(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】薬剤投与装置およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20220210BHJP
A61M 5/24 20060101ALI20220210BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
A61M5/20 560
A61M5/24 530
A61M5/315 580
(21)【出願番号】P 2019526572
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 GB2017053469
(87)【国際公開番号】W WO2018091916
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-02
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505333414
【氏名又は名称】オーウェン マンフォード リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OWEN MUMFORD LIMITED
【住所又は居所原語表記】Brook Hill, Woodstock, Oxfordshire OX20 1TU (GB).
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【氏名又は名称】松岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】カウエ, トビー
(72)【発明者】
【氏名】ウェッブ, コリン
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0263320(US,A1)
【文献】特表2001-511404(JP,A)
【文献】特表2012-513855(JP,A)
【文献】特開2007-014615(JP,A)
【文献】特表2009-518080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20- 5/28
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の物質の収納部としての第一室(16)を有する第一容器(11)、前記第一容器(11)に少なくとも一部が入り込み、第二の物質の収納部としての第二室(52)を有する第二容器(12)、および前記第二室(52)の遠位端を閉止するためのバルブ手段(68)を有するカートリッジ(10)から薬剤を投与するための薬剤投与装置システム(100)であって、
前記カートリッジ(10)を受け入れる本体(104)を含むカセット(102)と、
投与動作として前記第一室(16)から前記薬剤を押し出すための作動要素(208)、および前記投与動作を開始させるためのトリガ構造(240)を含む発射ユニット(200)と、を含み、
前記カセット(102)は、
混合動作として前記第二の物質を前記バルブ手段(68)を介して前記第一室(16)へ移動させ前記第一の物質と混合させて前記薬剤を形成するための混合要素(148)と、
前記混合要素(148)を付勢して前記カセット本体(104)に対して移動させるための混合バネ(
160)と、
を更に含
む、使い捨て可能なカセット(102)であり、
前記発射ユニット(200)は再使用可能であって前記カセット(102)に着脱可能な発射ユニット(200)であることを特徴とする、
システム(100)。
【請求項2】
前記カセット(102)は、前記混合要素(148)を開始位置に保持し、かつ前記混合要素(148)を解放して前記混合動作を開始させるための解放構造(125、156)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記解放構造は、前記混合要素(148)と係合することにより前記混合要素(148)を前記開始位置に保持し、かつ前記混合要素(148)から解放されることにより前記混合動作を開始させることが可能な保持部材(125)を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記保持部材(125)は前記カセット(102)から取り外されることにより前記混合動作を開始可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記保持部材(125)は、前記混合要素(148)と係合している状態において、前記カセット(102)の前記発射ユニット(200)への装着を防止する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記カセット(102)は前記第二容器(12)への装着のための接続要素(132)を含み、前記接続要素(132)は前記発射ユニット(200)の前記作動要素(208)と協働可能である、請求項1から5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記カセット(102)は、前記薬剤の投与用の針(118)を保持するための針ホルダ(112)を含み、
前記針ホルダ(112)は、前記カセット本体(104)に対して移動することにより、前記針(118)を前記カセット(102)の遠位端から延出させて注射部位(S)へ挿入可能である、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記カセット(102)は、前記カセット(102)を注射部位(S)から取り外す際に前記針(118)を被覆するシュラウド(172)を含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記カセット(102)は、前記カセット(102)の初期状態において前記針(118)を密閉するシールド(166)を含む、請求項7または請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
カセットホルダ(194)を更に含み、前記シールド(166)は、前記カセット(102)を前記カセットホルダ(194)から取り外す際に、前記カセット(102)から退避するように前記カセットホルダ(194)に取り付けられている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記発射ユニット(200)は、前記作動要素(208)を遠位方向に付勢するための作動バネ(210)を備える、請求項1から10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のシステムにて使用されるためのカセット(102であって、
第一の物質の収納部としての第一室(16)を有する第一容器(11)、前記第一容器(11)に少なくとも一部が入り込み、第二の物質の収納部としての第二室(52)を有する第二容器(12)、および前記第一および第二室(16、52)を分離するためのバルブ手段(68)を有するカートリッジ(10)と、
前記カートリッジ(10)を受け入れる本体(104)と、
混合動作として前記第二の物質を前記バルブ手段(68)を介して前記第一室(16)へ移動させ前記第一の物質と混合させて前記薬剤を形成するための混合要素(148)と、
前記混合要素(148)を付勢して前記カセット本体(104)に対して移動させるための混合バネ(
160)を含む、カセット(102)。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載のシステムにおいて、または請求項12に記載のカセット(102)と共に、使用するための発射ユニット(200)であって、
投与動作として前記第一室(16)から前記薬剤を押し出すための作動要素(208)と、
前記投与動作を開始させるためのトリガ構造(240)と、を含む、発射ユニット(200)。
【請求項14】
請求項12に記載のカセット(102)、および請求項13に記載の発射ユニット(200)を含む、薬剤投与装置(300)。
【請求項15】
第一の物質および第二の物質の混合物を投与するための請求項14に記載の薬剤投与装置(300)を組み立てる方法であって、前記第一および第二の物質は前記カセット(102)内に収納されており、前記方法は、
前記カセット(102)の混合要素(148)を始動させ、前記第一および第二の物質を混合させること、および
前記混合要素(148)の始動後に、前記カセット(102)に発射ユニット(200)を取り付けること、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の投与に適したシステムおよび装置に関する。具体的には、物質の自動混合により薬剤を構成し、この薬剤を患者へ自動投与するためのシステムおよび装置に関するが、これに限られない。本発明は、更に、該投与装置内に格納する医薬組成物を含む皮下注射あるいは皮下注入用の薬剤、および、ここに説明する投与装置を用いた薬剤の投与による治療を受療可能な状態にある患者の治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮下注射あるいは皮下注入用の薬剤は、様々な異なる臨床現場で治療に用いられている。薬剤は二つの別々の成分として使用者に供給し、使用の直前にそれらの成分を混合する必要がある、あるいはそうした方が好都合である場合がある。
【0003】
例えば、血友病を治療するための血液因子や重度の低血糖症を治療するためのグルカゴンといった注射用薬剤には、液状では保存可能期間が許容できないほど短く、そのため通常はフリーズドライ状態すなわち凍結乾燥状態で個体粉末として供給されるものがある。凍結乾燥状態では、薬剤の保存可能期間は相当に延長される。このような薬剤は、使用前に、水や生理食塩水といった適切な無菌希釈剤と混合することにより再構成する必要がある。
【0004】
従来構成では、薬剤の個体成分は薬瓶にて供給され、液体希釈剤は別の注射器にて供給される。薬瓶は、通常、注射針で穿刺可能なポリマー膜あるいはポリマー隔壁で閉止されている。使用の際、注射針を隔壁に挿通させ、希釈剤を薬瓶内に注入して個体成分と混ぜ合わせる。次いで薬瓶を振って十分に混合させる。薬瓶を振っている間は注射器を薬瓶から取り外しても良いように、通常、隔壁は自己封止性を有し、針を抜去後の薬瓶の内容物漏洩を防止する。
【0005】
薬剤を再構成した後は、必要に応じて注射器を薬瓶に再挿入し、次いで混合物を注射器内に引き込む。こうして再構成された薬剤を入れた注射器は、薬瓶から取り外され、再構成された薬剤を注射により患者に投与するために用いることが出来る。
【0006】
従来のこの構成には様々な欠点がある。薬瓶および注射器に分けての供給、およびこれらの構成要素を無菌状態に維持する必要性は、不便を生じ得る。また、患者による在宅での自己投与といった臨床現場においては、工程数および比較的複雑な作業の必要性がこの従来構成を不利なものにすることがある。自己投与は、特に若い患者や手先の器用さが低下した患者にとって難しい場合がある。
【0007】
単成分または再構成不可能な液体薬剤の分野では、注射用により便利な形態で薬剤を提供するという課題は、様々な異なるタイプの薬剤投与装置の開発により対処されている。
【0008】
例えば、薬瓶および注射器に分ける必要性は、単回投与分の薬剤が入った充填済の使い捨て注射器を使用することで回避することが出来る。登録商標であるハイパック(米国、ニュージャージー州、ベクトン・ディッキンソン)として販売されている、一般的な充填済注射器デザインの一つにおいては、針は取り外せないように注射器本体の遠位端に固定されており、針の無菌状態は取り外し可能なキャップによって保たれている。
【0009】
単回かつ固定量の再構成不能薬剤を自己投与するために設計された、より高性能な自動注射器装置も知られている。通常、このような装置においては、針の挿入、薬剤投与、用量表示、注射後の針の格納用シュラウドの装着のうちの一つ以上が、トリガボタンやスライダの操作といった一以上のユーザ操作によって作動する。自動注射器による薬剤投与は、上述したタイプのハイパック注射器といった、針が固定されている、使い捨ての充填済ガラス注射器の形態や、カートリッジあるいはその他の容器で提供する場合もある。
【0010】
対照的に、再構成可能薬剤の自動投与に適した装置として入手可能なものは比較的少ない。そのような装置の設計における難しさの一つに、混合、挿入、および投与の手順の実現には複数の異なるユーザ操作が必要であることが挙げられる。このため、使用者に対して操作はより複雑になり、例えば、注射が実行される前に混合が正しく完了しないなど、誤操作の危険性が増す。出発物質が自動的に混合され誤操作の危険性を確実に低減しつつ、再構成可能な薬剤を混合および投与可能な装置の提供が望まれる。
【0011】
更に、再構成不可である薬剤用の自動注射装置の構成は通常、比較的簡易かつ低コストであり、そのために一度使用した後は使い捨てにされるが、再構成可能な薬剤の混合および投与装置の場合は、その複雑な構成のために少なくとも一部が再利用可能であることが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
この背景に対して、第一の態様において、本発明は、第一の物質の収納部としての第一室を有する第一容器、前記第一容器に少なくとも一部が入り込み、第二の物質の収納部としての第二室を有する第二容器、および前記第二室の遠位端を閉止するためのバルブ手段を有するカートリッジから薬剤を投与するための薬剤投与装置システムを提供する。システムは使い捨て可能なカセットおよび再使用可能であって前記カセットに着脱可能な発射ユニットを含み、カセットは、カートリッジを受け入れる本体、および混合動作として前記第二の物質を、前記バルブ手段を介して前記第一室へ移動させ前記第一の物質と混合させて、前記薬剤を形成するための混合要素、を含む。発射ユニットは、投与動作として前記第一室から前記薬剤を押し出すための作動要素、および投与動作を開始させるためのトリガ構造を含む。投与装置における使用が予想される医薬組成物を含む薬剤には、予防、治療や診断への適用に有益な小分子、ワクチン、生細胞あるいは弱毒化した細胞、オリゴヌクレオチド、DNA、ペプチド、抗体、および組み換え型あるいは天然のヒトあるいは動物性タンパク質が含まれ得る。有効成分は、天然、合成、半合成、またはこれらの派生物であってもよい。有効成分は幅広い範囲から予想される。例えば、ホルモン、サイトカイン、造血因子、成長因子、抗肥満因子、栄養素、抗炎症因子や、酵素が含まれる。医薬組成物は、インスリン、ガストリン、プロラクチン、ヒト成長ホルモン(hGH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)、インスリン成長因子I(IGF-I)やインスリン成長因子II(IGF-II)といったインスリン様成長因子(IGF)、成長ホルモン放出因子(GRF)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、ゴナドトロピン放出ホルモン、モチリン、インターフェロン(アルファ、ベータ、ガンマ)、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-20や、IL-21)、インターロイキン-1受容体拮抗薬(IL-Ira)、腫瘍壊死因子(TNF)、腫瘍壊死因子結合タンパク質(TNF-bp)、CD40L、CD30L、エリスロポエチン(EPO)、1型プラスミノゲン活性化因子阻害剤、2型プラスミノゲン活性化因子阻害剤、フォンウィルブランド因子、トロンボポエチン、アンジオポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、幹細胞因子(SCF)、レプチン(OBタンパク質)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、神経栄養因子3(NT3)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経栄養成長因子(NGF)、オステオプロテゲリン(OPG)といった骨成長因子、形質転換成長因子、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、巨核球由来成長因子(MGDF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、新規赤血球生成刺激タンパク質(NESP)、骨形成タンパク質(BMP)、活性酸素分解酵素(SOD)、組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、プロ-ウロキナーゼ、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、カリクレイン、例えばアプロチニンといったプロテアーゼ阻害剤、例えばアスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リボヌクレアーゼ、カタラーゼ、ウリカーゼ、ビリルビン酸化酵素、トリプシン、パパイン、アルカリ性ホスファターゼ、グルクロニダーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼやバトロキソビンといった酵素、例えばエンドルフィン、エンケファリンや非天然オピオイドといったオピオイド、神経ペプチド、神経ペプチドY、カルシトニン、コレシストキニン、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、バソプレシン、オキシトシン、抗利尿ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、レラキシン、ペプチドYY、膵臓ポリペプチド、CART(コカインおよびアンフェタミンで調整された転写物)、CART関連ペプチド、ペリリピン、MSH(メラノサイト刺激ホルモン)といったメラノコルチン、メラニン凝集ホルモン、ナトリウム利尿ペプチド、アドレノメジュリン、エンドセリン、セクレチン、アミリン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、ボンベシン、ボンベシン様ペプチド、サイモシン、ヘパリン結合タンパク質、可溶性CD4、視床下部放出因子、メラトニン、およびヒト抗体やヒト化抗体、並びに投与装置での投与に適したその他の医薬組成物を含むが、これに限定されない。本明細書で用いているタンパク質という用語は、ペプチド、ポリペプチド、共通分子、類似体、派生物およびこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定されない。
【0013】
医薬組成物には、ビンカアルカロイド(すなわち、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビノレルビン)、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン(すなわち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン(ダクチノマイシンD)ダウノルビシン、ドキソルビシンおよびイダルビシン)、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)やマイトマイシンといった天然物を含む抗増殖/抗有糸分裂剤、酵素(全身的にL-アスパラギンを代謝させ、自身でアスパラギンを合成する能力がない細胞をなくすL-アスパラギナーゼ)、例えばナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミドおよび類似体、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミンおよびメチルメラミン(ヘキサメチルメラミンおよびチオテパ)、スルホン酸アルキルブスルファン、ニトロソウレア(カルムスチン(BCNU)および類似体、ストレプトゾシン)、トリアジンダカルバジン(DTIC)といった抗増殖/抗有糸分裂アルキル化剤、例えば葉酸類似体(メトトレキサート)、ピリミジン類似体(フルオロウラシル、フロクスウリジンおよびシタラビン)、プリン類似体および関連する阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチンおよび2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))といった抗増殖/抗有糸分裂代謝拮抗剤、白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミド、ホルモン(すなわち、エストロゲン)、抗凝血剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩およびその他のトロンビンの阻害剤)、線維素溶解薬(組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼ等)、抗血小板物質(アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ)、抗遊走薬、抗分泌薬(ブレフェルジン)、例えば副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6a-メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベータメタゾンおよびデキサメタゾン)、非ステロイド薬(サリチル酸誘導体すなわちアスピリン、パラアミノフェノール誘導体すなわちアセトアミノフェン、インドールおよびインデン酢酸(インドメタシン、スリンダクおよびエトドラク)、ヘテロアリール酢酸(トルメチン、ジクロフェナクおよびケトロラク)、アリールプロピオン酸(イブプロフェンおよびその誘導体)、アントラニル酸(メフェナム酸およびメクロフェナム酸)、エノール酸(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾンおよびオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、アウロチオグルコース、金チオリンゴ酸ナトリウム))といった抗炎症薬、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)、酸化窒素供与体、アンチセンスオリゴヌクレオチド等、およびこれらを組み合わせた治療薬や医薬品が含まれ得るが、これに限定されない。
【0014】
医薬組成物には、自らあるいはその類似体が含む有効成分についてより長い半減期を与えられたあらゆる変異体を含む。従って、有効成分は、本明細書に記載した有効成分またはそれらの類似体の、効果持続時間が長いあらゆる変異体であってもよい。実施形態によっては、有効成分が、hGH、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)およびインスリン様成長因子(IGF)の、より長い半減期を与えられた、または効果持続時間が長い、あらゆる変異体を含むものもある。また実施形態によっては、有効成分が、より長い半減期を与えられた、または効果持続時間が長いhGHの変異体であるものもある。より長い半減期を与えられた、または効果持続時間が長いhGHの変異体の例は、LB03002、NNC126-0883、NNC0195-0092、MOD-4023、ACP-001、Albutropin、Somavaratan (VRS-317)および多くのGHが含まれ得るが、この限りではない。
【0015】
このシステムにより、発射ユニットは新しいカセットと併せて複数回再利用可能となり、システムによる費用面および環境面での影響を最小限に抑え、かつ物質を混合するための再利用可能な構成の複雑化が回避される。
【0016】
発射ユニットは、誤操作の虞を最小限に抑えるため、混合動作が開始された後にのみカセットに装着可能であることが望ましい。
【0017】
カセットは、混合要素を開始位置に保持し、かつ混合要素を解放して混合動作を開始させるための解放構造を含むものであってもよい。解放構造は、混合要素と係合することにより混合要素を開始位置に保持する保持部材といった、始動要素を含むものであってもよい。保持部材は、混合要素から解放されることにより混合動作を開始してもよい。
【0018】
保持部材はカセットから取り外されることにより混合動作を開始可能であることが望ましい。保持部材の取り外しを可能にするため、保持部材はタブなどの引き輪や持ち手構造を備えていてもよい。保持部材は、混合要素と係合している際には発射ユニットの装着を抑制するよう構成されていてもよい。
【0019】
カセットは、混合要素を付勢してカセット本体に対して移動させるための混合バネを含むものであってもよい。混合バネは圧縮バネであってもよい。別の構成において、混合要素自体が、第一および第二容器の間で相対的な移動を発生させる混合バネを備えていてもよい。
【0020】
混合要素は、混合動作においてカセット本体に対して遠位方向に移動可能であってもよい。例えば、混合要素は第二容器のストッパと協働可能であってもよく、混合要素はストッパと協働するプランジャを含むものであってもよい。この構成の場合、混合要素によるストッパの遠位方向への移動が、バルブを通して第二の物質を第一室へ移動させる。
【0021】
別の構成においては、混合要素は混合動作の際にカセット本体に対して近位方向に移動可能である。この場合、混合要素が第二容器を近位方向へ移動させ、それによる第一室内の圧力低下に応じて、第二の物質がバルブを通って第一室へ移動する。
【0022】
カセットは第二容器への装着されるための接続要素を含むものであってもよい。接続要素は発射ユニットの作動要素と協働可能であることが望ましい。このため、接続要素は作動要素から第二容器へ力を伝達するよう構成されていてもよい。カセットは、接続要素を第二容器に固定させるためのクランプ構造を含むものであってもよい。混合要素を付勢する混合バネが備えられている場合、この混合バネは接続要素に抗して作用するものであってもよい。
【0023】
カセットは、薬剤投与用の針を保持するための針ホルダを含むものであってもよい。針ホルダはカセット本体に対して移動することにより、針をカセットの遠位端から延出させて注射部位へ挿入可能であることが望ましい。この構成により、薬剤投与の前に針を注射部位へ自動的に挿入出来る。針ホルダの移動は、発射ユニットの作動要素の作動により生じるものであってもよく、これにより発射ユニットがカセットに装着された後にのみ針の延出が可能になる。
【0024】
使用後の針に誤って接触する事態を防ぐため、カセットは、カセットを注射部位から取り外す際に針を被覆するシュラウドを含むものであってもよい。シュラウドは、カセットを注射部位から取り外す際に、カセットの遠位端から遠位方向に延出するよう付勢されてもよい。カセットを注射部位から取り外した後に、シュラウドを遠位方向に延出した位置で固定するためのロック構造が設けられてもよい。シュラウドは、付勢されて回転することによりロック構造を作動させるものであってもよい。
【0025】
カセットは、針および、カセットの初期状態において針を密閉するシールドを含むものであってもよい。システムは更に、カセットホルダを含み、シールドは、カセットホルダからカセットを取り外す際に、カセットから退避するようにカセットホルダに取り付けられていてもよい。これにより、カセットがホルダから取り外される際にシールドが自動的に取り除かれるため、使用者がシールドを取り外すための別の動作が不要になる。複数のカセットを保持するよう構成されたカセットホルダを設けると利便性がよい。
【0026】
カートリッジは第一室の出口を閉止するための封止要素を備えていてもよい。この場合、カセットは、封止要素と協働して出口を開放し薬剤の投与を可能にする封止要素解放部材を備えていてもよい。これにより、封止要素解放部材によって出口が開放されるまで、カートリッジに入った物質を密閉された無菌環境に維持することが出来る。このためにカートリッジは、出口が閉止される第一位置から、封止要素解放部材が封止要素と協働して出口を開放する第二位置へ、封止要素解放部材に対して移動可能であってもよい。封止要素解放部材は、混合動作の完了後に封止要素と協働して出口を開放してもよい。例えば、カートリッジを、発射ユニットの作動要素の移動に応じて移動可能にして、薬剤の投与開始直前まで出口を閉止状態に維持するものであってもよい。無菌状態を維持するため、カセットは、出口が閉止されているときに封止要素解放部材を密閉する封止構造を備えていてもよい。
【0027】
発射ユニットをカセットに安定的に装着するため、カセットは、発射ユニットの協働可能構造と係合するための一以上の接続構造を備えていてもよい。システムが複数のカセットを保持するカセットホルダを含む場合、ホルダ上に配置されている複数のカセットのうち、任意のカセットに発射ユニットを装着可能とすると利便性がよい。
【0028】
発射ユニットは、作動要素を遠位方向に付勢するための作動バネを備えていてもよい。発射ユニットは、作動要素を開始位置に保持し、かつトリガ構造の操作に際して作動要素を解放するする係止機構を備えていてもよい。例えば、一構成において、係止機構は、付勢されて作動要素の係止部材と係合するための支持構造を備え、トリガ構造の操作により支持構造が付勢に抗して移動して係止部材を解放するものであってもよい。
【0029】
係止機構は、発射ユニットを再使用するためにリセット可能であってもよい。例えば、係止機構が支持構造を備えている場合、係止部材は、支持構造を付勢に抗して移動させることにより、係止部材を支持構造と再係合させるよう構成されていてもよい。
【0030】
本発明の文脈における「薬剤投与装置システム」という用語は、システムの構成要素を含む組み立て済み薬剤投与装置と、薬剤投与装置を組み立て可能な部品のいかなる編成をも包含し、パーツキットを含むが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明は更に、第二の態様において、本発明の第一の態様のシステムにおいて使用されるカセットを含む。カセットは、第一の物質の収納部としての第一室を有する第一容器、第一容器に少なくとも一部が入り込み、第二の物質の収納部としての第二室を有する第二容器、および第一および第二室を分離するためのバルブ手段を有するカートリッジを含むものであってもよい。
【0032】
本発明の第三の態様において、本発明の第一の態様によるシステムにおいて使用される、または本発明の第二の態様によるカセットと共に使用される、発射ユニットが提供される。
【0033】
第四の態様において本発明は、それぞれ本発明の第二および第三の態様によるカセットおよび発射ユニットを備える薬剤投与装置を含む。
【0034】
第五の態様において、複数のカセットおよび複数のカセットを保持するカセットホルダを含むカセットセットが提供される。各カセットは針、および取り外し可能であって針を密閉可能なシールドを備え、各シールドはカセットホルダに装着可能であり、これによりカセットホルダからカセットを取り外すと針がシールド解除される。
【0035】
本発明は更に、第六の態様として、カセット内に収納されている第一の物質および第二の物質の混合物を投与するための薬剤投与装置を組み立てる方法を含む。方法は、カセットの混合機構を始動させ、第一および第二の物質を混合させること、および混合機構の始動後に、カセットに発射ユニットを取り付けること、を含む。方法は更に、カセットをカセットホルダから取り外し、カセットの針をシールド解除させることを含むものであってもよい。方法は、カセットから始動要素を取り外して混合機構を始動させることを含むものが望ましい。
【0036】
本発明の第七の態様は、上述した一以上の医薬組成物を含む、皮下注射または皮下注入用の一以上の薬剤であって、本明細書で説明する薬剤投与装置に格納される投与用薬剤に関する。更に、本発明は、医薬組成物を含む一以上の薬剤をこれらの薬剤による治療を受療可能な状態にある患者に投与する方法、並びに、本明細書に説明する投与装置を用いて適切な薬剤を投与することによりこれらの状態を治療する方法を含む。
【0037】
本発明の各実施形態及び各側面の好適な、もしくは任意の特徴は、単体又は本明細書において明示的に説明していない組み合わせによって、適宜用いることが可能である。
【0038】
本発明の実施形態を、例示のみを目的として、添付の図面を参照しつつ以下に説明する。以下に説明する添付の図面において、同様の特徴には同様の参照符号を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本出願による投与装置システムにおいて使用されるカセット一式、カセットホルダ、および発射ユニットの等角図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す種類のカセットをカセットホルダに配置した断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のカセットにおいて使用される薬剤カートリッジの拡大断面図である。
【
図5(a)】
図5(a)および5(b)は、
図2のカセットホルダに配置されたカセットの遠位端の拡大切取図である。
【
図5(b)】
図5(a)および5(b)は、
図2のカセットホルダに配置されたカセットの遠位端の拡大切取図である。
【
図6】
図6は、本発明の投与装置において使用される発射ユニットの断面図である。
【
図7(a)】
図7(a)および7(b)はそれぞれ、
図6の発射ユニットの組立分解等角図および切取図である。
【
図7(b)】
図7(a)および7(b)はそれぞれ、
図6の発射ユニットの組立分解等角図および切取図である。
【
図8(a)】
図8(a)および8(b)は、カセットの混合動作において
図2とは異なる状態にあるカセットの断面図である。
【
図8(b)】
図8(a)および8(b)は、カセットの混合動作において
図2とは異なる状態にあるカセットの断面図である。
【
図9(a)】
図9(a)および9(b)は、
図2のカセットおよび
図6の発射ユニットを備えた投与装置が、カセットホルダに対してそれぞれ取り付けおよび取り外しされた際の断面図である。
【
図9(b)】
図9(a)および9(b)は、
図2のカセットおよび
図6の発射ユニットを備えた投与装置が、カセットホルダに対してそれぞれ取り付けおよび取り外しされた際の断面図である。
【
図10(a)】
図10(a)および10(b)は、注射部位に配置された
図9(b)の投与装置の断面図であって、それぞれ発射装置の作動前および作動後を示すものである。
【
図10(b)】
図10(a)および10(b)は、注射部位に配置された
図9(b)の投与装置の断面図であって、それぞれ発射装置の作動前および作動後を示すものである。
【
図11(a)】
図11(a)および11(b)は、注射部位に配置された
図9(b)の投与装置の断面図であって、装置の投与動作における連続した段階を示すものである。
【
図11(b)】
図11(a)および11(b)は、注射部位に配置された
図9(b)の投与装置の断面図であって、装置の投与動作における連続した段階を示すものである。
【
図12(a)】
図12(a)および12(b)は、
図9(b)の投与装置の遠位端でシュラウド部品が作動する連続した段階の拡大切取図であり、便宜上カセット本体部品を省略したものである。
【
図12(b)】
図12(a)および12(b)は、
図9(b)の投与装置の遠位端でシュラウド部品が作動する連続した段階の拡大切取図であり、便宜上カセット本体部品を省略したものである。
【
図13(a)】
図13(a)および13(b)は、
図9(b)の投与装置の断面図であって、それぞれ投与動作の終了時と装置分解時の様子である。
【
図13(b)】
図13(a)および13(b)は、
図9(b)の投与装置の断面図であって、それぞれ投与動作の終了時と装置分解時の様子である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施形態による薬剤投与システム100を
図1に示す。システム100は、カセットホルダ194上に装着される複数の薬剤カセット102一式と一つの発射ユニット200の組み合わせを含む。カセット102は一回の使用後の使い捨てを意図されている一方、発射ユニット200は再使用可能である。このため、カセット102は発射ユニット200に着脱可能となっている。
【0041】
図2についても参照する。
図2はホルダ194に装着された複数のカセット102のうち一つについての断面図であり、各カセット102は、薬剤カートリッジ10を受け入れる略管状の本体104を含んでいる。本体104には窓105(
図1参照)が備えられ、操作中にカセット102の内部部品が観察可能になっている。管状のケース106はカセット本体104内にスライド可能に入り込み、カートリッジ10とカセット本体104の間に同軸に配置されている。明確に図示されてはいないが、ケース106もまた窓を備え、使用時にカセット本体104の窓105を通してカートリッジ10が観察出来るようになっている。
【0042】
カートリッジ10単体は
図3に示すとおり、第一の、すなわち外側容器11と、外側容器11の近位端に入れ子状に入り込む第二の、すなわち内側容器12を備えている。外側容器11は、第一の物質を収容するための第一室16を画定する略管状の本体14を備えている。本体14における第一の端部、すなわち遠位端(
図2および3の最下部)は、第一室16の出口18を画定しており、出口18は本体12の縮径首部22の端面を封止する弾性のディスク、すなわち隔壁20の形態による閉止部材により閉止されている。
【0043】
隔壁20は、クリップ構造28により本体12の首部22上のカラー26に係止係合する連結要素24によって保持されている。クリップ構造28は、連結要素24のリング部32から近位方向に延びる複数の脚部30の端部に配置されている。
【0044】
リング部32は、連結要素22の管状喉部34を支持している。喉部34は連結要素24と一体に形成され、略円錐台形の孔36を画定している。喉部34の内側端は隔壁20に押し当てられ、隔壁20を首部22の端部に押し当て封止している。喉部34の周囲は、封止力が隔壁20の円周全体に付与されるよう連続している。孔36の内部、喉部34の遠位端付近には環状の溝38が配置されている。
【0045】
第一室16の近位端は、内側容器12により閉止されている。内側容器12は、第二の物質を収容するための第二室52を画定する略管状の本体50を含む。内側容器本体50は外側容器本体14と類似の形状および構造になっており、首部54および首部54の遠位端の周囲を取り囲むカラー55を備えている。
【0046】
弾性の栓すなわちストッパ56は外側容器本体50内に入り込み、第二室52の近位端を閉止している。内側容器本体50の遠位端は、カラー55に装着されるキャップ60の形態である第二のすなわち内側の閉止部材により閉止されている。
【0047】
キャップ60はハロブチルやその他のゴム材といった弾性材から形成され、端面62および端面62から近位方向に延びる環状のリング部64を備え、リング部64には内側容器本体50の首部54が入り込んでいる。リング部64は、首部54に対して密着して係合する形状となっており、カラー55の近位端側にてキャップ60を内側容器本体50に固定している。キャップ60の外径は、キャップ60と外側容器本体14の内壁の間を密閉する大きさとなっている。また、より確実に密閉するために、キャップ60の外面には複数の突条66が形成されている。
【0048】
キャップ60の遠位面62は、第二室52の遠位端を閉止するための一方向スリットバルブ68を形成している。このため遠位面62は、第二室52とは反対側の遠位方向を向いた略楔形領域70を備え、この先端に沿ってスリットがキャップ60を貫通し、楔形領域70を一対のバルブ部材72に分割している。バルブ部材72は互いに付勢され、スリットバルブ68の両側における流体圧力が等しい場合に、バルブ部材72が互いを封止しスリットを閉止している。スリットバルブ68の近位側にかかる圧力が遠位側にかかる圧力より実質的に高い場合、この圧力がバルブ部材72同士の付勢を上回り、液体がスリットバルブ68を通過して遠位方向へ流出するのを許容する。一方、スリットバルブ68の遠位側にかかる圧力が近位側にかかる圧力を上回る場合、バルブ68は閉じる。
【0049】
連結要素24はケース106のハブ部108と協働可能となっている。ハブ部108は、管状の針ホルダ112を支持する円盤状の支持部110を備えている。針ホルダ112のうちの短い方の部分114は、支持部110から連結要素24に向かって近位方向に延び、針ホルダ112のうちの長い方の部分116は支持部110から遠位方向に延びている。皮下注射用針118は針ホルダ112に装着され、封入材120により保持されている。
【0050】
管状の穿刺部材122は、針ホルダ112の近位部分114からカートリッジ10に向かって延びている。穿刺部材122の孔は、針ホルダ112の孔により針118のルーメンと連通している。
図2に示すカセット102の初期状態において、カートリッジ10の連結要素24およびケース106のハブ部108は、互いに対して、穿刺部材122がカートリッジ10の隔壁20から離間した第一の装着位置にあり、隔壁20は穿刺されずカートリッジ10の出口18は閉止されている。
【0051】
Oリング124は針ホルダ112の近位部分114の外側にて環状の溝内に保持されている。カートリッジ10およびケース106が第一装着位置にあるカセット102の初期状態において、Oリング124は連結要素24の喉部34の環状の溝38内に配置され、針ホルダ112と連結要素22の間を密閉している。これにより穿刺部材122は、隔壁16の遠位端側の密閉された区画内で無菌状態に維持される。
【0052】
カセット102の初期状態において、カートリッジ10およびケース106は、引き輪部品125を含む保持部材により、互いに対して、またカセット本体104に対して固定の位置に保持される。カセット102の近位端の拡大図である
図4も参照すると、引き輪部品125は、保持ピン126を含み、保持ピン126は可撓性の結合部129を介してリング127の一端に接続されている。保持ピン126は、カセット本体104の近位端付近に形成された、直径方向に対向する一対の穴128に係合し、カセット本体104を通っている。保持ピン126は更に、ケース106に形成された直径方向に対向する一対の穴130を通り、ケース106をカセット本体104に固定している。
【0053】
カートリッジ10の内側容器12は、接続要素132に取り付けられている。接続要素132は略管状であり、その近位端付近に径方向に延びる孔134を有している。カセット102の初期状態において、孔134はカセット本体104およびケース106の穴128、130と直線上に並んでおり、保持ピン126が孔134を通り延びることにより、接続要素132をケース106およびカセット本体104に対して固定している。
【0054】
接続要素132を内側容器本体50に固定するためのクランプ構造が設けられている。接続要素132の遠位端部136は、内側容器本体50の近位端を受け入れるよう内径が拡大しており、内側にネジ山が形成されて、締圧カラー138の外側に形成されたネジ山部分と螺合する。締圧カラー138は内側容器本体50の周囲に環状に配置されている。弾性のOリングを含む締圧リング140もまた内側容器本体50の周囲に配置され、締圧カラー138の近位端と接続要素132の孔に形成された肩部142の間に保持されている。カセット102の組み立て時、締圧カラー138を接続要素132に対して回転させることにより、締圧リング140が内側容器本体50の外壁に押しつけられる。こうして締圧リング140により径方向の締圧力が内側容器本体50に付与され、第二容器本体50が接続要素132に固定される。
【0055】
こうして、保持ピン126が接続要素132に係合している間、カセット本体104およびケース106に対する内側容器12の位置、すなわちハブ部108に対するカートリッジ10の位置は維持される。
【0056】
接続要素132の遠位端部136の外面には、径方向に延びる一対のクリップ144が設けられている。クリップ144はケース106に形成された細長のスロット146に係合し、後述する操作の際に、接続要素132のケース106に対する軸方向の移動を案内する。
【0057】
混合要素148は、プランジャの形態で接続要素132の軸状空洞150内に入り込んでいる。混合要素148は直径方向に延びる孔156を有し縮径した近位端部154を備えている。カセット102の初期状態において、近位端部154は接続要素132の縮径した孔158まで延び、孔158は軸状空洞150の近位端に対して開放されている。初期状態において、保持ピン126は直径方向に延びる孔156を通って延び、それにより混合要素148をカセット本体104、ケース106、および接続要素132に対して固定している。
【0058】
混合要素148もまた、軸152の遠位端にて拡径した頭部158を備えている。詳細は後述するが、頭部158は操作の際にカートリッジ10のストッパ56と協働するよう構成されている。
【0059】
混合バネ160は、圧縮バネの形態で混合要素148の頭部158と軸状空洞150の近位端の間に配置されている。混合バネ160は、接続要素132に対して混合要素148を遠位方向に付勢する付勢手段として作用する。保持ピン126がカセット102の初期状態の位置にあるとき、混合バネ160は圧縮され、保持ピン126が混合バネ160の付勢に抗して混合要素148を保持している。
【0060】
図2に戻り、更にカセット102の遠端を異なる面から切り取った拡大図である
図5(a)および5(b)に示すとおり、針118の遠端部162は針ホルダ112から遠位方向に、カセット本体104の開放された遠位端164に向かって突出している。カセット102の初期状態において、針118の先端はカセット本体104の遠位端164に対して内側に退避している。
【0061】
針シールド166が、針118の遠端部162を囲んで設けられている。針シールド166は、針118の遠端部162を受け入れる孔168を備えている。孔168は遠位端170を塞がれており、針シールド166が取り外されるまで針118の遠端部162は孔168内において無菌状態に保たれる。
【0062】
なお、針シールド166と、初期状態にあるカセット102における連結要素24と針ホルダ112の間を密閉状態に保つことにより、薬剤および注射部位と接触することになるすべての部材(穿刺部材122および針118の遠端部162も含む)の無菌状態が維持可能になる。
【0063】
針シールド166とカセット本体104の間に、略管状のシュラウド172が同軸に設けられている。装置カセット102の初期状態において、シュラウド172もまたカセット本体104の遠位端164に対して内側に退避している。
【0064】
図5(a)に見て取れるように、シュラウド172の壁に形成された弾性アーム176には、外側を向いた突起部174が設けられている。針シールド166はアーム176を支持する細長のリブ178を備え、針シールド166がこの位置にある際の、アーム176の内側方向への変形を抑制している。突起部174は、カセット本体104の遠位端164に配置され内側を向くカラー180と協働し、針シールド166を取り外す際にシュラウド172がカセット本体104に対して遠位方向へ移動するのを抑制するよう構成されている。
【0065】
図2に戻ると、シュラウド172はロックアウトバネ182によりケース106に対して遠位方向に付勢されている。ロックアウトバネ182は圧縮バネおよびねじりバネの両方として作用するコイルバネであり、シュラウド172とケース106の間にねじれによる付勢力も付与する。ロックアウトバネ182の遠位端はシュラウド172と係合しており、ねじれがシュラウド172に伝搬するようになっている。ロックアウトバネ182の近位端も同様に、ケース106の遠位端に係止されるバネガイド184と係合している。バネガイド184は外側管状部186と内側管状部188を有し、外側管状部186の外径はケース106の外径と略同じ寸法となっている。内側管状部188は針ホルダ112の遠端部116と同軸に配置され、ケース106のハブ部108から遠位方向に延びている。
【0066】
カセット102の初期状態において、ロックアウトバネ182は軸方向に弛緩し伸びた状態となっており、バネ182によりシュラウド172に付与される軸方向の力は比較的小さい。
図5(a)および5(b)に戻り、シュラウド172の近位端付近外側面には、複数の止め部190(一つのみ図示)が設けられ、意図に反してシュラウド172がケース106に対して移動しないよう、バネガイド184の外側部186の遠位端と協働して抑制している。シュラウド172の回転は、針シールド166の細長リブ178とシュラウド172の内壁に形成されたスロット191(
図5(a)参照)との係合により抑制される。複数のクリップ192(
図5(b)において一つのみ図示)が、シュラウド172の近位端に設けられている。クリップ192はバネガイド184の外側部186の内側面に対して付勢されており、カセット102内でのシュラウド172の移動を抑制もしくは防止し、ハウジング104からシュラウド172が抜けるのを防いでいる。
【0067】
カセットホルダ194は、複数の開口195を有する基板を備えている。各開口195は、各カセット102の針シールド166の遠位端に配置されたプッシュクリップ196が入り込むよう構成されている。開口195は、プッシュクリップ196を収容するホルダ194の裏面に凹む溝197の上に設けられている。プッシュクリップ196と開口195は、一旦プッシュクリップ196が開口195に挿入されてカセット102がホルダ194に接続されると、カセット102の針シールド166が容易にホルダ194から取り外せなくなるような形状および寸法となっている。
【0068】
各カセット102は、カセットホルダ194に沿って適宜離間して配置され、それぞれがまだホルダ194に装着されている間であっても、発射ユニット200を一つのカセット102に装着出来るようになっている。各カセット102は、外側を向いて発射ユニット200と協働する一対の接続クリップ198を備えている。
図4から読み取れるように、接続クリップ198はカセットハウジング104の近位端にて穴128の位置に形成される。
【0069】
発射ユニット200の断面図である
図6と、分解図である
図7(a)および7(b)を参照する。投与装置システムの発射ユニット200は、カセット102の近位端に装着可能な細長いキャップの形状を有している。各発射ユニット200は、カセットハウジング104の近位端と相補的な形状を持つ遠位端部204を含む略管状の発射ユニット本体202を備えている。発射ユニット本体202の遠位端部204には、直径方向に対向する一対の開口206が設けられ、カセット102の接続クリップ198が入り込むようになっている。
【0070】
発射ユニット200は、略管状の投与作動要素208を収容している。投与作動要素208は、本実施例においては圧縮バネである投与バネ210により発射ユニット本体202に対して遠位方向に付勢されている。投与バネ210の遠端部は、投与作動要素208内を遠位方向に伸びる環状の空洞212に収容されている。投与バネ210の遠位端は空洞212の遠位端壁214に押し当てられている。投与バネ210の近位端は発射ユニット本体202の直径方向に延びるブリッジ部216に押し当てられている。
【0071】
ループ状の係止部材218は投与作動要素208から近位方向に延びている。発射ユニット200の初期状態(
図6に示すとおり)において、係止部材218はブリッジ部216の開口220を通って延び、係止部品222と係合している。
図7(a)および7(b)から読み取れるように、係止部品222は傾斜した遠位面226と平坦な近位面228を含む支持構造224を有している。支持構造224は、支持リング230の一方側から内向きに突出している。支持構造224に隣接して、支持リング230の外側には係止バネ232が設けられている。係止バネ232は、弾性材によるループであり支持リング230と一体に形成されている。
【0072】
図6に戻る。係止バネ232は発射ユニット本体202の対向する壁に係止部品222を付勢し、発射ユニット200の初期状態において支持構造224がブリッジ部216の開口220と並ぶよう配置する。発射ユニット200の組み立て時(および後の発射ユニット200のリセット時)、投与作動要素208を発射ユニット200に対して近位方向に移動させ、係止部材218に開口220を通過させる。係止部材218は傾斜近位面234を有しており、傾斜近位面234が支持構造224の傾斜遠位面226と協働して係止部品222を発射ユニット本体202に対して横方向に移動させると、係止バネ232が変形し係止部材218は支持構造224を通過可能となる。係止部品222はその後係止バネ232の作用により元に戻り、支持構造224が係止部材218を通って延び、係止部材218延いては投与作動要素208の、発射ユニット本体202に対する遠位方向への移動を抑制する。
【0073】
発射ユニット200の近位端にはトリガボタン240が設けられている。
図7(b)から読み取れるように、トリガボタン240は遠位方向に延びる二対のアーム242を備え、発射ユニット本体202のブリッジ部216内のスロット(明確な図示なし)を通って延びている。アーム242の各対は、発射ユニット200の組み立て時に各スロットを通る際に互いに近づけるよう可撓性を有し、スロットを通過すると離れて元に戻り、トリガボタン240を発射ユニット本体202の固定の位置に保持するよう構成されている。トリガボタン240は遠位端側に、遠位方向に延びる一対の楔形の解除ピン244を備えている。詳細は後述するが、解除ピン244は、トリガボタン240が発射ユニット本体202に対して遠位方向に移動する際に、それぞれ係合部品222のスロット246と係合する位置に設けられ、係止バネ232の付勢に抗して係止部品222を横方向に移動させる。
【0074】
投与作動要素208は、発射ユニット本体202の内壁に形成された一対の細長の経路248(
図6および7(b)にそれぞれ一つのみ図示)により、発射ユニット本体202に対する軸方向への移動を案内される。投与作動要素208は、径方向に突出し経路248と係合する一対のリブ250(
図7(a)参照)を備えている。
【0075】
投与装置システム100から薬剤を注射する一連の手順について説明する。
【0076】
最初の手順はカセット102がカセットホルダ194に装着されているうちに行う。
図1に示すとおり、カセット102一式においては、引き輪部品125のリング127が各カセットの近位端に装着されるが、これに代えて梱包部、クリップ、ラベル、またはその他の構成によってリング127を保持してもよい。
【0077】
使用者はまず、任意のカセット102の遠位端からリング127を引き、
図2に示すように引き輪部品125を横方向に伸ばす。次いで引き輪部品125を引いて、保持ピン126をカセット102から引き抜くと、カセット102の混合動作が開始される。
【0078】
保持ピン126が引き抜かれると、混合要素148、接続要素132、ケース106、およびカセット本体104が互いに対してカセット102の軸方向に自由移動可能となる。混合動作の際、カセット本体104およびケース106はカセットホルダ194に対して静止しており、ケース106のハブ部108はカートリッジ10の連結要素24に対して第一装着位置に保たれ、隔壁20は穿刺されない。
【0079】
一方、保持ピン126が引き抜かれると、混合要素148は接続要素132から解放され、混合バネ160の作用により遠位方向に移動して、
図8(a)に示すようにカートリッジ10のストッパ56を内側容器12の遠位端に向けて移動させる。これにより、第二の物質は第二室52からバルブ68を通り第一室16へ流出し、第一の物質と混合する。第一室16の出口18は隔壁20により閉止されており、このため第一室16内の体積増加によって内側容器12のカセット本体104に対する近位方向への移動が生じ、接続要素132がカセット102の近位端から突出する。
図8(b)は、ストッパ56が第二室52の遠位端に到達した混合動作完了時の様子を示している。この時点で、第一および第二室16、52内の圧力が等しくなっているため、バルブ68は閉じる。
【0080】
接続要素132の突出により、混合動作が実行されたことが使用者に示される。次いで発射ユニット200がカセット102に装着される。なお、発射ユニット200は、引き輪部品125が付いているうちはカセット102に装着出来ないため、混合動作が開始される前にカセット102が使用されるような事態が回避される。
【0081】
図9(a)は装着された発射ユニット200を示し、組み立て済みの投与装置300を形成するカセット102の近位端に係合し、接続クリップ198を発射ユニット本体202の開口206に係合させている様子を示す。この段階で、発射ユニット200の作動要素の遠位端は、カセット102の接続要素132の近位端から離間している。
【0082】
カセット102および装着された発射ユニット200を含む装置300が、カセットホルダ194から取り外される。
図9(b)に示すとおり、針シールド166はカセットホルダ194に装着されたまま残され、カセット102がカセットホルダ194から取り外されるに従って針118の遠位端162がシールド解除される。
図5(a)を参照して上述したとおり、シュラウド172のリブ174(
図9では見えない)とカセット本体104のカラー180との係合により、針シールド166がカセット102から引き抜かれる際の、シュラウド172のカセット本体104に対する遠位方向への移動が阻止される。更に、カセット102をホルダ194から取り外す際、止め部190(
図9では見えない)により、バネガイド184、延いてはケース106、ハブ部108、および針118のカセット本体104に対する遠位方向への移動を抑制する。
【0083】
ホルダ194から取り外された後は、
図10(a)に示すように、カセット102の遠位端164が注射部位Sに押し当てられる。発射ユニット200のトリガボタン240が遠位方向に押し込まれる。
図6および7を参照して上述したとおり、トリガボタン240の解除ピン244は、係止部品222と協働して、支持構造224を発射ユニット本体202に対して横方向(
図10において左方向)に移動させる。これにより支持構造224は投与作動要素208の係止部材218との係合を解除される。
【0084】
図10(a)は、支持構造224が係止部材218との係合を解除された直後の装置300の様子を示す。係止部材218は発射ユニット本体202のブリッジ部216の開口220を通って遠位方向に移動可能であり、これにより、装置300の投与動作を実行する作動バネ210の作用で作動要素208を発射ユニット本体202に対して遠位方向に移動させる。
【0085】
作動要素208の移動に際し、作動要素208の遠位端が接続要素132の近位端に当接する。接続要素132は、作動バネ210の力を作動要素208からカートリッジ10の内側容器12に伝達する機能を果たす。このため、内側容器12がカセット本体104に対して遠位方向に移動する。このときキャップ60内のバルブ68は閉じているため、内側容器12が外側容器11に対する可動ピストンあるいはプランジャとして機能する。
【0086】
内側容器12が移動する初期の段階で、キャップ60と外側容器本体14の間における摩擦によって、外側容器11は内側容器12と共に遠位方向へ移動する。外側容器11のこの遠位方向への移動により、
図10(b)に示すように針118の遠端部162が装置300の外部へ延びて注射部位Sを穿刺する。ケース106およびバネガイド184はハブ部108と共に遠位方向に移動し、バネガイド184がシュラウド172の止め部190(
図5参照)を超え、ロックアウトバネ182がシュラウド172の近位端に圧縮状態で当接する。
【0087】
針118は、バネガイド184の遠位端がカセット本体104の遠位端164にてカラー180に当接してバネガイド184、ケース106、およびハブ部108のそれ以上の移動を制止するまで遠位方向への移動を続ける。
【0088】
投与動作におけるこの内側容器12の遠位方向への更なる移動により、外側容器11がケース106に対して遠位方向へ移動し、連結要素24およびケース106のハブ部108が互いに対する第二装着位置へ移動する。
図11(a)に示すように、第二装着位置において、穿刺部材122は隔壁20を穿刺してカートリッジ10の第一室16の出口18を開き、第一室16から針118までの経路を連通させる。カートリッジ10の連結要素24の喉部34は針ホルダ112の遠端部114に対して遠位方向に移動し、封止リング124は喉部34との係合から外れる。
【0089】
外側容器11のケース106に対する移動は、遠位端の喉部34がハブ部108の支持部110に当接すると止まる。ただし投与動作は続き、内側容器12を外側容器11に対して遠位方向へ移動させる。内側容器12のキャップ60ではバルブ68が閉じていることから、キャップ60は第一および第二の物質の混合物を、第一室から針118を通して注射部位Sへ到達させる。
図11(b)は、投与動作終わりにキャップが第一室16の遠位端に到達した装置300の様子を示す。
【0090】
投与動作が完了すると、注射部位Sから装置300を離す。装置300が離れるにつれ、ロックアウトバネ182の作用によりシュラウド172がカセット本体104の遠位端から展開する。こうしてシュラウド172は、注射部位Sから抜去された針118を遮蔽する。
【0091】
以下は
図12を参照して説明する。シュラウド172は遠位方向に延出した位置にロックされ、装置使用後の針118に誤って接触する事態を防ぐ構成となっている。
【0092】
図12(a)はカセット本体104を省略したカセット102の遠位端の切取図であり、シュラウド172が最遠位の位置まで到達した様子を示している。シュラウド172には、バネガイド184に対する自身の移動をガイドするための溝すなわちキー経路173が設けられている。バネガイド184の外側管状部186の遠位端には、キー経路173と協働する内向きの突起すなわちキー175が備えられている。
【0093】
キー経路は略J字状であり、シュラウド172に沿って細長く延びるガイド部分173aと、第一部分173aと並行して設けられキー経路173の近位端で第一部分173aに接続する凹部173bを含む。注射部位から離れる際にシュラウド172が展開すると、キー175はキー経路173の第一部分173aと協働し、シュラウド172のバネガイド184に対する回転を抑制する。シュラウド172が遠位方向への移動を続けると、キー経路173の近位端がキー175に到達する。この位置で、ロックアウトバネ182により付与されるねじれ付勢の作用によりシュラウド172は回転可能となり、受入構造173cを通過して、
図12(b)に示すようにキー175を凹部173bへ導入する(
図12(b)においては凹部173bの遠位端のみが視認可能)。
【0094】
ロックアウトバネ182のねじり付勢によってキー175を凹部173bに向けて付勢し、かつ受入構造173cによってキー175が凹部から脱出する移動が抑制されることにより、シュラウド172は針ガイド184に対して固定の位置にロックされ、針118を保護する。類似のシュラウド構造については出願人の国際特許出願第WO 2016/024085 A1号に記述され、その内容は参照によりここに援用される。
【0095】
図13(a)は注射部位から離間した後の、シュラウド172および空となったカートリッジ10を含む装置300の様子を示す。発射ユニット200およびカセット102は、互いを引き離して発射ユニット200の開口206からカセット102の接続クリップ198を取り外すことにより分離可能となる。分離した発射ユニット200とカセット102を
図13(b)に示す。
【0096】
カセット102は一度の使用の後に廃棄してもよい。一方発射ユニット200は再利用可能である。このため、発射ユニット200は、作動要素208を発射ユニット本体202に対して近位方向に移動させてリセットすることが出来る。
図7(b)に戻り参照すると、係止部材218が発射ユニット本体202のブリッジ部216の開口220を通って戻り、係止部材218の傾斜近位面234が支持構造224を横に移動させる。その後支持構造224は、係止バネ232の力の作用により元に戻り、係止部材218と係合し投与作動要素208を再度係止する。
【0097】
投与作動要素208の再係止にはロッド等の器具を適宜使用してもよい。カセットホルダ194に装着されたり、カセットホルダ194の一部を形成したりするような、発射ユニット200の収納装置の一部にそのようなロッドを適宜形成してもよい。
【0098】
例えば、
図1に示す例において、カセットホルダ194は発射ユニット200をリセットするための直立する収納ロッド199を備えている。使用後のカセットから発射ユニット200を取り外した後、発射ユニット200を収納ロッド199に装着することが出来る。収納ロッド199は投与作動要素208を近位方向に押し込み再係止させる。発射ユニット200は次に必要となるまで収納ロッド199上に収納しておいてもよい。
【0099】
上述の例には複数の派生形および変化形が考えられる。
【0100】
例えば、図示はしないが、ケースのハブ部は、カートリッジの連結要素上の対応するクリップ構造と係合する一以上の係合構造を有していてもよく、連結要素とハブ部を互いに第一装着位置または第二装着位置あるいはその両方に保持させてもよい。
【0101】
ハブ部と穿刺部材の間の封止構造については、複数の代替構造が考えられる。例えば、連結要素の外面とケースの内面の間を封止する封止要素やOリングを設けてもよい。
【0102】
カートリッジは上述した例とは異なるものでもよく、ハブ部はカートリッジと協働して適宜出口を開放し針と連通させるものであってもよい。例えば、穿刺可能な隔壁に代えて、開放可能な弁のような、室内からの出口を封止する代替手段を設けてもよい。ハブ部は、封止要素と協働する封止要素解放手段を含むものであってもよい。穿刺可能な隔壁が設けられる場合、両端針を設け、その近位端が穿刺部材として使用されてもよい。
【0103】
カートリッジの第二室の遠位端を閉止するスリットバルブについては、バルブ手段や閉止手段による代替が適宜可能である。例えば、ダックビルバルブ、フラップバルブ、アンブレラバルブ、クロススリットバルブ、およびその他の既知の一方向弁や逆止弁を含むバルブ構造の形態によるバルブでもよい。一般的な名称として、バルブとは、第一および第二の物質の混合を抑制するいかなる相応の閉止も含む。従って、更なる例において、第二室の遠位端を閉止するために用いられる膜も含む。この場合の膜は、膜の両側で十分な圧力差が生じた際に分離、分裂、あるいは破裂して第二室の遠位端を開放するものであってもよい。なお、実施の形態によっては、混合動作の終了時にバルブ手段が再閉止しないものであってもよい。
【0104】
引き輪部品および保持部材は適宜、混合動作を開始するためのいかなる部品または構造であってもよい。例えば、引き輪、タブ、スライダ、リボン、紐、または類似の装置を用いてもよい。保持部材は梱包物に装着され、カセットを梱包物から取り出すことにより混合動作が開始されるものでもよい。保持部材はカセットから取り外し可能である必要はないが、混合動作を開始するにはカセットに対して移動可能とする。この場合、保持部材は使用者により直接移動可能とするか、ボタン、スライダ、スイッチまたはその他の部品または構造により保持部材の移動を発生させるものであってもよい。
【0105】
なお、操作手順は上述した特定の例とは異なってもよい。例えば、挙げられた例によれば、注射前にカセットの混合動作が正しく行うことを確実にするために、発射ユニットは混合動作開始の前にカセットに装着出来ない。しかしながら、使用方法によっては、発射ユニットの装着により、または発射ユニットの装着後に、混合動作を開始してもよい。容器と注射針の間を連通させるためのハブ部と容器の間の相対的な移動は、注射部位への注射針の挿入前または挿入後であってもよい。
【0106】
発射ユニットの作動機構は上述したものとは異なっていてもよく、作動要素の遠位方向への移動を発生させる代替の機構については、当業者に既知となるものも含まれる。
【0107】
同様に、作動動作を開始するためのトリガ構造が適宜設けられてもよい。例えば、上述の実施例におけるトリガに代えてスライダ、スイッチ、プルタブ、またはその他の操作部材が設けられてもよい。また、装置による注射部位への当接に応じて作動動作を開始するトリガ構造も適宜考えられる。
【0108】
また、カセットに用いられる混合機構も上述のものとは異なっていてもよい。例えば、別の構成として、混合動作を生じさせる混合要素、更に作動要素の力を内側容器に伝えるものの両方として機能する接続要素を内側容器に取り付けてもよい。この場合、接続要素は外側容器に対して近位方向に移動するよう付勢され、混合動作の開始時に、接続要素が内側容器を近位方向に引き寄せるよう構成される。その結果第一室内での圧力が低下することにより、第二の物質がバルブを通って第一室にて混合される。一般的な、第一および第二の容器の間に相対的な移動を生じさせるいかなる機構が採用されてもよい。例えば、混合動作の際に第一および第二の容器の間に相対的な移動を生じさせるバネを混合要素自体が備えていてもよい。
【0109】
本発明は主に、第一の薬剤が(凍結乾燥された薬剤といった)固形であり、第二の薬剤が(固形を戻す希釈剤といった)液体である、再構成可能な薬を使用するために考案されたものであるが、本発明はそのような薬剤の使用のみに限られたものではない。カートリッジは例えば二種類の液体薬剤を収容し混合させるためにも使用可能である。薬剤のどちらかあるいは両方が、ゲル、懸濁液、コロイド、ゾル等のいずれかであってもよい。なお、本明細書の文脈において「混合物」という用語は、二以上の出発物質のあらゆる化学的あるいは物理的な組み合わせの意味で用いられており、「混合する」、「混合された」及び関連する用語もこれに沿って解釈されるものとする。従って、「混合する」は、溶液、懸濁液、乳化液、コロイド、ゲル、ゾル、泡等の形成を含むと解釈される。「混合する」という用語は、混合すると反応して新しい化合物を形成する二以上の反応物質を合わせることも含む。
【0110】
添付の特許請求の範囲で規定されている本発明の範囲から逸脱することなく、上述した例を更に変更することや変形することも可能である。