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  • 特許-流木の捕捉施設 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】流木の捕捉施設
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018056102
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167735
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2018年2月22日に頒布された公益社団法人土木学会発行の土木学会論文集B1(水工学)Vol.74,No.4, 2018 水工学論文集 第62巻 (2)2018年3月6日に開催された第62回水工学講演会
(73)【特許権者】
【識別番号】517419445
【氏名又は名称】ヒロセ補強土株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 紹臣
(72)【発明者】
【氏名】小西 成治
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167656(JP,A)
【文献】特開2003-129437(JP,A)
【文献】特開2017-082441(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2008-0004274(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
E02B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土石流等の流下経路に沿って設置される流木の捕捉施設であって、
流木の捕捉機能を有する捕捉スクリーンと、
前記捕捉スクリーンの上流側で土石流の流下経路の横断方向に向けて突設される越流堰とからなり、
前記越流堰の上流に砂防堰堤が位置し、該砂防堰堤と捕捉スクリーンの間に越流堰が位置し、
土石流等の発生時に水位が上昇し、流速差によって流下する流木の向きが捕捉スクリーンで捕捉され易い特定方向へ修正される背水遷移区間が前記越流堰の上流側に形成されることを特徴とする、
流木の捕捉施設。
【請求項2】
前記越流堰の断面形が矩形または三角形を呈することを特徴とする、請求項1に記載の流木の捕捉施設。
【請求項3】
前記越流堰の上流側に直立面が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の流木の捕捉施設。
【請求項4】
前記捕捉スクリーンが杭式スクリーンであることを特徴とする、請求項1に記載の流木の捕捉施設。
【請求項5】
前記砂防堰堤が既設または新設の堰堤であることを特徴とする、請求項に記載の流木の捕捉施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土石流、土砂流等(以下「土石流等」という)と共に流下する流木の捕捉施設に関し、特に流水の力を活用して流下する流木の向きを捕捉し易い特定方向に修正するようにした流木の捕捉施設に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋、道路、鉄道、橋梁等に甚大な被害を及ぼした平成29年の九州北部豪雨では、大量の流木発生が被害拡大につながった。
一般に土石流対策工として砂防堰堤(砂防ダム)が用いられている。
砂防堰堤としては堰堤の頂部に水通部を形成した不透過型砂防堰堤や、水通部に高剛性のスクリーンを設けて流木や大型礫等の捕捉性を高めた砂防堰堤も知られている(特許文献1~3)。スクリーンは井桁状に組み立てた鋼管フレーム構造体が主流であり、堰堤躯体に強固に固定されている。
また既設の砂防堰堤を対象とし、水通部の上流側に別体のスクリーンを後付けすることが特許文献4に開示され、さらに流下方向に沿って二つの砂防堰堤(本堤と副堤)を縦列配置することが特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭51-58536号公報
【文献】特開2004-60388号公報
【文献】特開2007-277972号公報
【文献】特開2017-101507号公報
【文献】特開2009-243196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の砂防堰堤はつぎの問題点を有している。
<1>土石流等と共に流下する流木は様々な外的要因により複雑な挙動を示すことから、これまで流木の挙動についてはほとんど解明されてこなかった。
実際の災害現場を検証したところ、従来の砂防堰堤では捕捉されるべき流木が土石流等の流れに乗って水通部を越流して流木の捕捉確率が低いものであった。スクリーンを具備した砂防堰堤では流木の捕捉効果をある程度発揮したが、一部の流木の通過を許容するものであった。
このように従来の砂防堰堤では本来の流木捕捉作用が十分に発揮されていなかった。
<2>スクリーンを具備した砂防堰堤における流木の捕捉効率を高めるには、スクリーンを構成する鋼管等の配置間隔を狭める等して透過空間を小さくすることが考えられる。
この対策方法は流木の捕捉効率を高められる反面、スクリーンの建設コストが嵩む問題と、既設の砂防堰堤への適用が難しいといった問題を内包している。
<3>既設の砂防堰堤の近傍に新たな砂防堰堤を増設する方法も考えられるが、新設する場合は施工期間が長くかかる問題と建設コストの負担が大きいといった問題が残る。
<4>このように透過型、不透過型を問わず従来の砂防堰堤は流木の捕捉効率を如何にして高めるかといった共通の課題を有している。
<5>近年は年毎に豪雨被害が大規模化する傾向にあることから、短期間のうちに低コストで施工できる流木対策工の提案が求められている。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところはつぎの流木の捕捉施設を提供することにある。
<1>流水の力を活用して流下する流木の向きを修正することで流木の捕捉効率を高めること。
<2>短期間のうちに低コストで施工できること。
<3>既設の砂防堰堤を有効活用しながら、下流域における流木被害を効果的に抑制すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、土石流等の流水の影響を受けて流木の向きが変わることに着目し、流木の流下する過程で流速差のある水域を作り出すことで流木の向きを特定方向に揃えるようにしたものである。
本発明は、土石流等の流下経路に沿って設置される流木の捕捉施設であって、流木の捕捉機能を有する捕捉スクリーンと、前記捕捉スクリーンの上流側で土石流等の流下経路の横断方向に向けて突設される越流堰とからなり、土石流等の発生時に水位が上昇し、流速差によって流下する流木の向きが捕捉スクリーンで捕捉され易い特定方向へ修正される背水遷移区間が前記捕捉スクリーンの上流側に形成される。
本発明では流木が捕捉スクリーンに到着する前に、流木の向きが捕捉スクリーンで捕捉され易い特定方向へ修正されるので、多数の流木を確実に捕捉できて、下流域における流木被害を効果的に抑制することができる。
本発明の他の形態において、前記越流堰の断面形が矩形または三角形を呈していて、前記越流堰の上流側に直立面が形成されている。
本発明の他の形態において、前記捕捉スクリーンが構造の簡単な杭式スクリーンが適用可能である。
本発明の他の形態において、前記越流堰の上流に既設または新設の堰堤が位置し、該堰堤と捕捉スクリーンの間に越流堰が位置するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>流木が捕捉スクリーンに到着する前に、流水の力を活用して流木の向きが捕捉スクリーンで捕捉され易い特定方向へ修正できるので、流木の捕捉効率が格段に向上する。
<2>流木の捕捉施設を構成する越流堰と捕捉スクリーンは簡易な構造であるため、資材コストおよび設置コストが低廉で済むと共に短期間で施工できる。
したがって、近年の豪雨被害の対策工として求められる流木対策工として有効である。
<3>既設または新設の堰堤の下流側に流木の捕捉施設を追加設置するだけで、既設または新設の堰堤を有効活用しつつ、堰堤の流木捕捉性能不足を補って下流域における流木被害を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る流木の捕捉施設の説明図で、一部を省略した捕捉施設の全体斜視図
図2】上流砂防堰堤と捕捉施設の縦断面図
図3】流木の捕捉作用の説明図で、上流砂防堰堤と捕捉施設を平面からみたモデル図
図4】越流堰の断面図で、(a)は断面形状が矩形を呈する越流堰の断面図、(b)は断面形状が三角形を呈する越流堰の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0010】
<1>流木の捕捉施設の概要
図1,2を参照して説明すると、本発明に係る流木の捕捉施設10は土石流等の流下経路に設けた捕捉スクリーン20と、捕捉スクリーン20の上流で、土石流等の流下方向に対して横断方向に向けて突設した越流堰30とからなる。
本例では越流堰30の上流に上流砂防堰堤40が位置する形態について説明するが、上流砂防堰堤40は省略してもよい。
【0011】
<2>捕捉スクリーン
捕捉スクリーン20は流木の捕捉機能を有する透過型剛構造体である。
本例では捕捉スクリーン20が支持基礎21の上面に間隔を隔てて複数の捕捉材22を縦向きにして立設した杭式スクリーンで構成する形態について例示するが、図示した形態以外に複数の捕捉材22を格子状に組み立てるか、流水方向に厚みを持たせて山形、門形等のように立体的に組み立ててもよい。
さらに捕捉スクリーン20は公知の不透過型砂防堰堤、透過型砂防堰堤または部分透過型砂防堰堤でもよく、既設または新設を問わない。
捕捉スクリーン20を新設する場合、捕捉スクリーン20は簡易な構造であるため、低コストに設置することができる。
【0012】
<3>越流堰
越流堰30は土石流等の発生時に流水50の水位を上昇させて(堰上げ背水)、越流堰30の上流側に流水50による背水遷移区間51を形成するための突起物であり、土石流等の流下経路となる流路12または河床11に固着されている。
越流堰30の固定方法としては、越流堰30の下部を埋設するか、ピン類を打設して固定する。
土石流等の流水50の流下方向に対し直交方向に向けて配置される越流堰30は、図1に示すように連続性を持たせて設置してもよいし、間隔を設けて不連続に設置してもよい。
越流堰30は簡易な構造であるから資材コストと設置コストに低廉で済む。
【0013】
<3.1>背水遷移区間
背水遷移区間51は流下する複数の流木60の向きを特定方向に修正して揃えるための水位上昇区域であり、背水遷移区間51の上流と下流で流速差を有している。
【0014】
<3.2>越流堰の断面形状
本例では越流堰30の断面形が矩形を呈する形態について説明するが(図4(a))、越流堰30の断面形は下流側に鋭角な三角形でもよい(図4(b))。
要は越流堰30の上流側に起立した直立面31が形成してあればよい。
【0015】
<3.3>越流堰の高さ
流速差の大きな背水遷移区間51を形成するには、流路12の勾配や床幅等を考慮して越流堰30の直立面31の高さHを適宜選択する。
背水遷移区間51の縦断勾配は直立面31の高さHに比例して大きくなる。
実用上、直立面31の高さHが0.3m~2m程度の範囲であれば流速差のある背水遷移区間51を形成することができる。
【0016】
<3.4>越流堰の設置数
本例では流路12に対して越流堰30をひとつ設置した形態について説明するが、間隔を隔てて複数の越流堰30を並列に配置してもよい。
複数の越流堰30を配列した場合、各越流堰30の上流側に背水遷移区間51が形成されることになる。
【0017】
<4>上流砂防堰堤
上流砂防堰堤40は砂防堰堤、治山堰堤、谷止工等の堰堤であり、既設または新設を問わない。
本例では上流砂防堰堤40が袖部41,41の間に水通部42を形成した不透過型砂防堰堤である形態について例示するが、公知の透過型砂防堰堤または部分透過型砂防堰堤であってもよい。
【0018】
[流木の捕捉作用]
図1~3を参照しながら流木の捕捉施設10による流木60の捕捉作用について説明する。
【0019】
<1>上流砂防堰堤からの流木の越流
流木60を含む土石流等が発生した場合、土砂や転石等が上流砂防堰堤40で捕捉される。
上流砂防堰堤40における土石流等の体積量が一定値を越えると、土石流等の流水50が水通部42を通じて下流側へ流下する。
大半の流木60は上流砂防堰堤40で捕捉されるが、流水50の流れの影響を受けて縦向きになった一部の流木60は水通部42を通じて下流側へ流下する。
【0020】
<2>背水遷移区間における流木の向きの修正
上流砂防堰堤40から流下した流木60は流水50と共に下流の捕捉スクリーン20へ向けて流下する。
背水遷移区間51を通過する際に、以降に詳しく説明するように各流木60に旋回力Fがはたらくことで流木60の向きが捕捉スクリーン20で捕捉し易い特定方向(流水50の流下方向に対する直交方向、または流路12の横断方向)に修正される。
【0021】
<2.1>背水遷移区間における流速差
図3を参照して説明すると、越流堰30の上流側に形成される背水遷移区間51では流速が変化していて、その上下流で流速差を生じている。
すなわち、背水遷移区間51では上流側から下流側へ向けて水位が上昇していて、この水位上昇に伴い背水遷移区間51の上流側の流速Vが下流側へ向けて徐々に低速Vへと変化している。
【0022】
<2.2>流木の向きの修正原理
流木60の向きが流水50の流れに沿った縦向き状態で背水遷移区間51へ進入した場合には、流木60の前端部61が流れの遅い水域に先に達し、このとき流木60の後端部62は流れの速い水域に位置することとなる。
流木60の前端部61と後端部62で流速差が生じるために、この流速差がなくなるように流木60に対して流水50による水平の旋回力Fがはたらく。
旋回力Fを受けた流木60は、背水遷移区間51を流下しながら旋回し、越流堰30の真上の流速変化点を越えると、旋回力Fが消失して流木60の旋回が終了する。
流木60の前端部61と後端部62で流速差がほぼなくなることで、流木60の向きが特定方向に修正される。後続の流木60の向きも同様に特定方向に修正される。
【0023】
また、最初から流木60の向きが流路12の直交方向に向けて横向き状態、または横向きに近い状態で背水遷移区間51に進入した場合は、流木60の両端部に大きな流速差が生じないので、流木60は進入時の向きをほとんど変えずに背水遷移区間51を流下することになる。
【0024】
このように背水遷移区間51へ進入する際に流木60がどの方向に向いていても、背水遷移区間51を通過することで複数の流木60の向きが特定方向に揃えられる。
また流路12に間隔を隔てて複数の越流堰30を配置してある場合は、各越流堰30の上流側に形成される背水遷移区間51を流下する都度、流木60の向きが段階的に修正されるので流木60の向きの修正効果が高くなる。
【0025】
<3>流木の捕捉
捕捉スクリーン20の上流の背水遷移区間51を流下する際に流木60の向きが捕捉スクリーン20で捕捉され易い特定方向に向けて揃えられるため、捕捉スクリーン20では流木60を効率よく確実に捕捉することができる。
したがって、捕捉スクリーン20における流木60の通過確率が極力低くなり、捕捉スクリーン20が本来有している流木捕捉作用を十分に発揮することができる。
【0026】
流木の捕捉施設10の上流に既設の上流砂防堰堤40が存在する場合には、既設の上流砂防堰堤40を有効活用しつつ、上流砂防堰堤40の流木捕捉性能不足を補って下流域における流木被害を効果的に抑制することができる。
流木の捕捉施設10を構成する越流堰30と捕捉スクリーン20は簡易な構造であるため、資材コストおよび設置コストが低廉で済むと共に、短期間で施工することができる。
【符号の説明】
【0027】
10・・・・流木の捕捉施設
11・・・・河床
12・・・・流路
20・・・・捕捉スクリーン
21・・・・支持基礎
22・・・・捕捉材
30・・・・越流堰
31・・・・直立面
40・・・・上流砂防堰堤
41・・・・袖部
42・・・・水通部
50・・・・流水
51・・・・背水遷移区間
60・・・・流木
図1
図2
図3
図4