(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 49/10 20060101AFI20220210BHJP
F16H 25/04 20060101ALI20220210BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20220210BHJP
H02K 49/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
H02K49/10 B
F16H25/04
F16H25/12 D
H02K49/02 B
(21)【出願番号】P 2018024453
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
(72)【発明者】
【氏名】松田 宏
(72)【発明者】
【氏名】守屋 太久磨
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108920(JP,A)
【文献】特開2003-314604(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093983(WO,A1)
【文献】特開2001-020597(JP,A)
【文献】特開平09-317315(JP,A)
【文献】特開平05-252800(JP,A)
【文献】特開2012-132492(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105993120(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/10
F16H 25/04
F16H 25/12
H02K 49/02
E06B 9/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に回転可能に収容される第1回転体と、
前記ハウジング内に、前記第1回転体と連れ回り可能に収容される第2回転体と、
前記第1回転体及び前記第2回転体の回転軸方向に対向して配置される導電性部材及び磁石であって、前記導電性部材及び前記磁石の一方は前記第2回転体と一体的に回転可能に設けられ、それらの他方は前記ハウジングに設けられる導電性部材及び磁石と、
前記第2回転体の回転速度が大きくなるほど、前記第2回転体の回転に対して大きな抵抗力を発生する回転抵抗手段と、
前記第2回転体の回転に対する抵抗力が大きくなるほど、前記導電性部材と前記磁石の対向方向での間隔が小さくなるように、前記第2回転体を移動させる移動機構と、
を備え
、
前記回転抵抗手段は、前記第2回転体の径方向に対向して配置される第2導電性部材及び第2磁石を備え、
前記導電性部材及び前記第2磁石の一方は前記回転体の周側面に設けられ、それらの他方は前記ハウジングの内壁面に設けられることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
ハウジングと、
前記ハウジング内に回転可能に収容される第1回転体と、
前記ハウジング内に、前記第1回転体と連れ回り可能に収容される第2回転体と、
前記第1回転体及び前記第2回転体の回転軸方向に対向して配置される導電性部材及び磁石であって、前記導電性部材及び前記磁石の一方は前記第2回転体と一体的に回転可能に設けられ、それらの他方は前記ハウジングに設けられる導電性部材及び磁石と、
前記第2回転体の回転速度が大きくなるほど、前記第2回転体の回転に対して大きな抵抗力を発生する回転抵抗手段と、
前記第2回転体の回転に対する抵抗力が大きくなるほど、前記導電性部材と前記磁石の対向方向での間隔が小さくなるように、前記第2回転体を移動させる移動機構と、
を備え、
前記移動機構は、
前記第1回転体に設けられる第1カム部と、
前記第2回転体に設けられ、前記第1カム部と係合する第2カム部と、
前記導電性部材と前記磁石とが離間する方向に前記第2回転体を付勢する付勢部材と、
を備えることを特徴とす
る制動装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記回転抵抗手段により付与される抵抗力が大きくなるほど、前記第1カム部が前記第2カム部を押圧する力が増大し、前記付勢部材による付勢力に抗して前記第2回転体が移動するよう構成されることを特徴とする請求項
2に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電性部材に生じる渦電流を利用して相対回転する固定体及び回転体に制動力を付与可能な制動装置が知られている。この種の制動装置では、通常、導電性部材に渦電流を生じさせるため、回転体の回転に連動して周方向での相対位置が変化するように導電性部材及び永久磁石が設けられる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1の制動装置に関して検討したところ、次の課題があるとの認識を得た。特許文献1の制動装置では、導電性部材と永久磁石が回転軸方向に対向して配置され、その回転軸方向での間隔が回転体の回転速度によらず一定である。この構造のもとでは、後述のように、制動装置の制動力は、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に増加する。このような制動力が付与される場合、回転体の高速回転時に十分な制動力を得ようとすると、その低速回転時にも比較的に大きい制動力が付与されてしまう。これに伴い、制動装置による制動対象物を低速で動かすときに操作性の低下を招いてしまう。
【0005】
本発明のある態様は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくできる制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の第1態様は、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に収容される第1回転体と、ハウジング内に、第1回転体と連れ回り可能に収容される第2回転体と、第1回転体及び第2回転体の回転軸方向に対向して配置される導電性部材及び磁石であって、導電性部材及び磁石の一方は第2回転体と一体的に回転可能に設けられ、それらの他方はハウジングに設けられる導電性部材及び磁石と、第2回転体の回転速度が大きくなるほど、第2回転体の回転に対して大きな抵抗力を発生する回転抵抗手段と、第2回転体の回転に対する抵抗力が大きくなるほど、導電性部材と磁石の対向方向での間隔が小さくなるように、第2回転体を移動させる移動機構とを備える制動装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくできる制動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】回転体の回転速度と制動力の関係を示すグラフである。
【
図2】第1実施形態に係る制動装置を模式的に示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る制動装置の動作状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る制動装置を模式的に示す断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る制動装置の動作状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、実施形態の制動装置の概要から説明する。実施形態の制動装置は、回転体の回転速度が大きくなるほど、導電性部材と磁石の対向方向での間隔が小さくなるように構成されている。ここでの「対向方向」とは、回転体の回転軸方向で導電性部材及び磁石が対向して設けられる方向をいう。
【0010】
図1は、回転体の回転速度と制動力の関係を示すグラフである。本グラフでは、特許文献1に記載の制動装置により得られる制動力Fxと、実施形態の制動装置により得られる制動力Fyの一例を示す。特許文献1の制動装置では、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に制動力が増加する。一方、実施形態の制動装置では、回転体の回転速度の増大に伴い加速度的に制動力が増加する。これらの理由を説明する。
【0011】
ここでは、説明を簡単にするため、導電性部材と磁石が回転軸方向に対向して配置され、回転体と一体的に磁石が回転することで、導電性部材と磁石の周方向での相対位置が変化する場合を例に説明する。これは、後述する
図2の例を想定している。
【0012】
導電性部材に対して磁石が相対回転したとき、磁石が作る磁場の影響を受けて、電磁誘導により導電性部材に渦電流が生じ、その渦電流により導電性部材に磁極が生じる。この渦電流により生じる導電性部材の磁極と磁石の磁極の間には、磁荷に関するクーロンの法則に基づき、下記の式(1)で表されるクーロン力F1[N]が磁気力として作用する。このクーロン力F1は、回転体の回転方向とは反対方向に向かう制動力として磁石に作用する。なお、k1は係数、m1は導電性部材に生じる磁極の磁荷[Wb]、m2は磁石の磁荷[Wb]、rは導電性部材と磁石の間の対向方向(回転軸方向)での間隔[m]である。
F1=(k1×m1×m2)/r2・・・(1)
【0013】
また、導電性部材に生じる渦電流には、電磁誘導によって、次の式(2)で表されるローレンツ力F2[N]が作用する。このローレンツ力F2は、回転体の回転方向とは反対方向に向かう制動力として磁石に付与される。なお、qは渦電流の電荷量[C]、vは導電性部材の運動速度[m/s]、Bは磁石が作る磁場の対向方向での磁束密度[Wb/m2]である。
F2=q×v×B ・・・ (2)
【0014】
導電性部材に対して磁石が回転したとき、磁石には前述のクーロン力F1とローレンツ力F2の合力Faが作用する。一方、導電性部材には、作用反作用の法則により、この合力Faとは逆向きに大きさの等しい力Fb(以下、反作用力Fbという)が作用する。かりに、磁石ではなく導電性部材が回転したときも同様である。この合力Fa又は反作用力Fbの何れかは、導電性部材及び磁石の何れかと一体的に回転する回転体に制動力として作用する。
【0015】
ここで、磁荷に関するクーロンの法則から、磁石が作る磁場の磁束密度Bは、前述の間隔rの二乗に反比例した関係にあることが知られている。このことと、式(2)から、次の式(3)が導き出せる。式(3)のk3は係数である。式(1)と式(3)に示すように、クーロン力F1とローレンツ力F2の何れも、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rの二乗に反比例した関係にある。
F2=(k3×v)/r2 ・・・ (3)
【0016】
ここで、特許文献1の制動装置では、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rが変動しない。このため、導電性部材には、式(1)に示すように、一定のクーロン力F1の他に、式(3)に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に増大するローレンツ力F2が付与される。この結果、
図1の制動力Fxが得られる。
【0017】
一方、実施形態の制動装置では、回転体の回転速度が大きくなるほど、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rが小さくなる。このため、式(1)、(3)に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い間隔rが小さくなるほど、クーロン力F1、ローレンツ力F2が加速度的に増大し、その合力Faや反作用力Fbを用いた制動力Fyも同様に加速度的に増大する。この結果、
図1の制動力Fyが得られる。よって、
図1に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に制動力が増大する従来の制動装置と比べて、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくし易くなる。
【0018】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。
【0019】
(第1の実施の形態)
図2は、第1実施形態に係る制動装置10を模式的に示す断面図である。制動装置10は、固定体としてのハウジング12と、第1回転体14と、第2回転体15とを備える。
【0020】
ハウジング12は、不図示の外部構造体に固定される。ハウジング12は、制動装置10の他の構成部品を収容する。ハウジング12は、筒状部12aと、筒状部12aの軸線方向の両端部をそれぞれ覆い塞ぐ底部12b及びキャップ部12cとを有する。
【0021】
図3は、第1回転体14及び第2回転体15の斜視図である。第1回転体14は、ハウジング12内に、回転中心線La周りに回転可能に収容される。第1回転体14は、棒状の回転軸14aを有する。
図2に示すように、回転軸14aは、ハウジング12のキャップ部12cに軸受26を介して回転自在に支持される。軸受26は、転がり軸受、滑り軸受等であってよい。本明細書では、第1回転体14および第2回転体15の回転中心線Laに沿った方向を「回転軸方向X」、その回転中心線Laを中心とする円の半径方向、円周方向を「径方向」、「周方向」として説明する。
【0022】
第1回転体14はさらに、回転軸14aの中途に設けられたフランジ部14bと、第1回転体14のフランジ部14bに形成された第1カム部14cとを有する。フランジ部14bは、回転軸14aから径方向に張り出しており、第2回転体15の内部に収容可能な大きさに形成される。第1カム部14cは、後述する第2回転体15の第2カム部15cと係合するよう形成されたテーパ面を有する。
【0023】
第2回転体15は、ハウジング12内に、回転中心線La周りに第1回転体14と連れ回り可能に収容される。
図3に示すように、第2回転体15は、筒状部15aと、筒状部15aの内部に設けられた、第1回転体14の回転軸14aを挿通支持する回転軸支持部15bと、筒状部15aの内壁面に形成された第2カム部15cとを有する。第2カム部15cは、第1回転体14の第1カム部14cと係合するよう形成されたテーパ面を有する。
【0024】
第1回転体14の回転軸14aが第2回転体15の回転軸支持部15bに挿通され、フランジ部14bが筒状部15a内に収容されると、第1カム部14cと第2カム部15cが係合する。第1カム部14cと第2カム部15cとが係合することにより、第2回転体15は第1回転体14に連れ回りする。回転により第1カム部14cと第2カム部15cのテーパ面間で滑りが生じると、第1回転体14と第2回転体15は回転軸方向Xで相対移動する。
【0025】
制動装置10はさらに、導電性部材16を備える。本実施形態において導電性部材16は有底筒状であり、底部の第1導電性部材16aと、筒状部の第2導電性部材16bとを有する。本実施形態において第1導電性部材16aと第2導電性部材16bは一体に形成されているが、第1導電性部材16aと第2導電性部材16bは別体であってもよい。導電性部材16は、第1導電性部材16aがハウジング12の底部12b上に設けられ、第2導電性部材16bがハウジング12の筒状部12aの内壁面に設けられるように、ハウジング12内に配置される。
【0026】
導電性部材16は、導電性を持つ素材であって、好ましくは非磁性体の素材である。非磁性体であれば磁石との間で磁気的吸引力が作用せず、その吸引力に起因する位置ずれを避けられる。このような素材として、たとえば、アルミニウム、銅等が用いられる。
【0027】
制動装置10はさらに、第1磁石18を備える。第1磁石18は、フェライト磁石、ネオジム磁石等の永久磁石であってよい。本実施形態において、第1磁石18は、第1導電性部材16aと回転軸方向Xに対向するように、第2回転体15の筒状部15aの端部に設けられる。第1磁石18は、第2回転体15と一体的に回転可能である。
【0028】
第1導電性部材16a及び第1磁石18は、第2回転体15の回転に連動して周方向での相対位置が変化する。これに伴い、第1磁石18が作る磁界に対して第1導電性部材16aが相対回転することで第1導電性部材16aに電磁誘導により渦電流が生じ、その渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与される。
【0029】
制動装置10はさらに、第2磁石19を備える。第2磁石19は、フェライト磁石、ネオジム磁石等の永久磁石であってよい。本実施形態において、第2磁石19は、第2導電性部材16bと径方向に対向するように、第2回転体15の筒状部15aの周側面に設けられる。第2磁石19は、第2回転体15と一体的に回転可能である。
【0030】
第2導電性部材16b及び第2磁石19は、第2回転体15の回転に連動して周方向での相対位置が変化する。これに伴い、第2磁石19が作る磁界に対して第2導電性部材16bが相対回転することで第2導電性部材16bに電磁誘導により渦電流が生じ、その渦電流に起因して、第2回転体15の回転を止めようとする抵抗力が第2回転体15に付与される。第2回転体15の回転速度が大きくなるほど、第2回転体15に付与される抵抗力は大きくなる。このように、本実施形態において第2導電性部材16b及び第2磁石19は、第2回転体15の回転速度が大きくなるほど、第2回転体15の回転に対して大きな抵抗力を発生する「回転抵抗手段」として機能する。
【0031】
制動装置10はさらに、付勢部材34を備える。付勢部材34は、たとえば、コイルスプリング等の弾性体であってよい。付勢部材34は、回転軸方向Xにおいて第1導電性部材16aと第1磁石18とが離間する方向に第2回転体15を付勢する。
【0032】
本実施形態において、第1回転体14の第1カム部14cと、第2回転体15の第2カム部15cと、付勢部材34は、回転抵抗手段により付与される第2回転体15の回転に対する抵抗力が大きくなるほど、第1導電性部材16aと第1磁石18の対向方向での間隔が小さくなるように、第2回転体15を移動させる移動機構を構成している。この移動機能による第2回転体15の移動のメカニズムについては後述する。
【0033】
図4は、第1実施形態に係る制動装置10の動作状態を模式的に示す断面図である。以下、
図2及び
図4を参照して、制動装置10の動作について説明する。
図2は、第1回転体14が低速で回転しているときの制動装置10の状態を示す。
図4は、第1回転体14が高速で回転しているときの制動装置10の状態を示す。
図2及び
図4には、第1磁石18、第2磁石19が作る磁場の磁束線の一部が図示されている。
【0034】
まず、
図2を参照して、第1回転体14が低速で回転しているときの制動装置10の動作を説明する。第1回転体14が低速で回転しているとき、付勢部材34の付勢力により第2回転体15が第1回転体14に押し付けられ、第1回転体14が第2回転体15の筒状部15a内に完全に収容された状態となる。このとき、第1回転体14の第1カム部14cと第2回転体15の第2カム部15cは完全に係合した状態(言い換えると完全に噛み合った状態)となり、第1カム部14c及び第2カム部15cを介して、第1回転体14の回転力が第2回転体15に伝達される、又は、第2回転体15が受ける制動力が第1回転体14に伝達される。なお、第1カム部14cと第2カム部15cが完全に係合した状態とは、第1カム部14cのテーパ面の頂部が第2カム部15cのテーパ面の谷部と係合し、第1カム部14cのテーパ面の谷部が第2カム部15cのテーパ面の頂部と係合する状態である(
図3参照)。
【0035】
第1回転体14の回転が低速のとき、付勢部材34の付勢力により第1導電性部材16aと第1磁石18の対向方向での間隔Lgが大きいので、
図2に示すように、第1導電性部材16aには第1磁石18の磁界が実質的に作用しない。ここでの「実質的に作用しない」とは、第1磁石18の磁界が第1導電性部材16aに全く作用しない、又は、第1磁石18の磁界が第1導電性部材16aに作用しても、第1導電性部材16aに生じる渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与されない程度に僅かな磁界であることをいう。これにより、第1回転体14の回転速度が小さいときは、第1導電性部材16aに生じる渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与されなくなる。
【0036】
また、第1回転体14の回転が低速のときには、
図2に示すように、第2磁石19の磁界が第2導電性部材16bに作用する。上述したように、第2導電性部材16bに対して第2磁石19が回転すると、第2導電性部材16bに電磁誘導により渦電流が生じ、その渦電流に起因して、第2回転体15の回転を止めようとする抵抗力が第2回転体15に付与される。しかしながら、この抵抗力は回転速度に比例するため(
図1の制動力Fxを参照)、回転速度が小さいときには抵抗力も小さくなる。
【0037】
以上述べたように、第1回転体14の回転が低速のときには、第2回転体15が受ける制動力、抵抗力は非常に小さい。したがって、制動装置10による制動対象物(例えば障子や開き戸など)を低速で動かすとき、渦電流に起因する制動力を受けずに制動対象物を容易に動かせる。
【0038】
次に、
図4を参照して、第1回転体14が高速で回転しているときの制動装置10の動作を説明する。第1回転体14の回転速度が大きくなると、第2磁石19の磁界により第2導電性部材16bに生じる渦電流に起因する抵抗力が大きくなり、第2回転体15の回転を止めようとする。その結果、回転しようとする第1回転体14の第1カム部14cが停止しようとする第2回転体15の第2カム部15cを押圧する力が増大し、付勢部材34による付勢力に抗して第2回転体15が第1導電性部材16aの方向に移動する。すなわち、第1導電性部材16aと第1磁石18の対向方向での間隔Lgが小さくなる。
【0039】
第1磁石18が第1導電性部材16aに近づく途中で第1導電性部材16aには第1磁石18の磁界が作用する。第1磁石18の磁界が第1導電性部材16aに作用すると、渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与される。この制動力は、前述の通り、回転速度が大きくなり、それに伴い第1導電性部材16aと第1磁石18の間隔Lgが狭まるにつれて加速度的に増大する(
図1の制動力Fyを参照)。この制動力は、第1カム部14c及び第2カム部15cを介して、第1回転体14に伝達される。
【0040】
制動力により第2回転体15の回転速度が小さくなると、第2回転体15が受ける抵抗力が小さくなる。これに伴い、付勢部材34の付勢力によって、第2回転体15は、第1回転体14の方向に移動し、
図2に示す状態に戻る。
【0041】
以上説明したように、第1実施形態に係る制動装置10によれば、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくできる。
【0042】
第1実施形態に係る制動装置10によれば、回転軸方向に対向する第1導電性部材16a及び第1磁石18により発生する制動力に加えて、径方向に対向する第2導電性部材16b及び第2磁石19により発生する抵抗力が第2回転体15、ひいては第1回転体14に作用するので、回転軸方向に対向する導電性部材及び磁石により発生する制動力のみの制動装置と比較して、大きな制動力を回転体に作用させることができる。
【0043】
また、第1実施形態に係る制動装置10では、第1回転体14に形成した第1カム部14cと第2回転体15に形成した第2カム部15cから成るカム機構により、第1導電性部材16aと第1磁石18の間隔Lgを調整している。よって、第1導電性部材16aと第1磁石18の間の間隔Lgを調整するにあたり、第1導電性部材16aと第1磁石18を径方向に相対移動させるための空間を確保せずともよくなる。これにより、制動装置10の径方向寸法の小型化を図れる。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る制動装置100を模式的に示す断面図である。第2実施形態に係る制動装置100は、第2回転体15の回転速度が大きくなるほど、第2回転体15の回転に対して大きな抵抗力を発生する「回転抵抗手段」として、ハウジング12内に封入された粘性流体102を用いている点が、第1実施形態に係る制動装置10と異なる。制動装置100においては、ハウジング12の底部12bに設けられる導電性部材116は板状体であり、第1実施形態に係る制動装置10における第2導電性部材16b及び該第2導電性部材16bと径方向に対向配置される第2磁石19は設けられていない。
【0045】
図6は、第2実施形態に係る制動装置100の動作状態を模式的に示す断面図である。以下、
図5及び
図6を参照して、制動装置100の動作について説明する。
図5は、第1回転体14が低速で回転しているときの制動装置100の状態を示す。
図6は、第1回転体14が高速で回転しているときの制動装置100の状態を示す。
図5及び
図6には、磁石118が作る磁場の磁束線の一部が図示されている。
【0046】
まず、
図5を参照して、第1回転体14が低速で回転しているときの制動装置100の動作を説明する。第1回転体14が低速で回転しているとき、付勢部材34の付勢力により第2回転体15が第1回転体14に押し付けられ、第1回転体14が第2回転体15の筒状部15a内に完全に収容された状態となる。このとき、第1回転体14の第1カム部14cと第2回転体15の第2カム部15cは完全に係合した状態となり、第1カム部14c及び第2カム部15cを介して、第1回転体14の回転力が第2回転体15に伝達される、又は、第2回転体15が受ける制動力が第1回転体14に伝達される。
【0047】
第1回転体14の回転が低速のとき、付勢部材34の付勢力により導電性部材116と磁石118の対向方向での間隔Lgが大きいので、
図5に示すように、導電性部材116には第2回転体15に設けられた磁石118の磁界が実質的に作用しない。これにより、第1回転体14の回転速度が小さいときは、導電性部材116に生じる渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与されなくなる。
【0048】
上述したように、本実施形態に係る制動装置100では、ハウジング12内に粘性流体102が封入されている。この粘性流体102は、第2回転体15の回転を止めようとする抵抗力を生じる。しかしながら、粘性流体102による抵抗力は回転体の回転速度が小さいときには殆ど無視できる程度に小さくなる。したがって、第1回転体14の回転が低速のときには、第2回転体15が受ける制動力、抵抗力は非常に小さいので、制動装置100による制動対象物を低速で動かすとき、渦電流に起因する制動力を受けずに制動対象物を容易に動かせる。
【0049】
次に、
図6を参照して、第1回転体14が高速で回転しているときの制動装置100の動作を説明する。第1回転体14の回転速度が大きくなると、粘性流体102に起因する抵抗力が大きくなり、第2回転体15の回転を止めようとする。その結果、回転しようとする第1回転体14の第1カム部14cが停止しようとする第2回転体15の第2カム部15cを押圧する力が増大し、付勢部材34による付勢力に抗して第2回転体15が導電性部材116の方向に移動する。すなわち、導電性部材116と磁石118の対向方向での間隔Lgが小さくなる。
【0050】
磁石118が導電性部材116に近づく途中で導電性部材116には磁石118の磁界が作用する。磁石118の磁界が導電性部材116に作用すると、渦電流に起因する制動力が第2回転体15に付与される。この制動力は、前述の通り、回転速度が大きくなり、それに伴い導電性部材116と磁石118の間隔Lgが狭まるにつれて加速度的に増大する(
図1の制動力Fyを参照)。この制動力は、第1カム部14c及び第2カム部15cを介して、第1回転体14に伝達される。
【0051】
制動力により第2回転体15の回転速度が小さくなると、第2回転体15が粘性流体102から受ける抵抗力が小さくなる。これに伴い、付勢部材34の付勢力によって、第2回転体15は、第1回転体14の方向に移動し、
図5に示す状態に戻る。
【0052】
以上説明したように、第2実施形態に係る制動装置100によっても、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくできる。
【0053】
第2実施形態に係る制動装置100によれば、回転軸方向に対向する導電性部材116及び磁石118により発生する制動力に加えて、粘性流体102により発生する抵抗力が第2回転体15、ひいては第1回転体14に作用するので、回転軸方向に対向する導電性部材及び磁石により発生する制動力のみの制動装置と比較して、大きな制動力を回転体に作用させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態の例や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0055】
上述の実施形態では、回転軸方向に対向して配置される導電性部材及び磁石のうち、導電性部材をハウジングに設け、磁石を第2回転体に設けた例を説明した。しかしながら、これとは逆に、回転軸方向に対向して配置される導電性部材及び磁石のうち、磁石をハウジングに設け、導電性部材を第2回転体に設けてもよい。
【0056】
また、上述の第1実施形態では、第2回転体の径方向に対向して配置される第2導電性部材及び第2磁石のうち、第2導電性部材をハウジングに設け、第2磁石を第2回転体に設けた例を説明した。しかしながら、これとは逆に、第2回転体の径方向に対向して配置される第2導電性部材及び第2磁石のうち、第2磁石をハウジングに設け、第2導電性部材を第2回転体に設けてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、第2回転体を移動させる移動機構としてカム機構を用いた例を説明した。しかしながら、移動機構はカム機構に限定されず、他の構成を用いることができる。
【0058】
また、上述の実施形態では、磁石として永久磁石を用いたが、電磁石が用いられてもよい。
【0059】
以上の実施形態、変形例により具体化される発明を一般化すると、以下の技術的思想が導かれる。以下、発明が解決しようとする課題に記載の態様を用いて説明する。
【0060】
第2態様の制動装置は、第1態様において、回転抵抗手段は、第2回転体の径方向に対向して配置される第2導電性部材及び第2磁石を備え、導電性部材及び第2磁石の一方は回転体の周側面に設けられ、それらの他方はハウジングの内壁面に設けられてもよい。
【0061】
第3態様の制動装置は、第1態様において、回転抵抗手段は、ハウジング内に封入された粘性流体を備えてもよい。
【0062】
第4態様の制動装置は、第1~第3態様において、移動機構は、第1回転体に設けられる第1カム部と、第2回転体に設けられ、第1カム部と係合する第2カム部と、導電性部材と磁石とが離間する方向に第2回転体を付勢する付勢部材とを備えてもよい。
【0063】
第5態様の制動装置は、第4態様において、移動機構は、回転抵抗手段により付与される抵抗力が大きくなるほど、第1カム部が第2カム部を押圧する力が増大し、付勢部材による付勢力に抗して第2回転体が移動するよう構成されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10,100 制動装置、 12 ハウジング、 14 第1回転体、 14c 第1カム部、 15 第2回転体、 15c 第2カム部、 16a 第1導電性部材、 16b 第2導電性部材、 18 第1磁石、 19 第2磁石、 34 付勢部材、 102 粘性流体, 116 導電性部材、 118 磁石。