(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】架橋性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 65/336 20060101AFI20220210BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220210BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C08G65/336
C08K3/013
C08L81/06
(21)【出願番号】P 2019520571
(86)(22)【出願日】2017-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2017076271
(87)【国際公開番号】W WO2018073139
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-16
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, デーヴィッド ビー.
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-124936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
C08K 3/013
C08L 81/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形物品中のポリマー材料を架橋又は鎖延長する方法であって、成形物品は、ポリマー材料を含むポリマー組成物を含み、方法は、第1の温度T
1から第2の温度T
2>T
1まで成形物品を空気中で加熱することを含み、
加熱は、少なくとも1つの加熱工程を含み、
第1の温度T
1は、Tg-20℃以上且つTg+5°C未満であり、
第2の温度T
2は、Tg-20℃超且つTg+5℃以下であり、
各加熱工程は、成形物品をTg+5℃以下の温度まで加熱し、
Tgは、加熱中に増加し、及び
Tgは、40℃から300℃まで20℃/分で加熱する示差走査熱量分析(DSC)(1回目の加熱)によって測定される、加熱工程中の任意の時点でのポリマー材料の中点ガラス転移温度(Tg)であり、
更に、ポリマー材料は、式(I):
(式中、
Qは、スルホン基[
-S(=O)
2-]及びケトン基[-C(=O)-]からなる群から独立して選択され;
Tは、互いに等しく、結合;-CH
2-;-O-;-SO
2-;-S-;-C(O)-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-C(=CCl
2)-;-C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)-;-N=N-;-R
aC=CR
b-(ここで、各R
a及びR
bは、互いに独立して、水素、又はC
1~C
12アルキル、C
1~C
12アルコキシ若しくはC
6~C
18アリール基である);-(CH
2)
p-及び-(CF
2)
p-(ここで、pは、1~6の整数である);最大で6個の炭素原子の直鎖又は分岐の脂肪族二価基;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択され;
nは、2~100の範囲の整数であり;
それぞれのRは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、第四級アンモニウム、エポキシ、ノルボルネン、アクリレート、オレフィン、シラン及び基Eからなる群から独立して選択され;
各iは、0~4の範囲の整数から独立して選択され;
各Eは、式(II):
(式中、
各Zは、Zの少なくとも1つ、好ましくはZの全てがアルコキシ又は-OH基、好ましくはアルコキシ基であることを条件として、アルキル、アルコキシ及び-OH基からなる群から独立して選択され;
Lは、結合、アルキル、アリール及びアリールアルキルからなる群から選択され、アルキル、アリール及びアリールアルキルは、1つ以上のヘテロ原子で任意選択的に置換されており;及び
Yは、-CH
2-及び-(C=O)NH-基からなる群から選択される)
の部位からなる群から独立して選択される)
のシラン変性ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー(Si-PAE)を含む、方法。
【請求項2】
第1の温度T
1は、Tg-10℃以上且つTg+2℃未満であり、
第2の温度T
2は、Tg-10℃超且つTg+2℃以下であり、及び
各加熱工程は、成形物品をTg+2℃以下の温度まで加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Zは、メチル、メトキシ及びエトキシ基からなる群から独立して選択され、及び
Yは、-CH
2-基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
各Eは、
からなる群から独立して選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各Eは、式:
-CH
2CH
2CH
2-Si(OCH
3)
3
の基を表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Qは、スルホン基[-S(=O)
2-]であり、
Tは、結合、スルホン基[-S(=O)
2-]及び-C(CH
3)
2-基からなる群から選択され、好ましくは-C(CH
3)
2-基であり、及び
各iは、0である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Tgは、加熱中、加熱前のポリマー材料のTgに対して少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%増加する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
成形物品は、1~100時間の範囲の合計時間にわたって加熱される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ポリマー材料は、少なくとも70重量%のシラン変性ポリ(アリーレン
エーテル)ポリマー(Si-PAE)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
加熱後、1gのポリマー材料を、撹拌せずに23℃で2時間にわたって塩化メチレン中に浸漬することによって決定される少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも50重量%のポリマー材料は、塩化メチレン中で不溶性である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
成形物品は、
成形物品の体積の変化又は屈曲を制限又は防止するためのモールド又は他の装置なしにエアーオーブン内で加熱される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの加熱工程は、成形物品中に直径0.5mmより大きい混入気泡を形成しない、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって形成される、ポリマー材料を含む成形物品。
【請求項14】
ポリマー組成物は、少なくとも1種の補強性充填剤、好ましくはガラス繊維を含む、請求項13に記載の成形物品。
【請求項15】
直径0.5mmより大きい混入気泡を含まない、請求項13又は14に記載の成形物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月19日に出願された米国仮特許出願第62/410,016号及び2017年1月13日に出願された欧州特許出願公開第17151498.7号に対する優先権を主張し、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、成形物品中のシラン変性ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー(Si-PAE)を含むポリマー材料を架橋又は鎖延長する方法と、架橋又は鎖延長されたポリマー材料を含む成形物品とに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)及びポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)などのポリ(アリーレンエーテル)ポリマー(PAE)は、高温性能、優れた機械的特性及び耐薬品性が必要とされる幅広い用途で使用される高性能ポリマーである。しかしながら、複数の用途では、環境応力亀裂抵抗を改善するために及び/又は様々な温度での機械的特性を改善するために、アセトン及びクロロホルムなどの一般的な溶媒に対するこれらの耐薬品性を改善する必要がある。
【0004】
1つのアプローチは、加工中の正確な時間にポリマー鎖間に架橋を導入することを含む。PAEポリマーの用途のほとんどは、例えば、押出成形又は射出成形によって成形物品を形成するために溶融状態の加工を必要とすることから、300℃~400℃の範囲の温度での溶融加工後に成形物品中で開始することができる架橋可能な系を使用する必要がある。更に、架橋は、変形、変色又は密度の変化などの望ましくない副作用を成形物品で生じることなしに達成される必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0005】
驚くべきことに、例えば気泡若しくは膨れの形成、変形若しくは寸法の変化又は変色などの従来の架橋及び鎖延長の方法で観察される前述した望ましくない影響を回避する選択された処理条件を用いて、成形物品中のシラン変性ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー(Si-PAE)を架橋又は鎖延長できることが見出された。
【0006】
方法は、成形物品が加熱される温度を、加熱中のポリマー材料の増加するTgに基づいて特定の範囲内に維持しながら、Si-PAEを含む成形物品を温度T1から温度T2>T1まで加熱することを含む。
【0007】
成形物品は、ポリマー材料を含むポリマー組成物を含み、ポリマー材料は、以下に記載されるSi-PAEを含む。
【0008】
明確さのために、本出願の全体を通して、
- 「ガラス転移温度(Tg)」という用語は、40℃から300℃まで20℃/分の加熱を用いる示差走査熱量分析(DSC)(1回目の加熱)によって測定される中点ガラス転移温度(Tg)を意味する。ポリマー材料が、≦15nmの分散相を有するブレンドとして定義される混和性ポリマーのブレンドである場合、ポリマー材料のTgは、ブレンドの単一のTgである。ポリマー材料が、>15nmの分散相を有するブレンドとして定義される非混和性ポリマーブレンドである場合、ポリマー材料のTgは、ブレンドのSi-PAEのTgである。
- 用語「ハロゲン」は、特に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含む。
- 形容詞「芳香族」は、4n+2(ここで、nは、1又は任意の正の整数である)に等しいπ電子数を有する任意の単核又は多核の環状基(又は部位)を意味し、芳香族基(又は部位)は、アリール及びアリーレン基(又は部位)であり得る。
- 「鎖延長」又は「延長された鎖」という用語は、塩化メチレン中でのポリマー材料の99%を超える溶解度を保持しながら、Si-PAEポリマー間にSi-O-Si結合を形成して、ポリマー材料の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との両方を少なくとも10%増加させることを意味する。
- 本明細書で使用される「架橋する」又は「架橋された」という用語は、高分子材料の少なくとも1重量%が塩化メチレン中に溶解しないようにSi-PAEポリマー間にSi-O-Si結合を形成することを意味する。
【0009】
塩化メチレンへの溶解度は、1gのポリマー材料を、撹拌せずに23℃で2時間にわたって塩化メチレン中に浸漬し、続いて任意の不溶性ポリマー材料を回収し、乾燥させ、且つ秤量することによって決定される。
【0010】
ポリマー材料
ポリマー材料は、式(I):
のSi-PAEを含み、Qは、スルホン基[-S(=O)
2-]及びケトン基[-C(=O)-]からなる群から独立して選択される。好ましくは、全てのQは、スルホン基又はケトン基のいずれかである。最も好ましくは、Qは、それぞれの場合にスルホン基である。Tは、互いに等しく、結合;-CH
2-;-O-;-SO
2-;-S-;-C(O)-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-C(=CCl
2)-;-C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)-;-N=N-;-R
aC=CR
b-(ここで、各R
a及びR
bは、互いに独立して、水素、又はC
1~C
12アルキル、C
1~C
12アルコキシ若しくはC
6~C
18アリール基である);-(CH
2)
p-及び-(CF
2)
p-(ここで、pは、1~6の整数である);最大で6個の炭素原子の直鎖又は分岐の脂肪族二価基;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、Tは、結合、-SO
2-及び-C(CH
3)
2-からなる群から選択される。nは、2~100、好ましくは2~50、最も好ましくは2~40の範囲の整数である。
【0011】
それぞれのRは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、第四級アンモニウム、エポキシ、ノルボルネン、アクリレート、オレフィン、シラン及び以降に記載の基Eからなる群から独立して選択される。好ましくは、Rは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、シラン及び第四級アンモニウムからなる群から選択される。
【0012】
各iは、0~4の範囲の整数から独立して選択される。好ましくは、iは、ゼロである。
【0013】
各Eは、式(II):
の部位からなる群から独立して選択される。
【0014】
各Zは、Zの少なくとも1つ、好ましくはZの全てがアルコキシ又は-OH基であることを条件として、アルキル、アルコキシ及び-OH基からなる群から独立して選択される。好ましくは、Zは、アルコキシ基又はメチル基であり、最も好ましくはメトキシ-OCH3又はエトキシ-OC2CH3基である。
【0015】
Lは、結合、アルキル、アリール及びアリールアルキルからなる群から選択され、これらのアルキル、アリール及びアリールアルキルは、1つ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素、窒素、硫黄又はリンで任意選択的に置換され得る。
【0016】
Yは、-CH2-及び-(C=O)NH-基からなる群から選択され、好ましくは-CH2-基である。
【0017】
いくつかの実施形態では、各Eは、
からなる群から独立して選択される。
【0018】
好ましくは、各Eは、同一である。最も好ましくは、各Eは、プロピルトリメトキシシラン基である。いくつかの実施形態では、いずれのRもEではない。
【0019】
いくつかの実施形態では、Qは、スルホン基[-S(=O)2-]であり、Tは、結合、スルホン基[-S(=O)2-]及び-C(CH3)2-基からなる群から選択され、好ましくは-C(CH3)2-基であり、及び各iは、ゼロである。
【0020】
Si-PAEは、好ましくは、式(III):
(式中、E及びnは、上述した通りである)
のシラン変性ポリスルホン(Si-PSU)である。好ましくは、各Eは、プロピルトリメトキシシラン基である。ポリマー材料は、1グラム当たり最大で100マイクロ当量、好ましくは1グラム当たり50マイクロ当量未満、更に好ましくは1グラム当たり25マイクロ当量未満の非シラン末端基、例えばハロゲン(塩素、フッ素)及びヒドロキシルを含み得る。
【0021】
Si-PAEは、公知の方法で調製することができる。例えば、Si-PSUの合成は、1976年4月30日に出願された米国特許第4,093,600号明細書に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
Si-PAEは、ポリマー材料の総重量を基準として好ましくはポリマー材料の少なくとも50重量%、70重量%、90重量%、最も好ましくは100重量%を占める。
【0023】
ポリマー材料は、1種超のSi-PAE、又は1種以上のSi-PAEと他のポリマー(好ましくは、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)又はポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)などの非シラン変性ポリ(アリーレンエーテル)(PAE))とのブレンドを含み得る。
【0024】
鎖延長又は架橋前のポリマー材料のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、50℃~250℃、好ましくは100℃~225℃の範囲である。
【0025】
ポリマー組成物
成形された物品は、ポリマー材料を含むポリマー組成物を含む。ポリマー材料は、ポリマー組成物の総重量を基準としてポリマー組成物の少なくとも40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、最も好ましくは100重量%を占め得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、補強性充填剤、好ましくは繊維質及び粒子状充填剤から選択される補強性充填剤を含む。好ましくは、補強性充填剤は、鉱物充填剤、例えばタルク、マイカ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム;ガラス繊維;炭素繊維、炭化ホウ素繊維;ウォラストナイト;炭化ケイ素繊維;ホウ素繊維、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)などから選択される。
【0027】
補強性充填剤は、ポリマー組成物の総重量を基準として少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%の量でポリマー組成物中に存在し得る。
【0028】
補強性充填剤はまた、好ましくは、ポリマー組成物の総重量を基準として最大で60重量%、より好ましくは最大で50重量%、更により好ましくは最大で40重量%の量で存在する。
【0029】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の総重量を基準として約30重量%の補強性充填剤、好ましくはガラス繊維を含む。一部の実施形態によれば、ポリマー組成物は、繊維質充填剤を含まない。或いは、ポリマー組成物は、粒子状充填剤を含まなくてもよい。好ましくは、ポリマー組成物は、補強性充填剤を含まない。
【0030】
いくつかの態様では、ポリマー組成物は、ポリマー材料から、又はポリマー材料と補強性充填剤とからなるか、又は本質的にそれらからなる。しかしながら、別の態様では、ポリマー組成物は、1種以上の追加の成分を含み得る。
【0031】
ポリマー組成物は、着色剤(二酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛などの染料及び/又は顔料等)、紫外光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤(有機亜リン酸塩及び亜ホスホン酸塩等)、酸捕捉剤、加工助剤、核形成剤、潤滑剤、難燃剤、煙抑制剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤及び/又は導電性添加剤(カーボンブラック等)などの他の成分も任意選択的に含み得る。
【0032】
1種以上の追加の成分が存在する場合、それらの合計重量は、ポリマー組成物の総重量を基準として好ましくは20重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満である。
【0033】
ポリマー組成物は、架橋触媒を含んでいなくてもよい。
【0034】
いくつかの態様では、架橋後のポリマー組成物は、50MPa~200MPa、好ましくは60MPa~150MPaの範囲の引張強さ、2.0~20%、好ましくは3~10%の範囲のASTM D638に従って測定される破断点引張伸びを示し、及び/又は6000psiの応力下でアセトンに24時間にわたって浸漬した後にひび割れを起こさない。
【0035】
成形物品の架橋又は鎖延長
例示的な実施形態は、成形物品を加熱することにより、本明細書に記載の成形物品中のポリマー材料を架橋又は鎖延長する方法を含む。成形物品を架橋又は鎖延長する方法は、第1の温度T1から第2の温度T2まで成形物品を加熱することを含み、ここで、T2は、T1よりも大きい。
【0036】
加熱中、ポリマー材料のTgは、上昇する。Tgの上昇に伴い、成形物品を加熱する温度をポリマー材料のTgの特定の範囲内に維持すると、予期しなかったことに、気泡若しくは膨れ又は成形物品の変形、寸法変化若しくは変色などの望ましくない副作用が低減又は排除された、架橋又は鎖延長された成形物品が生成することが発見された。そのため、成形物品は、成形物品が加熱される温度が加熱中に常にポリマー材料のTgに対して特定の範囲内に維持されることを条件として、様々な方法で加熱することができる。
【0037】
様々な温度プロファイルを使用することができる。加熱は、少なくとも1つの加熱工程で行うことができ、1つ以上の加熱工程中に加熱温度を上げることを含み得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの加熱工程は、温度勾配を上げることを含み得る。好ましくは、昇温勾配は、0.5℃/hから1.25℃/hまで上げられる。成形物品が第1の温度で最初に加熱され、次いで温度が第2の温度に上げられてから第2の時間にわたって維持されるなど、段階的な温度プロファイルも使用され得る。いくつかの実施形態は、10~30時間、好ましくは15~25時間、最も好ましくは16~24時間の範囲の時間にわたり、一定の温度で成形物品を加熱することを含む。成形物品は、1~100時間の範囲の合計時間にわたって加熱され得る。温度勾配及び段階的な昇温の両方を含む温度プロファイルの使用は、本発明の範囲内であり、温度がT1からT2に上昇し、ポリマー材料のTgが上昇するのに伴って特定の温度範囲内に維持される限り、任意の温度プロファイルを使用することができる。当然のことながら、加熱の少なくとも一部は、成形物品を特定の温度範囲内にするために成形物品を加熱することを含むであろう。
【0038】
ポリマー材料のTgは、加熱中、加熱前のポリマー材料のTgに対して少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも15%だけ増加し得る。加熱中の選択された時間における成形物品のTgは、試験物品の使用により予め決定することができる。例えば、複数の同一の成形物品(「試験物品」)を同じ条件下において、好ましくは同じオーブン内で加熱することができる。加熱中の異なる時間に各試験物品をオーブンから取り出すことができ、そのTgは、室温(23℃)まで冷却した後にDSCにより測定することができる。試験物品の測定されたTgは、加熱中の対応する時間における成形物品のTgと見なすことができる。当業者であれば、本明細書の開示に基づき、成形物品の温度をTgに関して特定の範囲内に保つように加熱できるように成形物品のTgを決定するための他の方法を実施する方法を認識するであろう。
【0039】
ポリマー材料のTgに基づく特定の範囲は、架橋又は鎖延長中のポリマー材料のTg-20℃~Tg+5℃、好ましくはTg-15℃~Tg+5℃、Tg-10℃~Tg+5℃、Tg-10℃~Tg+4℃、Tg-10℃~Tg+3℃、最も好ましくはTg-10℃~Tg+2℃である。したがって、第1の温度T1は、Tg-20℃以上、好ましくはTg-10℃以上であるが、Tg+5℃未満、好ましくはTg+4℃、Tg+3℃、Tg+2℃未満である。第2の温度T2は、Tg-20℃超、好ましくはTg-10℃超であるが、Tg+5℃以下、好ましくはTg+4℃、Tg+3℃、Tg+2℃以下である。
【0040】
成形物品が約Tg+5℃未満に加熱される温度を維持すると、予期しなかったことに、気泡若しくは膨れ又は成形物品の変形、寸法変化若しくは変色などの望ましくない副作用が低減又は排除された、架橋又は鎖延長された成形物品が生成することが発見された。そのため、少なくとも1つの加熱工程のそれぞれは、成形物品をTg+5℃以下、好ましくはTg+4℃、Tg+3℃、Tg+2℃以下の温度に加熱する。
【0041】
成形物品は、任意の寸法において成形物品に対するいかなる制約もなしに、すなわち成形物品の体積の変化又は屈曲を制限又は防止するためのモールド又は他の装置なしにエアーオーブン内で加熱することができる。好ましくは、成形物品は、大気圧(約760mmHg)又は真空中で加熱される。
【0042】
加熱後、成形物品は、ポリマー材料のSi-PAE間に-Si-O-Si-結合を含む。いくつかの実施形態では、重量平均分子量(Mw)は、加熱後に少なくとも10%だけ増加する。架橋時、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは全てのポリマー材料が塩化メチレン中で不溶性であり、これは、撹拌せずに1gのポリマー材料を23℃で2時間にわたって塩化メチレン中に浸漬し、不溶部分を回収し、乾燥することによって決定される。
【0043】
上述したように、驚くべきことに、本明細書に記載の方法により、部品中若しくはその上での気泡若しくは膨れの形成、成形物品の変形若しくは寸法変化又は黄変のような変色などの望ましくない副作用がない、架橋又は鎖延長された成形物品が生成することが発見された。
【0044】
成形物品中への気泡の混入は、例えば、架橋反応又は連鎖延長反応の副生成物の生成、例えばメタノール、エタノール又は水の生成によって引き起こされ得るポリマー材料中の空隙である。架橋又は鎖延長後、成形物品は、>0.5mm、>100μm、>10μmの直径の気泡の混入がないことが好ましく、この混入気泡の直径は、透明ポリマー組成物の場合には光学顕微鏡により測定され、不透明なポリマー組成物の場合にはX線断層撮影法により測定される。最も好ましくは、成形物品は、混入気泡を含まない。すなわち、架橋又は鎖延長は、成形物品中に>0.5μm、>100μm、>10μmの直径の混入気泡を形成しない。好ましくは、架橋又は鎖延長は、成形物品中に混入気泡を全く形成しない。
【0045】
成形物品の寸法変化又は変形は、架橋又は鎖延長された部品に対して使用前に機械加工又は追加的な修正が行われない場合に特に不利である。
【0046】
本明細書に記載の方法は、予期しなかったことに、架橋又は鎖延長後の成形物品に5%未満、好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の寸法変化をもたらすことが見出された。寸法変化を決定するために、成形物品と同じ材料で製造された長さ127mm、幅12.7mm及び高さ3.2mmのバーに対して成形物品と同じ架橋又は鎖延長プロセスを行う。その後、バーを測定し、バーの長さ、幅及び高さのいずれかにおける最大のパーセント変化を成形物品のパーセント寸法変化と見なす。最も好ましくは、成形物品は、架橋又は鎖延長後に寸法変化しない。
【0047】
本明細書に記載の方法は、予期しなかったことに、架橋又は鎖延長後の成形物品の変形(例えば、目視検査により決定される屈曲又はねじれ)を防止することも見出された。好ましくは、成形物品は、架橋又は鎖延長後に変形しない。
【0048】
例示的な実施形態は、上述したように架橋又は鎖延長された上述したポリマー材料を含む成形物品も含む。
【0049】
成形物品は、任意の適切な溶融加工方法を使用してポリマー組成物から作製され得る。例えば、これらは、限定するものではないが、射出成形、押出成形、回転成形、吹込成形、付加製造(3D印刷としても公知である)、例えば溶融フィラメント製造(FFF)、選択的レーザー焼結(SLS)及び光造形法(SLA)などの方法により、好ましくは押出成形又は射出成形により製造することができる。いくつかの実施形態では、成形物品は、押出成形された成形物品ではない。代替の実施形態では、成形物品は、射出成形された成形物品ではない。溶融中に加工する前に、物品は、好ましくは、1000ppm未満の水、より好ましくは500ppm未満の水まで乾燥される。好ましくは、溶融加工温度は、150℃~350℃、より好ましくは200℃~300℃の範囲である。
【0050】
架橋又は鎖延長された成形物品は、限定するものではないが、配管コネクタ、ワイヤ及びケーブル用途、医療機器並びに航空宇宙又はスマートデバイス用途の部品などの用途のために使用することができる。
【0051】
以下では、本発明が非限定的な実施例によって以下のセクションでより詳細に例証される。
【実施例】
【0052】
架橋性ポリスルホン(Si-PSU)及び射出成形部品の作製
架橋性PSUの合成は、247gのジメチルスルホキシド(DMSO)と319.6gのモノクロロベンゼン(MCB)との混合物に溶解させた114.14g(0.5モル)のビスフェノールAを50.34%の水酸化ナトリウム水溶液79.38gと反応させ、引き続き水を蒸留して溶液を140℃まで加熱することにより、水を含まないビスフェノールAナトリウム塩の溶液を生成させることにより、米国特許第4,093,600号明細書に記載の方法によって行った。次いで、反応器内に133.7gのMCB中の133.7g(0.466モル)の4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの溶液を入れ、反応混合物を165℃まで加熱し、この温度で90分間維持した。その後、反応混合物を115℃まで冷却した。次に、16.5gの3-クロロプロピルトリメトキシシランを入れ、115℃で1時間反応させることでナトリウムフェノキシド末端基をプロピルトリメトキシシラン末端基に変換した。その後、反応混合物を200gの無水MCBで希釈し、窒素圧下で濾過し、次いで透明なポリマー溶液を無水メタノール中で凝固させた。白色固体を濾過し、80℃で真空乾燥した後、水分のない環境で保管した。溶媒としての塩化メチレン中で行われ、ポリスチレン標準で校正されたGCP分析から、数平均分子量Mn=11,700g/mol及び重量平均分子量Mw=26,200g/molが示された。プロトンNMR分析から、PSUがプロピルトリメトキシシラン末端基で官能化されていることが確認された。架橋性ポリスルホンの中点ガラス転移温度(Tg)は、20℃/分で40℃から300℃まで行った示差走査熱量分析(DSC)(1回目の加熱)を使用して、160℃であることが判明した。
【0053】
ASTMタイプV試験片は、DSM Xplore(登録商標)二軸押出機のマイクロ射出成形機を用いて、120℃に調節されたモールド内において250℃(溶融物の温度)で射出成形することによって得た。射出成形後、透明部品を使用前にアルミニウム製の密封袋に保存した。部品のGCP分析から、Mn=12,000g/mol及びMw=29,500g/molという分子量分布のわずかな増加が示されたが、架橋性ポリスルホンは、依然として塩化メチレンに完全に可溶であり、市販のポリスルホンであるSolvay Specialty Polymers USA,LLCからのUdel(登録商標)PSU P1700(Mn=18,000g/mol、Mw=65,000g/mol、Tg=185℃)よりも低いMn及びMwを有していた。
【0054】
射出成形部品の架橋
部品を異なる条件に置き、部品を次の場所に置くことによって架橋を評価した:
- 大気圧の湯;
- 高温の5重量%酢酸(AcOH)水溶液;
- Parr反応器中の加圧されている湯;又は
- 以降に記載の様々な加熱プロファイルに従って温度調節されたYamato ADP-31オーブン内の大気圧の空気中。
【0055】
以下の表1~3に示すように、部品を上の条件に曝した後、以下の目視観察を行った:
- 部品内部の0.5mmを超える気泡又は表面での膨れなどの欠陥の存在。
- 部品の変形(体積の変化及び/又は屈曲)
- 黄色度の増加。
【0056】
架橋効率は、1gのポリマー材料を撹拌せずに塩化メチレン中に23℃で2時間浸漬することによって塩化メチレン中のポリマーの溶解度を試験することによって分析した。
【0057】
【0058】
比較例C1、C2及びC3によって示されるように、部品がTg-45℃未満の温度で水溶液又は酸性水溶液に曝された場合、本質的に分子量の変化は観察されなかった。このことから、部品のポリマー材料が鎖延長又は架橋されなかったことが示唆された。
【0059】
比較例C4によって示されるように、部品が水の存在下でTg-25℃~Tg-10℃の温度に曝された場合、架橋が観察されたが、試料が不透明になり、望ましくない気泡の発生のため体積が増加した。
【0060】
【0061】
比較例C5で示されるように、部品がT=Tg(i)+10℃の温度に曝されると、反応は、非常に迅速に生じて(試料は、48時間後に架橋した)、試料の寸法が変化し、ガスの気泡が発生して最終部品中に閉じ込められた。最終的なTg(f)=178°Cは、高分子量ポリスルホンのTg(185℃)により近かった。
【0062】
【0063】
比較例6に示されるように、部品がTg(i)-10=150℃からTg(f)+16=185℃への比較的急速な温度上昇を受けた場合、最終的なTg(f)は、169℃までにのみ到達し、部品は、望ましくない変形(屈曲)を示した。最大でTg(f)+16℃まで部品の変形が生じた。
【0064】
実施例7、8及び9に示されるように、部品をTg-20≦T≦Tg+5から選択される温度Tで加熱すると、予期しなかったことに、部品の膨れ、変形又は黄変を引き起こすことなしに反応が進行し、架橋した製品が得られた。更に、このプロセスは、部品の形状を維持しつつ、屈曲又は膨れを防ぐためにモールド及び加圧を必要としなかった。
【0065】
【0066】
架橋後、実施例8及び9からの部品は、塩化メチレンに不溶であり、優れた機械的特性(非架橋ポリスルホン又は市販のUdel(登録商標)PSU P1700ポリスルホンと比較して約20%の引張強さの増加)を示した。架橋した部品は、アセトンに対する優れた耐性及びアセトンのような反応性が高い溶媒に対する耐性を示した。
【0067】
実施例10:架橋性PSUのガラス充填コンパウンドからの架橋した部品の作製
架橋性PSUを30重量%のガラス繊維(Owens Corning製OCV910)と共に二軸押出機内において270℃(溶融温度)でブレンドすることでストランドを形成し、これを空気で室温(23℃)まで冷却し、ぺレット化してペレットにした。これらのペレットを直ちにアルミニウム製の密封袋に入れ、射出成形前に真空下80℃で一晩乾燥した。射出成形は、120℃に調節されたモールド内において250℃(溶融物の温度)で行い、ASTMタイプI試験片を製造した。部品の架橋は、実施例9の方法に従って行い、寸法の変化も混入気泡の出現も観察されなかった。架橋前に、部品は、非常に脆く、架橋後の引張強さは、30%のガラス繊維を含むポリスルホンである市販のコンパウンドUdel(登録商標)PSU GF-130よりも更に高かった。架橋後、非架橋ポリスルホン及び市販のポリスルホンの両方と比較して、引張強さの増加が観察された。
【0068】
【0069】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。