(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】接合材及び炭化珪素系ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
C04B 37/00 20060101AFI20220210BHJP
C04B 35/565 20060101ALI20220210BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20220210BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20220210BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20220210BHJP
C04B 41/85 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C04B37/00 A
C04B35/565
C04B38/06 E
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B41/85 D
(21)【出願番号】P 2019061681
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/014199(WO,A1)
【文献】特開2004-130176(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119407(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/125713(WO,A1)
【文献】特開2015-187044(JP,A)
【文献】特開2017-178722(JP,A)
【文献】特開2011-161425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
C04B 35/565
C04B 38/00-38/10
B01D 39/20
B01D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭化珪素系ハニカムセグメントの側面を接合して炭化珪素系ハニカム構造体を製造するために用いられる接合材であって、
前記炭化珪素系ハニカムセグメント及び/又は前記炭化珪素系ハニカム構造体
の加工粉を0.1~50質量%含有し、
前記加工粉の平均粒径D50が0.5~60μmである接合材。
【請求項2】
前記加工粉のD10が0.1~10μmである、請求項1に記載の接合材。
【請求項3】
前記加工粉のD90が4~150μmである、請求項1又は2に記載の接合材。
【請求項4】
無機粉末、無機繊維、造孔材、バインダ及び分散剤から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合材。
【請求項5】
複数の炭化珪素系ハニカムセグメントと、複数の前記炭化珪素系ハニカムセグメントの側面間を接合する接合層とを備える炭化珪素系ハニカム構造体であって、
前記接合層が、請求項1~4のいずれか一項に記載の接合材の硬化層である炭化珪素系ハニカム構造体。
【請求項6】
前記接合層の接合強度が200~2000kPaである、請求項5に記載の炭化珪素系ハニカム構造体。
【請求項7】
前記接合層のヤング率が4~100MPaである、請求項5又は6に記載の炭化珪素系ハニカム構造体。
【請求項8】
前記接合層の気孔率が40~85%である、請求項5~7のいずれか一項に記載の炭化珪素系ハニカム構造体。
【請求項9】
前記接合層の熱膨張係数が2.0×10
-6~8.0×10
-6/Kである、請求項5~8のいずれか一項に記載の炭化珪素系ハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材及び炭化珪素系ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスの集塵用フィルタ、例えば、排ガスに含まれる粒子状物質(パティキュレート)を捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)やガソリンパティキュレートフィルター(GPF)として、ハニカム構造体が広く使用されている。
このような用途に用いられるハニカム構造体としては、例えば、複数の炭化珪素系ハニカムセグメントと、各炭化珪素系ハニカムセグメントの側面間を接合する接合層とを備える炭化珪素系ハニカム構造体が知られている。ここで、炭化珪素系ハニカム構造体とは、炭化珪素を主成分とする材質のハニカム構造体を意味し、再結晶SiCのように炭化珪素のみからなる材質や、炭化珪素と、金属珪素、ガラスなどの他の成分とが複合化した材質のハニカム構造体が包含される。接合層は、炭化珪素粉末やアルミナ粉末などの無機粉末、ムライト繊維などの無機繊維、中空粒子などの造孔剤、バインダ、分散剤などを含む接合材を用いて形成される(例えば、特許文献1)。
【0003】
他方、上記のような炭化珪素系ハニカム構造体の製造では、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に加工粉が発生する。加工粉としては、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体を研削して所定形状にする際に発生する研削粉や、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の不良品などを粉砕したものなどが例示される。このような加工粉は、炭化珪素系ハニカムセグメントの製造において再利用されることがあるが、それ以外の用途での再利用はあまり進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素系ハニカム構造体の接合層には、接合強度が高く且つヤング率が低いことが要求されるが、接合層の接合強度を高めると、接合層のヤング率も上昇するというトレードオフの関係がある。接合層のヤング率が高くなると、熱応力を緩和する機能が発現し難くなるため、炭化珪素系ハニカム構造体の耐久性が十分に確保されない。
そのため、炭化珪素系ハニカム構造体の接合層の形成に用いられる接合材は、接合強度が高く且つヤング率が低くなるようにすべく、使用される成分の種類や含有量が細かく規定されており、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に発生する加工粉を接合材において有効利用することは難しいと考えられていた。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に発生する加工粉を有効利用することができる接合材及び炭化珪素系ハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、炭化珪素系ハニカムセグメント及び/又は炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に発生する加工粉の含有量及び平均粒径D50が、接合層の接合強度及びヤング率と密接に関係していることに着目し、これらを制御することにより、当該加工粉を接合材に有効利用し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、複数の炭化珪素系ハニカムセグメントの側面を接合して炭化珪素系ハニカム構造体を製造するために用いられる接合材であって、前記炭化珪素系ハニカムセグメント及び/又は前記炭化珪素系ハニカム構造体の加工粉を0.1~50質量%含有し、前記加工粉の平均粒径D50が0.5~60μmである接合材である。
【0009】
また、本発明は、複数の炭化珪素系ハニカムセグメントと、複数の前記炭化珪素系ハニカムセグメントの側面間を接合する接合層とを備える炭化珪素系ハニカム構造体であって、前記接合層が、前記接合材の硬化層である炭化珪素系ハニカム構造体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に発生する加工粉を有効利用することができる接合材及び炭化珪素系ハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭化珪素系ハニカム構造体の斜視図及びその部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る接合材は、複数の炭化珪素系ハニカムセグメントの側面を接合して炭化珪素系ハニカム構造体を製造するために用いられる。
ここで、炭化珪素系ハニカム構造体の斜視図及びその部分拡大図を
図1に示す。
図1に示されるように、炭化珪素系ハニカム構造体10は、複数の炭化珪素系ハニカムセグメント1と、複数の炭化珪素系ハニカムセグメント1の側面間を接合する接合層2とを備える。接合層2は、接合材の硬化層である。
【0014】
炭化珪素系ハニカムセグメント1としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
1つの実施態様において、炭化珪素系ハニカムセグメント1は、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル3を区画形成する隔壁4を備える。炭化珪素系ハニカムセグメント1のセル3が延びる方向に垂直な断面の形状としては、特に限定されず、三角形、四角形、六角形、八角形などの各種形状であることができるが、四角形(正方形又は長方形)であることが好ましい。このような形状の炭化珪素系ハニカムセグメント1とすることにより、炭化珪素系ハニカム構造体10の製造が容易になる。
また、炭化珪素系ハニカムセグメント1のセル3の形状(セル3が延びる方向に垂直な断面におけるセル3の形状)としては、特に限定されず、三角形、四角形、六角形、八角形、円形などの各種形状であることができるが、四角形(正方形又は長方形)であることが好ましい。
【0015】
隔壁4の厚さは、特に限定されないが、好ましくは4~70mil(0.010~0.177cm)、より好ましくは4.5~30mil(0.011~0.076cm)、さらに好ましくは5~20mil(0.013~0.050cm)である。隔壁4の厚さを4mil(0.010cm)以上とすることにより、十分な強度を確保することができる。また、隔壁4の厚さを70mil(0.177cm)以下とすることにより、圧力損失の増大を抑制することができる。そのため、例えば、炭化珪素系ハニカム構造体10をDPFなどに用いる場合には、エンジンの出力低下を抑制することができる。
【0016】
炭化珪素系ハニカムセグメント1のセル密度については、特に限定されないが、好ましくは50~500セル/平方インチ(7.7~77.5セル/cm2)、より好ましくは70~450セル/平方インチ(10.8~69.8セル/cm2)、さらに好ましくは80~400セル/平方インチ(12.4~62.0セル/cm2)である。炭化珪素系ハニカムセグメント1のセル密度を50セル/平方インチ(7.7セル/cm2)以上とすることにより、十分な強度を確保することができる。また、炭化珪素系ハニカムセグメント1のセル密度を500セル/平方インチ(77.5セル/cm2)以下とすることにより、圧力損失の増大を抑制することができる。
【0017】
炭化珪素系ハニカムセグメント1は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、次のようにして製造される。まず、セラミックス原料にバインダ、分散剤(界面活性剤)、造孔材、水などを添加し、混合及び混練して坏土とする。次に、この坏土を所定のハニカム形状となるように押出成形して所望の長さに切断し、次いで、マイクロ波、熱風などによって乾燥した後、焼成する。また、焼成後には、必要に応じて所定形状とするために研削などが行われる。
【0018】
セラミックス原料は、セラミックス原料から形成される無機粉末及び無機繊維である。セラミックス原料としては、炭化珪素系セラミックスを主成分として含むものであれば特に限定されない。ここで、本明細書において主成分とは、全体に占める割合が50質量%を超えることを意味する。炭化珪素系セラミックスとしては、炭化珪素又は珪素-炭化珪素系複合材料が挙げられる。その他のセラミックス原料の例としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、スピネル、炭化珪素-コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、鉄-クロム-アルミニウム系合金などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において「コージェライト化原料」とは、シリカが42~56質量%、アルミナが30~45質量%、マグネシアが12~16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。珪素-炭化珪素系複合材料とする場合、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を混合したものをセラミックス原料とする。セラミックス原料の含有量は、成形原料全体に対して40~90質量%であることが好ましい。
【0019】
バインダとしては、特に限定されないが、コロイダルシリカ(シリカゾル)、アルミナゾル、ベントナイトやモンモリロナイトのような粘土などの無機バインダ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、その他の各種吸水性樹脂などの有機バインダが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
分散剤(界面活性剤)としては、特に限定されないが、オレイン酸PEG、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されないが、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、炭化珪素系ハニカムセグメント1は、炭化珪素系ハニカムセグメント1の2つの端面のうちのいずれか一方の端面において、セル3の一方の端部を目封止する目封止部が形成されていてもよい。通常は、一方の端面と他方の端面とが、相補的な市松模様を呈するように、隣接するセル3を互い違いに目封止する。目封止部の構成材料は、炭化珪素系ハニカムセグメント1との熱膨張差を小さくするため、炭化珪素系ハニカムセグメント1と同じ材料を用いることが好ましい。
【0022】
セル3に目封止部を形成する場合、焼成は、セル3に目封止部を形成する前に行ってもよいし、セル3に目封止部を形成した後で、目封止部の焼成と一緒に行うようにしてもよい。セル3に目封止部を形成する方法としては、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。具体的には、炭化珪素系ハニカムセグメント1の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止しようとするセル3に対応した位置に穴を開け、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、炭化珪素系ハニカムセグメント1の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセル3の開口端部内に目封止用スラリーを充填し、それを乾燥及び/又は焼成して硬化させる。
【0023】
接合材は、炭化珪素系ハニカムセグメント1及び/又は炭化珪素系ハニカム構造体10の製造時に発生する加工粉を0.1~50質量%含有する。加工粉を0.1質量%以上とすることにより、加工粉を接合材に有効利用することができる。また、加工粉を50質量%以下とすることにより、接合強度が良好な接合層2を形成することができる。加工粉の含有量は、加工粉の有効利用の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、加工粉の含有量は、接合層2の接合強度の観点から、好ましくは48質量%以下、より好ましくは45質量%、さらに好ましくは43質量%以下である。
【0024】
ここで、本明細書において、炭化珪素系ハニカムセグメント1の製造時に発生する加工粉とは、炭化珪素系ハニカムセグメント1を研削して所定形状にする際に発生する研削粉や、炭化珪素系ハニカムセグメント1の不良品などを粉砕したものを意味する。また、本明細書において、炭化珪素系ハニカム構造体10の製造時に発生する加工粉とは、炭化珪素系ハニカム構造体10を研削して所定形状にする際や、端面を研削して平滑化する際に発生する研削粉、炭化珪素系ハニカム構造体10不良品などを粉砕したものを意味する。
【0025】
加工粉は、平均粒径D50が0.5~60μmである。加工粉の平均粒径D50を当該範囲とすることにより、接合層2に要求される接合強度及びヤング率を確保することができる。加工粉の平均粒径D50は、接合層2の接合強度及びヤング率の観点から、好ましくは0.8μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上である。同様に、加工粉の平均粒径D50は、接合層2の接合強度及びヤング率の観点から、好ましくは58μm以下、より好ましくは56μm以下、さらに好ましくは55μm以下である。
ここで、本明細書において、平均粒径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた累積粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒径を意味する。
【0026】
加工粉の平均粒径D10は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.3~9.8μm、さらに好ましくは0.5~9.5μm。このような範囲に加工粉の平均粒径D10を制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
また、加工粉の平均粒径D90は、特に限定されないが、好ましくは4~150μm、より好ましくは5~130μm、さらに好ましくは6~120μmである。このような範囲に加工粉の平均粒径D10を制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
ここで、本明細書において、平均粒径D10及びD90とは、平均粒径D50と同様にレーザー回折・散乱法によって求めた累積粒度分布(体積基準)における積算値10%及び90%での粒径をそれぞれ意味する。
【0027】
接合材は、上記の加工粉の他に、無機粉末、無機繊維、造孔材、バインダ及び分散剤から選択される1種以上をさらに含有することができる。
これらの成分としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。また、これらの成分は、炭化珪素系ハニカムセグメント1に用いられる成分と同一であっても異なっていてもよいが、炭化珪素系ハニカムセグメント1に用いられる成分と同一とすることにより、接合強度及びヤング率が良好な接合層2が形成され易くなる。
【0028】
接合材における無機粉末の含有量は、特に限定されないが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは1~48質量%、さらに好ましくは5~46質量%である。無機粉末の含有量を当該範囲に制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
【0029】
接合材における無機繊維の含有量は、特に限定されないが、好ましくは25質量%以下、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。無機繊維の含有量を当該範囲に制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
【0030】
接合材における造孔材の含有量は、特に限定されないが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは0.1~8質量%、さらに好ましくは1~6質量%である。造孔材の含有量を当該範囲に制御することにより、炭化珪素系ハニカムセグメント1と同程度の気孔率を有し、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
【0031】
接合材におけるバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは15質量%以下、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。バインダの含有量を当該範囲に制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
【0032】
接合材における分散剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.1~1質量%である。分散剤の含有量を当該範囲に制御することにより、接合強度とヤング率とのバランスが良好な接合層2が形成され易くなる。
【0033】
接合材は、上記の成分に水を添加し、ミキサーなどの混練機を使用して混合及び混練してペースト状にすることによって製造することができる。
【0034】
上記のようにして得られる接合材は、炭化珪素系ハニカムセグメント1や炭化珪素系ハニカム構造体10の製造時に発生する加工粉を有効利用することができる。また、この接合材は、接合強度が高く且つヤング率が低い接合層2を与えることができる。さらに、この接合材は、炭化珪素系ハニカムセグメント1や炭化珪素系ハニカム構造体10の製造時に発生する加工粉を用いているため、炭化珪素系ハニカムセグメント1の色調と接合層2の色調とが近くなる。そのため、従来は、色調差が大きいために困難であった自動外観検査機を用いた炭化珪素系ハニカム構造体10の外観不良の検査などを容易に行うことが可能になる。
【0035】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、上記の炭化珪素系ハニカムセグメント1及び接合材を用いて製造される。その製造方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。
具体的には、炭化珪素系ハニカムセグメント1の側面に接合材を塗布して炭化珪素系ハニカムセグメント1の側面間を接合した後、乾燥させることにより、接合材を硬化させて接合層2を形成することができる。乾燥条件としては、接合材の組成に応じて適宜調整すればよいが、60~170℃で0.5~6.0時間乾燥させることが好ましい。また、乾燥は、外部から圧力を加えることにより、炭化珪素系ハニカムセグメント1同士を圧着させながら行ってもよい。
また、全ての炭化珪素系ハニカムセグメント1が接合層2を介して接合された接合体は、必要に応じ、外周部を研削加工するなどして、円柱状などの所望形状に加工してもよい。この場合、加工により外周壁が除去され、内部の隔壁4とセル3が露出した状態となるため、露出面をコーティング材で被覆するなどして外周コート層5を再形成することが好ましい。
【0036】
炭化珪素系ハニカム構造体10の形状は、特に限定されないが、円柱状の他、端面が楕円形の柱状、端面が正方形、長方形、三角形、五角形、六角形などの多角形の柱状などとすることができる。
【0037】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、接合層2の接合強度(せん断強度)が、好ましくは200~2000kPa、より好ましくは300~1500kPa、さらに好ましくは400~1200kPaである。接合層2の接合強度が当該範囲であれば、DPFやGPFなどの各種用途に要求される炭化珪素系ハニカム構造体10の接着強度を確保することができる。
【0038】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、接合層2のヤング率が、好ましくは4~100MPa、より好ましくは5~80MPa、さらに好ましくは6~60MPaである。接合層2のヤング率が当該範囲であれば、DPFやGPFなどの各種用途に要求される熱応力を緩和する機能を十分に確保することができる。
【0039】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、接合層2の気孔率が、好ましくは40~85%、より好ましくは45~83%、さらに好ましくは50~80%である。接合層2の気孔率が当該範囲であれば、接着強度とヤング率とのバランスを確保することができる。
【0040】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、接合層2の熱膨張係数が、好ましくは2.0×10-6~8.0×10-6/K、より好ましくは2.5×10-6~7.5×10-6/K、さらに好ましくは3.0×10-6~7.0×10-6/Kである。接合層2の熱膨張係数が当該範囲であれば、熱応力を緩和する機能を十分に確保することができる。
【0041】
上記のような特徴を有する炭化珪素系ハニカム構造体10は、炭化珪素系ハニカムセグメント1や炭化珪素系ハニカム構造体10の製造時に発生する加工粉を有効利用しているため、製造コストを低減することができる。また、この炭化珪素系ハニカム構造体10は、接合層2の接合強度が高く且つヤング率が低く、熱応力を緩和する機能が確保されているため耐久性が高い。また、この炭化珪素系ハニカム構造体10は、炭化珪素系ハニカムセグメント1の色調と接合層2の色調とが近いため、自動外観検査機を用いた炭化珪素系ハニカム構造体10の外観不良の検査などを容易に行うことも可能になる。
【0042】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、DPF、GPFなどの集塵用フィルタとして用いることができる。集塵用フィルタとして用いる場合、上述したように、炭化珪素系ハニカムセグメント1の2つの端面のいずれか一方の端面において、セル3の一方の端部を目封止する目封止部を形成することが好ましい。通常は、一方の端面と他方の端面とが、相補的な市松模様を呈するように、隣接するセル3を互い違いに目封止する。
【0043】
このように目封止が施された炭化珪素系ハニカムセグメント1から構成される炭化珪素系ハニカム構造体10の一端面よりスートなどのパティキュレートを含む流体を通気させると、流体は、当該一端面側において端部が目封止さていないセル3より炭化珪素系ハニカム構造体10の内部に流入し、濾過能を有する多孔質の隔壁4を通過して、炭化珪素系ハニカム構造体10の他端面側が目封止されていない他の流通孔に入る。そして、この隔壁4を通過する際に流体中のパティキュレートが隔壁4に補足され、パティキュレートが除去された浄化後の流体が炭化珪素系ハニカム構造体10の他端面より排出される。
【0044】
炭化珪素系ハニカム構造体10は、隔壁4の表面や細孔内に触媒を担持させてもよい。触媒としては、特に限定されず、炭化珪素系ハニカム構造体10の用途に応じて選択することができる。例えば、炭化珪素系ハニカム構造体10をDPFとして用いる場合には、排ガス中のススなどを酸化除去するための酸化触媒や、排ガス中に含まれるNOxなどの有害物質を分解除去するためのNOx選択還元触媒(SCR)やNOx吸蔵還元触媒などを用いることができる。触媒の担持方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(炭化珪素系ハニカムセグメントの作製)
原料として、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、バインダ、界面活性剤及び水を加えて混合及び混練して坏土とした。次に、得られた坏土を押出成形して切断し、マイクロ波及び熱風で乾燥することにより、隔壁の厚さが300μm、セル密度が46.5セル/cm2、セルが延びる方向に垂直な断面が一辺38mmの正四角形、長さが152mmの炭化珪素系ハニカムセグメントを得た。
次に、この炭化珪素系ハニカムセグメントは、端面が市松模様を呈するように、各セルの一方の端部を目封止した。なお、セルの端部を目封止するための目封止用スラリーには、ハニカムセグメント原料と同様の材料を用いた。目封止は、充填材を乾燥させた後、炭化珪素系ハニカムセグメントを大気雰囲気中にて400℃で脱脂した後、Ar不活性雰囲気中にて1450℃で焼成することによって行った。
【0047】
(接合材の調製)
表1に示す割合の加工粉、無機粉末、無機繊維、バインダ、造孔剤及び分散剤、並びに残部(合計で100質量%となる割合)の水を配合して混合することによってペースト状の接合材を調整した。加工粉としては、上記の炭化珪素系ハニカムセグメントの切削粉及びその不良品の粉砕粉を使用した。
【0048】
(炭化珪素系ハニカム構造体の作製)
炭化珪素系ハニカムセグメントの側面に、厚さ1mmとなるように接合材を塗布し、別の炭化珪素系ハニカムセグメントの側面と接合した。この工程を繰り返して、縦4個×横4個の炭化珪素系ハニカムセグメントを接合した合計16個の炭化珪素系ハニカムセグメント積層体を作製した。その後、外部から圧力を加えることにより、炭化珪素系ハニカムセグメント同士を圧着させながら、120℃で2時間乾燥させて接合体を得た。次に、得られた接合体の中心軸に垂直な方向の断面が円形となるように、接合体の外周を切削加工した。次に、その加工面に接合材と同じ組成の外周コーティング材を塗布した後、600℃で0.5時間以上加熱することで乾燥及び硬化させて外周コート層を形成し、炭化珪素系ハニカム構造体を得た。
【0049】
上記で得られた炭化珪素系ハニカム構造体について、下記の評価を行った。
(1)接合層の接着強度(せん断強度)
炭化珪素系ハニカム構造体から2本の炭化珪素系ハニカムセグメントが接合されたサンプルを切り出した。次に、このサンプルの接合層のY軸方向(長手方向)にせん断荷重をかけた。そして、そのときの破壊荷重と接合層の面積とを用いて下記式(1)により、せん断強度を算出した。
σ=(W/S)×1000 ・・・(1)
σ:せん断強度(kPa)
W:破壊荷重(N)
S:接合層の面積(mm2)
【0050】
(2)接合層のヤング率
炭化珪素系ハニカム構造体から接合層部分を含む所定の寸法(直径25.4mm、厚さ3mm)の円柱状のサンプルを切り出した。その後、このサンプルについて、Z軸方向の圧縮試験を行った。ここで、「Z軸方向」とは、接合層における炭化珪素系ハニカムセグメントとの接合面に垂直な方向である。なお、この試験に際し、上記サンプルには、炭化珪素系ハニカムセグメントの一部が付いていてもかまわない。Z軸方向において、荷重を0~3MPaまで試料に加えた時の応力-ひずみ曲線における傾きをヤング率(圧縮ヤング率)として、下記式(2)により算出した。
E=(W/S)×(t/Δt) ・・・(2)
E:圧縮ヤング率(MPa)
W:荷重(N)
S:サンプルの面積(mm2)
t:サンプルの厚さ(mm)
Δt:サンプルの厚さの変化量
【0051】
(3)接合層の気孔率
接合層の気孔率は、炭化珪素系ハニカム構造体から接合層部分を切り出し、水銀ポロシメータ(マイクロメリティクス社製オートポアIV9500)を用いて測定した。
【0052】
(4)接合層の熱膨張係数
炭化珪素系ハニカム構造体の作製に用いた接合材から接合層のサンプルを別途作製して熱膨張係数を評価した。接合層のサンプルは、接合材を140℃で2時間乾燥させて得られた乾燥体を縦3mm×横3mm×長さ20mmに切り出して得た。また、熱膨張係数は、JIS R1618:2002に準拠し、サンプルの長さ方向における40~800℃での平均線熱膨張係数(熱膨張係数)を測定した。
【0053】
(5)接合層の乾燥クラック
乾燥クラックは、炭化珪素系ハニカム構造体の端面における接合層を目視観察することで行った。乾燥クラックが全く発見されなかったものを「A」、長さが5mm以下の微小な乾燥クラックのみが発見されたものを「B」、長さが5mmを超える乾燥クラックが発見されたものを「C」と表す。
【0054】
(6)接合層の接合幅
接合層の接合幅は、炭化珪素系ハニカム構造体の端面における接合層の接合幅を測定することによって行った。接合幅が1.5mm以下であったものを「A」、接合幅が1.5mm超過3.0mm未満であったものを「B」、接合幅が3.0mm以上であったものを「C」と表す。
上記の各評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示されるように、加工粉を含む接合材を用いて作製された実施例1~15の炭化珪素系ハニカム構造体は、加工粉を含まない接合材を用いて作製された比較例1の炭化珪素系ハニカム構造体に比べて遜色のない接合強度及びヤング率を有しており、接合材に加工粉を有効利用することができることがわかった。
また、表1に示されるように、加工粉の含有量及び平均粒径D50を所定の範囲に制御した接合材を用いて作製された実施例1~15の炭化珪素系ハニカム構造体は、加工粉の含有量が所定の範囲外の接合材又は加工粉の平均粒径D50が所定の範囲外の接合材を用いて作製された比較例2~4の炭化珪素系ハニカム構造体に比べて接合層の接合強度が高くなった。なお、実施例1~15の炭化珪素系ハニカム構造体は、比較例2~4の炭化珪素系ハニカム構造体に比べて接合層のヤング率が高くなったものの、使用可能なレベルであった。
【0057】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、炭化珪素系ハニカムセグメントや炭化珪素系ハニカム構造体の製造時に発生する加工粉を有効利用することができる接合材及び炭化珪素系ハニカム構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 炭化珪素系ハニカムセグメント
2 接合層
3 セル
4 隔壁
5 外周コート層
10 炭化珪素系ハニカム構造体