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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】熱線式流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/684 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
G01F1/684 A
G01F1/684 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018089874
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196935
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000116633
【氏名又は名称】愛知時計電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】西田 将志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀文
(72)【発明者】
【氏名】田中 善人
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025549(JP,A)
【文献】特開2010-002329(JP,A)
【文献】特開2002-054962(JP,A)
【文献】特開2000-310552(JP,A)
【文献】特開2002-357465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0139584(US,A1)
【文献】特開2013-250137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68-1/699
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測流体が流れる管状の流路と、
当該流路内に配置された熱線式流量センサと、
を有し、
前記熱線式流量センサは、基板と、当該基板上に形成されたヒータと、当該基板上に当該ヒータを中心としてその両側に対称に配置形成された2つの熱感知素子と、当該基板上、当該各熱感知素子の外側に、前記ヒータを中心として対称に配置形成された2つの流体温度測定素子とを備え、
前記流路は、その内壁からせり出して流路を絞る絞り壁を備え、
前記絞り壁は、切妻屋根形状であって、その大棟部が被計測流体の流れ方向に対して垂直に位置するように形成され、さらに、当該大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成され、
前記熱線式流量センサは、前記絞り壁の大棟部と当該大棟部に対向する前記流路の内壁との間であって、前記垂直面が前記ヒータと交差する位置にあって、被計測流体がその流れに従って、流体温度測定素子、熱感知素子、ヒータ、熱感知素子及び流体温度測定素子の順に接触して行くような方向に設置される
ことを特徴とする熱線式流量計。
【請求項2】
前記絞り壁の前記大棟部は、丸みを帯びた形状であることを特徴とする請求項1に記載の熱線式流量計。
【請求項3】
前記流路の高さを高さdとすると、
前記絞り壁の前記大棟部は、前記高さdの1/10以上の曲率半径を有することを特徴とする請求項2に記載の熱線式流量計。
【請求項4】
前記絞り壁に含まれる各屋根面は、前記大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する水平面を基準として、仰角が10°から30°までの範囲の傾斜をなしていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱線式流量計。
【請求項5】
前記絞り壁の前記大棟部と前記熱線式流量センサの表面との距離を距離bとし、
前記熱線式流量センサの裏面と当該裏面に対向する前記流路の内壁との距離を距離cとし、
前記流路の高さを高さdとすると、
距離b+距離c:高さdは、1:1.5から1:4までの範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱線式流量計。
【請求項6】
前記絞り壁の前記大棟部と前記熱線式流量センサの表面との距離を距離bとし、
前記熱線式流量センサの裏面と当該裏面に対向する前記流路の内壁との距離を距離cとすると、
距離b:距離cは、1:1から2:1までの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱線式流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測流体の流量を計測する熱線式流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、被計測流体の流量を計測する流量計に関する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された流量測定装置は、流体流路内にバイパス流路部材を設け、当該バイパス流路部材内に設けられたバイパス流路の上流流路を仕切壁によって2つの支流路に仕切り、当該仕切壁の一方の面上に熱式流量センサを取り付けるとともに、上記上流流路の内壁に凸部を形成することにより、流体流れに脈動が生じたときも、装置全体の大きさ及び形状を変えず、高精度に流体流量を測定するようにしている。
【0004】
上記流量測定装置と同様に、被計測流体の流量を計測するものであるが、上記流量測定装置とは計測手法が異なるため、その構成を異にする熱線式流量計も、従来から知られている。
【0005】
図3は、このような従来の熱線式流量計の一例を示している。同図に示す熱線式流量計1000は、熱線式流量センサ100と、被計測流体が流れる流路120とによって構成されている。そして、熱線式流量センサ100は、ヒータ101と、2つの第1及び第2熱感知素子102,103と、2つの第1及び第2流体温度測定素子104,105とによって構成され、当該ヒータ101、第1及び第2熱感知素子102,103、及び第1及び第2流体温度測定素子104,105は、シリコン基板110上に形成されている。
【0006】
シリコン基板110は、流路120の側壁に空けられた孔(図示せず)から流路120内に挿入され、このシリコン基板110を介して、熱線式流量センサ100は、流路120内の、流速変化の大きい中央に、流れに対して水平方向に設置される。そして、熱線式流量センサ100による被計測流体の流量の測定は、当該被計測流体が流路120内に流れている状態で、次のようにして行う。
【0007】
すなわち、まず、第1あるいは第2流体温度測定素子104,105を用いて、被計測流体の温度を測定し、当該温度に応じた電力をヒータ101に印加して、ヒータ101を加熱する。次に、被計測流体の流れに従って、ヒータ101から奪われた熱量、あるいは第1及び第2熱感知素子102,103を用いて、ヒータ101によって形成された熱分布に応じた電気的な変化を計測する。そして、計測された電気的な変化から被計測流体の流速を算出し、当該流速から被計測流体の流量を算出する。
【0008】
なお、図3では、被計測流体は、矢印Ar1の方向に流れているので、熱線式流量センサ100は、当該方向に流れている被計測流体の流量を計測するが、熱線式流量センサ100は、これとは逆方向に流れる被計測流体の流量も計測できるように構成されている。つまり、熱線式流量センサ100は、順逆両方向に流れる被計測流体に対して1つのセンサ装置で計測できるようになっている。このため、第1熱感知素子102と第2熱感知素子103は、シリコン基板110上、ヒータ101を中心として、その両側の対称となる位置に形成され、第1流体温度測定素子104と第2流体温度測定素子105は、それぞれ、第1熱感知素子102と第2熱感知素子103の外側であって、シリコン基板110上、ヒータ101を中心として、その両側の対称となる位置に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-54962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来の熱線式流量計1000では、被計測流体の流速が所定の流速値以上になると、シリコン基板110が被計測流体の流れに影響を及ぼし、被計測流体が、熱線式流量センサ100の表面、つまり、ヒータ101、第1及び第2熱感知素子102,103、及び第1及び第2流体温度測定素子104,105の形成面に沿って流れなくなるため、被計測流体の流量の増加に対して、熱線式流量計1000の出力が単調に増加しなくなる現象が生じた。
【0011】
図5中、グラフg10は、この現象が発生したときの熱線式流量計1000の出力の一例を示している。同図において、横軸は、被計測流体の流量を示し、縦軸は、熱線式流量計1000の出力を示している。
【0012】
グラフg10に示されるように、熱線式流量計1000の出力は、流量F11までは単調に増加するものの、流量F11から流量F12にかけて減少に転じ、さらに、流量F12を超えると再び増加に転じる。
【0013】
したがって、熱線式流量センサ100を被計測流体の流れに対して水平方向に設置した場合には、出力が減少に転じる前までの流量範囲、つまり、上記グラフg10では、0からF11までの範囲の流量しか測定できない。
【0014】
これに対処するために、熱線式流量センサ100を傾けて設置することが考えられる。図4は、矢印Ar1の方向に流れる被計測流体の流れに沿うように、熱線式流量センサ100を反時計回りに所定の角度だけ傾けて設置した例を示している。
【0015】
図5中のグラフg20は、このように熱線式流量センサ100を傾けて設置した場合の熱線式流量計1000の出力の一例を示している。当該グラフg20から分かるように、被計測流体の流量がF11からF12の間でも、熱線式流量計1000の出力は、減少に転じることなく単調増加を維持している。
【0016】
しかし、被計測流体の流れを矢印Ar1の方向と逆の矢印Ar2の方向に変えて、その流量を計測しようとすると、熱線式流量センサ100を上述のように傾けて設置した熱線式流量計1000では、正確な計測ができない。
【0017】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、被計測流体が順逆いずれの方向に流れたとしても、流量の多少に拘わらず、被計測流体の流量を精度良く測定することが可能となる熱線式流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、被計測流体が流れる管状の流路と、当該流路内に配置された熱線式流量センサと、を有し、熱線式流量センサは、基板と、当該基板上に形成されたヒータと、当該基板上に当該ヒータを中心としてその両側に対称に配置形成された2つの熱感知素子と、当該基板上、当該各熱感知素子の外側に、ヒータを中心として対称に配置形成された2つの流体温度測定素子とを備え、流路は、その内壁からせり出して流路を絞る絞り壁を備え、絞り壁は、切妻屋根形状であって、その大棟部が被計測流体の流れ方向に対して垂直に位置するように形成され、さらに、当該大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成され、熱線式流量センサは、絞り壁の大棟部と当該大棟部に対向する流路の内壁との間であって、垂直面がヒータと交差する位置にあって、被計測流体がその流れに従って、流体温度測定素子、熱感知素子、ヒータ、熱感知素子及び流体温度測定素子の順に接触して行くような方向に設置されることを特徴とする。
【0019】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の熱線式流量計であって、絞り壁の大棟部は、丸みを帯びた形状であることを特徴とする。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の熱線式流量計であって、流路の高さを高さdとすると、絞り壁の大棟部は、高さdの1/10以上の曲率半径を有することを特徴とする。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱線式流量計であって、絞り壁に含まれる各屋根面は、大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する水平面を基準として、仰角が10°から30°までの範囲の傾斜をなしていることを特徴とする。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の熱線式流量計であって、絞り壁の大棟部と熱線式流量センサの表面との距離を距離bとし、熱線式流量センサの裏面と当該裏面に対向する流路の内壁との距離を距離cとし、流路の高さを高さdとすると、距離b+距離c:高さdは、1:1.5から1:4までの範囲であることを特徴とする。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の熱線式流量計であって、絞り壁の大棟部と熱線式流量センサの表面との距離を距離bとし、熱線式流量センサの裏面と当該裏面に対向する流路の内壁との距離を距離cとすると、距離b:距離cは、1:1から2:1までの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る熱線式流量計によれば、絞り壁により流路を絞るようにしたので、被計測流体の流量が増大し、流速が速くなっても、熱線式流量センサの表面に被計測流体の流れが沿うようになる。これにより、被計測流体の流量の増加に対して、当該熱線式流量計の出力が単調増加する範囲が広がり、広い流量範囲の計測が可能となる。
【0025】
また、請求項1に係る熱線式流量計では、絞り壁は、当該絞り壁の大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成され、さらに、熱線式流量センサも当該垂直面に対して面対称となるように配置したので、被計測流体の熱線式流量センサ表面に対する流れが、順逆両方向で同一になって、どちらからでも流量測定を行うことができるようになった。
【0026】
請求項2に係る熱線式流量計によれば、絞り壁の大棟部は、丸みを帯びた形状であるので、当該大棟部での被計測流体の剥離の発生を抑制することができる。
【0027】
請求項3に係る熱線式流量計によれば、絞り壁の大棟部は、流路の高さdの1/10以上の曲率半径を有するので、当該大棟部での被計測流体の剥離の発生をさらに抑制することができる。
【0028】
請求項4に係る熱線式流量計によれば、絞り壁に含まれる各屋根面は、当該大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する水平面を基準として、仰角が10°から30°までの範囲の傾斜をなしているので、絞り壁を形成したことによる、被計測流体の流れの乱れを抑制する効果が得られる。
【0029】
請求項5に係る熱線式流量計によれば、距離b+距離c:高さdは、1:1.5から1:4までの範囲に設定されているので、流路120の高さdが3~20mmの範囲であり、流量範囲が300ml/min以下であると想定すると、被計測流体の平均流速が約1.0m/s以下となり、熱線式流量センサの感度を良好に保つことができる。
【0030】
請求項6に係る熱線式流量計によれば、距離b:距離cは、1:1から2:1までの範囲に設定されているので、被計測流体が熱線式流量センサの表面を流れる流速を所定の範囲内に制限して、熱線式流量センサの感度を保ちつつ、測定可能な流量範囲を可及的に広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施の形態に係る熱線式流量計の概略構成を示す断面図である。
図2図1の熱線式流量計の出力特性と従来の熱線式流量計の出力特性を示す図である。
図3】従来の熱線式流量計に含まれる熱線式流量センサを流路内に、被計測流体の流れに対して水平方向に設置したときの様子を示す断面図である。
図4】従来の熱線式流量計に含まれる熱線式流量センサを、図4の水平方向とは角度を変えて設置したときの様子を示す断面図である。
図5図3及び図4の各設置方向についての従来の熱線式流量計の出力特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
本発明の一実施の形態に係る熱線式流量計は、熱線式MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)流量計であり、当該熱線式流量計に含まれる熱線式流量センサは、被計測流体が流れる流路内に設置され、被計測流体の流量を計測するものである。用途としては、医療薬品の流量管理や、生物化学試験の試薬・培養液の管理等が考えられる。
【0034】
本実施形態の熱線式流量計10は、図1に示すように、[背景技術]欄で上述した熱線式流量計1000と同様の構成については同一の符号で示し、その構成についての説明は、省略する。
【0035】
本実施形態の熱線式流量計10に含まれる熱線式流量センサ100は、流路120内に、被計測流体の流れる方向に水平に設置される。そして、本実施形態の熱線式流量計10は、被計測流体を矢印Ar1の方向及びこれとは逆の矢印Ar2の方向のいずれに流した場合でも、当該被計測流体の流量を精度良く計測できるようにしている。
【0036】
これを実現するため、本実施形態の熱線式流量計10は、次の特徴を備えている。すなわち、
(1)流路120の内壁121の一部であって、熱線式流量センサ100の表面に対向する内壁に、絞り壁121aを形成したこと
(2)絞り壁121aの最適な形状を設定したこと
(3)熱線式流量センサ100を設置する最適な位置を設定したこと
である。
【0037】
なお、熱線式流量センサ100の表面とは、シリコン基板110の表面、つまり、ヒータ101、第1及び第2熱感知素子102,103、及び第1及び第2流体温度測定素子104,105の形成面を言い、熱線式流量センサ100の裏面とは、シリコン基板110の裏面、つまり、ヒータ101、第1及び第2熱感知素子102,103、及び第1及び第2流体温度測定素子104,105の形成面と逆側の面を言うことにする。
【0038】
図1に示すように、絞り壁121aが、流路120の内壁121の一部、つまり、熱線式流量センサ100が設置された場合に、当該熱線式流量センサ100の表面に対向する部分に形成されている。絞り壁121aは、内壁121から流路120内にせり出して、流路120を絞るものである。このような絞り壁121aを設けることにより、当該部分の流量が増大して流速が速くなっても、被計測流体の流れは、熱線式流量センサ100の表面に沿うようになることが、実験的に検証されている。
【0039】
絞り壁121aは、切妻屋根状をなし、内壁121から流路120内に突出している。そして、切妻屋根の大棟に相当する部分(以下、「大棟部」と言う)は、流路120の内壁121の幅方向に亘っている。つまり、絞り壁121aは、流路120内、幅方向には隙間なく形成されている。なお、流路120の幅方向とは、図1の紙面において、表面から裏面に至る方向を言う。
【0040】
さらに、絞り壁121aは、大棟部が被計測流体の流れ方向に対して垂直に位置するように形成されている。
【0041】
図1は、流路120を横方向、つまり被計測流体の流れ方向の切断面で切断したときの断面図であるので、図1の絞り壁121aは、大棟部に対する垂直面で切断したときの切断面を示している。図1で示される絞り壁121aの断面は、2等辺三角形状をなしている。つまり、絞り壁121aは、大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成されている。これは、被計測流体の流れが順方向でも逆方向でも、同様に流れるようにするためである。
【0042】
熱線式流量センサ100は、流路120内、図1における2等辺三角形の頂点eの位置、つまり、大棟部から垂直下方に延ばした位置にヒータ101の中心が来るように設置する。熱線式流量センサ100をこのように設置するのも、被計測流体の流れが順方向でも逆方向でも、被計測流体が熱線式流量センサ100に沿って同様に流れるようにするためである。
【0043】
そして、絞り壁121aの最適な形状と、熱線式流量センサ100の最適な位置を決定するために、上記頂点eを含む、各種値の範囲、具体的には、図1に示す角度a、距離b、距離c及び高さdの各範囲を設定する。ここで、角度aは、上記絞り壁121aの断面の形状である2等辺三角形の底角の角度を示し、距離bは、熱線式流量センサ100の表面と上記頂点eとの距離を示し、距離cは、熱線式流量センサ100の裏面と、これに対向する内壁121との距離を示し、高さdは、流路120(厳密には、内壁121)の高さを示している。また、「最適」とは、被計測流体の流速が速くなっても、被計測流体が熱線式流量センサ100の表面に沿って流れることを意味するものである。
【0044】
以下、各種値の設定範囲と、その設定理由について説明する。
【0045】
角度aは、絞り壁121aの片屋根の面と内壁121の面とのなす角度を示している。本実施形態では、流路120として、断面が矩形状の管を用いているので、絞り壁121aが形成される内壁121の面は、平面である。このため、上記角度aを定義することができる。
【0046】
しかし、流路120として、断面が円形状の管を用いた場合には、上記角度aを定義できないので、その場合には、絞り壁121aの大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する水平面(図1中、一点鎖線で示す面)を基準とした仰角を定義すればよい。この場合の仰角は、上記角度aと同じ角度であるので、以下の説明は、角度aを仰角aで読み替えることにより、仰角aについても同様に成立する。
【0047】
角度aは、10°から30°までに設定する。図2は、本実施形態の熱線式流量計10の出力特性と従来の熱線式流量計の出力特性を示す図であり、同図中、グラフg0が、従来の熱線式流量計、つまり、絞り壁121aを設けていない熱線式流量計の出力特性の一例を示し、グラフg1~g3が、本実施形態の熱線式流量計10の出力特性の一例を示している。そして、グラフg1~g3は、それぞれ、上記角度aを10°,20°,30°に設定したときの、熱線式流量計10の出力特性を示している。
【0048】
図2から分かるように、グラフg0では、被計測流体の流量がF1までは単調に増加するものの、流量F1から流量F2にかけて減少に転じ、さらに、流量F2を超えると再び増加に転じている。これに対し、グラフg1~g3では、被計測流体の流量がF1からF2の間でも、熱線式流量計10の出力は、減少に転じることなく単調増加を維持している。
【0049】
このように、実験結果からも明らかな通り、少なくとも、角度aが10°から30°までの範囲であれば、絞り壁121aを形成したことによる、被計測流体の流れの乱れを抑制する効果が得られている。
【0050】
上記距離bと上記距離cとの比、b:cは、1:1から2:1までの範囲に設定する。この理由は、まず、b:c=1:1のとき、つまり、熱線式流量センサ100を絞り壁121aの大棟部と、これに対向する流路120の内壁121との間の中央に設置したときは、当該中央の流速変化は大きいので、熱線式流量センサ100の出力変化も大きくとれるからである。
【0051】
しかし、熱線式流量センサ100は、被計測流体の流速が速くなると、感度(流量変化に対する出力変化)の低下や、測定不能(流量変化と出力変化の関係が単純な増減とならない)となる。
【0052】
一方、被計測流体の流速は、流路120の内壁121に近づくほど遅くなる。したがって、熱線式流量センサ100を内壁121に近づけると、熱線式流量センサ100によって測定される被計測流体の流速が遅くなり、流量範囲を広げることができる。
【0053】
しかし、熱線式流量センサ100を内壁121に近づけすぎると、熱線式流量センサ100が流路120の構造による温度影響を受けてしまう。さらに、気泡が熱線式流量センサ100の裏面と内壁121との間についた際、熱線式流量センサ100の裏面と内壁121との間の流速が遅いため、気泡が除去され難くなって、熱線式流量計10の出力に影響を及ぼすことがある。
【0054】
したがって、流路120の高さdが3~20mmの範囲では、b:cは、2:1までに限定して設定する。
【0055】
次に、上記距離bと上記距離cとの和と上記高さdとの比、b+c:dは、1:1.5から1:4までの範囲に設定する。
【0056】
流路120を角度を設けて絞ると、熱線式流量センサ100の表面に被計測流体の流れが沿うようになり、測定可能な流量範囲が広がる一方、絞りすぎると、熱線式流量センサ100の表面での流速が速くなり、感度(流量変化に対する出力変化)が低下するため、流量範囲が狭くなる。熱線式流量センサ100付近の平均流速を約1.0m/s以下に抑えることで、良好な感度を得ることができる。
【0057】
本実施形態の熱線式流量計10では、流路120の高さdが3~20mmの範囲であり、流量範囲が300ml/min以下であると想定すると、被計測流体の平均流速が約1.0m/s以下となるように、b+c:dは、1:1.5から1:4までの範囲に設定する。
【0058】
次に、上記頂点eは、鋭角である場合、大棟部で被計測流体の剥離が生ずるため、丸みを帯びた形状にする必要がある。具体的には、当該大棟部の曲率半径は、上記高さdの1/10以上に設定する。
【0059】
以上のようにして、本実施形態の熱線式流量計10には、被計測流体が流れる管状の流路120と、当該流路120内に配置された熱線式流量センサ100とが設けられている。
【0060】
熱線式流量センサ100は、シリコン基板110と、当該シリコン基板110上に形成されたヒータ101と、当該シリコン基板110上に当該ヒータ101を中心としてその両側に対称に配置形成された2つの第1及び第2熱感知素子102,103と、当該基板上、当該各熱感知素子の外側に、前記ヒータを中心として対称に配置形成された2つの第1及び第2流体温度測定素子104,105とを備えている。
【0061】
流路120は、その内壁からせり出して流路を絞る絞り壁121aを備えている。そして、絞り壁121aは、切妻屋根形状であって、その大棟部が被計測流体の流れ方向に対して垂直に位置するように形成され、さらに、当該大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成されている。
【0062】
熱線式流量センサ100は、絞り壁121aの大棟部と当該大棟部に対向する流路120の内壁121との間であって、上記垂直面がヒータ101と交差する位置にあって、被計測流体がその流れに従って、第1流体温度測定素子104、第1熱感知素子102、ヒータ101、第2熱感知素子103及び第2流体温度測定素子105の順、あるいは第2流体温度測定素子105、第2熱感知素子103、ヒータ101、第1熱感知素子102及び第1流体温度測定素子104の順に接触して行くような方向に設置される。
【0063】
本実施形態の熱線式流量計10によれば、絞り壁121aにより流路120を絞るようにしたので、被計測流体の流量が増大し、流速が速くなっても、熱線式流量センサ100の表面に被計測流体の流れが沿うようになる。これにより、被計測流体の流量の増加に対して、本実施形態の熱線式流量計10の出力が単調増加する範囲が広がり、広い流量範囲の計測が可能となる。
【0064】
また、本実施形態の熱線式流量計10では、絞り壁121aは、当該絞り壁121aの大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する垂直面に対して面対称となるように形成され、さらに、熱線式流量センサ100も当該垂直面に対して面対称となるように配置したので、被計測流体の熱線式流量センサ100表面に対する流れが、順逆両方向で同一になって、どちらからでも流量測定を行うことができるようになった。
【0065】
また、本実施形態の熱線式流量計10では、絞り壁121aの大棟部は、丸みを帯びた形状であるので、当該大棟部での被計測流体の剥離の発生を抑制することができる。
【0066】
さらに、本実施形態の熱線式流量計10では、絞り壁121aの上記大棟部は、流路120の高さdの1/10以上の曲率半径を有するので、当該大棟部での被計測流体の剥離の発生をさらに抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態の熱線式流量計10では、絞り壁121aに含まれる各屋根面は、当該大棟部を含み、被計測流体の流れ方向に対する水平面を基準として、仰角が10°から30°までの範囲の傾斜をなしているので、絞り壁121aを形成したことによる、被計測流体の流れの乱れを抑制する効果が得られる。
【0068】
さらに、本実施形態の熱線式流量計10では、上記距離b+上記距離c:上記高さdは、1:1.5から1:4までの範囲に設定されているので、流路120の高さdが3~20mmの範囲であり、流量範囲が300ml/min以下であると想定すると、被計測流体の平均流速が約1.0m/s以下となり、熱線式流量センサ100の感度を良好に保つことができる。
【0069】
また、本実施形態の熱線式流量計10では、上記距離b:上記距離cは、1:1から2:1までの範囲に設定されているので、被計測流体が熱線式流量センサ100の表面を流れる流速を所定の範囲内に制限して、熱線式流量センサ100の感度を保ちつつ、測定可能な流量範囲を可及的に広げることができる。
【0070】
ちなみに、本実施形態において、シリコン基板110は、「基板」の一例である。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0072】
(1)本実施形態では、シリコン基板110を用いたが、これに限らず、基板は、シリコン以外の半導体材料で形成してもよいし、半導体材料以外の材料で形成してもよい。
【0073】
(2)本実施形態では、熱感知素子は、ヒータ101の両側に1つずつ形成されているが、この個数は、1つに限らず、2つ以上であってもよい。ただし、本発明では、一方の側に形成される熱感知素子の個数と他方の側に形成される熱感知素子の個数は、同じにする必要があり、かつ、それぞれの側の各熱感知素子は、ヒータ101を中心にして、対称となる位置に形成される必要がある。
【符号の説明】
【0074】
10 熱線式流量計
100 熱線式流量センサ
101 ヒータ
102 第1熱感知素子
103 第2熱感知素子
110 シリコン基板
120 流路
121 内壁
121a 絞り壁
図1
図2
図3
図4
図5