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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】官能化ポリスルフィド合成法
(51)【国際特許分類】
   C12P 11/00 20060101AFI20220210BHJP
   C07C 323/58 20060101ALI20220210BHJP
   C10M 135/20 20060101ALI20220210BHJP
   C12P 13/12 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C12P11/00
C07C323/58 CSP
C10M135/20
C12P13/12 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019535895
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 FR2017053782
(87)【国際公開番号】W WO2018122511
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2019-08-22
(31)【優先権主張番号】1663492
(32)【優先日】2016-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレミ,ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】マスラン,アルノー
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-204055(JP,A)
【文献】米国特許第03022351(US,A)
【文献】特開平05-229964(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188355(WO,A1)
【文献】BIOORGANIC CHEMISTRY,Persulfide Properties of Thiocystine and Related Trisulfides,1980年,Vol.9 ,P253-260
【文献】DILWORTH Gregory L.,Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,1982年,Vol. 19, No. 10,pp. 1197-1202
【文献】CHOCAT, Patrick et al.,Agricultural and Biological Chemistry,1985年01月01日,Vol. 49, No. 4,pp. 1143-1150
【文献】FLETCHER J C,THE OCCURRENCE OF BIS-(2-AMINO-2-CARBOXYETHYL) TRISULPHIDE IN HYDROLYSATES OF WOOL 以下備考,BIOCHEMICAL JOURNAL,1963年06月,VOL:87, NR:3,,PAGE(S):553 - 559,http://dx.doi.org/10.1042/bj0870553,AND OTHER PROTEINS
【文献】ERYKA GUIBE-JAMPEL,DISULFIDE-BRIDGE FORMATION THROUGH SOLVENT-FREE OXIDATION OF THIOL AMINO ACIDS 以下備考,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY PERKIN TRANSACTIONS 1,英国,1999年,NR:21,,PAGE(S):3067 - 3068,http://dx.doi.org/10.1039/a907027c,CATALYSED BY PEROXIDASE OR HEMIN ON MINERAL SUPPORTS
【文献】AHMET KERTMEN,NOVEL AND EFFICIENT METHODS FOR THE SYNTHESIS OF SYMMETRICAL TRISULFIDES,SYNTHESIS,ドイツ,2009年03月25日,VOL:2009, NR:9,,PAGE(S):1459 - 1462,http://www.xiuzhengrd.com/ejournals/pdf/synthesis/doi/10.1055/s-0028-1088161.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 - 41/00
C07C 323/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの式(I)の官能化有機ポリスルフィドを合成する方法であって、
-X-(NR)CH-(CH-S-(CH-CH(NR)-X-R (I)
式中:
及びRは、異なる又は異ならず、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖であり、
Xは-C(=O)-又は-CH-又は-CNであり、
は、(i)存在しない(Xが-CNを表す場合)、(ii)又は水素、(iii)又は-OR(Rは、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖である。)、(iv)又は-NR(R及びRは、異なる又は異ならず、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖である。)のいずれかであり、
nは、1又は2に等しく、
aは、2~10の整数又は小数であり、
は、不斉炭素を表し、
前記方法が、
a/少なくとも1つの式(II)の化合物を提供するステップであって、
G-(CH-CH(NR)-X-R (II)
式中
n、R、R、R、X及びは上で定義した通りであり、
Gは、(i)R-C(=O)-O-、又は(ii)(RO)(RO)-P(=O)-O-、又は(iii)RO-SO-O-のいずれかを表し、
は、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖であり、
及びRは、同一であるか又は異なり、プロトンH、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムである、ステップ、
b/少なくとも1つの無機ポリスルフィドを提供するステップ、
c/スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1つの酵素の存在下で、前記少なくとも1つの式(II)の化合物と前記少なくとも1つの無機ポリスルフィドとの反応のステップ、
d/少なくとも1つの式(I)の官能化有機ポリスルフィドを得るステップ、及び
e/前記少なくとも1つの式(I)の官能化有機ポリスルフィドの分離及び単離のステップ
を含み、
段階a/及びb/は同時に行われる、又は同時に行われない、方法。
【請求項2】
前記式(I)の官能化有機ポリスルフィドがエナンチオマー的に純粋である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)の官能化有機ポリスルフィドが、ジシステインポリスルフィド及びジホモシステインポリスルフィドから選択される、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記式(II)の化合物が、L-セリン誘導体及びL-ホモセリン誘導体から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記L-セリン誘導体が、O-ホスホ-L-セリン、O-スクシニル-L-セリン、O-アセチル-L-セリン、O-アセトアセチル-L-セリン、O-プロピオ-L-セリン、O-クマロイル-L-セリン、O-マロニル-L-セリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリン、O-ピメリル-L-セリン及びO-スルホ-L-セリンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記L-ホモセリン誘導体が、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリン及びO-スルホ-L-ホモセリンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記スルフヒドリラーゼが、前記L-セリン誘導体に結合したスルフヒドリラーゼ及び前記L-ホモセリン誘導体に結合したスルフヒドリラーゼから選択される、請求項~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記L-セリン誘導体に結合したスルフヒドリラーゼが、O-ホスホ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、アセトアセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-セリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-L-セリンから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記L-ホモセリン誘導体に結合したスルフヒドリラーゼが、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記無機ポリスルフィドが、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムポリスルフィドから選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
段階d/又は段階e/で得られた式(I)の官能化有機ポリスルフィドをさらに官能価する段階f/を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ジホモシステインテトラスルフィド及びジホモシステインペンタスルフィドから選択される官能化有機ポリスルフィド。
【請求項13】
潤滑、加硫、又は触媒の硫化における、請求項12に記載の官能化有機ポリスルフィドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ポリスルフィドの分野に関し、より詳細には官能化有機ポリスルフィドの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリスルフィドは多くの用途で使用されている。この理由は、有機ポリスルフィドが有する官能基に応じて、有機ポリスルフィドが潤滑剤中の添加剤として、耐摩耗剤、極圧剤又は酸化防止剤として使用できるためである。有機ポリスルフィドは石油留分の水素化処理又は加硫のための触媒の予備硫化の間にも使用される。有機ポリスルフィドは、例えばギアボックス用又は材料の機械加工用の潤滑配合物の組成にも関与することがある。さらに、有機ポリスルフィドはセメント、コンクリート又はアスファルトの製造に使用することができる。最後に、有機ポリスルフィドは、放射線に対抗するための又は他の治療的使用のための、いくつかの薬剤の組成に関与することがある。
【0003】
その結果、所望の有機ポリスルフィドに応じて、これらの化合物を合成するための多数の方法が存在する。
【0004】
例えば、工業において、有機ポリスルフィドは通常、メルカプタン、硫黄及び塩基性触媒の間の反応方法によって合成される。有機ポリスルフィドは、石油又は再生可能な起源のオレフィンと硫黄及び硫化水素との反応方法によっても調製され得る。しかし、有機ポリスルフィドを得るためのこれらの方法は、有効とするためには高温及び/又は圧力条件を必要とする。
【0005】
官能化有機ポリスルフィドの多数の可能な用途のために、後者の合成方法を提供する必要性がなお存在することが容易に理解されよう。
【0006】
また、耐久性として記載することができる、即ち穏やかな温度及び圧力条件で、pH値が中性に近い水溶液中にて、再生可能な起源の出発材料を用いて、実施することができる方法による官能化有機ポリスルフィドの合成の必要性が存在すること、並びにその収率が既存の方法で、より一般的にはより環境に優しい方法で得られる収率より高いことも理解されよう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明による、以下に記載する方法を実施することによって、上で定義した目的を満足できることが、今や見出されている。他の目的は、以下に続く本発明の説明を続けることで、なお明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様により、本発明は、少なくとも1つの式(I)の官能化有機ポリスルフィドを合成する方法に関し、
-X-(NR)C*H-(CH-S-(CH-C*H(NR)-X-R (I)
式中:
-R及びRは、異なる又は異ならず、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖であり、
-Xは-C(=O)-又は-CH-又は-CNであり、
-Rは、(i)存在しない(Xが-CNを表す場合)、(ii)又は水素、(iii)又は-OR(Rは、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖である。)、(iv)又は-NR(R及びRは、異なる又は異ならず、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖である。)のいずれかであり、
-nは、1又は2に等しく、
-aは、2~10の、好ましくは2~6の整数又は小数であり、
は不斉炭素を表し、
前記方法は、
a/少なくとも1つの式(II)の化合物を提供するステップであって、
G-(CH-C*H(NR)-X-R (II)
式中
-n、R、R、R、X及び*は上で定義した通りであり、
-Gは、(i)R-C(=O)-O-、又は(ii)(RO)(RO)-P(=O)-O-、又は(iii)RO-SO-O-のいずれかを表し、
-Rは、水素であるか、ヘテロ原子を含むことができる、芳香族若しくは非芳香族、直鎖若しくは環状、分枝若しくは非分枝の、炭素原子1~20個の炭化水素鎖であり、
-R及びRは、同一であるか又は異なり、プロトンH、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム、好ましくはプロトンH又はアルカリ金属、及びより詳細にはプロトンH又はNaである、ステップ、
b/少なくとも1つの無機ポリスルフィドを提供するステップ、
c/スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1つの酵素、及び好ましくは前記式(II)の化合物に結合したスルフヒドリラーゼの存在下で、前記少なくとも式(II)の化合物と前記少なくとも無機ポリスルフィドとの反応のステップ、
d/少なくとも1つの式(I)の官能化有機ポリスルフィドを得るステップ、
e/前記少なくとも式(I)の官能化有機ポリスルフィドの分離及び単離のステップ、
f/任意に、段階d/又はe/で得られた式(I)の官能化有機ポリスルフィドの追加の官能化のステップ
を含み、
段階a/及びb/は同時に行われる、又は同時に行われない。
【0009】
不斉炭素原子の立体配置は、反応を通じて保持されることが認められている。別の利点として、本発明による方法に従って得られる式(I)の官能化有機ポリスルフィドは、エナンチオマー的に純粋な有機ポリスルフィドであることに留意すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「官能化有機ポリスルフィド」は、任意の種類の式(I)の有機ポリスルフィドを意味し、その窒素原子は官能基を有し(Rが水素原子を表す場合を除く)、及び/又は窒素原子に対してα位の炭素原子は、官能基を有する(-X-が-CH-を表す場合及びRが水素原子を表す場合を除く)。
【0011】
本発明は、以下の説明及び実施例の観点からより良好に理解されるが、本発明はいかなる状況下でも前記実施例に限定されるものではない。
【0012】
好ましい実施形態により、R及びRは水素原子を表す。
【0013】
別の好ましい実施形態により、Xは-C(=O)-官能基を表す。
【0014】
別の実施形態により、Rは-ORを表し、Rは水素である。
【0015】
本発明の別の実施形態により、nは1に等しい。
【0016】
本発明のまた別の実施形態により、nは2に等しい。
【0017】
本発明の好ましい実施形態により、式(I)中、Rは水素原子を表し、Xは-C(=O)-を表し、Rは-ORを表し、Rは水素であり、nは1に等しく、式(I)の化合物はジシステインポリスルフィドである。
【0018】
本発明の別の好ましい実施形態により、式(I)中、Rは水素原子を表し、Xは-C(=O)-を表し、Rは-ORを表し、Rは水素であり、nは2に等しく、式(I)の化合物はジホモシステインポリスルフィドである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態により、式(II)中、Rは水素原子を表し、XはC=O官能基を表し、Rは-ORを表し、Rは水素であり、nは1に等しく、式(II)の化合物は、L-セリン誘導体である。
【0020】
本発明による方法で使用されるL-セリン誘導体は、例えば、限定されないが、O-ホスホ-L-セリン、O-スクシニル-L-セリン、O-アセチル-L-セリン、O-アセトアセチル-L-セリン、O-プロピオ-L-セリン、O-クマロイル-L-セリン、O-マロニル-L-セリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリン、O-ピメリル-L-セリン及びO-スルホ-L-セリンから選択することができる。
【0021】
好ましくは、L-セリン誘導体は、O-ホスホ-L-セリン、O-スクシニル-L-セリン、O-アセチル-L-セリン及びO-スルホ-L-セリンから選択される。
【0022】
非常に特に好ましくは、L-セリン誘導体はO-アセチル-L-セリンである。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態により、式(II)中、Rは水素原子を表し、XはC=O官能基を表し、Rは-ORを表し、Rは水素であり、nは2に等しく、式(II)の化合物は、L-ホモセリン誘導体である。
【0024】
本発明による方法において使用されるL-ホモセリン誘導体は、例えば、限定されないが、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、O-プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリン及びO-スルホ-L-ホモセリンから選択することができる。
【0025】
好ましくは、L-ホモセリン誘導体は、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-ホスホ-ホモセリン及びO-スルホ-L-ホモセリンから選択される。
【0026】
最も特に好ましくは、L-ホモセリン誘導体はO-アセチル-L-ホモセリン(OAHS)である。
【0027】
L-セリン誘導体及びL-ホモセリン誘導体は市販されているか、又は当業者に既知である任意の技術によって得られる。
【0028】
それらは、例えば、再生可能な出発材料の発酵によって得ることができる。再生可能な出発材料は、グルコース、スクロース、デンプン、糖蜜、グリセロール又はバイオエタノールから選択することができ、好ましくはグルコースである。
【0029】
L-セリン誘導体はまた、L-セリンのアセチル化から製造することができ、L-セリン自体は再生可能な出発材料の発酵によって得ることができる。再生可能な出発材料は、グルコース、スクロース、デンプン、糖蜜、グリセロール又はバイオエタノールから選択することができ、好ましくはグルコースである。
【0030】
L-ホモセリン誘導体は、L-ホモセリンのアセチル化からも製造することができ、L-ホモセリン自体は再生可能な出発材料の発酵によって得ることができる。再生可能な出発材料は、グルコース、スクロース、デンプン、糖蜜、グリセロール又はバイオエタノールから選択することができ、好ましくはグルコースである。
【0031】
本発明による方法において使用される無機ポリスルフィドは、2~10の、好ましくは2~6の整数又は小数の平均硫黄ランク(mean whole or decimal sulfur rank)を有する。
【0032】
無機ポリスルフィドは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムポリスルフィドから選択される。
【0033】
好ましくは、無機ポリスルフィドは、ナトリウムポリスルフィド、カリウムポリスルフィド、カルシウムポリスルフィド及びアンモニウムポリスルフィドから選択される。
【0034】
特に好ましくは、無機ポリスルフィドはナトリウムポリスルフィドである。
【0035】
無機ポリスルフィドは、当業者に既知である任意の技術に従ってヒドロスルフィド又はスルフィドから調製される。使用されるヒドロスルフィド又はスルフィドは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムヒドロスルフィド若しくはアンモニウムスルフィドであることができる。
【0036】
無機ポリスルフィドは、ヒドロキシド、オキシド、硫化水素又は硫黄からも調製することができる。
【0037】
添加される硫黄の量は、無機ポリスルフィドに所望される平均硫黄ランクに従って調整される。
【0038】
本発明による方法の間、前記少なくとも式(II)の化合物と前記少なくとも無機ポリスルフィドとの反応は、少なくとも1つの酵素の存在下で行われ、前記酵素は、好ましくは前記式(II)の化合物に結合したスルフヒドリラーゼである。
【0039】
したがって、式(II)の化合物がL-セリン誘導体である場合、使用することができる酵素は、O-ホスホ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-セリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-セリンスルフヒドリラーゼから選択される。
【0040】
好ましくは、L-セリン誘導体に結合した酵素は、O-ホスホ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-セリンスルフヒドリラーゼから選択される。
【0041】
非常に特に好ましくは、L-セリン誘導体に結合した酵素は、O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼである。
【0042】
式(II)の化合物がL-ホモセリン誘導体であるとき、使用することができる酵素は、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択される。
【0043】
好ましくは、L-ホモセリン誘導体に結合した酵素は、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ及びO-スルホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択される。
【0044】
非常に特に好ましくは、L-ホモセリン誘導体に結合した酵素は、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼである。
【0045】
前記酵素は、当業者に十分に既知であるように、ピリドキサール5’-ホスフェートなどの補因子の存在下で機能する。
【0046】
酵素及びその結合した補因子は、一般に、反応媒体への添加前に水に溶解される。式(II)の化合物の重量に対する酵素の量は、0.1~10重量%、好ましくは1~5重量%であり、式(II)の化合物の重量に対する補因子の量は、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%である。
【0047】
本発明の好ましい実施形態により、L-セリン誘導体はO-アセチル-L-セリンであり、無機ポリスルフィドはナトリウムポリスルフィドであり、使用される酵素はO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼである。
【0048】
本発明の好ましい実施形態により、本方法に従って得られる有機ポリスルフィドはジシステインポリスルフィドである。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態により、L-ホモセリン誘導体はO-アセチル-L-ホモセリンであり、無機ポリスルフィドはナトリウムポリスルフィドであり、使用される酵素はO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼである。
【0050】
本発明の好ましい実施形態により、本方法に従って得られる有機ポリスルフィドはジホモシステインポリスルフィドである。
【0051】
合成媒体、温度及びpH条件に関しては、出願WO2008013432及びWO2013029690に記載されているものが参照され得る。
【0052】
したがって、酵素の作用範囲により、反応pHは、5~8、好ましくは6~7.5、より詳細には6.2~7.2である。全ての場合において、pHは酵素の作用上の最適性に従って調節する必要がある。pHは塩基性無機ポリスルフィド、希硫酸又は希アンモニア水を添加することにより調節することができる。
【0053】
したがって、酵素の作用範囲により、反応中の温度は10~45℃、好ましくは20~40℃、より詳細には25~37℃である。
【0054】
反応は、水性媒体中で、又は有機溶媒が酵素と相溶性である場合、有機溶媒の存在下で起こる。好ましくは、反応は水性媒体中で起こる。
【0055】
反応は、バッチ式、半連続式又は連続式で行うことができる。当業者に既知の任意の種類の反応装置がこの種類の反応に好適であり得る。
【0056】
本発明の一実施形態により、得られた有機ポリスルフィドの分離及び単離は、当業者に既知の任意の技術に従って、特に析出及び濾過によって実施することができる。
【0057】
本発明による方法の任意の段階f/によって、段階d/又は段階e/の後に得られるものとは異なる、追加の官能基を得ることができる。
【0058】
これは、段階d/の終了時に得られた式(I)の官能化有機ポリスルフィドをこの段階f/の間に、再び官能化することができるためである。例えば、X-Rがカルボキシル官能基を表す場合、カルボキシル官能基はエステル化され、アルデヒドに還元され、アルコールに還元され、次いでエーテル化、アミド化、ニトリル化などにされることができる。有機ポリスルフィドを対象とする最終用途に応じて、当業者によって全ての官能基を得ることができる。
【0059】
したがって、段階d/の終了時に得られた式(I)の官能化有機ポリスルフィドは、異なる官能基を有する1つ以上の有機ポリスルフィドを得るために、1つ以上の追加の化学反応に供することができ、前記化学反応は、当業者に既知である全ての反応である。
【0060】
本発明による方法に従って得られる式(I)の官能化有機ポリスルフィドは、潤滑、加硫、触媒の硫化、治療分野及びその他などの多くの用途に使用することができる。
【0061】
特に、式(I)の官能化ポリスルフィドは、耐摩耗剤、極圧剤又は酸化防止剤として使用することができる。式(I)の官能化ポリスルフィドは、潤滑配合物又はいくつかの薬剤、例えば放射線に対抗するための医薬の組成に関与することもできる。最後に、式(I)の官能化ポリスルフィドはセメント、コンクリート又はアスファルトの製造に使用することができる。
【実施例
【0062】
以下の実施例によって本発明を例証することができるが、いかなる状況下でも限定するものではない。
【0063】
[実施例1]
ジホモシステインテトラスルフィドの合成
段階1:
O-アセチル-L-ホモセリンは、Sadamu Nagai,“Synthesis of O-acetyl-l-homoserine”,Academic Press(1971),vol.17,pp.423-424に従って、Lーホモセリン及び無水酢酸から合成した。
【0064】
段階2:
同時に、ナトリウムヒドロスルフィド11.21g(200mmol)を250mlガラス製反応装置内の蒸留水100ml中に導入し、サーモスタット制御された油浴を使用して周囲温度にて撹拌することにより溶解させる。硫黄華9.62g(300mmol)を2時間にわたって徐々に添加すると、溶液は赤くなり、反応媒体からHSの脱ガスが開始する。この反応装置を、10重量%水酸化ナトリウム溶液200g(100%NaOH 500mmol)を含有するトラップに接続する。この水酸化ナトリウム溶液によって、反応装置から発生するHSのトラップが可能となり、また、銀滴定電位差滴定によって分析した回収サンプルにより、反応の進行の監視が可能となる。HSの放出を促進するために、少量の窒素流を反応装置に導入する。2時間後、トラップの分析により、理論的に生成されたHSの100%が水酸化ナトリウム溶液中に捕集されてナトリウムヒドロスルフィドを形成したことが示される。このトラップが飽和し(水酸化ナトリウムは完全に変換される)、ナトリウムポリスルフィドを数回合成した後に、ナトリウムヒドロスルフィド溶液をこれらのポリスルフィドの合成にそのまま使用することができる。主反応装置において、滴定で14.9重量%のNa溶液117.1gが得られる。
【0065】
段階3:
O-アセチル-L-ホモセリン(段階1から発生するOAHS)10g(62mmol)をサーモスタット制御された250mlガラス反応装置内の蒸留水140ml中に導入する。溶液を機械的に撹拌しながら35℃とする。反応媒体のpHは4.8である。酵素を投入する前に、pHが6.5に等しいことが望ましい。このため、段階2で得られた数滴のナトリウムポリスルフィド溶液を添加する。反応媒体1mlのサンプルを採取する(t=0にて)。
【0066】
ピリドキサール5’-ホスフェート(10mmol/l)及び酵素(O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ)0.6gの溶液400μlを含有する蒸留水10mlの溶液を調製し、次いでこの溶液を反応装置に添加する。反応が開始する。pHが低下し、反応媒体を6.5に等しいpHに維持するために、滴下漏斗を介してナトリウムテトラスルフィド溶液をゆっくりと添加する(合計で、段階2の間に得られた溶液36.2g(即ち、100%として表されるNa5.4g、31mmol)を添加する)。反応中にサンプル(1ml)を採取する。電位差滴定、TLC、HPLC及びUPLC/UV質量による分析は、反応物質(OAHS及びNa)の段階的な消失及び次の化合物の次第に大量となる段階的な出現を示す(これらのポリスルフィドの一部が反応中に析出することに留意すべきである。):
ジホモシステインジスルフィド(ホモシスチン):
【0067】
【化1】
ジホモシステイントリスルフィド:
【0068】
【化2】
ジホモシステインテトラスルフィド:
【0069】
【化3】
ジホモシステインペンタスルフィド:
【0070】
【化4】
【0071】
OAHSの完全消失後に認められた唯一の他の生成物は、微量のジホモシステイン(OAHSの加水分解)及びさらに微量のホモシステインである。したがって、これよりOAHSからのジホモセリンポリスルフィド(平均硫黄ランク4)の合成は、実質的に完全であると結論付けることができる。
【0072】
段階4:ジホモシステインポリスルフィドの分離及び単離:
乾燥後、ジホモシステインポリスルフィド4.4gを回収するために、段階3の反応媒体を初めて濾過する。30℃にて減圧下で(反応媒体中に存在するナトリウムアセテートの析出を防止するために)水を一部蒸発させることによって、残留溶液を濃縮する。新たな析出物が形成される。濾過及び乾燥の後、ジホモシステインポリスルフィド3.8gを再び得る。ホモセリンポリスルフィドの全体の単離収率は、理論値10.30gに対して8.2g、即ち79.6%である。この乾燥生成物についてのさらなる分析によって、この固体が41%(元素分析)の硫黄を含有し(このため4.3の平均ランク)、この生成物が遊離状態で元素硫黄を含有しないことが示された(HPLC分析)。
【0073】
[実施例2]
ジホモシステインテトラスルフィドの合成(酵素又は補酵素なし)
実施例1を反復したが、唯一の相違は、ピリドキサール5’-ホスフェート及び酵素の溶液(ピリドキサール5’-ホスフェート(10mmol/l)及び酵素(O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ)0.6gの溶液400μlを含有する蒸留水10ml)を反応装置に添加しないことであった。反応が開始せず、pH6.5の保持を試みながらナトリウムポリスルフィドの溶液を連続添加するのは不可能であることが判明する。ナトリウムポリスルフィド溶液を添加することによる8に等しいpHへの上昇時に、認められた唯一の反応は、ホモセリンを得るためのOAHSの加水分解の開始である。本実施例は、この合成を有効するためには、酵素で触媒する必要があることを示している。
【0074】
[実施例3]
システインジスルフィド(シスチン)の合成
段階1:
O-アセチル-L-セリンはSigma-Aldrichによって販売されている。O-アセチル-L-セリンは、当業者に既知の任意の手段によってL-セリンから合成することもできる。
【0075】
段階2:
ナトリウムヒドロスルフィド11.21g(200mmol)を250mlガラス製反応装置内の蒸留水100ml中に導入し、サーモスタット制御された油浴を使用して周囲温度にて撹拌することにより溶解させる。硫黄華3.2g(100mmol)を2時間にわたって徐々に添加すると、溶液は明るい黄色となり、反応媒体からHSの脱ガスが開始する。この反応装置を、10重量%水酸化ナトリウム溶液200ml(100%NaOH 500mmol)を含有するトラップに接続する。この水酸化ナトリウム溶液による、反応装置から発生するHSのトラップと、銀滴定電位差滴定によって分析した回収サンプルによる、反応の進行の監視が可能となる。HSの放出を促進するために、少量の窒素流を反応装置に導入する。2時間後、トラップの分析により、理論的に生成されたHSの100%が水酸化ナトリウム溶液中に捕集されてナトリウムヒドロスルフィドを形成したことが示される。このトラップが飽和し(水酸化ナトリウムは完全に変換される)、ナトリウムジスルフィドを合成した後に、ナトリウムヒドロスルフィド溶液をこのジスルフィドの合成にそのまま使用することができる。反応装置において、滴定で9.9重量%のNa溶液111gが得られる。
【0076】
段階3:
O-アセチル-L-セリン9.12g(62mmol)をサーモスタット制御された250mlガラス反応装置内の蒸留水140ml中に導入する。溶液を機械的に撹拌しながら35℃とする。反応媒体のpHは4.6である。酵素を投入する前に、pHが6.5であることが望ましい。このため、段階2で得られた数滴のナトリウムジスルフィド(Na)の溶液を添加する。反応媒体1mlのサンプルを採取する(t=0にて)。ピリドキサール5’-ホスフェート(10mmol、0.4ml)及び酵素O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(0.6ml)の溶液を水10mlに溶解させ、次いで反応装置に添加する。反応が開始する。pHが低下し、反応媒体を6.5に等しいpHに維持するために、滴下漏斗を介してナトリウムジスルフィド溶液をゆっくりと添加する(合計で、段階2の間に得られた溶液32g、即ち100%として表されるNa 3.2g、31mmolを添加する)。反応中にサンプル(1ml)を採取する。電位差滴定、TLC、HPLC及びUPLC/UV質量による分析は、反応物質(O-アセチル-L-セリン及びNa)の段階的な消失及びシスチンの段階的な出現を示す。シスチンの形成から生じる析出物の出現も認められる。
【0077】
【化5】
【0078】
O-アセチル-L-セリンの完全消失後に認められた唯一の他の生成物は、微量のセリン(O-アセチル-L-セリンの加水分解)である。したがって、O-アセチル-L-セリンからのシスチンの合成はほぼ完全であると結論付けることができる。
【0079】
段階4:シスチンの分離及び単離:
乾燥後、シスチン4.7gを回収するために、段階3の反応媒体を初めて濾過する。30℃にて減圧下で(反応媒体中に存在するナトリウムアセテートの析出を防止するために)水を一部蒸発させることによって、残留溶液を濃縮すると、新たな析出物が形成される。濾過及び乾燥の後、シスチン1.2gが再び得られる。シスチンの全体の単離収率は、理論値7.44gに対して5.74g、即ち77.2%である。この乾燥生成物についてのさらなる分析によって、この固体が26.82%(元素分析)の硫黄を含有し(このため2.01の平均ランク)、この生成物が遊離状態で元素硫黄を含有しないことが示された(HPLC分析)。