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特許7022593セラミックス焼成体の製造方法、及びセラミックス成形体の焼成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】セラミックス焼成体の製造方法、及びセラミックス成形体の焼成方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20220210BHJP
   C04B 38/00 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018004368
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019123634
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北口 ダニエル 勇吉
(72)【発明者】
【氏名】得永 健
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-203273(JP,A)
【文献】特表2016-513615(JP,A)
【文献】特開2013-142527(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037356(WO,A1)
【文献】特表2001-524451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/64
C04B 38/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼成体の製造方法であって、
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記焼成炉の雰囲気温度が300℃以下において行われる、セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項2】
セラミックス焼成体の製造方法であって、
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含み、
前記焼成炉内において前記セラミックス成形体を加熱する工程は、180℃以上の温度範囲において目標温度まで第1昇温速度で昇温する第1昇温工程と、前記焼成炉内の温度が前記目標温度に到達した後、前記第1昇温速度よりも大きい第2昇温速度で昇温する第2昇温工程を含み、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記第1昇温工程で行われる、セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項3】
前記目標温度は、300℃以下の温度である、請求項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成炉の雰囲気温度が前記目標温度に到達するに同期して、前記焼成炉の雰囲気が、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えられる、請求項2又は3に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項5】
前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることに基づいて行われる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、少なくとも第1酸素濃度の第1ガスと、前記第1酸素濃度よりも低い第2酸素濃度の第2ガスの間で前記焼成炉に供給するガスを変えることを含む、請求項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、第1酸素濃度の第1ガスと、前記第1酸素濃度よりも低い第2酸素濃度の第2ガスを交互に前記焼成炉に供給するサイクルを繰り返すことを含む、請求項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項8】
前記第1酸素濃度は、21VOL%以下である、請求項又はに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項9】
前記第1酸素濃度は、15VOL%以上である、請求項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項10】
前記第2酸素濃度は、5VOL%以下である、請求項乃至のいずれか一項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項11】
1サイクルにおける前記第1ガスの供給時間が、1サイクルにおける前記第2ガスの供給時間よりも短い、請求項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項12】
セラミックス焼成体の製造方法であって、
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることに基づいて、前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含み、
前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、第1酸素濃度の第1ガスと、前記第1酸素濃度よりも低い第2酸素濃度の第2ガスを交互に前記焼成炉に供給するサイクルを繰り返すことを含み、
前記第1ガスの前記第1酸素濃度と1サイクルにおける前記第1ガスの供給時間の掛け算から算出される第1供給量をEとし、
前記第2ガスの前記第2酸素濃度と1サイクルにおける前記第2ガスの供給時間の掛け算から算出される第2供給量をFとし、
1サイクルの時間をRとし、
1サイクルにおける酸素の平均供給量が((E+F)/R)により表される時、
3<((E+F)/R)<13
を満足する、セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項13】
前記セラミックス成形体は、開口セルを規定する隔壁から構築されたハニカム構造を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項14】
セラミックス成形体の焼成方法であって、
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記焼成炉の雰囲気温度が300℃以下において行われる、セラミックス成形体の焼成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス焼成体の製造方法、及びセラミックス成形体の焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、バーナーから排気される低酸素濃度の排ガスを予熱帯に打ち込むことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/128172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックス成形体を低酸素雰囲気で焼成する場合、セラミックス焼成体内の有機バインダー由来の炭素分が緩慢に燃焼するため、セラミックス成形体に切れが生じることが抑制できる。しかしながら、セラミックス成形体内に残留した炭素量が増加してしまい、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えた後の加熱工程において残留した炭素が急激に燃焼してしまい、セラミックス成形体に切れが生じてしまうおそれがある。このように、セラミックス焼成体に切れが生成されることに帰結しないように、セラミックス成形体内の有機バインダー由来の炭素分を除去することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るセラミックス焼成体の製造方法は、焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含む。
【0006】
幾つかの場合、前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることに基づいて行われる。
【0007】
幾つかの場合、前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、少なくとも第1酸素濃度の第1ガスと、前記第1酸素濃度よりも低い第2酸素濃度の第2ガスの間で前記焼成炉に供給するガスを変えることを含む。
【0008】
幾つかの場合、前記焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、第1酸素濃度の第1ガスと、前記第1酸素濃度よりも低い第2酸素濃度の第2ガスを交互に前記焼成炉に供給するサイクルを繰り返すことを含む。
【0009】
幾つかの場合、前記第1酸素濃度は、21VOL%以下である。
【0010】
幾つかの場合、前記第1酸素濃度は、15VOL%以上である。
【0011】
幾つかの場合、前記第2酸素濃度は、5VOL%以下である。
【0012】
幾つかの場合、1サイクルにおける前記第1ガスの供給時間が、1サイクルにおける前記第2ガスの供給時間よりも短い。
【0013】
幾つかの場合、前記第1ガスの前記第1酸素濃度と1サイクルにおける前記第1ガスの供給時間の掛け算から算出される第1供給量をEとし、
前記第2ガスの前記第2酸素濃度と1サイクルにおける前記第2ガスの供給時間の掛け算から算出される第2供給量をFとし、
1サイクルの時間をRとし、
1サイクルにおける酸素の平均供給量が((E+F)/R)により表される時、
3<((E+F)/R)<13
を満足する。
【0014】
幾つかの場合、前記焼成炉内において前記セラミックス成形体を加熱する工程は、180℃以上の温度範囲において目標温度まで第1昇温速度で昇温する第1昇温工程と、前記焼成炉内の温度が前記目標温度に到達した後、前記第1昇温速度よりも大きい第2昇温速度で昇温する第2昇温工程を含む。
【0015】
幾つかの場合、前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記第1昇温工程で行われる。
【0016】
幾つかの場合、前記目標温度は、300℃以下の温度である。
【0017】
幾つかの場合、前記焼成炉の雰囲気温度が前記目標温度に到達するに同期して、前記焼成炉の雰囲気が、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えられる。
【0018】
幾つかの場合、前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、前記焼成炉の雰囲気温度が300℃以下において行われる。
【0019】
幾つかの場合、前記セラミックス成形体は、開口セルを規定する隔壁から構築されたハニカム構造を有する。
【0020】
本開示の一態様に係るセラミックス成形体の焼成方法は、
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、
前記セラミックス成形体の加熱中に前記焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含む。
【0021】
本開示の一態様に係る焼成炉は、コントローラーによる制御により焼成炉内の酸素濃度が振幅するように制御可能である。焼成炉は、トンネルキルンやローラーハースキルン等の連続式焼成炉、又は脱バインダー(以下、「脱バイ」と呼ぶ)から焼成までを同一の空間で実施可能なシャトルキルン等のバッチ式焼成炉であり得る。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一態様によれば、セラミックス焼成体に切れが生成されることに帰結しないように、セラミックス成形体内の有機バインダー由来の炭素分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の非限定の一態様に係る焼成工程において、低酸素雰囲気で行われる脱バイ工程において炉内酸素濃度が振幅するように制御される工程の有無により加熱工程で生じる温度ピークの大きさに差が生じることを示す模式的なグラフである。加熱工程における温度ピークは、脱バイ工程において燃焼されずにセラミックス成形体に残存した炭素の燃焼に由来するものと考えられる。
図2】本開示の一態様に係る脱バイ工程において焼成炉へ供給されるガスの酸素濃度の変化及び炉内の酸素濃度の変化を示す模式的なグラフである。
図3】本開示の一態様に係る焼成炉の概略図である。
図4】本開示の別態様に係る焼成炉の概略図である。
図5】本開示の一態様に係るセラミックス成形体の概略的な斜視図であり、破線円内の隔壁の格子構造を拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1乃至図5を参照しつつ、本発明の非限定の実施形態について説明する。開示の1以上の実施形態及び実施形態に包含される各特徴は、個々に独立したものではない。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができる。また、当業者は、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている場合がある。
【0025】
以下に記述において、あるセラミックス焼成体の製造方法及び/又はセラミックス成形体の焼成方法に関して記述される複数の特徴が、これらの特徴の組み合わせとして理解される他、他の特徴とは独立した個別の特徴として理解される。個別の特徴は、他の特徴との組み合わせを必須とすることなく独立した個別の特徴として理解されるが、1以上の他の個別の特徴との組み合わせとしても理解される。個別の特徴の全組み合わせを記述することは当業者には冗長である他なく、省略される。個別の特徴は、「幾つかの場合」という表現により明示される。個別の特徴は、例えば、図面に開示された製造方法及び/又は焼成方法にのみ有効であるものではなく、他の様々な製造方法及び/又は焼成方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0026】
図1は、本開示の非限定の一態様に係る焼成工程において、低酸素雰囲気で行われる脱バイ工程において炉内酸素濃度が振幅するように制御される工程の有無により加熱工程で生じる温度ピークの大きさに差が生じることを示す模式的なグラフである。加熱工程における温度ピークは、脱バイ工程において燃焼されずにセラミックス成形体に残存した炭素の燃焼に由来するものと考えられる。図2は、脱バイ工程において焼成炉へ供給されるガスの酸素濃度の変化及び炉内の酸素濃度の変化を示す模式的なグラフである。図3は、焼成炉の概略図である。図4は、別の態様に係る焼成炉の概略図である。図5は、セラミックス成形体の概略的な斜視図であり、破線円内の隔壁の格子構造を拡大して示す。
【0027】
セラミックス成形体の焼成のために焼成炉が用いられる。焼成炉は、トンネルキルンやローラーハースキルン等の連続式焼成炉、又は脱バイから焼成までを同一の空間で実施可能なシャトルキルン等のバッチ式焼成炉であり得るが、これ以外の種類の焼成炉も包含する。焼成炉において、300℃以下の雰囲気温度(炉内温度)でセラミックス成形体の脱バイが行われ、続いて、300℃を超える雰囲気温度域で(脱バイ済みの)セラミックス成形体の加熱及び/又は焼結が行われる。本開示における焼成工程は、300℃以下の雰囲気温度でセラミックス成形体を加熱する脱バイ工程も包含する。なお、脱バイ工程は、セラミックス成形体に包含される有機バインダーを加熱により除去する工程であり、脱バインダー工程とも呼ばれる。
【0028】
焼成対象物のセラミックス成形体は、焼成によりコージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)になる原料を含む坏土の成形体であり得る。セラミックス成形体は、脱バイ工程により消失するべき有機バインダーを含む。セラミックス成形体は、更に、オプションとして、水といった分散媒を含む。焼成によりコージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)になる原料は、コージェライト化原料と呼ばれる。コージェライト化原料は、シリカが40~60質量%、アルミナが15~45質量%、マグネシアが5~30質量%の範囲に入る化学組成を有する。コージェライト化原料は、タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカの群から選ばれた複数の無機原料の混合物であり得る。有機バインダーは、寒天、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコールから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含み得る。セラミックス成形体がコージェライト化原料を含む時、焼成温度は、1380~1450℃に設定され、又は、1400~1440℃に設定され得る。また、焼成時間は、3~10時間であり得る。
【0029】
セラミックス成形体は、追加として、造孔材を含み得る。造孔材は、焼成工程により消失する任意の材料であり、例えば、コークスといった無機物質、発泡樹脂といった高分子化合物、澱粉といった有機物質、又はこれらの任意の組み合わせを含む。分散媒は、水の追加又は代替として、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール、又はこれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0030】
焼成対象物のセラミックス成形体は、これらの材料が混練され、押出機により押出成形されたものであり得る。コージェライト化原料、有機バインダー、及び分散媒等の混練のため、ニーダー、真空土練機等が用いられ得る。押出機により押し出されたセラミックス成形体は、軟質の粘土質であり、簡単に変形してしまう。幾つかの場合、押出機から押し出されたセラミックス成形体が乾燥機に投入され、乾燥機内での加熱によりセラミックス成形体内の大半の水分が除去される。焼成炉において加熱されるセラミックス成形体は、従って、乾燥工程前よりも低減された水分量を有し得る。なお、セラミックス成形体の成形のため、押出以外の公知の成形技術が用いられ得る。
【0031】
図5に例示のセラミックス成形体90は、開口セル93を規定する隔壁91,92から構築されたハニカム構造を有する。このハニカム構造は、押出機の口金に応じて形成されたものであり得る。隔壁91,92により規定される開口セル93の開口形状は、3角形以上の多角形であり得る。ハニカム又はハニカム構造とは、6角形の開口セル93が隔壁により規定される格子構造に限定されず、これ以外の他の様々な格子構造を指し示す。開口セル93は、図5の例では正方形であり、第1方向に延びる第1隔壁91と第1方向に直交する第2方向に延びる第2隔壁92により開口セル93の正方形の開口形状が規定される。セラミックス成形体90の外周壁94は、円筒状部分であり、隔壁91,92よりも大きい厚みを有し得る。
【0032】
焼成炉内にセラミックス成形体を供給する態様は様々であろう。1以上のセラミックス成形体90が台車5に搭載され、台車5が焼成炉内を通過し、この過程でセラミックス成形体90が焼成され得る(図3及び図4参照)。台車5上にセラミックス成形体90が多層に積載されることも想定される(図3及び図4参照)。焼成炉は、少なくとも脱バイ帯Z1、焼成帯Z2、及び冷却帯Z3に区分される内部空間を有する焼成炉6であり得る(図3及び図4参照)。後述の記述から分かるように、幾つかの場合、コントローラーによる制御により脱バイ帯の酸素濃度(従って、セラミックス成形体の温度)が振幅するように制御される。
【0033】
本開示のセラミックス焼成体の製造方法は、焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程と、セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程を含む。セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程により、セラミックス成形体の温度が振幅する。酸素濃度の振幅は、セラミックス成形体の温度の振幅で読み替えることができる。すなわち、セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内のセラミックス成形体の温度が振幅するように酸素濃度を制御する工程で読み替えることができる。
【0034】
振幅は、一定又は異なる周期を有し、及び/又は、一定又は異なる振幅の大きさ(幅)を有し得る。酸素濃度の振幅は、一定又は変化する第1酸素濃度と、一定又は変化する第2酸素濃度の間で酸素濃度が変化することを意味する。第1酸素濃度と第2酸素濃度は、異なる酸素濃度である。セラミックス成形体の温度の振幅は、一定又は変化する第1温度と、一定又は変化する第2温度の間でセラミックス成形体の温度が変化することを意味する。第1温度と第2温度は、異なる温度である。なお、酸素濃度は、VOL%である。
【0035】
セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程により、セラミックス成形体に含まれる有機バインダー由来の炭素分の燃焼が促進される第1状態と、第1状態と比較して有機バインダー由来の炭素分の燃焼が促進されない第2状態が交互に繰り返され、より短時間でより十分な脱バイが行われる。有機バインダー由来の炭素分とは、有機バインダーの化学式に含まれる炭素を意味する。例えば、有機バインダーが、ポリビニルアルコールである時、有機バインダー由来の炭素分は、ポリビニルアルコールの炭素主鎖及び/又は側鎖に含まれる炭素を意味する。図1から分かるように、脱バイ工程において酸素濃度の振幅制御を行うことにより加熱工程における温度ピークを抑制することができる。しかしながら、酸素濃度の振幅制御は、脱バイ工程のみで行われることに限定されず、加熱工程といった他の工程でも活用可能である。
【0036】
図1は、図5に示したハニカム構造を有するセラミックス成形体90の内部中心部に温度センサーを配置し、脱バイ及び加熱工程におけるセラミックス成形体90の内部温度変化を観察したものである。図1の一点鎖線は、セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度の振幅に追随してセラミックス成形体の温度が振幅することを示す。図1の二点鎖線は、セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程が行われない結果、焼成炉内のセラミックス成形体の温度に振幅が生じないことを示す。
【0037】
焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることに基づいて行われ得る。例えば、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)と酸素を別々の供給パイプを通じて焼成炉に供給する場合、酸素の単位時間当たりの供給量を変更することにより、焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることができる。不活性ガスと酸素の混合気体を単一の供給パイプを通じて焼成炉に供給する場合、混合気体の酸素濃度を変えることにより、焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることができる。焼成炉へのガスの供給量は、焼成炉の雰囲気、端的には酸素濃度を制御することに十分な量である。
【0038】
焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えることは、必ずしもこの限りではないが、第1酸素濃度CHの第1ガスと第2酸素濃度CLの第2ガスを交互に焼成炉に供給するサイクルを繰り返すことを含み、第2酸素濃度が第1酸素濃度よりも低い。例えば、図2に示すように、第1酸素濃度CHの第1ガスと第2酸素濃度CLの第2ガスを交互に焼成炉に供給する。第1酸素濃度CHの第1ガスが供給される時、有機バインダー由来の炭素分の燃焼が促進される第1状態になる。第2酸素濃度CLの第2ガスが供給される時、有機バインダー由来の炭素分の燃焼が促進されない第2状態になる。焼成炉がある程度の内部空間を有し、従って、第1ガスと第2ガスの間の切り替えタイミングよりも遅延して焼成炉内の酸素濃度が変化することが予想される。図2の場合、焼成炉内の酸素濃度の振幅波形は、一定間隔で現れる複数の三角波を含む。酸素濃度の振幅は、一定又は変化する第1酸素濃度CHと、一定又は変化する第2酸素濃度の間で酸素濃度が変化することを意味する。焼成炉内の酸素濃度の振幅波形は、供給ガスの酸素濃度の変化量及び変化速度に依存して大きく変化する。図2においては、第1酸素濃度CHと第2酸素濃度CLの2値の間で供給ガスの酸素濃度が振幅するが、3値以上の間で供給ガスの酸素濃度が振幅することも想定される。
【0039】
幾つかの有望な実施形態では、第1酸素濃度CHは、21VOL%以下であり、及び/又は、15VOL%以上であり得る。但し、第1酸素濃度CHが21VOL%を超える場合も想定され、及び/又は、15VOL%未満の場合も想定される。第2酸素濃度CLは、5VOL%以下であり得る。第2酸素濃度CLが、5VOL%を超える場合も想定される。
【0040】
必ずしもこの限りではないが、幾つかの場合、1サイクルにおける第1ガスの供給時間が、1サイクルにおける第2ガスの供給時間よりも短い。図2に示すように、第1ガスと第2ガスの供給サイクルC1において、第1ガスの供給時間R1が第2ガスの供給時間R2よりも短い。これにより、セラミックス成形体内の炭素が過度に燃焼してしまうことが効果的に抑制される。追加的又は代替的に、脱バイ工程が低酸素雰囲気で行われることが促進される。
【0041】
幾つかの場合、第1ガスの供給時間R1が、15分以下、又は12分以下である。第1ガスの第1酸素濃度CHにも依存するが、第1ガスの供給時間R1が長い時、低酸素雰囲気が維持できず、セラミックス焼成体内の炭素が短時間に過度に燃焼し、セラミックス成形体に切れが生じてしまい得る。
【0042】
幾つかの場合、第2ガスの供給時間R2が、10分以上であり、30分以内である。第2ガスの第2酸素濃度CLにも依存するが、第2ガスの供給時間R2が長い時、セラミックス焼成体内の炭素が十分に燃焼されず、加熱工程における温度ピークの抑制を図ることが困難になるおそれがある。第2ガスの供給時間R2が短すぎると、低酸素雰囲気を維持できないおそれがある。
【0043】
焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を変えること、及び、第1酸素濃度CHの第1ガスと第2酸素濃度CLの第2ガスを交互に焼成炉に供給するサイクルは、様々な方法により達成可能である。バーナー装置(図3参照)を用いて焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を制御可能である。切替弁(図4参照)を用いて焼成炉に供給されるガスの酸素濃度を制御可能である。バーナー装置や切替弁が、コントローラーにより制御され得る。コントローラーが第1信号(例えば、H信号)を出力する時、第2酸素濃度CLの第2ガスが焼成炉に供給され、コントローラーが第2信号(例えば、L信号)を出力する時、第1酸素濃度CHの第1ガスが焼成炉に供給される。コントローラーは、切替弁の状態を切り替え、第1ガス供給源と第2ガス供給源の間で供給ガスを切り替えることができる。
【0044】
図3に示すガス供給源は、大気そのもの、或いは大気をパイプに取り入れる送風機であり得る。図4に示す第1ガス供給源は、大気そのもの、或いは大気をパイプに取り入れる送風機であり得る。図4に示す第2ガス供給源は、大気中の酸素濃度よりも酸素濃度が低いガスを蓄積したボンベであり得る。なお、大気中の空気であり、標高や季節により変動し得るが、およそ20.95VOL%の酸素を含む。
【0045】
焼成炉内においてセラミックス成形体を加熱する工程は、180℃以上の温度範囲において目標温度まで第1昇温速度で昇温する第1昇温工程と、焼成炉内の温度が目標温度に到達した後、第1昇温速度よりも大きい第2昇温速度で昇温する第2昇温工程を含み得る。目標温度は、300℃以下の任意の温度であり得る。図1の場合、目標温度が260℃である。この目標温度260℃に到達する前の第1昇温工程において、目標温度260℃に向けて第1昇温速度で焼成炉の温度(T1)が昇温される。目標温度260℃に到達した後の第2昇温工程において、第1昇温速度よりも大きい第2昇温速度で焼成炉内の温度(T1)が昇温される。第1昇温工程は、脱バイ工程と呼ばれ、第2昇温工程が、加熱工程と呼ばれ得る。第1昇温速度は、1℃/分~50℃/分であり得る。第2昇温速度は、40℃/分~150℃/分であり得る。第1昇温工程においてセラミックス成形体内の有機バインダー由来の炭素分と焼成炉内の酸素の酸化反応が生じる。
【0046】
セラミックス成形体の加熱中に焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度を制御する工程は、必ずしもこの限りではないが、第1昇温工程で行われ、及び/又は、焼成炉の雰囲気温度が300℃以下において行われる。これにより第2昇温工程において生じ得るセラミックス成形体の温度のピークの程度を小さくし、又は、ピークの最高温度を低くすることができる。図1の一点鎖線の加熱工程における温度ピークP1の最高温度は、図1の二点鎖線の加熱工程における温度ピークP2の最高温度よりも低い。セラミックス成形体の焼成過程でセラミックス成形体に切れが生じ、或いは、焼成後にセラミックス焼成体に切れが生じてしまうことが回避又は抑制される。
【0047】
幾つかの場合、焼成炉の雰囲気温度が目標温度に到達するに同期して、焼成炉の雰囲気が、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えられる。焼成炉の雰囲気温度が目標温度に到達すると同時に、焼成炉の雰囲気が、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えられる。代替として、焼成炉の雰囲気温度が目標温度に到達する直前又は直後、焼成炉の雰囲気が、低酸素雰囲気から大気雰囲気に変えられる。低酸素雰囲気は、大気中の酸素濃度よりも酸素濃度が低い雰囲気として理解される。低酸素雰囲気において焼成炉内の酸素濃度が振幅するように酸素濃度が制御される場合、平均の酸素濃度が、大気中の酸素濃度よりも低くなる。幾つかの場合、大気中の酸素濃度が21VOL%であるものと見なされ、低酸素雰囲気における酸素濃度又はその平均値が21VOL%である。図1の場合、雰囲気温度T1が目標温度260℃に到達する直前に焼成炉の雰囲気が低酸素雰囲気から大気雰囲気に置換される。従って、一点鎖線及び二点鎖線の各場合にて、セラミックス成形体の内部温度が上昇している。これは、セラミックス成形体内の炭素が燃焼していることの現れである。
【0048】
実施例
実施例1~7では、焼成されるセラミックス成形体は、図5に示したハニカム構造を有するセラミックス成形体であり、直径、高さ、隔壁厚、1平方インチ当たりのセルの数(cpsi(cells per square inches))が、それぞれ、330mm、152mm、4mil、400cpsiである。セラミックス成形体に含まれるセラミックス材料は、コージェライト化原料である。セラミックス成形体は、有機バインダーのメチルセルロースと、水を更に含む。表1に記載の条件にて図1と同様の加熱条件で焼成を行った。なお、第1ガスの酸素濃度は、大気中の酸素濃度に等しく、ここではその変動を無視し、21VOL%と仮定している。脱バイ工程と加熱工程に続いて、通常の条件に従い、焼成工程と冷却工程も行った。
【0049】
1サイクルにおける酸素の平均供給量は、第1ガスの第1酸素濃度と1サイクルにおける第1ガスの供給時間の掛け算から算出される第1供給量をEとし、第2ガスの第2酸素濃度と1サイクルにおける第2ガスの供給時間の掛け算から算出される第2供給量をFとし、1サイクルの時間をRとする時、((E+F)/R)により表される。例えば、実施例1では、第1供給量について、E=21×2=42であり、第2供給量について、F=1×15=15である。1サイクルにおける酸素の平均供給量は、(42+15)/17=3.4である(小数点以下2桁を四捨五入)。計算に際して、酸素濃度がVOL%で表され、ガス供給時間が同一の時間単位、例えば、秒、分、時間により表されるものとする。表1から分かるように、幾つかの場合、3<((E+F)/R)<13が満足される。焼成炉へのガスの供給量は、焼成炉の雰囲気、端的には酸素濃度を制御することに十分な量である。
【表1】
【0050】
実施例1~7の評価結果を表2に示す。脱バイ工程での温度振幅に関して、Aは、図1に見られるように振幅が明瞭に見られたことを示し、Bは、Aと比較して明瞭性が劣ることを示す。加熱工程での温度ピークに関して、Aは、温度ピークが抑制され、又は温度ピーク最高温度が低下したことを示す。Bは、Aと比較して温度ピークの抑制の程度が劣ることを意味する。実施例1~7においては、セラミックス焼成体において切れが発生しなかった。また、実施例1~7において、脱バイ工程の時間を従来よりも短縮しても同一の結果が得られた。なお、図1の二点鎖線は、脱バイ工程で酸素の振幅制御をしない比較例であり、焼成中、セラミックス成形体に切れが生じた。
【表2】
【0051】
上述の教示を踏まえると、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。振幅は、正弦波、鋸波、矩形波、三角波又はこれらの任意の組み合わせ、或いは、これらと直線、斜線、又は弧状線の任意の組み合わせを含み得る。
【符号の説明】
【0052】
5 :台車
6 :焼成炉
90 :セラミックス成形体
93 :開口セル
94 :外周壁
C1 :供給サイクル
H :第1酸素濃度
L :第2酸素濃度
P1 :温度ピーク
P2 :温度ピーク
R1 :供給時間
R2 :供給時間
T1 :雰囲気温度
Z1 :脱バイ帯
Z2 :焼成帯
Z3 :冷却帯
図1
図2
図3
図4
図5