(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】原子炉冷却系配管温度分布測定システム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/02 20060101AFI20220210BHJP
G21C 17/112 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G21C17/02 100
G21C17/112
(21)【出願番号】P 2018545338
(86)(22)【出願日】2017-02-03
(86)【国際出願番号】 US2017016329
(87)【国際公開番号】W WO2017155643
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-01-21
(32)【優先日】2016-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】カルバハル、ジョージ、ブイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(72)【発明者】
【氏名】アーリア、ニコラ、ジー
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター、メリッサ、エム
(72)【発明者】
【氏名】フラマング、ロバート、ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス、マイケル、エー
(72)【発明者】
【氏名】スミーゴ、デヴィッド、エム
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06480793(US,B1)
【文献】特開昭63-218897(JP,A)
【文献】国際公開第96/036970(WO,A1)
【文献】特開昭53-070889(JP,A)
【文献】特開平01-084190(JP,A)
【文献】特開昭61-241693(JP,A)
【文献】特表2014-503070(JP,A)
【文献】特開2010-276564(JP,A)
【文献】特開2014-235099(JP,A)
【文献】特開平07-260597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
G21C 7/04
G21C 7/22
G21D 3/08
G01K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉システムであって、
原子炉容器(10)と、
当該原子炉容器(10)内に収容され、原子炉冷却材に浸されており、当該原子炉冷却材を加熱するように構成された複数の原子燃料集合体(22)から成る炉心(14)と、
熱利用機構(18)および原子炉容器と流体連通関係にあり、当該原子炉冷却材を当該原子炉容器(10)から当該熱利用機構を介して当該原子炉容器へ還流させる一次冷却材ループ配管系(20)と、
当該一次冷却材ループ配管系(20)と流体連通関係にあり、当該原子炉冷却材を当該一次冷却材ループ配管系(20)に追加したり、当該一次冷却材ループ配管系(20)から抽出したりする補助配管系(21)と、
当該一次冷却材ループ配管系(20)または当該補助配管系(21)の外部表面上の第1の場所に音響結合され、当該原子炉冷却材を介して音響パルスを送信するように構成された音響送信器(56)と、
当該一次冷却材ループ配管系(20)または当該補助配管系(21)の外部表面上の、当該第1の場所とは実質的に直径方向反対側にある第2の場所に音響結合され、当該音響パルスを受信するように構成された音響受信器(58)と、
当該一次冷却材ループ配管系(20)または当該補助配管系(21)の中の当該原子炉冷却材の流速を測定し、当該流速を示す出力を伝搬するように構成された流量計(82)および当該原子炉冷却材のホウ素濃度を測定し、当該ホウ素濃度を示す出力を伝搬するように構成されたホウ素濃度計(84)の少なくとも1つと、
当該音響送信器(56)と、当該音響受信器(58)と、当該流量計(82)および当該ホウ素
濃度計(84)の少なくとも1つとに接続され、当該音響送信器による当該音響パルスの発信と当該音響受信器による当該音響パルスの受信との間の時間差と、当該流量計(82)の出力および当該ホウ素
濃度計(84)の出力の少なくとも1つとに基づいて、当該原子炉冷却材の温度を求めるように構成された音響制御システム(80)
とから成る原子炉システム。
【請求項2】
請求項1の原子炉システムであって、当該原子炉システムは、
前記一次冷却材ループ配管系(20)または前記補助配管系(21)の前記外部表面上の第3の場所に音響結合され、前記原子炉冷却材を介して第2の音響パルスを送信するように構成された第2の音響送信器(56)と、
前記一次冷却材ループ配管系(20)または前記補助配管系(21)の外部表面上の、前記第3の場所とは実質的に直径方向反対側にある第4の場所に音響結合され、前記第2の音響パルスを受信するように構成された第2の音響受信器(58)とから成り、
前記音響制御システム(80)は、当該第2の音響送信器(56)および当該第2の音響受信器(58)にも接続され、当該第2の音響送信器による当該第2の音響パルスの発信と当該第2の音響受信器による当該第2の音響パルスの受信との間の第2の時間差を求めて、当該第2の時間差を当該原子炉冷却材の温度に相関させるように構成されていること
を特徴とする原子炉システム。
【請求項3】
前記音響パルスが超音波パルスである、請求項1の原子炉システム。
【請求項4】
前記音響制御システムが
前記流量計(82)の出力により前記温度を前記原子炉冷却材の流速の変化に対して補償することを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項5】
前記音響制御システムが前記ホウ素濃度計(84)の出力により前記温度を前記原子炉冷却材のホウ素濃度の変化に対して補償することを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項6】
前記一次冷却材ループ配管系(20)が前記一次冷却材ループ配管系(20)のホットレグである、請求項1の原子炉システム。
【請求項7】
前記一次冷却材ループ配管系(20)が前記一次冷却材ループ配管系(20)のコールドレグである、請求項1の原子炉システム。
【請求項8】
前記音響送信器(56)および前記音響受信器(58)は固体真空マイクロエレクトロニクスデバイスから成る、請求項1の原子炉システム。
【請求項9】
前記音響送信器(56)および前記音響受信器(58)は、前記一次冷却材ループ配管系(20)または前記補助配管系(21)の壁と熱連通関係にある熱接点を有する熱電発電装置(68)から給電される、請求項1の原子炉システム。
【請求項10】
前記音響送信器(56)からの前記音響パルスおよび前記音響受信器(58)からの出力は無線送信器(60)に接続され、前記音響送信器からの前記音響パルスおよび前記音響受信器からの前記出力は前記音響制御システム(80)に無線送信されることを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項11】
前記無線送信器(60)は固体真空マイクロエレクトロニクスデバイスから成る、請求項10の原子炉システム。
【請求項12】
前記音響パルスは連続するパルス流である、請求項1の原子炉システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して軽水型原子炉に関し、具体的には、原子炉冷却系配管内の原子炉冷却材の温度をリアルタイムで監視するための計装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水で冷却される原子炉発電システムの一次側は、有用エネルギーを発生させるための二次側から隔離されているが当該二次側と熱交換関係にある閉回路を構成する。一次側は、核分裂性物質を含む複数の燃料集合体と当該燃料集合体を支持する炉心内部構造とを収容する原子炉容器、熱交換蒸気発生器内の一次回路、加圧器の内部空間、加圧水を循環させるポンプおよび配管類を含み、これらの配管類は蒸気発生器およびポンプをそれぞれ独立に原子炉容器に接続する。原子炉容器に接続される蒸気発生器、ポンプおよび配管系から成る一次側の各部は、一次側ループを形成する。
【0003】
説明の目的のために、
図1は、蓋体12を備え、炉心14を収容する、ほぼ円筒形の原子炉圧力容器10(
図2にも示す)を含む原子炉一次系を簡略化して示す。水などの原子炉冷却材は、ポンプ16により、原子炉冷却材ループ配管20のコールドレグ23から容器10に圧入されたあと炉心14を通過するが、その過程で熱エネルギーを吸収し、一般的に蒸気発生器と呼ばれる熱交換器18へ送られる。その熱エネルギーは蒸気駆動タービン発電機のような利用回路(図示せず)へ運ばれる。原子炉冷却材はその後、ポンプ16へ還流して、一次ループが完成する。一般的に、上述のようなループが複数個、冷却材配管20により単一の原子炉容器10に接続されている。これらのループのうち少なくとも1つは、通常、充てんライン21を介して原子炉冷却材ループ配管20のホットレグ25に接続された加圧器19を有する。
【0004】
図2は原子炉の一例をさらに詳細に示すものである。炉心14は互いに平行かつ垂直に延びる複数の燃料集合体22より成るが、その他の容器内構造物は、説明の目的で、下部炉内構造物24と上部炉内構造物26とに分けることができる。従来設計の下部炉内構造物は、炉心コンポーネントおよび計装体を支持し、整列させ、案内するとともに、容器内の冷却材の流れ方向を定める機能を有する。上部炉内構造物は、燃料集合体22(簡略化のため2つだけ図示)を拘束し、すなわち燃料集合体に二次的拘束手段を提供し、計装体と例えば制御棒28のようなコンポーネントを支持し、案内する。
図2に例示する原子炉において、冷却材は1つ以上の入口ノズル30から原子炉容器10に流入し、当該容器と炉心槽32との間に画定される環状部を流下し、下部プレナム34で180度方向転換し、下部支持板37および燃料集合体22が着座する下部炉心板36を上向きに貫流したあと、当該集合体の内部および周りを流動する。下部支持板37および下部炉心板36の代わりに、単一構造の下部炉心支持板を下部支持板37と同じ高さに配置する設計もある。炉心14とその周辺領域38を貫流する冷却材の流量は通常、毎秒約
6.1メートル(20フィート
)の流速で毎分
1,514立法メートル(400,000ガロン
)級の大きなものである。燃料集合体はその流れに起因する圧力降下と摩擦力によって持ち上げられる傾向にあるが、その動きは円形の上部炉心板40を含めた上部炉内構造物26により抑制される。炉心14を出た冷却材は上部炉心板40の下面を流れ、複数の穴42から上昇する。冷却材はその後、上方および半径方向に流れて1つ以上の出口ノズル44へ到達する。
【0005】
上部炉内構造物26は、その一部である上部支持集合体46を介して容器10または容器蓋体12に支持される。荷重は、上部支持集合体46と上部炉心板40との間を主として複数の支柱48によって伝えられる。支柱は、所定の燃料集合体22および上部炉心板40の穴42の上方において一直線に並んだ位置にある。
【0006】
直線方向に移動可能な制御棒28は一般的に駆動軸50と中性子毒物棒28のスパイダ集合体52とを含むが、中性子毒物棒は制御棒案内管54により上部炉内構造物26を通り抜け、整列関係にある燃料集合体22内へ案内される。案内管は、上部支持集合体46に固定され、上部炉心板40の最上部に接続されている。制御棒は、中性子毒物棒を炉心内の燃料集合体の中の案内シンブルに出し入れすることにより、炉心内の核反応の勢いを制御する。原子炉冷却水に溶存するホウ素にも核反応を制御する役目があり、制御棒よりも緩やかに反応度を変化させることができる。反応度を変えることによって、原子炉運転員は炉心内の冷却材の温度を変えることができる。
【0007】
炉心内の核反応の状態を追跡するために使用される原子炉計装システムでは、超過圧力時温度差(OPΔT)や超過温度時温度差(OTΔT)などの運転パラメータを計算するに当たり、高精度の温度測定が必要である。原子炉冷却系(RCS)のホットレグ25およびコールドレグ23配管内の流体の温度測定は通常、
図3に示すように配管の外周66に約120度の間隔で3つの測温抵抗体(RTD)74を設置することにより行う(6つのRTDを約60度の間隔で設置する場合もある)。RTD素子74をサーモウェル76内に設置すると、RTDをサーモウェルの金属界面を介して冷却水と物理的に接触させるとともに水流の衝撃から保護することができる。RTDとサーモウェルの界面は、基本的に熱水力フィルターとして機能する。
【0008】
通例、システムの温度値は、3つのRTD74をサンプリングすることにより得られる。RTD信号はまず、プロセスノイズと電気的ノイズを減らすためにフィルターにかけられる。初期フィルタリングの後、混合平均温度に基づく流動補正を行う。初期フィルタリングと流動補正の結果得られる3つの信号を比較し、その結果に応じて、1つの信号を後続のプロセスから除外することができる。
【0009】
RTDを用いる現行の測温計装体には、混合平均温度を求める際の応答時間が長く精度が低いという2つの主要な課題がある。典型的な応答時間は約2~4秒である。この応答時間は、RTDとサーモウェルの界面の熱力学特性に起因する。RTD計装体に由来する応答時間はシステムの総応答時間に加算される。
【0010】
混合平均温度は、現行のRTD計装体による測定に難題を提供するパラメータであり、高い測定精度の達成は容易ではない。原子炉冷却系のホットレグ25およびコールドレグ23の流体は、乱流で十分に混じり合っていないため、冷却材の温度には大きなバラツキがある。
図4に示すように、ホットレグ内には
摂氏-3.9度(華氏25度
)を超える瞬時温度差が存在する。この急速な温度の変動は、許容誤差が必要とされる別の要因である。RTD74は、乱流の温度をその内部の離散する点に限り測定するため、前述したように、測定温度の値が不正確で、急激に変化することがある。
【発明の概要】
【0011】
上述の問題は、センサ設置場所における原子炉冷却材の混合平均温度をリアルタイムで測定する原子炉システムによって克服される。この原子炉システムは、原子炉容器と、当該原子炉容器内に収容され、原子炉冷却材に浸されており、当該原子炉冷却材を加熱するように構成された複数の原子燃料集合体から成る炉心と、熱利用機構および原子炉容器と流体連通関係にあり、当該原子炉冷却材を当該原子炉容器から当該熱利用機構を介して当該原子炉容器へ還流させる一次冷却材ループ配管系と、当該一次冷却材ループ配管系と流体連通関係にあり、当該原子炉冷却材を当該一次冷却材ループ配管系に追加したり、当該一次冷却材ループ配管系から抽出したりする補助配管系とから成る。音響送信器が、当該一次冷却材ループ配管系または当該補助配管系の外部表面上の第1の場所に音響結合され、当該原子炉冷却材を介して音響パルスを送信するように構成されている。当該音響パルスは、連続するパルス信号であるのが好ましい。音響受信器が、当該一次冷却材配管系または当該補助配管系の外部表面上の、当該第1の場所とは実質的に直径方向反対側にある第2の場所に音響結合され、当該音響パルスを受信するように構成されている。音響制御システムが、当該音響送信器および当該音響受信器に接続され、当該音響送信器による当該音響パルスの発信と当該音響受信器による当該音響パルスの受信との間の時間差を求めて、当該時間差を当該原子炉冷却材の温度に相関させるように構成されている。
【0012】
一実施態様において、当該原子炉システムはさらに、前記一次冷却材ループ配管系または前記補助配管系の前記外部表面上の第3の場所に音響結合され、前記原子炉冷却材を介して第2の音響パルスを送信するように構成された第2の音響送信器と、前記一次冷却材配管系または前記補助配管系の外部表面上の、前記第3の場所とは実質的に直径方向反対側にある第4の場所に音響結合され、前記第2の音響パルスを受信するように構成された第2の音響受信器とから成る。この後者の実施態様において、当該音響制御システムは、当該第2の音響送信器および当該第2の音響受信器にも接続され、当該第2の音響送信器による当該第2の音響パルスの発信と当該第2の音響受信器による当該第2の音響パルスの受信との間の第2の時間差を求めて、当該第2の時間差を当該原子炉冷却材の温度に相関させるように構成されている。
【0013】
好ましくは、当該音響パルスは超音波パルスであり、本発明のシステムは、当該一次冷却材配管系または当該補助配管系の中の当該原子炉冷却材の流速を測定し、当該流速を示す出力を当該音響制御システムに伝搬するように構成された流量計を具備し、当該音響制御システムは当該流量計の出力により当該温度を当該原子炉冷却材の流速の変化に対して補償する。別の実施態様において、本発明のシステムは、当該原子炉冷却材のホウ素濃度をリアルタイムで測定して当該濃度を示す出力を提供するように構成されたホウ素濃度計を具備し、当該音響制御システムは、入力される当該ホウ素濃度計の出力により当該温度を当該原子炉冷却材のホウ素濃度の変化に対して補償する。
【0014】
そのような一構成において、当該一次冷却材配管系または当該補助配管系は、当該一次冷却材配管系のホットレグである。別のそのような一構成において、当該一次冷却材配管系または当該補助配管系は、当該一次冷却材配管系のコールドレグである。好ましくは、当該音響送信器および当該音響受信器は固体真空マイクロエレクトロニクスデバイスにより構成され、当該音響送信器および当該音響受信器は、当該一次冷却材配管系または当該補助配管系の壁と熱連通関係にある熱接点を有する熱電発電装置から給電される。当該熱連通関係は当該配管を取り囲む断熱材を貫通するヒートパイプによるものであり、当該熱電発電装置は当該断熱材の外側に配置するのが望ましい。
【0015】
当該音響送信器からの送信パルスおよび当該音響受信器からの出力は無線送信器に接続され、当該音響送信器からの当該送信パルスおよび当該音響受信器からの当該出力は当該音響制御システムに無線送信されるのが望ましい。当該無線送信器は固体真空マイクロエレクトロニクスデバイスにより構成されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0017】
【
図1】本発明を適用できる原子炉システムを単純化して示す概略図である。
【0018】
【
図2】本発明を適用できる原子炉容器および内部構成機器の部分断面立面図である。
【0019】
【
図3】RTDが配管の外周に120度の間隔で設置された従来型RTDシステムの概略図である。
【0020】
【
図4】ホットレグ配管内の温度のバラツキを例示するグラフである。
【0021】
【
図5】本発明の一実施態様である装置をブロック形式で示す例示的な原子炉システム配管の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい一実施態様は、
図5に示すように、RCSのホットレグ配管25またはコールドレグ配管23の外周に互いに180度離隔して配置された複数の超音波送信器56および受信器58を使用する。熱電発電装置(TEG)68を電源とし固体真空マイクロエレクトロニクスデバイスを用いる信号ドライバ78は、配管23、25、21およびその中を流れる水を伝播する連続的な超音波信号を送信する。熱電発電装置68は配管表面66と熱連通関係にあり、当該熱電発電装置の熱接点は、配管断熱材64の外側に支持され、ヒートパイプ70の一方の端部に熱接触している。ヒートパイプ70のもう一方の端部は、断熱材を貫通し、配管表面66上に熱接触して支持されている。配管の反対側で超音波受信器58が受信する信号は、無線送信器60によって、別の場所の基地局にある無線受信器62へ無線送信され、無線受信器から音響制御システム80へ送られて、そこで後処理を施される。原子炉冷却系配管を通過する信号の伝搬速度は、配管内を流れる水の温度変化に伴って変化するため、配管内を流れる冷却材の温度と信号の伝搬速度との間には相関関係がある。センサ、信号処理および無線送信用電子装置の好ましい実施態様は、真空マイクロエレクトロニクスデバイスを用いる電子回路および部品を利用する。このデバイスを用いる電子回路および部品の性質により、これらの装置の重要な機能をミクロスケールの真空管技術によって代替させることができるが、この技術は放射線による損傷および非常に高い温度に事実上影響されない性能を有することが判明している。真空マイクロエレクトロニクスデバイスを用いる無線送信器技術の応用例の一つが、「Wireless In-Core Neutron Monitor」と題する米国特許第8,767,903号に開示されている。SSVDと呼ばれるそのようなデバイスは、ユタ州ソルトレイクシティーに所在のInnosys社から市販されている。そのようなデバイスの一例が、米国特許第7,005,783号に記載されている。超音波信号の速度は、配管中の水の流速によっても変わることがあるため、本発明のシステムは適宜この変数を補償することに留意され
たい。冷却材の平均流速は、エルボータップのΔΡ測定値から導出される平均流量から求められる。プラントでは出力運転時におけるポンプの運転速度が一定なので、このパラメータは総合測定値に有意な影響を与えない。それでも、温度の測定精度を高めるために、従来型原子炉システム内の既存の冷却材流量計の出力によりこの影響を補償することができる。
図5のブロック82で略示するように、そのような流量計の出力を音響制御システム80へ無線送信することができる。同様に、原子炉冷却材中のホウ素濃度が変化すると、冷却材中の音速に影響が及ぶ。
図5のブロック84で略示するホウ素濃度計を用いると、冷却材のホウ素濃度を示す出力を音響制御システム80へ無線送信して、混合平均温度をホウ素濃度の変化に対して補償することができる。この目的のために、監視位置における冷却材のホウ素濃度を検出して、当該濃度を示す出力を送信できるホウ素濃度計を用いることが可能であるが、そのような濃度計の一例が、同時提出の「Real-Time Reactor Coolant System Boron Concentration Monitor Utilizing An Ultrasonic Spectroscopy System」と題する米国特許
出願第
15/066,607号(
米国特許出願公開第2017/0263342号として公開されている)に記載されている。
【0023】
ハードウェアの設置に先立ち、ノイズや干渉の発生源がないことを確かめるための電磁干渉(EMI)実地調査を行う。RCS配管の設置場所において未使用の周波数帯域を占有するように、データの無線送信周波数を選ぶ。受信した測定信号を必要に応じてフィルターにかけることにより、送信信号の精度に影響を与える電気的干渉や関連する他の問題が極力抑えられるようにする。超音波信号ドライバ78、超音波信号受信器58および無線データ送信器60が必要とする直流電力72は、ヒートパイプに接続された温接点とヒートパイプの反対側にある冷接点とを有する1つ以上の熱電発電装置68により発生させる。真空マイクロエレクトロニクスデバイスを用いる超音波信号機器および無線データ送信器は、必要であれば従来型ケーブルによって給電できることに留意され度い。同様に、測定データも従来型ケーブルにより送信できる。典型的な加圧水型原子炉(PWR)は、
15,168,466N/m
2
(2,220psig
)および
摂氏330度(華氏626度
)で運転される。N.Bilaniuk and G.S.K.Wongによる1993年の論文「Speed of sound in pure water as a function of temperature」J.Acoust.Soc.Am.93(3),pp1609-1612、および1996年の誤記訂正「Erratum:Speed of sound in pure water as a function of temperature[J.Acoust.Soc.Am.93(3),1609-1612(1993)]」J.Acoust.Soc.Am.99(5),p3257に記載されたN.BilaniukおよびG.S.K.Wongのモデルによると、
摂氏100度(華氏212.00度
)および
摂氏100.1度(華氏212.18度
)の水中における音速は、それぞれc=
1,543.1メートル/秒(5,062.664フィート/秒
)および
1,543メートル/秒(5,062.336フィート/秒
)である。下記式1を用いて、信号の伝搬時間を計算できる。
【数1】
上式において、dは管径、cは所与の温度での水中の音速である。典型的な
0.787メートル(31インチ
)RCS配管における
摂氏100度(華氏212.00度
)と
摂氏100.1度(華氏212.18度
)の間の温度変化(温度差摂氏0.1度)は、音速に
0.01メートル/秒(0.328フィート/秒
)の変化をもたらし、その結果、伝搬時間が33ナノ秒変化する。信号を受信する基地局は、33ナノ秒の信号受信時間の変化を識別するために、クロック周波数1,000MHzの市販の超安定水晶発振器を使用する。
【0024】
上述の計装体および方法論を用いると、従来型システムに比べて2つの重要な特性が改善する。1つ目は、混合平均温度の精度である。RCS配管内の流れが十分に混じり合っていないことは、本発明で提案する計装体の種類や方法論に影響を与えないが、その理由は、本発明のシステムが離散的な測定値に依らないからである。代わりに、配管の一方の側からもう一方の側への超音波パルスの時間遅延を測定することにより、当初から平均値を測定する。最終的に得られる温度測定値は、音響信号における楕円体体積86の平均温度を表す。2つ目は、応答時間である。本発明のシステムは、サーモウェルとRTDの界面からの応答時間が熱力学的に遅い点を克服し、応答時間を約3秒からわずか数百ミリ秒へ有意に向上させる。これは、超音波信号の伝搬時間、SSVDの標準応答時間および基地局電気回路の応答時間が数百ミリ秒の枠内にあるためである。
【0025】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。