機構と第二開閉機構といった複数の開閉機構が設けられる。そして、第一開閉機構は、カプセル構造の前部についての、エンジン本体を循環させるオイルを収容するオイルパンまたは排気系部材へ直接的に向かう外気を取り込む部位に設けられる。また、第二開閉機構は、カプセル構造の前部についての、オイルパンまたは排気系部材との間に他の部材が介在する部位に設けられる。
よって、第一開閉機構を閉じた状態では、オイルパンや排気系部材から発せられる放射音は、カプセル構造の外へ直接的に出力されなくなる。しかも、オイルパンまたは排気系部材との間に他の部材が介在する部位に設けられた第二開閉機構を開くことにより、カプセル構造へ外気を取り込み、エンジン本体、オイルパン、排気系部材などを冷却することができる。カプセル構造により、放射音を含む動作音が車両の外へ漏れ出にくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係る自動車の説明図である。
図2図2は、図1の自動車に設けられるパワーユニットおよびカプセル装置の説明図である。
図3図3は、図2のカプセル装置の詳細な構成の説明図である。
図4図4は、図2の制御部による開閉制御のフローチャートである。
図5図5は、図2のカプセル装置の変形例の説明図である。
図6図6は、図2のパワーユニットおよびカプセル装置の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の説明図である。
自動車1は、車両の一例である。図1(A)は、模式的な自動車1の側面透視図である。図1(B)は、模式的な自動車1の前面透視図である。
【0021】
図1の自動車1は、車体2を有する。車体2の前部には、前室3が設けられる。前室3には、自動車1の骨格部材としての一対のフロントビーム5が延在する。また、前室3と乗員室4との間には、それらの隔壁(構造部材)としてのトーボード6が設けられる。
前室3には、エンジン本体11、トランスミッション12などのパワーユニットが配置される前室3が設けられる。また、車体2の床下には、前室3から車体2の後側へ向かってプロペラシャフト13が設置される。プロペラシャフト13の後端には、後側の車軸や車輪15と連結されるリアディファレンシャルギアボックス14が設けられる。
エンジン本体11は、エアクリーナ16および吸気管17を通じて吸気される外気とガソリンとの混合気を燃焼室において点火燃焼させ、燃焼した混合気の膨張圧力によりピストンをシリンダ内で降下させ、ピストンに連結された出力軸を回転させる。また、燃焼した混合気は、開いた排気弁および排気管18を通じて外へ排気される。
エンジン本体11で発生させた出力軸の回転駆動力は、トランスミッション12で減速され、プロペラシャフト13、リアディファレンシャルギアボックス14、およびリアアクスルシャフトを通じて後側の車輪15へ伝達される。また、回転駆動力の一部は、トランスミッション12で分岐され、図示外のフロントアクスルシャフトを通じて前側の車輪15へ伝達される。
【0022】
ところで、自動車1では、近年、パワーユニットとしてバッテリおよびモータを使用する電気自動車の開発が進められおり、これと内燃機関とを比較した場合、内燃機関から発生される動作音などが歩行者などにより大きいと感じるようになってきている。
特に、内燃機関では、エンジン本体11の下側に設けられたオイルパン19や、排気管18である排気管18、ターボ機器、マフラ、触媒装置などから放射音が発せられることがある。放射音は、車体2の下側などから、車体2の外へ出力される。
このように自動車1では、放射音などの音が外へ漏れ出にくくすることが求められている。
【0023】
図2は、図1の自動車1に設けられるパワーユニットおよびカプセル装置30の説明図である。
【0024】
図2には、自動車1に設けられるパワーユニットとして、エンジン本体11、オイルパン19、ラジエタ20、エアクリーナ16、吸気管17、排気管18、ターボ機器21、触媒機器22、トランスミッション12、プロペラシャフト13、リアディファレンシャルギアボックス14、が図示されている。
オイルパン19は、エンジン本体11の下部に、エンジン本体11と一体的に形成されている。エンジン本体11およびトランスミッション12は、オイルにより潤滑される機器である。
ラジエタ20、エアクリーナ16、吸気管17、排気管18、ターボ機器21、触媒機器22は、エンジン本体11とともに用いられるエンジン補器である。エンジン補器には、特に図示をしないがこの他にもたとえば、発電機、バッテリ、ディストリビュータ、インジェクタ、燃料タンク、ポンプ、などがある。これらのエンジン補器は、エンジン本体11の作動を助け、エンジン本体11の状態および燃焼状態を燃焼に適した範囲内とするために、エンジン本体11とともに用いられるものである。
【0025】
図2には、さらにエンジン本体11といったパワーユニットを囲うカプセル装置30が図示されている。
図3は、図2のカプセル装置30の詳細な構成の説明図である。
カプセル装置30は、被覆ケース部材31、上開閉機構32、下開閉機構35、遮音板38、制御部39、を有する。
【0026】
被覆ケース部材31は、略箱形状を有し、パワーユニットについてのオイルパン19が一体化されたエンジン本体11およびトランスミッション12を囲う。被覆ケース部材31は、たとえば断熱材で形成される。被覆ケース部材31は、エンジン本体11およびトランスミッション12より一回り大きいサイズの箱型に形成される。被覆ケース部材31から外へ突出するプロペラシャフト13、吸気管17、排気管18の周囲には、被覆ケース部材31の密閉性を確保するために、たとえばゴム材や樹脂材で形成された図示外のブーツが設けられる。
これにより、被覆ケース部材31は、エンジン本体11およびトランスミッション12との間に空気層を確保しつつ、これらの周囲を密閉するように囲う。エンジン本体11に設けられるインジェクタ、オイルパン19も、被覆ケース部材31に囲われる。
また、排気管18の略全体、吸気管17の略全体、ターボ機器21は、被覆ケース部材31に収められる。その一方で、触媒機器22、エアクリーナ16は、被覆ケース部材31の外に設けられる。
なお、発電機、バッテリ、ディストリビュータ、燃料タンク、ポンプなどのエンジン補器は、被覆ケース部材31の内側に設けられても、外側に設けられてもよい。
そして、被覆ケース部材31は、図1に示すように前室3において、エンジン本体11と重ねて、エンジン本体11と同じ位置で、車体2の一対のフロントビーム5の上に取り付けて支持される。被覆ケース部材31は、図1(B)に示すように一対のフロントビーム5から下へ突出することがないように設けられる。車体2の最低地上高は、被覆ケース部材31が無い場合と同じになる。
【0027】
上開閉機構32、および下開閉機構35は、被覆ケース部材31の前面に設けられ、外気を被覆ケース部材31の内側へ取り込むために開閉可能に設けられる。
上開閉機構32は、上開口部33と、上開閉部材34と、を有する。上開口部33は、図3に示すように被覆ケース部材31の前面上部に形成される。上開閉部材34は、被覆ケース部材31に取り付けて一体的に設けられる。上開閉部材34は、被覆ケース部材31に対して下へスライド移動可能に設けられる。そして、上開閉機構32は、車体2の前面のフロントグリル28と同じ高さ位置の範囲に設けられる。
下開閉機構35は、下開口部36と、下開閉部材37と、を有する。下開口部36は、図3に示すように被覆ケース部材31の前面下部において、上開口部33の下側に形成される。下開閉部材37は、被覆ケース部材31に取り付けて一体的に設けられる。下開閉部材37は、被覆ケース部材31に対して上へスライド移動可能に設けられる。そして、下開閉機構35は、車体2の前面のバンパに形成されたバンパ開口部29と同じ高さ位置の範囲に設けられる。
下開閉機構35の後ろ側には、下開閉機構35と同じ高さ位置に、排気管18と、オイルパン19とが前後に並べて設けられる。下開口部36から被覆ケース部材31の内部へ流入した外気は、他の部材により遮られたりすることなく直接的に、排気管18およびオイルパン19へ吹き付けられ得る。
そして、このように上開閉部材34および下開閉部材37を被覆ケース部材31の前面において上下方向へスライド移動可能に取り付けることにより、上開閉機構32および下開閉機構35は、被覆ケース部材31より下側へ突出しないようになる。図1に示すように、被覆ケース部材31は、車体2の一対のフロントビーム5から下へ突出しないように内側に収めて設けられる。
【0028】
遮音板38は、被覆ケース部材31の前面の後側において、被覆ケース部材31の前面から離間した位置に上下方向に延在して設けられる。遮音板38は、被覆ケース部材31と同様に断熱材により形成されてよい。
遮音板38は、被覆ケース部材31に取り付けられて、被覆ケース部材31と一体的に設けられている。
被覆ケース部材31の上面から下へ延在する遮音板38は、被覆ケース部材31の内側において、上開口部33を通気可能に覆う。ただし、下開口部36は覆わないように設けられている。
このように、上開閉機構32の上開口部33と、排気管18およびオイルパン19との間には、遮音板38が介在している。また、上開口部33と、排気管18およびオイルパン19との間には、エンジン本体11も介在している。
【0029】
そして、図3(A)のように上開閉機構32および下開閉機構35が閉じている場合、被覆ケース部材31は密閉される。動作するエンジン本体11などの熱により、エンジン本体11やオイルパン19は効率よく暖められる。
図3(B)のように上開閉機構32が開いて下開閉機構35が閉じている場合、被覆ケース部材31には、上開口部33から外気が流入する。流入した外気は、被覆ケース部材31の前面と遮音板38との間を通り、エンジン本体11、排気管18、オイルパン19などへ供給される。これにより、エンジン本体11、排気管18、オイルパン19などを冷却できる。
図3(C)のように上開閉機構32が閉じて下開閉機構35が開いている場合、被覆ケース部材31には、下開口部36から外気が流入する。流入した外気は、直接的に排気管18、オイルパン19などへ供給される。これにより、エンジン本体11、排気管18、オイルパン19などを冷却できる。
【0030】
制御部39には、上開閉部材34、下開閉部材37が接続される。制御部39は、自動車1の状態に応じて、上開閉部材34および下開閉部材37の開閉を制御する。
制御部39は、たとえばマイクロコンピュータにより実現できる。専用回路として被覆ケース部材31に取り付けて設けられても、自動車1を制御するECU(Engine Control Unit)の機能として設けられてもよい。
【0031】
図4は、図2の制御部39による開閉制御のフローチャートである。
制御部39は、図4の開閉制御を繰り返し実行する。
【0032】
図4の開閉制御において、制御部39は、まず、エンジン本体11が動作しているか否かを確認する(ステップST1)。制御部39は、ECUによるエンジン本体11の制御情報を取得し、エンジンが動作しているか否かを確認する。
そして、エンジン本体11が動作していない場合、すなわち停止している場合、制御部39は、上開閉機構32および下開閉機構35を閉じる(ステップST7、ST8)。これにより、図3(A)のように被覆ケース部材31は密閉される。被覆ケース部材31の内部は断熱構造により保温される。
【0033】
エンジン本体11が動作している場合、制御部39は、エンジン本体11の動作状態または負荷状態を判断する。ここでは、登坂状態またはトーイング状態であるか否かを判断する(ステップST2)。登坂状態またはトーイング状態は、エンジン本体11の負荷が増加した状態である。このため、エンジン本体11から発せられる動作音は、大きくなる。
【0034】
登坂状態またはトーイング状態でない通常の状態である場合、制御部39は、上開閉機構32を開き(ステップST3)、下開閉機構35を閉じる(ステップST4)。これにより、図3(B)のように被覆ケース部材31には、上開口部33から外気が流入する。エンジン本体11の動作音や、排気管18、オイルパン19などの放射音は、上開口部33から外へ出力され難くなる。
【0035】
登坂状態またはトーイング状態である場合、制御部39は、上開閉機構32を閉じ(ステップST5)、下開閉機構35を開く(ステップST6)。これにより、図3(C)のように被覆ケース部材31には、下開口部36から外気が流入する。排気管18、オイルパン19などの放射音は外へ出力されたとしても、エンジン本体11から発せられる動作音により目立たなくなる。
【0036】
以上のように、本実施形態では、被覆ケース部材31の前部に設けられて外気を被覆ケース部材31の内側へ取り込むために開閉可能な開閉機構として、下開閉機構35と上開閉機構32といった複数の開閉機構が設けられる。そして、下開閉機構35は、被覆ケース部材31の前部についての、エンジン本体11を循環させるオイルを収容するオイルパン19または排気管18へ直接的に向かう外気を取り込む部位(位置および範囲)に設けられる。また、上開閉機構32は、被覆ケース部材31の前部についての、オイルパン19または排気管18との間に他の部材が介在する部位(位置および範囲)に設けられる。
よって、下開閉機構35を閉じた状態では、オイルパン19や排気管18から発せられる放射音は、被覆ケース部材31の外へ直接的に出力されなくなる。しかも、オイルパン19または排気管18との間に他の部材が介在する部位に設けられた上開閉機構32を開くことにより、被覆ケース部材31へ外気を取り込み、エンジン本体11、オイルパン19、排気管18などを冷却することができる。被覆ケース部材31により、放射音を含む動作音が自動車1の外へ漏れ出にくくなる。
【0037】
本実施形態では、上開閉機構32は、被覆ケース部材31の内側において、遮音板38により通気可能に覆われる。よって、上開閉機構32からの音漏れをさらに低減できる。
【0038】
本実施形態では、エンジン本体11の音が大きくなる状態では、上開閉機構32を開くとともに下開閉機構35を閉じた遮音優先状態から、上開閉機構32を閉じるとともに下開閉機構35を開く冷却優先状態へ切り替える。これにより、たとえば登坂、トーイングなどのようにエンジン本体11の音が大きくなる状態では、高負荷状態が過熱されるエンジン本体11、オイルパン19、排気管18を効果的に冷却できる。上開閉機構32については遮音性能を優先した構造としつつ、エンジン本体11、オイルパン19、排気管18などが十分に冷却され得ない状態になってしまうことを抑制することができる。
【0039】
本実施形態では、遮音板38は、被覆ケース部材31に取り付けられて被覆ケース部材31と一体的に設けられる。これにより、遮音板38を、被覆ケース部材31と別に、自動車1の骨格部材または構造部材に取り付けて支持させる必要がない。カプセル装置30の被覆ケース部材31の支持構造を簡略化できる。
【0040】
本実施形態では、下開閉機構35は、被覆ケース部材31の前部についての、エンジン本体11を循環させるオイルを収容するオイルパン19または排気管18の高さ位置に設けられる。よって、下開閉機構35から被覆ケース部材31の内側へ流入した外気は、被覆ケース部材31内の他の部材で暖められないままダイレクトにオイルパン19または排気管18を冷却することができる。
【0041】
本実施形態では、排気管18は、エンジン本体11の下面から下向きに突出するオイルパン19の前側を通るように設けられる。よつて、下開閉機構35から被覆ケース部材31の内側へ流入した外気は、排気管18およびオイルパン19をともに効果的に冷却することができる。
【0042】
本実施形態では、被覆ケース部材31は、自動車1の前室3の中において、少なくともエンジン本体11を囲う被覆ケース部材31により構成される。そして、被覆ケース部材31は、エンジン本体11と重ねて、エンジン本体11と同じ位置で、自動車1の骨格部材または構造部材に取り付けて支持される。よって、自動車1の骨格部材または構造部材に対して、被覆ケース部材31を、エンジン本体11などのパワーユニットと別に取り付ける必要はない。被覆ケース部材31を、たとえば自動車1の骨格部材または構造部材に対して独自に取り付けられるエンジンカバーやアンダーカバーなどの被覆部材で構成する場合と比べて、自動車1の側において大規模の対策や変更を必要としない。また、被覆ケース部材31そのものを小さくすることができるので、被覆ケース部材31そのものも安価に製造し得る。
また、被覆ケース部材31、下開閉機構35および上開閉機構32は、自動車1の骨格部材または構造部材より内側に収まるように設けられる。これにより、自動車1の車体2の最低地上高などのスペックに大きな影響を与えることなく、自動車1に被覆ケース部材31を設けることができる。
【0043】
上記実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0044】
図5は、図2のカプセル装置30の変形例の説明図である。
図5(A)の変形例では、遮音板38の前表面と、被覆ケース部材31の内面とには、互い違いに複数の突起部41が突出して形成される。互い違いの複数の突起部41により、ラビリンス構造が形成される。これにより、遮音板38の前表面と被覆ケース部材31の内面との間を通過する音の一部は減衰され得る。
図5(B)の変形例では、遮音板38の表面には、吸音材42が設けられる。これにより、遮音板38の前表面と被覆ケース部材31の内面との間を通過する音により遮音板38が振動し難くなる。通過音の一部は減衰され得る。
なお、吸音材42は、被覆ケース部材31の内面に設けてもよい。
そして、このようなラビリンス構造または吸音材42により、遮音板38と被覆ケース部材31の内面との間を通過し難い音の帯域を形成することができる。たとえば、オイルパン19や排気管18の形状によって決まる放射音の主成分を含む周波数帯を減衰するラビリンス構造とすることにより、効果的に音漏れを抑制できる。
【0045】
たとえば上記実施形態では自動車1は、エンジン本体11による内燃機関のみをパワーユニットを有する。
この他にも自動車1には、内燃機関とともにモータ駆動による電気駆動装置を有するハイブリッド自動車や、電気駆動装置のみを有する電気自動車がある。
図6は、図2のパワーユニットおよびカプセル装置30の変形例の説明図である。
図6には、トランスミッション12に電気モータ51が取り付けられている。電気モータ51には、図示外のコンバータを通じて複数の電池セルが接続される。電気モータ51を駆動することにより、トランスミッション12を通じで駆動力をプロペラシャフト13に伝達させることができる。
このようなパワーユニットの構成である場合、カプセル装置30の被覆ケース部材31は、エンジン本体11、エンジン補器、トランスミッション12とともに、ハイブリッド機器としての電気モータ51やコンバータを囲うように設けられてよい。この場合、電気モータ51やコンバータを、摩擦抵抗などが運転に適した状態になるように暖めることが可能である。また、被覆ケース部材31の内を二室に分けて、一方にエンジン本体11などを収め、他方にハイブリッド機器を収めるようにしてもよい。この場合、部屋ごとに個別の温度に保温させることも可能になる。
【0046】
上記実施形態では、被覆ケース部材31の前面には、上開閉機構32と下開閉機構35とが上下方向に並べて設けられる。
この他にもたとえば、被覆ケース部材31の前面には、右開閉機構と左開閉機構とが左右方向に並べて設けられてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…自動車(車両)、2…車体、3…前室、4…乗員室、5…フロントビーム、6…トーボード、11…エンジン本体、12…トランスミッション、13…プロペラシャフト、14…リアディファレンシャルギアボックス、15…車輪、16…エアクリーナ、17…吸気管、18…排気管、19…オイルパン、20…ラジエタ、21…ターボ機器、22…触媒機器、28…フロントグリル、29…バンパ開口部、30…カプセル装置、31…被覆ケース部材、32…上開閉機構、33…上開口部、34…上開閉部材、35…下開閉機構、36…下開口部、37…下開閉部材、38…遮音板、39…制御部、41…突起部(ラビリンス構造)、42…吸音材、51…電気モータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6