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  • 特許-燃料電池セルおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】燃料電池セルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/028 20160101AFI20220210BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20220210BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220210BHJP
【FI】
H01M8/028
H01M8/0284
H01M8/10 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017251211
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117730
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】北 晋次
(72)【発明者】
【氏名】古市 信治
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】林 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山下 祐介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
【審査官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183198(JP,A)
【文献】特開2017-110258(JP,A)
【文献】特開2017-071163(JP,A)
【文献】特開2001-319669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/028
H01M 8/0284
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、セパレータと、該電解質膜および該セパレータの両方に接着され該電解質膜の周縁部を封止するゴムガスケットと、を備える燃料電池セルであって、
該ゴムガスケットと該セパレータとの間には、第一接着層が配置され、
該ゴムガスケットと該電解質膜との間には、該ゴムガスケット側から順にシランカップリング剤層と、該第一接着層よりも弾性率が小さい第二接着層と、が配置され
該第二接着層は常温硬化型の接着剤からなることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記第一接着層は、熱可塑性樹脂系接着剤からなる請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第二接着層は、シリコーン樹脂系接着剤からなる請求項1または請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記ゴムガスケットは、活性エネルギー線の照射によりゴム組成物が架橋した架橋物である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
電解質膜と、セパレータと、該電解質膜および該セパレータの両方に接着され該電解質膜の周縁部を封止するゴムガスケットと、を備える燃料電池セルの製造方法であって、
該ゴムガスケットと該セパレータとを第一接着剤により接着するセパレータ接着工程と、
該ゴムガスケットと該電解質膜とを、シランカップリング剤を該ゴムガスケット側に配置して、該シランカップリング剤、および該第一接着剤よりも弾性率が小さい第二接着剤により、50℃以下で接着する電解質膜接着工程と、
を有することを特徴とする燃料電池セルの製造方法。
【請求項6】
前記電解質膜接着工程においては、前記ゴムガスケットと前記電解質膜とを加熱しないで接着する請求項5に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項7】
前記電解質膜接着工程においては、前記ゴムガスケットに前記シランカップリング剤を塗布し、該シランカップリング剤の表面に前記第二接着剤を塗布した後、前記電解質膜を重ねて接着する請求項5または請求項6に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項8】
前記セパレータ接着工程および前記電解質膜接着工程の前に、活性エネルギー線を照射することにより未架橋ゴム部材を架橋して前記ゴムガスケットを製造するゴムガスケット製造工程を有する請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜およびセパレータに接着されるゴムガスケットを備える燃料電池セル、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多数のセルが積層されたスタック構造を呈している。セルは、電解質膜や電極を有する電極部材、それを挟持するセパレータ、および電極部材の周囲や隣り合うセパレータ間を封止するためのゴムガスケットを備えている。
【0003】
電極部材を封止するゴムガスケットは、電解質膜およびセパレータの両方に接着されている。接着方法としては、ゴムガスケット形成用のゴム組成物を相手部材に接触させた状態で加熱して、架橋するのと同時に接着する方法(熱架橋接着法)や、熱架橋して製造されたゴムガスケットと相手部材とを、接着剤で後接着する方法などが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-65042号公報
【文献】国際公開第2013/147020号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱架橋接着法においては、原料のゴムに硫黄や有機過酸化物などの架橋剤を配合してゴム組成物を調製し、それを架橋剤が反応する温度まで加熱して架橋させる。セパレータの多くは金属製であるため、架橋接着の際にセパレータが高温に曝されても影響は少ない。しかし、電解質膜は高分子膜であるため、架橋接着の際に電解質膜が高温に曝されると、熱ダメージを受けやすく劣化するおそれがある。
【0006】
また、電解質膜は、ガス圧の変動や外部からの振動などにより動いたり伸びたりする。このため、上記特許文献2に記載されているように、ゴムガスケットと電解質膜とを接着剤で接着する場合には、電解質膜に接する接着層に、電解質膜の動きや変形に追従できる程度の柔軟性が要求される。一方、セパレータに接する接着層には、それと同程度の柔軟性は要求されない。
【0007】
このように、燃料電池セルにおいては、接着対象部材に応じて、最適な接着方法や接着剤を選択することが望ましい。しかしながら、現状では、電解質膜に対してもセパレータに対しても同じ接着剤を使用しており、接着対象部材によって接着剤を使い分けてはいない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、接着対象部材に応じた接着剤を用いることにより、電解質膜およびセパレータのいずれに対してもゴムガスケットの接着性が良好な燃料電池セル、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明の燃料電池セルは、電解質膜と、セパレータと、該電解質膜および該セパレータの両方に接着され該電解質膜の周縁部を封止するゴムガスケットと、を備える燃料電池セルであって、該ゴムガスケットと該セパレータとの間には、第一接着層が配置され、該ゴムガスケットと該電解質膜との間には、該ゴムガスケット側から順にシランカップリング剤層と、該第一接着層とは異なる第二接着層と、が配置されることを特徴とする。
【0010】
(2)上記課題を解決するため、本発明の燃料電池セルの製造方法は、電解質膜と、セパレータと、該電解質膜および該セパレータの両方に接着され該電解質膜の周縁部を封止するゴムガスケットと、を備える燃料電池セルの製造方法であって、該ゴムガスケットと該セパレータとを第一接着剤により接着するセパレータ接着工程と、該ゴムガスケットと該電解質膜とを、シランカップリング剤を該ゴムガスケット側に配置して、該シランカップリング剤、および該第一接着層とは異なる第二接着剤により接着する電解質膜接着工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明の燃料電池セルにおいては、ゴムガスケットとセパレータとの間、ゴムガスケットと電解質膜との間に、各々異なる接着層が配置される。すなわち、セパレータと電解質膜とは、異なる接着剤によりゴムガスケットに接着されている。これにより、セパレータおよび電解質膜(以下、まとめて「相手部材」という場合がある)の特性や、各々に要求される特性を考慮して、相手部材に応じて最適な接着剤を選択することができ、従来のように同じ接着剤を用いることによる問題を解消することができる。例えば、電解質膜に対してのみ、反応温度が低い接着剤を用いることにより、熱ダメージによる電解質膜の劣化を抑制することができる。また、電解質膜に対してのみ、柔軟な接着剤を用いることにより、電解質膜に対する追従性を向上させることができる。
【0012】
本発明の燃料電池セルにおいては、ゴムガスケットと電解質膜との間に、シランカップリング剤層と第二接着層とが配置される。すなわち、ゴムガスケットと電解質膜とは、二種類の接着剤を用いて接着される。ゴムガスケット側にシランカップリング剤層を配置することにより、ゴムガスケットと第二接着層との接着強度が高まり、ゴムガスケットと電解質膜との接着性を向上させることができる。よって、シランカップリング剤層、第二接着層のいずれか一方では充分な接着力を得られなくても、二層を積層することにより、所望の接着性を確保することができる。例えば、接着剤の中には、150℃程度の高温に加熱しないと化学反応が進行しにくく充分な接着力が発揮されないものがある。しかし、シランカップリング剤層および第二接着層の二層を積層することにより、高温下で処理しなくても、所望の接着性を確保することが可能になる。この態様は、電解質膜が高温に曝されずに済むため、電解質膜の劣化を抑制するのに有効である。
【0013】
(2)本発明の燃料電池セルの製造方法においては、セパレータと電解質膜とを、異なる接着剤によりゴムガスケットに接着する。これにより、セパレータおよび電解質膜の特性や、各々に要求される特性を考慮して、相手部材に応じて最適な接着剤を選択することができ、従来のように同じ接着剤を用いることによる問題を解消することができる。例えば、電解質膜に対してのみ、反応温度が低い接着剤を用いることにより、熱ダメージによる電解質膜の劣化を抑制することができる。また、電解質膜に対してのみ、柔軟な接着剤を用いることにより、電解質膜に対する追従性を向上させることができる。
【0014】
本発明の燃料電池セルの製造方法においては、ゴムガスケットと電解質膜とを、シランカップリング剤および第二接着剤の二種類の接着剤を用いて接着する。ゴムガスケット側にシランカップリング剤を配置することにより、ゴムガスケットと第二接着剤との接着強度が高まり、ゴムガスケットと電解質膜との接着性を向上させることができる。よって、シランカップリング剤、第二接着剤のいずれか一方では充分な接着力を得られない場合でも、これらの両方を用いることにより、所望の接着性を確保することができる。上述したように、150℃程度の高温に加熱しないと充分な接着力が発揮されない接着剤を用いた場合でも、シランカップリング剤および第二接着剤を併用することにより、高温下で処理しなくても、所望の接着性を確保することが可能になる。この場合、電解質膜が高温に曝されずに済むため、電解質膜の劣化を抑制するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の燃料電池セルの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<燃料電池セル>
本発明の燃料電池セルにおいては、ゴムガスケットとセパレータとの間には、第一接着層が配置され、ゴムガスケットと電解質膜との間には、ゴムガスケット側から順にシランカップリング剤層と、第一接着層とは異なる第二接着層と、が配置される。
【0017】
[ゴムガスケット]
ゴムガスケットは、電解質膜およびセパレータの両方に接着され電解質膜の周縁部を封止する。ゴムガスケットは、ゴムまたは熱可塑性エラストマー(ゴム成分)を含むゴム組成物から製造される。このうち、ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。ゴム組成物は、ゴム成分の他に、架橋剤、架橋促進剤、加工助剤、軟化剤、補強材などを含んでいてもよい。
【0018】
ゴム組成物に架橋剤や架橋促進剤が配合されていると、反応時に分解し、その分解物がゴムガスケットの表面にブリードアウトする。また、架橋時に使用した金型に塗布された離型剤や、金型に堆積されている汚染物が、ゴムガスケットに転写する場合もある。このため、架橋後のゴムガスケットを接着剤を用いて相手部材に接着する従来の方法においては、接着前にゴムガスケットの表面を洗浄し、接着性に悪影響を及ぼす成分を除去していた。また、熱架橋する際には金型やオーブンなどが用いられ、前者では金型からの伝熱で、後者では空気などの雰囲気からの伝熱で、ゴム組成物に熱が加えられる。生産効率の向上を図るためには、架橋時間の短縮が有効であるが、熱架橋においては熱伝熱経路の熱伝導率に依存するため容易ではない。また、ゴム組成物に配合されている架橋剤などが分解することで、架橋時に独特の臭気が発生するという問題もあった。
【0019】
したがって、熱架橋における種々の問題を解消するためには、ゴムガスケットは、活性エネルギー線の照射によりゴム組成物が架橋した架橋物であることが望ましい。活性エネルギー線を用いる場合、ゴム組成物に架橋剤などを配合する必要はなく、ゴム組成物を加熱する必要もない。したがって、接着前にゴムガスケットを洗浄する工程を省略することができ、架橋時に臭気が発生するという問題も解消される。また、活性エネルギー線を用いると、架橋時間が短くて済み、寸法変化が少ないという利点がある。
【0020】
[セパレータ]
セパレータの材質、形状などは特に限定されない。一例として、ステンレス鋼、チタンなどの金属製で、矩形薄板状のセパレータが挙げられる。
【0021】
[電解質膜]
電解質膜としては、全フッ素系スルホン酸膜、全フッ素系ホスホン酸膜、全フッ素系カルボン酸膜、炭化水素系膜などの高分子膜が挙げられる。電解質膜は、矩形薄膜状を呈しており、その両面に各々配置されるアノード触媒層およびカソード触媒層と共に、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を構成する。アノード触媒層およびカソード触媒層は、例えば、白金を担持したカーボン粒子を含む。
【0022】
[第一接着層]
第一接着層は、ゴムガスケットとセパレータとの間に配置される。第一接着層は、第一接着剤が硬化して形成された層である。第一接着剤は、ゴムガスケットとセパレータとを接着できれば、特に限定されない。例えば、ポリオレフィン系接着剤、塩素ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、塩化ビニル系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、ポリエステル系接着剤、フェノール系接着剤、シリコーン系接着剤などが挙げられる。なかでも、加熱により溶融し、接着対象部材との密着性を高めることができるという観点から、第一接着剤として、熱可塑性樹脂系接着剤を用いることが望ましい。接着性をより向上させるためには、酸変性された熱可塑性樹脂系接着剤を用いることが望ましい。以上より、第一接着層は、熱可塑性樹脂系接着剤からなる態様、さらには酸変性された熱可塑性樹脂系接着剤からなる態様が好適である。
【0023】
[第二接着層]
第二接着層は、ゴムガスケットと電解質膜との間の電解質膜側に配置される。第二接着層は、第一接着剤とは異なる第二接着剤が硬化して形成された層である。第二接着剤は、電解質膜の材質に応じて適宜選択すればよく、イオン成分や金属成分が含まれていないものが望ましい。
【0024】
上述したように、電解質膜は、ガス圧の変動や外部からの振動などにより動いたり伸びたりする。よって、第二接着層は、電解質膜の動きや変形に追従できるように柔軟であることが望ましい。このような観点から、第二接着層の弾性率は、第一接着層の弾性率よりも小さいことが望ましい。例えば、第二接着層の弾性率は、100MPa以下であると好適である。50MPa以下、さらには10MPa以下であるとより好適である。比較的弾性率が小さい第二接着剤としては、シリコーン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤などが挙げられる。接着性をより向上させるためには、変性シリコーン樹脂系接着剤を用いることが望ましい。以上より、第二接着層は、シリコーン樹脂系接着剤またはアクリル樹脂系接着剤からなる態様、さらには変性シリコーン樹脂系接着剤からなる態様が好適である。また、第二接着剤が、比較的低温で硬化する接着剤であれば、熱ダメージによる電解質の劣化を抑制することができる。さらに、常温硬化型の接着剤であれば、接着時に加熱しなくて済むため、熱ダメージにより電解質膜が劣化するおそれはない。
【0025】
[シランカップリング剤層]
シランカップリング剤層は、ゴムガスケットと電解質膜との間のゴムガスケット側に配置される。シランカップリング剤層は、ゴムガスケットに対する接着力を向上させる役割を果たす。
【0026】
[燃料電池セルの構成例]
図1に、本発明の燃料電池セルの一実施形態の断面図を示す。図1に示すように、燃料電池セル1は、電極部材20と、セパレータ30a、30bと、ゴムガスケット40a、40bと、第一接着層50と、シランカップリング剤層51と、第二接着層52と、を備えている。
【0027】
電極部材20は、MEA21と、ガス拡散層22a、22bと、を有している。MEA21は、電解質膜23を有している。電解質膜23は、全フッ素系スルホン酸膜であり、矩形薄膜状を呈している。電解質膜23の上下両面には触媒層が配置されている。触媒層は、白金を担持したカーボン粒子を含んでいる。ガス拡散層22a、22bは、いずれも焼結発泡金属製であり、矩形薄板状を呈している。ガス拡散層22aは、MEA21の上面に積層され、ガス拡散層22bは、MEA21の下面に積層されている。
【0028】
セパレータ30a、30bは、いずれもチタン製であり、矩形薄板状を呈している。セパレータ30aは、ガス拡散層22aの上面に積層されている。セパレータ30bは、ガス拡散層22bの下面に積層されている。
【0029】
ゴムガスケット40a、40bは、いずれもEPDMをゴム成分とするゴム組成物を電子線架橋した架橋物からなり、矩形枠状を呈している。第一接着層50は、ゴムガスケット40aとセパレータ30aとの間に配置されている。第一接着層50は、酸変性された熱可塑性樹脂系接着剤からなる。ゴムガスケット40aは、第一接着層50を介してセパレータ30aに接着されている。同様に、第一接着層50は、ゴムガスケット40bとセパレータ30bとの間に配置されている。ゴムガスケット40bは、第一接着層50を介してセパレータ30bに接着されている。
【0030】
シランカップリング剤層51および第二接着層52は、ゴムガスケット40aと電解質膜23との間に配置されている。シランカップリング剤層51は、ゴムガスケット40a側に配置されている。第二接着層52は、電解質膜23側に配置されている。第二接着層52は、変性シリコーン樹脂系接着剤からなる。ゴムガスケット40aは、シランカップリング剤層51および第二接着層52を介して電解質膜23に接着されている。同様に、シランカップリング剤層51および第二接着層52は、ゴムガスケット40bと電解質膜23との間に配置されている。シランカップリング剤層51は、ゴムガスケット40b側に配置されている。第二接着層52は、電解質膜23側に配置されている。ゴムガスケット40bは、シランカップリング剤層51および第二接着層52を介して電解質膜23に接着されている。このようにして、ゴムガスケット40a、40bは、電極部材20を外部から遮断して封止している。
【0031】
なお、本発明の燃料電池セルの構成は、本形態に限定されない。本形態においては、ゴムガスケットが上下に分割された二部材で構成されているが、ゴムガスケットは単一の部材でも構わない。また、本発明の燃料電池セルは、他の構成部材を有してもよい。例えば、ガス拡散層の積層方向両側に、多孔質材料からなるガス流路層を配置してもよい。
【0032】
<燃料電池セルの製造方法>
本発明の燃料電池セルの製造方法は、セパレータ接着工程と、電解質膜接着工程と、を有する。ここで、セパレータ接着工程と電解質膜接着工程とは、順不同であり、どちらを先に行っても、両工程を同時に行ってもよい。以下、各工程を説明する。
【0033】
[セパレータ接着工程]
本工程は、ゴムガスケットとセパレータとを第一接着剤により接着する工程である。ゴムガスケット、セパレータ、第一接着剤については、本発明の燃料電池セルの実施形態において述べたとおりである。第一接着剤は、ゴムガスケットおよびセパレータの少なくとも一方の接着面に配置すればよい。第一接着剤が液状の場合には、スプレー、ディスペンサーなどで塗布すればよい。第一接着剤がフィルム状などの固体の場合には、そのまま配置すればよい。ゴムガスケットとセパレータとの間に第一接着剤を介在させた状態で、所定の温度下および必要に応じて加圧して、接着させればよい。
【0034】
例えば、枠状のゴムガスケットにおけるセパレータとの接着面に第一接着剤を配置し、その上にセパレータを重ねた後、120~200℃程度の温度下で数秒~数十秒間加圧して接着することができる。この場合、第一接着剤を予熱して軟化させておくと、ゴムガスケットとのなじみが良くなり接着性の向上につながると共に、接着に要する時間を短縮することができる。
【0035】
[電解質膜接着工程]
本工程は、ゴムガスケットと電解質膜とを、シランカップリング剤をゴムガスケット側に配置して、シランカップリング剤、および第一接着剤とは異なる第二接着剤により接着する工程である。ゴムガスケット、電解質膜、シランカップリング剤、および第二接着剤については、本発明の燃料電池セルの実施形態において述べたとおりである。電解質膜と接する第二接着層を柔軟にするという観点から、第二接着剤の弾性率は、第一接着剤の弾性率よりも小さいことが望ましい。
【0036】
シランカップリング剤は、ゴムガスケットにおける電解質膜との接着面に、スプレー、ディスペンサーなどで塗布すればよい。第二接着剤は、シランカップリング剤に重ねて配置しても、電解質膜側に配置してもよい。第二接着剤が液状の場合には、スプレー、ディスペンサーなどで塗布すればよい。第二接着剤がフィルム状などの固体の場合には、そのまま配置すればよい。
【0037】
ゴムガスケットと電解質膜との間に、シランカップリング剤および第二接着剤をこの順で介在させた状態で、所定の温度下および必要に応じて加圧して、接着させればよい。電解質膜の熱ダメージを回避して劣化を抑制するという観点から、本工程の接着を50℃以下で行うことが望ましい。例えば、枠状のゴムガスケットにおける電解質膜との接着面にシランカップリング剤を塗布し、その上に第二接着剤を塗布した後、電解質膜を重ねて、室温下で数秒~数十秒間保持して接着するとよい。
【0038】
ゴムガスケットと電解質膜との接着を低温下で行うという点に着目すると、セパレータの接着に用いる接着剤との異同を問わず、燃料電池セルの製造方法を、ゴムガスケットと電解質膜との間に、該ゴムガスケット側からシランカップリング剤およびこれとは別の接着剤をこの順で配置して、該ゴムガスケットと該電解質膜とを50℃以下で接着する工程を有するように構成することができる。
【0039】
[ゴムガスケット製造工程]
上述したように、ゴムガスケットを熱架橋により製造する場合に生じる種々の問題を解消するためには、ゴムガスケットを、活性エネルギー線の照射により製造することが望ましい。例えば、本発明の燃料電池セルの製造方法を、セパレータ接着工程および電解質膜接着工程の前に、活性エネルギー線を照射することにより未架橋ゴム部材を架橋してゴムガスケットを製造するゴムガスケット製造工程を有するように構成することができる。
【0040】
未架橋ゴム部材は、ゴム組成物を成形した部材である。活性エネルギー線を用いる場合、ゴム組成物に架橋剤などを配合する必要はなく、ゴム組成物を加熱する必要もない。したがって、接着前にゴムガスケットを洗浄する工程を省略することができ、架橋時に臭気が発生するという問題も解消される。また、活性エネルギー線を用いると、架橋時間が短くて済み、寸法変化が少ないという利点がある。活性エネルギー線としては、電子線、紫外線などが挙げられる。
【実施例
【0041】
燃料電池セルの電解質膜、セパレータ、ゴムガスケットに用いられる材料でテストピースを製造し、部材間の接着性を評価した。
【0042】
<セパレータが接着されたテストピースの製造>
本発明の燃料電池セルの製造方法におけるセパレータ接着工程に従ってテストピースを製造した。まず、EPDM100質量部、カーボンブラック50質量部、パラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」)20質量部からなるゴム組成物を押出成形して、シート状の未架橋ゴム部材(厚さ1mm)を製造した。次に、未架橋ゴム部材に電子線を照射して(吸収線量200kGy)、架橋ゴムシートを製造した。続いて、架橋ゴムシートの一面に接着剤A(無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂フィルム(三井化学(株)製「アドマー(登録商標)NF518」、厚さ0.05mm)を載置した。それから、チタン製の薄板(厚さ0.1mm)を接着剤Aの上に重ねて、積層体を製造した。製造した積層体を、温度180℃に保持された一対の金属板で挟持して、面圧1MPaで加圧しながら10秒間保持した。その後、室温下で一日放置した。このようにして、架橋ゴムシートとチタン製の薄板とが接着されたテストピースを製造した。テストピースにおける接着面の大きさは、幅5mm、長さ40mmである。本実施例において、チタン製の薄板はセパレータに相当する。よって、以下においては、便宜上、チタン製の薄板をセパレータと称す。接着剤Aは第一接着剤の概念に含まれる。表1に、テストピースの構成を示す。
【表1】
【0043】
<電解質膜が接着されたテストピースの製造>
[実施例1]
本発明の燃料電池セルの製造方法における電解質膜接着工程に従ってテストピースを製造した。まず、セパレータが接着されたテストピースを製造した時に用いた架橋ゴムシートを準備した。次に、架橋ゴムシートの一面にシランカップリング剤を塗布し、さらにその上にシランカップリング剤以外の接着剤を塗布して乾燥させた。続いて、電解質膜(全フッ素系スルホン酸膜、デュポン社製「Nafion」(登録商標)、厚さ20μm)を接着剤の上に重ねて、積層体を製造した。製造した積層体を、温度25℃に保持された一対の金属板で挟持して、面圧1MPaで加圧しながら10秒間保持した。その後、室温下で一日放置した。このようにして、架橋ゴムシートと電解質膜とが接着されたテストピースを製造した。テストピースにおける接着面の大きさは、幅10mm、長さ40mmである。本実施例で使用した後述の接着剤Bは、第二接着剤の概念に含まれる。
【0044】
[比較例1]
接着剤を全く使用しないで積層体を製造した点以外は、実施例1と同様にしてテストピースを製造した。
【0045】
[比較例2、3]
シランカップリング剤および接着剤のうちいずれか一方のみを使用して積層体を製造した点以外は、実施例1と同様にしてテストピースを製造した。
【0046】
[比較例4、5]
シランカップリング剤および接着剤のうちいずれか一方のみを使用して積層体を製造した点、および金属板の温度(接着温度)を150℃に変更した点以外は、実施例1と同様にしてテストピースを製造した。
【0047】
表2に、テストピースの構成を示す。使用したシランカップリング剤および接着剤は以下の通りである。
シランカップリング剤a:ロードファーイースト社製「ケムロック(登録商標)607」。
接着剤B:変性シリコーン樹脂系接着剤(セメダイン(株)製「スーパーX No.8008」)。
【表2】
【0048】
<弾性率の測定方法>
接着剤A、Bの弾性率を、動的粘弾性測定装置((株)ユービーエム製「Rheogel-E4000F」)を用いて測定した。測定には、幅5mm、長さ30mmの平板状の試験片を用いた。測定は、試験片を上下のホルダーで挟み、下側のホルダーを周波数5Hzにて上下に振動させて行った。振幅は0.005mm、チャック間距離は20mmとした。表1および表2に、弾性率の測定結果をまとめて示す。
【0049】
<接着性の評価方法>
各テストピースについて、JIS K 6256-2:2013に規定される90°剥離試験を行い、架橋ゴムシートに対するセパレータまたは電解質膜の接着性を評価した。
【0050】
セパレータの接着性は、90°剥離試験により得られた剥離強さが0.3N/mm以上の場合を接着性良好(先の表1中、〇印で示す)とした。電解質膜の接着性は、90°剥離試験により得られた剥離強さの値から、次式(I)により算出した接着力指数を基準にして評価した。接着力指数が100以上、かつ電解質膜の劣化が見られない場合を接着性良好(先の表2中、〇印で示す)、接着力指数が100未満、または電解質膜の劣化が見られる場合を接着性不良(同表中、×印で示す)とした。表1、表2に、接着性の評価結果をまとめて示す。
接着力指数=(各テストピースの剥離強さ/比較例4のテストピースの剥離強さ)×100 ・・・(I)
<総合評価の方法>
電解質膜が接着されたテストピースについて、接着性の評価が良好、かつ使用した接着剤(第二接着層)の弾性率が接着剤A(セパレータを接着した接着剤、第一接着層)の弾性率よりも小さい場合を非常に適する(先の表2中、◎印で示す)、接着性の評価が不良である場合を適さない(同表中、×印で示す)、と総合的に評価した。表2に、総合評価をまとめて示す。
【0051】
<評価結果>
表1に示すように、セパレータの接着性は良好であった。また、表2に示すように、シランカップリング剤とそれ以外の接着剤とを併用した実施例1のテストピースにおいては、電解質膜の接着性は良好であった。一方、接着剤を用いないか、シランカップリング剤およびそれ以外の接着剤のうちの一方しか用いなかった比較例1~5のテストピースにおいては、電解質膜の接着性は不良であった。接着力の基準とした比較例4のテストピースにおいては、接着温度を150℃と高温にしたため、シランカップリング剤のみでも所望の剥離強さを得ることができた。しかし、接着温度が高温であったため、電解質膜に劣化が見られた。このため、接着性は不良となった。また、比較例5のテストピースにおいては、接着温度を高温にしても剥離強さが小さく、さらには電解質膜に劣化も見られた。
【0052】
実施例1のテストピースにおいては、接着剤B(第二接着層)の弾性率が、セパレータを接着した接着剤A(第一接着層)の弾性率よりも小さい。このため、電解質膜と接する第二接着層が柔軟であり、電解質膜の動きや変形に対する追従性に優れる。したがって、実施例1のテストピースの総合評価は、使用した接着剤が電解質膜の接着に非常に適するという結果になった。
【符号の説明】
【0053】
1:燃料電池セル、20:電極部材、22a、22b:ガス拡散層、23:電解質膜、30a、30b:セパレータ、40a、40b:ゴムガスケット、50:第一接着層、51:シランカップリング剤層、52:第二接着層。
図1